弁護士コラム

2019.05.16

同性間のパートナーシップ証明について~LGBTQに関する行政の取り組み~

人が人を好きになる理由はさまざまで、また、その対象もさまざまであって、それがこの世の中の興味深いところであると個人的には思うのです。

しかしながら、世の中は、何らかの事情で時として人を好きであることに消極的な姿勢をみせることがあります。例えば同性同士が婚姻をしようとする場合にも法律上は積極的にこれを認める決まりはありません。

心理・社会的性別(gender)について考えると、その内容がとても難しいことに気付きます。どのような社会がよいのか考えても一定の結論にたどり着けないのがこの問題の難しいところです。

1 生物学的性とジェンダーに関して

ジェンダーという言葉をよく聞きますが、果たして何を指しているものなのでしょう。
もしかするとご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、ジェンダーは後天的に獲得するに至った性であって、先天的に持つ性別とは異なるものと定義されています。
出生後私たちは発達の過程でジェンダーを獲得します。発達過程において生物学的な性とジェンダーが一致しない場合と、する場合があります。

最近ではその一致は当たり前のことではないという考えのもとLGBTQやLGBTX等の概念が普及しています。
そして「ダイバーシティ」の枠組みの中において多様性の推進がなされている今日、同性同士のパートナーシップを公に認める取り組みも実際になされています。

2019年5月現在において、この取り組みは渋谷区に限定されていますが、今後政令市や中核市などの主要都市が導入をはじめると全国に広がってゆくことが想定されます。

2 渋谷区パートナーシップ証明書

今回ご紹介するのは、渋谷区パートナーシップ証明書制度です。
パートナーシップ証明書とは、法律上の婚姻とは異なるものとして、条例において、男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係を「パートナーシップ」と定義し、二人がパートナーシップの関係にあることを確認して証明するものです。

このパートナーシップ証明書は、同性同士のパートナーシップを前提としており、戸籍上の異性間で婚姻以外のパートナーシップを望む場合は取得できないという問題点はあるのですが、これまで後天的な性に関して閉鎖的であった我が国では先進的な制度といえるでしょう。

渋谷区では、戸籍上の性が同性同士のパートナーシップであっても婚姻に準じた取扱いがなされており、できるだけ異性間の場合と同性間の場合と変わらないように取り扱われるとのことです。

前向きに、パートナーシップに関してお考えの方は、以下簡単に概要を説明しますので、ご覧になっていただければ幸いです。

3 実際にパートナーシップ証明を得るには

実際の手続の概要は条例第10条に定められています(※渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)。

第4条 区は、次に掲げる事項が実現し、かつ、維持されるように、性的少数者の人権を尊重する社会を推進する。
 (1) 性的少数者に対する社会的な偏見及び差別をなくし、性的少数者が、個人として尊重されること。
 (2) 性的少数者が、社会的偏見及び差別意識にとらわれることなく、その個性と能力を十分に発揮し、自らの意思と責任により多様な生き方を選択できること。
 (3) 学校教育、生涯学習その他の教育の場において、性的少数者に対する理解を深め、当事者に対する具体的な対応を行うなどの取組がされること。
 (4) 国際社会及び国内における性的少数者に対する理解を深めるための取組を積極的に理解し、推進すること。

第10条 区長は、第4条に規定する理念に基づき、公序良俗に反しない限りにおいて、パートナーシップに関する証明(以下「パートナーシップ証明」という。)をすることができる。
2 区長は、前項のパートナーシップ証明を行う場 合は、次の各号に掲げる事項を確認するものと する。ただし、区長が特に理由があると認めるときは、この限りでない。
 (1) 当事者双方が、相互に相手方当事者を任意後見契約に関する法律(平成11年法律 第150号)第2条第3号に規定する任意後見受任者の一人とする任意後見契約に係る公正証書を作成し、かつ、登記を行っていること。
 (2) 共同生活を営むに当たり、当事者間において、区規則で定める事項についての合意契約が公正証書により交わされていること
 (3) 前項に定めるもののほか、パートナーシップ証明の申請手続その他必要な事項は、区規則で定める。

第11条 区民及び事業者は、その社会活動の中で、区が行うパートナーシップ証明を最大限配慮しなければならない。
2 区内の公共的団体等の事業所及び事務所は、 業務の遂行に当たっては、区が行うパートナーシップ証明を十分に尊重し、公平かつ適切な対応をしなければならない。

また、取得手続きに入る前に以下の要件を満たしている必要があります。(渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例施行規則3条1号~4号)

① 渋谷区に居住し、かつ、住民登録を行っていること。
② 20歳以上であること。
③ 配偶者がいないこと及び相手方当事者以外の者とのパートナーシップがないこと。
④ 近親者でないこと

以上の要件の下、実際にパートナーシップ証明書を取得する手続きに移行します。

このように、パートナーシップ証明書を取得する基本的な流れは、①任意後見契約に係る公正証書を作成して②登記をし、③合意契約を公正証書で作成し、申請するという流れになるようです。

しかしながら、この手続きには、条例で合意するように定められている事項に合意していること等の要件があり、その上で、公正証書という公証人が作成する公文書を作成しなければなりません。

そこで、パートナーシップ証明書の取得をご希望の方は、パートナーシップ証明書関係の事務を取り扱う渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>にご連絡の上、法律事務所に依頼し、公正証書の案を練るというのが一般的な流れであると思われます。

4 まとめ

さて、今回はパートナーシップの証明についてご説明しました。いまはまだ、渋谷区のみの取り組みですが、今後拡大してゆけば各自治体で取り組むものとなってゆくかもしれません。
このように多様な在り方をみとめてゆくことで、全ての人にとって生活しやすい社会が形成されることへの期待がなされています。

2019.05.15

WEBサービスを始めるなら必要!利用規約やプライバシーポリシーについて

WEBサービスを立ち上げる際、必ず準備しておきたいのが「利用規約」です。
対面での契約と違い、WEB上では購入者と書面で契約書を取り交わすことは不可能に近いと言えます。その契約書と同様の利用規約を作成し、プライバシーポリシーと併せてサイトに掲載、さらに利用者に同意をしてもらうことで、万が一トラブルが起こった際、適切に対処することができます。つまり、契約書の代わりになるのが利用規約やプライバシーポリシーとなります。
ではその利用規約やプライバシーポリシーについて、どのような点に注意して作成すれば良いのでしょうか?

1.サービスに沿った利用規約を作成しましょう

(1)契約書と同様の意味をもつ利用規約

上記の繰り返しになりますが、通常、物品の購入やサービスを受けるには売る側と買う側の間に「売買契約」が生じます。紙の契約書を取り交わしたり、同意書に署名したり、というようなことを行いますが、WEB上では同じように書面のやり取りをするということは現実的ではありません。
そこで、利用規約としてWEBサービスの利用者、商品の購入者に対して、サービスの内容やサイト内で守ってほしい項目や禁止行為、免責事項などを明記し、同意してもらうことで契約書の代わりとするのです。

(2)トラブルが起こった場合に備える

万が一トラブルがあった際などには、サイト管理者が利用規約に基づいてトラブルの対応をすることになります。
よく見受けられるのが、商品注文後の返品・返金・キャンセル等(ここでは返品等とします)ですが、利用規約に記載があり内容に則した返品等であれば対応が必要です。
しかしながら、すべての返品等に応えていては売り上げも立ちませんし、労力ばかりが増えてしまいます。返品等についての対応期限を設けたり、初期不良以外の返品不可といった条件を設定し、サイト管理者側が不利にならない内容にしましょう。
とりあえず返品に対応する、というようなあいまいな内容では利用する側も不安を覚えてしまいます。具体的に記載し、どんなケースでも対応できるようにすることが重要です。

(3)その他、利用規約に必要な具体的な項目は?

上記で例に挙げた返品対応についてはなんとなく思い浮かぶものですが、他の項目を一から考えて利用規約を作成する、と言っても法律の専門家でない限り、なかなか最初の文字すら出てこないものです。
すでに多くのWEBサービスがネット上に存在しているので、まずは参考として、自分が始めたいサービスと同様の形態を取っているサイトを見てみましょう。

多くのサイトでは、メニュー部分やサイトマップ(サイトの目次一覧)のページに利用規約へのリンクが掲載されていることが多いですので、そのリンクからアクセスし確認することができます。
また、検索エンジン(yahooやgoogleなど)の検索窓に「〇〇ショップ(サイトの名前) 利用規約」などのキーワードを入れ検索すると、そのショップの利用規約ページに直接アクセスできることもあります。

見てみるとどのサイトの利用規約も似通っており、「ではこれを丸写しすればいいんだ!」と思ってしまうかもしれませんが、あくまで参考とし、普遍的な部分以外は自身が行うサービスに則した内容にしていきましょう。利用規約にも著作権が認められたケースもありますので十分注意が必要です。

また、「サービス利用前に、こんなに膨大な文章の利用規約なんて誰も読まないだろう」と考え、利用者が不利になるような内容にするのも危険です。これまでも、利用者が作成したデザインの著作権はサイト管理者側へ譲渡されるといった規約内容が問題であるとされ、SNSで拡散炎上、利用規約の変更を迫られた他、企業イメージのダウン、更にはサービスの終了や業績低迷につながった例もあります。

近年起こっているSNSでの問題発覚は、上記のような規約以外でも多大な影響を及ぼしています。たとえ小規模なサイトであっても、全世界に向けてサイトを公開していること、細かい部分まで誰かが見て読んでいることを念頭に置いて運営していきましょう。

2.プライバシーポリシーって必要?

(1)利用者の個人情報を取得し、適切な利用を

プライバシーポリシーとは、そのWEBサイトを運営する管理者が、サイト上で得た個人情報の取り扱い方について方針を示すものです。個人情報保護方針とも言われ、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)により、個人情報の利用目的や第三者への情報提供などについて明記する義務があります。
こちらも多くのWEBサイトでは、利用規約と同様にメニュー部分やサイトマップのページにリンクが掲載されていますので、そのリンクからアクセスし内容を確認することができます。サイトによっては利用規約の中に組み込まれていることもあります。

プライバシーポリシーは、単に個人情報を適切に扱いますよ、という方針を記載するだけでは内容が不十分です。会員登録などで知り得た個人情報を、今後どのように取り扱うのかを具体的に説明せねばなりません。
例えば、
・販売後のフォローや、関連情報を知らせるために利用することがある
・購入者の解析や分析のため、データ解析会社や広告代理店など第三者へ情報を提供することがある
・新商品が発売されたら、案内をする際に使用する
…など、今後個人情報を利用するシチュエーションを考え、作成していくようにしましょう。この個人情報の利用目的を明確化しておかないと、後日個人情報を使いたいと思ったときに、プライバシーポリシーに記載されている利用目的と異なる利用はできないこととなってしまいます。今後のビジネスの発展や展開を考えながら、個人情報の利用目的を検討しましょう。

(2)プライバシーポリシーには必ず同意を!

問い合わせフォームや資料請求のページなど、利用者自身の個人情報を入力する部分にもプライバシーポリシーを掲載しておきます。そしてポリシーに同意しなければフォーム内容を送信できないようにすることがポイントです。
同意がなければ、上記のような販売後のフォローや関連情報の提供などを購入者へ対して行うことができませんし、販売拡大のためのデータ活用もできないため、必ず同意を得るようにしましょう。

3.まとめ

利用規約、プライバシーポリシーどちらにしてもWEBサービスにおいては欠かせないものとなっています。消費者トラブルや情報漏えいを起こした場合、この2つの記載内容が不十分だった際には、責任の所在を問われることになります。
WEBサービスを早く始めるにはその作成を専門家に依頼し、自分は他の準備に専念するのも一つの方法ですが、専門家もそのサービスについて熟知しているとは限りません。任せきりにせず、しっかり事業内容や事前情報を伝えた上でアドバイスを受け、より良い規約を作成していくようにしましょう。

2019.05.13

【離婚問題】養育費を決めるために知っておくべきこと

子供がいる夫婦が離婚する際、親権だけではなく養育費の取り決めは必ず付きまとう事柄でしょう。では、そもそも養育費とはなんでしょうか?

1 そもそも養育費とは?

当然のこととして民法でも定められていますが、子供を扶養する義務は両親にありますので、未成年の子と離れて暮らしている親(以下「義務者」といいます。)も、子供の生活費や教育費などを負担しましょうというものが養育費制度となります。この養育費の請求とは、子供が親に対して行う扶養請求ですので、本来は法的には子供に請求権が認められる権利になります。

しかし、子供に支払っても子供自身が養育費を適切に使えませんので、実際に請求する際は、監護親(子供と一緒に暮らしている者)が請求することが多いです。そして、一般的に親権者が子供と一緒に暮らしている監護親であるケースがほとんどですので、離婚した夫婦は親権者が非親権者に対して、養育費を請求することとなります。

様々な離婚を見ていると、夫婦間では離婚を成立させることが先決となっており、養育費の取り決めを明確にすることなく、離婚される方が多くいらっしゃいます。(口約束で決めている夫婦も見受けられますし、おおよその金額だけ決めている夫婦も見受けられます。)

また、明確に支払日や支払金額を決めている夫婦であっても、それを明記したものが単なる離婚協議書の場合が多く、養育費の支払いが滞った場合、強制的に養育費を支払わせるというのが困難なケースが散見されます。

養育費は、子供に安心した日常生活を与え、十分な教育費を与えるためのお金ですので、子供の成長にとって非常に重要なお金であり、不払いが許されてはならないものです。必ず、不払いが発生したときに対応できるよう、養育費の決め方などをきちんと理解しておきましょう。

2 公正証書で離婚協議書を作成することの重要性

義務者(養育費を支払う側の親)は、自身の生活と同程度の生活レベルを子供にも保持させる義務があります。そのため、養育費の金額については、義務者及び監護親それぞれの収入によって決めることになります。

まず、養育費を決める段階としては、①協議・②調停・③審判の3段階があります。協議の場合は、当事者間での話し合いとなりますので、口約束や離婚協議書で決めることが多くなっています。

しかしながら、もし養育費の支払いが滞り最終的には支払ってもらえなくなった場合、強制的に支払わせる効力がありませんので、相手方が応じてくれなくなったらどうすることも出来ません。そこで、協議の段階で強制力を持たせる方法として、公正証書で離婚協議書を作成する方法があります。

公正証書とは、法務大臣に任命された公証人(元裁判官や検察官などの法の専門家)が作成する公文書になります。この公正証書は証明力及び執行力を有していますので、仮に養育費の支払いが滞った場合は、給与等の差押えをすることが出来ます。
裁判所を使わずに、当事者同士の話し合いで養育費を決めて離婚する際は、口約束や協議書だけではなく、必ず公正証書も作成するようにしましょう。

3 話し合いで決まらない場合

次に、協議で決まらなかった場合や協議書等のみで養育費の支払いがなされなくなった場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。調停とは、裁判官のほかに調停委員という第三者が間に入り、裁判所で話し合いを行う制度です。

それぞれの感情だけで意見を言い合うのではなく、客観的な視点で物事を判断することが出来ますが、第三者を交えた話し合いですので、まとまらなければ調停不成立となります。(もちろん裁判所が関与する以上、法律論として養育費の決定を促していきますが、あくまでも裁判所を間に挟んだ話し合いでしかないため、どれだけ法的に合理的な結論であっても、互いの合意が得られなければ調整は成立しません。)

そして、調停が成立しなければ、審判という制度に移行します。こちらは、提出された資料及び双方の事情に基づいて、裁判官が養育費の額を決定します。(一般的に「裁判」とイメージされているものです。)では、どのように養育費額が決まるのでしょうか?

家庭裁判所では、過去の養育費に関する審判例などを踏まえながら、養育費の算定表というものを発表しており、夫婦互いの収入状況と子供の人数や年齢によって養育費額を算出するための表を作成しています。

審判で養育費額を決める場合、裁判官は基本的にこの養育費算定表に基づいて養育費額を決めますので、これが養育費の相場のようなものになります。しかし、世の中の監護親が感じている通り、この算定表で算出される養育費額は、子供に十分な生活レベルを維持させながら十分な教育を与えるには不十分な金額と感じる人も多いかと思います。

そのため、審判までいくと、もしかしたら希望の金額より低い金額になってしまう可能性もあるため、出来るだけ調停まででまとめたほうがいいでしょう。

なお、調停及び審判となると、裁判所から調停調書又は審判書というものが発行されますので、支払が滞った場合でも、履行勧告や給与等の差押え等を行うことが可能となります。

4 養育費の算定表

では、養育費額はどのように決めたらいいのでしょうか?

養育費額には特段法的定めはなく、前述の通り、自身と同等の生活レベルを維持できるだけの額を支援することが望ましいとされています。監護親側としては、子供には生活費や教育費など、思いのほかお金がかかるため、できるだけ多くの養育費をもらいたいところだと思います。

しかしながら、義務者の収入に見合わないような金額を取り決めてしまうと、義務者自身の生活が圧迫され、養育費の支払いがストップしてしまう恐れがあります。そのため、きちんと義務者の収入に考慮した無理のない金額にしましょう。

ただ、そうは言っても、「じゃあ収入に応じた無理のない金額って一般的にいくらなの?」という疑問が浮かぶと思います。そこで、家庭裁判所が作成した養育費の算定表というものが裁判所のHPに掲載されています。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/

これは、実際に裁判所も養育費を決める際に参考にしている表で、双方の収入から養育費の相場を算定できるものとなっています。しかしながら、子供にはそれなりに費用がかかってきますので、この算定表はあくまでも参考程度にして頂き、双方の収入及び子供の将来設計に応じた金額の設定をするようにしましょう。

5 養育費の変更

何度も話に出ている通り、子供がひとり立ちするまでの間には何かとお金がかかります。毎月の生活費だけでなく、習い事の費用、進学時の諸費用など、大きくなるにつれて、節目節目で高額な費用が必要になってきたり、私立学校に進学し学費の負担が増加したりすることも考えられます。

また義務者や監護親の収入に増減が生じる、新たなパートナーと籍を入れるなど、両親の状況の変化もないとはいえません。

そのため、そういった状況の変化に合わせて養育費の減額や増額を請求することが可能となっています。ただし、一度取り決めた養育費を変更するためには、それ相応の事情変更があることが必要とされています。(義務者と再度話し合い、新しい金額で合意がとれればそれで問題ありません。)

養育費変更の調停を行った場合は、調停委員から増額減額を求める理由について、具体的な事情を聴取され、それを裏付ける資料の提出を求められます。また、現在の養育費を決めた際に、将来の子供の進学状況に変更が生じる可能性を考慮して金額を取り決めたか否かも影響してきます。

このように事情変更があるかどうかについては、慎重な検討が必要とされており、調停委員が事情変更があると認める方向性になった際は、具体的な金額の調整に進むことになります。変更があると認められない場合には、審判に移行しても認められない可能性が高いため、当事者同士で折り合うことの出来る金額を模索するほかありません。

6 まとめ

養育費は、子供のためのお金です。子供が十分な生活をしながら、適切な教育を受け、一人前の大人になっていくために必要なお金です。離婚当時は当事者の感情だけで物事を進めてしまいがちですが、子供の将来のこともきちんと考え、養育費もきっちり取り決めをしておきましょう。

2019.05.09

【交通事故】交通事故の過失相殺について

交通事故の示談交渉において、相手から提示された過失割合が本当に正しいものなのか疑問に思われる方は多々いらっしゃると思います。
しかし、自分自身でも正しい過失割合が分からないため相手に反論できず、納得していないまま示談書に署名する結果になることも多いでしょう。
今回はそのような方のために「過失割合」や「過失相殺」についてご説明します。

1 過失割合・過失相殺とは?

交通事故では、加害者だけではなく、被害者にも事故の発生原因となる何らかの落ち度・注意義務違反(=過失)が認められることが多くあります。この加害者と被害者の過失の程度を「過失割合」といいます。
被害者にも過失がある場合、被害者の過失を無視して、加害者にすべての損害を負担させることは、当然に公平性を欠くことになります。

過失相殺」とは、こうした不公平をなくすために、加害者と被害者の過失割合に応じて、当事者間で損害賠償責任を負担しあうという制度です。もちろん、無免許での泥酔運転や、法定速度オーバーといった、加害者側の常識外の危険運転が専ら事故の原因のような場合には、加害者側に100パーセントの過失が認められるケースもあります。

しかし、被害者側にも信号無視や道路への飛び出しなどにより一定の過失が認められる場合、加害者に交通事故によって生じた損害額を全額負担させると、加害者と被害者の間で不公平が生じてしまいます。そのため、過失の程度によって損害の負担は相殺されます。

例として「横断歩道の無い道路を渡ろうとした歩行者が車にはねられた事故」で考えてみましょう。この事故により、被害者は骨折等の重傷を負い総額1,000万円の損害が発生したと仮定します。

しかし、被害者は横断歩道の無い道路を横切ろうとしたため、被害者と加害者の過失割合は「被害者3:加害者7」となりました。この様になると、被害者は損害額1,000万円を全額補償して貰えるわけでは無く、1,000万円の内3割は被害者の過失として相殺され、加害者の過失7割相当分の700万円のみ補償されることになります。

つまり、過失相殺されることで、被害者が実際に受け取れる損害賠償額は加害者の過失割合分となるのです。過失相殺は、治療費、休業損害、慰謝料等、交通事故により発生する全ての損害を対象とするのが一般的です。

また、人身事故ではなく、車同士の車両事故(物損事故)の場合には、「それぞれの損害額」に、「それぞれの過失割合」を応じて自己負担額を算出し、互いに相殺処理して差額を支払うという処理をすることが多いです。

例として「車Aと車Bが衝突し、それぞれに修理代金が発生したケース」で考えてみましょう。この事故の過失割合を「50%:50%」とします。
車Aは、車の修理費用が20万円、車Bは車の修理費用が30万円かかりました。過失割合が「50%:50%」のため、A車の所有者は、B車の修理費用の50%を支払う義務があります。A車の所有者は、30万円×50%で15万円をB車の所有者に支払わなくてはいけません。

反対に、B車の所有者は、A車の修理費用の50%を支払う義務があります。そのため、20万円×50%で10万円の支払いをしなくてはいけません。
こういった場合、勿論それぞれが負担額を相手方に支払うこともできますが、手続きが煩雑ですので、通常A車の所有者は、相殺後の差額5万円をB車に支払うという形で処理することが一般的です。

2 過失相殺と保険金の支払い

過失割合を決めるのは警察ではなく、当事者若しくは当事者が加入する保険会社との話合いにより決定することが一般的です。警察は事故現場において現場確認を行い、当事者から事情を聴取し事故の記録を行います。

しかし、警察が行うのはあくまで確認された事故の記録を実況見分調書として作成することと、刑事上の責任の捜査であり、過失割合の決定は民事上の問題となるため警察が介入してくることはありません。
過失割合については、警察作成の実況見分調書や実際の事故現場の状況を考慮し、当事者双方若しくは当事者が加入する保険会社が協議し合意するのが通常です。

過失割合を協議する際に根拠となるのは、過去の交通事故判例等です。保険会社は、過去の判例と今回の事故を照らし合わせて、過失割合の数字を事務的に決めている事が多々あります。

保険会社が判断の基準とする過去の判例上の過失割合は一見すると適正な資料とも言えますが、過去の判例と全く同じ状況の交通事故があるとは限りません。よって、「よく似た事故判例」を探して出して当てはめることになります。

しかし、似たような交通事故でも過失割合が違うこともあるため、保険会社から提示される過失割合は保険会社にとって都合が良いものを選んでいる可能性も考慮することが大切です。当然、保険会社としては自社の出費を抑えることを優先的に考えます。

また、当事者の大半は適切な過失割合についての認定基準を知らないことが多いです。そのため、保険会社から「過失割合はこのくらいです」と言われてしまったら「そういうものかな」と納得してしまうケースが多く存在します。

また、自分が加害者側であったとしても、保険会社は支払いを抑えたいと思っている部分はありますが、同時に早く事件を終わらせたいとも考えています。
そうなると、厳密に過失割合の認定をすることなく、適当なところで纏まった示談金を提示し納めてしまうこともよくあります。このようなことから、保険会社は必ずしも適切な過失割合で話を進めていない可能性も認識しておきましょう。

3 まとめ

交通事故において、過失割合が争点になるケースは非常に多いですが、過失割合を決定するために保険会社と交渉をするためには、過去の交通事故判例などと事故を照らし合わせていく等、幅広い知識が必要です。
過失割合が争点となり協議が難航しているといったお悩みをお持ちの方は、弁護士等に相談した方が良いでしょう。

*本ブログに搭載されている内容はあくまで一般的な流れであり、発生事故によって異なることもございます。ご了承ください。

2019.05.07

【離婚問題】離婚時に行うべき手続きについて

配偶者の方と離婚することになったとき、何を決めなければならず、どんな手続きをしなければならないかは、夫婦ごとに様々です。子供がいるかどうか、財産があるかどうか、揉めているかどうか等によってしなければならないことは大きく異なります。
以下では、その判断の前提として、一般的に必要となる手続きや決めなければならないことについて説明致します。

①離婚をするために必要なこと

まず、離婚を行う上で絶対的に必要となる手続きは離婚届の提出であり、逆に、お互いが納得して離婚届をきちんと作成し提出しさえすれば、離婚は成立します。

しかしながら、一方が離婚に同意しない、離婚条件に折り合いがつかない、となると離婚届を提出する前に協議や調停、場合によっては裁判をしなければなりません。また仮に離婚届を提出したとしても、その後一方が財産分与や慰謝料などを求めてくれば、同様に手続きをしなければいけなくなります。

②離婚の条件

ところで、そもそも離婚をするにあたって協議が必要となり得る事項についてですが、一般的には以下の通りとなります。
 ア 親権
 イ 養育費
 ウ 面会交流
 エ 財産分与
 オ 慰謝料
 カ 年金分割

このうち、親権は離婚届に記載しなければならないため離婚時点に決めておく必要がありますが、その他については後日取り決めることが可能です(ただし、慰謝料は3年、財産分与と年金分割は2年で時効により請求権が消滅してしまいます。)。
今回、これらの事項に関する具体的な説明は割愛致しますが、それぞれについて決めなければいけないケースは以下の通りです。

ア 親権

⇒お子さんがおられる場合です。ただし、お子さんが未成年の場合に限ります。お子さんが複数おられる場合、親権者を別々にすることも可能です。

イ 養育費

⇒お子さんがおられる場合です。「●円でなければならない」「●歳まででなければならない」という決まりはありません。仮に裁判所の審判に付される場合、原則として夫婦それぞれの収入を基準に金額を算出し、お子さんの就学状況や夫婦の学歴等によって終期を決定します。

金額に関しては、家庭裁判所が養育費相場について算定表を公開していますので、これを基準として決定するケースが多いです(http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf)。また、近年は大学進学率の向上に伴い、両親が大卒の家庭では、養育費も子供が大学を卒業する年の3月までと決められる家庭が多い現状にあります。

ウ 面会交流

⇒お子さんがおられる場合。こちらも決め方に決まりはありませんが、「原則として面会交流は実施されるべきである」というのが裁判所の考え方です。裁判所の審判に付される場合、具体的な頻度や時間、場所等については、夫婦やお子さんの意見、これまでの面会状況を踏まえて内容が決定されます。

一般論としては、十分に面会を実施しながらも、子供や監護親の負担も考慮して、月1日程度の面会交流を実施するケースが多いです。

エ 財産分与

⇒離婚時に財産がある場合。預貯金、自宅不動産(所有の場合)、積立型の生命保険、退職金等が一般的です。こちらも具体的な分け方、割合について決まりはありませんが、法律上「婚姻時から別居時(あるいは離婚時のいずれか早い方)までの間に形成された夫婦の財産」を対象とすることになっています。

あくまで夫婦が協力して築き上げた財産を分け合うための制度ですので、婚姻関係が続いていて、同居しながら共に生活している期間に築き上げた財産が対象となります。その中でも退職金の財産分与が問題となるケースが多く見受けられますが、退職金は必ず財産分与の対象となる訳ではありません。

退職金とは、退職時の会社の状況に応じて金額が変動する可能性もありますし、支給されない可能性すら存在します。したがって、退職金が財産分与の対象となるためには、一定程度確実に退職金が支給されるであろうケースに限られますので、ご注意ください。

オ 慰謝料

⇒離婚の原因が一方の違法な行為にある場合。こちらも「いくらでなければならない」という決まりはありません。「離婚しなければいけなくなったこと」を内容とする、いわゆる離婚慰謝料の他、「離婚とは関係なく、婚姻中に一方当事者が違法行為を行ったこと」を根拠とする慰謝料が考えられます。
前者の場合は離婚成立から、後者の場合は違法行為による損害が発生したとき(通常は、違法行為時)から3年の間に請求する必要があります。

なお、離婚の原因がいずれにあるかと、法的に慰謝料が発生するかは別問題ですので注意が必要です。法律論として慰謝料が発生するためには、一方が他方に対して不法行為を行ったと評価できないといけませんので、それなりのハードルがあります。慰謝料が発生すべきケースかどうかは、必ず専門家に相談しましょう。

カ 年金分割

⇒一方が厚生年金または共済年金に加入している場合。ただし、いわゆる「3号分割」の要件を満たせば、合意の必要はなく、分割を求める配偶者が単独で手続きできます。

この年金分割は、厚生年金部分(老齢基礎年金は含まない)のみの分割であるため、単純にもらえる年金額が夫婦で半分になるというものではありません。年金分割をするとどの程度の年金がもらえるのかは、年金事務所でシミュレーションしてくれますので、相談してみましょう。

③トラブルを防止するために

①でご説明した通り、離婚は離婚届を提出するだけで成立しますので、離婚やその条件に争いが無ければ、法律上は離婚届の作成・提出以外に手続きを行う必要はありません。しかしながら、どのようなご夫婦であっても、②記載のいずれかの条件に関し、離婚後争いが生じる恐れは存在します。

したがって、仮に円満に離婚をしようとしておられる夫婦であっても、離婚協議書を作成し、離婚後にトラブルが生じないよう予防しておく必要があるといえます。「揉めないから作らない」のではなく、「円満に離婚するために作る」のです。

離婚協議書の形式に関して法律上の決まりはありませんが、仮に相手方配偶者から何らかの金銭給付(養育費、財産分与等)を受けられる場合には、給付がなされなかった場合に備えて公正証書の形式で作成されるのがベストです。

これは、公正証書で作成していなかった場合、別途裁判をしなければ相手方の財産を差し押さえることができないためです。公正証書で作成し、執行認諾文言というものを付していれば、万が一支払いがなされないときは即座に給与の差押え等を行うことができますので、ぜひご活用ください。

また、作成される際には、内容を明確に、他の解釈を許さない文言で記載し、後日漏れが発覚した場合に備えて「その他一切の債権債務が無いことを確認する」旨のいわゆる清算条項を設ける必要があるでしょう。

④まとめ

以上、離婚手続きと離婚条件の概要と、トラブル防止策についてご説明致しました。
これらを十分踏まえて手続きを行って頂ければ問題ありませんが、冒頭に述べた通り、具体的に行うべき手続、取り決めなければならない内容は個々のケースによって異なり、協議書の記載方法等についてもそれに応じて慎重に検討する必要があります。

これらを専門的に学んでいない方が対応するのは相当に困難でしょうから、やはり専門家に相談しながら、幸せな未来に向けて十分な準備を行うよう心掛けてみられてください。

2019.05.06

手荷物検査と飛行機内のルール~航空法について~

ゴールデンウィークの10連休、飛行機を利用してどこかへ旅行に行かれた方も多いかと思いますが、意外と知らない航空機の法律をご紹介します。

保安検査場を通るときって少し緊張しませんか?自分の荷物をX線で見られて、あのゲートを通る時です。実は、保安検査場での手荷物検査は航空会社が実施する保安措置の一つなのですが、その根拠は法律で定められています。

1.保安検査には法律の根拠がある

飛行機に乗る時に絶対通るのが保安検査場です。保安検査場ではライターを2本持っていたりしたら捨てるように言われますが、あれは何かの根拠があってのことなのでしょうか。
飛行機への持ち込みに関しては、航空法にこのような決まりが定められています。

(爆発物等の輸送禁止)
第86条 爆発性又は易燃性を有する物件その他人に危害を与え、又は他の物件を損傷するおそれのある物件で国土交通省令で定めるものは、航空機で輸送してはならない。
2 何人も、前項の物件を航空機内に持ち込んではならない。

上記の通り、保安検査を受ける以前に、航空機に乗る人(私たち、運航乗務員、客室乗務員、その他航空機に乗る全ての方)は、危険なモノを航空機に持込んではならないと法律で定められております。さらに第86条の2では以下の様に明記されています。

第86条の2 航空運送事業を経営する者は、貨物若しくは手荷物又は旅客の携行品その他航空機内に持ち込まれ若しくは持ち込まれようとしている物件について、形状、重量その他の事情により前条第一項の物件であることを疑うに足りる相当な理由がある場合は、当該物件の輸送若しくは航空機内への持ち込みを拒絶し、託送人若しくは所持人に対し当該物件の取卸しを要求し、又は自ら当該物件を取り卸すことができる。但し、自ら物件を取り卸すことができるのは、当該物件の託送人又は所持人がその場に居合わせない場合に限る。

このように実は、航空会社は私達の手荷物の中に危険な物あると疑われるとき、持込みを拒絶して取り卸すことが出来るのです。
そしてその疑いを発見するのが手荷物検査です。

なお、手荷物検査は航空会社が行う保安措置の一つですが、保安措置には様々なものがあります。日本において航空会社が航空運送業を営む為には、国土交通大臣に対し、「事業計画(航空法第100条第2項)」を提出したうえで「許可(航空法第100条)」を受ける必要があります。

その事業計画には「航空機強取等防止措置の内容(航空法施行規則第210条第1項第7号、同法232条第1項第7号ホ)」を記載することと明記されています。
この「航空機強取等防止措置の内容」が私たちの手荷物検査を含む保安措置内容ということになります。

このようにして、私たちは保安検査場において法律で禁止されている物品の持ち込みをしていないことを確認されて、飛行機に乗り込むことになります。

2.機長の権限

飛行機のドアが閉まった後にゆっくり滑走路を走っていくとき、こんなアナウンスは聞こえませんか。
「航空法の定めるところにより禁止されており、刑罰の対象となることがあります。」

え!?なんかこわい!
と初めて乗った時は思われたかもしれません。

実は、あの状態のとき・・・ゆっくり空港の中を走っている時や、順番待ちで止まっている時でも航空法違反行為をした場合、機長の強い権限で拘束されることがあります。

航空会社は、ビデオなどを使ってやんわりと禁止行為を説明していますが、ついつい聞き流してしまいます。一体航空機の中でやってはいけないことって何なのでしょうか。

具体的には航空法施行規則という規則で以下の行為が禁止されています。
もしかすると、意外に違反してしまっているかもしれません

① 乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為
② 便所において喫煙する行為
③ 航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持に支障を及ぼすおそれのあるもの
④ 航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれがある携帯電話その他の電子機器であつて国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく作動させる行為
⑤ 離着陸時その他機長が安全バンドの装着を指示した場合において、安全バンドを正当な理由なく装着しない行為
⑥ 離着陸時において、座席の背当、テーブル、又はフットレストを正当な理由なく所定の位置に戻さない行為
⑦ 手荷物を通路その他非常時における脱出の妨げとなるおそれがある場所に正当な理由なく置く行為
⑧ 非常用の装置又は器具であつて国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく操作し、若しくは移動させ、又はその機能を損なう行為

意外にもルール違反をしてしまいそうなルールではありませんか?

ちなみに機長には、違反者だけでなく、このような違反行為をやろうとしている人についても、該当者を拘束したり飛行機から降ろしたりする権限が与えられているのです。航空法には、以下の通り機長の権限が定められています。

第73条の4 機長は、航空機内にある者が、離陸のため当該航空機のすべての乗降口が閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時までに、安全阻害行為等をし、又はしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置(第五項の規定による命令を除く。)をとり、又はその者を降機させることができる

上記の通り、機長は飛行機の全部のドアが閉まった瞬間から、客室内で迷惑な行為をして、客室乗務員を困らせたりする人を拘束したり、飛行機からおろしたりする強い権限を持っているのです。

3.まとめ

パイロットは頭がよくてスマートというイメージですが、その中でも機長はただ飛行機を飛ばすだけではなくて、航空機の秩序や乗客の安全も守らなければいけない重大な任務を遂行しているようですね。

連休にかかわらず、この先も航空機を利用していろんな国や地域へ旅行される方も多いかと思いますが、こうした航空機のルールを守って楽しい旅行にしましょう。

2019.05.06

振り込め詐欺救済法に基づく手続きで被害金を取り戻そう

皆さんは「振り込め詐欺」という言葉をご存知でしょうか?その悪質な犯罪行為はニュースでもたびたび取り上げられているため、ほとんどの方が耳にしたことがあるのではないでしょうか。
では、振り込め詐欺に遭ってしまった場合、もうお金を取り返すことはできないのでしょうか?やはり、詐欺グループから取り返すことは困難なのかもしれません。そこで、今回は、万が一振り込め詐欺の被害に遭ってしまったとき、どのように救済してもらえるか、法律に基づく手続きについてご説明したいと思います。

1.振り込め詐欺の定義

「振り込め詐欺」とは、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺などの犯罪行為の総称で、2004年に警視庁によって命名されました。この振り込め詐欺は、「特殊詐欺」に該当します。そもそも特殊詐欺とはどのような詐欺行為のことなのでしょうか。

警察によると、特殊詐欺は「面識のない不特定多数の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、対面することなく被害者をだまし、不正に入手した架空または他人名義の預貯金口座への振り込みなどの方法により、被害者に現金などを交付させたりする詐欺」と定義されています。

特殊詐欺の中でも代表格といえるのが、今回取り上げる振り込め詐欺で、特に高齢者が被害に遭う傾向が強く、平成30年の警察庁の調査によると、被害者の7割以上が高齢者となっています。

もしも、自分や周りの人たちがこれらの詐欺の被害に遭ってしまった場合、どうしたらよいのでしょうか。被害に遭ってしまった場合の救済処置を定めた法律があるので、次はそちらを見ていきましょう。

2.振り込め詐欺救済法とは

振り込め詐欺と思われる電話を受けたときは、詐欺だと気づいて被害を未然に防ぐことが出来たら一番良いですが、残念ながら多くの方が被害に遭っているのが現状です。このように振り込め詐欺の被害に遭ってしまった被害者の方々を助けるために作られたのが「振り込め詐欺救済法」という法律で、平成20年6月21日から施行されました。

振り込め詐欺救済法では、振り込め詐欺の被害者に対する被害回復分配金の支払い手続等を定めています。被害回復分配金とは簡単に言うと、振り込め詐欺の加害者の預金口座から取り戻し、各被害者に分配(返還)される資金のことです。その手続は以下の3つに分かれて進められます。

① 取引停止(口座凍結)
② 債権消滅手続
③ 被害回復分配金の支払手続
ここからはそれぞれの手続について詳しく見ていきましょう。

3. 振り込め詐欺救済法に基づく手続①取引停止(口座凍結)

被害にあってしまった際に、まず行うのが取引停止手続です。取引停止手続では、金融機関に対し、犯罪行為に利用された疑いのある預金口座に関する取引の停止等の措置をとることができます。いわゆる口座凍結のことです。口座凍結後は該当の預金口座では、入金や振り込み、預金の引き出しなどが一切できなくなります。

この口座凍結を行うには、振り込め詐欺の被害者側が、払込先(加害者)の預金口座を開設している金融機関に対して、その口座が犯罪利用の疑いがあるということを情報提供しなければなりません。情報提供の方法としては、金融機関に直接口座情報を提供するやり方以外に、警察や弁護士会、金融庁や消費者センター等の公的機関や、弁護士や認定司法書士を通して情報提供を行うことも可能です。情報提供を受けて金融機関により、すみやかに取引停止の措置が取られます。

もともと、振り込め詐欺救済法が施行される以前は、振り込め詐欺の被害に遭った際の口座凍結の手続は加害者の名前が分からなければ行えませんでした。また、名前が分かったとしても、預金は口座名義人のものということで被害金を取り戻すことは容易ではありませんでした。

しかし、振り込め詐欺救済法に基づく口座凍結は、振込先の口座番号と口座名義人が分かれば可能で、かつ要請後に早急に口座凍結が行われるので、加害者は預金を引き出すことが出来なくなり、被害金の回復の可能性が大きくなりました。
取引停止手続がとれたら、次は債権消滅手続へと移ります。

4.振り込め詐欺救済法に基づく手続②債権消滅手続

債権消滅手続では、加害者が振り込め詐欺に利用した預金口座の所有権がはく奪されます(=失権)。所有権がはく奪されることで、口座内の預金等の債権も加害者のものではなくなります。実際にこの手続きがどのような流れで進んでいくのかを見ていきましょう。

まず、①の取引停止措置を行った金融機関が、加害者の失権のための公告を預金保険機構に要請し、それを受けた預金保険機構が、ホームページで「債権消滅手続開始」の公告を実施します。この預金保険機構の公告というのは、預金保険機構のホームページにアクセスすれば誰でも見ることができ、「債権消滅手続き開始」の公告では、加害者の口座情報(金融機関、店舗、預金の種類、口座番号)や名義人の氏名や名称、預金額の情報を公開しています。

この公告開始から60日以内に、口座名義人からの届出がなければ、債権は消滅し、「債権消滅」の公告が実施されます。この公告を受け、次の被害回復分配金の支払手続へと進みます。

5. 振り込め詐欺救済法に基づく手続③被害分配金の支払手続

「債権消滅」の公告の実施を受け、今度は金融機関が「支払い手続開始」の公告を預金保険機構に要請しなければなりません。この公告では、②「債権消滅手続開始」で公開した情報に加え、被害者に対して、被害回復金の支払申請期間を掲載しています。

そのため被害者は金融機関に対して被害回復分配金の支払い申請を行う必要があります。 被害者からの支払い申請を受付けた金融機関は、申請人が支払いを受けるに値するのかを判断した上で、値すると判断した場合は被害回復分配金の支払いを行います。

この時の支払額は消滅預金等債権の額(=凍結口座の預金額)×(各被害者の被害額/総被害額)となります。つまり、複数の被害者から支払い要請がある場合は、口座に残っている残高を、それぞれの被害額に比例した額を配分したうえで支払われることになります。

このような仕組みで振り込め詐欺救済法に基づく被害回復分配金の支払いは行われているため、総被害額分の預金が残っていなければ、被害者の方は全額返金を受けることが出来ません。

さらに残高がない、もしくは1000円未満の場合は振り込め詐欺救済法による支払い手続の対象にもなりません。また支払いまでに1か月程度の期間を要しますので、これらの点を心得ておかなければなりません。

6.まとめ

以前は、振り込め詐欺にあってしまったら犯人の特定をしなければ、その被害金を取り戻すことは困難だとされていました。しかし、振り込め詐欺救済法の施行後は、犯人の特定が出来なくても預金口座の凍結を行うことができるようになり、その後の手続きも定められたため、被害金を取り戻せる可能性が大きくなりました。

それでも、被害金を全額取り戻せる保証はないですし、取り戻すまでには期間を要します。日頃からご自身や、周りの人たちが被害に遭わないように振り込め詐欺の手段や実体を把握し、注意しておくとともに、万が一被害にあってしまった時は、早急に対処をすることが必須です。

弁護士を通じて金融機関に情報提供を行うことも可能ですので、もし一人で対応することが難しいと感じた場合はすぐに専門家に相談をしてください。

2019.04.30

【離婚問題】「納得の離婚」のために知っておきたい【お金】【手続き】のこと

離婚とは人生が変わる瞬間です。やはり、今まで配偶者と精神的にも経済的にも支え合いながら生きてきた夫婦が離婚するとなると、精神的支えを失うだけではなく、特に専業主婦だった奥様は経済的支えを失うことになります。
だとすれば、今後の人生を豊かに過ごすためにも、お金のことや手続きのことは明確に理解しておかなくてはなりませんね。

離婚前、離婚後にもらえる可能性のあるお金はどんなもの?

離婚前、離婚後にもらえる可能性のあるお金にはどんなものがあるのか、説明します。

1.婚姻費用(離婚前)

夫婦には、お互いの生活レベルが同等になるように助け合う「生活保持義務」があります。
たとえ別居中であっても夫婦の婚姻が継続している限り、婚姻費用分担の義務は生じます。つまり、別居していても生活費を支払ってあげなければならないのです。
ただし、婚姻費用分担請求は請求した時から認められますので、「婚姻費用を払って欲しい」と主張しておかないと、後になって過去にもらえるはずだった婚姻費用を請求することは極めて困難ですので注意してください。

別居期間が長いと、その分、婚姻費用の支払いも続きます。また、夫婦で住んでいた住宅のローンが残っている場合には、住宅ローンの支払いも続きます。
離婚したいけれど相手が応じてくれず、ずるずると婚姻費用と住宅ローンを払い続けた挙句、自分の生活が苦しくなってしまう。婚姻費用を滞納してしまったために給与が差し押さえられてしまった、というのはよくあるケースです。

また、生活費を請求しても払ってもらえないという場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担調停」を申し立てると裁判所が出頭してきた夫婦の収入等を確認して婚姻費用を算出します。
そして支払うように話し合いが持たれます。そこで合意が取れないと調停不成立となりますが、調停不成立と同時に今度は審判の手続きに移行します。審判手続きでは、家庭裁判所が婚姻費用分担額を決めてくれるのです。

家庭裁判所の審判は確定した判決と同じ効力があるので、万が一、審判に従った婚姻費用が支払われない場合、給与や預貯金などの差押えもできます。

以上の通り、婚姻費用は「協議(話し合い)」「調停」「審判」の順番で手続きが進みます。
まずは、家庭裁判所が婚姻費用の相場表を開示していますので、ご自身の場合、婚姻費用がどの程度もらえそうか、検討してみましょう。ただ、必ずしもこの相場表に縛られる訳ではありませんので、ご注意ください。

2.慰謝料

浮気や暴力などの有責行為が原因で離婚する場合、婚姻生活中に味わった精神的苦痛に対して精神的な苦痛を被った方が慰謝料を請求することができます。

主に自分の側に離婚原因がある場合には、慰謝料を請求されてしまう可能性があるということです。相手側の浮気が原因で離婚に至るような場合には、浮気相手に対しても慰謝料を請求できます。

慰謝料の金額は「離婚に至った原因行為の内容」「結婚の期間の長さ」「相手の資力・収入」などの事情を総合的に考慮して決定されます。
離婚の原因に多い「性格の不一致」「価値観の相違」など、どちらかが一方的に悪いわけではない場合は、慰謝料の請求が認められないことが多いです。

3.財産分与

婚姻生活中に夫婦が協力して増やしてきた財産を、財産増加の貢献度に応じて分けることを言います。
一般的には婚姻期間が長くなり、年齢が上がっていくほど給料も上がるので貯金も増え、財産分与の対象となる財産が増えます。そのため、婚姻期間が長くなるほど高額の財産分与を受けられる傾向があります。

ただし、あくまでも貯まった財産を分ける手続きですので、使ってしまって溜まっていなければ、いくら夫が高額所得であっても財産分与の対象財産が有りません。財産分与でもらえる金額が少額となることはあり得ますので、ご注意ください。

4.養育費

養育費とは、未成年の子どもを成人させるまでに必要な経費のことです。(20歳までと決まりがあるわけではなく、子供の扶養が必要なくなるまでですので、大学を卒業する「22歳になった後の最初の3月まで」と決めるケースが一般的かと思います。)離婚する際に子供がいる場合、男性、女性に関わらず、子どもと一緒に生活していない側が支払います。

離婚するとき、「別れた元夫や元妻には一銭も支払いたくないが、子どものためなら払っていきたい」と思っている人は一般的に多いようです。

しかし、その後の人生で転職や再婚など、生活状況の変化が訪れ、結局養育費を支払われなくなる、というケースが多いのが実情です。

5.退職金

退職金は「賃金の後払い」としての性質もあるので、所得のなかから形成した預貯金等と同様に、財産分与の対象になります。しかし、定年まで勤務するか分かりませんし、本当に退職金がもらえるかどうかもわかりません。
退職金が財産分与の対象となるのは、退職が間近であったり、確実に退職金が受け取れる場合、または、相手が公務員の場合は認められやすいです。
ですので、まだ受け取っていない退職金については財産分与の対象になるかどうかケースバイケースですので、専門家による検討が必要でしょう。

6.年金分割

夫婦間の年金額を決められた割合により分割する制度です。分割の対象は厚生年金と旧共済年金部分だけで、国民年金部分は対象になりません。

分割された年金を受給できるのは、年金の受給資格を持つ年齢になってからです。
分割払いの慰謝料や養育費は元配偶者の経済力がなくなれば滞る可能性もありますが、年金分割の場合は国からの支払いになるので安心感はあります。

自分が納得して、第二の人生を踏み出せるように準備する

離婚を決意すると、「とにかく別れたい」と、慰謝料、養育費等の条件を決めずに離婚届を提出する方もいらっしゃいます。
離婚後に慰謝料、養育費等について話し合おうとしても、相手が話し合いに応じてくれない、連絡が取れなくなるということもあります。
そうなってしまうと、離婚に伴いもらえるはずのお金ももらえなくなってしまいます。また、離婚前に離婚後の条件を決めていても、決めた内容を書面に残していなければ、相手が養育費等の支払い義務を履行せずに争いになった場合、2人で決めた内容を証明するものがないため問題の解決に至る過程が複雑になることも多々あります。
その様なことを防ぐためにも、争いがない場合でも離婚協議書等で合意した内容を書面として残しておくことが大切です。

離婚の条件を取り決める書面としては主に「離婚協議書」、「離婚公正証書」のどちらかで作成することが一般的です。
どちらの書面も離婚の条件を記載することは同じですが、各々にメリット、デメリットがあるため以下で説明をします。

1.離婚協議書

離婚協議書のメリットとしては作成の容易さです。当事者双方で決めた条件を文章化し、お互いに署名、捺印することで作成出来ますので費用もかかりません。

デメリットとしては、離婚協議書に定めた内容を相手が守らなった場合に、直ぐに強制執行を行うことは出来ず、裁判を経て債務名義を取得した後に強制執行の手続きに移行するため時間がかかる点です。
また、裁判において離婚協議書で定められている内容の有効性等が争われることもあります。そのため、離婚協議書を作成するときは、離婚協議書の作成、内容の確認等を専門家に依頼することが理想です。

2.離婚公正証書

離婚公正証書のメリットとしては、法律の専門家である公証人が作成に携わるため記載内容が法令に違反する心配が無いこと、公正証書において定められた内容に債務不履行があるときに公正証書に強制執行認諾条項が定められていれば直ぐに差押え手続きに着手できることになります。

デメリットしては公正証書の作成に伴い公証役場の手数料が一定額発生すること、公正証書の内容について法的知識が無ければ公証人との調整が難しいことです。

前述した通り、離婚協議書等を作成しない離婚はリスクを伴います。それぞれのメリット、デメリットを理解したうえで、離婚届を提出する前に離婚協議書等の作成をお勧めします。

終わりに

離婚をするとなると、考えなければならないこと、解決しなければならない問題はたくさんあります。感情だけで離婚まで突き進んでしまい、のちのち後悔するようないように、そして新しい人生のスタートを清々しい気持ちで切れるようにしっかりと問題を解決していきましょう。

また、離婚という問題が持ち上がると、悩みごとも多くなり、どうしたらいいのかと思い悩む日々が続くかもしれません。一人で悩み続ける事はとても体力がいります。弁護士などの専門家でなくても結構です。あなたの信用できる「誰か」に相談するだけでも心は楽になると思います。
一人で悩まないでくださいね。このブログが今、離婚で悩まれている誰かの道標に少しでもなっていただけたら幸いです。

2019.04.30

【離婚問題】親権~親権者はどうやって決める?~

離婚するにあたり子どもがいる場合、子どもの親権はどちらが持つかということで対立するケースは非常に多く見られます。
親権の問題は、慰謝料や養育費、財産分与などのお金の問題とは根本的に異なり、お金に代えられない子供との繋がりの問題ですので、紛争が激化しやすいものです。
そこで、今回は、父母の協議で親権者が決まらなかった場合に裁判所はどういう基準で親権者を指定するのかという点を中心にご説明します。

1 親権とは

親権とは、未成年の子どもに対する、父母の養育者としての立場における権利義務の総称です。その効力は、子どもの身上に関する権利義務、子どもの財産についての権利義務の双方に及びます。あくまで未成熟な子どもを監督する権利義務ですので、子どもが成人すると親権はなくなります。

さて、親権は、父母の婚姻中は父母が共同して行います(民法818条1項)が、父母が離婚する際には、必ず父母の一方を親権者と定めます(民法819条1項)。離婚の合意ができても、親権者の指定について協議が調わないときは、離婚届を提出しても受理されません。

裁判離婚の場合は、判決で裁判所が父母の一方を親権者と定めるか(民法819条2項)、裁判上の和解において父母の一方を親権者と定めます。
離婚の際に親権者となった者がその後再婚しても、親権者であることには変わりません。

父母の離婚後、親権者に指定されなかった親は、親権者としての権限を全く持たないことになります。つまり、子の進学など重要な局面においても、法的には発言権を持ちません。
したがって、子どもの親権者となることは重要な意味を有します。そのため、離婚協議の際には、やはり親権に関する争いがなかなか絶えません。

ただ、必ずしも子どもとの関わり合いとは親権に限定される訳ではありませんので、親権だけにこだわるのではなく、子どもの幸せを最優先に考えるようにしましょう。

2 親権者指定の基準

では、裁判所は、どのような基準で親権者を指定するのでしょうか。これは、子の利益に合致することに尽きます(民法766条1項)。

子の利益に合致するか否かを判断するにあたっては、父母側の事情(監護に関する意欲と能力、健康状態、精神的・経済的家庭環境、居住・教育環境、子に対する愛情の程度、従来の監護状況、実家の資産、親族・友人の援助の可能性など)や、子の側の事情(年齢、性別、心身の発育状況、従来の環境への適応状況、環境の変化への適応性、子の意向など)を比較考量しながら決定されています。特に重視される事情には以下のものがあります。

① 現状の尊重(継続性)

変更すべき特段の事情がない限り、現に子の監護を行っている親権者が引き続き監護すべきであるという考え方です。実務では、この基準が優先されているように思われます。すなわち、子の虐待などが認められるケースを除けば、現状を尊重することが基本原則とされ、そのうえで、現状を覆すべき特段の事情があるか否かを審理するのが一般的です。

② 母親の優先

乳幼児については、特別の事情がない限り、母親が優先されるべきであるという考え方です。母親が現に乳幼児を監護しているケースでは、①②をともに満たすため、よほどの事情がない限り母親が親権者に指定されます。

③ 子どもの意思の尊重

子どもが15歳以上であるときのみならず(家事事件手続法152条2項・169条2項)、15歳未満であっても、できるだけ子どもの意思は尊重されるべきであるという考え方です。
実務では、おおむね10歳以上の子の意思が尊重される傾向にあると言われています。ただ、子どもは現在育ててもらっている親に嫌われないよう気を遣った発言をする傾向があるため、子どもの発言を鵜呑みにすることはできません。
子どもの意思を確認する際には、発言の字面だけでなく、その発言が真意に基づくものか否かを態度や行動等を総合的に見ながら判断しています。

④ 兄弟姉妹の不分離

兄弟姉妹は可能な限り同一人によって監護されるべきであるという考え方です。もっとも、子の年齢が上がるにつれて、兄弟姉妹の不分離の基準は重視されない傾向にあります。
裁判例でも、複数の未成年の子はできるだけ共通の親権に服せしめる方が望ましいが、ある程度の年齢に達すれば、その望ましさは必ずしも大きいものではないとし、15歳の長女の親権者を父、12歳の長男の親権者を母に指定したものがあります(東京高判昭和63年4月25日)。

離婚原因となった事情、たとえば不貞行為や暴力行為などが親権者指定において考慮されるかという問題があります。

不貞行為は倫理的に非難されるものの、直ちに親権者として不適格であるとは言えないと解されています。
暴力行為については、子の目の前で配偶者に暴力をふるうなどの事実があれば、子の健全な育成に悪影響を与える可能性が大きいので、親権者としての不適格性につながる可能性があります。

3 監護権とは

親権とは別に、子どもを現実に養育する権限という概念もあり、これを「監護権」といいます。離婚の際に親権者に指定されなかった親を監護権者と定めることもでき(民法766条1項・2項)、その場合は親権と監護権が別々の者に帰属することになります。
世の中には、親権はなくても、子どもと日々の生活を共にできれば十分だと考える親もいるでしょう。
実務では、親権者の指定について双方が対立しており、離婚がなかなか成立しない場合に、窮余の一策として、親権者と監護権者を分けて、妥協点を見出すことがあります。

しかし、親権者と監護権者を分けた場合、進学などの手続や各種申請などの際に親権者の協力が必要となるため、監護権者はその都度親権者に連絡を取り、親権者の署名・押印をもらわなければならず不便です。
しかも、けんか別れした間柄ですから、親権者の協力が得られるとも限りません。
このことが原因となって、元夫婦が紛争を再燃させ、子どもがその対立に巻き込まれる恐れもあります。
したがって、親権と監護権を別々の者に帰属させることは、あまりお勧めできません。離婚の実務でも、親権者と監護権者を分けることはめったに行われません。

4 親権者の変更

未成年の子どもについては、父母が離婚する際に一方の親が親権者に指定されていますが、その後の事情の変化により、他方の親が親権者となる方が良い場合があります。
そのため、「子の利益のため必要がある」ときは、親権者を変更することができます(民法819条6項)。

親権者の指定は当事者間の協議ですることができますが、親権者の変更は、必ず家庭裁判所の調停または審判を経なければなりません。
そして、子どもが15歳以上のときは、審判前に必ず子どもの陳述を聴かなければなりません(家事事件手続法169条2項)。

しかし、子どもが親権者から虐待を受けている場合のように、子どもを保護すべき緊急の必要性があるケースもあります。
このような場合には、審判前の保全処分を申し立てて、審判の結論が出る前に緊急の措置として、子どもの引渡しを求めることもできます(家事事件手続法175条1項)。

親権者の変更の基準は、親権者の指定の基準とは異なります。これは、親権者による監護の実績があるためです。
そのため、親権者の変更においては、父母双方の事情の相対的な比較考量のみならず、父母の一方による実際の監護の実績を踏まえて、変更すべき事情の有無を検討します。

ただし、親権者を変更するということは、子どもの現在の生活環境を変更するわけですから、変更する必要性が相当程度高くないと変更は認められません。

また、離婚によって子どもの単独親権者となった父または母が再婚し、再婚相手が子どもと養子縁組をしたために、子どもが実親と養親の共同親権に服している場合には、他方の実親は親権者変更の申立てができないとされており、注意が必要です。

5 まとめ

離婚の合意はしていても、親権者の指定についての協議が調わないことが原因となって、協議離婚が成立しないケースが多く見られます。
逆に、中には早急に離婚を成立させたいあまり、とりあえず親権については譲り、離婚した後に親権者を自身に変更すれば良いと考える方もおられるかもしれません。

しかし、将来親権者を変更することは決して容易ではありません。離婚の際には不本意に親権を譲ってしまわないよう、慎重に検討する必要があります。

そして何よりも、自分の子どもに対する愛情も踏まえた上で、子どもにとって最も幸せな人生を送れる選択肢を選ぶように心掛けましょう。

2019.04.30

法の観点からみるネットビジネスに不可欠なWEBサイト作りとは?

ネットビジネスを始めるのであれば、必須なのが「WEBサイト作り」です。
ネットの世界では、日々ビジネスの種類に合わせて様々なタイプのWEBサイトが開設され、運用されています。

しかしながら、いざ始めようと思っても考えなければならない部分は非常に多くあります。
どこにWEBサイト制作を依頼するのか?自作するのか?WEBサイト名やドメイン取得はどうする?など…
今回は、法の観点から見るWEBサイトを作るにあたっての注意点や押さえておきたいポイントをご説明します。

1.自分が思い描いたネットビジネス用のWEBサイトを作るには

(1)外注制作会社を探す

まずWEBサイトを作るにあたって、専門的な分野であるネットワークの知識やプログラム言語などを習得した方でないと、本格的なWEBサイトやショッピングシステムを構築することは難しいものです。
そのような場合、多くはWEBサイト制作会社に外注することになりますが、見積を依頼する時点で、「自分が思い描いているサイトをしっかり作ってくれるか」という部分に重きをおいて外注会社を探しましょう。

外注を検討している制作会社には、どんなサイトにしたいか、各ページはどのような構成にするのか、訪問者はどのような流れで購入するのか、いつまでにサイトをオープンしたいのか、など希望をしっかり伝えましょう。

依頼することになったら、必ず契約書として上記の内容を書面に残すことがポイントです。

(2)なぜ契約書が必要なの?口約束でも契約は有効では?

できあがったWEBサイトの納品後、希望を伝えたのに思っていたサイトと違っていた場合、「そんなことは聞いていない」「言われた通りに制作した」という制作会社とのトラブルは避けたいものです。やはりイメージを伝えているだけなので、なかなか思い通りに出来上がらないのが一般的で、トラブルが後を絶ちません。
書面に残すことで証拠となり、納品後の修正や改善要求等に受注側の責任として応じてもらうことができます。

納期や金額についても明確に契約書に記載すると、WEBサイト制作に起こりやすい納期遅延の対策となります。
実際に遅延となった場合は、法律上、契約書に明記されていなくとも損害賠償請求をすることができますが、契約書の記載内容によっては損害賠償の額が少なくなってしまうこともあります。
制作会社から提示された契約書の内容に不安がある方は、弁護士などにリーガルチェックを依頼するとよいでしょう。

2.WEBサイトの名前、サービス名とドメインの決定は慎重に

(1)商標を侵害していないか検索

実店舗を構える際にも同様のことが言えますが、サービス名(商品名)、ロゴマークなどを決める際は、すでに世に出ているものの商標権を侵害していないかを確認する必要があります。

先に商標登録されたサービス名や商品名、ロゴマークに類似したものは使用できません。
独立行政法人 工業所有権情報・研修館が運営している「J-PlatPat」では、商標登録されているサービス名などの検索ができるので、ここで調べてみるのも方法の一つです。

J-PlatPat特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage

しかしながら、類似サービス名や類似ロゴの検索はできても、商標権侵害にあたるかどうかの明確な基準までは、上記サイトではわかりません。
サイト開設後、スムーズに運用を進めたいのであれば、弁理士などに商標権侵害の調査とサービス名やロゴなどの商標登録を依頼してみるといいかもしれません。
商標登録まで行ってしまえば、今度は他人からのサービス名やロゴの侵害を防ぐことができ、安心してビジネスに取り組むことができるでしょう。

(2)ドメインはオリジナル性のあるものに

さらに、WEBサイト特有なものとして「ドメイン」があります。
これはネット上の住所といわれるものですが、独自ドメインといって、先に取得されていなければ自由に好きな文字列で取得することができます。
例えば、この「那珂川オフィス」サイトでいうと「nakagawa-lawoffice.jp/」の部分です。
このドメインを、「大手企業と同じ名前で最後の部分だけちょっと違う」ものにしてしまったらどうなるでしょうか。

これは、消費者(訪問者)にその関連企業であるかのように勘違いされ、混同をまねく行為として不正競争防止法の違反に当たる可能性があり、損害賠償請求や信用回復措置請求の対象になりかねません。

法律の観点から他人の真似をしないことはもちろん重要ですが、個人的な意見としては、オリジナリティのあるドメイン名を取得することで自身のサイトに愛着が湧き、サイトをより良くしていこう、という気持ちにつながるのではないかと思います。

3.WEBサイトが完成。更新を自分で行う時に気を付けたいポイント

(1)ブログページも開設!でもその画像、大丈夫…?

例えば、WEBサイトを開設し落ち着いてきた頃、商品についてのPRをブログで行うこととなったとします。
ネットを閲覧中に、たまたま同じ商品の写真を掲載していた他のサイトを見つけたので、無断でコピーし、あたかも自分が撮影したかのようにサイトへ掲載しました。

すでにご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、このような場合、著作権侵害にあたり、掲載元から損害賠償請求をされることもあります。

たとえありふれた街の風景の写真や小さなアイコンでも、他人が撮影・制作したものに対して、無断で使用することは許されません。有名人や著名人の写真ももちろん無断使用は違反です。
商品の写真撮影は自身で行うか、カメラマンに依頼しましょう。最近では、自身で撮影した写真を切り抜いたり加工してくれるWEBサービスなどもあります。

(2)過大表示や紛らわしい表現に気をつける

テレビCMや広告チラシなどでも問題となっていますが、実際の商品より良く見せる「有利誤認表示」はWEB上でも起こります。
「通常価格〇〇円のところ、今なら特別に●●円!」という表記をよく見かけますが、実際にはこの通常価格で一度も販売したことはなく、特別価格での販売が常態化していた場合、
景品表示法違反となるおそれがあります。

その他にも、アプリゲームなどでは途中から有料になるのにも関わらず「完全無料で遊べる」と表記したり、「必ず痩せるナンバーワンサプリ」などという医学的にも根拠がない文言を掲載することも景品表示法(または薬事法・薬機法違反)になります。

4.まとめ

今回はネットビジネスを始めるにあたって必要なWEBサイトについてご説明しました。
起こり得る多様なトラブルに先回りし、予防策を講じることで息の長いWEBサイトとなり、ビジネスも加速していくことでしょう。

制作会社との契約や著作権についてはビジネスに関わらず、趣味のサイトや、サークル活動でのコミュニティサイトなどを制作する際にも気をつけたい部分ではないでしょうか。
そのような方々もぜひ参考にしていただければと思います。

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