弁護士コラム

2017.07.04

【離婚問題】離婚したら名字や戸籍はどうなるの? (1)-夫婦間での名字と戸籍

離婚した後に氏(名字のことを言います。)をどうするのか,戸籍をどうするのかということは,婚姻によって氏を変更した人にとっては,今後の人生における重要な問題になってくることもあります。残念なことですが,使い慣れてきた氏を変えることで不利益を被ることもあり得ますので,離婚した場合に夫婦の戸籍や名字がどうなるかについて学んでおきましょう。田中さんと山田さんの二人が婚姻したときに,田中さんが山田に氏を変更した場合を考えてみましょう。

1 離婚後の氏について

(1) 婚姻のときに氏を改めなかった人の場合

夫婦は婚姻をする際,その協議によって,夫か妻かいずれかの氏を称し,婚姻届にこれを記載して提出することになっています。このように,夫婦は婚姻すると,夫又は妻の氏のどちらかの氏を称することになります。上で述べた例で言えば,田中さんが氏を改めた人に,山田さんが氏を改めなかった人になります。
婚姻により氏を改めなかった人(例で言えば山田さん)は,離婚をしてもそのままの氏を名乗ることになります。

(2) 婚姻により氏を改めた人の場合
ア 離婚したら氏はどうなるの?
婚姻により氏を改めた人(例で言えば田中さん)は,離婚をすると婚姻前の氏(旧姓)に原則として戻る(これを「復氏」と言います)ことになり,婚姻前の戸籍に入籍することになります。
もっとも,離婚後も婚姻中の氏を使いたいと考えた場合,離婚の日から3ヵ月以内に,「離婚の際に称していた氏を称する届」(以下,「婚氏続称の届出」と言います。)を出せば,婚姻していたときの氏を名乗ることができます。つまり,田中さんは,離婚の日から3ヵ月以内に,婚氏続称の届出を提出することで「田中」を名乗り続けることができます。
この婚氏続称の届出は,離婚の届け出と同時にすることも可能です。そのため,離婚をするにあたって氏の問題についても考えておくといいかもしれません。

イ 手続きをするのが3ヵ月以降先になってしまったときは?
婚氏続称の届出は,先程も説明しましたように,離婚の日から3ヵ月以内とされています。この期間は,たとえ地震や台風などの自然災害があったとしても延長されないと考えられています。
ただし,3ヵ月を過ぎたからといって必ずしも婚姻時に使用していた氏を使用できないわけではありません。「氏の変更許可の申立て」を家庭裁判所に対して行うことで婚姻時に使用していた氏を使用できることが可能になることもあります。
とはいえ,氏の変更許可の申立てをするには「やむを得ない事由」がなければなりません。ここで言う「やむを得ない事由」とは,現在の氏により社会生活上で不利益・不便が生じており,その事情が社会的・客観的に見て妥当なものであることを言います。具体的には,手続きをしようとしたが病気で期間内に手続きができなかったことなどが「やむを得ない事由」にあたります。
家庭裁判所への申立に必要な時間的・労力的な負担や,氏の変更が裁判所に許可されない可能性があることを考えると,婚姻時の氏をそのまま名乗りたいという場合であれば,3ヵ月の期間内に届け出を出しておくべきでしょう。

2 離婚後の戸籍について

(1) 離婚の届出と同時に婚氏続称の届出をした場合
 婚姻により氏を改めなかった人は,離婚後もそのまま戸籍にとどまり,戸籍の変動はありません。
 これに対して,婚姻により氏を改めた人が離婚の届出と同時に婚氏続称の届出をした場合,直ちに離婚の際に称していた氏で新戸籍が編製されることになります。
 先程の例で言いますと,氏を改めなかった山田さんは,そのままの戸籍にとどまることになりますが,氏を改めていた田中さんは,離婚の際に称していた氏で新戸籍が編製されることになります。

(2) 離婚の届出と同時に婚氏続称の届出をしなかった場合
 次に,婚姻により氏を改めた人(例で言えば田中さんですね)が離婚の届出と同時に婚氏続称の届出をしなかった場合はどうなるでしょう?
 この場合,田中さんは,原則として婚姻前の戸籍に入ることになります。そのため,多くの場合,親の戸籍に戻ることになるでしょう。
 ただし,①婚姻前の戸籍がすでに除籍されているとき又は②復氏した者が新戸籍編製の申出をしたときには新戸籍が編製されることになります。なお,復氏した人が新戸籍を編製した場合,その後婚姻前の戸籍に復籍することはできませんので注意が必要です。

(3) 婚姻前の戸籍に復籍した者が婚氏続称の届出をした場合
 では,離婚した後すぐには婚氏続称の届出をしなかったので両親の戸籍に戻ったものの,その後,婚姻時の氏を使用しようとして婚氏続称の届出をした場合,どうなるのでしょうか?これは,先程の例で言えば田中さんが離婚時に婚氏続称の届出をしておらず,両親の戸籍に戻った後,山田の氏を使用したいと考えて届出をした場合を想定しています。
 ①届出人が復籍後の戸籍の筆頭者でないとき,②届出人が復籍後の筆頭者であっても,その戸籍に同籍者があるときには,新戸籍が編製されることになり,それ以外の場合には,新戸籍は編製されず,元の戸籍のままになります。
 このままでは分かりにくいと思いますので,具体例を挙げてみましょう。
 まず,①届出人が復籍後の戸籍の筆頭者でないときをご説明致します。
 先程の例を思い出してみてください。田中さんが離婚して両親の戸籍に戻ったとき,その戸籍には既に田中さんの両親がいらっしゃることになります。そうすると,その戸籍に戻ってきた田中さんは筆頭者としてではなく,通常その父親が筆頭者になっています。このような場合が①届出人が復籍後の戸籍の筆頭者でないときにあたり,新戸籍を作成することになります。
 次に,②届出人が復籍後の筆頭者であっても,その戸籍に同籍者があるときについてご説明致します。
 田中さんが戸籍に戻ったときにはすでに両親はなくなっていたのですが,その戸籍に田中さんの妹がいる場合などがこれにあたります。このような場合,田中さんは復籍後の戸籍の筆頭者になりますが,妹という戸籍に同籍者がいますので,②届出人が復籍後の筆頭者であっても,その戸籍に同籍者があるときにあたり,新戸籍を複製することになります。

3 まとめ

 いかがでしたでしょうか?細かいお話もさせていただきましたが,婚姻したことで氏を変更した人は,離婚したら原則として元々の自分の氏に戻る,婚姻したときの氏を使用したいときには,婚氏続称の届出を3ヵ月以内に行うということは覚えておいてくだされば幸いでございます。
 もっとも,先程も申しましたように,3ヵ月の期間内に手続きが出来なかった場合に氏を戻そうとするときには,氏の変更許可の申立てをすることになります。氏の変更許可の申立てを自分でするとなるとどうしても煩雑な手続きが必要になってしまい,ただでさえ離婚で疲れた心と体に追い打ちを受けてしまうことになります。
経験豊富な弁護士であれば離婚後のケアまで見越したうえで対策を考えますので、ぜひとも経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。

2017.07.03

【離婚問題】離婚した後も子供に会うために(3)-祖父母と面会交流

「ずっと孫と一緒に住んでいたのですが,息子たちが離婚してしまうと私たちは孫に会えないのでしょうか?」祖父母が実の両親の場合と同様、どうしても孫に会いたいという気持ちを抱くことは想像に難くありません。そのため,祖父母と孫が会うことを監護権者,例えば母親が認めるのであれば,祖父母が孫と会うことはもちろん可能ですが,どうしても話し合いがつかなかった場合,祖父母の権利として会うことが出来るのでしょうか?

1 祖父母は孫と会う権利ってあるの?

法律上,子供は離れて暮らしている親と会うことが認められています。これを面会交流と言います。面会交流は,親との交流を通じて子供の精神的な成長発達のための権利としての側面があるとは言えるでしょう。そのため,祖父母と交流することも子供の精神の健全な成長発達のために役立つとして,祖父母に面会交流を認める余地もなくはありません。
しかし,現在の裁判所は,祖父母に孫と会うための権利を認めない傾向にあると言えるでしょう。法律が明文で祖父母との面会交流を認めているわけではないからです。
ただ,上でも述べたとおり祖父母が孫に会える可能性がないわけではありません。裁判所においても非常に少数ですが,祖父母との面会交流を認めたものがありますので紹介させて頂きたいと思います。

事案は以下のようなものです。
子供は父母と母方の祖父母の家で暮らしていました。母は第二児出産後,死亡してしまいましたが,父は約3年間祖父母とともに暮らしていました。しかし,父が再婚して祖父母方を出る意思を示したことで祖父母と険悪な関係になってしまいました。
その後,父は祖父母方を出て再婚し,再婚相手と子らとの間で養子縁組をしました。両親の仲が険悪になるまでは,父は祖父母に対して養育費を支払っていましたが,祖父母との仲が険悪になってからは祖父母側から養育費の受領を拒絶されました。
父は再婚後,月に1回程度,子(監護者指定の調停申立時、7歳と5歳)に会いに祖父母方を訪ね,子の引渡を要求してきましたが,祖父母はこれを受け入れませんでした。そこで,祖父母が子の監護者指定の調停の申立てをし,その後,父が子の引渡しの調停を申し立てました。この申立てがされたのは,再婚後約9か月後のことでした。

このような事案に対して裁判所は,「家庭裁判所が親権者の意思に反して子の親でない第三者を監護者と定めることは,…親権者にそのまま親権を行使させると子の福祉を不当に阻害することになると認められるような特段の事情がある場合に限って許される」として,現実に子供を育ててきた祖父母を監護者として指定せず,子供を父に引き渡せと判断しました。
ただ,「引渡を命ずるにつき環境の変化により(子供たち;引用者注)が受ける影響を考慮してその具体的方法につき特段の配慮を施すことが相当である」として,親権者父へ子供たちを約3か月半後までの引渡しを命じるとともに,引渡し前の間,毎月1回の父との面会交流,引渡し後は2か月以内に1度以上の祖父母方に宿泊しての面会交流を命じました。

 このように祖父母達だけが事実上子供の世話をしていたような場合であっても,祖父母の面会交流を子供を父に対して引き渡した直後に1回だけ,環境調整のために面会交流を認めたにすぎません。

2 どういった対応をすべきか

 もっとも,祖父母は絶対に子供と会えないというわけではありません。
子の父が面会交流を求めて,家庭裁判所に調停・審判を申し立てることが可能ですので,子と父が面会交流をする際に,祖父母が子に会うことが考えられます。
 もっとも,これも無制限に認められるというわけではありません。
一般論として,父方の祖母と母親との関係が悪いことが離婚の原因の1つにあげられることも多く,その場合,母親は,元姑と子供が会うことを強く拒むことがあります。このように祖父母と母親の仲が致命的に悪い場合,やはり母親としては子供が元姑に会うことを快く思わないだけでなく,祖父母としても自覚のあるなしにかかわらず子供に母親の悪口を聞かせてしまうことが残念ながら想定されてしまいます。このような事態は,仮に祖父母との仲が良好であった場合でも離婚してしまうとどうしても生じてしまう可能性があります。このような事態になってしまっては,子供の福祉に全く貢献できないことになってしまいます。
 そこで,このような事態にならないよう母との間で適切なルールを作成して子供と会う機会を設けることが大事になってくるでしょう。

3 まとめ 

 以上お話ししてきましたように,裁判をしても祖父母に面会交流が認められる可能性というのは決して高いものではないので,祖父母との間で面会交流を認めるためには祖父母を申立人とするのではなく,祖父母の息子にあたる父親との面会交流のなかで祖父母と会えるようにすることがもっとも現実的な方法となるのだと思います。
 そのため,祖父母が孫に会えるかどうかが決まるのは話し合いが非常に重要になってきます。つまり,祖父母が孫と会うためには,最初の話し合いの段階から全力で取り組んでいかなければならないのです。
 しかし,父母間での話し合いですら上手くまとめることは難しいのに,ましてや祖父母との面会となってしまうと離婚した者同士ではどうしても調整できないものです。
 そこで,最初から経験豊富な弁護士を入れて本気で話し合いを行うことをお勧め致します。

2017.07.02

【離婚問題】離婚した後も子供に会うために(2)-再婚と面会交流

離婚をした時に子供の親権を元妻が持つことになり,面会交流でしか会うことが出来ないという男性の方も多いと思います。しかも,元妻が再婚したとなると状況がさらに悪化することもままあります。そこで,今回は元妻が再婚した後の子供との面会交流についてお話しさせて頂きたいと思います。もちろん,女性が親権者の場合だけでなく男性が親権者である場合もあり得ますが,以下では女性が親権者の場合を想定して記載させて頂きます。

1 親権者の再婚によって起こること

 親権者である元妻が子供を連れて再婚した場合,通常,その元妻と元妻の再婚相手の男性とは同居して,家族として生活することになります。しかし,子供は別れて暮らす「本当のお父さん」のことを忘れることが出来ません。また,子供にとって再婚相手という目の前にいる「新しいお父さん」は他人ですから,なかなか心を開くことも出来ません。
そのため,子供と「新しいお父さん」が新しい家族として信頼関係を構築して行くには多大な努力が必要となってきます。子供の年齢にもよりますが,なかには子供に再婚相手を「本当の」父親だと紹介し,再婚相手を「本当の」父親だと思わせて子育てを開始する場合もあります。
 もっとも,子供が再婚相手を父親だと認識していなくても,子供の養育環境は,元妻の再婚を機に大きく変化することは間違いありません。

2 じゃあ妻が再婚したら子供に会えないの?

 このように子供の養育環境が変化するため,面会交流を認めたくないという元妻の心境も理解できなくはないところです。
 しかし,面会交流は,その本当のお父さんと子供が円満で継続的な交流を行うことによって,「本当のお父さん」を含む両親から愛されていることを確信することで,子供の心身の成長に資するという子供の福祉にも寄与するためのものです。このように子供の権利としての側面がある以上,今まで通りの内容で面会交流を認めるべきかは一考を要するとしても,子供の持っている利益にもしっかり配慮して面会交流の枠組みを作っていくことになるでしょう。

3 それでも妻が会わせてくれないときは?

 先程も説明させて頂いたとおり,元妻が再婚したとしても子供との面会交流を全面的に制限することは難しいと言えるでしょう。しかし,それでも元妻が会わせてくれないときはどのような対策をとることが出来るのでしょうか?

(1) 履行勧告

 まずは,履行勧告と言って家庭裁判所から元妻に対して「面会交流させなさい」と働きかける制度を使うことになります。ただ,この制度には罰則等が無いため,残念ながら元妻が応じない可能性があります。

(2) 間接強制

 ただ,元妻が応じないからといって子どもとの面会をむりやりに実現するということはできません。すなわち,子供を家から引っ張ってきて無理やり面会をするということはできないのです。このような方法で面会を実現すると,子どもを物として扱うようなものであるからです。
 とはいっても,何も手段がないわけではありません。間接強制と言って,元妻が面会を拒むごとに一定額の罰金を払わせることで心理的に義務を履行させようとする制度があります。たとえば,面会を一回拒むごとに5万円を元妻から元夫に払わせる,という命令を出すことで元妻に面会を心理的に履行させようとすることが出来ます。すなわち,面会を2回拒めば10万円,3回拒めば15万円を支払うことになるのです。そして,この場合には,たとえば元妻の給料や預貯金を一方的に押さえることもできますので,罰金を支払うのが嫌なら面会交流を認めるしかないのです。

(3) 慰謝料請求

 また,面会交流を行うことを調停などで定めていたとして,元妻と再婚相手が面会交流を拒んだときには,元妻だけでなく,再婚相手にも慰謝料の請求が認められることがあります。しかし,慰謝料の請求が認められるとしても,子供に会えるようになるわけではありませんので注意が必要です。

4 まとめ

 いかがでしたでしょうか?以上で見てきましたように,面会交流を実現するためには,結局,子供だけでなく元妻の協力がどうしても必要になってきます。つまり,方法としては,履行勧告,間接強制,そして慰謝料請求といった方法もあるのですが,元妻が「いくらお金を払ってでも子供に会わせたくない!」として対応してきた場合,無理やり子供と会わせることが出来ず,元妻がある程度協力してくれないと子供と会うことが出来ないのです。そのため,元妻との話し合いがどうしても必要となってくるのです。
 しかし,一般に離婚した夫婦間の関係はあまり良好ということはありません。直接会って話そうとしても感情がどうしても先に立ってしまい冷静な話し合いは難しいでしょう。
 このような場合であっても,経験豊富な弁護士であれば,今までの経験を踏まえて冷静かつ適切に元妻と話し合うことが可能です。
 今後も子供と面会交流を続けたいのであれば,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.07.01

【離婚問題】離婚した後も子供に会うために(1)-面会交流ってなに?

離婚の際には,父母のいずれかを「親権者」に決め,通常は親権者が子供をひきとって育てることになります。では,「親権者」とならなかった片方の親が,今後,子供と会いたいと思った場合,どのようにして子供と会うことができるのでしょうか(離婚前であっても,夫婦が別居している場合には,同じ問題が生じます。)。
今回は,子どもと離れて暮らす親が子供に会う権利,すなわち「面会交流」の意義と方法についてお話ししたいと思います。ただし,面会交流とは子供の健全な成長のために実施するものであって,必ずしも両親の「子供に会う権利」という側面はそれほど強くありませんので,ご理解ください。

1 面会交流ってなに?

まず,面会交流という制度について説明致します。
面会交流とは,あまり日常的に聞く言葉ではありませんが,子供と離れて暮らしている親が,子供と会ったり,手紙や電話などで交流したりすることを言います。子供にとって,離れて暮らす親との間の円満で継続的な交流は,父母双方から愛されていることを確信させ,子供の心身の成長に有益であるといった意味で子供の福祉に寄与します。そのため,離れて暮らす親が子どもに会う権利として面会交流という制度が認められているのです。
なお,子どもと一緒に暮らしている親を監護親,子どもと離れて暮らしている親のことを非監護と言いますが,聞き慣れない言葉だと思いますので,以下,事案でご説明します。
例えば,父Aと母Bがおり,二人には子Cという息子がいたとします。ある日,AとBが離婚することになり,母Bが親権者として子Cを引き取ることになり,父AとB・Cは離れて暮らす形になりました。(なお,離婚していなくても,夫婦仲が悪くなり別居している場合も該当します。)
 このようなとき,子Cのことを引き取って世話している母Bを監護親,Cと離れて暮らしている父Aを非監護親と言います。

2 面会交流の決め方について

それでは,面会交流の取り決めは,どのように行うのでしょうか。
最初は,当事者同士の話し合いで,面会交流の可否やその方法,回数,日時,場所について協議します。そして,当事者間の話し合いによる解決が難しい場合,裁判所が関与し,解決を図ることになります。
具体的には,非監護親が監護親の住所地を管轄する家庭裁判所に,面会交流の調停を申し立てることになります。それでもまとまらなかった場合,審判に移行し,裁判官に面会交流の内容を判断してもらうことになります。
 では,面会交流が認められるかは,どのような基準で判断されているのでしょうか?
面会交流は,上でも述べたとおり,離れて暮らす親と子供の円満で継続的な交流により,子が父母双方から愛されていることを確信でき,子供の心身の成長に有益であるといった意味を有しています。そのため,基本的には子供の利益を害するような場合でなければ,面会交流を実施する,と判断される傾向にあります。
 子供の利益を害すると判断される場合としては

① 非監護親による子の虐待のおそれ
② 非監護親による子の連れ去りのおそれ
③ 非監護親による監護親に対する暴力

などといったものがあげられます。それぞれ典型例について少しお話ししておきます。
 まず,①は,過去に子供に対して暴力をふるうなど虐待をしていた事実があり,子供が現に非監護親に対して恐怖心を抱いている場合が典型例になります。
 次に,②は,過去に連れ去りの事実があった場合が典型例になります。
 そして,③は,非監護親の監護親に対するDVによって子供が精神的ダメージを受けており,現在も回復できない場合が典型例になります。

3 面会交流の実情

 面会交流の申立件数は,年々急激に増加しており,平成27年の時点では18,257件の事件が申し立てられました。
面会を拒否する側の理由としては,様々あります。たとえば,過去に自身や子どもが暴力を受けたことがあるため心配だという理由もありますし,単純に夫婦仲が悪く,子供を会わせると自分の悪口を子供に吹き込まれるのではないか,養育費も払ってくれない父親に対して会わせたくない等,様々です。
これに対し,裁判所は,上記の通り,虐待や連れ去りのおそれ等が認められない限り,基本的には面会を認める運用をしています。また,面会させる不安をぬぐいきれず,面会拒否に頑なにこだわる当事者に対しては,試行的面会交流と言って,裁判所内の面会ルームで面会を実施し,その様子を外から確認できる仕組みも準備されています。(これは裁判所の設備の問題で,裁判所内では実施できない場合もありますので,ご確認ください。)
なお,中には裁判所がいくら面会交流を実施するよう促しても,一切応じない場合も少なくありません。その場合は,調停は不成立となり,審判に移行し,面会を認める審判が出されます。審判になった場合は,月1回程度の面会を認めることが一般的です。(年齢によっては月2回もよく見かけます。)

4 面会交流での取り決めを守ってもらえない場合

 たとえば,子供に毎月2回会わせると定めたとしても,相手が全く会わせてくれないこともあります。そのような場合にどうすればいいのか少しお話ししたいと思います。

(1) 履行勧告

 まずは家庭裁判所から履行勧告をしてもらうことが考えられます。具体的には,家庭裁判所から相手方に対し調停や審判の取り決めを守るように書面で通知します。
 しかし,この制度には強制力や罰則等がないため,相手が応じない可能性があります。

(2) 他にできることはないの?

 面会交流は,子供が安心できる環境で継続的に行われる必要があるため,強制的に子供を連れてきて面会交流を実現することはできません。そこで,相手方が履行勧告に応じない場合,裁判所に対して間接強制の申立てをすることが最も有効な手段になります。
 間接強制とは,債務を履行しない債務者に対し,一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを裁判所が警告することで義務者に心理的圧迫を加え,自発的な履行を促すものです。たとえば,面会交流の履行を拒んでいる相手方に対し,違反一回について1万円を支払え,と命じることで心理的プレッシャーを加えて,間接的に面会交流を実現させようとするのです。
 もっとも,間接強制が認められるためには,面会交流をどのように行うかが十分に特定されている必要があります。たとえば,時間について「最初は1時間程度から始めることとし,子の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」との定めがされている場合について,裁判所は特定が不十分であると判断しており,専門的知識のないままに面会交流について定めを作ることは危険と言わざるを得ないでしょう。要するに,間接強制を行う前提で面会交流の内容を決めるとすれば,「毎月第2土曜日の午前10時に●●駅の●●改札前で受け渡しをし,午後5時に同じ場所で引き渡す。」などと,これ以上調整を行わなくとも面会交流が実際に実施できる程度に内容が決定していないといけません。

(3) 慰謝料請求も可能

 また,これらの方法以外にも,相手方が面会交流に応じないときには,慰謝料を請求する事例が増加しており,これを認める裁判例も多数出ております。

5 まとめ

 以上のとおり,面会交流においては本来面会交流を認めない理由にならないにもかかわらず,「養育費を払わない夫には会わせたくない」であるとか「夫のことが嫌いだから子供に会わせたくない」である等様々な理由をつけて,子供に会わせないようにしてくることが少なくありません。また,上でも説明致しましたが面会の取り決めを守ってもらえないような場合もあり得ますので,その可能性を見越したうえで面会条件を定める必要があるでしょう。しかし,子供に会うための最も有効な手段である間接強制を実現するためには,専門知識を有する者でなければ適切な条項を作成することができません。
 そこで,離婚後でも子供に会うためには絶対に経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.06.30

【離婚問題】離婚した妻の連れ子も育てないといけないの?弁護士が教える連れ子と養育費について

「私は,妻と妻のまだ幼稚園に上がったばかりの連れ子Aを連れて結婚しました。再婚後には,子供Bも生まれたのですが,夫婦関係がうまくいかなくなり,妻とは妻が二人の子供を育てるという条件で離婚することになりました。妻から妻と子供たちの生活費を請求されているのですが,支払わないといけないのでしょうか?」法律事務所にご相談に来られる方の中にはこのようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃいます。今回は,こういった場合に誰の分の生活費まで支払わなければならないかについてお話ししたいと思います。

1 連れ子との法律関係

 さて,今回のお話ですと,相談者の夫婦には妻の連れ子であるAという子供と相談者夫婦の子供であるBという子供という二人の子供がいます。
 妻からすれば,AもBも自分のおなかを痛めて産んだ子ですからどちらも自分の子供であることに間違いはありません。そのため,妻はAとBどちらの子供に対しても養育責任を負っており,育てなければならない義務を負っています。
 しかし,夫からすれば再婚後に生まれたBは自分の子供であることに間違いはないのでしょうが,妻の連れ子Aの出生について関与していません。それがAの母親との再婚によって扶養義務を負うような親子関係が生じるのでしょうか?夫と子供たちとの法律関係についてお話ししたいと思います。
 結論から言いますと,再婚後に生まれた子供Bとの間での法律関係と再婚した妻の連れ子Aとの法律関係は再婚によっても同じにはなりません。
 まず,夫は再婚後に生まれた子供Bについては当然ですが親子である以上,養育すべき義務を負っています。ちなみに,この養育すべき義務には,事実上の監護(世話をすることを言います。)と経済的援助(養うことを言います。)の2種類が含まれています。
 他方で,妻の連れ子Aに対しては,再婚しただけであれば,法律上,扶養義務がありません。これは,一般的な感覚とはズレているかもしれませんね。通常は,連れ子も一緒に養うことが多いですのであまり意識しないことかも知れませんが,法的には再婚しただけでは相手の連れ子との関係では親子関係は生じません。そのため,相手の連れ子との関係では,養子縁組をしていない限り,常に扶養義務があるわけではないのです。「特別の事情があるとき」(民法887条2項)に家庭裁判所が扶養を命じる審判を行えば,扶養義務が生じるにすぎません。
 もっとも,再婚するにあたって養子縁組をする方も多いかと思います。この効果をご存知でしょうか?先程も申しましたように再婚したとしても連れ子との関係では親子になるわけではありませんが,養子縁組をすることによって,連れ子との関係でも親子ということになり扶養義務を負うことになるのです。

2 養子縁組と養育費との関係

 以上でお話ししたように,妻の連れ子Aとの関係においては,養子縁組がなければ,法律上,親子ということにはならず,離婚後に養育費を支払う必要はありません。しかし,これは裏を返せば,養子縁組をしていれば法律上親子ということになり,養育費を支払う義務があることになります。
よって,連れ子との関係で養子縁組をしている場合,離婚したとしても養子との関係はなくならず親子のままですので離婚だけでなく離縁までしなければ,養子縁組をした連れ子に対して養育費を支払わなければならないのです。

3 離縁ってどうすればできるの?

 さて,では離縁とはどういった手続きを踏めば可能なのでしょうか?

(1) 離縁の手続き

 離縁とは,養親子関係の解消を言い,協議離縁,調停離縁,審判離縁,裁判離縁などがあります。
 協議離婚は,当事者の合意と離縁の届出により成立する離縁ですが,当事者の間で合意ができない場合,離縁を求める当事者は家庭裁判所に対し,離縁の調停を申し立てることになります。そして,その調停において離縁の合意ができ,調停が成立した場合,調停離縁となります。ちなみに,養子の年齢が15歳未満である場合,その母が代わりに話し合いを行うことになります。
 また,離縁の合意が整っているものの,当事者が出頭しないために調停が成立しないときのように限られた場面では、審判離縁をすることになります。
 そして,調停離縁が成立せず、調停に代わる審判が行われない場合又は調停に代わる審判離縁が行われたのですが,これに対する適法な異議申し立てがあった場合,離縁の訴えを提起することができ,その請求認容判決が確定したとき,裁判離縁をすることになります。

(2) 裁判離縁の要件

 当事者間で離縁についての合意がまとまればいいのですが,必ずしもそうは行きません。どうしても当事者間で話し合いがまとまらない場合,裁判によって離縁することになります。
 もっとも,裁判離縁は以下の3つの離縁原因が民法814条に法定されており,これを満たしていると裁判所が判断しないと離縁が認められません。

 ① 他の一方から悪意で遺棄されたとき
 ② 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
 ③ その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき

今回のようにまだ養子が幼い場合の離縁について,裁判所は養子の将来の福祉や養育の観点から慎重な判断をする傾向にあります。
もっとも,あくまで連れ子ということですから,母親と離婚した以上,子供との間に正常な親子関係が構築できるとは考えにくいと言えます。そのため,「その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき」と判断される場合もありますが,養子の将来の福祉や養育の観点から離縁を認めない裁判例もあり,経験を踏まえた訴訟進行をしなければ必ずしも離縁ができるわけではありませんので注意して下さい。

3 まとめ

 以上の話をまとめますと,夫は,妻の連れ子Aとの間で養子縁組をしていない限り,養育費を支払う必要はありません。なお,養子縁組をしている場合であっても,養子と離縁すれば,養育費を支払う必要はなくなります。
 このように養子縁組をしている場合で養育費の支払いを拒むときには,養子と離縁することが必要になってきます。ただ,裁判離縁をするためには法律知識が必要となるうえ,その知識を用いて裁判所を説得しなければなりません。
 そのため,法律の専門家である弁護士に依頼しないと裁判所の説得は難しいと言えます。よって,離縁をお考えの際は,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.06.28

【離婚問題】離婚時年金分割制度ってなあに?

従前,離婚すると夫婦双方の年金格差が生じ,離婚した高齢女性の生活水準が低くなってしまっていました。このように離婚した高齢女性の年金増加を目的として,離婚時年金分割制度は,平成16年の年金法改正により創設され,平成19年4月以降の離婚から適用されています。離婚時年金分割の利用件数は,いまだ離婚件数の約1割にすぎませんが,老後の生活を安定させるために非常に有用な制度です。そこで,今回は,離婚時年金分割制度の概要についてお話しさせて頂きたいと思います。

1 離婚時年金分割制度の概要

 離婚時年金分割制度は,離婚後,請求期限内(原則2年)に,合意又は裁判手続で案分割合を定めて年金事務所等に請求することにより,婚姻期間中の年金の保険料納付記録の最大2分の1までを一方当事者から他方当事者に分割する制度です。つまり,夫婦が離婚した時に,離婚をした本人同士の合意や,裁判手続きによって厚生年金を分割できる制度なのです。
 もっとも,離婚時年金分割制度と言ってもその中には2つの制度が存在しています。一つは,平成19年4月1日以降に離婚した場合に利用できる「合意分割」の制度,もう一つは平成20年4月1日以降に離婚した場合に利用できる「3号分割」の制度です。以下では,これらの制度についてそれぞれ見て行きたいと思います。

(1) 合意分割制度

 合意分割制度とは,離婚する夫婦の一方又は双方が婚姻中に厚生年金に加入していた場合,請求期限内(原則2年)に合意又は裁判手続で案分割合を定めて年金事務所に請求すれば,厚生年金の分割を受けることができる制度です。
合意分割制度を利用した場合,基本的に話し合いで分割の割合が決まりますが,裁判手続になるとだいたい2分の1とされていますので,話し合いでもベースは2分の1になるでしょう。
分割の対象になるのは,婚姻期間に夫婦双方が支払った厚生年金保険料の納付記録となります。
分割割合は夫婦間または裁判所の決定により確定しますが,最大で半分となっています。

(2) 3号分割制度

 3号分割制度は,平成20年4月1日以降の婚姻中に,第3号被保険者であった期間がある場合,当事者の合意又は裁判なしに,その期間に対応する厚生年金に加入していた当事者の保険料納付記録の2分の1が,第3号被保険者出会った当事者に分割される制度を言います。
 もっとも,このように書いても理解できる人はほとんどいないと思います。その最大の理由は,第3号被保険者が何かわからないからでしょう。3号被保険者とは,サラリーマンや公務員の妻(又は夫)のうち,扶養されている者を言います。
 すなわち,3号分割制度とは,平成20年4月1日以降にサラリーマンの夫(妻)と扶養に入っている妻(夫)が離婚した場合に年金分割を請求すれば,半分の割合で年金分割を受けることが出来るという制度なのです。
 3号分割の対象は,先程もお話ししたように,平成20年4月以降に相手が支払った厚生年金保険料の納付記録です。そのため,平成20年4月以降に離婚するだけでは足りず,この時期以降にサラリーマン又は公務員として働いていることを要します。

(3) 注意点

 あくまで3号分割制度は,平成20年4月1日以降に相手方が支払った厚生年金保険料の納付記録を対象としますので,それ以前に支払った保険料については別途,合意分割制度が適用されることになりますのでご注意ください。つまり,平成20年4月1日以降に結婚して,離婚した夫婦は3号分割のみで対応可能ですが,これより前に結婚していた夫婦は合意分割を併用せざるを得ません。
 また,年金分割は,合意分割制度,3号分割制度ともに原則として離婚後2年間しか請求できません。

2 合意分割と3号分割のどちらの制度を利用すべき?

「合意分割と3号分割,二つ制度があるけどどっちを利用すればメリットがあるの?」と気になるところだと思います。
しかし,これらの制度は一方が他方を排除するものではありませんので,両制度は同時に使用することが可能です。一方の制度の利用を申請すれば,自動的にもう一方の制度も申請したとみなされます。すなわち,どちらかの制度の利用を申請すれば,平成20年4月1日以降の特定期間については3号分割が行われ,それ以外の対象期間については合意分割が行われることになります。
 そのため,どっちの制度を利用したら得!と言うことはありません。もっとも,これだけの説明では何を言っているか分からないと思います。そこで,具体例を挙げつつ,説明していきたいと思います。

平成10年3月31日に婚姻した夫婦が,平成25年4月1日に離婚しました。夫は婚姻期間中ずっとサラリーマンをしており,妻は専業主婦をしていました。

 このケースの場合,夫は婚姻期間中ずっとサラリーマンとして会社勤めをしていたのですから,婚姻中は厚生年金に加入していたことになります。この場合,妻は第3号被保険者にあたります。
 「あれ?妻は3号被保険者か。ということは3号分割をするんだ!」と安易に考えてはいけません。
 3号分割が適用されるのは,あくまで平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間の厚生年金保険料納付記録でしたよね。ということは,平成20年4月1日以降の厚生年金保険料納付記録については3号分割制度が適用されることになりますが,平成20年3月31日以前の厚生年金保険料納付記録については,3号分割の対象ではないと言うことになります。
 そうなると,平成20年3月31日以前の納付記録については合意分割制度を利用しなければならないことになります。つまり,今回のケースで言えば,平成20年3月31日以前の厚生年金保険料納付記録については,合意分割制度が適用され,当事者が合意又は裁判手続で案分割合を定めなければならないのです。
 よって,今回のケースでは,合意分割と3号分割が併用されることになるのです。なお,このような場合,両方の制度の利用を申請する必要はなく,合意分割制度の利用を申請すれば,合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされることになります。つまり,平成20年3月31日以前の期間が含まれている場合,合意分割の請求さえしておけば3号分割の期間についても対応できるのです。

3 まとめ

 いかがでしたでしょうか?今回は,年金分割制度についてお話しさせて頂きました。年金分割制度は,色々と複雑な仕組みになっており,年金分割制度を効率良く適用するためには,年金分割制度の理解だけでなく,年金制度の理解,離婚との関係まで意識して考えることが必要です。
 しかし,これら全ての制度を深く理解している専門家はほとんどおらず,離婚事件について経験豊富な弁護士だけがこれらすべての制度を深く理解しているものと思います。年金分割は2年間以内に請求しなければなりません。そのため,自分で離婚はしたけど上手く年金分割が出来なかったり,専門家に頼んだとしても適切な解決が出来なかったりすることもあるかもしれません。
 離婚でお悩みの際は,離婚事件の経験豊富な弁護士に相談するようにしましょう。

2017.06.27

【離婚問題】離婚時年金分割制度の手続きはどうやってするの?

一般にはあまり認知されていない制度ですが,離婚時年金分割制度というものがあります。この制度は,夫婦の一方が婚姻中に厚生年金に加入していた場合に,厚生年金保険料納付記録の最大2分の1までをもう一方の当事者に分割する制度です。この制度には,合意分割制度と3号分割制度の2つがございますが,今回は,その具体的な内容ではなく,合意分割と3号分割の申請手続についてご説明させて頂きたいと思います。

1 合意分割の手続きについて

 合意分割制度は,離婚する夫婦の一方又は双方が婚姻中に厚生年金の被保険者であった場合,婚姻期間中に対応する標準報酬額の多かった当事者の厚生年金の保険料納付記録の最大2分の1までを少なかった(又はなかった)当事者に分割できる制度です。例えば,共働きで二人とも会社勤めの場合などにこの制度が利用されることになります。
 離婚時年金分割制度の手続きは以下の流れで進むことになります。
① 年金分割のための情報通知書(以下,情報通知書と言います。)を手に入れる
② 分割の割合を決める
③ 年金分割の請求
では,具体的に年金分割の手続きを見て行きたいと思います。

(1) ①まず年金分割のための情報通知書を手に入れる!

合意分割を行う場合,まず,実施機関(年金事務所・共済組合等)に年金分割のための情報提供の請求を行い,情報通知書の交付を受けましょう。情報通知書には,他の実施機関の期間も合わせて一つの通知書として発行されます。
 情報提供を請求するには,「年金分割のための情報提供請求書」に所定の事項を記入し,請求者の年金番号が分かるものと婚姻期間を証明する書類を添付して提出します。記載方法などご不明な点があるときは,年金事務所等にご相談ください。

(2) ②分割割合を決めよう

 情報通知書を入手したら次は年金分割の割合を決めることになります。合意分割においてはその名の通り,話し合いによって分ける方法と裁判所の手続きに沿って決める方法とがあります。

ア まずは話し合いから!
 まずは話し合いからスタートしましょう。ここでは,分割割合だけでなく,年金分割を行うことについても合意をしておくことが大事です。
また,裁判所における判断では,年金分割の割合は2分の1とされることが多いことから,出来れば2分の1の割合でまとめるように意識しましょう。
なお,事後の手続きの簡便さから,年金分割を行うこと,分割割合については書面でまとめるだけでなく,出来れば公証役場に行って公正証書で残すよう意識して下さい。

イ 話し合いがまとまらない場合は裁判所を利用しよう!
もし話し合いで分割割合がまとまらない場合,裁判手続で決定する方法があります。
これから離婚する場合,離婚調停やその後の離婚裁判で年金分割の分割割合を定めるよう請求します。
他方で,案分割合を定めずに離婚した場合,離婚成立後2年以内に,家庭裁判所に年金分割の案分割合を定める審判,調停を申し立てることが出来ます。この場合ですと,調停よりも審判を申し立てた方が簡便な手続きをすることが可能です。なお,夫婦関係調整調停(離婚調停)や裁判離婚の際,離婚するか否かに併せて分担割合について話し合うこともできます。
先程も申しましたように,裁判所では案分割合を2分の1と定めることが多く,裁判所の手続きを利用する場合にはよほどの事情が無い限り,案分割合は2分の1とされると思っていただいて大丈夫です。
なお,元配偶者が死亡してしまうと案分割合を定めることが出来なくなってしまうので,離婚と同時に定めるか,離婚後速やかに審判(又は調停)を申し立てるようにしましょう。

(3) ③年金分割の請求をしよう!

 分割割合が決定したら年金分割の請求をしましょう。年金分割の請求は,原則として離婚後2年以内に,実施機関に「標準報酬改定請求書」を提出して行うことになります。請求書の記載内容が分からない場合は年金事務所等にご相談ください。
 ここで注意してほしいのが,年金分割に際して必要な添付書類や年金分割を一人で行えるかが分割方法によって異なると言うことです。そこで,以下では,どちらの手続においても必要な書類を説明したうえで,それぞれの手続ごとに説明したいと思います。

ア 共通で必要になる書類
 どちらの手続で分割割合を決定したとしても,
①  請求者の年金番号が確認できるもの(年金手帳,国民年金手帳,基礎年金番号通知書など)
②  婚姻期間を証明する書類(元夫婦の戸籍謄本,抄本など)
を添付する必要があります。これに加えて,以下の手続きがそれぞれ必要になります。

イ 話し合いで分割割合を決めた場合
 まずは,話し合いで分割割合を決めた場合について見て行きましょう。
 この場合,手続には,案分割合を証明する書面が必要となります。この書面を持って当事者双方が直接年金事務所の窓口に持参することになります。なお,この書面が公正証書の場合には,分割を受ける当事者だけで請求することが可能になります。

ウ 裁判手続で分割割合を決めた場合
 次に,調停,審判などの裁判手続で分割割合を決めた場合について見てみましょう。
 この場合は,調停調書又は和解調書の謄本・抄本,審判書又は判決の謄本・抄本及び確定証明書の添付が必要になりますが,分割を受ける当事者のみで手続が可能です。

2 3号分割の場合の手続き

以上のような合意分割の場合の手続きと異なり,3号分割制度では,合意や裁判手続きを経る必要が無く,分割を受ける人が請求さえすれば自動的に2分の1の割合で分割されることになります。
そのため,3号分割をする際は,分割を受ける当事者が単独で実施機関に標準報酬改定請求書を提出すれば大丈夫で,情報提供通知書を手に入れる必要も,分割割合を定める必要もありません。

3 まとめ

今回は年金分割の手続きについてご説明させて頂きました。年金分割の制度はわかりにくく,実際の利用率も決して高くはありません。しかし,年金分割が認められると,月々3万円程度年金受給額が上がることになります。1年ですと36万円,10年ですと360万円も年金が増えることになります。
 離婚をスムーズに解決するためには,このような制度までも詳しく把握している必要がありますが,このような知識まで有しているのは弁護士の中でも離婚事件について経験豊富な弁護士だけでしょう。
 離婚問題をスムーズに解決するためにも,離婚事件に経験豊富な弁護士にご相談するようにしましょう。

2017.06.26

【離婚問題】離婚調停ってどんなもの?手続きにかかる時間と手続きの流れ

離婚調停ってどんなもの?手続きにかかる時間と手続きの流れ

いくら話しても財産分与の金額や慰謝料の有無・金額、親権などの条件やそもそも離婚するか否かについて話し合いがまとまらないこともあると思います。そのようなときのための手段として「調停」という制度が準備されています。
もっとも,いざ調停をするとなったとしても,調停とは実際にどんな手続なのか,どの程度時間がかかるのか,どんな流れで進んでいくのかといったことがわからず,不安なことも多いかと思います。
 そこで,今回は離婚調停にかかる時間や離婚調停の流れについてお話ししたいと思います。

1 離婚調停ってどんなもの?

離婚調停とは,夫婦間だけで離婚の話し合いができないときに,裁判所に間に入ってもらって,離婚するかどうかやその条件を話し合う手続きです。
 事案にもよりますが,だいたい2,3回程度の調停で離婚調停が成立か不成立かが決定されることが多いように感じます。離婚調停申立て後,約1ヶ月~1ヶ月半で最初の調停期日が行われ,その後1ヶ月~1ヶ月半毎に調停期日が行われるため,離婚調停を申立ててから4~5ヶ月程度で離婚調停が終了することが多いということになります。
もっとも,終了までに要する期間というものも夫婦によって様々であり,離婚調停の1回目で離婚できるものもあれば、1年以上かかっても離婚できない場合もあります。

 

2 離婚調停の申立て

 さて,それでは実際にどのような流れで離婚調停が進んでいくかを見て行きましょう。

(1) 離婚調停の申し立てに必要な書類は?

離婚調停の申し立てをする場合,まず①申立書及びその写し1通を作成する必要があります。申立書の書式及び記載例については裁判所のHPにありますので参考にしてください。申立書の作成は,法律的な知識がなくても記載できるように出来ています。
通常は申立書に加えて,夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書),年金分割のための情報通知書,事情説明書といったものを提出することになるかと思います。このような提出書類は相手方から閲覧謄写申請があった場合,これが許可され,見られてしまうことがあります。そのため,住所を知られたくないような場合などでは知られても差し支えない住所にしておく必要があるでしょう。

(2) どうやって申し立てるの?

離婚調停を申し立てるべき家庭裁判所の場所は,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は夫婦で合意した家庭裁判所になります。そのため,このいずれかの家庭裁判所に対して,上で説明した申立書(申立書には収入印紙を貼る必要があります)等を提出することになります。

(3) 離婚調停にかかる費用っていくらくらいなの?

自分で離婚調停をする場合,かかる費用は離婚調停全体を通してだいたい5,000円程度になると思います。申立時に必要となる費用は以下の通りです。

① 収入印紙代 1,200円
② 郵便切手代 800円前後

 離婚調停全体となりますと,これらの費用に,必要書類(戸籍謄本,住民票,所得証明書など)を手に入れる費用,コピー代,裁判所に行く交通費、調停調書謄本(省略謄本)を手に入れる費用などがかかるのでだいたい5,000円程度の費用がかかることになります。

3 第一回調停期日

(1) 申立から調停期日決定までどれくらいかかるの?

家庭裁判所から初回期日調整のための連絡があり,家庭裁判所と日程調整のうえ第1回調停の期日が決められます。
申し立てから期日通知書が届く期間は,だいたい2週間くらいになります。調停期日通知書は普通郵便で届きますので紛失しないように注意して下さい。第一回期日はだいたい申立から1か月後くらいに設定されることが多いようです。

(2) 当日の流れ

 だいたい一回の調停期日の時間は約2~3時間程度とされています。当日の流れを持参すべきものを確認したうえで見て行くとしましょう。

ア 調停期日当日に持参するもの
調停期日当日には,以下のものを持参することになります。
① 期日通知書
② 印鑑
③ 身分証明証(免許証、パスポートなど)
 期日通知書には,調停における注意事項も書かれていますので,必ず目を通しておくようにしましょう。

イ 到着したら待合室で待機
裁判所に到着したら,待合室で待機することとなります。調停期日には,夫婦双方が同時に呼び出されることなりますが,待合室は別室となり,通常であれば開始時刻をずらしていますので,顔合わせすることはありません。帰りの時間も含めてどうしても顔を合わせたくない場合には,裁判所に申し出れば,鉢合わせすることもなくなるでしょう。なお,裁判官による手続説明も両当事者立会いの下行われることも多いようですが,どうしても顔を合わせたくない場合,その旨を伝えておけば,裁判所が配慮してくれる場合もあります。以下では,裁判所が別々に手続きを説明した場合を前提にお話ししますが,一緒に手続きを説明したとしても流れが大きく変わることはありませんので安心して下さい。

ウ 申立人の呼び出し
申立人が待合室で待っていると,調停員が部屋に入ってきて調停室に呼び出されます。調停室には,裁判官1名と調停委員2名(基本的に男女1名ずつ)がいます。裁判官たちによる簡単な挨拶のあと,裁判官が,調停の進め方や調停とはどのようなものなのかということを説明してくれます。
その後,離婚調停を申し立てした経緯等について,30分ほど調停委員と話をすることとなります。話が終わると,一度調停室を出て待合室に戻ります。

エ 相手方の呼び出し
申立人が待合室に戻った後,次は相手方が待合室へ呼び出されることとなります。
相手方も申立人と同じように説明を受けたうえで,調停委員が相手方の主張を聞き,申立人の主張を相手方に伝えることになります。この時間も申立人と同様に30分ほどです。

オ 再度の申立人の呼び出し
その後,再度申立人が調停室に呼ばれ,調停委員から相手方の主張を伝えられます。そして,再度,調停委員が相手方の話を踏まえて申立人から話を聞くことになります。この時間も30分ほどになります。運用としては,申立人の話が終わった後に,次回の調停期日を調整することが多いと思われます。この場合,申立人は先に帰ることになります。

カ 再度の相手方の呼び出し
申立人から話を聞いた後,再び相手方が30分ほど調停室に入り,申立人の話を踏まえたうえで調停員から話を聞かれることとなります。
以上の流れで,第1回目の離婚調停は終了となります。場合によっては,調停終了時に,調停委員から第2回目の期日に調停に必要な資料を提出するよう言われることがあります。

4 第2回目以降の調停について

離婚調停においては,なかなか1回で話し合いがまとまることはありません。そのため,たいていの場合,2回目の期日が開かれることとなります。

(1) 第1回目の期日から第2回目の期日までの期間は?

第2回目の期日は,第1回目の期日からだいたい1カ月後に組まれます。この期間は必ずしも1ヶ月と決まっているわけではなく,家庭裁判所の忙しさによって変わることになります。

(2) 第2回調停期日の流れは?

第2回調停期日も前回の第1回期日とほぼ同じ流れで進むことになります。つまり,約30分ずつ,申立人と相手方が交互に2回ずつ話を聞かれるということになるのです。

(3)第2回目の調停終了

2回目の期日でも話がまとまらない場合,第3回目の期日が組まれます。それでもまとまらなかったら第4回…というように進みます。もっとも,どうしても調停がまとまらないときには,次の「5 離婚調停の終了」で説明しますように調停不成立ということで調停手続が終了することになります。

5 離婚調停の終了

離婚調停は,おおよそ以下の3つの場合に終了することになります。

(1) 調停成立

調停での話し合いを経た上で,夫婦双方が合意できると,調停委員会において合意内容を確認し,問題がなければ調停委員会を構成する裁判官と調停委員2名,それに書記官が調停室に行き,裁判官が当事者双方の面前で調停条項を読み上げて,双方にこの内容でよいかを確認します。当事者がよいと答えると,調停が成立し,事件が終了することになります。

ア 調停調書とは?
調停調書とは,離婚調停・養育費請求調停などの家事調停,慰謝料請求調停などの民事調停で当事者の話し合いがまとまった場合に作成される文書のことです。
離婚調停が成立した時点で調停案を作成してくれますので,その内容を確認し,その内容に納得がいけば同意し,少しでも納得がいかないときは同意しないようにしましょう。調停案に同意した場合,離婚調停成立となり,調停調書を作成します。

イ 調停成立のメリット
この調停成立となった場合のメリットは,調停調書に記載されている内容,たとえば養育費や慰謝料の支払いに関する義務を相手が守らなかった場合,強制執行(差押え)できる点にあります。つまり,相手が養育費や慰謝料を払ってくれない場合に相手の給料や貯金を差し押さえて強制的にお金を払わせることが出来るのです。

ウ 調停成立後の手続
調停が成立すると,調停調書が作成されることになります。そして,調停調書作成の時点でその夫婦は離婚したことになります。
 もっとも,離婚届は別途提出する必要がありますのでご注意ください。離婚調停が成立した場合,調停の申立人は,調停離婚成立後,10日以内に夫婦の本籍地又は届出人の住所地の市区町村長に調停調書の謄本を添えて調停で離婚した旨の届出をする必要があるのです。なお,調停によって相手方が届出をすると決めることも可能です。
 期限を過ぎて提出してしまった場合,過料(罰金)を科される場合がありますので注意してください。

(2) 調停不成立-離婚調停が不成立になった場合どうなるの?

夫婦間で合意が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合,調停不成立として事件を終了します。このように離婚調停が不成立になってしまった場合,①裁判に移行する,②審判に移行する,③再度、夫婦間で話し合いを行うといった方法が考えられます。以下,それぞれどのようなものか見てみましょう。

ア 裁判離婚に移行する
離婚調停が不成立となった場合,通常,離婚裁判を起こすことになります。もっとも,裁判離婚において注意しなければならないのは,裁判では法律的知識が要求されるという点です。そのため,裁判で離婚しようとするときには基本的には弁護士に依頼すべきでしょう。
もっとも,裁判離婚のメリットは,筋が通らない主張や嘘の主張を排斥できることが多いという点です。裁判所が証拠に基づき公正に判断を下してくれるので,妥当な判決を獲得できる可能性が高いと言えるでしょう。

イ 審判離婚に移行する
離婚に関しては夫婦で合意しているものの,親権や慰謝料の支払いといった離婚条件で合意が出来ず,調停不成立になった場合,審判という手続きもあります。
 しかし,審判は家庭裁判所が相当と考えた時に認められるものであり,例外と考えた方がいいでしょう。

ウ 再度、夫婦間での話合い
一応,もう一度夫婦で話し合うという方法もあります。しかし,離婚調停でも話がまとまらなかったのであれば,夫婦間で話し合ったとしても解決は難しいでしょう。

(3)調停の取り下げ

相手方の同意なく調停の申立てを取り下げることが出来ます。なお,調停を取り下げた場合であっても,再度,調停の申立てをすることが出来ます。もっとも,離婚訴訟を提起することも考えているときには,必ず裁判所にて「事件終了証明書」の申請と取得をしておきましょう。

6 まとめ

いかがでしたでしょうか?離婚調停は上でも書きましたように法律家でなくても行うことが可能ではあります。しかし,仮に離婚調停がまとまらなかった場合の手続きである審判や裁判は法律に基づいて進行することになるため,調停段階でのミスが後々不利益に働くこともないとは限りません。また,調停委員も人生経験豊富で適切な解決を目指してくれるのですが,あくまで中立的立場にある人であり,味方の専門家ではありません。ですので,調停でまとまったものが,あなたにとって本当に適切な解決でないこともあり得ます。
たしかに,調停手続で弁護士に依頼すると自分でするよりも費用が多くかかってしまうことになります。しかし,離婚はあなたの一生に関わるものであり,子供の親権であったり,どうしても伝えたいことであったりお金に換えられないものが関係してきます。
したがって,調停離婚は本人でもできるからといって安易に自分で行うのではなく,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。
以上

2017.06.04

【離婚問題】家事調停を弁護士に頼むべき?

離婚調停をしようと考えている方はこのブログのように離婚調停に関するブログをいろいろと見ていらっしゃると思います。そのなかで離婚調停を弁護士に頼むか否か迷っていらっしゃる方もいらっしゃることでしょう。今回は,弁護士に依頼するべきかについて参考となる情報を提供できればと思います。

1 弁護士がいれば離婚調停に行かなくていい?

 相談に来られる方々から聞かれることが多いのは,「弁護士に依頼した場合,自分自身も離婚調停に出席しないといけないのか」という点です。調停は平日の昼間に行われますので,どうしても仕事を休めない人などの場合,本人が出席せずに代理人として弁護士のみで離婚調停を進めることはできないか気になるところでしょう。
離婚調停というのは,結婚してから今までの様々な出来事や感情論が入り組んだ紛争になりますので,単純な法律論だけで話を進められるものではありません。そのため,裁判所からは「代理人が就いていたとしても,本人も同行してください」と言われることが多いでしょう。ただ,法律で本人も同行しなくてはならないと定められている訳ではありませんので,必ずしも同行しなければならない訳でもありません。
これは一概にどちらが良いと決められる問題ではありません。例えば,代理人のみで出頭したとしたら,当日調停の場で新たに出た話については,まだ依頼者から了承を取っていないので,「持ち帰って依頼者と検討します」というレベルの回答で終わってしまいます。しかし,本人が同行していれば,当日調停の場で結論を出せるかもしれません。逆に,本人が同行することで,調停での話し合いが少し感情的なものになったり,相手方と鉢合わせてストレスを感じなくてはならない場面もあるかもしれません。ですので,事案によって,その日の調停の位置付けや回数に応じて,弁護士と相談しながら同行するかどうか決めなくてはならないでしょう。
なお,離婚調停に関しては,本人が同席していないと離婚調停を成立させられない決まりになっていますので,最終回だけは絶対に同行しなくてはなりません。(実際はイレギュラーな方法がいくつかありますが,基本的に同行しなくてはなりません。)

2 離婚調停で弁護士に依頼するメリットは?

上でも説明したように,必ずしも調停期日に出席しなくていいというのは一つのメリットでしょう。では,他にどのようなメリットがあるでしょうか?

(1) 書類作成・準備の手間が省ける

離婚調停をするにあたっては,離婚調停の申立書や,進行に関する照会回答書及び事情説明書といった書面の作成が必要となります。弁護士に依頼しない場合には自分でこれらの書類を作成しなければなりません。そのため,自分でするとなるといちいちどのような内容を記載しなければならないかを調べて作成する必要がありますが,弁護士に依頼すればこれらの書類の作成を任せることができます。
また,これらの手続きを自分で行うというのはどうしても時間だけでなく精神的にも疲れるものです。あなたの味方となる弁護士がいることが心を楽にしてくれるでしょう。

(2) 調停委員に良い印象を与えることができる可能性が高い

 離婚調停は,あくまで裁判所の調停委員を間に挟んでの話し合いです。調停委員が,あなたの話を聞き取り,相手方に話します。調停委員も経験豊富な方々ではありますが,調停は時間が決まってしまっているため,どうしても思いが正確に伝わらないことが起こり得ます。そのため,調停委員の勘所を知る経験豊富な弁護士を入れて話し合いを進めることであなたの意見をより正確に伝えることが可能になります。
また,調停に弁護士とともに参加することで本気で離婚したいんだという熱意を調停委員に伝えることが可能となり,有利に話し合いを進めることが出来るでしょう。

(3) 取り返しのつかない失敗を防ぐことが出来る

離婚調停では,条件(調停条項)に同意して離婚調停が成立してしまえば,判決と同じ効力があり,その条件を変えることができなくなります。気の弱い方やどうしても早く離婚したい方など押し切られてしまいそうな人は弁護士に依頼することをお勧めします。

(4) 調停が不成立になった場合まで見越した進行が可能になる

 これが弁護士に依頼することの最大のメリットであると言えるでしょう。
調停が不成立になった場合,離婚であれば裁判に,それ以外の婚姻費用や面会交流等については自動的に審判に移行することになります。とりわけ審判の場合,裁判官は調停で提出された資料や調停の経緯を参考にして判断することになります。
 そのため,調停は,話し合いの手続きではありますが,裁判と同じように万全の態勢で臨むため弁護士に依頼することをお勧め致します。なかでも相手方の意思が固い場合,たとえば自分は離婚したい,親権が欲しいと言っているのに相手がどうしても離婚したくない,こっちも親権が欲しいと言っている場合,調停がまとまらない可能性が高く,弁護士を就けるべき事案と言えるでしょう。

(5) もっと根本的なメリットは?

 上記のとおり,弁護士を就けることの様々なメリットがあります。しかし,最も根本的な問題は,依頼者の方々が弁護士なしにご自身で離婚調停を行なおうとされた場合,様々な法律論が理解できないという点です。離婚においては,離婚原因・慰謝料・親権・養育費・婚姻費用・面会交流・財産分与など,本当に様々な法的事項を決めなくてはなりません。そして,これらは法律論で議論しながら決めて行くものですので,法律論が何も分からない状態で調停委員と協議をしても,何も進まないでしょう。実際,過去に離婚調停をご自身で行なわれた方がご相談にいらっしゃり,過去の調停条項を見せてもらうと,弁護士が代理人として就いていたならば絶対に了承しないであろう,相場とかけ離れた内容で離婚されている方が本当にたくさんいらっしゃいます。
 「何が正解か分からないままに人生の決断をする」というのは本当に怖いことです。絶対に弁護士に相談した上で手続を進められることをお勧め致します。

3 弁護士を就けることによるデメリットであるの?

 離婚調停を弁護士に依頼するデメリットとしては,やはり弁護士費用でしょう。そこで,弁護士費用の相場を知っておきましょう。自分でやる場合に加えてかかってくる費用としては,おおまかに,以下の3つの費用が考えられます。

(1)相談料

離婚調停を弁護士に依頼する前に,弁護士のアドバイスを受けるためにかかる費用です。
最近では「1時間まで相談無料」という事務所も増えてきましたが,相場としては1時間1万円(税抜)といったところでしょう。

(2)着手金

離婚調停の申し立てをした場合,依頼時にかかる費用を着手金と言います。これは成功してもしなくても,依頼する際に必要になってきます。
相場としては40万円程度になるかと思います。もっとも,安い事務所では20万円程度というところもあるようです。

(3)報酬金

離婚調停で解決・終了したことに対してかかる費用を報酬金と言います。
相場としては40万円程度になるかと思います。もっとも,安い事務所では20万円程度というところもあるようです。

(4)まとめ

 離婚の際の弁護士費用は,事務所によって本当に千差万別です。もちろん弁護士費用も気になるところでしょうが,人生の岐路ですから,安さを最優先はしないよう気を付けてください。安いところに頼んで,仕事に納得行かず,後に弁護士を変えて着手金が二重に掛かり,結局損をしている方々は本当にたくさんいらっしゃいます。まずは,相談に行って,弁護士の専門分野や人間性,相性などを見極めましょう。

4 まとめ

結局,離婚調停は弁護士に依頼すべきなのでしょうか?
正解としては,「依頼すべき」でしょう。相談に来られる方で,「離婚調停は話し合いだから,まだ弁護士を就ける気はない。裁判までなったら依頼するつもりだ。」と仰る方々はたくさんいらっしゃいます。しかし,離婚調停も単なる話し合いではなく,法律に基づいた話し合いです。あくまで法律論に沿った話し合いがなされます。そのときに法律論が分からなければ,適正な話し合いは不可能です。また,仮に離婚調停がまとまらなかった場合の手続きは,法律に基づいて進行することになるため,調停段階でのミスが後々不利益に働くこともあり得ますし,調停段階から弁護士を入れることでもし裁判になった場合でも有利に進めることが可能になります。また,調停委員の方々は,あくまで中立的立場にある人であり,あなたの味方というわけではありません。
たしかに,調停手続で弁護士に依頼すると自分でするよりも費用が多くかかってしまうことになります。しかし,離婚はあなたの一生に関わるものであり,子供の親権であったり,どうしても伝えたいことであったりお金に換えられないものがいろいろと関係してきます。
したがって,離婚調停は経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.05.30

任意整理,自己破産,個人再生手続のメリットとデメリット

個人の方の債務整理手続の種類としては,①任意整理,②自己破産,③個人再生,④特定調停の4種類がありますが,各手続には,それぞれメリット・デメリットがあります。そこで,今回は,各手続のメリット・デメリットをご紹介し,事案に応じてどの手続を選択すべきかについてのポイントをお伝えいたします。なお,各手続の概要については,別の記事に記載しているので,そちらをご覧ください。

1 メリット・デメリット

メリット

デメリット

任意整理

・裁判所が関与しないため,簡易かつ裁判費用がかからない。

・債権者ごとに返済計画を個別に取り決めできるため弾力的な和解が可能。

・資格制限が問題とならない。

・免責不許可事由は問わない。

・貸金業者によっては,分割払いを一切認めない業者もあり合意困難。

・破産や個人再生手続と異なり,大幅な債務の減免は見込めない。

・通常支払期間が長期に及ぶため,途中で挫折する事例も多く,その場合の破産手続き以降は二度手間となる。

自己破産

・免責許可が下りれば原則として債務が消える(※一部消えないものもあるので注意。)

・債務者に安定した収入がなくても制度利用可能。

・手続開始申立てにより,個別の強制執行手続は中止されうる。

・名前が官報に掲載される。

・破産手続開始決定により資格制限を受ける職業がある。

・住宅,自動車,保険等の資産も処分しなければならない。(一部残せる場合もある。)

・免責不許可事由に該当する場合は,債務が消えない。

・裁判費用がかかる。管財事件の場合は,管財人の報酬として数十万円の予納が必要。

個人再生

・債務総額によるが,返済総額を約8割程度カットできる。

・資格制限が問題とならない。

・住宅資金特別条項の利用により住宅を残すことができる。

・免責不許可事由は問わない。

・手続開始申立により,個別の強制執行手続は中止されうる。

・債務者に安定した収入が必要。

・裁判費用がかかる。再生委員が選任される場合は,同委員の報酬として数十万円の予納が必要。

・再生計画認可後,途中で挫折すると認可が取消され,結局は破産することになり二度手間となる。

・債権者間の形式的平等が要求され,一部債権について一括返済したり支払期限を延長する等の融通が利かない。

特定調停

・手続き費用が安い。

・資格制限が問題とならない。

・免責不許可事由は問わない。

・住宅等の財産処分を強制されない。

・貸金業者によっては,分割払いを一切認めない業者もあり合意困難。

・破産や個人再生手続と異なり,大幅な債務の減免は見込めない。

・相手方とされた債権者間では平等性が要求されるため,一部の債権者の利益に偏った合意はできない。

・通常支払期間が長期に及ぶため,途中で挫折する事例も多く,その場合の破産手続き以降は二度手間となる。

・調停で決まった内容に不履行があった場合,債権者から調停条項に基づき強制執行を申立ててくるおそれがある。

2 各手続選択の基準

各手続のメリット・デメリットの比較は以上の通りです。以上を踏まえると,手続選択をする上では,以下の事項を確認しておく必要があるでしょう。

⑴ 債権者の対応 

 任意整理や特定調停は,債権者との話し合いによる解決ですので,債務の減免に関し頑なに拒否する債権者がいる場合は,これらの手続きを取るのは難しいでしょう。そこで,各債権者が話し合いに応じてくれそうなタイプかどうかについては,確認しておく必要があるでしょう。

⑵ 債務者の資力

 破産手続は,無職の場合や安定した収入がない場合でも申立てをすることができますが,再生手続は,安定した収入がなければ手続利用ができません。また,任意整理や特定調停は,安定した収入は要件ではないため,手続きを進めることはできますが,結局は,債権者に分割弁済計画を了承してもらえないと合意ができないため,無職である場合は,保証人や担保等がない限り,債権者の合意を取り付けることは困難でしょう。

⑶ 費用 

 破産手続や再生手続は,裁判所に納める費用の他,管財人や再生委員が選任される場合はその費用を準備しなければならないため,申立時に数十万円程度必要になる場合もあります。手続費用を準備できそうか否かについては,予め確認しておきましょう。

⑷ 自宅を失いたくないか 

破産手続きの場合,申立時に保有する資産は基本的に換価して弁済に充てなければならないため,持家の場合は自宅を失うことになります。どうしても自宅を手放したくない場合には,破産手続以外の選択肢を考える必要があります。

⑸ 資格制限 

 破産の場合は,一定の職業(弁護士,税理士,宅地建物取引士等)については資格を制限されてしまいます。破産申立てにより仕事を失う可能性もありますので,ご自身の職業に関し,資格制限がないかについては,必ず確認しておきましょう。

⑹ 非免責債権・免責不許可事由

 破産手続を選択される方は,大半免責目当てだと思いますが,借金の種類によっては,破産開始決定後も免責されないものもあります(養育費等の債務や,一部税金等)。ですので,ご自身の借金が,破産によって消えるものかについては必ず確認をする必要があります。  また,そもそも,借金の原因がギャンブルによる浪費等,一定の場合は,免責不許可事由に該当し,そもそも免責が認められない可能性もあります。  そのため,免責不許可事由の有無については必ず確認しておきましょう。

3 まとめ 

 以上の通り,各手続を選択する上では,様々な事項を確認する必要がありますので,ご自身にとって最適な手続を選択するためにも,債務整理を多数取り扱う経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。

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