弁護士コラム

2018.10.15

弁護士の仕事とは②~裁判外業務について~

前回は,弁護士の仕事の総論的な部分をご説明させていただきました。

今回は,弁護士の仕事のうち,裁判外業務の内容について,ご説明させていただきます。

 

1 代理人としての交渉業務

弁護士 裁判外の業務において一定の割合を占めるのが,この代理人としての交渉業務になります。お金を貸したのに返してもらえない,家賃を払ってもらえないので,アパートから退去して欲しい,夫と離婚したい,交通事故に遭ってしまったので相手方保険会社との間に入って欲しいなど,様々な法律問題について依頼者の代理人として依頼者の利益を実現するために相手方と交渉を行うのが弁護士としての役割です。また,上記のような民事上のトラブルだけではなく,刑事上のトラブル,例えば,ケンカをして相手を殴ってしまい,ケガをさせてしまった場合には,被害者との間で示談を成立するための活動を行うことも弁護士の仕事です。

 この交渉業務は,弁護士の業務において非常に重要な業務であると考えています。すなわち,交渉によりトラブルが解決することにより,依頼者が抱える問題を早期に解決することができ,紛争にまきこまれることを防ぐことができるため,交渉によりスムーズにトラブルを解決することが弁護士としての責務ではないかと感じています。

 

2 顧問弁護士としての顧問業務

 上記の交渉業務に関しては,基本的には法的トラブルが発生した段階でお手伝いさせていただくことが多いです。しかし,弁護士の業務として企業や時には個人の顧問弁護士として常日頃,相談等関係を構築しておくことで,弁護士として紛争が起こらないようにアドバイスをすることができます。たとえば,法的にトラブルが発生しないようにきちんとした契約書を作成することや,就業規則の作成を行ったり,何か行動を起こす前に,法的に問題がないかの確認を弁護士に依頼したり(リーガルチェックといいます。)するなど,顧問弁護士を利用することにより,紛争が発生することを防ぐためにお手伝いさせていただくことができます。

 機会があれば,ご説明させていただきますが,何かトラブルがおきてから弁護士に依頼するよりも,何かトラブルが起きないように弁護士に相談をする方がとても重要であるため,顧問業務については重要な仕事であると考えています。

 当事務所には,支払った顧問料を無駄にすることなく,積み立てることができる,「フレックス顧問契約」という形態をとっておりますので,顧問弁護士をご検討されている方につきましては,是非,一度ご相談ください。

2018.10.11

弁護士の仕事とは①

 第三者委員会のメンバーになったり,刑事事件の弁護人になったりと弁護士さんのお仕事の場面は色々あるのですね。弁護士がどんなお仕事をしているのかってあまり知る機会がないため,弁護士の仕事について教えてもらいたいです。

 

【弁護士からの回答】

 一般の方が日常生活を過ごす中で,トラブルに巻き込まれない限り,弁護士と関わり合うことが通常ないと思われます。したがって,弁護士の仕事がどのような内容であるかについては,あまり知る機会がないと思われます。そこで,今回から数回にかけて,弁護士の仕事の内容についてご説明させていただきます。

 

1 弁護士とは

 まず,弁護士についてご説明させていただきます。弁護士とは,司法試験という国家試験に合格し,国家資格を有する法律の専門家をいいます。弁護士になることで,他人の法律事件に関して報酬を得て代理行為などを行うことができます。逆をいえば,原則として他人の法律問題について,報酬を得て間に入ることができるのは弁護士だけということになります。

 

2 弁護士の仕事について

 弁護士の仕事について,大きく2つに分けると,①裁判業務と②裁判外業務の2つがあります。①の裁判業務については刑事裁判と民事裁判に分けられます。刑事事件の場合には,起訴された被告人の代理人(弁護人といいます)として,検察官が起訴した事実について,被告人が犯人ではない場合や,犯罪が成立しない場合には,無罪を主張し,逆に犯人であることや有罪であることが間違いない場合であっても,被害者と示談を行ったり,被告人を監督する親族等の証人として申請する等する弁護活動(情状弁護といいます。)を行います。

 他方,民事裁判では,契約関係のみならず日常生活での当事者間のあらゆる紛争について一方当事者の代理人として,主張を行うとともに,証拠とともに立証活動を行います。

 ②の裁判外業務については,簡単に言えば,弁護士が行う業務のうち,裁判業務以外の全て業務であり,交渉,書面作成,法律相談,法的なアドバイス等様々な活動があります。

 テレビドラマなどで俳優などが演じている弁護士はほとんどが,裁判での活動を行っているため,一般の方からすると,弁護士の活動はほとんど裁判所で仕事をしているといったイメージを持たれている方も少ないのではないかと思いますが,基本的に,弁護士の活動は,裁判外の業務の方が多いというのが一般的であると思います。

 今回は,弁護士の仕事の総論的な部分をお話しさせていただきましたが,次回からは具体的な内容についてご説明させていただきたいと考えております。

2018.10.09

保釈とは②

逮捕された段階では,保釈は認められないのですね。そういえば,保釈金ってニュースなどでみると,300万円とか500万円など非常に高い金額になっている気がしますが,保釈金の金額はどのようにして決まるのですか。また,一度保釈金を払ってしまうと,払ったお金を戻ってこないのですか。

 

【弁護士からの回答】

 前回は,保釈の定義や要件についてご説明させていただきました。今回は,保釈金について,その内容や保釈金の金額の決まり方についてご説明させていただきます。

 

1 保釈金とは

 保釈金とは,裁判所が保釈の決定を出す際に,被告人支払いを求める金銭のことであり,正確には,保釈保証金といいます。

 身体拘束から解放された被告人が逃亡することなく裁判所に出頭してもらうために一時的に裁判所に預けられる金銭になります。したがって,保釈金については,一度支払ったら戻ってこないものではなく,きちんと裁判所に出頭すれば,事件終了後に返金されることになります(これを還付といいます。)。しかし,被告人が正当な理由なく裁判所に出頭しない場合や,逃亡したり,証拠を隠滅しようとした場合には,保釈が取り消されることになり,その際に,保釈金も没収されることになります。このように,保釈金は,身体拘束から解放された被告人に対し,金銭をいわば人質として裁判所に預けさせることにより,きちんと裁判所へ出頭すること確保するためのものになります。

 

2 保釈金はどうやって決まるの?

それでは,この保釈金の金額はどのように決まるのでしょうか。

 刑事訴訟法93条2項では,「犯罪の性質及び情状,証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して,被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。」と記載されています。「被告人の出頭を保証するに足りる」金額,裁判官が「このぐらいの金額を預かっておけば,逃げずに裁判所に出頭してくれるだろう」と考える金額を支払わなければならないといっても過言ではないと思います。

 したがって,芸能人ではない一般人の方の保釈金であっても,200万円~300万円の支払いが要求されるのが通常です。これに対し,芸能人や高収入の方で,200万円程度では,出頭しなければならないという金額ではない場合には,数千万円,場合によっては億を越える金額が決定されることもあります。

 

3 最後に弁護士より

 保釈については,被告人が長期間身体を拘束されることによる,不利益を回避するために有意義な制度ではあるとは思います。しかし,無実の罪の方の場合を除き,起訴されて身体拘束されている人は,それだけ重大な犯罪を犯してしまったため,拘束されているという事実を忘れてはいけないと考えています。自分で犯してしまった罪と向き合い,もう二度と罪を犯さないようにするために,保釈をしないという方もいらっしゃいます。もっとも,保釈の必要性が認められる方も当然おられます。保釈を認めてもらうためには弁護士の協力が必要不可欠であるため,是非一度,弁護士にご相談ください。

2018.10.04

保釈とは①

芸能人や有名人が逮捕されてしばらくすると,裁判が始まる前に保釈されたというニュースを目にすることがあります。保釈とはどういった制度なのでしょうか。

どうして逮捕されてすぐに保釈をしないのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 犯罪を行い,逮捕されるといった事態が起きない限り,一般の方が保釈について知りうる機会は,上記のような芸能人などのニュースの場面でしかないのではないかと思います。そこで,今回から数回にかけて保釈についてご説明させていただきます。今回は,保釈の定義や要件をご説明させていただきます。

 

1 保釈とは

 保釈とは,刑事訴訟法により認められている制度で,被告人が一定の金銭の納付等を条件にして,勾留を停止し,身体拘束の状態から解放するものです。

 通常,犯罪を行い,逮捕され,起訴(刑事裁判にかけられることです。)されると(刑事手続きの正確な流れについては,別の機会にご説明させていただきます。),裁判が行われている期間については,留置場や拘置所いなければならず,身体が高速された状態になっています(この状態を勾留(起訴後勾留)といいます。)。起訴されてから裁判が始まるまでの期間については,事件の性質によっても異なりますが,最低でも3週間程度要するとされており(重大な事件の場合には数か月要する場合もあります。),その期間身体拘束が継続することによる不利益を回避するために,一定の要件を満たし,かつ金銭の納付をした者に対し,身体拘束から解放することを認めています。

 

2 保釈はいつからできるのか

 上記のように,保釈は,被告人,すなわち起訴された人のための制度であるため,まだ,逮捕されて起訴されていない人(被疑者といいます。)には保釈は認められていません。よく,逮捕された人やそのご親族から「すぐに保釈してください」と頼まれることがあるのですが,その際には,「残念ですが,起訴されるまでは保釈がそもそも認められていないのですよ」と説明することを繰り返しています。

 

3 保釈の要件は?

 保釈には,権利保釈,裁量保釈,義務的保釈という3つの種類があり,権利保釈は,刑事訴訟法に定めた事由(重大犯罪の場合,常習犯罪の場合,罪証隠滅の恐れがある場合)に1つも該当しない場合に必ず認められるものです。裁量保釈は,権利保釈が認められない場合であっても,裁判所が適当と認めるとき(失職の恐れがある場合,家庭の事情,逃亡や証拠隠滅の恐れの有無,捜査の進捗,示談の有無などを総合的に判断します。)に認められるものです。義務的保釈とは,あまりなされるものではありませんが,勾留による身体拘束が不当に長期間に渡っている場合に認められるものです。

 今回は,保釈の要件についてご説明させていただきました。次回は,保釈金などについてご説明させていただきます。

2018.10.02

どうして第三者委員会に弁護士が?

 ニュース等で,企業やスポーツ団体に不祥事などが起きたときに,第三者委員会というものが設置されるのを目にするのですが,第三者委員会のメンバーに弁護士の方が入っているのを見かけます。スポーツの専門家ではない弁護士がなぜメンバーに入っているのか気になりました。

【弁護士からの回答】

 ニュースでも連日,不祥事などの問題が多く報じられており,問題となっている事実等が存在したか否かについて,判断をする第三者委員会というものが設置されているのを目にされている方も多いのではないかと思います。そこで,今回は,第三者委員会における弁護士の役割についてご説明させていただきます。

 

1 第三者委員会とは

 第三者委員会という名称は,法律などで決まっているわけではなく,何らかの問題が発生したときに,当事者以外の外部の有識者によって,構成され,問題となっている事柄の存否,原因等を調査するための委員会のことをいいます。

 以前は,会社や団体内で問題が生じた際には,会社の担当者などが内々で調査をするというのが一般的でしたが,マスメディアやインターネットの発達により,こうした内部での調査に対しては,調査の客観性に対して疑念を持たれるようになったため,当事者ではない第三者に調査を依頼することにより,調査の信頼性等を確保することを目的としています。

 

2 弁護士の必要性について

 上記のように,第三者委員会では,事実の有無の調査,事実が存在した場合における適法・不適法(違法)の調査などが行われます。そして,弁護士の仕事の1つとして(弁護士の仕事の内容については,機会があればまとめてお話しさせていただければと考えています。),裁判での活動があり,裁判での弁護士の活動は,証拠に基づき事実を認定するよう裁判所に求め,または,その事実が法律の要件に該当するかしないかについて主張を行うことが求められます。

 このように,日々の業務において,弁護士は,事実の有無の判断や,事実の調査,当該事実の適法・不適法の判断等を専門的に行っているため,そのような弁護士が第三者委員会に参入することで,調査委の正確性や信頼性が確保されることになるため,多くの第三者委員会において,弁護士が委員として入ることになっています。

 もっとも,弁護士自身,団体の内部のルールやスポーツのルール等の独自の専門的分野については,知識がないのが一般的であるため,第三者委員会には,そうした当該分野の専門家や有識者もメンバーとして入ることもあります。 

 

3 最後に弁護士より

 このように,第三者委員会に弁護士が入ることにより,調査の公平性,正確性を確保することができます。もっとも,弁護士としての立場としては,企業などにおいてトラブルが発生する前に発生するリスクを発見し,リスクをなくしていくことが企業や団体にとって,とてもメリットが高いと感じています。

 したがって,企業の経営者の方には,企業の規模の大小にかかわらず,顧問弁護士をつけていただくことをおすすめしています。当事務所の顧問契約は,払い込んだ顧問料が繰り越すことができるフレックス顧問契約というものを採用しているため,是非一度ご検討ください。

 

2018.08.27

飲食店の無断キャンセルについて②

予約の段階で,お客さんとの間で契約が成立していると考えてもいいのですね。では,無断キャンセルされた場合にはいったいいくら請求できるのでしょうか。また,無断キャンセル等のトラブルを防ぐためには,どのような対策をしておくのが良いでしょうか。

【弁護士からの回答】

前回の記事では,飲食店の予約を無断でキャンセルした場合,店側はお客さんに対し,損害賠償請求を行うことができるとお伝えさせていただきました。

今回は,請求できる損害額や,トラブルを未然に防ぐための方法についてご説明させていただきます。

 

1 お客に請求することができる金額について

 損害賠償においてお客に請求することができる金額については,大きく2つの考え方があります。

 まず,予約の段階で,無断キャンセルの場合に請求することができる金額について,店と客側で合意ができている場合には,法的な観点からすると,損害賠償予定額に関する合意が成立していると認められるため,合意した金額を請求することができます。よく,旅館やホテル等の宿泊予約をする際に,旅行サイト等で,「宿泊日の7日前から,キャンセル料として宿泊代金の20%をいただきます」等と記載されているのを見かけると思いますが,利用者は,その記載を前提として予約しているため,損害賠償額に関する合意が成立していることになります。

 これに対し,損害賠償額についてあらかじめ合意ができていない場合には,実際に発生した損害を立証する必要があるのですが,これが非常に複雑であり,無断キャンセル問題が裁判等になるケースが少ない理由の1つです。予約していた飲食代金(例えば,5000円のコースを30人予約していた場合には,15万円となります。)がそのまま損害額になるかというとそうではなく,キャンセルにより空いた席にお客を入れることができたのか,料理の仕入れ額についても,損害として主張しうる損害ですが,食材についても他の客に提供することができたのではないかという点などを吟味しなくてはいけないため,損害額を確定するのに非常に手間がかかってしまいます。

 

2 無断キャンセルの問題点

 このように,無断キャンセルが起きたとしても,損害額の予定をしていない場合には,損害の算定が非常に困難になります。また,無断キャンセルにより,客側に請求することができる金額は,上記のように15万,20万円など,高額であるとは言い難い金額であるため,実際に飲食店側が裁判を起こすとなると,弁護士費用等を考えると,裁判を起こす方が,費用がかかってしまうことが多いです。さらに,予約者の情報をきちんと入手しておかないと,そもそも,予約者の所在がわからず,そもそも請求すること自体ができない場合もあります。このように,無断キャンセルが起きたとしても,現実問題として客側に請求や訴訟提起しずらいことから,無断キャンセルが横行してしまっている状況です。

 

3 飲食店側の対策について

 このように,ひとたび,無断キャンセルのトラブルに巻き込まれてしまうと,その損害を回復することは現実的に難しい場合もあるので,飲食店としては,そのようなトラブルに備えておく必要があります。

 具体的には,①予約者の身元をしっかり確認することが重要です。代表者の名前,住所,連絡先だけでなく,団体の場合には,所属団体(サークルであれば大学名,会社であれば企業名)等はきちんと確認した方がよいでしょう。所属団体について,把握しておけば,万が一,無断キャンセル等が行われたとしても,大学や会社に対し苦情の連絡を入れることで,後日,解決する可能性も残すことができます。

 また,②先程述べた通り,無断キャンセルに対する違約金についてはあらかじめ,予約者との間で合意しているという状況を作るために,電話での予約の際にはキャンセル料を伝えたり,予約サイト等にもキャンセル料について明記しておいた方がよいでしょう。

 さらに,③大人数での予約の場合には,キャンセルになった際の損害をきちんと回収できるよう,あらかじめ,予約金や,前払金等の支払いを求めておけば,無断キャンセルのリスクを防ぐこともできるし,万が一,キャンセルが起きたとしても,損害を填補することができるのではないでしょうか。

 

4 最後に

 このように,飲食店の無断キャンセルについては,きちんと対策をとっていないと,トラブルに巻き込まれてしまい,店に大きな損害を与えてしまうことにもなりかねません。当事務所では,フレックス顧問契約という業務時間が繰り越せる顧問契約のシステムをとっているため,顧問料の範囲内で,無断キャンセルに関する問題に取り組むことも可能であるため,もし,飲食店を経営されている方で無断キャンセルの等のトラブルに巻き込まれてしまった場合には,是非一度ご相談ください。

2018.08.22

飲食店の無断キャンセルについて①

飲食店を経営しているのですが,1月前に飲み放題込みのコースを50名で予約してもらっていたのですが(大学のサークルでの飲み会とのことでした),当日,1人も来なくて,代表の方に何度も連絡してもつながりません。50名での予約でしたので,その日は貸し切りにしており(予約の電話もあったのですが,お断りしました。),人数分のコースの材料も仕入れており廃棄しなければならない食材も出てしまいました。

事前にキャンセルの連絡をくれるならまだしも,何も連絡なく,あまりにもひどいと思うのですが,無断キャンセルした人に対して損害賠償の請求はできるでしょうか。

【弁護士からの回答】

 ご相談者様の事例のように,飲食店の無断キャンセルについては,予約した客側にとっては,軽い気持ちでしていることであっても,飲食店側にとっては,大きな損害を被るものであり,一時期,ニュースなどで取り上げられる問題にもなりました。そこで,今回から2回にかけて,飲食店の無断キャンセルに関する問題についてご説明させていただきます。

 

1 飲食の予約した時点での法的関係は?

 まず,お客との間で予約が完了した際には,どのような状態になるのでしょうか。これに関しては,法律で定められているわけではないのですが,一般に,予約が完了した時点で,客側からお予約した日時における飲食物の提供というサービスの提供の申し込みと店側の飲食物を提供する旨の承諾が認められるため,予約の完了の時点で,予約した日時におけるサービス提供契約が成立していると考えられています。「まだ,予約の段階だから契約は成立していないのではないですか。」という考えもあるとは思いますが,売買予約等の場合には,実際に売買を締結するか否かについては,未定であるのに対し,飲食店での予約については,その日にサービスの提供を受けることについては決定しているため,予約の時点で契約が成立していると考えるのが一般的です(個人的にはこの「予約」という言葉が使われることによって,安易な無断キャンセルが横行してしまうのではないかと考えています。)。

 

2 無断キャンセルの法的効果

 上記のように,飲食店での予約の完了の時点で,サービス提供契約が成立している以上,飲食店側はサービスを提供(場所及び飲食物の提供等)する義務(債務)を負い,客には,代金を支払う義務が発生することになります。したがって,客側が,店に何ら連絡を行うことなく,無断キャンセルをした場合には,客側の事情(帰責事由)により,代金を支払っていないことになるので,客側は,店に対し,店が被った損害を賠償する義務を負うことになります。

 また,仮に,客側がキャンセルの連絡を入れた場合でも,上記のように,いったん契約が成立している以上,客側の一方的な意思により契約を終了することはできません。客側のキャンセルの申し出に対し,店側がキャンセルを承諾し,客に賠償請求しないと約束した場合に限り,客は何のペナルティを課せられることなく,キャンセルができることになります(これを契約の合意解約といいます。)

 このように,飲食店の予約については,安易な気持ちでキャンセルしてしまうと客側にも損害賠償責任が課せられるリスクもあるため,予約についても慎重に行う必要があります。

 次回では,店から客に対する損害賠償請求や,無断キャンセルのトラブルを未然に防ぐための対策等についてご説明させていただきます。

2018.08.20

労働契約書がないのは違法?

新卒で就職し,4月から働いているのですが,働き始めてから4か月たっても,会社との間で雇用契約書を作成していません。上司には雇用契約書を作成してほしいと頼んだのですが,「ウチの会社では契約書は作っていない」と言われてしまいました。雇用保険の手続きは終わっているのですが,契約書を作成しないのは違法なのではないでしょうか。とても不安です。

 

【弁護士からの回答】

 会社員として勤務するうえで,自分がどのような労働条件で雇用されているのかについては,生活にもかかわる非常に重要な事項であることについては間違いありません。そこで,今回は,雇用契約書などの労働条件に関する書面についてご説明させていただきます。

 

1 労働条件の明示について

 労働基準法15条では,労働契約を締結する際には,労働者に対し,賃金,労働時間等の労働条件を明示することを,使用者に義務付けています。また,労働条件の明示の方法は,労働基準法施行規則にて,書面にて行うことが義務付けられています。この労働条件の明示義務については,労働者が正社員であろうがパートタイムであろうが関係なく,使用者に義務付けられているものです。

 もっとも,上記のように,労働条件に関しては書面にて明示することが義務付けられているものの,雇用契約書の作成が義務付けられているわけではありません。書面での明示の方法としては,契約書を作成するほかに,労働条件通知書等の書面を労働者に交付する方法や,就業規則を労働者に交付することでも足りるとされています。

 したがって,ご相談者様の事例でも雇用契約の締結の際に,何らかの形で労働条件に関する書面が提示されていれば,使用者にはそれ以上に,雇用契約書を作成するまでの義務はありません。

 なお,書面にて明示された労働条件が実際の労働条件と異なる場合には,労働者は即時に労働契約を解除することができます。

 

2 契約書を作成してもらえないときは

 では,ご相談者様のように,会社にて雇用契約書を作成してもらえない場合にはどのように対処すればいいのでしょうか。

 まず,ご自身が採用された際に,労働条件通知書など労働条件が記載された書面を会社から渡されていないかを確認してください。それが渡されていないのであれば,そもそも労働基準法に違反しているため,後々に,労働条件が不利な内容に変更されてしまう恐れもあるため,きちんと労働条件に関する書面を提出してもらうか,労働契約書の作成を求めた方が良いでしょう。

 それでも会社から書面等を出してもらえないということであれば,通常の会社であればそのような書面を出すことに何ら抵抗はないはずなので,問題のある会社であることは容易に想像できるため,残念ですが,合わないと感じるのであれば転職を考えるか,労働基準監督署等への相談を検討されてもよいかもしれません。

2018.08.17

自然災害と賠償責任

先日,台風が私の住んでいる地域を襲いました。とても強い風であったため,隣の家の堀が倒れ,そのブロックが飛んできて,私の家の窓ガラスを割ってしまいました。隣の家の所有者に家の補修を請求しても良いのでしょうか?自然災害なので自己負担になるのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 平成29年の九州北部豪雨や,今年の西日本豪雨等,温暖化の影響なのか,自然災害と多くの人が命を落とされてしまう事態が生じています。

 そこで,今回は,自然災害が原因で生じたトラブルについてご説明させていただきます。

 

1 過失責任の原則

 契約関係がある場合以外で,他の人が被った損害を賠償する義務を負う際には,請求されている人に落ち度(過失)がある必要があります。このように,不不法行為の損害賠償責任については,過失がなければ賠償責任を負わないことを過失責任の原則といいます。

 この過失責任の原則からすると,地震や台風などの自然災害が原因で発生した損害については,他人の故意又は過失によって発生した損害ではないため,原則として誰かに損害賠償を請求することはできません。

 

2 工作物責任

 上記の過失責任の原則の例外として,土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を与えた場合には,占有者(損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときには免れます。)または所有者が損害賠償責任を負うことになります。土地の工作物とは,人工的作業によって土地に接着されたものをいい,コンクリートのブロック塀などは土地の工作物に含まれます。

 

3 本件について

 本件のブロック塀も土地の工作物に含まれることについては,争いはないと思われます。したがって,本件での争点は,近隣のブロック塀に「瑕疵」が存在していたかになります。具体的には,台風が来る以前から塀が崩れかかっていた場合には瑕疵が認められるでしょう。もっとも,従前から瑕疵があることに関しては,事故後に立証することは難しいので,台風が起きる前にそのような瑕疵があると思われる箇所を写真などで撮影しておくことでもない限り損害賠償請求は難しいのではないかと思います。

 

4 最後に

 このように,災害をきっかけとした事故であっても,場合によっては工作物の所有者(民法717条2項では竹木の植栽などに瑕疵がある場合も賠償責任を認められているので,例えば倒れかかっている樹木を放置していた場合には,樹木の所有者が賠償責任を負うことになります。)が賠償責任を負わなければならない事態も発生しますので,災害に備えて家や樹木などの点検も必要になってくるのではないかと考えています。

2018.07.06

政治家,芸能人のゴシップは名誉毀損?

【相談事例⑮】

前回の記事で,不貞をしているのを公にしたら名誉毀損罪が成立し,損害賠償を請求することができると記載されていたのですが,芸能人の不倫や,政治家の不倫が週刊誌などで報じられているのは名誉毀損として出版社等は罪に問われないのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 近年,週刊誌により,芸能人や政治家の不倫などのスキャンダルが頻繁に報じられていますが,このような週刊誌によるスキャンダルに関する報道と,名誉毀損罪若しくは,損害賠償請求の関係についてご説明させていただきます。

 

1 はじめに

 前回の記事でお伝えした通り,他の異性と不倫(不貞)をしているという事実は,一般的に公にされた人の名誉を毀損することは明らかであり,それは,公にされる人が芸能人であっても政治家であっても,名誉が害されることに変わりはありません。

2 政治家の場合

 刑法230条の2の2項では,名誉毀損罪に該当する行為が,「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定されており,政治家(国会議員)も公務員であるため,名誉を毀損する内容が真実である場合(もしくは虚偽であったとしても真実であると信じたことについて,確実な資料等により相当の理由があると認められる場合)には,名誉毀損罪は成立しないことになります。これは,国会議員等の政治家は,国民の代表として,いわゆる「公人」として存在している以上,公人に関する事項は,公人の名誉よりもその事実を周囲に発表することにより国民の利益(表現の自由や知る権利)を尊重すべきと考えられているからです。

 

3 芸能人の場合

  では,スキャンダルを報じられたのが,芸能人の場合はどうでしょうか。芸能人は当然,公務員ではありません。また,刑法230条の2第1項では,「公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定していますが,芸能人のスキャンダルが,公共の利害や公益とは無関係であることは明らかであると思います。

 したがって,芸能人のスキャンダルに関しては,名誉毀損罪が成立しうることになりますし,プライバシー権を侵害しているとして,損害賠償を請求しうることになります。芸能人として世間にみられる立場である以上,プライバシー権を放棄しているというような極端な考えもありますが,そのような考え方は一般的ではありません。

 しかし,名誉毀損罪として処罰の対象となるためには,被害者が告訴をしなければならず,告訴がなければ犯罪として処罰することはできません(これを親告罪といいます。)。したがって,週刊誌によるスキャンダルのほとんどのケースでは,罪自体は成立しうるものの,暴露された芸能人が,今後の活動の影響などを考えて,告訴をしていないのではないかと考えられます。

 また,民事訴訟においても,損害賠償として請求することができる金額は多くて数百万程度であり,内容によっては数十万程度しか認められない場合もあります。したがって,マスコミ側としても,そのような少額の賠償を払うリスクよりも,その内容を記事にすることによる利益を優先してしまっているのではないかと考えています。

 とはいえ,ひとつのマスコミの記事により,芸能人としての活動やその後の人生まで大きく変えられてしまう人も少なくないと思いますので,マスコミの報道の仕方についても,行き過ぎた取材は報道に対しては,裁判所での制裁だけではく世間としての見方も変えなくてはならないのではないかと感じています。

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