弁護士コラム

2026.08.10

相続した老朽アパートを建て替え・売却したい場合の進め方|入居者への明渡しを検討するうえでの注意点を弁護士が解説


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相続した老朽アパートを建て替え・売却したい場合の進め方|入居者への明渡しを検討するうえでの注意点を弁護士が解説

 

相続したアパートや賃貸マンションが老朽化していると、建て替えや売却を検討する一方で、入居者にどのように明渡しをお願いすればよいのか悩まれる方も少なくありません。もっとも、入居者がいる不動産では、貸主の都合だけで退去を求められるわけではなく、誰が貸主として交渉できるのか、建物の老朽化をどのように説明するのか、借地借家法上の正当事由があるのかを整理する必要があります。本記事では、相続した老朽収益不動産の建て替え・売却を検討している方に向けて、明渡しを進めるうえでの注意点を弁護士が解説します。

第1章 相続した不動産について誰が貸主として対応できるのかを整理する

1-1 相続しても賃貸借契約は当然には終了しない

相続により不動産の所有者になったとしても、入居者との賃貸借契約は基本的に引き継がれます。そのため、親から相続した物件だから自由に処分できる、建て替えや売却をしたいからすぐに退去を求められる、と考えていると予定通りに進まないことがあります。
相続で引き継いだ不動産は、「貸主の地位をそのまま承継する」ことと同時に、「入居者の契約上の地位も引き続き保護される」ことが前提です。

1-2 遺産分割協議と相続登記を済ませ、貸主を明確にする

相続人が複数いる場合には、まず不動産を誰が取得するのか、売却するのか、共有のまま保有するのかを整理する必要があります。不動産全体の建て替えや売却は、原則として所有者全員の同意が必要になるため、相続人間で方針が決まっていない状態では、入居者に明渡しをお願いしても、その後の売却や建て替えに進めない可能性があります。
また、遺産分割協議によって不動産を取得する相続人が決まった場合には、その内容に基づいて相続登記を行うことも重要です。登記名義が亡くなった方のままでは、買主への所有権移転登記を行うことができず、売却手続を進めるうえで支障が生じます。

1-3 管理会社がいる場合でも貸主側の法的判断は必要になる

不動産管理会社が入っている物件では、入居者への連絡や日常的な管理を任せていることがあります。しかし、建て替えや売却を前提に明渡しを求める場面は、通常の管理業務とは性質が異なります。
退去をお願いする時期、立退料の有無、提示条件、合意書の内容などは、貸主側の法的・経済的な判断を伴います。管理会社が窓口になる場合でも、どのような内容を入居者に伝えるのか、どの条件まで提示できるのかは、貸主側で把握しておく必要があります。
特に、入居者が退去に応じない場合には、借地借家法上の正当事由や法的手続の見通しも問題になります。紛争性のある交渉代理や法的手続への対応が必要になる場合には管理会社だけで対応することが難しく、弁護士への相談が必要になる場合があります。それも踏まえ、貸主自身も都度状況を把握しておく方が、弁護士への説明もしやすくなります。

第2章 建物の状態を把握して、方針を整理する

2-1 築年数だけでなく老朽化の程度を客観的に確認する

老朽化を理由に明渡しを検討する場合、築年数は一つの目安になります。しかし、築年数が古いというだけでは、入居者に退去を求める理由として十分とは限りません。同じ築年数の建物でも、修繕履歴や管理状況によって、建物の状態は大きく異なるためです。
雨漏り、外壁の劣化、給排水設備の不具合、階段や手すりの腐食、耐震性への不安など、具体的にどのような問題があるのかを客観的に整理しておく必要があります。たとえば、建物診断の報告書、写真、修繕履歴、管理会社からの報告などは、老朽化の程度を説明する客観的な資料になります。

2-2 入居者付き売却と明渡し後売却では法的対応が異なる

老朽化した不動産を売却する場合、入居者付きの収益物件として売却するのか、明渡し後に売却するのかによって、必要な対応は異なります。
入居者付きで売却する場合には、賃貸借契約を前提として、買主が貸主としての地位を引き継ぐことになります。そのため、賃料、敷金、滞納の有無、契約内容、修繕履歴などを整理しておく必要があります。
一方、明渡し後に売却する場合には、入居者との間で退去時期や条件について合意する必要があります。合意できなければ、調停や訴訟などの法的手続が必要になることもあり、売却スケジュールにも影響します。

なお、明渡し後に売却する方が常に有利とは限りません。
立退料、交渉期間、法的手続の可能性も踏まえ、入居者付きで売却する場合と明渡し後に売却する場合の違いを整理しておくことも大切です。

第3章 貸主から入居者に明渡しを求める場合の借地借家法上の考え方

3-1 普通借家契約では貸主の都合だけで退去を求められない

居住用の賃貸物件では、普通借家契約が用いられていることが多くあります。
普通借家契約の場合、契約期間が満了したからといって、貸主が当然に契約を終了できるわけではありません。そのため、建物が老朽化している、建て替えをしたい、売却を進めたいという貸主側の事情があっても、それだけで直ちに入居者へ明渡しを求められるとは限りません。
まずは、入居者との契約が、更新が予定される普通借家契約なのか、定期借家契約なのか、契約期間や更新条項がどうなっているのかを確認し、そのうえで明渡しを求める法的な見通しを検討する必要があります。

3-2 正当事由では貸主側と入居者側の事情が総合的に判断される

正当事由は、貸主側の事情だけで判断されるものではありません。
たとえば、安全面に不安があるなど建物の老朽化が著しく進んでおり、今後も賃貸を継続することが難しい事情がある場合には、貸主側の事情として考慮される可能性があります。
一方で、入居者が長期間居住している場合や、高齢で転居先を探すことが難しい場合などには、入居者側の事情も重く見られることがあります。
明渡しを求める場面では、貸主にとっての必要性だけでなく、入居者にどのような影響が生じるかも考える必要があります。

3-3 老朽化だけで正当事由が認められるとは限らない

建物が老朽化していることは、正当事由を判断するうえで重要な事情の一つです。
もっとも、建物のどの部分がどの程度劣化しているのか、修繕では対応できないのか、建て替え計画がどの程度具体化しているのか、今後も入居を継続させることにどのような支障があるのかが問題になります。
そのため、第2章で述べたように、建物診断の報告書、写真、修繕履歴、管理会社からの報告などを整理しておくことが重要になります。

3-4 立退料は正当事由を補う事情として検討する

明渡しの話し合いでは、立退料が問題になることがあります。
立退料とは、入居者が退去することに伴う負担を軽減するために、貸主側から支払われる金銭を指します。具体的には、引越費用、転居先の初期費用、移転に伴う負担などを考慮して検討されます。
ただし、立退料を支払えば必ず明渡しが認められるわけではありません。
立退料は、正当事由を補う事情の一つとして位置づけられるものであり、建物の老朽化の程度や建て替えの必要性など、他の事情とあわせて考えられます。

また、立退料を提示する場合には、金額だけでなく、いつ支払うのか、明渡しとどのように連動させるのかも整理しておく必要があります。退去前に全額を支払うのか、鍵の返還や室内確認後に支払うのかによって、貸主側のリスクも変わります。
立退料は、入居者との合意形成を進めるうえで重要な要素になりますが、安易に金額だけを提示するのではなく、支払条件も含めて慎重に検討することが大切です。

第4章 入居者対応を進める際の交渉・合意書・法的手続の注意点

4-1 入居者に伝える前に退去希望時期と提示条件を整理する

入居者に明渡しをお願いする場合には、事前に貸主側の条件を整理しておく必要があります。具体的には、いつ頃までに退去してもらいたいのか、立退料や引越費用を検討するのか、敷金をどのように精算するのか、原状回復や残置物をどう扱うのかといった点です。
これらを整理しないまま退去の話を始めると、入居者から質問を受けても十分に説明できず、話し合いが進みにくくなることがあります。
明渡し交渉では、貸主側の希望だけでなく、入居者の転居準備に必要な期間も考慮する必要があります。退去希望時期や提示条件を事前に整理し、無理のない形で話し合いを始めることが大切です。

4-2 管理会社任せにせず交渉経過を記録する

管理会社が入居者との窓口になる場合でも、貸主側で交渉経過を把握しておくことが重要です。
明渡しの話し合いは、口頭で進むことも少なくありません。しかし、口頭だけでやり取りを続けると、後から言った言わないの問題が生じやすくなります。そのため、いつ、どのような内容を伝えたのか、入居者がどのような反応をしたのか、どのような条件を提示したのかなどを記録しておきましょう。
特に、退去時期や立退料は、後にトラブルになりやすい部分です。
面談記録、メール、通知書、提示条件の履歴などを残し、貸主・管理会社・専門家の間で情報を共有できる状態にしておくことが望ましいです。

4-3 合意できた場合は明渡合意書で条件を明確にする

入居者が明渡しに応じる場合でも、口頭の合意だけで進めることは避けた方がよいです。
退去日、立退料の金額、支払時期、鍵の返還、残置物の扱いなどについて、明渡合意書で明確にしておく必要があります。
たとえば、退去日は決まっていたものの、立退料の支払時期について認識が違っていたり、残置物を貸主が処分してよいのかが曖昧だったりすると、退去直前や退去後にトラブルになることがあります。
明渡合意書は、退去することを確認するだけの書面ではなく、退去までの条件を明確にし、後日の紛争を防ぐための重要な書面です。
入居者との話し合いがまとまった場合には、実際に退去が完了する前に、合意内容を書面化しておくことをおすすめします。

4-4 入居者が応じない場合は自力対応を避け法的手続を検討する

入居者が明渡しに応じない場合でも、貸主が強引に退去させることはできません。
たとえば、鍵を交換する、荷物を搬出する、ライフラインを止めるといった対応は、貸主側が損害賠償責任を問われる原因になることがあります。
話し合いで解決できない場合には、調停や訴訟などの法的手続を検討することになります。
特に、普通借家契約で明渡しを求める場合には、正当事由の有無が問題になり、建物の老朽化の程度、建て替えや売却の必要性、入居者側の事情、立退料の提示などを資料に基づいて整理する必要があります。

法的手続には一定の時間がかかります。建て替えや売却の予定がある場合には、明渡しが予定通りに進まない可能性も踏まえて、スケジュールに余裕を持たせることが大切です。
入居者が退去に応じない場合には、早めに弁護士へ相談し、法的にどのような選択肢があるのかを確認して進めることが望ましいです。

まとめ

相続した老朽収益不動産について建て替えや売却を検討する場合、入居者への明渡しだけを先に進めようとすると、さまざまな問題が生じることがあります。まずは、誰が貸主として対応するのか、建物の老朽化をどのような資料で説明できるのか、入居者にどのような条件を提示するのかを整理することが重要です。また、相続した不動産では、相続登記や税務面の検討が関係してくる点にも注意が必要です。
Nexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスでは、相続した不動産の名義整理や入居者対応、相続税対策まで見据えたワンストップでのサポートが可能です。老朽化した収益不動産の扱いに悩まれている方は、現在の状況を整理するところからご相談ください。

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