弁護士コラム

2019.04.17

SNSでトラブルが起こってしまったら!企業側の対応は?

前回ご紹介したような、ガイドラインの策定や社員研修という予防策を行っていても、どうしても起こってしまうのがSNSトラブルです。
そこで、今回は起こってしまったSNSトラブル(炎上、誤った情報の拡散、従業員の不適切な投稿)への対処についてご紹介します。

前回の記事はこちら
SNSトラブルを防ぐ、ルール作りとチェック体制

1.トラブルが発生したら迅速な対応を

日頃よりチェック体制を整えていた場合は、自社の評判や商品についての投稿がされていることの確認に併せて、自社の従業員が不適切な投稿をしていないか、情報漏えいをしていないかもチェックすることができます。

トラブルが発覚する他のケースとしては、①SNSを閲覧していた第三者からの通報、②他従業員からの報告という2つが挙げられますが、どちらも投稿されていたSNSサービスの名称、日時、詳細な投稿内容をヒアリングし、情報の精査を行うことがポイントです。

トラブルが発生したら、誤った情報の拡散を防ぐために、なるべく早く対応しましょう。
後回しにしたり対応が遅くなると、企業全体のイメージダウンにつながり、信用を失うなど影響が大きくなってしまいます。また、炎上の規模によりますが、削除のみ行い何も公表しないなどという対処方法も適切ではありません。

後述しますが、迅速に事実関係を確認し、経緯や対処方法、今後の防止策等を詳細に発表することで、世間に対する企業イメージの回復も早めていくことができるのです。

2.まずは社内での調査で関係者・投稿者を特定

速やかに、SNS内で問題となっている箇所の内容を具体的に確認し、URL等を特定させておきます。また、現時点でどの程度まで情報が拡散され広まっているのかも確認しましょう。

そして、投稿者をできる限り特定していきます。例えば新商品の情報漏えいの場合、プロジェクトチームの確認や、SNSに投稿されている他の内容などで従業員を特定していくことになります。

その際に、業務で使用していたパソコンや携帯電話、ロッカーや机等を調査することも考えられますが、この場合は、プライバシーの観点から本人の同意を得た上で調査するなど、配慮も必要となるでしょう。

また、関係すると思われる従業員、投稿したとされる従業員本人へのヒアリングも行うべきですが、こちらも強制的ではなく同意を得て実施するのが望ましいとされます。

いつどこで、なぜこのような投稿を行ったのか、など状況を具体的に説明してもらい、場合によっては録音や議事録を取るなど記録として残し、さらにヒアリングに参加した従業員の署名や捺印等も行うことが重要です。

3.社内での特定ができない場合は発信者情報開示請求を

社内での調査で投稿した従業員が特定できない場合、プロバイダ責任制限法第4条1項(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)に基づき、SNS管理者やプロバイダへ発信者情報開示請求を行い、発信者のIPアドレスやタイムスタンプ(その投稿がネット上に記録された日時を証明しているもの)を開示してもらうこととなります。

プロバイダ責任制限法は、プライバシー侵害や名誉棄損、中傷について被害者の情報削除や発信者情報の開示請求権を規定するとともにインターネット・プロバイダの免責要件を定めた法律です(平成13年法律第137号)。
ここでいう「プロバイダ」にはWEBサイトやWEBサービスの管理者も含まれており、SNS管理者もこれに該当します。

SNS管理者へは、該当する投稿内容のIPアドレスを開示するよう請求し、その内容からプロバイダを特定します。そして該当するプロバイダへ、投稿した本人の氏名や住所等を開示するよう請求するという流れになります。

開示請求に管理者やプロバイダが対応しない場合は、裁判での訴訟等に移ることになります。

4.投稿記事の削除要請はどうやって行うの?

投稿者が特定できたら速やかに行いたいのが、当該記事の削除です。
投稿者本人で削除ができる場合は、管理画面や編集画面からの削除を要請します。
投稿者本人が特定できなかった場合や投稿者本人からの削除ができない場合は、SNS管理者に削除要請を行いますが、下記①②のような方法が挙げられます。

他にも裁判所へ削除の訴訟等を行う方法がありますが、下記方法と比較して時間と費用を要するため、最終の手段であると心得ておきましょう。

①管理者が定めた取り決めに則って削除申請を行う方法
SNSサービスのヘルプページやポリシーを表記したページ等に、削除の申請の仕方が記載されていれば、そこから削除申請を行います。
削除依頼をする理由を適切に入力すれば、速やかに対応する場合もあるので、管理部門・労務部門の研修時などに、あらかじめ該当するWEBページを確認しておくのも良いでしょう。

②記事削除の取り決め等が明示されていない場合は、プロバイダ責任制限法に基づいて、SNS管理者へ削除要請をする方法
プロバイダ責任制限法には先述の通り、情報削除の規定を定めています。
申請方法は、ただ単に投稿者の氏名や日時、投稿記事の内容を記載して削除を申請するのではなく、その投稿により被った損害、権利侵害の理由等も併せて記載し、内容証明で送付します。

5.まとめ

今回は、トラブル発覚後すぐに対応するべき点について重点的にご説明しました。繰り返しになりますが、誤った情報の拡散を防ぐためにも、迅速に対応することが重要です。

次回は、SNSトラブルが拡散され削除した後の公式発表や当該従業員への対応などをご説明します。

2019.04.16

【社会保険】事業所の加入条件と手続き方法

事業所の健康保険・厚生年金保険の登録はお済みですか?
「よし、役員も従業員も社会保険に入ってすぐ保険証発行してもらおう!」と思っていても、事業所の社会保険加入手続きから行わないと、個人の社会保険加入手続きはできません。
この記事では、協会けんぽの事業所の加入のことをまとめていますので、ぜひ、参考にしてみてくださいね。

1.事業所の加入条件

社会保険に加入出来る事業所のことを、『適用事業所』といいます。
適用事業所には『強制適用事業所』と『任意適用事業所』があります。
これらはどのような違いがあるのでしょうか?

①強制適用事業所

事業主や従業員の意思にかかわらず、必ず社会保険に加入しなければいけない事業所を強制適用事業所といいます。以下のいずれかの場合は、強制適用事業所になります。

ア)常時1名以上の従業員を使用する法人の事業所
 ※報酬を受けている役員が1人でもいれば、その法人は強制適用事業所となります。
 ※外国人経営であっても、法人の事業所は強制適用事業所となります。

イ)常時5人以上の従業員を使用する適用業種の個人事業所
 ※適用後に5人未満になっても、一時的なものであれば、引き続き強制適用事業所となります。
 ※強制適用事業所として申請後、事業内容の変更や従業員が減ったとしても、喪失とはならず継続となります。
 ※適用業種か非適用業種かは後述の図を参照。

②任意適用事業所

強制適用とならない事業所のうち、社会保険の適用を受けたい場合に、申請により社会保険の適用を受けることができる事業所のことを任意適用事業所と言います。
任に適用事業所となるためには、被保険者となるべき者の2分の1以上の同意が必要です。
※もし上記同意を得ても、事業主は、任意適用に認可申請を必ずする必要はありません。
※強制適用から除外されていても、任意加入を認めることにより健康保険の適用を可能にするものです。

<適用業種とは>
下記、非適用業種以外の事業

<非適用業種とは>
農林水産畜産業、飲食店、理容、ホテル・旅館、料理店、映画館、その他娯楽、士業、宗教業

③適用の単位は?

加入に関して、会社単位ではなく事業所単位となります。
営業所が複数ある場合は、それぞれの営業所ごとに社会保険が適用されます。

しかし!!指揮監督や報酬の支払いなどが本社で行われていて、事業所としての独立性が認められない場合などは、それぞれの営業所ごとに適用されるのではなく、本社のみでかまいません。
本社の社会保険に加入することになります。

2.手続き方法

区 分 内 容
強制適用事業所 任意適用事業所
提出先 管轄の年金事務所
提出方法 郵送、電子申請、窓口持参
必須書類

◆健康保険・厚生年金保険 新規適用届

◆被保険者資格取得届(個人の資格取得届も同時に提出します)

◆口座振替を希望するときは『保険料口座振替納付(変更)申出書』の申請が必要です。

   ◆任意適用申請書
添付書類
※管轄によって違いますのでご注意ください
1.法人事業所
・法人登記簿謄本(コピー不可)
・法人番号が分かる書類(コピー可)
 法人番号指定通知書、国税庁の公表サイト、等
2.個人事業所
・事業主世帯全員の住民票(コピー不可)
※登記簿謄本と住民票は、提出日から遡って90日以内に発行されたものを提出
・事業主世帯全員の住民票(コピー可)
・任意適用同意書
(従業員の2分の1以上の同意を得たことを証する書類)
・実際の所在地が登記上と異なる場合は、賃貸者契約書のコピー
家族加入 ・健康保険 被扶養者(異動)届
・国民年金 第3号被保険者資格取得届
手続き期間 申請より20日~1か月程度
手続き完了後 1.年金事務所より届く書類
・適用通知書(事業所の手続き完了書類)
・資格取得確認及び標準報酬決定通知書(役員・従業員の手続き完了書類)
2.1週間程で協会けんぽより保険証が事業所宛に郵送されます。

 

3.社会保険料控除と納付(例4月1日新規適用日とする)

①被保険者からの控除

通常は、資格取得日の翌月に支払う給与から社会保険料の控除を開始します。
(4月分の社会保険料を5月に支払う給料より控除)
控除する保険料額は、標準報酬月額決定通知書の記載を基に保険料額表で確認します。

②事業主の納付

新規適用日の翌月末日(4月分を5月末)が第1回納付日です。
事業主は、被保険者から徴収した社会保険料に事業主負担分を合わせて納付します。
『納付書(領収済通知書)』3枚複写の納付書が届きます。
※口座振替申請書を提出しても、申請が完了するまでは、納付書での納付となります。

4.まとめ

事業を始めて忙しいのに!と、思ったことでしょう。社会保険の強制適用に当てはまる場合は、必ず加入しなければなりません。
事業を始めても、「まだ従業員雇っていない」「役員報酬もこれからの業績で決めるからまだ」という場合はすぐに加入しなくてもいいので、しっかり要件を確認して、加入手続きを行いましょう。

2019.04.15

【不動産】マンション管理における会計・税務

マンションを住みやすい環境に維持管理するためには、やはりいろんなお金がかかりますよね。
区分所有であるマンションにおいては、区分所有者たちがお金を出し合うことで、この維持管理を行っていますが、その会計管理を正確に行うことが求められます。

1 マンション管理における会計

(1)管理者の会計報告義務

マンションで複数の入居者が共同して生活するためには、玄関や廊下の清掃、エレベーターの保守点検、管理費用や修繕費用の出納といった日常的な行為から、マンションの外壁補修といった中長期的な補修まで、さまざまな管理行為が必要となります。

そして、区分所有者らは、その持分に応じて共用部分の管理費用を負担しなければなりませんが、補修が発生する度に区分所有者らから必要な資金を集金していては非常に手間がかかり不便ですし、大規模修繕のお金を突然請求されても、通常は払えません。

よって事前に区分所有者らから「共用部分の負担」として、マンションの管理費用に充当するためのお金を徴収することが必要となります。

上記事情により、区分所有者らから徴収した金銭を管理組合が預かりますが、その際管理者には、管理組合の集会において、毎年1回一定の時期に、会計に関して報告をすることが求められます。

(2)適正化法が定める管理組合財産の分別管理

多くのマンションでは、管理組合の業務はマンション管理業者に外部委託されています。そして、マンション管理業者を規制する法律として、平成12年に適正化法(マンションの管理の適正化の推進に関する法律)が公布されました。

この法律では、「マンション管理業者は管理組合から委託を受けて管理する修繕積立金その他国交省令で定める財産については、整然と他の管理組合の財産と分別して管理しなければならない」と規定されています。

これを受けて、適正化法規則87条2項1号は、マンションの管理業者に以下のうちいずれかの方法で、当該管理組合の金銭を、自己の固有財産及び管理組合の財産と分別して管理することを求めています。

①マンションの区分所有者などから徴収された修繕積立金・管理費用を収納口座に預入し、毎月、その月分として徴収された修繕積立金・管理費用から当該月中の管理事務に要した費用を控除した残額を、翌月末日までに収納口座から保管口座に移し替え、当該保管口座において預貯金として管理する方法

②マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金を保管口座に預入し、当該保管口座において預貯金として管理するとともに、マンションの区分所有者等から徴収された管理費用を収納口座に預入し、毎月、その月分として徴収された管理費用から当該月中の管理事務に要した費用を控除した残額を、翌月末日までに収納口座から保管口座に移し替え、当該保管口座において預貯金として管理する方法

③マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金・管理費用を収納・保管口座に預入し、当該収納・保管口座において預貯金として管理する方法

(3)管理組合の会計の基準

管理組合の会計については、統一的な会計基準として成文化されたものが存在しないため、その基準をどこに置くべきかが問題となります。

ここで、管理組合は、営利を目的とする団体ではないため、企業会計の基準をそのまま適用することはできません。一方で、管理組合においても、利害関係者の意思決定に有用な情報を提供するという財務報告の目的は企業と変わりません。

従って、管理組合会計においては、企業会計と共通する一般原則に加えて、管理組合会計に特有の原則によるべきと考えられます。

A企業会計と共通する一般原則

企業会計と共通する一般原則としては、企業会計原則の「第一 一般原則」の7つの原則のうち、以下の5つの原則を管理組合の会計に準用すべきと考えられています。

 

①真実性の原則
企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供する者でなければならない

②正規の簿記の原則
企業会計は、全ての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない

③明瞭性の原則
企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない

④継続性の原則
企業会計は、その処理の原則及び手続きを毎期係属して適用し、みだりにこれを変更してはならない

⑤保守主義の原則
企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない

 

B管理組合会計に特有の原則

公益財団法人マンション管理センターは、管理組合の特性から導き出される特有の会計原則として、以下の2つの原則を挙げており、それぞれ標準管理規約の中に同じ趣旨の定めが含まれています。

 

①区分経理の原則
管理費会計と修繕積立金会計は、区分して経理を行わなければならないとする原則

②予算準拠の原則
管理組合の収入および支出は、総会で決議された収支予算書に従って行う必要があるとする原則

 

(4)管理組合が作成する会計書類

管理組合は、会計帳簿に基づき、収支及び財産の状況を正確に反映した怪異系書類を作成する必要があります。
管理組合が作成する会計書類としては、収支予算書、収支決算書及び賃借対象表が挙げられ、管理組合法人の場合には、これらに、財産目録が加わることとなります。

2 マンション管理における税務

マンションの管理組合について特別に定めた税制はないため、一般的な税制をマンションの管理組合に当てはめて解釈し、適用することになります。
ここで、管理組合の形態としては、主に①人格のない社団等である管理組合と②管理組合法人に分けられます。

(1)法人税
① 人格のない社団等の場合
法人税法上、「人格のない社団等は、法人とみなして、この法律の規定を適用する」とされます。そして、公益法人等と同様に、各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得についてのみ、法人税が課されます。

なお、「人格のない社団等」である管理組合が収益事業に対して課税される場合の税率については、公益法人の軽減税率は適用されず、一般の会社などの普通法人と同様です。

② 管理組合法人の場合
管理組合法人については、「人格のない社団等」に該当する管理組合より不利になることを避けるため、区分所有法の規定により、法人税法及びその他法人税に関する法令の規定の適用については公益法人等とみなすとされ、収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課されます。

(2)住民税
「人格のない社団等」である管理組合と管理組合法人については、収益事業を行っているか否かに関わらずまず均等割りの税が課され、さらに、収益事業を行っている場合には、収益事業に係る法人税割の税が課されます。

(3)事業税・事業所税
収益事業を行う場合についてのみ課税されます。

(4)消費税
消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に対して課されます。
マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。よって、マンション管理組合が一般的に収受するお金に対する消費税の課税関係は次の通りとなります。

① 駐車場の貸付・・・組合員である区分所有者に対する貸し付けに係るものは非課税となりますが、組合員以外の者に対する貸し付けに係るものは消費税の課税対象となります。

② 管理費等の収受・・・非課税となります。

2019.04.12

知っていれば役に立つ!経費のこと2

様々な場所で耳にする「経費」という言葉。
仕事に関係することに使ったお金なら、何でも、全額、「経費」になるなんて思っていませんか?

前回の記事はこちらから
「知っていれば役に立つ!経費のこと」

1.ひとりカフェは「経費」になる?

仕事中、資料の準備や、プレゼン作りなどで、ひとりで喫茶店やカフェなどに行くことがあると思います。その場合、お店で頼んだ飲み物代は「経費」になるのでしょうか。

「ひとりで行ったのだから、ならないでしょ!」と思う方は多いと思いますが、実はこれ、「会議費」として「経費」にできるのです。「会議費」と聞くと、ひとりでは成立しないのではないかと思いがちですが、そんなことはなく、きちんと仕事をする目的だったのであれば、「会議費」とすることができます。

ただし、領収書やレシートだけでは仕事をしていたという証明にならないため、もらった領収書等の裏に、自分の名前と喫茶店等で何をしていたのかをメモしておくことが必要になります。

もしこれが、資料の準備やプレゼン作りではなく、ただ単に休憩をしていただけだとすると、どうでしょうか?
実はこれも「福利厚生費」として「経費」にすることができます。
ただし、条件として、従業員全員が精算できなければなりません。そうでないと、「給与所得」として、従業員が所得税を課税されてしまいますので、気を付けましょう。

2.「福利厚生費」と「会議費」

ひとりでカフェや喫茶店に行ったときの飲み物代が「経費」になるのなら、ご飯を食べながら仕事をしたときのご飯代も「経費」になるのでしょうか?

ご飯を食べているといっても、同時に仕事もしているのだから「経費」でしょ!と思いたいところですが、ご飯は仕事をする・しないに関わらず食べるものなので、「経費」にすることはできません。

しかし、「食事代の半分以上を従業員が負担している」「会社が負担した金額が月額3,500円以下である」この2つの条件を満たしていれば、「福利厚生費」として食事代を「経費」にすることができます。

もしこれがひとりではなく、複数人での打合せであれば、「会議費」として「経費」にすることができます。
ただし、1.でお話ししたように、領収書やレシートの裏に名前と何をしていたのか、これらに加えて、人数も記載しなければなりません。

3.「会議費」にできるといいことがある?

1、2では、主にひとりでどこかへ行った時の「経費」についてお話しましたが、ここでは「接待交際費」と「会議費」についてお話したいと思います。

まず、「接待交際費」というのは、法人税法上の「交際費等」にあたります。交際費等とは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先、その他事業に関係のある者等に関する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用」のことです。

仕事をしていくうえで、「新商品の売り込み」や「親交を深める」ために、取引先の人と会食をすることがあると思います。
その際にかかる費用は「会議費」と「接待交際費」どちらに分類されるのでしょうか?
「経費」にできるのなら、どちらになっても同じじゃないの?と思うかもしれませんが、実はこれ、「法人」にとってとても重要なことなのです。

何が重要なのか・・・それは、「接待交際費」だと年間800万円までしか損金計上できないからです。(資本金1億円以下の会社に限る。)
つまり、接待交際費は年間800万円を超えてしまうと、法人のお金だけが減り、節税効果を得ることができません。
利益は「売上」―「経費」であり、「税金」は、この利益に対して課税されるため、「経費」になった方が、課税される「税金」の額も小さくなります。

これを踏まえると、一定額を超えると「経費」にできない「接待交際費」ではなく、金額に関係なく「経費」にすることができる「会議費」としたいですよね。

「会議費」とするためには、会食の目的が会議をするためなのかをきちんと判断し、会食の費用が高額な場合は、議事録等を作成し、会議をしていたという証拠を残すようにしましょう。

4.まとめ

今回は、「経費」にできるもの、できないものについてお話をしました。
ひとりでカフェや喫茶店に行った時の食事代が「経費」にできたり、ひとりで食べたご飯代は「経費」にならなかったり、仕事に関係するものすべてが「経費」になるわけではないこと、仕事をせず、休憩していたときにかかった費用も「経費」にできる場合があること、「経費」には様々な種類があることが分かっていただけたと思います。
ぜひこの記事を参考に、今後の仕事に活かしていただければと思います。

2019.04.12

マイナンバーの物理的・技術的な安全管理の措置

平成28年1月から社会保障、税、災害対策の3分野で行政機関などに提出する書類にマイナンバーの記載が必要となり本格始動したマイナンバー制度。事業者も税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用するなど対応を求められるようになりました。

そんな中、多くの方が懸念しているのは「個人情報の漏えい」です。マイナンバーを取り扱う側である事業者にとって、仮にマイナンバーの情報を漏えい・紛失してしまった場合は社会的信用を失うことにも繋がりかねず、安全管理対策を徹底し外部への漏えい、紛失を絶対防ぐことは、マイナンバーの運用が定着した昨今において急務であると言えます。

安全管理対策として、①組織的安全管理措置、②人的安全管理措置、③物理的安全管理措置、④技術的安全管理措置の4つの措置が求められ、前者2つがソフト面、後者2つはハード面の対応と言えます。
今回は、事業者がマイナンバーの安全管理に関して行うべきハード面の対応について検討してみましょう。

1.取扱区域を管理する

事業者がマイナンバーや特定個人情報を安全に管理するため、講じるべき物理的な対策として、まず情報漏えいなどを防止するために、マイナンバーや特定個人情報を含むファイルと扱う情報システム、機器などを管理する領域(管理区域)及び担当者が事務を行う領域(取扱区域)を明確にし、出来るだけ隔離するなど、物理的な安全管理措置を講じなければなりません。

管理区域として、一定の区域を区分できる場合には、ICカードなどにより、入退室を徹底管理し、持ち込む機器などを制限することも肝要です。

また、取扱区域は間仕切りを設けたり、座席配置を工夫したりするなど、担当者以外からできる限り遠ざけるなどの措置を講じてください。

2.機器や電子媒体の管理

事業者は、マイナンバーや特定個人情報を取り扱う機器や電子媒体・書類などを施錠可能なキャビネットに保管し、マイナンバーや特定個人情報を取り扱うパソコンをセキュリティワイヤーで固定するなど、盗難や紛失を防止するための措置を実施する必要があります。

また、マイナンバーや特定個人情報を記載した電子媒体・書類などを持ち出す場合には、マイナンバーが容易に判明できない工夫をしたり、追跡可能な移送手段を利用したりするなど、情報漏えいを防止するための安全な方策を講じなければなりません。

具体的には、電子媒体であればデータの暗号化やパスワードによる保護、施錠できる搬送容器の使用など。書類であれば厳封や、目隠しシールを貼付するなどが考えられます。輸送する場合は、簡易書留などの追跡可能な方法を選択しましょう。

なお、持ち出しは、管理区域や取扱区域からの外への移動を指しますので、たとえ社内であっても同様に留意してください。

3.マイナンバーの削除

事業者は、マイナンバーや特定個人情報に関する事務を行う必要がなくなった場合で、法令に定められた保存期間を経過したときは、マイナンバーをできるだけ速やかに復元できない方法で廃棄または削除しなければなりません。

その際には、廃棄または削除した旨の記録を保存しておくことも重要です。
外部に委託した場合には、委託先が確実に廃棄または削除したことを証明書などで確認する必要があります。

書類などを廃棄する場合には、焼却または溶解などの復元不可能な方法を採用します。
復元不可能な状態に裁断することが可能であれば、シュレッダーで裁断する方法でも構いません。

また、書類に記載されたマイナンバーのみを削除するような場合には、その部分を復元できない程度にマスキングするか、切り取る必要があります。
マイナンバーや特定個人情報が記録されたパソコンやCD-ROMなどの機器や電子媒体等であれば、専用のソフトウェアで削除したり、専門業者に依頼して物理的に破壊したりする方法を採用して下さい。

マイナンバーや特定個人情報を取り扱う情報システムを利用する場合には、保存期間経過後にマイナンバーの削除を前提とした情報システムを利用することが現実的です。

マイナンバーが記載された書類などについては、保存期間経過後に廃棄または削除を前提とした手続きを定めておきましょう。

4.アクセス制御・識別・認証

次に、事業者がマイナンバーや特定個人情報を安全に管理するため、講じるべき技術的な対策として、事業者は、情報システムを利用してマイナンバーや特定個人情報を取り扱う事務をする場合には、適切なアクセス制御を行わなければなりません。

アクセス制御の方法としては、マイナンバーと紐づけてアクセスできる情報を限定、特定個人情報ファイルを取り扱う情報システムを限定、ユーザーIDにアクセス権限を付与することによって情報システムを使用できる担当者を限定するなどが挙げられます。

マイナンバーや特定個人情報を取り扱う情報システムには、ユーザーID、パスワード、磁器・ICカード、生体情報などにより、正当なアクセス権限を持つ者と識別した上で認証する機能が必要です。

5.外部からの不正アクセス・情報漏えいの防止

事業者は外部からの不正アクセスや不正ソフトウェアから情報システムを保護する仕組みを導入し、適切に運用しなければなりません。具体的にはファイアウォールの設置、ウィルス対策ソフトウェアのインストールなどです。

また、マイナンバーや特定個人情報を、インターネットを通じて外部に送信する場合、通信経路における情報漏えいを防止するための措置を講じる必要があります。

防御策としては、通信経路の暗号化や、データの暗号化またはパスワードで保護することなどが考えられます。

6.まとめ

中小事業者については、取り扱うマイナンバーや特定個人情報が少なく、取り扱う担当者も限定的であると考えられます。そのため特例的に、マイナンバーや特定個人情報の廃棄または削除については、責任ある立場の者が確認していれば問題ないとされています。

ただし、取扱区域の管理、機器や電子媒体の管理、外部からの不正アクセス・情報漏えいについては、中小事業者にもこれまで述べてきたような対策が求められます。

 

2019.04.11

労働基準法とは ~不当な身柄拘束の禁止~

前回は労働基準法とは何か、労働契約において書面にて明示しなければいけないこと(絶対的明示事項)・口頭による説明でも問題ない事項(相対的明示事項)を中心にお話しいたしました。
今回は、不当な身柄拘束の禁止について見ていきたいと思います。

前回の記事はこちらから
労働基準法とは?~労働契約編~

1.不当な身柄拘束の禁止

不当な身柄拘束の禁止とは、

・賠償予定の禁止(第16条)
・前借金相殺の禁止(第17条)
・強制貯金の禁止(第18条)

上記の3つの禁止のことを指します。

(1)賠償予定の禁止
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

このように労働基準法の第16条には定められています。

例えると、「遅刻・早退したら欠勤控除とは別に3,000円マイナスとする。」

このような賠償額を予定とすることは違法であり、禁止されています。
労働者側が違約金の発生を恐れて退職ができず、事実上労働が強制させられてしまうという事態を防ぐ趣旨です。
賠償額が予定されている契約は、親権者・身元保証人が支払義務を負うような契約も含まれます。

なお、あくまで16条では金額を予定・決定していることが禁止なのであり、現実に起きた損害について賠償請求することを禁止したものではありません。

(2)前借金相殺の禁止
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

このように労働基準法第17条には定められています。

この条文は金銭貸借関係と労働関係を分け、債務者の身分的拘束を防止する法律です。
会社からの借金を返すために労働が強制される事態を防ぐ法律です。

重要な点として、貸付原因・期間・金利の有無など総合的に判断して、当該貸付において労働が条件となっていないことが明白な場合には、本条は適用されません。

また、賃金による相殺は、労働者が望めばそれは違法とはなりません。もっとも、その場合でも、紛争予防の観点から相殺合意書を書面で取り交わしておくべきです。

(3)強制貯金の禁止
①使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
②使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。

この法律はあくまで、強制貯金により労働者の足止めになったり、賃金が事業資金として流用されて返還が困難になったりすることを防止するために存在しています。

従って、任意(労働者から貯蓄金を委託されて管理すること)であればその貯金は認められることになります。

(4)任意貯金の方法

任意貯金は「社内貯金」と「通帳保管」の2つに分類されます。
各手続に関する要件の比較は以下の通りです。

要件

①労使協定(貯蓄金管理協定)を締結し、所轄労働基準監督署に届け出ること
②貯蓄金管理規程の作成・周知義務
③社内貯金であれば利子をつけること(利率の最低限度は年5厘)
④社内貯金をする使用者は毎年3月31日以前1年間における預金の管理状況を4月30日までに所轄労働基準監督署に報告すること
⑤労働者が返還を請求したときは遅滞なく返還すること

社内貯金 通帳保管
労使協定の締結 必要(届出も必要)
貯蓄金管理規程 必要(届出は不要・周知は必要)
最低利率(年5厘)の義務 あり なし
管理状況報告 あり なし
貯蓄金保全措置 あり なし
中止命令 可能

2.注意すべき点

以上の通り、各条文上は、禁止事項が記載されていますが、いずれも労働者の意に反する強制労働の禁止を趣旨とするものですので、その趣旨に反しない場合は、規制が及びません。

そのため、既に述べたように、第16条(賠償予定の禁止)については、現実に起きた損害について賠償する予定であることを記載しても問題ありませんし、第17条(前借金相殺の禁止)は労働者が望めば債権と賃金の相殺は問題ありません。

第18条(強制貯金)に関しても労働者が望んで、使用者側がそれに応じ諸制度を整備すれば良いわけです。

3.まとめ

以上の通り、労働基準法では、労働者の不当な身体拘束を禁止するために各種制限がなされています。

世の中の企業には、この規制を知らずに、これらに抵触する内容の就業規則や誓約書を使っている会社が多数あります。

これらの書式は、何か企業にとって損害があった時のための事前対策として設けられていることが多いですが、その対策についての記載方法に問題があっては元も子もありません。

改めて、労働者にとって不利になっていたり、規則・誓約書により労働者を拘束してしまっていたりしていないかどうかを確認する必要があるでしょう。
また、労働者側も自分が知らないうちに拘束されている状況に追い込まれていないかどうか確認してみても良いかもしれません。

2019.04.10

従業員の退職に伴い必要な手続きと解雇について

従業員を採用するとき同様、従業員が退職するときにも従業員に対する手続き、年金事務所・ハローワークに対する手続きなどを行わなければなりません。

今回は、これらのような退職に伴い必要になる手続きと、それに関連して、従業員の解雇について詳しくご説明します。

1.退職時に必要な手続き

(1)従業員に対する手続き

従業員の退職が決定したら、退職届を提出してもらいます。この際、トラブルに発展することがないように、必ず書面で受け取りましょう
入社時にマイナンバーが分かる書類(マイナンバーカード、マイナンバーが記載された住民票の写し等)を提出してもらっていない場合は、それも受け取ります。
そして、退職日以降に、本人及び被扶養者分の健康保険被保険者証を回収します。
回収した健康保険被保険者証の取扱いについては、(2)社会保険・雇用保険の手続きでご説明します。

 また、退職の年月日と理由を労働者名簿に記載する必要があります。
死亡した場合には、その年月日と原因を記載します。

(2)社会保険・雇用保険の手続き

①社会保険

退職の翌日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」に回収した健康保険被保険者証を添付して、所轄の年金事務所に提出します。
もし、従業員が健康保険被保険者証を紛失している場合は、代わりに「健康保険被保険者証回収不能(滅失)届」を提出しましょう。

②雇用保険

「雇用保険 被保険者資格喪失届」と、従業員から離職票の交付を希望しない旨の申し出がない限り「雇用保険 被保険者離職証明書」を準備します。
そして、退職の翌日から10日以内に、出勤簿、労働者名簿、賃金台帳、退職届など退職理由を確認できる書類を添付した上で、所轄のハローワークに提出します。
この離職票とは、失業手当を受けるために必要な書類です。
提出すると、「資格喪失確認通知書」、「雇用保険被保険者離職証明書」、「離職票-Ⅰ」、「離職票-Ⅱ」、パンフレット「離職された皆様へ」が交付されるので、離職票とパンフレットを速やかに本人に郵送しましょう。

(3)給与関連の手続き

退職日以後1か月以内に「源泉徴収票」を本人に交付します。
従業員が死亡したことによる退職の場合、死亡時にまだ支給期が到来していない給与については、所得税や住民税は非課税ですので、源泉徴収票には記載しません。

また、住民税を給与から特別徴収している場合には、「給与所得者異動届出書」を作成します。1月1日から5月31日までの間に退職する場合には、未徴収税額を最後の給与や退職金から一括して徴収します。
5月中に退職する場合、未徴収分はひと月分ではありますが、一括徴収の方法により納めることになります。

6月1日から12月31日までの間に退職する場合には、本人が自分で納付する「普通徴収」、最後の給与や退職金から差し引く「一括徴収」、特別徴収税額を次の会社に引き継ぐ「特別徴収の継続」のいずれかを選択できるので、本人に確認します。

普通徴収または一括徴収の場合は、退職した月の翌月10日までに本人の居住地の市区町村に提出します。
特別徴収の継続の場合は本人に渡し、次の会社に提出してもらいましょう。

2.解雇事由と解雇予告

これまでは、従業員が退職するときに必要な手続きについて説明してきました。ここからは、退職に関連して、経営者が気になる「解雇」についてお話します。

雇っている従業員の勤務態度などに問題があると分かった場合、会社はすぐに解雇できるのでしょうか。
実は、解雇するためにはいくつかの条件があります。それは、①解雇に正当な理由があること、②就業規則に記載されている「解雇の事由」に該当すること、③解雇禁止事由に該当しないこと、④少なくとも30日前に解雇予告を行っていることです。

③の解雇禁止事由に関して、例えば、労働基準法19条において、業務上の怪我や病気により休業する期間や産前産後の休業期間とその後30日間は解雇してはならない旨が定められています。
他にも、育児・介護休業法10条においては、育児休業の申出をしたことや、育児休業をしたことを理由に解雇してはならない旨が定められています。

次に、④の解雇予告について詳しくご説明します。
前述したように、解雇するときは少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません。
解雇の予告をしない場合は、「解雇予告手当」として、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。20日前に解雇の予告を行い、10日分の手当を支払うといったように、手当を支払うことによって日数の短縮をすることもできます。

ただし、解雇予告については、労働基準法20条に例外が定められています。
それは、①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合です。
これらの場合は、解雇予告を行わなくても解雇することができますが、所轄の労働基準監督署から「解雇予告の除外認定」を受けなければならないということに注意してください。

それでは、「試用期間中」の場合はどうなるのでしょうか。
あくまで試用期間なのだから、簡単に辞めさせることができるとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、試用期間であっても、労働契約が成立している以上、解雇する正当な理由が必要です。
この場合でも、解雇予告をする又は解雇予告手当を支払う必要がありますが、採用から14日以内の試用期間中の場合であれば、解雇予告は不要です。

最後に、解雇をすると、一定期間助成金を受けられないというデメリットがあるので、注意しましょう。

3.まとめ

従業員を雇う以上、いつかは退職する日が来ます。
何のトラブルもなく、気持ちよく退職してもらえるよう、スムーズに手続きを行うことを心がけましょう。

また、従業員の解雇のお考えの方も、安易に解雇を決めると労使関係が悪化してしまうかもしれません。
まずは、従業員と話し合うなどして、解決する方法がないか考えてみましょう。

2019.04.10

労働時間とは~どこからどこまで?~

現代では、過重労働や未払い残業代によって労働時間というものが取り沙汰されていますが、そもそも労働時間とはどこの部分を指すのでしょうか。
休日の自学自習の時間、研修への参加、休憩時間、待機時間などが労働時間に当たるとして、裁判になっているケースも多々あります。
ここでは、この労働時間の該当性というものについて考えていきたいと思います。

1.過去の判例

労働時間の該当性をめぐっては、過去さまざまな裁判が行われてきました。
例えば、電気設備の設計を行う会社において、「自社の製品を家族や親せきに販売しましょう」という取組に要した時間、「WEB上での学習に要した時間」が労働時間に該当するとして時間外・休日労働手当が請求されたという事案です。

会社側は完全任意であり、業務命令でもないため、労働時間には該当しないと主張しました。
しかし判決では、①一人ひとり年間の売り上げ目標が設定されていた②上司が達成状況を評価していた③達成状況が社内システムで把握されていたなどの点をふまえて、これらは指揮監督下にあったとして、割増賃金を支払うよう命じました。

また、WEB上での学習に関しても、会社側は単なる自学自習であるため労働時間ではないと主張しましたが、結果としては労働時間であると判断されました。

理由としては、①学習内容と業務内容が密接に関連していたこと②上司がこの学習によるスキルアップを明確に求めていたこと③学習状況が管理されていたことが挙げられていました。

2.業務性と労働の過密性

過去の判例をみていくと、ある観点から判断がなされており、それは「業務性」「労働の過密性」という2点になります。

そもそも労働時間とは、過去の最高裁の判例で次のとおり示されています。

「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」

(三菱重工業長崎造船所(一時訴訟・会社側上告)事件=最判平12・3・9労判778・11)

つまり、労働者が使用者の指揮監督下にある状況を労働時間と定義づけたのです。

そのため、裁判の傾向としては、研修時間や休日の自学自習等の時間が業務性、つまり使用者側からの明確な指示に基づいたものであったかどうか、日々の業務と密接に関わっている内容かどうか、というところで判断されてきています。

また、労働時間には具体的な作業をしている時間だけではなく、待機時間や手待ち時間も含まれていますが、休憩時間は労働者が自由に使える労働から完全に解放された時間のことを前提としていますので、労働時間とは考えられておりません。

しかしながら、「完全に解放された時間」という定義のため、その休憩時間が労働時間であったとして裁判になった事例も多々あります。

例えば、ビルの警備員が休憩や仮眠の時間も労働時間に当たるとして時間外割増賃金を求めてきた事案がありました。

判決では、①休憩中であっても警備室に来訪する人の対応、電話の対応をしなければならなかった ②勤務中の同僚のサポートをするよう定められており、実質行動が制限されていた ③仮眠時間の帰宅を禁止されていた ④不測の事態がおこったときに直ちに動けるよう制服等を着用したままだった という点が挙げられ、本件においては労働時間に該当するとの判断が下されました。

一方で、休憩時間や仮眠時間が労働時間ではなかったと判断された事例もあります。
こちらもビルの警備員ですが、①仮眠室で寝間着に着替えて仮眠をとっていた②不審者等の対応が必要になっても勤務中の警備員が対応し、仮眠中の同僚を起こすことはなかったなどという事実関係があったため、この時間は自由を与えられ業務を完全に手放せていたとみなされました。

3.その他事例

実務において、休憩時間や研修時間だけではなく、労働時間に当たるのかどうかの判断が難しい時間があります。
例えば、業務開始前の着替えや清掃、業務終了後の片づけが労働時間に含まれるのかがよく問題となります。
扱い方としては、ここでも使用者側の指揮命令によって、それらが義務的になされているのかで判断します。

研修や朝礼、ミーティング等については、参加の自由が完全に認められていれば、原則として労働時間には該当しません。

しかしながら、以下の状況が少しでもみられるのであれば、労働時間とみなされる可能性があります。
①上司からの指示
②昇給に影響する
③職場の雰囲気的に参加せざるを得ない状況

また、出張に伴う移動時間は、労働をする場所への通勤と判断されるため、労働時間ではないとされています。
ただ、その移動に業務の意味合いが含まれている場合、例えば荷物の運搬が出張の目的だったりするのであれば、その移動時間は労働時間に該当された判例があります。

4.まとめ

労働時間と一括りにいっても、労働時間とみなされる時間、みなされない時間があり、実務での取扱はなかなか難しいというのが現状です。

裁判所の判断ポイントは、やはり使用者の指揮監督下にあったかどうかが重視されていますので、明確にするように心がけましょう。

2019.04.05

【不動産】区分所有建物の管理(後編)

前編では、管理組合の概要について見ていきました。

後編では、区分所有建物を実際に管理する上で重要となる「規約」と、管理組合の内部の役割、そして管理を外部に委託する場合に利用される「管理会社」について解説していきます。

前回の記事はこちらから→「区分所有建物の管理(前編)

1 管理規約

(1)規約の意義・効力

区分所有者の団体、つまり管理組合は、規約を定めることができ、その規約は区分所有者から物件を購入した特定承継人や占有者に対しても効力が生じます。

規約は、区分所有建物にかかる権利義務の根拠となり、法律関係を整理する際の出発点となるとても重要な存在です。

(2)規約の設定・変更・廃止

規約の設定・変更・廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数の決議により行われます。

(3)規約の対象事項

規約は、建物又はその敷地、附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項について定めることができます。

区分所有法は、規約の対象を区分所有者の共有に属するものに限定せず、「建物」「その敷地若しくは附属施設」としています。
さらに、「管理」だけでなくそれらの「使用」についても規約の対象事項としています。

したがって、「管理」に関する事項として、専有部分に属する配管の点検を管理組合が行うことを可能にすることも、「使用」に関する事項として、ペット飼育を制限し、あるいは、専有部分の用途を住居のみに制限することも可能となるのです。

(4)規約の限界

規約の設定、変更または廃止の決議について、一部の区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすべき時は、その承諾を得なければなりません。

また、規約では専有部分若しくは共有部分又は建物の敷地若しくは附属施設について、これらの形状、面積、位置関係その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定められなければなりません。

なお、この規約の衡平性の関係では、専有部分の面積と無関係に定められた管理費・修繕積立金の負担などが問題となりえます。

(5)マンション標準管理規約

マンション標準管理規約は、規約のモデルとして、国土交通省により作成され、公表されており、実際に多くのマンションの管理規約の参考にされています。(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

2 管理者(理事長)

管理者は、規約による別段の定めまたは集会の決議により、選任・解任され、①共用部分、区分所有者の共有に属する建物の敷地及び共有部分以外の付属施設を保存し、②集会の決議を実行し、③その他規約で定められた権利を有し、義務を負い、④その職務に関し、区分所有者を代理するものと定められています。

なお管理者の権限のうち、共用部分若しくは区分所有者の共有に属する建物の敷地等を保存する行為は、集会の決議などを経ることなく行うことができます。

3 理事・監事

法人化された管理組合においては、区分所有法上、理事は管理組合を代表する必須の機関であり、監事も、その執行等を監査する必須の機関であるとされていますが、法人化されていない管理組合では、理事・監事の規定を置いていません。

ところが実態として、多くのマンションでは規約により理事・監事が設置されています。マンション標準管理規約では、理事は理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当するとされ、理事会は、収支決算案等の総会提出議案を決議するといった役割を担っています。
監事は、一般的な法人と同様に業務の執行及び財産状況の監査を担当します。

4 管理の委託(管理会社)

・管理委託契約(標準管理委託契約書)

マンション標準管理規約においては、管理組合の業務として、管理組合が管理する敷地並びに共用部分等の保安、保全、清掃、消毒、ごみ処理やその他修繕の他、長期修繕計画の作成または変更、敷地及び共用部分等の変更及び運営、修繕積立金の運用など、多くの業務が列挙されています。

また、他にも、理事会の業務として、収支決算・予算案、事業報告・計画案、規約・使用細則などの変更案の作成など相応の知識が無ければ遂行が困難な業務が列挙されています。

そこで、マンション標準管理規約では、管理組合は、その業務の全部または一部をマンション管理業者等の第三者に委託し、または請け負わせ執行させることができると定めており、実際のところ、多くのマンションでは管理組合の業務をマンション管理業者に外部委託しています。

理事会・総会の運営についても、マンション管理業者の担当者が会議に出席し、その議事を補助ことが多く、総会の招集手続きも業者が代行することがほとんどです。

このように、管理組合の業務やその運営についての助言や事務の代行を管理会社に委託する契約が管理委託契約であり、管理組合と管理会社との法律関係はこの管理委託契約がその出発点となるのです。

管理組合と管理会社の間で発生するトラブルとして、例えば委託の範囲の理解についての齟齬が原因とみられるものが挙げられます。
両者の法律関係を整理するには、まずは管理委託契約の内容を確認することが必要となります。

なおこの点については、国交省が、管理委託契約の内容を適正化するためにモデルとして「標準管理委託契約書」を公表しており、同省のホームページからダウンロードすることができます。(http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000011.html

2019.04.04

SNSトラブルを防ぐ、ルール作りとチェック体制

気をつけたい企業におけるSNSトラブル」という記事でも前述しましたが、個人アカウント、企業アカウントに関わらず適切にSNS利用するためには、企業側でトラブルに対処できるような就業規則やガイドラインを作成し、従業員に周知させ、社内でチェックすることが重要です。

今回はSNSトラブルにも適応できる就業規則、ガイドライン作成のポイントと社内教育、社内チェック体制についてご紹介します。

1.就業規則を作成するポイント

就業規則に記載されているものは、労働者(従業員)の労働条件であり、懲戒処分などの人事措置を示す根拠でもあります。万が一、従業員がSNS上で問題を起こし、それが企業に多大な不利益を与え、重大な問題となった場合、就業規則に則って懲戒処分を検討せねばなりません。

ただ、SNSに限定した内容を就業規則に細かく記載してしまうと、流れの早いSNSのサービスに対応できず、何度も内容の変更をしなければならなくなってしまいます。
前述のとおり、就業規則を変更するには大変な時間と手間がかかるため、就業規則を作成する際には、SNSでの禁止事項を踏まえた一般的な内容にしていくことが重要です。

例えば、服務規律を定めた項目で「勤務中は業務に専念すること」等を記載すれば、業務中に不適切な行為を撮影し、SNSにアップすることが規則違反であると示すことができます。

他にも、機密保持の項目で情報の厳重管理と私的漏えいの禁止を定めることにより、SNSからの情報漏えいを防ぎ、また電子機器管理の項目では、社内PCや貸与されたスマートフォン等へのソフトやアプリの無断インストール禁止などを設けることで、貸与機器でのSNSアプリ等の使用禁止などを示すことができます。

このように、一般的に守るべき規則として記載し、SNSで生じたトラブルに対しても規則に則れるようにしていきましょう。

2.各ガイドラインを作成しましょう

(1)私的利用についてもガイドラインが必要

おおまかなルールについては就業規則で取り決め、SNSを利用する上で気をつけるべき注意点はガイドラインに記載し、適宜改正しながら運用していきましょう。

重要なのは、アルバイトやパートといった全ての従業員に対して周知してもらうよう、わかりやすく、端的に説明することです。高校生や大学生など、若い世代の人にも理解できるような文章、そして内容も長すぎると読み流されてしまうため、要点を絞ってまとめていくとよいでしょう。

具体的な内容としては、「なぜこのようなガイドラインを設けるのか」「SNSとはどのようなWEBサービスのことを指すのか」「その特徴はどんなものか」等を記載し、SNSを知らない人にも、これから利用するかもしれない人にも分かるように作成していきます。

そして一番重要な「SNSを利用する上での注意点」については、社外秘の情報、顧客情報をSNSに投稿しない勤務時間中はSNSにアクセスしない、など勤務中に起こりうる行為に対して注意を促し、また飲食店では、「有名人が来店したとしてもSNSにアップしない」など業種やサービスに合わせた内容で作成していきましょう。

事例を挙げ、読む側に想像させることで自分自身の事とし、従業員として会社に与える影響が大きいということを認識してもらうという点がポイントです。

(2)公式アカウントを運営する上でのガイドライン

公式アカウントがある企業では、運用していく際の注意点、守るべき点を従業員向けのガイドラインと区別して、公式アカウント用に作成するのが望ましいです。

いつどのようなときに、どのような内容で投稿するのか、SNS上での顧客とのやり取りの方法、トラブルが起こった際の対処法、投稿はどの端末から行うのか(個人所有のものを利用していいのかどうか)などを取り決めていきましょう。

先述したように、SNSの特性上、全ての投稿内容を上長が確認し許可を与えるというのは現実的ではありません。
しかしながら、企業の業績や売上に関わる新商品や新サービスの告知等の際には、「投稿の最終確認作業を複数人で行うこととする」といった内容にしておけば、誤った情報の拡散予防にもなります。

SNSの公式アカウントには、企業の広報的な意味合いが強いもの、担当者の性格が出やすいものなど、様々なアカウントが存在します。それぞれのタイプに合わせた内容にし、例外のないようにガイドラインを作成していきましょう。

3.SNSへの取り組みを外部へアピールする

社内へのSNS対応に加えて、外部へ取り組みをアピールする上でしておきたいのがソーシャルメディアポリシーの作成です。WEBで「ソーシャルメディアポリシー」と検索すると、様々な企業のソーシャルメディアポリシーを見ることができます。

内容としては、「各SNSの公式アカウントがあること」「SNSに対する考え方」「社員への対応」についてなどです。これらを企業のWEBサイトに掲載することで、SNSへの取り組みをしている企業としてアピールでき、トラブルが起こった際にも、企業としての方針を記載しておけば対処している姿勢を示すことができます。

さらに、新商品の情報などは、企業が正式に運営しているサイトやアカウントからのみ行うことや、運営しているWEBサイトやSNS上での意見やクレームの連絡先を掲載することで、誤った情報が予期せず広まるのを防ぐことができます。

4. 社内教育と社内チェック体制の重要性

適切な私的利用、公式アカウント運営をするには、社内での研修や講習を行うのが望ましいでしょう。
新入社員に対しては、その企業に則した利用ができるよう、入社時点での研修等に盛り込むことでSNSが企業に対して与える影響の強さなど、認識を強く持ってもらう機会にもなります。もちろん、アルバイトやパート従業員に対しても入社時に研修を行い、全体で研修内容を把握することが大切です。

講師はSNSに通じた社員や外部講師でも良いですし、肖像権や著作権などに関係する問題も多いため弁護士に依頼するという手段もあります。

就業規則やガイドラインの説明、弁護士に依頼する場合は事例なども紹介し、「自分の身になって考える」というポイントで研修を進めていくと良いでしょう。

研修後は誓約書に署名し、企業の一員であるという意識を強く持ってもらうことも重要です。
社内でのSNSチェックについては、広報担当や管理部門が業務の一環として、いわゆる「エゴサーチ」(自社名、サービス名で検索し関係性を確認)もしくは「モニタリング」(社内PCが適切に使用されているか)を行い、問題が生じた場合には削除依頼や指導等の対応をとる方法、外部専門業者にチェックを依頼する方法、などが挙げられます。

また、公式アカウントで問題が発生した場合、調査対象として投稿した端末やメール等のチェックも行うと原因の究明につながります。

ただし、調査が行き過ぎてしまうとプライバシーの侵害となる可能性もありますので、どの段階までを調査し違反と判断するのかをガイドラインに明示するなど、従業員も配慮し行うことが重要です。

5.まとめ

今回はガイドラインの作成、社内チェック体制などについて説明しましたが、いかがだったでしょうか。企業の管理部門や総務の担当をされている方は、この先起きるかもしれないトラブルへの予防策として、対応が後手にならないよう、ガイドラインについては速やかに作成していきましょう。

次回は、トラブルが起こってしまった際の対処方法についてご説明します。

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