弁護士コラム

2018.01.27

否認ってなぁに?

【Aさんの相談】

2年程前から会社の経営が傾き始め,今では負債が多額に上り,多数の債権者から督促を受けている状況です。最近では,弊社の信用悪化が噂になり,多数の債権者から取り立ての電話が激しくなり,一部の大口債権者からは,私の自宅を担保にいれるよう強く求められています。いずれ破産により自宅は手放すことになるので,取り立てを免れるために担保提供しようかと考えています。しかし,先日,破産を経験した知人から,「そのようなことをしてしまうと破産した時に否認され,後々面倒なことになるよ。」と忠告を受けました。破産手続きにおける否認とはどのような制度なのでしょうか。

1 否認とは?

否認とは,経済状況が悪化した状況下で行われた一定の取引について,その行為を取消し,逸失した破産者の財産を取り戻す制度です。破産状況下では,債務者の限られた財産を巡って債権者間の利害が対立するため,一部の強引な債権者が債務者に言い寄って,自分のみに弁済を強要したり,担保を提供させたり,適正価格よりも低い価格で売買をして債権を回収するなどの行為に出ることがあります。
そこで,破産法は,破産手続開始後は,破産者の財産処分権を管財人に移してそのような行為を防止し,破産手続開始前に行なわれた行為については,管財人に否認権という権利を認め,事後的に管財人が取り消すことができるという仕組みをとっています

2 否認請求の相手方は誰?

否認請求の相手方は,破産者との間で否認対象行為を行った相手方(受益者)と,受益者からの転得者です。但し,受益者と転得者は,原則として当該取引時に否認の原因があったこと,すなわち,破産者が破産状態にあり,そのような行為をすれば他の債権者を害することになることについて知っていることが必要です。なお,例外的に,否認対象行為が贈与等の無償行為やこれと同視されるような著しく廉価な有償行為等であれば,当該行為自体が破産者の財産を害する結果を招く危険が高いことが明白であるため,受益者や転得者の主観的要件は不要となります。

たとえば,X(破産者)がY(受益者)に対し,高級車を贈与し,Yが,Z(転得者)に当該高級車を売買していたとします。ここで,各取引時に,YもZもXが破産状態であることを知っていた場合には,Xの破産管財人は,YとZに対し,各行為を否認することができます。仮に,YはXの破産状態を知っていたものの,Zは知らなかった場合は,Yに対してのみ否認することがきでます。この場合,XY間の贈与契約のみが取り消されるため,YZ間の売買契約は有効のままとなります。

3 否認されるとどうなるの?

否認されると,破産者とその相手方との間で行われた行為が取り消されることになるため,契約当事者は,契約前の状況に戻す必要があります。そのため,2で上述した事案では,Yは破産管財人に対し,高級車が手元にない以上,高級車を戻すことはできませんが,価値代替物としてZに売買した際の売買代金を取得していますので,当該売買代金を破産管財人に返還しなければなりません。また,Zに対しては,高級車がZのもとにある状態であれば,高級車を返還しなければならず,既に転売して存在しない場合には,転売代金を返還することになります。

なお,否認対象行為の取引時に,受益者も破産者から何らかの反対給付を受けている場合には,受益者は破産者に対してその返還を求めることができます。例えば,前述の高級車の事案について,XY間の取引が贈与ではなく,廉価売買だった場合で,XY間の廉価売買が否認された場合,Yは管財人に対して取得した高級車又はその価値代替物を返還しなければなりませんが,同時にYは破産者に対し,廉価売買時に支払った売買代金について返還請求をする権利を有します。

4 期間制限

否認権は,破産手続開始の日から2年を経過した場合又は否認対象行為が行われた日から20年経過した場合は,時効により消滅します。否認権の行使がいつまでも認められると,受益者や転得者の利益を害するため,否認権の行使可能時期については制限が設けられています。

5 まとめ

 以上の通り,破産法では否認という制度を設け,破産者の財産逸失行為について厳格な規制をしています。否認は,既に終わった取引を事後的に取り消す結果となるため,取り消される側の債権者にも多大な迷惑をかける形になります。また,破産者自身も免責不許可事由に該当する可能性があります。
 破産手続がまだ正式に開始していないからと言って,債権者に言い寄られて不当な財産処分をしてしまうと,後々免責不許可になったり,債権者に迷惑をかける結果となりかねませんので,債権者から言い寄られた場合には,後々否認されてしまうからという理由を説明して毅然とした態度で断ることが重要です。しかし,これらの対応は,返済が滞っている債務者の立場で行うことは難しいことがほとんどですので,早期に弁護士に相談し,適切な対応をしてもらいましょう。

2018.01.26

破産手続で免責不許可事由があっても破産できる?

破産手続で免責不許可事由があっても破産できる?

1 裁量免責制度

個人破産の場合、免責目的で申立てをすることがほとんどだと思いますが、免責不許可事由に該当する場合、申立てを諦めるしかないのでしょうか。
破産法では、様々な免責不許可事由を規定していますが(免責不許可事由の詳細は別記事に記載しているためそちらをご覧ください。)、あわせて裁量免責制度を設けており、免責不許可事由に該当しても裁判所の裁量により免責される余地を残しています。
それでは、どのような場合に裁量免責が認められるのでしょうか。破産法では、裁量免責をする場合の要件として、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」と規定しています。つまり、破産に至った一切の経緯を総合考慮するということですが、具体的にはどのような事情を考慮して決定しているのか、今回は裁判例をご紹介しながらみていきたいと思います。

2 過去の裁判例

<裁量免責が認められた事案>

【事案①】
破産者は、自宅購入費として3500万円全額を借入れた結果、収入の約半分を自宅取得に関する借金返済に充てざるを得ないことになり、破産を申し立てた事案です。
 裁判所は、購入当初から破産者夫婦の収入に照らして返済不能であることが容易に予想できたにもかかわらず、安易に高額な自宅を購入した行為について、免責不許可事由である「浪費」に該当すると判断しましたが、以下の事情を考慮して裁量免責としました。
*考慮された事情
・自宅の取得という目的は、それ自体正当なものであること
・金銭を費消した場合とは異なり、その時点では借入金に相当する資産(不動産)を保有するのであるから、自宅取得を一概に非難することはできないこと
・破産者の債務額が増大したのは、自宅維持のためであって汲むべき事情があること
・自宅の売却代金が一般債権者への返済に全く充てることができなかったのは、バブル経済崩壊という通常人が予想しえない事情により、自宅取得額よりも相当安価でしか任意売却ができなかったことによるものであること
・免責に対して異議申し立てをした債権者がいなかったこと
・生命保険解約金100万円を原資に任意配当を行い一応の誠意を示していること、
・破産者は交通事故の負傷により廃業せざるを得ず、高齢で健康状態もよくないこと、
・破産者は反省して更生の意欲を示していること
など

 

【事案②】
破産者(プロ野球選手)は、契約金1800万円と年俸440万円の収入がありましたが、そのほとんどは父親の債務弁済に充てられており、別途自己の債務として総額1437万円の負債があったため、破産申立てをした事案です。債務総額1437万円のうち、1069万円は4台の自動車を買い替えたことによる出費に基づく債務であったため、裁判所は、自動車の買替えは「浪費」に該当すると認定しましたが、以下の事情を考慮して裁量免責を認めました。
*考慮された事情
・破産者の債務状況が悪化したのは上記浪費の他、父親の債務弁済を強いられたり、退団を余儀なくされたことにも起因しており、一概に破産者ばかりを非難できないこと
・免責に対して異議申し立てをした債権者がいないこと
・破産者が若年で更生の見込みがあること
など

 

【事案③】
 破産者(銀行員)は、株式投資に失敗し、その損失補填のために3000万円以上を借り入れてさらに株式投資をしましたが失敗したため、破産を申し立てた事案です。
 裁判所は、当初の投資失敗の損失補填について、再度の投資ではなく銀行員としての収入に照らして堅実な返済を行うべきであって、投資のための借入れは「浪費」に該当すると認定した上、以下の事情を考慮して裁量免責を認めました。
*考慮された事情
・投資に走った当時、バブル経済の渦中にあり無理からぬ面があること
・投資が行き詰ったのは株の暴落が直接の原因であり、破産者のみを責められないこと、
・破産者は債務の弁済のために自宅を売却し、退職金も弁済に充てる等、誠実に返済の努力をしていること
・破産者は親戚等からの経済的援助を見込めない上、重度の身体障害者である母を扶養せざるを得ない立場にあること
など

 

<裁量免責が認められなかった事例>

【事案④】
ギャンブルや高額な飲食を原因とする借財で破産に至ったケース。
⇒免責不許可事由である「著しい射倖行為及び浪費」と認定した上、債務総額や、借りた後に返済の努力をしていないこと、無職であるにもかかわらず短期間で借り入れを重ねて多額の借財を負っている経緯を考慮し、裁量免責も否定しました。

3 小括

 以上のとおり、上記の裁判例に照らすと、裁量免責の際は以下の事情が判断要素とされているようです。
・債務を負担するに至った経緯
・返済できなくなった経緯
・借財時に返済不能の見通しを立てることができたかどうか
・免責について債権者が異議を述べているか
・総負債額
・返済の努力の有無・誠実性
・破産者の現在の生活状況、健康状況
・破産者の更生意欲・更生可能性
など

4 結語

 以上の通り、免責不許可事由に該当しても、破産に至った経緯につき、破産者のみを非難することが相当でない場合や、破産者の経済的更生の可能性や必要性等を総合考慮して裁量免責が認められています。結局は、破産免責という制度が誠実な債務者に対する経済的更生を保障する制度ですので、当該免責制度の趣旨に合致するのであれば、免責が認められます。
そのため、免責不許可事由に該当する方でも、すぐに諦めずに、破産の実務経験が豊富な弁護士に一度相談の上、手続の見通しを立てることをお勧めします。

2018.01.25

破産手続で否認される偏頗弁済ってなぁに?

【Aさんの相談】

私は現在破産を考えていますが,債権者の中にとてもお世話になった人がおり,その方から借りている100万円については何としてでも返済したいと思っています。しかし,弁護士さんに相談したところ,破産する場合は,一部の債権者のみに債務を返済することは「偏頗弁済」にあたり,免責不許可事由にあたるからその人のみに返済することはできないと言われました。しかし,その債権者の方は,私の祖父の代から,代々お世話になった方であり,その方へ不義理をするくらいであれば,破産はできないと考えています。この場合,何か方法はありませんか。

1 偏頗弁済ってなぁに?

偏頗弁済とは,偏った弁済,すなわち,一部の債権者に対してのみ,債務を弁済することを言います。破産手続は,破産手続開始決定時に残された財産を換価し,全ての債権者に債権額に応じて平等に配当する手続ですので,偏頗弁済が行われると,抜け駆け的な弁済になり,他の債権者との公平性を害するため,破産法は偏頗弁済に関する規制を設け,偏頗弁済を行った場合は,事後的に否認(=取り消す)ことができるとし,併せて,偏頗弁済を免責不許可事由として定めています。
なお,偏頗弁済が禁止されるのは,債権者間の公平性を害するという趣旨ですので,破産法は,返済行為に限らず,一部の債権者にのみ債務を負担したり,担保を提供する行為等も同様に規制しています。(以下,一部の債権者への返済,債務負担,担保提供,債務消滅行為等を併せて「偏頗行為」といいます。)

2 否認の対象になる偏頗行為とは?

 偏頗行為が破産法上規制されているのは上述の通りですが,否認や免責不許可の対象となる偏頗行為の具体的要件について,以下見ていくことにします。対象となる行為類型は,大きく分けて,(1)(2)の2種類あります。

【要件】

(1)支払不能または破産手続申立て後にされた偏頗行為
*「支払不能」とは,債務者の経済状況悪化により,弁済期にある債務を,一般的かつ継続的に弁済することができない状態を言い,破産手続開始の要件となっています。
破産法が偏頗行為を規制する趣旨は,破産状態に至った後の抜けがけ的弁済による債権者間の不平等を防止する点にあるので,破産法上規制される偏頗行為は,支払不能等の債務状況悪化後のものとされています。
* 対象行為:担保供与や債務消滅行為が「既存の債務」に対してなされたものであること
⇒ 「既存の債務」に対してなされたという意味は,裏を返せば,同時交換的に行った担保供与は規制の対象にならないということです。例えば,既存の借金が返せなくなり,債権者から担保の差入れを要求されたため,後日自宅に抵当権を設定したという場合は,「既存の債務」に対してなされた担保供与として否認の対象となります。他方で,新規の融資をしてもらうために担保の設定をする行為は,担保設定と同時交換的に融資を受ける形になるため,「既存の債務」に対してなされたものに該当せず,否認の対象にはなりません。
* 債権者側の主観:偏頗行為を受けた債権者側が,債務者の支払不能状態について知っていたこと
⇒ 偏頗行為が否認されると,既に受けた弁済や担保供与の効力は事後的に否定されることになるため,債権者の利益を害することになり,その後の法律関係も不安定になります。そのため,債権者保護の見地から,否認対象となる行為については,債権者側も,偏頗行為を受けた時点で,債務者の破産状態を知っていたことが要件とされています。
 (2)支払不能前30日以内になされた非義務行為
  ⇒ 非義務行為とは,義務なく行う行為,すなわち,義務がないにもかかわらず,担保を設定したり,本来の支払期日を前倒しして返済したり(期限前弁済),本来の返済方法とは異なる方法で返済したり(代物弁済)するとことを言います。
    (1)に記載した偏頗行為は,義務に基づく行為である点で(2)と異なります。非義務行為の場合は,支払不能直前に行なわれたものも否認の対象となります。

3 破産手続終了後に借金を返済するのはOK?

 以上の通り,破産手続をする場合,偏頗行為は禁止されます。それでは,お世話になった方からの借金を返済する手段はないのでしょうか。
 破産により免責許可決定が出ると,債務を返済する義務は免れますが,破産手続終了後に,新たに得た収入から任意に債務相当額を弁済することは認められています。しかし,手続終了後の任意弁済が自由となると,債権者が破産者に対して,手続終了後に「任意弁済」という名目の下,債務返済を強要し,結局は弱い立場の債務者は断れずに弁済する羽目になり,経済的更生を図れなくなってしまうことが目に見えています。

そのため,実務上は,手続終了後の任意弁済に関しては,債務者が自由意思に基づいて任意に弁済したかどうかについて極めて厳格に判断され,少しでも強制の要素がある場合は無効となります。
 よって,本件のAさんも,お世話になった債権者に対して,破産手続終了後に,自由意思に基づいて任意弁済をすることは禁じられていないので,そのような形でAさんの要望は叶えることができます。

4 まとめ

 以上の通り,破産法では,偏頗行為が規制されており,偏頗行為を行うと事後的に否認されたり,そもそも免責許可を受けられなくなってしまう可能性がありますので,破産手続を検討されている場合は,どのような行為が偏頗行為にあたるのか,きちんと認識し,不安な方は弁護士に相談しましょう。
 なお,破産する上で偏頗行為は規制されますが,破産手続終了後に自身の自由財産から返済することは可能ですので,お世話になった人への債務が消えてしまうことを気にかけて破産を躊躇されている方は,お世話になった人にその旨説明をした上で,破産手続に移行しましょう。

2018.01.24

破産手続でいう免責制度ってなあに?

1 免責制度とは

免責制度とは,債務者の経済的更生を支援するために,債務の返済責任を免除する制度です。破産手続を通じて配当を行ってもなお債務が残る場合,その債務を返済しなければならないとなると,破産手続後も債務の返済に追われ,債務者の経済的自立が妨げられてしまいます。そこで,破産法は,破産手続終了後になお残った債務については,一定の場合を除き,原則として免責することを認めています。なお,免責制度があるのは個人の債務者のみです。法人の場合は,破産手続の終結により法人格を失うため,免責による経済的更生を認める必要がないからです。
一般的に,自己破産すると借金が消えるというイメージだと思います。これは,破産手続きによって消える訳ではなく,免責されて消えるので,この点を十分に理解されておいてください。

2 申立て手続

 免責手続は,破産手続とは別の手続であるため,別途免責を求める申立てをする必要があります。ただ,個人破産の場合は免責獲得目的で破産をする場合がほとんどなので,現行の制度では,個人破産の場合は,破産申立てと同時に免責申立てがなされたものとみなすという運用をしています(申立書の雛形に免責申立ての記載があり,印紙代も免責申立分を含んだ金額である1500円を納めるのが通常です)。ですので,債務者が免責されることを潔しとせず,反対の意思を有している時は,免責申立てをしないことを破産手続申立て時に表示する必要があります。なお,免責申立ては,破産手続申立てと同時ではなく,追って申立てをすることも可能ですが,破産手続開始決定が確定してから1か月を経過する日までの間に申立てをする必要があります。

3 免責不許可事由とその調査

 免責により,債務者の経済的更生が図られる一方,債権者の財産権は大きく害されることになるため,免責は,全ての債務者に認められるわけではなく,誠実な債務者にのみ認められます。そこで,破産法は,一定の場合を免責不許可事由として定め,破産管財人は,免責を求める債務者に,免責不許可事由に該当する事情がないかについて調査を行い,その調査結果に基づき裁判所が免責決定を出すかどうかを判断します。なお,同時廃止事件の場合は,管財人の選任はないため,免責不許可事由の判断は,事実上本人が申述した内容に基づいて裁判所が判断することになります。
個々の免責不許可事由としてどのようなものがあるかについては,別の記事で詳述しますが,仮に免責不許可事由に該当しても,裁量免責という制度があり,裁判所の裁量で免責が認められることもあります。
もちろん,免責不許可事由があれば形式的には免責されない可能性がありますが,裁判所もそれほど形式的ではありません。免責させなくては経済的に立ち直れない人に対して,免責不許可事由があるからといって免責させなければ,その人は立ち直ることができないまま放り出されてしまいます。そのため,余程悪質なケースでなくては,裁判所は裁量免責で免責を認めてくれるケースが多い印象です。

4 免責債権と非免責債権

免責許可決定を受けると,全ての債務が消えると思っている人もいますが,免責によって消える債務と消えない債務があるので注意が必要です。
免責許可決定を受けても消えない債務を,非免責債権と呼びますが,破産法では,以下の債務を非免責債権として規定しています。

①租税債務の一部

破産手続開始前の原因に基づいて発生した租税債務のうち,破産手続開始当時に①納期限が未到来のものと,②納期限が一年以内のものについては,免責許可を受けても消えません。

②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務

 不法行為に基づく損害賠償債務のうち債務者の単なる故意(損害の発生について認識していた場合)に基づくものではなく,積極的な害意をもって行った不法行為に基づく損害賠償債務は免責許可を受けても消えません。このような債務が破産免責によって消えてしまうと,社会の法秩序は成り立ちません。

③故意又は重過失による不法行為のうち,他人の生命又は身体を害する不法行為に基づく不法行為に基づく損害賠償債務のうち,故意又は重過失(故意に匹敵するような重い過失)により生じたもので,それが相手の生命・身体という重大な権利を害している場合には,損害賠償債務は消えません。

④親族の扶養義務等
 婚姻費用分担義務や養育費支払義務等,親族間の扶養義務に基づく債務は消えません。

⑤労働債権等
個人使用者に雇われている使用人の賃金請求権や退職金の請求権等の労働債権は消えません。また,使用人からお金を預かっていた場合は,使用人に対する預り金返還債務も消えません。

⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債務
 破産者が債務があることを知りながら裁判所に申述しなかった債務については,債権者が免責に対して意見を申述する機会が事実上奪われてしまうため,債権者保護の権利から原則として消えません。但し,債権者が破産手続開始決定を知っていた場合は,債権者に申述機会があるため,この場合は非免責債権には当たりません。

⑦罰金等の債務
 罰金,加療,刑事訴訟費用追徴金及び過料等は消えません。

5 保証人等に対する免責の効果

  免責許可の決定は,破産者に対してのみ及びます。そのため,債権者は,破産者の保証人や連帯債務者,物上保証人等に対して従前通り請求できます。

6 まとめ

  以上の通り,破産法は,免責制度を設け,債務者の経済的更生を支援しています。破産でお悩みの方の中には,「破産して債務を消すなんてお世話になっている債権者に申し訳ない。」と言って,破産手続の利用を躊躇される方もいますが,上記の通り,免責は誠実な債務者のみに法が認めた制度であり,免責されるかどうかについては裁判所による審査の上で決定される事柄ですので,何ら躊躇する必要はありません。どうしても免責を避けたいのであれば,免責の申立てを希望しない形で申立てることも可能です。
  また,免責を希望して破産をお考えの方については,それが本当に消える債務なのかどうかについてはしっかりとした確認が必要です。債務のほとんどが税金等の非免責債権の場合は,免責されず,破産申立てをする意味がありません。
  破産による免責についてお悩みの方は,一度破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

2017.11.08

小規模個人再生手続とは?

小規模個人再生手続とは?

【Aさんの相談】
借金を繰り返した結果、現在負債額が約500万円に膨れ上がり、毎月10万近く弁済に充てていますが元本は一向に減りません。各債権者と交渉して任意整理を進めていましたが、全く応じてくれない債権者がいて行き詰まっています。毎月給与は安定して入っているため、長期間の弁済猶予をもらえれば返済できるのではないか考えているのですが、もう破産するしかないのでしょうか。破産以外で何か債務整理の方法があれば教えて下さい。

 借金で苦しんでいるものの、色々な事情で「破産だけは避けたい」と考えられる方は多いと思います。無収入で返済の見込みが全く立たなければ破産を検討せざるを得ないでしょうが、Aさんのように安定した収入がある方には、その他の債務整理の方法である個人再生手続について検討する余地があります。そこで今回は、当該手続について福岡の弁護士がご説明していきます。

1 小規模個人再生手続とは?

 小規模個人再生手続とは、将来において反復継続的に収入の見込みがある場合に、今後の収入を原資に3~5年以内での返済計画を立て、裁判所が許可した返済計画に基づき弁済を継続すれば、残りの債務は減免されるという手続です。破産と異なり免責の制度はないため、負債がゼロになることはありませんが、原則として最低弁済額の返済ができれば残りの債務は免除されるため、大幅な債務の圧縮(元本カット)が可能となります。また、裁判所を通じた法的手続であるため、任意整理の場合と異なり、返済計画に反対する債権者がいても、再生計画が適法に可決・認可されれば、反対債権者も強制的に返済計画に組み込まれることになります。
 以上の通り、個人再生手続きは、任意整理や破産にはない大きなメリットがある制度といえます。

2 要件は?

 個人再生手続を利用する場合は、①債務総額が5000万円以下であること、②債務者は個人であり、将来において反復継続的に収入を得る見込みがあることの2つの要件が必要になります。なお、①の債務総額5000万円には、住宅ローンの負債や抵当債務等の被担保債権額は含まれません。
 また、②については、収入が安定していれば問題がないため、年金や生活保護でも問題ありません。また、パートやアルバイトでも問題ありません。
 なお、再生手続は、破産する前段階の手続ですので、破産のおそれがあるか又は事業の継続に著しい支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済できない状態にあるということは手制度利用の前提となります。

3 支払総額はどのくらいになるの?

 個人再生手続を利用した場合、大幅な債務の圧縮が可能ですが、最低弁済基準額は以下の通り決まっています。

債務総額 最低弁済額
3000万円超~5000万円いか 債務総額の10分の1以上の額
3000万円以下

①債務総額の5分の1

or

②100万円(※①or②のいずれか多い額の方)

 たとえば600万円の負債がある人は、最低弁済額は120万円となりますので、120万円を3年以内で返済する計画を立てる形になります。

4 再生計画の認可・遂行

 再生手続によって債務の減免を実現させるためには、再生計画案を裁判所に提出し、債権者に可決され、裁判所の認可を受ける必要があります。
 再生計画案が可決される要件としては、①議決権者の頭数による過半数の賛成と②議決権総額の2分の1以上の議決権を有する債権者の賛成の2要件を満たす必要があります。
 たとえば、債権者がA,B,C,Dの4人おり、それぞれ、100万、100万、100万、400万円の債権を有しているとします。ここで、誰か2人が再生計画案に反対すると、過半数の賛成が得られないため、再生計画案は否決となります。
 また、A,B、Cは賛成しても、Dが反対している場合は、議決権総額(今回だと700万)の2分の1以上を有する債権者の反対があることになり、この場合も否決となります。
 なお、再生計画が可決され、認可が下りると、再生計画案通りに権利変更が生じ、債務者は再生計画通りに分割弁済を遂行すれば、残りの債務は免除となります。しかし、弁済が滞ったりすると、再生計画の認可が取り消されてしまいますので、返済計画については必ず実現できる内容で組み立てる必要があります。

5 再生計画の終了

 小規模個人再生手続は、再生計画の認可の決定が確定すると、その時点で手続は当然に終結します。

6 最後に

 再生手続は、任意整理手続と比べると、元本カットが受けられる点で債務の大幅な減免が可能となり、メリットの大きい制度です。しかし一方で、一度決まった再生計画については、数年間かけて責任をもって履行しなければならないため、確実に弁済できる計画を立てる必要があります。再生手続を利用される方の中には、途中で返済計画通りに返済ができなくなり、最終的に破産手続に移行される方も少なくありません。また、再生手続で申立てを行ったけれども、再生計画の認可が下りず、途中で破産手続に移行するケースもあります。その場合は、手続が二度手間になり、余計な費用もかかってしまうため、手続き選択をする上では、破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

2017.11.07

貸金返還請求訴訟中に相手方が破産した場合,現在進行中の裁判はどうなるのでしょうか?

貸金返還請求訴訟中に相手方が破産した場合,現在進行中の裁判はどうなるのでしょうか?

【Aさん】
私は,Bさんに100万円を貸していましたが,一向に返済してくれないため,先日貸金返還請求訴訟を提起しました。Bさんは,裁判において,「100万円は贈与だから返す必要はない金だ。」と主張して貸金の存在を争っています。契約書はなく,次回が証人尋問予定となっていましたが,本日,Bさんの弁護士から,Bさんが破産する予定である旨の連絡がありました。訴訟係属中に相手方が破産した場合,現在進行中の裁判はどうなるのでしょうか。

今回は,訴訟係属中に相手方が破産した場合,裁判はどうなるのかについて福岡の弁護士がご説明していきたいと思います。

1 相手方破産で係属中の訴訟は中断する?

相手方が裁判の途中で破産した場合,裁判の内容によっては進行が中断します。破産手続が開始されると,平時の場合と異なり,多数の債権者が破産者の限られた財産を奪い合う事態となりますので,破産法は,全債権者に対する平等弁済の要請から,破産手続き開始決定と同時に債権者の個別的な権利行使を禁止しています。その結果,破産者に対して裁判を通じて支払いを請求している場合には,裁判手続が中断することになります。
以上の通り,裁判手続が中断する理由は,全債権者に対する平等弁済の趣旨ですから,全ての裁判が中断するわけではなく,配当の対象となりうる破産者の財産に関わる訴訟(これを,「破産財団に関する訴訟」と言います。)のみが中断します。
そのため,破産財団に関する訴訟とは無関係な訴訟,例えば,親子関係不存在確認訴訟等の身分関係訴訟や,刑事事件などについては中断しません。なお,離婚訴訟については,離婚請求のみの場合は純粋な身分関係訴訟ですので中断しませんが,財産分与や慰謝料請求を伴う場合には,その部分については「破産財団に関する訴訟」にあたりますので中断することになります。

2 中断した裁判はどうなるの?

①係争中の請求権が破産債権の場合

 通常の民事訴訟では,裁判の中で,契約書等の書証を提出したり,尋問で契約時の状況を証言する等して,請求中の権利(Aさんの場合は貸金)が存在することを主張・立証していきます。
 しかし,破産手続きの場合は,まずは債権者全員に債権の金額や内容,優先順位等を書面で届出(自己申告)してもらい,その結果を破産管財人が確認・調査するという手順を踏みますので,破産管財人の調査が終わるまでは,裁判手続が中断します。
 そして,調査の結果,請求権の内容や金額等について異議なく認められた場合には,もはや係属中の裁判は無意味ですので当然終了となり,債権の金額と存在が確定します。
 他方で,債権の内容や金額等について破産管財人や他の債権者から異議が出た場合には,異議を主張する者を当事者に加えて裁判をする必要があるため,中断中の裁判が復活することになります。この場合,Aさんのようにまだ1審の途中で,請求中の権利について何ら判決も出ていない場合には,Aさんの方で異議を述べる相手方を被告に加える申立てをする必要があります。逆に,既に第1審で貸金について認容判決が出ていたが,相手方が控訴して控訴審の途中で相手方が破産したような場合であれば,異議を述べた者(管財人や他の債権者)の方で裁判を続行する手続きをとる必要があるとされています。
 そして,最終的に判決で債権額が確定されることになります。 

②係争中の権利が破産債権ではない場合

 たとえば,Aさんが,今回の訴訟で,Bさんに対し,100万円だけでなく,過去にBさんに貸したまま返されていないブランド品の時計についても返還を求めていたとします。この場合,AさんがBさんに対して時計の返還を求める権利は,Aさんの「所有権に基づく引渡請求権」ですので,破産債権ではありません。このように,所有権に基づく引渡請求権や所有権確認の訴え等,破産債権に関しない請求権の訴訟については,中断中の訴訟は破産管財人が引き継いで継続することになります。よって,Aさんは,管財人を被告に切り替え,時計の返還を求める訴訟を続行することになります。

3 訴訟で権利が確定した場合

 係争中の権利の存在が,最終的に裁判で確定した場合,当該権利が破産債権の場合は,破産債権者表に記載され,配当を受ける権利が認められます。もっとも,結局は破産債権のため,財産が残っていれば配当を受けられますが,財産がない場合や免責決定が出てしまえば,せっかく訴訟で勝ち取っても回収できないのが現実です。

4 まとめ

 以上の通り,訴訟係属中に相手方が破産した場合,破産財団に関する訴訟は中断し,破産手続の規律に服することになります。破産債権に関する訴訟の場合は,結局は裁判で勝ち取っても,配当が回ってこない可能性も多いにありますので,その後の手続をどのように進めるかについては,一度破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

2017.11.06

個人再生手続で決まった再生計画の履行が難しくなりました。どうすればいいでしょうか?

個人再生手続で決まった再生計画の履行が難しくなりました。どうすればいいでしょうか?

【Aさんの相談】
私は、1年前に弁護士さんに依頼し、小規模個人再生手続を利用して債務整理を行いました。現在も、そのときに決まった弁済期間3年の再生計画に基づいて債務の弁済を継続しています。しかし、3か月前に追突事故に遭い、怪我の影響で仕事を続けることができなくなり、先日退職となりました。現在、新しい仕事を探していますがまだ見つかっておらず、このままでは再生計画で決めた債務の弁済が難しくなりそうです。この場合、一度決まった再生計画の内容を変更してもらうことはできるのでしょうか。

 個人再生手続は、返済計画を原則として3年以内としており、長期の計画になることが多いため、再生計画遂行中に事情が変わり、返済困難な事態に陥ることも少なくありません。そのため、民事再生法は、再生計画の変更やハードシップ免責の制度を設け、一定の場合には債務の返済計画の変更や残債務免除を認めています。そこで、今回は、これらの制度について福岡の弁護士がご説明していきたいと思います。

1 再生計画の変更

 再生計画で決まった内容については、計画通り弁済していくことが原則です。しかし、再生計画の認可決定があった後、やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となった場合に限り、再生計画の内容を遂行可能なものに変更すること(再生計画の変更)が認められます(民再234条1項)。ここでいう「やむ得ない事由」とは、当初の再生計画の認可時にそのような事情が予想されていれば計画の内容が異なっていたのであろうと思われるような客観的事由であることを要します。
 なお、変更といっても、既に成立した再生計画の返済総額を変更することはできず、弁済期間の延長のみ可能です。(延長により毎回の弁済額が減ることになります。)延長期間は2年が上限となっており、それ以上の延長はできません。
 再生計画の変更を行うためには、債務者において変更の申立てをする必要があります。申立後は、再生計画の成立のための手続と同じ手続を踏むことになります(同条2項)。

2 ハードシップ免責

 ハードシップ免責とは、再生計画に基づいて誠実に債務返済を継続し、大半を返済し終えた状態で、債務者の帰責事由なく再生計画の履行が極めて困難になった場合に、裁判所が、債権者の意見を聞いた上で、債務残額の免責を認める制度です。適用要件は以下の3つです。
【 要件 】
①再生債務者の責めに帰することができない事由により、再生計画の遂行が極めて困難になったこと
※「極めて困難」とは、再生計画変更の要件である「著しく困難」よりも困難の度合いが高いものをいうため、再生計画の変更手続で足りる場合は、要件を満たしません。
②免責決定することが再生債権者の一般の利益に反するものでないこと
※破産手続に移行して配当を受ける方が債権者にとって利益がある場合には、免責決定することは再生債権者の一般の利益に反するため、この要件を欠きます。
③計画弁済を要する各再生債権について4分の3以上の額の弁済を終えていること
【 手続 】
ハードシップ免責を受けるためには、債務者がその旨の申し立てを行う必要があります。
申立てが行われると、裁判所は、債権者の意見を聞いた上で、免責又は申立て棄却の決定をします。免責の決定が確定すると、債務者は、残債務について責任を免れることになります。なお、

3 再生計画の変更もハードシップ免責も認められない場合は?

⑴ 再生計画の取消し

 再生計画の不履行は、再生計画の取消事由に該当します。そのため、債権者から再生計画取消を求める申立てがなされ、裁判所が申立てを認めた場合には、再生計画は取り消され、再生計画で変更された債務は原状に復することになります。(再生計画でカットされた元本等が復活します。)
なお、個人再生手続は、通常の民事再生手続よりも簡易な手続で再生計画を策定しているため、通常の民事再生手続と異なり、債権者は、再生計画に記載された債務に基づいて強制執行をすることはできません。

⑵ 破産手続への移行

  再生計画の取消しがなされ、その時点で破産開始原因が存在する場合は、裁判所は、職権で破産手続に手続を移行させることができるとされています。
  もっとも、実務上、裁判所が職権で破産手続に移行することは少なく、通常は、債務者の申立てにより破産手続に移行します。

4 本件の場合

 本件では、交通事故という不慮の事故により、仕事も辞めざるを得ず、返済が難しくなったということですので、やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難になったといえ、再生計画の変更手続ができる可能性が高いでしょう。

5 まとめ

  以上の通り、再生計画認可後の事情の変更に応じて一定の場合には計画の変更や免責手続が認められます。いずれの場合も、債務者からの申立てが必要となりますので、各手続が利用可能かどうかについては、民事再生手続に詳しい専門家弁護士に相談され、手続きを依頼されることをお勧めします。

2017.10.20

破産手続開始決定が出るまでの間に,債務者の財産を保全する手段とは?

破産手続開始決定が出るまでの間に,債務者の財産を保全する手段とは?

【債権者Aさんの相談】
先日,取引先であるB社から突然,「B社は破産する予定です。今後は破産手続を弁護士に依頼する予定であり,弁護士から後日通知をしますので,取り立てはお控えください。」との通知が来ました。そのため,私は取り立てを中止し,B社の弁護士からの通知が届くのを待っていました。しかし,噂によると,同じ通知を受けた他の債権者C社は,通知を受けた後も引き続きB社に取り立てを行い,債権を一部回収したと聞いています。私は,B社から言われた通り,取り立てを中止していたのに,他の債権者は取り立てを継続して弁済を受けるなんて不公平です。B社の破産手続開始決定はまだ出ていないようですが,私もC社と同様に,取り立てをして弁済を受けていいのでしょうか?また,破産手続開始決定が出るまでの期間,他の債権者の取り立てを禁止し,債務者の財産を保全する手立てはありませんか?

1 破産手続開始決定前の財産の保全について

裁判所から破産手続開始決定が出ると,債権者は個別に権利行使することが禁止され,取り立てや強制執行はできなくなります。破産法は,このように,破産手続開始後の債権者の個別的権利行使を禁止し,債務の引き当てになる財産を確保しています。しかし,裏を返せば,破産手続開始決定が出る前の債権者の権利行使は原則として制限されていません。
しかし,これでは,破産するという噂を聞きつけた債権者が一斉に取り立て行為を行い,破産手続開始決定が出た時点では財産が何もないという事態に陥ってしまう可能性があります。(今回の債権者Aさんのように,敢えて取り立てを中止していた債権者が損を被ってしまう結果になります。)しかし,それではあまりにも不公平です。そこで,今回は,破産手続開始決定が出る前の時点においても,債権者の権利行使を制限し,債務者の財産を保全する手段について,お話ししたいと思います。

2 破産手続開始前に債務者財産を保全する手段

⑴ 債権者の権利行使の制約

①他の手続の中止命令等(破産法24条)

裁判所は,破産手続が申立てられた場合で必要と認める場合には,中止命令を発令することによって,破産手続開始前であっても,債権者による強制執行や仮差押え,仮処分,財産関係の訴訟手続等を中止することができます。これは,債権者の個別的権利行使禁止の時期を,中止命令の発令によって破産手続開始決定前に前倒しする手続です。ですので,中止命令が発令されれば,取り立てや差押えはできなくなり,万が一これに反して弁済を受けた場合には,後々管財人から否認(取消)され,受領した財産は返還しなければなりません。

②包括的禁止命令(破産法25条)

裁判所は,①の中止命令を個別に発令するのでは財産の保全が十分に行えないような場合には,包括的禁止命令を出すことによって,全ての債権者に対して,強制執行等の禁止を命じることができます。これは,例えば,ネット通販のように全国に債権者が散らばっており,個別の債権者に対して中止命令を発令しても対処できないような場合を想定しています。①の中止命令は,債権者ごとに個別に出されるものですが,②の包括的禁止命令は全ての債権者に対して出されます。
⑵債務者の財産処分権の制約

③債務者の財産に関する保全処分(破産法28条) 

裁判所は,破産手続開始の申立てがあった場合には,破産手続開始決定が出るまでの間,債務者の財産に関し,処分禁止の仮処分や弁済禁止の仮処分等,財産に関する保全処分を命じることができるとされています。財産の処分や弁済禁止等の仮処分が出た場合,その名の通り,債務者は勝手に財産処分や弁済をすることができず,これに反した弁済については原則として無効となります。なお,弁済を受領した債権者が,債務者に弁済禁止の仮処分等が発令されていたことを知らずに弁済を受けていた場合は,例外的に弁済は有効になります。

④保全管理命令(破産法91条)

 裁判所は,債務者が法人の場合で,債務者の財産管理が失当であり又は債務者の財産確保が特に必要な場合には,保全管理命令を発令して,保全管理人を選任し,債務者の財産管理を任せることができるとされています。これは,債務者による財産の散逸を防ぐ趣旨で認められている制度です。

⑶ 小括

 以上の通り,破産手続開始前において,債権者の権利行使や債務者の財産処分権を制限する手段はいくつかあります。なお,いずれも,裁判所に対して破産手続を申し立てていることが必要であり,単なる破産予定という状態では利用できません。また,利用する場合は,利害関係人の申立て又は裁判所の職権発動が必要になります。

3 まとめ

以上の通り,破産手続開始決定前であっても,一定の場合には,債権者の権利行使を制限したり,債務者の財産処分権を制限することによって債務者財産を保全する手段が準備されていますので,Aさんのような悩みをお持ちの方は,一度弁護士にご相談されることをお勧めします。(なお,本事例では,破産手続予定であり,まだ申立てに至っていないため,①~④の手続きはできません。しかし,C社に対する弁済は,破産する通知を出した後に行われているので,否認対象行為として管財人から取消される可能性が高いでしょう。)

2017.10.19

過払い金ってなぁに?

過払い金ってなぁに?

<相談内容>

最近よくテレビで「過払い金を取り戻せる!」「借金を長年返済している人は過払い金があるかもしれないのでぜひ相談を!」というCMを目にすることも多いですが,そもそも過払い金って何なの?って思われている方も多いと思います。そこで,今回は,過払い金について福岡の弁護士がお話ししたいと思います。

1 過払い金とは

借金をする際,個人間や親族間の借入れでない限り,元本をそのまま返済するだけでなく,弁済期までの利息や,弁済期経過後の遅延損害金を付して返済する内容で契約することが多いと思います。この利息や遅延損害金の利率(以下,両者をあわせて「利息等」と言います)については,利息制限法と言う法律が上限利率を定めており,これを超える利息等の契約は無効となります。そのため,借主がこの利息制限法の上限利率を超えた利息等を返済していた場合,当該返済部分は「払い過ぎたお金」として貸主に対し不当利得返還請求ができます。この払い過ぎたお金がつまり「過払金」と呼ばれるものです。なお,利息制限法の上限利率は以下の通りです。

◆利息制限法の上限利率の定め(同法第1条,第4条)

元本10万円未満 元本10万円以上100万円未満

元本100万円以上

利息 20% 18% 15%
遅延損害金 29.2% 26.28% 21.9%

※遅延損害金の上限利率は,利息の上限利率の1.46倍を超えることはできないため(利息制限法4条1項),上記の利率になります。

2 どうして利息制限法を超えた貸付がなされていたのか?

 過払い金は,上述の通り,利息制限法違反の利率で貸付がなされていた場合に問題になるものですので,法定金利を守っていたら過払い金問題は生じません。それでは,どうして利息制限法の上限利率違反の貸付が横行していたのでしょうか。
 これは,簡単に言うと,現在では既に改正されて存在しない条文になりますが,昔は貸金業法43条1項によって,利息制限法の上限利率を超えて借主が任意に利息を返済した場合,その返済は有効とするという趣旨の条文(一般的に「みなし弁済規定」と呼ばれるものです。)が規定されていたからです。

利息制限法の上限利率違反については,当該利息等の定めが無効になるだけで,刑事罰や行政処分が予定されているわけではないため,利息制限法違反の貸付も横行していたのです。なお,一定の利率を超えた貸付については,出資法という法律によって刑事罰が科されていましたが,その利率は昔は109.5%であり,利息制限法の利率よりもはるかに高かったため,利息制限法以上,出資法未満の利率での範囲で貸付が横行していたわけです(この,利息制限法の上限利率と出資法における刑事罰対象となる上限利率の間にズレがあり,この間の金利で貸付が横行していた問題のことを,グレーゾーン金利問題と呼ぶこともあります。)

しかし,不況に伴う多重債務問題の深刻化や,闇金被害が社会問題化したことを背景に,最高裁が消費者保護の見地から,みなし弁済規定について厳格に判断する立場を採ったため,過払い金返還を認める判例が続出し,それに伴い各種法令が改正されました。なお,現在では,貸金業者の貸付に関し,刑事罰対象となる金利は20%に引き下げられており,グレーゾーン問題については解消されています。

3 過払い金はどうやって取り戻すの?

 過払い金返還手続の流れとしては,まずはこれまでの借入れや返済についての取引内容を確認し,利息制限法所定の上限利率による引き直し計算を行います。その結果,過払い金が発生する場合には,借入先との間で返還に応じてもらうよう交渉を行い,交渉がまとまらない場合には訴訟を提起して争うことになります。

4 こんな場合でも請求できるの?

 多重債務問題でお悩みの方は,そもそもどこにいくら借りているかも分からず,過払い金があるのかが分からないという方も多いと思います。また,もしかしたら過払い金が発生していたのかもしれないが,既に借金は完済してしまったという方もいらっしゃると思います。そこで,上記の場合,返還請求ができるのかについてお話ししたいと思います。

⑴ 資料がなく,どこにどのくらい借りて返したか分からない場合

借主側で,どこにどのくらい借りたのかについて覚えておらず,資料も残っていなかったとしても,返還請求はなし得ます。貸金業者は,貸付や返済についての取引履歴について,借主に対して開示すべき義務を負っており(貸金業19条の2),帳簿の保存義務も負っているため(貸金業法19条),借主側で借金の詳細を把握していない場合は,まずは貸主に対して取引履歴を開示してもらい,過払い金が発生するかについて計算することが可能です。

⑵ 完済している場合

 既に借金を完済していたとしても,過払い金返還請求権が時効にかかっていなければ,過払い金の返還を請求することは可能です。過払い金返還請求権の時効は10年ですが,この起算点は最終の取引完了日であり,借入日ではありません。

5 まとめ

 以上のとおり,過払い金は,利息制限法で定める上限利率に違反してなされた貸付であり,その返還を求めることは権利として認められるものです。借りたお金を返すのは当然ですが,法律で定められた利率を超えての返済義務はありません。過払い金がどれくらい発生しているかについては,利息制限法の利率による引き直し計算が必要となり,具体的な返還手続きについては,各債権者との交渉や訴訟が必要になるため,借金問題でお悩みの方は,一度専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。

2017.09.30

勤務先が破産しました!給料や退職金は消えちゃうの?

勤務先が破産しました!給料や退職金は消えちゃうの?

【Aさんの相談】
先日,会社の社長から「経営状況悪化で破産することになった。申し訳ないが今日付けで全員解雇にせざるを得ない。」と言われ,解雇予告手当もなく解雇されました。少し前から給料の遅配があったため心配はしていましたが,突然の解雇と破産の報告に愕然としました。今月分の給料についてはまだもらっていないのですが,会社が破産しても給料はきちんともらえるのでしょうか。また,退職金はどうなるのでしょうか。

1 会社が破産した場合,給料はどうなるの?

会社が破産した場合、従業員の給料に未払い部分があることが一般的です。その際の未払給料が、その後の破産手続きでどのように取り扱われるのかについては,いつ働いた分の給料が未払いなのかによって取り扱いが変わってきます。

①破産手続開始前3か月間の未払分

会社が裁判所に破産を申し立てると、破産開始決定がなされます。
そして、破産手続開始前3か月間の給料については,破産手続が終わるのを待たずに,すぐに支払ってもらえます。この,破産手続によらずに弁済を受けることができる債権を財団債権といいますが,給与は労働者の生活に関わる重要な権利ですので,破産手続においても,直近3か月分の範囲で財団債権として保護されています。ここでいう「破産手続開始前3か月間」というのは,裁判所より破産手続開始決定が出された日より前3か月の間になされた労働の対価のことを意味します(なお,開始決定日は不算入です)。

給料は,労務を提供する度に日々発生しますので,手続開始前3か月間の労働の対価であれば,給与支給日と破産手続開始日の時期的先後関係に関わらず,支払いを受けられます。なお,賞与(ボーナス)に関しては,日々発生するものではなく,支給日に在籍している場合に支払われるものですので,破産手続開始日より3か月前に支給日が来る未払いのものに限り,財団債権として弁済を受けることができます。
したがって、会社が破産申立を行い、破産開始決定がなされた場合は、直近3か月分についてはすぐに請求するようにしましょう。このとき、会社にまだ何らかの財産が残っているのであれば、優先的に支払ってもらえます。

②①以外の未払分

①以外の未払給料分については,破産債権となります。破産債権の場合,弁済を受けるためには,債権額の届出を行って破産手続に参加する必要があり,配当という手続の中で弁済を受けることになります。配当の引き当てになる財産には限りがあり,配当を受ける債権についても優先順位があるため,債権者によっては全く配当が回ってこないこともあります。つまり、ちゃんと破産手続きで決められた手続を踏んで請求し、破産手続きの最終段階にならないと、全く支払いはなされません。なお,給料等の労働債権については,従業員の生活に関わる重要な債権ですので,他の一般債権(例えば売買代金債権や貸金債権等)よりも優先した順位で配当を受けることができる「優先的破産債権」として取り扱われます。

例えば,債権者Aが労働債権として50万円,債権者Bが一般の売掛債権として200万円,債権者Cが一般の売掛債権として300万円有しており,配当財産としては100万円しかない場合,まずは債権者Aに対して配当として50万円が優先的に支払われ,残りの50万円を債権者Aに20万円,債権者Bに30万円配当するという流れになります。

2 退職金はどうなるの?

破産手続終了前に退職して退職金が発生する場合は,退職金請求権(退職手当)を会社に対して請求することができます。この退職手当は,退職前3か月の給料の総額に関する部分は財団債権となり,その他の部分は優先的破産債権として,それぞれ弁済を受けることができます。

3 解雇予告手当はもらえるの?

 使用者側から解雇をする場合,解雇する30日以上前に予告をするか,30日分以上の平均賃金を支払って解雇するかいずれかを支払わなくてはなりません。後者の30日分以上の平均賃金の支払いを,「解雇予告手当」と言います。通常は、解雇予告手当をきっちり支払ってもらってから退職するのですが、破産の場合には支払ってもらえていないままに退職になることが多いはずです。

 本件事例のAさんは,解雇予告手当をもらっていませんが,Aさんは法律上,会社に対して解雇予告手当の支払いを請求できる立場にあります。なお,解雇予告手当支払請求権は,労働の対価としての性質ではないため,給料とは言い難いですが,雇用関係に基づいて生じた債権であるため,優先的破産債権には該当します。
 よって,Aさんは,破産債権として届出をすることで優先的破産債権として配当を得ることができます。つまり、すぐには支払ってもらえず、破産手続きに沿って、最終的に配当という形で受け取ることになります。
(なお,解雇予告手当については,裁判所によっては財団債権として取り扱ってくれるところもあるようですので,各地方裁判所に運用を確認されることをお勧めします。)

4 労働債権の弁済許可制度とは?

 労働者が,給料や退職金などの未払労働債権について,弁済を受けなければ生活の維持を図るのに困難を生じる恐れがあるときは,他の債権者の利益を害さない限りで,破産管財人の判断により,他の債権よりも早く配当を行ってくれることがあります。これを労働債権の弁済許可制度と言います。
 そのため,生活困難で未払い給与等の支払いを緊急に必要とする場合には,当該事情を破産管財人に対して連絡しましょう。場合によっては先払いを受けられる可能性があります。

5 まとめ

 以上の通り,労働債権については,その発生時期によって優先的破産債権となるか財団債権になるかの取り扱いが変わってきます。いずれになるかによって,支払いを受けられるタイミングや金額が大きく変わるものの,このあたりの判断は一般の方には難しいと思われますので,破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

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