弁護士コラム

2019.05.30

年5日の有休義務化とは?~事業者に向けて

2019年4月1日から、1年間に10日以上の年次有給休暇(以下「年休」と略します)を取得できる労働者について、使用者は、毎年、そのうち5日の年休について時季を指定して取得させなければならないことになりました。
いわゆる「年5日の有休義務化」というフレーズで耳にする機会も増えてきた昨今、事業者はどのような対応を求められるのでしょうか?

1.使用者の年休指定権新設のねらいは

平成30年改正労働基準法(平成31年4月1日施行)に、使用者の年休指定権の規定が新設されました。新設までの経緯は平成22年6月の閣議決定に遡り、「新成長戦略」において、年休の取得率を2020年までに70%にすることが政府目標とされました。

しかし、年休の取得率は平成12年以降50%を切る水準で推移しています。また、正社員の約16%が年休を1年間に1日も取得していないという調査結果も示されています。
このような状況にあることから、年休の取得をすすめるため、使用者に、従業員に対して年休取得の時季を指定して与えることを義務付けることとしたものです。

2.労基法改正による使用者の年休時季指定権とは

改正労基法では、1日も取得していない従業員などの年休の取得率を向上させるため、1年間に10日以上の年休が付与されている労働者に対し、そのうちの5日間については使用者が時季を定めて与えなければならないとされています。

ただし、労働者の時季指定や計画的付与制度によって年休を与えた場合は、その日数が使用者の時季指定しなければならない5日間から除かれることとなります。

3.労働者の時季指定とは

年休は、労働者が休暇を取得する前に、取得したい日を指定して請求した場合に与えるもので、原則として、休暇の時季選択権は労働者に与えられています。労働者の時季指定とは、労働者が年休をとりたい日を指定することを指します。

したがって、労働者が具体的な時季を指定した場合には、使用者は、時季変更権を行使する場合を除いて、その指定された時季に年休を付与しなければなりません。尚、使用者の時季変更権とは、年休を労働者の請求する時期に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更することができるというものです。

4.年休の計画的付与とは

労基法にもとづき、各従業員がその年に取得できる年休のうち「5日を超える日数分」については、会社が日を指定し、その日に年休を付与することができます。これを「年休の計画的付与」といいます。

例えば、取得できる年休が15日ある従業員については、5日を除いた10日分が計画的付与の対象になります。「5日分」については、従業員の個人的事由による取得のため留保しておかなければなりません。年休の計画的付与を実施するか否かは、会社の自由です。
年休の計画的付与の方式には次の3つが考えられます。

①一斉付与方式
これは、その事業場を特定の日に休業とし、全従業員に対し同一の日に年休を与えるものです。この方式の場合、事業場全体を休業とするので、5日を超える年休がない従業員も休ませなければなりません。このようなものに対しては、会社独自の特別の有給休暇を与えるか、平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払う等の措置をとることが必要です。

なお、休業手当とは、使用者が休業期間中に労働者に支払う手当で、労基法に定められています。同法規定には「使用者の責任に帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金(直近3か月間の賃金の総額の平均)の60%以上の手当を支払わなければならない。」とあり、事業場を特定の日に休業とし、全従業員に同一の日に年休を与える場合は、この使用者の責任に帰すべき事由による休業に当たります。

②グループ別付与方式
これは、課、係などの従業員を2つあるいはそれ以上のグループに分け、交替で年休を与えるものです。例えば、
・Aグループ…7月21~24日
・Bグループ…8月11日~14日
の4日間ずつ計画年休を付与するといった方法です。

③個人別付与方式
これは、会社側が個人別に従業員の年休付与計画を作成し、付与するものです。例えば次のような形です。
・○田○男…7月20日・21日
・○山○子…7月22日・23日
・○川○美…8月1日・2日

5.「年5日の有休義務化」への対応は

事業者は、1年間に10日以上の年休が付与されている労働者に対し、そのうちの5日間については使用者が時季を定めて与えなければなりません。ただし、労働者の時季指定や計画的付与制度によって年休を与えた場合は、その日数が使用者の時季指定しなければならない5日間から除かれることは前述したとおりです。

つまり、労働者による時季指定、年休の計画的付与、使用者による時季指定、いずれかの方法で年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務となります。
具体的には、労働者自身が付与された日から1年以内に5日の年休を取得していない場合に、年休の計画的付与によって年5日の年休を付与すれば、上記義務を果たすこととなります。

ただし、年休の計画的付与を実施するかは自由ではあるものの、実施する場合には、あらかじめ、従業員の過半数代表者と労使協定を結ぶ手続きが必要です。
年休の計画的付与を実施しない場合は任意に5日の有休を取得しない労働者には、使用者が取得時季を指定して年5日の有休を取得させる方法によらなければなりません。

6.まとめ

改正法の使用者の時季指定権を行使するためには、就業規則に規定する必要があります。また、時季指定においては労働者の意見を聴取しなければならないとされています。
事業者には、就業規則の変更と合わせて、労働者に取得時季の意見を聴取し、その意見を尊重し取得時季を指定するといった対応が求められます。

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