
養育費を一括で受け取れば、未払いや滞納されることを心配せずに済むように思えます。しかし、一括払いには、子どもの成長に伴う想定外の費用を反映しにくい、受け取った金銭を長期間管理しなければならないといった側面もあります。
本記事では、養育費の一括払いを選ぶ前に知っておきたいデメリットと、養育費に関する合意書を作成する際に決めておくべきポイントを弁護士が解説します。
第1章 養育費を一括でもらう主なデメリット
養育費は、子どもの生活費や教育費、医療費などを父母で分担するためのものです。一般的には毎月一定額を支払いますが、父母が合意すれば、将来分をまとめて支払うこともできます。一括払いには未払いを防ぎやすいというメリットがありますが、将来必要となる金額を先に決めることによるデメリットもあります。
1-1 将来、一括金だけでは足りなくなる可能性がある
養育費を一括でもらう場合には、子どもが成長するまでに必要となる費用を、離婚時点でまとめて見積もることになります。
しかし、子どもの進路や健康状態、将来の物価まで正確に予測することはできません。そのため、合意した時点では十分に思えた金額でも、実際には足りなくなる可能性があります。
進学先によって、想定以上の教育費がかかることがある
離婚時には公立学校への進学を想定していても、子どもが成長して私立学校や県外の大学を希望することがあります。また、塾や予備校、留学や資格取得などに費用がかかることもあります。県外へ進学すれば、授業料だけでなく、家賃や生活費なども必要です。
病気やけがにより、予想していなかった費用が生じることがある
子どもが病気やけがをした場合には、治療費や入院費、通院に伴う交通費などが必要になることがあります。また、療育や継続的な通院、特別な教育支援が必要になれば、長期間にわたって費用が生じることもあります。
物価や授業料の上昇によって、一括金の実質的な価値が下がる
一括金を受け取った時より物価が上昇した場合、同じ金額でまかなえる生活費は少なくなります。たとえば、現在の月額5万円と、10年後の月額5万円では、負担できる生活費や教育費が同じとは限りません。
物価上昇の影響は、食費などの生活費だけに限りません。学校の授業料や塾代、教材費などが上昇する可能性もあります。
このように、一括払いでは、子どもの成長に伴う教育費、予想外の医療費、物価上昇などによって、受け取った金額だけでは足りなくなるリスクがあります。
1-2 不足しても、当然に追加請求できるとは限らない
一括金が足りなくなったとしても、相手に請求すれば当然に追加で支払ってもらえるわけではありません。
当初予測できなかった大きな事情の変化が生じた場合には、追加の負担を求める余地があります。ただし、相手が任意に応じなければ、家庭裁判所で調停などの手続を行わなければならないことも考えられます。
特に、離婚合意書に「将来の教育費を含めてすべて支払済みとする」「今後、子どもに関する費用を一切請求しない」といった文言がある場合、相手から追加負担を拒まれ、合意の範囲をめぐって争いになる可能性が高くなります。
そのため、「将来不足したら、そのときに請求すればよい」と安易に考えることはできません。
1-3 受け取った金銭を長期間管理しなければならない
一括で受け取った養育費は、自由に使える余裕資金ではありません。将来の子どもの生活費や教育費を先に受け取ったものです。
たとえば、10年分の養育費を一括で受け取った場合、その金銭を10年間にわたって計画的に管理する必要があります。
日常生活に使う口座へ入れてしまうと、通常の生活費との区別がつきにくくなり、想定より早く使ってしまうことがあります。その結果、子どもの進学時など、まとまった費用が必要になったときに残高が不足してしまうかもしれません。
一括払いを選ぶ場合には、養育費専用の口座を設ける、進学費用として残す金額を決める、毎年使用する金額の目安を立てるなど、受け取った後の管理方法も考えておかなければなりません。
1-4 毎月払いより受取総額が少なくなることがある
一括払いの交渉では、支払う側から「まとめて支払う代わりに総額を減らしてほしい」と提案されることがあります。
たとえば、月額5万円を10年間支払う場合、単純な合計額は600万円です。しかし、一括払いでは500万円や550万円など、毎月払いを続けた場合より少ない金額を提示されることがあります。
この減額幅が大きければ、子どもの将来の生活費や教育費が不足する可能性も高くなります。
そのため、一括金を提示されたときは、まとめて受け取れる金額の大きさだけで判断せず、毎月払いを続けた場合の合計額との差を確認することが重要です。
第2章 養育費の一括払いに合意する前に確認すべきこと
もちろん、養育費の一括払いが、常に不利になるわけではありません。相手に将来の支払能力があるか分からない場合や、すでに未払いの不安がある場合には、支払える時点でまとまった金額を受け取る方がよいこともあります。
ただし、一括払いに合意する場合は、どの費用を含むのか、将来発生する費用をどのように扱うのかまで決めておくことが重要です。
2-1 毎月払いの場合の金額と一括金を比較する
一括金を提示されたら、提示された金額が妥当かを確認しましょう。
はじめに、養育費を毎月払いにした場合の月額の目安を出します。父母双方の収入や子どもの人数・年齢などをもとに、およその金額を見積もりましょう。その月額を支払開始時期から支払終了時期まで受け取った場合の合計額を計算します。
そのうえで、相手から提示された一括金と比較し、毎月払いの場合の合計額とどの程度の差があるのかを確認します。一括金が大きく減額されている場合には、その金額で将来の生活費や教育費をまかなえるかを検討する必要があります。
2-2 一括金に含める費用と、将来協議する費用を分ける
養育費に関する合意書には、一括金がどの期間の、どの費用を対象とするのかを具体的に記載しておくことが重要です。
たとえば、通常の衣食住にかかる費用や、日常的な教材費、通常の通院費などは、一括金に含めることが考えられます。一方、離婚時点では発生するか分からず、金額も予測しにくい高額な学費や留学費用などについては、必要になった時点で別途協議すると定める方法があります。
一括金とは別に協議する費用の例
・県外進学に伴う下宿費用
・留学費用
・長期入院や手術などによる高額な医療費
・療育や特別な教育支援に必要となる費用
単に「養育費として〇万円を一括で支払う」とだけ定めると、将来、進学費用や医療費などが一括金に含まれているのかをめぐって争いになる可能性があります。
また、上記のような将来別途協議する費用を定める場合には、合意書の中に「今後一切請求しない」など、その定めと矛盾する文言が含まれていないかも確認しましょう。
2-3 全額一括以外の支払方法も検討する
養育費の支払方法は、全額を一括で受け取るか、毎月払いにするかの二択だけではありません。
たとえば、次のような方法も考えられます。
一括払いと毎月払いを組み合わせる例
・通常の養育費は毎月払いとし、入学金などだけを先に受け取る
・高校卒業までの養育費を一括で受け取り、大学進学にかかる費用は進路決定後に協議する
相手に現在まとまった資産があっても、子どもがまだ幼い場合には、将来必要となる費用を正確に見通すことはできません。
そのようなときは、一部を先に受け取り、残りは子どもの成長や進路に応じて支払ってもらう方法などもあります。未払いに備えながら、将来の状況にも対応しやすい方法を検討するのがいいでしょう。
第3章 【FAQ】養育費の一括払いに関するよくある質問
Q1. 一括でもらうと贈与税がかかりますか?
A1. 使い方や保管状況によっては、贈与税がかかる可能性があります。
子どもの生活費や教育費として通常必要な金額を、必要な都度受け取り、その用途に直接充てる場合は、原則として贈与税の対象になりません。
ただし、将来分を一括で受け取り、すぐに生活費や教育費として使わずに長期間預貯金として保有する場合などは、税務上の取扱いが問題になる可能性があります。
一括金が高額になる場合は、合意する前に税理士へ確認しておくと安心です。
Q2. 一括払いの後に子どもが支払った側と同居することになった場合はどうなりますか?
A2. 同居後の養育費について調整が必要になることがあります。
子どもが支払った側と同居し、その親が日常の生活費を負担するようになった場合には、養育費の負担状況が大きく変わります。
ただし、同居を始めただけで、受け取った一括金を当然に全額返還しなければならないわけではありません。同居が一時的なものか、今後も継続するのか、一括金がどの期間の養育費に対応するのかなどを踏まえ、今後の養育費負担や一括金の取扱いについて協議が必要になることがあります。話合いがまとまらない場合には、利用すべき手続も含めて弁護士へ確認する必要があります。
Q3. 養育費の一括払いは、児童扶養手当などに影響しますか?
A3. 児童扶養手当の支給額に影響する可能性があります。
児童扶養手当では、受け取った養育費の8割相当額を所得に加えて支給額を判定します。そのため、将来分として受け取った一括金の扱いによっては、児童扶養手当の支給額に影響する可能性があります。
将来分をまとめて受け取った一括金が、児童扶養手当の所得判定上どのように扱われるかは自治体へ確認する必要があります。合意する前に、お住まいの自治体の児童扶養手当担当窓口へ相談しておきましょう。
Q4. 一括払いの後に再婚した場合、養育費の扱いは変わりますか?
A4. 再婚しただけで、一括金を返す必要は原則ありません。
養育費を受け取った側が再婚しても、それだけで受け取り済みの一括金を返還する必要はありません。
ただし、再婚相手と子どもが養子縁組をした場合や、支払った側に新たな扶養家族ができた場合などには、扶養関係や生活状況が変化します。将来の追加費用を請求する場合には、その事情が負担額の判断に影響する可能性があります。
Q5. 子どものために使ったことを示す領収書などの証拠は必要ですか?
A5. 通常は逐一提出する必要はありません。
養育費を受け取った側が、支払った側に対して、食費や衣料費などの領収書を毎月提出しなければならないという一般的なルールはありません。
ただし、合意書で使途の報告や領収書の提出を定めた場合には、その取決めに従う必要があります。また、高額な進学費用や医療費を別途請求する場合には、請求額を裏付けるため、請求書や領収書を保管しておくことが重要です。
税務上も、生活費や教育費として必要な都度、その用途に直接充てた金銭であるかが問題になるため、高額な一括金については、支出記録を残しておくと説明しやすくなります。
第4章 まとめ|一括払いでは合意書の内容が将来を左右する
養育費を一括で受け取れば、まとまった金額を確保できる一方、子どもの進路や物価の変化によって、将来不足する可能性があります。
そのため、合意書では、一括金に含まれる費用を明確にしたうえで、留学費用や高額な医療費などが発生した場合の負担方法も定めておくことが重要です。物価や教育費が大きく上昇した場合に、追加負担について協議する条項を設けることも考えられます。
一方で、合意書に、今後一切養育費を請求しない旨の文言が入っていると、将来の追加請求をめぐって不利になるおそれがあります。特に、相手方が作成した合意書案には、相手方に有利な条件が含まれていることもあるため、そのまま署名しないことが大切です。
Nexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスでは、養育費の一括払いに関する条件の検討や、離婚協議書・公正証書の作成、相手方から提示された合意書のチェックに対応しています。養育費の一括払いを提案されている方は、署名する前にまずはご相談ください。
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