弁護士コラム

2019.06.19

【離婚問題】面会交流~面会交流をさせたくないときは?~

離婚後も親子の交流を維持することは、子供の健全な成長にとって大変重要です。そのため、離婚した父母の協議により、月1回、2か月に1回等、子供との面会交流が行われています。
しかし、中には離婚した元配偶者に子供を会わせたくないという方も多くいらっしゃいます。今回は、様々なケースを想定して、調停や審判を行った際に、それぞれ面会交流をさせないという方法を取り得るかご説明していきます。

1 面会交流を禁止・制限できる例

(1) 非監護親が子供を虐待していたケース

子供を現実に養育する親のことを「監護親」、養育しない親のことを「非監護親」といいます。

子供が過去に非監護親から虐待を受けており、非監護親に恐怖心を抱いているような場合や、面会交流を行った際に非監護親が虐待を加えるおそれがある場合には、面会交流を実施することが子の利益を害するため、面会交流を禁止・制限すべき理由があるとされています。

ただ、監護親からこの種の主張がなされる場合、非監護親は虐待の事実そのものや程度、子供が恐怖心を抱いていることについて争うことが多く、事実認定が困難となる傾向が見られます。調停では、診断書や怪我をした写真、警察や医師に相談した記録等の提出を求められることが多いので、証拠をきちんと確保しておきましょう。

(2) 非監護親が過去に子供を連れ去ったことがあるケース

子供を現在の生活環境から強引に離して連れ去ることは、養育環境の安定を害することになり、子供に精神的打撃を与える可能性が高いと言われています。そのため、非監護親が過去に子供を連れ去ったことがある場合には面会交流を禁止・制限すべき理由があるとされています。

もっとも、過去に連れ去りの事実があっても、非監護親が真摯に反省し、二度と子供を連れ去らないという確約をしているような場合は、面会交流が認められる可能性があります。その場合でも、決して子供を連れ去ることがないように、弁護士等の第三者の立会いや、面会の場所を制限する等して連れ去り防止策を講じることが重要です。

(3) 非監護親が監護親にDVをしていたケース

監護親が非監護親によるDVの被害者で、非監護親に対する恐怖心やPTSDのため、非監護親との接触に耐えられない場合には、面会交流の実現が現実的に困難なことがあります。特に子供が年少者だと、監護親の協力なしに面会交流を実施できないこともあり、面会交流を禁止・制限せざるを得ない場合も考えられます。

ただ、非監護親から監護親へDVがあっても、子供に対しての暴力は一切なく、子供が非監護親を慕っているという場合もあります。面会交流を禁止・制限すべきかどうかはあくまでも子供の利益の観点から判断されるべきものなので、監護親についての事情をもって当然に面会交流を禁止・制限されるわけではありません。監護親と非監護親の接触を回避することによって面会を実現することが可能になることもあるので、家族の協力や第三者機関の利用も考えられます。

(4) 監護親が非監護親を嫌悪しているケース

実務上、面会交流をさせたくない要因として一番多いのが、監護親が非監護親に対する感情的反発等から面会交流を拒絶するケースです。しかし、面会交流は子供の利益の観点から実施の当否等を検討すべきものなので、監護親の非監護親に対する拒絶を理由に面会交流の禁止・制限が認められることはあまりありません。

場合によっては、非監護親との紛争によって監護親に抑うつ状態が現れ、育児放棄に至る等、子供の利益を害する事態が懸念されることもあります。その際は当分の間直接的な面会交流を見合わせるなどの措置がとられることもあります。間接的な面会交流として、手紙のやりとりをしたり、写真や動画を送付するといった方法もあります。

(5) 子供が面会交流を拒んでいるケース

監護親から、「子供が非監護親に会いたくないと言っている」と主張されるケースも多く見られます。例えば子供が非監護親の監護親へのDVを目撃して恐怖心を抱いており、非監護親に会いたくないという場合には、面会交流を禁止・制限することも考えられます。
しかし、子供が非監護親に会いたくないと言っていることが事実でも、監護親が非監護親を嫌悪している影響から、子供が非監護親に対して拒否的感情を抱いている場合があります。
また、本当は子供が非監護親に会いたくても、同居している監護親に対する遠慮から、面会交流をしたくないと言っている場合もあります。もしくは、監護親と非監護親が面会交流をめぐって対立することを嫌い、面会交流に否定的になることもあります。

いずれにせよ、子供の真意を把握するには慎重な検討を要するところであり、調査官による子供の意向、心情や監護状況等の調査を行った上で、子供の意思を把握する必要があります。

(6) 監護親が再婚し、子供が再婚相手と養子縁組しているケース

子供が監護親の再婚相手と養子縁組をしても、非監護親が子供の実親であることに変わりはないため、子供が非監護親からの愛情を実感する機会としての面会交流の重要性は変わりません。したがって、再婚し、養子縁組をしているという理由のみで面会交流を制限したいというのは難しいです。

2 面会交流を拒否するリスク

もし面会交流の取決めが調停等でなされた場合、それを拒否すると非監護親は強制的に面会交流を実現できる立場にあるため特に大きな問題となります。ただし、この「強制的」というのは、無理やり子供を連れて行くことができるという意味ではなく、間接強制のことを意味しています。間接強制とは、義務を履行しない者に対して、「義務を履行せよ。もし履行しないときは、1回の不履行につき10万円を支払え。」という命令を家庭裁判所が出す制度です。

義務を履行しないとお金を支払わなければならないので、心理的なプレッシャーを受け、義務を履行するようになることを意図しています。
したがって、面会交流が決まっているのに子供を会わせないという方法はお勧めしません。 

3 まとめ

今回は、面会交流をさせたくない場合に、どのような理由であれば面会交流の禁止・制限が調停・審判において認められるのかご説明しました。面会交流をさせたくない理由として様々なものがありますが、面会交流が子供に悪影響を及ぼさない限り、非監護親と子供の交流維持にできるだけ協力しましょう。

また、子供によっては、面会交流自体は楽しみでもその前後の監護親の態度に心を痛めストレスを感じる場合があります。子供が面会交流を行う際は笑顔で送り出し、非監護親とどのような話をしたのか詮索したり、日頃から非監護親の悪口を言うことは避け、子供が楽しく過ごせるように心がけましょう。

2019.06.14

【離婚問題】離婚と子供の問題―養育費について―

離婚をすることになった夫婦の間に未成年の子供がいる場合、子供に関する問題を解決しなければなりません。
親権者の決定、養育費の金額や支払い方法、子供の戸籍と姓、面会交流については離婚前によく考えて決めておくことが大切です。今回は子供の養育費について詳しく説明します。

1.養育費について

養育費とは、子供が生活するために必要な費用のことです。衣食住の費用のほかにも教育費、医療費に加え、娯楽費用(お小遣いなどの適度な金額)も含まれます。父母の収入によりますが、一般的には子供を引き取り育てている親に、引き取らなかった親が養育費を支払うケースが多くなります。

例え離婚して親権を有しない親であっても、未成年の子供を扶養する義務があり、子供には扶養を受ける権利があるためです。ですので、養育費は子供から親に請求することもできます。

養育費を支払うべき対象となる子供の年齢については、父母の話し合いで決める事ができます。家庭裁判所の調停や審判の場合は、「子供が成人するまで」とすることが一般的ですが、「高校を卒業するまで」「大学を卒業するまで」とすることももちろん可能です。

2.養育費の金額について

養育費の金額は法律で定められているものではありません。父母の収入や財産、生活レベルなどに応じて話し合いで決められます。離婚後も、親には子供に親と同レベルの生活をさせる義務があると考えられているため、生活に最低限必要な金額を支払えばいいという訳ではありません。

なお、裁判所を利用し養育費を取り決める場合には、「養育費算定表」が参考資料として広く活用されています。養育費算定表とは、夫婦の収入、子供の年齢、人数などから養育費の目安となる金額を示すものです。協議離婚、調停離婚など当事者の話し合いで養育費を決める場合、最終的な養育費は算定表の額を参考にその他の状況を考慮に入れて定められます。

以上のような方法で養育費は決められますが、養育費の支払いは長期にわたるため、将来的に様々な事情により取り決めた養育費の支払いが難しくなるケースがあります。その様な場合は、当初の取り決めた養育費の金額を変更することも可能です。

養育費の変更については、双方の話し合いによって決めることも可能ですし、話し合いがつかない場合は、家庭裁判所に養育費の変更を目的とした「養育費請求」の調停を申し立てることになります。ただし、当初取り決めた養育費の金額を変更するためには正当な理由が必要です。

《養育費を増額する場合の正当な理由の例》
■子供の進学や授業料の値上げによって教育費が増加した
■子供の病気やケガで多額の医療費がかかる
■監護者の病気やケガで収入が低下した
■リストラや会社の倒産などで、監護者の収入が低下した 等

《養育費を減額する場合の正当な理由の例》
■リストラや会社の倒産などで、支払う側の収入が低下した
■監護者が再婚や就職などで、経済的に安定した 等

3.養育費について決めたなら…

養育費の支払いは長期間に及ぶため,養育費の支払い義務を負う親の経済状況や生活環境の変化で、養育費が途中から支払われないというトラブルも多くあります。そのため、離婚時に養育費の内容が取り決められた場合、口約束だけでなく文書化することをお勧めします。後に養育費について「約束した」「していない」の水掛け論になることを避けるためです。

文書には、①支払いの期間(例:子供が満○歳になる月まで)②金額(例:子供一人につき●円)③支払い方法(例:毎月●日までに●●の口座に振り込む)を必ず明記しましょう。また文書については公正証書で作成することが望ましいです。当事者間で作成した念書、合意書等の文書では、記載内容に不備があり後々文書の有効性を争われることもあります。

また、養育費の未払いが発生して、相手の給与等の財産を差し押さえるにしても、公正証書が無ければ、例えば、訴訟を提起したり、養育費調停を申し立てる等して、債務名義を取得してからでなければ強制執行の手続きに移行できません(公正証書以外の債務名義の取得については、4.で具体的に説明致します)。

その点、公正証書は公証役場で公証人の助言を受けながら作成できるため、法的に不備の無い内容での作成が可能となります。また、公正証書には強制執行認諾文言が付いていることが一般的であり、強制執行認諾文言がある場合、養育費の未払いがあった場合に訴訟の提起等を挟まずに、強制執行の手続きが可能となります。

4.養育費の支払いが滞ったときの対応

養育費の未払いが発生した場合には、手紙や電話などで支払いの催促を行います。それでも支払われない場合は、養育費をどの様な方法で定めたかによってその後の方針が変わってきます。

協議離婚で離婚協議書は作ったものの、協議書を公正証書にしていない場合は、強制執行をすることができません。なので、まず、相手方の所在地を管轄する家庭裁判所に「養育費請求」の調停の申立てをします。調停でも解決しない場合は審判に移行します。調停や審判で解決すると、「調停調書」「審判書」が作成されます。その後も支払いがない場合には、この「調停調書」「審判書」を債務名義として、「強制執行」ができるようになります。

ここで、強制執行は相手方(債務者)の預貯金や不動産、給与、退職金、賞与といった財産の差押を行い、支払いを受ける権利のある人(債権者)がそこから取り立てることができる制度です。給与の差押えの範囲は、一般の債務では給与の4分の1までですが、子供の養育費や婚姻費用などについては給与の2分の1まで差押えることが可能となります。

強制執行は調停離婚、審判離婚、判決(裁判)離婚、和解離婚のほか、協議離婚の場合でも養育費の支払いについて執行文認諾文言付公正証書を作成していれば申し立てができます。ただし、差し押さえるべき相手方の財産を把握できていなければ強制執行をすることはできません。強制執行を申し立てる場合には、差し押さえるべき財産を調査する必要があります。

また、調停離婚、審判離婚、判決(裁判)離婚、和解離婚で養育費の支払いについて取り決めがある場合は、家庭裁判所の「履行勧告」「履行命令」制度を利用しましょう。履行勧告を裁判所に申し立てると、裁判所が支払い状況を調査し、相手方に支払うように説得、勧告します。申出に費用はかかりません。

ただし、法的な強制力はありません。相手方が勧告を受けても支払わない場合は、裁判所が期限を決めて支払いを命じることができます。これが「履行命令」です。法的な拘束力はありませんが、相手方が支払わない場合は10万円以下の過料が課せられます。

5.おわりに

養育費の支払い期間は長いものだと20年以上になるものもあります。この20年の間に養育費を支払ってもらう権利がある側も、養育費を支払う義務がある側も様々な変化が生じると思われます。養育費について取り決めたときには予想していなかった状況の変化が生じることもあるでしょう。

その時は、冷静になって適切な対処をとることが大切です。養育費の算定、未払養育費の請求について当事者で全ての決定をすることも可能ですが、子供にとって最も良い選択をするために一度専門家に相談することをお勧めします。

2019.06.12

ハンコの種類と特徴

会社や家、銀行など様々な場面で使う機会のあるハンコ。どんな種類があるのか、特徴は何なのか、知っていますか?

まず、ハンコとは何でしょうか。よく、「ハンコお願いします。」「ハンコ押してください。」と言ったり言われたりすることがありますよね。このハンコとは、あの小さな物体のことなのか、それとも紙についたインクのことなのか、どちらのことを指しているのでしょうか?

1.「ハンコ」とは?

実は、私たちがよく言う「ハンコ」とは、物体のことで、「印章」と呼ばれるものになります。紙についたインクの方は「印影」と呼ばれています。分かりやすく言うと、「ここにハンコお願いします。」のハンコは、「印影」、「ハンコ買わないと。」のハンコは「印章」のことなのです。
ちなみにハンコと同じくらいよく使う言葉である「印鑑」とは、市区町村に印鑑登録を行った「印章」のことを指し申請をすれば証明書がもらえます。「実印」とも言います。

このように、ハンコひとつでも、「印章」「印影」「印鑑」などいくつかに分けることができるのです。

2.「ハンコ」のもつ力

普段の生活の色々な場面でハンコを使いますが、なぜ書類や契約書など手続きを行うのにハンコが必要なのでしょうか?
日本は「ハンコ文化」と言われるほど、何かとハンコが必要とされます。銀行に行って手続きをしようと思ったら、「登録されているハンコと違うので手続きができません。」と言われたり、後日これだ!と思って違うハンコを持って行ったのに、また違うハンコだと言われ、どのハンコが正解なのか分からなくなってしまった経験が1度はあると思います。

免許証や保険証で本人確認をせず、登録されているハンコで手続きできるかどうかが決まるほど、日本ではハンコのもつ力が大きいのです。

例えば3,000万円の借用書があり、そこに自分の印影があったとします。そして、借用書の印影が、自分の印章によって顕出されたものであるときは、事実上その印影は自分の意志に基づいて顕出されたものとだと推定されます。その結果、自分が3,000万円という大金を借りたことが推定されてしまうのです。
例え自分がハンコを押したのではなく、誰かが勝手に押していたとしても、です。

では、ハンコにはどれくらいの種類があるのでしょうか?3では、ハンコの種類と、それぞれの特徴についてみていきたいと思います。

3.「ハンコ」の種類と特徴

ハンコにはどんな種類、特徴があるのでしょうか。
初めに、個人が使うハンコについてです。主に、実印、銀行印、認印、そしてシャチハタがあります。

実印:
市区町村に登録を行い、申請をすれば証明書がもらえるもの。
登録するには本人確認が必要で、証明書を出してもらうにも、身分証明書による本人確認が行われる。

銀行印:
銀行や信用金庫などの金融機関に印影を届け出ているもの。
預金を払い戻してもらう際に、お金を受け取る人が本人かどうかを確認するために必要。

認印:
印鑑登録をしていないハンコ全般のこと。
書類に確認や承認の証明としてよく使われる。

シャチハタ:
使う度に朱肉をつかって捺印するのではなく、印章自体にインクが入っている「浸透印」のこと。認印に含まれる。
シャチハタとよばれているが、シャチハタとは製造しているメーカーのことで、重要な書類や公的な場面などでは使うことができない。

上記のように、個人が主に使う印鑑だけでも4種類存在します。

では次に、会社が使うハンコについてお話します。種類として、代表者印、社印、割印等があります。

代表者印:
会社の実印のことで、会社を設立する際に法務局に登録したもの。
印鑑証明は法務局で発行することができ、丸印と呼ばれることもある。
「株式会社〇〇 代表取締役印」と彫られていることが多い。

社印:
会社の認印のこと。会社の認印として、主には注文書や請求書などの社外文書の他、稟議書などの社内文書に用いる。角印と呼ばれることもある。
「株式会社〇〇之印」と彫られていることが多い。

割印:
複数ある書類にまたがって押すハンコのこと。
書類が2部になる場合などに、同一、関連書類であることを証明するために押す。割印を押しておくことで、「契約書」を作成したあとに、内容を改ざんされるリスクを回避することができる。
「株式会社〇〇之印」と彫られていることが多いが、形は押しやすいように、縦長になっている。

以上が、会社でよく使われるハンコになります。
ハンコによって、持つ効力や役割も異なりますので、それらについては、次回お話ししたいと思います。

4.まとめ

今回は、ハンコとは何なのか、種類や特徴にはどんなものがあるのかについてお話ししました。
普段よく使うハンコですが、種類や呼び方など意外と知らないことばかりですし、この契約書だからこのハンコを押す、これは認印でも大丈夫なものだから社印を押す、などといった覚え方をしている方も少なくないと思います。

きちんと、それぞれのハンコについて知っておけば役に立つ場面がたくさんあると思いますので、この記事を読んで今後の生活に生かしていってください。

2019.06.07

【離婚問題】離婚と子供の問題ー親権についてー

未成年の子供がいる夫婦の離婚では、親権、養育費、子供の姓、面会交流等の様々な内容について決めなければなりません。

今回は親権に関わる部分に特化して説明したいと思います。

1.親権者の権利

未成年の子供がいる夫婦の離婚では必ず親権者を決めなければなりません。親権の取得を簡単に説明すると、子供を引き取り育てていく権利という理解が一般的ではないかと思います。では、実際には親権の取得により具体的にどの様な権利が発生するのでしょうか?代表的な権利として2つの例を挙げます。

① 身上監護権
子供の衣食住にかかる日常の世話、教育やしつけをする権利・義務。

②財産管理権
子供の財産を管理し、契約等の財産管理に関する法律行為を代理で行う権利・義務。

以上2つの権利は、子供を育て教育すると同時に、金銭管理と未成年の期間における契約行為を代理で行うという権利です。両方の権利とも子供を育てるにあたり必ず必要な権利になります。
また、親権のうち、①身上監護権には次のような内容も含まれています。

㋐子供の住む場所を指定する権利
㋑子供が悪いことをしたときに注意し罰を与える権利
㋒子供が仕事をするときに判断し許可を与える権利

以上、親権に含まれる代表的な権利を紹介しました。このように、親権と一括りになっているものの、本来は細かい権利を複合して親権という言葉が成り立っています。

2.親権者の決定

離婚では親権の取得が最大の争点となり、離婚に際し取り決めるべき事項のうち、その他の問題点については全て合意していても親権の問題がネックとなり、離婚手続が長期化、複雑化するケースは少なくありません。
離婚手続には、協議離婚や調停離婚等、段階に応じて各手続が用意されていますが、親権の問題が各離婚手続へどの様に影響するのかを簡単に説明します。なお、各手続の詳細は別記事で改めて説明していますので、そちらをご参照ください。

① 協議離婚
協議離婚では、当事者が離婚届を市町村役場へ提出し、役所から受理された場合に離婚が成立します。提出する離婚届の必要記載事項には、親権者の欄があり、夫婦のうちどちらが親権者になるかを明記する必要があります。
もし、親権者の欄が空欄であれば離婚届は受理して貰えないため離婚自体が成立しないことになります。夫婦間で話し合って親権者を決定出来ない場合には、協議離婚での解決はできないため、離婚手続は離婚調停へと進んでいきます。

② 離婚調停
調停離婚は、家庭裁判所を利用し、調停委員という第三者を介して離婚の内容や条件を話し合う手続となります。真っ向から親権が争われる場合は、家庭裁判所の調査官が選任され、夫婦のどちらが親権者として適切かの調査が行われ、調査結果を基に協議を行う場合も多いです。
ここで親権者について合意することが出来れば問題無いのですが、あくまでも話し合いであり、裁判所が親権者を指定することはできないため、お互いに主張が対立した場合は不成立となり審判、若しくは訴訟に移行します。

③ 審判
審判離婚は、離婚やその条件の大筋については当事者間で合意がまとまっているものの、合理的な理由によらずに細かい点について合意がまとまらない場合に、裁判官の決定で離婚、親権を含めたその他の諸条件を決定することが出来る手続きです。親権で互いの主張が真っ向から対立している場合に裁判所が審判を出すケースはほとんどないと思われます。
また、審判の通知を受け取ったとしても異議申し立てにより審判の効力を失わせることが可能なため審判で離婚が決定するケースは離婚手続全体の割合から見ても少ないです。審判の効力が失われると、次は離婚訴訟となります。

④ 離婚訴訟
調停の不成立、審判の取り消しから移行するのが離婚訴訟です。訴訟では実際に裁判期日が開かれ、裁判官が離婚の成立を認める判決を出した場合には親権者等の諸条件も合わせて決定されます。

 

以上、①から④で分かるように離婚手続きにおいて親権者を話し合いで決定できるのは②の離婚調停の段階までで、審判、訴訟となると裁判官が決定権を持つことになります。
家庭裁判所が親権者を指定するときの傾向として、子供が乳幼児の場合は母親が優先されています。母親に育児放棄、虐待等で子供を養育出来ないことが明らかな場合などの特別な事情が認められる場合は、父親が親権者に指定されるケースもあります。

そして、家庭裁判所は子供の現在の生活環境を維持することを優先的に考えられています。裁判所を利用して離婚手続を進めている夫婦は別居しており、子供は夫婦どちらかが監護していることが一般的です。その様な状態で、裁判官が現在監護していない親を親権者として指定した場合には、子供にとっては家、同居人などの生活環境全般、保育園や小学校などに通っている場合は周辺との関係性も含め大きく変わることになるため、子供への負担を強いることになってしまうためです。

では、仮に子供が2人以上いるケースでは、親権者はどの様に指定されるのでしょうか?子供が2人居る場合には、子供1人1人につき親権者が定められます。そして、兄弟姉妹は同一の親権者が指定されることが一般的です。

また、子供が満15歳以上であれば、裁判所は親権者の指定について子供の意思を確認することが義務付けられています。仮に15歳未満であった場合でも発達状況により子供の意思が親権者の指定に大きな影響を与えることは多々あります。

もし、子供を妊娠している間に離婚することになってしまった場合はどうなるのでしょうか?その時点では子供生まれていないため、親権者という立場も存在しません。そして、この様な場合では原則として生まれた時点で母親が親権者となります。もしろん、生まれた後に親権者を父親に変更する手続きも可能となります。

稀なケースとしては、親権から身上監護権(子供の世話や教育に関する権利、義務)を分けて親権者と監護者(監護権者)に分ける事で解決をはかることもあります。このケースでは、監護者が子供を引き取り日常的な世話や教育を行っていくことになりますが、あくまでももう一方の親が親権者として親権の内、他の権利を有することとなります。

3.離婚後の親権者の変更について

離婚時に定めた親権者を後日変更することは可能です。しかし、元夫婦間の話し合いだけで全てを決定できるわけではありません。もし、話し合いで簡単に親権者を変更出来てしまうと、その都度子供の生活環境が大きく変わるため、子供に不利益を与える結果となります。

その様な状況を防ぐために親権者を変更したい場合には、家庭裁判所へ親権者変更調停の申立てを行う必要があり、調停が成立すれば親権者を変更することが可能となります。調停が不成立となった場合には審判に移行することになります。
親権者の変更が認められるには主に次のようなケースが考えられます。

①親権者が病気等により子供の世話が不可能となった場合
②子供への虐待が認められる場合
③子供の養育環境が著しく劣悪な状態であるとき
④ その他、親権者の変更が子供にとって必要であると認められるとき

親権者の変更が確定したら、確定した日から10日以内に市町村役場へ「親権者変更届」を提出します。なお、親権者と監護者がそれぞれ分かれているケースで、監護者のみを変更したいとうときは当事者の話し合いだけで変更をすることが可能です。

4.おわりに

以上のように親権者の決定は離婚手続全般と大きく連動しており、互いに影響を及ぼしています。また、一度指定された親権者を後日変更するには一定の条件があるため簡単ではありません。離婚時の親権者の決定は、その後への影響を考えると互いに簡単に折り合いがつかないケースが多いです。

加えて、親権の問題は互いに感情面の対立に発展するケースが多く、本来は対立していなかった部分まで問題化してしまうこともあります。その様な事態に陥る前に、弁護士に問題点の整理や見通しなどを相談することも解決策への1つとなります。

2019.05.31

クーリング・オフ期間を過ぎて契約を解除するにはどうするの?

前回、『一度結んだ契約が取り消せる?「クーリング・オフ制度」とは?』の記事で、エステの契約をし、契約書面を受領した日から8日間がクーリング・オフ制度の対象期間となり、その期間を過ぎてしまうと、原則としてクーリング・オフはできない、ということをご説明しました。
しかし、クーリング・オフできないからといって、契約を一切解除できないわけではありません。
今回は、クーリング・オフ以外に商品購入の契約を解除する方法を見ていきましょう。

1. 中途解約

まず1つ目の契約解除の方法が中途解約です。
クーリング・オフ期間が過ぎても中途解約できることが、特定商取引法第49条で定められていて、以下のように記されています。

役務提供事業者が特定継続的役務提供契約を締結した場合におけるその特定継続的役務の提供を受ける者は、第四十二条第二項の書面を受領した日から起算して八日を経過した後においては、将来に向かつてその特定継続的役務提供契約の解除を行うことができる。

こちらを分かりやすく解説すると、
サービス提供事業者が、エステ等の特定継続的役務提供契約を締結した場合、消費者は契約書面を受け取った日から数えて8日が経過した後は、サービス提供期間内であれば、将来に向かって、契約を解除することができる、ということです。ここでいう「将来に向かって」というのは、それまでに提供されたサービスについては返金対象外であるが、それ以降の、まだサービス提供を受けていない部分に関しては返金を受けることができるという意味です。

このように、クーリング・オフ期間が過ぎても中途解約で契約解除をすることが可能なことがわかりましたが、中途解約の際に、注意しておかないといけないことがあります。

2.中途解約時に注意が必要なこと

中途解約時、気を付けておかなければならないことの1つ目が解約料についてです。

① 解約料

特定商取引法で定められている通り、中途解約を申し出ることで、サービスを受けていない分に関しては返金を受けることはできますが、一方で中途解約では、事業者に対して解約料(違約金・損害賠償額)を払わなければならないときがあります。この解約料を払う必要があるかどうかは、事業者の方針によって異なりますが、その額の上限は2万円と決められているので、この上限を超えた金額をエステの中途解約時に請求されることはありません。

上限2万円の範囲で解約料が発生するので、特に事業者で解約料の定めがなければ、
・サービスを受ける前であれば2万円、
・既にサービスを受けている場合は、2万円か、契約残額の10%のうちの低いほう
が解約料となります。つまり、契約残額の10%の額が2万円より少ない場合は、そちらが解約料となります。契約残額とは、契約に関するサービスの対価の総額から、すでに受けたサービスの分の対価を差し引いた金額のことです。

次に知っておいたの方が良いのが、関連商品についてです。

② 関連商品の中途解約

エステの契約を結んだ際に、サプリメントやボディケア商品などの関連商品も一緒に購入することがあります。これらの関連商品も、エステのサービス同様に中途解約の対象となります。
ただし、未使用品のみ解約の対象になりますので、開封・使用・消費したものに関しては対象外となってしまうので、注意が必要です。

このように、中途解約はサービスを受けた部分は返金対象外で、また解約には一定の解約料が発生します。また、使ってしまった関連商品は解約の対象外となりますので、その点を注意しておきましょう。
次に、クーリング・オフでも、中途解約でもない方法での契約解除の仕方を見ていきましょう。

3. 消費者契約法における契約取消

消費者契約法においては、消費者取消権というものが認められていて、不当な勧誘によって結ばれた契約は、取り消すことができます。
エステにおける不当な勧誘による契約とは、以下のような、消費者に誤認や困惑がある状態で勧誘し、契約を結ぶことを言います。

① 不実告知

不実告知とは、重要事項について、事実と異なることを告げることです。その結果、消費者が告げられた内容を事実と誤認してしまうことにより、消費者取消権が認められます。
具体的には、施術内容やその効果について嘘(「エステを受ければ若返る」という)をつくこと、専門用語や専門知識を使い、消費者には理解し難い説明を行い契約させることや、クーリング⁺オフや中途解約に関する消費者の権利・義務について告げていないこと、「無料」と謳いながら、実際には有料の施術を受けさせた場合などが不実告知にあたります。

② 断定的判断の提供

断定的判断の提供とは「絶対に痩せます」「二度と元の体型には戻りません」などのように「絶対」、「二度と」などの断定的な表現を使い勧誘・契約を行うことを言います。代金を払いエステを受けたことで「絶対に」その効果を体感できるということは言い切れないので、そのような勧誘は消費者契約法違反になり、取消の対象となります。

このように、契約時に述べた内容が実際は違っていたり、「絶対」などと言い切れないことを断定したりして契約に結び付けると、消費者契約法の違反になるので、取消の対象となります。
また、いずれも取消できる期間は、誤認に気が付いたときから6か月間、また契約時から5年間です。契約後5年以上が経過してしまうと原則として取り消せなくなってしまうので注意が必要です。契約を解約したい人は、ご自身が契約時にどのようなやり取りをしたのか、記憶を辿ってみましょう。

4.まとめ

クーリング・オフは期間が短いですが、期間を過ぎてしまったからといって、後悔している契約の解除を諦めるのは早いです。
中途解約もできますし、また勧誘や契約の仕方が不当である場合は法律の定めで契約の取り消しが可能です。
しかし、不当な勧誘・契約と言っても様々なケースがあり、一概には言えず、ご自身で判断するのは難しいので、困ったときは専門家に相談するのが良いでしょう。

2019.05.30

警察(警察官)にクレームをお持ちの方へ

突然ですが皆さんは「3歳にも満たない子どもがバラバラに切断された」という事件を知って、数日後「その事件の容疑者が逮捕された」という報道がなされたときどう思いますか?

「よかった、逮捕されたんだ!」
「こんな残酷なやつは死刑にしてしまえばいい!」
「サイコパスじゃないのこの人?」

もしかするとそんなことを思うかもしれません。
しかしながら、逮捕された人=犯人とは必ずしも限りません。

1 約7割は有罪にはなっていない

我が国では、公訴が提起(刑事訴訟法247条)されればそのほとんどが有罪になりますが、逮捕されたのちに起訴される確率は、31%程度にとどまっています(平成29年犯罪白書)。
つまり、逮捕された人の約7割は(実際に犯罪を行ったかはさておき)有罪にはなっていないのです。

逮捕された人というのは、その段階では罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由がある者(刑事訴訟法199条、通常逮捕の場合)であって、逮捕の段階では、犯人とは限りません。この段階で疑われている人(しばしば容疑者といわれます)のことを被疑者といいます。

刑事訴訟手続では「疑わしきは被告人の利益に」という原則がありますが(刑訴336条、憲法31条)、その一方で、警察段階では、条文に従うと、少なくとも疑わしい者を逮捕することとなっています。

もしかすると、あなたが何らかの理由で犯行の行われた現場にいて、疑われる状況になり、逮捕されることも十分にあり得る話なのです。

そうすると、最初に例に出した逮捕された人に対して感じた、「悪いことをした人が捕まった」という印象が、もしかすると間違っていた可能性もありますよね。
人にはあまり物事の判断に時間を割かず、白黒をつけてしまう性質があるので、それ故の仕方のないことであると思われます。

例えば、「カルテット」というドラマの主題歌にもなった椎名林檎さんの「おとなの掟」という曲の歌詞にこんなものがあります。

“ああ、白黒つけるのは恐ろしい
切実に生きればこそ“

本当に切実に、ものごとと向き合って考え、悩んだとき、苦悩しながら白黒つけることの難しさや恐ろしさに直面するものと思われます。

さて、ここで本題に戻りますが、反対に何かを悪いと決めて断ずる人がいなければどうなるでしょう。誰も何も悪いと言わない結果、物事がうやむやになってしまう事態が考えられるのです。そのため、一定の秩序を保たなければいけないという要請もあります。

秩序を保つためには、誰かを罪人であると主張する役割(つまり公訴の提起を行う人)もいなければいけないのです。その役割は検察官が職務の一貫として担っています(刑事訴訟法247条)。そして、その検察官の判断材料を集めるのが警察官の一つの役割となっています。このような役割の下では警察が行き過ぎた行為を行うことや、反対に、捜査に対して消極的になることも想定できます。

2 警察の責務に関する法律の定め

皆さんは警察官というとどのような人をイメージしますか?青島刑事でしょうか?シバトラでしょうか?警察官で思い出される人は結構刑事さんが多いような気がするのですが、実際に関わるとなると街の警察官であると思います。そして、みなさんがトラブルに巻き込まれるのも街の警察官との間であると思われます。

 なお、警察法によると、警察の責務は以下のように定められています。

(警察の責務)
第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
1 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない。

警察官は、①犯罪の予防、②犯罪の鎮圧、③犯罪の捜査、④被疑者の逮捕、⑤交通の取締、⑥その他公共の安全と秩序の維持にあたること、を責務としていて、責務の遂行にあたってはその権限の濫用があってはならないこととされているのです。

3 警察官の行き過ぎた行為の報告先

当然、犯罪を行った可能性のある者を捜査するものですから、捜査が行き過ぎることも考えられます。逆に警察官にも色々いらっしゃいますので、なかなか捜査や取締に積極的でない警察官もいると思われます。
例えば警察官から、行き過ぎた行為を受けたとか、告訴を行っているのに受理しようとしないなどの事情で、警察官に対する苦情をお持ちになる場合もあるかもしれません。その際は、苦情の通報先がありますのでご利用になってみるのもよいかもしれません。

(1) 都道府県警本部 監察官室等
福岡県では監察官室という窓口が設置されています。警察官が実名を名乗らなかった場合については、制服を着た警察官の場合は胸にある識別章の番号【AA111】などアルファベット2文字と数字3文字をメモしておくと、のちのち特定することができます。福岡県警察の場合、以下が苦情の申出先になっています。
 〒812-8576
  住所:福岡市博多区東公園7番7号
     福岡県警察本部(相談コーナー)
  電話:092-641-9110

(2) 都道府県の公安委員会
 都道府県公安委員会は、都道府県知事の直下におかれる組織です。都道府県公安委員会が管理しているのが都道府県警察本部で、その下に県警本部と本部長、警察署があります。都道府県公安委員会に対し苦情を申し出ることも出来、その申出の根拠は警察法で定められています。以下が警察法の規定と、申出の方法に関する規則です。

(苦情の申出等)
第七十九条 都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる。
2 都道府県公安委員会は、前項の申出があつたときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
(省略)

そして、国家公安委員会規則に『苦情の申出の手続に関する規則』という規則がありこのように定められています。

『苦情の申出の手続に関する規則』
(苦情申出書の提出)
第二条 苦情申出を行おうとする者(以下「申出者」という。)は、次の各号に掲げる事項を記載した文書(以下「苦情申出書」という。)に署名又は押印をしてこれを提出するものとする。
一 申出者の氏名、住所及び電話番号
二 申出者が住所以外の連絡先への処理の結果の通知を求める場合には、当該連絡先の名称、住所及び電話番号
三 苦情申出の原因たる職務執行の日時及び場所、当該職務執行に係る警察職員の執務の態様その他の事案の概要
四 苦情申出の原因たる職務執行により申出者が受けた具体的な不利益の内容又は当該職務執行に係る警察職員の執務の態様に対する不満の内容
2 (省略)
第三条 苦情申出書の受理に関する事務を行う警察職員は、申出者が苦情申出書を作成することが困難であると認める場合には、当該申出者の口頭による陳述を聴取し、苦情申出書を代書するものとする。
2 警察職員は、苦情申出書を代書した場合には、申出者に当該苦情申出書を読み聞かせ、又は閲読させた上で、その署名又は押印を求めるとともに、自己の所属、官職及び氏名を記載し、押印するものとする。
3 警察職員は、苦情申出書を代書するに当たり通訳その他の者を立ち会わせた場合には、当該苦情申出書にその者の署名又は押印を求めるものとする。

4 まとめ

なお、都道府県公安委員会宛のものは苦情の申出の手続に関する規則による決まりで必ず結果がお知らせされるというようになっているので、調査したうえでの結果をお知りになりたい方はこちらを選ばれる事が望ましいようです。
上記に定められるような苦情申出書には書かなければならない事項が難しく作成が難しいかもしれません。もしも記載が難しければ、法律上の規定ともからめて苦情申立書を作成することも出来ますので身近な法律家に相談するのがよいものと思われます。

2019.05.29

一度結んだ契約が取り消せる?「クーリング・オフ制度」とは?

エステの無料体験に行ったら、そのまま勧誘を受けて契約を結んでしまった、という経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか?
その場で断りづらくて契約してしまった…。勧誘トークに乗せられて契約を結んでしまったが後悔している…。
このように、エステ以外の取引でも、一度契約を結んでしまったときに、クーリング・オフ制度を利用して契約を解消することができます。
今回は、そんなクーリング・オフ制度について詳しくみていきましょう。

1. クーリング・オフ制度とは?

「クーリング・オフ制度」という言葉、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?クーリング・オフ制度とは、特定商取引法やその他の法律に定められた消費者を守る特別な制度で、消費者が、訪問販売などの不意打ち的な取引で契約したり、マルチ商法などの複雑で、リスクが高い取引で契約したりした場合に、一定期間であれば無条件で、一方的に契約を解除できる制度です。この時、消費者は一切の金銭を払う必要はありません。
クーリング・オフができる取引と期間はこのようになっています。

こちらの表の中には、あまりなじみのない専門的な言葉もあるので、補足しておくと、⑤の「業務提供誘引販売取引」はいわゆる内職商法・モニター商法等のことです。内職商法は、「在宅ワークで高収入」と自宅でできる高収入の仕事を提供するなどと説明し希望者を集め、仕事のために必要だと教材や機材を購入させる商法のことです。教材などを購入しても、実際には仕事がなく、その対価がほとんど得られないというようなトラブルも近年増加しています。
また、モニター商法は、モニター(商品を購入するときに口コミを投稿したり、宣伝活動を行ったりする消費者のこと)になると商品が安くなる、もしくはモニター料の名目で収入を得られるといった勧誘を行う商法のことをいいます。

着物・布団・健康食品などの商品が取り扱われることが多いです。⑥の「訪問購入」は、訪問販売のようにリサイクル業者などの購入業者が消費者の自宅を訪問し、物品を購入する商法です。中には、突然家に訪問し、ブランド品や貴金属類を強引に買い取る悪質なケースもあります。

最後に、今回冒頭で述べたエステの契約は、こちらの表を見ていただくとわかるように、③「特定継続的役務提供」にあたります。特定継続的役務提供とは、長期・継続的なサービスの提供と、それに対して高額の対価を請求される取引のことを言います。対象となる役務は、特定商取引法で限定列挙されています。

それぞれの取引名がどのようなものなのかが分かったところで、次は、この特定継続的役務提供に分類されているエステは、なぜクーリング・オフ制度の対象になるのかを見ていきたいと思います。

2. エステがクーリング・オフ制度の対象になるのはなぜ?

なぜ、エステがクーリング・オフ制度の対象になるのかをエステのサービス提供の仕組みとともに説明したいと思います。
エステの契約を結んだら、その後長期・継続的にサービスを受けていくことになります(月に1回など、定期的に通う契約内容になっていることが多いです)。

しかし、そのサービス内容(施術内容)は受けてみて初めて分かるものなので、認識が曖昧なままで契約をしてしまう方も多いです。曖昧な認識のまま、勧誘されるがまま契約を結んでしまい、家に帰ってから「契約しなければよかった」「契約を解除したい」という人が多く、そういったときに契約を解除できないとなると、契約が消費者にとって不利なものになります。
不利な契約から消費者を守るためにあるのがクーリング・オフ制度なので、エステもこのかぎりなのです。
しかしここで注意しなければならないのが、エステはクーリング・オフの対象ですが、
① 契約書面を受領した日から8日間
② 契約期間が1か月以上・また金額が5万円以上
という条件を満たしている場合のみクーリング・オフが可能です。もしも契約期間が2週間で、3万円のエステの契約を結んだときは、クーリング・オフ制度の対象外となりますので、ご注意ください。

また、エステ以外の「特定継続的役務提供」にあたるサービスは、契約期間が2か月以上で、契約金額が5万円を超えるものがクーリング・オフ制度の対象です。
エステとエステ以外ではクーリング・オフの対象となる条件が異なってきますので、制度を利用する際は契約金額・内容をしっかり確認しておきましょう。

クーリング・オフ制度の仕組みが分かったところで、次は実際にどのようにしてクーリング・オフをするのかを見ていきましょう。

3. エステの契約でクーリング・オフ制度を利用するには

エステのクーリング・オフをする際、事前に注意しておかなければならないことがあります。

① 消耗品の使用の有無
エステの契約をした際、ボディクリームなど消耗品を提供される場合があります。この消耗品を使用している場合は、消耗品はクーリング・オフの対象外となってしまいますので、ご注意ください。

② 契約書類を保管しておく
クーリング・オフの通知書に、契約時の担当者名や商品名・契約金額などを正確に記載しなければなりませんので、契約書類を保管しておく必要があります。通知書送付後も何があるか分かりませんので、契約書類は一式とっておきましょう。

③ 書面で解約手続きを行う
書面以外の方法(電話など口頭のみ)でクーリング・オフの通知を行うと、証拠が残らず言ったか言っていないかというトラブルにもなり得るので、必ず書面で手続きを行いましょう。

④ クレジットカードの支払いの場合はクレジットカード会社にも書面を送付する
クレジットカードを使用した契約の場合は、同じ内容の通知書をクレジットカード会社にも送付しなければなりません。

これらの注意点を踏まえて、クーリング・オフの通知を行う際は、必ず内容証明郵便で行うようにしましょう。クーリング・オフは、8日間という期間が決まっている以上、通知を送ったものの、それた届いたか届いていないかといったトラブルになってしまうと、間違いなく期間を経過してしまいます。内容証明郵便であれば、どんな内容の文書をいつ発送し、いつ到達したかを後に証明することができますので、利用しましょう。

通知書の送付後、通知書を受け取った企業から契約の解除、返金がなされます。
返金がない、遅いなどトラブルが発生した際は消費者生活センターや弁護士など専門家に相談しましょう。

4.まとめ

クーリング・オフ制度は知っておくと、不本意な契約を結んだ時にも一方的にこちらから解除を要請できるので、役立つ制度です。

しかし、期間や条件が決まっているので、どんな契約内容でも必ず解除できるわけではありませんし、クーリング・オフ制度を利用したとしても、返金に関して思わぬトラブルに巻き込まれてしまう可能性もあります。そうなった場合は早めに専門家に相談しましょう。

また、断る意思を持つことも大事なので、契約を結んでしまう前に、自分の意思を確認し、しっかりと伝えるようにしましょう。

2019.05.27

【離婚問題】裁判離婚での離婚事由について

協議離婚や調停離婚では、「考え方が合わない」「一緒に生活するのが嫌になった」など、どんな理由であっても夫婦が離婚に合意さえすれば、離婚できます。しかし、離婚裁判では民法に定められた5つの離婚事由のいずれかに該当しなければ離婚は認められません。今回はこの5つの離婚事由について説明したいと思います。

1.はじめに

離婚調停が不成立になり、裁判離婚へ進む場合、離婚が認められるためには、民法で定められている5つの離婚事由のいずれかに該当していることが必要となります。5つの離婚事由とは次の通りです。

① 配偶者に不貞な行為があったとき(民法第770条1項1号)
② 配偶者から悪意で遺棄されたとき(同条同項2号)
③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(同条同項3号)
④ 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき(同条同項4号)
⑤ その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき(同条同項5号)

以上5つが民法で定められた離婚事由となります。
それでは、具体的にどの様な状態であれば、これらの離婚事由に該当すると認められるのかという部分について個別に説明します。前提として、それぞれ抽象的な概念であり、離婚事由に該当するかどうかの評価はケースバイケースになります。

今まで多数の裁判が行われ、その事例の集積によって、ある程度の物差しが作られて来ました。最終的には、個別の事例においての裁判所の判断となりますので、過去の裁判例を踏まえた判断が必要となり、専門家に相談しないと分からないことも多々あるでしょう。

2.各離婚事由の詳細

①配偶者に不貞な行為があったとき

日本では重婚が禁止(民法第732条)されており一夫一婦制であることから、婚姻関係にある夫婦には配偶者以外の異性と性行為に及んではならないという貞操義務があります。
不貞行為というのは、配偶者以外の人と肉体関係を持った場合に該当するため、夫婦間の貞操義務に反することになります。もし、配偶者が異性とデートをしていたとしても、配偶者と異性の間で肉体関係があることを証明できなければ不貞行為には該当しません。また不特定の相手との売春行為なども不貞行為に該当する可能性があります。

②配偶者から悪意で遺棄されたとき

民法第752条では夫婦は同居し、お互いに協力し、助け合わなければならないと定義されております。離婚事由にある「悪意で遺棄する」という意味は、同居、協力、扶助という民法で定められている夫婦の義務を故意に行わないことを指します。

代表的な例として、「夫婦の一方が配偶者の了解なく家を出ていき別居状態にある」「生活費を渡してくれない」「扶養義務のある家族の面倒を見ない」等があります。なお、単身赴任による別居、離婚の話し合いの最中での別居は同居の義務違反には該当しません。

③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき

配偶者からの音信が途絶え3年以上が経過し生死が不明な場合は、配偶者は離婚事由があるものとして離婚訴訟を起こすことができます。
また、生死不明の状態となり7年以上が経過している場合は、家庭裁判所に失踪宣告を申立てることが可能となり、失踪宣告が確定すると、法律上、不在者は死亡した扱いとなるため婚姻関係は解消されます。

なお、配偶者の生死が3年以上明らかでないことを原因とする離婚裁判により離婚が確定した場合、後日、行方不明者の生存が確認されても離婚は取り消されませんが、失踪宣告に基づき離婚した場合は、本人または利害関係人の請求によって失踪宣告が取り消されるケースもあり、この場合は婚姻関係も復活することになります。そのため、失踪宣告を用いることは、それなりに確実に死亡が予想される場合に限定すべきでしょう。

④配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき

配偶者が精神病になったというだけでは離婚は認められません。配偶者の精神疾患が極度のもので、将来的に回復が見込めないという医師の意見や診断が必要であり、医師の診断に基づいて裁判所が厳格に判断します。

また、裁判では医師の診断以外にもこれまでの介護や看護にどれだけ尽力したかも一つの判断材料となります。
なお、配偶者が精神病によって判断能力がなく、訴訟を行えるだけの能力が無い場合には、配偶者の成年後見人を選任し、成年後見人が訴訟の対応をすることになります。

⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき

①から④の離婚事由に該当しない場合も、その他の個々の事情を考慮し婚姻関係の継続が難しいと裁判で判断されるケースがあります。一般的な離婚案件のほとんどは、この離婚事由に基づいて請求されるものです。代表的なものを以下に記載致します。

【性格の不一致】
単に「気が合わない」というだけでは認められません。性格が合わないために愛情を失い、夫婦関係が破綻しており修復不可能な状況でなければなりません。

【配偶者からの暴力】
身体的な暴力だけではなく、言葉による侮辱や虐待、暴力による性交渉の強要など広い範囲の行為が暴力として認められています。

【舅・姑・配偶者の親族との不仲】
単に配偶者の親族と気が合わないという問題ではなく、配偶者の親族から暴力、侮辱を受け、それらの状況に対し配偶者も改善する努力をせず、または、親族に加担するなどの行為により、婚姻関係が破綻していることが必要です。

【宗教活動にのめり込む】
信仰や宗教活動は個人の自由ですが、宗教にのめり込んで働かない、家事、育児を行わない、生活費のほとんどを寄附する等の行為で夫婦関係が破綻した場合も離婚は認められます。

3.おわりに

以上、5つの離婚事由について説明しましたが、裁判では離婚事由が存在することを証明しなければなりません。これらを証明するには専門的な知識、経験が必要となります。離婚事由のいずれかに該当するかもしれないと思った方は一度弁護士などの専門家へ相談することをお勧めします。

2019.05.23

【離婚問題】養育費~どうやって金額を決める?~

子供がいる夫婦が離婚する場合、親権と同様に問題となりやすいのが養育費です。親権を持たない親に養育費を支払う義務があることは分かっていても、実際どのくらいの金額を払えば良いのか分からない方は多いのではないでしょうか。今回は、養育費の決め方や、一度決めた額を変更することができるかについてご説明します。

1 養育費とは

離婚すると元夫婦は別々に生活し、一方が子供を引き取り、もう一方は子供と別れて暮らします。しかし法律上、親は、子供と同居しているか否かにかかわらず、子供に対して扶養義務(自己と同程度の生活を保持させる義務)を負っています。
したがって、本来であれば両親ともに子供の生活費を負担しなければならないわけですが、現実的には、子供と同居していない親は、子供と同居している親に養育費を支払うという方法で、その義務を履行することになります。

養育費の支払い期間は、子供が成人に達するまでと考えるのが通常ですが、近時は4年制大学に進学する子供が増えていることから、4年制大学卒業の月(22歳)まで養育費を支払うことが珍しくなくなっています。その場合の養育費の取り決めの条項は、以下のようなものとなります。

相手方は、申立人に対し、長男Aの養育費として、〇年〇月からAが20歳に達する日の属する月まで(ただし、Aが大学に進学した場合には、大学を卒業する月まで)、毎月金〇円の支払義務があることを認め、これを毎月末日限り申立人名義の〇銀行〇支店普通預金口座(口座番号〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料は相手方の負担とする。

2 養育費の決め方

養育費の金額などは、父母の話合いで自由に決めることができます(民法766条1項)。経済力によっては、月に数十万円の養育費を支払うことができる人もいれば、月に数万円の養育費を支払うことが難しい場合もあるでしょう。

養育費の具体的な金額については、平成15年に東京・大阪養育費等研究会から、親の収入や子の年齢等に応じて金額の目安を定めた簡易算定表が公にされています。しかし、この算定表に従うと養育費の額が低すぎるなどの問題があり、平成28年に日本弁護士連合会から「新算定方式」が提言されました。

現在、実務では簡易算定方式が主流ですが、弁護士が依頼者の状況に応じて新算定方式によった養育費の金額を主張することも少なくありません。また、最高裁司法研修所が養育費算定方法の見直しを検討して研究を行っており、今年5月中に報告書がまとめられる予定です。この発表によって今後実務でも養育費の算定方法が変わる可能性があり、注目されています。

養育費の金額等について父母の協議が調わない場合には、家庭裁判所が当事者からの申立てを受けて、最終的には審判で定めることになります(民法766条2項、家事事件手続法別表第2・3項)。実務では、まず調停の申立てが行われるのが通常です。

3 養育費の変更

離婚にあたり夫婦間で協議して養育費を決めても、あるいは調停や審判で養育費が決められても、その後に事情変更が生じたときには、養育費の金額を増減することが可能です(民法880条)。

これは、あくまでも養育費を決めた後に事情の変更が生じた場合に限られ、養育費を決めた際に既に生じていた事情を理由に、養育費の金額の増減を求めることはできません。
裁判例でも、養育費を決める調停成立時に既に再婚し、なおかつ再婚相手の子供と養子縁組をしていた事案で、再婚と養子縁組により社会保険料が増加したこと等の理由で収入が減少することは、その当時、予測可能な事情であるから、養育費を減額すべき事情の変更とはいえないとしたものがあります(東京高決平成19年11月9日)。

これに対し、養育費を決めた後に再婚して生活環境が変わることは、事情変更に該当します。審判例でも、離婚後3年間は毎月20万円、以後三女が23歳になるまで毎月30万円の養育費を支払う合意をしたが、その後父も母も再婚し、3人の子供は母の再婚相手と養子縁組した事案で、合意当時予想し、あるいは前提となし得なかった事情があるとして、合意事項を修正し、生活保護基準方式を用いて、養育費の月額を21万円(1人あたり7万円)に減額し、養育費の支払の終期を成年到達時までとし、臨時の出費は養父が負担するとしたものがあります(東京家審平成2年3月6日)

4 養育費の一括払い

養育費の支払方法は、毎月払いが原則です。なぜなら、養育費は日常の生活費に充てられるものだからです。したがって、家庭裁判所の調停や審判では、養育費の一括前払いは原則として認められません。

これに対し父母の話合いでは、養育費を一括前払いと決めることも自由です。しかしその場合、養育費が早々に費消されてしまい、将来子供の監護養育に支障を来すおそれがあります。前払いを受けた養育費を計画的に使うよう、細心の注意を払わなければなりません。

裁判例でも、調停離婚にあたって、子供が成年に達するまでの養育費として父親が一括で1,000万円を支払ったが、母親は子供を小学校から私立学校や学習塾にも通わせたために、子供が中学校を卒業するまでにその1,000万円を使い切ってしまったことから、高校と大学の費用を父親に請求したところ、認めなかったものがあります(東京高決平成10年4月6日)。

では、養育費を一括でもらった者が再婚したら、どうなるのでしょうか。たとえば養育費の月額を10万円と決めて、子供が22歳になるまでの10年分の合計1,200万円を一括で支払った前夫は、前妻が再婚した場合に、その一部の返還を請求することができるのでしょうか。
前述のように、離婚に際して養育費の金額を決めた後に事情変更が生じたときには、養育費の金額を増減することが可能であり、再婚して生活環境が変わることも、ここでいう事情変更に該当します。

したがって、前妻の再婚相手である後夫が高収入であって、本来ならば適正な養育費が月額3万円になるとするならば、月額10万円からこれを差し引いた7万円は払い過ぎたことになります。それゆえ、前夫としては、理論上は再婚後子供が22歳になるまでの過払分の返還を求めることが可能となりそうです。

しかし、養育費を一括で支払う者の意思としては、将来起こり得るさまざまな出来事を考慮した上で、ある程度の事情変更は不問に付すというリスクを受容しているのではないでしょうか。
したがって、前妻が高収入の後夫と再婚しても、このことは想定内の出来事であって、養育費の一部返還の理由にはならないと考えるべきでしょう。逆に言うと、そのようなリスクを受け入れたくないのであれば、養育費を一括で支払うべきではありません。

また、もらう側としても、養育費を一括でもらった場合、国税局は毎月もらえば良いはずの養育費を一括でもらう以上、それは贈与であると認定して、贈与税の対象としています。ですので、一括で支払うことは払う側にもリスクがあると共に、もらう側にも負担がありますので、やはり子供の成長や状況に応じて毎月支払い続けることがベストでしょう。

5 まとめ

現在、実務では養育費の金額は簡易算定方式によって決められることが主流ですが、それでは金額が低いため、子供の生活を重視すると、算定表で導き出された金額を適宜修正して妥当な金額を導くことが必要でしょう。

また、ご説明したように養育費の一括払いはお勧めできませんが、有責配偶者から離婚を求めている場合などは、相手方から「養育費を一括で支払わなければ離婚しない」と主張されたら、受け入れるしかない状況も考えられます。養育費の金額がなかなか決まらない場合や金額を変更したい場合には、専門家に相談しましょう。

2019.05.22

マルチ商法とは 簡単に儲かるって本当なの?

「マルチ商法」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「儲かる話があるから説明会に来てほしい」、「簡単に儲かる方法がある」という誘い文句は、マルチ商法かもしれません。マルチ商法自体は違法ではありませんが、様々なリスクがあるので、何も知らずに始めてしまうと、様々な問題に直面してしまいます。

今回は、そうならないためにもマルチ商法の実態と、その危険性についてご説明していきたいと思います。

  1. 1.マルチ商法って何?

はじめに、「マルチ商法」とは、いったいどのような商法のことをいうのでしょうか?「マルチ商法」とはマルチレベルマーケティングプラン(多階層販売方式)の略語ですが、これは俗称のことで、正式名称は特定商取引法で「連鎖販売取引」とされています。

① 物品の販売(または役務の提供など)の事業であって
② 再販売、受託販売もしくは販売のあっせん(または役務の提供もしくはそのあっせん)をする者を
③ 特定利益が得られると誘引し
④ 特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む。)をするもの

特定商取引法によると、この連鎖販売取引は以下のように定義されています。

具体例を交えて分かりやすく説明しますね。

例えば洗剤や化粧品の販売事業を行っている組織の会員が、知り合いや家族を新規会員として誘うときに、「自分が本部から買い取った洗剤や化粧品を他の人におすすめし、再販売すると、売り上げの一部と会員紹介料がもらえて儲かるよ。」と言って勧誘するということです。

「儲かるよ」と言って勧誘をするものの、マルチ商法を行う際には自己負担も伴います。それが④の特定負担で、特定負担とは主に一定の会員費(無料の場合もあり)や保証金、本部から自分で商品を買い取りするときにかかる費用のことを言います。

マルチ商法ではこのように、「儲かるよ」と言って新規会員を勧誘しますが、会員は実際にはどのように利益を得ているのでしょうか。ここでも具体的な説明をしていきたいと思います。

まず、Aさんが新規会員Bさんを勧誘し、入会すると、会員紹介料が入ってきます。また、Bさんが入会後に商品を売り上げたときの利益の一部もAさんの売り上げ紹介料として入ってきます。その後BさんがCさんとDさんを勧誘したときも、Aさんは直接勧誘をしてい ませんが、紹介料を得られる仕組みになっているのです。

 

そのため、一度会員になると自分の下の会員を作り紹介料を得ようと、熱心に勧誘をおこなうようになります。このように会員が自分たちの利益の為に勧誘・商品の販売を行うこと自体がブランドや商品の宣伝活動になるので、組織側としては特に広告活動をする必要がないというメリットもあるのです。

次に、マルチ商法と同じようによく聞く、「ねずみ講」というものがあるので、そちらを詳しく見ていきましょう。

  1. 2.マルチ商法とねずみ講のちがい

マルチ商法とよく似たものに、「ねずみ講」が存在します。ねずみ講は俗称のことで、正式名称は「無限連鎖講」といいます。マルチ商法とねずみ講は仕組みが似ているため、混合されがちですが、この2つは完全に別物で、ねずみ講に至っては無限連鎖講の防止に関する法律で全面的に禁止されています。

無限連鎖講の防止に関する法律 第3

何人も、無限連鎖講を開設し、若しくは運営し、無限連鎖講に加入し、若しくは加入することを勧誘し、又はこれらの行為を助長する行為をしてはならない。

次に、なぜねずみ講は違法なのかを明らかにするために、ねずみ講の仕組みについてみていきましょう。ねずみ講はマルチ商法と同様に、会員が新規会員を勧誘し、入会金を請求し自分の利益とします。その新規会員も、更なる新規会員(=後順位の会員)を勧誘し、入会金を請求します。

そしてその一部を自分の利益とし、残りを自分より先に入会している会員(=先順位の会員)に分配する、という形をとります。分配を受けた会員は、自分より先順位の会員がいればさらにその利益を分配するという形式が組織内で連鎖しています。

以上がねずみ講の仕組みなのですが、ここだけ見ていると、どちらもねずみ算式の構造になっていて、マルチ商法とねずみ講にはさほど違いがあるようには思えません。いったい何が違うのでしょうか?また、なぜマルチ商法は合法なのにねずみ講は違法なのでしょうか。

それは、マルチ商法とねずみ講の大きな違いに、「商品の購入の有無」があるからです。

マルチ商法では、商品の購入があくまで目的で、商品と引き換えに後順位の会員から料金をもらい、そこから紹介料が発生します。そのため、ピラミッドの最下層になったとしても、支払った商品代金と引き換えに、商品が手に渡ります。

しかし、ねずみ講の場合は組織に入会するときに先順位の会員に入会金を払うものの、引き換えに何かが自分の手に渡るわけではありません。そのため、最下層の人は自分より後順位の会員を見つけなければ、損をするだけで終わってしまいます。

日本の人口には限りがあるため、ねずみ講もいつか終わりが来てしまいます。というのも、例えば、勧誘・入会を繰り返すことによって既にAさん以外の日本国民全員が同じ組織に加入していたとします。

そしてAさんも勧誘を経て会員になったとき、Aさんは新規会員を勧誘することができません。Aさんは自分だけ入会金を払うだけで、自分は何の利益も得られません。このように損をするだけの人が現れてしまうので、ねずみ講は法律で禁止されているのです。

  1. 3.マルチ商法の危険性

ねずみ講と比較してみて、マルチ商法は合法だし、後順位の会員をつければ儲かるから良いのでは?と思う方もいるかもしれませんが、合法だからといって、危険性がないわけではありません。そもそも、多くの利益を得られるのは、上位ランクの会員であって、そうなるためには、多額の保証金などの金銭の支払いや、多量の商品購入が条件となります。

仮に多額の金銭を支払い、商品を大量に購入したとしても、売り切る(後順位の会員を作る)ことが出来ず、昇格も出来ずに、多額の借金と商品在庫だけが自分の手元に残った、ということにもなりかねません。

また、より多くの新規会員を獲得しようとすると、自分の周りの人たちに見境なく声をかけ、執拗なセールストークで勧誘をするので、今まで築いてきた人間関係が崩れていく恐れもあります。マルチ商法は決して違法ではありませんが、上手くいかない場合は、自分が金銭的なリスクに晒されるだけでなく、周りの人たちを巻き込んでしまう恐れがあるので、メリットだけでなくデメリットも理解しておきましょう。

4.まとめ

構造的には似ているマルチ商法とねずみ講ですが、「商品購入の有無」がその大きな違いとなり、また合法か違法かの境目となります。金銭的なリスク以外にも、自分の人間関係を脅かしてしまう可能性があります。近年では大学生のサークル活動でもねずみ講のようなやり方でメンバーを集めていて、トラブル化したという事案もあります。

いつ自分が勧誘される立場になるか分かりませんので、勧誘を受けたときはリスクがあることを念頭に置いておきましょう。また、トラブルが起こってしまった場合は早めに弁護士や専門家に相談することをおすすめします。

 

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