弁護士コラム

2019.02.04

労働者としての性質~請負契約の人に労働基準法が適用される?~

昨今、働き方の多様化や人件費の抑制を理由に、請負契約や業務委託、派遣社員等の雇用ではない社員(以下、「請負・業務委託社員」といいます。)の活用が多くなってきました。
このような働き方をしている社員は、通常自社が直接雇用している労働者ではないのですが、業務の実態によって、「労働者」であるとの主張がなされ、未払い残業代や解雇の無効性を争って紛争に発展する会社が増えてきています。
では、契約上は従業員ではないのに、どういった点で雇用されている従業員だと判断されてしまうのでしょうか?

1.過去の裁判例の分析

過去、さまざまな裁判が行われてきましたが、以下の判例をもとに分析していきたいと思います。

〈内容〉
原告は被告会社と「運送請負契約」を結び配達員として稼働し、かつ被告会社の営業所で所長職に従事していた。(所長職とは、複数名の配達員の中から事業所ごとに1名選出される、被告会社と配達員らの間の窓口となる役職であった。)
原告としては、自身は被告会社の「労働者」であり、所長職の解任や配達員としての稼働停止処分は不当であるとし、解雇無効及び所長解任による賃金減額分の未払い請求を求めた。

〈判決〉
原告と被告会社の間には、配達員としての運送請負契約、所長職に任命する契約関係がそれぞれあったことを認定したうえ、配達員に関する契約は請負契約であるとして稼働停止処分は認められたものの、所長職については、被告会社と指揮命令関係があったとして「労働者」と判断し、賃金減額分の支払を命じた。

≪参考判例 東京地判平成22・4・28労判1010・25≫

今回なぜこのような判決となったかについてですが、いくつか理由が挙げられています。
契約関係においては、配達員としての請負契約は締結していたのですが、所長職に対しての契約は特に結ばれていませんでした。

また、業務の実態においては、①所長職に対する拒否権はなかったこと、②会議等がありそこで原告に対して指示命令がなされていたこと、③営業所内で伝票整理や事務的作業を行うなど場所的拘束があったこと、④所長職を誰かに代理でしてもらうことができる状態でなかったこと等が挙げられました。
そして、過去、所長職手当から源泉徴収がなされたことがあるなど、賃金としての性質を持つ手当の振込みがあったこともあり、以上をもって裁判所としては原告が被告会社の労働者であったと判断し、賃金減額分の支払を命じたのです。

2.判断ポイント

過去、この労働者性というものに関する裁判が多々行われてきており、近年の裁判では、以下の要素をもとに「労働者」か否かの判断が下されています。
(1)仕事の依頼や業務指示に対して拒否する自由があったかどうか
(2)業務における指揮監督関係があったかどうか
(3)時間や場所的自由があったかどうか
(4)職務代行が可能かどうか
(5)報酬が労働の対価となっているのかどうか

(1)仕事の依頼や業務指示に対して拒否する自由があったかどうか

会社と雇用関係にある「労働者」であれば、使用者である会社からの依頼や業務指示に拒否する自由はありません。
しかしながら、請負や業務委託等の契約であれば、その仕事を引き受けるかどうかはその人次第であり、決定権は自身にありますので、指示に対する拒否の自由が判断基準の一つとされています。
ただ、その会社専属の下請業をされている場合は、事実上拒否することは出来ませんので、これだけをもって「労働者」かどうかの判断をされることはありません。

(2)業務における指揮監督関係があったかどうか

指揮監督関係があれば、業務の進め方などで具体的な指示が及ぶことになりますので、そうなると「労働者」と判断されるおそれがあります。
そのため、請負や業務委託等の方への指示は、仕事を依頼している注文者としての立場にとどめ、実際の業務遂行に関しては、本人の裁量に任せるのが望ましいです。
なお、契約した業務内容以外の業務をさせてしまうと、使用者からの指示を受けていると判断される可能性がありますので注意してください。

(3)時間や場所的自由があったかどうか

請負・業務委託社員であれば、仕事をいつ・どこでするのかは個人の裁量に委ねられます。そのため、「労働者」と同じように勤務時間や勤務場所を明確に定めてしまうと、使用者である会社の監督下であると判断される材料となります。
また、会社の全従業員が参加する朝礼等への出席義務も指揮命令関係があると思われてしまいますので、出欠については本人に任せるのが良いでしょう。

(4)職務代行が可能かどうか

請負・業務委託社員は、すべて自身の裁量で決められる個人事業主です。
「労働者」であれば、使用者と指揮監督関係にあり雇用契約となるため、本人に代わって労務の提供をすることは出来ません。
そのため、自身の判断で自身の代わりに業務を提供する人を用意する、つまり労務の代替性が認められているかも判断のポイントとなってきます。

(5)報酬が労働の対価となっているのかどうか

本人へ支払う報酬が労務を提供している時間に応じて金額が決められているのであれば、「労働者」と判断される恐れがあります。
請負や業務委託は、仕事の完成や仕事の処理を目的としているため、一定時間働いたからといって報酬が支払われる訳ではありません。注文を受けた仕事が完成した、契約をたくさんとったなど、成果に対しての報酬となりますので、労働時間とリンクはしません。
そのため、支払われた報酬が時間給で計算されていたり、休んだ分の控除がなされていたりすると、「労働者」と同じく労働時間の提供への対価とみなされる可能性があります。

請負・業務委託社員へは成果に対する報酬、「労働者」へは労働時間に対する報酬ということをきちんと把握し、報酬額を決めるように心がけましょう。

3.まとめ

請負・業務委託社員と「労働者」の違いは、契約関係の違いにとどまらず、実際の業務内容、働き方、報酬などさまざまな要因で判断されます。
また、請負・業務委託社員は自社の「労働者」ではないので、就業規則はもちろんのこと、労働保険や社会保険、退職金制度の適用も出来ません。

トラブルを未然に防ぐためにも、請負・業務委託社員と「労働者」の違いをきちんと理解し、現代社会の多様な働き方のニーズに合わせた対応をしていきましょう。

2019.02.04

マイナンバー制度とわたしたち

これまで、個人の情報は国や地方公共団体などそれぞれの機関内で、住民票コード、基礎年金番号、雇用保険被保険者番号などそれぞれの番号で管理され、個別の情報を照らし合わせる事務に相当の時間と労力が費やされていました。
マイナンバー制度」の導入によって、国や自治体などで管理されている所得や年金、社会保険などが1つの番号で紐付けされます。これにより行政は、事務等の効率化がはかれ、税や社会保険料の適正な徴収などにも役立てられるとともに、国民は公的な手続きにおいて役所などの窓口を訪れる回数が減るというメリットもあります。
行政が個別の情報を照らし合わせる場面にはどのようなものがあり、どんなメリットがあるのか、具体的に見ていきましょう。

1.わたしたちの国民生活はどう変わる?

みなさん一度は耳にされたことのある「失業保険」は、雇用保険という制度の一つです。雇用保険にはいわゆる失業保険(正式には「求職者給付」の「基本手当」)とは別に、「高年齢雇用継続給付」があり、60歳時に定年となり再雇用となって賃金が下がってしまった場合に、60歳から65歳までの間賃金低下を補填する制度です。
若い世代にはなじみの薄い制度かもしれませんが、60歳~65歳から年金がもらえるというのは、よく見聞きされていると思います。
この「老齢厚生年金」と「高年齢雇用継続給付」が同時に受けられる場合、実はそれぞれを満額で受け取ることはできず、支給調整が行われることとされているのです。

国民は、それぞれの申請の際に、他方の支給を受けていることを自ら申告しなければならず、時には窓口を何度も行き来しなければならないこともありました。
その上、「老齢厚生年金」は日本年金機構が基礎年金番号で、「高年齢雇用継続給付」は都道府県労働局公共職業安定所が雇用保険番号で管理しているため、両者間での情報照会に相当の時間と労力をかけて支給調整事務が行われていました。
今後は、申請書に「マイナンバー」を記載することで国民は同時受給の申告をする必要がないので、国民の利便性の向上がはかられるとともに、照会事務が不要となるため行政の効率化がはかられます。

また、これまで同時に支給を受けてしまっていた場合、不正受給として返還を求められていましたが、これを未然に防ぐことで不正受給返還にかかる事務が削減され行政の効率化がはかられます。
国民にとっても、不知による申告漏れで返還を求められてしまうリスクがなくなり、利便性向上がはかられるとともに、より不正受給のない公平・公正な社会を実現するための社会基盤となると言うことができます。

2.そもそも「マイナンバー」って?

マイナンバー(個人番号)は、赤ちゃんからお年寄りまで、日本国内に住民票のあるすべての方に割り振られる12ケタの個人番号です。
ちなみに「マイナンバー制度」には個人に付番される「個人番号」のほかに、法人に付番される「法人番号」があり、設立登記法人、国の機関、地方公共団体、その他の法人や団体に13ケタの数字で割り当てられます。
この2つの番号には、公開に関し大きな違いがあり、法人番号はだれでも自由に利用することが可能であるのに対し、個人番号は非公開です。

個人情報が漏えいした場合に、なりすましによる被害を受ける可能性があるためで、漏えいに関しては重い罰則規定が設けられています。

3.わたしたち従業員のマイナンバーはどう使われる?

マイナンバーは赤ちゃんからお年寄りまで、と前述しましたが、お子さんが生まれた際、早速健康保険証のため勤務先に申し出て、お子さんを扶養に入れる手続きが必要になります。
平成30年10月より、家族を扶養に入れる手続きには原則マイナンバーが必須となっています。では赤ちゃんのマイナンバーはいつどのようにして分かり、いつ扶養の手続きは可能になるのでしょうか?

実は、マイナンバー通知カードは市町村に出生届が出されてから2週間~1ケ月で国から発送されます。時期の幅は、マイナンバーの振り出しが出生届の受付順に順次行われるためで、たとえばある月にその市町村に生まれた赤ちゃんが多ければ、その市町村の住民であるお子さんのマイナンバー通知カードの発送に時間がかかってしまう仕組みです。
とはいえ、出産された病院から、「お子さんの健康保険証を窓口に出してください」と催促を受けることもあります。
原則マイナンバー必須の例外として、住民票の写しの添付をもって代えることが可能です。ただし、住民票の写し等の交付申請には手数料300円がかかります。

4.わたしたちのマイナンバーを守る企業としての取り組みは?

雇用保険も全国健康保険協会管轄の健康保険も、会社の従業員として加入している制度です。「高年齢雇用継続給付」の申請手続きや扶養に入れる手続きのため、わたしたちのマイナンバーは会社に取得され利用されます。
前述のとおり、情報漏えいに関しては重い罰則規定が設けられていますが、それでは不十分です。
企業はマイナンバーを安全に管理し、外部への漏えいや紛失を防ぐために、「誰が」「どのような事務で」「どのような」マイナンバーを取り扱うかについて措置を検討することが求められます。

そしてこれらを考慮の上、マイナンバーを安全に管理するための方針(基本方針)と、安全に取り扱うためのルール(取扱規定等)を策定し、安全管理措置を講じることが求められます。
これらの企業の取り組みにより、わたしたちのマイナンバーが守られる仕組みになっています。

2019.01.31

経営者が知っておくべき労災保険の基礎知識

労働保険の1つであり、度々耳にする「労災保険」は、経営者であれば必ず理解しておくべき制度です。しかし、「労災保険って具体的にどんな時に適用されるの?」「社長は労災保険に加入できるの?」「労災保険は絶対に加入しないといけないの?」といった疑問を抱いている方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
そこで、今回は、経営者の方が知っておくべき労災保険の基礎知識について、詳しく紹介していきます。

1.労災保険とは?

労災保険とは、労働者災害補償保険の略で、労働者の就業中または通勤途中の災害について、労働者やその遺族に対して保険の給付を行うものです。
この災害とは、具体的に、病気や怪我をしたとき、病気や怪我が原因で亡くなったとき、障害が残ったとき、介護を受けるとき、健康診断で異常所見があったときを指します。

労災保険には、労働者ごとではなく、事業主単位で加入することになっており、保険料は全額事業主が負担します。事業主の方の中には、「労災保険に加入すると保険料の出費が増えるけど、怪我をするような業務はないから、入らずに済ませたい」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし労災保険は、正社員・パートタイマ―・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、1人でも労働者を雇用する場合には、加入が義務付けられているのです。

労災保険に加入するためには、所轄の労働基準監督署に、「労働保険 保険関係成立届」と「労働保険概算保険料申告書」を提出する必要があります。
提出期限は、労働保険 保険関係成立届は労働者の採用の日から10日以内、労働保険概算保険料申告書は労働者の採用の日から50日以内となっています。
実際に労働災害が発生してしまった場合の手続きの流れは、労災指定の病院で受診したかそうでないかによって変わってきます。

(1) 労災指定の病院で受診した場合

「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を病院に提出すれば、原則として自己負担はありません。
そして、提出した請求書を病院が労働基準監督署に提出し、受理・調査された後に、病院に費用が支払われます。

(2) 指定病院以外で受診した場合

一度費用を立て替えて、「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を労働基準監督署に提出します。そして、調査がなされた後に、指定された口座に振り込まれます。

2.社長の労災保険の取扱い

それでは、社長が仕事中に怪我をした場合はどうなるのでしょうか。
労災保険は、名前の通り「労働者」のための保険です。つまり、社長のほか、役員も原則として適用されません。代表取締役も平取締役も、労働者ではなく経営者であるからです。
そして健康保険は、労働災害を対象としていません。ですから、もし労働災害が発生してしまった場合、社長は労災保険・健康保険のいずれも利用することができず、全額を自己負担しなければならないということになります。

ただし、例外として、健康保険の被保険者が5人未満である事業所の代表者であり、一般の従業員と同じような業務に従事している場合には、傷病手当金を除いた健康保険の給付を受けることができます。
また、労働者を1人以上雇用している中小企業について、労働保険事務組合へ事務を委託することで、社長や役員であっても特別に労災保険の加入が認められる「労災保険の特別加入制度」というものもあります。
労災保険に特別加入できる中小企業の要件は、常時使用する労働者の数が、金融業・保険業・不動産業・小売業の場合は50人以下、卸売業・サービス業の場合は100人以下、それ以外の業種の場合は300人以下であることです。

労災保険に特別加入をすると、労働保険料の額に関わらず、3回に分割納付することができます。社長1人だけという場合には加入できませんが、対象となる方々には、労働災害が起きてしまう前に、ぜひこの特別加入制度について検討していただけたらと思います。

3.未加入のリスク

前述のとおり、労災保険は、1人でも労働者を雇用する場合には加入が義務付けられています。では、もし労災保険に未加入のうちに労働災害が発生してしまった場合はどうなるのでしょうか。

結論からいうと、未加入であっても、労働基準監督署に給付を請求することは可能です。ですので、未加入であることによって労働者が不利益を被るということはありません。
ところが、事業主については、遡って保険料を徴収されたり、給付された費用の全部または一部を徴収されたりといったペナルティが課されてしまいます。

経営する上で、保険料の支払いを負担に感じる方もいらっしゃるのではないかと思いますが、これまでに述べたように、未加入のままにしておくことは大きなリスクを伴います。
加入を怠っていたばかりに莫大な金額を請求されてしまったということを防ぐためにも、雇用形態に関係なく、1人でも労働者を雇用したら、速やかに加入手続きをしましょう。

4.まとめ

今回は、経営者であれば知っておくべき労災保険に関する基礎知識について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
労働災害は突然発生するものです。これを機に労災保険について正しく理解し、万が一の場合に備えていただけたらと思います。

また、労災保険は、経営者・労働者の方々が安心して働くことができる職場環境を整えるための大切な制度です。何か分からないことがある場合には、後回しにせず、社会保険労務士に相談していただくことをお勧めします。

2019.01.30

経営法務リスク~ハラスメントリスクについて~

昨今、メディアでは多くのハラスメント問題が取り上げられ、社会的に注目が集まっています。
ハラスメント問題を放置すると、従業員同士の関係の悪化だけにとどまらず、経営者は被害者から使用者責任又は、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の訴訟を提起され、会社の存続を脅かすリスクがあることを忘れてはいけません。
自分の会社には関係のないことだ、たまに社内でハラスメントらしきことが見聞きされるが大丈夫だろうと見過ごし、ハラスメント問題を軽視することはとても危険です。

ハラスメント問題について経営者目線から考えてみましょう。

1.さまざまなハラスメント

パワハラ・セクハラ等の言葉は知っているけれど、どのような事柄がパワハラ・セクハラ等にあたるのか、正しく認識している方は意外と少ないと思われます。まずは、パワハラ・セクハラ等の定義について正しく把握しましょう。以下は、職場で起こりやすいハラスメントの種類について取り上げています。

(1) パワーハラスメント

最近、皆さんがよく耳にするのは「パワハラ」ではないでしょうか。これは「パワーハラスメント」の略語です。パワーハラスメントのパワーは、「力」ではなく「権力」を表しています。
また、ハラスメントとは「嫌がらせ・いじめ」という意味であり、つまり、「権力者によるいじめ」もしくは「権力を利用したいじめ」という意味になります。

一般的に、上司から部下に対して行われることをイメージしがちですが、部下から上司に対してパワハラが行われることもあります。
部下から上司に対して行われる逆パワハラの例としては、業務上適切な指導であったにも関わらず、部下から「人事課に申告するぞ」と脅迫されたり、上司が部下を飲み会に誘った際、飲み会への参加を強要していないにも関わらず、部下から「パワハラだ」と主張されたりするケースがあります。
パワーハラスメントは、業務上の指導に関連していることも多く、指導とパワーハラスメントの線引きが難しいこともあります。

(2) セクシャルハラスメント

セクシャルハラスメントは通称セクハラと呼ばれています。
セクハラは、「労働者」の意に反する「性的な言動」により不利益を受けること、または「性的な言動」により就業環境が害されること、と定義されています。異性間だけではなく、同性に対する行為も含まれます。

(3) マタニティーハラスメント

マタニティーハラスメントはマタハラと略され、一般的に妊娠や出産・育児休業をきっかけに職場内で精神的、肉体的な嫌がらせを受けること、解雇や降格などの不当な扱いを受けることを指します。
なお、妊娠・出産・育児休業の取得を理由として解雇・雇い止め・降格などを行うことは男女雇用機会均等法9条に違反するとして禁止されています。

(4) アルコールハラスメント

アルコールハラスメントは通称アルハラと略され、飲酒を断れない雰囲気を作ったうえで強要してアルコールを飲ませる行為を指します。
例えば、一気飲みをした人が急性アルコール中毒になってしまった場合、一気飲みを強要した人は勿論、一気飲みを止めなかった人についても傷害罪の共犯や幇助犯として罪に問われる可能性があります。
酒席を盛り上げるためという理由で許されるものではないので充分に注意しましょう。

2.加害者や使用者が問われる責任とは?

普段から意識して働いている方は少ないですが、実は労働者も法律により職場の秩序を遵守する義務があり、また、経営者には職場環境配慮義務が定められており、物理的な明るさや騒音などから働く人同士の人間関係など精神的なものまで配慮が必要です。
つまり、労働者も経営者もお互いに快適な職場づくりを目指す義務が定められています。
ハラスメントに及ぶということは、加害者、経営者ともに各々の義務を履行していないことになり、加害者は、ハラスメントにより被害を受けた人から損害賠償を請求され、名誉棄損罪(3年以下の懲役若しくは禁固または50万円以下の罰金)、傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)などの刑事事件に発展する可能性もあります。
また、会社は使用者責任若しくは安全配慮義務違反等に基づき損害賠償を請求されることがあります。

3.経営者視点から考えるハラスメント対策

ハラスメント問題は、職場環境の悪化を通じて企業経営に大きな損失をもたらすことがあります。
それでは、ハラスメント問題の発生原因をなくすために、経営者は日ごろから、どのようなことに努めると良いのでしょうか。

次に、経営者が講ずべきハラスメント対策をまとめました。

  1. ① 経営者の方針を明確にし、労働者に対して、周知・啓発を行う。
    ② 加害者に対し、厳正に対処する旨を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含むすべての労働者に周知・啓発を行う。
    ③ 相談窓口を定める。
    ④ 相談窓口の担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるよう整備する。
    ⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する。
    ⑥ 事実関係確認後、速やかに被害者に対して配慮の措置を適正に行う。
    ⑦ 事実関係確認後、加害者に対する措置を適正に行う。
    ⑧ 再発防止に向けた措置を講ずる。(事実が確認できなかった場合も同様に行う。)
    ⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知する。
    ⑩ 相談したことや、事実関係の確認に協力したこと等を理由にして、不利益な扱いを行ってはならない旨を定め、周知・啓発を行う。

ハラスメントの防止効果を高めるためには、日頃から労働者のハラスメント問題に対する意識啓発に取り組み、相談しやすい窓口を設けることや、職場環境の点検を行うことが大切です。

経営者はハラスメント問題を個人の問題としてではなく、会社組織の問題として捉え、ハラスメント問題を未然に防ぐ土壌・職場環境づくりに取り組むことが大切になります。

 

4.まとめ

経営者は、大切な「人財」の流出や従業員のモチベーションの低下を防ぎ、労働者が十分に能力を発揮できるよう、法に沿った対策は勿論、自社に合う効果的な対策に継続的に取り組むことが大切です。
職場の秩序を保ち、個人の尊厳が尊重されるような、健全な職場づくりを目指していきましょう。

2019.01.29

知っていれば役に立つ!経費のこと

仕事をしているとよく耳にする「経費」という言葉。
これって何のことか、知っていますか?

1.そもそも経費って?

いきなりですが皆さん、経費って何だと思いますか?
接待に使った食事代、会社で必要なパソコン代等、仕事中、よく耳にするこの経費という言葉・・・。そう!支払ったお金のことです!
しかし、実はこの支払ったお金には2種類あって、それが「資産」と「費用」に分かれます。
まずは、「資産」について。
これは簡単に言うと目に見えるものです。つまり、形があって効用が継続するものになります。
目に見えるものということは、先程でてきたパソコンは、資産になります。もちろん、パソコンを買うためにはお金が必要ですが、私たちは、お金を払う代わりに、パソコンという資産を手にいれるのです。

それに対して「費用」は、お金を払っても別のものは何も手に入りません。
例えば電車代。業務の中でどこかに出かけることがあると思います。その時会社から目的地まで移動をするためにお金を払うのですが、「資産」のように目に見えるものは何も手に入りません。手に入っているのは、電車に乗って移動するという効用であり、効用は電車を降りた時点で残っていません。こちらの「費用」が、みなさんがよく耳にしている一般的に「経費」と呼ばれるもののことなのです。

以上のことをまとめると・・・
「資産」=お金を払う代わりに「目に見えるもの」が手に入る
「費用」=お金だけが減り、「目に見えるもの」が手に入らない
ということになります。

知っていれば役に立つ!経費のこと

2.「経費」にするメリット

1で、支払ったお金には2種類あることをお話ししました。
しかし、この支払ったお金が「資産」か「経費」、このどちらにあてはまるかなんて、そんなに重要なのでしょうか。
1を読むと、お金が無くなるだけの経費よりも、お金を払う代わりに別のものが手に入る資産が多い方が、会社にとっては良いように感じます。
けれど、税金のことを考えれば、資産よりも経費になったほうが良いのです。
税金は、商売をしていくうえで、必ずついてくるものであり、会社にとってコストのひとつになります。コストとなるのなら、可能な限り安く抑えたいというのはみなさん同じですよね。
そんな税金は、基本的には利益に対して課税されます。つまり、税金のことを考えれば、経費が増えた方が良く、経費が増えると、利益が小さくなる、すると支払う税金が少なくなる、ということになります。

では、税金を安く抑えたいからと言って、お金だけが減り、目に見えるものが手に入らないものすべてを経費にしてもいいのでしょうか?
実は、これだけでは経費にすることができません。利益というのは、売上から経費を引いたものになるので、この2つは対応していなければなりません。対応というのは、ただ経費をつかうのではなく、「売り上げをあげるため」に「経費」を使う、ということです。
例えば、住宅兼店舗の場合の光熱費。この場合は、売り上げに必要な店舗で使った分の光熱費のみを経費とすることができます。
以上のことから、経費にするためには、売上との対応関係は必ず必要だということが分かったかと思います。

3.経費にもなる資産

2で、経費は売り上げをあげるために使ったものとお話ししましたが、そう考えるとパソコンや机などの資産も売り上げをあげるために使っているものと考えることができます。
では、これらは資産だけでなく経費にもなるのでしょうか?
答えは「なる」です。そうすると、資産と経費に分ける必要なんてないのではないか?と考えますよね。けれど、分けなければならない理由がきちんとあって、その理由が、資産は何年も使えるからなのです。
例えば「パソコン」。これは、買った時だけでなく、何年も売上をあげるために使用しているため、経費とも言えます。つまり、パソコンがある限り売上との対応関係は続いていくことになります。

それでは、具体的にどのようにして資産を経費にするのでしょうか?
手順として、まずはパソコンをいったん資産にします。そこから、その年の売り上げをあげるために使用した分だけをその年の経費にして、毎年少しずつに分けて経費にしていきます。これを減価償却といいます。
1度に経費にするのではなく、毎年少しずつ経費にしていくことで、資産を経費にしていくのですが、何年間経費として使えるのか、これは誰にも分かりません。長く使えるかもしれませんし、すぐに壊れてしまって、使えなくなるかもしれないのです。
このように、どれくらい使えるかというのは誰にも分らないため、目安としての期間が法律で定められており、これを耐用年数と呼びます。これは国税庁のホームページから知ることができるので、是非参考にしてみてください。

4.まとめ

今回は、経費とはそもそも何か、経費にするメリット、経費と資産との関係についてお話ししました。
仕事をしていくうえで経費は切っても切れないものですし、知っているか知らないかで大きく変わってくるものだと思いますので、この記事を読んだことを機に、少しでも多くの経費に対する知識を身につけて、これから役立てていただければと思います。

2019.01.23

商標登録ってどうやるの?

普段私たちが目にするブランドのマークや、商品名(=ネーミング)などは「商標権を獲得」=商標登録することによって、そのブランドの価値や、商品の持つイメージの独自性が保たれています。
商標権の獲得は早い者勝ちなので、売り出したい商標が決まったら、すぐに商標を出願するのがおすすめです。
今回は、商標登録に関係が深い士業である「弁理士」、商標登録の手順、そして最後に私たちも日常の中でやってしまっているかもしれない商標権の侵害について説明していきたいと思います。

1.商標登録と弁理士

知的財産権のうち、産業財産権に分類される商標権は、特許庁で管理されています。
ですから、私たちがよく知るブランドのロゴや、商品のデザインなど、様々な商標はみな特許庁に商標登録の申請をし、申請承認されることで守られているのです。
「特許」や「権利取得」と聞くととても専門的な響きがして、複雑な行程を踏まないといけないのでは?と思う方もいるかもしれません。
しかし、実は出願の手続き自体は、所定の様式の書類を記入し、印紙を貼りつけて提出するだけなので、個人で申請することも可能です。

知識や下準備不足で商標登録の申請をした場合、既に同一・類似商標が登録されていたり、不備があると申請が拒絶されたりすることもあり得ます。
こういった事態を自分の力で防ごうとすると、時間や労力がかかってしまいます。また、新たに申請をするとなるとさらに費用もかかります。

そこで登場するのが「弁理士」です。
弁理士とは産業財産権にかかわる全ての事務手続きを代理で行う事ができる国家資格所有者のことです。商標登録代行は弁理士の独占業務です。専門知識のもと、一連の業務をすべて代理で行ってくれるので、自力でやるより時間や労力が省けます。
また申請が拒絶されるリスクもぐっと下がるでしょう。依頼するとなると、費用こそかかりますが、1回の申請で審査に通り、申請費用が無駄にならないと考えると高くはないでしょう。

2.商標登録のステップ

先ほど、登録申請には下準備が必要だと述べましたが、商標登録の申請から承認までには具体的にどのようなステップがあるのかを見ていきたいと思います。
大まかな流れは、①先行商標調査 ②出願 ③審査 ④登録となります。

① 先行商標調査

先行商標調査は商標登録をする上で一番大切なステップです。
先ほど述べた通り、先行商標調査では、自分が登録申請しようとしている商標と同一・類似のものが存在しないかを調べます。
もし既に登録してあることが分かれば、見込みのない出願をしないで済みます。確認がとれたら、商標の区分、指定商品、指定役務(役務=サービス)を検討します。

例えば、文具メーカーが、ボールペンの名称を登録出願する際は、
【第16類】(主に文房具が属する分類)、
【指定商品・指定役務】ボールペン
と設定することが考えられます(一例)。

商標登録の出願は、「商標登録を受けようとする商標(=マーク・ネーミング)」と共に、指定商品・指定役務その商品を使用する区分を指定しなければならないのです。

② 出願

登録したい商標が他と被っていないと判明し、区分の指定も完了したら、いよいよ出願です。
出願は、書類での出願とインターネットでの出願の2種類があります。
今回は主流である書類での出願の流れについて説明します。
 (1)  商標登録願の作成を行います。様式が決まっているのでそれに沿って作成します。
 (2) 「特許印紙」を購入し指定の箇所に貼り付けます。
 (3)  特許庁に提出します(窓口へ直接持参もしくは郵送でも可能です。)
 (4)  電子化手数料の納付(出願後払込用紙が送付されて来ます。)
以上が出願の行程です。

③ 審査

出願後、審査には半年から1年程の時間を要します。特許庁には日々膨大な量の商標登録出願があり、それらを順番に審査していかなければならないからです。
時間を要するので、思い立ったらすぐに出願に取り掛かるのがおすすめです。

特許庁による審査後、問題がなければ登録査定がなされます。一方、何か問題があり登録できない場合は、その旨「拒絶理由通知」で知らされます。ここで「意見書・補正書」を提出し拒絶理由が解消されれば登録査定、解消されなければ拒絶査定となってしまいます。

④ 登録

登録査定が出たのち、所定の登録料を特許庁に納めると、登録が完了し晴れて、商標権が発生します。登録料の納付から約1か月で登録証が送られてきます。これにて一連の手続きは終了です。
また、期間は10年間なので、10年ごとに更新をすることで半永久的にその効力が持続します。

3.身近な商標権侵害

最後に、私たちが日常でやってしまうかもしれない、身近に潜む商標権侵害についてお話ししたいと思います。

たとえば、ブランドのロゴ(商標権取得済)が入っている洋服をリメイクして販売することは商標権侵害になりかねません。ブランドのロゴを使うという事は、そのブランドの効果を狙っていると考えられるからです。
また、ブランドが出している生地(商標権取得済)を使って洋服を手作りしたとします。その洋服をフリーマーケットで販売するというのはどうなのでしょうか?
こちらに関しては、各ブランドで方針が分かれます。
「〇〇(ブランド名)の生地を使用しています」と表記するのであれば商業利用するのは構わない、としているところもあります。一方で、「当ブランドの生地を商業利用することは固くお断りします」としているブランドもあります。

一様ではないので、「商売」をする際は他人の権利を侵害していないかを十分に調べた上で行わなければならないでしょう。

4.さいごに

以上のように、商標権とは容易に申請可能で、近年の企業では本当に多く活用されています。つまり、毎年どんどん多くの商標登録がされている以上、世の中での商標権侵害の可能性が高まっている状況にあります。

今後、商標を活用しながらビジネスを行おうとする場合、商標権侵害のトラブルに気付かぬ内に巻き込まれてしまう可能性がありますので、弁護士へ相談しながら進めることが最善でしょう。
また、個人の生活においても、商標権の侵害は起こり得ます。個人での商売だからと安心していると思わぬ事態になりかねないので、十分に注意しなければなりません。

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