弁護士コラム

2026.06.22

賃貸物件を取得した新オーナーが確認すべき契約書と手続き|入居者がいる場合・いない場合を弁護士が解説


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賃貸物件を取得した新オーナーが確認すべき契約書と手続き|入居者がいる場合・いない場合を弁護士が解説

 

賃貸物件を購入したり、相続で収益不動産を引き継いだりした場合、前オーナーが結んだ賃貸借契約を引き継ぐか、契約書を作り直す必要があるのかといった実務上の疑問が生じがちです。本記事では、オーナー変更時の契約書の扱いと実務上の注意点を弁護士が解説します。

第1章 オーナー変更の基本|賃貸人の地位承継と登記の重要性

1-1. 賃貸人の地位は新オーナーに自動的に引き継がれる

売買によって賃貸物件を取得した場合や、相続によって賃貸物件を承継した場合、貸主としての権利や義務は、原則として新しい所有者や相続人に引き継がれます。実務上は、これを賃貸人の地位承継と整理します。
このような地位承継は、通常、賃借人(入居者)の同意を得なくても生じます。そのため、前オーナーと入居者の間で結ばれていた賃貸借契約の内容(賃料の額、契約期間、更新の条件など)は、そのまま新オーナーとの間でも維持されることになります。

1-2. 所有権移転登記は、賃貸経営上も重要になる

法律上は自動的に地位が引き継がれるものの、新オーナーが所有者としての権利を公的に主張するためには、所有権移転登記を完了させておく必要があります。
未登記の状態では、入居者に対して自分が新しい貸主であることを主張し、今後は自分に家賃を支払うよう求める場面で、支払先を争われる可能性があるためです。もし入居者から、登記簿謄本などの客観的な証明がないことを理由に賃料の支払いを拒否された場合も、それに対抗することがむずかしくなります。

特に、相続によって物件を引き継いだオーナーの場合、遺産分割協議が長引くなどの理由で相続登記が後回しになるケースが見られます。しかし、2024年4月からは相続登記が法律上義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から一定期間内に申請する必要があります。

入居者との権利関係を明確にし、賃料の回収を円滑に行うためにも、売買・相続を問わず、不動産の取得後は速やかに登記手続きを進めることが重要です。

第2章 入居者がいる場合|既存契約の確認と書面対応

すでに入居者が居住している物件を取得した場合、前オーナーから引き継いだ契約関係を実務上どのように整理すべきか、具体的な手続きと注意点を解説します。

2-1. 現行の賃貸借契約書を当然に作り直す必要はない

新オーナーになってまず気になるのが、取得した物件の入居者全員と賃貸借契約書を結び直さなければならないのか、という問題ではないでしょうか。
結論からいうと、法律上の義務としては、当然に契約書を作り直す必要はありません。

前述の通り、従前の契約内容がそのまま新オーナーに引き継がれるため、旧契約書のままでも法的な効力は維持されます。
しかし、実務においては、契約書そのものは作り直さなくても、新オーナーの連絡先や新しい賃料の振込口座などを明確にした覚書(または変更合意書)を交わすことが推奨されます。
これにより、新しい貸主の情報を書面で残すことができ、将来、連絡先や支払先をめぐる認識の違いを防ぎやすくなります。

2-2. オーナー変更通知書では、支払先と連絡窓口を明確にする

新オーナーへの変更に伴い、入居者に対して「賃貸人変更通知書」(オーナー変更通知書)を送付します。この通知は、一般的に前オーナーと新オーナーの連名で行うなど、入居者がオーナー変更の事実を確認しやすい形で行うのが実務上安全です。
新オーナー単独の名義で通知を送った場合、入居者が本当にオーナーが変わったのか判断が付かず、疑念を抱き、支払いを躊躇する原因になり得るためです。

また、通知が届くまでの過渡期に、入居者が従来の口座(前オーナーの口座)に家賃を振り込んでしまうケースがあります。
法律上、適切な変更通知が届く前に入居者が前オーナーに家賃を支払ってしまった場合、新オーナーが入居者に対して、再度の支払いを求められるかが問題になることがあります。
そのため、前オーナーとの売買決済時や引き継ぎ時に、通知の発送タイミングと賃料の切り替え時期を日割り計算等で厳密に取り決めておくことが重要となります。

2-3. 敷金は原則として、新オーナーが返還義務を負う

入居者が前オーナーに預けていた敷金に関する返還義務は、物件の所有権移転に伴い、原則として新オーナーに自動的に引き継がれます。

将来、その入居者が退去する際、新オーナーは入居者から直接敷金を預かっていない状態であっても、敷金の返還(原状回復費用等を差し引いた残額の返還)を行わなければなりません。そのため、物件の売買決済の段階で、前オーナーが預かっていた敷金の総額を確認し、売買代金からその金額を差し引く形で精算を行っておくことが必要です。

2-4. 前オーナー時代の滞納賃料は別途整理が必要になる

一方で、前オーナーの所有期間中に発生していた入居者の滞納家賃(未収賃料)を請求する権利は、物件の所有権が移転しても、新オーナーに自動的には引き継がれません。過去の滞納家賃は、あくまで前オーナーと入居者の間の債権債務関係として残るためです。

もし新オーナーが、過去の滞納分も含めて未払い家賃を回収したい場合は、前オーナーとの間で「債権譲渡契約」を個別に結ぶ必要があります。また、滞納状態を理由に入居者に対して契約解除や明渡しを求める場合は、滞納の経緯、催告の有無、現在の支払状況なども含めて別途検討する必要があります。

第3章 入居者がいない場合|新規契約書作成と将来のリスク管理

取得した物件が現在空室である、あるいは新築アパートを建築してこれから新たに賃借人を募集する場合、新オーナーは白紙の状態から賃貸借契約書を作成することができます。
一般的な雛形をそのまま使用するケースもありますが、将来的な管理・明渡し実務に備えるためには、物件の状況を踏まえて条項を確認し、必要に応じて内容を調整することが推奨されます。

3-1. 原状回復特約を法的に有効にするには

退去時の原状回復費用をめぐるトラブルは、賃貸経営において多い紛争の一つです。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年劣化や通常損耗(普通に暮らしていて発生する汚れや傷)の修繕費用は、貸主負担が原則とされています。
居住用賃貸借で借主が消費者にあたる場合、特約によってハウスクリーニング費用など特段の清掃費用を借主負担とすることは法律上可能ですが、単に「退去時の清掃費用は借主の負担とする」と明記しただけでは、内容が曖昧であるとして消費者契約法との関係で、無効と判断されるリスクがあります。

特約を法的に有効に機能させるためには、少なくとも以下のような点を意識する必要があります。

• 特約によって借主負担とする通常損耗の具体的な範囲(例:畳の表替え、ハウスクリーニング費用など)が契約書に明記されていること
• 金額または算定根拠(例:㎡単価や一律○万円など)が具体的に示されていること
• 契約締結時に、貸主から借主に対してその特約の内容について十分な説明がなされ、借主がそれを認識して合意していること

契約書作成時には、これらの条件を満たす具体的な文言を盛り込む必要があります。

3-2. 実務上、契約書に記載しても認められにくい家賃滞納の対応策

日本の賃貸借法務においては、判例上、貸主と借主の信頼関係破壊の原則が重視されやすい傾向があります。たとえ契約書に「家賃を1ヶ月でも滞納した場合は、貸主は何らの催告を要せず直ちに契約を解除できる」といった無催告解除条項を記載していたとしても、数日間の支払遅延や1ヶ月程度の滞納では、貸主と借主の間の信頼関係が根本的に破壊されたとはみなされず、直ちに解除を主張しても、裁判で認められない可能性が高いといえます。

実務上、契約解除の有効性を主張しやすくするためには、一定期間の滞納があり、かつ相当期間を定めて催告したにもかかわらず支払われないという経緯を整理しておく必要があります。
契約書には、催告の手順や期間を合理的に定め、紛争時に説明しやすくしておくことが現実的な対策といえます。

3-3. 残置物処理および孤独死に関する対応

高齢者世帯の増加に伴い、入居者が室内で孤独死されたり、認知症等で施設に入所したまま連絡が取れなくなったりするリスクが高まっています。
入居者と連絡が取れなくなったからといって、貸主が室内に残された家具や荷物(残置物)を無断で処分することは、不法行為として入居者やその相続人から損害賠償を請求される原因にもなり得ます。

この問題に対応するには、入居者が死亡した場合に備えて、賃貸借契約の解除や残置物処理に関する死後事務委任契約等をあらかじめ締結しておく方法があります。賃貸借契約書には、そのような委任契約の締結を前提とした特約を盛り込むことが考えられます。
将来的な明渡しや賃貸スペースの早期再稼働を可能にするため、こうした契約を併せて検討することが推奨されます。

第4章 前オーナーとの間で確認・回収すべき重要書類

物件まわりのトラブルは、前オーナーからの引き継ぎ不足が原因で発生することも少なくありません。
物件の引渡しを受ける際、新オーナーが法的な権利を守るために確認・回収すべき書類は以下の通りです。

書類名 確認・回収の目的と法的な重要性
現行の賃貸借契約書(原本) 特約の有無、更新料の定め、契約期間などを正確に把握するため。原本の確保が基本です。
入居申込書・本人確認書類 入居者の属性や連絡先、緊急連絡先の情報を把握するため。
連帯保証人の同意書・印鑑証明書 賃料滞納時に保証人へ法的な請求を行うための証拠能力を確保するため。
過去の変更合意書や覚書 前オーナーと入居者の間で「賃料を減額する」「ペット飼育を許可する」といった個別の合意(口約束を含む)がなかったか確認するため。
家賃保証会社との保証契約関係書類 オーナー変更に伴う名義変更手続きを行うため。手続きを怠ると、滞納発生時に保証会社の対応を受けられないおそれがあります。

前オーナーと入居者との間で過去に交わされた書面や合意の有無は、現在の正しい契約条件を把握するだけでなく、将来的な条件変更を申し入れる際の大前提となる判断材料です。もし過去の覚書などが紛失している場合は、物件の引渡し前に、前オーナーを通じて入居者へ確認をとり、当時の合意内容を明記した確認書等の書面を引渡し前までに作成することが重要です。

第5章 まとめ|オーナー変更時は契約書と引継資料の確認が重要

賃貸物件を取得した新オーナーは、現行の賃貸借契約書を含め、前オーナーと入居者との間で交わされた覚書、変更合意書、保証会社関係の書類なども確認し、契約関係を正確に把握しておく必要があります。
賃貸借契約では一般的なひな形が使われることもありますが、不動産は物件ごとに事情が異なります。そのうえ、契約書の内容は退去時の原状回復や滞納対応、保証人への請求などに大きく影響します。
トラブルを未然に防ぐためにも、契約書や前オーナーとの引き継ぎ内容に不安がある場合は、私たちNexill&Partners那珂川オフィスまでお気軽にご相談ください。

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