弁護士コラム

2019.03.28

マイナンバーと特定個人情報に関する安全管理体制

平成28年1月から、社会保障、税、災害対策の3分野で行政機関などに提出する書類にマイナンバーの記載が必要になりました。

マイナンバー制度において、多くの方が懸念しているのは「個人情報の漏えい」です。
マイナンバーを取り扱う側である事業者は、外部への漏えい・紛失を絶対防がなくてはなりません。
仮にマイナンバーの情報を漏えい・紛失してしまった場合は社会的信用を失うことにもつながります。そのため安全管理対策の徹底化は急務です。

事業者は、①組織的安全管理措置(組織的に管理する)②人的安全管理措置(人的に管理する)③物理的安全管理措置(物理的に管理する)④技術的安全管理措置(技術的に管理する)の4つの安全管理対策(措置)を講じる必要があります。
前者2つがソフト面、後者2つはハード面の対応と言えますが、今回はソフト面の安全管理対策について検討してみましょう。

1.組織的安全管理措置~組織体制、取扱規定

最初にすべきは、事務における責任者を決めることです。
そのあとに事務を行う担当者を決めて、担当者の役割と取り扱うマイナンバーや「特定個人情報(マイナンバーを含む氏名、生年月日、住所等の個人情報)」の範囲を明らかにします。

事業者はマイナンバーや特定個人情報を安全に取り扱うためのルールである取扱規定等を作成したら、これに基づく運用状況を確認するため、システムログや利用実績を記録する必要があります。
例えば、マイナンバーや特定個人情報に関して、以下のような行為を記録することが考えられます。

・ファイルの利用や出力の記録
・書類や媒体等の持ち出しの記録
・ファイルの廃棄や削除の記録
・情報システムのログインやアクセスログなどの記録

そして、もし担当者が取扱規定等に違反したり、情報漏えいなどがあったりした場合に責任者へ報告するための仕組みを整えます。
複数の部署で取り扱う場合における各部署の任務も明確にしましょう。

2.組織的安全管理措置~取扱状況の把握、情報漏えいなどへの対応

事業者は、マイナンバーや特定個人情報を記録したファイルの取扱状況を確認するための手段を整備する必要があります。
例えば、管理簿を作成し、「ファイルの種類」「名称」「責任者」「取扱部署」「利用目的」「作成日」「廃棄日」「廃棄や削除の状況」「アクセス権を有する者」などを記録する等です。
なお、取扱状況を確認するための記録などには、マイナンバーを記載しないようにしてください。

情報漏えいなどがあったり、その兆候を把握したりした場合に、適切に、且つスムーズに対応する仕組みを整える必要があります。
また、情報漏えいに伴う二次被害の防止などの観点から、再発防止策を早急に公表することが重要です。例えば以下のような対応を行うことを定めておくなどです。

・事実関係の調査及び原因の究明
・影響を受ける可能性のある本人への連絡
・特定個人情報保護委員会及び主務大臣などへの報告
・再発防止策の検討及び決定
・事実関係及び再発防止策などの公表

事業者はマイナンバーや特定個人情報の取扱状況の確認を定期的に行う必要があります。整備した対策は定期的に見直し、必要があれば改善しなければなりません。

3.人的安全管理措置

事業者は、マイナンバーの事務を行う担当者に対し、適切な教育を実施することが求められます。
マイナンバーの取り扱いの留意事項や、新たな制度などに関する研修を定期的に行うなど、常に教育をすることが重要です。

また事業者は、マイナンバーの事務担当者に対し、適切な監督を行うことが必要です。
マイナンバーや特定個人情報について、「秘密保持に関する事項」を就業規則や雇用契約書に盛り込むことなどで、担当者を監督できる体制を構築する必要があります。

4.中小規模事業者の対応

中小規模事業者でも、責任者と担当者を区別することで組織的に管理することが望ましいとされています。情報漏えいなどがあった場合に備え、従業者から責任者へ報告する仕組みを確認し、責任ある立場の者が定期的な点検を実施しましょう。

中小規模事業者の実務担当者には、取扱規定等に基づく運用状況の確認において、取扱状況がきちんと分かるように記録を保存することが求められます。
その方法として、管理簿や業務日誌などにマイナンバーや業務日誌などにマイナンバーなどの入手や廃棄、本人への交付などを記載したり、事務を行う際に利用したチェックリストを保存したりするなどが考えられます。
マイナンバーや特定個人情報の取扱状況の把握においても、同様の記録・保存が必要です。

5.まとめ

マイナンバーの安全管理体制においては、組織的に管理し、情報漏えいを防いでいくことが重要です。
中小規模事業者にも、マイナンバーの事務を行う実務担当者に対し、適切な教育や監督が求められます。
教育や監督の一環として、定期的に外部の専門家による研修等を活用するのも有効です。

2019.03.27

【不動産】区分所有建物の管理(前編)

区分所有建物の管理について、前後編の2回に分けて見ていきましょう。
前編では、主に管理組合の成り立ちやその役割について説明していきます。

1 区分所有法と区分所有建物の管理の概要

マンションで共同して生活していくためには、玄関ホールや廊下の清掃、エレベーターの保守点検といった日常的なものから、建物全体の補修といった中長期的な修繕計画に基づく建物の修繕まで、多種多様な管理行為が必要となります。そして、当然にこういった管理を行う役割を担う人が必要となります。

(1)区分所有法上の管理に関わる規定

区分所有法は、区分所有者の共有に属するマンションの共用部分の管理について、建物の保存行為を除き、その決定を、①区分所有者らで構成される管理組合の集会決議、または②規約によるものとして、③管理者(管理組合が法人である場合は、管理組合法人)がこれらの管理組合の決議や規約を執行するものと定めています。

【不動産】区分所有建物の管理(前編)

しかしながら実際のところ、マンションを管理していくためには多くの知識と労力が必要とされるため、専門業者の助力が必要な場合が圧倒的に多くなるため、外部へ委託されているのが一般的です。

次に、管理組合の内部組織について見てみましょう。
区分所有法は、法人化されている管理組合については理事・監事の規定を置いていますが、法人化されていない管理組合についてはこれらの規定を置いていません。
しかしながら実際のところは、法人化されていない管理組合であっても上記のような役職が設置され、管理組合の意思決定が行われることが一般的となっています。

つまり、実際のマンションの管理は、区分所有法に規定のない管理委託契約により外部に委託され、具体的な管理組合の内部組織は規約により構成されていることが多いため、区分所有法のみの理解ではマンション管理に関わる法律関係を理解することはできないということです。
以下に、管理組合、管理規約、理事長(管理者)、理事・監事、管理会社(管理の委託)について順次解説していきます。(管理規約以降の項目は後編にて)

2 管理組合

(1)管理組合の成立

区分所有者は、その個々人の意思にかかわらず、建物等を管理するための団体の一員となり、所有者全員で建物等の管理のための団体を構成し、この団体を「管理組合」といいます。

(2)管理の対象物

管理組合が管理する対象は、どういった物になるのでしょうか?
区分所有法では、区分所有者の共有に属する①共用部分と②建物の敷地及び共用部分以外の付属施設(これらに関する権利を含む)の管理・変更に関する事項は管理組合の集会の決議または規約によるとしており、これらが管理組合による管理の対象物となります。

管理組合による管理の対象物として区分所有法3条に列挙されているのは「建物」「その敷地」「付属施設」であり、上記にある①共用部分②建物の敷地及び共用部分に限定されているわけではありません。
更に、規約では「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理または使用に関する区分所有者相互の事項(法30条)」について定めることができるため、管理の対象物を、規約によって上記①や②以外に拡大することも可能なのです。

なお、専有部分に属する物は、当然ながらその部分の区分所有者自身が管理することが原則ですが、例えば水道管を思い浮かべると分かるように、その枝管・支管が専有部分に属する設備であっても、その本管は共用部分に属しており、配管としては構造上一体となっているため、専有部分・共用部分に関わらず一体的に管理する方が効率的な管理対象もあります。
そういった場合にも、規約によって区分所有者ではなく管理組合がその管理を行うよう定める事が可能となっています。

(3)管理組合の法的性格と権限

1の(1)でも少し触れましたが、区分所有建物の管理組合には、①法人化されている場合と②法人化されていない場合の2つのケースが想定されます。
①法人化されている場合
管理組合そのものが権利・義務の主体となり得る
管理組合法人は、その事務に関して区分所有者らを「代理」するものであり(法47条6項)、管理組合法人の法律行為の効果は最終的には区分所有者に帰属します。

②法人化されていない場合
管理組合の法的性格は、その組織の実態に応じて判断されることとなり、組合内で規約を定めて集会が行われている場合は、その多くが権利能力なき社団と判断されます。
また、①と同様に②の管理組合における管理者も、その職務に対し、あくまでも「区分所有者」を代理するもの(法26条2項)と定められています。

つまり、管理組合が法人化しているか否かに関わらず、区分所有建物の管理に関する法律関係は、その本来的な権利・義務の帰属主体が組合ではなく区分所有者にあるということを理解する必要があるのです。

(4)決議の効力と決議事項

管理組合の決議の効力は、決議当時の組合の構成員のみならず、その特定承継人にも及び、更には建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき賃借人などの占有者にも及びます。
なお、区分所有法が定めている決議事項は表1の通りで、「区分所有者及び議決権の各過半数」で決するべき普通決議事項(法39条)と決議用件が加重された特別決議事項があります。
また、区分所有法に規定されていない事項についても、区分所有法や公序良俗、その他の法律に反しない範囲で、規約で集会の決議事項とすることも可能です(法30条1項)。

【普通決議事項】

1 18条本文 区分所有者の共有に属する共用部分の管理に関する事項
2 21条、18条本文 区分所有者の共有に属する敷地または付属設備の管理に関する事項
3 25条1項 管理者の選任・解任
4 26条4項、47条8項 管理者等に対する訴訟追行権の授権
5 33条1項但書、42条5項、45条4項 法人でない管理組合において管理者がないときの規約、集会議事録、書面決議の書面の保管者の選任
6 39条3項 集会における電磁的方法による議決権の行使
7 41条 集会の議長の選任
8 49条8項、50条4項、25条1項 管理組合法人の理事および監事の選任・解任
9 49条5項 理事が数人ある場合の代表理事の選任または共同代表の定め
10 49条の3 理事の代理人の選任の禁止
11 52条1項本文 管理組合法人の事務
12 55条の3 管理組合法人の清算人の選任
13 57条2項・4項 区分所有者等の共同利益は違反行為の停止等の請求の訴訟提起
14 57条3項・4項、58条4項、59条2項、60条2項 区分所有者等の共同利益は違反行為に関する法57条から60条までの訴訟に関する管理者等への訴訟追行権の授権
15 61条3項 建物の小規模一部滅失の際の復旧

 

【特別決議事項】

1 17条1項 区分所有者の共有に属する共用部分の変更
2 21条、17条1項 区分所有者の共有に属する敷地または付属設備の変更
3 31条1項 規約の設定・変更・廃止
4 47条1項 管理組合の法人化
5 55条1項3号、2項 管理組合法人の解散
6 58条1項・2項 区分所有者等の共同利益は違反行為に対する専有部分の使用禁止請求
7 59条1項・2項 区分所有者の共同利益は違反行為に対する区分所有権等の競売請求
8 60条1項・2項 占有者の共同利益は違反行為に対する引き渡し請求
9 61条5項 建物の大規模一部滅失の際の復旧
10 62条 建物の建て替え

 

(5)決議の限界

管理組合の決議といえども、区分所有法の規定に反することは勿論できません。
区分所有法では、集会の招集・議事の手続について34条以下に規定を置いています。
また、決議の内容についても、決議の内容が公序良俗に反してはならず、かつ区分所有法の規定に反することもできません。

 

後半に続きます。

http://www.nakagawa-lawoffice.jp/blog/business/977/

2019.03.11

事業者に求められるマイナンバーの安全管理

平成27年10月からマイナンバー制度がスタートし、平成28年1月からは、社会保障、税、災害対策の行政手続きでマイナンバーの利用が始まりました。
事業者は、マイナンバー法で定められた事務等のうち、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用します。個人の重要な情報であるマイナンバーに関し、事業者はどのように安全管理を行うべきでしょうか。

1.事業者によるマイナンバーの安全管理の基本的な流れ

事業者がマイナンバーを取り扱う上での安全管理に関しては、特定個人情報保護委員会のガイドライン(事業者編)」で規定されています。
これにより、事業者はマイナンバーを安全に管理し、外部への漏えいや紛失を防ぐために、「どのような事務でマイナンバーを取り扱うか?」「どのようなマイナンバーを取り扱うか?」「誰がマイナンバーを取り扱うか?」についての措置を検討することになっています。

これらを考慮しつつ事業者は、マインバーや特定個人情報を安全に管理するための方針である基本方針と、安全に取り扱うためのルールである取扱規定を策定します。
そして以下の4つの安全管理措置を講じることになります。

・組織的安全管理措置
・人的安全管理措置
・物理的安全管理措置
・技術的安全管理措置

まとめると、事業者のマイナンバーの安全管理の基本的な流れは、①措置の検討 ②基本方針と取扱規定の策定 ③安全管理措置 を講じることとなります。
今回は安全管理措置を講じる前段階として、措置の検討と基本方針・取扱規定の策定についてお話ししますので、しっかり準備を整えていきましょう。

2.マイナンバーの安全管理~措置の検討

マイナンバーを安全に管理し、外部の漏えいや紛失を防ぐ上で、まずは「どのような事務でマイナンバーを取り扱うか?」について明確にしておかなければなりません。
頭書のとおり、事業者はマイナンバー法で定められた事務等のうち、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用します。
税関係の事務としては源泉徴収票や給与支払報告書の作成事務、社会保険関係の事務としては、健康保険・厚生年金保険の届出や給付を受ける事務、雇用保険の届出や給付を受ける事務です。

次に、「どのようなマイナンバーを誰が取り扱うか?」を明確にします。前段で明確にした事務について、取り扱うマイナンバーや特定個人情報の範囲を明確にしていきます。
具体的には、それぞれの事務において書類に記載されるマイナンバーと、それに関連付けて管理される「氏名」「生年月日」といった個人情報を洗い出すことです。
尚、特定個人情報とはマイナンバーを含む個人情報を指します。

マイナンバーにさまざまな情報を関連付けると、万が一情報が漏えいした場合などに被害が大きくなることも予想されますので、必要最小限の情報に限定した方がよいでしょう。
一般的には従業員と扶養家族のマイナンバーと氏名、生年月日となります。

そして措置の検討の最後は、マイナンバーや特定個人情報を「誰が取り扱うか?」です。
事業者は、事業者内でマイナンバーを取り扱う事務を行う担当者を明確にしておく必要があります。
事業者によっては個人名を特定することが困難な場合も想定されます。そのような場合は、例えば総務部人事担当者などとし、担当者が特定できれば構いません。

3.マイナンバーの安全管理~基本方針の策定

事業者はマイナンバーを安全に管理するための基本となる方針「基本方針」を策定します。
作成は任意ですが、会社組織としての方向性をきちんと示す手段として非常に重要だと思われます。尚、基本方針を策定する場合は、以下の項目を盛り込んでください。

・事業者の名称
・関係法令・ガイドラインなどの遵守
・安全管理措置に関する事項
・質問・苦情処理の窓口など

4.マイナンバーの安全管理~取扱規定の策定

マイナンバーや特定個人情報を安全に取り扱うためのルールとして取扱規定等を作成することは事業者の急務と言えます。事務の流れを整理し、具体的な取り扱いを定めます。
例えば、以下のような段階ごとに「誰が」「どのように」取り扱うかを検討し、取扱規定を定めます。

・取得する段階(社員からマイナンバーの報告を受けるなど)
・利用する段階(届書にマイナンバーを記載するなど)
・保存する段階
・提供する段階(届書を役所に提出するなど)
・廃棄・削除する段階

5.まとめ

従業員が100人以下の中小規模事業者については、新たに取扱規定として作成しなくとも、日頃使用している業務マニュアルや業務フロー図、チェックリストなどにマイナンバーや特定個人情報の取り扱いを加えるなどの形で構わないこととされています。

中小規模事業者では、事務で取り扱うマイナンバーや特定個人情報が少なく、取り扱う担当者なども限定的であると考えられるので、事業者の負担が軽くなるよう特例的な方法も認められています。

担当者が変更になった場合等も、責任ある立場の者が確実な引継ぎを確認していれば問題ありません。業務フロー図やチェックリストなどを活用して徹底管理するなどの対応をすすめていただきたいものです。

2019.03.04

区分所有者の権利と義務

前回、区分所有建物について説明する中で、区分所有建物は「専有部分」と「共用部分」に分けられると解説しました。
当然ながら建物は複数の所有者が一緒に使用するものなので、それぞれの部分に応じたルールが定められています。

1.専有部分の利用・処分

一般的に、物の所有者の権利については、「法令の制限内において、自由にその所有者の使用、収益及び処分をする権利を有する(民法206条)」とされています。
ところが区分所有法では、区分所有者の権利として以下のような独自の規定を設けています。

(1) 建物の使用等について

法6条1項「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」

これに違反した場合、一定の要件のもとで、違反行為の停止などの請求(同57条)や専有部分の使用禁止請求(同58条)区分所有権の競売請求(同59条)を受けることもあり得ます。区分所有建物でない建物の所有者が近隣住民に迷惑をかけても、特段の事情のない限り不法行為責任を負うにすぎないことと対比すると、区分所有権者の所有権は大幅に制限されているといえます。

法30条1項「建物又はその敷地若しくは付属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる」

もしマンション等に居住したことがあるならば、下記のような制限が賃貸借契約書に書いてあることを見たことがあるのではないでしょうか?

・室内でのペットの飼育の禁止   ・住居以外の目的での使用の禁止

これが、正に法30条1項にある、建物の使用に関して区分所有法に規定が無く、「規約で定めることができる」事項の典型例です。
専有部分の所有者は、その専有部分(部屋の使用等)を一軒家と同様に自由に使用して良い訳ではありません。規約で定められる事項の範囲として専有部分の使用等に関する事項も一定の範囲で含まれるものと解釈されています。
また、専有部分の使用について規約に違反した場合には、区分所有法6条1項違反となります。

(2) 処分に関する主な制限

民法の所有権と同様に、区分所有権も自由に売却等の処分をすることかできます。
ただし、共用部分との分離処分は認められていないため、専用部分のみを処分した場合、共用部分も専用部分の処分に従うものとされています(法15条1項)。なお、共用分のみを処分した場合、その処分は無効となります(同条2項)。

2.共用部分の使用・処分

(1)共用部分

共用部分は原則として区分所有者の共有に属しますが(法11条1項)、その持分割合は、規約に特段の定めがない限り、原則として各所有者の有する専有部分の床面積の割合に準じています(法14条)。
専有部分の面積については、建物の全部事項証明書(登記簿)を確認すると良いでしょう。

(2) 共用部分の管理・変更

共用部分の共有関係については、民法上の規定が排除され(法12条)、区分所有法独自のルールによって規律されます。
それぞれの条文について、区分所有法と民法を比較していきます。

区分所有法 民法
13条「各共有者は、共用部分をその用方に従って使用することができる。」 249条「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」
17条「共用部分の変更は、区分所有者及び議決権の・・・集会の決議で決する。」
18条「共用部分の管理に関する事項は、・・・集会の決議で決する。」
256条「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。」
30条1項「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」 206条「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」

①民法は「持分に応じた使用」しか認めていないことに対し、区分所有法では「各共有者」が「共用部分」を使用することができるという点が大きく異なっています。
②民法では共有物を「いつでも」分割請求することが認められていますが、区分所有法では、共用部分に関わる部分については「集団決議で」決定することが求められています。
③これは1.の(1)建物の使用等についての説明で触れた条文ですが、専有部分に限らず、共有部分の用法に制限が加えられている例も多く見られます。

(3) 費用の負担

法19条「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する」

例えば、廊下の窓ガラスが割れて修理が必要となった場合の費用負担を考えてみましょう。
廊下は、一般的に共有部分に属します。よって、規約に定めのない限りは、その建物の区分所有者全員がその修理費用を負担しなければなりません。もし特定の区分所有者がこれを支出した時には、他の区分所有者は自分の負担割合に応じて、支出者に立替金の返還をする必要があります。

3.専用使用権

(1)専用使用権とは

法30条1項「建物又はその敷地若しくは付属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる」

さて、この条文は今回何度目かの登場となりますが、「専用使用権」を理解する上では、「規約で定めることができる」という部分に着目します。
ここでいう「規約」では、前述した1専有部分や2共用部分の使用でも触れたように、区分所有法に規定のない項目について定めることができます。

建物の中には、共用部分に属しながら特定の区分所有者しか使用しない(若しくは他の所有者は使用できない)部分が存在します。そういった部分について、特定の区分所有者、又は特定の第三者に対し、排他的に使用する権利を与えることを「専用使用権」というのです。
具体例を挙げて見ていきましょう。

①ベランダ・バルコニー
多くの場合、ベランダやバルコニーは共用部分に属します。しかしながら一方で、世帯ごとに区切られていることが一般的であり、区分所有者が勝手に他の世帯のベランダに立ち入ることを認めるわけにもいきません。よって、多くの規約では、ベランダやバルコニーについては、これに隣接する専有部分の区分所有者に対し専用使用権を認めているのです。

②駐車場
区分所有建物内やその敷地の中に駐車場を設けている場合、特定の区分所有者に専用使用権を認めている例も多いようです。

なお専用使用権については、その条件設定や条件の変更の可否をめぐって紛争化するケースも少なくありません。

4.管理費用の負担

区分所有者は、それぞれが建物の管理費や修繕積立金を負担していることがほとんどですが、これらの費用の支払い義務・金額については、区分所有者らによる集会、又は規約によって定められています(法18条1項、30条1項)。

2019.02.20

労働基準法とは? ~労働契約編~

企業に務める上で遵守されるべき「労働法」や「労働基準法」ですが、そもそも労働基準法とはどんなものなのか、またどのような場合に違反となるのか、今回は事例を踏まえながらご紹介します。

1.労働基準法とは?

そもそも労働法とは何か、労働基準法とは何かをお話した上で進めていきます。

労働法とは、労働者の権利を保護し生存を保障するための法律のことを指します。中でも、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法の3つを、労働法の最も基礎となる法律として、労働3法としています。
労働基準法は憲法27条「労働権」の規定に基づいて1947年に制定されました。
例外もありますが労働者を守るための「最低限」のことを定めた法律にあたります。

ここで何か引っかかったでしょうか。
それは「最低限」という部分ではないでしょうか。

この法律は守ることが当たり前であり、法律の基準を下回ると違法となってしまいます。
労働基準法を下回る労働条件は無効となりますが、その場合無効とされた部分に関して労働基準法の基準が自動的に適用されることとして労働者の保護を図ったのです。

このことを踏まえて、具体的に労働基準法に何が規定されているのか見ていきましょう。
労働基準法では主に以下のことが規定されています。

働く上で事業主にとっても労働者にとっても重要なことばかりです。

今回は労働契約について見ていきましょう。

2.労働契約のルールと記載すべき事項

<契約期間>
労働契約は双方の合意に基づき締結されるものですが、その期間というものに制限があります。無期雇用の場合は問題ないのですが、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほか、3年を超えて締結してはなりません。
ただし、例外というものがあります。専門的な知識・技術・経験が必要とされている業務に就く場合、若しくは満60歳以上の方についての契約は5年まで可能となっています。

また、雇用をする際には、労働条件の明示が義務付けられており、これを明示する書類を労働条件通知書と呼びます。
そして、この通知書の交付により明示すべき事項は決まっています。
このような義務付けられた明示事項を絶対的明示事項と言います。

・労働契約期間
・有期労働契約者の場合は更新する場合の基準
・就業場所、従事すべき業務
・始業、終業時刻、所定労働時間外労働の有無、休憩、休日、休暇
・賃金の決定、計算方法、支払方法、賃金の締切日及び支払日、(※昇給)
・退職に関する事項です。
※なお、昇給に関しては書面の交付は必要ありません。

これに対して、相対的明示事項というものがあります。
これは定めがある場合には明示しなければいけないものですが、絶対的明示事項とは異なり口頭による説明のみでも問題ありません。

・退職手当に関する事項
・賞与、最低賃金に関する事項
・食費、作業用品に関する事項
・安全衛生
・職業訓練
・災害補償、業務外の傷病扶助
・表彰及び制裁
・休職

では、労働条件を明示していなかったことを理由として、会社側に不利な判断がなされた事例を見てみましょう。過去に以下のような労働審判がありました。

3.過去の判例から見るポイント

従業員が、自身の勤める会社とは別の職場への出向命令を受けました。
この命令が従業員の同意なしに行われたことについて、違法であるとして争われた事案です。

この労働審判において、争点は、出向命令の有効性でした。

・出向命令の根拠

裁判所は、本件が、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合」に当たるか否かを検討するに、就業規則において、「従業員に対し業務上の社外勤務をさせることがある」と定めていること、従業員に適用される労働協約において、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当など出向者の処遇に関して出向者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていることからすれば、個別的同意なしに、従業員としての地位を維持しながら、その指揮監督の下に労務を提供することを命ずる本件出向命令を発令することができるというべきであると判断しました。
(最高裁平成11年(受)第805号平成15年4月18日第二小法廷判決・最高裁判所裁判集民事209号495頁参照)

・注意すべきポイント

この裁判の重要なポイントは
①就業規則に出向について定めているか
②労働協約に出向に関する具体的な待遇について定めていたか
③出向元と労働契約関係が存続しているか
➃出向の必要性と人選に関する正当性の有無

など上記の点から判断された事例です。

結果、この出向命令に違法性は無いとして、請求は棄却されました。
労働契約にて就業場所の記載欄に、今後の転籍や出向についての記載があれば裁判自体、十分に防げたかもしれません。
すべてのことを網羅的に記載することは難しいかもしれませんが、こういった穴を1つひとつ埋めていくことが必要になってくるでしょう。

4.まとめ

近年、労働に関するニュースは報道される度に注目されています。
特に問題として多く取り上げられてきたのが、労働時間に関する問題及びそれに付随してくる賃金(残業代)の問題です。
様々な労働問題が発生した際は、労使間にて対等な立場で決定していくことが理想ですが、性質上どうしても使用者側が優位になっていることが現状です。
なるべく労働問題が発生しないように、注意すべきポイントで述べたように雇用契約書や諸規則を度々見直し、改善していくことが大切なのです。

2019.02.20

いまさら聞けない?社会保険の基礎知識!

入社した際に加入する「社会保険」。
社会保険には、様々な種類があるのはご存知でしょうか。社会保険制度について正しい知識を持つことはとても重要なことです。
知っているようで知らない、社会保険について種類や手続きなどをご紹介します。

1.そもそも社会保険とは何だろう

公的な社会保険制度とは、会社などで働く人たちが収入に応じて保険料を出し合い、万が一病気やケガをして医療機関で診療、入院、手術ということになった場合に必要な保険給付を受けることができたり、加齢や障害といた事由が生じた場合に年金給付を受けることができるよう制度化された、国が運営する保険制度のことです。

日々の暮らしの中で、突然の病気やケガ、急な死亡や障害を負ってしまったり、経済的に困ってしまうことがあるかもしれません。
そうした万が一のリスクに備えて、民間の生命保険会社や損害保険会社の医療保険や個人年金等に加入している人たちが数多くいます。ただし、民間の保険は任意加入ですから、すべての人たちが医療保険等によってリスクカバーできているとは限りません。

2.社会保険の趣旨

(1) 社会保険である健康保険・厚生年金は、広く働く人のための保険です。サラリーマンなら皆加入して、生活を保障してもらうことになっています。
(2) 社会保険は、仕事に関連しない私傷病における療養費の給付や、生活保障・老齢による生活保障をするための制度です。なので、業務上の傷病については、適用できないことになっています。
(3) 労働者でない事業主や役員も原則加入となります。つまり、給与所得者は全員加入することになります。

3.社会保険の種類

・会社勤めの人・・・職域保険
・自営業や無職の人・・・地域保険
・公務員など・・・共済保険

上記のすべてを含む総称を社会保険と示すことが多くあるので、内容をしっかり読み取り、どの保険について書かれているのか把握するようにしましょう。
※新聞・雑誌が使う社会保険の定義
・社会保険・労働保険
・国民健康保険・国民年金・後期高齢者保険
・各種共済保険

4.社会保険の給付が適用になる範囲

5.会社(事務)が行う手続き

(1)会社が行う手続きは?

上記、3. 社会保険の種類の中の職域保険は会社そのものが適用対象となります。
①健康保険   ②介護保険(保険料徴収のみ)
③厚生年金保険 ④労働者災害補償保険(労災保険)
⑤雇用保険

(2)社会保険は支店、営業所ごとに加入する

原則として「事業」を単位として成立します。会社そのもの、企業そのものではなく、一つの会社にいくつかの支店や工場がある場合には、原則として支店や工場ごとに保険関係が成立することになります。
※ただし、事業所の規模が小さいあるいは事務処理能力がない、などその独立性が乏しい場合は、直近上位の事業所にまとめたり、一括することもできます。

(3)事務手続き

会社そのものが対象となるため、従業員の入社・退社にともなう手続きや保険給付の請求等の手続き事務は、従業員本人ではなく会社が行わなければなりません。

例えば、従業員に子供が生まれ、会社にその旨が報告されても会社が手続きを怠れば、その子供は被扶養者(被保険者本にから扶養されている人)として健康保険被保険者証が交付されませんし、出産手当金や出産育児一時金という保険給付も受けることができません。
それだけに、社会保険事務の担当者は従業員の法定福利を担う重要な役割を果たす義務があるといえます。

(4)手続きまで手が回らない時は?

やはり社会保険事務を行う部署は総務や人事が主ですが、手続きの手順や方法などすぐには分からない時は、社会保険労務士に顧問についてもらい、社会保険の加入の手続きやその他の労務関係を代行して手続きしてもらえますので、社会保険労務士に相談するのも一つの手かもしれません。
自社で対応する人件費コストと顧問社労士を依頼するコストを比較して、自社に最適な形を考えましょう。

2019.02.19

従業員の採用に伴い必要な手続きと注意すべきこと

従業員を採用するときには、従業員に対する手続き、年金事務所への手続き、ハローワークへの手続きなど様々な手続きを行う必要があります。そして、従業員の人数が増えてきたら、労働基準法に基づき発生する義務についても気を付けなければいけません。

いずれも忘れてしまうと後々トラブルになる可能性がある重要なことですので、詳しく説明していきたいと思います。
また、採用後のことだけでなく、従業員を雇おうとする前に確認していただきたい事項についてもご説明します。

1.採用する前に確認したいこと

まずは、これから従業員を採用しようと検討されている方に知っておいていただきたい2つのことを説明します。

1つ目は、労働保険の加入義務です。農林水産の一部の事業を除き、1人でも従業員を雇用する場合には、労働保険(雇用保険・労災保険)に加入する必要があります。これらの保険に加入していないと、ペナルティが課されたり、助成金が受けられなかったりする場合があります。
加入手続きとしては、雇用保険は「雇用保険 適用事業所設置届」を所轄のハローワークに、労災保険は「労働保険 保険関係成立届」と「労働保険概算保険料申告書」を所轄の労働基準監督署に提出します。

2つ目は、ハローワークへの求人申込みです。
採用活動をするにあたり、求人サイトや自社のホームページに求人情報を掲載するなどの方法がありますが、採用が成功するのか分からないのに掲載料を支払うことを不安に感じたり、自社のホームページを作成していなかったりする方もいらっしゃると思います。

そこでご紹介したいのが、無料のハローワークの求人を利用することです。初めて求人を出す場合には事業所登録が必要なので、まずは「事業所登録シート」を記入します。そして、求人の条件等を「求人申込書」に記入し、これらの書類を窓口で提出しましょう。
受理された後、求人票が公開されます。中高年者や障がい者などの就職困難者を雇い入れると、助成金がもらえることがありますので、申込みをする前に窓口で相談してみることをおすすめします。

2.採用決定後必要な手続き

次に、実際に従業員の採用が決定した後に必要な手続きについて説明します。
従業員を採用するときは、従業員に、①労働契約の期間に関する事項、②就業の場所、従事する業務の内容、③始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項、④賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期・昇給に関する事項、⑤退職に関する事項を明示しなければなりません。
この5つを絶対的明示事項といい、昇給に関する事項を除いて、書面の交付により明示する必要があります。明示は、会社から「労働条件通知書」を渡すことで足りるとされていますが、これは、絶対的明示事項が十分に記載された「雇用契約書」でも代えることができます。

会社・従業員の双方が労働条件に合意したことを残してトラブルを防ぐために、一方的に交付する労働条件通知書ではなく、雇用契約書を作成し、署名・捺印した上で、双方で保管することをおすすめします。また、労働者名簿を作成する義務があるので、入社が決定した時点で作成しましょう。

そして、各種手続きを行うために必要な書類として、採用者には、履歴書、マイナンバーカード等本人及び被扶養者のマイナンバーが分かる書類、本人及び被扶養配偶者の年金手帳、中途採用の場合は源泉徴収票と雇用保険被保険者証を提出してもらいます。そのほかにも、万が一、会社に損害を与えた際に、本人以外にも請求することができる身元保証書についても取得しておきましょう。

雇用保険や社会保険の適用対象者を採用した場合は、各保険の加入手続きをする必要があります。雇用保険の被保険者となるのは、週所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがある場合です。
手続きとしては、入社日の属する月の翌月10日までに、「雇用保険 被保険者資格取得届」を所轄のハローワークに提出します。社会保険の被保険者となるのは、法人事業所または常時従業員が5人以上の個人事業所で、常時使用される場合です。
70歳以上であれば、原則として、健康保険のみの加入となります。手続きとしては、入社日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を所轄の年金事務所に提出します。また、配偶者や子供を被扶養者とする場合には「健康保険被扶養者届」、配偶者を第3号被保険者とする場合には「国民年金第3号被保険者関係届」も一緒に提出します。

雇用保険・社会保険の手続きが完了したら、会社に交付される雇用保険被保険者証、雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)、健康保険被保険者証を従業員に渡しましょう。

3.従業員が増えてきたら気を付けること

従業員の人数が増えてきたら気を付けなければならないことがあります。それは、就業規則の作成・届出義務です。この義務があるのは、常時10人以上の従業員がいる事業所です。従業員には、パートタイマーやアルバイトも含みます。10人未満の事業所であったとしても、作成することは自由です。
就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」、該当する場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」、記載してもしなくてもよい「任意的記載事項」があります。

例えば、退職金制度に関して規定したい場合は、相対的必要記載事項として記載します。就業規則は各会社のルールですので、会社の実態に合った内容のものを作成しないと、後々トラブルになります。
自分で作成するのは難しそうだと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような場合でも、インターネットにあるテンプレートを使うのではなく、必ず社会保険労務士などの専門家に依頼しましょう。

作成したら、従業員の過半数が代表と認めた者の意見を聴く必要があります。同意してもらう必要はありませんが、意見を聴き、意見書を作成・自署してもらわなければなりません。そして、就業規則に意見書と就業規則届を添付して、所轄の労働基準監督署に届け出ます。
この際、これらの書類は2部ずつ作成し、1部は提出、1部は会社の控えとして受付印をもらいます。届け出た就業規則については、配布・掲示などによって周知する義務があります。

4.まとめ

これまでに述べた通り、従業員を採用すると、多くの手続きを行う必要があるほか、義務が発生する場合があります。
忘れてしまうと労使トラブルに発展する可能性があるので、もれなく慎重に進めていきましょう。

2019.02.19

事業者のマイナンバーの取得手続きの実務

平成27年10月からマイナンバー制度がスタートし、平成28年1月からは、社会保障、税、災害対策の行政手続きでマイナンバーが必要となりました。
そんな中、事業者は、マイナンバー法で定められた事務等のうち、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用することになります。
では、事業者が従業員のマイナンバーを利用する際に、総務、人事、経理など事業者の実務担当者が注意すべき点は何でしょうか?

1.事業者のマイナンバーの取得・利用・提供

マイナンバー制度の導入によって、具体的には事業者が税務署や市区町村に提出する源泉徴収票や給与支払報告書、年金事務所、ハローワークなどへの社会保険関係の手続き書類に従業員のマイナンバーの記載が必要になりました。
そのため、従業員やその扶養家族からマイナンバーを取得し、源泉徴収票や社会保険被保険者取得届などの書類にマイナンバーを記載し、各行政機関へ提出するというのが、事業者の行うマイナンバー制度実務の基本的な流れです。ちなみに、マイナンバーを記載した書類が最終的に提出される先は必ず行政機関です。それ以外の場合にマイナンバーを利用・提供することはできません。

事業者は税や社会保険の手続きに使用する場合のみマイナンバーの取得が可能となり、マイナンバーの取得手続きには、利用目的の明示と厳格な本人確認が必要とされています。
では具体的には事業者の実務担当者のマイナンバー取得手続きはどう行えばよいのでしょうか?

2.マイナンバーの取得手続き~利用目的の明示

マイナンバーを従業員から取得する際は、「源泉徴収票・給与支払報告書にマイナンバーを記載して提出します」など、個人情報保護法第18条に基づき、利用目的を特定し、本人に通知または公表する必要があります。法律で限定的に明記された場合以外で、提供を求めたり、利用したりすることはできません。そのため、仮に本人の同意があったとしても、法律で認められる場合以外でマイナンバーの提供や利用はできないことになっています。

実務においては、源泉徴収や社会保険、雇用保険など複数の目的で利用する場面がありますが、マイナンバーの利用目的の明示については、複数の利用目的を包括的に明示することも可能です。
ちなみに、利用目的を後から追加するのであれば、改めて従業員の同意を得る必要があるため、発生が予想される事務であればあらかじめ利用目的に加えておくべきでしょう。

なお、従業員へ利用目的を通知する方法としては、社内LANや就業規則による特定・通知、利用目的通知書の配布、社内掲示板への掲示などの方法があります。あくまで通知すればよいため、利用目的について従業員の同意を得る必要はありません。
現実的には、利用目的に同意が得られないのに、マイナンバーの提供をしてくれる人はいないでしょうが。。。

3.マイナンバーの取得手続き~本人確認

事業者がマイナンバーを取得する際は、厳格な本人確認を行うこととされています。
事業者の実務担当者はマイナンバーの本人確認において、「正しい番号であることの確認(番号確認)」と合わせて、「手続きを行っている者が番号の正しい持ち主であることの確認(身元確認)」を行うことになります。番号のみでの本人確認では他人のなりすましのおそれもあることから認められていません。他人のなりすまし防止のため必ず番号確認と身元確認が必要で、2つを合わせたものが本人確認です。

さて、本人確認は従業員などから確認に必要な書類を提示してもらい行うことになります。
必要書類として、個人番号カードや通知カードなどの番号確認のためにマイナンバーが記載されている書類と、個人番号カードや免許証等の写真付きの証明書など、身元確認のために本人実存を確認する書類があります。
扶養控除等申告書、個人番号報告書などのマイナンバー提出書類と、上記の番号確認のための書類と、身元確認のための書類を確認することで、本人確認がなされたことになります。個人番号カードは唯一1枚で本人確認が行える書類といえます。
尚、従業員の扶養家族のマイナンバー取得の場合はどうすればよいかというと、法律上基本的に従業員が扶養家族の本人確認を行う義務を負っています。つまり事業者の実務担当者は、扶養家族分のマイナンバーを従業員から取得するだけでよいということになります。

4.まとめ

これまで述べてきたように、事業者の実務担当者は、社会保険や税の書類作成のために、従業員などからマイナンバーを取得する必要があります。
マイナンバー取得時には、従業員に対して、「社会保険や税に関する書類作成のためにマイナンバーを記載することは義務である」ことを周知します。しかし、マイナンバー制度への理解度が低い導入当初は、マイナンバーへの提供を求めても拒まれるようなケースもあります。
従業員がマイナンバーを提供しなかったとしても、従業員などに対する罰則はありません。また、事業者がマイナンバーの提供を受けられなかったとしても、事業者に対する罰則もありません。
そのため、マイナンバーの記載がなくとも行政機関が書類を受理しないということはありません。

マイナンバーの提供を拒まれた場合は、書類提出先の行政機関の指示に従うことになりますので、事業者の実務担当者のみなさんは、提供を求めた経過や、提供を拒まれた理由等を記録・保存し、単なる義務違反ではないことを明らかにしておかれることをお勧めします。

2019.02.19

気をつけたい企業におけるSNSトラブル

近年、インターネットの普及に伴って急速に盛り上がりを見せているSNSですが、投稿した記事や意見がいわゆる「炎上」を起こし社会的な問題になり、誤った情報などが拡散されるなど、トラブルも多く見受けられます。
コミュニケーションツールとして、また企業PRにも使用されるなど便利な一方、さまざまな危険性やリスクも存在します。今回は現状と労務側から見たリスクについて考えてみましょう。

1.SNSの概要と共通する問題点

SNSとは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service)の頭文字をとったもので、匿名もしくは実名で登録された利用者同士で、専用のWEBサイトやスマートフォンアプリを通じ、記事の投稿やメッセージのやり取りを行うサービスのことを言います。
Twitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)などが有名なSNSですが、どれも同じということはなく、ツイッターは匿名制で投稿する字数が限られていること、フェイスブックは実名登録制で学歴や職業まで記載するよう推奨していることなど、各SNSで特徴が異なります。

しかしながら、個人情報、機密情報の漏えいや執拗な友人申請、「いいね」を強要するなどのハラスメントは各SNSに共通した問題となっており、個人・企業関わらず慎重に運営していかなければなりません。
SNSでは、ブログなど他ネットサービスと同様、投稿した記事が世界中に一斉に広まるため、完全な削除が困難であることや、匿名で投稿したとしても、あらゆる情報を駆使し個人を特定されてしまうおそれもあるため、注意が必要です。

2.SNSで問題となりやすいケース

憲法にある表現の自由(第21条1項)に基づき、SNSへ自由に投稿する権利は誰にもあるとされていますが、投稿の内容については十分気をつけなければなりません。

(1)個人アカウントからの情報漏えい、業務中の不適切な行為

カメラ付き携帯電話やスマートフォンの普及によって、多くの人がいつどこでも高画質で写真撮影ができるようになり、撮影したその場ですぐにSNSへ投稿できることは気軽で便利ともいえます。
しかし、その公開されたSNSの写真中に、個人の連絡先や勤務先で開発中の新商品が写ってしまっていたらどうなるでしょうか。

個人情報が拡散され悪用されてしまったり、漏えいした新商品より先に競合他社が同様の商品を販売開始してしまい、利益が得られなくなることもあり得ます。
匿名で行われるSNSの場合、勤務先や個人情報の表記は必須ではありませんが、多くのSNSでは他SNSやブログと連携しており、連携先で記載していた情報や写真、投稿文から氏名、勤務先や学校名といった個人情報が判明することがあるのです。

また、業務中にアルバイト従業員が勤務先の食器洗浄機内や冷凍食品販売ケース内に入り、写真を撮影しSNSに投稿したところ、たちまち拡散され、飲食店やコンビニには「不衛生だ」とか「従業員の教育はどうなっているのか」など苦情が相次ぐ事態となり、大問題になったことは記憶に新しいところです。
問題を起こした各店舗の多くは、売ることができなくなった冷凍食品の廃棄や庫内の清掃、食器洗浄機の消毒もしくは機器を新品のものに入れ替えるなどの対応をせざるを得なくなり、また、小規模店舗などでは運営が困難になったとして、閉店、破産に追い込まれたケースもあるなど、損害は大変大きいものとなります。

(2)企業公式アカウントの炎上トラブル

企業が広報の一環としてSNS上に公式アカウントを得て、自社商品やサービスのPR、客とのやり取りを行うことも最近では珍しいことではありません。
人気のある企業アカウントでは、こまめに客への返信を行い、新商品の紹介をユニークな動画で紹介するなどした結果、業績が向上したケースもある中、SNS運用が適切でないケースでは、スピードを重視するあまり、充分な内容の確認をしないまま担当者のみの判断で投稿されることもあるようです。
担当者の主観的な意見がその企業全体の意見として捉えられることもあり、世論と真逆の意見を述べたり、倫理的に問題があった場合に批判や非難が殺到、いわゆる「炎上」を起こし収拾がつかなくなる事態にもなりかねません。

(3) その他のSNS上でのトラブル

上記のトラブルの他にも、
・SNSアカウントが乗っ取られ、友人登録されている取引先のアカウントへ勝手に詐欺メッセージが送られてしまう
・勤務先、同僚への誹謗中傷を実名でSNSに書き込んだところ拡散されてしまい、名誉毀損、業務妨害で訴えられる
・本来自由になされるべき行為である、従業員に対する自社アカウント投稿記事への「いいね」を強要(行き過ぎた業務命令)
・好意を寄せている同僚へSNSの友人申請を執拗に行い、拒否されたのにも関わらず申請を続けている
などの問題が日々起こっており、これまでにない新しいケースとして、労務管理側は対応に時間がかかり苦慮することもあります。

3.トラブルを防ぐための規定作り

個人アカウント、企業アカウントに関わらずSNSを適切に利用するためには、就業規則や社内規則に利用上の禁止事項を規定して従業員に徹底させ、重大な違反があった場合は規則に則って措置を行う体制を構築しておくのが望ましいとされます。

なお、就業規則を変更するためには、従業員代表者の意見を聞き、変更後の内容については労働基準監督署に届出をする必要がある等、手間がかかるのはもとより、目まぐるしく様態が変化するSNSに沿った内容に逐一変更していく、というのは現実的ではありません。
そのため、就業規則についてはSNS以外でも適応できる一般的な表記にし、SNSに対しては別にガイドラインを設け、具体的な注意点等を記載していくことが、トラブルを未然に防ぐ対策として有効となります。

ガイドラインの詳しい作成方法は後述しますが、SNSの種類、使われ方や運用方法などの把握をした上で、アルバイトやパートを含む全従業員が内容を理解できるような簡潔な文書を作成し、適宜変更や項目の追加をしながら運用していくことが重要です。

2019.02.12

商標権とグローバル化

グローバル社会である昨今、私たちの生活は「海外」のものに囲まれています。
海外進出をしたい、もっと自社製品を有名にしたい、という思いから海外で商標権を獲得する企業もますます増えています。

そこで今回は、日本で取得した商標権は海外で通用するのか、そして最後に海外の商標制度は日本とどのように異なっているのか、ということについてお話していきたいと思います。

1.国外への商標登録

商標権というのは、日本だけでなく他の国々にも存在しています。
今の商標法の前進となる商標条例が1884年に日本で制定されました。それは、欧米先進国の影響を受けたからです。
1883年に工業所有権(現在は産業財産権と呼ばれる)の保護に関するパリ条約が締結されました。その1年後に日本でも徐々に商標制度が確立し、現在に至ったのです。

このように商標権の歴史は100年以上にもわたりますが、商標権というのは世界共通で有効なのでしょうか?

まず、結論からいうと、
日本で取得した商標権はそのままでは海外で通用しません。あくまで日本国内でのみ有効です。商標権を外国でも保護したい、というのであれば別途外国向けに登録出願が必要です。方法としては主に

①各国へ直接出願
②国際登録出願(マドリッドプロトコル)
③欧州連合商標(EUTM)
の3つがあります。それぞれについてメリット、デメリットとともに見ていきましょう。

①各国へ直接出願

各国への直接出願は、各国内の代理人を通して出願するやり方のことです。
【メリット】
・出願する国が少ない場合コストが最低限で済む。
・現地の特許庁に直接出願するので、国内出願と同じように扱われる
・パリ条約加盟国であれば優先権主張が可能なので、第三者に特許を取られない。(日本で出願したものと同じ商標で出願をする場合、日本での出願日が適用される。)
【デメリット】
・出願先がパリ条約加盟国でない場合、優先権が主張できず第三者に同一内容で特許を取られてしまう場合がある。
・複数国に出願する場合、それぞれの国の言語様式で出願する必要がある。

 

②国際登録出願(マドリッドプロトコル)

日本が2001年にマドリッド協定議定書に加盟したことで、国際事務局を通じて加盟各国への出願が可能になりました。
【メリット】
・日本語での出願が可能。
・複数国へ出願するときのコストが安い。(一度に複数国へ出願可能)
・国際事務局で一括管理されているため更新管理負担が軽減される。
【デメリット】
・本国登録に基づくので、商標は日本で登録したものと同じ表記でなければならない。
・指定役務、サービスの基準が日本と異なるので、同一性が認められない場合がある。

 

③欧州連合商標(EUTM)

欧州連合知的財産庁に出願し、登録された商標はEU加盟国すべてで有効となります。
【メリット】
・一度の出願でEU全加盟国に出願可能なのでコストが安い。
・EU加盟国の中の1か国で商標を使用していれば、商標を使用していないという理由で商標登録が取り消されることはない。
【デメリット】
・EU加盟国の中の一部の国を除いての出願は不可能なため、1か国に拒絶理由があれば登録不可。また、1か国から無効を求められたらEU全体で商標は無効となる。

以上の3つが主な外国への商標登録出願方法です。自分がどこの国や地域で商標権を持ちたいのか、どの方法が合っているのかを考えて選ぶのが良いでしょう。

2.海外の商標制度

海外に商標登録をするにはどのような方法があるのかが分かったところで、次は日本の商標制度と海外の商標制度の違いを見ていきたいと思います。
今回はアメリカを例に見ていきましょう。

①登録主義と使用主義、先願主義と先使用主義

日本では、一度商標登録出願を行い登録が完了すれば、その商標は10年間守られます。これは日本の登録主義に基づく考え方です。そして、登録されている商標は例え使われていなくても、他社が利用することは認められません。

一方、アメリカでは使用主義という考え方を採用しています。
商標を使用していれば、登録をしていなくても商標権の効力が発生します。
だったら商標登録の制度はアメリカでは必要ないのでは?と思うかもしれませんが、登録をしているほうが後で商標権の侵害などトラブルが起きた際に法的な手続きが取りやすいので、登録はしておいた方がよいのです。
また、いつから使っているのかを後に証明するのは非常に手間がかかります。

実際に使用主義という考え方は登録手続きの時にも反映されています。
アメリカでは出願の際に、商標が実際に使用されていること、もしくは今後使用する意思があることを示さなければならないのです。登録や更新の際に商標の使用宣誓書を提出しなければなりません。

日本の場合はとにかく早い「登録」が重要(先願主義)ですが、アメリカでは「使用」の意思が大事なのです。
アメリカでは同時に出願があった際は、先に使用していた方が登録に有利で、先使用主義と言われています。

②審査主義と無審査主義

日本では出願後、登録査定が出るまでの間に商標に識別性があるか、また他の商標と類似していないかなどに審査が行われます。これを審査主義といいます。
こちらに関しては、アメリカも同様に審査主義を取り入れています。
一方、無審査主義の代表国はフランスやイタリアなどが挙げられます。無審査主義の国では、出願の際の形式等に誤りがなければ実体審査を行わずそのまま商標登録されます。実質的な要件はその後異議申立てなどによって決定されます。そのため、審査終了までに期間が短いというメリットがありますが、実体審査が行われていないため、実際の商標の利用に慎重にならないといけません。

このように、国ごとでも商標制度は違うため、登録出願を検討する際はよく確認する必要があります。

3.まとめ

昨今のグローバル化にともない、様々な国の商品やサービスが日本に進出していて、日本からもたくさんの企業が海外へと事業を拡大しています。
せっかく日本で育て上げたブランドイメージも、海外では無効となってしまっては勿体ないことです。

海外での商標権取得を考える際は、商標権を持ちたい国や、その国の商標制度について認識をし、どの出願方法が適切なのかを検討しなければなりません。
日本国内での商標登録よりは少々手間やコストはかかりますが、世界で商標を守っていくことでビジネスの幅も世界へと広げることができるでしょう。

やはり、そのビジネスの将来性を考えながら、どこの国や地域で商標権を取得しておくことが重要か綿密な検討が必要ですね。

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