弁護士コラム

2019.05.16

マイナンバーに関する従業員教育の進め方

2016年1月から社会保障、税、災害対策の分野で行政機関等へ提出する書類にマイナンバーの記載が必要となり本格始動したマイナンバー制度。企業も、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用するなど対応を求められ、外部への漏えい防止等、安全管理対策の徹底が急務となりました。

企業には、人的安全管理措置として、マイナンバーの事務を行う担当者に対し、適切な教育を実施することが求められることはもちろん、担当者の管理者等や一般従業員にも段階に応じた教育の実施が重要となります。
今回はマイナンバーに関する従業員教育の進め方について検討してみましょう。

1.情報管理教育の必要性

2015年5月、日本年金機構が保有している個人情報の一部が、職員の端末に対する外部からのウイルスメールを介した不正アクセスにより、外部に流出したことが判明しました。その件数は約125万件にものぼるといわれています。
こうしたウイルスメール感染による流出は、知り合いを装ってメールを送信する等、年々手口も巧妙化しており、企業規模や知名度に限らず、どんな企業であっても、いつ攻撃の標的にされるとも知れません。

そのため、マイナンバーに関する従業員教育のみならず、情報管理全般についての教育は、時代の潮流といえます。

ウイルスメール感染等のトラブルで自社のマイナンバーをはじめとする重要な情報が漏えいしないように、技術的な安全管理措置(ウイルス対策ソフトによる定期的なチェック等)を実施するとともに、パソコンやタブレット端末を貸与しているすべての従業員に対し、社内文書の回覧や掲示などで、定期的に注意喚起を行うようにしましょう。タイミングとしては、たとえば新聞報道などで、企業等の情報漏えい事案が報じられたときなどが最適です。

2.定期的な従業員教育の進め方

マイナンバーの取得・管理などの取扱いにあたっては、情報が漏えいすることがないよう、安全に扱うことを伝える教育が必要です。

特に、マイナンバーを取り扱う担当者が人事異動や退職で入れ替わったりすることは十分にあり得ることであり、そのタイミングが急であるほど十分な引継ぎもできず、情報が漏れやすい環境となるリスクも高くなります。

そういった意味では、業務の引継ぎがスムーズになるようにマニュアルや業務フロー図の作成などが重要となる一方で、マイナンバー関連の事務をしない管理者への教育の重要性が言えます。従業員への教育は、取扱担当者向けの教育と管理者向けの教育、分けて考える必要があります。

取扱担当者に対しては、その管理の重要性等を伝えて理解してもらう必要があり、管理者については、今後、従業員以外のマイナンバーを取り扱うこともあり得ることから(例えば外部講師を招いて研修をし、講師料を支払った際の支払調書の作成にあたり、外部講師のマイナンバーを取得する場合など)、管理者として部下の情報管理を徹底させるために、幅広い視野による教育の実施が必要です。

次では、特に重要となる取扱担当者への教育について詳述しましょう。

3.取扱担当者への定期的な教育

企業によっては、マイナンバーの取扱担当者が今後将来にわたって何十年も変わらないと推測されるケースがあります。実際、様々な企業の人事労務担当者で、もう何十年も人事労務手続き業務や給与計算業務を手掛けている例はきわめて多く、特に中小企業では体制を基本的に変えない傾向があります。

長期間の同一業務への従事は、プロ意識を促すメリットがある反面、マンネリ化が生じたり、業務手順がずっと見直されなかったり、不正行為があっても発覚しにくい等のデメリットもあります。

そこで、社内外から業務遂行方法について監査(モニタリング)を実施する以外に、定期的な教育の実施を検討することが有効です。定期的な教育もルーティン化してしまうことがあるので、取扱担当者が管理者等への情報管理教育の講師役を担うようにするとよいでしょう。

通常、管理者に対しての研修は、外部の講師を招くか総務部長がその役割を担いますが、総務部長も多岐の業務を抱え内部研修にまで手が回らないケースが少なくありません。
講師役を担うことをとおして、取扱担当者にマイナンバー管理への高い意識が芽生え、様々な情報漏えい事故の情報収集をするクセがつくことが期待できます。

情報収集を意識すれば、必然的に自社の体制との比較を行い、自社の体制を改善させる取り組みも期待できることから、結果として外部から講師を招いて講義を受けるよりも高次元の体制を構築できる可能性があります。
つまり、講師役となって情報収集して発表するプロセスが教育につながるわけです。

4.まとめ

前述の社内研修の実施の例のように、マイナンバーを取り扱う事務担当者のみならず、その担当者の管理者等にも情報管理の教育を行い、指導内容が継続性をもって運用全体に活かされるようなしくみを考えていきましょう。

そして、マイナンバーに関する従業員教育のみならず、情報管理全般についての教育は、時代の潮流としてとらえ、全従業員に対し定期的に実施し、情報管理の徹底を促していくことが重要です。

2019.05.16

労働基準法とは? ~労働時間の原則~

労働時間に関する法規制について全て把握していますか?
例えば、労働時間を1日〇時間とした場合、休憩時間はどれくらい必要なのか。1日に最大何時間・週に最大何時間まで働かせても良いのか。など多くの疑問があるかと思います。そこで今回は労働時間について詳しくご説明したいと思います。

1.労働時間の原則

皆さんが労働時間の原則と言われて思いつくことは何でしょうか。
例えば人事や総務、管理職の方は1日8時間・週40時間という数字を頭に思い浮かべる方も多いのではないかと思います。労働基準法第32条の下記条文は特に重要です。

1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

つまり、1日8時間・週40時間というのが原則的な労働時間として労働基準法で定められております。しかし、このような原則形態にも例外が定められており、それが労働基準法第40条、労働基準法施行規則第25条の2第1項です。

①商業
②映画・演劇業(映画製作事業を除く)
③保健衛生業
④接客娯楽業

①~④の事業で、かつ、従業員の数が「常時10人未満」の場合は、1週間の法定労働時間が44時間となります。ただし、1日について労働させることができる上限が1日8時間であることは変わりませんので、そこは注意が必要です。

なお、労働時間(実際に拘束されている時間)とは、休憩時間を除いた実際に労働に従事している時間を指しますので、気をつけてください。

さて次は、曜日についてお話したいと思います。先ほど、労働時間の原則は1日8時間・週40時間とお伝えしましたが、「週」とは何曜日から何曜日のことでしょうか? 1週間は〇曜日~〇曜日?と聞くと、働き始めるのが月曜日という人が多いため、おそらく月曜日から日曜日と答える人が多いのではないでしょうか。

しかしながら、労働基準法では異なる定めがされております。就業規則等で定めがない場合は日曜日から土曜日のことを指すことになっていますので、週40時間という法規制も日曜日から土曜日で算定しないといけません。

ここまで、労働時間の原則についてお話ししましたが、「毎日8時間まで、週は40時間まで」と言われても、それがビジネスモデルとしてマッチしない業態もあると思います。特に不動産業などは、やはり入社・入学シーズンもあり、2月~4月などが極端な繁忙期となり、夏などは相当な閑散期となってしまいます。
そのような業種であっても1日8時間・週40時間を厳守しなさいと言われても、繁忙期は1日8時間では足りない、ただ閑散期は1日8時間もいらない、というニーズがあると思います。

そこで、変形労働時間制という定められた労働時間を効率的に割り振って、労働者と使用者共に無駄なコストを減らす制度が存在しています。ここからは変形労働時間制についてお話ししていきます。

2.変形労働時間制

この制度は、労働者と使用者において生活に影響を及ぼさない範囲で、労働時間において柔軟な対応ができるようにし、結果として労働時間を短縮するために整備された制度です。

ただし、変形労働時間制の場合、労務管理をする立場にとっては毎週・毎月の労働時間が異なってくるため、労務管理が極めて煩雑で管理コストが大き過ぎるというデメリットがあったり、制度を整備するにあたっても法律上の要件があったりと、導入するためには労力もコストも必要な制度となっています。
そこで1ヶ月単位の変形労働時間制とフレックスタイム制についてみていきます。

①1ヶ月単位の変形労働時間制

A.労働者の過半数で組織する労働組合がある場合
B.労働組合がない場合

AかBのいずれかによって、採るべき手続きが変わって来ます。前提として、労働者との労使協定を締結し、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する旨の就業規則を定めなくてはなりませんが、Aの場合は労使協定を労働組合と会社で締結します。これに対して、Bの場合は労働者の過半数を代表する従業員個人と会社で労使協定を締結します。

これによって、平均して1週間あたりの労働時間が、1週間の法定労働時間(40時間、特例の場合44時間)を超えなければ、以下の場合でも、法定労働時間内に収まっているとする制度です。

・特定週に、1週間の法定労働時間(40時間、特定の場合44時間)を超えて労働する
・特定日に、1日の法定労働時間(8時間)を超えて労働する

➁フレックスタイム制

簡単に言うと、1日の労働開始・終了を自分の裁量で決められるという制度です。
この制度を導入するには以下の事項に関する定めが必要です。
A.就業規則等に始業・終業を労働者に委ねる定め
B.労使協定に以下の事項を定める届出不要)
 (1) 対象労働者
 (2) 1ヶ月以内の清算期間
 (3) 清算期間の起算日
 (4) 清算期間における総労働時間
 (5) 1日の標準の労働時間
 (6) コアタイム・フレキシブルタイムを導入する場合はその時間帯

3.まとめ

いかがだったでしょうか。労働に関してのニュースとして最近では働き方改革に伴い、在宅ワークを導入する企業や、週休3日制を採用する企業が出てきています。労働に関する法律としては有給休暇5日の取得義務化など大きく変容しています。
難しい言葉が出てくるからすぐに目を背けるのではなく、時事問題や最新の法律に少しずつでも目を向けていくことが、会社を守るために必要なことではないでしょうか。

少しでも気になった方は、本やインターネットを参考にしてみてください。もし従業員との関係が良くない場合は状況が悪化する前に法律事務所を訪ねるなど、早めに手を打ち相談されることをおすすめいたします。

2019.05.15

WEBサービスを始めるなら必要!利用規約やプライバシーポリシーについて

WEBサービスを立ち上げる際、必ず準備しておきたいのが「利用規約」です。
対面での契約と違い、WEB上では購入者と書面で契約書を取り交わすことは不可能に近いと言えます。その契約書と同様の利用規約を作成し、プライバシーポリシーと併せてサイトに掲載、さらに利用者に同意をしてもらうことで、万が一トラブルが起こった際、適切に対処することができます。つまり、契約書の代わりになるのが利用規約やプライバシーポリシーとなります。
ではその利用規約やプライバシーポリシーについて、どのような点に注意して作成すれば良いのでしょうか?

1.サービスに沿った利用規約を作成しましょう

(1)契約書と同様の意味をもつ利用規約

上記の繰り返しになりますが、通常、物品の購入やサービスを受けるには売る側と買う側の間に「売買契約」が生じます。紙の契約書を取り交わしたり、同意書に署名したり、というようなことを行いますが、WEB上では同じように書面のやり取りをするということは現実的ではありません。
そこで、利用規約としてWEBサービスの利用者、商品の購入者に対して、サービスの内容やサイト内で守ってほしい項目や禁止行為、免責事項などを明記し、同意してもらうことで契約書の代わりとするのです。

(2)トラブルが起こった場合に備える

万が一トラブルがあった際などには、サイト管理者が利用規約に基づいてトラブルの対応をすることになります。
よく見受けられるのが、商品注文後の返品・返金・キャンセル等(ここでは返品等とします)ですが、利用規約に記載があり内容に則した返品等であれば対応が必要です。
しかしながら、すべての返品等に応えていては売り上げも立ちませんし、労力ばかりが増えてしまいます。返品等についての対応期限を設けたり、初期不良以外の返品不可といった条件を設定し、サイト管理者側が不利にならない内容にしましょう。
とりあえず返品に対応する、というようなあいまいな内容では利用する側も不安を覚えてしまいます。具体的に記載し、どんなケースでも対応できるようにすることが重要です。

(3)その他、利用規約に必要な具体的な項目は?

上記で例に挙げた返品対応についてはなんとなく思い浮かぶものですが、他の項目を一から考えて利用規約を作成する、と言っても法律の専門家でない限り、なかなか最初の文字すら出てこないものです。
すでに多くのWEBサービスがネット上に存在しているので、まずは参考として、自分が始めたいサービスと同様の形態を取っているサイトを見てみましょう。

多くのサイトでは、メニュー部分やサイトマップ(サイトの目次一覧)のページに利用規約へのリンクが掲載されていることが多いですので、そのリンクからアクセスし確認することができます。
また、検索エンジン(yahooやgoogleなど)の検索窓に「〇〇ショップ(サイトの名前) 利用規約」などのキーワードを入れ検索すると、そのショップの利用規約ページに直接アクセスできることもあります。

見てみるとどのサイトの利用規約も似通っており、「ではこれを丸写しすればいいんだ!」と思ってしまうかもしれませんが、あくまで参考とし、普遍的な部分以外は自身が行うサービスに則した内容にしていきましょう。利用規約にも著作権が認められたケースもありますので十分注意が必要です。

また、「サービス利用前に、こんなに膨大な文章の利用規約なんて誰も読まないだろう」と考え、利用者が不利になるような内容にするのも危険です。これまでも、利用者が作成したデザインの著作権はサイト管理者側へ譲渡されるといった規約内容が問題であるとされ、SNSで拡散炎上、利用規約の変更を迫られた他、企業イメージのダウン、更にはサービスの終了や業績低迷につながった例もあります。

近年起こっているSNSでの問題発覚は、上記のような規約以外でも多大な影響を及ぼしています。たとえ小規模なサイトであっても、全世界に向けてサイトを公開していること、細かい部分まで誰かが見て読んでいることを念頭に置いて運営していきましょう。

2.プライバシーポリシーって必要?

(1)利用者の個人情報を取得し、適切な利用を

プライバシーポリシーとは、そのWEBサイトを運営する管理者が、サイト上で得た個人情報の取り扱い方について方針を示すものです。個人情報保護方針とも言われ、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)により、個人情報の利用目的や第三者への情報提供などについて明記する義務があります。
こちらも多くのWEBサイトでは、利用規約と同様にメニュー部分やサイトマップのページにリンクが掲載されていますので、そのリンクからアクセスし内容を確認することができます。サイトによっては利用規約の中に組み込まれていることもあります。

プライバシーポリシーは、単に個人情報を適切に扱いますよ、という方針を記載するだけでは内容が不十分です。会員登録などで知り得た個人情報を、今後どのように取り扱うのかを具体的に説明せねばなりません。
例えば、
・販売後のフォローや、関連情報を知らせるために利用することがある
・購入者の解析や分析のため、データ解析会社や広告代理店など第三者へ情報を提供することがある
・新商品が発売されたら、案内をする際に使用する
…など、今後個人情報を利用するシチュエーションを考え、作成していくようにしましょう。この個人情報の利用目的を明確化しておかないと、後日個人情報を使いたいと思ったときに、プライバシーポリシーに記載されている利用目的と異なる利用はできないこととなってしまいます。今後のビジネスの発展や展開を考えながら、個人情報の利用目的を検討しましょう。

(2)プライバシーポリシーには必ず同意を!

問い合わせフォームや資料請求のページなど、利用者自身の個人情報を入力する部分にもプライバシーポリシーを掲載しておきます。そしてポリシーに同意しなければフォーム内容を送信できないようにすることがポイントです。
同意がなければ、上記のような販売後のフォローや関連情報の提供などを購入者へ対して行うことができませんし、販売拡大のためのデータ活用もできないため、必ず同意を得るようにしましょう。

3.まとめ

利用規約、プライバシーポリシーどちらにしてもWEBサービスにおいては欠かせないものとなっています。消費者トラブルや情報漏えいを起こした場合、この2つの記載内容が不十分だった際には、責任の所在を問われることになります。
WEBサービスを早く始めるにはその作成を専門家に依頼し、自分は他の準備に専念するのも一つの方法ですが、専門家もそのサービスについて熟知しているとは限りません。任せきりにせず、しっかり事業内容や事前情報を伝えた上でアドバイスを受け、より良い規約を作成していくようにしましょう。

2019.05.15

給与計算業務②~給与計算の流れ~

前回の記事では、給与計算を行うにあたって必要な知識についてお話しました。今回は、それを踏まえて、実際の給与計算業務の流れについてご説明します。

前回の記事はこちら
給与計算業務① ~給与とは~
https://www.nakagawa-lawoffice.jp/blog/business/3370/

1. 給与計算の流れ

(1)支給項目の計算

初めに、支給項目の計算を行います。
まず、基準内賃金(基本給のほか、役職手当、通勤手当など毎月決まった金額で固定的に支払われる手当)と基準外賃金(時間外労働をさせた場合に支払う手当など毎月変動的に支払われる賃金)を合計します。また、前回の記事でも述べた通り、給与は労働の対償として支払われるものなので、欠勤や遅刻、早退のように、従業員の労務の提供がない場合は、給与を支払う必要はありません。ですので、基準内賃金と基準外賃金の合計額から、欠勤や遅刻、早退をした場合の欠勤控除、遅早控除の額を差し引き、総支給額を算出します。

支給額が毎回変動する給与は、支給する度に計算する必要があります。変動がある項目として代表的なのが残業手当です。タイムカード等で記録している残業時間のうち、法定時間内労働、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働について、それぞれ分けて集計する必要があります。

(2)保険料の計算

(a)社会保険料

社会保険料とは、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上65歳未満の従業員のみ)のことです。
各従業員の社会保険料を確認するために、まず、保険料額表を準備します。健康保険料率と介護保険料率は毎年3月、厚生年金保険料率は毎年9月に改正されるので、最新のものを準備するようにしてください。

保険料額表を準備したら、報酬月額を算出します。この報酬月額とは、基本給のほか、通勤手当、家族手当、住宅手当、残業手当など労働の対償として会社が支払う報酬のことを指します。臨時に支払われるものや、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与などは含まないので注意しましょう。

算出した報酬月額を保険料額表にあてはめることで、標準報酬月額が決定します。この標準報酬月額に保険料率を掛けることで、保険料が決定します。
標準報酬月額を決定するのは、従業員の入社時、毎年7月に標準報酬月額の見直しを行う定時決定時、大幅な昇給・降給があった場合の随時改定時です。

<控除する社会保険料の求め方>

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず前述した保険料額表を準備・参照してください。

例えば、報酬月額が22万5千円である場合、標準報酬月額は22万円になるので、標準報酬月額が220,000の行を参照します。社会保険料は、会社と従業員で折半するので、従業員の給与から控除するのは全額ではなく、折半額です。
健康保険料については、40歳未満の従業員であれば、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の折半額(今回の場合、11,264円)、40歳以上の従業員であれば「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の折半額(今回の場合、13,167円)を控除します。
厚生年金保険料については、一般の被保険者の折半額(今回の場合、20,130円)を控除します。

(b)雇用保険料

雇用保険料は、総支給額に雇用保険料率を掛けて計算するため、総支給額が変わる度に計算しなければなりません。雇用保険料率は、会社の事業の種類によって異なるので、厚生労働省のホームページで確認しましょう。

<控除する雇用保険料の求め方>

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず厚生労働省のホームページを参照してください。
雇用保険料も、従業員が負担する分と会社が負担する分に分かれるので、従業員の給与から控除するのは①労働者負担にあたる額のみです。

例えば、一般の事業に該当する会社の従業員で、総支給額が20万円である場合、20万円に①労働者負担率0.3%を掛けた600円を控除します。

(3)所得税・住民税の計算

所得税は、源泉徴収税額表を用いて計算します。この源泉徴収税額表には、月額表と日額表があります。
給与を月、半月、10日、月の整数倍の期間ごとに支払う従業員に対しては月額表を使います。「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。
これに対して、日や週ごとに支払う従業員、日割で支払う従業員、日雇賃金を支払う従業員に対しては日額表を使います。日や週ごと、日割で支払う従業員で、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。日雇賃金を支払う従業員については丙欄を使います。
また、扶養控除等申告書を提出している場合、配偶者、子、親といった扶養親族等の人数を確認しましょう。

<控除する所得税の求め方>

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず国税庁のホームページを参照してください。

例えば、月ごとに給与を支払っており、その月の社会保険料等控除後の給与等の金額が29万円、扶養控除等申告書を提出している従業員で、扶養親族等が2人の場合、4,800円を給与から控除します。

住民税は、毎月5月頃までに会社に送られてくる特別徴収税額決定通知書をもとに控除します。

(4)給与明細の作成

最後に、給与明細を作成します。たとえ給与を振込みで支給していたとしても、必ず給与明細を作成して、役員を含む従業員に渡す必要があります。

給与明細書

2. まとめ

前回の記事と今回の記事にわたって、給与計算に関する基本的な知識・流れについてご説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。給与計算は、支払日までに、思っている以上に多くの手順を踏む必要がある難しい業務です。慣れないうちは特に大変ですが、1つ1つの項目を丁寧に理解して業務を進めていきましょう。

 

2019.05.14

意外と知らない会社法

「会社」や「株式会社」、よく聞く言葉ですよね。
しかし、何のことを指す言葉なのか聞かれると意外と答えられない言葉でもあると思います。世の中には本当に多くの会社があり、総務省統計局による平成26年経済センサスによれば、日本中の企業の数は382万社にのぼります。

これだけ多くの会社が世の中にはあり、様々な種類の会社がありますが、会社経営と縁のない立場としては、会社の種類なんて気にしたことないですよね。世の中の構造を理解することは、人生を賢く生きる術でもありますから、ぜひ知っておいてください。
今回は、そんな会社の種類について説明します!

1.「会社」とは

世の中には、数え切れないほどの「会社」が存在していますよね。株式会社、合同会社などいくつか種類がありますが、そもそも「会社」とは一体何のことでしょうか?

「会社」とは、営利行為を業とすることを目的として設立された社団法人のことを言います。細かく分類して説明すると、以下の通りです。

営利行為:利益を得ることを目的とする行為のこと
(得られた利益を構成員に配当するところまでを含みます。法律用語として厳密な説明をすると、儲けるためにビジネスをしていることではなく、株主に対して配当を行っていることを「営利」と呼びます。)

業とする:反復継続すること(実際に反復継続している場合だけでなく、実際には1回限りだったとしても、反復継続する意思で行われている場合も含まれます。)

社団:一定の目的を持った人々の集まり

法人:人ではないが、法律で人格を認められたもので、権利義務の主体とされるもの(要するに、契約の主体として、契約書に署名押印できる立場を言います。)

つまり「会社」を簡単に説明すると、継続的に利益を得ることを目的とした人々の集まりで、権利義務の主体となることができるものとなります。

では、「会社」は利益を得るという目的があれば何をしても良いのでしょうか?
もちろん、そんなはずはなく、どのような事業を行っていくのかを定めなければなりません。これが「会社」の目的となります。「会社」は定められた目的の範囲内でのみ、法人格が与えられるため、目的外のことについては権利義務の主体となることができません。

通常、会社の登記簿には「会社の目的」が列挙されています。例えば、飲食店を経営する会社であれば、登記簿の目的の欄に「飲食店経営」と書かれており、飲食店経営に必要な事柄については権利義務の主体になれる(契約を行うことができる)のですが、全く関係のない事柄に関しては権利義務の主体にはなれません。

そのため、新しいビジネスを始める場合、現状の会社の目的の欄に関係しそうなものが見当たらない場合には、登記簿の目的欄を追加して、会社の目的として新しいビジネスを書き込みます。

会社の登記簿なんて見たことないかもしれませんが、法務局に行けば誰でも何の会社でも登記簿を取得することができますので、自分が知っている会社や働いている会社の登記簿を取得して、会社の目的や役員構成などを見てみても面白いかもしれません。

2.「株式会社」とは

会社法では、現在設立することのできる会社の種類として、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4つが定められています。この中で、最も多く使われているのが「株式会社」になります。

よく耳にするこの「株式会社」という言葉ですが、どのような会社のことを指すのでしょうか?

「株式会社」は、設立する際に出資者(会社に対してお金を出してくれる人々)が集まります。この出資者のことを株主と呼び、株主は会社の持ち主となり、会社に対して様々な権利を持つことができます。

株主の持つ権利は株式とよばれ、株式を具体化したものを「株券」といいます。(一昔前であれば、どこかの会社の株式を持っている人は株券を保有しているのが通常でした。例えば、キティちゃんなどで知られる株式会社サンリオの株券は、キティちゃんが印刷された株券でした。これも東京証券取引所に行けば見学できますので、見てみてください。しかし、現在では株券は発行しなくても良いことになっていますので、株券をいちいち発行していない会社が大半でしょう。なので、世の中で株券というものを保有している人は多くないと思われます。)

また、株主はあくまでも会社の所有者でしかなく、経営のプロという訳ではありません。そのため、会社を経営する取締役として、株主でない他の人に経営を委ねて経営してもらうことを前提としています。これを「所有と経営の分離」と呼びます。

株主には会社を経営する義務がないと先程お伝えしましたが、経営しなくて良いということは、会社に対して出資のみをすることになります。
ですので、もし株主をやめたいと思った時には、株式を他の人に売り、出資したお金を回収することが可能です。原則として、株主は株式を自由に譲り渡すことができるのです。(ただし、譲渡制限株式という株式を譲渡する際には会社の承諾が必要となるタイプの株式も存在し、上場企業でなければ譲渡制限株式であることが多いですので、確認されてみてください。これも会社の登記簿を確認すれば書いてあります。)

3.「持分会社」とは

2では、株式会社についてお話をしましたが、ここでは株式会社以外の会社について説明をしたいと思います。2で、会社法では4つの種類の会社が定められていることを紹介しました。1つは株式会社、残りの3つは合同会社、合資会社、合名会社となり、この3つを合わせて持分会社と呼びます。

持分会社とは、社員と出資者が同じで、比較的自由度が高い会社になるため、その分社員同士の関係性が大切になってきます。このことから、持分会社は少人数や仲間内で設立するのに適している会社となります。

また、持分会社の社員には、出資額の範囲内で責任を負う「有限責任社員」と出資額に関わらず、会社の負債のすべてにおいて責任を負う「無限責任社員」の2種類が存在し、有限責任社員のみで構成される会社を「合同会社」、無限責任社員のみで構成される会社を「合名会社」、有限責任社員と無限責任社員の両方がいる会社を「合資会社」と言います。

どの会社についても、株式会社と比べて設立手続きが簡単で、社員間の取り決めも簡単にできるようになっています。
最近は、有限責任で簡単に設立でき、設立時のコストも安いことから、合同会社で立ち上げられるベンチャー企業も多くなっています。

4.まとめ

今回は、「会社」、「株式会社」、「持分会社」についてお話をしました。よく聞く言葉でも、いざどんなものかと聞かれると答えることが難しいですよね。

また、これらの言葉や会社法について、知っていて損をすることはないと思いますので、是非この記事を読んで日々の生活に役立ててください。

2019.05.13

【不動産】マンション設備・建築の適法性に関する売主の説明義務

Q.新築マンションを購入して住み始めたのですが、外壁が剥がれ落ちている箇所があり、マンションの建築工事の段階で不備があったのではないかと思っています。こういったとき、売主に対して損害賠償請求をすることは可能なのでしょうか?

A.マンションの設備や建築の問題としては、最初に挙げたような

例①:新築マンションを購入して住み始めたところ、外壁の剥落という、新築マンションとしては考えられないような不備が見つかった場合

の他にも、

例②:不備が見つかったために売主へ補修工事を行うよう請求したものの、その建築上の不備がかなり重大なものだったことが判明して、大規模な補修工事が必要になってしまった
例③:補修工事によって建物の不備は是正されたものの、「大規模修繕を経たマンション」という事実により、マンションを売ろうとしても買い手がつかない、若しくは価値が大きく下がってしまう可能性が想定される
例④:売主に補修工事の対応をしてもらったものの、長期間にわたる工事期間中、騒音や粉塵に悩まされた

といったように、一つの不備があったことから複数の重大な問題が発生することが想定されます。
こういった被害が実際に発生した時、誰に、どのような根拠に基づいて請求をすることができるのかを考えていきます。

1 民法上の瑕疵担保責任

例①の場合、当該マンションの買主としては、まずは売主に対する瑕疵担保責任の追及を試みることが考えられます。瑕疵担保責任とは、購入したものに何らかの瑕疵(不備)があった場合に、その瑕疵の補修や損害賠償などを求める権利のことです。

民法では、瑕疵担保責任について1年間の除斥期間(時効のようなものです)を設けていることから、買主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をする場合、隠れた瑕疵の存在を知った時点から1年以内に行わなければなりません。

また、この「瑕疵担保責任」は、一般債権の消滅時効の規定が適用されると解されています。よって、買主が瑕疵の存在に気付かず、消滅時効期間が経過してしまった場合には、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は困難になってしまいます。

更に、民法上の瑕疵担保責任の規定は任意規定であるため、売買契約の中で瑕疵担保責任の行使期間が短縮されているケースも多くあるため注意が必要です。

以上を踏まえて、購入した年月日、瑕疵を発見した年月日、売買契約書の中に売主が瑕疵担保責任を負わない旨の規定が入っていないかなど、確認されてみてください。これらを確認し、どのような瑕疵があるのかを明確にして、弁護士などの専門家に損害賠償請求ができないか、売主に補修をするよう請求できないかを相談してみましょう。

2 住宅の品質確保の促進等に関する法律による瑕疵担保責任

上記1の通り、民法の規定を前提とした場合、除斥期間が1年とかなり短い上に、個別の売買契約において更に期間が短縮されていることも多く、買主にとって大変不利な状況にあるように思われます。

しかしながら、住宅の瑕疵は、購入時や入居時にある程度確認するため、実際に見つかる瑕疵は、なかなか気付かないような瑕疵が多いものです。(簡単に見つかるような瑕疵なら、購入時や入居時に気付いているでしょう。)実際のところ売買からそれなりの期間を経過した後に判明するケースが多いため、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」という法律によって、民法上の瑕疵担保責任の特例として、住宅新築請負契約や新築住宅の売買契約においては、「構造耐力上主要な部分(基礎、基礎杭、壁、床板、屋根板など)」、「雨水の侵入を防止する部分(屋根、外壁など)」に関する請負人または売主の瑕疵担保責任の除斥期間を10年と定めており、この期間の短縮は出来ないものと定めています。

これらを踏まえて例①のケースを考えると、新築マンションの買主であり、また、問題となっている瑕疵は外壁に関するものであるため、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づき、当該マンションの引渡しから10年経過より前であれば、買主は売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることができると考えられます。

3 資産価値の下落による損害賠償

例②及び例③について検討します。
マンションの瑕疵について売主により補修工事が実施され、マンションの機能上の問題が解消されたとしても、大規模な補修工事が行われたという事実によって、そのマンションの価値が低下するという事態は十分に想定されます。

仮に自分が中古マンションを買う側であれば、瑕疵があって大規模修繕をしたマンションは、他にも瑕疵があるかもしれないと思ってなかなか購入する気にならないですよね。こうした価値の下落部分の損害について、損害賠償を請求することが可能なのかが問題となります。

この点、福岡高判H18・3・9では、新築直後から外壁タイルの剥落を生じていたマンションを、この外壁の問題を知らずに購入した買主が、売主による補修工事後に、交換価値の下落による損害等の賠償を求めた事案について、「外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感、ひいてはこれらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事によっても払拭しがたいといわざるを得ない」ことであり、「売主である分譲業者は、売主の瑕疵担保責任として、瑕疵の存在を知らずに合意した売買代金額と瑕疵を前提とした目的物の客観的評価額の差額に相当する、この経済的価値の低下分について、損害賠償義務を負わなければならない」ことになると判示しました。

なおこの事件では、資産価値下落に掛かる損害賠償を認める前提として、単に当該マンションが新築であったことだけではなく、補修工事の規模・方法、当該マンションが高級感やデザイン性を重視していたことといった様々な事情を総合的に考慮しているため、類似した状況であったとしても、この事件と同様の損害賠償請求が認められるとは限りません。

よって、マンションや実際の損害の程度を、個別案件によって十分に検討する必要があると考えられます。

4 慰謝料請求

瑕疵担保責任に基づいて損害賠償責任が認められる場合には、財産的損害(=建物の瑕疵)に加えて、精神的損害(=建物の瑕疵について補修工事を行った際に騒音等によって被害を受けた場合)についても賠償責任は認められるかが問題となります。

この点、上記3であげた判決においては、居住者は本件瑕疵の補修工事の施工そのものは受けいれなければならなかったものの、上記補修工事によって発生する騒音や粉塵等の生活被害についてまで負担を強いられる理由は無く、これらの生活被害については売主の負担により回復されるべきとの理由から、慰謝料請求を認めました。
よって、例④のようなケースでも慰謝料の請求を検討する余地はあるといえます。

5 まとめ

以上の通り、購入した物件に何らかの瑕疵がある場合、売主に対して様々な請求をすることが可能です。
ただし、やはり事案次第というところが大きく、どのような瑕疵なのかによりますので、しっかりと弁護士などの専門家に相談して検討してみてください。

2019.05.09

マイナンバーの将来予測~先進国の事例から

マイナンバーの利活用に当たっては、2015年6月30日の政策閣議で決定された「世界最先端IT国家創造宣言(修正版)」がその道標として参考になります。宣言には、医療分野や金融等にも活用していく展開について、今後の継続的検討課題として挙げられており、こうした活用が拡がれば、国民の利便性は飛躍的に高まると考えられています。

世界でも最高水準といわれる韓国の電子政府やID活用方法をはじめ、先進国の事例をヒントとしてひも解き、日本のマイナンバー制度の活用法の将来を考えてみましょう。

1.先進諸国のIDカード制度

マイナンバー制度と同様のIDカード制度は、先進諸国ではすでに導入されています。アメリカのソーシャル・セキュリティ・ナンバー(社会保障番号)をはじめ、EU諸国やアジア地域でも、同制度はなくてはならないものになっています。

翻って日本を振り返ると、行政の手続きが煩雑且つ非効率で、そうした背景が外国人の企業を妨げる一因となっているとも言われています。こうした行政の手続きの煩雑さを解消するためにも、マイナンバー制度が始まったとも言えるわけですが、先進国の事例をひも解くことによって、マイナンバー制度の方向性がある程度見えてくるかと思います。
特に参考になるのは、世界最高水準とも言われる韓国の制度「e-GOV3.0」です。

2.世界最高水準と言われる韓国の電子政府「e-GOV3.0」

この電子政府は、他人への成りすましといった様々な問題も生んではいるものの、そのデメリットを補ってあまりあるメリットをもたらし、国民の利便性の向上を実現させました。世界各国の政府関係者が視察に行くことも少なくないようです。

実際に韓国の行政機関(税務署、市役所、ハローワーク等)に足を運んでみると、人がいないことに驚きます。電子化によって様々な手続き業務が自宅や会社のPC等でできてしまうため、日本のようにわざわざ役所等に出向く必要がないのです。

3.ID活用により年末調整業務がなくなる?

韓国では、個人のID番号(または携帯電話番号)を買い物の際にレジで提示することで、経費処理が幅広く認められています。
また、国税庁は、ID番号の提示を簡素化させる目的で「現金領収証カード」というものを希望者に配布しているため、IDカードの現物を持ち歩く必要もないようです。

韓国では、この購入履歴の蓄積により、確定申告時期には個人ごとのポータルサイトに、「あなたの確定申告書ができ上がりましたので承認ボタンを押してください」といった通知が届き、サイト内で税金の不足分の入金や還付手続きができてしまいます。
従来の「国が国民に申告を促す」から、「集まった情報をもとに、国が国民に申告書を提供する」という高次元のフローが実現しています。

この仕組みが構築された結果、企業での年末調整業務がなくなり、個人が確定申告する流れに変わったことで、企業の総務部門はスリム化し、現地の税理士の仕事も代行業務からコンサルティングへとシフトしたと言われています。

日本において、消費税の増税にともなう軽減税率の処理のために、国民がスーパー等で買い物をする際にマイナンバーを提示する案が以前検討されていましたが、この「e-GOV3.0」を意識しているものと推測できます。

4. マイナンバーの医療分野への利活用

ここまで韓国の電子政府「e-GOV3.0」の事例から、主に税分野で今後どのように利活用が拡がるかについて、ひも解いてみました。
それ以外でも、頭書のとおり「世界最先端IT国家創造宣言(修正版)」においてマイナンバーの活用の拡大が予定される分野が挙げられています。中でも、国民医療費が増大しているなかで、医療分野への活用は必然となっていると言えます。

医療制度と介護制度が将来的に統合されていく可能性があるなか、介護保険関係の給付等でマイナンバーの紐づけが行われることがすでに決定しており、2015年9月に成立した改正マイナンバー法においても、以下の場面でマイナンバーを活用することが決定しました。

・メタボ検診にマイナンバーを紐づけ
・予防接種の履歴管理をマイナンバーで実施

直近の方向性として、政府は2019年2月15日、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようにすることを盛り込んだ健康保険法などの改正案を閣議決定、2021年3月からの施行を目指しています。

これは、医療機関における診療報酬の請求事務で、間違った保険証を提示する、例えば退職したにも関わらず前職の健康保険証を提示するといった患者からの請求ミスなどがあまりにも多い状況の改善を図る施策です。

これまで、医療機関としては本人の申告を信じるしかなかったのが、ICチップ付きのマイナンバーのカードを用いるようになれば、カードを照会することで診療報酬の請求間違いと混乱の防止につながることが期待されます。

また、地域内の医療機関等との情報共有にもデータ照会が活用され、薬剤管理等が統一的に行われていくものと考えられます。つまり、重複受診の抑制による薬剤費等の医療費の抑制に大きく寄与するとことが期待できるのです。

国民の視点に立っても、確定申告時に請求書等の整理が不要になる可能性もあることから、利便性の向上且つ国民医療費の削減という国家的課題の解決にもつながり得ると考えられます。

5.まとめ

政府は、東京オリンピックが開催される2020年をめどに、「ITイノベーション社会の実現」「国民生活の豊かさ向上」を目指しています。来る日までに、多くの国民がICチップ付きのプラスチック製「個人カード」を保有することになると考えられています。

そうした環境が整えば、企業における総務業務の多くも、入退社手続きを含めた各種手続きの社内からのオンライン申請が可能となると思われ、国民にとっても企業にとっても効率的な社会が実現することが予測されます。

その反面、マイナンバーが医療分野はじめあらゆる分野と紐づけられることで、情報漏えい時のリスクも甚大となる事から、情報漏えいを防ぐ体制づくりが今後より一層の課題となります。

2019.05.09

【不動産】賃貸物件からの退去の流れと確認すべき点

賃借人が賃貸物件から転居するとき、賃貸人との間で居住している賃貸物件の退去手続、敷金の清算等が必要になります。明日退去しますと言って荷物を持ち出すだけで、簡単に全ての手続きが完了するものではありません。

以下では、退去手続が一般的にどの様な手順で進み、退去する前に確認しておくべき点として何があるか等について説明します。

① 解約日の調整

賃借人が、転居が決まって最初に行うことは、賃貸人との間で賃貸借契約の解約日を確定させることでしょう。引っ越す日を決めて、実際に明け渡しが完了し、鍵を返却できる日を固めなくてはなりません。

では、解約日は賃借人が希望した日がそのまま解約日になるのでしょうか?まずは、賃貸借契約書の解約予告に関する条文を確認する必要があります。一般的には、居住用賃貸マンションであれば、賃借人から賃貸人に対し賃貸借契約を解約する旨の連絡がなされた日から1ヵ月後若しくは2ヵ月後を最短の解約日とするものが多いです。

当然、解約日までの賃料は発生するため、転居先の契約日(賃料発生日)をよく確認して、現住居、転居先の二重契約になる期間を可能な限り少なく調整出来ると経済的な負担も少なくなります。

ただ、あまり早く新しい転居先を探そうと思っても、なかなか物件が見つかりませんし、二重契約を避けるためにギリギリで転居先を探そうと思ってもなかなか思うような物件が見つからないものです。
多少は賃料が二重で発生することも覚悟した方が、結果として良い物件探しができるかもしれません。

② 明渡しの準備

賃貸借契約を解約するということは、賃借人は解約日以降、部屋を使用する権原が無くなり、賃貸人へ明け渡すことが必要となります。
明渡しの際に何をどこまで行わなくてはならないかについては、貸借契約書の明渡しに関する部分を確認する必要がありますが、一般的には、解約日までに「①室内にある私物の撤去」「②賃貸人への鍵の返却」「③電気・ガス・水道の解約」を行うことで明渡しは完了したことになります。

仮に、解約日なっても私物の撤去が完了していない場合は、どの様に取り扱われるのでしょうか?
賃貸借契約において、明渡しの条件に私物の撤去が定められている場合、賃貸人へ部屋の鍵を返却していたとしても明渡しが認められない可能性があります。
しかし、解除日が到来することで賃貸借契約は解約されており、賃借人は何の権原もなく部屋を使用している状況となるため、不法占拠と見なされる可能性があります。

不法占拠と判断された場合、明渡しが完了するまで、賃貸借契約に定められた賃料相当損害金を請求されることが一般的です。賃料相当損害金についての取り決めは個々の賃貸借契約書の確認が必要ですが、一般的に賃料の2倍から3倍の金額と定められていることが多いでしょう。

以上の通り、解約日までの明渡しが完了しないときには、大きな経済的負担が発生することもあるので、必ず解約日までに明渡しを完了させることを心がけましょう。

③退去立会い

明渡しの準備が整うと、解約日迄に賃貸人との退去立ち合いを行うことが一般的になります。退去立会いが義務化されているかは、賃貸借契約の内容により異なるため確認が必要となります。

退去立会いの主な目的は、「①私物の撤去等を含め建物の明け渡しが完了していることを賃貸人との間で互いに確認すること」、「②賃貸人に対する鍵の返却」、「③室内の損傷等の状態について互いに確認すること」、の3つとなります。①及び②の必要性については前述している通りのため割愛し、③の趣旨、内容について説明します。

賃貸人は、空室となった部屋へ新しい賃借人を募集しますが、当然、他人が使用した部屋をそのまま借りる人は居ないため、退去する賃借人が入居する前の状態に戻すための様々な工事を行います。
原状回復工事にかかる費用を誰がどこまで負担するのかは、各賃貸借契約により異なり、現時点では原状回復の負担割合について法律では定められておりません(2020年4月施行予定の民法改正において新たに原状回復の定義について盛り込まれることが予定されています)。

そこで、現在は原状回復の費用負担について詳細な取り決めがなされていない場合、国土交通省が発行している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に処理をされることが一般的となっています。
ガイドラインでは大まかに、通常の生活を原因とする通常損耗の工事費用については賃貸人、賃借人の故意、過失により補修等が必要となった部分については賃借人が工事費用を負担することが推奨されています。

そこで、退去立会いでは、賃貸人と賃借人が一緒に室内を確認することで、賃借人の故意・過失に基づく損傷部位を確認し、原状回復の内容について確認を行い、原状回復の負担割合について現場を確認しながら説明を受ける機会となります。
仮に、退去立会いを実施しないとなると、後々の原状回復費用の負担割合で賃貸人との間に認識の違いが生じ、紛争に結び付くことが多くあります。
賃借人自身の利益を守るためにも、退去立会いは積極的に実施しましょう。

なお、地域によっては、「敷引き」といって、敷金を一切返金せず、その代わりに一般的な原状回復はその範囲で完了させるのが一般的な地域もあります。
そのような地域では、原状回復工事の内容がどうであれ、賃借人に敷金の返金がされないため、退去立会いを行わないことが一般的な地域もありますので、ご注意ください。

④敷金清算

退去立会いが完了し一定期間が経過すると、賃貸人より原状回復費用等の見積りを含む敷金の清算書が送付されてきます。

原状回復費用の見積もりについては、退去立会いのときに受けた説明と違いがないかを中心に確認する必要があります。

敷金の清算書は、預け入れている敷金から何に基づきいくら引かれ、最終的な過不足がどうなるかの確認が必要となります。基本的には、敷金から賃借人が負担する原状回復費用、未払賃料等の金銭債務を差し引かれ、敷金に余剰があれば賃借人へ返還され、敷金が不足すれば不足費用を賃貸人に支払うことになります。

また、契約によっては敷金を敷引きとして取り扱っていることがあります。敷引きの場合は、敷引き金から原状回復費用等を差し引き余剰が出ても、賃借人への返還はなされないことになっています。しかし、敷引きは金額が極端に高額であれば契約が無効となる可能性もあるため、状況によっては専門家への相談も考慮すべきかもしれません。

⑤まとめ

今回は賃貸物件の退去について一般的な流れ、注意点を説明しましたが、退去にかかる細かい条件については賃貸借契約の内容により個別に変わるため、事前に賃貸借契約の内容を確認することが大切になります。
また、原状回復の費用負担、敷金の清算内容についてはトラブルになることも多いため、退去清算についての話が纏まらない場合には弁護士など専門家への相談も一つの方法となります。

2019.05.06

【不動産】マンション設備に関する売主の説明義務

「駐車場付きマンション」という広告・説明を受けてマンションを購入したのですが、実際には、マンションとは別に第三者である地主と駐車場の賃貸借契約を締結しなければなりませんでした。こんな時、分譲業者には責任を追及することは可能でしょうか?

1. 売主の説明義務に関する一般論

売買契約における売主の本来的な義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することです。しかしながら、マンション購入の意思決定に際し重要な意義を持つ事項に関しては、売主には、信義則上の付随義務として説明義務が認められます。

2. マンション設備に関する売主の説明義務

まずは、マンション販売に関する売主の説明義務が争点となった事例を、具体的な裁判例を通してみて見ましょう。

(1)駐車場の利用権(横浜地判平成9・4・23)

【事案】
Xらは、マンションの分譲業者であるY社が分譲したマンションを、駐車場付きの広告を見たり説明を受けたりして購入したが、実際には、Y社とは全く別の地主(第三者)と駐車場の賃貸借契約を締結する必要があった。
Xらは、Yに対し、債務不履行及び契約締結上の過失に基づき、駐車場利用権の相当額や慰謝料の損害賠償を請求した。

【判旨】
一般にマンション(集合住宅建物)の区分所有権の売買契約においては、買主に駐車場利用権を取得させる債務が契約の給付の内容に含まれない場合であったとしても、乗用車が日常生活における重要な生活手段となっていることに鑑みれば、売主には駐車場の存否とその利用契約締結の可否について買主に正確に説明すべき付随義務があると解するのが相当である。

したがって、特に買主から駐車場の有無が契約を締結するか否かの判断のために必要である旨が表示されている場合においては、付随義務とはいえ、信義則上、売主の説明義務違反を軽んじることはできない。

また、売買契約が締結される前の勧誘行為において、説明義務に違反する行為があった場合においても、いわゆる契約締結上の過失の問題として、売買契約の成否にかかわらず、売主に債務不履行責任が生じる余地があると解される。

これを本件についてみるに、Xらは、Yの販売担当者から本件マンションの販売勧誘を受けた際に駐車場の存否を尋ねているか、又は駐車場が確保されていることがマンション購入の必要条件となるという趣旨を告げていたため、本件各売買契約が締結される前の状態ではあったが、販売担当者には、本件駐車場の所有関係、利用契約の趣旨内容を、Xらに説明すべき信義則上の義務があったということができる。

この説明義務は、本件売買契約が成立した場合には、当然にこの契約の付随義務となるものと解されるが、契約締結前における説明義務違反は、契約の成否にかかわらず、いわゆる契約締結上の過失の一態様として、売主に債務不履行責任を発生させるものと解するのが相当であり、右の債務不履行責任は、実際に行われた説明を信じたことによる買主の損害の賠償を義務付けるものというべきである。

(2)マンション内の防火設備(最判平成17・9・16)

【事案】
宅地建物取引業者であるY2社は、Y1社(Y2はY1の100%子会社)から販売代理業務の委託を受け、Aに対してマンションの専有部分を売却する売買契約を締結した。本件専有部分には中央付近に防火扉が設置されていたが、その電源スイッチが一見してそれとはわかりにくい場所に設置され、電源が切られた状態で専有部分の引渡しがされた。Aは妻Xとともに居住していたが、専有部分内で発生した火災により死亡した。

Y2は、Aらの入居時までに、Aらに重要事項説明書や図面等を交付したが、本件防火扉の電源スイッチの位置や操作方法、火災発生時の作動の仕組み等を説明しなかった。
XはY1に対しては瑕疵担保責任に基づき、Y2に対しては説明義務違反があったとして不法行為に基づき、損害賠償を請求した。
裁判所は、Y1及びY2の説明義務違反を認め、不法行為に基づく損害賠償義務を負うものであると判示した。

【判旨】
本件防火扉は、火事が発生した際の防火設備の一つとして極めて重要な役割を果たし得るものであることが明らかであるところ、被上告人Y1から委託を受けて本件売買契約の終結手続きをした被上告人Y2は、本件防火扉の電源スイッチが、一見してそれとはわかりにくい場所に設置されていたにも関わらず、A又はXに対して何ら説明せず、Aは防火設備の電源スイッチが切られた状態で802号室の引渡しを受け、そのままの状態で居住を開始したため、本件防火扉は、本件火災時に作動しなかったというものである。

また、記録によれば、Y2はY1による各種不動産の販売等に関する代理業務等を行うために、Y1の全額出資の下に設立された会社であり、Y1から委託を受け、その販売する不動産について、宅地建物取引業者として取引仲介業務を行うだけでなく、Y1に代わり、またはY1と共に、購入希望者に対する勧誘、説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務を行っていること、Y2は、802号室についても、売主であるY1から委託を受け、本件売買契約の締結手続きをしたにとどまらず、Aに対する引渡しを含めた一切の販売に関する事務を行ったこと、Aは、このようなY2の実績や専門性を信頼し、Y2から説明等を受けた上で802号室を購入したことがうかがわれる。

上記の事実関係を考慮すると、Y1には、Aに対し、少なくとも、本件売買契約条の付随義務として、上記電源スイッチの位置、操作方法等について説明すべき義務があったと解されるところ、上記の事実関係が認められるものとすれば、宅地建物取引業者であるY2はその業務において密接な関係にあるY1から委託を受け、Y1と一体となって本件売買契約の締結手続きのほか、802号室の販売に関し、Aに対する引渡しを含めた一切の事務を行い、AにおいてもY2を上記販売にかかる事務を行うものとして信頼した上で、本件売買契約を締結して802号室の引渡しを受けたこととなるのであるから、このような事情のもとにおいては、Y2には信義則上、Y1の上記義務と同様の義務があったと解すべきでありその義務違反によりAが損害を被った場合には、Y2はAに対し、不法行為による損害賠償義務を負うものというべきである。

3. 結論

以上、マンションの設備の説明義務が問題になったケースとして、駐車場、及び防火設備にまつわる判例を見てきました。

まず、契約締結交渉の段階で、買主側が売主側(分譲業者)に対し、対象となる設備(駐車場など)の有無を尋ねていたなど、当該設備があるからこそマンションを購入したという趣旨が売主(分譲業者)側に伝えられていた場合には、買主は売主(分譲業者)に対して、説明義務違反として損害賠償請求をすることが出来ます。

また、防火設備のようにマンション設備として重要な役割を果たすべきものについては、その設備が売買契約書上に直接内容として記載されていない場合であっても、売主側には買主に対する説明義務が課されるものであり、売主側がその義務に違反した場合には、買主に対し損害賠償義務を負うことになるのです。

2019.05.06

知っていれば役に立つ!経費のこと5 ―食べ歩きは経費になる?―

業務には直接関係ないけれど「経費」にしたいもの、自己負担でもいいけれど、金額も大きいし、できることなら「経費」にしたいもの、ありますよね。
もちろん、業務と関係ないお金は、その事業のための経費ではありませんので、経費化できる訳はありません。
あくまで、業務との関連性について説明ができないと、経費化はできませんのでそこは悪しからず。

1.業務に関係のない本や雑誌を読んでいます

業務を行っていくなかで様々な情報を集めるために、専門書や経済新聞など、仕事に直接つながるような本や新聞を読むことがありますよね。けれど、専門的な文書ばかり読んでいても、偏った情報が集まりやすいため、たまには仕事とは全く関係のない分野の本や雑誌を読むこともあると思います。

そんなとき仕事の分野とは関係ない、一般的な本や雑誌などを購入するために使った費用は経費になるのでしょうか?

答えは、「なる」です。仕事に関係のない本や雑誌を読んだって、役に立ちそうな情報は得られないでしょ!と思ってしまいそうですが、関係のない内容だからこそ、得られるものがあるのです。

もちろん、専門分野の本を読むことで知識が深まったり、新しいことを知ったりすることもたくさんありますが、それでは視野が狭くなってしまいます。
そこで、いつもとは違った分野の本や雑誌を読むことで、新しいアイデアを思いついたり、今まで疑問に思っていたことが解決したりすることがあるのです。

これら本や雑誌の購入費は、「新聞図書費」として「経費」にできるのですが、条件として「従業員なら誰でも、いつでも読めるようにしておく」ことが必要となります。

もちろん、マンガを買って経費にするとなれば、そのマンガを購入することがどのように業務上必要なのか説明が付かないといけませんので、なかなか難しいと思われます。
ご自身のビジネスとの兼ね合いで、どのような書籍なら業務上の必要性ありと説明できそうか考えてみてください。

2.食べ歩きをしています

飲食店を経営しています。フレンチのお店なのですが、今度新しいメニューを開発するにあたってヒントを得るために、和食やイタリアン、中華など様々なジャンルのお店で食べ歩きをしています。

さて、こんな場合、食べ歩きに使った費用は「経費」になるのでしょうか?
経営しているのはフレンチのお店ですが、1でお話ししたように、自分とは異なった分野に触れることで、新しいアイデアを思いつくこともあります。そのため、この場合は「研究開発費」や「研修費」、「調査費」として「経費」にすることができます。

しかし、ただ食事をしただけと思われないように、お店で食べた料理の分析や、新しいメニューの案をレポートとして残しておくことが必要となります。
細かくレポートを作成することが難しい場合は、実際に行ったお店でパンフレットなどをもらい、そこに味や、何か参考になったことなど、メモを残しておきましょう。

つまり、書籍の箇所でご説明した通り、使ったお金がどのように業務上必要となるのかの説明ができなくてはならないということです。税務調査を受けた際、「なるほど、そういうことであれば確かに必要な経費ですね。」と調査官に思わせられるかがカギとなります。

3.結婚式を挙げます!

結婚式を挙げることになりました。招待しているのは取引先の方々ばかりです。この場合、結婚式にかかる費用は「経費」にすることができるのでしょうか?

招待しているのが取引先ばかりの場合、仕事の延長のようなものなので、「経費」にしたいところですよね。しかし、結婚式は個人的なものになるので、「経費」にすることができないのです。
もし、結婚式をビジネスにしているのならば「経費」にすることが可能なのですが、該当する人はなかなかいないため、ほとんどの場合は自己負担で式を行うことになります。

では、取引先の結婚式に招待されたときのご祝儀はどうでしょうか?
これは、「経費」にすることができます。1年に数回など、頻度が少ない場合であれば、自己負担だとしてもそこまで金額は大きくならないですが、取引先が多かったり、これから増えていったりすると式の頻度も増え、自己負担が厳しくなってきますよね。

そのため、ご祝儀に関しては「接待交際費」として「経費」にすることができます。
ただし、誰の結婚式に参列したのか、どのような立場で招待されたのかなど、後で説明しないといけない場面が訪れたときのため、招待状を残しておくことを忘れないようにしてください。

また、会社から自社の従業員に対してご祝儀を支払った場合は、「福利厚生費」として「経費」にすることができますが、社内で規定を作成し、金額に関しては地域相場を意識したものにしましょう。
従業員に対するお祝いなので、他の会社よりも高い金額を払ってあげたいと考えたとしても、税務署は全額を経費と認めてくれないかもしれません。
その場合は、一部が否認されたとしても仕方ありませんので、その腹積もりでご祝儀を払ってあげるようにしてください。

4.まとめ

今回は、ご祝儀や食べ歩きで使った飲食代など、一見「経費」にできないようなお金のことについてお話をしました。直接業務には関係なくても、新しいアイデアのヒントや問題解決につながるものであれば「経費」にすることが可能なので、これを利用して視野を広げ、仕事に役立てていきましょう!

何かお金を使う際は、業務との関連性を意識しながら、経費化できそうかどうか検討しましょう。そして、迷った際は、税理士に相談するようにしましょう。

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