弁護士コラム

2022.12.23

ネットショッピングの配送トラブル

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皆さんはネットショッピングを利用されていますか?
近年は11月末から「ブラックフライデー」と称して、どのオンラインモールでもセールを行っており、私の家族も例年セールだから、何か買わなくてはという焦りからか、ついつい買いすぎてしまいます。

先日、ニュースでこのブラックフライデーの期間中に、「注文した商品が届かない」「指定の日時に届いていない」「お店側から一方的にキャンセルされてしまう」などのトラブルが多発しているということが報じられました(このようなトラブルを「宅配クライシス」と呼ぶそうです。)。

ネットショッピングの配送トラブル

コロナウイルスの影響でネットショッピングを利用する方が増えたところに、セールを行ったため利用者が非常に増えてしまったことが原因のようです。
ニュースでは、子どもの誕生日に間に合うようにプレゼントを注文したが、届かなかったというトラブルが紹介されていました。

ネットショッピングではなく、店頭に行き商品を購入し配送指定を行う場合、その時点で契約が成立します。
一般的には店側には指定した期日に商品を届ける義務(債務)を負うことになります。
したがって、指定した期日に商品を届けることができずに、顧客に損害が生じた場合には、お店には損害を賠償する義務が発生することになります。

一方ネットショッピングの場合、気を付けなければならないのが、購入者がサイトで購入のボタンを押した時点では契約は成立していないという点です。
契約が成立するためには、顧客がこの商品を欲しいという意思を表示し(法律上「申し込み」といいます。)これに対し、売主が応じた場合(「承諾」といいます。)に初めて契約が成立するのですが、通常のオンラインモールの利用規約を見ると、店側からの発注メールが送られた時点で契約が成立するとなっています。

ネットショッピングの配送トラブル

すなわち、顧客の購入ボタンを押す行為は、単に「申し込み」を行っただけの状態であり、お店側が発注メールを送信して、はじめて承諾がなされ契約が成立するということになります。
したがって、上記のトラブルのように一方的にキャンセルされたというトラブルも、厳密には申し込みに対し承諾を行っていないというだけであるため、契約が成立していないことになり、顧客側は店側に何らの請求ができないことになってしまいます。

このように、ネットショッピングは、本当に手軽に商品を購入できるメリットがありますが、こうした配送のトラブルが生じてしまうリスクがあります。
どうしても必要な商品などが実際に店舗にいって直接購入するなど、ネットショッピングのみに依存することなく、うまく活用していく必要がありそうです。

 

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2019.09.15

労働者と通勤災害

労働者の方は全員、公共交通機関、徒歩、自転車、バイク、又は車に乗って仕事場まで通勤しているかと思います。通勤災害とは、労働者が通勤中に被った負傷、疾病、障害又は死亡のことを言います。
では、どのような場合を通勤途中と指すのか、通勤の定義や通勤災害となるパターンについて見ていきましょう。

1.通勤の定義(労働者災害補償保険法第七条)

労働者災害補償保険法第7条において、「通勤」とは、労働者が就業に関し、次に掲げる移動を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとすると定められています。

そして、「次に掲げる移動」として、以下の3つが定められています。
① 住居と就業の場所との間の往復
② 厚生労働省令で定める(※)就業の場所から他の就業の場所への移動
③ 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

※厚生労働省令で定める就業の場所とは、労災保険適用事業場に係る就業の場所、特別加入者(個人タクシー業者等を除く。)に係る就業の場所等のことです。

次からは、この「通勤」の要件を詳しく説明していくことにします。

2.通勤の要件

(1)「就業に関し」とは

通勤とされるには、移動行為が業務に就くため、又は業務を終了したことにより行われるものであることが必要です。
したがって、被災当日に就業することとなっていたこと、又は現実に就業していたことが必要となります。

(2)「住居」とは

「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。
したがって、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、そこから通勤している場合には、そこが住居となります。

さらに、通常は家族のいる所から出勤するが、別にアパートを借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、家族の住居に加え、アパートの双方が住居と認められます。

(3)「就業の場所」とは

「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所を指します。一般的には、会社や工場等の本来の業務を行う場所をいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の勤務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。

(4)「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」とは

転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが、その往復距離(片道60km以上等)を考慮して困難となったため住居を移転して労働者であって、一定のやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している配偶者と別居することになった者の住居間の移動のことをいいます。

(5)「合理的な経路」とは

「合理的な経路」とは、住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。最短経路のことではありませんので注意してください。
合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。
また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が月極の駐車場などを経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。
しかし、特段の合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。
また、合理的な方法には、鉄道・バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車・自転車等を本来の用法に従って使用する場合、 徒歩の場合などが当てはまります。

(6)「移動の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは

逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤とは関係ない行為を行うことを言います。ただし、逸脱や中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合は、当該又は中断の間を除き通勤途中としてみなされます。 (タバコやジュースの購入、公園での小休息、お手洗いなどがその例です)

通勤途中として認められた点が下記の通りとなります。

<日常生活上必要な行為(厚生労働省令で定められた行為)の例>
日用品を購入する
帰途に惣菜等を購入する
独身者が食事のため食堂に立ち寄る
クリーニング店に立ち寄る
選挙で投票する
医療機関などへ通院する
要介護状態にある家族を介護する(ただし、介護を継続的に又は反復している場合に限る)

3.通勤災害の際の対応方法

万が一、通勤災害が発生した場合は、会社は速やかに下記の手続きを行いましょう。

・公共交通機関の場合
社員が診療を受けた病院に、通勤災害用の書類(「療養給付たる療養の給付請求書」)を提出します。
裏面に、通勤経路や時間等を細かく記載する欄があるので、自宅から最寄り駅までの交通手段や所要時間、乗り換え方法など、会社に到達するまでのすべてを記載します。

・マイカー通勤時の事故の場合
マイカー通勤をしている社員が通勤時に事故にあった場合、前提として、労災保険で処理するか自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責)で処理するかを判断し、選択する必要があります。
どちらを選ぶかは会社の担当者が自由に決定できます。あとは担当者が社員に代わって保険会社に連絡を取り、保険会社から求められる書類を作成することになります。

なお、マイカー通勤による交通事故で第三者と接触事故を起こした場合、従業員の治療費などは、相手(加害者)の自賠責を使って損害賠償をしてもらうことが一般的です。

4.まとめ

通勤災害が発生した場合、それが本当に通勤災害となるのか、会社の担当者の確認作業が大事です。特に今日では、通勤災害の範囲は拡大傾向にあります。

実際に事故が生じた場合、担当者が「基準を知らなかった」、「判断を間違えた」という事態にならないよう、最新の情報に気を配っておきましょう。

2019.08.06

国際結婚後の配偶者ビザ、名字、戸籍などについて

国際結婚をした場合、日本人同士の結婚と比較して様々な手続きが必要となります。また、戸籍、名字などについての取り扱いも日本人同士の結婚の場合と異なります。
今回は、国際結婚後の、配偶者ビザ、名字、戸籍などについてご説明致します。

1.日本人配偶者のビザの内容とは?

国際結婚をした場合、外国人配偶者は在留資格「日本人の配偶者等」を取得するのが一般的です。在留資格「日本人の配偶者《等》」とは、「等」という言葉が表す通り、配偶者だけでなく、子や特別養子も対象となっています。

<日本人の配偶者>
この場合の「配偶者」とは、現に法的に婚姻中の夫婦の一方の者をいうため、内縁関係、離婚や死別をしている場合は含みません。
また、有効に婚姻している者であっても、同居、相互扶助、社会的通念上の夫婦の共同生活の実体がない場合には、在留資格は認められません。

これは、在留資格目的での偽装結婚を防止するための措置となります。したがって、入国管理局では、夫婦の実体を証明出来るだけの資料と説明を申請者に求めています。

<日本人の子として出生した者>
日本人の子供であればいいので、婚姻をしていない日本人との間に生まれた子でも、認知さされていれば「日本人の配偶者等」として在留資格を取得することができます。

<日本人の特別養子>
特別養子縁組が認められるには、6歳未満で、実父母と身分関係が法的に消滅する要件を満たしており、家庭裁判所で定められた手続きを経る必要があります。
普通養子縁組では、実父母との法的関係が切れないため、日本人の配偶者等在留資格を取得することは出来ません。

2.日本人配偶者ビザ申請で同居って必要なの?

上記1で説明したとおり、日本人配偶者として在留資格を取得するためには、同居、相互扶助、社会的通念上の夫婦の共同生活の実体が必要となるため、夫婦の同居が実務上重要視されています。
新規での申請、ビザ更新時に同居の実態が無い夫婦は、細心の注意を払い入局管理局へ文書で説明する必要があります。入局管理局は夫婦の同居を当たり前のように押し付けてくる傾向がありますが、それは、偽装結婚で配偶者ビザを取ろうとする人が多いからです。
愛のない男女が同居するのは苦痛のはずなので、偽装結婚によるビザ取得の犯罪を防ぐために夫婦の同居が実務上重要視されているのです。

3.国際結婚をしたら名字はどうなるの?

日本人同士が結婚した場合は、戸籍が一緒になるため名字は夫婦のどちらか一方の名字に統一され、夫婦は同じ名字を使うことになります。日本では、女性が男性側の名字に変更するのが一般的です。
では、国際結婚をした場合はどうなるのでしょうか。

日本人女性が外国人男性と国際結婚をした場合、外国人には戸籍がないため、日本人女性は結婚前の本名の名字を使い続けることになります。
つまり、結婚しても名字は変わらず、夫とは名字が別々になります。しかし、結婚して「名字を統一したい」と思った場合は、結婚から6か月以内に本籍地又は所在地のいずれかの市区町村役場に「外国人配偶者の氏への氏変更届」を提出することにより、日本人は外国人配偶者の名字を使うことができます。
但し、婚姻の日から6か月を超えているときは、家庭裁判所に申立てをする必要があるため、注意が必要です。

以上の手続きを経て、戸籍の名前の名字が変わります。そして、子供が生まれた場合でも、親と同じ名字にすることができます。
では、離婚してしまった場合はどうなるのでしょうか。離婚した場合、自然と元の名字に戻るのではなく、3か月以内に「氏変更届」を提出する必要があります。
また、外国人女性が名字を日本人男性の名字にしたい場合は、「通称名」の登録申請をすればできます。
これは、あくまで「通称名」としての位置づけなので、外国人の本名自体は変わりません。
また、一度「通称名」を登録すると、変更が認められるのは離婚して通称名を廃止するとき、及び再婚時に姓を変更するときのみとなるため、注意が必要です。

4.国際結婚をしたら戸籍はどうなるの?

日本人と外国人が国際結婚をした場合、戸籍はどのように記載されるのでしょうか。
日本人には戸籍がありますが、外国人には当然戸籍がありません。
結婚前(つまり未婚の日本人)は、両親の戸籍に入っています。日本人同士で結婚した場合は、2人が一緒に入っている戸籍が作られますが、国際結婚の場合は両親の戸籍から抜けて、日本人配偶者一人の戸籍ができることになります。

外国人配偶者は戸籍がありませんが、日本人配偶者の戸籍謄本の身分事項欄に外国人配偶者の氏名や国籍が記載されることになり、これで婚姻しているという状態が分かります。
しかし、あくまでも外国人配偶者には戸籍謄本はありません。(ちなみに住民票は外国人にもありますので、日本人と同じように取得することができます。)

5.おわりに

以上のように、日本人同士の結婚と国際結婚では大きな違いがあります。
戸籍については日本人同士の結婚と国際結婚では記載事項が異なりますし、名字についてもたとえ夫婦の片方が日本人で、日本に住むからと言っても国際結婚であれば当然に同じ名字になるわけでもありません。
諸々の手続きで困ったときは、専門家に相談しましょう。

2019.08.05

【離婚問題】保護命令・接近禁止令について

配偶者や事実婚のパートナーなどの親密な関係にある相手から、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害を受け、解決策が分からずに悩まれている方は多くいらっしゃると思います。
今回はその様な方々のために、法的なDVへの対応策のひとつである「保護命令」についてご説明したいと思います。

1.保護命令とは

保護命令とは、被害者の生命または身体に危害を加えられることを防ぐために裁判所が発する命令のことです。
具体的な命令の内容としては、被害者、被害者の子供、被害者の親族等への付きまといの禁止、被害者と一緒に生活している場合は期間を限定して本住居からの退去等を命じるという内容になります。
DVの被害者が裁判所に申し立てることで、裁判所から加害者に対し命令が発せられることになり、命令に違反した加害者に対しては刑罰が科せられます。

2.保護命令の要件は?

では、DVの被害を受けたと被害者が申立てれば必ず裁判所は保護命令を発するのでしょうか?
裁判所が保護命令を発するには5つの要件を満たしている必要があります。5つの要件は『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下、「DV防止法」と言います。)』において定められており、具体的な内容は以下の通りとなります。

<保護命令の要件>
①申立人が「被害者」であること(DV防止法第10条1項)

②配偶者からの身体に対する暴力を受けた被害者の場合は、配偶者からのさらなる身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと(DV防止法第10条1項)

③被害者からの申立てであること(DV防止法第10条1項)
④支援センター又は警察(生活安全課)の職員に援助若しくは保護を求めて相談した事実があること(DV防止法第12条1項5号)

⑤ ④の事実がない場合は、DV防止法第12条1項の1号から4号に係る事項について被害者の供述書面を作成し、公証人に認証を受けたものを申立書に添付すること(DV防止法第12条2項)

⑤において定められている、DV防止法12条1項1号から4号は次のようになります。

<DV防止法第12条1項>
1号
配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた状況

2号
配偶者からの更なる身体に対する暴力又は配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後の配偶者から受ける身体に対する暴力により、生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立ての時における事情

3号
第10条第3項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情

4号
第10条第4項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情

3.保護命令の内容

裁判所が発する保護命令とは具体的にどの様な内容が含まれているのでしょうか?以下に保護命令の具体的な内容を説明致します。

(1)被害者への接近禁止命令

命令の効力が生じた日から6か月間、被害者の住居(当該配偶者とともに生活している住居を除く)その他の場所でのつきまといや、被害者の住居、勤務先その他通常所在する場所付近の徘徊を禁止します。

(2)未成年の子への接近禁止命令

加害者である配偶者が被害者の子を連れ去ってしまうと、被害者がその子の監護のために自ら配偶者に会いに行かなくてはならなくなる等の事態が考えられます。
そのような場合、被害者に対する接近禁止令が発せられていても、結局、被害者が配偶者との接近を余儀なくされ、さらなる暴力を加えられてしまう危険が生じます。
そこで、被害者への接近禁止命令の実効性を確保するために、子への接近禁止命令の発令も可能となっています。

(3)被害者親族等への接近禁止命令

被害者への接近禁止令が発令されていても、加害者が被害者の親族等の住居に押しかけた場合に、被害者がその行為をやめさせるために、自ら配偶者と接触せざるを得なくなる可能性があります。
そこで、被害者への接近禁止令の実効性を確保するため、親族等についても接近禁止令の発令が可能となりました。

(4)退去命令

被害者と配偶者が共に生活の本拠としている住居から、配偶者を2か月間退去させて被害者を保護する命令です。退去命令は、被害者の身辺整理や転居先の確保等の準備のために設けられています。

(5)電話等禁止命令

被害者に対する面会要求、電話等を禁止する命令です。被害者等への接近禁止命令が発令されていた場合でも、加害者である配偶者が被害者に電話やメール等で連絡を続けると被害者は恐怖心を募らせ、配偶者のもとに戻らざるを得なくなったり、要求に応じて接触をせざるを得なくなったりして、生命、身体への危険が高まります。
そこで、接近禁止命令の実効性を確保するために一定の電話等の禁止を命ずることができるようになりました。

4.おわりに

今回は保護命令についてご説明致しましたが、実際にDVで悩んでいる方にとって有効な手続であることをご理解いただけましたでしょうか?

DVの被害にあわれている方は、ご自身の身体、生命を守るためにも一日でも早く保護命令の手続きを検討していただきたいと思います。また、保護命令の発令に必要となる要件の立証など手続きが難しいため、専門家に相談することをお勧めいたします。

2019.08.01

ネットに書き込みをした人物を特定するには?その1

削除依頼申請では書き込みをした人物を特定することまではできません。相手を特定するには、以下に説明する開示請求という方法をとることとなります。

今回は、発信者情報開示請求と仮処分の方法についてご紹介します。

1.ネットの仕組みを理解して、開示請求を

(1)適切な手順を踏めば、情報開示は可能

個人情報や誹謗中傷の書き込みがされてしまった場合、必ず思うのが「誰が書き込みをしたのか」ということではないでしょうか。たとえ思い当たる人物が存在していたとしても、匿名で書き込みされている場合が大半であり、書き込みがなされた時点では人物を特定することは不可能です。

しかしながら、然るべき手順で各プロバイダへ情報の開示請求を行えば書き込みをした人物を特定することができます(これを発信者情報開示請求といいます)。

(2)まずはコンテンツプロバイダへ開示請求を

私たちがインターネットを利用する際、「プロバイダ」と呼ばれるネット接続サービスを契約することがほとんどかと思いますが、このプロバイダのことを正しくは「インターネットサービスプロバイダ(ISP)」と言います。

私たちは、このインターネットサービスプロバイダを通じて、様々なSNSや掲示板、情報サイトなどへアクセスしていることになります。

また、そのSNSや掲示板、情報サイトを運営している事業者のことを「コンテンツプロバイダ」と呼び、掲示板などに書き込んだ情報が保管されているサーバーを管理しています。

<インターネットの流れ>

コンテンツプロバイダが有している情報は、サーバーにアクセスされた履歴やIPアドレス、タイムスタンプと呼ばれるアクセスのあった時間の記録などが主になります。

IPアドレスは、書き込みをした人物が、どのインターネットサービスプロバイダと契約しているのかの手がかりになります。

しかし現在のIPアドレスというのは、一定時間経過すると新しい値がユーザーに割り振られてしまうため、それだけでは特定をすることができません。IPアドレスとともに、タイムスタンプも合わせることにより、「この時間にこのIPアドレスを与えられた人物が書き込みをした」という情報がコンテンツプロバイダへ開示請求することにより判明するのです。

2.コンテンツプロバイダへの開示請求の方法

コンテンツプロバイダへの開示請求の方法は、前回の記事の削除依頼と同様、テレコムサービス協会が提供している書式を用いてコンテンツプロバイダへ請求する方法と、裁判所へ仮処分の申請を行う方法の2通りがあります。

テレコムサービス協会が提供している書式は「発信者情報開示請求書」というもので、身分証明書の写しや印鑑証明書などを添付しコンテンツプロバイダへ郵送します。

ここで忘れてはならないのが、実際に書き込まれた時の状況が分かる証拠です。

画面のスクリーンショットや、その時表示されたWEBページをPDF形式で保存したものなど、そのサイトの特定の場所に書き込みされているという証拠も準備し合わせて送ります。

ですので、書き込みを発見した際には慌てずに、落ち着いてスクリーンショットを取ったりブラウザを用いて該当ページをPDF形式で保存するなど、証拠の確保を行いましょう。

次にそのサイトを訪れた際、どこに記載されていたのか辿れなくなってしまう場合もあるため、なるべく早い段階で保存します。

(例)google chromeには、印刷機能にPDFデータで書き出す機能があります。
保存した日時や当該URLなども表示することができ、有用です。

詳しい書き方などについては、プロバイダ責任制限法 関連情報WEBサイト
http://www.isplaw.jp/index.htmlを参照してください。

コンテンツプロバイダへ開示請求がされた場合、プロバイダ側はIPアドレス等の情報を開示してもよいか発信者へ尋ねることとなります。同意が得られない場合、開示することはできません。しかし、明らかに権利を侵害しているとプロバイダ側が判断すると、開示されることもあります。

3.発信者情報開示仮処分の申請

このように、情報開示請求を行っても一概に開示されるとは言いきれません。ですので、裁判所による発信者情報開示仮処分を行うのが良いでしょう。

こちらも前回ご紹介したように、仮処分は通常より早く決定が下されることが多いので、専門家などに依頼するなどして、速やかに手続きを行いましょう。

また、仮処分にあたっては、早く決定を行わないと適切な措置ができなくなることを明記することがポイントです。インターネットの世界では、瞬く間に新しい情報がどんどん保存され積み重ねられ、放っておくと膨大なデータが蓄積することになります。

そのため、保存期間を過ぎた古い情報から定期的に削除されてしまうことが常であり、書き込まれた際のログ(記録)も期間が経過すると削除されてしまうことになります。ですから迅速に仮処分を行う必要性があることを説明するのです。

裁判所が開示の仮処分を決定したら、大半のコンテンツプロバイダは決定に従い情報の開示を行います。(削除依頼と同様、数十万円の担保金が必要です。)

これで、書き込みをした人物のIPアドレスとタイムスタンプという情報が得られることになります。

そして、これらの情報を用いて行うのが、インターネットサービスプロバイダへの契約者情報開示請求です。こちらについては次回、ご説明したいと思います。

4.まとめ

今回はコンテンツプロバイダへの開示請求についてご説明しましたが、前述したとおり、この後、インターネットサービスプロバイダへの開示請求も行わなければ、発信者の特定はできません。

何段階も手順を踏まなければなりませんが、請求の流れを把握しておけば、万が一トラブルにあった際も、まずは2.で説明したような「証拠の保存をする」という行動に移せるはずです。落ち着いて状況の判断をするようにしましょう。

2019.07.30

【刑事事件】捜査への協力の要否・強制捜査とはどんな捜査か

今回は、以前別の記事でご紹介した、警察官の行き過ぎた行為の報告先に関連して、捜査機関の種類や強制捜査がいかなるものであるか、また関連する刑事訴訟法の原則をご紹介します。

以前の記事を読むにはこちらから→警察(警察官)にクレームをお持ちの方へ

1.捜査機関

犯罪について捜査を行う権限と責務を有する捜査機関は、警察と検察、正確には、司法警察職員と検察官、検察事務官です。実際には、司法警察職員は一般司法警察職員と特別司法警察職員とに分けられており、この特別司法警察職員の中に、労働基準監督官など、専門の分野に限って捜査を行うことのできる者が規定されています。

刑事訴訟法(以下「刑訴法」といいます。)では司法警察職員は「犯罪があると思料するとき」、検察官は「必要があるとき」に捜査をすると定められています(刑訴法189条2項、191条1項)。

この規定からも分かりますが、犯罪捜査を行うのは第一次的には司法警察職員です。実際にも司法警察職員によって捜査が開始される事件が多いため、司法警察職員を「第一次捜査機関」、検察官を「第二次捜査機関」と呼ぶことがあります。

2.捜査の原則

(1)捜査関係者の心構え

捜査というのは、私人の私生活に踏み込み、権利侵害のおそれがあるものですので、必要最小限度の合理的なものに留めるべきとされています。
一方で、平和で安全な社会を守るために国民が捜査機関に付託した重要な作用ですから捜査についても尊重しなければなりません(刑訴法196条)。

また、捜査は、関係者の名誉、そして捜査の目的達成のためにも、秘密を守って捜査を行わなければなりません。これは、「捜査密行の原則」などといわれることもありまます(犯罪捜査規範第9条参照)

(2)捜査に必要な取調べ

刑訴法第197条1項本文では、「捜査については、その目的を達するために必要な取調をすることができる。」と定められています。
同条中の「取調」というのは、単に人から話をききとるといった取調べだけでなく、犯人の発見、証拠収集のためのすべての処分、すなわち捜査活動一般を指します。

既に述べたとおり、捜査はその性質上、任意であっても市民の私生活部分に公権力が介入するものです。
したがって、捜査機関は、私生活への介入を必要最小限度にとどめなければならず、これを裏返せば、市民の側は、捜査機関のする適法な取調べに対しては協力、少なくともこれを受忍しなければならない、ということになります。

このように、捜査に必要な取調べは、刑訴法が特に捜査機関に認めたものあり、捜査機関は、刑訴法に従って、適法な捜査を行わなければならないことはいうまでもありません。

3.強制処分に関する原則

(1)強制処分法定主義

以上の通り、捜査は、人の権利に対する侵害を必要最小限度に止めて謙抑的に行う必要があることが分かりますが、そのために捜査機関が有すべき必要な権限は刑訴法によって定められています。

そして、刑訴法197条1項但書は「強制の処分は、この法律に特別の定めがある場合でなければ、これをすることができない。」旨を定めています。これが「強制処分法定主義」と呼ばれるものです。

ここで、憲法では、逮捕・捜索・押収などの強制処分を行うには、原則として司法官憲、すなわち裁判官が発する令状が必要であると定められています(令状主義)。
刑訴法はこれを受けて、逮捕・捜索等の強制処分の要件を定めているわけですが、強制処分について単に「特別の法律の定め」を必要とするのではなく、刑訴法に定めがなければできないと規定する点できわめて厳格なものといえます。

(2)任意捜査の原則

強制処分に関する刑訴法197条1項但書と対比し、同項本文の規定(「捜査については、その目的を達するために必要な取調べをすることが出来る。」)は「任意捜査の原則」を指すものだというのが一般的な理解です(警察官に対する捜査規則である犯罪捜査規範99条は「捜査は、なるべく任意捜査の方法によって行わなければならない。」として、この原則を明示しています。)。

しかし、この「任意捜査の原則」というのは、常に任意捜査が強制捜査に優先する、すなわち、任意捜査で行える場合には、強制捜査を行ってはならないということを意味している訳ではありません。

例えば、逮捕・勾留という人身の拘束については、逮捕・勾留しなくても捜査の目的を達することができる場合に逮捕・勾留を認めてはならないのは当然でしょう。

しかしながら、任意捜査ができる場合には強制捜査を行うことが許されないとすると、強制捜査を行う前に相手に逐一捜査を承諾するかどうか確かめなければいけないことになり、これは、不合理です。

また、任意捜査が可能な場合であっても強制捜査によるべき場合もあります。犯罪捜査規範は、住居等については、たとえ住居主又は看守者の任意の承諾があっても任意捜査として捜査を行ってはならない、つまり住居等については、必ず強制捜査を行わなければならないと定めています(犯罪捜査規範108条)。
一見すると任意捜査の原則に反しているように思えるのですが、この規定は、当該捜索による住居主等に対する権利侵害の程度が決して小さくないことから、警察官が相手方にむりやり承諾させて捜査をすることがないように任意捜査を許さないことにしたものです。

4.強制捜査について

それでは、強制の処分(強制捜査)というのはどのようなものを指すのでしょうか。

【最高裁決定昭和51年3月16日】では、強制捜査を「個人の意思を抑圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」と定義しています。

そして、任意捜査においては有形力の行使は一切許されないとする考え方がありますが、判例その他の裁判例は、任意捜査においても一定の有形力の行使を認めています。上記最高裁決定では、任意捜査でも一切の有形力の行使が許されないわけではないとして、その限界を「必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される」か否かとしています。

【最高裁決定昭和51年3月16日】
「捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであつて、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。」

5.まとめ

このように、刑事訴訟法では捜査の必要性と基本的人権の尊重が図られています。予め捜査機関による捜査を許容すべき場合を事前に知っておくことで、本来協力する必要性のない捜査については拒否することもできます。

また、もし任意の協力の名目のもと、具体的状況において個人の意思を抑圧するような捜査が行われてしまった場合は、当該捜査は強制捜査にあたり、令状がない限り違法ですから、速やかに専門家に相談のうえ、適切に対処してもらう必要があります。

2019.07.26

各種ハラスメントについて

皆さんは、「ハラスメント」という言葉をご存知ですか?よく問題になっているセクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどの単語は、耳にしたことがある方も多いかと思います。

今回の記事では、「ハラスメントにはどのようなものがあるのか?」「ハラスメント被害に遭った場合はどうしたら良いのか?」「ハラスメントが発生した場合に行為者・会社が問われる責任は何か?」についてご説明します。

1.ハラスメントの種類

ハラスメントとは、嫌がらせいじめのことです。近年、ハラスメントによるトラブルは増加しており、「〇〇ハラ」という言葉を見かける機会が増えてきました。では、ハラスメントには一体どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、代表的なハラスメントを取り上げてご説明します。

パワーハラスメント

パワーハラスメントパワハラ)とは、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりすることを指します。

<具体例>
・挨拶を無視されたり、会話をしてくれなかったりする
・蹴られたり、物を投げつけられたりする
・他の社員もいる中、大声でミスを責められる
・一人では終わらせることができない膨大な量の仕事を強要する

セクシャルハラスメント

セクシャルハラスメントセクハラ)とは、相手方の意に反する性的言動のことを指します。セクハラと聞くと、「男性の性的な言動によって、女性が被害に遭う」というケースを想像される方が多いかもしれません。しかし、「女性の性的な言動によって、男性が被害に遭った」という場合も、もちろんセクハラに該当します。また、同性に対する性的な言動もセクハラに含まれます。

<具体例>
・性的な関係を持つことを要求され、断ったところ解雇される
・上司に度々腰や胸を触られ、苦痛に感じて仕事への意欲が低下している

マタニティハラスメント

マタニティハラスメントマタハラ)とは、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントのことを指します。

<具体例>
・妊娠したことを報告したことにより、「妊娠をしたのであれば辞めてもらう」、「もう昇進はできない」と言われる
・育児休業制度の利用を申出・取得したことにより、「休みを取るのであれば辞めてもらう」と言われる

スメルハラスメント

スメルハラスメントスメハラ)とは、体臭や煙草・香水などの匂いに関するハラスメントのことを指します。

<具体例>
・煙草の匂いがする従業員がいる
・生乾きの衣類を着ていることにより、衣類から匂いが発せられる従業員がいる

2.ハラスメント被害に遭ったら

では、実際にハラスメント被害に遭った場合はどうしたら良いのでしょうか?「ハラスメント被害に遭っていると感じるけれど、何をしたらいいのか分からない…」という方もたくさんいらっしゃるかと思います。

もし、ハラスメント被害に遭った場合は、以下の行動を起こしましょう。

(1)いつ、どこで、どのような被害に遭ったのか、近くに誰がいたかなどの具体的状況を詳細に残しておく

メモや録音などの方法によって記録を残しておくことで、後から事実確認をするときの証拠になります。
また、口頭で「ハラスメントをやめてほしい」という要求をして、それでも続くようであれば文書でもやめてほしい旨を申し入れることで、「ハラスメントが行われていたこと」、「やめてほしいと伝えたこと」を証拠に残すという手もあります。

(2)会社の窓口に相談する

人事部や、社内に相談窓口が設けられていれば相談窓口で相談しましょう。

(3)外部の相談窓口に相談する

社内に相談窓口が設けられておらず、社内に相談できる人がいない場合は、全国の労働局・労働基準監督署や、弁護士・社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。

3.ハラスメントが発生した場合の行為者・会社の責任

(1)行為者の責任

ハラスメント被害に遭った場合、被害者は行為者(ハラスメントを行った本人)に対して、不法行為責任に基づく損害賠償請求をすることができます。
また、ハラスメントの種類によっては、傷害罪や暴行罪、強制わいせつ罪などに該当し、行為者は刑事責任を追及される可能性があります。

(2)会社の責任

もし、会社がハラスメントを放置し、改善しなかった場合、会社は不法行為責任使用者責任債務不履行責任を負う可能性があり、その場合、被害者は損害賠償請求をすることができます。
また、被害者がハラスメントによりショックを受け、うつ病等の精神障害を発症した場合、労災申請をすれば、労働災害と認定される場合があります。この労働災害認定の頻度・程度によっては、会社について労働基準監督署の調査が行われたり、翌年以降の保険料が増額されたりします。

4.まとめ

本来であれば、会社が、職場でのハラスメントを防止するために対策を講じる必要があります。しかし、ハラスメント防止対策が十分になされていない会社も多く存在しています。
ハラスメントは、個人の尊厳や人格を不当に傷つける許されない行為です。会社がハラスメントを放置することは、従業員が十分な能力を発揮して働くことを妨げる上、職場秩序の乱れに繋がります。「ハラスメント被害に遭っていて辛いけれど、会社に相談しても対応してくれないから我慢するしかない…」と思っていらっしゃる方も、一人で悩まずに、まずは弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをご検討ください。

2019.07.24

【交通事故】保険会社から治療費を打ち切られてしまった際の対応について

まだ通院が必要だと思っているのに、保険会社から治療費の支払いを打ち切られた場合、どの様に対応したら良いのでしょうか?通院することを止めてしまうのか、自分でお金を支払って通院するしかないのでしょうか。
今回は、保険会社から治療費の支払いを打ち切られたときの対応についてご説明致します。

1 基本的な治療費の負担と期間について

人身事故に遭い、被害者が病院で診療をしてもらった場合、病院へ対する治療費の支払義務は患者である被害者にあります。
しかし、加害者側が任意保険に加入している場合、任意保険会社は被害者が通院している病院へ直接治療費を支払うという運用が一般的です。このように、任意保険会社が病院へ直接治療費を支払う場合は、基本的に被害者が窓口で治療費を支払うことはありません。

しかし、任意保険会社によっては、まず被害者側が治療費を立て替え、後日任意保険会社に立替金を請求するように、提案されることがあります。そのような場合、後々治療費について加害者側と争いになると『治療費が支払われない』というリスクもあります。
任意保険会社から立替払いの提案がなされた場合には、早い段階で任意保険会社が直接病院に支払うよう交渉をすることが、後々のリスクを回避することに繋がります。

また、加害者が任意保険に加入していない場合には、被害者の加入する健康保険を利用し、一時治療費を立て替えた後に加害者の加入している自賠責保険に請求することになります(被害者請求と言われる手続きです。)。ただし、当面の費用が必要な場合には、損害賠償額の一部を仮渡金(*1)として請求することができます。なお、自賠責保険では傷害の場合120万円が上限であることに注意が必要です。


*1 仮渡金…
通常の立替金請求方式だと、自賠責から保険金が支払われるまでには、「被害者が治療を終え、必要書類を揃えて自賠責に請求を行い、自賠責による審査を経たうえでの支払い」となるため、一定の日数を要します。しかし、支払いがなされるまでの期間、経済的に困窮してしまう方もいるため、その様な方を救済するために仮渡金の制度が設けられています。

2 保険会社からの打ちきりを延期してもらえないのでしょうか?

一般的に、症状固定時期までの治療費については、必要かつ相当なものとして、交通事故と相当因果関係のある損害となります。
しかし、例外的に「必要性がない」、又は「相当性がない」治療費については、交通事故と相当因果関係の認められない損害として、支払義務が生じません。

そして、症状固定後の治療費は原則として損害賠償の対象とはなりません。
症状固定とは、傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果を期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達した時をいいます。
要は、治療しても、治療しなくても症状が変わらなくなった状態のことをいいます。

特にむち打ちなど軽傷であることが比較的多い症状の場合、任意保険会社は事故後6か月を目途に被害者側に治療の打ち切りを促してきます。
しかしながら、治療の打ち切りの提案があったとしても、引き続きの治療が必要な状態であれば治療は継続すべきであり、その治療費も加害者側から支払われるべきものです。

もし、治療費を打ち切られてしまうと、被害者が治療費を負担しなければならない危険がありますので、保険会社から打ち切りを提案された場合には、担当の医師に治療継続の必要性を書いてもらった診断書を作成してもらうなどして、粘り強く治療の継続を訴えるべきです。
弁護士が入って治療継続の必要性を具体的に説明すれば、保険会社が継続に応じてくれる場合もあります。

3 打ち切りをされてしまった場合、何も手段はないのでしょうか?

被害者が治療の継続を希望しても保険会社が治療費の支払いを打ち切る決定をした場合はどの様に対応したら良いのでしょうか?
最初に行うべきことは自賠責保険へ仮渡金を請求することです。しかし、自賠責保険が支払ってくれる金額には上限がありますし、必ずしも支払いに応じてくれるわけではありません。
その場合、考えられる手続きは①裁判所に損害賠償金の仮払いを求める仮処分を申し立てる、②自己負担で治療を継続して後日支出分を損害賠償請求する、③症状固定診断を経て後遺症認定申請を行う、の3通りです。

まず、①の仮払い仮処分とは、交通事故の問題が最終的に解決するまでの間、一定額の治療費や生活補償費を加害者側から被害者側に支払ってもらう裁判所の命令です。
仮とはいえ加害者に実際の支払いを命じるものになるため、相当の基準をクリアする必要があります。
具体的には、「訴訟で被害者側に勝訴の見込みがあること」、「被害者とその家族の生活が困窮し、生存を維持するうえで仮処分が不可欠であること」が認められなければならず、これらは被害者側で証明しなければなりません。

また、仮払い仮処分で請求できるのは、基本的に治療費と最低生活補償費であり、休業損害・慰謝料等の仮払いは難しいです。このように、①の実現は容易ではなく、得られる利益も限定的です。
しかし、裁判所の仮払い仮処分命令が出ると強制執行をすることも可能となり、加害者の家財道具(家や車)、事業をやっていれば機械や商品などの動産を差押え、競売にかけ現金にすることができます。

次に、②③の手続きですが、②は「後日加害者あるいは保険会社が支払いを拒否するリスクも抱えて治療を継続する」というものです。③は治療の継続を諦めることを意味します。

いずれの手続きを選択すべきであるかは、事故で負った傷害の程度、打ち切り時点での回復状況、担当医師の意見、被害者の生活状況等一切の事情を考慮して判断することになり、極めて専門的な知識、経験が求められます。

4 まとめ

今回は、保険会社から治療費を打ち切られてしまった際の対応についてご説明しました。
急に打ち切りを言い渡されると、これからどうしていけばいいのだろうと不安になられる方も多くいらっしゃると思います。

事故に対する保険会社の対応に不安や不満をお持ちの方は、弁護士等の専門家に一度ご相談されてみることをお勧めします。

2019.07.22

【離婚問題】離婚後に受けられる各種補助について

離婚を考えていても、特に子供がいると金銭的な心配からなかなか離婚に踏み切れない方は数多くいらっしゃいます。離婚の際には財産分与、毎月の養育費、場合によっては慰謝料を得ることもありますが、相手が本当に支払ってくれるか不安という場合も多いでしょう。

今回は、離婚後に受けられる公的な補助についてご説明します。なお、紹介する金額等はいずれも令和元年6月現在のものです。

1.児童扶養手当

児童扶養手当は、父母の離婚などにより、父又は母と生計を同じくしていない児童のいるひとり親家庭等の保護者に支給される手当で、ひとり親家庭の生活の安定と自立の促進を通して児童の福祉の増進を図ることを目的とした制度です。

(1) 対象者
対象年齢 18歳に到達した日以降の最初の年度末まで
該当する児童
  • 父母が離婚(事実婚を含む)を解消している
  • 父又は母が死亡した
  • 父又は母が法令に定める重度の障害の状態にある(年金障がい等級1級程度)
  • 父又は母の生死が不明
  • 父又は母に1年以上遺棄されている
  • 父又は母が法令により1年以上拘禁されている
  • 父又は母が裁判所からDV保護命令を受けている
  • 母が未婚のまま子供を産んだ場合
支給対象外
  • 児童の父又は母が婚姻の届出をしていなくても事実上の婚姻関係(内縁など)にある
  • 申請者又は児童が日本国内に住所を有しない
  • 児童が里親に委託されている
  • 児童が児童福祉施設等に入所している
  • 公的年金給付等を受給しており、その額が児童扶養手当の額と同額以上である
  • 申請者及び扶養義務者などに定められた額以上の所得があるとき
(2) 支給額
子供の人数 全部支給 一部支給
1人 42,910円 10,120円から42,900円(所得に応じて決定)
2人 53,050円 15,190円から53,030円(所得に応じて決定)
3人 59,130円 18,230円から59,100円(所得に応じて決定)
4人以上 以降、1人増えるごとに第3子の加算額が加算

2.児童手当

児童手当は、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長を図ることを目的とした制度です。

子供を養育している人に対し手当を支給するものなので、離婚した家庭に限られず、要件を充たせば受けられます。

(1) 対象者

15歳到達後の最初の3月31日までの間にある児童を養育する者

(2) 支給額
対象となる児童の年齢等 児童1人あたりの月額
3歳未満(3歳の誕生日の属する月まで) 15,000円
3歳~小学生 第1子、第2子 10,000円
第3子以降* 15,000円
中学生 10,000円
所得制限限度額以上の場合 5,000円

*「第3子以降」とは、18歳の誕生日後の最初の331日までの養育している児童のうち、3番目以降の児童をいいます。

(3) 所得制限限度額

世帯の合算所得ではなく、受給資格者と配偶者それぞれ単独の所得で判定し、所得の高い方が受給資格者となります。

控除額は様々なものがあるため、収入額は控除前の額としておおよその額となります。

扶養親族等の人数 所得制限限度額 収入額の目安(控除前)
0人 622万円 833.3万円
1人 660万円 875.6万円
2人 698万円 917.8万円
3人 736万円 960.0万円
4人 774万円 1002.1万円
5人 812万円 1042.1万円

 

3 特別児童扶養手当・障害児福祉手当

精神又は身体が障がいの状態にある20歳未満の児童について、児童の福祉の増進を図ることを目的として、手当を支給する制度です。

・支給額
重度障がい児(1級) 1人につき 52,200円
中度障がい児(2級) 1人につき 34,770円

 

4 生活保護制度

生活保護は、資産や能力等全てを活用してもなお生活に困窮する者に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保護し、その自立を助長する制度です。

・扶助内容
生活を営む上で生じる費用 扶助の種類 支給内容
日常生活に必要な費用
(食費、被服費、光熱費等)
生活扶助 基準額は、①食費等の個人的費用②光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出。特定の世帯には加算(母子加算等)
アパート等の家賃 住宅扶助 定められた範囲内で実費を支給
義務教育を受けるために必要な学用品等 教育扶助 定められた基準額を支給
医療サービスの費用 医療扶助 費用は直接医療機関へ支払い(本人負担なし)
出産費用 出産扶助 定められた範囲内で実費を支給
就労に必要な技能の習得等にかかる費用 生業扶助 定められた範囲内で実費を支給
葬祭費用 葬祭扶助 定められた範囲内で実費を支給

 

5 母子(父子)福祉資金貸付金

母子家庭の母等が、就労や児童の就学などで資金が必要となったときに、都道府県、指定都市又は中核市から無利子又は低金利で貸付を受けられる資金です。

母子(父子)家庭の母等の経済的自立を支援するとともに生活意欲を促進し、その扶養している児童の福祉を増進することを目的としています。貸付資金の種類により、無利子の条件が異なりますので、事前に確認する必要があります。

なお、文字通り本制度は貸し付けを行う制度ですので、返済の必要があります。

6 母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金

母子家庭の母又は父子家庭の父の主体的な能力開発の取組みを支援することを目的とした制度です。

雇用保険の教育訓練給付の受給資格を有していない人が対象教育訓練を受講し、修了した場合、経費の60%(上限20万円、12000円を超えない場合は支給対象外)が支給されます。

支給については、受講前に都道府県等から講座の指定を受ける必要があります。

(1) 対象者

対象者は、母子家庭の母又は父子家庭の父であって、現に児童(20歳に満たない者)を扶養し、以下の要件を全て満たすことが必要です。
・児童扶養手当の支給を受けているか又は同等の所得水準にあること
・雇用保険法による教育訓練給付の受給資格を有していないこと
・就業経験、技能、資格の取得状況や労働市場の状況などから判断して、当該教育訓練が適職に就くために必要であると認められること

(2) 対象となる講座

・雇用保険制度の教育訓練給付の指定教育訓練講座
・その他、上記に準じ都道府県等の長が地域の実情に応じて対象とする講座

 

7 母子(父子)家庭高等職業訓練促進給付金

母子家庭の母又は父子家庭の父が看護師や介護福祉士等の資格取得のため、1年以上養成機関で修業する場合に、修業期間中の生活の負担軽減のため、高等職業訓練促進給付金が支給されます。

また、入学時の負担軽減のために、高等職業訓練修了支援給付金が支給されます。

(1) 対象者

対象者は、母子家庭の母又は父子家庭の父であって、現に児童(20歳に満たない者)を扶養し、以下の要件を全て満たすことが必要です。

・児童扶養手当の支給を受けているか又は同等の所得水準にあること
・養成機関において1年以上のカリキュラムを修業し、対象資格の取得が見込まれること
・仕事又は育児と修業の両立が困難であること

(2) 支給額

〇高等職業訓練促進給付金
【支給額】            月額100,000円(市町村民税非課税世帯)
                 月額70,500円(市町村民税課税世帯)
【支給期間】           修業期間の全期間(上限3年)

〇高等職業訓練修了支援給付金
【支給額】            50,000円(市町村民税非課税世帯)
                 25,000円(市町村民税課税世帯)
【支給期間】           修了後に支給

(3) 対象となる資格

対象となる資格は、就職の際に有利となるものであって、かつ法令の定めにより養成機関において1年以上のカリキュラムを修業することが必要とされている者について都道府県等の長が指定したものです。

例として、看護師、介護福祉士、保育士、歯科衛生士、理学療法士などがあります。

 

8 まとめ

以上のように、離婚後に子供を養育しながら受けられる公的扶助制度には様々なものがあります。離婚後に手当を受けながら生活することができ、また、たとえ婚姻中に仕事をしていなくても、離婚後に給付金を受けながら資格を取得すれば、安定した職業に就くことも可能です。

本当は離婚したいにもかかわらず、金銭的に不安という点だけで何年も我慢してしまうのは、ご本人にもお子様のためにも良い環境とは言えないかもしれません。

弁護士や最寄りの役所等に相談しながら、前向きに新しい生活についても考えてみることをお勧めします。

 

2019.07.19

クレジットカードが不正利用されたときの対処法

クレジットカードは手元に現金が無い時にも買い物をすることが出来るとても便利なものです。
しかし、クレジットカードを落としてしまったり、カード情報が漏れてしまったりすると、第三者に不正利用される恐れがあります。
今回は、クレジットカードの不正利用についてお話していきたいと思います。

1.不正利用の手口

クレジットカードの不正利用には数々の手口が存在します。以下、不正利用の種類について簡単に説明していきたいと思います。

  • ①クレジットカードの盗難

財布の盗難等によりクレジットカードが第三者の手に渡ってしまうと、他人に悪用されてしまう恐れがあります。具体的には、サインレス決済が可能な店舗での利用や、クレジットカード裏のサインを真似て、クレジットカードの持ち主になりすまして利用されてしまうことが考えられます。

  • ②フィッシング詐欺
  • フィッシング詐欺とは、会員制ウェブサイトや有名企業を装い、偽のウェブサイトへのURLリンクを貼ったメールを送りつけ、偽のホームページに誘導し、受取者の利用しているアカウントや暗証番号、クレジットカードの会員番号等の個人情報を入力させて盗み出す手口です。
  • クレジットカードの情報を抜き取る場合「カードの有効期限が近いです」や「カードが無効になっています」等ともっともらしい理由をつけて情報を入力させます。
  • ③スキミング
  • スキミングとは、スキマーと呼ばれる機械で、クレジットカードの磁気データを不正に読み取り、複製カードを作成して、それ使用する犯罪行為のことをいいます。
  • 具体的な方法としては、目を離したときにクレジットカードを一時的に抜き取って情報のみをスキマーで盗み、再びカードを戻すという方法もあれば、会計時に、支払い用の機械(スキマー細工済み)にクレジットカードを通したときに、カード情報のみを盗むという方法もあります。
  • ④ネットショッピング詐欺

ネットショッピング詐欺とは、架空のネットショップを立ち上げて、架空の商品を販売し、購入画面で顧客のクレジットカードの情報を入力させることで情報を盗みだす行為をいいます。ネットショップも商品も架空なので、購入した商品が届くことはありません。

販売されている商品が相場に比べて格安であったり、日本語やフォントなどが不自然であったりするサイトは、ネットショッピング詐欺のサイトである可能性があります。ですので、ネットショッピングを利用する場合は十分に注意しましょう。

次は実際に不正利用に遭った場合に、どのように対処したらよいかをご説明します。

2.不正利用に遭ったときの対処法

クレジットカードの不正利用(盗難・紛失)に気づいたら、すみやかに以下の手順で対処しましょう。

①クレジットカード会社への連絡

不正利用に気づいたら、ただちにクレジットカード会社へ連絡をし、利用停止の手続きを取りましょう。クレジットカード会社に連絡をすることで、クレジットカードは利用停止となるため、被害の拡大を防ぐことができます。

また、併せて、本当に不正利用なのかどうか、クレジットカード会社による調査が行われます。調査の結果不正利用だと判明したら、後述する盗難保険の申請を行いましょう。 

  • ② 警察に連絡をする

クレジットカード会社への連絡が済んだら、次は警察に連絡し、被害届を出しましょう。

被害届を出すと、警察から受付番号を発行してもらえるので、カード会社に再度連絡し、番号を伝えましょう。 

  • ③ カードの再発行

不正利用されたカードは二度と使用できなくなるので、クレジットカードを再発行する必要があります。再発行後は再び紛失や盗難に遭わないように取扱いには十分に注意しましょう。 

クレジットカードは現金とは違い、盗まれたとしても上記のように利用停止の手続きを取ることができるので被害の拡大を防ぐことが可能です。もしクレジットカードの不正利用被害にあってしまっても、落ち着いて対処しましょう。

次に、クレジットカードの盗難や不正利用に遭ったときの補償サービスについてご説明したいと思います。 

3.盗難保険とは?

ほとんどのクレジットカード会社のカードには、盗難保険というサービスがついています。盗難保険は、クレジットカードが不正利用された日から60日以内にカード会社に連絡をし、不正利用だと判明すれば被害全額を補償してもらえる制度です。

盗難保険を適用させるには、不正利用から60日以内にカード会社に連絡をしなければならないので、利用から61日以上経過して不正利用に気づいた場合は、補償の対象外となってしまいます。普段から注意してクレジットカードの利用明細の確認を行いましょう。

ただし、実は不正利用された場合であっても、盗難保険が適用されず、補償が受けらえない以下のようなケースも存在しますので、ご注意ください。 

4.盗難保険が適用されない場合

クレジットカードの盗難・不正利用発覚から60日以内にクレジットカード会社に連絡をしたとしても、補償を受けられないのは、以下のようなケースです。

・暗証番号が推測しやすい誕生日や車のナンバーである場合

・カードの裏面に署名をしていない場合

・暗証番号が第三者にも分かるようになっている場合
(カード裏面に暗証番号をメモしている・財布に暗証番号が書かれたメモを入れている場合など)

・家族や友人など近しい間柄の人物による利用の場合

・カードを他人に預けていた場合

・天災に起因する不正利用の場合

・警察に届出を出していない場合

このような場合は、クレジットカードの所有者にも非があるとみなされてしまうので、盗難保険が適用されません。ですので、クレジットカードを利用する際には常に危機感を持ち、セキュリティ対策をしておきましょう。

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