弁護士コラム

2017.07.01

【離婚問題】離婚した後も子供に会うために(1)-面会交流ってなに?

離婚の際には,父母のいずれかを「親権者」に決め,通常は親権者が子供をひきとって育てることになります。では,「親権者」とならなかった片方の親が,今後,子供と会いたいと思った場合,どのようにして子供と会うことができるのでしょうか(離婚前であっても,夫婦が別居している場合には,同じ問題が生じます。)。
今回は,子どもと離れて暮らす親が子供に会う権利,すなわち「面会交流」の意義と方法についてお話ししたいと思います。ただし,面会交流とは子供の健全な成長のために実施するものであって,必ずしも両親の「子供に会う権利」という側面はそれほど強くありませんので,ご理解ください。

1 面会交流ってなに?

まず,面会交流という制度について説明致します。
面会交流とは,あまり日常的に聞く言葉ではありませんが,子供と離れて暮らしている親が,子供と会ったり,手紙や電話などで交流したりすることを言います。子供にとって,離れて暮らす親との間の円満で継続的な交流は,父母双方から愛されていることを確信させ,子供の心身の成長に有益であるといった意味で子供の福祉に寄与します。そのため,離れて暮らす親が子どもに会う権利として面会交流という制度が認められているのです。
なお,子どもと一緒に暮らしている親を監護親,子どもと離れて暮らしている親のことを非監護と言いますが,聞き慣れない言葉だと思いますので,以下,事案でご説明します。
例えば,父Aと母Bがおり,二人には子Cという息子がいたとします。ある日,AとBが離婚することになり,母Bが親権者として子Cを引き取ることになり,父AとB・Cは離れて暮らす形になりました。(なお,離婚していなくても,夫婦仲が悪くなり別居している場合も該当します。)
 このようなとき,子Cのことを引き取って世話している母Bを監護親,Cと離れて暮らしている父Aを非監護親と言います。

2 面会交流の決め方について

それでは,面会交流の取り決めは,どのように行うのでしょうか。
最初は,当事者同士の話し合いで,面会交流の可否やその方法,回数,日時,場所について協議します。そして,当事者間の話し合いによる解決が難しい場合,裁判所が関与し,解決を図ることになります。
具体的には,非監護親が監護親の住所地を管轄する家庭裁判所に,面会交流の調停を申し立てることになります。それでもまとまらなかった場合,審判に移行し,裁判官に面会交流の内容を判断してもらうことになります。
 では,面会交流が認められるかは,どのような基準で判断されているのでしょうか?
面会交流は,上でも述べたとおり,離れて暮らす親と子供の円満で継続的な交流により,子が父母双方から愛されていることを確信でき,子供の心身の成長に有益であるといった意味を有しています。そのため,基本的には子供の利益を害するような場合でなければ,面会交流を実施する,と判断される傾向にあります。
 子供の利益を害すると判断される場合としては

① 非監護親による子の虐待のおそれ
② 非監護親による子の連れ去りのおそれ
③ 非監護親による監護親に対する暴力

などといったものがあげられます。それぞれ典型例について少しお話ししておきます。
 まず,①は,過去に子供に対して暴力をふるうなど虐待をしていた事実があり,子供が現に非監護親に対して恐怖心を抱いている場合が典型例になります。
 次に,②は,過去に連れ去りの事実があった場合が典型例になります。
 そして,③は,非監護親の監護親に対するDVによって子供が精神的ダメージを受けており,現在も回復できない場合が典型例になります。

3 面会交流の実情

 面会交流の申立件数は,年々急激に増加しており,平成27年の時点では18,257件の事件が申し立てられました。
面会を拒否する側の理由としては,様々あります。たとえば,過去に自身や子どもが暴力を受けたことがあるため心配だという理由もありますし,単純に夫婦仲が悪く,子供を会わせると自分の悪口を子供に吹き込まれるのではないか,養育費も払ってくれない父親に対して会わせたくない等,様々です。
これに対し,裁判所は,上記の通り,虐待や連れ去りのおそれ等が認められない限り,基本的には面会を認める運用をしています。また,面会させる不安をぬぐいきれず,面会拒否に頑なにこだわる当事者に対しては,試行的面会交流と言って,裁判所内の面会ルームで面会を実施し,その様子を外から確認できる仕組みも準備されています。(これは裁判所の設備の問題で,裁判所内では実施できない場合もありますので,ご確認ください。)
なお,中には裁判所がいくら面会交流を実施するよう促しても,一切応じない場合も少なくありません。その場合は,調停は不成立となり,審判に移行し,面会を認める審判が出されます。審判になった場合は,月1回程度の面会を認めることが一般的です。(年齢によっては月2回もよく見かけます。)

4 面会交流での取り決めを守ってもらえない場合

 たとえば,子供に毎月2回会わせると定めたとしても,相手が全く会わせてくれないこともあります。そのような場合にどうすればいいのか少しお話ししたいと思います。

(1) 履行勧告

 まずは家庭裁判所から履行勧告をしてもらうことが考えられます。具体的には,家庭裁判所から相手方に対し調停や審判の取り決めを守るように書面で通知します。
 しかし,この制度には強制力や罰則等がないため,相手が応じない可能性があります。

(2) 他にできることはないの?

 面会交流は,子供が安心できる環境で継続的に行われる必要があるため,強制的に子供を連れてきて面会交流を実現することはできません。そこで,相手方が履行勧告に応じない場合,裁判所に対して間接強制の申立てをすることが最も有効な手段になります。
 間接強制とは,債務を履行しない債務者に対し,一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを裁判所が警告することで義務者に心理的圧迫を加え,自発的な履行を促すものです。たとえば,面会交流の履行を拒んでいる相手方に対し,違反一回について1万円を支払え,と命じることで心理的プレッシャーを加えて,間接的に面会交流を実現させようとするのです。
 もっとも,間接強制が認められるためには,面会交流をどのように行うかが十分に特定されている必要があります。たとえば,時間について「最初は1時間程度から始めることとし,子の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」との定めがされている場合について,裁判所は特定が不十分であると判断しており,専門的知識のないままに面会交流について定めを作ることは危険と言わざるを得ないでしょう。要するに,間接強制を行う前提で面会交流の内容を決めるとすれば,「毎月第2土曜日の午前10時に●●駅の●●改札前で受け渡しをし,午後5時に同じ場所で引き渡す。」などと,これ以上調整を行わなくとも面会交流が実際に実施できる程度に内容が決定していないといけません。

(3) 慰謝料請求も可能

 また,これらの方法以外にも,相手方が面会交流に応じないときには,慰謝料を請求する事例が増加しており,これを認める裁判例も多数出ております。

5 まとめ

 以上のとおり,面会交流においては本来面会交流を認めない理由にならないにもかかわらず,「養育費を払わない夫には会わせたくない」であるとか「夫のことが嫌いだから子供に会わせたくない」である等様々な理由をつけて,子供に会わせないようにしてくることが少なくありません。また,上でも説明致しましたが面会の取り決めを守ってもらえないような場合もあり得ますので,その可能性を見越したうえで面会条件を定める必要があるでしょう。しかし,子供に会うための最も有効な手段である間接強制を実現するためには,専門知識を有する者でなければ適切な条項を作成することができません。
 そこで,離婚後でも子供に会うためには絶対に経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.06.30

【離婚問題】離婚した妻の連れ子も育てないといけないの?弁護士が教える連れ子と養育費について

「私は,妻と妻のまだ幼稚園に上がったばかりの連れ子Aを連れて結婚しました。再婚後には,子供Bも生まれたのですが,夫婦関係がうまくいかなくなり,妻とは妻が二人の子供を育てるという条件で離婚することになりました。妻から妻と子供たちの生活費を請求されているのですが,支払わないといけないのでしょうか?」法律事務所にご相談に来られる方の中にはこのようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃいます。今回は,こういった場合に誰の分の生活費まで支払わなければならないかについてお話ししたいと思います。

1 連れ子との法律関係

 さて,今回のお話ですと,相談者の夫婦には妻の連れ子であるAという子供と相談者夫婦の子供であるBという子供という二人の子供がいます。
 妻からすれば,AもBも自分のおなかを痛めて産んだ子ですからどちらも自分の子供であることに間違いはありません。そのため,妻はAとBどちらの子供に対しても養育責任を負っており,育てなければならない義務を負っています。
 しかし,夫からすれば再婚後に生まれたBは自分の子供であることに間違いはないのでしょうが,妻の連れ子Aの出生について関与していません。それがAの母親との再婚によって扶養義務を負うような親子関係が生じるのでしょうか?夫と子供たちとの法律関係についてお話ししたいと思います。
 結論から言いますと,再婚後に生まれた子供Bとの間での法律関係と再婚した妻の連れ子Aとの法律関係は再婚によっても同じにはなりません。
 まず,夫は再婚後に生まれた子供Bについては当然ですが親子である以上,養育すべき義務を負っています。ちなみに,この養育すべき義務には,事実上の監護(世話をすることを言います。)と経済的援助(養うことを言います。)の2種類が含まれています。
 他方で,妻の連れ子Aに対しては,再婚しただけであれば,法律上,扶養義務がありません。これは,一般的な感覚とはズレているかもしれませんね。通常は,連れ子も一緒に養うことが多いですのであまり意識しないことかも知れませんが,法的には再婚しただけでは相手の連れ子との関係では親子関係は生じません。そのため,相手の連れ子との関係では,養子縁組をしていない限り,常に扶養義務があるわけではないのです。「特別の事情があるとき」(民法887条2項)に家庭裁判所が扶養を命じる審判を行えば,扶養義務が生じるにすぎません。
 もっとも,再婚するにあたって養子縁組をする方も多いかと思います。この効果をご存知でしょうか?先程も申しましたように再婚したとしても連れ子との関係では親子になるわけではありませんが,養子縁組をすることによって,連れ子との関係でも親子ということになり扶養義務を負うことになるのです。

2 養子縁組と養育費との関係

 以上でお話ししたように,妻の連れ子Aとの関係においては,養子縁組がなければ,法律上,親子ということにはならず,離婚後に養育費を支払う必要はありません。しかし,これは裏を返せば,養子縁組をしていれば法律上親子ということになり,養育費を支払う義務があることになります。
よって,連れ子との関係で養子縁組をしている場合,離婚したとしても養子との関係はなくならず親子のままですので離婚だけでなく離縁までしなければ,養子縁組をした連れ子に対して養育費を支払わなければならないのです。

3 離縁ってどうすればできるの?

 さて,では離縁とはどういった手続きを踏めば可能なのでしょうか?

(1) 離縁の手続き

 離縁とは,養親子関係の解消を言い,協議離縁,調停離縁,審判離縁,裁判離縁などがあります。
 協議離婚は,当事者の合意と離縁の届出により成立する離縁ですが,当事者の間で合意ができない場合,離縁を求める当事者は家庭裁判所に対し,離縁の調停を申し立てることになります。そして,その調停において離縁の合意ができ,調停が成立した場合,調停離縁となります。ちなみに,養子の年齢が15歳未満である場合,その母が代わりに話し合いを行うことになります。
 また,離縁の合意が整っているものの,当事者が出頭しないために調停が成立しないときのように限られた場面では、審判離縁をすることになります。
 そして,調停離縁が成立せず、調停に代わる審判が行われない場合又は調停に代わる審判離縁が行われたのですが,これに対する適法な異議申し立てがあった場合,離縁の訴えを提起することができ,その請求認容判決が確定したとき,裁判離縁をすることになります。

(2) 裁判離縁の要件

 当事者間で離縁についての合意がまとまればいいのですが,必ずしもそうは行きません。どうしても当事者間で話し合いがまとまらない場合,裁判によって離縁することになります。
 もっとも,裁判離縁は以下の3つの離縁原因が民法814条に法定されており,これを満たしていると裁判所が判断しないと離縁が認められません。

 ① 他の一方から悪意で遺棄されたとき
 ② 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
 ③ その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき

今回のようにまだ養子が幼い場合の離縁について,裁判所は養子の将来の福祉や養育の観点から慎重な判断をする傾向にあります。
もっとも,あくまで連れ子ということですから,母親と離婚した以上,子供との間に正常な親子関係が構築できるとは考えにくいと言えます。そのため,「その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき」と判断される場合もありますが,養子の将来の福祉や養育の観点から離縁を認めない裁判例もあり,経験を踏まえた訴訟進行をしなければ必ずしも離縁ができるわけではありませんので注意して下さい。

3 まとめ

 以上の話をまとめますと,夫は,妻の連れ子Aとの間で養子縁組をしていない限り,養育費を支払う必要はありません。なお,養子縁組をしている場合であっても,養子と離縁すれば,養育費を支払う必要はなくなります。
 このように養子縁組をしている場合で養育費の支払いを拒むときには,養子と離縁することが必要になってきます。ただ,裁判離縁をするためには法律知識が必要となるうえ,その知識を用いて裁判所を説得しなければなりません。
 そのため,法律の専門家である弁護士に依頼しないと裁判所の説得は難しいと言えます。よって,離縁をお考えの際は,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.06.28

【離婚問題】離婚時年金分割制度ってなあに?

従前,離婚すると夫婦双方の年金格差が生じ,離婚した高齢女性の生活水準が低くなってしまっていました。このように離婚した高齢女性の年金増加を目的として,離婚時年金分割制度は,平成16年の年金法改正により創設され,平成19年4月以降の離婚から適用されています。離婚時年金分割の利用件数は,いまだ離婚件数の約1割にすぎませんが,老後の生活を安定させるために非常に有用な制度です。そこで,今回は,離婚時年金分割制度の概要についてお話しさせて頂きたいと思います。

1 離婚時年金分割制度の概要

 離婚時年金分割制度は,離婚後,請求期限内(原則2年)に,合意又は裁判手続で案分割合を定めて年金事務所等に請求することにより,婚姻期間中の年金の保険料納付記録の最大2分の1までを一方当事者から他方当事者に分割する制度です。つまり,夫婦が離婚した時に,離婚をした本人同士の合意や,裁判手続きによって厚生年金を分割できる制度なのです。
 もっとも,離婚時年金分割制度と言ってもその中には2つの制度が存在しています。一つは,平成19年4月1日以降に離婚した場合に利用できる「合意分割」の制度,もう一つは平成20年4月1日以降に離婚した場合に利用できる「3号分割」の制度です。以下では,これらの制度についてそれぞれ見て行きたいと思います。

(1) 合意分割制度

 合意分割制度とは,離婚する夫婦の一方又は双方が婚姻中に厚生年金に加入していた場合,請求期限内(原則2年)に合意又は裁判手続で案分割合を定めて年金事務所に請求すれば,厚生年金の分割を受けることができる制度です。
合意分割制度を利用した場合,基本的に話し合いで分割の割合が決まりますが,裁判手続になるとだいたい2分の1とされていますので,話し合いでもベースは2分の1になるでしょう。
分割の対象になるのは,婚姻期間に夫婦双方が支払った厚生年金保険料の納付記録となります。
分割割合は夫婦間または裁判所の決定により確定しますが,最大で半分となっています。

(2) 3号分割制度

 3号分割制度は,平成20年4月1日以降の婚姻中に,第3号被保険者であった期間がある場合,当事者の合意又は裁判なしに,その期間に対応する厚生年金に加入していた当事者の保険料納付記録の2分の1が,第3号被保険者出会った当事者に分割される制度を言います。
 もっとも,このように書いても理解できる人はほとんどいないと思います。その最大の理由は,第3号被保険者が何かわからないからでしょう。3号被保険者とは,サラリーマンや公務員の妻(又は夫)のうち,扶養されている者を言います。
 すなわち,3号分割制度とは,平成20年4月1日以降にサラリーマンの夫(妻)と扶養に入っている妻(夫)が離婚した場合に年金分割を請求すれば,半分の割合で年金分割を受けることが出来るという制度なのです。
 3号分割の対象は,先程もお話ししたように,平成20年4月以降に相手が支払った厚生年金保険料の納付記録です。そのため,平成20年4月以降に離婚するだけでは足りず,この時期以降にサラリーマン又は公務員として働いていることを要します。

(3) 注意点

 あくまで3号分割制度は,平成20年4月1日以降に相手方が支払った厚生年金保険料の納付記録を対象としますので,それ以前に支払った保険料については別途,合意分割制度が適用されることになりますのでご注意ください。つまり,平成20年4月1日以降に結婚して,離婚した夫婦は3号分割のみで対応可能ですが,これより前に結婚していた夫婦は合意分割を併用せざるを得ません。
 また,年金分割は,合意分割制度,3号分割制度ともに原則として離婚後2年間しか請求できません。

2 合意分割と3号分割のどちらの制度を利用すべき?

「合意分割と3号分割,二つ制度があるけどどっちを利用すればメリットがあるの?」と気になるところだと思います。
しかし,これらの制度は一方が他方を排除するものではありませんので,両制度は同時に使用することが可能です。一方の制度の利用を申請すれば,自動的にもう一方の制度も申請したとみなされます。すなわち,どちらかの制度の利用を申請すれば,平成20年4月1日以降の特定期間については3号分割が行われ,それ以外の対象期間については合意分割が行われることになります。
 そのため,どっちの制度を利用したら得!と言うことはありません。もっとも,これだけの説明では何を言っているか分からないと思います。そこで,具体例を挙げつつ,説明していきたいと思います。

平成10年3月31日に婚姻した夫婦が,平成25年4月1日に離婚しました。夫は婚姻期間中ずっとサラリーマンをしており,妻は専業主婦をしていました。

 このケースの場合,夫は婚姻期間中ずっとサラリーマンとして会社勤めをしていたのですから,婚姻中は厚生年金に加入していたことになります。この場合,妻は第3号被保険者にあたります。
 「あれ?妻は3号被保険者か。ということは3号分割をするんだ!」と安易に考えてはいけません。
 3号分割が適用されるのは,あくまで平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間の厚生年金保険料納付記録でしたよね。ということは,平成20年4月1日以降の厚生年金保険料納付記録については3号分割制度が適用されることになりますが,平成20年3月31日以前の厚生年金保険料納付記録については,3号分割の対象ではないと言うことになります。
 そうなると,平成20年3月31日以前の納付記録については合意分割制度を利用しなければならないことになります。つまり,今回のケースで言えば,平成20年3月31日以前の厚生年金保険料納付記録については,合意分割制度が適用され,当事者が合意又は裁判手続で案分割合を定めなければならないのです。
 よって,今回のケースでは,合意分割と3号分割が併用されることになるのです。なお,このような場合,両方の制度の利用を申請する必要はなく,合意分割制度の利用を申請すれば,合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされることになります。つまり,平成20年3月31日以前の期間が含まれている場合,合意分割の請求さえしておけば3号分割の期間についても対応できるのです。

3 まとめ

 いかがでしたでしょうか?今回は,年金分割制度についてお話しさせて頂きました。年金分割制度は,色々と複雑な仕組みになっており,年金分割制度を効率良く適用するためには,年金分割制度の理解だけでなく,年金制度の理解,離婚との関係まで意識して考えることが必要です。
 しかし,これら全ての制度を深く理解している専門家はほとんどおらず,離婚事件について経験豊富な弁護士だけがこれらすべての制度を深く理解しているものと思います。年金分割は2年間以内に請求しなければなりません。そのため,自分で離婚はしたけど上手く年金分割が出来なかったり,専門家に頼んだとしても適切な解決が出来なかったりすることもあるかもしれません。
 離婚でお悩みの際は,離婚事件の経験豊富な弁護士に相談するようにしましょう。

2017.06.27

【離婚問題】離婚時年金分割制度の手続きはどうやってするの?

一般にはあまり認知されていない制度ですが,離婚時年金分割制度というものがあります。この制度は,夫婦の一方が婚姻中に厚生年金に加入していた場合に,厚生年金保険料納付記録の最大2分の1までをもう一方の当事者に分割する制度です。この制度には,合意分割制度と3号分割制度の2つがございますが,今回は,その具体的な内容ではなく,合意分割と3号分割の申請手続についてご説明させて頂きたいと思います。

1 合意分割の手続きについて

 合意分割制度は,離婚する夫婦の一方又は双方が婚姻中に厚生年金の被保険者であった場合,婚姻期間中に対応する標準報酬額の多かった当事者の厚生年金の保険料納付記録の最大2分の1までを少なかった(又はなかった)当事者に分割できる制度です。例えば,共働きで二人とも会社勤めの場合などにこの制度が利用されることになります。
 離婚時年金分割制度の手続きは以下の流れで進むことになります。
① 年金分割のための情報通知書(以下,情報通知書と言います。)を手に入れる
② 分割の割合を決める
③ 年金分割の請求
では,具体的に年金分割の手続きを見て行きたいと思います。

(1) ①まず年金分割のための情報通知書を手に入れる!

合意分割を行う場合,まず,実施機関(年金事務所・共済組合等)に年金分割のための情報提供の請求を行い,情報通知書の交付を受けましょう。情報通知書には,他の実施機関の期間も合わせて一つの通知書として発行されます。
 情報提供を請求するには,「年金分割のための情報提供請求書」に所定の事項を記入し,請求者の年金番号が分かるものと婚姻期間を証明する書類を添付して提出します。記載方法などご不明な点があるときは,年金事務所等にご相談ください。

(2) ②分割割合を決めよう

 情報通知書を入手したら次は年金分割の割合を決めることになります。合意分割においてはその名の通り,話し合いによって分ける方法と裁判所の手続きに沿って決める方法とがあります。

ア まずは話し合いから!
 まずは話し合いからスタートしましょう。ここでは,分割割合だけでなく,年金分割を行うことについても合意をしておくことが大事です。
また,裁判所における判断では,年金分割の割合は2分の1とされることが多いことから,出来れば2分の1の割合でまとめるように意識しましょう。
なお,事後の手続きの簡便さから,年金分割を行うこと,分割割合については書面でまとめるだけでなく,出来れば公証役場に行って公正証書で残すよう意識して下さい。

イ 話し合いがまとまらない場合は裁判所を利用しよう!
もし話し合いで分割割合がまとまらない場合,裁判手続で決定する方法があります。
これから離婚する場合,離婚調停やその後の離婚裁判で年金分割の分割割合を定めるよう請求します。
他方で,案分割合を定めずに離婚した場合,離婚成立後2年以内に,家庭裁判所に年金分割の案分割合を定める審判,調停を申し立てることが出来ます。この場合ですと,調停よりも審判を申し立てた方が簡便な手続きをすることが可能です。なお,夫婦関係調整調停(離婚調停)や裁判離婚の際,離婚するか否かに併せて分担割合について話し合うこともできます。
先程も申しましたように,裁判所では案分割合を2分の1と定めることが多く,裁判所の手続きを利用する場合にはよほどの事情が無い限り,案分割合は2分の1とされると思っていただいて大丈夫です。
なお,元配偶者が死亡してしまうと案分割合を定めることが出来なくなってしまうので,離婚と同時に定めるか,離婚後速やかに審判(又は調停)を申し立てるようにしましょう。

(3) ③年金分割の請求をしよう!

 分割割合が決定したら年金分割の請求をしましょう。年金分割の請求は,原則として離婚後2年以内に,実施機関に「標準報酬改定請求書」を提出して行うことになります。請求書の記載内容が分からない場合は年金事務所等にご相談ください。
 ここで注意してほしいのが,年金分割に際して必要な添付書類や年金分割を一人で行えるかが分割方法によって異なると言うことです。そこで,以下では,どちらの手続においても必要な書類を説明したうえで,それぞれの手続ごとに説明したいと思います。

ア 共通で必要になる書類
 どちらの手続で分割割合を決定したとしても,
①  請求者の年金番号が確認できるもの(年金手帳,国民年金手帳,基礎年金番号通知書など)
②  婚姻期間を証明する書類(元夫婦の戸籍謄本,抄本など)
を添付する必要があります。これに加えて,以下の手続きがそれぞれ必要になります。

イ 話し合いで分割割合を決めた場合
 まずは,話し合いで分割割合を決めた場合について見て行きましょう。
 この場合,手続には,案分割合を証明する書面が必要となります。この書面を持って当事者双方が直接年金事務所の窓口に持参することになります。なお,この書面が公正証書の場合には,分割を受ける当事者だけで請求することが可能になります。

ウ 裁判手続で分割割合を決めた場合
 次に,調停,審判などの裁判手続で分割割合を決めた場合について見てみましょう。
 この場合は,調停調書又は和解調書の謄本・抄本,審判書又は判決の謄本・抄本及び確定証明書の添付が必要になりますが,分割を受ける当事者のみで手続が可能です。

2 3号分割の場合の手続き

以上のような合意分割の場合の手続きと異なり,3号分割制度では,合意や裁判手続きを経る必要が無く,分割を受ける人が請求さえすれば自動的に2分の1の割合で分割されることになります。
そのため,3号分割をする際は,分割を受ける当事者が単独で実施機関に標準報酬改定請求書を提出すれば大丈夫で,情報提供通知書を手に入れる必要も,分割割合を定める必要もありません。

3 まとめ

今回は年金分割の手続きについてご説明させて頂きました。年金分割の制度はわかりにくく,実際の利用率も決して高くはありません。しかし,年金分割が認められると,月々3万円程度年金受給額が上がることになります。1年ですと36万円,10年ですと360万円も年金が増えることになります。
 離婚をスムーズに解決するためには,このような制度までも詳しく把握している必要がありますが,このような知識まで有しているのは弁護士の中でも離婚事件について経験豊富な弁護士だけでしょう。
 離婚問題をスムーズに解決するためにも,離婚事件に経験豊富な弁護士にご相談するようにしましょう。

2017.06.26

【離婚問題】離婚調停ってどんなもの?手続きにかかる時間と手続きの流れ

離婚調停ってどんなもの?手続きにかかる時間と手続きの流れ

いくら話しても財産分与の金額や慰謝料の有無・金額、親権などの条件やそもそも離婚するか否かについて話し合いがまとまらないこともあると思います。そのようなときのための手段として「調停」という制度が準備されています。
もっとも,いざ調停をするとなったとしても,調停とは実際にどんな手続なのか,どの程度時間がかかるのか,どんな流れで進んでいくのかといったことがわからず,不安なことも多いかと思います。
 そこで,今回は離婚調停にかかる時間や離婚調停の流れについてお話ししたいと思います。

1 離婚調停ってどんなもの?

離婚調停とは,夫婦間だけで離婚の話し合いができないときに,裁判所に間に入ってもらって,離婚するかどうかやその条件を話し合う手続きです。
 事案にもよりますが,だいたい2,3回程度の調停で離婚調停が成立か不成立かが決定されることが多いように感じます。離婚調停申立て後,約1ヶ月~1ヶ月半で最初の調停期日が行われ,その後1ヶ月~1ヶ月半毎に調停期日が行われるため,離婚調停を申立ててから4~5ヶ月程度で離婚調停が終了することが多いということになります。
もっとも,終了までに要する期間というものも夫婦によって様々であり,離婚調停の1回目で離婚できるものもあれば、1年以上かかっても離婚できない場合もあります。

 

2 離婚調停の申立て

 さて,それでは実際にどのような流れで離婚調停が進んでいくかを見て行きましょう。

(1) 離婚調停の申し立てに必要な書類は?

離婚調停の申し立てをする場合,まず①申立書及びその写し1通を作成する必要があります。申立書の書式及び記載例については裁判所のHPにありますので参考にしてください。申立書の作成は,法律的な知識がなくても記載できるように出来ています。
通常は申立書に加えて,夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書),年金分割のための情報通知書,事情説明書といったものを提出することになるかと思います。このような提出書類は相手方から閲覧謄写申請があった場合,これが許可され,見られてしまうことがあります。そのため,住所を知られたくないような場合などでは知られても差し支えない住所にしておく必要があるでしょう。

(2) どうやって申し立てるの?

離婚調停を申し立てるべき家庭裁判所の場所は,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は夫婦で合意した家庭裁判所になります。そのため,このいずれかの家庭裁判所に対して,上で説明した申立書(申立書には収入印紙を貼る必要があります)等を提出することになります。

(3) 離婚調停にかかる費用っていくらくらいなの?

自分で離婚調停をする場合,かかる費用は離婚調停全体を通してだいたい5,000円程度になると思います。申立時に必要となる費用は以下の通りです。

① 収入印紙代 1,200円
② 郵便切手代 800円前後

 離婚調停全体となりますと,これらの費用に,必要書類(戸籍謄本,住民票,所得証明書など)を手に入れる費用,コピー代,裁判所に行く交通費、調停調書謄本(省略謄本)を手に入れる費用などがかかるのでだいたい5,000円程度の費用がかかることになります。

3 第一回調停期日

(1) 申立から調停期日決定までどれくらいかかるの?

家庭裁判所から初回期日調整のための連絡があり,家庭裁判所と日程調整のうえ第1回調停の期日が決められます。
申し立てから期日通知書が届く期間は,だいたい2週間くらいになります。調停期日通知書は普通郵便で届きますので紛失しないように注意して下さい。第一回期日はだいたい申立から1か月後くらいに設定されることが多いようです。

(2) 当日の流れ

 だいたい一回の調停期日の時間は約2~3時間程度とされています。当日の流れを持参すべきものを確認したうえで見て行くとしましょう。

ア 調停期日当日に持参するもの
調停期日当日には,以下のものを持参することになります。
① 期日通知書
② 印鑑
③ 身分証明証(免許証、パスポートなど)
 期日通知書には,調停における注意事項も書かれていますので,必ず目を通しておくようにしましょう。

イ 到着したら待合室で待機
裁判所に到着したら,待合室で待機することとなります。調停期日には,夫婦双方が同時に呼び出されることなりますが,待合室は別室となり,通常であれば開始時刻をずらしていますので,顔合わせすることはありません。帰りの時間も含めてどうしても顔を合わせたくない場合には,裁判所に申し出れば,鉢合わせすることもなくなるでしょう。なお,裁判官による手続説明も両当事者立会いの下行われることも多いようですが,どうしても顔を合わせたくない場合,その旨を伝えておけば,裁判所が配慮してくれる場合もあります。以下では,裁判所が別々に手続きを説明した場合を前提にお話ししますが,一緒に手続きを説明したとしても流れが大きく変わることはありませんので安心して下さい。

ウ 申立人の呼び出し
申立人が待合室で待っていると,調停員が部屋に入ってきて調停室に呼び出されます。調停室には,裁判官1名と調停委員2名(基本的に男女1名ずつ)がいます。裁判官たちによる簡単な挨拶のあと,裁判官が,調停の進め方や調停とはどのようなものなのかということを説明してくれます。
その後,離婚調停を申し立てした経緯等について,30分ほど調停委員と話をすることとなります。話が終わると,一度調停室を出て待合室に戻ります。

エ 相手方の呼び出し
申立人が待合室に戻った後,次は相手方が待合室へ呼び出されることとなります。
相手方も申立人と同じように説明を受けたうえで,調停委員が相手方の主張を聞き,申立人の主張を相手方に伝えることになります。この時間も申立人と同様に30分ほどです。

オ 再度の申立人の呼び出し
その後,再度申立人が調停室に呼ばれ,調停委員から相手方の主張を伝えられます。そして,再度,調停委員が相手方の話を踏まえて申立人から話を聞くことになります。この時間も30分ほどになります。運用としては,申立人の話が終わった後に,次回の調停期日を調整することが多いと思われます。この場合,申立人は先に帰ることになります。

カ 再度の相手方の呼び出し
申立人から話を聞いた後,再び相手方が30分ほど調停室に入り,申立人の話を踏まえたうえで調停員から話を聞かれることとなります。
以上の流れで,第1回目の離婚調停は終了となります。場合によっては,調停終了時に,調停委員から第2回目の期日に調停に必要な資料を提出するよう言われることがあります。

4 第2回目以降の調停について

離婚調停においては,なかなか1回で話し合いがまとまることはありません。そのため,たいていの場合,2回目の期日が開かれることとなります。

(1) 第1回目の期日から第2回目の期日までの期間は?

第2回目の期日は,第1回目の期日からだいたい1カ月後に組まれます。この期間は必ずしも1ヶ月と決まっているわけではなく,家庭裁判所の忙しさによって変わることになります。

(2) 第2回調停期日の流れは?

第2回調停期日も前回の第1回期日とほぼ同じ流れで進むことになります。つまり,約30分ずつ,申立人と相手方が交互に2回ずつ話を聞かれるということになるのです。

(3)第2回目の調停終了

2回目の期日でも話がまとまらない場合,第3回目の期日が組まれます。それでもまとまらなかったら第4回…というように進みます。もっとも,どうしても調停がまとまらないときには,次の「5 離婚調停の終了」で説明しますように調停不成立ということで調停手続が終了することになります。

5 離婚調停の終了

離婚調停は,おおよそ以下の3つの場合に終了することになります。

(1) 調停成立

調停での話し合いを経た上で,夫婦双方が合意できると,調停委員会において合意内容を確認し,問題がなければ調停委員会を構成する裁判官と調停委員2名,それに書記官が調停室に行き,裁判官が当事者双方の面前で調停条項を読み上げて,双方にこの内容でよいかを確認します。当事者がよいと答えると,調停が成立し,事件が終了することになります。

ア 調停調書とは?
調停調書とは,離婚調停・養育費請求調停などの家事調停,慰謝料請求調停などの民事調停で当事者の話し合いがまとまった場合に作成される文書のことです。
離婚調停が成立した時点で調停案を作成してくれますので,その内容を確認し,その内容に納得がいけば同意し,少しでも納得がいかないときは同意しないようにしましょう。調停案に同意した場合,離婚調停成立となり,調停調書を作成します。

イ 調停成立のメリット
この調停成立となった場合のメリットは,調停調書に記載されている内容,たとえば養育費や慰謝料の支払いに関する義務を相手が守らなかった場合,強制執行(差押え)できる点にあります。つまり,相手が養育費や慰謝料を払ってくれない場合に相手の給料や貯金を差し押さえて強制的にお金を払わせることが出来るのです。

ウ 調停成立後の手続
調停が成立すると,調停調書が作成されることになります。そして,調停調書作成の時点でその夫婦は離婚したことになります。
 もっとも,離婚届は別途提出する必要がありますのでご注意ください。離婚調停が成立した場合,調停の申立人は,調停離婚成立後,10日以内に夫婦の本籍地又は届出人の住所地の市区町村長に調停調書の謄本を添えて調停で離婚した旨の届出をする必要があるのです。なお,調停によって相手方が届出をすると決めることも可能です。
 期限を過ぎて提出してしまった場合,過料(罰金)を科される場合がありますので注意してください。

(2) 調停不成立-離婚調停が不成立になった場合どうなるの?

夫婦間で合意が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合,調停不成立として事件を終了します。このように離婚調停が不成立になってしまった場合,①裁判に移行する,②審判に移行する,③再度、夫婦間で話し合いを行うといった方法が考えられます。以下,それぞれどのようなものか見てみましょう。

ア 裁判離婚に移行する
離婚調停が不成立となった場合,通常,離婚裁判を起こすことになります。もっとも,裁判離婚において注意しなければならないのは,裁判では法律的知識が要求されるという点です。そのため,裁判で離婚しようとするときには基本的には弁護士に依頼すべきでしょう。
もっとも,裁判離婚のメリットは,筋が通らない主張や嘘の主張を排斥できることが多いという点です。裁判所が証拠に基づき公正に判断を下してくれるので,妥当な判決を獲得できる可能性が高いと言えるでしょう。

イ 審判離婚に移行する
離婚に関しては夫婦で合意しているものの,親権や慰謝料の支払いといった離婚条件で合意が出来ず,調停不成立になった場合,審判という手続きもあります。
 しかし,審判は家庭裁判所が相当と考えた時に認められるものであり,例外と考えた方がいいでしょう。

ウ 再度、夫婦間での話合い
一応,もう一度夫婦で話し合うという方法もあります。しかし,離婚調停でも話がまとまらなかったのであれば,夫婦間で話し合ったとしても解決は難しいでしょう。

(3)調停の取り下げ

相手方の同意なく調停の申立てを取り下げることが出来ます。なお,調停を取り下げた場合であっても,再度,調停の申立てをすることが出来ます。もっとも,離婚訴訟を提起することも考えているときには,必ず裁判所にて「事件終了証明書」の申請と取得をしておきましょう。

6 まとめ

いかがでしたでしょうか?離婚調停は上でも書きましたように法律家でなくても行うことが可能ではあります。しかし,仮に離婚調停がまとまらなかった場合の手続きである審判や裁判は法律に基づいて進行することになるため,調停段階でのミスが後々不利益に働くこともないとは限りません。また,調停委員も人生経験豊富で適切な解決を目指してくれるのですが,あくまで中立的立場にある人であり,味方の専門家ではありません。ですので,調停でまとまったものが,あなたにとって本当に適切な解決でないこともあり得ます。
たしかに,調停手続で弁護士に依頼すると自分でするよりも費用が多くかかってしまうことになります。しかし,離婚はあなたの一生に関わるものであり,子供の親権であったり,どうしても伝えたいことであったりお金に換えられないものが関係してきます。
したがって,調停離婚は本人でもできるからといって安易に自分で行うのではなく,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。
以上

2017.06.04

【離婚問題】家事調停を弁護士に頼むべき?

離婚調停をしようと考えている方はこのブログのように離婚調停に関するブログをいろいろと見ていらっしゃると思います。そのなかで離婚調停を弁護士に頼むか否か迷っていらっしゃる方もいらっしゃることでしょう。今回は,弁護士に依頼するべきかについて参考となる情報を提供できればと思います。

1 弁護士がいれば離婚調停に行かなくていい?

 相談に来られる方々から聞かれることが多いのは,「弁護士に依頼した場合,自分自身も離婚調停に出席しないといけないのか」という点です。調停は平日の昼間に行われますので,どうしても仕事を休めない人などの場合,本人が出席せずに代理人として弁護士のみで離婚調停を進めることはできないか気になるところでしょう。
離婚調停というのは,結婚してから今までの様々な出来事や感情論が入り組んだ紛争になりますので,単純な法律論だけで話を進められるものではありません。そのため,裁判所からは「代理人が就いていたとしても,本人も同行してください」と言われることが多いでしょう。ただ,法律で本人も同行しなくてはならないと定められている訳ではありませんので,必ずしも同行しなければならない訳でもありません。
これは一概にどちらが良いと決められる問題ではありません。例えば,代理人のみで出頭したとしたら,当日調停の場で新たに出た話については,まだ依頼者から了承を取っていないので,「持ち帰って依頼者と検討します」というレベルの回答で終わってしまいます。しかし,本人が同行していれば,当日調停の場で結論を出せるかもしれません。逆に,本人が同行することで,調停での話し合いが少し感情的なものになったり,相手方と鉢合わせてストレスを感じなくてはならない場面もあるかもしれません。ですので,事案によって,その日の調停の位置付けや回数に応じて,弁護士と相談しながら同行するかどうか決めなくてはならないでしょう。
なお,離婚調停に関しては,本人が同席していないと離婚調停を成立させられない決まりになっていますので,最終回だけは絶対に同行しなくてはなりません。(実際はイレギュラーな方法がいくつかありますが,基本的に同行しなくてはなりません。)

2 離婚調停で弁護士に依頼するメリットは?

上でも説明したように,必ずしも調停期日に出席しなくていいというのは一つのメリットでしょう。では,他にどのようなメリットがあるでしょうか?

(1) 書類作成・準備の手間が省ける

離婚調停をするにあたっては,離婚調停の申立書や,進行に関する照会回答書及び事情説明書といった書面の作成が必要となります。弁護士に依頼しない場合には自分でこれらの書類を作成しなければなりません。そのため,自分でするとなるといちいちどのような内容を記載しなければならないかを調べて作成する必要がありますが,弁護士に依頼すればこれらの書類の作成を任せることができます。
また,これらの手続きを自分で行うというのはどうしても時間だけでなく精神的にも疲れるものです。あなたの味方となる弁護士がいることが心を楽にしてくれるでしょう。

(2) 調停委員に良い印象を与えることができる可能性が高い

 離婚調停は,あくまで裁判所の調停委員を間に挟んでの話し合いです。調停委員が,あなたの話を聞き取り,相手方に話します。調停委員も経験豊富な方々ではありますが,調停は時間が決まってしまっているため,どうしても思いが正確に伝わらないことが起こり得ます。そのため,調停委員の勘所を知る経験豊富な弁護士を入れて話し合いを進めることであなたの意見をより正確に伝えることが可能になります。
また,調停に弁護士とともに参加することで本気で離婚したいんだという熱意を調停委員に伝えることが可能となり,有利に話し合いを進めることが出来るでしょう。

(3) 取り返しのつかない失敗を防ぐことが出来る

離婚調停では,条件(調停条項)に同意して離婚調停が成立してしまえば,判決と同じ効力があり,その条件を変えることができなくなります。気の弱い方やどうしても早く離婚したい方など押し切られてしまいそうな人は弁護士に依頼することをお勧めします。

(4) 調停が不成立になった場合まで見越した進行が可能になる

 これが弁護士に依頼することの最大のメリットであると言えるでしょう。
調停が不成立になった場合,離婚であれば裁判に,それ以外の婚姻費用や面会交流等については自動的に審判に移行することになります。とりわけ審判の場合,裁判官は調停で提出された資料や調停の経緯を参考にして判断することになります。
 そのため,調停は,話し合いの手続きではありますが,裁判と同じように万全の態勢で臨むため弁護士に依頼することをお勧め致します。なかでも相手方の意思が固い場合,たとえば自分は離婚したい,親権が欲しいと言っているのに相手がどうしても離婚したくない,こっちも親権が欲しいと言っている場合,調停がまとまらない可能性が高く,弁護士を就けるべき事案と言えるでしょう。

(5) もっと根本的なメリットは?

 上記のとおり,弁護士を就けることの様々なメリットがあります。しかし,最も根本的な問題は,依頼者の方々が弁護士なしにご自身で離婚調停を行なおうとされた場合,様々な法律論が理解できないという点です。離婚においては,離婚原因・慰謝料・親権・養育費・婚姻費用・面会交流・財産分与など,本当に様々な法的事項を決めなくてはなりません。そして,これらは法律論で議論しながら決めて行くものですので,法律論が何も分からない状態で調停委員と協議をしても,何も進まないでしょう。実際,過去に離婚調停をご自身で行なわれた方がご相談にいらっしゃり,過去の調停条項を見せてもらうと,弁護士が代理人として就いていたならば絶対に了承しないであろう,相場とかけ離れた内容で離婚されている方が本当にたくさんいらっしゃいます。
 「何が正解か分からないままに人生の決断をする」というのは本当に怖いことです。絶対に弁護士に相談した上で手続を進められることをお勧め致します。

3 弁護士を就けることによるデメリットであるの?

 離婚調停を弁護士に依頼するデメリットとしては,やはり弁護士費用でしょう。そこで,弁護士費用の相場を知っておきましょう。自分でやる場合に加えてかかってくる費用としては,おおまかに,以下の3つの費用が考えられます。

(1)相談料

離婚調停を弁護士に依頼する前に,弁護士のアドバイスを受けるためにかかる費用です。
最近では「1時間まで相談無料」という事務所も増えてきましたが,相場としては1時間1万円(税抜)といったところでしょう。

(2)着手金

離婚調停の申し立てをした場合,依頼時にかかる費用を着手金と言います。これは成功してもしなくても,依頼する際に必要になってきます。
相場としては40万円程度になるかと思います。もっとも,安い事務所では20万円程度というところもあるようです。

(3)報酬金

離婚調停で解決・終了したことに対してかかる費用を報酬金と言います。
相場としては40万円程度になるかと思います。もっとも,安い事務所では20万円程度というところもあるようです。

(4)まとめ

 離婚の際の弁護士費用は,事務所によって本当に千差万別です。もちろん弁護士費用も気になるところでしょうが,人生の岐路ですから,安さを最優先はしないよう気を付けてください。安いところに頼んで,仕事に納得行かず,後に弁護士を変えて着手金が二重に掛かり,結局損をしている方々は本当にたくさんいらっしゃいます。まずは,相談に行って,弁護士の専門分野や人間性,相性などを見極めましょう。

4 まとめ

結局,離婚調停は弁護士に依頼すべきなのでしょうか?
正解としては,「依頼すべき」でしょう。相談に来られる方で,「離婚調停は話し合いだから,まだ弁護士を就ける気はない。裁判までなったら依頼するつもりだ。」と仰る方々はたくさんいらっしゃいます。しかし,離婚調停も単なる話し合いではなく,法律に基づいた話し合いです。あくまで法律論に沿った話し合いがなされます。そのときに法律論が分からなければ,適正な話し合いは不可能です。また,仮に離婚調停がまとまらなかった場合の手続きは,法律に基づいて進行することになるため,調停段階でのミスが後々不利益に働くこともあり得ますし,調停段階から弁護士を入れることでもし裁判になった場合でも有利に進めることが可能になります。また,調停委員の方々は,あくまで中立的立場にある人であり,あなたの味方というわけではありません。
たしかに,調停手続で弁護士に依頼すると自分でするよりも費用が多くかかってしまうことになります。しかし,離婚はあなたの一生に関わるものであり,子供の親権であったり,どうしても伝えたいことであったりお金に換えられないものがいろいろと関係してきます。
したがって,離婚調停は経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。

2017.05.30

任意整理,自己破産,個人再生手続のメリットとデメリット

個人の方の債務整理手続の種類としては,①任意整理,②自己破産,③個人再生,④特定調停の4種類がありますが,各手続には,それぞれメリット・デメリットがあります。そこで,今回は,各手続のメリット・デメリットをご紹介し,事案に応じてどの手続を選択すべきかについてのポイントをお伝えいたします。なお,各手続の概要については,別の記事に記載しているので,そちらをご覧ください。

1 メリット・デメリット

メリット

デメリット

任意整理

・裁判所が関与しないため,簡易かつ裁判費用がかからない。

・債権者ごとに返済計画を個別に取り決めできるため弾力的な和解が可能。

・資格制限が問題とならない。

・免責不許可事由は問わない。

・貸金業者によっては,分割払いを一切認めない業者もあり合意困難。

・破産や個人再生手続と異なり,大幅な債務の減免は見込めない。

・通常支払期間が長期に及ぶため,途中で挫折する事例も多く,その場合の破産手続き以降は二度手間となる。

自己破産

・免責許可が下りれば原則として債務が消える(※一部消えないものもあるので注意。)

・債務者に安定した収入がなくても制度利用可能。

・手続開始申立てにより,個別の強制執行手続は中止されうる。

・名前が官報に掲載される。

・破産手続開始決定により資格制限を受ける職業がある。

・住宅,自動車,保険等の資産も処分しなければならない。(一部残せる場合もある。)

・免責不許可事由に該当する場合は,債務が消えない。

・裁判費用がかかる。管財事件の場合は,管財人の報酬として数十万円の予納が必要。

個人再生

・債務総額によるが,返済総額を約8割程度カットできる。

・資格制限が問題とならない。

・住宅資金特別条項の利用により住宅を残すことができる。

・免責不許可事由は問わない。

・手続開始申立により,個別の強制執行手続は中止されうる。

・債務者に安定した収入が必要。

・裁判費用がかかる。再生委員が選任される場合は,同委員の報酬として数十万円の予納が必要。

・再生計画認可後,途中で挫折すると認可が取消され,結局は破産することになり二度手間となる。

・債権者間の形式的平等が要求され,一部債権について一括返済したり支払期限を延長する等の融通が利かない。

特定調停

・手続き費用が安い。

・資格制限が問題とならない。

・免責不許可事由は問わない。

・住宅等の財産処分を強制されない。

・貸金業者によっては,分割払いを一切認めない業者もあり合意困難。

・破産や個人再生手続と異なり,大幅な債務の減免は見込めない。

・相手方とされた債権者間では平等性が要求されるため,一部の債権者の利益に偏った合意はできない。

・通常支払期間が長期に及ぶため,途中で挫折する事例も多く,その場合の破産手続き以降は二度手間となる。

・調停で決まった内容に不履行があった場合,債権者から調停条項に基づき強制執行を申立ててくるおそれがある。

2 各手続選択の基準

各手続のメリット・デメリットの比較は以上の通りです。以上を踏まえると,手続選択をする上では,以下の事項を確認しておく必要があるでしょう。

⑴ 債権者の対応 

 任意整理や特定調停は,債権者との話し合いによる解決ですので,債務の減免に関し頑なに拒否する債権者がいる場合は,これらの手続きを取るのは難しいでしょう。そこで,各債権者が話し合いに応じてくれそうなタイプかどうかについては,確認しておく必要があるでしょう。

⑵ 債務者の資力

 破産手続は,無職の場合や安定した収入がない場合でも申立てをすることができますが,再生手続は,安定した収入がなければ手続利用ができません。また,任意整理や特定調停は,安定した収入は要件ではないため,手続きを進めることはできますが,結局は,債権者に分割弁済計画を了承してもらえないと合意ができないため,無職である場合は,保証人や担保等がない限り,債権者の合意を取り付けることは困難でしょう。

⑶ 費用 

 破産手続や再生手続は,裁判所に納める費用の他,管財人や再生委員が選任される場合はその費用を準備しなければならないため,申立時に数十万円程度必要になる場合もあります。手続費用を準備できそうか否かについては,予め確認しておきましょう。

⑷ 自宅を失いたくないか 

破産手続きの場合,申立時に保有する資産は基本的に換価して弁済に充てなければならないため,持家の場合は自宅を失うことになります。どうしても自宅を手放したくない場合には,破産手続以外の選択肢を考える必要があります。

⑸ 資格制限 

 破産の場合は,一定の職業(弁護士,税理士,宅地建物取引士等)については資格を制限されてしまいます。破産申立てにより仕事を失う可能性もありますので,ご自身の職業に関し,資格制限がないかについては,必ず確認しておきましょう。

⑹ 非免責債権・免責不許可事由

 破産手続を選択される方は,大半免責目当てだと思いますが,借金の種類によっては,破産開始決定後も免責されないものもあります(養育費等の債務や,一部税金等)。ですので,ご自身の借金が,破産によって消えるものかについては必ず確認をする必要があります。  また,そもそも,借金の原因がギャンブルによる浪費等,一定の場合は,免責不許可事由に該当し,そもそも免責が認められない可能性もあります。  そのため,免責不許可事由の有無については必ず確認しておきましょう。

3 まとめ 

 以上の通り,各手続を選択する上では,様々な事項を確認する必要がありますので,ご自身にとって最適な手続を選択するためにも,債務整理を多数取り扱う経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。

2017.05.29

借金を整理するにはどのような手続きがありますか?

世の中には,「返しても返しても借金が減らない。」「借金は整理したいけれど,破産ってなんかイメージ悪いなぁ。」と,多重債務問題に悩まれている方が多数いらっしゃると思います。そこで,今回は,借金を整理する方法としてどのような手続きがあるのかについて,ご説明したいと思います。

1 借金を整理するための4つの手続き

 個人の方が借金を整理する方法としては,大きく分けて①任意整理,②自己破産,③個人再生,④特定調停の4つの方法があります。以下,順に説明します。

⑴ 任意整理について

任意整理とは,裁判所を介さずに,債権者と個別的に交渉して債務額を減額してもらったり,支払いスケジュールを見直してもらって,返済していく手続です。上記①~④の手続きのうち,唯一裁判所を介さない手続きですので,裁判費用もかからず簡易に進めることが可能です。また,債権者ごとに返済額や返済時期を個別に合意できるため,自由度が高く弾力的な解決ができます。
しかし,任意整理は,一種の和解手続きですので,あくまで債権者から「契約通り利息を含めて全額支払ってくれないと困る。弁済期の延期にも一切応じない。」等と言われてしまうと,和解はできず,何も解決できないという弱点があります。

⑵ 自己破産

 自己破産は,裁判所を介した手続きで,原則として,債務者の保有資産全部を換価し,借金の返済に充て,それでも返済できない借金に関しては原則として免除される手続を言います。上記①~④の手続きのうち,唯一「免責」,つまり借金をチャラにしてもらえる可能性がある手続きです。破産手続を申し立てる方は,この免責を獲得するために申立てをすることが通常です。自己破産は,免責という債権者に重大な影響を及ぼす仕組みを制度上認めているため,その分,要件は厳しく,①~④の手続の中で最も厳格な手続きになります。
なお,免責要件を満たしていても,借金の種類によっては消えないものもありますので注意が必要です。また,職種によっては,破産してしまうと資格制限を受け,破産後の仕事に差支えが出るものもありますので,ご注意ください。

⑶ 個人再生

 個人再生手続は,裁判所を介した手続で,債務の一部をカットしてもらい,残額については3年から5年かけて分割支払いしていく手続です。個人再生手続には,㋐小規模個人再生手続と㋑給与所得者等再生手続の2つがあります。
 ㋐小規模個人再生手続とは,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり,かつ住宅ローン等の一定の債務を除いた借金総額が5000万円以下である場合に利用できる手続きになります。また,㋑給与所得者等再生手続は,㋐の要件を満たした上で,さらに,収入について変動が少なく安定しており,弁済原資として可処分所得の2年分以上を充てなければならない等の要件を満たす必要があります。(㋐と㋑の手続の詳細については,別の記事でまたご紹介します。)
 なお,再生手続きは,破産手続と異なり,全財産を換価する必要はないため,家を残すことができますので,「多少の借金は返し続けてもいいから,どうしてもマイホームを残したい」という方がよく利用する制度です。

⑷ 特定調停

 特定調停は,裁判所を介して債権者と債務の減額や返済スケジュール等について話し合いを行う手続です。簡単に言えば,裁判所で行う任意整理手続のようなものです。
 しかし,特定調停は任意整理と異なり,調停が成立すると調停調書というものが作成され,これは確定判決と同一の効力を持つとされています。
 そのため,特定調停で,例えば,今後3年かけて返済していくというスケジュールを立てた場合,返済に滞りが生じると,債権者は調停調書に基づき,債務者の財産について差押えを申し立てることができます。

2 まとめ

 以上の通り,債務整理の方法としては,大きく分けて4つありますが,どの手続きを選択すればいいかについては,各手続のメリットとデメリットを比較しながら,債務者の置かれた状況に照らして検討することになります。なお,各手続のメリットとデメリットは別記事に詳述しますので,そちらをご覧ください。
 債務整理は,放っておくと,利息や遅延損害金が膨れ上がり,いつまで経っても問題は解決しません。早いうちに相談に来ていれば,債務整理の方法としていろいろな手続きをとる余地があったにも関わらず,放っておいたために,破産するしか方法がなくなってしまうケースもあります。また,破産するにも,予納金と言って,裁判所に納める費用が必要ですので,予納金さえ準備できなければ破産さえできません。また,破産申立を弁護士に依頼するのであれば,弁護士費用も必要になって来ます。
 借金問題は逃げても何も解決しない問題ですし,運が悪ければ,闇金業者等の悪質業者に債権が譲渡されてしまい,過酷な取り立てに追われるリスクもあります。
ですので,借金問題にお悩みの方は,早いうちに債務整理について経験豊富な弁護士にご相談されることをお勧めします。
以上

2017.05.28

破産するにも費用がかかる?申立時に残しておくべき金額とは?

破産もタダではできません。破産するには,裁判所に申立てを行い,裁判所で破産相当かの審理を行い,破産を認める場合には,公告手続きをしなければならないため,破産するためには,申立時に一定額の費用を裁判所に納める必要があります。また,破産申立手続は,債務額や資産を調査し,膨大な書類を取り揃えて申立てを行うため,弁護士等の専門家が申立てを代理することが一般的ですが,その場合は裁判所に納める上記費用とは別に,申立費用として弁護士費用も必要となります。そこで,今回は,破産する場合に,どのような費用がどれくらいかかるのかについてお話ししていきます。

1 破産するときにかかる一般的な費用

⑴申立てにかかる弁護士費用

 破産申立てを弁護士に依頼する場合にかかる費用です。弁護士費用については,法律に定めはなく,弁護士ごとに金額設定や支払方法も違います。ですので,詳しくは相談する先の弁護士事務所にご確認いただくことになりますが,破産の弁護士費用としては,個人の場合は着手金として20万~50万円くらい,報酬金についてはとらないところも多いようです。また,事業主や法人破産の場合は,事業規模によりますが50万円~数百万円必要とするところが多いようです。

⑵裁判所に納める費用(予納金)

裁判所に納める費用がいくらかかるかについては,各裁判所によって違いますので,以下では,某裁判所の運用基準をご紹介致します。なお,正確な金額については,各裁判所や弁護士に直接お問い合わせください。
①印紙代 1500円
申立時に申立書に貼る収入印紙です。
②郵便切手代 4000円程度
 各裁判所によって変わります。また,破産開始決定の通知等を債権者に郵送する必要があるため,債権者の人数によっても金額は異なってきます。
 目安としては,債権者数×82円+α円となります。
③官報公告費
 破産開始決定の事実を官報に掲載する費用となります。これは,管財事件か同時廃止事件かによっても異なりますし,管財事件の場合も法人か個人かでも異なってきますが,だいたい1万円強くらいかかります。
④管財費用
 管財事件になった場合は,管財人となる弁護士(※申立手続を依頼する弁護士とは別の弁護士です)に支払う報酬が必要になります。この管財費用がどのくらいかかるかについては,法律で決まりはなく,各裁判所によって運用基準が異なりますし,事案の複雑さ等に応じて金額も増減します。
 某裁判所では,以下のような基準を採っています。
・債権者数が50人未満 基準額20万円
・債権者数が50人以上200人未満 基準額50万円
・債権者数が200人以上 基準額150万円
※なお,上記はあくまで目安であり,事案の複雑さに応じて増額されます。

2 費用が準備できない場合は?

以上の通り,破産するにも諸々の費用がかかりますが,予納金が準備できない場合,申立て自体が却下されてしまいます。つまり,予納金が貯まるまで事実上破産はできないため,予納金相当額は最低限残しておく必要があります。この点は,なるべく早期に弁護士に相談に行くことで解決できる場合が多いようです。例えば,現時点では弁護士費用や予納金が手元にないものの,ある財産を処分すれば資金が捻出できる,債権者への支払いをストップすれば資金を貯めることができるというケースが多いです。そのため,早期に弁護士に相談し,資金計画を含めて手続を進めて行きましょう。
なお,弁護士費用の準備が困難な方については,日本司法支援センター(通称法テラス)という弁護士費用の立替支援を行っている国の機関がありますので,法テラスが利用できる場合には,申立にかかる弁護士費用や実費については,法テラスが立て替えをしてくれます。あくまで立て替えですので,最終的にはご自身で負担することになりますが,通常は一括払いが要求される弁護士費用を,法テラスを利用すれば月々5000円~1万円の範囲での分割払いが可能となり,生活保護受給者の場合は,分割払いまで免除される場合もあります。ですので,お困りの方は一度法テラスを検討されることもいいでしょう。

3 まとめ

 以上の通り,破産するにも費用がかかります。破産のご相談に来られる方の中には,ギリギリまで頑張り続け,資金も底をついて相談に来られる方がいますが,そのような場合,予納金や弁護士費用が準備できず,すぐに申立てができないケースもあります。
 また,申立て費用を捻出するためにお金を金融機関から借りてくる方もいますが,破産申立て直前に第三者からお金を借りる行為は,免責不許可事由に該当する可能性が高く,不用意に行うことは禁物です。
 そのため,破産をお考えの方は,まずは早いうちに一度弁護士に相談して,破産すべきかどうかだけでなく,費用をどのように捻出するか,申立の時期をいつにするか等を含めて相談をされるのがいいでしょう。
 

2017.05.01

【交通事故】交通事故の治療から治療費等の支払いまでの流れ

交通事故に遭ってしまった場合、幸運にも怪我をしなければいいのですが、必ずしも無傷で済む訳ではありません。たとえ軽い衝撃だと思っていても、次第に痛み出すということもあります。このように交通事故と怪我は切っても切り離せない関係にあります。
このように怪我が問題になるということは当然その治療も問題になってきます。交通事故での治療は保険とも密接に関係してきますので、治療から治療費等の支払いまでの流れを勉強しておきましょう。

1 交通事故後の治療の流れ

(1) 交通事故に遭ったら病院に行こう!

先程も申しましたように、交通事故にあった直後は、軽い衝撃しか感じておらず痛みを感じないことも少なくありませんが、後々、かなりの痛みやそれに伴う支障が出てくることもよくあります。
このようなおそれもあるため、交通事故に遭ったらすぐに病院に行くようにしましょう。もし受診が遅くなってしまうと、後遺症が残りやすくなるだけではなく、治療費の支払との関係でも問題になってしまうかもしれません。

すなわち、交通事故から時間が経過して病院に行った場合、その怪我が本当に交通事故による怪我なのか断定することが出来なくなってしまうことがあるのです。このように交通事故による怪我か分からないような場合ですと、交通事故による怪我ではないとして、保険会社による支払いを受けることが出来なくなってしまうおそれがあるのです。

念のため、一度、病院に行くようにしましょう。
なお、最初から病院ではなく、整骨院に行く人もいらっしゃいますが、認められない場合もありますので、まずは病院(整形外科等)に行くようにしましょう。(整骨院は医師がいるわけではないので、「通院」と認められないことがあります。)

(2) 治療費について

病院に行くとどうしても治療費がかかってきます。交通事故による怪我のための治療費は、健康保険が使えないことはほとんどありませんのでご安心ください。むしろ保険診療が可能なのに健康保険を使用しないことで加害者との示談でもめてしまうこともありますので、特別な理由がない限り、健康保険を使うようにしましょう。

そして、その際の治療費については、①被害者が一旦自分で立て替えて支払い、後日加害者の保険会社に請求する場合と、②被害者は治療費を支払わず、加害者の保険会社が直接病院に支払ってくれる場合(「一括払いの対応」と言われています。)があります。
なお、一括払いの対応は、あくまでサービスとして行われているものなので、一括払いの対応がなされるかどうかは、怪我の程度や治療期間によって変わります。

(3)治療期間について

交通事故の怪我の治療をいつまで続けるべきなのかは、怪我の部位・程度によって個別に変わってくるものであり、実際に治療をしてくれている医師の判断によることになります。ただ、例えば交通事故の相談で一番多い「むち打ち症」では一般に3~6か月程度で治癒することが多いと言われており、ある程度治療が長期化すると、保険会社の担当者から「そろそろ治療を打ち切って後遺障害診断書をとってください」と言われます。

このように言われたとしても、もう病院に行けないと言うことではなく、医師と相談して治療を続けるべきか決めてください。注意してほしいのは、ここで保険会社の言うとおりに後遺障害診断書をとってしまうと、原則としてそこに記載されている「症状固定」日以降の治療費は支払われないということです。もしまだ痛みが残っているのであれば、安易に後遺障害診断書をとらないようにしましょう。

先程「症状固定」というあまり聞きなれない言葉が出てきましたね。それでは、この「症状固定」についてお話ししていきたいと思います。

2 症状固定したらどうすればいいの?-後遺障害等級の流れ

(1) 症状固定ってなあに?

まず、「症状固定」とは医学的な用語ではありません。医師の世界では「治ったか、治っていないか」が問題になりますが、「症状固定」は損害賠償との関係で「これ以上は医学的に治らないが、治らないことを損害として評価して決着をつける」ための概念になります。そのため、この「治らないことを損害として評価できる」時点を症状固定時期と言います。要するに、これ以上治療を継続しても改善しない時点です。

(2) 後遺障害等級認定の流れ

「治らないことを損害として評価できる」時点、すなわち症状固定にあると医師が診断したら、その時点で被害者の体に残っている損害について、交通事故による後遺障害として認められるものかどうか、第三者機関に審査してもらうことになります。この審査を、後遺障害等級認定といいます。

後遺障害等級認定の申請方法には、被害者自ら行う被害者請求と、任意一括払いをしている場合に加害者の加入する任意保険会社が行う事前認定があります。事前認定では、保険会社が代わりに行ってくれますので、以下では被害者請求の方法について詳述します。

ア まずは後遺障害診断書の作成

後遺障害等級認定の手続きを行うには、まず、医師に後遺障害診断書を作成してもらうことになります。先程も申しましたように、後遺障害診断書の作成にあたってはしっかり医師と相談するようにして下さい。

イ 診療報酬明細書など必要書類の収集

この「後遺障害診断書」に加えて、これまで受けてきた治療に関する資料(診療報酬明細書や診断書)、交通事故の状況に関する資料(交通事故証明書や事故発生状況報告書)、請求者の印鑑証明書など審査資料として必要な書類を集めます。
ここで上手く書類を集めることが出来れば、事前認定の場合よりもよい後遺障害等級認定を受けることも出来ます。保険会社は被害者に対して悪意を持って、不当な申請手続をしている訳ではありませんが、被害者自身が納得できるほど一生懸命な対応をしてくれていない可能性はあります。

ウ 自賠責調査事務所による審査

上で集めた必要書類を、加害者の自賠責保険に直接提出することによって、後遺障害等級認定を受けることが出来ます。審査にかかる時間は、怪我の程度によって変わりますが、通常、1~2か月で結果の通知がなされることが多いです。

3 いよいよ保険会社との示談交渉!

後遺障害等級認定の結果の通知が来たら、その結果に基づいて、加害者の保険会社と示談交渉を始めることになります。
しかし、加害者の加入する保険会社が、被害者側から請求した金額をすんなり支払ってくれることは多くありません。
慰謝料の金額、過失割合などがよく問題になります。慰謝料は、精神的な苦痛を填補するためのものですから、具体的にいくらであると客観的に明確ではありません。また、過失割合は、被害者と加害者の言い分が食い違っている場合等に、被害者にどの程度過失があったかが問題になります。

このように損害額や過失割合等について加害者の加入する保険会社との間で交渉を進め、双方が合意できれば、示談成立となり、加害者の加入する保険会社から賠償金を支払ってもらうことになります。

示談書(承諾書、免責証書など名称が違うこともあります。)が提示されたらサインをする前に、一度、弁護士にご相談下さい。治療期間、治療日数、休業日数や収入額などから、賠償額が適正な金額であるか、提示された金額で示談すべきかなど妥当かを判断してもらいましょう。
一般的に、弁護士が介入していない場合、弁護士が介入することで通院慰謝料が増額されることが多いです。

4 保険会社と示談できなければ裁判になる

加害者の加入する保険会社との間で示談交渉を続けても、どうしてもお互いの言い分が食い違い、残念ながら示談がまとまらないこともあります。
そのような場合、財団法人交通事故紛争処理センターなどを利用したり、裁判所で加害者本人を相手方として、調停や訴訟をすることになります。

5 まとめ

今まで見てきましたように交通事故から治療の終了、解決までかなりの期間がかかってしまうことになります。
ご相談を受けていての感覚ですが、ほとんどの方が弁護士に相談されるのは保険会社との示談の段階になって希望した金額がもらえないことが判明してからになります。
弁護士に相談して頂ければ、この時点からでも増額交渉が可能ではありますが、この段階では集められる証拠も限られてしまっており、もっと早期に相談してくれていれば「もっと増額できたのに…!」と思うことも少なくありません。
ですので、保険会社の対応に不満を少しでもお持ちでしたらすぐに弁護士に相談するようにしましょう。

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