
個人でマンションを賃貸に出す場合、賃貸借契約、管理委託契約、サブリース契約、保証契約など、複数の契約が発生します。これらの契約内容を十分に確認しないまま賃貸経営を始めると、入居者や管理会社、サブリース会社との間で想定外のトラブルになることがあります。
本記事では、個人オーナーが賃貸マンション経営を行う際に確認すべき契約書上の注意点と、弁護士に相談すべき場面について解説します。
第1章 個人のマンション賃貸経営でも、契約上の責任はオーナーに残る
1-1 管理会社に任せていても、貸主はオーナーである
個人でマンション賃貸経営を始める場合、入居者募集や家賃回収、修繕手配などを管理会社に任せることがあります。
しかし、管理委託の場合、入居者との関係で貸主となるのは基本的に物件のオーナーです。管理会社は、オーナーから依頼を受けて管理業務を行う立場にすぎません。
そのため、家賃滞納、設備故障、入居者からの苦情、退去時の精算などでトラブルが起きた場合、すべてを管理会社任せにできるとは限りません。
個人事業として賃貸マンション経営を行う場合には、まず自分自身が貸主として契約上の責任を負う立場にあることを理解しておく必要があります。
1-2 管理会社にどこまで頼めるかは管理委託契約書で決まる
管理会社に任せていると、「滞納があれば督促してくれるはず」「入居者トラブルがあれば対応してくれるはず」と考えるかもしれません。
しかし、管理会社がどこまで対応する義務を負うかは、基本的には管理委託契約書の内容によって決まります。そのため、家賃滞納時の督促、修繕に関する判断、オーナーへの報告、退去時の敷金精算などが、契約上、どこまで業務範囲に含まれているかを把握しておく必要があります。
1-3 ひな形の契約書をそのまま使うと、後から困ることがある
賃貸借契約書や管理委託契約書、サブリース契約書は、不動産会社や管理会社が用意したひな形を使うことがあります。ひな形を使うこと自体が問題というわけではありません。
しかし、契約書の内容が、その物件の状況やオーナーの方針に合っているかどうかは確認が必要です。
たとえば、将来的に物件を売却したい、自己使用したい、建替えを検討したいという事情がある場合には、契約内容をそれらの事情にあわせて定めておかないと、後から退去をお願いしたい場面で思うように進まなくなる可能性もあります。
契約書を締結する前に、契約内容が自分の方針に合っているかを確認しておくことは賃貸マンション経営の前提といえます。
第2章 入居者との賃貸借契約で後から困らないための確認ポイント
2-1 普通借家契約か定期借家契約かを確認する
入居者との賃貸借契約では、まず普通借家契約にするのか、定期借家契約にするのかを確認する必要があります。
普通借家契約は、借主保護の要請が強い契約です。契約期間が満了しても、貸主側が当然に更新を拒絶したり、解約を申し入れたりできるわけではありません。
一方、定期借家契約は、あらかじめ決めた契約期間が満了すると終了する契約です。ただし、契約締結時の説明や期間満了前の通知など、手続面に注意が必要です。
将来的に物件の売却や建て替えを考えている場合には、この普通借家契約と定期借家契約の違いが、後の物件運用に影響することがあります。
2-2 家賃滞納があっても、すぐに退去させられるわけではない
マンション賃貸経営で多いトラブルの一つが、家賃滞納です。
家賃が支払われず、家賃滞納があっても、直ちに鍵を交換したり、室内の荷物を処分したりして、強制的に退去させることはできません。
実際に契約を終了できるかは、滞納がどの程度続いているのか、これまで支払いの遅れが繰り返されていないか、督促に対して入居者がどのように対応しているかなど踏まえて、判断する必要があります。
賃貸借契約書には家賃の支払日を明記した上で、遅れた場合の遅延損害金の計算方法を具体的に示し、督促を行っても支払いが行われなかった場合の契約解除の流れまで、具体的に明記しておくことが重要です。
2-3 連帯保証人・保証会社がどこまで負担するかを確認する
家賃滞納や退去時の費用未払いに備えて、連帯保証人や保証会社を利用することがあります。しかし、実際にどの程度負担してもらえるかは契約内容によって異なります。
個人の連帯保証人を付ける場合は、保証人が負担する上限額である極度額を契約書に定めておく必要があります。
一方、保証会社を利用する場合は、保証される範囲の確認が重要です。未払い家賃の立替えだけでなく、退去時の原状回復費用や、トラブル時の明渡し費用まで対象に含まれているかを確認しておきましょう。
2-4 無断転貸・民泊・ペット飼育などの禁止事項を具体的に定める
入居後の部屋の使い方をめぐって、オーナーと入居者の間でトラブルになることがあります。
たとえば、無断で第三者に部屋を貸している、民泊として使っている、ペット不可の物件でペットを飼っている、騒音や迷惑行為を繰り返しているといったケースです。
このような行為について、契約書で明確に禁止していなければ、問題が起きたときに契約違反を主張しにくくなることがあります。
賃貸借契約書では、禁止する行為をできるだけ具体的に定めておくことが大切です。
あわせて、違反があった場合に注意や是正を求めることができるのか、改善されない場合に契約解除や損害賠償請求につなげられるのかも明記しておく必要があります。
2-5 原状回復と敷金精算は、退去時ではなく契約時に整理する
退去時に特にトラブルになりやすいのが、原状回復費用と敷金精算です。
原状回復とは、退去時に部屋を一定の状態に戻すことをいいます。ただし、通常の生活で生じる汚れや劣化まで、すべて入居者の負担にできるわけではありません。
たとえば、日焼けによるクロスの変色や、通常使用による設備の経年劣化などは、貸主側の負担と考えられることがあります。一方、入居者の不注意で壁に穴を開けた場合などは、入居者負担が問題になります。
契約書では、どのような費用を入居者負担とするのか、敷金から何を差し引くのかを明確にしておく必要があります。
第3章 管理会社との管理委託契約で確認するべきポイント
3-1 管理会社の業務範囲が明確になっているか
管理会社の担当業務は、空室時の入居者募集や内見対応に始まり、入居中の家賃回収や滞納督促、入居者からのクレーム対応、また物件自体の修繕対応など、場面に応じて幅広く発生します。
しかし、これらがすべて当然に管理会社の業務に含まれるわけではなく、どこまで対応してもらえるかは管理委託契約書の内容に基づいて判断されます。
そのため、管理会社に担当してほしい業務や範囲については、あらかじめ契約書で明確にしておくことが重要です。
3-2 滞納対応や入居者対応の報告ルールは明確になっているか
家賃回収や入居者対応を管理会社に任せる場合、滞納や苦情が発生したときの報告ルールも管理委託契約書で確認しておく必要があります。
たとえば、家賃の支払いが遅れた場合に、管理会社がいつ入居者へ督促するのか、何日以上の滞納でオーナーへ報告するのかが曖昧だと、対応が遅れてしまうことがあります。
また、設備故障や騒音などの苦情についても、管理会社が受けた連絡内容や対応経過が共有されていないと、後からオーナーが状況を把握しにくくなります。
滞納、苦情、修繕依頼などについては、「適宜報告する」といった曖昧な定めではなく、どのような場合に、いつ、どの方法でオーナーへ報告するのかを明確にしておくことが大切です。
3-3 修繕費用の事前承認の基準を定めているか
賃貸マンション経営では、エアコンや給湯器の故障、水漏れなど、急な修繕が発生することがあります。
このとき、管理会社がオーナーの承諾なく修繕を手配できるのか、いくら以上の修繕は事前承認が必要なのかを明確にしておく必要があります。
少額の修繕であれば管理会社が迅速に対応した方がよい場合もあります。一方で、高額な工事まで事前確認なしに発注されると、オーナーが想定していない費用負担を求められる可能性があります。
3-4 管理委託契約の解約や引継ぎルールが明確になっているか
管理会社の対応に不満がある場合、別の管理会社へ変更したいと考えることがあります。
しかし、管理委託契約には解約予告期間や違約金が定められていることがあります。
また、管理会社を変更する際には、入居者情報、賃貸借契約書、鍵、敷金や預り金、修繕履歴、滞納状況などの引継ぎも必要です。
これらの引継ぎが不十分だと、新しい管理会社が入居者対応を始められず、オーナーや入居者に不利益が生じることがあるためです。
管理委託契約を締結する段階で、こうした解約時のルールや引継ぎ方法も確認しておく必要があります。
第4章 サブリース契約・一括借上げを利用する場合の注意点
4-1 家賃保証と説明されても同じ賃料が続くとは限らない
個人でマンション賃貸経営を行う場合、サブリース契約・一括借上げを提案されることがあります。
サブリース契約は一括借上げ契約とも呼ばれますが、オーナーがサブリース会社に物件を貸し、サブリース会社が入居者へ転貸する仕組みです。空室があっても一定の賃料が入るように見えるため、収入が安定すると考えて契約を検討する方もいるでしょう。
しかし、家賃保証は「当初の賃料が将来も必ず続く」という意味ではありません。契約書には、一定期間ごとの賃料見直しや、賃料減額に関する条項が入っていることがあり、途中でオーナーに入る賃料が下がる可能性もあります。
4-2 賃料改定・免責期間・修繕費負担が収支に影響する
サブリース契約では、オーナーに支払われる賃料の金額や見直しのタイミングが重要です。
契約当初の賃料だけを見るのではなく、何年ごとに賃料が見直されるのか、サブリース会社から減額を求められる場合があるのかを確認しておく必要があります。
また、契約開始直後や入居者退去後の一定期間について、賃料が支払われない免責期間が定められていることもあります。
修繕費用の負担も確認が必要です。建物や設備の修繕費を誰が負担するのか、大規模修繕が必要になった場合にオーナーがどこまで費用を負担するのかを把握しておかないと、想定外の支出が発生することがあります。
4-3 売却や自己使用をしたくても契約を終了しにくい場合がある
サブリース契約では、オーナーが物件を売却したい、自己使用したい、別の管理方法に変えたいと思っても、簡単に契約を終了できない場合があります。
契約書に中途解約の条項があるか、解約する場合に何か月前までに通知が必要か、違約金が発生するかなどを確認しておく必要があります。
また、サブリース会社が入居者に転貸している場合、オーナーとサブリース会社との契約が終了しても、入居者との関係がすぐに整理できるとは限りません。
そのため、サブリース契約を締結する際は、賃料条件だけでなく、契約を終了する場合の条件や、入居者関係の引継ぎまで確認しておくことが大切です。
4-4 契約終了後は入居者情報や敷金の引継ぎが問題になりやすい
サブリース契約が終了する場合、実際に住んでいる入居者との関係をどう引き継ぐかが問題になります。
入居者の契約内容、毎月の家賃、更新時期、滞納の有無、敷金の預かり状況といった情報が整理されていないと、サブリース契約終了後にオーナー自身で管理を行うことが難しくなります。
サブリース会社が入居者との契約書や連絡先を管理している場合、契約終了時にどの資料を引き渡してもらえるのかを、あらかじめ確認しておく必要があります。
第5章 弁護士に相談すべきタイミングと相談内容
5-1 契約前に相談すると、将来の売却・退去・管理変更を見据えた契約書にしやすい
弁護士への相談というと、すでにトラブルが起きてから依頼するものと思われがちです。
しかし、賃貸マンション経営では、契約を結ぶ前に相談することで、後から大きな問題になる可能性を下げられる場合があります。
契約前のリーガルチェックは、単に契約書の言葉を整える作業ではありません。
オーナーが将来どのように物件を運用したいのかを踏まえ、契約書がその方針に合っているかを確認する作業です。
5-2 滞納や原状回復トラブルでは、初動対応を誤らないことが重要になる
すでに家賃滞納や原状回復費用のトラブルが起きている場合も、早めに弁護士へ相談することが大切です。
たとえ家賃滞納が続いても、オーナーの判断だけで入居者を強制的に退去させることはできません。また、原状回復費用についても、契約書や部屋の使用状況によって請求できる範囲は変わります。
弁護士に相談することで、希望する解決に向けてどの手順で進めるべきかを整理できます。
初動対応を誤らないことは、結果的に時間や費用の負担を抑えることにもつながります。
5-3 契約書ややり取りを整理して相談すると、対応方針を具体的に検討しやすい
弁護士に相談する際は、契約書ややり取りを整理しておくと、より具体的な検討がしやすくなります。
たとえば、次のような資料があると状況を把握しやすくなります。
・管理委託契約書
・サブリース契約書
・保証会社に関する資料
・入居者や管理会社とのやり取りの履歴
・家賃の入金状況が分かる資料
・修繕見積書、請求書、写真 など
すべての資料がそろっていなくても構いません。
まずは手元にある資料と困っている内容を整理することから始めるとよいでしょう。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスでは、入居者や管理会社とのトラブル対応についてご相談いただけます。
これから個人事業として賃貸マンション経営を始める方、すでに契約書を提示されていて内容に不安がある方、管理会社や入居者との対応に悩んでいる方は、まずはご相談ください。
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