弁護士コラム

2019.05.16

【相談事例58】闇営業は違法??~闇営業の問題点について~

【相談内容】

 最近ニュースで、お笑い芸人が闇営業を行ったとのことで謹慎処分を受けているニュースが目立ちます。

 気に入っていた芸人さんが見ることができなくなってしまうのはとても残念なのですが、闇営業ってそんなに悪いことなのですか?

 そもそも闇営業ってどういったものをいうのでしょうか。

【弁護士からの回答】

 複数人のお笑い芸人が、詐欺グループが主催したパーティーに所属事務所を通さずに参加したことが明らかになりニュースとなっています。さらに、当初、芸人の方は主催したグループから報酬(ギャラ)を受け取っていないと釈明していたところ、後日、実際にはギャラを受け取っていたことが判明し、所属事務所から謹慎新処分を受け、出演番組などに大きな影響を及ぼすような重大な事件として連日報道されています。

 この事件では「闇営業」というワードが非常に多く出てくるのですが、私個人の感想ですが、この「闇営業」というワードのイメージが、この事件の問題点を複雑にしているのではないかと思います。

 そこで、今回の「闇営業」にまつわる事件について法的に何が問題であるのかについてご説明させていただきます。

1 問題となりうる行為について

 今回の闇営業問題において問題となりうる行為としては、          

① お笑い芸人が所属する事務所を通さずに直接仕事の依頼を受けた行為      

② 依頼主(パーティーの主催者)が詐欺グループであったこと  

③ 報酬を受領していたこと                

(④ 報酬の支払ったのが詐欺グループであったこと)      

といった4つの問題点が考えられます。 

 そして暴力団ではないものの、犯罪グループの仕事の依頼を受け、犯罪行為により得た収益である可能性がある報酬を受け取ること自体、社会モラル的に非常に問題のある行為であるため、これだけ大きな事態に発展していると思われるのですが、今回は「闇営業」という点に絞って説明させていただきますので、①と③の問題点についてご説明させていただきます。

2 ①について

 お笑い芸人が所属事務所を通さずに直接仕事の依頼を受ける行為については「闇営業」と言われているそうです。「闇」という響きから違法な人からの依頼を受ける行為を「闇営業」であるというようにイメージしてしまいそうですが、今回の事件でも依頼をしたのが法的に何ら問題のない人であっても「闇営業」ということになるのでしょう。
 この事務所を通さずに直接仕事の依頼を受ける行為については、その行為を規制する法律は存在しません。したがって、「闇営業行為」を行ったことのみをもって、罪に問われるような行為には該当しません。
 

 この闇営業については、芸能事務所と所属する芸人との間でどのような契約を行っているのかという点が重要となってきます。事務所自体が直接仕事を受ける行為自体を許容していたのであれば、闇営業をいくら行っていたとしても問題は一切ありません。

 反対に、事務所として、事務所を通さない仕事を一切禁じている場合や、報酬が一定額以上の場合には事務所を通して仕事をするよう取り決めがある場合にそれに反した場合は所属事務所との契約を解消されてしまうリスクがあります(ニュースなどでは、そもそも所属事務所と芸人との間での契約内容が明確になっていないという点も取りざたされているようであり、契約内容の明確化については芸能界における重要な問題点だと感じております。)。

3 ③について

 このように闇営業行為については、芸能事務所と芸人との間の契約内容の問題ということになるのですが、闇営業行為により報酬を受領することについては何か問題点があるのでしょうか。

 この点、仕事を行い、その対価として報酬を得ること自体は法律上何ら問題はありません(依頼主が上記のように違法なグループである場合には、モラル上の問題があることは否定できません。)。もっとも、お笑い芸人の方は、所属事務所と雇用契約を締結しておらず、業務委託契約を締結しているため、事務所からの給料(報酬)についても事業所得として確定申告を行っているのが一般的であるようです。そして、闇営業により取得したギャラ(報酬)も事業により得られたものであるため所得として計上する必要があります。

 したがって、仮に芸人の方が闇営業で取得したギャラを確定申告の際に収入に計上していなかった場合には、所得隠しとしていわゆる脱税行為に該当することになり、その程度が所得税法などにより刑事罰に課せられる危険性もある行為です。

4 まとめ

 今回の闇営業問題により芸能人や所属事務所のコンプライアンスの重要性が広く認知されたことはとても意義があり、芸能人のみならず通常の会社においても、従業員のコンプライアンス研修や会社における従業員のコンプライアンスの管理体制の構築は非常に重要な問題であることは否定できません。
 企業や従業員のコンプライアンスの環境についてお悩みの方は、ぜひお気軽にお問合せください。

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2019.05.15

【相談事例57】婚前契約とは?~結婚前に契約書を作成する理由は?~

【相談内容】

 芸能人などが結婚する前に、婚前契約書というものを作成したとして話題になっているのをテレビで見たことがあるのですが、婚前契約書とはどういったものをいうのでしょうか。

 「婚前」ということは結婚する前に作成するものだと思うのですが、どうして結婚前に作成しなくてはいけないのでしょうか。

【弁護士からの回答】

 欧米などでは、一般的に行われているのですが、日本ではあまりなじみのなかった婚前契約ですが、最近では日本でも婚前契約を行ったうえで夫婦になれるかたは少なからずいらっしゃいます。 
 そこで、今回は婚前契約の内容についてご説明させていただきます。

1 婚前契約とは

 婚前契約とは、結婚をする前に結婚に関する取り決めをしておくことをいいます。

 具体的には、同居中における生活のルールやお子さんの育て方に関するルールを定めることや、金銭管理の方法について規定することに加え、慰謝料についてもあらかじめ定めておくことがあります。

 例えば、「夫が妻に暴力を振るったら1回あたり〇〇万円支払う。」といった内容や、「不貞行為をした場合には1回あたり〇〇万円を支払う。」などといった文章を入れることもあります。また、結婚期間中の決め事だけでなく、離婚時に関する条件についても定めることが一般的です。例えば、離婚の際の財産分与の対象となる財産を特定する条項を設ける場合や、分与の割合についてあらかじめ合意しておくことが多いです。

2 婚前契約のメリットとは

 日本では、結婚する前に離婚に関する話し合いなどをすることに抵抗を感じるなどの理由から、婚前契約の普及率は極めて低いです。

 しかし、夫婦の間で事前に合意事項を作成することで、結婚生活後の生活上の無用なトラブルを避けることが可能になります。また、慰謝料の関する金額などを定めておくことで、不貞行為等違法な行為をしないという強い誓いにもなるため、離婚を避けるために婚前契約を締結する方もいらっしゃいます。

 また、会社を経営されている方の場合には、自社の持ち株についても共有財産の対象となりうるものであることから、財産分与の対象となってしまうと、離婚後の会社の経営に影響を及ぼすことになりかねないため、あらかじめ婚前契約において、株式は財産分与の対象とならないことについて合意しておく方がよい場合があります。

3 なぜ「婚前」に作成?

 それでは、なぜ、婚「前」契約というように婚姻前に作成しなくてはならないのでしょうか。

 それは民法上の規定を理由としており、民法744条では、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。」と規定されており、婚姻中行った契約については、夫婦の一方から取り消すことができると規定されているため、婚姻中に合意したとしても、その実効性がありません。
 婚姻前に関する契約については、民法758条1項に、「夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない」と規定されており、婚姻前に行った夫婦間の財産契約については、届出後に変更することができないという強い拘束力を有することになるため、届出前に作成する必要性があります。

 入籍予定の方で婚前契約したほうが良いのではないかと検討されている方は、是非一度当事務所までご相談ください。

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2019.05.14

【相談事例56】転居先に弁護士から通知が~職務上請求について~

【相談内容】

 数年前に知人から大きい金額を借りていましたが、生活が苦しくなってしまい、払うことができず、申し訳ないという思いがありながらそのまま別のところへ引っ越してしまいました。その後、借りていた知人の代理人であるという弁護士から、借りたお金の返却を求める書面が届いてびっくりしています。

 知人は、引っ越す前の住所は知っていますが、当然のように転居先については教えていなかったのになぜ現在の住所がわかったのでしょうか。

【弁護士からの回答】

 ご依頼者様の代理人として、相手方に対し、弁護士として受任したことを連絡する書面(通常、「受任通知」といいます。)を送付するのですが、受任通知を送付した後、相手方の人から「どうして住所がわかったのですか」とお問合せいただくことが少なくありません。
 そこで、今回は、弁護士などによる住民票の職務上請求についてご説明させていただきます。

1 住民票とは

 まず、住民票についてご説明させていただきます。

 住民票とは、市町村役場において住民がどこに住んでいるのかについて記録したもので、各市町村役場において住民基本台帳という市町村がまとめている帳簿(「公簿」といいます。)にまとめられています。世帯ごとにまとめられており、氏名、本籍、生年月日や前住所地や、住民となった日や住所を設定した日などが記載されています。

2 住民票を取得することができる人は?

 上記のとおり、住民票には前住所、現在の住所など重要な個人情報が記載されているものであるため、原則として、本人及び同一世帯の人しか取り寄せることができず、第三者では自由に住民票を取得することができません。

 もっとも、弁護士、司法書士等の一定の職業についている人(「特定事務受任者」といいます。)であれば、依頼者から受けている事件において必要な範囲で、第三者の住民票を取得することが可能であり、これを職務上請求といいます。
 したがって、ご相談者様のように、お金を払わなければいけないのにも関わらず、転居して雲隠れをしようとしても、弁護士が職務上請求を行うことにより、転居先の住所が判明してしまうので、雲隠れしようとすることはお控えいただいたほうがよいでしょう。
 逆に、お金を貸した人がどこかに行ってしまったという場合であっても、旧住所がわかっていれば弁護士において職務上請求を行うことにより、相手方の所在が判明するケースもあるため、泣き寝入りするしかいないのかとあきらめる前にぜひ一度弁護士にご相談ください。

 なお、弁護士の職務上請求ですが、ご依頼者様の法律上問題に関し必要な範囲でのみ取得することができるものですので、単なる人探しの場合や、所在を知りたいという目的のみでは弁護士であっても職務上請求を行うことはできないので、ご承知おきください。

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2019.05.13

【相談事例55】「お子様お断り」のお店は違法?

【相談内容】

子どもと用事があり外出し、お昼になったためどこか食べるところを探しており、おいしそうなレストランを見つけたため、入ろうとしたところ、入り口に「小さいお子さんのご入店はお断りさせていただきます」という張り紙が貼ってあり、入ることができませんでした。

子どもの入店を断るなんて、違法ではないですか。

【弁護士からの回答】

小さいお子さんがいらっしゃる場合、周囲の人に配慮したりなど入ることができるお店も限られて、お店を探すことも大変な場合もあり、ご相談者様のようにお子さんの入店を断られてしまう方も少なくないと思います。
今回は、店側による入店拒否の行いの適法性についてご説明させていただきます。

1 契約自由の原則

日本の民法においては、私的自治の原則という制度が採用されています。私的自治の原則とは、私人間の法律関係(権利、義務の発生)については、基本的に国家が干渉すべきではなく、私人の自由な意思によって決定すべきであるという原則です。

その私的自治の原則の1つとして、契約自由の原則というものがあります。それは、契約をするかしないか、誰と契約の相手方とするか、どのような内容の契約を締結するか等契約に関する事項については当事者の自由に任せるべきであるという原則です。

この契約自由の原則については、法律で特別の定めがない限りあらゆる契約に認められる原則です。契約自由の原則の例外、すなわち、定の場合に当事者が制限される法律として、労働者を保護するために制定された労働基準法、取引の公正を確保するための、独占基準法などがあります。

2 飲食店での契約について

飲食店での契約関係についてみると、飲食店では、お客が代金を支払い、店側が料理を提供するという契約関係になります。そして、飲食店に関しては基本的に相手方等を限定されるような法律は基本的にありません。
考えられるものとしては、各都道府県において制定されている暴力団排除条例によって、暴力団に対して飲食を提供することは禁じられているぐらいでしょう。

したがって、飲食店においては、誰に料理を提供するのかという点や、誰の入店を許可するのかという点について、店側が自由に決定することができます。
よく、高級レストランで設定されているドレスコードについても、店側において入店することができる客の服装を自由に決定することができるという点で、契約自由の原則が採用されています。
このように飲食店での法律関係においても店側において「小さいお子様の入店はお断りします。」として、小さいお子さんの入店を拒否することができます。

小さいお子さんを抱えた方からしてみると、自分たちだけ差別されているような気持になってしまうかもしれませんが、自由な入店を認められなければならないということになると、店側に入店を強要させてしまうことになり、契約自由原則に反してしまうことになります。

もっとも、喫茶店やレストランにおいても、逆に小さいお子さんに配慮が行き届いたお店も多く存在していると思いますので、そういったお店を探されるのがよいのではないかと思います。

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2019.05.10

【相談事例54】「殺す!」といったら殺意あり?~故意について③

【相談内容】

殺意の認定というのは非常に難しいのですね。よくドラマなどで「ぶっ殺してやる!」などと言って殴ったりする場面があると思うのですが、その場合には殺してやると言っているので、殺意があることは間違いないですよね?

【弁護士からの回答】

前回に引き続き、今回も殺意の認定の判断要素についてご説明させていただきます。

前回ご説明した考慮要素は、殺意の認定において重要な考慮要素でしたが、今回の考慮要素は、一般の方からすると重要と思われがちですが、裁判上での重要度は前回の内容よりも下がる傾向になります。

1 動機(犯行前の事情)について

通常、人を殺害しようと考えている人は、快楽殺人鬼などの場合を除いて、対象となる人に対して、相当程度の恨みを有している場合や、殺さなければならないような事情を有しているのが通常です。

したがって、喧嘩の際の突発的に殺意が生じた場合を除いて、被害者の方に対して何らかの動機を有している場合には、殺意が認定される方向に働くことになります。
もっとも、単に嫌っていたという程度の動機では足りず、殺意を抱いてもやむを得ないと認められる相当程度強い動機である必要があります。

2 犯行後の事情について

例えば、犯行後に犯人が自ら119番通報した場合や救助行為を行った場合には、死の結果を企図していなかった可能性が高く、殺意を否定する方向に働きうる事情になります。
逆に、何ら救助行為を行わず被害者を放置した場合には、死の結果を容認していたと認定される方向になり得ます。

もっとも、救助行為を行った場合であっても、「行為」時には殺意があり、思い直したという可能性も否定できませんし、放置した場合であっても、致命傷には程遠い傷害結果であるのにも関わらず追撃しなかった場合には、逆に殺意を否定する方向にも働きうるため、行為後の事情の評価は非常に相対的であるため、考慮要素としての重要性は若干下がるといえるでしょう。

3 その他(行為の言動について)

では、ご相談者様のご質問にあるように、犯行時に、犯人が「殺してやる」などと発言している事情はどうでしょうか。
確かに殺意があることをうかがわせるような発言を行っていること自体は、殺意を認定する方向に働きうる事情ですが、そのような発言を常日頃から行っている人もおり、そのような乱暴な言葉を使っている人に限って本当に殺してやるとまでは思っていないケースもよくあります。
したがって、発言を行ったことのみをとらえるのではなく、犯人の性格や従前の言動についても考慮する必要があります。

4 最後に

前回から殺意の認定についてご説明させていただきましたが、殺意があるか否かという問題は、成立する犯罪や量刑が非常に異なる非常に重大な争点であるにも関わらず、判断が非常に難しい問題でもあります。

裁判員裁判ではそのような非常に重大かつ難しい争点について一般の人が判断せざるを得ないため、選ばれた裁判員の方のフォローも必要になってくるのではないかと思います。

 

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2019.05.09

【相談事例53】殺意の有無はどうやって判断するか?~故意とは②~

【相談内容】

その行為が犯罪になると知らなくても故意が認められるのですね。
でも、故意があるかないかという問題は、その人の内心の問題であって、他の人や外からではわからないと思うのですが・・・

殺意が争われている事件などではどうやって殺意があるかないかを判断するのでしょうか。

【弁護士からの回答】

前回は、故意の定義などについてご説明させていただきましたが、今回は、故意の有無についてどのように判断するのかについてご説明させていただきます。
故意について問題となるケースのほとんどが、殺人罪における殺意の有無が争点となるケースです。

殺意があり殺人罪が成立するか、殺意はなく傷害致死罪が成立するにとどまるかという非常に重要な問題であり、裁判員裁判対象事件として皆さんも判断しなければならない機会が来るかもしれませんので、今回、ご説明させていただきます。

1 故意=内心の問題

犯人が行為を行う際に「殺すつもりでやった」のか否かという問題は、内心の問題であり、少なくとも現代においては、内心を直接知りうる手段としては、犯人本人に確認するしか方法がありません。
しかし、本人の当時の記憶に基づいて殺意の有無を確認するとなると、本当は殺すつもりでやったにも関わらず「殺すつもりはなかった」と発言すれば、みんな傷害致死罪が成立するということになってしまいます。

したがって、殺意の有無にとどまらず、故意の有無の判断においては、その客観的に存在する証拠(状況証拠)をもとに、その行為の時点で故意があったのか否かを判断することになります。
以下では、殺人罪においてどのような状況証拠をもとに殺意の有無を判断するかについてご説明させていただきます。

2 創傷の部位、程度

犯人が被害者に対し行った行為により、被害者にどのような創傷(傷、ケガ)が発生し、死に至ったのかという点については、殺意を認定する際に、非常に重要な考慮要素になります。
具体的には、身体の四肢(手足)以外の部分(腹部や頭部などの「枢要部」)に対し、重大な創傷をつけたという事実が認められた場合には、殺害する意図があったと認定される方向に働きます。

また、腹部に複数回ナイフで刺した傷がある場合には、相当程度強い殺意があったという認定がされるのが一般的です。
もっとも、いくら枢要部に創傷があったとしても、犯人が枢要部に損害を加えることを認識している必要があり、例えば抑え込まれて咄嗟に手を前に出したところ腹部に包丁が刺さったというような場合には、枢要部であることを認識していなかったとして殺意が否定される場合もあります。

3 凶器の種類・用法

刃物の場合、形状や刃の長さ、鈍器の場合には形状や重さなど、犯人がどのような凶器を有していたか、そしてその凶器をどのように使用したかという点についても殺意の有無の判断には非常に重要に重要な考慮要素になります。

たとえばナイフを手にもって刺した場合とナイフを投げて刺さった場合では前者の方が殺意を認定する方向に働きうる状況です。また、自動車をつかって衝突する場合や、自動車につかまっている人を振り落とそうとする行為などの場合には、自動車の速度や運転の内容等から殺意の有無を判断することになります。

次回以降も殺意の有無の考慮要素についてご説明させていただきます。

 

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2019.05.08

【相談事例52】故意がないとどうなるか?~故意とは①~

【相談内容】

ニュースなどを見ていると、殺人罪の容疑で逮捕された被疑者の人が、「殺意を否認しています。」などと報道されているのを見かけます。

殺意を否認するとどうなるのですか?殺意とか故意とかニュースで聞くのですが、故意とはどういった場合に認められるのでしょうか。

【弁護士からの回答】

一般の言葉でも「故意」という言葉は使われると思いますが、刑事事件において、故意が認められるのと認められないのでは、成立する犯罪が変わることや、無罪になるなど大きな意味を持ちます。
そこで、今回から複数回にかけて刑事事件における故意についてご説明させていただきます。

1 故意犯処罰の原則

辞書などでは、「故意」とは「わざとすること」などと規定されています。つまり、知りながらあえてすることを一般に故意ということになります。
日本の刑法では、原則として、故意がある場合のみ犯罪として成立するという「故意犯処罰の原則」を採用しており、故意がなくても犯罪が成立する場合、すなわち、過失犯については特別に規定がある場合にのみ犯罪が成立するとされています(刑法38条1項では「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と規定し、故意犯処罰の原則を規定しています。)。

2 故意の有無でなにが変わるか

上記のように、刑法では故意犯処罰の原則を採用しています。したがって、同じ行為をしたとしても故意が認められなければ犯罪が成立しない、もしくは成立する犯罪が異なることになります。

たとえば、人を殴った結果、その人が死亡してしまったという事件において、人を殺す故意(殺意)がある場合には殺人罪が成立しますが、殺意がなかった場合には殺人罪は成立せず、傷害致死罪が成立するにとどまります。

また、結果的に他人の物を自分のものとして持ち帰ってしまったとしても、他人の物と知りながら持ち帰れば窃盗罪が成立しますが、自分の物であると誤信して持ち帰った場合には、窃盗の故意がないとして犯罪は成立しないことになります。

3 故意

このように、故意とは、犯罪の成立に関し大きな意味を有するものではありますが、では、刑法上の故意とは何を意味するのでしょうか。
刑法上の故意(「罪を犯す意思」)とは、「特定の犯罪構成要件に該当する具体的事実の認識、認容」をいうとされています。

簡単にいうと、刑法に規定されている犯罪が成立する要件に該当する事実を認識しかつ認容することで故意が認められることになります。この「認容」ですが、積極的に求める場合(例えば「その人を殺したい」と思って行動する場合)のみならず、その結果が生じてしまっても構わないという程度の認識(先ほどの例では「その人を殺してしまうかもしれないが構わない」と思って行動する場合)でも足りるとされています。

よく、「この行為が犯罪になるなんて知らなかった」などという言い訳をされるかたもいるかもしれませんが、刑法上では、その行為が犯罪に該当すると知らなくても、その犯罪に規定されている要件に該当する事実を認識していれば故意が認められることになるため、かかる言い訳は通用しないことになります。

次回では、殺意を中心にどのように故意があるか否かを判断していくかについてご説明させていただきます。

 

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2019.05.07

【相談事例51】大麻の使用は犯罪ではない??

【相談内容】

近年、芸能人の薬物使用などが問題となっており、残念に思います。

ふと気になったのですが、同じ薬物犯罪でも覚せい剤を使用した人は使用の罪で逮捕されているのですが、大麻を使用した人は使用ではなく大麻を所持していたことで逮捕されていることに気づきました。

大麻を使用したことが明らかであるのであれば、大麻の使用の罪で逮捕すればいいと思うのですが・・・。

【弁護士からの回答】

芸能人に限らず薬物犯罪は後を絶ちません。薬物は一度手を付けてしまうと依存度が強く簡単にやめることはできないため、絶対に手をつけてはいけません。
今回は、大麻取締法に関して、大麻の使用に関しての規律についてご説明させていただきます。

1 覚せい剤取締法

大麻についてご説明させていただく前に、覚せい剤に関する規定についてご説明させていただきます。

覚せい剤に関しては、覚せい剤取締法が存在し、覚せい剤の輸入、所持・譲渡・譲り受け、使用等が処罰の対象となっており、営利目的で輸入・所持などを行った場合には、罪が加重されています。

2 大麻取締法

大麻に関しては、大麻取締法により規制がされています。大麻取締法では、大麻取扱者(適法に栽培している人や大麻の研究者などをいいます。)でなければ大麻の所持、譲り受け、譲り渡しについては、覚せい剤取締法と同様に罰則を定めています。

しかし、大麻取締法では、覚せい剤取締法において規制されている使用に関する規定が存在していません。つまり、大麻に関しては所持に関しては犯罪になるものの、大麻を使用したことに関しては犯罪にならないのです。
もっとも、大麻を使用したことが認められれば、少なくとも所持していたか、譲り受けたことは間違いないため、大麻を使用しただけなので無罪ですという主張は通用しないでしょう。

覚せい剤と同様、大麻も違法薬物であり、使用することがもっとも禁じられるようにも思えるのですが、なぜ、大麻の使用が処罰されていないのでしょうか。

3 大麻とは

大麻取締法1条では

「この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。」

と規定されています。すなわち、大麻草の成熟した茎の部分や種子の部分は所持していたとしても、大麻取締法の「大麻」には含まれないため、罪にはならないことになります。

大麻草に関しては、大麻草全体に中毒性のある有害物質が存在するというわけではなく、大麻草の花や葉の部分に有害物質が多く含まれているのですが、茎の部分や種子の部分にはほとんど有害物質が含まれていないのです。

そして、日本では、茎委の部分は麻織物や麻縄として昔から伝統的に使用されています。さらに、種子については、七味唐辛子の中の1つである麻の実であり、語弊を恐れずにお伝えすると、七味唐辛子を食事の際に使用している方は、大麻草の一部を服用していることになります。

このように、大麻草の一部については、日本で伝統的に使用されているものであるため、茎の部分及び種子の部分は所持をしていたとしても、処罰されないことになります。

4 使用は処罰できない?

このように、茎の部分や種子の部分については、所持をしていたとしても、罪にはなりません。そして、厄介なのが、この茎の部分や種子の部分には有害物質が全く含まれていないわけではなく、微量に含まれている場合があるそうです。
そして、所持することが違法でない茎の部分や種子の部分を使用したとしても当然罪にはならないため、使用も処罰はできません。

したがって、体内から大麻の成分が検出されたとしても、それが違法な花や草の部分を使用したものであるのか、茎や種子を使用したものであるのかについて区別がつかないため、大麻の使用については犯罪として立件することが困難になります。

このように、大麻の使用について処罰の対象になっていないのは、日本特有の理由がありますが、最初にも伝えた通り、一度違法薬物に手を染めてしまうと、抜け出すことは非常に困難になってしまいます。
したがって安易な気持ちで薬物に手を出すことは絶対にやめてほしいと思います。

 

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2019.04.26

【相談事例50】破れたお札は交換してもらえる?~紙幣の引き換えについて~

【相談内容】

先日、自宅の掃除をしていると、何十年の前に隠したのであろう母のへそくりが見つかりました。

母も亡くなっており、へそくりを見て懐かしい気持ちになったのですが、へそくりとしてのお金は封筒などに入っていなかったためボロボロの状態で、中には破れて半分しか残っていないお札もありました。

そのようなボロボロの紙幣は処分するしかないのでしょうか。

【弁護士からの回答】

前回、貨幣の通用限度等についてご説明させていただいた際、紙幣の引き換えの制度について簡単にふれさせていただきましたが、今回は具体的な引き換えの基準などについてご説明させていただきます。
ご相談者様のように紙幣が半分程度しか残っていない場合であっても、引き換えできる場合が多いのであきらめる必要はありません。

1. 紙幣の引き換えについて

まず、紙幣がボロボロの状態になったからといって価値がゼロになるわけではありません。

日本銀行法48条では、「日本銀行は、財務省令で定めるところにより、汚染、損傷その他の理由により使用することが困難となった日本銀行券を、手数料を徴収することなく、引き換えなければならない。」と規定しており、紙幣については無償で引き換えを行うことができると規定されています。

具体的には、日本銀行や、お近くの銀行により破損などした紙幣を持参すれば引き換えてもらうことができます。
そして、上記法律をうけた日本銀行法施行規則8条1項により、
表裏の両面が具備されていることを前提として

① 券面の三分の二以上が残存するものについては額面価格の全額
② 券面の五分の二以上が残存するものについては額面価格の半額

といった基準で引き換えがなされることになります。すなわち、紙幣の5分の2未満しか残っていない場合を除けば、金額が半額にはなってしまいますが、引き換えてもらうことができます。

なお、破れて2つに分かれてしまった紙幣の引き換えについても規定があり、上記施行規則8条2項では、「日本銀行券の紙片が二以上ある場合において、当該各紙片が同一の日本銀行券の紙片であると認められるときは、当該各紙片の面積を合計した面積をその券面の残存面積として、前項の規定を適用する。」と規定されており、破れた各紙片の合計面積が5分の2以上であれば半額、3分の2以上であれば全額引き換えることができます。

2. 紙幣を受け取る側の注意点

このように、破損している紙幣であっても、新しい紙幣と引き換えが可能ではあるため、多少の破損であれば後に引き換えが可能な場合であることが通常であるため、お店などでも多少であれば、通常の状態でない紙幣も支払いの際に受け取っても差し支えないでしょう。

もっとも、ボロボロの紙幣の場合、お釣りなどで使用するには適さず、銀行などで引き換えをする手間も生じます。
また、破損の具合によっては、減額されて引き換えがなされる場合もあるため、あまりにも破損している紙幣の場合受け取りを拒否するなどの対応も必要です。

 

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2019.04.26

【相談事例49】大量の小銭での代金の支払いは認められる?

【相談内容】

先日、コンビニでの料金の支払いに大量の1円玉を出して支払いを行おうとしてレジの人を困らせるような動画が投稿されているのを見ました。

こういった動画も迷惑動画の類だと思うのですが、大量の小銭により支払いを求めた場合、代金額を支払っている以上、店側は大量の小銭を受け取らなくてはならないのでしょうか。

【弁護士からの回答】

最近ニュースを見ていると、次から次へと迷惑動画に関する問題が取り上げられているのを見ると、なぜこのような迷惑な行為がやむことがないのかと疑問に思ってしまいます。

ご相談者様のおっしゃられるように、今回の動画(「1円玉会計」などと呼ぶそうです。)についても迷惑動画といえるでしょう。
このような大量の小銭を用いた支払いについて店側は支払いを拒否することができるのかについてご説明させていただきます。

1. 日本における通貨について

日本における通貨(貨幣)に関し規定した法律として、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律というものがあり、日本における通貨の単位を円とすること(2条1項)、通貨とは、貨幣及び日本銀行券(紙幣のことです)であること(2条3項)などが規定されています。

なお、余談になりますが摩耗などにより流通に不適当となった貨幣や、汚染、損傷その他の理由により使用することが困難となった紙幣については、上記法律や日本銀行法により、無償で交換することができるとされています。

2. 貨幣の通用限度

では、代金の支払いに関しては、貨幣(小銭)をいくら使用してもよいのでしょうか。
民法402条1項では、

「債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済をすることができる。ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。」

と規定されており、「1万円札で支払う」などと特定されていない場合には、債務者(代金を支払う人)は各種の通貨(1万円札、千円札などの紙幣や貨幣)を債務者の選択に支払い支払うことができます。

もっとも、さきほどご説明した、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律の7条では、「貨幣は、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する。」と規定しています。

つまり、同一の貨幣は20枚までは通貨として通用するが21枚以上になると通貨として通用しないことになります。

したがって、通貨として通用しない以上店側は、同一の効果を21枚以上提出してきた場合には、その効果での支払いを拒否することができるようになります。ちなみに、紙幣の場合には、通用限度はなく、どれだけ高額な金額であっても紙幣で支払う場合には枚数制限はありません。

貨幣のみ通用限度が設定されている理由としては、貨幣はそもそも代金の支払いなど決済を簡易にするために用いられるものであるところ、迷惑動画にあるように大量の貨幣での支払いを認めてしまうと、簡易な決済を阻害することになりかねないため、通用限度を設定しています。

したがって、迷惑動画のような嫌がらせのように大量の小銭で支払いをしようとしている場合には、店側としては毅然とした態度で貨幣での支払いを拒否することで差し支えありません。

もっとも、小さいお子さんが少しずつもらった小銭をためて代金を支払にくるというようなほほえましい場面には、店側として21枚以上の同一通貨を受け取ること自体は問題ないため、柔軟に対応してあげるのがよいのではないかと思います。

 

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