弁護士コラム

2024.03.07

相続放棄をする理由

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当事務所は、相続を専門として取り扱っているため、日々相続に関する様々なご相談が来ます。 その中で、相続放棄をしたいというご相談も非常に多くいただいています。

みなさんは、相続放棄をしたいと考えてご相談に来られる方はどんな方が多いと思いますか?今回は、相続放棄を行う理由等についてご説明させていただきます。

相続放棄とは?

まず、相続放棄について簡単に説明します。
相続とは、ある人が亡くなった時に、亡くなった人の財産を特定の人(相続人)が引き継ぐ(承継する)制度をいいます。

そして、相続放棄とは、相続人が、被相続人からの上記財産の承継(相続)を拒否する制度です。
相続放棄をすることで、相続人は初めから相続人ではなかったことになるため、被相続人からの財産の承継をしないことになります。

相続放棄をする理由

まず、法律上、相続放棄をする理由に制限はありません
したがって、どのような理由であっても相続放棄をしたいと考え、相続放棄の申立を家庭裁判所に行うことにより(相続放棄の申述といいます)をすることで、相続放棄をすることが可能となります(なお、相続放棄は、「相続の開始があった」後にする必要があるので、被相続人の生前に相続放棄をすることはできません。)。

例えば、被相続人の財産が何億円もあるという状況であっても、相続放棄をすることは可能になります。
以下では、よくある相続放棄の理由についてご説明させていただきます。

マイナスの財産の方が大きい場合

先ほど、相続とは、被相続人の財産を承継する制度とお伝えしましたが、財産とは、プラスの財産だけではありません。 借金などのマイナスの財産も相続することになります。
そして、被相続人の財産について、マイナスの財産の方が大きい場合やマイナスの財産しかない場合には、相続人がマイナスの財産を受け継ぎ、借金などを返済しなければならないことになってしまいます。

こういった場合には、相続放棄をすることで、債務の返済義務を免れることができます。 相続放棄をする理由で一番多いと感じています。

押印

管理が困難な財産がある場合

上記のような、マイナスの財産ではないものの、例えば、離島にある山林などのように、売却も困難であるような不動産の場合には、遠隔地に住んでいる相続人からすると、毎年固定資産税のみ発生する不動産となり、マイナスの財産と大差ない財産となってしまいます。
このような財産を相続してしまうと、自分の配偶者や子どもなどの家族にも迷惑をかけてしまうため、相続放棄をすることで、このような不動産を承継することを防ぐことができます。

相続人間の関係性が悪く争いになるのを避けたい場合

上記2つのように、相続すべき財産が存在しない場合だけでなく、十分な相続財産がある場合であっても相続放棄をするという方はいらっしゃいます、相続財産を相続するためには、相続人全員で、遺産分割協議を行う必要がありますが、相続人間の関係性が悪く、話し合いや争いごとをしたくないと思う場合には、相続放棄をすることで、相続人ではなくなるため、相続人間の紛争から逃れることができます。
もっとも、相続人間の話し合いについては、代理人として弁護士をつけることで本人が対応しなければならないという事態は避けられるため、是非弁護士にご相談ください。

その他

相続放棄をされる方の多くが上記3つの理由のどれかですが、あまりないレアケースとして、相続税の支払をさけるためという理由で相続放棄をする人もいらっしゃいます。
例えば、相続財産の換価が難しいが広大で非常に価値の高い不動産しかない場合には相続税は発生するものの、その相続税を納税するための資金(現金)がないという場合があります、そういった場合には、相続放棄を行うことで、相続人でなくなるため、相続税の申告義務を免れることができます。

最後に

このように、相続放棄は、負の財産の承継を防ぐことができたり、相続人間の不要な争いから逃れることができたりなど、メリットも多いのですが、その反面、プラスの財産についても取得することができなくなってしまいます。
相続放棄については、戸籍の収集や申立書作成等の手間もかかるうえ、そもそも相続放棄すべきかという点も検討しなければならないため、相続でお悩みの方は、是非、当事務所にご相談ください。

 

執筆弁護士紹介 後藤祐太郎

 

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記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。

 

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2021.10.15

デジタル遺産に関するトラブル

皆さんは、デジタル遺産といった言葉をお聞きになったことはありますでしょうか。

デジタル遺産に関するトラブル高齢化社会といわれる現代において、相続、すなわち、自身や家族が亡くなった際のことが、世間で注目されるようになってきたため、テレビのニュースなどでも報じられるようになり、デジタル遺産という言葉を耳にされた方もいらっしゃると思います。

 

デジタル遺産とは、一般的には、仮想通貨やFXのアカウントや電子口座、SNSのアカウント、スマートフォンのアカウントなど、デジタル形式で保管されている財産のことをいいます。

通常相続手続というと、預貯金や、不動産、投資をしている方等は投資用の口座などが相続財産というイメージがあると思います。

上記のようなネットワークを通じての財産を保有されている方も非常に増えているため、このようなデジタル遺産についても、生前にきちんと整理しないと、残されたご家族に多大な迷惑をかけてしまう可能性があります。
そこで、今回はデジタル遺産に関するトラブルやそのトラブルが起きないようにするための対処法についてご説明させていただきます。

まず、デジタル遺産に関するトラブルが起きる原因は、そのほとんどが、お亡くなりになった方のアカウントのパスワードが分からないことが原因で起きています。

実際にあったケースとしては、以下のようなトラブルがあったようです。

CASE.1
ご主人がお亡くなりになったことをご主人のお知り合いにお知らせしなければならないのに、ご主人が知人の連絡先をすべてスマートフォンにのみ登録しており、奥様は暗証番号を知らなかったため、葬儀に呼ぶべき方をお呼びすることができなかった。

CASE.2
夫はネットでの動画や音楽の定額購入サービスや有料サービス等に多数加入しており、奥様は、ご主人の生前にどのようなサービスに加入していたかも一切把握していなかったため、亡くなった後、携帯やパソコンのパスワードがわからず、サービスを提供する会社に連絡することができず、毎月多くの料金が引き落とされてしまった。

CASE.3
夫がFXや仮想通貨を持っていることを知らず、夫が亡くなってしばらくして、そのような暗号資産等をもっていることが分かった。
しかし夫が亡くなった時点では、ある程度価値を有していた暗号資産が夫の死後放置していた期間に暴落してしまった。相続税の算定の際には、被相続人が死亡した日の価額を基準に相続税を算定するため、他の財産と併せて、多くの相続税を支払わなくてはならないが、暗号資産が暴落してしまったため、その他の相続財産や、妻本人の財産から相続税を支払うことを余儀なくされた。

 

デジタル遺産に関するトラブルこのように、デジタル遺産に関し、親族がパスワード等の情報を知らないことにより残された親族に対し、非常に大きな迷惑をかけてしまうケースが非常に多く発生しています。

特に、CASE.3では、本来全財産を基準とすると相続税の申告及び納税が必要であるにもかかわらず、暗号資産の存在を知らずに相続税の申告は不要であると考えて、放置していた場合、本来の相続税のみならず、無申告加算税・重加算税・延滞税等多額の税金を支払うことにもなりかねません。

このように、残されたご遺族の方にご迷惑をおかけしないためにも、ご自身の終活を考えられている場合には、きちんとデジタル遺産に関する対策も行う必要があります。

具体的には配偶者やお子さん等身近な家族には、自分にはどういった財産があることや、どういったサービスを利用しているか、アカウントのID、パスワードなどを一覧にしたメモ等を準備し渡しておくなどし、残されたご家族において、どこに何があるのかということすらわからない状況をなくすことが有益であると思います。

デジタル遺産に関するトラブルもっとも、日本人の場合には、アメリカ等の諸外国と異なり、自身や親族が亡くなった後のことを生前に話すことを縁起が悪い等の理由により敬遠される方が非常に多いです。

 

しかし、デジタル遺産を含めたご自身の財産や債務などをきちんと整理しておかないと、ご自身が亡くなったことだけでもご遺族は悲しまれているのにさらにご迷惑をおかけしてしまうということは、ご本人も絶対に避けたいはずであるため、きちんと整理することが必要であると思います。

そこで、ご親族などに事前に情報をお伝えすることに抵抗がある場合には、遺言書を作成することをおすすめします。

遺言では、原則としてお持ちの財産についてはすべて列挙し、それを誰に相続させるかについて記載することになるため、遺言で全ての財産について記載しておけば、残されたご遺族において、どのような財産を有していたかについては遺言書を見ればすぐにわかることになります。

また、遺言には、上記財産の帰属先などの遺言の本旨として記載すべき事項以外にも、ご家族への今までの感謝の気持ちや、遺言書を作成するに至った思い等を記載することも可能です(これを「付言事項」といいます。)。

この付言事項において、どういったアカウントを有していたか、パスワードの等の個人情報の保管場所等について記載をしておくことにより、ご遺族に上記のようなトラブルが発生することを防ぐことができると思います。

当事務所は、遺言書の作成等相続事件を専門的に取り扱っておりますので(博多駅に隣接するKITTEマルイの5階にて「相続LOUNGE」も運営しております。)、デジタル遺産も含めた相続に関するお悩みについては、是非当事務所にご相談ください。

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2020.04.14

【相談事例65】産まれた前後で大違い(養子の子と代襲相続)

【相談内容】

先日、祖父が亡くなりました。祖父には私の父を含め2人子どもがおり、私の父は祖父よりも先に亡くなっていました。もう1人の子(私の叔父)は存命です。

実は、父は祖父の実の子ではなく、私が産まれてしばらくしてから養子縁組を行っています。私には弟がいるのですが、弟は父と祖父が養子縁組を行ったあとに生まれています。

父が祖父よりも先に亡くなっているので、私は代襲相続人という立場になり相続できると思うのですがどうすればいいでしょうか。

【弁護士からの回答】

結論からお伝えすると、ご相談者様はおじいさまの財産を相続することができません。
今回は、養子の子が代襲相続人になることができるかという問題についてご説明させていただきます。

1 代襲相続

民法878条1項では「被相続人の子は、相続人となる。」と規定しており、2項では、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき」は、「その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と規定しており、代襲相続について規定しています。

この規定だけを読むと、ご相談者様のお父様はおじい様よりも先に亡くなっているので、ご相談者様も代襲相続人になるようにも思えます。

2 養子と直系卑属の関係

もっとも、民法878条2項但し書きでは、「被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」と規定しており、被相続人の子の子であっても被相続人の直系卑属でない人は代襲相続人にならないと規定しています。

そして、養子縁組について定めた民法727条では、「養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。」と規定しています。
すなわち、養子縁組を行った日に養子と養親(養親の血族)との間には親族関係が発生することになり、養子は養親の直系卑属になります。
しかし、民法727条では、養子と養親との間の親族関係については規定していますが、「養子の子」と養親との間の親族関係については何ら規定していません。

養子縁組をするときにすでに生まれている養子の子については、自らの意思に反して新たな親族関係が結ばれるべきではないとの理由から、養子縁組前に生まれた養子の子は、養子の親との間に血族関係はないと判断されています。

これに対し、養子縁組後に生まれた養子の子については、血族関係にある養子から生まれてきているため、養子の親との血族関係が認められると判断されています(大判昭和7年5月11日)。

これをご相談者様の事例でみると、ご相談者様は養子縁組をする前に生まれてきているので、養親(おじい様)との間に血族関係はなく、残念ながら代襲相続人にはなれません。

これに対し、ご相談者様の弟様は、養子縁組後に生まれているため、代襲相続人になれます。

生まれたのが養子縁組を行った前か後かということのみをもって、代襲相続人になれるか否かという非常に大きな問題に影響を及ぼすことになります。

もっとも、ご相談者様ご本人がおじい様と直接養子縁組を結んでいれば、子として相続人になることができます。

このように、誰が相続人になるのかという問題は、簡単なように見えて非常に複雑な問題があるため、相続が発生した場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

 

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2018.09.10

特別受益について~要件①~

【ご相談者様からのご質問】

 先日,父が亡くなりました。相続人は私と兄の2名です。兄は結婚しており,私は独身なのですが,父は,生前,兄の子供を非常にかわいがっており,兄の子供に対しては,私立の中学,高校,大学の費用のみならず,大学での1人暮らしするための家賃,生活費,お小遣い等全て父が支払ってきました。兄自身がなにかもらっていたわけではないのですが,父の援助は特別受益にはあたらないのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 弁護士オフィス今回から,複数回にかけて,特別受益についてご説明させていただきます。

 今回は,どのような人が特別受益者に該当するかについてご説明させていただきます。

 

 

1 条文上の要件

 民法903条1項では,「共同相続人」と記載されていることから,共同相続人が特別受益者の対象になることは間違いありません。したがって,血縁者は当然ですが,養子縁組をした場合の養子,養親についても,特別受益者に該当することになります(この点,養子縁組の場合,養子縁組後の贈与などが特別受益に該当することは当然ですが,裁判例上,養子縁組前に取得した財産についても特別受益になると判断した裁判例がありますが,縁組前については,確定的な判断がなされているものではありません。)

 

2 相続人の配偶者や子に対する贈与について

 では,被相続人が,相続人に対してではなく,相続人の配偶者に贈与した場合や,ご相談者様の事例のように,被相続人が相続人の子(孫)に贈与していた場合には,共同相続人の特別受益と評価することができるのでしょうか。

 この点については,最高裁判所の判例があるわけではないため,確定的な結論があるわけではなりません。しかし,特別受益の制度の趣旨は,共同相続人間の公平を図る点にあることから,裁判例上,実質的に被相続人から相続人に対する贈与されたものと評価することができる場合には,配偶者や子に対する贈与であっても被相続人に対する特別受益であると判断されています。

 具体的には,贈与の経緯,贈与額,贈与の性質,贈与により得られる相続人の利益等を考慮して判断することになります。裁判例においても,ご相談者様の事例のように,孫の学費及び生活費については,本来であれば,扶養義務を負っている相続人(父)が負担すべき費用であり,当該贈与により相続人は学費や生活費を負担する必要がないという利益を得ていることから,特別受益に該当すると判断されています。 

 このように,相続人以外に対する贈与等についても特別受益に該当する可能性があるため,是非一度弁護士にご相談ください。

 

 

2018.09.07

特別受益と寄与分について~総論~

【ご相談者様からのご質問】

 先日,父がなくなりました。相続人は私と弟の2名です。父の相続財産は,預貯金が500万円のこっています。私としては,この500万円を弟と2分の1ずつ分ければいいと思っていますが,私は10年前に結婚するときに,父にお祝いとして200万円をもらっています。弟は,自分は結婚しておらず,父からなにももらっていないので,不平等ではないかと主張しています。相続財産は父が死亡した時点での財産を分けるので,私の考えで間違いないと思っています。

 それに,私は,認知症で,動くことができない父を,5年以上も1人で面倒を見てきていたにも関わらず,弟は一切父の面倒を見てきませんでした。父の病気の入院費や手術費も全部私が支払っています。私への贈与を問題にするなら,私の介護や費用の支出についてはどうなるのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

那珂川オフィス② これまで,複数回にわたり,相続財産についてご説明させていただきました。通常,遺産分割は,この相続財産を法定相続分にしたがって,分割するのですが,例外として,相続財産には該当しない内容を,相続人間の公平の観点から,相続財産とみなすという制度が民法上,特別受益と寄与分という制度により認められています。遺産分割の場面では,この,特別受益と寄与分について非常に親族間で揉めることが多く,論点も多岐にわたるため,今回から複数回にかけて,特別受益と寄与分についてご説明させていただきます。今回は,特別受益と寄与分に関する総論的なお話をさせていただきます。

 

1 特別受益について

 特別受益とは,民法903条に規定されており,被相続人から遺贈を受け,または婚姻,縁組のために贈与を受けることや,生計の資本のために贈与を受けることをいいます。

 被相続人から生前に贈与を受けている者(特別受益者といいます。)が他の相続人と同様に,相続財産から受け取ることができるとなると,他の相続人との公平を害するという考えからから,相続人間の公平を図るために設けられた規定です。

 

2 寄与分について

 寄与分とは,民法904条の2に規定されており,共同相続人の中に,事業に関する労務の提供,財産上の給付,療養看護等により,被相続人の財産の維持,増加に寄与した場合をいいます。

 この寄与分についても,被相続人のために何もしていない相続人と寄与分のある相続人との間の公平を図るために設けられた規定です。

 

3 みなし相続財産について

 相続財産は,原則として,被相続人が死亡時に有していた財産を基準としますが,特別受益や寄与分が認められる場合には,特別受益の額を相続財産に加算し,寄与分の額を相続財産から控除します(相続財産に特別受益の額を加算し,寄与分の額を減額したものを「みなし相続財産」といいます。)。

 そして,みなし相続財産を,法定相続分に従い,分配した後に,特別受益者の場合には,分配後の金額から特別受益の金額を控除します(特別受益の金額の方が高い場合には,特別受益者の相続分は認められません。)。また,寄与分を有する人は,分配後の金額に寄与分の金額を加算します。

 ご相談者様の事例でみると(今回は,寄与分として100万円が認められるという前提でお話しします。),相続財産(500万円)に特別受益として,ご相談者様が結婚祝いにもらった200万円を加算し,寄与分100万円を控除した金額である,600万円がみなし相続財産となります。そして,600万円を2分の1ずつ分配することになります。したがって,ご相談者様の弟は,300万円の相続分を有することになります。これに対し,ご相談者様は,分配後の300万円から,と特別受益額を控除し,寄与分を加算した200万円の相続分を有することになります。

 特別受益と寄与分については,今後具体的なご説明をさせていただきますが,このように,特別受益と寄与分の内容によっては,相続する金額が大きく異なってきますので,是非一度,弁護士にご相談ください。

 

 

2018.09.05

相続財産と可分債権について②~預貯金債権について~

【ご相談者様からのご質問】

 先日,父が無くなりました。先日,父が亡くなりました(遺言書はありません。)。相続人は私を含めて,兄と姉の合計3人です。父の遺産は,銀行に貯金が600万円ありますが,それ以外の財産はありません。調べてみると,預金の契約をしている預金者は,預金の払い戻し請求権という債権を取得していることになるとのことでした。先生のブログでは,可分債権は遺産分割を経ずに相続されるとのことであったため,預金債権についても遺産分割は不要ですよね。

 

【弁護士からの回答】

那珂川オフィス 前回,可分債権については,相続により,法定相続分に従い当然に承継する旨ご説明しております。もっとも。預金債権については,近年最高裁判所にて,異なった判断がなされておりますので,今回は,預貯金債権の取り扱いについてご説明させていただきます。

 

 

1 預金契約について

 銀行等に口座を開設した際には,銀行との間で預金契約を締結していることになります。そして,預金者には,銀行に預けている預金を引き出すことができる債権(払戻請求権)を有していることになります。この払戻請求権のことを預金債権といいます。

 この預金債権については,金銭の支払いを求める債権であり,分割して請求することができる債権であることから,可分債権であることには間違いありません。

 したがって,可分債権である以上,これまでは,通常の可分債権と同様,遺産分割を経なくとも法律上当然に相続されると理解されていました。

 もっとも,銀行実務上,亡くなった方の預貯金を引き出すためには,遺産分割協議書若しくは,相続人全員の合意を必要とし,相続人単独での払戻請求については,応じていませんでした。

 

2 最高裁判所判例について

 このようななか,平成28年12月19日に,最高裁判所において,「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」との判断が出され,従来の預貯金債権に関する判例が変更されることになりました。判例変更の理由としては,遺産分割の場面においては,被相続人の財産をできる限り対象とするのが望ましいことや,上記でご説明した銀行実務上の取り扱いも理由とされています。また,預貯金債権であったとしても実質は現金と同じ取り扱いをされているという実情も踏まえた判断となっております。

したがって,ご相談者さまの事例においても,お父様の預貯金債権については,遺産分割の対象となり,被相続人名義の預貯金を引き出すには,遺産分割協議を行う必要があります。

 このように,何が遺産分割の対象になるかという判断についても,非常に専門的な知識を有するものであるため,相続が発生した場合には,是非一度,弁護士にご相談ください。

 

 

2018.09.03

相続財産と可分債権について①

【ご相談者様からのご質問】

 先日,父が亡くなりました(遺言書はありません。)。相続人は私を含めて,兄と姉の合計3人です。父の財産整理していたところ,父が,知り合いに対し,600万円貸したことが記載された借用書がみつかりました。貸金債権も,父が有していた財産であるため,遺産分割に関する協議をして分割する必要があるのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

弁護士 これまでは,相続財産に含まれない財産について,ご説明させていただきましたが,今回は,相続の対象になるものの,通常の財産とは異なる扱いになる,可分債権についてご説明させていただきます。

 

 

1 可分債権と相続財産

 まず,これまで説明したとおり,民法896条により,被相続人の一身専属の権利義務以外の財産に属した一切の権利義務が相続財産になります。

 そして,相談事例の貸金債権等のように,性質上分割することができる債権を可分債権といいます(逆に,動物の引渡しを請求する権利のように分割することができない債権を不可分債権といいます。)についても,一身専属の権利ではないため当然に相続の対象となることには間違いありません。

 そして,被相続人が遺言書を作成しておらず,相続人が複数人存在する場合には,被相続人の相続財産は,遺産分割の協議が整うまでの間,共同相続人間全員による,「共有」状態となります(民法898条,)。

 したがって,相談事例においても,被相続人の貸金債権についても共有状態となり,遺産分割協議により協議を行う必要があるようにも思えます。

 

2 可分債権と遺産分割の対象

 もっとも,実務上,可分債権については,判例上,不動産等の通常の財産とは異なる取り扱いがなされています。

 すなわち,可分債権については,他の財産と異なり,相続によって,当然に共同相続人に対し,各人の法定相続分にしたがって相続されるとされています。その理由としては民法427条において,可分債権において,債権者が複数存在する場合には,各債権者が等しい割合で権利を有すると規定されていることから,相続により,取得した場合も同様であると考えられているのです。

したがって,ご相談者さまの事例でも,貸金債権(600万円)については,遺産分割を経ることなく,法定相続分にしたがい,200万円ずつ相続されることになります。

もっとも,可分債権については,民法427条で,「別段の意思表示」がある場合には,別の割合によって取得されることになります。したがって,相続人全員が,可分債権について遺産分割の対象にすることに合意した場合には,法定相続分と異なる割合にて相続することも可能になります。

今回は,可分債権一般について,ご説明させていただきましたが,同じ可分債権であっても預金債権については,近年,最高裁判所にて異なった判断がなされております。次回,預貯金に関する取扱いについてご説明させていただきます。

 

 

2018.09.01

相続財産に含まれない財産

<ご相談者様からのご質問>

先日,父が亡くなりました。私が父の長男であったため,早急に父の葬儀を執り行いました。その際の葬儀費用は300万円程度だったのですが,まとまったお金もなかったので,父が亡くなってすぐ,父名義の口座から引き出して支払いました。

 その後,父の遺産分割の話し合いになった際,私の弟たちから葬儀費用を父の預金から支出していることに不満がでました。父の葬儀費用なので,父の口座から支出することに問題はないと思うのですが,どうなのでしょうか。

 

<弁護士からの回答>

弁護士 ご親族が亡くなった場合,葬儀を実施するのが一般的ですが,この葬儀費用に関しては被相続人の預金の引き出しとの関係で問題になることが非常に多いです。今回は葬儀費用の負担の問題についてご説明させていただきます。

 

 葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用と,埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に関する費用及び火葬に要する費用等)をいうとされています。

この葬儀費用について,被相続人の死後に相続人間で話し合いを行い,相続人間で負担する,若しくは,相続財産より支出する旨の合意ができる場合には,その合意に基づいて,葬儀費用を負担すればよいのであって,特段問題になることはありません(実際に多くのご親族が,話し合いにより葬儀費用の負担を決めていることが多いのではないでしょうか。)。また,被相続人が遺言などで葬儀費用の負担について記載している場合や,互助会等に葬儀費用の積立などを行っている場合(通常葬儀費用の負担についても決めていることが多いです。)には,被相続が決めた内容にしたがって,葬儀費用の負担が決まることになるため,問題になることはありません。

これに対し,葬儀に費用の負担に関して,被相続人が何ら取り決めておらず,かつ,相続人間で協議が整わなかった場合にはどのように処理されるのでしょうか。実際に問題になるケースでは,ご相談者様の事例のように,被相続人がお亡くなりになってすぐに,被相続人名義の預金口座から葬儀費用を引き出し,後の遺産分割協議等で,他の相続人から預金の引き出し行為について指摘されるといったケースが非常に多いです。

ここで,葬儀費用について,相続財産から支出することが可能なのか,すなわち,葬儀費用を誰が負担すべきであるかについては,法律上明確な規定があるわけではありません。学説などでは,①共同相続人で負担すべきという考え方,②喪主が負担すべきであるという考え方③相続財産より支出すべきであるという考え方など諸説の考えがあります。

この問題に関して,名古屋高等裁判所の平成24年9月29日の判決では,葬儀費用のうち,追悼儀式に要する費用(葬式代等)については,儀式を主宰した者(自己の責任と計算において,儀式を準備し,手配等をした者)が負担すべきであると判断しました。簡単にいうと,儀式を主宰した喪主(通常,喪主が儀式を主宰することになると思うので,喪主負担となると考えても差し支えないと思います。)。

理由としては,葬式に関しては,被相続人が何ら決めていない場合には,そもそも葬式を行うのか否か,どの程度の規模の式を行うのか否か,その式にどれだけ費用をかけるのかについては,全て主宰する人が決めることができる以上,主宰者で負担すべきであると考えたのです。また,喪主が負担すべきであると考える考え方の理由として,上記裁判例の理由に加え,主催者は出席者からの香典についても受け取ることができることからも,喪主が負担すべきであると考えているようです。

このように,葬式の費用等については,何も決めていない以上,喪主負担となってしまうことから,自身のお亡くなりになったときの備えを何ら準備していないと,遺されたご家族間での争いを生んでしまう可能性があるため,弁護士に相談し,しっかりと葬式についても記載した遺言書を作成することをお勧めします。

 

 

2018.08.10

いらない土地を放棄することはできるのか?

古くなった実家の処分を考えています。父のも母も亡くなり,だれも実家に住んでいないため,実家を処分しようと考えていたのですが,先日,実家の登記を取得したところ,土地は私名義になっているのですが(父から相続しました。)建物自体は,祖母名義になっていました。父は叔父との2人兄弟であり,叔父が存命のため,祖母の相続人は私と叔父の2人になるのですが,叔父との関係が悪く,おそらく遺産分割等で協議をすることは困難ではないかと思います。このままだと,使えない不動産についていつまでも固定資産税などを支払い続けなくてはいけなくなってしまうため,土地や建物の所有権を放棄したいと考えているのですが,できるのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 相続手続きを行っておらず,不動産等について,多数の,相続人が存在することになってしまい,被相続人名義のままの不動産が残っているということも少なくありません。ご相談者様のご質問にあるように,土地の所有権を放棄することができれば,不要な土地の固定資産税等を回避できるのでしょうか,不動産の所有権の放棄はできるのでしょうか(なお,祖母名義の建物については相続分の放棄が可能ですがこれについては別の機会にご説明させていただきます。)。

 

1 権利の放棄について

 民法は,私的自治の原則という制度を採用しており,権利の行使や放棄については,当事者の自由な意思に基づいて行使することができるという原則を採用しています。したがって,誰かに対し債権を有しているとしても,債権を行使するのか放棄するのかについては,債権者の自由な意思に委ねられています。したがって,債権については債権者の意思で自由に放棄することができます。

 

2 所有権の放棄

 上記のように,私的自治の原則からすると,不動産の所有権という権利を放棄することも自由にできるようにも思えます。もっとも,結論からお伝えすると,現時点では,不動産の所有権の放棄については認められていないというのが現状です。

 先程お伝えした,私的自治の原則にしたがえば,権利の放棄も自由行使することができますが,私的自治の原則には,権利の行使については第三者の利益を害するような場合には公序良俗に反するとして,権利行使が制限されるという側面があります。したがって,権利の放棄についても,第三者の利益を害する場合には放棄が認められないということになります。

 そして,不動産について自由な放棄が認められてしまうと,建物の場合には老朽化した建物があふれかえってしまうおそれもあり,倒壊などにより近隣の住民に損害を被る恐れなどが否定できないため,一般的に不動産の所有権の放棄は認められないとされています(実際,不動産の登記実務上では,放棄による所有権の滅失登記などは一切認められておりません。)。

 

3 今後の課題

 このように,自由な所有権放棄が認められていない以上,不要な土地を処分する場合には,誰かに売却するか,相続の始まった時点で相続放棄をする以外に方法が考えられない状況になります。したがって,遺されたご家族が困らないように生前に財産を処分しておくか,相続が判明した時点ですぐに相続放棄等の対応を行う必要があるため,ご親族がお亡くなりになった場合にはすぐに,弁護士にご相談ください。

 もっとも,ご相談者様の事例では,相続放棄の申述期間も経過してしまっているでしょうし,建物が祖母名義であることから,土地の買い手もなかなかつかないのではないかと思います。この場合,遺産分割調停や審判等で建物についてもご相談者様名義にして,土地と一緒に売却することになると思われます。

 このように,土地の放棄が制度として認められていないこともあり,現在,日本では,空き家として放置されている不動産が非常に多く,社会問題になっています。

このような状態を解消するためにも,不動産の放棄の制度や,一定期間空き家状態となっている不動産に関して,国庫の帰属とするような立法措置により解消していくしかないのではないかと感じています。

2018.04.14

相続財産に含まれない財産②

<ご相談者様からのご質問>

  先日,父が亡くなりました(遺言はありません。)。父の法定相続人は,私と兄の2人なのです。相続財産については,預貯金500万円ほどがあり,兄妹で仲良く250万円ずつで分けることに合意していたのですが,遺産分割協議書を作成する前に,父が兄を受取人とする生命保険をかけており,兄が100万円程生命保険金を受け取っていたことが分かりました。
  私としては,相続財産は預貯金と生命保険金の合計600万円であり,300万円がが法定相続分としてもらえると考えているのですが,間違っているのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 前回は,相続財産に該当しない財産として,一身専属の権利義務についてご説明させていただきましたが,今回は,生命保険金についてご説明させていただきます。

 生命保険金については,死亡により支給される仕組みになっていることから,相続財産に含まれると考えられている方が非常に多いのではないかと思います。
しかし,結論からお伝えすると,生命保険金は相続財産に含まれません。理由としては,相続財産とは,相続開始時(死亡した時点)において被相続人が有している財産であるところ,生命保険契約は,契約者と保険会社との間で,保険料を支払うかわりに「被保険者が死亡したことを条件として受取人に対し,生命保険金を支給する」ことを合意する契約です。すなわち,生命保険金はあくまでも保険契約に基づき受取人が受領することができるものであり,被相続人から承継した金銭ではないため,相続財産に該当せず,当該受取人固有の財産となります。

したがって,ご相談者様のケースにおいてもご相談者様の兄が受領した生命保険金100万円については,兄の固有の財産に該当するため,相続財産には含まれないことから,相続財産は預貯金の500万円のみということになります。

このように生命保険金については,遺産分割における相続財産には該当しませんが,生命保険金の額があまりにも高額な場合には,別の機会にご説明しますが,遺留分減殺請求権における「特別受益」として認定される場合もあります。

また,保険金の受取人が「満期の場合には被保険者(被相続人),被保険者が死亡した場合には相続人」と規定されており,相続人が複数存在する場合には,相続財産には含まれないものの,法定相続分にしたがって,各自保険金請求権を有することになります。
また,相続税においては,生命保険金も相続税の課税対象となる「みなし相続財産」に含まれますので,相続税の算定の際には注意が必要です。

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