弁護士コラム

2017.07.28

【離婚問題】どうやったら離婚できるの?(1)-離婚の仕方あれこれ

厚生労働省が発表した平成28年の人口動態統計の年間推計によれば,同年の離婚件数は,217, 000件にのぼるとの見通しがでています。これは婚姻した夫婦の約1/3が離婚していることになります。このように離婚はすでに身近な問題になっているといえます。
もっとも,離婚といっても実はいくつかの方法があり,どのような手続きが必要かご存じではないという方も多くいらっしゃると思いますので,今回は,離婚の種類とそれぞれの具体的な特徴についてみてみたいと思います。

1 離婚にはどんな方法があるの?

まずは,離婚の方法としてどんなものがあるかについてお話ししますね。離婚には,①協議離婚,②調停離婚,③審判離婚,④裁判離婚の4種類があります。以下では,それぞれの離婚について特徴を説明していきたいと思います。

2 ①協議離婚について

協議離婚とは,裁判所が介入することなく,当事者同士で話し合って離婚するかどうか,条件をどうするのかについて決定して離婚届を役所へ提出するものをいいます。離婚する夫婦の約90%がこの協議離婚をしています。
協議離婚においては,全てが夫婦の話し合いに委ねられているので,離婚に至る理由等は関係なく,財産分与や慰謝料,養育費等についても柔軟な取り決めが可能です。そのため,協議離婚では,夫のいびきがうるさいとか妻の寝相が悪いとか,そういった後述の裁判離婚では認められないような理由でも離婚することができます。
もっとも,条件については,文書に残しておかないと後々相手方から,「そんな約束はしていない。」等と言われて離婚後にもめることにもなりかねません。ようやく離婚できたのに,また相手方と連絡をとらないといけないという事態は相当なストレスでしょう。また,もめていないケースであっても,単純に条件面について双方の認識に齟齬が生じないようにするために,離婚協議書(離婚時の様々な取り決めを記載しておく文書)は作っておくべきでしょう。特に,養育費や慰謝料の支払い等の取り決めに関しては,相手方がその支払いの約束を守らなかったときに強制執行ができるよう,必ず公正証書にしておきましょう。
以上のように,協議離婚を行うに当たっては,当事者間で離婚の合意をし,離婚届を役所に提出するだけでよく,裁判所は全く関与しません。そのため,協議離婚は最も簡易かつ低コストに離婚できる方法と言えます。しかし,逆に言えば,当事者の合意で自由に取り決めができるため,離婚の条件として取り決めた内容が専門家からみれば適正とは言えない内容であったり,取り決めておくべきことについて取り決めがなされていなかったり,取り決めたけれども取り決めの仕方が不十分であったりといったリスクを抱えています。
そのため,離婚するか否かについて揉めているケースはもちろんですが,離婚すること自体に争いがないケースであっても,条件面が適正か否かについて,一度,専門家の弁護士に相談されることをお勧めします。

3 ②調停離婚について

では,協議離婚がどうしてもできない場合にはどうすればいいでしょうか?
このように夫婦間で話し合っても離婚について合意が得られない場合や離婚自体は合意できても諸条件について合意が得られなかった場合には,家庭裁判所での話し合いの手続である調停を,家庭裁判所に対して申し立てることになります。
調停においては,調停委員という第三者を仲介役にして話し合いを進めることになりますので,協議離婚と比べれば,感情的にならずに冷静に話し合いができるというメリットがあります。また,調停がまとまった場合は,判決同様の法的効果を持つ文書(調停調書)を作成することになるので,裁判所の関与の下きちんとした取り決めをすることができます。もっとも,調停は1カ月に1回程度のペースでしか進まず,1回の調停も2時間程度しか時間がとれないため,協議離婚に比べて解決までに時間がかかってしまう傾向があります。また,調停調書に記載できる内容や形式に制限があることから,協議離婚の場合に比べて柔軟な取り決めをすることは難しくなります。
なお,調停は,調停委員の関与の下,裁判所で行われますが,あくまで話し合いですので,協議離婚と同様,合意が整わなければ離婚はできません。また,調停委員は,必ずしも弁護士や裁判官等の法律の専門家ではありませんし,あくまで中立的な立場ですので,離婚についての想いや条件面について自分の立場を代弁してくれる存在ではありません。ですので,ご自身の想いをしっかりと相手方に伝えるため,調停で協議を進めている離婚条件が適正か否かを判断するため,弁護士を代理人として同行させることをお勧めします。

4 ③審判離婚について

調停が不成立に終わってしまった場合,通常は④裁判離婚の手続に移行するのですが,お互い離婚自体については合意してはいるのに,養育費などの付随的な内容に若干の意見の相違があるだけで,わざわざ裁判まで行うことは現実的ではないでしょう。そこで,離婚については合意しているけども,その他の諸条件で若干揉めている場合には,裁判所が離婚とそれに関する条件を審判という形式で一方的に判断し,離婚を認める場合があります。これを審判離婚といいます。たとえば,離婚をすること自体には互いに納得しているものの,養育費が月額3万円か,3万5000円かで揉めている場合,それを決めるために1年間くらいかかる裁判を行うことは当事者のためにもなりません。そこで,裁判所が職権で,養育費額を決定し,審判で離婚を命じることになります。
この審判に対しては夫婦双方,審判が告知された日から2週間異議を申し立てることができ,異議が出された場合,審判は効力を失うことになるため,実際上利用されることは極めて稀です(離婚全体の約0.1%程度になります。)。

5 ④裁判離婚について

調停が不成立になった場合でも,どうしても離婚したいときには,訴訟を提起して離婚を求めていくことになります。このように,裁判で離婚することを「裁判離婚」と言います。なお,最終的に和解で終結するか,判決で終結するかによって,「和解離婚」「判決離婚」と呼ばれることもあります。
訴訟の提起にあたっては,家庭裁判所に訴状という離婚を求める旨とその原因を記載した書面を提出することになります。裁判までなると,離婚原因があるか否か,各種請求が法的に認められるか否か,法律論の戦いになりますので,さすがに当事者が自分で進めることは極めて難しいでしょうから,弁護士に依頼した方がいいでしょう。
裁判離婚においては,離婚が認められるか否かを裁判官が判断するため,民法上の離婚原因が認められるか否かが最大の問題となります。そのため,夫のいびきがうるさいとか妻の寝相が悪いとかそういった理由では離婚をすることは極めて難しくなってしまいます。
もっとも,今までお話ししてきました協議離婚などとは異なり,,裁判所が法律上の離婚原因があると判断した場合には,たとえどちらかがどんなに離婚を望んでいなくても離婚が認められることになるという利点があります。では,どういった場合に,離婚が認められるのでしょうか,法律上の離婚原因について簡単にご説明しておきます。
法律上の離婚原因には,①不貞行為,②悪意の遺棄,③三年以上の生死不明,④強度の精神病に罹り回復の見込みがないこと,⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があることの5つがあります。やはり多く主張されるのは,浮気,DV等ですが,性格の不一致,高度のアルツハイマー,過度な宗教活動等の理由を離婚原因として主張する場合もあります。
なお,どんな場合に離婚できるかは事案によっても異なってきますし,真実そのような事情があったとしても,証拠をもって立証し,裁判官にその事実の存在を認めさせなければ勝訴判決は獲得できません。どのような事実をどの証拠でどのように主張立証していくかについては,法的判断を伴う専門的作業ですので,専門家である弁護士に依頼されることをお勧めします。

6 まとめ

 日本の法制度上は,協議離婚,調停離婚,審判離婚,裁判離婚のいずれの手続きについても,本人のみで行うことができるとされています。しかし,上記に述べたとおり,いずれの手続きについても,法律的な知識がどうしても不可欠になってきますので,離婚手続きに不安を抱かれている方は,離婚について詳しい弁護士に相談・依頼されることをお勧めします。

2017.07.27

【離婚問題】どうも夫と性格が合わない!離婚ってできるの?

離婚の理由としてもっとも多いのは「性格の不一致」です。離婚する夫婦の半数以上が,性格の不一致によって離婚していると言われています。性格の不一致というだけの理由でも協議や調停で話がつけば離婚することはできますが,話がまとまらずに,裁判になった場合でも性格の不一致というだけ離婚が認められるのでしょうか?今回は,性格の不一致と離婚に関するお話をしたいと思います。

1 法律の定める離婚原因

 離婚をしようとする場合には,協議離婚(夫婦での話し合いをいい,一般的な離婚のイメージだと思います。),調停離婚(裁判所を入れて夫婦で話し合いをします。),裁判離婚(裁判所に離婚できるかを決めてもらうものです。)などの方法をとることになります(審判離婚という方法もありますが,実際に使われることはほぼないので省略します)。
協議や調停といった話し合いで「離婚しよう」という合意ができるのであれば,どんな理由でも離婚することができます。もちろん,お互いの性格が気に食わないという理由でも離婚することができます。

お互いの話し合いがどうしてもまとまらず,話し合いでは離婚ができないものの,どうしても離婚したいという場合,初めて裁判によって離婚をできないかということが検討されることになります。このように裁判で判決を得ようという場合は,離婚を望まない当事者に対して,離婚を強制するため,その夫婦に「強制的に離婚をさせられても仕方ない」といった事情がある場合に限って,離婚が命じられることになっています。
それでは,実際に法律がどのような離婚原因を示しているか見てみましょう。

民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由

法はこれらの場合に,裁判によって離婚ができるとしていますので,夫婦の性格の不一致が「⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由」であると認められることが必要になります。

2 どの程度の性格の不一致で判決をもらって離婚できるの?

 では,どの程度お互いの性格が一致していなければ「婚姻を継続し難い重大な事由」といえ,離婚ができるのでしょうか?
 一般的な感覚からすれば,明るい性格と暗い性格など単に性格が合わないことをもって性格の不一致ということになるのでしょうが,夫婦とはいえ違う人間なのですから性格が異なるのは当たり前なため,裁判所においては,そういった性格を踏まえたうえで,夫婦間の同居・協力・扶助義務,夫婦関係の修復の可能性,口論・けんかの有無,性的関係の有無などを総合的に考慮して,「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたり,離婚ができるか否かを判断することになります。つまり,性格の不一致のみを理由にして離婚が認められることは難しく,性格の不一致がきっかけで様々なすれ違いが生じ,結果として様々な事情を考慮すると,夫婦関係の修復可能性がない程に夫婦関係が破綻してしまったという場合に,「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められることになります。
 もっとも,子供を世話している配偶者からの請求の方が,子供を世話していない配偶者からの請求に比べて離婚が認められやすい傾向があると言われています。

3 相談事例

 実際,法律事務所へ「性格の不一致」を理由として離婚相談に来られる方のお悩みを聞いていると,その事情は様々です。たとえば,金銭感覚の違いや子どもの教育方針の違い,仕事に対する考え方の違い(たとえば,転職を繰り返す夫に対する不満,働くように言っても働かない妻に対する不満等),仕事人間で全く子育てに協力してくれない,性的不調和等様々です。
 それでは,これらの事情は離婚原因となるのでしょうか。
結論からいうと,上記の事情のみで裁判所が離婚を認めるかと言われると,まず厳しいでしょう。しかし,結局は,そのような価値観の違いによって夫婦関係に亀裂が生まれ,会話がなくなり,家庭内別居や完全別居に至ったりするケースがほとんどです。そして,裁判所は,そのような過程全般や当事者の意思を含めて最終的に夫婦関係を修復する余地があるかどうかという判断をします。そのため,,性格の不一致を理由にして裁判所に離婚を認めてもらうためには,性格の不一致を証明するだけでなく,それを原因として夫婦関係が現状どのようになっているか等を具体的に主張する必要があります。また,性格の不一致だけでなく,その他の離婚原因を含めた攻防を前提とした上で,裁判所の勘所を把握してそれに対応した訴訟進行をすることが求められることになります。
したがって,離婚案件の経験豊富な弁護士に依頼すべきでしょうし,今までの長い夫婦生活全てが訴訟で戦うためのヒントですから,じっくりと話を聞いてくれる弁護士に依頼することが最善の解決につながるものだと考えられます。

2017.07.26

【慰謝料】こんなやつと同棲できない!慰謝料って払わないといけないの?

「私は,彼と結婚式を挙げましたが,諸々の事情から婚姻届を出さずに事実婚という選択をしていました。最近,彼とどうしても生活リズムが合わず,体調を崩してしまい,少し実家で療養していました。すると,彼から『夫婦関係を解消したい』との連絡が来たのですが,私はどうすればいいのでしょうか?私は彼との関係を解消しないといけないのでしょうか?彼との生活を支えるために仕事も辞め,専業主婦として暮らしていたので,今後の生活も不安で仕方ありません。」
今回は,こんな相談について,アドバイスをさせていただきたいと思います。

1 内縁関係ってなあに?

今回の相談者は,彼と夫婦として生活を共にしており,婚姻届を提出していないだけですので,内縁関係にあると言って差し支えないでしょう。(本来は,彼との出会いから現在に至るまでの生活など,多種多様な事情をお伺いして,内縁関係と認めるに足りるかどうか,詳細な検討が必要ですが,今回は内縁関係にあるという前提でお話を進めさせていただきます。)
内縁とは,婚姻意思をもって共同生活を営み,社会的には夫婦と認められているにもかかわらず,法の定める婚姻届出手続をしていないため,法律的には夫婦と認められない男女の関係をいいます。
ここで,内縁関係にあるといえるかは,夫婦共同生活の実態とその継続性,性的関係の継続性,妊娠しているか否か,家族や第三者への紹介,見合い・結納,挙式など慣習上の婚姻儀礼の有無などから,実質的に夫婦と言えるかどうかを判断することになります。

2 内縁を解消したら慰謝料って発生するの?

 内縁とはいえ,婚姻届を提出している他の夫婦と同様の夫婦共同生活を営んでいるのですから,これを解消するとなれば,内縁解消を告げられた方は相当の精神的苦痛を伴うことが当然でしょう。そのため,内縁を解消された人の精神的苦痛を慰謝するため,内縁関係を正当な理由なく解消した人は,相手方に対して損害賠償責任を負うことになります。そのため,慰謝料が発生するか否かは,「内縁関係の解消に正当な理由があるかどうか」によって結論が変わります。
 ここで,「正当な理由の有無」は,内縁開始から解消に至るまでの各種事情や当事者双方の行為を総合的に考慮して判断することになります。このときヒントとなるのが,民法770条1項が定める離婚原因です。内縁とは,前述の通り,婚姻届を提出していないために法律婚としては認められないものの,実質的には法律婚の夫婦と大差ないため,法的保護を及ぼそうという考え方です。だとすれば,内縁を解消する際の物差しは,法律婚である婚姻を解消する離婚の場合と足並みを揃えて考えなくてはなりません。そこで,裁判所は,離婚の場合を参考にして,不貞行為,悪意の遺棄(たとえば,同居しているのに生活費を渡さないこと等がこれにあたります),虐待,侮辱,強度のヒステリー,異常な性欲などの事情が存在する場合は「正当な理由がある」と判断する傾向にありますが,性格の不一致,家風に合わないこと,健康状態や内縁成立前の経歴などの事情は「正当な理由がない」として,慰謝料の支払義務を認める傾向にあります。

3 内縁関係って正当な理由がないと解消できないの?

 話しは少し逸れますが,内縁関係を解消したことで慰謝料が発生するかどうかではなく,内縁関係を解消すること自体にも,正当な理由が必要なのでしょうか?
 先ほどの「慰謝料が発生するかどうか」という問題では,離婚の場合と足並みを揃えて考えましたが,「内縁関係を解消できるか」という問題は別です。離婚の場合は,離婚届を提出しないと離婚が成立せず別れることができませんし,そのためには相手方から署名押印をしてもらわないといけません。しかし,内縁関係は事実上の関係ですので,一方的に関係を絶ってしまえば,正当な理由が無くても内縁関係を解消すること自体は可能です。あくまで,「内縁関係を解消できるか」と「慰謝料が発生するかどうか」は別問題なのですね。

4 相談への回答

 今回の相談の場合には,結婚式を挙げたうえで一緒に暮らしているのですから,内縁関係の存在が認められる可能性は高そうです。
 そして,相手の体調が崩れ,実家で一時療養していることをもって内縁を解消することは,正当な理由があるとはいえません。(本来は,彼から詳細な事情を聴き取り,内縁を解消する理由が何なのかをもっと明確化しないといけませんが。)
 そのため,気持ちが離れてしまった以上,内縁関係は解消せざるを得ないかもしれませんが,内縁関係解消に伴い,財産分与請求はもちろん,不法行為として慰謝料の請求をすることができると思われます。
内縁関係解消の場合,婚姻とは違うからという理由で,あまり専門家に相談することなく進むケースが散見されます。しかし,前述の通り,内縁と婚姻はほぼ同等に法的保護に値しますので,内縁を解消する場合には,離婚するときと同じような段取りが必要となるものです。そうなると,財産分与・養育費・婚姻費用・慰謝料など多種多様な法的問題が発生することが通常ですから,必ず経験豊富な弁護士に相談されることをお勧め致します。

2017.07.25

【慰謝料】いきなり婚約破棄された場合、慰謝料ってどれくらいとれるの?

長年付き合った交際相手からプロポーズされ,婚姻に向けて着々と準備を進めていたのに,その交際相手の浮気が発覚して,浮気相手と結婚するからと婚約を破棄されてしまった…。このように不貞行為をした相手から婚約を破棄された場合に慰謝料はどれくらいとれるのでしょうか?今回は,不貞行為をした相手による婚約破棄の場合を想定して、慰謝料の相場などについてお話しいたします。

1 どんなときに慰謝料をもらえることになるの?

婚約破棄によって慰謝料を請求するためには、婚約が成立していることと婚約の解消に正当な理由がないことが必要になります。

(1) 婚約が成立していること

婚約とは,将来婚姻をしようという当事者間の約束を言い,プロポーズの存在だけではなく,婚約指輪の授受・結婚式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施といった多種多様な事情を総合考慮することになります。そのため,交際中に「一緒に暮らそう」、「ずっと一緒に居たい」といった発言があるだけでは婚約があるとは認められないことが多いでしょう。
 婚約の成否は,実際の事件において争われることも多いのですが,今回のお話の前提として婚約は成立しているものとしてお話をさせて頂きたいと思います。

(2) 婚約の解消に正当な理由のないこと

婚約を解消した場合,正当な理由のない限り,婚約を履行しなかったとして損害賠償責任を負うことになります。
 今回は,不貞行為をした相手が婚約破棄をしたというケースを想定していますので,婚約を解消する正当理由は認められないという前提でお話をさせていただきます。(なお,正当理由の有無の判断は,婚約解消に至る諸般の事情の総合判断になりますので,専門家にご相談ください。)

2 賠償すべき慰謝料

 では,ここから本題である慰謝料の話に入っていきたいと思います。

(1) 慰謝料の相場と考慮事情

さて、それでは婚約が不当に破棄されたとしていくらくらいの慰謝料をもらうことができるのでしょうか?
 一般に,婚約破棄によって支払われる慰謝料の相場は50万円~200万円程度とされていますが,事案によっては300万円程度の高額な慰謝料が認容されることもあります。
 裁判所はどういった事情を考慮して慰謝料の額を決定しているのでしょうか?
裁判所は慰謝料の額を判断するにあたって

・婚約破棄に至るまでの期間や原因
・性交渉の有無、程度
・お互いの年齢差
・被害者の年齢
・同居の有無、期間
・社会的地位や資産
・婚姻の準備の程度
・妊娠・出産の有無
・婚約に伴う退職の有無

 といった事情を考慮して判断することになります。

(2) 事例の紹介

以上のような事情を踏まえて、裁判所がどのような判断しているか参考になる裁判例を紹介したいと思います。

〈事案①〉

請求者 女性→男性
請求額→認容額 請求額300万円→認容額100万円
判断の理由 女性が婚約期間中に妊娠・流産したこと,男性の婚約不履行の動機が別の女性との交際にあったと伺われることが増額に影響している一方で,知り合ってから婚約破棄に至るまでの期間が5か月余りにすぎないこと,女性が婚姻の準備のために特別の経済的出損をした事実は伺われないことが減額に影響している。
婚約破棄の理由 男性が浮気をしており,男性から一方的に婚約破棄

〈事案②〉

請求者 女性→男性
請求額→認容額 請求額500万円→認容額250万円

判断の理由 男性から結婚を申し込まれ男性との結婚生活を夢見て準備を重ねてきたのに,男性に浮気相手がおり,しかも妊娠させていたこと,そのため女性が知り合いのいない土地で体調を崩したこと,男性とその父が女性を残し浮気相手との面会に行ったときの女性の悲痛,母親に付き添われて実家に戻った女性の心痛などを考慮した。
婚約破棄の理由 男性に浮気相手がおり,その女性を妊娠させていたため,女性から婚約破棄

〈事案③〉

請求者 女性→男性
請求額→認容額 請求額600万円→認容額80万円

判断の理由 女性が20歳代から30歳代にかけての10年以上交際していたため,その間に,不妊治療に適切な時期を逸したこと,婚約破棄によって,円形脱毛症に罹患するほど多大な精神的苦痛を受けたことが認められることが増額に影響している。
他方で,婚約から婚約破棄までの期間は約1年にすぎないこと,それまでの交際期間も無駄ではないことなどが減額に影響している。
婚約破棄の理由 男性から一方的に婚約破棄

〈事案④〉

請求者 女性→男性
請求額→認容額 請求額450万円→認容額300万円

判断の理由 男性の一方的な婚約破棄のほか,男性が女性を熱心にイギリスに来るよう誘っていたこと,女性がそれまでの勤務先を退社して,元夫との長女とともに渡英したことなどを考慮した。
婚約破棄の理由 男性が深夜まで帰宅せず,また女性と旅行に行くなどしたうえ,男性から一方的に婚約を破棄

〈事案⑤〉

請求者 女性→男性
請求額→認容額 請求額1000万円→認容額300万円
判断の理由 婚約期間約9か月という事案で,男性の暴力がひどいために婚約を破棄せざるを得なかったこと,女性がこれによって受けた精神的苦痛は甚大であることが考慮されている。
婚約破棄の理由 男性の暴力に耐えきれなかったため,やむなく女性から婚約破棄

〈事案⑥〉

請求者 男性→女性
請求額→認容額 請求額1000万円→認容額100万円
判断の理由 女性が婚約から1年半後に別の男性からプロポーズを受けたため,婚約を破棄したこと,男性が心療内科にかかり治療を受けていることが増額に影響している。
他方で、男性が,婚約破棄後に女性に対して連絡をとろうと電話・メールをしたり,女性宅をいきなり訪ねたり,プロポーズをした男性に対して訴訟を提起したことしたなどが減額に影響している。
婚約破棄の理由 女性が別の男性からプロポーズを受けたため,女性から婚約破棄

4 まとめ

 以上のように,慰謝料の額は様々な事情を考慮して判断されるものですので,この事案ならいくらくらい認められるということは容易に言えるものではなく,弁護士や裁判官といった専門家によっても判断が分かれ,経験の浅い弁護士ですと正確な見通しを立てることが難しいものです。相談先の弁護士によっては高額の見通しを立てることもあるでしょうし,相談する方としては,高額の見通しを立ててくれる弁護士に惹かれてしまうのも仕方ありませんが,上記の通り,慰謝料は,事案や判断者によって金額が変わり得る性質のものです。また,請求額が高額になってしまうと訴訟費用や着手金などが高額になってしまうことになります。そのため,弁護士に依頼するとしても金額だけを意識するのではなく,なぜその金額になるのかをしっかりと説明してくれる弁護士に依頼すべきでしょう。
お困りの方はぜひ同種事案について経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。

2017.07.24

【慰謝料】彼氏が既婚者!奥さんから慰謝料を請求されてしまった…。支払わないといけないの?

「独身だと思って付き合っていたのに実は相手が既婚者で,奥さんからいきなり慰謝料を請求されてしまった」,「既婚者だとは知っていたのですが妻とは離婚調停中だと聞いていたので付き合っていました。しかし,本当はそんなことはなかったようで奥さんから慰謝料を請求されてしまった」このように慰謝料を請求されることはないと思っていたのにいきなり奥さんから慰謝料を請求されてしまうということは誰にでも起こりうることです。今回は,婚姻している男性と付き合っていた女性は必ず慰謝料を支払わなければならないのかという点についてお話ししたいと思います。

1 不倫相手に慰謝料請求できるの?

 そもそも浮気をした張本人である男性だけでなく,その相手である女性も慰謝料を支払わなければならないのでしょうか?
結論から言いますと,既婚者の男性と付き合っていた女性は,慰謝料を支払わなければならない場合があります。「場合がある」という表現にさせて頂いたのは,客観的に夫婦の婚姻関係が破綻している場合や,婚姻状態にあることを知らず,知らないのもやむを得ないという事情がある場合等は,慰謝料は発生しないからです。なお,不倫発覚後も婚姻関係が継続している場合でも慰謝料は請求できますが,離婚に至った場合は慰謝料の増額要素となります。

2 どんな場合に請求できるの?

 先程,婚姻関係が破綻している場合や,女性が婚姻状態にあることを知らず,知らないのもやむを得ないという事情がある場合や等には支払わなくてもいいとお話し致しましたが,具体的にはどのような場合がこれにあたるのでしょうか。ご説明させて頂きたいと思います。

(1) 婚姻関係が破綻している場合

 先程も述べましたように実際に婚姻関係が破綻している場合には慰謝料請求をすることはできません。既に婚姻関係が破綻しているのであれば,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的利益があるとはいえないからです。
 とは言っても,裁判所は,婚姻関係が破綻しているかについてはかなり慎重に判断しています。それでは,実際にどのような事案において婚姻関係が破綻していると判断しているか見てみたいと思います。

 

〈婚姻関係が破綻していたと認定した事案〉
・男性は,平成23年1月,妻との信頼関係が失われ,婚姻関係の継続が困難であると考え一旦別居しましたが,その後,同居を再開しました。しかし,妻と男性は精神的・経済的な信頼関係を回復することが出来ずにまた別居することになってしまいました。妻も同年6月頃には,男性に対して書面を交付して離婚に向けた協議を開始していました。このような事案において,妻と男性との婚姻関係は,遅くとも平成23年6月頃までには修復は著しく困難な程度に破綻していたと認定しました。

 

〈婚姻関係が破綻していないと認定した事案〉
・夫Xは,昭和60年頃,Aという女性と不貞関係にあったために,妻が夫に対して離婚調停を申立てる等,XY間の婚姻関係は破綻に瀕していました。その後,二人は別々の部屋で就寝するなど,家庭内では精神的に形骸化した生活を続けており,夫Xが妻Yに不貞を謝罪するといったこともありませんでした。しかし,夫婦の間でも平成7年頃まで肉体関係があったり,平成10年頃まで子供を連れて家族旅行に一緒に出掛けたりするなど表面的には平穏な家庭生活が営まれていました。このような状況で,平成13年頃から妻Yが男性Bと交際し始めたため,夫Xが男性Bに対して,不貞に基づく慰謝料請求訴訟を提起しました。このような事案において裁判所は,XY間の婚姻関係は破綻していないと認定し,慰謝料請求を認容し,妻Yに対して100万円の支払いを命じました。

以上のように,別居していたことや離婚を申し込んでいたことといった外形的な事実は破綻を根拠づけるような事実ではあるのですが,結局のところ,婚姻関係が破綻しているか否かは個々の事実単体で判断するわけではなく,諸事情を総合考慮して判断されるため,画一的な判断基準があるわけではありません。

 

(2) 婚姻状態にあることを知らなかった場合

 さて,(1)では客観的に婚姻関係が破綻していたかどうかということについてお話しさせて頂きましたが,ここからは客観的に婚姻関係が破綻していたかではなく,既婚者の男性と交際していた女性がどう思っていたのかについてお話しさせて頂きたいと思います。
既婚者である男性と交際していた時点で男性に妻がいることを知っているとき又は知ることができたときは,交際相手の女性は慰謝料を支払わなければなりません。もっとも,これを逆に言えば,女性が男性が既婚者であることにどうしても気付けないような場合であれば,慰謝料を支払わなくてもいいことになります。
 もっとも,裁判所は「既婚者と知りませんでした」と言っただけでは慰謝料を支払わなくてもいいと判断してはくれません。婚姻状態にあることを知らなかったと主張する場合,男性が婚姻していないと言っているメールなどだけではなく,周りの状況たとえば男性がどのような部屋に住んでいるだとか男性との交際期間であるとかの事情をも踏まえて主張する必要があります。

 

(3) 二人が上手くいっていないと思っていた場合は?

 では,例えば交際している男性から「妻とは上手くいっていない」と言われていた場合のように,婚姻していること自体は知っていたのですが,二人が上手くいっていないと思っていた場合,どうなるのでしょう?
 裁判所はこのような反論をあまり認めることはありません。女性が交際相手の男性の話を信用していたとしても,ただそれだけで女性の責任が直ちに否定されることはありません。既婚者の男性からの言葉は疑ってかかることが常識だからです。参考までに2つ裁判例を紹介いたします。

・女性は妻と同じ職場で勤務しており,男性が女性に対して夫婦関係は破綻していると説明している事案において,男性の説明を鵜呑みにして漫然と浮気を継続したとして不法行為を認定しました。
・上手くいっていないと言っていたことに加えて,男性がゴルフに頻繁に参加していたという事実があるとしても,婚姻関係が破綻したと信じたことには過失があり,不法行為を認定しました。
・女性が男性からだけはなく,その勤務先の人からも恐妻家であり束縛されていると聞いていた事案において,いずれも夫の一方的な言い分や職場における噂話のたぐいにすぎず,その旨信じたことについて相当の根拠があったとはいえないとして不法行為を認定しました。

 

3 彼氏が慰謝料を既に支払っている場合にも払わないといけないの?

 もっとも,仮に慰謝料を支払わなければならないとなったとしても既に夫が妻に慰謝料を支払っていた場合はどうでしょう?
 妻に対して慰謝料を支払わなければならないのは,女性と夫の二人で妻を精神的に傷つけたからです。そのため,その二人は共同不法行為者として連帯して慰謝料を支払わなければならないことになります。しかし,この慰謝料支払債務は,法律用語では,不真正連帯債務と言って,一方が義務を履行した場合,その限度で他方の義務は消滅することになります。
 よって,共同不法行為者の一人である夫が全額を支払っている場合,女性は妻に対して慰謝料を支払う必要はありません。もっとも,妻への慰謝料を全額負担した夫から女性に対して,女性の責任の割合に応じて求償を求められることはあります。

 

4 まとめ

 いかがでしたでしょうか?女性が交際相手の男性を独身者と思っていた場合でも慰謝料支払義務があるのかというテーマでしたが,結論としては,ケースバイケースであって,事案ごとに様々な事情を総合考慮して判断されることになります。女性が「独身だと思っていました」と言ったことや男性が「独身だ」と嘘をついていたことは,判断の一事情であって,それのみで決まるものではありません。そのため,どのような事案でどのような結論になるのかというのは多くの経験を積んでいる弁護士の判断が必要になってきます。
 また,慰謝料は先ほども述べたように男性か女性かのいずれかが妻に対して支払っていれば,その分慰謝料請求権は消滅するため,男性の協力が得られれば,負担額を調整して協議を進めることも可能です。しかし,妻から女性に対して慰謝料請求をされた段階で,女性は既に男性と交際を解消しており,男性と連絡が取りづらいこともあります。このような場合には,冷静な視点を持った第三者を入れることが解決の秘訣です。
 したがって,経験豊富な弁護士に依頼することで適切な解決を図ることができるでしょう。

2017.07.23

【離婚問題】夫が借金を抱えて蒸発しちゃった…。行方も分からないし離婚できないか?

「夫が消費者金融に手を出してしまって多額の借金を残したまま,蒸発してしまいました。もう5年経つのですが,離婚できないでしょうか?」法律事務所にはこのようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃいます。こういった場合に離婚できれば,母子家庭として社会給付上のメリットを増やすことも可能ですし,精神的にも離婚して心機一転,新たなスタートをきることも可能でしょう。そこで,今回は,こういった場合に離婚ができるかについてお話ししたいと思います。

1 どうやって離婚すればいいの?

 離婚をしようとする場合においては,4つの方法があります。
まずは,協議離婚という方法を行うことになります。これは,当事者間での話し合いをいい,一般的な離婚のイメージがこれにあたります。そして,協議離婚がどうしてもできない場合には,調停離婚(裁判所を入れて当事者間で話し合いをします。)を行うことになります。これらの制度は話し合いによるものであるので,「離婚しよう」という合意ができるのであれば,どんな理由でも離婚することができます。たとえば,お互いの性格が気に食わないといった理由でも,宗教観が合わないといった理由でも離婚ができるのです。

しかし,今回のように行方不明になっている場合には,そもそも話し合いができませんから協議離婚や調停離婚はできません。
そうすると,判決離婚(裁判所に離婚できるかを決めてもらうものを言います)という手続によるしかありません(審判離婚という方法もありますが,実際に使われることはほぼないので省略します。)。

もっとも,通常であれば,裁判所に対して離婚を訴える場合は,離婚調停という裁判所での話し合いが通常は行われるのですが,当事者の一方が蒸発している場合には,そもそも配偶者が行方不明なのですから裁判所を介在させたとしても話し合いを行うことはできません。そこで,調停という手続を経ずに裁判所に訴訟を提起することになります。(通常は,「調停前置」といって,ひとまず調停を試み,それでもどうしても話し合いで離婚できないときに初めて訴訟を提起する決まりになっています。しかし,話し合いをするための相手方が見付からないのであれば,話し合いのしようがありませんので,調停は飛ばして訴訟提起することが認められます。)

そして,判決離婚においては,一方的に離婚することになるため,「離婚を命じられても仕方がない」といった事情がある場合に限って判決で離婚ができるようにしています。それでは,実際に法律がどのような離婚原因を規定しているか見て行きたいと思います。

民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由

 

2 夫が借金を残して蒸発したことは離婚原因にあたるの?

では,今回のように夫が借金を残して蒸発してしまった場合は,上で見た離婚原因のどれにあたるのでしょうか。
配偶者が行方不明である場合に考えられるのは,①配偶者から悪意で遺棄されたとき,②配偶者の生死が3年以上明らかでないとき,③婚姻を継続し難い重大な事由があるとき,の3つの構成が考えられます。実際にどれを理由として主張するかについては,事案によって変わってきますが,失踪の年数などを考慮して決定することになると思います。

また,裁判所に対して訴えを提起する場合には,訴訟の相手となる人に対して訴状という書面に離婚原因を記載して送達することになります。しかし,当事者が蒸発している場合では,配偶者が行方不明であることから,裁判所の掲示板に相手方の氏名を掲示するという公示送達という手段によることになります。しかし,裁判所は,公示送達を簡単には認めません。裁判所は,相手方の知らない間に判決がでる公示送達という手続を極力避けようとしますので,公示送達を認めてもらうためには,相当念入りな調査が必要になります。この調査は当事者で行うことが極めて困難でしょうから,弁護士事務所を経由して調査会社などに依頼するのが適切でしょう。

3 まとめ

 今回のように,配偶者が失踪してしまった場合には,経済的な支柱がなくなってしまっているのですから,実態に合わせた社会的な保護を受けたい,早く気持ちを切り替えたい,と考えるものだと思います。
ただ,蒸発を理由として離婚する場合には,①調停で裁判所に慣れる前にいきなり訴訟が始まってしまうこと,②公示送達が認められるには,様々なハードルがあり専門家でないと判断が難しい場面が多いこと,③蒸発からの年数によって失踪宣告を用いることもできるなど法的知識が必要になることから,弁護士に依頼することが望ましいといえます。

2017.07.22

【離婚問題】セックスレスって離婚できるの?

性生活は,夫婦関係の重要な要素の一つといえます。そのため,男性女性を問わずセックスレスでお悩みの方は多くいらっしゃり,もはや社会問題といえる状態にあります。セックスレスによって,夫婦関係の悪化や浮気・不倫につながることも多いですが,性生活は法律の世界でも結婚の重要な要素と考えられています。今回は,そんな性生活と離婚についてお話ししたいと思います。

1 セックスレスってなあに?

 まず,そもそもセックスレスという言葉を聞いたこと自体はあると思いますが,その内容まではあまりご存じではない方もいらっしゃると思います。
日本性科学会によれば,「セックスレス」とは「特別な事情がないにもかかわらず,カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上ないこと」を指します。これは,個人によって長いとみるか短いとみるか分かれるところでしょうが,ある程度期間を設定するとなると,この程度の期間が目安になるのでしょう。

2 セックスレスを理由として離婚できるの?

 離婚をする場合においては,協議離婚(当事者間における話し合い),調停離婚(調停委員関与の下での当事者間での話し合い),判決離婚(裁判官が判決によって離婚の可否を決める手続)などの方法を用います。(なお,審判離婚という方法もあるのですが,実際に使われることはあまりないので省略します)。
協議や調停等,当事者間の話し合いによる離婚手続の場合は,どのような理由でも離婚することができるため,セックスレスを理由としても離婚することができます。
しかし,残念ながら,当事者同士の話し合いがまとまらない場合もあります。その場合,当事者の一方がどうしても離婚したいという場合は,訴訟を提起して離婚を求める形になります。このように判決によって離婚をする場合においては,公権力を使って無理やり離婚させることになるのですから,法律で定める離婚原因,すなわち,「離婚を命じられてもやむを得ない」といった事情がある場合に限り,離婚ができる制度となっています。
それでは,法律において,どのような離婚原因が定められているか見てみましょう。

民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由

法はこれらの場合に,裁判によって離婚ができるとしていますが,セックスレスは①~④にあたらないことは明白だと思います。そのため,セックスレスが「婚姻を継続し難い重大な事由」であると認められることが必要になります。

3 実際にセックスレスを原因として裁判所で離婚できるの?

 それでは,セックスレスを原因に裁判所に離婚を申し立てる人の割合はどのくらいなのでしょうか。「実際に悩んでいたとしても,セックスレスで裁判所に離婚を申し立てる人なんてあまりいないんじゃないの?」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし,そんなことはないんです。家庭裁判所に婚姻関係の事件を申し立てる際に記載する「動機」欄に「性的不調和」という項目がありますが,約10%がこの項目を選択しており,決して少なくない割合の人がセックスレスなどの「性的不調和」を理由のひとつとして,離婚を申し立てているのです。
 もっとも,これだけでは実際に離婚ができるかは分かりませんね。なので,実際にセックスレスを理由として離婚が認められたケースを紹介したいと思います。

【福岡高判平5.3.18】
・夫がポルノ雑誌やビデオに興味を持ち,自慰行為に耽り,妻が性交を求めてもこれに応じず,妻との性交が入籍後5か月で2,3回程度と極端に少なく,それ以降約1年4か月間は全く性交に応じなかった事案において,裁判所は,正常な夫婦の性生活からすると異常というほかはなく,指摘されても改めていないこと,夫は妻への愛情を喪失し,婚姻生活を継続する意思が全くないこと等の事情から「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断しました。

【名古屋地裁昭和47.2.29】
・夫が同性愛に陥り,長年妻との間で性交を行っていなかったという事案において,裁判所は,性生活は婚姻生活における重大な要因の一つであって,数年間にわたり夫との間の正常な性生活から遠ざけられていることや,妻が夫の同性愛関係を知ったことによって受けた衝撃の大きさを考えると,夫婦相互の努力によって正常な婚姻関係を取り戻すことは不可能と認められるとして,「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断しました。

 

先程お話ししたように,日本性科学会の定義によれば,合意の上での性交が1ヶ月程度無ければセックスレスにあたるとされています。しかし,裁判所において,セックスレスが離婚の原因として考慮されるためには1ヶ月では短く,だいたい「1年」程度の期間が必要とされています。
そして,セックスレスもただそれだけで直ちに離婚原因となるわけではなく,一方的な性交拒否が愛情の喪失・不存在を示すような場合や性交不能を婚姻前に知っていたにもかかわらず告げなかったような場合に,離婚原因があると判断される傾向があるようです。
なお,セックスレスではないですがこれに類する問題として,昼夜を問わず性交渉が強要されるなど,通常と比べて著しく強い性欲がある異常性欲の場合も,離婚原因となりえます。

4 まとめ

 セックスレスが原因で離婚が認められるケースというものも多数存在しています。性の問題はなかなか口にしにくいですが,埋めがたい溝ができる前に,相手の意向を尊重しながら夫婦間でしっかり話し合うことが大切です。どうしても解決できそうにない場合には,弁護士に相談することもいいかもしれません。相談にあたっては,プライバシーの核心にあたるような問題ですので,異性には話しにくいことがあるかもしれません。また,同種事案について経験の浅い弁護士ですと対応に困る場面が生じる可能性があります。
 そのため,同種事案について経験が豊富であり,同性の弁護士がいる弁護士事務所にご相談されることをお勧めいたします。

2017.07.21

【離婚問題】夫が風俗に通っていた場合に離婚できないか?

「夫のスーツから風俗店の名刺が出てきた!風俗店に行ったのではないか?」こんなことがあれば心配になるのも当然です。本当に夫が風俗に行っているとしたら女性としては「汚い…」「離婚したい」と感じ場合もあるでしょう。今回は,夫が風俗通いをしているときに離婚できないかについてお話ししたいと思います。

1 どんなときに離婚できるの?

離婚をしようとする場合には,協議離婚(夫婦での話し合いを行う。一般的な離婚のイメージです。),調停離婚(裁判所が間に入って話し合いを行います。),裁判離婚(裁判所が離婚を認めるか判断します。)などの方法をとることになります(審判離婚という方法もありますが,実際に使われることはあまりないので省略します。)。
協議や調停といった方法で「離婚しよう」という合意ができるのであれば,どんな理由でも離婚することができます。そのため,夫さえ納得すれば風俗に通ったことを理由として離婚ができます。
しかし,協議や調停で離婚の合意ができない場合,それでも離婚したいときは,裁判によって離婚できないかを検討することになります。このように裁判で離婚しようとする場合は,離婚したい人と離婚したくない人を国家が強制的に離婚させる訳ですから,その夫婦に「離婚を命じられても仕方ない」という事情がある場合に限って,裁判で離婚を命じることができるようになっています。
では,実際に法律がどのような離婚原因を定めているか見てみましょう。

民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由

今回では,①「不貞行為」にあたりそうですね。それでは,風俗店に通っていることが「不貞行為」にあたるかについて詳しく検討してみましょう(本来は,もっと依頼者から事情を伺った上で,様々な事情を考慮して検討するものです。そして,①「不貞行為」に該当しなかったとしても,⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性もあると思います。)。

2 不貞行為にあたるか?
「不貞行為」という言葉は,法律家でもない限り,日常生活で聞くことはあまりないと思います。「不貞行為」を簡単にいうと日常用語で言うところの「浮気」と同じような意味と思っていただいて構いません。そのため,今回のように「浮気じゃないのか?」ということが問題となっている場合には,「不貞行為」といえるかを最初に検討することになります。

日本では,一夫一婦制の下,夫婦は相互に貞操義務(夫婦以外の他人と性的関係を持って行葉いけないという義務ですね。)を負っており,「不貞行為」を行うことは,貞操義務に違反することになり,相互の信頼関係を破壊することになってしまうので離婚原因とされています。そのため,「不貞行為」とは,貞操義務に違反すること,すなわち配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいいます。

 では,結局のところ,「不貞行為」とは何を指しているのでしょうか?
 この点について,裁判所は「不貞行為」を明確に定義しておりません。そのため,性交渉を行うと不貞行為なのか,性的類似行為でも不貞行為なのか判然とはしません。しかし,過去の裁判例において「不貞行為」と明確に認められ,離婚が成立した事案は性交渉が行われた事案に限定されております。したがって,「不貞行為」という言葉の定義がどうかという問題ではなく,裁判所は実際に性交渉を行わないと,なかなか離婚まで認めない傾向にあることは確かです。(離婚を認めるかどうかと,慰謝料を認めるかどうかは別次元の問題なので,性的類似行為だったとしても慰謝料が認められることには争いがないでしょう。)

そうなると,風俗に通っていたことで慰謝料が発生することは当然として,「不貞行為」に該当するとして離婚まで認められるかは,少し厳しいと言わざるを得ません。その風俗店で,女性と性交渉を行ったことが立証されれば別問題ですが。
これに対して,夫は,仮に風俗店で性交をしていることを認めたとしても,かなり虫のいい話ですが,①「本気じゃないから不貞行為ではない」,②「1回だけしか性交渉をしていない」といったように反論してくることがあります。

3 夫の反論は認められるのでしょうか?
では,これらの反論は認められるでしょうか?

(1) ①本気じゃないと不貞行為ではないのか?

かなり虫のいい話だと思いますが,①「本気じゃないから不貞行為ではない」との反論がされることが訴訟ではたまにあります。
これについては当然ですが,夫の言うように本気じゃないとしてもその意思に基づいて性交渉をしている以上,不貞行為になると判断されることが多いです。本気かどうかが問題なのではなく,実際に性交渉をしたかどうかが問題になっているからです。

(2) ②1度だけでも不貞行為にあたり離婚しなければならないの?

また,②「1回だけしか性交渉をしていない」といっても,もちろん認められないことの方が多いと思います。
前でも述べたように,「不貞行為」とは,配偶者以外の者と性的関係を持つことをいうとされていますので,回数に関係なく,すなわち1度だけの性交渉でも「不貞行為」といえるからです。
もっとも,裁判所が必ずしも離婚を認めるかというとそうではありません。民法770条2項は,裁判所は,770条1号(不貞行為)に該当する事実があったとしても,「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。」としており,不貞行為がある場合でも離婚請求を棄却する余地を残しています。したがって,今回の夫の反論のように,本気ではなく,一度だけしか性交渉をしていないということが事実である場合,それに加えて,その後の夫の行動(夫婦関係の修復に努めているか)や妻の対応等を総合考慮し,夫婦相互の信頼関係が致命的に破壊されたとまではいうことができないと判断された場合には,離婚請求が棄却される可能性があります。そのため,夫が風俗店で性交渉をしたことが判明したとしても,裁判での離婚が認められないと判断されることも可能性としてはあり得るところでしょう。

4 まとめ

以上のとおり,夫が風俗店に通ったという理由で離婚を請求するには,風俗に通ったことを「不貞行為」として主張したり,「婚姻を継続し難い重大な事由」として主張する形になりますが,いずれにしても,夫が「性交渉はなかった」等と反論して認めない場合には,性交渉があったことをうかがわせる証拠を収集して立証しなければなりません。しかし,不貞行為は,密室での行動であることが多く,証拠を掴むことは難しいため,場合によっては探偵を頼まなければ証拠を掴めない場合もあります。ただ,探偵費用はかなり高額ですので,探偵を依頼できない人の方が多いでしょう。その場合は,メールやLINEの履歴,携帯の画像を証拠として保存したり,密会の場所,時間帯,頻度等から性的関係をうかがわせる事情がどれだけあるか等を積み重ねて主張立証していくことになります。
結局のところ,風俗であることはあまり関係がありません。いくら風俗が適法なお店であるからといって,一般女性と性的関係を持つことと,お金を払って風俗で性的関係を持つことは,同じく性的関係を持っている以上,区別する理由はありません。
以上の通り,どのような事実をどの程度主張すれば「不貞行為」や「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかについては,法的判断になりますので,この分野を多数取り扱っている専門弁護士にご相談されるのがよいでしょう。お悩みの際には,経験豊かな弁護士にご相談するようにしてください。

2017.07.20

【離婚問題】夫に彼氏がいた!?同性同士でも浮気になるの?

「夫が浮気をしていた、しかもその相手が男性だった。」こんな相談者が稀にいらっしゃいます。夫が浮気をしていただけでもショックなのに、今まで人生のパートナーと見ていた相手が同性愛者だったということで、極めて大きなショックを受けて、どうすれば良いのか分からないといった方に出会います。それだけのショックを受けて当たり前でしょう。
では、夫が浮気をした相手が男性だとしても,離婚することはできるのでしょうか。今回は,同性同士の浮気でも「不貞行為」になってしまい、離婚しないといけないのかという問題についてお話ししたいと思います。

1 どんなときに離婚できるの?

離婚をしようとする場合においては,4つの方法があります。
まずは,協議離婚という方法があります。これは,一般的な離婚のイメージと同じであって当事者間での話し合いを言います。
協議離婚がどうしてもできない場合,調停離婚を行うことになります。これは,裁判所を入れて当事者間で話し合いをするという方法です。これらの2つの制度は話し合いによるものであるので,「離婚しよう」という合意が可能であれば,どんな理由でも離婚することが可能になります。
しかし、どうしても話し合いがまとまらない場合には、判決離婚(裁判所に離婚できるかを決めてもらうものを言います)という手続によるしかありません(審判離婚という方法もありますが,実際に使われることはほぼないので省略します。)。

判決離婚は,裁判所の力を使って離婚することになるため,「離婚を命じられてもやむを得ない」といった事情がある場合に限って可能であると言えます。それでは,実際に法律がどのようなときが「離婚を命じられてもやむを得ない」と考えているかを見てみましょう。

民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由

今回では,①「不貞行為」にあたる可能性がありそうですね。それでは,まず同性との浮気が「不貞行為」にあたるかについて詳しく検討してみましょう(これだけの事実では難しいかもしれませんが,⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性もあります。)。

2 不貞行為ってなあに?

「不貞行為」という言葉は,普通聞くことはほぼないと思います。「不貞行為」を簡単にいうと日常用語における「浮気」と同じような意味と思っていただいて構いません。そのため,今回のように「浮気じゃないのか?」ということが問題となっている場合においては,「不貞行為」といえるかを最初に検討することになります。
日本では,一夫一妻制のもと夫婦は相互に貞操義務(浮気をしてはいけないという義務のことです)を負っており,「不貞行為」を行うことは,貞操義務に違反することになり、相互の信頼関係を破壊することになってしまうので離婚原因とされています。そのため,「不貞行為」とは,貞操義務に違反すること、つまり配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうとされています。
 もっとも,性的関係とは何を意味しているのでしょうか?
 この点について,裁判所は「性的関係」を性交に限定して解釈しています。そうだとすると,裁判所は,不貞行為とは異性間で起こるものであることを前提としていると考えられます。
 よって,同性同士で性的な接触を行ったとしても「不貞行為」には該当しません。したがって,同性同士での浮気をしたことが「不貞行為」にあたるとして離婚することはできません。

3 じゃあ婚姻していても同性同士ならいくらでも浮気をもっていいの?

 では,夫と離婚することはできないのでしょうか?
同性であるために「不貞行為」に該当しないとしても,妻以外の人と浮気をすることは、夫婦の本質的な要素である性的生活を破壊するに足りる行為であるといえるはずです。そのため,夫が同性の相手と性的関係をもったことが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断されれば、離婚をすることができます。
この点について,夫が婚姻前から同性愛を続けており,妻との間で性交渉を全く持とうとしなかったという事案について,性生活は婚姻生活における重大な要因の一つであって,妻がすでに,すでに数年間にわたり夫との間の正常な性生活から遠ざけられていることや,夫が同性愛者だと知って妻が受けた衝撃の大きさを考えると,妻・夫相互の努力によって正常な婚姻関係を取り戻すことはまず不可能と認められるということから,「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在すると判断して,妻からの離婚請求を認めた裁判例があります(名古屋地判昭和47年2月29日)。
この裁判例の判断に従えば,単に夫が同性の相手と性的関係をもったというだけでは「不貞行為」だけではなく,「婚姻を継続し難い重大な事由」にも該当しないと判断される可能性も十分にあると思われます。「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するか否かは,同性との浮気だけでなく,そのために妻との性行為がなされていないことなども考慮して判断されることになるでしょう。

4 まとめ

 以上のような裁判例があることからすれば,同性愛行為を夫がした場合であっても,簡単には離婚できないといわざるをえないでしょう。しかし,異性とはいえ性的関係を持たれることは,精神的に大きなダメージを負うものであることは疑う余地がありません。離婚をしたいと考えることは当然ともいえるでしょう。
 こういった場合でも同種事例について経験豊富な弁護士であれば的確な対応をできますので,お困りの方は同種事例について経験豊富な弁護士に一度,相談してみてください。

 

2017.07.19

【離婚問題】夫の暴力に耐えられない…。弁護士が教えるDVと離婚

全国の警察が2015年に把握したドメスティック・バイオレンス(domestic violence;以下,DVといいます)被害は,6万3,141件と,過去最多を更新しました。事件として摘発されたのは,8,006件で,そのなかには殺人・殺人未遂が99件,傷害致死が2件もありました。また,ストーカー被害についても,約2万2000件にものぼりました。
 社会的にDVが犯罪であることの認識が高まったことにより,相談件数が増えたこともあるのでしょうが,これだけの人数が配偶者等からの暴力に困っている現実があります。今回は,DV被害にあった場合の離婚と対応の方法についてお話ししたいと思います。

1 DVとは?

DVについて,明確な定義はありませんが,我が国では「配偶者や恋人など親密な関係にある,又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いようです。なお,ここでいう暴力には,身体的なものだけではなく,経済的なものや精神的なものも含まれます。
DVにおいて注意すべきは,何よりも自分の身の安全を確保することになります。DVの被害者が離婚を切り出すと,DV加害者は逆上して暴力をふるうというケースが多く,まずは別居の準備を最優先に行い,相手に気づかれないように細心の注意を払って準備を進める必要があります。なお,暴行の事実を証拠として残すため,暴行を受けた際には,怪我の状況を写真で保存しておくことや日記に記録しておくことなども有効です。

2 DVと離婚

(1)協議離婚

離婚の方法については,まずは協議離婚(当事者間での話し合いを言います。一般的な離婚のイメージがこれだと思います。)を検討することになりますが,他の離婚原因(例えば不貞行為等)と異なり,DV事案は,そもそも暴力を受けるおそれ等から話し合いができない場合がほとんどでしょう。ですので,離婚の話し合いを行うにしても,まずは別居して身の安全を確保し,親族や弁護士等の第三者を介入させて,話し合いを進めていく必要があるでしょう。

また,DV事案は,夫婦生活の中で既に上下関係が構築されており,ご本人では相手方と対等に話ができないケースがほとんどですので,離婚の話を持ちかけても全く話にならず,かえって暴言ばかり浴びせられ,精神的に追い込まれてしまうケースも多々あります。また,別居後も相手方が繰り返しメールや電話で脅迫してくることもあり,それが負担でせっかく別居したのにまた元に戻ることを選択してしまうケースもあります。

以上のとおり,DV被害者本人による離婚協議は精神的負担とリスクが大きく,相手と接触し続けている限り,なかなか関係を断ち切れない場合が多いため,早急に弁護士を立て,弁護士を窓口にして手続きを進める必要があります。また,別居のタイミングや,DVの証拠の収集方法,住民票の移動の問題等,様々な点が問題になりますので,DVで離婚をお考えの方は,早い段階から弁護士に相談した上,適切な助言の下,慎重に手続きを進めていくことをお勧めします。

(2)調停・裁判離婚

協議で解決できなかったときには,調停の手続きを経たうえで,判決による離婚を求めることになります。この場合,DVは「婚姻を継続し難い重大な事由」(770条1項5号)に該当して,判決によって離婚できる余地があります。なお,離婚できるかどうかは,DVの被害の程度や証拠の有無によりますので,正確な見通しを立てるためには専門家にご相談された方が良いでしょう。

また,DVの存在が証拠上認められ,DVが原因で離婚が認められた場合には,財産分与とは別に,慰謝料の請求も認められます。この場合の慰謝料は,被害の程度により数十万円のものもあれば数百万円に上るものもあります。もっとも,DV事案は客観的な証拠が残っていないことが多く,真実はDVがあるにもかかわらず,証拠がないため裁判所にDVを認めてもらえず,慰謝料も否定されるというケースが多々あります。

たとえば,たまに相談を受ける中で,「2年前に夫が酔って暴れてあざが残るほど殴られました!これってDVとして離婚原因になりますよね?」と聞かれたりしますが,よくよく話を聞いてみると,その時は病院に行っておらず,怪我の写真も一切残っておらず,現在は怪我も消えてしまっているという状態でした。これでは,残念ながら証拠がなく,相手方が「暴力など振るっていない」と主張してきたら証明できず,離婚原因として認定されません。このように,DVは,適切な証拠保全が必要になりますので,DVを理由とする離婚や慰謝料請求で勝訴するためには,証拠収集の方法から弁護士に相談して準備されることをお勧めします。

また,DVの場合,相手方に新しい住まいを知られないように配慮することがそれ以外の事件と比較しても重要となってきます。DVの加害者は,仮に離婚が成立したとしても,元妻に執着し,ストーカー化することがあるからです。最悪の事態を防ぐため,DV防止法というものが準備されていますので,以下では,この制度の概要を説明したいと思います。

3 DV被害者の保護

(1) 法的な手段

DVと言っても,その程度は事案により様々ですが,中には被害が深刻で,生命や身体への危害の恐れがひっ迫しているケースも有ります。その場合には,DV防止法に基づく保護命令の発令申立も検討する必要があります。この保護命令とは,配偶者からの身体への暴力を防ぐため,裁判所が,暴力を振るったあるいは生命又は身体に対する脅迫をした配偶者(相手方)に対し,被害者である配偶者に近寄らないよう命じる決定です。

この命令に違反した場合,相手方は刑事制裁の対象となります。
保護命令には,①本人への接近禁止命令,②子への接近禁止命令,③親族等への接近禁止命令,④退去命令,⑤電話等禁止命令,の5つがあります。相手方の行動によってどこまで申立てをするかを検討することになりますが,いずれも法的要件があるため,専門家に依頼された方が良いでしょう。

なお,保護命令の申立には原則として事前に警察等での相談が必要となります。警察等に相談した記録と申立書を裁判所に提出することで申立を行います。

(2) 相談先

DV被害に遭われた方の相談先としては,以下のようなものがあります。
・警察
・配偶者暴力相談支援センター
・一時保護施設(シェルター)
・法律事務所
・福祉事務所

なお,各機関によって対処できる内容が異なりますので,どこにいけばいいか,どのような手順で進めていいかが分からない場合は,まずは法律事務所でそのあたりを含めてアドバイスをもらった上で,手続きを進めていかれるのが良いでしょう。また,被害の程度によって,どこまで手続きを取る必要があるのかも変わってきますので(別居で足りるのか,シェルター利用が必要なのか,保護命令の申立てまで必要なのか等),DVに遭った際には,まずは1人で思い悩まず,いち早く相談機関に赴いて相談をするようにしましょう。

なお,最寄りの相談機関については,以下のURLに記載されている番号に電話をすることで教えてもらうことができます。
URLはこちら→(http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/

4 まとめ

DVにあわれた場合は,法律事務所を含む各相談機関にすぐに相談したうえで,身の安全を確保することが第一です。ただ,DVを理由に離婚するにはDVの証拠も必要になりますので,身の安全を図りながらも,可能な限り証拠を収集できるとよいでしょう。

DVの場合,相手方と被害者の方とで任意の話し合いということは困難でしょうから,弁護士に依頼することが重要になってきます。もっとも,被害者の方は非常につらい思いをしており,その心に配慮するには知識だけではなく,経験を踏まえた細やかな配慮が必要となると思います。(女性弁護士を選ばれるのも一つの選択肢でしょう。)そのため,相談にあたっては,同種事案について経験豊富な弁護士を選ばれることをお勧め致します。

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