弁護士コラム

2017.07.09

【離婚問題】浮気相手に騙されていた場合って,逆に慰謝料は取れないの?

不倫は一般にしてはいけないことであるとのコンセンサスがあると思います。このことは,不倫をしたら離婚することになったり,慰謝料を請求されたりすることが周知されていることからも明らかでしょう。
 ただ,不倫をしていた人の中には既婚者と知らずに付き合っていたケースもあります。また,既婚者とは知っていたものの,奥さんとは離婚寸前で夫婦関係は形骸化しているものと認識したからこそ交際を始めたというケースもあります。このように,不倫といっても,既婚者に騙されて不倫に至ってしまったという人も少なからずいらっしゃいます。このような人も慰謝料をとられてしまうのでしょうか?むしろ既婚者に騙されてしまった被害者として慰謝料を取れるのではないでしょうか?今回は,浮気相手である既婚男性に騙されていた女性は慰謝料を支払わなければならないのかについてお話ししたいと思います。

1 事案の紹介

 既婚男性Xとその妻Aは,平成19年に婚姻しました。同年には,子供も生まれ,X・A夫婦は夫婦として何不自由なく暮らしていました。
 しかし,Xは出会い系サイトに嵌り,その中で後に浮気相手となるYと知り合いました。Xは,Yに対して,妻Aとの生活が苦痛でならないなどと度々言っていました。Yは当初Xの話を信じてはいませんでしたが,Xは妻Yとの仲が破綻しているのは間違いないとして,弁護士を入れて離婚調停中であると言ってきました。加えて,Xは弁護士を依頼していることを信用してもらうため,弁護士からの報告書を見せてきました。そのため,YはXAの婚姻関係は破綻していると信じて男女の仲になりました。
 しかし,Xが見せてきた証拠はすべてXが偽造したもので,一見してわからない程精巧なものでした。

2 騙されていた人に対する妻からの慰謝料請求が認められない!

 では,このような事案において妻AからYへの慰謝料請求が認められるでしょうか?
 流石にこのような場合であればYへの慰謝料請求は認められません。たしかにYはXが既婚者であると知ってはいるのですが,既にXA間の婚姻関係は破綻していると過失なく信じているからです。通常であれば,裁判所は「婚姻関係が破綻していると信じました」と主張したとしても,簡単にこれを信じることはないのですが,今回のようにXが証拠まで偽造して信じ込ませていた場合であれば,Yが婚姻関係が破綻していると信じたとしても仕方がないと言えるでしょう。

3 騙されていた人は既婚者に対して慰謝料を請求できないの?

 逆に,Xに騙されていたYはXに対して慰謝料を請求できないでしょうか?
 このような場合,XとYの双方の不法性を比較した上で,Yの請求が認められるかが判断されることになります。
 さて,どういった場合であればYの請求が認められるのか,実際の裁判例をいくつか見てみたいと思います。

〈Yの請求が認められた裁判例-①〉

 Yは,就職先で上司であり妻と三人の子供を持つXと知り合いました。Xは妻と不仲であったので,Yと婚姻する意思がないにもかかわらず,妻と離婚して婚姻する旨の嘘を伝えたため,Yはその話を信じて男女の仲になり,その後,Yは妊娠しました。

 YがXに妊娠した旨話すと出産を勧めてきましたが,その翌日にはYを避けるようになりました。そして,XはYが分娩した際には,費用を負担したほかは交際を絶ち,他の女性と浮気をする有様でした。
 このような事案において,裁判所は「女性が情交関係を結んだ当時男性に妻のあることを知っていたとしても,その一事によって,女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求が,民法708条の法の精神に反して当然に許されないものと画一的に判断すべきではない」として,XはYに対して60万円の慰謝料を支払うべきであるとしました。

〈Yの請求が認められた裁判例-②〉

 既婚男性XはYに対して,全くの虚偽の事実やエピソードを交えて,妻との夫婦関係が破綻しており,離婚必死であるとの嘘をついてYを誤信させ男女の仲になりました。その後,Yから避妊を求められた際にも,「子供もほしいし結婚も考えている」などと話しました。その後も夫婦の間で離婚の話など全く出ていないのに,全くの虚偽の事実やエピソードを交えて,「離婚してYと暮らしたい」などと述べ,交際を続けました。ついにYは妊娠してしまいましたが,Yが中絶したいと言ってもそれを再三拒否し,結局Yは出産することになりました。
 このような事案において,YにもXの言動を簡単に信じたという点で落ち度はあるとしつつも,Xは全く虚偽の事実を述べるなどその違法性の程度の方が大きいとして,XはYに対して75万円の慰謝料を支払うべきであるとしました。

 このように浮気相手Yが既婚者であると知っているだけでなく,婚姻関係が破綻していると軽信した場合であっても,Xが殊更嘘をついてYとの交際を続けているのであれば,XはYに対して慰謝料を支払わなければならない場面があると言えるでしょう。
 また,これらの裁判例を踏まえれば,最初に例として紹介したYの請求も認められる可能性が高いでしょう。

4 まとめ

 いかがでしたでしょうか?騙されて浮気してしまった場合であれば,妻からの慰謝料請求に応じる必要がないかもしれませんし,逆に騙した男性に対して慰謝料を請求することも可能かもしれません。
騙されて交際していたのに慰謝料まで請求されてしまい,辛く何も考えたくないかもしれませんが,そういったときは一人でも自分のために動いてくれる人が助けになるものです。経験豊富な弁護士であれば,あなたの気持ちも考えた適切な対応をすることが可能です。
一度,離婚事件について経験豊富な弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

2017.07.08

【離婚問題】別居時の生活費っていくらくらいもらえるの?婚姻費用分担額の基準

「私は1か月前に夫と別居しました。私は,夫の経営している会社を手伝っていましたが,別居してからは無職になってしまいましたので,夫に婚姻費用を支払ってくれるよう請求したいと思うのですが,いくらくらいもらえるのでしょうか?なお,私と夫の間には子供はいません。」
夫(又は妻)との間で別居したとしても,生活はしていかなくてはいけません。しかし,今回の相談者のように別居を機に無職になってしまい収入がなくなってしまうというケースも決して少なくはありません。そこで,このような場合には生活費を確保する方法として,婚姻費用を請求することになりますが,婚姻費用はいくらくらいもらえるのかという点についてお話ししたいと思います。

1 婚姻費用ってなあに?

 まずは,婚姻費用という言葉にはあまり聞き覚えはないと思いますので,婚姻費用とは何か,ということからお話ししたいと思います。
 前提として,夫婦は,法律上互いに生活保持義務を負っています。生活保持義務とは,自分の生活と同程度の生活を相手方に保持させる義務のことで,その義務の具体化として,相手方に対して婚姻費用を負担しなければなりません。婚姻費用とは,簡単に言うと生活費のことです。たとえば,衣食住費,医療費,交通費等,生活する上で必要な費用がこれに含まれます。
婚姻費用には,配偶者の生活費のみならず,夫婦間の未成熟子の生活費,教育費等も含まれます。なお,婚姻費用の問題は,別居したときに顕在化することが多いですが,同居中であっても請求することは可能です。(同居中の夫が生活費を渡さない等のケースがこれにあたります。)

2 婚姻費用の決め方

 では,この婚姻費用はどのように決めればいいのでしょうか?
 これについて,民法760条は,夫婦の「資産,収入その他一切の事情を考慮して」決せられると定めていますが,具体的にいくら払うかについての規定はありません。
そのため,婚姻費用についても財産分与や慰謝料の場合と同じように話し合いで自由に決めることができます。よって,お互いが納得している限り「全く支払わなくてもいい」とか「毎月100万円支払う」といった内容で婚姻費用についての合意をしても構いません。
 もっとも,話し合いで自由に決めることができるとはいえ,毎月の生活費として必要な金額というのは,各家庭によって多少差はあるとしてもある程度決まっているでしょうから,実際の生活費に必要な金額とあまりにかけ離れた金額を請求すると,話し合いはまとまらなくなってしまいます。話し合いがまとまらない場合は,調停を申立てることになりますが,調停でも合意に至らない場合は審判という手続きで金額が決まります。審判は,話し合いではなく,裁判官が一方的に金額を決定する手続きです。
調停や審判等の裁判所での手続きでは,婚姻費用の金額に関し,ある程度相場のようなものがありますので,交渉を有利に進めるためには,相場がいくらかを知っておくことが重要になってくるのです。

3 婚姻費用はどのように決められるの?

 前でお話ししたように,婚姻費用の金額については,基本的には話し合いによって自由に決定することができますが,調停においての話し合いでは,「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」(以下,算定表といいます。)をもとに婚姻費用を計算することが一般的です。
この算定表は,裁判所のホームページにも掲載されているため,ご覧になったことがある方も多いかもしれません。この算定表では,以下の事情を考慮して金額が決定されます。

① 支払う側の年収
 支払う側の年収が多ければ多いほど,婚姻費用の金額も大きくなります。

② 受け取る側の年収
受け取る側の年収が少なければ少ないほど,婚姻費用の金額も大きくなります。そのため,専業主婦の場合には婚姻費用も比較的高額になる傾向があります。なお,収入があるから請求できないという話ではなく,収入があったとしてもその収入に差があれば,婚姻費用の請求は可能です。

③ 子どもの人数
婚姻費用には子どもの生活費や教育費も含まれます。そのため,子どもの人数が多いほど婚姻費用も高額になる傾向があります。

④  子どもの年齢
子どもが大きくなると義務教育ではなくなるため,教育費なども多めにかかる傾向があります。そのため,子どもの年齢が高いほど婚姻費用も高額になる傾向があります。

4 算定表の利用手順

 婚姻費用算定にあたっては,上記の事情を考慮し,該当する算定表を参考にして金額を計算することになります。この際の算定表の利用手順は以下の通りです。以下は,実際に算定表を一緒に確認しながら読んでいただけると分かりやすいかと思います。
 
① 子どもの人数と年齢から利用する算定表を選ぶ。
(現行の算定表は,子どもの人数が3人までの分しか掲載されていませんので,4人以上のご家庭であれば,別途計算式による計算が必要です。これについては,婚姻費用算定に詳しい専門家弁護士にご相談ください。)

② 支払う側(義務者)の年収を確認して,算定表の縦軸の該当する金額を確認する。この際,自営業者か給与取得者で確認すべき場所が違いますので注意が必要です。
(なお,ここでいう年収とは,給与所得者の場合は,源泉徴収票上の「支払金額」の金額を言い,自営業者の場合は,確定申告書上の「課税される所得金額」の金額を言います。)
  ↓
③ もらう側(権利者)の年収を確認して,算定表の横軸で該当する金額を確認する。この際,支払う側の年収と同様に自営業者か給与取得者で確認すべき場所が違いますので注意して下さい。
  ↓
④ 両者の年収が交差するポイントが婚姻費用の金額になります
5 まとめ
 今回は,算定表を利用した婚姻費用の計算方法についてお話しさせて頂きました。調停における婚姻費用の算定においては,算定表における金額が基準となります。そのため,こういった相場を知っていただくことが解決のために役に立つと思いますので,一度確認してみてください。
 もっとも,算定表は,養育費や婚姻費用を簡易迅速に算定するために,典型的な家族構成について,統計資料に基づいて算出されたものですので,各事案の個別的事情については考慮されていません。たとえば,算定表で考慮されている子どもの教育費は,公立の高校までの費用ですので,私立の学校の学費や大学にかかる費用等は考慮されておらず,これらについては算定表で定める費用に加えて,請求できるケースもあります。また,子どもが4人以上の場合や,再婚して前妻と後妻の双方に子供がいるケースなどについては,算定表は使えないため,個別に計算する必要があります。
 これらの計算は,算定表が作成された背景事情や,基になった計算式を理解していないと不可能ですので,弁護士の中でも,婚姻費用や養育費に関し,多数の審判例を経験した詳しい弁護士でなければ,金額について正確な見通しを立てることは難しいです。
 婚姻費用は,毎月の負担となりますので,わずかであっても金額の増額又は減額は,生活に大きな影響を与える問題です。ですので,どうにか金額を増やしたい,減らしたいというような場合には,何か方法がないか経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。

2017.07.07

【離婚問題】養親と縁は切れないの?離縁制度について

養子縁組は,相続税対策のためや自分の跡継ぎにするためなど様々な思惑の下でなされるものです。しかし,養子縁組は,養子と養親の仲が悪くなってしまうと「相続させたくない」,「跡を継がせたくない」など新たな問題を生じさせると言う側面も有しています。
 このような場合,「離縁」という制度を用いて養子と養親との関係を解消することが認められています。そこで,今回は問題になることが多い普通養子縁組における「離縁」についてお話しさせて頂きたいと思います。

1 離縁するとどんな効果があるの?

離縁とは,有効に成立した養子縁組の効果を縁組後に生じた事由によって,消滅させることを言います。そのため,離縁をすると,①血族関係の解消,②離縁による復氏といった効果が発生します。
 具体的には,①縁組によって発生した養子と養親との間若しくは養子と養親の血族との間に生じた親族関係が消滅することになります(民法729条)。
 また,②養子の氏が離縁によって縁組前の氏に戻ることになります。もっとも,配偶者と共に養子をした養親の一方のみと離縁をした場合には,縁組前の氏には戻らず,離縁の際の氏のままとなります(民法816条1項)。

2 離縁ってどうやってするの?

 養子縁組をした後に,養子縁組を解消するための方法として,主に①協議離縁,②離縁調停,③裁判離縁といった3つが使用されています。以下では,それぞれの制度の概観を見て行きましょう。

(1) ①協議離縁

 養子縁組の当事者は,話し合いで離縁をすることが出来ます(民法811条1項,協議離縁)。この場合,離縁理由は限定されていません。そのため,養子と養親の性格が合わなかったなどどんな理由で離縁することも可能です。
協議離縁の効力を生じさせるためには,当事者間において離縁をするという意思があることに加えて,離縁の届出が必要になります。この離縁の届出は,市町村役場から離縁届の用紙をもらい,養親と養子がそれぞれ署名押印したうえで,保証人2名が署名押印したものを市町村役場に提出すれば離縁出来ます。
 養子が未成年でも,養子にする場合と違って,離縁では家庭裁判所の許可は不要です。ただし,養子が15才未満の場合は,離縁後に養子の法定代理人となる者が養親との間で離縁の合意をすることになります(民法811条2項)。

(2) ②離縁調停

 養親子間で離縁の話し合いがまとまらない場合,「直ぐに裁判!」という訳ではありません。このような場合には,離縁したい方が家庭裁判所に離縁調停の申立てをすることになります。
 離縁調停では,裁判所で,裁判官や調停委員を交えて離縁について話し合いを行うことになります。これも協議離縁同様,話し合いですので,基本的にどんな理由でも離縁することが出来ます。

(3) ③裁判離縁

調停でも合意に至らない場合は,家庭裁判所に対して,離縁の訴えを提起することになります(これを裁判離縁と言います)。なお,調停を経ずにいきなり裁判をすることは基本的にできません(これを調停前置主義と言います)。
 裁判離縁が認められるためには,養子縁組が成立していることのほか,離縁原因があることを要します(民法814条1項)。すなわち,
① 他の一方から悪意で遺棄されたとき(1号)
  e.g. 養子が高齢の養親の面倒を一切見なかった場合
② 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき(2号)
③ その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき(3号)
  e.g. 養子が養親の財産を勝手に処分してしまった場合
 のいずれかに該当する必要があります。もっとも,具体例として挙げたものであっても,場合によっては該当しないこともあり,事案をしっかりと見てみないと本当に要件に該当するかは判断できません。
 実際の裁判離縁では,そのほとんどが3つ目の「その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき」に該当すると主張されることが多いようです。ここで,「縁組を継続し難い重大な事由がある場合」とは,養親子関係の維持・回復が極めて困難な程度に縁組を破綻せしめる事由を言います。このような事由があるか否かについては,個々具体的な事案を検討して判断せざるを得ず,専門的な判断がどうしても必要になってきます。

3 まとめ

 いかがでしたでしょうか?今回は,普通養子縁組の「離縁」について見てきました。養子縁組を解消することは婚姻を解消する場合と同じく簡単なものではありません。当事者の話し合いで離縁が成立すれば問題はありませんが,裁判所を利用して離縁を求めようとする離縁調停の段階になりますと,どうしても裁判を見越した主張をしなければなりません。そして,裁判では先程も申しましたように,限られた場合にしか離縁は認められません。
そのため,調停段階から法的に整理された主張をする必要があるとともに,本当にその事案で離縁が認められるかも見越して検討する必要があります。このように,法的に整理された主張をするためには専門家の意見がどうしても必要になります。
そこで,離縁でお悩みの際は,早期に弁護士に相談するようにしましょう。

2017.07.06

【離婚問題】離婚したら財産って半分もらえるの?

離婚をする際,今まで二人で購入してきた家や車,貯金,現金。これらはどうやって分ければいいの?どれくらい財産って自分の手元に来るの?これが「財産分与」のお話です。離婚して心機一転,新生活を始めるには,財産分与をどうするかは大変重要な問題です。
そこで,今回は,本来もらえる財産を確保するために,財産分与に関する知識を少しご説明致したいと思います。

1 財産分与ってなあに?

(1) 財産分与ってどんなもの?
財産分与とは,夫婦の離婚に伴って生じる,婚姻中に形成した財産の清算や離婚後の扶養等を処理する手続を言います。そして,この財産分与という制度には,①婚姻中に夫婦の協力で形成した財産の清算(清算的財産分与),②離婚後の扶養(扶養的財産分与),③精神的苦痛に対する慰謝料(慰謝料的財産分与)としての3つの要素があります。
ここで,財産分与にも慰謝料的財産分与としての性格もありますが,これは,財産分与に慰謝料が必ず含まれる,あるいは含めなければならないことを意味するものではありません。財産分与と慰謝料を別々に取り決めたり,別々に請求することもできます。

(2) 財産分与を決める方法
ア まずは話し合い!
離婚それ自体に関する相手方との話し合いと併せて,財産分与の対象・分与の割合・分与の方法や,支払方法などについて話し合いを行うことが一般的です。もっとも,財産分与の取り決めを口約束だけで済ませてしまうと,後日相手から支払を受けられない可能性があります。そのため,支払いについて取り決めた内容を公正証書にしておくといいでしょう。
また,財産分与は必ずしも離婚と同時に行う必要はありませんが,離婚から2年以内に請求しなければ権利を失ってしまいますので,忘れないようにしましょう。

イ 話し合いがまとまらなかったら裁判所へ
相手方との話し合いがまとまらなくても,いきなり訴訟を提起するのではなく,まず家庭裁判所に対して離婚,財産分与及び慰謝料の支払いを求める調停を申し立てる必要があります。
調停で話し合いがまとまらない場合,家庭裁判所は,職権で離婚とともに財産分与や慰謝料の支払いを命ずる審判をすることもできます。この審判に2週間以内に当事者から異議が申し立てられることなく確定した場合,確定判決と同一の効力を付与され,これに基づく強制執行を申し立てることが可能となりますが,適法に異議が申し立てられた場合,その審判は効力を失うことになります。
調停で話し合いがまとまらず,調停不成立となれば,家庭裁判所に対して,離婚と併せて財産分与及び慰謝料の支払いを求める訴訟を提起することになります。

2 財産はどんな割合で分けることになるの?

では,話し合いでまとまらない場合,財産はどのような割合で分けているのでしょうか?
現在の家庭裁判所の実務は,夫婦が婚姻中に取得した財産は,原則として夫婦が協力して形成したのであり,形成についての寄与の程度は,平等であるとしています。したがって,夫婦は,婚姻後,形成した財産に対して相互に2分の1の権利を有することになります。これを「(財産分与の)2分の1ルール」と言います。
これは,妻(夫)が専業主婦(夫)であった場合であるとか共働きである場合であっても妥当し,財産分与は原則として2分の1の割合で行われることになります。
もっとも,財産分与の割合は具体的な事案ごとに異なり,例外的に個別具体的な事情によって割合が修正されることもあります。たとえば,夫婦の片方の特殊な努力や能力によって高額な資産形成がなされたような場合には,その特殊な努力等を考慮すべきということで,分与の割合が修正されることもあります。一つ事案を紹介しましょう。

 夫は医師であって,開業当時,大きな資産はなかったのですが,その後次第に人気が出るようになりました。現在では診療報酬は年間1億円以上に達し,4億円相当の資産を有するようになりました。
一方,妻は夫との間に1男3女を儲けたのですが,夫の不貞,虐待等の有責行為により夫及び子らと別居し,現在資産もなく会社勤めで僅かばかりの収入を得ているようです。
このような事案において,妻は夫の資産である4億円の2分の1である2億円の財産分与を求めました。
これに対し,裁判所は5%にすぎない2,000万円についてのみ財産分与を認めました。

医師としての業務は専門的知識・技術が必要であり,また,資格取得のために,多くの金銭的・時間的労力を要します。また,病院の経営にあたっては,個人の経営手腕や能力が財産形成にとって大きな要因になっていることも間違いありません。
このような高額の財産形成には,個人としての知識・技術・能力が大きく影響しているため,むしろ2分の1ルールを適用することが不適切であると判断されたものと考えられます。
とはいっても,医師であれば必ず財産分与の割合が5%になってしまうわけではありません。個別的事情によっては,20%のこともありますし,原則どおり50%と判断されることもあります。

3 まとめ

 いかがでしたでしょうか?財産分与は普通2分の1の割合でなされることになります。2分の1以外の割合になるのは,特殊な事情がある場合に限られますが,特殊な事情を主張するに当たっては,十分に事実を整理し,証拠を揃えることが重要になってくるでしょう。
 ですので,夫が経営者であるとか医者である場合などもしかしたら2分の1の割合にならないと感じたときには,すぐに弁護士に相談するようにしましょう。

2017.07.05

【離婚問題】離婚したら名字や戸籍はどうなるの? (2)-子供の名字と戸籍

離婚したら名字や戸籍はどうなるの? (2)-子供の名字と戸籍

離婚した後に子供の氏(名字のことを言います。)をどうするのか,戸籍をどうするのかということは,離婚するにあたって問題になってくることも多いと思います。今回は,子供の名字と戸籍についてお話しさせて頂きたいと思います。具体例として,田中さんと山田さんが婚姻をし,女性である田中さんが「山田」と氏を変更した場合において,子供が一人いる時を想定したいと思います。

1 子どもの氏について

両親が離婚したとしても,子どもの氏は当然には変更されません。そのため,離婚によって子どもの親権者である母親が旧姓に戻っても,子どもの氏が変わるわけではありません。先程の例で言えば,田中さんが婚姻して「山田」に氏を変更していたのですが,離婚したときに氏を「田中」に戻したとしても,子供の氏は山田のままということになります。
そのため,母親が親権者であり婚姻前の氏に戻った場合,親権者である母親と子供の氏が異なることになります。

(1) 子供の氏の変更はどうすれば出来るの?

このように親権者である母親と子供の氏が違う場合,子の氏を親権者である母親と同じ氏に変えるには,「子の氏の変更」の手続きが必要になってきます。
 子の氏の変更手続きをするには,家庭裁判所に「子の氏の変更申立て」をし,家庭裁判所の許可審判の決定書をもらい,市町村長に子の氏の変更届を先程の決定書を添付して届け出ることになります。
 なお,子供の氏を変更しようとしたときに,親権者でない父親が氏の変更を認めないと言ってくることがありますが,そのような主張は認められないので安心して下さい。

(2) 子供が成人した後に親権者でない者の氏に戻ることは出来るの?

 では,親権者である母親が氏を変更したのに伴って,子供も氏を変更した場合,子供はもう父親の氏に戻ることは出来ないのでしょうか?
 そういうわけではありません。子供が成人になってから1年以内に,元の氏に戻りたいと思えば,自分で役所に届け出をすれば,従前の氏に戻ることが出来ます。その際,新戸籍を編製してもいいですし,親権者にならなかった親の戸籍に入ることも出来ます。

2 子供の戸籍について

 両親が離婚する際,子が未成年者であれば両親のどちらかを親権者として定めなければなりません。離婚後に親権者となると決まった親が婚姻によって氏を変えていたならば,離婚によって復氏又は婚姻中に使用していた婚氏を選択することになります。そのため,この親は婚姻前の戸籍に戻るか,新しい戸籍を作ってその戸籍に入ることになります。
これに対して,子供は当然に親権者となる親の戸籍に入るわけではありません。例えば,母親を子の親権者と決めて夫婦が離婚し,母親が離婚しても,子供はそのまま父親の戸籍に入ったままなのです。

(1) 親権者である母親の戸籍に子供を入れるにはどうすればいいの?

では,親権者である母親の戸籍に子供を入れるにはどうすればいいのでしょうか?
子供と親の氏が異なる場合,子供は親の戸籍に入ることができないということに注意が必要です。そのため,離婚に際して氏を戻した母親が子供の親権者になった場合,子供に自分と同じ氏を名乗らせない限り,自分と同じ戸籍に入れることはできず,子供は従前の戸籍に入ったままとなります。
よって,婚姻によって氏を改めた親が親権者となり,子どもを自分の戸籍に入れたい場合,家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可」を申し立てて,子供の氏を自分の氏と同じにする必要があります。
先程の例で申しますと,田中さんが「山田」の氏から,離婚によって「田中」に氏を戻したとすると,何もしなければ子供の氏は「山田」のままになります。この場合に,子供を田中さんの戸籍に入れようとしても,子供と氏が違いますので田中さんの戸籍に入れることは出来ません。そこで,田中さんは「子の氏の変更許可」を申し立てることになるのです。
もっとも,戸籍には3世代が入ることは出来ませんので,親が婚姻前の戸籍に復籍し,親がその戸籍の筆頭者ではないときのようにまだ祖父母のうちいずれかが存命の場合には,子供がその氏を変更しても,その戸籍に入ることは出来ませんので注意が必要です。この場合,母親を筆頭者とする新しい戸籍がつくられることになります。

(2) 婚氏続称の手続きをした場合はどうなるの?

 では,母親が婚氏続称の手続きをした場合はどうなるのでしょう?先程の例で申しますと,婚姻によって「山田」の氏を名乗ることになった田中さんが婚氏続称の手続きをしたことによって,離婚後も「山田」と名乗り続けている場合がこれにあたります。この場合,一見すると,母親の氏と子供の氏は同じ「山田」ですので,子供は母親の戸籍に入ることが可能なように思えます。
しかし,難しい話になりますが,親が婚氏続称の届け出をした場合であっても,「婚姻中の氏」と「続称の手続をとった氏」は,法律上,別の氏とされていますので,呼び方は同じであってもその親と子の氏は異なることになります。つまり、先程の例で言う母親の「山田」と子供の「山田」とは別の氏ということになるのです。
 そのため,このような場合に子供を母親の戸籍に入れるためには,「子の氏の変更許可」の申立てが必要になるのです。

(3) 子どもの入籍手続

なお,「子の氏の変更許可」を申し立て,家庭裁判所によって氏の変更許可の審判が出たとしても,それのみでは氏の変更の効力は生じず,子供が親の戸籍に入籍する旨の届け出をすることが必要です。これにより,子どもの氏の変更の効力が生じることになります。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか?細かいお話もさせていただきましたが,婚姻によって氏を変更した親権者の戸籍に子供を入れようとする場合には,「子の氏の変更許可」を申し立てる必要があります。
 「子の氏の変更許可」を申し立てるとなると,子供を跡取りと考えている父親やその家族からの妨害にあうことも少なくはありません。そのため,「子の氏の変更許可」を自分で申立てるとなると,父親たちへの対応に追われ,必要以上に心と体が疲れてしまうことになります。
 経験豊富な弁護士であれば,離婚の段階から離婚後のことも考えて対策を検討しているはずですので,ご相談の際には,経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。

2017.07.04

【離婚問題】離婚したら名字や戸籍はどうなるの? (1)-夫婦間での名字と戸籍

離婚した後に氏(名字のことを言います。)をどうするのか,戸籍をどうするのかということは,婚姻によって氏を変更した人にとっては,今後の人生における重要な問題になってくることもあります。残念なことですが,使い慣れてきた氏を変えることで不利益を被ることもあり得ますので,離婚した場合に夫婦の戸籍や名字がどうなるかについて学んでおきましょう。田中さんと山田さんの二人が婚姻したときに,田中さんが山田に氏を変更した場合を考えてみましょう。

1 離婚後の氏について

(1) 婚姻のときに氏を改めなかった人の場合

夫婦は婚姻をする際,その協議によって,夫か妻かいずれかの氏を称し,婚姻届にこれを記載して提出することになっています。このように,夫婦は婚姻すると,夫又は妻の氏のどちらかの氏を称することになります。上で述べた例で言えば,田中さんが氏を改めた人に,山田さんが氏を改めなかった人になります。
婚姻により氏を改めなかった人(例で言えば山田さん)は,離婚をしてもそのままの氏を名乗ることになります。

(2) 婚姻により氏を改めた人の場合
ア 離婚したら氏はどうなるの?
婚姻により氏を改めた人(例で言えば田中さん)は,離婚をすると婚姻前の氏(旧姓)に原則として戻る(これを「復氏」と言います)ことになり,婚姻前の戸籍に入籍することになります。
もっとも,離婚後も婚姻中の氏を使いたいと考えた場合,離婚の日から3ヵ月以内に,「離婚の際に称していた氏を称する届」(以下,「婚氏続称の届出」と言います。)を出せば,婚姻していたときの氏を名乗ることができます。つまり,田中さんは,離婚の日から3ヵ月以内に,婚氏続称の届出を提出することで「田中」を名乗り続けることができます。
この婚氏続称の届出は,離婚の届け出と同時にすることも可能です。そのため,離婚をするにあたって氏の問題についても考えておくといいかもしれません。

イ 手続きをするのが3ヵ月以降先になってしまったときは?
婚氏続称の届出は,先程も説明しましたように,離婚の日から3ヵ月以内とされています。この期間は,たとえ地震や台風などの自然災害があったとしても延長されないと考えられています。
ただし,3ヵ月を過ぎたからといって必ずしも婚姻時に使用していた氏を使用できないわけではありません。「氏の変更許可の申立て」を家庭裁判所に対して行うことで婚姻時に使用していた氏を使用できることが可能になることもあります。
とはいえ,氏の変更許可の申立てをするには「やむを得ない事由」がなければなりません。ここで言う「やむを得ない事由」とは,現在の氏により社会生活上で不利益・不便が生じており,その事情が社会的・客観的に見て妥当なものであることを言います。具体的には,手続きをしようとしたが病気で期間内に手続きができなかったことなどが「やむを得ない事由」にあたります。
家庭裁判所への申立に必要な時間的・労力的な負担や,氏の変更が裁判所に許可されない可能性があることを考えると,婚姻時の氏をそのまま名乗りたいという場合であれば,3ヵ月の期間内に届け出を出しておくべきでしょう。

2 離婚後の戸籍について

(1) 離婚の届出と同時に婚氏続称の届出をした場合
 婚姻により氏を改めなかった人は,離婚後もそのまま戸籍にとどまり,戸籍の変動はありません。
 これに対して,婚姻により氏を改めた人が離婚の届出と同時に婚氏続称の届出をした場合,直ちに離婚の際に称していた氏で新戸籍が編製されることになります。
 先程の例で言いますと,氏を改めなかった山田さんは,そのままの戸籍にとどまることになりますが,氏を改めていた田中さんは,離婚の際に称していた氏で新戸籍が編製されることになります。

(2) 離婚の届出と同時に婚氏続称の届出をしなかった場合
 次に,婚姻により氏を改めた人(例で言えば田中さんですね)が離婚の届出と同時に婚氏続称の届出をしなかった場合はどうなるでしょう?
 この場合,田中さんは,原則として婚姻前の戸籍に入ることになります。そのため,多くの場合,親の戸籍に戻ることになるでしょう。
 ただし,①婚姻前の戸籍がすでに除籍されているとき又は②復氏した者が新戸籍編製の申出をしたときには新戸籍が編製されることになります。なお,復氏した人が新戸籍を編製した場合,その後婚姻前の戸籍に復籍することはできませんので注意が必要です。

(3) 婚姻前の戸籍に復籍した者が婚氏続称の届出をした場合
 では,離婚した後すぐには婚氏続称の届出をしなかったので両親の戸籍に戻ったものの,その後,婚姻時の氏を使用しようとして婚氏続称の届出をした場合,どうなるのでしょうか?これは,先程の例で言えば田中さんが離婚時に婚氏続称の届出をしておらず,両親の戸籍に戻った後,山田の氏を使用したいと考えて届出をした場合を想定しています。
 ①届出人が復籍後の戸籍の筆頭者でないとき,②届出人が復籍後の筆頭者であっても,その戸籍に同籍者があるときには,新戸籍が編製されることになり,それ以外の場合には,新戸籍は編製されず,元の戸籍のままになります。
 このままでは分かりにくいと思いますので,具体例を挙げてみましょう。
 まず,①届出人が復籍後の戸籍の筆頭者でないときをご説明致します。
 先程の例を思い出してみてください。田中さんが離婚して両親の戸籍に戻ったとき,その戸籍には既に田中さんの両親がいらっしゃることになります。そうすると,その戸籍に戻ってきた田中さんは筆頭者としてではなく,通常その父親が筆頭者になっています。このような場合が①届出人が復籍後の戸籍の筆頭者でないときにあたり,新戸籍を作成することになります。
 次に,②届出人が復籍後の筆頭者であっても,その戸籍に同籍者があるときについてご説明致します。
 田中さんが戸籍に戻ったときにはすでに両親はなくなっていたのですが,その戸籍に田中さんの妹がいる場合などがこれにあたります。このような場合,田中さんは復籍後の戸籍の筆頭者になりますが,妹という戸籍に同籍者がいますので,②届出人が復籍後の筆頭者であっても,その戸籍に同籍者があるときにあたり,新戸籍を複製することになります。

3 まとめ

 いかがでしたでしょうか?細かいお話もさせていただきましたが,婚姻したことで氏を変更した人は,離婚したら原則として元々の自分の氏に戻る,婚姻したときの氏を使用したいときには,婚氏続称の届出を3ヵ月以内に行うということは覚えておいてくだされば幸いでございます。
 もっとも,先程も申しましたように,3ヵ月の期間内に手続きが出来なかった場合に氏を戻そうとするときには,氏の変更許可の申立てをすることになります。氏の変更許可の申立てを自分でするとなるとどうしても煩雑な手続きが必要になってしまい,ただでさえ離婚で疲れた心と体に追い打ちを受けてしまうことになります。
経験豊富な弁護士であれば離婚後のケアまで見越したうえで対策を考えますので、ぜひとも経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。

2017.07.03

【離婚問題】離婚した後も子供に会うために(3)-祖父母と面会交流

「ずっと孫と一緒に住んでいたのですが,息子たちが離婚してしまうと私たちは孫に会えないのでしょうか?」祖父母が実の両親の場合と同様、どうしても孫に会いたいという気持ちを抱くことは想像に難くありません。そのため,祖父母と孫が会うことを監護権者,例えば母親が認めるのであれば,祖父母が孫と会うことはもちろん可能ですが,どうしても話し合いがつかなかった場合,祖父母の権利として会うことが出来るのでしょうか?

1 祖父母は孫と会う権利ってあるの?

法律上,子供は離れて暮らしている親と会うことが認められています。これを面会交流と言います。面会交流は,親との交流を通じて子供の精神的な成長発達のための権利としての側面があるとは言えるでしょう。そのため,祖父母と交流することも子供の精神の健全な成長発達のために役立つとして,祖父母に面会交流を認める余地もなくはありません。
しかし,現在の裁判所は,祖父母に孫と会うための権利を認めない傾向にあると言えるでしょう。法律が明文で祖父母との面会交流を認めているわけではないからです。
ただ,上でも述べたとおり祖父母が孫に会える可能性がないわけではありません。裁判所においても非常に少数ですが,祖父母との面会交流を認めたものがありますので紹介させて頂きたいと思います。

事案は以下のようなものです。
子供は父母と母方の祖父母の家で暮らしていました。母は第二児出産後,死亡してしまいましたが,父は約3年間祖父母とともに暮らしていました。しかし,父が再婚して祖父母方を出る意思を示したことで祖父母と険悪な関係になってしまいました。
その後,父は祖父母方を出て再婚し,再婚相手と子らとの間で養子縁組をしました。両親の仲が険悪になるまでは,父は祖父母に対して養育費を支払っていましたが,祖父母との仲が険悪になってからは祖父母側から養育費の受領を拒絶されました。
父は再婚後,月に1回程度,子(監護者指定の調停申立時、7歳と5歳)に会いに祖父母方を訪ね,子の引渡を要求してきましたが,祖父母はこれを受け入れませんでした。そこで,祖父母が子の監護者指定の調停の申立てをし,その後,父が子の引渡しの調停を申し立てました。この申立てがされたのは,再婚後約9か月後のことでした。

このような事案に対して裁判所は,「家庭裁判所が親権者の意思に反して子の親でない第三者を監護者と定めることは,…親権者にそのまま親権を行使させると子の福祉を不当に阻害することになると認められるような特段の事情がある場合に限って許される」として,現実に子供を育ててきた祖父母を監護者として指定せず,子供を父に引き渡せと判断しました。
ただ,「引渡を命ずるにつき環境の変化により(子供たち;引用者注)が受ける影響を考慮してその具体的方法につき特段の配慮を施すことが相当である」として,親権者父へ子供たちを約3か月半後までの引渡しを命じるとともに,引渡し前の間,毎月1回の父との面会交流,引渡し後は2か月以内に1度以上の祖父母方に宿泊しての面会交流を命じました。

 このように祖父母達だけが事実上子供の世話をしていたような場合であっても,祖父母の面会交流を子供を父に対して引き渡した直後に1回だけ,環境調整のために面会交流を認めたにすぎません。

2 どういった対応をすべきか

 もっとも,祖父母は絶対に子供と会えないというわけではありません。
子の父が面会交流を求めて,家庭裁判所に調停・審判を申し立てることが可能ですので,子と父が面会交流をする際に,祖父母が子に会うことが考えられます。
 もっとも,これも無制限に認められるというわけではありません。
一般論として,父方の祖母と母親との関係が悪いことが離婚の原因の1つにあげられることも多く,その場合,母親は,元姑と子供が会うことを強く拒むことがあります。このように祖父母と母親の仲が致命的に悪い場合,やはり母親としては子供が元姑に会うことを快く思わないだけでなく,祖父母としても自覚のあるなしにかかわらず子供に母親の悪口を聞かせてしまうことが残念ながら想定されてしまいます。このような事態は,仮に祖父母との仲が良好であった場合でも離婚してしまうとどうしても生じてしまう可能性があります。このような事態になってしまっては,子供の福祉に全く貢献できないことになってしまいます。
 そこで,このような事態にならないよう母との間で適切なルールを作成して子供と会う機会を設けることが大事になってくるでしょう。

3 まとめ 

 以上お話ししてきましたように,裁判をしても祖父母に面会交流が認められる可能性というのは決して高いものではないので,祖父母との間で面会交流を認めるためには祖父母を申立人とするのではなく,祖父母の息子にあたる父親との面会交流のなかで祖父母と会えるようにすることがもっとも現実的な方法となるのだと思います。
 そのため,祖父母が孫に会えるかどうかが決まるのは話し合いが非常に重要になってきます。つまり,祖父母が孫と会うためには,最初の話し合いの段階から全力で取り組んでいかなければならないのです。
 しかし,父母間での話し合いですら上手くまとめることは難しいのに,ましてや祖父母との面会となってしまうと離婚した者同士ではどうしても調整できないものです。
 そこで,最初から経験豊富な弁護士を入れて本気で話し合いを行うことをお勧め致します。

2017.07.02

【離婚問題】離婚した後も子供に会うために(2)-再婚と面会交流

離婚をした時に子供の親権を元妻が持つことになり,面会交流でしか会うことが出来ないという男性の方も多いと思います。しかも,元妻が再婚したとなると状況がさらに悪化することもままあります。そこで,今回は元妻が再婚した後の子供との面会交流についてお話しさせて頂きたいと思います。もちろん,女性が親権者の場合だけでなく男性が親権者である場合もあり得ますが,以下では女性が親権者の場合を想定して記載させて頂きます。

1 親権者の再婚によって起こること

 親権者である元妻が子供を連れて再婚した場合,通常,その元妻と元妻の再婚相手の男性とは同居して,家族として生活することになります。しかし,子供は別れて暮らす「本当のお父さん」のことを忘れることが出来ません。また,子供にとって再婚相手という目の前にいる「新しいお父さん」は他人ですから,なかなか心を開くことも出来ません。
そのため,子供と「新しいお父さん」が新しい家族として信頼関係を構築して行くには多大な努力が必要となってきます。子供の年齢にもよりますが,なかには子供に再婚相手を「本当の」父親だと紹介し,再婚相手を「本当の」父親だと思わせて子育てを開始する場合もあります。
 もっとも,子供が再婚相手を父親だと認識していなくても,子供の養育環境は,元妻の再婚を機に大きく変化することは間違いありません。

2 じゃあ妻が再婚したら子供に会えないの?

 このように子供の養育環境が変化するため,面会交流を認めたくないという元妻の心境も理解できなくはないところです。
 しかし,面会交流は,その本当のお父さんと子供が円満で継続的な交流を行うことによって,「本当のお父さん」を含む両親から愛されていることを確信することで,子供の心身の成長に資するという子供の福祉にも寄与するためのものです。このように子供の権利としての側面がある以上,今まで通りの内容で面会交流を認めるべきかは一考を要するとしても,子供の持っている利益にもしっかり配慮して面会交流の枠組みを作っていくことになるでしょう。

3 それでも妻が会わせてくれないときは?

 先程も説明させて頂いたとおり,元妻が再婚したとしても子供との面会交流を全面的に制限することは難しいと言えるでしょう。しかし,それでも元妻が会わせてくれないときはどのような対策をとることが出来るのでしょうか?

(1) 履行勧告

 まずは,履行勧告と言って家庭裁判所から元妻に対して「面会交流させなさい」と働きかける制度を使うことになります。ただ,この制度には罰則等が無いため,残念ながら元妻が応じない可能性があります。

(2) 間接強制

 ただ,元妻が応じないからといって子どもとの面会をむりやりに実現するということはできません。すなわち,子供を家から引っ張ってきて無理やり面会をするということはできないのです。このような方法で面会を実現すると,子どもを物として扱うようなものであるからです。
 とはいっても,何も手段がないわけではありません。間接強制と言って,元妻が面会を拒むごとに一定額の罰金を払わせることで心理的に義務を履行させようとする制度があります。たとえば,面会を一回拒むごとに5万円を元妻から元夫に払わせる,という命令を出すことで元妻に面会を心理的に履行させようとすることが出来ます。すなわち,面会を2回拒めば10万円,3回拒めば15万円を支払うことになるのです。そして,この場合には,たとえば元妻の給料や預貯金を一方的に押さえることもできますので,罰金を支払うのが嫌なら面会交流を認めるしかないのです。

(3) 慰謝料請求

 また,面会交流を行うことを調停などで定めていたとして,元妻と再婚相手が面会交流を拒んだときには,元妻だけでなく,再婚相手にも慰謝料の請求が認められることがあります。しかし,慰謝料の請求が認められるとしても,子供に会えるようになるわけではありませんので注意が必要です。

4 まとめ

 いかがでしたでしょうか?以上で見てきましたように,面会交流を実現するためには,結局,子供だけでなく元妻の協力がどうしても必要になってきます。つまり,方法としては,履行勧告,間接強制,そして慰謝料請求といった方法もあるのですが,元妻が「いくらお金を払ってでも子供に会わせたくない!」として対応してきた場合,無理やり子供と会わせることが出来ず,元妻がある程度協力してくれないと子供と会うことが出来ないのです。そのため,元妻との話し合いがどうしても必要となってくるのです。
 しかし,一般に離婚した夫婦間の関係はあまり良好ということはありません。直接会って話そうとしても感情がどうしても先に立ってしまい冷静な話し合いは難しいでしょう。
 このような場合であっても,経験豊富な弁護士であれば,今までの経験を踏まえて冷静かつ適切に元妻と話し合うことが可能です。
 今後も子供と面会交流を続けたいのであれば,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.07.01

【離婚問題】離婚した後も子供に会うために(1)-面会交流ってなに?

離婚の際には,父母のいずれかを「親権者」に決め,通常は親権者が子供をひきとって育てることになります。では,「親権者」とならなかった片方の親が,今後,子供と会いたいと思った場合,どのようにして子供と会うことができるのでしょうか(離婚前であっても,夫婦が別居している場合には,同じ問題が生じます。)。
今回は,子どもと離れて暮らす親が子供に会う権利,すなわち「面会交流」の意義と方法についてお話ししたいと思います。ただし,面会交流とは子供の健全な成長のために実施するものであって,必ずしも両親の「子供に会う権利」という側面はそれほど強くありませんので,ご理解ください。

1 面会交流ってなに?

まず,面会交流という制度について説明致します。
面会交流とは,あまり日常的に聞く言葉ではありませんが,子供と離れて暮らしている親が,子供と会ったり,手紙や電話などで交流したりすることを言います。子供にとって,離れて暮らす親との間の円満で継続的な交流は,父母双方から愛されていることを確信させ,子供の心身の成長に有益であるといった意味で子供の福祉に寄与します。そのため,離れて暮らす親が子どもに会う権利として面会交流という制度が認められているのです。
なお,子どもと一緒に暮らしている親を監護親,子どもと離れて暮らしている親のことを非監護と言いますが,聞き慣れない言葉だと思いますので,以下,事案でご説明します。
例えば,父Aと母Bがおり,二人には子Cという息子がいたとします。ある日,AとBが離婚することになり,母Bが親権者として子Cを引き取ることになり,父AとB・Cは離れて暮らす形になりました。(なお,離婚していなくても,夫婦仲が悪くなり別居している場合も該当します。)
 このようなとき,子Cのことを引き取って世話している母Bを監護親,Cと離れて暮らしている父Aを非監護親と言います。

2 面会交流の決め方について

それでは,面会交流の取り決めは,どのように行うのでしょうか。
最初は,当事者同士の話し合いで,面会交流の可否やその方法,回数,日時,場所について協議します。そして,当事者間の話し合いによる解決が難しい場合,裁判所が関与し,解決を図ることになります。
具体的には,非監護親が監護親の住所地を管轄する家庭裁判所に,面会交流の調停を申し立てることになります。それでもまとまらなかった場合,審判に移行し,裁判官に面会交流の内容を判断してもらうことになります。
 では,面会交流が認められるかは,どのような基準で判断されているのでしょうか?
面会交流は,上でも述べたとおり,離れて暮らす親と子供の円満で継続的な交流により,子が父母双方から愛されていることを確信でき,子供の心身の成長に有益であるといった意味を有しています。そのため,基本的には子供の利益を害するような場合でなければ,面会交流を実施する,と判断される傾向にあります。
 子供の利益を害すると判断される場合としては

① 非監護親による子の虐待のおそれ
② 非監護親による子の連れ去りのおそれ
③ 非監護親による監護親に対する暴力

などといったものがあげられます。それぞれ典型例について少しお話ししておきます。
 まず,①は,過去に子供に対して暴力をふるうなど虐待をしていた事実があり,子供が現に非監護親に対して恐怖心を抱いている場合が典型例になります。
 次に,②は,過去に連れ去りの事実があった場合が典型例になります。
 そして,③は,非監護親の監護親に対するDVによって子供が精神的ダメージを受けており,現在も回復できない場合が典型例になります。

3 面会交流の実情

 面会交流の申立件数は,年々急激に増加しており,平成27年の時点では18,257件の事件が申し立てられました。
面会を拒否する側の理由としては,様々あります。たとえば,過去に自身や子どもが暴力を受けたことがあるため心配だという理由もありますし,単純に夫婦仲が悪く,子供を会わせると自分の悪口を子供に吹き込まれるのではないか,養育費も払ってくれない父親に対して会わせたくない等,様々です。
これに対し,裁判所は,上記の通り,虐待や連れ去りのおそれ等が認められない限り,基本的には面会を認める運用をしています。また,面会させる不安をぬぐいきれず,面会拒否に頑なにこだわる当事者に対しては,試行的面会交流と言って,裁判所内の面会ルームで面会を実施し,その様子を外から確認できる仕組みも準備されています。(これは裁判所の設備の問題で,裁判所内では実施できない場合もありますので,ご確認ください。)
なお,中には裁判所がいくら面会交流を実施するよう促しても,一切応じない場合も少なくありません。その場合は,調停は不成立となり,審判に移行し,面会を認める審判が出されます。審判になった場合は,月1回程度の面会を認めることが一般的です。(年齢によっては月2回もよく見かけます。)

4 面会交流での取り決めを守ってもらえない場合

 たとえば,子供に毎月2回会わせると定めたとしても,相手が全く会わせてくれないこともあります。そのような場合にどうすればいいのか少しお話ししたいと思います。

(1) 履行勧告

 まずは家庭裁判所から履行勧告をしてもらうことが考えられます。具体的には,家庭裁判所から相手方に対し調停や審判の取り決めを守るように書面で通知します。
 しかし,この制度には強制力や罰則等がないため,相手が応じない可能性があります。

(2) 他にできることはないの?

 面会交流は,子供が安心できる環境で継続的に行われる必要があるため,強制的に子供を連れてきて面会交流を実現することはできません。そこで,相手方が履行勧告に応じない場合,裁判所に対して間接強制の申立てをすることが最も有効な手段になります。
 間接強制とは,債務を履行しない債務者に対し,一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを裁判所が警告することで義務者に心理的圧迫を加え,自発的な履行を促すものです。たとえば,面会交流の履行を拒んでいる相手方に対し,違反一回について1万円を支払え,と命じることで心理的プレッシャーを加えて,間接的に面会交流を実現させようとするのです。
 もっとも,間接強制が認められるためには,面会交流をどのように行うかが十分に特定されている必要があります。たとえば,時間について「最初は1時間程度から始めることとし,子の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」との定めがされている場合について,裁判所は特定が不十分であると判断しており,専門的知識のないままに面会交流について定めを作ることは危険と言わざるを得ないでしょう。要するに,間接強制を行う前提で面会交流の内容を決めるとすれば,「毎月第2土曜日の午前10時に●●駅の●●改札前で受け渡しをし,午後5時に同じ場所で引き渡す。」などと,これ以上調整を行わなくとも面会交流が実際に実施できる程度に内容が決定していないといけません。

(3) 慰謝料請求も可能

 また,これらの方法以外にも,相手方が面会交流に応じないときには,慰謝料を請求する事例が増加しており,これを認める裁判例も多数出ております。

5 まとめ

 以上のとおり,面会交流においては本来面会交流を認めない理由にならないにもかかわらず,「養育費を払わない夫には会わせたくない」であるとか「夫のことが嫌いだから子供に会わせたくない」である等様々な理由をつけて,子供に会わせないようにしてくることが少なくありません。また,上でも説明致しましたが面会の取り決めを守ってもらえないような場合もあり得ますので,その可能性を見越したうえで面会条件を定める必要があるでしょう。しかし,子供に会うための最も有効な手段である間接強制を実現するためには,専門知識を有する者でなければ適切な条項を作成することができません。
 そこで,離婚後でも子供に会うためには絶対に経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.06.30

【離婚問題】離婚した妻の連れ子も育てないといけないの?弁護士が教える連れ子と養育費について

「私は,妻と妻のまだ幼稚園に上がったばかりの連れ子Aを連れて結婚しました。再婚後には,子供Bも生まれたのですが,夫婦関係がうまくいかなくなり,妻とは妻が二人の子供を育てるという条件で離婚することになりました。妻から妻と子供たちの生活費を請求されているのですが,支払わないといけないのでしょうか?」法律事務所にご相談に来られる方の中にはこのようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃいます。今回は,こういった場合に誰の分の生活費まで支払わなければならないかについてお話ししたいと思います。

1 連れ子との法律関係

 さて,今回のお話ですと,相談者の夫婦には妻の連れ子であるAという子供と相談者夫婦の子供であるBという子供という二人の子供がいます。
 妻からすれば,AもBも自分のおなかを痛めて産んだ子ですからどちらも自分の子供であることに間違いはありません。そのため,妻はAとBどちらの子供に対しても養育責任を負っており,育てなければならない義務を負っています。
 しかし,夫からすれば再婚後に生まれたBは自分の子供であることに間違いはないのでしょうが,妻の連れ子Aの出生について関与していません。それがAの母親との再婚によって扶養義務を負うような親子関係が生じるのでしょうか?夫と子供たちとの法律関係についてお話ししたいと思います。
 結論から言いますと,再婚後に生まれた子供Bとの間での法律関係と再婚した妻の連れ子Aとの法律関係は再婚によっても同じにはなりません。
 まず,夫は再婚後に生まれた子供Bについては当然ですが親子である以上,養育すべき義務を負っています。ちなみに,この養育すべき義務には,事実上の監護(世話をすることを言います。)と経済的援助(養うことを言います。)の2種類が含まれています。
 他方で,妻の連れ子Aに対しては,再婚しただけであれば,法律上,扶養義務がありません。これは,一般的な感覚とはズレているかもしれませんね。通常は,連れ子も一緒に養うことが多いですのであまり意識しないことかも知れませんが,法的には再婚しただけでは相手の連れ子との関係では親子関係は生じません。そのため,相手の連れ子との関係では,養子縁組をしていない限り,常に扶養義務があるわけではないのです。「特別の事情があるとき」(民法887条2項)に家庭裁判所が扶養を命じる審判を行えば,扶養義務が生じるにすぎません。
 もっとも,再婚するにあたって養子縁組をする方も多いかと思います。この効果をご存知でしょうか?先程も申しましたように再婚したとしても連れ子との関係では親子になるわけではありませんが,養子縁組をすることによって,連れ子との関係でも親子ということになり扶養義務を負うことになるのです。

2 養子縁組と養育費との関係

 以上でお話ししたように,妻の連れ子Aとの関係においては,養子縁組がなければ,法律上,親子ということにはならず,離婚後に養育費を支払う必要はありません。しかし,これは裏を返せば,養子縁組をしていれば法律上親子ということになり,養育費を支払う義務があることになります。
よって,連れ子との関係で養子縁組をしている場合,離婚したとしても養子との関係はなくならず親子のままですので離婚だけでなく離縁までしなければ,養子縁組をした連れ子に対して養育費を支払わなければならないのです。

3 離縁ってどうすればできるの?

 さて,では離縁とはどういった手続きを踏めば可能なのでしょうか?

(1) 離縁の手続き

 離縁とは,養親子関係の解消を言い,協議離縁,調停離縁,審判離縁,裁判離縁などがあります。
 協議離婚は,当事者の合意と離縁の届出により成立する離縁ですが,当事者の間で合意ができない場合,離縁を求める当事者は家庭裁判所に対し,離縁の調停を申し立てることになります。そして,その調停において離縁の合意ができ,調停が成立した場合,調停離縁となります。ちなみに,養子の年齢が15歳未満である場合,その母が代わりに話し合いを行うことになります。
 また,離縁の合意が整っているものの,当事者が出頭しないために調停が成立しないときのように限られた場面では、審判離縁をすることになります。
 そして,調停離縁が成立せず、調停に代わる審判が行われない場合又は調停に代わる審判離縁が行われたのですが,これに対する適法な異議申し立てがあった場合,離縁の訴えを提起することができ,その請求認容判決が確定したとき,裁判離縁をすることになります。

(2) 裁判離縁の要件

 当事者間で離縁についての合意がまとまればいいのですが,必ずしもそうは行きません。どうしても当事者間で話し合いがまとまらない場合,裁判によって離縁することになります。
 もっとも,裁判離縁は以下の3つの離縁原因が民法814条に法定されており,これを満たしていると裁判所が判断しないと離縁が認められません。

 ① 他の一方から悪意で遺棄されたとき
 ② 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
 ③ その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき

今回のようにまだ養子が幼い場合の離縁について,裁判所は養子の将来の福祉や養育の観点から慎重な判断をする傾向にあります。
もっとも,あくまで連れ子ということですから,母親と離婚した以上,子供との間に正常な親子関係が構築できるとは考えにくいと言えます。そのため,「その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき」と判断される場合もありますが,養子の将来の福祉や養育の観点から離縁を認めない裁判例もあり,経験を踏まえた訴訟進行をしなければ必ずしも離縁ができるわけではありませんので注意して下さい。

3 まとめ

 以上の話をまとめますと,夫は,妻の連れ子Aとの間で養子縁組をしていない限り,養育費を支払う必要はありません。なお,養子縁組をしている場合であっても,養子と離縁すれば,養育費を支払う必要はなくなります。
 このように養子縁組をしている場合で養育費の支払いを拒むときには,養子と離縁することが必要になってきます。ただ,裁判離縁をするためには法律知識が必要となるうえ,その知識を用いて裁判所を説得しなければなりません。
 そのため,法律の専門家である弁護士に依頼しないと裁判所の説得は難しいと言えます。よって,離縁をお考えの際は,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

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