トイレ休憩、タバコ休憩は「休憩時間」?
コロナでのテレワークの普及や、働き方改革の一環でのフレックスタイム制の導入など、働く時間や場所が多様になっています。 しかし、そういった中でも、定時に会社に出社し、お昼頃の休憩時間に休憩を取り、定時や少し残業をして帰るというような、今まで通りの働き方をされている方も少なくありません。 そういった中で、お昼の休憩時間(タイムカードなどを打刻して休憩する時間)とは別に、トイレに行っている時間や、喫煙される方がタバコを吸いに行っている時間など、厳密にいうと働いていない時間があると思います。 そういったトイレ休憩やタバコ休憩の時間を給与が発生しない休憩時間とすることはできないかという相談がごくまれにあります。 そこで、今回は、トイレ休憩、タバコ休憩についてどういった取り扱いがなされているのかについて説明させていただきます。
1.休憩時間とは
使用者と労働者の関係について規律する労働基準法の34条1項では、
「使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と規定しています。そして、この「休憩時間」とは、「労働が労働から完全に離れることを保障される時間」
とされており、休憩時間に該当する場合には、その時間について、労働者に賃金を支払う必要はありません。 簡単にいうと、労働時間の途中にある労働時間でない時間を指します。そして、「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。したがって、トイレ休憩やタバコ休憩が「休憩時間」に該当するかについては、その時間が使用者の指揮命令下に置かれている状態といえるかという点から判断することになります。
2.トイレ休憩について
トイレ休憩については、そもそも生理現象としての排泄を行うためのものであり、短時間であることから、完全に使用者の指揮命令下(労働)から解放されていることが保証されているとはいえないため、「休憩時間」には当たらないことになります。したがって、トイレ休憩の時間を休憩時間として賃金を支払わない取り扱いをすることは労働基準法違反となり認められません。
3.タバコ休憩について
近年、健康志向から喫煙者は減少していますが、喫煙者の方にとって勤務時間中一切タバコを吸わないというのはなかなか耐えられないのが実情ではないでしょうか。タバコ休憩の時間が休憩時間に該当するか否かが争われた裁判例では、「職場内で喫煙していたとしても、何かあればただちに対応しなければならないのであるから、労働から完全に解放されている状態とはいえない」として、休憩時間には該当しないとの判断がなされております。となると、厳密にいうとタバコ休憩の時間も労働時間として給与が発生していることになり、タバコを吸わない人との間の不公平感があるようにも思えますが、仕事中に飲んでよいとされるコーヒーを作っている時間などは休憩時間とならないことは争いはないと思うので、それとの対比を考えると逆にタバコ休憩のみ認めないというのは逆に問題になってしまうかなと思います。
4.トイレにこもっている場合や、何度もタバコ休憩に行く場合は?
上記でご説明したとおり、トイレ休憩やタバコ休憩が労働基準法上の「休憩時間」にあたらないとしても、例えば、病気でもないのにトイレに何十分も閉じこもっていたり(携帯を持ち込んでトイレでゲームをしているような人もいるようです)、短時間に何度もタバコ休憩を行うということは許されるわけではありません。 そのような行為を従業員が行っている場合には、職務専念義務違反として懲戒処分の対象となったり、賞与の減額事由となります。もっとも、使用者側の場合、単に「あの人はしょっちゅうトイレに行っている」というような主観的な内容だけで処分などをすることは、後々紛争に巻き込まれるリスクがあるため、タバコ休憩の時間や、理由なく離席している状況等を記録しておくことが望ましいでしょう。
5.さいごに
こうした細々した休憩について会社側が逐一管理するということは、働きづらい環境になってしまうリスクもあり、なかなか現実的ではないとは思います。 一方で、働いている人も、無配慮にタバコ休憩をしてしまうと、他の従業員から反感を買ってしまうかもしれません。使用者も労働者も、みんなで働きやすい環境にするよう心掛けてもらいたいなと思いました。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
初詣の参加は業務??
新年あけましておめでとうございます。
昨年の7月からこっそりジムに通ってダイエットをしていました。
7月からはじめて、年末の時点で12Kg減量することができました。
年末の事務所全体の忘年会で、久しぶりの博多の本店の人たちと会ったのですが、皆さんが「瘦せた!」というリアクションをしてくれていたのがとてもうれしかったです。
今年は引き続き減量を続け、リバウンドしないようにしたいと思っています。
なんとなく今年の抱負を述べましたが、新年にまつわる法律の話をしようと思います。
皆さんは初詣に行かれましたでしょうか。
福岡市ですと、櫛田神社等に毎年多くの方が参拝に来られているのを見かけます。 また、仕事はじめの1月4日などには、スーツ姿の方が、多く参拝し、商売繁盛の祈願されているのも見かけます。
では、この初詣を会社の営業時間に従業員の方に参拝することを強制することはできるのでしょうか。
会社の営業時間に初詣という行事に参加することを要求する行為は、一種の業務命令に該当します。
この点、労働基準法第3条では「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と規定しています。 したがって、宗教上の理由で、初詣に行きたくないという人に対し、初詣を強制すること、断った場合に欠勤扱いとすること、査定などで不利に取り扱うことは、従業員の方の信教の自由(憲法20条2項)を侵害する行為として違法となります。
したがって、初詣の参拝については、業務時間外に参加不参加を自由に選ぶことができるような形、すなわち業務ではない形で参加を募る方がよいのではないでしょうか。
また、業務時間に行う場合にも、参加した人だけでなく、参加しない人に対してもきちんと賃金を支払う必要があることや、参加しない人を不利益に取り扱うことは違法であるため注意が必要です。
近年では、多様性が企業にも求められる時代になっているため、業務命令や会社の仕組みづくりの際にも考慮が必要ですので、経営者の方でご不安なことがあれば是非ご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
【相談事例67】従業員が支払った賠償金を会社に請求できるの??
【相談内容】
会社でミスをしてしまい、お客さんに損害を与えてしまいました。
会社からは、「お前のミスなんだからお前が全額負担しろ」と言われたため、私の方で、お客さんに対し、全額賠償しました。
私のミスなので私が支払わなければならないということはわかるのですが、会社が少しも負担しないというのは納得いきません。
【弁護士からの回答】
前回は、従業員のミスにより会社が損害を被った場合、会社は従業員に対して賠償請求は認められるものの、信義則により全額請求することはできないことをご説明させていただきました。
今回は、前回の事例とは異なり、従業員が、損害を与えた第三者に賠償した際、会社に対して負担を求めることができるのかという問題についてご説明させていただきます。
1 問題の所在(逆求償は認められるか)
前回、ご説明させていただきましたが、従業員が会社の事業に関し、第三者に損害を加えてしまった場合、被害者は会社に対し損害賠償を請求できるのですが(民法715条1項)、会社は、従業員に対して、被害者に支払った賠償金の支払うように求めることができます(民法715条3項。求償権といいます。)。
では、従業員が、被害者に対して損害賠償を行った場合、従業員は使用者(会社)に対して、求償することができるのでしょうか。
民法715条3項では、使用者から従業員への求償については規定しているものの、従業員から使用者への求償(逆求償といわれています。)については、何ら規定されていないことから、問題となります。
2 最高裁での判断
この、従業員からの逆求償が認められるか否かについて争われた事件があり、第1審では、従業員からの逆求償を認めたものの、第2審では、従業員が起こした賠償責任は、事業の際に行われたものであっても、不法行為を行った者である従業員が全額賠償する責任があるとして、逆求償を否定しました。
そして、この問題は、最高裁判所にて判断されることになり、令和2年2月28日の判決では、民法715条1項の使用者責任について、損害の公平な分担の見地から規定されたものであると判断し、使用者は、従業員との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると判断し、事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で逆求償を認められると判断しました。
3 最後に
このように、従業員に行為により損害が発生した場合に、従業員と会社のいずれが負担すべきであるかについては、非常に複雑な問題となっているため、是非一度弁護士にご相談ください。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
【相談事例66】自分のミスで会社に大損害!全額支払う義務があるの??
【相談内容】
私は、とある会社で、主に商品の発注業務を行っているのですが、会社において、他に発注業務を担当している従業員が一気に退職してしまい、私のもとに膨大な発注業務の仕事が舞い込んできました。
連日夜遅くまで発注の依頼を掛けていたなかで、とある業者に対し、本来50個発注すべきところを、間違って、5,000個発注してしまい、大量の商品が会社に届くことになりました。
会社には仕入先業者に対する多額の代金支払等多額な損害が発生することになってしまいました。
会社からは、「お前のミスなのだから全損害を賠償しろ」と言われています。
ミスをしたのは私なのですが、全額私が負担しなければならないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
労働事件という一般的には残業代請求や解雇の有効性を争うという案件が一般的ですが、従業員のミスによる損害の問題も少なからず存在します。
ご相談者様のように労働者側からのご相談のみならず、会社の経営者の方からのご相談も少なくありません。
そこで、今回は、従業員のミスによる損害賠償請求についてご説明させていただきます。
1 損害賠償請求は認められる?
一般に雇用契約では、従業員には、業務を行う義務を負っており、かかる労働義務を果たしていたとしても、従業員のミスにより会社に損害を与えてしまう可能性があり、法律上では、故意(わざと)または過失(ミス)により会社に損害を与えてしまったといえるため、会社は不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)権を有し、会社が被った損害の全額を賠償しなければならないとも思われます。
また、今回のご相談とは異なりますが、従業員が会社の事業に関し、第三者に損害を加えてしまった場合、被害者は会社に対し損害賠償を請求できるのですが(民法715条1項)、会社は、従業員に対して、被害者に支払った賠償金の支払うように求めることができます(民法715条3項。求償権といいます。)。
2 信義則による制限
しかし、会社(使用者)は、従業員を使って事業を行い、利益を得ているのであるから、かかる従業員のミスにより損害が発生した場合に、そのミスを全額従業員に請求することができるとすると、会社はいっさいリスクを背負わなくなってしまい、不公平になります。
そこで、最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決では、求償権の問題ですが、
「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」
としており、諸般の事情を考慮して、求償権の有無を判断しています。
この最高裁の判断は、会社が従業員に対して直接損害賠償請求をする場合にもあてはまると言われています。
3 本件では?
ご相談者様の事例では、人員不足の状態になっていること、連日遅くまで1人で仕事をしており、業務過多の状態になっていることなどから、会社からご相談者様へ請求することができる金額は相当程度減額されることになると思われます。
もっとも、どの程度減額されるのかという点については、事実の認定や法的評価を伴う非常に専門的な問題であるため、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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【相談事例44】会社の経費でポイントを貯めることは違法?
【相談内容】
会社を経営しています。従業員のことで相談なのですが、営業で外回りに行く従業員に対しては、車のガソリン代などは会社の経費で支給しています。
ガソリンのレシートを貰って、その金額を後日支給しているのですが、先日、従業員からもらったレシートを見ると、従業員がガソリンを入れる際に、自分のポイントカードを使ってポイントを貯めていたことが分かりました。
ガソリン代については会社が支給しているのにポイントは自分でもらうということは法的にも問題にならないのでしょうか?
【弁護士からの回答】
近年、コンビニやガソリンスタンド等様々な店舗などで購入金額に応じたポイントを付与し、たまったポイントを利用し割引などの特典を得るというサービスが行われています。
ご相談者様の事例では、ガソリンを入れる際のポイントという1回あたりのポイントの金銭的な価値はさほど高くはないものですが、これが長期間にわたり継続していく場合には大きな金額となっていくものであると思います。
また、ポイントと同様に、飛行機を利用した際にたまるマイル等の場合にも大きな金額となるのが通常です。今回は、経費を使用した場合のポイントの帰属に関する問題についてご説明させていただきます。
1. ポイントの所有者(権利者)は誰?
まず、会社の経費として支払った際のポイントが誰のものか(権利者は誰か)という点が問題になります。
ポイントが付与される前提となる代金等の支払が会社から支給されている点に着目すれば会社の物とも解される側面もあります。
もっとも、ポイントについては誰が代金を支払ったかという点は一切問題にしておらず、カードなどを提示した人に対して付与されるものである点からすると、カード等の所有者に帰属するとも考えられます。
このように、経費を使用して支払った代金際のポイントの帰属については、明確に誰に帰属するものであるかについては、決まっているものではありません。
2. 無断で自身のポイントにする行為は違法か?
では、ご相談者様の事例のように、会社に無断で自身のカードにポイントを貯める行為は法的に問題となるでしょうか。
結論からいうと、会社の就業規則等によって、明確にポイントやマイルが会社の所有(会社に帰属)することが規定されていない場合には、従業員が無断で自己のカード等を使いポイントを貯めていたとしても刑事のみならず民事上も法的責任を問うことは難しいでしょう。
上記のとおり、ポイントが誰に帰属するかについては、明確な基準があるわけでもない状況であることに加え、会社としてポイントの帰属に関して何ら明言していない以上、会社としても従業員が購入等をする際のポイントの帰属については、放置(放任)していたと捉えられてもやむを得ない状況とであるといえるでしょう。
したがって、就業規則などでポイントの帰属やルールについて何ら明言していない以上、自身のポイントカードにポイントを貯めた従業員には、業務上横領罪や、背任罪などの犯罪は成立せず、また、自身のポイントカードを使用したことを理由とする懲戒処分もすることは違法になってしまうでしょう。
3. 会社としての対策は??
他方で、就業規則等において、ポイントやマイルについては、会社に帰属するものとすることや、購入時には会社のポイントカードを使用する旨規定されている場合には、会社での経費で支払う際のポイントについては、会社に帰属することが明確に明らかになっているため、規定に反し、従業員が自身のカードを使用した場合には、規定違反を理由として懲戒処分を行うことも可能です。
また、業務上横領罪若しくは背任罪として刑事処罰の対象になる可能性もあります。
会社として、ポイントについては従業員に自由に与えてもよいというスタンスであるのであれば別ですが、会社として、ポイントについても会社の帰属としたい場合には就業規則などにその旨を明確に規定するとともに、従業員に対し、会社のカードを使い、自身のカードを使用しないようはっきりと伝えることが必要になります。
就業規則の作成や変更に際しては、専門的な知識も要する分野ですので、是非一度弁護士にご相談ください。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例30】~迷惑動画③会社側の対策は?~
【相談内容】
個人で居酒屋を営んでいます。うれしいことに毎日繁盛しており、自分や家族だけでは到底手が回らなくなってきてしまったため、一挙に学生さんのバイトを3名採用することになりました。
ですが、最近話題の迷惑動画の投稿による炎上騒動などを目にするようになり、他人事ではないなと思ってしまいました。
学生のアルバイトなどを雇うにあたって、迷惑動画等の迷惑行為を防止するためにはどのような手だてがあるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
これまでは、迷惑動画を投稿した側のリスク等についてご説明させていただきました。
今回は、迷惑動画を投稿されないよう、店側としてどのような対策をとればよいのかについて、純粋な法律問題ではないとは思いますが、弁護士としてアドバイスできる範囲でご説明させていただきたいと思います。
1 指導及び管理
まず、入社する従業員に対し、迷惑動画の投稿などを絶対に行わないよう指導すること及び、万が一そのようなことをした場合に店側として従業員に対し損害賠償等法的措置を講ずるという毅然した態度を示しておくことにより、迷惑動画の投稿行為自体を抑制することが期待できるでしょう。
この指導などについては、迷惑動画の投稿のみならず、仕事上知りえた個人情報を流出しないことなど仕事を実施する上での禁止事項をきちんと認識してもらう際に有効であると考えられます。
また、職務中の携帯電話の使用を禁じることや、職場で携帯電話を預かるといった選択肢もありうるところではありますが、その際には、家族からの緊急の連絡などへの対応が困難になりその際の法的責任などの問題もあり、採用する際には慎重な対応が必要になるでしょう。
2 身元保証契約
前回もご説明させていただいたとおり、学生の従業員が迷惑動画等の不法行為を行ったとしても、親に賠償責任を追及することはできません。
そこで、親族等を身元保証人とすることで、仮に従業員が会社に損害を与える行為を行った際には、身元保証人に対し、賠償額を請求することができることになります。
したがって、損害を確実に回収するためには、入社時に身元保証契約を作成するのがよいでしょう。
もっとも、身元保証契約を締結するためには、契約書が必要であり、他人の損害を肩代わりする契約であるため、要件が厳格に定められており、せっかく身元保証契約を締結したとしても、要件を充足していない場合には身元保証契約は無効になってしまうことになります。
したがって、身元保証書を作成する際には、弁護士に作成を依頼するか、作成した契約書が有効な内容になっているのかについて、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例29】~迷惑動画問題②親の賠償責任は?~
【相談内容】
迷惑動画を投稿してしまうと、とても大変なのですね。息子にもくれぐれもしないようにしっかり言い聞かせておきます。
ひとつお聞きしたいのですが、万が一息子が迷惑動画を投稿してしまい、損害賠償をしなければならない場合、法律上親である私も賠償責任を負わなければならないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
前回は、迷惑動画を投稿してしまったことによる、投稿者にどのようなリスクがあるのかについてご説明させていただきました。
今回は、親の法的責任についてご説明させていただきます。
1 誰が賠償責任を負うのか
結論からお伝えすると、迷惑動画を投稿したお子さんが賠償責任を負い、親御さんが賠償責任を負うことは原則として賠償責任を負うことはありません。
民法714条では、責任無能力者が不法行為を行った場合、監督責任者が賠償責任を負うと規定されており、お子さんが責任無能力者の場合には親御さんが責任を負うことになりますが、一般的に14歳以上のお子さんの場合には責任能力は認められると言われているため、アルバイトができるようなお子さんの場合には監督責任者である親が賠償責任を負うことはありません。
上記民法714条以外に民法上子どもが不法行為を行ったら親が賠償しなければならないと規定されているわけではないので、お子さん自身が賠償責任を負うことになります。
もっとも、親御さんはあくまでも法律上責任を負わないだけであって、アルバイトなどで働いていたお子さんが多額の賠償を行うことは困難であるため、事実上家族も支払いを余儀なくされてしまうのが通常だと思います。
2 身元保証契約
上記のように、お子さんが不法行為を行ったとしても原則として親御さんが賠償責任を負うことはありません。
もっとも、お子さんが入社するときに親御さんにおいて身元保証契約書等に署名・押印していた場合には、親御さん(身元保証人)も賠償責任を負う場合があります。
身元保証契約とは会社(使用者)が採用した労働者(従業員)の行為によって会社が被った損害を、本人にかわって保証する契約になります。
お子さんが入社する際には、とくに意識せずにこの身元保証契約書に署名・押印されている親御さんがほとんどであると思いますが、身元保証契約を締結した場合には迷惑動画の投稿に限らず、お子さんの職場での行為により親御さん自身も多大な賠償責任を負ってしまう可能性があることを理解する必要があるでしょう。
この身元保証契約ですが、法律により有効期間が定められており(身元保証に関する法律第1条、2条)、不法行為を行った時期が有効期間外である場合には賠償責任を負うことはありません。
また、使用者側から提示された賠償額については、その金額が適正な金額であるのかについては精査をすう必要がある場合もありますので、お子さんが入社の際に身元保証契約を締結しており、会社から賠償の請求をされた場合には、是非一度ご相談ください。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例28】~迷惑動画問題①どのようなリスクが?~
【相談内容】
今度大学に入学する息子が飲食店でアルバイトすることになったのですが、最近、ニュースでコンビニや飲食店の従業員による迷惑動画が取り上げられているため、他人事ではないと感じてしまいます。
自分の息子に限ってそのようなことはないとは思うのですが、もし、息子が職場で迷惑動画を撮影し、その動画が流出することになってしまった場合、息子や私たちにどのようなリスクがあるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
ここ数日、コンビニや飲食店の従業員が、店内の商品や食材等を雑に扱う様子などを撮影されたいわゆる迷惑動画がネット上に公開、拡散され、話題になっています。
先日、迷惑動画を撮影した従業員に対し、勤務していた店舗を経営する企業が、法的措置を講ずると発表したこともあり、軽い気持ちでふざけて撮影し、投稿した動画により、多大な迷惑や損害を被ることについては、知れ渡っているのではないでしょうか。
そこで、今回は、迷惑動画を撮影し投稿したことによりどのような法的責任が発生するのかについてご説明させていただきます。
1 刑事責任
店の従業員が、店の商品や食材を雑に扱った動画を撮影し公開することにより、そのお店ではそのように雑に商品を扱い提供させているという虚偽の情報を世間一般に公開している形になるため、迷惑動画を撮影し、公開する行為は、偽計業務妨害罪若しくは信用棄損罪(刑法第233条)が成立する可能性があります。
このように、軽はずみな気持ちで迷惑動画を投稿してしまうだけで、悪質な場合には逮捕されてしまう可能性があることは理解する必要があると考えています。
2 損害賠償責任
上記のように、従業員が違法な行為を行っている以上、不法行為として従業員には迷惑動画を行ったことにより、店舗(企業)が被った損害を賠償する民事上の責任を負うことになります。
賠償額として店の信用低下による売り上げ減少額にとどまらず企業の株価下落による損害まで請求できるのかという、不法行為と損害との因果関係の問題があり、今後の裁判例の蓄積を待つ必要はありますが、数百万円単位での賠償額が認められたとしても不自然ではありません。
3 その他の損害
迷惑動画を投稿した従業員については、解雇等懲戒処分を受けてしまうことは当然ですが、それ以外に怖いのが、ネット上で本人の氏名、住所、大学、家族、交友関係等の個人情報が特定されてしまうところにあると思います(個人情報の特定に関しては別の機会にご説明させていただきます。)。
いったんネット上に公開された個人情報については、削除することは事実上不可能であり、一生残ってしまうことになってしまうため、軽はずみに投稿してしまうことにより、取り返しのつかない事態になってしまうため、迷惑動画の投稿は絶対に辞めた方がよいでしょう。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例27】~インフルエンザでも出勤強要、違法では?~
【相談の内容】
土曜日にちょっと人が多いところに行ったため、日曜日非常に高熱が出たため、今朝病院に行ったらインフルエンザと診断されました。
すぐに会社に連絡し、休む連絡をしたところ、上司から「忙しい時期なんだから出社しろ」と言われました。
インフルエンザなのに出社なんかしたら会社に迷惑をかけてしまうだけだと思うのですが・・・・
【弁護士からの回答】
2019年は全国各地でインフルエンザが猛威を振るっており、福岡でも、1月に、警報レベルでの感染者が報告されるに至りました。
インフルエンザウイルスは、飛沫感染のみならず接触感染も認められるウイルスであり、インフルエンザであるにも関わらず、無理に会社などに出社してしまうと、他の従業員に移してしまうなど多大な迷惑をかけることになってしまうため、通常の企業であればインフルエンザに感染した従業員に関しては、欠勤させ、他の従業員に対する感染を防ぐという企業が一般的であると認識しています。
では、ご相談者様の事例のとおり、従業員がインフルエンザに感染したにもかかわらず、上司や会社において出勤を強制した場合には、どのような問題になるのかご説明させていただきます。
1 安全配慮義務違反
使用者と労働者との間の契約(雇用契約)関係を規律する労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されており、かかる規定は、使用者側に労働者の安全を確保するための義務、すなわち、安全配慮義務を負っていることを記載している規定であると言われています。
したがって、使用者側としても、自由に従業員を出勤させることができるというわけではなく、労働者の安全を確保しなければならないという点での制約を受けることになります。
そして、インフルエンザであることが診断書などで客観的に判明している場合に、当該インフルエンザに感染した従業員を出勤させることは、従業員の体調をさらに悪化させることにつながり、当該従業員の身体の安全を害する行為であることに加え、ウイルスに感染した従業員を出勤させたことにより、他の従業員にウイルスが感染し、他の従業員の体調が悪化することで、他の従業員の身体を害する行為にも当たりうるものです。
したがって、インフルエンザに感染した従業員を無理に出社させることは、当該従業員のみならず他の従業員に対しても安全配慮義務違反し、会社や上司において、損害賠償の支払を余儀なくされることになる可能性があります。
2 パワーハラスメント
近年、パワハラの件数が増加してきたことを踏まえ、厚生労働省では、このパワーハラスメントに該当しうる行為として6つの類型を挙げており、その中の1つの類型として、「過度な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制仕事の妨害」というものがあります。
そして、インフルエンザに感染した従業員を強制的に出席させる行為は、過大な要求として、パワハラ行為に該当する可能性があり、その場合には使用者若しくは上司において、パワーハラスメントに伴う損害賠償(慰謝料)を請求される可能性も否定できません。
3 労働安全衛生法違反
また、労働安全衛生法では、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」と規定しており(同法68条)、厚生労働省で定める省令では、就業が禁じられる場合として「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」(労働安全衛生規則61条)を規定しています。
インフルエンザウイルスに感染した従業員については「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」と認定されることになると思われます。
したがって、就業が禁じられているインフルエンザに感染した従業員を強制的に出社させることは、上記労働安全衛生法に違反し、事業者(使用者)には6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法119条1号)。
4 最後に
このように、インフルエンザウイルスに感染してしまった、従業員を強制的に出勤させてしまった場合には、損害賠償請求のリスクだけでなく、刑事罰を科されるリスクも存在することになります。
インフルエンザにウイルスに感染してしまった場合には、仕事に行かず他の人に感染を拡大させないことが、従業員本人のみならず、企業にとっても一番重要なことではないかと考えています。
今回の相談事例のような従業員の出退勤に関してはトラブルになりやすい場面であるため、早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」