転売に関する法規制
皆さんは、子どものころ、トレーディングカード等で遊んだことはありますか??
私も小学校の頃は、友達とカードゲームにのめりこみ、レアカードや強いカードを手に入れるために、お年玉やお小遣いなどためていたお金をはたいていました。
しかし、成長していくなかで、集めたカードもどこにあるのか分からない状態になりました。
今思えば何であんなにも熱中していたのかと思ってしまうのは、年を取った証でしょうか。
私が子どものころは、欲しいと思ったカードやおもちゃなどは、お店に売ってあり、どこのお店を探しても買えないといったような事態はなかったように思いますが、最近ではいわゆる転売ヤーが登場したことにより、転売ヤーによって大量に商品が買い占められ、本当に遊びたい子どもたちの手に渡らないという事態が続いているようです。
このように転売ヤーなどという表現から転売自体にいい印象をお持ちでない方は少なくないと思いますが、法律で転売についてはどのような規制がされているのでしょうか。
まず、転売という行為事態は何ら違法な行為ではありません。
転売には一般的に、在庫を有した状態(仕入れた状態)で買い手を探す場合と、買い手からの注文が入った時点で、在庫を仕入れる場合(いわゆる「無在庫転売」というそうです。)がありますが、どちらも違法ではありません。
ただ、無在庫転売の場合には、契約が成立し、代金が支払われた後、商品を仕入れることが出来なかった場合には、代金を返還する義務がありますし、はじめから仕入れる意図がないにもかかわらず、買い手から代金を受け取った場合には詐欺罪として刑事罰の対象ともなってしまいます。
このように転売自体は法律上違法な行為ではないですが、中古品を安く仕入れて高く転売することをビジネスとしている場合には、古物商許可を得る必要があり、古物商の許可を得ることなく、刑事罰の対象となってしまうので注意が必要です。(これに対し、新品を転売する場合や仕入れずに自分で使用していたものを売却する場合には古物商許可は不要とされています。)。
また、商品とは若干異なるのですが、コンサート等のチケットに関しては、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(通称:チケット不正転売禁止法といいます。)という法律が、平成30年12月に成立しています(令和元年6月から施行されています。)
この法律では、要件を満たすチケットについて、不正転売(興行主の事前の同意を得ず、反復継続の意思をもって、販売価格を超える価格で転売する行為)を行うこと及び、不正転売を目的としたチケットの譲り受け(購入、仕入れ行為)を禁じており、これに違反した場合には刑事罰の対象となります。
平令和2年には、人気アイドルグループのチケットを不正に転売した者に対し、懲役1年6か月(執行猶予3年)、罰金30万円等の有罪判決がだされています。
なお、この法律では、不正転売されたチケットを購入した人を罰するものではありませんが、不正転売されたチケットを購入した人については興行主側で入場禁止などのペナルティが課せられる可能性があるため、本当に参加したいのであれば、正規(公式)のリセールサイト等から購入するのがよいでしょう。
物品の転売やチケットの転売は、その物を本当に欲しい人やファンの人に物やチケットが行きわたらなくなってしまうので、転売を行う人も節度をもって行ってほしいと思います。

那珂川オフィス 所長/弁護士
後藤 祐太郎
那珂川市のみならず、福岡市南区・春日市・大野城市・筑紫野市・太宰府市・鳥栖市近郊であらゆる法律問題について担当。
博多オフィスへも定期的に来所しています。
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はみ出た木の枝は切ってもいい??
先月の話ですが、息子も幼稚園で、七夕会があったらしく、短冊がついた笹の葉を持って帰ってきました。
短冊には幼稚園の先生が願い事を書いてくれたらしく、「やきゅうがじょうずになりますように」と書いてありました。
去年は、「おいしゃさんになれますように」と書いてあったのですが・・・・来年はなんて書いてあるか楽しみです。
子どもが持って帰ってくる笹の葉はとても小ぶりでかわいらしいのですが、これが、実際に生えている樹木となると、とてもかわいいでは済まないもんだとなってきます。
当事務所にも何度か相談に来られる方もいらっしゃるのですが、隣の家から木の枝等がはみ出てきているのを勝手に切ってもよいのかという問題があります。
この相談の回答ですが、以前までですと、「はみ出ていても他人の所有物なので勝手に切ってはいけません。①まず、撤去してくださいと交渉し、ダメであれば②訴訟を提起して、判決をもらってから③強制執行の申立てをすることで初めて切ることがになります。」というものであり、最終的な解決までに費用や労力がかかってしまうため、諦めるという方も少なくありませんでした。
このように、隣地から樹木等がはみ出ており、迷惑をしているという案件は全国でも多数あり、隣地だけでなく、公道にはみ出ている場合には道路の安全も害されることになってしまい、社会的な問題にもなっていました。
しかし、令和3年4月に民法改正法案において(令和5年4月1日から施行となりました。)、民法233条に新たな条項が追加されました。
それは、土地の所有者は、竹木の所有者に対し枝を切除するよう請求できるということを原則(233条1項)としつつ、一定の場合には、土地の所有者が、竹木の所有者の許可なく、はみ出した枝を切除することができるようになりました(233条3項)。 具体的には、次のいずれかの場合には、土地の所有者が枝を切除することができるようになりました。
②⽵⽊の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
③急迫の事情があるとき
つい先日、道路(市道)にはみ出した枝について、市が樹木の所有者に対し、何度も連絡したが応じてもらえなかったため、市において、道路にはみ出した樹木を切除したというニュースがありましたが市が行った措置の根拠となる法令がこの改正された民法233条3項となります。
このように、民法の改正により、一定の場合には土地の所有者が裁判を起こすことなく、はみ出した枝を切ることができるようになりました(切るために要した費用については、本来であれば樹木の所有者が負担すべき費用であるため、樹木の所有者に請求できると考えられています。)。
もっとも、はみ出していればすぐに切っていいというものではなく、上記①~③のいずれかの場合に該当する必要があります。
後々にトラブルにならないようにするために、弁護士に書面の作成の依頼や、代理人としての対応の依頼など検討された方がいいと思いますので、隣地の樹木などでお困りの方はぜひご相談ください。

那珂川オフィス 所長/弁護士
後藤 祐太郎
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【青少年健全育成条例】夏休みに多発!子どもだけの外出について
子どもたちは夏休みに入りましたね。
夏休みといえば夏祭りがありますね。
私は、福岡に住んで約7年になるのですが、昨年始めて家族で放生会(ほうじょうや)に行きました。
息子は初めての縁日だったのでとてもはしゃいでいました。
途中で買ったチョコバナナを落とし泣いており、他のお菓子で釣ろうとしてもずっと泣いていたので、もう一度チョコバナナを買ってあげると、少し恥ずかしかったのかはにかみながら今度は落とさず食べていました。
今年も行くことを予定していますが、今度は初めから落とさずに食べて欲しいなと思います。
お祭りとなると、夜に活気がで出すイメージがありますが、夜に子どもだけで出歩いていたり、親がついていても夜に子どもを連れまわしたりすることは法的に問題はないのでしょうか。
また、夜といっても何時までなら大丈夫なのでしょうか。
青少年の夜間の外出等について規定してものとして、各都道府県ごとに定められている青少年健全育成条例というものがあります。
この条例では、各都道府県ごとに定めは違いますが、例えば福岡県青少年健全育成条例では、
と規定がされています。
なお、この深夜の定義ですが、各都道府県ごとに異なっているので、気になる方はご自身のお住いになられている都道府県の条例を確認されてみてください。
つまり、保護者は深夜に外出させないよう努める義務(努力義務)にとどまっています。
また、青少年健全育成条例では、深夜に出歩いている子どもを規制対象にしていないため、子どもたちだけで出歩いたとしても条例違反にはなりません。
では、子どもだけで出歩いていいかというとそうではなく、警察官が危険だと判断した場合には、出歩いている子どもを補導することになります。
明確な定めはないですが、警察官の補導も、青少年健全育成条例を基準として、補導を行っているようであるため、夜に子どもたちだけで出歩くのは避けるべきでしょう。
なお、午後11時より前であっても警察官が危険と判断した場合には補導の対象になることがあるため注意が必要です。
また、保護者が同伴している場合であっても、あまりにも遅い時間に子どもと一緒にいる場合には、補導ではなく職務質問などがなされる可能性もあります。
そもそも、あまり遅い時間に出歩くこと自体、お子さんに育成にとってよいことではないため、できるだけ控えた方がいいですね。

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飛行機内での逮捕
最近ニュースで、海外で活動していた特殊詐欺グループの人が逮捕されたニュースをよく見ます。
ここでいきなり質問ですが、犯罪を犯した日本人が海外に逃げていた場合、日本の警察に逮捕される瞬間はどの時点になるでしょうか?
ニュースなどをよく聞いているとわかると思いますが、正解は、海外から日本に向けて飛んでいる飛行機が、日本の領空内に入った時点になります。
逮捕の要件などについては、刑事訴訟法に規定されているのですが、この刑事訴訟法は、日本国内でのみしか適用されないため、日本の警察は犯罪者を海外で逮捕することはできません。
そこで、国際指名手配されている犯罪者や、日本と犯罪人引渡し条約を締結している国が、犯人を確保し、身柄を警察に引き渡し、飛行機で日本の領空内に入った時点で、裁判所から発令された逮捕状を用いて、犯人を逮捕することになります。
少し話は変わりますが、逆に、海外の領空を飛んでいる日本の飛行機内で犯罪が起こった場合には、領空は海外ですが、「航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約」により、その飛行機が所属している国の法律が適用されることになるため、日本の法律(刑法)が適用されることになります。
上記の犯罪者を海外から日本へ運ぶのは、通常の乗客が乗る飛行機になります。
飛行機の機長が「日本の領空内に入りました」というアナウンスを行った場合には、逮捕をすぐに行うために知らせるアナウンスであるため、犯罪者が同じ飛行機に乗っているかもしれないという噂がありますが、私が学生時代に何回か海外に行った際に、必ずこのアナウンスがながれていたため、都市伝説である可能性が高いでしょう。

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ギックリ腰にご注意を!!
皆さんは、ギックリ腰になられたことはありますか?
私は、高校時代柔道をしていたことや、仕事がほとんどデスクワークのため、慢性的に腰が痛いです。
疲れなどがたまっているときに、変な姿勢になった際、グキッっとやられてしまうことがたまにあります。(運動しないと・・・)
厚生労働省の発表では、業務上の疾病(ケガや病気)で一番多いのが腰痛とされています。
業種では、建設業、製造業、運送業など重量物等を運ぶ仕事で多く見られています。
このようにギックリ腰などの腰痛については、重量物等を運ぶことが原因で発症することが多いのですが、法律上、持ち運びをすることができる、重量には制限があるのをご存じでしょうか。
労働基準法62条1項及び年少者労働基準規則7条により、満18未満の男女について、重量物を持ち運ぶ際の規制がされています。
内容についての詳細は省略しますが、18歳未満では、男性は20kg未満、女性は15kg未満とされています(断続作業と、継続作業とで制限の重量が異なります。)
また、労働基準法64条の3第1項、第2項及び女性労働基準規則第2条により、18歳以上の女性については、断続的作業の場合には30kg、継続作業の場合には20kgと重量が制限されています。
さらに、18歳以上の男性も、通達により、体重の約40%以下の重量物が限度とされています。
このように、人力で運ぶ重量には法律上の制限があり、使用者(企業)がこの決まりに反して重いものを持たせていた場合には、刑罰の対象などになる可能性だけでなく、安全配慮義務違反として損害賠償の対象にもなるため、注意が必要です(あくまでも人力で運ぶ場合の規制であり、フォークリフト等の機械を使用する場合には上記の規制の対象にはなりません。)。
今、この記事を作成している間も、少し腰が痛いですが、健康的な生活を送り、しっかり働くためにも自分の体も少し労わってあげないといけないなと思いました。

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タクシーでのトラブルについて
新年明けましておめでとうございます。
昨年は、息子が仮面ライダーにドはまりして、変身ベルトを購入したり、遊園地へショーを見に行ったりと仮面ライダー一色の1年だった気がします(今1歳の娘がもう少ししたらプリキュアとかにはまりだしたら仮面ライダーとプリキュアに忙殺されるのかと思うと少し怖いです。)。
話は全然変わってしまいますが、皆さんは忘年会や新年会に行かれましたか?
そういった席ではお酒を飲まれる方多いため、会が終わり帰宅される際にはタクシーを利用される方が多いのではないでしょうか。
今回は、タクシーでのトラブルについてお話ししようと思います。
まず、SNSなどでよく話題になるのが、乗客が1万円札しか持っていない場合に運転手から文句を言われたり、コンビニで崩してくるように言われたというような釣銭トラブルがあります。
民法402条1項では、
「債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済をすることができる。ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。」
と規定されています。
つまり、タクシーの料金を支払う場合(金銭債権の支払い)については、債務者(乗客)が、支払う通貨を任意に選択し支払うことができます。
例えば、乗客が支払う通貨を1万円と選択した場合には、有効な支払いとなるので、タクシー側は支払いを受ける必要があります。
したがって、法律の観点からは、乗客は1万円札で支払っても何ら問題はなくお釣りをタクシー側が準備しておく必要があると思います。
また、タクシー側が1万円札での支払いを拒否した場合には、法律上有効な弁済の提供がなされているため、お釣りが出せないなら乗客が1万円を渡せないとすることに問題はありません。
次に、お客がクレジットカードやキャッシュレス支払いを希望している場合に、タクシー側が拒否をすることができるかという問題ですが、あくま債務者(乗客)は金銭の支払いを行う義務を有しているので、クレジットカード等の利用については、債権者(タクシー側)が承諾して初めて有効になります。
したがって、タクシー側がクレジットカードやキャッシュレスを使えないと拒否した場合には、乗客は現金で代金を支払う義務を有していることになります。
タクシーは気軽に使える移動手段としてとても便利ですが、密室でのやり取りになるため、トラブルに巻き込まれる可能性があります。
トラブルを避けるため、法律上の結論はさておき、スムーズに支払いができるよう準備はしておいた方がいいかなと思います。

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ネットショッピングの配送トラブル
皆さんはネットショッピングを利用されていますか?
近年は11月末から「ブラックフライデー」と称して、どのオンラインモールでもセールを行っており、私の家族も例年セールだから、何か買わなくてはという焦りからか、ついつい買いすぎてしまいます。
先日、ニュースでこのブラックフライデーの期間中に、「注文した商品が届かない」「指定の日時に届いていない」「お店側から一方的にキャンセルされてしまう」などのトラブルが多発しているということが報じられました(このようなトラブルを「宅配クライシス」と呼ぶそうです。)。
コロナウイルスの影響でネットショッピングを利用する方が増えたところに、セールを行ったため利用者が非常に増えてしまったことが原因のようです。
ニュースでは、子どもの誕生日に間に合うようにプレゼントを注文したが、届かなかったというトラブルが紹介されていました。
ネットショッピングではなく、店頭に行き商品を購入し配送指定を行う場合、その時点で契約が成立します。
一般的には店側には指定した期日に商品を届ける義務(債務)を負うことになります。
したがって、指定した期日に商品を届けることができずに、顧客に損害が生じた場合には、お店には損害を賠償する義務が発生することになります。
一方ネットショッピングの場合、気を付けなければならないのが、購入者がサイトで購入のボタンを押した時点では契約は成立していないという点です。
契約が成立するためには、顧客がこの商品を欲しいという意思を表示し(法律上「申し込み」といいます。)これに対し、売主が応じた場合(「承諾」といいます。)に初めて契約が成立するのですが、通常のオンラインモールの利用規約を見ると、店側からの発注メールが送られた時点で契約が成立するとなっています。
すなわち、顧客の購入ボタンを押す行為は、単に「申し込み」を行っただけの状態であり、お店側が発注メールを送信して、はじめて承諾がなされ契約が成立するということになります。
したがって、上記のトラブルのように一方的にキャンセルされたというトラブルも、厳密には申し込みに対し承諾を行っていないというだけであるため、契約が成立していないことになり、顧客側は店側に何らの請求ができないことになってしまいます。
このように、ネットショッピングは、本当に手軽に商品を購入できるメリットがありますが、こうした配送のトラブルが生じてしまうリスクがあります。
どうしても必要な商品などが実際に店舗にいって直接購入するなど、ネットショッピングのみに依存することなく、うまく活用していく必要がありそうです。

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労働者と通勤災害
労働者の方は全員、公共交通機関、徒歩、自転車、バイク、又は車に乗って仕事場まで通勤しているかと思います。通勤災害とは、労働者が通勤中に被った負傷、疾病、障害又は死亡のことを言います。
では、どのような場合を通勤途中と指すのか、通勤の定義や通勤災害となるパターンについて見ていきましょう。
1.通勤の定義(労働者災害補償保険法第七条)
労働者災害補償保険法第7条において、「通勤」とは、労働者が就業に関し、次に掲げる移動を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとすると定められています。
そして、「次に掲げる移動」として、以下の3つが定められています。
① 住居と就業の場所との間の往復
② 厚生労働省令で定める(※)就業の場所から他の就業の場所への移動
③ 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
※厚生労働省令で定める就業の場所とは、労災保険適用事業場に係る就業の場所、特別加入者(個人タクシー業者等を除く。)に係る就業の場所等のことです。
次からは、この「通勤」の要件を詳しく説明していくことにします。
2.通勤の要件
(1)「就業に関し」とは
通勤とされるには、移動行為が業務に就くため、又は業務を終了したことにより行われるものであることが必要です。
したがって、被災当日に就業することとなっていたこと、又は現実に就業していたことが必要となります。
(2)「住居」とは
「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。
したがって、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、そこから通勤している場合には、そこが住居となります。
さらに、通常は家族のいる所から出勤するが、別にアパートを借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、家族の住居に加え、アパートの双方が住居と認められます。
(3)「就業の場所」とは
「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所を指します。一般的には、会社や工場等の本来の業務を行う場所をいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の勤務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。
(4)「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」とは
転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが、その往復距離(片道60km以上等)を考慮して困難となったため住居を移転して労働者であって、一定のやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している配偶者と別居することになった者の住居間の移動のことをいいます。
(5)「合理的な経路」とは
「合理的な経路」とは、住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。最短経路のことではありませんので注意してください。
合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。
また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が月極の駐車場などを経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。
しかし、特段の合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。
また、合理的な方法には、鉄道・バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車・自転車等を本来の用法に従って使用する場合、 徒歩の場合などが当てはまります。
(6)「移動の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは
逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤とは関係ない行為を行うことを言います。ただし、逸脱や中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合は、当該又は中断の間を除き通勤途中としてみなされます。 (タバコやジュースの購入、公園での小休息、お手洗いなどがその例です)
通勤途中として認められた点が下記の通りとなります。
日用品を購入する
帰途に惣菜等を購入する
独身者が食事のため食堂に立ち寄る
クリーニング店に立ち寄る
選挙で投票する
医療機関などへ通院する
要介護状態にある家族を介護する(ただし、介護を継続的に又は反復している場合に限る)
3.通勤災害の際の対応方法
万が一、通勤災害が発生した場合は、会社は速やかに下記の手続きを行いましょう。
・公共交通機関の場合
社員が診療を受けた病院に、通勤災害用の書類(「療養給付たる療養の給付請求書」)を提出します。
裏面に、通勤経路や時間等を細かく記載する欄があるので、自宅から最寄り駅までの交通手段や所要時間、乗り換え方法など、会社に到達するまでのすべてを記載します。
・マイカー通勤時の事故の場合
マイカー通勤をしている社員が通勤時に事故にあった場合、前提として、労災保険で処理するか自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責)で処理するかを判断し、選択する必要があります。
どちらを選ぶかは会社の担当者が自由に決定できます。あとは担当者が社員に代わって保険会社に連絡を取り、保険会社から求められる書類を作成することになります。
なお、マイカー通勤による交通事故で第三者と接触事故を起こした場合、従業員の治療費などは、相手(加害者)の自賠責を使って損害賠償をしてもらうことが一般的です。
4.まとめ
通勤災害が発生した場合、それが本当に通勤災害となるのか、会社の担当者の確認作業が大事です。特に今日では、通勤災害の範囲は拡大傾向にあります。
実際に事故が生じた場合、担当者が「基準を知らなかった」、「判断を間違えた」という事態にならないよう、最新の情報に気を配っておきましょう。
国際結婚後の配偶者ビザ、名字、戸籍などについて
国際結婚をした場合、日本人同士の結婚と比較して様々な手続きが必要となります。また、戸籍、名字などについての取り扱いも日本人同士の結婚の場合と異なります。
今回は、国際結婚後の、配偶者ビザ、名字、戸籍などについてご説明致します。
1.日本人配偶者のビザの内容とは?
国際結婚をした場合、外国人配偶者は在留資格「日本人の配偶者等」を取得するのが一般的です。在留資格「日本人の配偶者《等》」とは、「等」という言葉が表す通り、配偶者だけでなく、子や特別養子も対象となっています。
<日本人の配偶者>
この場合の「配偶者」とは、現に法的に婚姻中の夫婦の一方の者をいうため、内縁関係、離婚や死別をしている場合は含みません。
また、有効に婚姻している者であっても、同居、相互扶助、社会的通念上の夫婦の共同生活の実体がない場合には、在留資格は認められません。
これは、在留資格目的での偽装結婚を防止するための措置となります。したがって、入国管理局では、夫婦の実体を証明出来るだけの資料と説明を申請者に求めています。
<日本人の子として出生した者>
日本人の子供であればいいので、婚姻をしていない日本人との間に生まれた子でも、認知さされていれば「日本人の配偶者等」として在留資格を取得することができます。
<日本人の特別養子>
特別養子縁組が認められるには、6歳未満で、実父母と身分関係が法的に消滅する要件を満たしており、家庭裁判所で定められた手続きを経る必要があります。
普通養子縁組では、実父母との法的関係が切れないため、日本人の配偶者等在留資格を取得することは出来ません。
2.日本人配偶者ビザ申請で同居って必要なの?
上記1で説明したとおり、日本人配偶者として在留資格を取得するためには、同居、相互扶助、社会的通念上の夫婦の共同生活の実体が必要となるため、夫婦の同居が実務上重要視されています。
新規での申請、ビザ更新時に同居の実態が無い夫婦は、細心の注意を払い入局管理局へ文書で説明する必要があります。入局管理局は夫婦の同居を当たり前のように押し付けてくる傾向がありますが、それは、偽装結婚で配偶者ビザを取ろうとする人が多いからです。
愛のない男女が同居するのは苦痛のはずなので、偽装結婚によるビザ取得の犯罪を防ぐために夫婦の同居が実務上重要視されているのです。
3.国際結婚をしたら名字はどうなるの?
日本人同士が結婚した場合は、戸籍が一緒になるため名字は夫婦のどちらか一方の名字に統一され、夫婦は同じ名字を使うことになります。日本では、女性が男性側の名字に変更するのが一般的です。
では、国際結婚をした場合はどうなるのでしょうか。
日本人女性が外国人男性と国際結婚をした場合、外国人には戸籍がないため、日本人女性は結婚前の本名の名字を使い続けることになります。
つまり、結婚しても名字は変わらず、夫とは名字が別々になります。しかし、結婚して「名字を統一したい」と思った場合は、結婚から6か月以内に本籍地又は所在地のいずれかの市区町村役場に「外国人配偶者の氏への氏変更届」を提出することにより、日本人は外国人配偶者の名字を使うことができます。
但し、婚姻の日から6か月を超えているときは、家庭裁判所に申立てをする必要があるため、注意が必要です。
以上の手続きを経て、戸籍の名前の名字が変わります。そして、子供が生まれた場合でも、親と同じ名字にすることができます。
では、離婚してしまった場合はどうなるのでしょうか。離婚した場合、自然と元の名字に戻るのではなく、3か月以内に「氏変更届」を提出する必要があります。
また、外国人女性が名字を日本人男性の名字にしたい場合は、「通称名」の登録申請をすればできます。
これは、あくまで「通称名」としての位置づけなので、外国人の本名自体は変わりません。
また、一度「通称名」を登録すると、変更が認められるのは離婚して通称名を廃止するとき、及び再婚時に姓を変更するときのみとなるため、注意が必要です。
4.国際結婚をしたら戸籍はどうなるの?
日本人と外国人が国際結婚をした場合、戸籍はどのように記載されるのでしょうか。
日本人には戸籍がありますが、外国人には当然戸籍がありません。
結婚前(つまり未婚の日本人)は、両親の戸籍に入っています。日本人同士で結婚した場合は、2人が一緒に入っている戸籍が作られますが、国際結婚の場合は両親の戸籍から抜けて、日本人配偶者一人の戸籍ができることになります。
外国人配偶者は戸籍がありませんが、日本人配偶者の戸籍謄本の身分事項欄に外国人配偶者の氏名や国籍が記載されることになり、これで婚姻しているという状態が分かります。
しかし、あくまでも外国人配偶者には戸籍謄本はありません。(ちなみに住民票は外国人にもありますので、日本人と同じように取得することができます。)
5.おわりに
以上のように、日本人同士の結婚と国際結婚では大きな違いがあります。
戸籍については日本人同士の結婚と国際結婚では記載事項が異なりますし、名字についてもたとえ夫婦の片方が日本人で、日本に住むからと言っても国際結婚であれば当然に同じ名字になるわけでもありません。
諸々の手続きで困ったときは、専門家に相談しましょう。
【離婚問題】保護命令・接近禁止令について
配偶者や事実婚のパートナーなどの親密な関係にある相手から、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害を受け、解決策が分からずに悩まれている方は多くいらっしゃると思います。
今回はその様な方々のために、法的なDVへの対応策のひとつである「保護命令」についてご説明したいと思います。
1.保護命令とは
保護命令とは、被害者の生命または身体に危害を加えられることを防ぐために裁判所が発する命令のことです。
具体的な命令の内容としては、被害者、被害者の子供、被害者の親族等への付きまといの禁止、被害者と一緒に生活している場合は期間を限定して本住居からの退去等を命じるという内容になります。
DVの被害者が裁判所に申し立てることで、裁判所から加害者に対し命令が発せられることになり、命令に違反した加害者に対しては刑罰が科せられます。
2.保護命令の要件は?
では、DVの被害を受けたと被害者が申立てれば必ず裁判所は保護命令を発するのでしょうか?
裁判所が保護命令を発するには5つの要件を満たしている必要があります。5つの要件は『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下、「DV防止法」と言います。)』において定められており、具体的な内容は以下の通りとなります。
<保護命令の要件>
①申立人が「被害者」であること(DV防止法第10条1項)
②配偶者からの身体に対する暴力を受けた被害者の場合は、配偶者からのさらなる身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと(DV防止法第10条1項)
③被害者からの申立てであること(DV防止法第10条1項)
④支援センター又は警察(生活安全課)の職員に援助若しくは保護を求めて相談した事実があること(DV防止法第12条1項5号)
⑤ ④の事実がない場合は、DV防止法第12条1項の1号から4号に係る事項について被害者の供述書面を作成し、公証人に認証を受けたものを申立書に添付すること(DV防止法第12条2項)
⑤において定められている、DV防止法12条1項1号から4号は次のようになります。
<DV防止法第12条1項>
1号
配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた状況
2号
配偶者からの更なる身体に対する暴力又は配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後の配偶者から受ける身体に対する暴力により、生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立ての時における事情
3号
第10条第3項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情
4号
第10条第4項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情
3.保護命令の内容
裁判所が発する保護命令とは具体的にどの様な内容が含まれているのでしょうか?以下に保護命令の具体的な内容を説明致します。
(1)被害者への接近禁止命令
命令の効力が生じた日から6か月間、被害者の住居(当該配偶者とともに生活している住居を除く)その他の場所でのつきまといや、被害者の住居、勤務先その他通常所在する場所付近の徘徊を禁止します。
(2)未成年の子への接近禁止命令
加害者である配偶者が被害者の子を連れ去ってしまうと、被害者がその子の監護のために自ら配偶者に会いに行かなくてはならなくなる等の事態が考えられます。
そのような場合、被害者に対する接近禁止令が発せられていても、結局、被害者が配偶者との接近を余儀なくされ、さらなる暴力を加えられてしまう危険が生じます。
そこで、被害者への接近禁止命令の実効性を確保するために、子への接近禁止命令の発令も可能となっています。
(3)被害者親族等への接近禁止命令
被害者への接近禁止令が発令されていても、加害者が被害者の親族等の住居に押しかけた場合に、被害者がその行為をやめさせるために、自ら配偶者と接触せざるを得なくなる可能性があります。
そこで、被害者への接近禁止令の実効性を確保するため、親族等についても接近禁止令の発令が可能となりました。
(4)退去命令
被害者と配偶者が共に生活の本拠としている住居から、配偶者を2か月間退去させて被害者を保護する命令です。退去命令は、被害者の身辺整理や転居先の確保等の準備のために設けられています。
(5)電話等禁止命令
被害者に対する面会要求、電話等を禁止する命令です。被害者等への接近禁止命令が発令されていた場合でも、加害者である配偶者が被害者に電話やメール等で連絡を続けると被害者は恐怖心を募らせ、配偶者のもとに戻らざるを得なくなったり、要求に応じて接触をせざるを得なくなったりして、生命、身体への危険が高まります。
そこで、接近禁止命令の実効性を確保するために一定の電話等の禁止を命ずることができるようになりました。
4.おわりに
今回は保護命令についてご説明致しましたが、実際にDVで悩んでいる方にとって有効な手続であることをご理解いただけましたでしょうか?
DVの被害にあわれている方は、ご自身の身体、生命を守るためにも一日でも早く保護命令の手続きを検討していただきたいと思います。また、保護命令の発令に必要となる要件の立証など手続きが難しいため、専門家に相談することをお勧めいたします。