弁護士コラム

2017.10.19

過払い金ってなぁに?

過払い金ってなぁに?

<相談内容>

最近よくテレビで「過払い金を取り戻せる!」「借金を長年返済している人は過払い金があるかもしれないのでぜひ相談を!」というCMを目にすることも多いですが,そもそも過払い金って何なの?って思われている方も多いと思います。そこで,今回は,過払い金について福岡の弁護士がお話ししたいと思います。

1 過払い金とは

借金をする際,個人間や親族間の借入れでない限り,元本をそのまま返済するだけでなく,弁済期までの利息や,弁済期経過後の遅延損害金を付して返済する内容で契約することが多いと思います。この利息や遅延損害金の利率(以下,両者をあわせて「利息等」と言います)については,利息制限法と言う法律が上限利率を定めており,これを超える利息等の契約は無効となります。そのため,借主がこの利息制限法の上限利率を超えた利息等を返済していた場合,当該返済部分は「払い過ぎたお金」として貸主に対し不当利得返還請求ができます。この払い過ぎたお金がつまり「過払金」と呼ばれるものです。なお,利息制限法の上限利率は以下の通りです。

◆利息制限法の上限利率の定め(同法第1条,第4条)

元本10万円未満 元本10万円以上100万円未満

元本100万円以上

利息 20% 18% 15%
遅延損害金 29.2% 26.28% 21.9%

※遅延損害金の上限利率は,利息の上限利率の1.46倍を超えることはできないため(利息制限法4条1項),上記の利率になります。

2 どうして利息制限法を超えた貸付がなされていたのか?

 過払い金は,上述の通り,利息制限法違反の利率で貸付がなされていた場合に問題になるものですので,法定金利を守っていたら過払い金問題は生じません。それでは,どうして利息制限法の上限利率違反の貸付が横行していたのでしょうか。
 これは,簡単に言うと,現在では既に改正されて存在しない条文になりますが,昔は貸金業法43条1項によって,利息制限法の上限利率を超えて借主が任意に利息を返済した場合,その返済は有効とするという趣旨の条文(一般的に「みなし弁済規定」と呼ばれるものです。)が規定されていたからです。

利息制限法の上限利率違反については,当該利息等の定めが無効になるだけで,刑事罰や行政処分が予定されているわけではないため,利息制限法違反の貸付も横行していたのです。なお,一定の利率を超えた貸付については,出資法という法律によって刑事罰が科されていましたが,その利率は昔は109.5%であり,利息制限法の利率よりもはるかに高かったため,利息制限法以上,出資法未満の利率での範囲で貸付が横行していたわけです(この,利息制限法の上限利率と出資法における刑事罰対象となる上限利率の間にズレがあり,この間の金利で貸付が横行していた問題のことを,グレーゾーン金利問題と呼ぶこともあります。)

しかし,不況に伴う多重債務問題の深刻化や,闇金被害が社会問題化したことを背景に,最高裁が消費者保護の見地から,みなし弁済規定について厳格に判断する立場を採ったため,過払い金返還を認める判例が続出し,それに伴い各種法令が改正されました。なお,現在では,貸金業者の貸付に関し,刑事罰対象となる金利は20%に引き下げられており,グレーゾーン問題については解消されています。

3 過払い金はどうやって取り戻すの?

 過払い金返還手続の流れとしては,まずはこれまでの借入れや返済についての取引内容を確認し,利息制限法所定の上限利率による引き直し計算を行います。その結果,過払い金が発生する場合には,借入先との間で返還に応じてもらうよう交渉を行い,交渉がまとまらない場合には訴訟を提起して争うことになります。

4 こんな場合でも請求できるの?

 多重債務問題でお悩みの方は,そもそもどこにいくら借りているかも分からず,過払い金があるのかが分からないという方も多いと思います。また,もしかしたら過払い金が発生していたのかもしれないが,既に借金は完済してしまったという方もいらっしゃると思います。そこで,上記の場合,返還請求ができるのかについてお話ししたいと思います。

⑴ 資料がなく,どこにどのくらい借りて返したか分からない場合

借主側で,どこにどのくらい借りたのかについて覚えておらず,資料も残っていなかったとしても,返還請求はなし得ます。貸金業者は,貸付や返済についての取引履歴について,借主に対して開示すべき義務を負っており(貸金業19条の2),帳簿の保存義務も負っているため(貸金業法19条),借主側で借金の詳細を把握していない場合は,まずは貸主に対して取引履歴を開示してもらい,過払い金が発生するかについて計算することが可能です。

⑵ 完済している場合

 既に借金を完済していたとしても,過払い金返還請求権が時効にかかっていなければ,過払い金の返還を請求することは可能です。過払い金返還請求権の時効は10年ですが,この起算点は最終の取引完了日であり,借入日ではありません。

5 まとめ

 以上のとおり,過払い金は,利息制限法で定める上限利率に違反してなされた貸付であり,その返還を求めることは権利として認められるものです。借りたお金を返すのは当然ですが,法律で定められた利率を超えての返済義務はありません。過払い金がどれくらい発生しているかについては,利息制限法の利率による引き直し計算が必要となり,具体的な返還手続きについては,各債権者との交渉や訴訟が必要になるため,借金問題でお悩みの方は,一度専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。

2017.09.30

勤務先が破産しました!給料や退職金は消えちゃうの?

勤務先が破産しました!給料や退職金は消えちゃうの?

【Aさんの相談】
先日,会社の社長から「経営状況悪化で破産することになった。申し訳ないが今日付けで全員解雇にせざるを得ない。」と言われ,解雇予告手当もなく解雇されました。少し前から給料の遅配があったため心配はしていましたが,突然の解雇と破産の報告に愕然としました。今月分の給料についてはまだもらっていないのですが,会社が破産しても給料はきちんともらえるのでしょうか。また,退職金はどうなるのでしょうか。

1 会社が破産した場合,給料はどうなるの?

会社が破産した場合、従業員の給料に未払い部分があることが一般的です。その際の未払給料が、その後の破産手続きでどのように取り扱われるのかについては,いつ働いた分の給料が未払いなのかによって取り扱いが変わってきます。

①破産手続開始前3か月間の未払分

会社が裁判所に破産を申し立てると、破産開始決定がなされます。
そして、破産手続開始前3か月間の給料については,破産手続が終わるのを待たずに,すぐに支払ってもらえます。この,破産手続によらずに弁済を受けることができる債権を財団債権といいますが,給与は労働者の生活に関わる重要な権利ですので,破産手続においても,直近3か月分の範囲で財団債権として保護されています。ここでいう「破産手続開始前3か月間」というのは,裁判所より破産手続開始決定が出された日より前3か月の間になされた労働の対価のことを意味します(なお,開始決定日は不算入です)。

給料は,労務を提供する度に日々発生しますので,手続開始前3か月間の労働の対価であれば,給与支給日と破産手続開始日の時期的先後関係に関わらず,支払いを受けられます。なお,賞与(ボーナス)に関しては,日々発生するものではなく,支給日に在籍している場合に支払われるものですので,破産手続開始日より3か月前に支給日が来る未払いのものに限り,財団債権として弁済を受けることができます。
したがって、会社が破産申立を行い、破産開始決定がなされた場合は、直近3か月分についてはすぐに請求するようにしましょう。このとき、会社にまだ何らかの財産が残っているのであれば、優先的に支払ってもらえます。

②①以外の未払分

①以外の未払給料分については,破産債権となります。破産債権の場合,弁済を受けるためには,債権額の届出を行って破産手続に参加する必要があり,配当という手続の中で弁済を受けることになります。配当の引き当てになる財産には限りがあり,配当を受ける債権についても優先順位があるため,債権者によっては全く配当が回ってこないこともあります。つまり、ちゃんと破産手続きで決められた手続を踏んで請求し、破産手続きの最終段階にならないと、全く支払いはなされません。なお,給料等の労働債権については,従業員の生活に関わる重要な債権ですので,他の一般債権(例えば売買代金債権や貸金債権等)よりも優先した順位で配当を受けることができる「優先的破産債権」として取り扱われます。

例えば,債権者Aが労働債権として50万円,債権者Bが一般の売掛債権として200万円,債権者Cが一般の売掛債権として300万円有しており,配当財産としては100万円しかない場合,まずは債権者Aに対して配当として50万円が優先的に支払われ,残りの50万円を債権者Aに20万円,債権者Bに30万円配当するという流れになります。

2 退職金はどうなるの?

破産手続終了前に退職して退職金が発生する場合は,退職金請求権(退職手当)を会社に対して請求することができます。この退職手当は,退職前3か月の給料の総額に関する部分は財団債権となり,その他の部分は優先的破産債権として,それぞれ弁済を受けることができます。

3 解雇予告手当はもらえるの?

 使用者側から解雇をする場合,解雇する30日以上前に予告をするか,30日分以上の平均賃金を支払って解雇するかいずれかを支払わなくてはなりません。後者の30日分以上の平均賃金の支払いを,「解雇予告手当」と言います。通常は、解雇予告手当をきっちり支払ってもらってから退職するのですが、破産の場合には支払ってもらえていないままに退職になることが多いはずです。

 本件事例のAさんは,解雇予告手当をもらっていませんが,Aさんは法律上,会社に対して解雇予告手当の支払いを請求できる立場にあります。なお,解雇予告手当支払請求権は,労働の対価としての性質ではないため,給料とは言い難いですが,雇用関係に基づいて生じた債権であるため,優先的破産債権には該当します。
 よって,Aさんは,破産債権として届出をすることで優先的破産債権として配当を得ることができます。つまり、すぐには支払ってもらえず、破産手続きに沿って、最終的に配当という形で受け取ることになります。
(なお,解雇予告手当については,裁判所によっては財団債権として取り扱ってくれるところもあるようですので,各地方裁判所に運用を確認されることをお勧めします。)

4 労働債権の弁済許可制度とは?

 労働者が,給料や退職金などの未払労働債権について,弁済を受けなければ生活の維持を図るのに困難を生じる恐れがあるときは,他の債権者の利益を害さない限りで,破産管財人の判断により,他の債権よりも早く配当を行ってくれることがあります。これを労働債権の弁済許可制度と言います。
 そのため,生活困難で未払い給与等の支払いを緊急に必要とする場合には,当該事情を破産管財人に対して連絡しましょう。場合によっては先払いを受けられる可能性があります。

5 まとめ

 以上の通り,労働債権については,その発生時期によって優先的破産債権となるか財団債権になるかの取り扱いが変わってきます。いずれになるかによって,支払いを受けられるタイミングや金額が大きく変わるものの,このあたりの判断は一般の方には難しいと思われますので,破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

2017.09.29

工事を委託していた請負会社が破産しました!残りの工事はどうなるの?

工事を委託していた請負会社が破産しました!残りの工事はどうなるの?

【Aさんの相談】
私は、某建築会社に建物の工事を依頼していましたが、先日、当該建築会社が破産してしまいました。まだ残工事が半分くらいあるのですが、請負会社が破産した場合、残工事は引き続き行ってもらえるのでしょうか。

今回の工事は、コストを可能な限り抑えて低価で行ってもらっていため、もし他の業者に頼まなければならないとすると、追加費用が発生してしまいます。これは損害として破産会社に請求できるのでしょうか。また、契約時に一部代金を支払い、完成時に残代金を支払う契約内容になっていたのですが、残代金についてはどうなるのでしょうか。

工事途中で工事会社が破産した場合、Aさんのように様々な点が問題になります。そこで、今回は、請負会社が破産した場合、残りの契約がどう処理されるのかについてご説明したいと思います。

1 残工事の継続の可否

請負会社が破産した場合、契約を解除するか、残工事を引き続き行うかは、請負会社の破産管財人が決定権限を有しているので、基本的にはその判断に従うことになります。もっとも、請負業務の内容が破産者本人しかできず、第三者に代わりに行ってもらうことができないような仕事などについては、破産管財人は契約を解除することができないとされていますので、引き続き契約内容の履行を求めることができます。
本件のAさんのように、建物の建築工事については、他の請負業者を手配することが可能でしょうから、管財人が契約を解除した場合は、履行継続を求めることはできません。

2 中途解除した場合の出来高と請負代金の処理

請負契約を中途で解除した場合に、解除時点での出来高が、それ自体で価値のあるものであれば、注文者はその出来高に応じた請負代金を支払い、出来高を引き取り、未履行部分については他の業者を手配して請負契約を締結することになります。
ここで、仮に請負代金を既に一部支払っている場合、支払済みの請負代金と出来高部分の金額が一致していれば問題ないですが、支払済みの金額の方が多く注文者が払い過ぎの状態になっている場合は、払い過ぎた代金分を取り戻すことができるのかが問題になります。

これについては、管財人が契約を解除した結果、注文者において払い過ぎの状態が生じている場合は、その払い過ぎ部分は財団債権として(=破産手続終了時の配当という形ではなく、すぐに)返還を求めることができるというのが判例の立場です。
そのため、例えば、契約時に1000万円を支払っていましたが、契約解除時点では、300万円分しか工事が終わっていない場合には、払い過ぎた700万円については、管財人の管理する財産から返してもらうことができます。
 他方で、出来高部分の金額に足りない場合には、注文者は足りない請負代金について、引き続き管財人に支払う必要があります。例えば、契約解除時の出来高が1000万円の価値がある場合で、注文者が300万円しか支払っていない場合は、残りの700万円については、未払請負代金として、注文者は管財人に対して支払う義務があります。

3 解除により生じた注文者の損害賠償請求権

Aさんの場合、請負契約が中途で解除すると、他の業者を手配する必要があり、その場合は当初の契約代金と比べ、追加支出が生じてしまうため、損害が発生することになります。
このように、請負契約の中途解除により注文者に発生した損害については、破産者に対してその賠償を求めることはできるのでしょうか。
これについては、管財人による解除の場合は、それによって損害が生じた場合、注文者は破産者に対して損害賠償請求ができるとされています。但し、その場合の損害賠償請求権は破産債権となるため、請求するためには届出をして破産手続に参加しなければならず、回収は配当という形でしか実現できません。

4 損害賠償請求権と請負代金支払債務との相殺の可否

 それでは、注文者は、請負人の破産による契約解除で生じた損害賠償請求権を自働債権として、未払いの請負代金支払債務との相殺を主張することはできるのでしょうか。例えば、注文者は破産者に対し、未払請負代金として200万円の支払い債務を負っているものの、注文者としては、解除による追加工事で300万円の損害を被っており、両者を相殺して未払請負代金請求を拒否することはできるでしょうか。
 これについては、最高裁の判例はなく、解釈に争いはありますが、否定する裁判例が多数です。その理由としては、破産管財人による契約解除で生じる損害賠償請求権は、破産開始決定後に生じる請求権であり、破産法は、破産手続開始後に生じた請求権を自働債権として相殺することを禁じているからです(破産法71条1項1号)。
東京地方裁判所平成24年3月23日判決も、同様の理由で、注文者側からの相殺の主張を排斥しています。

5 まとめ

 以上のとおり、請負人が破産した場合、残代金の処理や契約の履行を巡り様々な法律問題が生じます。請負人の破産でお困りの方は、破産手続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

2017.09.28

裁判所から破産手続開始決定が送られてきた!どうすればいいの?

裁判所から破産手続開始決定が送られてきた!どうすればいいの?

◆債権者Aさんの相談
売掛先B社から売掛金の入金がなく,連絡しても連絡がつかない状態が続いていました。このまま逃げられるのではないかと心配していたところ,突然,裁判所からB社の破産手続開始決定と,債権届出書が送付されてきました。この場合,どのように対応すればいいのでしょうか。また,債権届出書を出さずに放置していた場合,何か不利益はあるのでしょうか。

今回は,裁判所から破産手続開始決定と債権届出書が送付されてきた場合,債権者としてどのように対応したらいいかについてご説明したいと思います。

1 債権の届出はしなければならないの?

破産法は,破産債権の行使について,「この法律(破産法)に特別の定めがある場合を除き,破産手続によらなければ,行使することができない。」と定めており(破産法100条1項),各債権者が個別に弁済を受けたり,訴訟や強制執行を通じて債権回収することを禁止しています。ここでいう,破産手続による権利行使というのは,具体的には,破産債権を裁判所に届け出て,裁判所で行う破産手続の中で,認められた額を回収していくという方法になります。破産法は,この手続以外による債権回収を認めていないため,裁判所に破産債権の届出をしなかった場合,債権を回収することはできなくなります。
今回,Aさんは,裁判所から破産手続開始決定と共に債権届出書の送付を受けていますが,これが破産債権の届出用紙となりますので,破産手続に参加し,債権回収を考えている債権者の方は,これを記載して裁判所に返送しなければなりません。

2 債権届出期間を経過してしまった場合

債権の届出期間については,裁判所が破産手続開始決定と同時に決定し,その期間は破産手続開始決定後2週間以上4カ月以内の範囲で定められます。債権者は,原則として裁判所が決めた届出期間内に債権届を返送しなければならず,届出債権については,破産管財人が債権額や債権内容を調査します。
それでは,届出期間を経過してしまった場合,一切届出は認められないのでしょうか。 これについては,管財人による届出債権の調査期間が終了する前の時点であれば,債権届出期間経過であっても届出は可能です。他方で,調査期間経過後の届出の場合は,届出が調査期間経過後になってしまったことについて,債権者の責めに帰さない事由に基づくものである場合に限り,届出が認められます。但し,その場合の届出は,債権届出ができなかった事由の消滅後1カ月以内にする必要があります。

3 債権届出書に記載する内容

 債権届出書には,以下の①~⑤の内容を記載しなければなりません(破産法111条)。また,別除権者(抵当権者,質権者,特別先取特権者等,破産手続によらずに権利行使ができる債権者)は,これに加えて⑥⑦の内容を記載して届出なければなりません。
①各破産債権の額及び原因
②優先的破産債権であるときは,その旨
③劣後的破産債権又は約定劣後破産債権であるときは,その旨
④自己に対する配当額の合計額が最高裁判所規則で定める額(1000円)に満たない場合においても配当金を受領する意思があるときは,その旨
⑤前各号に掲げるもののほか,最高裁判所規則で定める事項(※)
(※)最高裁判所規則で定める事項は以下の通りです(破産規則32条2項)。
i) 破産債権者及び代理人の氏名又は名称及び住所
ii) 破産手続及び免責手続において書面を送付する方法によってする通知又は期日の呼出しを受けるべき場所(日本国内に限る。)
iii) 執行力ある債務名義又は終局判決のある破産債権であるときは,その旨
iv) 破産債権に関し破産手続開始当時訴訟が係属するときは,その訴訟が係属する裁判所,当事者の氏名又は名称及び事件の表示
v) 破産債権者の郵便番号,電話番号,FAX番号,その他破産手続に関する通知を受けるために必要な事項として裁判所が定めるもの
(⑥別除権の目的である財産)
(⑦別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額)

4 届出の方法

 届出は,債権届出期間内に債権届出書を返送する方法で行いますが,その際には,届出書だけでなく,届出債権の証拠書類(例えば,契約書や請求書等)の写しを添付する必要があります。また,破産債権が執行力ある債務名義である場合や,終局判決のあるものであるときは,執行力ある債務名義の写し又は判決書の写しの送付も必要です。
 なお,代理人による届出の場合は,代理権を証する書面の提出も必要です。

5 破産手続開始決定のみで債権届出書が送付されなかった場合

 今回の事例では,裁判所から,破産手続開始決定通知書と共に債権届出書が送付されていますが,債権届出書は必ずしも送付されるわけではなく,破産手続開始決定通知書だけが送付されるケースもあります。これは,配当の引き当てになる財産がほとんど存在せず,債権調査を行っても無意味になってしまうケースです。この場合は,債権届出を行う必要がないため,債権届出期間も定められず,債権届出書の送付もされません(調査留保型と呼ばれます。)

6 まとめ

 以上の通り,配当が見込まれるケースの場合には,裁判所から債権者に対して債権届出書が送付され,債権者は,所定の期間内に所定の内容を記載した届出書を提出しなければなりません。債権届出には,債権額だけでなく,債権の発生原因や優先順位等,諸々の事項を記載しなければなりません。これらの記載事項については,法律の専門家でなければ判断がつかない場合も多いため,破産の通知を受け取った債権者の方は,破産に詳しい専門家にご相談されることをお勧めします。

2017.09.27

弁護士が教える民事訴訟の流れ

弁護士が教える民事訴訟の流れ

債権を回収するための最終手段が民事訴訟になります。民事訴訟は,訴額(簡単に言うと原告が請求する債権の額になります。)が140万円以下であれば基本的には簡易裁判所に,140万円を超える場合は地方裁判所に対して訴えを提起することになります。

訴訟は,お互いの法的主張を対立させる場所ですので,訴訟を代理することは,基本的に弁護士しか認められていません。
もっとも,民事訴訟制度は紛争の当事者が弁護士を付けずに訴訟を提起することも予定しています。そこで,今回は,民事訴訟の大まかな流れについてご説明したいと思います。

1 民事訴訟の手続き

(1) 訴えの提起-原告による訴状の提出

民事訴訟の第一審手続は,原告が管轄の裁判所に対して訴状を提出することによって開始されます。
訴状には,
①原告と被告の氏名,住所
②請求の趣旨(原告が裁判所にどのような判決を求めているのか)
③請求の原因(どのような理由で判決を求めるのか)
などを記載することになります。

なお,被告に送達する関係上,原本のほかに副本が必要です。
また,訴え提起に際しては,所定の裁判所に対する手数料(収入印紙で納付)や郵券も一緒に提出する必要があります。

(2) 裁判所による第1回口頭弁論期日の指定及び呼び出し

裁判所に訴状が提出されると,裁判所は訴状審査を行います。訴状審査とは,訴状に先程お話しした①~③の記載がない場合や印紙が貼られていない場合などの形式的不備について行います。訴状に不備がある場合,裁判長は,原告に対し必要な補正を促し,あるいは相当の期間を定めて補正命令を発します。この補正に応じない場合には,訴状が却下されますので注意して下さい。

訴状に不備がない場合や補正がなされた場合,口頭弁論期日を指定し,訴状と同時に期日の呼出状,訴状と一緒に提出された証拠書類,答弁書催告状を被告に送達することになります。口頭弁論とは,公開の法廷において,定数の裁判官及び書記官が出席し,直接,当事者双方の口頭による弁論を聴く手続を言い,それが行われる日を口頭弁論期日と言います。
口頭弁論期日を指定するにあたっては,前もって原告となるべき当事者に対して,担当裁判所書記官から期日調整の連絡があり,出席できるように調整されますのでご安心ください。なお,この時点では被告の側に予定を聴くことはありません。

(3) 被告による答弁書の提出

被告は,訴状が送達され第1回口頭弁論期日の指定を受けた場合,訴状に対して反論をする必要があります。被告の反論は,答弁書という書面を提出する方法によって行われます。

答弁書においては,原告の請求を認めるかどうか,訴状に記載された事実を認めるか認めないか,それとも知らないかなどを記載することになります。
答弁書は,通常,第1回口頭弁論期日の1週間ほど前に裁判所を通して,原告の元に届けられます。

(4) 第1回口頭弁論期日

 さて,ここまでやってやっと第1回口頭弁論期日になります。
もっとも,第1回口頭弁論期日は,被告の都合を聞かずに設定されることになりますので,被告が欠席する場合が多いです。そのため,第1回の口頭弁論は,裁判官が「陳述は訴状通りで良いか」を原告に確認し,次回の日程を決めるだけで終わってしまうこともよくあります。

ただ,被告が欠席しただけでなく,答弁書も提出しない場合,被告には争う意思がないものとして,原告の請求どおりの判決がなされます。
したがって,もし自分が訴えられたのであれば,どうしても第1回口頭弁論期日に行けなくても,最低でも,原告の訴状における請求の趣旨についての答弁を述べる答弁書を提出しておく必要があるでしょう。

(5) 第1回口頭弁論期日以降の審理

第1回の口頭弁論期日以降は,第2回,第3回と期日が進んでいくことになります。また,何が争点となっているか分からない複雑な事件であれば,当事者の主張や証拠を整理するために,弁論準備手続等の争点整理手続が行われることもあります。

この期日間では,当事者は,それぞれ主張を記載した準備書面やその主張を裏付ける証拠を提出して立証をしていくことになります。
各当事者が提出した主張やそれを裏付ける証拠を整理して,裁判所が既に提出された主張又は証拠では不十分であると判断した場合,裁判所は各当事者に釈明を求める場合もあります。

(6) 証拠調べ手続

裁判所は,各当事者が提出した証拠を,証拠調べという手続によって確認・調査します。証拠には文書などを証拠方法とする書証と当事者,証人などを証拠方法とする人証があります。
裁判所は,まず,書証を取り調べていきます。裁判所は,書証によって立証出来ていない事実を踏まえて争点整理を行います。

当事者は,整理された争点について人証によって立証することになります。人証の申出が認められると,当事者本人や証人について尋問手続が行われることになります。尋問手続を,簡単に言いますと,ドラマなどでよく見る弁護士が法廷で質問をしている場面がこれに当たります。

(7) 結審・判決

裁判所は,各当事者の主張,反論が尽くされ,裁判所が判決を出すのに熟したと判断すると,弁論を終結します。これを結審と言います。
そして,この際には,判決言渡期日が指定されます。判決言渡期日は,結審の日から2か月以内に指定されることになっています。

この判決言渡期日に裁判官が判決を言い渡します。判決には,原告の請求をすべて認める全部認容,原告の請求を一部認める一部認容,原告の請求を全て認めない全部棄却があります。これらの判決が送付され,2週間の間にお互いがその判決に不服を申立てなければ,判決が確定することになります。つまり,もはやその判決に不服を申し立てることができなくなるのです。
一方,第一審判決に対して2週間以内に不服を申し立てた場合,訴訟手続は,第二審(控訴審)に引き継がれることになります。この第一審裁判所の判決に対する不服申立てを控訴と言います。

(8) 控訴

 第一審が地方裁判所であった場合には,高等裁判所に控訴することができます。(第一審が簡易裁判所であれば,控訴は地方裁判所にします。)
 控訴審では,また一から当事者の主張立証をさせるのではなく,第一審の判決の中で不服がある部分のみ審理を行います。そのため,第一審と同じ主張や立証をしたとしても,控訴審ではほとんど審理されることはなく,第一審と同じ判決がなされるのが通常です。

そのような主張や立証をした場合には,控訴審の第1回期日で審理が終結するのが普通です。
第一審と異なる主張や立証がなされた場合や第一審の審理に間違いがある可能性があると控訴審の裁判所が判断した場合には,再度,証拠調べ等が行われる場合があります。

2 まとめ

 先程も申しましたように,民事訴訟では,必ずしも弁護士を代理人とする必要はありません。ただ,裁判においてはお互いの法的主張が対立することになります。そのため,お互いが弁護士を就けていない状況であればまだしも,片方に弁護士が就くとどうしても知識と経験の面で大きく差をつけられてしまいます。弁護士を代理人に就ければ,判決と言う手段だけでなく和解など紛争そのものを有利に進めことが可能になります。弁護士に依頼すると,多少お金はかかってしまいますが弁護士に依頼することも検討してみてはいかがでしょうか。

2017.09.23

破産手続で免責が不許可になってしまうのはどのような場合ですか。

破産手続で免責が不許可になってしまうのはどのような場合ですか。

1 免責不許可事由とは?

 破産法は、個人の破産の場合、借金を免除する免責という制度を設けています。免責制度は、誠実な債務者に対して経済的更生を支援するために認められる制度ですので、不誠実な債務者の場合には免責は許可されません。破産法は、以下の通り11項目を免責不許可事由として定めており、これに該当する場合は原則として免責不許可となります。そこで、今回は、どのような事由が免責不許可事由に該当するかについて、ご説明していきたいと思います。

<破産法が定める免責不許可事由・252条>

①債権者を害する目的で行われた破産財団の価値減少行為
→配当の引き当てになるべき財産を所在不明にしたり、損壊する等、債権者を害する行為がこれに該当します。
  なお、「債権者を害する目的で」という要件がありますが、財産の隠匿や損壊については、その行為自体が債権者を害する行為であることが明らかですので、行為態様から当然に債権者を害する目的が認められると考えられています。
  他方で、廉価販売等については、資金繰りに迫られてやむを得ず行う場合もありうるため、債権者を害するという積極的な目的が必要だと解されています。

②破産手続開始を遅延させる目的で行われた不利益処分等
 →たとえば、クレジットカードで商品や金券等を多数買い込み、これを換金ショップや質店で換価して現金を入手する場合等がこれに当たります。

③特定の債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で行われた偏波弁済、担保提供、非義務行為等
→簡単に言うと、経済的危機の状況下において、特定の債権者に対してのみ弁済をしたり、担保を提供したりする行為がこれに該当します。これは、債権者の公平を害する行為ですので、否認行為の対象にもなっています。

④浪費、賭博、射幸行為等による著しい財産の減少や過大な債務負担。
→「浪費」とは、「支出の程度が社会的許容範囲を逸脱すること」を言うと考えられています。買い物のし過ぎや、収入に見合わない高額な物の購入がこれにあたります。
また、ギャンブルや投資の失敗でできた借財については本号に該当します。

⑤破産手続開始申立日の1年前の日から破産手続開始決定日までの間に、破産開始原因があることを知りながら、債権者に対し、当該事実がないと信じさせるために詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
→例えば、自分が破産予定でありながら、その事実を隠した上で、負債内容について虚偽の説明をして新たに借り入れをするケースなどがこれに当たります。なお、ここでいう「詐術」には、積極的に噓をついて債権者を誤信させる行為は当然含まれますが、単に破産原因や負債内容を秘匿し、何も言わないまま取引をしたケースまでこれに含まれるかについては争いがあり、下級審裁判例も判断が分かれています。

⑥帳簿等の隠滅、偽造等
→故意に財産関係書類等を隠滅、偽造する行為がこれにあたります。

⑦虚偽の債権者名簿の提出
→本当は債権者として載せるべき者を故意に名簿から外す行為がこれにあたります。
なお、うっかり名簿に載せ忘れた場合は、免責不許可事由には該当しませんが、当該債権者にとってが、免責についての意見陳述の機会が奪われてしまうため、当該債権については非免責債権になります。

⑧裁判所による破産手続上の調査に対する説明拒否・虚偽説明等。
 →破産手続に協力しない不誠実な債務者は、免責の制度趣旨に照らして免責不許可とすべきと考えられるからです。

⑨不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
 →⑧と同様の理由で免責不許可事由とされています。

⑩過去に免責許可決定を受け、それから7年以内であること
→過去に破産手続で免責を受けたり、民事再生手続における再生計画の認可やハードシップ免責を受けている場合には、一度経済的更生の機会が与えられている以上、一定の期間の間は再度の免責申立てを制限する趣旨で、免責不許可事由とされています。

⑪ 破産者が破産手続上負っている各種の義務(説明義務、重要財産開示義務、免責手続における調査協力義務等)に違反した場合
→⑧と同様の理由で免責不許可とされています。

2 免責不許可に該当した場合、もう免責されないの?

 以上の通り、破産法は多数の免責不許可事由を規定していますが、免責不許可事由に該当したとしても、免責の可能性は0ではありません。裁判所は、破産に至った経緯やその他一切の事情を考慮して、免責を許可する場合もあり、これを裁量免責の制度といいます。裁量免責は、その名の通り裁判所の裁量により決まりますので、明確な基準はありませんが、結局は、免責制度の趣旨(誠実な債務者の経済的更生の支援)に照らし、救済すべきかどうかという観点から判断されています。なお、裁量免責については、別記事で詳述しておりますのでそちらをご覧下さい。

3 まとめ

 以上の通り、免責不許可事由に該当するからといって、直ちに免責されないわけではありません。しかし、なぜ免責不許可事由に該当する行為をしてしまったのかについて、裁判所から厳しく追及されることもありますし、裁量免責が認められずに免責不許可になってしまう可能性は残ります。免責されなければ破産する実益は乏しいですので、破産をお考えの方は、早いうちに一度破産を専門とする弁護士に相談し、免責不許可になるおそれがないか、不許可事由がある場合は裁量免責獲得に向けて今後どういった対応をすればいいか等について助言を得ておくことをお勧めします。

2017.09.22

破産したら財産は全て売り払わないといけないの?残しておける財産とは?

破産したら財産は全て売り払わないといけないの?残しておける財産とは?

破産を迷われている方には,「破産したら何もかも売却して借金返済に充てなければならず,無一文になってしまうんじゃないか」と不安に思われている方がいるかもしれません。しかし,破産した場合,必ずしも全ての財産が債務の引き当てになるわけではなく,手元に残しておける財産もあります(これを自由財産と言います)。

また,本来は,弁済原資に充てなければならない財産であっても,自由財産の範囲を拡張する手続によって,一定の場合には,当該財産を弁済原資から外せる可能性もあります。
そこで,今回は,債務の引き当てになる財産の範囲とはどのようなものであるのか,また,原則として引き当ての対象になる場合でも,その対象から外して手元に残しておける場合はどのような場合かについてお話ししようと思います。

1 弁済原資になる財産(破産財団)とは?

破産手続において,債務の引き当てになる財産を「破産財団」といいます。個々の財産が破産財団に該当する場合は,原則として換価し,債務の弁済に充てなければなりません。それでは,どのような財産が破産財団に含まれるのでしょうか?

⑴ 破産財団の範囲

まず,債務者が保有する財産のうち,①差押禁止財産と②99万円以下の現金以外の財産については,原則として全て破産財団に含まれ,財産の所在地は国内に限らず,外国にある財産も含まれます。なお,①の差押禁止財産とは,例えば給料債権や年金等の4分の3相当額や,生活に欠くことができない家財道具等があり,民事執行135条,152条等に規定されています。

⑵ 基準時

では,いつの時点で保有している財産が破産財団に含まれるのでしょうか。破産手続は,申立て→破産手続開始決定→(財産があれば)換価・配当という流れで進んでいきますので,いつの時点で保有している財産が破産財団に含まれるのかが問題になります。
これについて,破産法は,破産手続開始時を基準時としています。そのため,破産手続開始後に取得した財産については引き当てにならず,自由に使うことができます。例えば,破産手続開始後に取得した給料は一切債務の弁済に充てる必要はありませんし,手続開始後に相続が生じた場合は,相続で得た遺産も一切債務の弁済に充てる必要はありません。

但し,破産手続開始後に取得する財産であっても,その取得のきっかけとなる原因行為が破産手続開始前に生じている場合は,当該財産は破産財団に含まれるため注意が必要です。例えば,破産前に交通事故に遭い,加害者と慰謝料の示談交渉をしている間に破産手続開始決定が出され,その後,加害者から慰謝料の支払いを現実に受けた場合は,当該慰謝料は,破産手続開始前に生じた交通事故を原因とするものであるため,破産財団に該当し,弁済原資に充てられることになってしまいます。
なお,破産手続開始時とは,裁判所が破産手続開始決定を出す時期のことを言い,破産手続申立後,裁判所が破産原因を審査し,破産相当と判断した時点で出されます(早ければ申立後数日で出ることもあります。)

2 破産財団から外れる財産(自由財産)とは?

上記の通り,破産手続開始決定時に保有する財産については,差押禁止財産や,99万円以下の現金でない限り,法律上は原則として破産財団に該当し,弁済原資に充てられる建前になっています。しかし,実際は,差押禁止財産や99万円以下の現金以外であっても,債務の引き当てにならない財産(自由財産)として認める運用をしていることもあり,その運用基準については,各裁判所によって異なるようです。
そこで,以下,某裁判所で採用されている自由財産の判断基準をご紹介いたします。

某裁判所では,差押禁止財産及び99万円以下の現金(これらは,法律で自由財産として認められているため,「法定自由財産」といいます。)以外にも,以下に該当する財産については,換価せずに,自由財産として手元に残しておけるという運用をしているようです。なお,以下の財産を自由財産に組み込むかどうかは,最終的に破産管財人の意見を聞いて決めることになります。

①20万円以下の預貯金
②生命保険解約返戻金(但し,見込額が20万円以下に限る)
③処分見込額合計が20万円以下の自動車
(初年度登録5年を経過したものについては,外車又は排気量2500ccを超える物でない場合には,処分見込額を0円とする運用とする)
④居住用家屋の敷金返還請求権
⑤電話加入権
⑥将来の退職金支給見込額の8分の7相当額
(但し,8分の1相当額が20万円以下である場合には,当該退職金債権の全額)
⑦家財道具

3 自由財産の拡張申立手続

 自由財産として認められるのは,法定自由財産(99万円以下の現金及び差押禁止財産)と各裁判所で自由財産として認める運用をしている財産(ex某裁判所では前述の①~⑦)ですので,それ以外の財産に関しては原則として換価して配当に回さなければなりません。
しかし,破産する人の中には,例えば,親の介護等で車がないと生活ができない人や,扶養家族が多く,手元に残しておける費用が99万円以下では到底生活が成り立たない人もいます。そこで,破産法は,破産者の生活の状況や,破産手続開始時に保有していた財産の種類,金額,破産者が収入を得る見込みやその他の事情を考慮して,自由財産の範囲を拡張できるという手続きを定めています。この場合も,自由財産として認めるか否かについては,管財人の意見を聞いて決定されますが,自由財産として拡張が認められた場合は,換価を免れ,手元に残しておくことができます。

4 まとめ

 以上の通り,破産することになっても,全てを失うわけではなく,法定自由財産については自由に処分できますし,それ以外の一定の財産についても,各裁判所の運用によっては,自由財産として残しておける可能性があります。
ですので,「破産したいけれども,どうしてもこの財産を残しておきたいから破産ができない」等のお悩みをお持ちの方は,まずは自由財産として残せるかどうかについて弁護士にご相談されることをお勧めします。また,破産財団に該当する財産を自由財産として残すためには,当該財産を自由財産として扱う必要性や具体的事情を裁判所に上申する必要があるため,破産手続に詳しい弁護士に破産手続を依頼されることをお勧めします。

2017.09.20

ネット上の誹謗中傷記事って消せますか?

ネット上の誹謗中傷記事って消せますか?

Aさんの相談

昨日,知人から「ネットにひどいことが書かれてるよ!」と連絡があり,教えてもらったサイトを見ると,「Aは詐欺師だ!」「Aはキチガイだ!」など,私に対する誹謗中傷,名誉毀損的書き込みがなされていました。とにかく早く削除したいのですが,投稿者もわからず,削除の方法もわかりません。一度インターネット上に出回ったらもう消せないと聞いたことがありますが,もうどうにもならないのでしょうか。

1、相談に対する回答

 近年,情報化社会が進み,SNSや掲示板(BBS),twitter等のネット上の投稿をめぐるトラブルが急増しています。ネットの書き込みは,匿名ゆえになかなか投稿者を特定できなかったり,本人の知らない間に書かれているため被害を把握しないままに時間が経過し,被害が深刻化するケースもあります。それでは,Aさんのような事態に陥った場合は,どうすればいいでしょうか。

⑴ 書き込みの削除

まず,投稿者やサイト管理者等に対して,書き込みの削除を依頼すると記事を削除できることがあります。ただ,削除依頼とは,法律を使って強制的に削除させる手続ではなく,「削除してください。」という任意の交渉に過ぎませんので,任意に応じてくれる場合もありますが,依頼しても全く対応してくれない場合も多々あります。その場合は弁護士に相談しましょう。
削除請求のコツは,当該記事が名誉毀損等の不法行為に該当することを説得的に主張する点にあります。仮に不法行為に該当するにも関わらず,記事を放置し続けると訴訟を提起される可能性もありますし,弁護士が代理人として削除請求をすることで「訴訟を提起されるかもしれない。」という現実的なプレッシャーにもなります。そのため,弁護士を代理人として削除依頼を行うと,対応してくれる場合も多いでしょう。なお,弁護士を通じた削除依頼でも応じない場合には,裁判により削除請求をしていくことになります。
なお,削除依頼・削除請求を行うためには,前提として,投稿者又はサイト管理者等の情報の発信元又は提供元が判明している必要があります。それさえ分からない場合は,まずはそれらを特定する手続きから始めなければなりません。現実的には,このようなサイト管理者を特定する手続から行わざるを得ないパターンが多いでしょう。その手続きについては,別の記事で詳しく紹介します。

⑵ 検索エンジンからの削除

「Yahoo!」や「Google」などの検索エンジンで自分に関する記事を検索すると,名誉毀損・誹謗中傷記事に辿り着くという場合,その検索エンジンに対し,検索結果に表示しないよう依頼することが考えられます。しかし,これについては,認められる場合もありますが,その過程は大変で,時間もかかることが少なくありません。検索エンジンに対する削除依頼については,別の記事で詳しく紹介しますが,この方法では記事自体を削除するわけではなく,検索結果に表示されないようにするだけなので,根本的な解決には至りません。(アドレスバーにURLを直接打ち込めば,当該記事に辿り着きます。)したがって,この方法よりも,個別サイトを対象に削除依頼をした方が,迅速かつ抜本的解決につながると思われます。

⑶ 逆SEO対策

「SEO対策」という言葉を耳にしたことのある方も多いと思います。SEOとは,Search Engine Optimizationの略で,訳すると「検索エンジン最適化」という意味になります。
これは,Yahoo!やGoogleなどの検索エンジンで,特定のキーワードを検索すると,そのキーワードを含むサイトが多数検索結果に表示されますが,特定のサイトが検索結果の上位に表示されるように工夫する対策を言い,企業戦略などで用いられています。これに対し,逆SEO対策とは,特定のサイト(今回だとネガティブ情報や誹謗中傷記事)が検索結果画面の上位に表示されないようにする対策のことです。
これについては,記事自体を削除するわけではなく,他の記事を上位に表示させることによって結果的にネガティブ記事の表示順位を後退させる手法となるため,抜本的な解決にはなりませんが,目に触れにくくなるという点では一定の効果があります。
なお,SEO対策・逆SEO対策を専門とする業者も多数いますが,中には何も作業をしないまま費用のみを請求してくる悪質な業者もいますので,業者の選定には注意が必要です。

⑷ 風評被害対策業者への依頼

最近では,ネット上の風評被害対策を専門に行う業者も存在します。ネガティブ情報の監視サービスや発信者の特定,投稿の削除代行を行うと謳っているところも多いです。
しかし,これらの業者の中には,悪質な業者も存在するため,注意が必要です。また,そもそも発信者の特定や削除請求を弁護士以外の業者が行うことは,弁護士法72条が禁止する非弁行為に当たり,違法行為に該当する行為です。弁護士法は,弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事務の取り扱いをすることを禁止しており,これに違反して行われた行為は非弁行為として違法となります。
ですので,単にネガティブ情報の監視や逆SEO対策にとどまればいいのですが,削除代行や発信者特定業務は,弁護士以外の者が報酬を得て代行することはできませんので,注意が必要です。

⑸ まとめ

以上のように,一度書き込みがなされたり,その投稿者が分からなくても,専門家に相談すれば最終的に記事を削除することができる場合もあります。また,書き込みが名誉毀損,人格権侵害等の不法行為に該当すれば,発信者に対して損害賠償請求をすることもできます。なお,プロバイダの通信記録(ログ)には保存期間があり,これを経過すると,発信者を特定できなくなる可能性もあるため,専門家による早急な対応が不可欠となります。
以上の通り,ネットをめぐる誹謗中傷問題については,発信者の特定,削除請求,損害賠償請求等,法的な判断を伴う上,迅速な対応が不可欠ですので,被害に遭われた方は,この分野を専門とする弁護士に早急に相談しましょう。

2017.09.19

【離婚問題】夫に騙されて離婚してしまった…。そんな離婚も有効なの?

夫に騙されて離婚してしまった…。そんな離婚も有効なの?

「私Aは,夫Bから,『借金の返済を滞らせている。このままでは家族に迷惑をかけるので,一時的に離婚してほしい』と頼まれ,仕方なく離婚届を書きました。1年経っても連絡がないため,夫Bの会社に電話すると離婚する前から夫Bは別の女性Cと婚姻しようとしており,実際に離婚後すぐに婚姻したとのことです。今からでも離婚を取り消すことはできないでしょうか?」こんなことをされたら絶対に許せないでしょう。今回は,夫に騙されて離婚してしまった場合に離婚を取り消すことはできるかについてお話ししたいと思います。

1 詐欺による離婚は有効か?

 詐欺又は強迫によって協議離婚をした人は,その離婚の取消を裁判所に請求することができます。これは,離婚の協議は,当事者の自由な意思に基づいて成立するものであるはずですのに,詐欺などにより騙された人は自由な意思に基づいて判断できていないからです。
この場合,前でも述べたように離婚の取消を裁判所に請求しないといけません。当事者間で話し合いをして市役所等に離婚を取り消してくださいというような他の方法ではいけないのです。妻Aは夫Bに騙されていたとはいえ,,一度は合意のもとに離婚届を出していますから,,戸籍上離婚は有効となっているためです。なお,借金があることが真実で単なる借金逃れのために離婚した場合であれば離婚は有効です。今回のケースでは,Bは,本当はAと離婚してCと婚姻する意思であり,Aと再び婚姻する意思はないのに,あたかも借金逃れのための一時的な離婚であるかのように装って離婚していることから詐欺と判断されたことに注意して下さい。

2 離婚取消の方法

 「裁判所に請求できる」とはいっても,裁判所に対してどのように請求すればいいかは分からないと思いますので,,今から裁判所に請求して離婚を取り消す方法をご説明したいと思います。
 協議離婚の取消しは,人事に関する訴訟事件として,調停前置主義というものの適用を受けています。調停前置主義とは,人事に関する紛争は,その性質上,話し合いで終結させることが望まれるため,可能な限りは調停で結論を出すべきだという観点から,必ず1度は調停手続を経なければならないとすることをいいます。

そのため,離婚の取消しの主張をする人は,いきなり訴えを提起するのではなく,,まずは,家庭裁判所に対して,離婚取消しの調停を申し立てる必要があります。なお,離婚の取消しの主張は,詐欺又は強迫を受けた人だけで,相手方となるのは,その配偶者だけですので,,当事者の父母が離婚の取消しを請求するということはできません(相手方が死亡した場合には,検察官に対して訴えを提起することができます。)。
 また,この取消しの主張は,詐欺又は強迫を受けた当事者が,詐欺を発見し若しくは強迫を免れた後3か月を経過したときや「離婚をしたということでいいですよ」というように離婚があったことを追認したときには,できなくなってしまうので注意が必要になります。

3 夫がすでに別の女性と結婚していたことはどうなるのか?

 もっとも,夫Bはすでにほかの女性Cと婚姻していましたが,この結婚はさきほどのAとBの離婚との関係はどうなるのでしょうか?関係が複雑で分かりにくいと思いますので,,図を書いて説明することにします。
 前でも述べたように,,①BがAを騙した後にBとCは婚姻しています。しかし,これは詐欺に基づくものであるため,②AとBとの離婚は家庭裁判所に請求することで取り消せますので,Aの離婚取消しの請求が認められることになるでしょう。取消が認められるとその行為の時点に遡って行為が無効となりますので,③AとBとの離婚は初めからなかったことになりますから,BとCが婚姻するときもAとBとの婚姻は継続していたことになります。
そのため,④BとCとの婚姻は,AとBとの婚姻関係中になされたものであり,BとCとの婚姻は家庭裁判所に請求することで取消すことができます。なお,Bのように配偶者がいるのに別の異性と婚姻した場合のことを重婚といい,刑法上の犯罪にもされています。

【離婚問題】夫に騙されて離婚してしまった…。そんな離婚も有効なの?

 

4 まとめ

 以上のように, Aとしては①Bとの離婚を取り消すことが可能です。選択肢としてはそれだけにとどまらず,②Bとの離婚を取り消した上で,再度Bが先ほど述べたような詐欺行為を行ったことを踏まえての離婚条件を協議することも可能です。この方法を選択する場合ですと,離婚条件の中に詐欺行為を行ったことについての慰謝料を請求することになります。

 さらに,Aは③B及びCに対して損害賠償請求をしていくことも可能です。これらのうちいずれの選択をするかは最終的にあなたが決めることになりますが,事案を踏まえた上でどの主張をすべきかを判断するに当たっては,法的な知識だけでなく豊富な経験が必要不可欠になってきます。そのため,このような事案でお困りの際には,離婚事件について豊富な経験を有する弁護士に相談するようにしましょう。

2017.09.18

投稿者が分からない!記事を表示しているサイトの管理者に記事の削除を請求できる?

投稿者が分からない!記事を表示しているサイトの管理者に記事の削除を請求できる?

インターネット上に自分に対する悪口やネガティブ情報が書かれていた!そんな状況に置かれた場合,1日でも早くその記事を削除したいですよね。

しかし,投稿者が誰か分からず,その特定に時間がかかってしまったり,投稿者が分かっても投稿している人が悪意をもって投稿している場合は,なかなか記事の削除に応じてくれないですよね。

そんな場合,投稿者ではなく,その記事を表示しているサイトの管理者に,記事の削除を求めることはできるのでしょうか。

そこで,今回は,サイト管理者に対する削除依頼をテーマにお話しようと思います。

1 サイト管理者の特定

まず,サイト管理者が誰かが分からなければ,削除の依頼先が分からないため,まずはサイト管理者の情報を調査する必要があります。サイト管理者の情報については,サイト内の表示からすぐに分かる場合もありますし,サイト内からでは分からない場合もあります。

⑴ 表示されている場合

サイトのトップページや一番下の部分に「会社概要」「運営会社」「お問い合わせ」などのリンクが張られていたり,運営会社の名前や所在地が書かれていることがあります。
そのような記載がある場合は,そこに記載されている運営会社等に削除を依頼することとなります。

⑵ 表示がない場合

サイト管理者情報について表示がない場合は,サイトのURLやドメイン名から,サイト管理者の情報に辿りつける場合もあります。これについては,IPアドレスやドメイン名の登録者などに関する情報を誰でも無料で参照できるサービスがありますので,当該サービスを利用するといいでしょう。有名なものとしては,「Whois検索」や「aguse」等があります。たとえば,「Yahoo!」で「aguse」と検索すると,「aguse.jp: ウェブ調査」というサイトが出てきますが,ここで,調べたいサイトのURLを入力すると,そのサイトに関するドメイン情報が表示されます。しかし,ドメイン情報については,ドメインを取得した業者の情報が表示されるだけで,必ずしもサイト管理者と一致していないこともあります。(おそらく,一致していないパターンの方が多いでしょう。)

そこで,そのドメイン情報が表示されている右側の「正引きIPアドレス***** の管理者情報」という表示を見ます。これについては,最初から左側のドメイン情報と同様に表示されている場合もありますが,表示されていない場合は,「WHOISで調べる」というボタンをクリックします。すると,WHOIS検索の結果が表示され,その中にサイトの情報が保存されているサーバを管理している会社(ホスティングプロバイダ)の情報が表示されることがあります。

このホスティングプロバイダは,あくまでサーバーの管理者でしかありませんので,サイト自体を管理している訳ではありません。したがって,ホスティングプロバイダに対して,ホスティングプロバイダとサーバー利用契約をしているサイト管理者の情報開示を求め,サイト管理者を特定するという作業が必要になります。そして,サイト管理者が開示されれば,そこに対して,削除を請求する形になります。

2 削除依頼の方法

⑴ お問い合わせフォーム・メール等

 サイト内に,お問い合わせフォームやメールフォームが設置されている場合には,それを通じて削除依頼をすることが初動となるでしょう。
 メールに書く内容としては,氏名,連絡先,削除したい記事の具体的部分の抜粋と,当該記事のURL,削除してほしい理由等を書きます。

どのような方法で削除依頼をするかを問わず,削除依頼にはコツがあるものです。サイト管理者としては,投稿者の表現の自由を尊重するためにも,書き込みに不満がある人から削除依頼が来た場合,無制限に削除対応をするわけにはいきません。そこで,ある一定の権利侵害が認められる違法な書き込みでなくては,削除は実行してくれないものです。そのため,その書き込みがどのような理由で誰の何の権利を侵害しているのかを明確に伝えなくてはなりません。

⑵ テレコムサービス協会の書式による削除依頼(送信防止措置依頼)

 サイト内にお問い合わせフォーム等がない場合でも,削除依頼に関して,テレコムサービス協会という協会が提唱している書式があるため,それを用いて削除依頼をする方法が考えられます。
 テレコムサービス協会とは,インターネットサービスプロバイダ(ISP),ケーブルテレビ会社,コンテンツプロバイダ,ホスティングプロバイダ等,情報通信に関わる幅広い事業者を会員とする一般社団法人で,通称「テレサ協」ともいいます。

 テレサ協が提唱している書式は,別名「送信防止措置依頼書」とも言います。「テレコムサービス協会 書式」や「送信防止措置依頼書」等のワードで,検索エンジンで検索すると,書式が見つかると思います。無料ダウンロードも可能ですので,そちらを記載して,サイト管理者やホスティングプロバイダに郵送し,削除依頼をします。なお,郵送後の手続きの流れについては,別の記事に詳述しますのでそちらをご覧ください。

⑶ 裁判上の削除請求(削除の仮処分)

 上述したお問い合わせフォームやテレサ協による削除依頼は,裁判外の手続きですが,何ら強制力はないため,請求をしても何ら対応をしてくれない場合も多々あります。
 そこで,強制的に削除を求めるためには,裁判所を通じて,削除の仮処分を申し立てる方法があります。これは,裁判所が,当該書き込みにより,申立人の権利侵害(たとえばプライバシー侵害,名誉毀損等)があったと一応認められる場合には,一定額の担保金の供託を条件に,「削除を仮に認める」という決定を出してくれるものです。裁判所の決定が出れば,多くのコンテンツプロバイダ,ホスティングプロバイダは削除に応じてくれます。
 なお,裁判上の請求ですので,簡単な手続ではなく,法律に基づいた主張やそれを裏付ける証拠の提出も必要となりますので,弁護士に依頼をされた方が良いでしょう。

3 まとめ

 以上のとおり,削除請求の方法としては,任意(裁判外)の手続きとして,サイト内備え付けのお問い合わせフォーム等による方法や,送信防止措置依頼書の提出等の方法,裁判上の手続きである仮処分申立ての方法があります。
 しかし,いずれの方法においても,削除を求める部分の特定や削除を求める理由(権利侵害の存在)を適切に記載する必要があり,権利侵害の有無に関しては法的判断となりますので,その分野に経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。

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