弁護士コラム

2019.05.30

年5日の有休義務化とは?~事業者に向けて

2019年4月1日から、1年間に10日以上の年次有給休暇(以下「年休」と略します)を取得できる労働者について、使用者は、毎年、そのうち5日の年休について時季を指定して取得させなければならないことになりました。
いわゆる「年5日の有休義務化」というフレーズで耳にする機会も増えてきた昨今、事業者はどのような対応を求められるのでしょうか?

1.使用者の年休指定権新設のねらいは

平成30年改正労働基準法(平成31年4月1日施行)に、使用者の年休指定権の規定が新設されました。新設までの経緯は平成22年6月の閣議決定に遡り、「新成長戦略」において、年休の取得率を2020年までに70%にすることが政府目標とされました。

しかし、年休の取得率は平成12年以降50%を切る水準で推移しています。また、正社員の約16%が年休を1年間に1日も取得していないという調査結果も示されています。
このような状況にあることから、年休の取得をすすめるため、使用者に、従業員に対して年休取得の時季を指定して与えることを義務付けることとしたものです。

2.労基法改正による使用者の年休時季指定権とは

改正労基法では、1日も取得していない従業員などの年休の取得率を向上させるため、1年間に10日以上の年休が付与されている労働者に対し、そのうちの5日間については使用者が時季を定めて与えなければならないとされています。

ただし、労働者の時季指定や計画的付与制度によって年休を与えた場合は、その日数が使用者の時季指定しなければならない5日間から除かれることとなります。

3.労働者の時季指定とは

年休は、労働者が休暇を取得する前に、取得したい日を指定して請求した場合に与えるもので、原則として、休暇の時季選択権は労働者に与えられています。労働者の時季指定とは、労働者が年休をとりたい日を指定することを指します。

したがって、労働者が具体的な時季を指定した場合には、使用者は、時季変更権を行使する場合を除いて、その指定された時季に年休を付与しなければなりません。尚、使用者の時季変更権とは、年休を労働者の請求する時期に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更することができるというものです。

4.年休の計画的付与とは

労基法にもとづき、各従業員がその年に取得できる年休のうち「5日を超える日数分」については、会社が日を指定し、その日に年休を付与することができます。これを「年休の計画的付与」といいます。

例えば、取得できる年休が15日ある従業員については、5日を除いた10日分が計画的付与の対象になります。「5日分」については、従業員の個人的事由による取得のため留保しておかなければなりません。年休の計画的付与を実施するか否かは、会社の自由です。
年休の計画的付与の方式には次の3つが考えられます。

①一斉付与方式
これは、その事業場を特定の日に休業とし、全従業員に対し同一の日に年休を与えるものです。この方式の場合、事業場全体を休業とするので、5日を超える年休がない従業員も休ませなければなりません。このようなものに対しては、会社独自の特別の有給休暇を与えるか、平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払う等の措置をとることが必要です。

なお、休業手当とは、使用者が休業期間中に労働者に支払う手当で、労基法に定められています。同法規定には「使用者の責任に帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金(直近3か月間の賃金の総額の平均)の60%以上の手当を支払わなければならない。」とあり、事業場を特定の日に休業とし、全従業員に同一の日に年休を与える場合は、この使用者の責任に帰すべき事由による休業に当たります。

②グループ別付与方式
これは、課、係などの従業員を2つあるいはそれ以上のグループに分け、交替で年休を与えるものです。例えば、
・Aグループ…7月21~24日
・Bグループ…8月11日~14日
の4日間ずつ計画年休を付与するといった方法です。

③個人別付与方式
これは、会社側が個人別に従業員の年休付与計画を作成し、付与するものです。例えば次のような形です。
・○田○男…7月20日・21日
・○山○子…7月22日・23日
・○川○美…8月1日・2日

5.「年5日の有休義務化」への対応は

事業者は、1年間に10日以上の年休が付与されている労働者に対し、そのうちの5日間については使用者が時季を定めて与えなければなりません。ただし、労働者の時季指定や計画的付与制度によって年休を与えた場合は、その日数が使用者の時季指定しなければならない5日間から除かれることは前述したとおりです。

つまり、労働者による時季指定、年休の計画的付与、使用者による時季指定、いずれかの方法で年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務となります。
具体的には、労働者自身が付与された日から1年以内に5日の年休を取得していない場合に、年休の計画的付与によって年5日の年休を付与すれば、上記義務を果たすこととなります。

ただし、年休の計画的付与を実施するかは自由ではあるものの、実施する場合には、あらかじめ、従業員の過半数代表者と労使協定を結ぶ手続きが必要です。
年休の計画的付与を実施しない場合は任意に5日の有休を取得しない労働者には、使用者が取得時季を指定して年5日の有休を取得させる方法によらなければなりません。

6.まとめ

改正法の使用者の時季指定権を行使するためには、就業規則に規定する必要があります。また、時季指定においては労働者の意見を聴取しなければならないとされています。
事業者には、就業規則の変更と合わせて、労働者に取得時季の意見を聴取し、その意見を尊重し取得時季を指定するといった対応が求められます。

2019.05.30

テレビ番組制作において気をつけるべきポイント~未成年者への取材・番組収録編~

テレビ番組においては、番組のコンセプトに基づいた視聴者層に向けて制作されることが多く、それにより番組に出演するタレントや、番組内で使用する街頭インタビューの取材対象者も変わってくることかと思います。この中には未成年者への出演なども検討されることがありますが、未成年者をテレビ番組で取り扱うには、どのような点に注意すべきでしょうか。
今回は、1.未成年者へのインタビュー、2.未成年タレントの利用(出演)について考えてみましょう。

1.未成年者へインタビューする際、親の同意は必要?

テレビ局の取材班や番組制作会社は、情報番組等を制作する際、街頭インタビューを行うことがあるかと思いますが、やはり流行の商品や話題のサービスについては、中高校生や大学生を対象としたインタビューを行えば反響も大きいことでしょう。
では、このような未成年者へのインタビューは、保護者の同意が必要なのでしょうか。

(1)15歳以上であれば、保護者の同意は原則不要

街頭インタビューをテレビ番組で使用する場合、誰に対して行ったとしても使用について承諾を得る必要があると言えます。他方で、未成年者の場合、成人と異なり、何らかの契約行為を行う場合は原則として法定代理人である保護者の同意が必要とされるため(民法第5条)、街頭インタビューを行う場合も保護者の同意を得なければならないとも思えますが、必ずしもそうでもありません。

民法に関する法制審議会の報告書等で示されている見解によると、未成年者であったとしても、15歳以上の者であれば個人情報の取り扱いについての認識や意思能力、判断能力が備わっており、保護者の同意がなくともこのようなインタビューを受けることができるとされています。
例えば、高校卒業とともに就職した18歳の人へインタビューをする場合、成人と同等な個人の意見を発せられる状況において、インタビューすることに親の同意が必要であるか?と想像すれば分かりやすいかもしれません。

(2)15歳未満でも、受忍限度の範囲内で認められる

一方、15歳未満の未成年者へのインタビューについては、その未成年者が同意していたとしても保護者からの同意が得られなければ行うことができません。保護者からの同意なく使用すると肖像権、プライバシー侵害のおそれがあります。
しかしながら、社会通念上、公表しても差し支えない内容であり、個人情報や性的な質問といった不相当な内容ではない「受忍限度の範囲」内であれば、保護者の同意がなくとも上記権利の侵害にはならないこともあります。
想定されるケースとして、幼稚園児や小学生に田植え体験の感想を聞いたり、好きな遊具を尋ねるインタビューなど、一般常識として相当な場合は問題とならないでしょう。

2.未成年タレントは深夜まで働いてもいい?

最近では未成年者のタレント(芸能人)も多くテレビに出演するようになりました。ドラマやバラエティに登場し、子役タレントが大人顔負けの演技や受け答えをし、人気を博す、といったことも珍しくありません。
さぞかし多忙なスケジュールをこなしているのではと思うのですが、未成年者が深夜の生放送番組や収録等に参加しても良いのでしょうか。

(1)未成年タレントに労働基準法が適用される

多くの18歳未満のタレントは、労働基準法に定める「時間制限のある労働者」に該当するとされています。これは、所属する芸能プロダクションによりスケジュールが決定し、仕事を割り振られることが芸能プロダクションの従業員扱い(=労働者)となるからです。
後述しますが、年齢や活動内容ごとに制限される時間が異なりますので、未成年者を収録等に参加させる場合は注意が必要です。

(2)労働基準法が適用されない芸能タレント通達

爆発的な人気を得ているアイドルのようなタレントの場合は、労働基準法第9条の労働者に該当しないこともあります。
これは、歌唱や演技が他人に替えることができず、その番組において芸術性の個性が重要な場合、労働者とはならないという趣旨の通達によるもので、通称、「芸能タレント通達」と呼ばれています(昭和63年7月30日 基収355号)。
この通達が出されたのには、昭和末期に人気絶頂だったアイドルグループが午後8時より生放送の歌番組に出演した際、当時中学生だったメンバーも参加していたことが問題となったという背景があります。
これにより、影響力、人気のある未成年タレントは労働者というよりは一種の事業者として見なされ、深夜の収録等でも参加できるようになったのですが、プロダクションとの契約内容によっては、人気があってもこの通達にあてはまらないタレントも存在するようです。
まずは所属するプロダクションに条件等の確認を取ることが重要です。

(3)実際に何時まで出演することができる?

上記で説明した、芸能タレント通達に該当しない未成年のタレントは労働基準法第61条により労働者とされ、出演時間制限は以下のように分けるとしています。

・義務教育中のタレント→午後8時から午前5時の間は使用禁止
・義務教育終了後で18歳未満のタレント→午後10時から午前5時の間は使用禁止

この「使用」という部分には、生放送出演、収録はもちろんのこと、打ち合わせやリハーサルなども含まれます。カメラに映さず放送しなければ使用してもいいということにはなりません。
これに加え、義務教育中のタレント使用については労働基準監督署の事前許可を得なければ、そもそも制限時間に関わらず使用することができません。必ず許可申請を行いましょう。

一方、テレビではなく演劇に義務教育中のタレントが出演する場合には、制限時間が少し異なります。演劇の場合、夜公演時のカーテンコールへの参加などを配慮し、午後8時ではなく、午後9時までの使用が認められています。テレビと演劇で制限時間が異なりますので、混同しないようにしましょう。

しかしながら、テレビ・演劇に関わらず未成年タレント(特に13歳以下)を制限時間いっぱいまで出演させる行為はたびたび問題視され、さらには制限時間を超えて使用するという違反ケースも発生しています。
成長期における睡眠不足の問題や、就学時間確保のために制限時間を縮小するべきという意見と、子供の才能を生かし、伸ばすためには学習塾と同様、さらに遅い時間まで延長するべきといった両極の意見があり、使用時間については今後も検討の余地があるとされています。

3.まとめ

未成年者の年齢による行為規制は、各法律、法規ごとに「18歳以下」、「20歳以下」、「15歳以下」などと一定ではなく、また取材やタレント使用について許容される範囲、条件も異なります。
今から行おうとしているインタビュー取材やタレントのキャスティングについて、どの法律に当てはまるのか、年齢や時間帯、一般人については肖像権やプライバシー保護について問題ないかをよく確認し、検討することが必要です。

2019.05.30

【不動産】物件の瑕疵~目に見えない瑕疵があった場合

Q.私は現在、妻と小学生の子供2人の4人家族ですが、家族全員で住むためにマンションを購入することにしました。ところが契約後に、前の所有者の家族が、室内で自殺をしていたことが分かりました。このような部屋に家族で入居することは躊躇われるため、契約を解除して支払い済みの代金を返還してもらいたいのですが、このような請求は可能なのでしょうか?

A.マンションを購入する際に問題になるのは、前回(マンション設備・建築の適法性に関する売主の説明義務)でご説明したような、「マンション本体の構造に関わるような瑕疵」だけではありません。
最初に挙げたいわゆる
例①:自殺物件
であったり、
例②:暴力団員のマンションへの出入りの疑い
などのように、その物件に居住することを躊躇ってしまう目に見えない事情が潜んでいるケースもあります。

契約前の段階でこれらの事情が分かっていれば、契約締結を回避することもできますが、代金を支払った後にこれらの事情が判明し、「やはりこのマンションの購入は止めたい」と考えた場合に、どのような根拠に基づいて契約解除を請求することが出来るのかを考えていきます。

1 自殺物件のケース

(1)問題の所在

「自殺物件であった」という事実自体は、売買契約の目的であるマンションの物理的な欠陥ではなく、物理的には居住が可能です。そのため、このような場合でも売買の目的物の欠陥(瑕疵)と評価できるのでしょうか。売買の目的物の欠陥(瑕疵)と評価できれば、買主は売主に対し、瑕疵担保責任(民法570条)に基づき、契約を解除することができます。そこで、「自殺物件であった」というような心理的な嫌悪感を、「物件の瑕疵」といえるかどうかが問題となります。

(2)「自殺物件であった」ことは「物件の瑕疵」に該当するのか

民法570条が前提としている「瑕疵」とは、
・客観的に目的物が通常有すべき性質・性能を有していない物理的欠陥
だけではなく、
・目的物の通常の用法に従って利用することが心理的に妨げられる主観的な欠陥
も含むものと理解されています。

瑕疵担保責任の根拠は、売買の目的物に支払われる対価が、目的物の交換価値・利用価値と等価性を保ち、当事者間の衡平を図ることにあります。そのため、目的物が一部損傷しているといった「物理的欠陥」が無かったとしても、一般にその目的物を買うことを控えるような事情が存在していた場合には、交換価値の下落と評価でき、瑕疵担保責任が認められケースがあります。

よって、売買対象の不動産において、自殺や殺人の発生などの嫌悪される事情が存在した場合、買主が当該事情を知れば、その不動産の購入を敬遠するケースが一般的に予想されるため、「瑕疵」に該当すると考えられます。

しかしながら、買主によっては自殺物件であることをあまり気にしない場合もあります。つまり、同じ自殺物件について、一方では契約解除を望む人もいれば、他方でそのまま購入をする人もおり、個々人の主観によって結論が大きく左右されてしまいます。このように、買主の主観によって売買契約の成否が左右されると、円滑な不動産取引が阻害されてしまうため、瑕疵担保責任の有無を判断するにあたっては、一定の制約が必要になります。

そこで、裁判例では、自殺があった等の心理的欠陥が「瑕疵に該当する」とするためには、買主本人のみだけではなく、一般の人にとっても住み心地の良さを欠くと感じることに合理性があると判断される程度であることが要求されています。

(3)裁判例

横浜地判平成元・9・7では、例①と同様に、小学生の子2人を含む家族4人が居住するために購入したマンションに「自殺物件であった」という瑕疵があった場合について以下のように判示し、瑕疵担保責任による契約の解除を認めました。
「単に買主において・・・(自殺があったという)建物の居住を好まないだけでは足らず、それが通常一般人において、買主の立場に置かれた場合、(自殺があったという)事由があれば、住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があると判断される程度に至ったものであることを必要とする」

「原告らは、小学生の子供2名との4人家族で永続的な居住の用に供するために本件建物を購入したものであって、・・・本件建物に・・・(購入の)6年前に縊首自殺があり、しかも、その後も(自殺をした者の)家族が居住しているものであり、本件建物を、他の・・・(こういった事情の)無い建物と同様に買い受けるということは通常考えられないことであり、右居住目的から見て、通常人において右自殺の事情を知ったうえで買受けたのであればともかく、子供も含めた家族で永続的な居住の用に供することは甚だ妥当性を欠くことは明らか」である。

2 暴力団員の出入りがあるケース

(1)問題の所在

もしも自分が居住する予定で購入を検討している物件に、実は暴力団員の出入りがあったと判明した場合、何かしらのトラブルに巻き込まれないか心配になり、購入の取り止めを希望される方もいると思います。
そこで、「暴力団員の出入りがあること」も、「自殺物件であること」と同じく目に見えない欠陥(いわゆる「心理的欠陥」)として、瑕疵担保責任(民法570条)に基づき売買契約を解除できるか否かが問題になります。

(2)裁判例

それでは、実際の判例を見て見ましょう。

【事案】
原告が居住目的でマンションを購入したところ、同じマンション内に暴力団幹部が所有者となっている部屋があり、組合員の出入りが判明したため、売主に対し責任追及を行った。
【判旨】
「居住環境として通常人にとって平穏な生活を乱すべき環境が、売買契約において・・・一時的ではない属性として備わっている場合には・・・瑕疵にあたる」。また、暴力団幹部が、マンションの管理室に私物を置いて物置として使用する等、マンションの共用部分を私物化する等の迷惑行為を継続していたこと、マンションの敷地内及び前面道路において、大人数で長期間にわたり飲食し騒ぐ等でマンションの区分所有者らに迷惑をかけている状態は、通常人にとって明らかに住み心地の良さを欠く状態に至っており、また、係る状態は一時的な状態とは言えないとして瑕疵があると判断しました。

そして、瑕疵担保責任に基づき、瑕疵を前提とした本件不動産の価値と実際の売買代金との差額について損害賠償をすべきとしましたが、居住の目的に用いられない程度の瑕疵であるとは言えないとして、契約の解除は否定しています。

3 まとめ

今回は「自殺物件であること」「暴力団員の出入りがあること」を例にご説明しましたが、他にも、「墓地の隣であったこと」「産廃処理場の隣であったこと」等、様々な心理的瑕疵が想定されます。

いずれにせよ、前回のような物理的欠陥ではないために、買主側が主張する欠陥が実際に「瑕疵」として認められるか否かは個別案件によって左右されやすいものなので、何を根拠にどういった主張をすれば認められるのか等、弁護士などの専門家に一度相談してみると良いでしょう。

 

2019.05.29

労働基準法とは? ~賃金の支払いについて~

昨今、採用市場は売り手市場化が進み、企業は必要な人材を確保することが極めて難しくなってきています。また、ブラック企業に対比して、「ホワイト企業」という言葉が広まり、年間休日が多い・離職率が低い・残業が少ない・福利厚生が充実しているなどの様々な労働条件だけでなく、仕事内容、職場の雰囲気などが重要な時代になってきました。
そして、これらを適切に伝えることで、採用力を向上させることが大切です。その中でも今回は生活していく上で大切な給料についてお話していきます。

1.賃金におけるルール(原則)と注意すべき事項

賃金におけるルールというものが労働基準法第24条で定められています。

①通貨払いの原則
②直接払いの原則(本人名義の口座等)
③全額払いの原則
④毎月1回以上払いの原則(月に1回は振込を行うこと)
⑤一定期日払いの原則(毎月支払日がばらばらではいけない)

上記が、賃金の支払いの5原則と言われるものです。
では、これらを一つずつ説明していきます。

➀通貨払いの原則

賃金は必ず通貨(国内で通用する貨幣)でないといけません。したがって、外国通貨や小切手は通貨と認められませんし、ましてや現物での支払いもできません。しかし、一般的な会社であれば、現金で手渡しではなく銀行振込で給与を支給するのが通常でしょう。そのため、銀行振込で支払いをする場合には、従業員の同意を得た上で行わなくてはなりませんので、銀行振込に関する労使協定を締結しておきましょう。

②直接払いの原則

従業員に対する賃金は、従業員本人に支払わなくてはならないという原則になります。本人に直接支払えないような場面に出くわす可能性がありますので、緊急時にどのように支払うのかも決めておいた方が良いでしょう。
例外…使者(本人の意思を伝達する者。例えば労働者が療養中で、家族が賃金を受取る場合など)

③全額払いの原則

賃金はその全額を支払わなくてはなりません。賃金の一部を無断で差し引いたり、会社の立替金を勝手に相殺したりすることはできません。ただし、社会保険料や源泉所得税、住民税など、法律で認められているものを差し引くことはできます。
なお、会社が一方的に相殺することは禁止されていますが、従業員本人の承諾の下、従業員が会社に対して負っている債務と相殺することは構いません。その場合には、きっちり相殺に関する同意書を作成するようにしましょう。

④毎月1回以上払いの原則

賃金は少なくとも毎月1回は支払わなくてはいけません。一方で臨時給・賞与などには、この原則は適用されませんので混同しないようにしてください。注意事項として、月給制だけではなく、年俸制を採用していても毎月1回は支払わなければいけませんので、気を付けましょう。
補足ですが新入社員(4月1日入社)の場合、給料が入るのが1か月以上先という企業が多々あります。例えば新入社員が月末締め翌月10日払いの会社に入社したとして4月勤務分が5月10日に支給されるような場合です。この場合は原則に該当しないというのが通説になっています。理由としては入社月に支払義務の生じる賃金債権自体が発生していないためです。
通常の会社であれば、月に一度は給料日があるでしょうから、それほど気にしなくて良いでしょう。

⑤一定期日払いの原則

賃金は毎月一定の期日を定めて、支払わなければいけません。なぜなら、賃金の支払日が毎月変動すると労働者の生活自体が不安定になるためです。支払日(期日)については特定できれば差し支えありませんが、「毎月第〇・〇曜日」とするという定め方では、月により支払日が異なり、期日が特定できないため認められません。したがって、「毎月15日」「月末」といった定め方が必要です。

2.賃金の支払いの5原則ポイント

上記で説明した賃金の支払いの5原則は、違反した場合に罰則が設けられており、労基法上遵守することが義務付けています。
では、会社が従業員に対して支払うものは全て「賃金」として、上記5原則が適用されるのでしょうか。「賃金」と評価されるためには、➀労働の対償かどうか、➁使用者が支払うものかどうかを検討しなくてはなりません。

次に、「賃金」に該当するとしても、上記5原則が適用されずに例外的に控除が認められているものがあります。つまり、労働基準法第24条1項は、法令に別段の定めまたは労使協定のある場合に賃金の控除を認めています。これは、公益上の必要があるもの及び社宅料や購買代金等の明白なものについてのみ例外を認める趣旨であると説明されています。

3.まとめ

賃金の支払いの5原則はいかがでしたでしょうか?今回は賃金の支払いに関してまとめました。基本的には賃金の支払いの5原則を遵守し、労働者に対して支給することが大切です。もし、原則通りに支給できないのであれば、事前に労働者との間で個別に労使協定を結んでおき、事前に対策しておくことが必要でしょう。
知っているようで、意外と知らないことがあったのではないでしょうか?

この法律は労働者を保護し生活を安定させるために生まれた法律です。
理解しづらい部分もあるかと思いますので、そういった場合は管轄の労働基準監督署や労働局に尋ねてみるのも一つの方法です。そこで一歩を踏み出すことがより良い会社を創る上で大切なことだと思います。従業員や会社の成長のために、会社の規則を見直すきっかけの一助となれば幸いです。

2019.05.27

テレビ番組制作において気をつけるべきポイント~取材・撮影編~

世の中には、テレビ番組に関わる仕事をされている方も多くいるかと思います。テレビ番組は、その制作会社や放送局のガイドライン、規程に則って制作されることがほとんどかと思いますが、中には「なぜこのルールを順守しなければならないのか?」と疑問に思ったり、「こんなケースはどうしたらいいのか?」という部分も出てくるのではないでしょうか。
様々なテレビ番組制作において気をつけるべき点を数回にわたってご説明します。
今回は、取材・撮影時においてのポイントです。

1.多くの通行人が行き交う中でのリポート・撮影

(1)映りこむ通行人の肖像権は?

大規模な電車の遅延などが発生した場合、その様子を朝の情報番組などでリポートをすることがあるかと思いますが、リポーターの背部に駅構内を行き交う通行人や、遅延情報を駅員に問い合わせている人など不特定多数の人が映り込みます。
もっとも、その混乱している様子を撮影し、大変な状況であることを視聴者へ知らせるという点で必要な場面ではありますが、このケースにおいて、リポーターの背部を歩く通行人に対しては許可なく撮影し放送しても良いのでしょうか。

(2)特定できなければ侵害にならない

ここで「肖像権の侵害」という言葉が思い浮かびますが、この場合、画面を通り過ぎる通行人を特定しようと思っても容易にはいきません。誰であるかすぐに特定できない場合、肖像権の侵害にはあたらないと考えられます。
また、たとえ本人を特定できたとしても、「約3分間のリポートのうち、数秒間映る」程度であれば、テレビが普及し誰でも映り込む可能性がある今日の社会においては生活上受忍限度の範囲内となり、肖像権の侵害とはならないでしょう。

しかしながら、朝の生放送番組で中継時に撮影した映像を、夕方の情報番組等で再度利用し放送する、といったケースもあるかと思います。その際、映像の中に映った通行人より「再度使用しないでほしい」というような要望が寄せられた場合、明確に拒否の意思を伝えられているので、映像の使用についてはよく検討せねばなりません。
加工等をし、本人の特定ができないようにして放送するか、映像自体を使用しないようにするか、その映像の重要性も考えて臨機応変に対応するようにしましょう。

(3)取材班であることを明確に

最近では高性能でありながらサイズの小さな撮影用カメラも登場し、機材の持ち出しも容易になった反面、撮影をしていることが分かりにくくなっているかもしれません。前述の通り偶然であったとしてもテレビに映ることを嫌う人も一定数は存在します。
通行人に対して、テレビ局や制作会社の名前を記した機材を用いたり、腕章をつけるなどして、報道機関が取材・撮影をしていることを分かりやすくしておくことも重要です。
そのような取材班を避けずに通行しているということは、撮影について承諾していると捉えることができます。
一方、取材班が撮影しているとわかると騒ぎ立てたり、故意に映り込もうとする人もいます。大きな騒ぎになり通行に支障が出るなどの可能性もありますので、状況に応じて撮影のやり方を適宜変えていくことも必要です。

2.事件が発生!取材・撮影を現場のすぐ近くで行う場合

(1) 事故現場などで張られた規制線の中へ入っても良い?

事件や事故が発生した際、周辺に「規制線」が張られるかと思います。多くの規制線は黄色いテープで、「立入禁止」などの文字が記されています。より近くで撮影するために、この規制線を越えて取材や撮影をすることはできるのでしょうか。

(2)規制線は複数の法的根拠に基づいて張られているもの

事件現場等で見られる「立入禁止」の線は、刑事訴訟法などの法的根拠により張られていて、事件の内容によっては複数の法令を適用し規制線を張っている場合もあります。
まず大前提として、警察官は実況見分、検証のために事故の現場を現状のまま保存すること、何も知らない人が立ち入らないように、証拠を動かすことのないように、立入禁止のテープやロープを張らなければならないなどと犯罪捜査規範で定めています。
しかしながら、これはあくまで規範であり法的な強制力はありません。後述する警察官職務執行法や刑事訴訟法を合わせて規制線を張ることで、規制線を超えた侵入者を退去、処罰することとなります。

(3)警察官職務執行法・刑事訴訟法に基づいた規制線

警察官職務執行法(警職法) 第四条では、「避難等の措置」として交通事故、危険物の爆発、その他人の生命や身体に危険がある場合など、危害を避けるために必要な限度内で避難、引き留める措置ができるとしています。
この法令に基づいて張られた規制線では、むやみに立ち入ると軽犯罪法違反となる可能性があります。
また、刑事訴訟法(刑訴法)第百十二条では、差押状、捜索令状を用いて現場検証等を行う際、許可を得ない出入りを禁止することを定めています。こちらも規制線を張り現場検証を行っている場合、立ち入ると警職法同様に軽犯罪法違法となり得ます。

(4)道路上での規制線

交通事故などでは道路上に規制線を張ることがあるかと思いますが、これは道路交通法に基づき張られる規制線になるでしょう。道路上の危険を防ぐために歩行者・車両の通行を禁止また制限することができると定めています。
車両の侵入については処罰の対象になる可能性がありますが、歩行者に対しては罰則がなく、立ち入っても道路交通法違反とはならないとされています。しかしながら、規制線は複数の法令により張られている場合が多いですので、警官が制止したにも関わらず立ち入るなどした場合、警職法等により軽犯罪法違反となることもあります。

(5)どの法令に基づいた規制線か?

以上の法令などから、規制線を張っている場合でも状況によっては立ち入ることができるかもしれませんが、その規制線がどの法令に基づいて張られているのかをすぐに判断することは不可能に近いです。
捜査の取材で立ち入りが必要である旨を警察官に申し入れた場合、ある程度許容して立ち入りを許可することもあり得ますが、その際も警察官の指示に従うといった制限の中で取材をすることとなるでしょう。
いずれにしても、捜査の妨害とならないよう、注意を払いながら取材する必要があります。

3.まとめ

日本でのテレビの本放送が開始されてから60年余りになりますが、放送技術の向上や機材の高性能化、さらには交通網が発達したことにより、取材先へ向かい映像を撮影、その場で放送することが容易な世の中になってきました。
高性能カメラで撮影された映像では、個人を特定しやすくなり撮影に対しての苦情等も多く寄せられるかもしれません。しかしながらその高性能カメラにより、規制線を超えずとも、遠くからはっきりとした事件現場の映像を撮影することができるようになったのも事実です。取材時において適用される法律や法令を理解し、適切な取材・撮影を行っていきましょう。

2019.05.24

経営法務リスク~無期転換ルールのリスクとは~

金融危機や労働者派遣法の見直しが実施された1998年頃から正社員としての雇用が減り、有期雇用契約が増加し始めました。有期雇用契約を活用することは、会社の経営状況に合わせて人件費を調整しやすい点や、正社員と比べて人件費を抑えることができる点から、有期雇用契約は長期間に渡り、更新されてきました。しかしながら、有期雇用契約の社員にとっては雇用が安定しないことから経済的な自立やキャリア形成を図ることが難しいという問題がありました。

それらの問題に対応するために、国は政策の一環として、「無期転換ルール」を法律として定め、企業に積極的に取り入れるように推進しています。今回は「無期転換ルール」を取り入れる企業に生じるメリット、デメリットについて説明したいと思います。

1.有期契約雇用と無期契約雇用の違いとは?

平成25年4月1日に施行された労働契約法の改正において、「有期雇用されている期間が5年を超える場合は、労働者は無期雇用に切り替えを求めることができる(労働契約法第18条1項)」という「無期転換ルール」が定められました。
対象者は、有期契約社員、アルバイト、パートタイマー等の有期雇用者となり、企業は対象者から期間の定めのない労働契約の締結の申込みがあった場合、対象者からの申し入れを拒否することが出来ません。

有期雇用と無期雇用の違いは、「契約期間に定めがある雇用」か「契約期間に定めが無い雇用」かという点になります。そこで、理解しておかなければならない事は、「無期雇用に転換になる=正社員」ではないという点です。雇用形態が無期雇用に変更されたとしても、契約期間の定め以外の労働時間、賃金、その他の労働条件は、特段の合意がなされていない限り、有期雇用時と同一のものになります。
つまり、「無期転換ルール」とは、あくまでも雇用期間の変更に過ぎず、自動的に労働条件が正社員と同一になるわけではありませんので、ご注意ください。

2.無期契約雇用のリスク

前述した通り、無期雇用への変更により、特段の合意がなされていない限り自動的に労働時間、賃金、その他の労働条件が正社員と同一の条件に変更されるわけではありません。しかしながら、その様な事態を防ぐために企業側も就業規則の整備など一定の事前準備が必要となります。

就業規則において、有期雇用から無期雇用に転換した社員と、無期雇用の正社員(通常の正社員)との賃金等の労働条件が区別されていなければ、無期雇用に転換した社員が正社員と同じ労働条件になるリスクが生じます。
もし、有期雇用から無期雇用に雇用形態を変更した全員が正社員と同一の労働条件となれば、人件費等が大幅に増大することになり、経営を圧迫する要因の一つとなります。

一般的な会社の就業規則においては、「正社員」「契約社員」「パート」などの区別しかなく、労働条件は有期雇用の契約社員と同等だが、雇用期間は無期という形態があまり想定されておらず、就業規則には規定されていないことが多いものです。一度、しっかりと確認した方が良いでしょう。

また、業務内容の範囲についても、各雇用形態別に区別して定めることが重要です。区別して定める理由としては、例えば、無期雇用に転換した社員と正社員との間に業務内容や責任の範囲に違いが無いにも関わらず、待遇面において差が発生することによって、社員の間に不満が生じ、トラブルの原因になる可能性が考えられます。

雇用形態別に業務範囲を区別して定めることにより、未然にトラブルを防ぐことが可能になります。この様な事態を防ぐためにも、事前に就業規則を見直し、整備することをお勧めします。

もう一つの企業側のリスクとして、解雇にかかる問題が挙げられます。有期雇用の場合では契約期間が明確に定められているため、経営状況に合わせて契約更新の可否を判断し雇用人数を調整することが可能でした。

しかしながら、無期雇用の社員の場合、契約を解除するには「解雇権濫用法理」(解雇権濫用の法理とは、「就業規則の規定に反する行為をした等の解雇事由に該当したとしても、解雇は社員やその家族へ与える影響が非常に大きいため、合理的かつ論理的な理由が存在しなければ解雇できない」という理論。)により、厳格な解雇規制が適用されます。その結果、経営状況に合わせた雇用人数、人件費の調整が難しくなってしまいます。

3.無期雇用転換のメリットとは?

それでは、企業にとって有期契約の従業員を無期雇用へ転換するメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

1つ目は、新人を採用するのと比較し、既に会社の実務を理解し、経験のある社員を手放さずに済む点です。契約期間の定めが無くなることで、中長期的な社員の育成が可能となり、新規社員の採用コストや育成コストを削減することができます。

2つ目は、有期雇用から正社員や無期雇用に転換を行った場合、一定の受給要件を満たせば政府からキャリアアップ助成金を受給することができる点です。社員の雇用を見直す際には、助成金の受給も併せて検討すると良いでしょう。

検討する際には、社員の雇用形態の現状をきちんと把握することが大切です。予め、雇用形態の現状を把握することにより、助成金の受給申請の計画が立てやすくなります。
助成金申請は、細かいルールが定められており、これを満たしていないと形式的に受給申請ができなくなりますので、専門家に相談しましょう。

4.まとめ ~企業側が備えること~

無期転換ルールの発生に伴う企業のメリット、デメリットについてご理解いただけましたでしょうか?

平成30年より制度の運用が本格的に開始され、約1年が経過しました。まだ社内において、無期転換ルールに対応できる労務環境が整っていないのであれば、急務で整備に取り掛かる必要があります。

まず企業が行うべきことは、雇用形態に合わせた就業規則を確認、整備し、待遇面や業務内容の範囲について明確に定めることが大切です。
弁護士や社労士などの専門家にも相談しながら、「無期転換ルール」に対応した労務環境作りを行いましょう。

2019.05.23

標準報酬月額①~報酬の定義と報酬に含まれるもの~

毎月の給与から控除されている社会保険料は、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料がありますね。その保険料の基になっているものは「標準報酬月額」ですが、基本給だけを当てはめて考えることはNGです。まずは、定義や報酬に含まれる手当について要件を確認してみましょう。

1.報酬の定義

報酬とは、以下のように定義されています。(健康保険法3条5項)

賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。

つまり、名称は関係なく、働いたことの対価と評価できるものは報酬となります。そして、支給されることが決まっておらず臨時で支払われるもの(結婚した時のご祝儀など)は報酬となりません。
これに加え、年に4回以上の賞与を支給→報酬
      年に3回までの賞与を支給→賞与 として扱います。

2.報酬の対象となるもの

報酬は、標準報酬月額を決めるもとになるので、対象になるものとならないものを間違えないようにしましょう。

※1 よく疑問に思うのが、「通期手当を報酬月額に含めるべきか」ということではないでしょうか。定期代や定期券、実費精算など、どんな支払い方であろうと、自宅から職場までの往復の為に発生する交通費は、課税・非課税かかわらず、含めましょう
半年分をまとめて出しているのであれば、その金額をひと月分にして含めるようにしましょう。実費なのに含めるのはおかしいと感じるのは理解できますが、法律で決まっていますので仕方ありません。。。
※2 年4回以上の賞与を支給する場合
原則、毎年7月に算定基礎届を届け出る際に、賞与総額を12で割った額を各月の報酬に含めて算定します。ただし、いろいろなケースがあり、かなり複雑なので、必ず年金事務所や専門家に確認をしましょう。

3.標準報酬月額とは

標準報酬月額は、手取り金額ではなく総支給額から算定(基本給+諸手当(上記の表を基に))した金額を「標準報酬月額表(保険料額表)」に当てはめます。原則として、毎年1回決定され、その決定された標準報酬月額が、1年間使用されるようになります(下記イ)。※毎月社会保険料が変わることはありません。

①標準報酬月額の決定の方法は、下記の方法で決定・改定されます。
ア)入社時などの資格取得時決定
イ)定時決定(毎年1回行われる4・5・6月の給与の平均額から算出)
ウ)賃金の昇給降給が続いた際に行う随時改定
エ)産前産後休暇・育児休業等終了時改定

②標準報酬月額の等級区分
標準報酬月額は、被保険者の報酬月額に基づき、いくつかの等級に区分されています。
現在では、※2019年5月現在
健康保険   第1等級の58,000円~第50等級の1,390,000円
厚生年金保険 第1等級の88,000円~第31等級の620,000円
とされており、健康保険と厚生年金保険では、上限が異なるので注意が必要です。

4.健康保険・厚生年金保険の保険料額表(協会けんぽ)

「標準報酬月額」は、都道府県ごとに違います。
どこの都道府県を見るのかというと、個々人の住んでいる住所先ではなく、会社所在地の住所の都道府県となります。
※ 福岡支店でも、東京の本社に所属していたら東京を参考にします。

引用:全国健康保険協会HPより
例年、3月ごろ保険料の変更があっておりますので、都度、最新のものを確認いただくことをお勧めします。会社にも変更があった際はお知らせが届くようです。
◆福岡県 平成31年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h31/ippan/h31340fukuoka.pdf 
◆東京都 平成31年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h31/ippan/h31313tokyo.pdf 

こちらの表の見方は、別記事に記載がありますのでご確認ください。

給与計算業務②~給与計算の流れ~

5.まとめ

基本給と残業手当と交通費のみでしたら分かりやすいのですが、やはり会社によってさまざまな手当の種類があると思います。その報酬月額から、社会保険料の金額が決まりますので、しっかり要件を確認することが必要ですね。

この社会保険料の基礎に含むかどうかで、社会保険料額が変わって来て、手取り額が変わって来ますので、会社だけでなく従業員の方々も気にするようにしてみてください。

2019.05.22

RPA推進で想定される法律的課題 ~社会科見学体験記~

約1ヶ月前に、普段は立ち入りが出来ない【90%が自動化されたオフィス】に社会科見学に行ってきました。

RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション=機械学習・人工知能によるホワイトカラーの業務効率化)が推進され90%が自動化されたオフィスのショールームに招待して頂き、お話を伺うことができました。実際に90%が自動化されたオフィスというのは、ほぼ何もないような空間で、一部に機械を人間が監視するというモニタールームがあるような場所でした。

管理者の方の意見も聞いてきたので、そこで見聞きしたものを踏まえつつ、今回はそれにより生まれるだろう法律問題について考えたいと思います。

1.まえがき

2020年には小学生のプログラミング授業が必修になるなど、現在、私達が思っている以上に、時代の大きな過渡期にあります。第四次産業革命といわれるなど、人間のあり方が今後大きく変わることが予想されます。機械の精度は日に日に増していますので、本来であれば日に日に人が楽になるはず・・・ではあるのですが、そのような実感がある方はあまりいらっしゃらないと思います。

RPAを推進しているセンターの管理者とお話をする機会があり、その際に色々と今後の予測をきいてみました。「私達は職につくことで失業者概念を生み出していると捉えることもできるが、機械化をすすめるということは失業者概念を最終的に消滅させうるものではないか?」との問いを投げたのですが、「失業者という概念を消滅させることは、現時点の技術ではまだ不可能と考えられる」との回答でした。自動化が浸透して私達が働かなくてもいい社会が実現するのはもう少し先で、現段階ではモニタリングや思考を人間が担うようになると仰っていました。

2.RPAによる配置転換や異動の法律問題

さて、現在でも銀行などをはじめとしてRPAを推進している企業は多数あると思うのですが、RPAがある程度進行してきたところで生ずると考えられるのが配置転換や異動の法律問題です。
身近なところで、大企業の自動電話を例にとりましょう(電話をかけると、自動音声が流れ、Aの手続の方は1をBの手続の方は2をというような音声が流れるものです)。自動電話は行政も採用していて、これにより的確に担当者へつなぐことができます。これで主に削減できるのは交換台や交換手です。必要最小限の交換手さえいればよいことになります。

そこで、会社に自動電話を導入するとして、その後の人の問題をどうするかというところに法律はかかわってきます。担当業務をフレキシブルに定めている場合は、比較的容易に配置転換を行うことができるかもしれませんが、そうでない場合は事前の打診を要することになりそうです。以下に労働基準法を引用して説明します。

労働基準法の定めによると、労働条件は労働契約の際に明示することとされています。

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

厚生労働省令である労働基準法施行規則にはこのような定めがあります。

第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。(中略)第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
(中略)
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

仮に労働条件を交換手業務として労働契約を結んでいるAさんがいたとして、RPAによって電話が自動化された場合に、当然交換手の仕事に人間が関与することはなくなりますから、Aさんは別の部門に回ることとなります。しかし、労働条件は交換手業務としていますので、Aさん側から労働契約を解除されてしまうリスクがあるのです(労働基準法15条2項)。

RPAが進むと、人員を他の部署(例えばモニタリングを行う部署等)に異動させることになります。任意にスタッフが全員人事異動に応じる場合は問題がないのですが、そうでない場合は最悪退職が相次ぐなどの人材流出の危険性もあります。RPAで業務効率化・経営の合理化を目指していたのに、配置転換で揉め事を起こしてしまってはかえって不合理を招きます。

スムーズな配置転換も戦略の一環として組み込まれているかもしれませんが、それが法律に則って問題なく行えるかという問題は残るのです。人の問題を起こさないために外部の法律事務所に委託し、契約書等の評価や配置転換の交渉をすることがRPAを進めていくには必須の事項になります。

3.まとめ

RPAの推進は、利便性が高いものです。全体として自動化された場合は効率的な業務遂行が可能になります。例えば単純な作業であれば、ほぼ客観的指標が出るというものもありますのでその意味では査定の負担が減りますし、社員に公平性を示せることが可能になります。また、採用の場面でも役立つかもしれません。
 
しかしながら、これらによって生ずる法律の問題があり、法律の問題を意識しながらRPAを推し進めなければ、業務の合理化が失敗に終わる可能性もあるので、RPAを推進している事業者の方は、スムーズにRPAを完了させるためにも、法律事務所と連携して、人的側面にも着目して実行を継続すべきでしょう。

2019.05.21

賞与計算の流れ

前々回と前回の記事では、通常の給与計算業務の流れについてお話しました。「賞与を支給するときも、通常の給与計算業務と同じように処理する」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、賞与計算の流れは給与計算の流れと似ていますが、控除する各種保険料・税の計算方法や必要な手続きが異なります。そこで、今回は、賞与計算の流れについてご説明します。

  1. 1.賞与とは

「賞与」とは、「定期または臨時に労働者の勤務成績、経営状態等に応じて支給され、その額があらかじめ確定されていないもの」で、いわゆるボーナスのことです。法律において、賞与を支給することは義務付けられていませんが、大抵の会社では賞与があるため、従業員の立場からするともらえて当たり前の感覚の方が強いかもしれませんね。賞与は、就業規則や給与規程・賞与規程、雇用契約書で定められている支給対象者、支給基準、支給時期、支払方法などに基づいて支給します。

そのため、賞与を計算する前に、必ず、就業規則や給与規程・賞与規程、雇用契約書等を準備しましょう。一般的に、賞与は、支給日または一定の基準日に在籍している従業員に対して支給しますが、会社によっては、「入社日から6か月以上経過した従業員に支給する」といった支給の条件を設定している場合もあります。法律で支給が義務付けられていない以上、支給するか否か、どのような要件で支給するか等、全て会社のルール次第になりますので、しっかりと定めを作りましょう。

 

  1. 2.賞与計算の流れ

    • (1)支給額の確認
    • まず初めに、各従業員に支給する賞与の額を確認しましょう。賞与の額は、会社の業績や従業員の勤務成績、態度などを考慮して決定されるのが一般的です。会社によっては、賞与は給与の1.5ヶ月分などと決まっていて、毎年決まった数字を支給している会社もあります。しかし、賞与はあくまで賞与ですので、やはり会社の業績を見ながら支給するかどうか経営判断をすべきでしょう。

 

(2)保険料・所得税の計算

次に、支給額から控除する各種保険料と所得税の額を計算します。

(a)社会保険料

社会保険料は、以下の式で算出します。毎月の標準報酬月額に基づいた社会保険料額とは異なりますので、注意してください。

健康保険料=1000円未満を切り捨てした賞与支給額)×健康保険料率÷2

厚生年金保険料=1000円未満を切り捨てした賞与支給額)×厚生年金保険料率÷2

※この時使用する健康保険料率・厚生年金保険料率は、通常の給与計算で使用する保険料額表と同じものを参照します。

(b)雇用保険料

 雇用保険料は、以下の式で算出します。

雇用保険料=賞与支給額×雇用保険料率

前回の記事を読んでくださった方はお気づきかもしれませんが、雇用保険料の求め方は、通常の給与計算と変わりません。

 (c)所得税

所得税は、以下の式で算出します。

所得税={賞与支給額-(社会保険料+雇用保険料)}×税率

※この時使用する税率は、通常の給与計算とは違い、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照します。

 表は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。また、扶養控除等申告書を提出している場合は、扶養親族等の人数を確認します。

※税率は、前月の給与をもとに確認します。

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず国税庁のホームページを参照してください。

例えば、甲欄適用者で扶養親族が2人、前月の社会保険料等控除後の給与額が20万円の従業員の場合、使用する税率は2.042%です。 

(3)賞与支払届の作成

賞与を支給する場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を作成する必要があります。賞与支払届の対象となるのは、社会保険の被保険者に年3回以下の回数で支払われる賞与です。 

(4)賞与明細の作成

(1)と(2)で計算した支給額・控除額をもとに、賞与明細を作成します。

(5)賞与支払届の提出

賞与支払日から5日以内に管轄の年金事務所に「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を提出します。これらを提出すると、納入告知書が郵送されてきます。 

  1. 3.まとめ

今回の記事では、賞与計算の流れについてご説明しました。給与計算と似たような流れですが、各種保険料・所得税の算出方法が違ったり、賞与支払届の提出が必要だったりと注意すべきことが多いことをお分かりいただけたかと思います。賞与計算は、通常の給与計算とは異なり、年に数回しか行わない業務です。慣れるまでは、毎回事前に一通りの流れを確認するようにして、焦らず進めていきましょう。

 

2019.05.20

意外と知らない会社法2 ~有限会社・商号・屋号とは~

普段何気なく目にしている会社名や店舗名。

これってどのように決められているか、知っていますか?

1.「有限会社」とは?

 街中で、有限会社と書かれた看板やビルを見かけることがありますよね。実はこの有限会社、今はもう会社法上、設立することができないだけでなく、「有限会社」と看板を掲げている会社も厳密には有限会社ではないのです。

平成18年(2006年)51日に会社法という法律が施行されました。それまでは、商法第2編会社の規定、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法)、有限会社法、この3つの法律が会社法的な位置付けとして利用されていましたが、会社法という新しい法律ができたことで商法第2編は削除され、商法特例法と有限会社法は廃止されてしまったのです。

会社法が制定された理由として、商法は明治32年に制定されたものであるため、文がカタカナ表記、文語体になっておりひらがな表記に改める必要があったこと、何度も改正されたことで枝番が付き過ぎて読みにくかったこと、規制緩和やグローバル化に柔軟に対応できるように内容をバージョンアップさせる必要があったことが挙げられます。

会社法の制定に伴い有限会社法が廃止されたことで、それまで株式会社よりも簡単に、かつ少ない資金で設立可能だった有限会社を設立することが不可能となりました。つまり、2006年から有限会社は設立できなくなったのです。では、今まで存在していた有限会社はどうなってしまったのでしょうか?

結論から言うと、「有限会社」は「株式会社」となりました。つまり、「有限会社」というものが世の中からなくなった結果、今まで有限会社としていた会社は「株式会社」としましょうということになりました。法律上、有限会社ではなく株式会社として扱われていますが、今でも変わらず存在していて、このような有限会社のことを形式的には株式会社であるにもかかわらず、「特例有限会社」と呼びます。また、有限会社がなくなった代わりに、株式会社の内容に多くの類型が設定され、有限会社とあまり変わらない形で株式会社を設立することが可能となりました。

 

2.「商号」とは?

 では、次に会社の類型の話から、会社の名前の話に移りたいと思います。世の中には様々な会社の名前がありますが、これって自分の好きな名前を付けられるのでしょうか?

 まず、会社には「商号」と「屋号」というものが存在します。ここでは、「商号」についてお話します。

「商号」とは会社が運営していくうえで他の会社と区別するための名前のことで、会社の名前として登記されます。原則、自由に決めることができますが、いくつかルールが存在します。

まず、文字について。ひらがなやカタカナ、アルファベットなどはもちろん使うことができますが、ローマ数字や()などは使うことができません。

次に、会社の種類を入れなければならないことです。会社の種類とは「株式会社」や「合同会社」のことで、名前の前後に必ず入れるということが定められています。反対に、会社ではないのに「株式会社」などの会社を表す言葉を使ってはいけません。

3つ目に、「銀行」「出張所」など特定の言葉を使用することも禁止されています。

そして最後に、同一住所で、同一商号は使用できないルールが存在します。異なる住所であれば同一の商号でも登記することが可能ですが、他のお店と似た名前を付けてしまうと、不正競争防止法に触れる可能性もありますので、会社を設立する際はインターネットで設立する予定の会社名を検索してみましょう。思いのほか、同じ名前の会社が世の中にたくさんあることに驚くと思います。これは、不正競争防止法の観点からも必要なことですが、ビジネスを行う上で会社の認知度を高める以上、同じ名前の会社が全国にたくさんあっては、広告などの際に不都合が生じますので、意識しておくべきです。

以上のルールを守れば自由に商号を決めることができるので、「商号」を考える際にはぜひ参考にしてみてください。

 

3.「屋号」とは?

 2で、会社には「商号」と「屋号」が存在するとお話ししましたが、3では「屋号」についてお話していきます。

 「屋号」とはビジネス上の名前で、実際に店舗で使ったり、銀行口座、契約書、領収書に記載されたりする名前のことになります。「商号」とは違い、会社法の規制を受けません。そのため、事業ごとに複数作っても、文字数が多くても自由に名前を付けることができるのです。ただし、すでに使われている屋号が商標登録されているものだと、同一市内で同じ屋号を使用することができず、「○○会社」「○○法人」といった名前も、付けることができませんので注意してください。

 また、屋号は商号と違い必ず付けなければならないものではありません。商号と店舗名を分けている会社もあれば、一緒にしている会社もあります。

 最も分かりやすいのが飲食店でしょう。世の中の飲食店は、一つの株式会社が10種類の店舗を別のブランドとして展開していたりします。その際、飲食店の経営においては、株式会社の名前である商号が表に出ることは少なく、あくまでそのお店の屋号でお客さんは把握しますよね。ですので、意外と同じ会社が経営していると知らないチェーン店などもたくさん存在します。

では、もし屋号を付けたいと考えた場合、どのような名前が印象に残るのでしょうか?

屋号は多くの人の目に触れるものになりますので、誰にでも分かりやすく、事業内容のイメージが付きやすいものだと効果的です。どんな事業を行っているのかがすぐに分かれば、どこかでビジネスチャンスが広がる可能性がありますし、記憶に残りやすいものです。1度屋号を決めてしまったとしても変更することが可能で、変更には届出の必要もなく、もし個人事業として行っているなら、確定申告をする際に新しい屋号を記入するだけで簡単に行うことができます。

 さらに、屋号を作ることで、個人事業主であれば、屋号名義で銀行口座を開設することもできますので、屋号をつくること、考えてみてください。

 

4.まとめ

 今回は、「有限会社」「商号」「屋号」についてお話をしました。

 普段何気なく目にしている会社名や店舗名ですが、名前1つを決めるにもたくさんのルールが存在し、そのルールを守ったうえで考え抜かれた名前なのです。

今回この記事を読んだことをきっかけに、会社や店舗の名前の由来や付けた人の思いなどを考えてみるといいかもしれません。

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