共同親権で何が変わる?法改正で見直された親権・養育費・親子交流のポイントを弁護士がわかりやすく解説

2026年4月1日より、離婚後の親権について、従来の単独親権に加えて共同親権を選択できるようになりました。これにより、「共同親権で何が変わるのか」「自分のケースにどう影響するのか」といった点が気になっている方も多いのではないでしょうか。本記事では、法改正によって見直された制度のポイントを整理し、離婚時に押さえておきたい点を弁護士がわかりやすく解説します。
第1章 共同親権で何が変わるのか
1-1 離婚後の親権は「共同」か「単独」かを選べるようになった
これまでの日本の法律では、父母が離婚した場合には、どちらか一方のみを親権者とする「単独親権」しか認められていませんでした。
しかし、2026年(令和8年)4月1日より施行された改正民法により、離婚後の親権について、父母双方が親権を持つ「共同親権」を選択することも可能になりました。
親権とは、未成年の子どもを養育・保護し、その財産を管理する権利と義務の総称です。これまでは、離婚した場合、どちら一方の親が親権を諦めなければなりませんでしたが、改正後は、離婚後も父母が協力して子どもの成長を支えていける選択肢が加わりました。
1-2 共同親権と単独親権のどちらになるかは父母の協議または家庭裁判所の判断で決まる
共同親権にするか、あるいはどちらか一方の単独親権にするかは、まずは父母の話し合い(協議)によって決めます。もし話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が子どもの利益を最優先に考えて、どちらの形式が適切かを判断することになります。
裁判所が判断を下す際は、これまでの育児の実績や父母それぞれの生活環境、子どもの意向などが総合的に考慮されます。
1-3 一定の場合には単独親権が選ばれる
共同親権が選択肢に加わったとはいえ、どんなケースでも共同親権が認められるわけではありません。子どもの心身に危害が及ぶおそれがある場合や、父母が協力して親権を行使することが明らかに困難な場合には、裁判所は単独親権とする方向で判断することになります。
具体的には、一方の親によるDV(ドメスティック・バイオレンス)や子どもへの虐待がある場合です。
また、父母間の対立が極めて激しく、子どもに関する意思決定を共同で行うことが、かえって子どもの利益を害するおそれがあると裁判所が判断した場合も、単独親権を命じられることになります。
第2章 共同親権で何が変わる?① 離婚時に決めるべき事項が増えている
2-1 共同か単独か、親権の形を選ぶ必要がある
法改正によって選択肢が増えたということは、裏を返せば、離婚時に決めなければならない重要な項目が増えたことを意味します。これまで離婚における親権は「どちらが親権者になるか」を争うことが中心でしたが、今後は「そもそも共同親権を目指すべきか、それとも単独親権の方が子どものためになるか」という一段階手前の検討が必要になります。
共同親権は、父母が円滑にコミュニケーションを取れる場合には機能しやすいと考えられますが、そうでない場合には、離婚後にも対立を生じさせる要因となる可能性があります。このような点を踏まえ、まずは自身の状況において、どちらの形態が適切かを見極めることが重要です。
2-2 共同親権の場合は役割分担を整理することが重要になる
共同親権を選択した場合、単に「二人で親権を持つ」という抽象的な合意だけでは不十分です。実務上は、どちらが主に子どもと一緒に暮らすのか(監護者を定めるかどうか)や、重要事項の決定方法をどのように整理するかといったことを具体的に検討しておくことが重要になります。
例えば、進路相談や高額な医療行為が必要になった際、どのような手順で話し合うのか。あるいは、日常的な習い事の選択などはどちらの判断に委ねるのか。
こうした具体的なルールを決めておかないと、共同親権とした場合に、かえって子どもの生活に混乱を招く可能性があります。
2-3 親子交流や養育費についても具体的に決める必要がある
親権のあり方に注目が集まりがちですが、子どもの生活を支える養育費や、親子の関係を維持する親子交流(面会交流)についても、今回の法改正によりルールが見直されています。
共同親権を選択したからといって養育費の支払義務がなくなるわけではなく、また、単独親権であっても親子交流が当然に制限されるものではありません。
こうした前提を踏まえ、経済的な支援と親子交流の双方について、具体的な取り決めを行っておくことが重要になります。
第3章 共同親権で何が変わる?② 親権の行使方法が明確化された
3-1 共同親権では、重要な事項は父母で話し合って決める
共同親権のもとでは、親権は父母が共同して行使することが原則とされています。そのうえで、子どもの進学や転居など、重要な事項については、父母が協議のうえで決定することになります。
重要な事項の代表例としては、以下のようなものが挙げられます。
・手術や長期の入院を伴う治療方針などの医療に関する決定
・居住地の指定や変更(引っ越し)
これらは子どもの生活に大きな影響を与えるため、離婚後も父母が意見をすり合わせ、合意形成を図る努力が求められます。
3-2 日常のことや緊急時は単独で判断できる場面もある
子どもについてすべての物事を二人で決めなければならないとすると、日常生活に支障が生じるおそれがあります。そのため、改正法では、親権は父母が共同して行使することを原則としつつも、一定の場合には一方の親が単独で判断できる場面があることが明確にされています。
具体的には、食事や通学、習い事の選択など日々の生活における監護や教育に関する事項については、日常の監護教育に関する行為として単独で判断することができます。
また、子どもの生命や身体に関わるような緊急の医療対応や、DVなどからの避難といった急迫の事情がある場合にも、相手の同意を待たずに判断することが認められています。
3-3 意見が対立した場合は家庭裁判所の関与も想定される
重要な事項について父母の意見がどうしても一致しない場合、そのままでは子どもの生活に支障が生じるおそれがあります。このような場合には、家庭裁判所に対して申し立てを行い、特定の事項についてどちらの親が親権を行使するかを定めることができます。
裁判所は、父母それぞれの状況や子どもの利益を踏まえたうえで、個別の事情に応じて判断を行います。ただし、こうした手続きは時間や労力がかかることも少なくありません。こうした点を踏まえ、できる限り協議の段階で、意見が対立した場合の対応方法(例えば第三者を介した話し合いの利用など)についても整理しておくことが、実務上は有効といえます。
第4章 共同親権で何が変わる?③ 養育費のルールが強化されている
4-1 養育費の支払を確保する仕組みが強化された
共同親権が選択できるようになったとしても、子どもの生活を支えるための養育費の支払義務がなくなるわけではありません。親権の形にかかわらず、父母はそれぞれ子どもを扶養する責務を負うことになります。
これまで養育費については、取り決めをしても実際に支払われないという問題が指摘されてきました。今回の改正では、こうした問題に対応するため、養育費の支払を確保する仕組みが見直されており、その一つとして、養育費債権に「先取特権(さきどりとっけん)」と呼ばれる優先権が付与されることとなりました。
従来は差押えを行うために公正証書や調停調書などの債務名義が必要とされていましたが、今回の改正により、父母間で作成した文書(離婚協議書や養育費に関する合意書など)に基づいて差押えの手続を進めることができるようになります。
4-2 養育費の金額が決まる前でも暫定的に一定額を請求できる制度が新設された
共同親権を選択した場合であっても、養育費について事前に十分な取り決めがされていないケースは少なくありません。
これまでは、離婚時に養育費の取り決めをしていない場合、改めて調停などを申し立てて金額を決める必要があり、その間は養育費を受け取れない状態が生じることがありました。
今回の改正では「法定養育費」という制度が新設されました。これは、事前に取り決めがない場合であっても、離婚のときから引き続き子供の監護を主としている側の親が、もう一方の親に対して暫定的に一定額の養育費を請求できる仕組みです。
具体的には、子ども1人あたり月額2万円の養育費を請求することができ、この請求は離婚時から発生し、当事者間で養育費の取り決めが成立するか、家庭裁判所の審判が確定するまで継続します。
この制度はあくまで暫定的なものであり、最終的には収入などを踏まえた適切な金額を別途定める必要がありますが、離婚直後の生活を支える最低限の仕組みとして位置付けられています。
4-3 相手の収入が分からない場合の手続も整備された
共同親権のもとでは、父母双方が関わりながら子どもの養育を行うことになりますが、その前提として、養育費の金額を適切に定めることが重要になります。その際に問題となりやすいのが、相手方の収入状況が分からないという点です。
今回の改正では、こうした問題に対応するため、家庭裁判所が当事者に対して収入情報の開示を求めることができる仕組みが整備されています。
これにより、相手の収入状況が明らかでない場合であっても、一定の範囲で情報を把握したうえで、より適切に金額を決めていくことが可能になります。
第5章 共同親権で何が変わる?④ 親子交流(面会)の考え方が整理された
5-1 親子交流は子の利益を最優先に定められる
共同親権を選択した場合には、離婚後も父母双方が子どもと関わることになりますが、親子交流の在り方については、親権の形にかかわらず、子どもの利益を最優先に判断される点は変わりません。
改正法では、親子交流について「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と明記されており、別居している親の意向だけでなく、子どもが健全に成長していくためにどのような関わり方が望ましいかという観点から検討されることになります。
したがって、単に会う回数を決めるだけでなく、子どもの体調や学校行事、精神的な負担を十分に考慮したスケジュールを組むことが重要になります。
5-2 祖父母などとの交流についても制度が整備された
共同親権のもとでは、父母双方が子どもに関わる形になりますが、それに加えて、父母以外の親族(祖父母など)との関係についても問題となる場面があります。
今回の改正では、一定の場合に家庭裁判所が関与し、祖父母などと子どもとの交流について判断できる仕組みが設けられています。
これにより、父母の離婚後であっても、子どもの利益の観点から必要と認められる場合には、祖父母などとの交流を継続することができる可能性があります。
第6章 親の関係性によって裁判所の共同親権・単独親権の判断はどう変わるか
6-1 協議ができる関係かどうかが大きな判断要素になる
共同親権が適切に機能するかどうかは、父母間で一定の意思疎通が可能な関係にあるかどうかに大きく左右されます。
形式的に共同親権を選択したとしても、連絡が取れない状況が続いたり、意思決定のたびに対立が生じたりする場合には、子どもの生活に影響が及ぶおそれがあります。
このような事情を踏まえ、裁判所は、父母が協力して親権を行使することができる状態にあるかどうかを踏まえて判断を行います。父母間で建設的な話し合いが可能な関係にある場合には共同親権が検討されますが、そうでない場合には単独親権が相当と判断されることもあります。
6-2 共同での意思決定が難しい場合は単独親権が選ばれることがある
すでに別居期間が長く交流がほとんどない場合や、価値観の相違が大きく、教育方針などについて継続的な協議が困難と考えられる場合には、共同親権とした場合に意思決定が円滑に進まないおそれがあります。
このような状況では、重要な事項について判断が滞ることを避けるため、裁判所は父母の関係性や子どもの利益を踏まえたうえで、単独親権とすることを含めて検討することになります。
自身のケースにおいて、共同親権のもとで適切に意思決定ができる状況にあるかどうかについては、個別の事情を踏まえた検討が重要になります。
第7章 共同親権に関して誤解されやすいポイント
7-1 共同親権が原則になるわけではない
ニュースなどの見出しで「共同親権導入」と大きく報じられたため、これからは離婚したら必ず共同親権になるといった誤解をされているケースも多いようです。しかし、あくまで今回の改正は「共同親権という選択肢が増えた」のであり、原則としてどちらかに決まったわけではありません。単独親権が適切なケースでは引き続き単独親権が採用されます。
制度としては、個別の事情に応じて適切な親権のあり方を選択できるようにするものとされています。
7-2 自動的に共同親権に切り替わるわけではない
すでに離婚して単独親権となっている方が、法改正によって「自動的に共同親権になる」ということもありません。
既に離婚している場合でも、法改正後に改めて家庭裁判所に申し立てを行い、親権者の変更が認められれば共同親権に移行することは可能です。ただし、そのためには、現在の監護状況や子どもの意向などを踏まえ、変更することが子どもの利益にかなうことを個別に証明する必要があります。
第8章 弁護士に相談すべきタイミングとポイント
共同親権という選択肢が広がったことで、離婚時に検討すべき事項は従来よりも増えています。もっとも、制度の内容を理解するだけでは足りず、実際の状況に当てはめてどのように判断すべきか、またどのような取り決めを行うべきかについて迷う場面も少なくありません。このような場面では、法的な観点から状況を整理し、どのように進めるべきかを考えるうえで、弁護士が一つの支えとなります。ここでは、共同親権に関する判断や取り決めにおいて、弁護士に相談することが有効となる代表的な場面を整理します。
8-1 親権の方針について相手と意見が対立している場合
例えば、単独親権を希望しているにもかかわらず相手が共同親権を主張している場合や、反対に、共同親権を希望しているのに相手が単独親権を主張している場合には、早い段階で弁護士に相談することが有効といえます。
親権の判断は、これまでの監護状況だけでなく、父母の関係性や将来の意思決定の在り方なども踏まえて行われます。当事者同士の主張が食い違ったままでは、何を基準に判断されるのかが分からず、議論がかみ合わないまま長期化することも少なくありません。
弁護士に相談することで、どのような事情が重視されるのかを踏まえて主張を整理し、適切な形で対応を進めていくことができます。
8-2 共同親権にした場合の運用に不安がある場合
共同親権を選択する場合には、その後の運用が現実的に可能かどうかを事前に検討しておくことが重要になります。例えば、日常的に連絡が取れる関係にあるか、重要な意思決定について話し合いができるかといった点は、意思決定や子どもの養育環境に大きく影響します。
こうした点に不安がある場合には、どのような取り決めをしておくべきか、また共同親権以外の選択肢も含めて検討する必要があるかについて、弁護士の助言を受けることで判断の精度を高めることができます。
8-3 共同親権を前提とした取り決めが不十分なまま進みそうな場合
共同親権は、離婚後も父母の双方が関与して意思決定を行うことを前提とした制度です。例えば、進学や転居といった重要な事項についてどのように判断するのか、意見が対立した場合にどのように調整するのかといった点が曖昧なままでは、離婚後、共同親権とした場合に意思決定が滞るおそれがあります。
そのため、共同親権を前提とするのであれば、将来の生活を見据えて、どのような取り決めが必要になるのかを事前に整理しておくことが重要になります。
こうした点について不安がある場合には、弁護士の助言を受けながら具体的な内容を詰めていくことが有効です。
第9章 共同親権で後悔しないために
共同親権という選択肢が増えることで、離婚後も父母が協力して子どもを育てる道が開かれました。しかし一方では、取り決めの不備や関係性の悪化が、かえって子どもの生活を不安定にするリスクもあります。
大切なのは、子どもの健やかな成長のために、親として取れる最善の形は何かを真摯に検討することです。共同親権と単独親権、それぞれのメリットとデメリットを正しく理解し、養育費や親子交流といった実務的なルールを盤石に整えることが、後悔しない離婚への鍵となります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスは、お一人おひとりの状況に寄り添いながら最適な解決策をご提案いたします。これからのお子さまの未来を守るために、少しでも不安を感じられたら、ぜひお気軽に私たちへご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
外国籍の配偶者と離婚をする際の親権・面会交流はどう決める?子どもの国外移動リスクについても弁護士が解説

外国人との離婚では、離婚そのもの以上に、子どもの親権や面会交流に加え、「どの国で子どもを育てるのか」といった点が大きな争点になりやすいといえます。特に、相手が海外に住む可能性がある場合や、子どもを国外に連れて行く話が出ている場合には、深刻な対立に発展する可能性があります。この記事では、外国籍の配偶者との離婚において話し合いだけでは解決が難しくなりやすい、親権・面会交流・子の国外移動リスクについて、調停や裁判の実務も踏まえながらポイントを整理します。
第1章 外国人との離婚で親権はどう決まる?日本のルールと判断の考え方
1-1 どの国の法律で親権を判断するのか
国際離婚において、子どもの親権をどの国の法律に基づいて決めるべきかという問題は、法律用語で準拠法(じゅんきょほう)の決定と呼ばれます。日本では法の適用に関する通則法という法律にそのルールが定められています。
原則として、子どもと父母に共通する本国法(国籍)がある場合にはその国の法律が適用されますが、夫婦の国籍が異なり、子どもが二重国籍であるようなケースでは、子どもが実際に生活の基盤を置いている場所の法律が優先されることが一般的です。
したがって、日本で生活している家族であれば、相手が外国籍であっても日本の民法に従って親権を判断することになります。
1-2 家庭裁判所が重視する「子どもの利益」とは何か
日本の家庭裁判所が親権者を指定する際、最大の基準となるのが「子どもの利益」です。これは、どちらの親が親権者になることが、子どもの心身の健やかな成長にとって望ましいか、という視点です。
親権の獲得には、経済力がある方が有利と思われがちですが、実際にはそれだけで決まるわけではありません。親権者の決定は、これまでの育児への関わり方、子どもとの情緒的な結びつき、現在の生活環境の継続性、そして将来にわたって安定した養育ができる体制が整っているか、といった多角的な要素を総合して判断されます。さらに、子どもの年齢によって、どの事情をどの程度重視するかは変わるため、年齢も重要な前提事情として考慮されます。
1-3 共同親権が導入されても注意が必要?実務で気をつけるべき点
これまで日本の民法では、離婚後は父母のどちらか一方が親権者となる単独親権のみが認められてきました。しかし、2026年4月1日に施行された改正民法により、離婚後の共同親権が導入され、父母の協議によって共同親権か単独親権かを選択できるようになりました。
もっとも、共同親権が常に選ばれるわけではなく、実務上は単独親権が認められる場面も引き続き想定されます。
この点、国際離婚の実務においては、相手方の国の制度との違いに引き続き注意が必要です。例えば、欧米諸国の多くでは共同親権が原則とされているため、日本で単独親権が認められた場合であっても、相手国においてはもう一方の親の関与が十分に確保されていないと評価される可能性があります。
将来的に子どもを連れて相手の母国へ行く可能性がある場合は、日本の法律上の結論がそのまま海外で受け入れられるとは限らない点について留意しておく必要があります。
第2章 親権で揉めたときに見られるポイント|実務で重視される5つの事情
2026年4月1日施行の法改正により、調停や裁判における親権の判断では、まず父母が共同で親権を行使できる状況にあるかが検討され、そのうえで具体的な事情が総合的に考慮されるようになりました。したがって、これらの事情は、単にどちらの親が主として子を養育するかだけでなく、父母が協力して子の養育に関与できるかという観点からも評価されることになります。以下では、実務上特に重視される代表的な事情について整理します。
2-1 これまで誰が子どもを育ててきたか(監護実績)
親権争いにおいて最も重視されるのが「継続性の原則」です。これは、これまで主に子どもの面倒を見てきた者(監護親)が、今後も一緒に暮らして育てるのが子どもにとって心理的な負担が少ないという考え方です。
具体的には、日々の食事の用意、入浴、寝かしつけ、学校や保育園の送り迎え、病院への通院といった子どもの生活全般にどの程度関与してきたかが判断の対象となります。特に子どもが幼い場合には、生活の連続性や安心感が重視されるため、この監護実績がより大きな意味を持つ傾向があります。
国際離婚の場合には、日本で生活する子どもの環境に適切に対応できているかという点も併せて検討されます。例えば、日本語での意思疎通が日常生活に支障なく行われているか、学校生活や地域での生活に無理なく関与できているかといった事情は、調停や裁判においても評価の対象となることがあります。
2-2 今後の生活環境は安定しているか(住居・学校・生活基盤)
離婚後の住居が確保されているか、転校を伴う場合に子どもへの影響が過度にならないかなど、生活基盤の安定性も重要な判断要素です。特に学齢期の子どもについては、学校や友人関係といった現在の生活環境を維持できるかどうかが重視される傾向があります。
そのため、外国籍の親が将来的に母国へ子どもを連れて帰ることを希望している場合には、現地での生活環境や教育体制、支援の有無などについても具体的な裏付けが求められることになります。
2-3 子どもの意思はどこまで考慮されるのか(年齢との関係)
子どもの年齢が上がるにつれて、本人の意思はより重く受け止められるようになります。実務上、おおむね10歳前後から子どもの意向が確認され、15歳以上になるとその意思が判断に大きく影響する場面も少なくありません。
家庭裁判所では、調査官が子どもと面談を行い、どちらの親と暮らしたいかだけでなく、その理由や日常の関係性、生活状況を把握します。
国際離婚の場合には、子どもがどちらの親と暮らしたいかという意思に加えて、どの国で生活することになるのかという点も問題となるため、その意思の内容が現実の生活環境とどのように結びついているかも踏まえて検討されます。
2-4 日本で育てるか、海外で育てるかという選択の考え方
国際離婚において特徴的な論点が、子どもをどの国で育てるかという問題です。この点については、言語、教育環境、医療体制、親族の支援など、複数の要素を踏まえて比較検討されます。特に学齢期以降の子どもについては、教育言語の変更や学習環境の違いが大きな影響を与える可能性があるため、その適応可能性や将来への影響が慎重に考慮されます。
一方で、幼い子どもの場合には、どの環境で安定した養育が継続できるかという観点がより重視される傾向があります。
2-5 別居親との面会にどれだけ配慮できるか(協力姿勢)
もう一方の親と子どもの関係をどのように維持できるかという点も、親権者の適格性を判断する要素の一つです。他方の親との面会交流に対して協力的であるかどうかは、子どもの健全な成長にとって重要と考えられているからです。
特に、2026年4月1日に施行された法改正により、父母が協力して子の養育に関与できるかという点は、これまで以上に重要な判断要素として位置づけられています。そのため、合理的な理由なく、他方の親と子どもとの交流を一方的に制限する態度は、調停や裁判において不利に評価されやすくなります。
特に国際離婚の場合には、面会交流が国内で完結せず、海外との往来やオンラインでのやり取りを前提とする場面が生じることがあります。こうした事情を踏まえ、移動に伴う負担や言語の違いといった現実的な事情を踏まえながら、どの程度柔軟に対応できるかが、調停や裁判においても考慮されることがあります。
第3章 面会交流で後から揉めないために|離婚時に決めておくべき具体的な内容
3-1 オンライン面会・連絡頻度など日常的な交流の決め方
相手が子どもを連れて海外や遠方に住むことになる場合、物理的に子どもと面会できる回数は限られます。そのため、オンラインによるビデオ通話を利用した交流が重要になります。
例えば、「毎週土曜日の日本時間20時から30分間」というように、曜日と時間を特定しておくことがトラブルを防ぐ有効策となり得ます。また、子ども自身が直接デバイスを操作できない年齢の場合は、監護している親がどの程度サポートするかについても合意をとっておくことが重要です。
3-2 一時帰国や長期休暇中の面会ルールをどう決めるか
長期休暇などを利用して直接会う場合のルールも、離婚時に細かく詰めておくべきです。
例えば、「夏休みのうち5日間」と期間を定めるのか、「12月25日から30日まで」と日にちを特定するのか。また、日本国内で会うのか、それとも相手の国へ渡航して会うのか。渡航を伴う場合は、宿泊先情報の共有や、緊急時の連絡網についても、明確に決めておくのが望ましいです。
3-3 旅費・滞在費・通訳など現実的な負担の整理
相手が子どもを連れて海外に移住した場合、面会交流には多額の費用がかかることになります。航空券代、宿泊費、移動に伴う諸費用をどちらがどの割合で負担するのかを明確にしておかなければ、経済的な理由で交流が途絶えるおそれがあります。
また、子どもと別居した親との間で言語の違いが生じる場合には、どのようにコミュニケーションを取るのかについてもあらかじめ整理しておく必要があります。子どもが幼い場合、海外移住によって別居親の言語に触れる機会が減り、言葉による意思疎通が難しくなる場面も想定されます。そのため、状況に応じて通訳の利用や子どもと一緒に暮らしている親(同居親)の同席といった対応を検討しておくことも望まれます。
3-4 合意内容をあいまいにしないための書面化のポイント
こうした面会交流に関する取り決めは、強制執行力のある書面に残すことが重要です。口約束やメールのやり取りだけでは、面会交流が実施されなくなった場合に是正することが難しく、子どもと会えない状態が継続してしまうおそれがあるためです。
日本の公証役場で作成する離婚給付等契約公正証書や、裁判所での調停調書として、面会交流の具体的な条件を記載しておくことが、紛争を未然に防ぎ、面会交流を確保するための実務的な備えとなります。
第4章 子どもを海外に連れて行っても大丈夫?連れ去りトラブルとハーグ条約
4-1 無断で海外に連れて行くと何が問題になるのか
離婚前や別居中に、もう一方の親の同意を得ずに子どもを国外へ連れ出す行為は、後の手続に大きな影響を与える可能性があります。日本では親権の行使と評価される場合であっても、相手方の国の制度によっては未成年者略取誘拐罪として刑事罰の対象になることがあるためです。
一度、連れ去りと評価されてしまうと、その後の親権裁判において「他方の親との関係を遮断する問題のある親」と評価され、不利な状況に追い込まれるリスクが高まります。
4-2 ハーグ条約の基本と、返還を求められるケース
子どもを他方の親の同意を得ずに、元々生活していた国とは異なる国に移動させた場合、もう一方の親から元の国に戻すよう求める手続がとられることがあります。
こうした場面で問題となるのが、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約「ハーグ条約」です。この条約は、子どもが不適切に国外へ移動された場合に、元の居住国へ速やかに戻すための国際的なルールを定めたものです。
日本で生活していた子どもを海外に連れ出した場合だけでなく、海外で生活していた子どもを日本に連れ帰った場合でも、この条約に基づく返還手続の対象となることがあります。
4-3 パスポート管理や渡航ルールで防げるトラブル
連れ去りの不安がある場合、実務的な予防策を講じる方法もあります。
例えば、子どものパスポートを信頼できる第三者や弁護士に預けておく、あるいは外務省に対してパスポートの発給制限を申請し、自分の同意なくパスポートが作成されないようにする手続きがあります。
また、離婚時の合意書において「国外へ渡航する際は、少なくとも1ヶ月前までに書面で相手の承諾を得る」といった渡航制限条項を設けておくことも有効な対策となります。
第5章 子どもの将来に影響するからこそ、早い段階で整理を
国際離婚における親権や面会交流の問題には、国ごとの制度の違いや国際条約といった枠組みが関係します。良かれと思って取った行動が、法的には不法な連れ去りとみなされ、重大な事態を招く可能性も否めません。また、一度決めた条件を後から変更することは、国内の離婚以上に困難な場合もあります。
まずは、子どもの生活環境をどのように維持していくのか、そして離婚後もどのように親としての責任を果たしていくかを整理したうえで、手続きを進めていくことが重要です。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスは、実務経験に基づき、納得のいく前進のためのお手伝いをさせていただきます。少しでも不安があるときには、一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
自分が外国人で、日本人の夫と離婚したいときは?日本での離婚の進め方と在留資格の注意点を弁護士が解説

自分が外国人で、日本の法律や役所の手続に慣れていない場合、日本人の夫と離婚したいと思っても、どのように進めたらよいのか不安だと思います。この記事では、外国人の妻が、日本人の夫との離婚を考えるときに知っておきたい離婚手続の流れや、在留資格の注意点を、弁護士が説明します。
第1章 日本での離婚手続はどのように進むのか
1-1 夫婦の話し合いで成立する「協議離婚」の基本
日本で多い離婚の方法は、夫婦で話し合いをして決める協議離婚(きょうぎりこん)です。夫婦が二人とも離婚することに納得し、どちらが子どもを育てるか(親権)などの条件が決まれば、自分の住んでいる地域の役所に離婚届を出すだけで離婚が成立します。
1-2 離婚の合意ができない場合の「調停」と「裁判」
しかし、夫婦のどちらかが離婚に反対している場合や、お金の分け方などで意見が合わないときや、離婚届に自分と相手の両方がサインできないときには、役所に離婚届を提出するというかたちで離婚をすることができません。
その場合は、家庭裁判所を利用することになります。
まずは離婚調停(りこんちょうてい)という手続きを行います。これは、裁判所で調停委員という人が間に入って、あなたと夫がそれぞれの考えを話し、離婚の条件(お金や生活のことなど)を話し合う手続きです。
もし、この調停でも話がまとまらない場合には、最終的に離婚訴訟(りこんそしょう)へと進みます。これは裁判で離婚を目指す手続きとなり、裁判では、裁判官が離婚の原因となった証拠などを見て、離婚を認めるかどうかを判断します。
1-3 外国の方が手続で戸惑いやすいポイント
日本で離婚手続きを進める中で、外国人の方が特に難しいと感じることの一つは、言語の問題です。
役所や裁判所の書類はすべて日本語で書かれています。離婚届の記入だけでなく、裁判所に提出する証拠書類なども、すべて日本語で書いて提出しなければなりません。
また、裁判所での手続き(調停など)も日本語で行われます。日本語での会話に自信がない場合は、自分で通訳の人を準備するか、裁判所に通訳のサポートを相談する必要があります。
言葉の問題で自分の意見が正しく伝わらないと、不利な条件で手続きが進んでしまう可能性があるため、注意が必要といえます。
第2章 離婚した後の在留資格(ビザ)はどうなるのか
2-1 「日本人の配偶者等」の在留資格は離婚後どう扱われるか
今、「日本人の配偶者等」という在留資格で日本に住んでいる場合、離婚すると、そのまま同じ資格で日本に住み続けることが難しくなることがあります。この在留資格は「日本人の配偶者であること」を前提として認められているものだからです。
そのため、離婚したあとも日本で生活したい場合は、在留資格についてどうするかを考える必要があります。
2-2 日本に住み続けるためには在留資格の変更が必要
離婚した後も日本で生活を続けるためには、自分に合った別の在留資格に変更する必要があります。
例えば、日本人の子どもを育てている場合や、日本での結婚生活が長く、日本に生活の基盤がある場合などは、「定住者(ていじゅうしゃ)」という在留資格へ変更できる可能性があります。
他にも、仕事の内容によっては就労のための在留資格に変更できる場合もあります。
どの資格に変更できるかは、これまでにどれぐらい日本に住んでいるか、仕事をしているかどうか、子どもがいるかどうかなどによって個別に判断されます。
そのため、まずは出入国在留管理局(入管)に相談し、自分の場合はどの在留資格が考えられるかを確認することが大切です。
2-3 出入国在留管理局への届出と手続のタイミング
日本人の夫と離婚したときは、離婚が成立した日から14日以内に出入国在留管理局(入管)へ「配偶者に関する届出」を出さなければなりません。これは法律で決まっている義務です。
この届出を忘れてしまうと、次の在留資格への変更手続きに悪い影響が出たり、罰則を受けたりすることもあります。
第3章 離婚後の生活を支えるために整理しておきたいこと
3-1 離婚時のお金のこと(財産分与・慰謝料)
離婚をしたいと思った時には、まずはお金のことを考える必要があります。
日本での離婚では、財産分与(ざいさんぶんよ)と慰謝料(いしゃりょう)という2つのお金の問題が生じることがあります。それぞれ意味が異なるため、分けて理解しておくことが大切です。
財産分与とは何か
日本の法律では「結婚している間に得た財産は、離婚の際に夫婦で分ける」という考え方が基本になり、それを財産分与といいます。
たとえば、夫の口座にある貯金であっても、結婚してから増えた部分については、結婚している間に得た財産として、二人で分ける対象になります。
それぞれが独身時代に買った財産(家など)は、分ける対象にはなりません。
慰謝料とは何か
慰謝料とは、相手の行為によって精神的な苦痛を受けた場合に、その補償として支払われるお金です。例えば、夫の不倫や暴力など、婚姻関係を壊す原因となる行為があった場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。もちろんあなたに原因がある場合は、あなたが慰謝料を支払うことになる可能性もあります。
3-2 離婚後の生活のこと(家・収入)離婚後の生活に向けた住居・収入の確保
お金のことにプラスして、離婚ができた後の生活をどうしていくかというのも考えなければいけません。
まずは住む場所を検討します。夫が家を出るのか、自分が新しい部屋を借りるのかを決めなければなりません。外国籍の方が新しく部屋を借りる場合、保証人が必要になることがあり、時間がかかることもあります。そのため、早めの準備が必要です。
次に、仕事と収入です。現在の収入で生活ができるかを考え、足りない場合はどのような仕事を探すかを考えます。
また、日本にはひとり親家庭(シングルマザー)などを支援する公的な制度(児童扶養手当など)もあります。お住まいの市区町村の役所で、どのようなサポートが受けられるかを確認しておくことで、生活の不安を少しでも減らすことができます。
第4章 外国人の妻が弁護士に相談した方がよい場面
ここまで、日本での離婚の進め方や在留資格、生活の準備について説明してきました。
しかし、実際に離婚の話を進めると、相手が話し合いに応じなかったり、在留資格の問題が重なったりして、一人で対応するのが難しくなることもあります。
このような場合には、弁護士に相談することも一つの方法です。ここでは、どのようなときに相談した方がよいかを説明します。
4-1 話し合いが進まず、条件の整理ができない状態が続いている場合
夫に離婚したいと伝えても、「絶対に離婚しない」と言われたり、逆に「離婚したければお金は1円も払わない」といった条件を出されたりして、離婚の話し合いが止まってしまうことがあります。
当事者同士では話が前に進まないときは、弁護士に相談して話し合いを整理することが有効です。法律に基づいた条件を整理することで、夫側の考えが変わり、話し合いが進むこともあります。
4-2 日本語での書類対応や裁判所の対応に不安がある場合
裁判所の手続きは、非常に複雑な日本語の書類をやり取りします。一度書類にサインをすると、内容をよく理解していなかった場合でも、後から取り消すことは難しくなります。
「夫が用意した書類の内容が合っているか不安」「裁判所からの書類にどう返信すればいいか分からない」という状態であれば、専門家のサポートが必要です。弁護士に相談すると、書類の内容を分かりやすく説明してもらい、必要な対応についてアドバイスを受けることができます。
4-3 在留資格や生活の見通しまで含めて整理したい場合
「離婚はしたいけれど、その後のビザがどうなるか怖くて動けない」という不安を抱えている場合も、相談をしてみるタイミングです。
離婚の手続きだけを進めるのではなく、離婚後の在留資格の変更が可能かどうか、生活費をどのように確保するかといった、生活全体の見通しをセットで整理する必要があります。
今の状況を整理することで、不安を減らし、何を準備すればよいかが分かるようになります。
第5章 【FAQ】日本人の夫との離婚でよくある疑問
Q1. 離婚するとすぐに日本にいられなくなりますか?
A1. すぐに退去になるとは限りません
離婚したからといって、すぐに日本を出なければならないわけではありません。今の在留資格の期限までは、日本にいることができます。ただし、配偶者としての生活を6か月以上していない場合は、在留資格が取り消される可能性もあります。そのため、早めに別の在留資格への変更を考えることが大切です。
Q2. 今住んでいる家に、そのまま住み続けることはできますか?
A2. 住み続けられるかどうかは、その家の契約や名義によって変わります。
住み続けられるかどうかは、その家の契約や名義によって変わります。賃貸物件の場合は、あなたが契約者であれば、そのまま住み続けられる可能性が高いといえます。一方で、夫の名義で契約している場合には、離婚後に部屋を出ていくよう求められることもあります。また、夫の持ち家に住んでいる場合は、そのまま住み続けることは難しいことが多いです。ただし、離婚時の話し合いの内容によっては、ある程度の間、住み続けることが認められることもあります。
Q3. 夫との間にできた子どもは、どちらが引き取ることになりますか?
A3. 親権者を決める必要があります
日本では、離婚するときに、どちらが子どもを育てるか(親権者)を決める必要があります。親権は、これまでの子どもの生活や、これからの生活の環境などをもとに決められます。外国人が関係する場合には、子どもの住む場所や将来の生活に関する問題も含めて、慎重な判断が必要になります。
Q4. 弁護士に相談すると、どのくらい費用がかかりますか?
A4. 費用の目安は数十万円程度からです。ただし、初回無料の相談も多くあります
多くの法律事務所では、初めての相談を無料で受けられることがあります。そのため、まずは相談してみて、自分の場合はどのような対応が必要か、どれくらい費用がかかるのかを聞いてみましょう。弁護士の費用は内容によって変わりますが、離婚の交渉や調停を依頼する場合、一般的には数十万円程度以上になる場合が多いとされています。
費用は安いものではありませんが、相手に不倫や暴力などの原因がある場合には慰謝料を請求できる可能性がありますし、財産分与として一定のお金を受け取れる場合もあります。そのため、今、手元に十分なお金がない場合でも、最終的に夫から受け取ることができる金銭から費用を支払う形で対応できるケースもあります。自分にとって無理のない進め方ができるかどうかを確認してみましょう。
第6章 あなたの新しい生活に向けて、早めの整理が大切です
日本で生活する外国人の方にとって、日本人の夫との離婚は、家族の問題だけでなく、日本での在留資格やこれからの生活に大きく関わる出来事です。日本語の書類や慣れていない手続きに戸惑うこともあると思います。一人で考えるのが難しくなることもあります。
大切なのは、後回しにせず、まずは今の状況を整理することです。どのように離婚を進めるのか、離婚したあとも日本で生活するために何を準備すればよいのかを知ることで、不安を減らすことができます。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスでは、一人ひとりの状況に合わせたサポートを行っています。分からないことや不安なことがあるときは、一人で悩まずにご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
外国人夫と離婚したい日本人妻が直面する問題点とは?国際離婚をスムーズに進めるために知っておきたい要点を弁護士が解説

外国人の夫と離婚したいと思っても、日本人同士の離婚と同じ感覚では進めにくいことがあります。日本の法律で進められるのか、相手が帰国したらどうなるのか、海外にある相手の資産も財産分与の対象になるのかなど、国際離婚では判断に迷いやすい場面が少なくありません。この記事では、日本人の妻が外国人の夫との離婚で悩みやすい点を弁護士が分かりやすく解説します。
第1章 外国人夫と離婚したい場合、日本で離婚できるのか
1-1 日本の法律で離婚できるケースと、法の適用に関する通則法とは
日本で生活している日本人女性が外国籍の夫との離婚を考える場合、まず問題となるのが、日本の法律に基づいて手続きを進めることができるかという点です。
この判断の基準となるのが、法の適用に関する通則法(つうそくほう)です。通則法とは、国際結婚や国際相続のように複数の国の法律が関係しうる場面で、どの国の法律を使って判断するかを決めるための法律です。
通則法第27条では、離婚にどの国の法律を適用するかについて、一定の優先順位が定められています。
双方が日本在住なら日本の民法が適用されるケースが多い
夫婦の国籍が異なる場合、基本的には夫婦が共通して生活の拠点としている場所の法律が適用されます。したがって、夫婦双方が日本で生活している実態があるのであれば、日本の民法に基づいて離婚手続きを進めることが可能となるケースが多いといえます。
ただし、次のような事情がある場合には注意が必要です。
・夫婦が別々の国で生活している
・日本での生活期間が短い
このような場合には、どの国の法律を適用するかについて判断が分かれることがあります。したがって、まずは夫婦それぞれの居住状況や生活の実態を整理することが重要です。
夫が帰化して日本国籍となっている場合の扱い
夫が帰化して日本国籍を取得し、夫婦ともに日本国籍となっている場合には、原則として日本人同士の離婚として、日本の民法に基づいて手続が進められることになります。そのため、離婚の方法や判断基準については、基本的には通常の日本人夫婦の離婚と同様に考えることができます。
1-2 日本で離婚しても、相手の国で有効になるとは限らない
日本では、夫婦が合意すれば役所に離婚届を提出することで離婚が成立します。しかし、この方法がそのまま外国でも同じとは限りません。例えば、国によっては裁判所の関与がない離婚を有効と認めない制度を採用していることもあります。
そのため、日本で離婚届が受理されていても、相手の国では婚姻関係が続いていると扱われる事態も生じ得ます。
第2章 相手が離婚に応じない場合、国際離婚で生じる実務上の問題
2-1 話し合いでまとまらない場合は裁判所の手続に進む
離婚は当事者同士の合意があれば成立しますが、相手が離婚に応じない場合には話し合いだけで解決することはできません。
その場合、日本では家庭裁判所の手続を利用することになります。まず調停(裁判所で行う話し合い)を申し立て、それでも合意に至らない場合には裁判へと進みます。
ここまでは日本人同士の離婚と大きくは変わりません。
2-2 外国人配偶者の場合、手続が進みにくくなる場面がある
もっとも、相手が外国人である場合には、調停や裁判になっても手続の進み方に影響が出ることがあります。
例えば、次のような事情が考えられます。
・調停への出席が難しく、手続が長期化する
・日本語での手続に対応できず、意思疎通に時間がかかる
このような事情により、国内の離婚と比べて手続に時間がかかる傾向があります。
2-3 離婚が認められるかどうかの判断はどのように行われるか
裁判で離婚が認められるためには、日本の民法上、一定の理由(離婚事由)が必要とされています。
離婚事由の代表的なものとしては、次のような事情があります。
日本の民法で定められている主な離婚事由
・生活費を渡さない、同居を拒否するなどの悪意の遺棄
・配偶者の生死が長期間不明である場合
・回復の見込みがない重大な精神的障害
・その他、婚姻関係を継続し難い重大な事由
実務上は、この「婚姻関係を継続し難い重大な事由」が中心となり、別居期間の長さや夫婦関係の実態などを踏まえて、離婚が認められるかどうかが判断されます。
例えば、相当期間の別居が続いている場合や、夫婦関係がすでに修復不可能な状態にあると評価される場合には、相手が離婚に同意していなくても、裁判で離婚が認められる可能性があります。
ただし、国際離婚ではここにもう一つ注意すべき点があります。
国際離婚の場合に問題となる離婚事由の考え方
国際離婚ではどの国の法律が適用されるかによって、この離婚事由の考え方自体が変わることがあります。
例えば、日本では別居期間や関係破綻の実態を重視して離婚が認められるケースでも、相手国の法律では離婚の要件がより厳しく定められている場合があります。その結果、日本の感覚では離婚が認められそうな事案でも、適用される国の法律によっては離婚が認められないという結論になる可能性もあります。
第3章 国際離婚を難しくさせる実務上の3つの問題点
3-1 言葉や制度の違いにより、離婚条件の認識がずれる問題
離婚では、財産分与や慰謝料などの条件について当事者同士で整理していく必要がありますが、国際離婚ではこの条件の理解自体がずれる場面も見られます。日常会話に支障がない場合でも、法的な条件や金銭に関する話になると、言葉の使い方や前提の違いから認識にずれが生じやすくなるためです。
たとえば、次のようなケースが実務上よく見られます。
国際離婚で認識がずれやすい例
・「慰謝料」という概念自体が相手の国にはなく、支払う理由が理解されない
・「生活費の補填」という説明をしても、日本の婚姻費用の考え方が前提として共有されていない
・英語で「compensation(慰謝料)」と伝えた結果、損害賠償全般の意味に広く解釈されてしまう
このように、同じ言葉を使っていても、想定している内容が一致していないことがあります。その結果、当事者同士で合意できていると思っていた内容が、後になって覆されるといった事態も起こり得ます。
また、通訳を介してやり取りを行う場合でも、法律用語や制度の背景まで正確に伝えることは容易ではありません。特に金銭条件のように具体的な数字が関わる場面では、わずかな理解の差が対立につながることもあります。
3-2 相手が帰国・行方不明になった場合に進まなくなる手続(送達)の問題
話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所の調停や裁判を利用することになります。このとき問題になるのが送達です。
送達とは、裁判所から相手に対して書類を正式に届ける手続のことをいいます。この手続が完了しなければ、調停や裁判を進めることができません。
相手が日本にいれば通常の郵送などで対応できますが、海外にいる場合には事情が変わります。海外への送達は、相手国の制度に従って書類を届ける必要があります。そのため、日本の裁判所から外務省などを経由して相手国の機関に送付されるなど、複数の手続を経ることになり、数か月から1年以上かかることもあります。
また、相手の住所が分からない場合には公示送達という方法が検討されますが、その前提として所在調査を行う必要があります。相手が海外にいる場合、この調査自体が難しくなることも少なくありません。
3-3 どこの国で手続を進めることになるのか分かりにくい問題
第1章で、夫婦双方が日本在住の場合には日本の法律に基づいて離婚手続を進めることができる点に触れましたが、これはあくまで「どの法律を使うか」という問題です。これとは別に、「どの国の裁判所で手続を進めるのか」という問題があります。
例えば、相手方が自分の国(海外)で離婚の訴訟を提起した場合、日本に在住している側であっても、その手続への対応が必要になる可能性があります。
この考え方は国際裁判管轄と呼ばれ、どの国の裁判所がこの離婚について判断する権限を持つのかという問題です。
一般に、相手の住所が日本にある場合は日本の裁判所で手続を進めやすいといえますが、実際の判断は個別事情によって異なります。相手が海外に居住している場合には、日本での手続が認められない可能性もあります。
第4章 国際離婚で特に注意すべき財産分与のポイント
4-1 離婚で対象になる財産には海外資産も含まれる
離婚の際の財産分与では、日本国内にある財産だけでなく、婚姻期間中に形成された財産であれば、海外にあるものも対象となり得ます。例えば、次のようなものが考えられます。
財産分与の対象となり得る主な例
・夫の母国にある銀行口座や現金資産
・海外に保有している不動産(名義は親族でも実質的に夫の資産と考えられるものを含む)
・海外法人の持分や事業収益
・家族への仕送りや海外口座への資金移動など、日本から海外へ送金されていた資金(これ自体が分与対象になるかは別として、海外に財産が存在する可能性を示す手がかりとなるもの)
一見すると、日本にあるものだけを分ければよいと思いがちですが、実際には海外にある資産も含めて検討する必要があります。
4-2 海外資産を把握できないまま条件を決めてしまうリスク
海外資産を持っている可能性がある場合でも、その内容や金額を正確に把握できないまま話し合いが進んでしまうケースは少なくありません。
例えば、日本にいる側が自分の預金や不動産については資料を出している一方で、相手の海外資産については十分な情報がないまま、日本にあるものだけを基準に分けるという形で条件を決めてしまうことがあります。
このような状態で合意してしまうと、日本にある財産については分与の対象とされる一方で、相手の海外資産は十分に考慮されないまま条件が確定してしまう可能性があります。その結果、実質的には自分の財産だけが分与され、相手の資産については十分に反映されない形になってしまう可能性もあります。
後から海外資産の存在が分かったとしても、すでに成立した合意を見直すことは容易ではありません。結果として、本来想定されるよりも不利な条件で離婚が成立してしまう可能性があります。
相手から「海外には大きな財産はない」「日本にあるものだけで考えればよい」と説明された場合も、それを前提に話を進めてよいかどうかは慎重に見極めることが重要です。
4-3 海外資産を取りこぼさないために、離婚前に確認しておきたいこと
海外資産の有無や内容を完全に把握することは難しい場合もありますが、離婚前の段階で確認しておくことで、その後の対応に差が出るポイントがあります。
重要なのは、後からでは確認が難しくなる情報をできる限り押さえておくことです。例えば、次のような情報は、海外資産の有無を判断する手がかりになります。
離婚前に確認しておきたい情報の例
・相手の勤務先や収入の状況(海外収入の有無を含む)
・母国にある不動産や事業に関する発言や記録
・銀行口座の存在が推測できるメールやメッセージのやり取り
これらの情報は、離婚後に改めて確認しようとしても取得が難しくなることがあります。そのため、話し合いが可能な段階で、どのような財産が存在するのかを整理しておくことが重要です。
第5章 国際離婚で弁護士に相談すべき具体的な判断基準
5-1 相手が離婚に応じない状態が続き、話し合いが一切進展しない場合
国際離婚では時間の経過によって相手の所在や財産状況が変わり、手続や証拠の確保が難しくなることで、離婚の条件を詰めるうえで不利になる可能性がある点に注意が必要です。
そのため、話し合いが一定期間進展しない場合には、現時点でどのような選択肢があるのかを整理しておく目的でも、一度弁護士に相談されてみるとよいでしょう。
弁護士が関与することで、日本で手続を進めるべきか、どのタイミングで裁判所の手続に移行するべきかといった見通しを具体的に持つことができます。また、確保しておくべき証拠や資料についても整理できるため、対応が後手に回る前に適切な進め方を選択しやすくなります。
5-2 相手の帰国や所在不明により連絡自体が取れない場合
国際離婚では、相手の所在や連絡状況によって、手続そのものが進まなくなることがあります。相手が海外に居住している場合や、連絡が取りづらくなっている場合には、そもそもの離婚の話し合いが難しいケースや、調停や裁判を行うとなった際も書類送達等を含めて手続が滞ることも想定されます。
今の段階で相手ときちんと連絡が取れていないような状態であれば、一度弁護士に相談に来ていただき、どのように相手と離婚の話をしていくか・このまま連絡がつかない場合にどう離婚手続きを進めるかを、先を見据えて検討することが望ましいです。
5-3 相手の資産状況がよく分からない場合
離婚時の財産分与やお子さんがおられる場合の養育費など、離婚時には相手の資産状況や収入状況を把握したうえで条件を詰める必要がありますが、相手と連絡がつかないなどで正確な資産状況が分からないというような場合は、ご自身で離婚の合意をしてしまう前にまずは一度弁護士に相談に来ていただくことをお勧めします。
収入や資産状況の前提が大幅に変わると、受け取れるお金も大きく変わりますので、よくわからない状態で合意してしまうのは避け、弁護士関与の上で相手からどうやって資産状況を確認するか(必要に応じて弁護士の職権での開示も含めて)検討しながら進めるのがよいでしょう。
5-4 相手が先に日本以外で離婚手続きを進めそうな場合
国際離婚では、どの国で手続を進めるかによって、その後の進め方や負担が変わることがあります。例えば、相手が先に母国の裁判所で離婚手続を開始してしまった場合、その国の言語で手続に対応する必要が生じたり、現地の弁護士を通じた対応を求められたりすることがあります。このような状況になると、日本で手続を進める場合と比べて、費用や対応の負担が大きくなることがあります。
そのため、相手の動きや現在の状況によっては、日本側で先に手続を進めることができるかを検討すること自体が重要になる場面もありますので、既に相手が日本以外で離婚手続きの動きをしていそうな場合はできるだけ早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
第6章 国際離婚は一人で悩まずに専門家へ相談を
外国人の夫との離婚では、日本人同士の離婚とは異なる論点が複数関係してきます。どの国の法律で進めるのか、どの手続を選択するのかといった点は、個別の事情によって判断が異なります。また、手続の進め方だけでなく、財産分与の場面では海外資産の有無や内容をどこまで把握できているかによって、最終的な結果に差が生じることもあります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士を中心に各分野の専門家が連携しながら、個別の事情に応じたサポートを行っています。国際離婚について不安がある場合には、お気軽にご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
別居しても離婚してくれない場合の対処法|離婚事由がある場合・ない場合の進め方を弁護士が解説

別居までしているのに、相手が離婚に応じず、話し合いが止まったままになっている──こうした状況になると、その後の進め方に整理がつかず時間だけが経過してしまうこともあります。別居していることだけを理由に直ちに離婚が成立するわけではなく、不貞などの離婚事由があるかどうかによって、取り得る手段や見通しは大きく異なります。本記事では、別居しているのに離婚に応じない相手に対し、どのような法的手段が考えられるのかを弁護士がわかりやすく解説します。
第1章 別居しているだけで「離婚」とはならない
1-1 法律上、別居だけを理由に離婚が成立するわけではありません
たとえ長期間にわたり別居が続いている場合であっても、そのことだけで法律上の夫婦関係が解消され、離婚が成立するわけではありません。別居は、夫婦としての共同生活の実態が失われていることを示す重要な事情ではありますが、それ自体が離婚の成立要件となるものではないためです。
実際には、別居している状態が続いていても、相手方が離婚に応じていない限り、法的には婚姻関係は継続します。別居している期間が長いことから、具体的な手続きを取らないまま時間を逃してしまうケースも見られますが、きちんと離婚を成立させるためには、別途の対応が必要になります。
1-2 相手の合意がない場合に必要となる「法定離婚事由」とは
相手方が離婚に応じず、離婚届への署名を拒否している場合には、当事者間の合意による離婚は成立しません。この場合、家庭裁判所の手続を利用して離婚を求めていくことになります。
具体的には、調停を経たうえで離婚訴訟に進み、裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。このとき重要になるのが、法律上認められた離婚の理由、いわゆる「法定離婚事由」です。
協議や調停の段階では、双方が合意すれば理由の内容を問わず離婚することが可能です。しかし、裁判において裁判官が離婚を認めるためには、民法で定められた離婚原因に該当することが前提となります。そのため、相手の同意が得られない場合には、自身のケースがどの離婚事由に当たるのかを整理することが重要になります。
第2章 不貞行為やDVなど「明確な離婚事由」があるケース
2-1 裁判所に認められる5つの離婚原因
別居しているにもかかわらず相手が離婚に応じない場合でも、不貞行為やDVといった明確な離婚事由があるときには、裁判所の手続によって離婚が認められる可能性があります。
民法では、裁判上の離婚が認められる原因として次の5つが定められています。
・配偶者から悪意で遺棄されたとき(正当な理由なく同居や生活費の負担を拒む場合など)
・配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
・その他、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
実務上問題となることが多いのは、主に不貞行為やDV、そして最後の「婚姻を継続しがたい重大な事由」です。この「重大な事由」には、継続的なモラハラ、過度な浪費、長期間の別居などが含まれ得ますが、個々の事情を踏まえて総合的に判断されるため、どの程度で該当するかは一律には決まりません。
2-2 証拠がある場合の交渉・調停・訴訟の進め方への影響
別居に至った原因として不貞行為やDVがあり、それを裏付ける証拠が整理されている場合には、離婚に向けた手続の見通しを立てやすくなります。
例えば、別居前後のやり取りや、不貞の証拠となる記録、暴力に関する診断書などがある場合には、調停の段階でも相手が離婚に応じる方向で検討することがあります。仮に合意に至らず訴訟に移行したとしても、裁判所において離婚が認められる可能性が相対的に高まるためです。
もっとも、どのような証拠があれば十分といえるかはケースによって異なり、証拠の内容や取得経緯によって評価が分かれることもあります。別居に至った事情を含め、証拠の整理や収集方法については早い段階で検討しておくことが重要です。
2-3 有責配偶者からの離婚請求は慎重に扱われる
不貞行為や暴力などによって婚姻関係の破綻を招き、その結果として別居に至った側(有責配偶者)からの離婚請求については、裁判では原則として慎重に扱われます。
これは、自ら関係を悪化させた当事者が、その状態を前提に離婚を求めることを広く認めてしまうと、相手方の保護に欠けるためです。
もっとも、別居が長期間に及んでいる場合や、未成年の子がいない場合など、一定の条件がそろうと、例外的に離婚が認められることもあります。したがって、別居しているという事実だけでなく、その経緯や責任の所在も含めて検討する必要があります。
第3章 性格の不一致など明確な離婚事由がない場合の考え方
3-1 「婚姻を継続しがたい重大な事由」として評価されるには
別居しているにもかかわらず、不貞行為やDVのような明確な離婚事由が見当たらない場合には、離婚したい理由が「婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たるかどうかが中心的な争点になります。
判断にあたっては、単に別居しているという事実だけでなく、別居に至った経緯や現在の夫婦関係の状況が踏まえられます。夫婦関係が実質的に破綻しており、共同生活の再開が現実的に見込めない状態にあると評価されることが重要になります。
そのため、「性格が合わない」といった理由だけでは足りず、別居に至るまでの経過や、その後の関係性の状況を具体的に整理する必要があります。
3-2 別居期間が重要視される理由と目安となる期間
明確な離婚事由がない場合には、別居期間の長さが重要な意味を持ちます。
長期間にわたり別居が続いているという事実は、夫婦としての実態がすでに失われていることを示す事情として評価されやすく、婚姻関係の破綻を基礎づける要素の一つとされています。
もっとも、どの程度の期間があれば離婚が認められるかについて、明確な基準が定められているわけではありません。一般的には、数年単位の別居が継続している場合に離婚が認められる可能性が検討されることが多いものの、婚姻期間とのバランスや個別の事情によって結論は変わります。
3-3 婚姻期間・子の有無など総合判断される要素
これまで触れたように、別居していても、それだけで直ちに婚姻関係の破綻が認められるわけではありません。裁判になった場合、裁判所は夫婦関係の全体像を踏まえて判断を行います。
具体的には、次のような事情が考慮されます。
婚姻期間の長さ
別居期間が数年あっても、婚姻期間が長い場合には「夫婦関係が一時的に悪化している可能性もある」と評価されやすく、直ちに破綻しているとは認められにくい傾向があります。反対に、婚姻期間が短い場合には、別居期間とのバランスやその他の事情も踏まえ、夫婦関係の破綻が認められる可能性もあります。
未成年の子の有無や年齢
子どもがいる場合には、家庭環境への影響も踏まえた検討がなされます。
別居後の交流状況
別居後も接触が続いている場合には、関係が完全に断絶しているとは評価されにくくなります。
3-4 婚姻費用の請求が交渉や調停に与える影響
別居中であっても、夫婦には生活を支え合う義務があり、収入の多い側は少ない側に対して生活費(婚姻費用)を分担する必要があります。
別居しているにもかかわらず離婚が成立しない場合、この婚姻費用の支払いが継続することになります。その結果、支払う側にとっては経済的な負担が続くため、離婚に向けた話し合いが進む契機となることもあります。
もっとも、婚姻費用は生活の維持を目的とする制度であり、交渉を有利に進めるための手段として過度に利用すべきものではありません。双方の収入状況を踏まえて適切な範囲で請求を行い、生活基盤を確保することが重要になります。
第4章 別居しているのに離婚してくれない場合の具体的な進め方
4-1 別居中の段階で弁護士を介して交渉を進める
離婚したいと思って別居しているにもかかわらず相手が離婚に応じない場合、当事者同士でのやり取りは感情的な対立が先行し、話し合いが停滞することが少なくありません。
このような状況では、弁護士を介して交渉を行うことで、離婚条件や争点を整理し、合意できる条件があるかを冷静に検討しやすくなります。特に、別居に至っている段階では、すでに関係が一定程度断絶しているため、直接のやり取りを続けるよりも、代理人を通じて整理された形で協議を進める方が有効な場面もあります。
また、弁護士からの連絡が入ることで、相手方が今後の手続を具体的に意識し、対応を検討する契機になることもあります。
4-2 別居状態を前提に家庭裁判所で離婚調停を申し立てる
当事者間での交渉がまとまらない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
別居している場合には、すでに共同生活が解消されているため、調停では離婚そのものに加え、「離婚を前提とした条件の整理」に議論が及びやすいという特徴があります。
また、調停は調停員が双方の話を交互に聞きながら進めるため、当事者同士が直接顔を合わすことは基本的にありません。別居後に関係が悪化している場合でも、一定の距離を保ったまま話し合いを行うことができるため、この調停の段階で合意に至るケースというのは実務上も多いです。
4-3 調停でまとまらない場合は離婚訴訟に進む
調停でも合意に至らなかった場合には、離婚訴訟に進み、裁判所の判断を求めることになります。
訴訟では、これまでの別居の経緯や期間、夫婦関係の状況などが資料として整理され、離婚が認められるかどうかが判断されます。
不貞やDVなどの事情がある場合にはその証拠が中心となりますが、そのような事情がない場合でも、別居の継続状況や関係の断絶の程度が重要な検討材料になります。
そのため、別居後のやり取りの内容や、連絡の有無、生活状況の変化などについては、後から説明できるように整理しておくことが重要です。たとえば、どの時点から実質的に交流がなくなっているのか、どのような経緯で別居が継続しているのかといった事情は、手続の中で確認されることがあります。
第5章 別居中にやってしまうと不利になりやすい行動
5-1 別居後のやり取りで感情的な連絡や一方的な要求を続ける
別居しているにもかかわらず離婚に応じてもらえない状況では、相手とのやり取りが長期化しやすく、その過程で感情的なやり取りが増えてしまうことがあります。
しかし、電話やメール、メッセージで強い言葉を繰り返したり、執拗に連絡を取り続けたりする行動は避けるべきです。別居中のやり取りは記録として残りやすく、後の調停や訴訟において提出されることもあります。
その結果、「冷静な話し合いが困難な状態にある」と評価されたり、場合によっては過度な連絡として問題視されたりする可能性もあります。
別居後は距離があるからこそ、やり取りの内容や頻度に注意が必要です。
5-2 別居中の生活費や子どもの問題を後回しにしてしまう
別居しているからといって、生活上の義務がなくなるわけではありません。収入のある側は婚姻費用(生活費)を分担する義務を負い、子どもがいる場合には養育や面会交流についても配慮が求められます。
離婚の話し合いが進まないことを理由に、婚姻費用の支払いを一方的に止めたり、面会交流を拒否したりすると、後の手続において不利に働く可能性があります。
別居している状況だからこそ、形式的なやり取りにとどまらず、生活面の対応をどのように行っていたかが確認される場面もあるため、継続的かつ誠実な対応が重要になります。
5-3 別居中の経過ややり取りの記録を残していない
別居が長期化すると、日々のやり取りや生活状況について記録を残さないまま時間が経過してしまうことがあります。
しかし、別居に至った経緯や、その後の関係の変化は、調停や訴訟の場面で具体的に確認されることがあります。たとえば、どのような理由で別居に至ったのか、別居後にどの程度交流があったのかといった点は、夫婦関係の評価に影響を与える事情となります。
そのため、メールやメッセージの保存、やり取りの内容の記録など、後から説明できる形で整理しておくことが重要です。別居している期間が長くなるほど、こうした記録の有無が結果に影響することもあります。
第6章 離婚してくれない相手とのやり取りを弁護士に相談するメリット
6-1 別居していても話し合いが進まない場合に、争点を整理しやすくなる
別居しているにもかかわらず相手が離婚に応じない場合、当事者同士では同じやり取りが繰り返され、話し合いが前に進まないことがあります。とくに、感情的な対立が積み重なっているケースでは、何が本当の争点なのかが見えにくくなり、「離婚するかどうか」の話なのか、「婚姻費用や子どものこと」の話なのかが混在してしまいがちです。
このような場合に弁護士が入ると、別居に至った経緯、現在の生活状況、離婚事由の有無、今後の見通しといった事情を整理したうえで、どこが争点になっているのかを明確にしやすくなります。明確な離婚事由がある場合はその証拠をどう位置づけるかが重要になりますし、そうした事情がはっきりしない場合でも、別居期間や夫婦関係の実態をどのように整理していくかが大切になります。
相手がどうしても離婚に応じない状況では、当事者だけで解決しようとしても、話が前に進まず時間だけが過ぎてしまうことがあります。そのため、別居中の段階で一度弁護士に相談し、現状を法的な観点から整理しておくことが望ましいといえます。
6-2 やり取りを弁護士から行うことで対応が変わることがある
相手が離婚に応じない場合、離婚の話を避ける、返答を引き延ばす、感情的に反発するといった状態になることは少なくありません。こうした場面では、本人からの連絡では相手が真剣に受け止めず、状況が動かないままになることもあります。
弁護士から連絡を入れると、相手としても、単なる感情的なやり取りではなく、調停や訴訟を含めた法的手続が現実の選択肢として視野に入っていることを意識しやすくなります。その結果、それまで応答がなかった相手が返答するようになったり、離婚条件について話し合いに応じたりすることもあります。
もちろん、弁護士が連絡したからといって必ず相手が離婚に応じるわけではありません。ただ、別居しているのに相手がまったく動かないという場面では、連絡の主体が変わること自体に一定の意味がある場合があります。
6-3 明確な離婚事由がある場合も、ない場合も、見通しが立てやすい
別居しているからといって、すべてのケースで同じ進め方になるわけではありません。不貞やDVのような明確な離婚事由がある場合には、証拠の有無や内容を踏まえながら、調停や訴訟を見据えた対応を考える必要があります。これに対し、性格の不一致などで別居している場合には、別居期間、婚姻期間、子どもの有無、別居後の交流状況などを踏まえて、婚姻関係の破綻をどう整理するかが重要になります。
この違いを踏まえずに当事者だけで話を進めようとすると、必要な証拠を集めないまま時間が過ぎたり、自分にとって不利なやり取りを重ねてしまったりすることがあります。弁護士に相談すれば、自分のケースでは何が問題になりやすいのか、今の段階で何をしておくべきか、調停に進むべきかどうかといった見通しを早めに確認しやすくなります。
第7章 【FAQ】別居しているのに離婚してくれない場合によくある質問
Q1. 別居期間がどのくらいあれば、相手が応じなくても離婚できる可能性がありますか?
A1. 別居期間だけで一律には判断されません
別居期間は離婚が認められるかどうかを判断するうえで重要な事情の一つですが、「何年であれば必ず離婚できる」という明確な基準があるわけではありません。一般的には数年単位の別居が継続している場合に離婚が認められる可能性が検討されることが多いです。ただし、婚姻期間の長さや子の有無、別居に至った経緯なども踏まえて総合的に判断されます。
Q2. 別居期間はどの時点からカウントされるのでしょうか?
A2. 実質的に共同生活が解消した時点からです
別居期間は、単に住民票上の住所が分かれた時点ではなく、実際に夫婦としての共同生活が解消された時点からカウントされるのが一般的です。たとえば、同居中であっても家庭内での交流がほとんどなく実質的に別居状態と主張される場合や、逆に別居後も頻繁に行き来している場合などは、その評価が問題となることがあります。具体的な事情によって判断が分かれるため、別居の開始時期については個別に検討する必要があります。
Q3. 家庭内別居と判断されるには具体的にどのような状態であればよいですか?
A3. 生活実態として夫婦関係が分離しているかで判断されます
いわゆる「家庭内別居」は、同じ住居に居住していても、夫婦としての共同生活の実態が失われている状態を指します。具体的には、寝室が分かれている、食事や家事を別々にしている、日常的な会話や交流がほとんどないといった事情が積み重なり、実質的に夫婦関係が断絶しているかどうかが判断のポイントになります。
もっとも、単に一時的に距離を置いているだけでは家庭内別居と評価されるとは限らず、一定期間にわたり継続していることや、その状態に至った経緯なども含めて総合的に判断されます。したがって、「形式的に部屋を分ければ足りる」というものではなく、生活実態としてどの程度分離しているかを具体的に整理しておくことが重要になります。
第8章 別居しているのに離婚が進まない場合は早めの整理が大切
別居までしているにもかかわらず、相手が離婚に応じず、話が前に進まないケースは珍しくありません。もっとも、別居していることだけで直ちに離婚が認められるわけではなく、明確な離婚事由があるかどうかによって、取るべき対応や見通しは変わります。そのため、現在の状況を整理しないまま当事者同士でやり取りを続けていると、状況が整理されないままただ時間だけが過ぎてしまい、離婚までに想定以上の時間を要してしまうこともあります。別居しているのに離婚が進まないと感じている場合には、一度専門家に相談し、自身のケースでは何が問題となるのか、どのように進めるのが適切かを確認しておくことも一つの方法です。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスでは、離婚や別居に関するご相談に対応しています。状況に応じた進め方を整理したい場合にはお気軽にご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
不貞行為なしでも離婚で慰謝料はもらえる?精神的苦痛や性格の不一致で請求できるケースと相場を弁護士が解説

離婚を考える際、不貞行為(浮気・不倫)がない場合に慰謝料が認められるのかどうかは、判断が難しいテーマといえます。離婚慰謝料は、相手の行動に「離婚の責任がある」と評価できる事情があるかどうかで結論が変わる場面が多いからです。本記事では、不貞行為がない離婚局面において、どのようなケースで慰謝料が発生するのか、裁判や調停での判断基準、認められるためのポイントを、実務に精通した弁護士の視点から詳しく解説します。
第1章 不貞行為なしでも離婚慰謝料は請求できるのか
離婚を検討する際、多くの方が「慰謝料といえば浮気(不貞行為)」というイメージをお持ちです。しかし、法律上の慰謝料とは、不貞行為に限らず、相手の言動が不法行為(受忍限度を超える権利侵害)と評価され、精神的苦痛が生じた場合に請求し得る賠償金を指します。
1-1 離婚慰謝料が発生する法的根拠と「不法行為」の考え方
慰謝料という言葉は日常的に使われますが、法律の世界では「不法行為に対する損害賠償」という枠組みで考えます。シンプルに言えば「相手のせいで心に大きな傷を負ったのだから、その苦痛をお金で償ってもらう」権利のことです。
たとえ不倫(不貞行為)がなくても、相手がわざと、あるいは不注意によってあなたの人生を平穏に送る権利を壊したといえるなら、法律(民法)はその責任を認めています。不倫はあくまでその代表例に過ぎません。
ただし、実務においては「夫婦として守るべきルール(同居・協力・扶助の義務など)を相手が一方的に破ったかどうか」が、慰謝料が発生するかどうかの判断材料となります。
1-2 「性格の不一致」だけで慰謝料を請求するのは難しい理由
一方で、離婚原因としてよく挙げられる「性格の不一致」だけでは、慰謝料が認められないケースがほとんどです。法律が慰謝料を認めるのは、あくまで一方が他方に対して違法な権利侵害を行った場合で、性格や価値観が合わないことは、どちらか一方に法的な責任があるとは言い切れません。
夫婦はお互いに歩み寄る努力をする義務がありますが、その努力をしてもなお合わなかった結果としての離婚は「お互い様」と判断され、慰謝料は発生しないのが一般的です。
1-3 慰謝料請求が可能になる「有責配偶者」の定義とは
慰謝料を請求するためには、相手の言動が不法行為に当たることが必要です。実務上は「婚姻破綻の主因を作った側(いわゆる有責性が強い側)であるか」も重要な判断材料になります。
不貞行為なしのケースでは、以下のような要素が有責性を判断するポイントとなります。
• その行為によって婚姻関係が修復不可能なまでに破綻したか
• 本人に「婚姻関係を維持しようとする意思」が著しく欠けていたか
これらの判断は、単に嫌なことを言われたという主観的な不満ではなく、具体的なエピソードや頻度、態様(具体的な行為、状態)に基づいた客観的な評価が必要となります。
第2章 不貞行為以外で慰謝料が認められやすい具体的なケース
不貞行為がなくても、実務上、慰謝料の支払いが認められたり、交渉の材料となったりするケースは多々あります。代表的な有責行為を詳しく見ていきましょう。
2-1 悪意の遺棄:生活費を渡さない、正当な理由のない同居拒否
夫婦には、民法752条により「同居し、互いに協力し、扶助しなければならない」という義務があります。
悪意の遺棄とは、正当な理由なくこの義務を放棄することを指します。
• 理由もなく家を出ていき、連絡も取らず、生活の面倒を見ない
• 健康な配偶者が、病気の配偶者を放置して面倒を見ない
これらは、不貞行為と並んで慰謝料の根拠となり得る重大な事情であり、事案によっては慰謝料が認められる可能性が高まります。
2-2 ドメスティック・バイオレンス(DV):身体的暴力だけでなく精神的暴力も対象
身体的な暴力は、疑いようのない不法行為です。怪我をさせた事実はもちろん、殴る、蹴る、物を投げつけるといった行為は、離婚時の慰謝料を発生させる強力な要因となります。
また、身体的暴力に限らず、威迫・支配による精神的圧迫も、態様次第では不法行為として慰謝料の根拠になり得ます。大声で怒鳴り散らして威圧する、家具や壁を叩いて恐怖を植え付ける、あるいは外出や実家との連絡を厳しく制限して相手を支配・抑圧する行為などがこれにあたります。
裁判実務では、相手の恐怖心を利用して、逆らえない状態に追い込んでいるといえるかが重視される傾向があります。
2-3 モラルハラスメント(モラハラ):言葉の暴力や過度な束縛による精神的苦痛
不貞行為なしの離婚相談で、近年特に増えているのが「モラハラ」です。前述の「精神的DV」が恐怖による支配であるのに対し、モラハラは「価値観の否定」や「尊厳の侵害」が特徴です。
具体的には、日常的に見下すような発言をする、何をしても否定し長時間の説教を行う、あるいは無視によって家庭内での存在を否定するといった、陰湿で執拗な嫌がらせを指します。
必ずしも大きな声を出したり暴れたりするわけではないため、周囲や本人さえも気付きにくいのですが、長期間にわたって精神を削り、心を病ませるほどに追い詰める行為は、人格権侵害として不法行為に当たり得る(受忍限度を超える)ため、慰謝料の対象となる可能性があります。
2-4 性交渉の不当な拒否:正当な理由のない拒絶が続く場合
夫婦にとって円満な性生活は、婚姻生活を支える重要な要素の一つと解釈されており、正当な理由なく拒絶し続けることは、法的に「婚姻を継続し難い重大な事由」になり得ます。
ここで多くの方が不安に感じられるのが、「仕事や育児で疲れ切っていて応じられない場合、こちらが慰謝料を払わなければならないのか」という点かもしれません。
結論からいうと、単に「気分が乗らない」「疲れている」といった一時的な拒絶だけで慰謝料が認められることは稀といえます。
法的に問題となるのは、以下のようなケースです。
• 相手が修復を求めているのに、話し合いや歩み寄りを一切拒否する
• 相手を嫌悪して、性交渉以外の接触(会話や食事)も拒絶している
逆に、出産直後で体調が優れない、更年期障害などの病気、あるいは配偶者からのモラハラやDVが原因で応じられないといった場合は、正当な理由があるとみなされ、慰謝料の支払い義務は生じにくい傾向にあります。
2-5 過度な宗教活動や浪費:家庭生活を破綻させるほどの著しい行為
信教の自由は尊重されますが、家庭の財産を宗教団体に過度に寄付し、生活を破綻させたり、配偶者に強制的に入信を迫ったりして平穏な生活を害した場合は、離婚原因としての有責性が認められます。また、ギャンブルや借金を繰り返し、家族を経済的な窮地に追い込むような浪費も、慰謝料請求の対象となり得ます。
第3章 「不貞行為なし」の離婚における慰謝料の相場と算定基準
慰謝料の金額には、明確な計算式があるわけではありません。しかし、過去の判例から、ある程度の相場が存在します。
3-1 精神的苦痛の度合いによって変わる慰謝料の金額目安
不貞行為がない場合、慰謝料の相場は一般的に、目安として数十万円から150万円程度に収まることが多いといえます。
性格の不一致に近いケース
0円〜50万円程度
法的な責任が双方にある、あるいはどちらとも言えないと判断される場合です。
モラハラ、悪意の遺棄など
50万円〜100万円程度
執拗な言動や生活費の不払いが証拠によって証明された場合の一般的な相場です。
重度のDV、長期間の虐待行為
100万円〜200万円程度
怪我を負わせるような暴力や、精神疾患を発症させるほどの著しい侵害がある場合です。
不貞行為がない離婚における慰謝料は、相場を大きく超えるほど高額にはなりにくい傾向がありますが、相手に高い支払い能力がある場合は、例外的に増額される可能性があります(ただし、資力のみで大幅に左右されるわけではなく、行為態様や被害の程度等とあわせて判断されます)。
3-2 婚姻期間の長さや子供の有無が金額に与える影響
慰謝料は、本人が受けた精神的苦痛を測るものですが、その苦痛の大きさを客観的に証明する指標として、婚姻期間や子供の存在が重視されます。
婚姻期間の影響
婚姻期間が長いほど、これまでの共同生活の積み重ねを破壊された衝撃や、離婚後の生活基盤の変化による不安が大きいと判断され、慰謝料は増額される傾向にあります。たとえば、婚姻1〜2年のケースと、20年以上の熟年離婚のケースでは、同じ程度のモラハラであっても、後者の方が「長年にわたり苦痛に耐え続けてきた」と評価され、金額が上積みされやすくなります。
子供の有無と年齢
未成年の子供がいる場合、離婚が子供に与える影響(養育環境の変化など)や、親としての責任を放棄したことによる精神的負担が考慮されます。特に、子供がまだ幼い時期に、相手の身勝手な振る舞いや生活費の不払い(悪意の遺棄)によって家計を窮地に追い込んだようなケースでは、「育児という過酷な状況下で、さらなる苦痛を与えた」として、慰謝料の増額要因となります。
有責行為の継続期間と頻度
「一度だけ激しく罵倒された」ケースと、「数年間にわたり毎日無視され続けた」ケースでは、当然ながら後者のほうが重く評価されます。不貞行為という一過性の(あるいは隠れて行われる)不法行為とは異なり、不貞なしの離婚では「どれだけ長く、どれだけ頻繁に苦痛を与え続けられたか」という「継続性」が、金額を左右する大きな鍵となります。
3-3 相手の経済状況や社会的地位は考慮されるのか
相手の年収や社会的地位が慰謝料に与える影響は、大きく分けて2点あります。一つは「相場の範囲内で金額をいくらに設定するか」という判断材料になること、もう一つは「決まった金額を現実に受け取れるか」という回収の可能性に関わることです。
「算定の幅」への影響
同じようなモラハラ事案でも、相手の収入に余裕がある場合は、裁判所も相場の範囲内(例えば100万〜150万円)で高めの金額を認定しやすくなります。逆に、相手が低所得や無職で、支払い能力が著しく低いことが明らかな場合、高額な慰謝料を認めても履行(支払い)の可能性が低いため、金額が抑え目に調整されることがあります。
社会的地位と責任の重さ
相手が公務員や大企業の役職者、あるいは高い倫理観を求められる職業に就いている場合、その社会的立場に反して家族に虐待を行っていた事実は、「非難されるべき度合いが強い」と評価され、増額の交渉材料になることがあります。
実務上の「回収可能性」という壁
どれだけ法律上高い金額が認められたとしても、相手に預貯金や不動産がなく、給与の差し押さえも難しい状況であれば、慰謝料を手にすることはできません。そのため実務では、相手の経済状況を冷静に見極めたうえで、一括払いが無理なら退職金を担保にする、あるいは離婚の際の財産分与の項目で多めに受け取る(清算的要素の加味)といった、現実的な解決策を模索することになります。
第4章 慰謝料請求を成功させるための「証拠」の集め方
不貞行為なしの離婚で難しいのが証拠です。不倫なら写真やメッセージでのやりとりなど分かりやすい証拠があることも多いですが、精神的苦痛はそうした証拠がとりにくいこともあるので、出来事を記録した日記や録音、医師の診断書など、客観的な事実を積み重ねる必要があります。
4-1 モラハラや精神的苦痛を証明するための日記や録音データ
モラハラを立証するには、単発の出来事ではなく「継続性」を証明することが重要です。
日記・メモの書き方
「ひどいことを言われた」という感想だけでなく、「いつ、どこで、どのような文脈で、具体的な言葉の内容」を記録してください。手書きの日記は、その当時の切迫した心情が伝わりやすく、改ざんの疑いも持たれにくいため、デジタルデータ以上に有力な証拠になることがあります。
録音のポイント
相手が暴言を吐いている最中に録音するのは勇気がいりますが、スマートフォンの録音アプリなどを活用し、日常的な罵倒や説教の音声を残しておくことは、言葉の暴力を証明する動かぬ証拠となります。「相手に無断で録音して法的に問題ないか」と不安になる方も多いですが、自分が参加している会話を録音することは、一般に証拠として用いられる例が多いといえます。ただし、収集方法によっては争点になることもあるため、状況により専門家に確認する方が安全です。
4-2 悪意の遺棄を裏付ける通帳の履歴やLINEのやり取り
生活費を渡さない、あるいは勝手に家を出ていくといった悪意の遺棄については、数字や客観的な事実を証拠にするのが効果的です。
家計の記録
生活費が振り込まれなくなったことがわかる預金通帳の写しや、家計簿などは重要な資料です。
連絡の履歴
「生活費が足りないから送ってほしい」と伝えたのに対し、相手が無視したり拒絶したりしたLINEやメールの履歴は必ず保存しておきましょう。相手が生活の維持に協力する意思がないことを証明する材料になります。
4-3 医師の診断書が持つ法的な重要性
相手の言動によって心身に不調をきたして通院をしている場合は、相手の言動と診断の因果関係が認められる形での診断が下りると、慰謝料請求の際にもご自身の状態を客観的に裏付ける証拠として提示することができます。
第5章 協議・調停・裁判で慰謝料の判断が分かれるポイント
離婚の手続きには「協議」「調停」「裁判」の3段階がありますが、それぞれで慰謝料の扱いは異なります。
5-1 話し合い(協議離婚)で解決する場合の進め方と注意点
協議離婚では、双方が合意さえすれば、慰謝料の金額や理由は自由です。
「不貞はないけれど、苦労させたから100万円払う」という合意も可能です。ここで重要なのは、口約束にせず必ず「離婚給付等契約公正証書」(強制執行認諾文言付きの公正証書)を作成することです。将来の不払いといった事態に備え、万一の場合でも権利を確実に実現できるよう、強制執行が可能な形にしておくことが望まれます。
5-2 離婚調停で納得感のある金額を引き出すための伝え方
調停は裁判所で行われますが、裁判官や調停委員はあくまで「話し合いの仲介役」です。ここで慰謝料の合意を得るためのポイントは、「相手の有責性」を客観的なエピソードで調停委員に事情を正確に理解してもらうことです。
不貞がない場合、事実関係が整理できていないと「双方に原因がある」として調整的な提案がなされることもあります。そのため、「いかに相手の言動が異常であったか」「それによってどれほど私生活に支障が出たか」を、感情的にならずに具体例(第4章の証拠を活用)を交えて伝えることが、相場の上限に近い金額での合意を引き出す目安となります。
5-3 裁判(訴訟)に発展した際、法的に不法行為と認められる境界線
調停が決裂し裁判になった場合、裁判官が慰謝料を認めるかどうかの境界線は、その行為が「社会通念上、受忍限度(我慢すべき範囲)を超えているか」という点に集約されます。
不貞行為がない場合、単なる不仲や一時的な暴言では「受忍限度内」とされ、慰謝料が0円になるリスクもあります。離婚訴訟まで進んだ場合には、該当の言動が法的に不法行為だと証明できるかどうかが慰謝料が取れるかどうかの分かれ目となります。
第6章 不貞なしの離婚慰謝料に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 相手から「性格の不一致はどっちもどっちだから慰謝料はゼロだ」と言われたら?
A1. 一方的な決めつけに従う必要はありません。
モラハラ加害者は、自分の非を認めず「お前にも悪いところがある」と責任を転嫁する傾向があります。しかし、慰謝料の有無を決めるのは相手ではなく、裁判所や話し合いの結果です。性格の不一致という言葉の裏に、相手の執拗な暴言や無視などの「不当な行為」が隠れているのであれば、それは立派な慰謝料の対象になります。相手の主張に流されず、事実関係を整理することが大切です。
Q2. 慰謝料の代わりに、家や車をもらうことはできますか?
A2. はい。現金の代わりに現物で受け取ることも可能です。
双方が合意すれば可能です。特に相手に現金がない場合や、今の家に住み続けたい場合には有効な手段となります。ただし、住宅ローンの残債がある場合などは、慰謝料としてではなく、財産分与の一部として整理する方がスムーズなケースも多いため、専門家のもとで離婚協議書を作成することをおすすめします。
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「離婚でマンションはどうなる?財産分与の注意点を弁護士が解説|オーバーローンや住み続ける場合の対処法」
Q3. 離婚成立後に、やっぱり納得がいかないので慰謝料を請求できますか?
A3. 時効や合意内容によっては請求が難しくなるため、早めの確認が必要です。
不法行為に基づく慰謝料請求には時効があります。原則として「損害および加害者を知った時から3年」など一定の期間制限があり、起算点は事案によって変わります。離婚後に請求する場合でも、離婚時の合意内容(清算条項等)や時効の問題があるため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
Q4. 相手が「親権を渡さないと慰謝料は払わない」と条件を出してきました。
A4. 親権と慰謝料は切り分けて検討すべきです。
子供の福祉に関わる「親権」と、不法行為への賠償である「慰謝料」は、法律上全く別の問題です。親権は子の福祉を基準に判断されるため、慰謝料と引き換えにする発想で結論を急ぐべきではありません。こうした脅しに近い交渉がなされる場合は、当事者同士の話し合いは限界です。速やかに弁護士を介するか、家庭裁判所の調停を申し立て、適切な手続きの中でそれぞれの条件を切り離して解決を目指すべきです。
第7章 不貞行為なしの離婚で悩んだら専門家へ相談を
不貞行為がない離婚であっても、相手に法的な責任がある場合には、慰謝料を請求できる道はゼロではありません。本記事で解説した重要ポイントを改めて振り返りましょう。
• 性格の不一致だけでは請求は難しいが、具体的な「有責行為」の積み重ねがあれば可能性がある。
• 客観的な証拠(録音、日記、診断書など)が勝負を分けるため、日頃からの記録が重要。
• 金額の相場は数十万〜150万円程度だが、婚姻期間や子供の有無など諸事情で考慮される場合がある。
不貞行為がないケースの慰謝料請求は、事実認定や法律構成が非常に複雑で、個人で相手と対峙しても「証拠がない」「気のせいだ」と一蹴されてしまうことが少なくありません。また、無理に請求を続けて関係を泥沼化させてしまうと、精神的な負担は増すばかりです。
納得のいく形で再出発するためには、初期の段階から弁護士などの専門家に相談し、自分のケースで慰謝料が認められる見込みがあるのか、どのような証拠を集めるべきなのか、客観的なアドバイスを受けることが重要といえます。
「こんな理由で相談してもいいのだろうか」と一人で悩まず、まずはあなたの心の負担を軽くするために、私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)へお気軽にご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
相手が自己破産をしたら養育費の支払いはどうなる?|破産手続きにおける養育費の扱いと今後の対応を弁護士が解説

元配偶者の自己破産を知ったとき、真っ先に不安に思うのは養育費のことでしょう。結論から申し上げますと、自己破産の手続きにおいて養育費は借金とは異なる扱いを受けるため、破産によって支払いの義務が消えることはありません。しかし、相手の経済状況が悪化している以上、現実的にどうやって受け取り続けるかという点では注意が必要です。養育費の支払い義務がある相手が自己破産する状況において、知っておくべき知識と対処法について弁護士が分かりやすく解説します。
第1章 「破産」しても養育費の支払い義務は消えない|非免責債権の基礎知識
自己破産とは、裁判所に申立てを行い、「免責(めんせき)」という許可を得ることで、一定の借金について支払い義務を免除してもらう手続きです。しかし、免責許可を得たからといってすべての支払い義務が消えるわけではありません。
1-1 養育費が「非免責債権」に指定されている法的理由
法律(破産法)には、破産しても免除されない「非免責債権(ひめんせきさいけん)」というものが定められています。養育費は、この非免責債権に関する規定により、原則として免除の対象になりません。
なぜ養育費が特別扱いされるかというと、養育費はお子さんの健やかな成長や生存を支えるための「身分法上の義務」に基づくものだからです。単なる金銭の貸し借りとは性質が異なり、子供の福祉を守るという強い社会的要請があるため、親が破産したからといって切り捨ててよいものではないと考えられています。
1-2 免責される借金と、免責されない養育費の違い
一般的な消費者金融からの借入やクレジットカードの支払いなどは、自己破産によって支払い義務がなくなります。これを「免責」と呼びます。一方で、養育費や婚姻費用、あるいは悪質な不法行為に基づく損害賠償金、税金などは、免責の対象外です。つまり、裁判所から破産手続きの終了が宣言された後でも、相手方はあなたに対して養育費を支払い続ける法的な義務を負い続けます。
1-3 相手方の破産をいつ・どのようにして知ることが多いか
ところで、養育費が法的に守られていることは確認しましたが、そもそも元配偶者が自己破産の手続きを始めたという事実は、いつ、どのような形であなたの耳に入るのでしょうか。それを知るタイミングや経緯は、相手方の対応によって大きく2つのケースに分かれます。
裁判所から破産手続開始決定などの通知が郵送されてくる場合
一つは、裁判所から通知が郵送されてくるケースです。これは、相手方が裁判所に提出する「債権者一覧表(借金をしている相手の名簿)」に、あなたへの未払い養育費を債務として正直に記載した場合に起こります。この場合、法的な手続きが始まった段階で公的に知ることができます。
公的な通知が届かない場合
一方で、裁判所から一切通知が届かないケースも少なくありません。相手方が「養育費を滞納していないから名簿に載せる必要がない」と判断した場合や、意図的に隠した場合、あるいは将来の養育費は破産とは無関係だと考えて名簿から除外した場合です。
第2章 非免責でも「支払われない」現実がある|養育費が止まった場合の対処法
法律上は義務が残るといっても、現実に相手の銀行口座にお金がなければ、養育費の支払いが止まってしまう可能性は大いにあります。この章では、養育費の未払いが起こってしまったときの対処法について解説します。
2-1 法律上の義務があっても、支払いが滞る主な理由
自己破産を選ぶということは、経済的に行き詰まっている状況にあることが多く、養育費の支払いが滞る背景には、次のような事情が重なっているケースが想像されます。
現金・預金の枯渇
生活費すらままならない状態で、養育費に回す余裕がない。
誤解や身勝手な思い込み
相手が「破産すればすべての支払いが免除される」と勘違いしている。
優先順位の低下
破産管財人への予納金の支払いや、自分の当面の生活を優先し、養育費を後回しにする。
心理的な萎縮
自己破産という状況に自身の将来に不安を抱き、少しでも支出を減らそうと支払いに消極的になっている。
養育費が「法律で守られた権利」であることと、相手から「実際に現金が振り込まれること」の間には、相手方の経済事情や相手都合の論理による隔たりがあるケースが少なくありません。
2-2 相手の「支払能力」と「支払い義務」を切り分けて考える
相手方が自己破産した場合、相手にはお金がないなら裁判をしても養育費を支払ってもらえないと考える方がいます。たしかに、相手が無職で無一文であれば、今すぐの回収は困難かもしれません。
しかし、支払い義務を法的に確定させておくことには大きな意味があります。相手が後に再就職したり、生活を再建したりした際に、改めて請求を行うための根拠となるからです。一時的な支払能力の欠如に惑わされず、長期的な視点で今やるべき対策を行っておくことが大切です。
2-3 破産後の給与から養育費を回収するための現実的なプロセス
相手方が会社員などの場合、破産手続きが終われば、その後の給与は再び相手方が自由に使えるようになります。つまり、毎月の給与で養育費を支払うことはできるはずです。それでもなお支払いに応じない場合は以下のようなプロセスで回収を試みることができます。
1. 支払義務の再認識と催促
まずは、自己破産しても養育費の義務は消滅していない事実を改めて指摘し、任意での支払いを促します。
2. 内容証明郵便による書面警告
口頭での約束が守られない場合、弁護士名義などで内容証明郵便を送付します。これは将来的な強制執行を見据え、相手が養育費を支払う意思がないことを外形的に証明する準備でもあります。
3. 給与差し押さえ(強制執行)の断行
債務名義がある場合には、支払いが継続されないときに強制執行を検討できることがあります。実際にどの手段が取れるかは、相手の就労状況や勤務先の把握状況などによって変わります。
第3章 過去の未払い分と将来の養育費|自己破産による影響の範囲
自己破産が養育費に与える影響は、「過去の滞納分」と「これからの分」で取り扱いが異なります。
3-1 滞納していた「過去の養育費」の取り扱い
破産手続開始よりも前から養育費が支払われていなかった場合、未払い分の養育費は、破産手続きにおいて「破産債権」として扱われます。相手方の財産に余裕があれば、破産手続きの中から一部の支払いを受けられる可能性があります。これを配当といいます。
もし配当で未払い分の全額を回収できなくても、残額は非免責ですので、破産手続き終了後に改めて相手方に請求することができます。
3-2 これから支払われるべき「将来の養育費」の扱い
自己破産の手続きが始まると、「裁判所の手続き中だから、相手は勝手にお金を払ってはいけないのではないか」と考えるかもしれませんが、先に解説した通り、養育費は自己破産によって支払いを免除されることはありません。
破産手続き開始後に発生する月々の養育費は、一般的には、食費や家賃など相手方が生活を維持するために支払う費用と同様に考えられることが多く、自己破産を理由に支払いが禁止されるものではないからです。もっとも、手続の状況や相手方の生活状況によっては、支払い方法やタイミングについて調整が必要になることもありますが、相手の言うことを鵜呑みにするのではなく、その説明が妥当かどうかの状況を確認したうえで対応を検討することが重要です。
第4章 相手が自己破産した場合、養育費を受け取る側は何をすべきか
4-1 「管財事件」か「同時廃止」かによる対応の違い
破産手続きには、財産を調査する弁護士(破産管財人)がつく「管財事件」と、財産がないためすぐに終わる「同時廃止」の2種類があります。
管財事件とは、相手方に一定の財産がある場合に、裁判所から選任された弁護士(破産管財人)がその財産を調査・換金する手続きです。一方、同時廃止は、調査すべき財産がほとんどない場合に、破産の財産を整理する部分はすぐに終わり、その後に借金を免除するかどうか(免責)が判断される手続きです。
管財事件であれば、管財人を介して相手の情報を得たり、財産から支払いを受けたりできる可能性があります。同時廃止の場合は配当こそ期待できませんが、手続きが数ヶ月でスピーディに終わるため、免責確定後の給与差し押さえなど、次のステップへ早めに移行できます。
【管財事件の場合】裁判所への届出と管財人への確認を行う
相手方のケースが管財事件であれば、過去の養育費に滞納がある場合、あなたは債権者としてその金額を裁判所に届け出る権利があります。管財人が相手方の不動産や退職金などを現金化した際、この債権届出をしていれば、滞納分の一部を配当として受け取れる可能性があります。届出を忘れると、本来得られたはずの支払いを受け取れなくなるため、管財人から連絡が来た際や、裁判所から通知が届いた際は、期限内に正確な滞納額を報告することが重要です。
4-2 手元の書類を確認し「強制執行」ができる態勢を整える
相手が破産した場合、この先に養育費の支払いが止まった際に養育費を強制的に回収できるよう準備をすすめておきましょう。
離婚時に、強制執行認諾文言付きの公正証書や調停調書を作成している場合は、相手が破産手続きを終えた後に支払いを拒んだ場合でも、改めて訴訟を起こすことなく、法的な強制執行手続を検討できる状態になります。
養育費請求調停の申立て
一方で、口約束や通常の離婚合意書しかなく、現時点で強制力のある書面が存在しない場合には、将来の支払い停止に備える観点から、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てるという選択肢も検討に値します。
養育費請求調停を経て調停調書を作成しておけば、相手が後に養育費の支払いを拒んだ場合でも、法的な根拠に基づいて対応しやすくなります。今すぐの回収を目的とするものではなく、数年先を見据えて養育費を受け取り続けるための手続と考えるとよいでしょう。
4-3 裁判所からの通知や相手の状況確認を後回しにするリスク
自己破産の手続きが進行している間は、裁判所の記録を通じて、相手方の現在の住所や勤務先、あるいは代理人弁護士の連絡先といった最新の情報を把握できる貴重な機会です。もしこれらを調べないまま手続きが終了してしまうと、離婚後に、相手方がどこへ引っ越したのか、どこの会社に勤め始めたのかが分からなくなってしまいます。
将来、相手が養育費を支払わなくなった際に、給与を差し押さえるためには、相手の住所や勤務先といった情報が不可欠です。
破産手続きという、いわば相手の所在がはっきりしているタイミングで、しっかり情報を整理しておきましょう。
第5章 破産を理由とした減額請求や交渉への向き合い方
相手方が自己破産を機に「生活が苦しいから、今後の養育費を減らしてほしい」と求めてくるケースは非常に多いです。感情に流されない実務的な対応が必要となります。
5-1 破産を理由とした不当な減額請求の捉え方
自己破産をきっかけに、相手が「借金があるから、今後は養育費を月〇万円から〇千円に下げてほしい」と減額請求をしてくることがあります。一見すると、もっともらしく聞こえるかもしれません。しかし、自己破産によって借金の返済が整理されるということは、これまで借金の返済に回していたお金が浮く、という側面もあります。
つまり、破産したから養育費を払えないわけではなく、むしろ破産によって家計が立て直され、養育費の支払いについて改めて考えられる状態になっている可能性も十分にあります。相手の提示を安易に飲むのではなく、現在の収入や生活状況を踏まえて、本当に減額が必要なのかを冷静に見極めることが大切です。
5-2 現在の適正な算定表に基づいた冷静な再評価
もし相手方が裁判所に養育費減額調停を申し立ててきた場合は、現在の相手の正確な年収と、あなたの年収、お子さんの年齢を、裁判所の養育費算定表に照らし合わせる必要があります。相手が自称する、根拠のない苦しい状況ではなく、客観的な数字に基づいて議論することが重要です。
直接交渉が困難な場合は弁護士に相談
破産直後の相手は精神的にも余裕がなく、直接話をしようとすると感情的な対立になりがちです。弁護士が代理人となることで、養育費が非免責であることや強制執行の可能性があることなどの法的な根拠をもとに、冷静な交渉を進められる可能性が高まります。相手方が法的な自己破産という手段を選んだ以上、こちらも法的な知識と経験を備えた弁護士を介することで、不当な要求を退け、お子さんのための正当な権利をより確実なものにしましょう。
第6章 【FAQ】自己破産と養育費に関するよくある疑問
Q1. 「破産するから1円も払えない」と相手に言われました。本当ですか?
A1. いいえ、法的な支払い義務は残ります。
相手方が破産するから払えないと言うのは、あくまでも「自分には今、お金がない」という主観的な主張に過ぎません。法律上、養育費は非免責債権であり、裁判所が免責を認めても支払い義務が消えることはありません。相手の言葉を鵜呑みにせず、まずは「支払い義務は残っている」という事実を伝え、必要であれば弁護士を介して交渉することをおすすめします。
Q2. 相手が再婚して新しい家族ができた場合、養育費はどうなりますか?
A2. 当然には消えませんが、減額の対象になる可能性はあります。
相手の自己破産とは別に、相手が再婚して新たな扶養家族(新しい配偶者や子供)ができた場合、相手から養育費の減額請求がなされることがあります。これは破産とは別の次元の話です。ただし、再婚したからといって自動的に金額が下がるわけではありません。相手の新しい家族の収入状況や、あなた側の生活状況などを総合的に判断し、裁判所の基準(算定表)に照らし合わせて適正な額を再計算することになります。
Q3. 公正証書がない場合、今からでも作ってもらうことは可能ですか?
A3. 相手の同意があれば、今からでも作成可能です。
離婚時に公正証書を作っていなかったとしても、相手との話し合いがつくのであれば、今から公証役場へ行って作成することは可能です。今は破産手続き中で支払いが厳しいが、生活が落ち着いたら養育費を払うという約束を、強制執行認諾文言付きの公正証書という形で残しておくことは、将来的な不払いに備えた実効性の高いリスクヘッジであるといえます。
Q4. 相手が自己破産した後、養育費の振込先を変えても大丈夫ですか?
A4. 大丈夫です。ただし、相手への通知を確実に行ってください。
受け取る側の振込先口座を変更すること自体に、法的な制限はありません。ただし、相手方は自己破産に伴い、自身の銀行口座が凍結されたり、ネットバンキングが使えなくなったりして、振込手段が制限されている場合があります。あなたが口座を変更したことを正確に伝えておかないと、相手が「振り込もうとしたが、前の口座に送れなかった」という不払いへの口実を与えてしまいます。変更する際は、必ず書面やメールなど、伝えたことが証明できる形で、新しい振込先を通知するようにしましょう。
Q5. 弁護士に依頼すると、相手を怒らせて支払いが止まりませんか?
A5. むしろ、冷静な関係性を築ける可能性があります。
当事者同士の話し合いは、どうしても過去の不満や感情がぶつかり合い、解決が遠のく傾向があります。弁護士が入ることで、議論が感情から法的な義務へとシフトします。相手も「プロが相手なら、下手に嘘をついたり逃げたりはできない」と考え、結果として淡々と支払いに応じるようになるケースも少なくありません。
第7章 お子さんの未来のために早めの相談を
養育費は、破産しても消えない非免責債権であり、お子さんの成長を支えるための大切な権利です。しかし、法律上の権利を現実の現金として受け取り続けるためには、破産手続きへの適切な対応や、その後の交渉・手続きが不可欠です。
特に、破産手続きが関わる問題は、法的な知識だけでなく、相手方の資産をどう見極めるか、どのタイミングで差し押さえに踏み切るかといった実務的な判断が問われます。
相手方の破産を知って不安を感じているなら、一人で悩まずに、私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスへご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
破産手続で養育費を払うと偏頗弁済になる?破産申立前後の安全な養育費の支払い方と免責リスクを弁護士がわかりやすく解説

自己破産を準備しているとき、養育費の支払いがあると「払ったら偏頗弁済(へんぱべんさい)になって免責が下りないのでは?」と不安になります。結論として、月々の通常の養育費は直ちに問題になるとは限りませんが、滞納分の一括払い・過大な支払い・支払時期の選び方によっては、否認や免責判断で説明を求められることがあります。
第1章 自己破産における「偏頗弁済」の定義と養育費の特殊性
1-1 なぜ特定の債権者への支払いが制限されるのか
自己破産の手続きには「債権者平等の原則」という大原則があります。これは、限られた債務者の財産を、すべての債権者に公平に配分すべきという考え方です。
この原則に反し、特定の債権者だけに優先的に借金を返す行為を「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼びます。破産を考えている人が、知人や親族、あるいは特定の支払いだけを優先してしまうと、他の債権者(銀行やカード会社など)から見れば「自分たちに配当されるはずだった財産が不当に減らされた」ことになります。
そのため、裁判所や破産管財人は、申立前後の支払いを厳しくチェックするのです。悪質な偏頗弁済と評価された場合、破産管財人による否認権行使の対象となるほか、支払の経緯や実態によっては、免責判断の際に不利な事情として考慮される可能性があります。
1-2 生活費としての養育費と、借金の返済の境界線
養育費は、お子さんの生存や健やかな成長を支えるための「身分法上の義務」に基づく費用です。実務上、毎月支払われる適正な額の養育費は、借金の返済というよりも「生活費(扶養義務の履行)」として考えられる傾向があります。そのため、毎月の給与から家賃や食費を支払っても偏頗弁済にならないのと同様に、常識的な範囲内での月々の養育費支払いは、直ちに問題視されることは少ないといえます。
しかし、それが「過去の滞納分をまとめて払う」といった形になると、一転、未払金という債務の優先弁済とみなされやすくなります。
この「生活費としての支払い」か「借金の優先返済」か、という境界線が、免責を得るための重要なポイントとなります。この境界線について、以降、詳しく解説していきます。
第2章 申立前・後で、養育費を支払う際のリスクと注意点
2-1 破産申立「前」:滞納分の一括払いが偏頗弁済とみなされるリスク
破産を決意してから裁判所へ申し立てるまでの間に、未払いになっていた養育費をまとめて支払う行為は、実務上、慎重な判断が求められます。
たとえば、手元にある現金を「どうせ破産で没収されるなら子供のために」と考え、数百万円の滞納分を一気に清算したとします。これは客観的に見れば、他の金融機関などの債権者を差し置いて特定の相手(元配偶者)にだけ多額の利益を与えたことになり、典型的な偏頗弁済と判断される可能性が高いのです。
このような支払いを行うと、後に選任される破産管財人によって、その支払いを取り消して回収する否認権(ひにんけん)が行使されることがあります。行使された場合、支払いの一部または全部について受け取った側(元配偶者)が返還を求められる可能性があります。
2-2 破産申立「後」:申立後に月々の支払いを継続する際のルール
破産の申立後は、自身の財産のうち、裁判所から手元に残すことを許された「自由財産」(原則として現預金合計99万円以下)の範囲内でやりくりをしなければなりません。この範囲内で月々の適正な額の養育費を支払う分には、一般的に「生活に必要な支出」として容認される傾向にあります。
ただし、自分の生活費を極端に削ってまで不相応な額を送り続けたり、本来裁判所に報告すべき財産を隠してそこから支払ったりすることは許されません。申立後の支払いは、あくまで新しく得た収入や自由財産から、無理のない範囲で行うのが大原則です。
第3章 実務上の判断基準:境目となる具体的シチュエーション
3-1 【支払時期】滞納分の一括払いや「先払い」が危険な理由
偏頗弁済かどうかの判断では、「なぜそのタイミングで払ったのか」という時期の選び方が重視されます。滞納分の一括払いは、それがたとえ数ヶ月分であっても、他の借金を止めている時期に行えば特定の相手への優先と取られかねません。また、「将来の養育費の先払い」も免責判断で問題視されやすい行為です。「将来必要になるから今のうちにまとめて渡しておく」という行為は、財産を不当に減少させる行為と評価され、財産隠匿に準ずる事情として免責判断で不利に考慮される可能性があります。
3-2 【支払金額】算定表を超える「過大な支払い」と偏頗弁済
支払っている金額が、適正かどうかも厳しく見られます。実務上の目安となるのは、裁判所が公表している「養育費算定表」です。算定表は法的拘束力を持つものではありませんが、実務上の目安として説明しやすい基準とされており、自身の収入に見合った算定表通りの額であれば、それは「子供のための必要不可欠な費用」として説明がつきやすいといえます。しかし、算定表の基準を大幅に上回る金額を支払っている場合、その超過部分は「他の債権者を害する不当な支出」とみなされるリスクがあります。
3-3 【支払根拠】公正証書や調停調書の有無による「正当性」の違い
養育費の支払いが「義務」なのか「任意の利益供与」なのかを分けるのが、客観的な証拠です。離婚時に執行認諾文言付きの公正証書や調停調書を作成している場合、その支払いは法律上の確定した義務に基づいたものとして、正当性が認められやすくなります。
払わなければ差し押さえを受ける強制力がある状態での支払いは、単なる支払いとは明確に区別されます。
第4章 管財事件・同時廃止それぞれの進め方と報告義務
4-1 管財事件:破産管財人へ支払いの必要性をどう説明すべきか
一定の財産がある場合や、特定の支払い(偏頗弁済の疑い)がある場合は、破産管財人が選任される「管財事件」となります。管財事件では、管財人が通帳を精査し、養育費の送金履歴について質問をします。その際、過去の養育費の支払いについて聞かれた場合には、公正証書などの証拠を示しながら論理的に説明しなければなりません。もし管財人が不適切な支払いだと判断すれば、前述の「否認権」を行使して回収に動くことになります。申立前から弁護士など専門家に相談し、管財人に納得してもらえる説明可能な支出の範囲内に収めておくことが無用なトラブルを防ぐ方法といえます。
4-2 同時廃止:家計収支表の記載と裁判所による免責判断
目立った財産がなく、調査の必要が低いとされる同時廃止手続きであっても、慎重に進めるべきです。裁判所に提出する家計収支表には、養育費の支出を正直に記載しなければなりません。もし他の借金の返済を止めている一方で、多額の養育費が支出として計上されていれば、裁判所から「偏頗弁済による免責不許可事由」を疑われ、管財事件へ移行され、追加の調査や手続きが必要となることもあります。同時廃止でスムーズに手続きを終えるためには、家計の範囲内で常識的な支払いに徹していることを示す必要があります。
第5章 免責リスクを抑えつつお子さんの生活を守るために
自己破産の手続きにおいて、養育費の支払いは「親としての責任」と「法的な誠実さ」の両立が求められる難しい問題です。
お子さんの将来を思えばこそ、まずはあなた自身の経済的な再建を確かなものにしなければなりません。独断で「これくらいなら大丈夫だろう」と判断して支払った結果、免責が認められなくなってしまっては、かえってお子さんへの責任を全うできなくなってしまいます。
養育費の支払いを含む自己破産の判断は、個別の状況によって正解が異なります。養育費の支払いに少しでも不安がある場合は、私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスへお気軽にご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
離婚しない場合でも不倫の慰謝料は請求できる?金額への影響や知っておきたい交渉のポイントを弁護士が解説

配偶者の不貞行為が発覚したとき、離婚しないと慰謝料が請求できない、金額が下がるのではないかと考える方がいます。結論から申し上げると、離婚しない場合でも不倫相手に対して慰謝料を請求することはできます。ただし、離婚する場合と比べると、金額の相場や請求の進め方において注意すべきポイントがあります。
第1章 離婚しないで慰謝料請求はできる?法律上の基本ルール
1-1 不貞行為の慰謝料請求に「離婚」は必須条件ではない
配偶者の不倫(不貞行為)が発覚した際、「離婚はしたくないけれど、心の傷を癒すために不倫相手に正当な責任を取らせたい」と考える方は少なくありません。
法律上の結論からいうと、離婚しなくても不貞慰謝料を請求することはできます。不貞行為は、夫婦の平和な婚姻生活を維持する権利を侵害する行為であり、それによって精神的苦痛を受けたのであれば、その損害を賠償してもらう権利が発生します(民法709条、710条)。
つまり、「精神的苦痛を受けた」という事実と、その原因が「不貞行為」にあることが証明されれば、離婚の有無にかかわらず、原則として法律上の請求権が認められるのです。
1-2 離婚しない場合の請求相手は「配偶者」か「不倫相手」か
離婚しない場合、慰謝料を誰に請求すべきかという問題があります。法律上、不貞行為は「配偶者」と「不倫相手」の共同不法行為とみなされます。つまり、二人は連帯して損害を賠償する義務を負っている状態です。しかし、離婚をしない選択をした場合、自分の配偶者に慰謝料を請求することは実務上あまり意味がないケースがほとんどです。なぜなら夫婦は生計を共にしていることが多いため、配偶者の預金から自分の預金へお金を移すだけでは、世帯全体の資産状況に変化がなく、実質的な解決にならないからです。
そのため、実務上は離婚しないケースでは、不倫相手のみを対象として慰謝料請求が行われることが多いといえます。
1-3 婚姻関係が破綻していないことが金額に与える影響
不貞慰謝料の金額を左右する要素の一つに、「不貞行為によって婚姻関係がどうなったか」という点があります。裁判の実務では、不貞によって離婚に至った場合、精神的苦痛が大きかったと評価され、慰謝料額も高くなる傾向にあります。
一方で離婚しない場合は、婚姻関係が形式的には継続していることが、破綻に至るほどの影響がなかったと評価される材料の一つとなることがあります。
ただし、これはあくまで一つの側面です。離婚しないことがそのまま金額に影響するわけではありません。不倫発覚後の夫婦仲が冷え切っている場合や、長期間にわたる不貞行為があった場合など、個別の事情によって慰謝料の金額は変わります。
第2章 離婚しない場合の慰謝料相場と金額が決まる判断基準
2-1 離婚しない場合の一般的な慰謝料相場
不貞が発覚したけれど、離婚はしない場合の慰謝料額は、一般的に「50万円〜150万円程度」がボリュームゾーンとなります。離婚する場合の相場が150万円〜300万円程度であることを考えると、やはり一段階低い水準になるのが一般的です。
ただし、もちろん状況によって判断は変わります。例えば、一度不倫を止めるよう警告したにもかかわらず継続していた場合や、不倫相手に反省の色が全く見られない場合などは、高額な慰謝料が認められることもあります。逆に、不倫期間が短く、不倫相手がすぐに謝罪して身を引いたようなケースでは、先に相場として挙げた50万円を下回ることもあります。
2-2 裁判所が重視する「精神的苦痛」の評価ポイント
裁判所は、単に「不倫をした」という事実だけでなく、それによって被害を受けた配偶者がどれほどの苦痛を味わったかを多角的に評価します。
具体的には、以下のような要素が考慮されます。
婚姻期間の長さ
長年連れ添った夫婦ほど裏切りのダメージが大きいとされやすい
子供の有無や年齢
幼い子供がいる中での不倫は悪質性が高いとされやすい
不倫が発覚した経緯
自白したのか、隠し通そうとしたのか
不倫相手の態度
開き直り、責任転嫁、嫌がらせの有無など
これらの要素が重なれば重なるほど、「離婚しない」という結論であっても、認められる金額が高くなる傾向があります。
2-3 不倫の期間や回数によって金額が変わる理由
不貞行為の内容、特に「期間」と「回数」は、慰謝料算定の客観的な指標となります。数年間にわたる継続的な関係があった場合、それは一時的な過ちではなく、確信犯的な裏切りであるとみなされることが多いといえます。
また、肉体関係の回数が多いことも、それだけ深く夫婦関係を侵害した証拠となり得ます。逆に、一度きりの肉体関係であれば、精神的苦痛は認められつつも、金額としては低めに抑えられる傾向にあります。
交渉や裁判においては、こうした事実を客観的な証拠(メールの履歴、ホテルの領収書、写真など)でどれほど裏付けることができるかが要点となります。
第3章 離婚しないと損をする?慰謝料が減額されやすい理由
3-1 「家庭が壊れなかった」ことが減額要素とされる背景
法律では、損害賠償の本質を「受けた損害を金銭で埋め合わせること」としています。そのため、離婚という結果は人生における大きな損失(損害)とみなされ、慰謝料もそれに比例して高くなる可能性があります。
一方、先にも解説したように、離婚しないという選択は一般論として「家庭生活という基盤が形式的には維持されている」と評価されやすく、その点が慰謝料算定に影響する場合があるのです。
3-2 配偶者から不倫相手への「求償権」がもたらす複雑な問題
離婚しない場合の慰謝料請求において、注意すべき点が「求償権(きゅうしょうけん)」です。求償権とは、他人の債務を代わりに支払った人が、その支払いの返還を請求できる権利のことです。
先述の通り、不貞行為はあなたの配偶者と不倫相手の「共同不法行為」とみなされます。つまり、不倫相手があなたに慰謝料を支払った後、その不倫相手はあなたの配偶者に対して「本来、あなたも慰謝料を払うべき立場だったのだから、支払った慰謝料を半分返還してほしい」と請求できる権利を持っています。
離婚していれば関係のない話ですが、離婚せず家計を共にしている場合、不倫相手から100万円受け取っても、後日配偶者に50万円の請求が来れば、実質的に手元に残るのは50万円です。これでは解決した実感が持てないばかりか、夫婦関係の再構築に水を差すことにもなりかねません。そのため、示談交渉ではこの「求償権をあらかじめ放棄させる」という条項を盛り込むことが非常に重要になります。
3-3 ダブル不倫の場合に注意すべき金銭的なリスク
不倫相手も既婚者である「ダブル不倫」の場合、お互いの家庭環境や離婚の判断によって、金銭的なリスクが大きく変動する可能性があります。
お互いの家庭がどちらも離婚しない場合
あなたが不倫相手に慰謝料を請求すると、相手の配偶者からもあなたの配偶者へ同程度の請求がなされる可能性が高いといえます。夫婦単位の家計で見ると、お金が一方から他方へ移動して戻ってくるだけの状態になり、弁護士費用などの出し分だけ赤字になるという難しさがあります。
ダブル不倫の相手のみ離婚した場合
自分たちは離婚せず、ダブル不倫の相手は離婚した場合はさらに注意が必要です。相手方が離婚すると、相手方は「離婚による精神的苦痛」を理由に、あなたの配偶者に対して高額な慰謝料を請求してくる可能性があります。対して、離婚しないあなたが不倫相手に請求できる額は、既述の通り低めに抑えられるため、結果として夫婦共同の財布から出ていくお金の方が、相手から入ってくるお金よりも圧倒的に多くなってしまう事態が考えられます。
第4章 離婚しない選択をした場合に陥りやすい、慰謝料請求の失敗例
4-1 示談書に安易にサインし、相場より低い金額で確定させてしまう
交渉においてよくある失敗が、相手方や相手方が立てた弁護士の提示に、その場で納得して合意してしまうことです。不倫相手が弁護士を立ててきた場合、法律のプロとして「裁判になればこの金額が妥当です」「これ以上の支払いは法律上認められません」といった、一見すると論理的で抗いにくいような説明をしてくることがよくあります。
しかし、相手方の弁護士はあくまで「不倫相手の利益」を守るために動いています。提示された金額が、被害を受けたあなたの精神的苦痛を正当に評価したものとは限りません。知識がないまま相手の言いなりになり、低い金額で示談書を交わしてしまった後で、実は相場より大幅に低かったと判明するケースは少なくありません。
さらに、弁護士は示談書を作成する際、多くの場合、清算条項(本件に関し、今後一切の請求を行わないという約束)を設けます。清算条項が記載された示談書にサインした場合、後から相場より低かったとわかっても、追加請求が認められる可能性は非常に低くなります。
4-2 求償権を放棄させ損ねて、配偶者に支払い義務が発生してしまう
第3章でも触れましたが、離婚しない場合の慰謝料請求の注意点となるのが求償権です。
示談書に「求償権の放棄」を明記していない場合、高額の慰謝料を支払わせたとしても、後日、不倫相手はあなたの配偶者に対して、連帯債務者として支払った慰謝料の半額相当を請求する権利を有することになります。
こうした事態は、相手方に弁護士が就き、請求する側に法律知識が十分でない場合に起こりやすい注意点といえます。
4-3 不十分な証拠で請求を進め、相手に開き直られてしまう
「配偶者に協力してもらえば不倫の証拠は後からでも揃うはず」という油断が失敗を招くこともあります。配偶者が不倫を認めているからと安心し、客観的な証拠が不十分なまま不倫相手に請求を急いでしまうケースです。
請求を受けた不倫相手が「肉体関係はなかった」「既婚者だとは知らなかった(過失がない)」と主張した場合、それを覆すだけの客観的な証拠(不貞現場の写真や、親密なやり取りの履歴など)がなければ、慰謝料の支払いが認められないことも起こり得ます。肝心の配偶者が「不倫相手を守りたい」「これ以上自分も責められたくない」と相手の証拠隠滅に協力したり、証言を拒んだりするケースも珍しくありません。
4-4 ダブル不倫で相手の家庭へ報復した結果、自分の首を絞めてしまう
不倫発覚直後は「相手の家庭もめちゃくちゃにしてやりたい」という衝動に駆られることがあります。その報復心から、相手の配偶者にわざと不倫を知らせて慰謝料請求を促してしまうケースがありますが、これが後に後悔する結果になることがあります。
不倫発覚当初は「絶対に離婚する」と思っていても、時間が経過し、冷静に将来や子供のことを考えた結果、「やはり離婚せずにやり直そう」と判断が変わることは珍しくありません。しかし、一度相手の配偶者に知らせてしまった事実は消せません。相手の配偶者は、あなたの配偶者に慰謝料を請求するでしょう。その場合、先述のように、あなたが離婚しない選択をし、相手方の夫婦が離婚を選んだ場合、あなたが相手方から受け取る慰謝料より、あなたの配偶者が相手方の配偶者に支払う慰謝料の方がはるかに高額になるはずです。
感情に任せた初期の行動が、最終的に再構築を選んだ自分たちの首を絞め、新しい生活の資金を奪ってしまう事態につながってしまうのです。
4-5 許したとみなされ、不倫相手への請求が認められなくなってしまう
配偶者に対して「慰謝料請求をしない」「責任を一切問わない」など、免除や清算に近い文言を明示すると、その文言や経緯次第では、不倫相手から「すでに全体として解決済みではないか」などと主張されるリスクがあります。離婚しない場合ほど、配偶者との関係修復の言動と、不倫相手への法的請求の整理を分けて、合意書の文言を慎重に設計することが重要です。
不貞慰謝料を免除したとみなされるリスクがある行為の例
- 「今回の不倫については、一切責任を問いません」という内容の合意書や念書を配偶者と交わす。
- LINEやメールなどで「不倫の件、もう怒ってないし許すよ。お金もいらないから」とメッセージを送る。
上記の例のような形に残るものは、後から真意を争うことが難しくなりやすく、不倫相手側からも「配偶者が免除されたのだから、連帯債務である私への請求も消滅しているはずだ」という反論(免除の絶対的効力の主張)を許す隙を与えてしまいます。「離婚しない」というデリケートな状況下では、配偶者への態度と不倫相手への法的請求を論理的に切り分けて慎重に行動する必要があります。
4-6 不倫相手の職場へ連絡し、損害賠償を請求されてしまう
離婚しない選択を決めても、不倫相手に対する怒りが収まらず、「相手には社会的制裁を与えたい」という心理が残る方も少なくありません。しかし、相手の職場に電話をかけたり、SNSで不倫の事実を拡散したり、自宅に押しかけて謝罪を要求したりといった感情にまかせた行動は、「名誉毀損」や「業務妨害」に該当し、不倫相手から損害賠償を請求されたり、刑事罰の対象になったりするリスクを伴います。
たとえ、不倫相手に非があっても法を逸脱した手段を選んでしまうと、本来受け取れるはずの慰謝料と相殺されたり、あなたの立場が加害者に逆転してしまったりすることもあります。納得のいく解決のためには、感情を抑え、法的に認められた手続きの範囲内で責任を追及することが堅実といえます。
第5章 【FAQ】離婚しない場合の慰謝料請求に関するよくある質問
Q1 離婚しない場合、不倫相手への請求はいつまでに行うべきですか?
A1 原則として、知った時から3年が目安になるため、早めに方針を整理するのが安全です。
不貞慰謝料請求には消滅時効があります。原則として、精神的苦痛などの損害と不倫相手を知った時から3年で時効にかかる可能性があります。加えて、不法行為の時から一定期間が経過すると請求できなくなる場合もあるため、早めに方針を整理することが重要です。
Q2 不倫相手が「お金がない」と支払いを拒否した場合はどうなりますか?
A2 支払い能力がない場合でも、分割払いの合意や給与差し押さえなどの法的手段が検討可能です。
相手に現預金がない場合でも、請求権そのものが消えるわけではありません。分割払いにする場合は、支払条件を合意書にまとめ、必要に応じて強制執行が可能となる内容で公正証書化することで、未払い時の回収手段を確保できることがあります。
Q3 一度「離婚しない」と決めた後で、やはり離婚したくなった場合は?
A3 離婚を検討すること自体は可能ですが、追加の慰謝料請求ができるかは示談内容等によって変わります。
一度は離婚しないと決めても、その後に離婚を検討すること自体は可能です。ただし、不倫相手からすでに慰謝料を受け取っている場合、示談書の内容(清算条項の有無や対象範囲)によっては追加請求が難しくなることがあります。離婚に至った事情が慰謝料算定にどう反映されるかも個別判断となるため、方針決定前に専門家へ確認するのが安全です。
第6章 納得できる解決と未来のために
配偶者の不貞行為に直面しながらも、家庭を守り、離婚しない道を選んだあなたの決断は、尊重されるべきものです。本記事で解説した通り、離婚しない場合でも不倫相手に対して慰謝料を請求することは法律上の正当な権利です。しかし、離婚する場合とは異なる「金額相場の変動」「求償権の問題」「夫婦関係への影響」など、実務上で配慮すべき点は多岐にわたります。
まずは「いつ、どこで、誰が不倫をしていたか」という客観的な証拠を整理し、不倫相手に対して「何を一番に求めるのか(謝罪、金銭、接触禁止など)」を自分の中で整理してみましょう。ただし、ご自身だけで相手方と交渉するのは、感情的な対立を深めるだけでなく、本記事で挙げたような法的リスクを伴います。離婚しないという選択をより前向きな再出発にするために、専門的な対応が必要な場合は、私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスへお気軽にご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
離婚調停で母親が親権を取れないことはある?不利になるケース・状況を弁護士が解説

近年の裁判所は、母親というだけで親権を判断せず、より具体的な子どもの利益を重視する傾向になっています。
母親であれば親権は取れるはずと思っている方も多いかもしれませんが、実務の現場では、母親側が思わぬ理由で親権を断念せざるを得なくなるケースも起こります。
この記事では、母親が親権争いで直面するリスクや、不利になりやすいシチュエーション、後悔しないために確認すべきポイントについて弁護士がわかりやすく解説します。
第1章 母親が親権を確保できない事態はなぜ起こるのか
1-1. 性別よりも実際の育児実績と子の利益が重視される傾向
現代の離婚調停において、裁判所が親権者を決める基準は「子の利益(子の福祉)」です。これは、どちらの親と暮らすことが子どもの幸せに繋がるかという視点です。
かつて裁判実務上重視されていた「母性優先の考え方」により母親が有利な傾向にありましたが、現在はそれだけで決まることはなく、これまで誰が食事や寝かしつけ、通院などの育児を主導してきたかという具体的な監護の実績がより多角的・実質的に評価されるようになっています。
まずは、母親であるというだけで自動的に親権が決まるわけではないことを理解しておく必要があります。
1-2. 「母親だから有利」という甘い見通しによる準備不足
生活設計が不明確、離婚後の育児体制を具体的に練れていないなどお子さんの養育に関する準備が不十分な状態で、母親だからおそらく大丈夫だろうとして調停を進めてしまうのは少し危険です。
父親側が同じように親権を欲しいと思っているときに、綿密な養育計画や親族のサポート体制を整えて調停に臨んだ場合、こうした差があると、調停委員や裁判官に対して父親の方が子どもを育てる覚悟と環境が整っているというような印象を与えてしまい、結果として不利な判断を下されるリスクが高まります。
第2章 母親が親権を取れない可能性がある養育環境の例と解決のためのヒント
2-1. 深夜勤務や不規則な就労による直接監護の困難さ
仕事を持つ母親が親権を争う際、懸念されるのが就労形態です。働いていること自体が不利になるわけではなく、深夜まで及ぶ勤務や、休日が不定期で子どもとの時間が確保しにくい状況は、裁判所から「直接の監護(日常的な育児や生活の世話、見守り)が困難である」と見なされる要因になります。
特に、子どもがまだ幼い時期に、母親が夜間に家を空けざるを得ない場合、その間の監護を誰が行うのかは厳しく問われます。
解決のヒント
まずは勤務先に相談し、育児短時間勤務や始業・終業時刻の変更が可能か確認してみましょう。調整が難しい場合は、実家の両親による送迎や宿泊を伴う協力体制を具体化し、書面で提示することが有効です。また、病児保育や民間のベビーシッターなどを利用登録し、具体的な緊急時のフローを可視化しておくことで、直接監護の不足を補う姿勢を示すことができます。
2-2. 経済的な困窮により住居や食事を提供できない状況
親権の判断において、親の年収の額がそのまま決め手になることはほとんどありません。経済力に差があっても、養育費の支払いなどによって補完されるべきと考えられているからです。
しかし、母親側の収入があまりに不安定で、生活保護基準を大きく下回るような困窮状態にあり、かつ実家などの支援も期待できない場合はその限りではありません。
たとえば、定まった住居がなくネットカフェを転々としている、子どもに適切な食事を満足に与えられないといった実態がある場合は、親権者としての監護体制に慎重な判断がなされる可能性があります。
解決のヒント
現在の収入が低くても、離婚後に受け取れる養育費や児童扶養手当、児童手当などを合算した「将来の家計収支見込み」を詳しく算定しましょう。住居については、公営住宅への入居申し込みや、実家での同居など、安定した居住基盤が確保できることを証明する必要があります。自治体の福祉窓口で利用可能な公的支援制度を把握し、生活再建の具体的な計画を立てることから始めましょう。
2-3. 親族からの協力が得られず、母親一人での育児環境
母親がフルタイムで働きながら一人で子どもを育てる場合、裁判所は、子どもの発病や母親の残業など、突発的な事態になった場合のサポート体制を問う傾向があります。
近隣に頼れる親族がいないようなほぼ母親だけでの育児環境になるような場合は、少し注意が必要です。特に、父親側の実家が強力な育児支援体制をアピールしている場合、ここの充実度の差が判断に影響を与える可能性があります。
解決のヒント
遠方などで親族の協力が物理的に得られない場合は、地域のファミリーサポートセンターや民間サービス、放課後児童クラブなどの複数を組み合わせ、突発的な事態が起こった際のサポート体制をつくりましょう。可能であれば、実際に面談などを済ませ、離婚後に実際に利用ができるということを具体的に提示できると監護体制を整えようとしているということへの信憑性も高まります。
2-4. ギャンブルや過度な浪費癖などの生活態度
母親自身の生活態度に著しい問題がある場合も親権獲得には不利にはたらきます。代表的なのは、パチンコや競馬などのギャンブルにのめり込み、育児放棄(ネグレクト)に近い状態になっているケースや、借金を繰り返して家庭生活を破綻させているケースなどです。
こうした行為は、「子どもに適切な生活習慣を身につけさせることができない」という判断を促す傾向があります。また、自宅がゴミ屋敷化しているなど、衛生環境を維持できない場合も、子どもの心身の健康を損なうおそれがあるとして、親権者としての適格性を否定される要因になりやすいといえます。
解決のヒント
過去に問題があったとしても、現在は改善されていることを客観的に示す必要があります。家計簿をつけて支出を適切に管理している事実や、借金の完済証明、依存症克服のためのカウンセリング受診記録などが客観的な資料になり得ます。
自宅の清掃状況を写真で記録するなど、衛生環境を維持できているということを客観的に証明することも有効です。
2-5. 安全確保が難しいと判断される精神的な疾患
うつ病や統合失調症など母親が精神的な不調を抱えている場合、病状の程度によっては親権判断において慎重に検討される対象となる場合があります。
ただし、病気であること自体を理由に即座に親権を失うわけではありません。裁判所が検討対象とするのは、病状が「子どもの安全な養育を妨げる要因になっていないか」という実態です。たとえば、幻覚や妄想によって子どもに危害が及ぶおそれがある場合や、重度の意欲低下により子どもの食事や衛生管理ができないなどの状況があれば、親権獲得が難しくなる可能性があります。
解決のヒント
主治医による「適切な監護が可能である」旨の診断書や、治療に前向きに取り組んでいる通院実績を提示しましょう。また、体調が優れない時に育児を代行してくれる親族や福祉サービスとの連携が取れていることを明確に示すことも大切です。
第3章 不倫をした母親の親権獲得は難しいのか?
3-1. 離婚原因としての不倫と親権判断は別問題
法律相談の場でよくある誤解が、「不倫(不貞行為)をした親は親権を持てないのではないか」というものです。法律上の原則としては「不倫という離婚原因を作ったこと(有責性)」と「親権者としての適格性」は別問題とされています。つまり、夫以外の男性と関係を持ったからといって、それだけで即座に親失格という判定が下るわけではないということです。
不倫はあくまで夫婦間の問題であり、子どもへの愛情や適切な監護が行われている場合、親権が認められるケースはあります。
3-2. 不倫が親権判断に影響するケース①:不倫相手を優先し、子どもの食事や身の回りの世話を怠った場合
一方で、不倫が親権判断に直結するケースもあります。
それは、不倫行為によって「子どもの監護がおろそかになっている」場合です。たとえば、不倫相手と会うために夜な夜な子どもだけで留守番をさせたり、不倫相手との時間を優先して子どもの食事を作らなかったり、保育園の送迎を忘れたりといった事実がある場合です。
このような場合は、裁判所から監護能力に欠けると評価され、親権獲得が難しくなる可能性があります。
3-3. 不倫が親権判断に影響するケース②:子どもの前で不倫相手と接触するなど精神面に悪影響を与えた事実
さらに深刻なのは、不倫相手を自宅に連れ込み、子どもの目の前で接触を持つようなケースです。こうした行為は、子どもに多大な心理的ストレスを与え健全な発育を阻害するものとして、親権判断において心理的虐待に近い行為と見なされる可能性があります。
また、不倫相手が子どもに対して暴言を吐いたり、不倫相手による子どもへの体罰を母親が黙認したりしている状況が客観的証拠をもとに認められた場合、母親の親権確保は非常に難しくなるといえます。
親権判断は常に「子の利益」に立ち返るため、母親の行動が子どもに直接的な悪影響を及ぼしているかどうかが判断の境界線となります。
第4章 一定の年齢に達している子どもの希望が尊重され親権判断に影響があるケース
4-1. 10歳以上の子どもが「父親と暮らしたい」と明確に希望した場合
子どもが一定の年齢(おおむね10歳以上、特に法的に意思が尊重される15歳以上)に達している場合、親権判断における子ども自身の意思の重要性は高まります。
子どもが「お母さんとは一緒に暮らしたくない」「お父さんと暮らしたい」とはっきり意思表示した場合、たとえ母親側に大きな落ち度がなくても、子どもの意思に反して母親を親権者とする判断が慎重に検討される傾向が強まります。思春期を迎えた子どもの場合、無理に母親との生活を強いることは、子どもの精神的な不安定さや、非行などを招くおそれがあると判断される傾向があるからです。
4-2. 子どもの意向を無視し、母親の都合で転校などを強いるような場合
お子さんが「今の学校に通い続けたい」「この町を離れたくない」という強い希望を持っているとき、母親のもとで養育をすることで転居や転校が発生するような場合は、親権判断において影響が出る可能性があります。
裁判所は、子どもの生活環境の継続性を重視するため、母親が親権者になることでお子さんの生活基盤が大きく壊れてしまうような場合は、その判断が慎重になる場合があります。
4-3. 子どもの母親に対する「本音」が調査官に認定されたとき
調停の中で、家庭裁判所の調査官が子どもから直接話を聞く状況も起こり得ます。その際、子どもが母親に対して強い恐怖心を抱いていたり、あるいは極端に冷淡な態度を示したりすることがあります。
その原因が、過去の過度な叱責や感情的な爆発、あるいは「母親の顔色を常に伺わなければならない」という圧迫的な家庭環境にあったと調査官が判断した場合、母親への親権指定は回避される傾向にあります。
子どもが母親の前では「お母さんといたい」と言っていても、調査官との面談で本音が明らかになるケースは少なくありません。
第5章 不利な状況を回避し、子どもとの生活を守るために
現代の離婚調停において母親が親権を確保するためには、「母親であること」だけに甘んじず、以下のような点に留意する必要があります。
• 仕事と育児を両立させるための具体的かつ現実的な養育計画
• 自身の健康状態や生活態度が子どもに悪影響を与えていないか客観的に見つめる
• 子どもの意思が尊重されることを理解し、子どもの気持ちを置き去りにしない
ただし、親権の判断は個々の家庭の事情により大きく異なります。本記事の内容がすべてのケースに当てはまるわけではないため、具体的な状況については弁護士へ個別に相談することをおすすめします。
私たちNexill&Partners(ネクシル・アンド・パートナーズ)那珂川オフィスは、地域に根差した弁護士として、お一人お一人に沿った最適な戦略を提案いたします。大切なのは、「親権を取れないかもしれない」という不安を一人で抱え込まないことです。自信を持ってお子様との新しい生活に踏み出せるよう、私たちが全力でバックアップいたします。まずはお気軽にご相談ください。
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