弁護士コラム

2019.05.09

マイナンバーの将来予測~先進国の事例から

マイナンバーの利活用に当たっては、2015年6月30日の政策閣議で決定された「世界最先端IT国家創造宣言(修正版)」がその道標として参考になります。宣言には、医療分野や金融等にも活用していく展開について、今後の継続的検討課題として挙げられており、こうした活用が拡がれば、国民の利便性は飛躍的に高まると考えられています。

世界でも最高水準といわれる韓国の電子政府やID活用方法をはじめ、先進国の事例をヒントとしてひも解き、日本のマイナンバー制度の活用法の将来を考えてみましょう。

1.先進諸国のIDカード制度

マイナンバー制度と同様のIDカード制度は、先進諸国ではすでに導入されています。アメリカのソーシャル・セキュリティ・ナンバー(社会保障番号)をはじめ、EU諸国やアジア地域でも、同制度はなくてはならないものになっています。

翻って日本を振り返ると、行政の手続きが煩雑且つ非効率で、そうした背景が外国人の企業を妨げる一因となっているとも言われています。こうした行政の手続きの煩雑さを解消するためにも、マイナンバー制度が始まったとも言えるわけですが、先進国の事例をひも解くことによって、マイナンバー制度の方向性がある程度見えてくるかと思います。
特に参考になるのは、世界最高水準とも言われる韓国の制度「e-GOV3.0」です。

2.世界最高水準と言われる韓国の電子政府「e-GOV3.0」

この電子政府は、他人への成りすましといった様々な問題も生んではいるものの、そのデメリットを補ってあまりあるメリットをもたらし、国民の利便性の向上を実現させました。世界各国の政府関係者が視察に行くことも少なくないようです。

実際に韓国の行政機関(税務署、市役所、ハローワーク等)に足を運んでみると、人がいないことに驚きます。電子化によって様々な手続き業務が自宅や会社のPC等でできてしまうため、日本のようにわざわざ役所等に出向く必要がないのです。

3.ID活用により年末調整業務がなくなる?

韓国では、個人のID番号(または携帯電話番号)を買い物の際にレジで提示することで、経費処理が幅広く認められています。
また、国税庁は、ID番号の提示を簡素化させる目的で「現金領収証カード」というものを希望者に配布しているため、IDカードの現物を持ち歩く必要もないようです。

韓国では、この購入履歴の蓄積により、確定申告時期には個人ごとのポータルサイトに、「あなたの確定申告書ができ上がりましたので承認ボタンを押してください」といった通知が届き、サイト内で税金の不足分の入金や還付手続きができてしまいます。
従来の「国が国民に申告を促す」から、「集まった情報をもとに、国が国民に申告書を提供する」という高次元のフローが実現しています。

この仕組みが構築された結果、企業での年末調整業務がなくなり、個人が確定申告する流れに変わったことで、企業の総務部門はスリム化し、現地の税理士の仕事も代行業務からコンサルティングへとシフトしたと言われています。

日本において、消費税の増税にともなう軽減税率の処理のために、国民がスーパー等で買い物をする際にマイナンバーを提示する案が以前検討されていましたが、この「e-GOV3.0」を意識しているものと推測できます。

4. マイナンバーの医療分野への利活用

ここまで韓国の電子政府「e-GOV3.0」の事例から、主に税分野で今後どのように利活用が拡がるかについて、ひも解いてみました。
それ以外でも、頭書のとおり「世界最先端IT国家創造宣言(修正版)」においてマイナンバーの活用の拡大が予定される分野が挙げられています。中でも、国民医療費が増大しているなかで、医療分野への活用は必然となっていると言えます。

医療制度と介護制度が将来的に統合されていく可能性があるなか、介護保険関係の給付等でマイナンバーの紐づけが行われることがすでに決定しており、2015年9月に成立した改正マイナンバー法においても、以下の場面でマイナンバーを活用することが決定しました。

・メタボ検診にマイナンバーを紐づけ
・予防接種の履歴管理をマイナンバーで実施

直近の方向性として、政府は2019年2月15日、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようにすることを盛り込んだ健康保険法などの改正案を閣議決定、2021年3月からの施行を目指しています。

これは、医療機関における診療報酬の請求事務で、間違った保険証を提示する、例えば退職したにも関わらず前職の健康保険証を提示するといった患者からの請求ミスなどがあまりにも多い状況の改善を図る施策です。

これまで、医療機関としては本人の申告を信じるしかなかったのが、ICチップ付きのマイナンバーのカードを用いるようになれば、カードを照会することで診療報酬の請求間違いと混乱の防止につながることが期待されます。

また、地域内の医療機関等との情報共有にもデータ照会が活用され、薬剤管理等が統一的に行われていくものと考えられます。つまり、重複受診の抑制による薬剤費等の医療費の抑制に大きく寄与するとことが期待できるのです。

国民の視点に立っても、確定申告時に請求書等の整理が不要になる可能性もあることから、利便性の向上且つ国民医療費の削減という国家的課題の解決にもつながり得ると考えられます。

5.まとめ

政府は、東京オリンピックが開催される2020年をめどに、「ITイノベーション社会の実現」「国民生活の豊かさ向上」を目指しています。来る日までに、多くの国民がICチップ付きのプラスチック製「個人カード」を保有することになると考えられています。

そうした環境が整えば、企業における総務業務の多くも、入退社手続きを含めた各種手続きの社内からのオンライン申請が可能となると思われ、国民にとっても企業にとっても効率的な社会が実現することが予測されます。

その反面、マイナンバーが医療分野はじめあらゆる分野と紐づけられることで、情報漏えい時のリスクも甚大となる事から、情報漏えいを防ぐ体制づくりが今後より一層の課題となります。

2019.05.09

【不動産】賃貸物件からの退去の流れと確認すべき点

賃借人が賃貸物件から転居するとき、賃貸人との間で居住している賃貸物件の退去手続、敷金の清算等が必要になります。明日退去しますと言って荷物を持ち出すだけで、簡単に全ての手続きが完了するものではありません。

以下では、退去手続が一般的にどの様な手順で進み、退去する前に確認しておくべき点として何があるか等について説明します。

① 解約日の調整

賃借人が、転居が決まって最初に行うことは、賃貸人との間で賃貸借契約の解約日を確定させることでしょう。引っ越す日を決めて、実際に明け渡しが完了し、鍵を返却できる日を固めなくてはなりません。

では、解約日は賃借人が希望した日がそのまま解約日になるのでしょうか?まずは、賃貸借契約書の解約予告に関する条文を確認する必要があります。一般的には、居住用賃貸マンションであれば、賃借人から賃貸人に対し賃貸借契約を解約する旨の連絡がなされた日から1ヵ月後若しくは2ヵ月後を最短の解約日とするものが多いです。

当然、解約日までの賃料は発生するため、転居先の契約日(賃料発生日)をよく確認して、現住居、転居先の二重契約になる期間を可能な限り少なく調整出来ると経済的な負担も少なくなります。

ただ、あまり早く新しい転居先を探そうと思っても、なかなか物件が見つかりませんし、二重契約を避けるためにギリギリで転居先を探そうと思ってもなかなか思うような物件が見つからないものです。
多少は賃料が二重で発生することも覚悟した方が、結果として良い物件探しができるかもしれません。

② 明渡しの準備

賃貸借契約を解約するということは、賃借人は解約日以降、部屋を使用する権原が無くなり、賃貸人へ明け渡すことが必要となります。
明渡しの際に何をどこまで行わなくてはならないかについては、貸借契約書の明渡しに関する部分を確認する必要がありますが、一般的には、解約日までに「①室内にある私物の撤去」「②賃貸人への鍵の返却」「③電気・ガス・水道の解約」を行うことで明渡しは完了したことになります。

仮に、解約日なっても私物の撤去が完了していない場合は、どの様に取り扱われるのでしょうか?
賃貸借契約において、明渡しの条件に私物の撤去が定められている場合、賃貸人へ部屋の鍵を返却していたとしても明渡しが認められない可能性があります。
しかし、解除日が到来することで賃貸借契約は解約されており、賃借人は何の権原もなく部屋を使用している状況となるため、不法占拠と見なされる可能性があります。

不法占拠と判断された場合、明渡しが完了するまで、賃貸借契約に定められた賃料相当損害金を請求されることが一般的です。賃料相当損害金についての取り決めは個々の賃貸借契約書の確認が必要ですが、一般的に賃料の2倍から3倍の金額と定められていることが多いでしょう。

以上の通り、解約日までの明渡しが完了しないときには、大きな経済的負担が発生することもあるので、必ず解約日までに明渡しを完了させることを心がけましょう。

③退去立会い

明渡しの準備が整うと、解約日迄に賃貸人との退去立ち合いを行うことが一般的になります。退去立会いが義務化されているかは、賃貸借契約の内容により異なるため確認が必要となります。

退去立会いの主な目的は、「①私物の撤去等を含め建物の明け渡しが完了していることを賃貸人との間で互いに確認すること」、「②賃貸人に対する鍵の返却」、「③室内の損傷等の状態について互いに確認すること」、の3つとなります。①及び②の必要性については前述している通りのため割愛し、③の趣旨、内容について説明します。

賃貸人は、空室となった部屋へ新しい賃借人を募集しますが、当然、他人が使用した部屋をそのまま借りる人は居ないため、退去する賃借人が入居する前の状態に戻すための様々な工事を行います。
原状回復工事にかかる費用を誰がどこまで負担するのかは、各賃貸借契約により異なり、現時点では原状回復の負担割合について法律では定められておりません(2020年4月施行予定の民法改正において新たに原状回復の定義について盛り込まれることが予定されています)。

そこで、現在は原状回復の費用負担について詳細な取り決めがなされていない場合、国土交通省が発行している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に処理をされることが一般的となっています。
ガイドラインでは大まかに、通常の生活を原因とする通常損耗の工事費用については賃貸人、賃借人の故意、過失により補修等が必要となった部分については賃借人が工事費用を負担することが推奨されています。

そこで、退去立会いでは、賃貸人と賃借人が一緒に室内を確認することで、賃借人の故意・過失に基づく損傷部位を確認し、原状回復の内容について確認を行い、原状回復の負担割合について現場を確認しながら説明を受ける機会となります。
仮に、退去立会いを実施しないとなると、後々の原状回復費用の負担割合で賃貸人との間に認識の違いが生じ、紛争に結び付くことが多くあります。
賃借人自身の利益を守るためにも、退去立会いは積極的に実施しましょう。

なお、地域によっては、「敷引き」といって、敷金を一切返金せず、その代わりに一般的な原状回復はその範囲で完了させるのが一般的な地域もあります。
そのような地域では、原状回復工事の内容がどうであれ、賃借人に敷金の返金がされないため、退去立会いを行わないことが一般的な地域もありますので、ご注意ください。

④敷金清算

退去立会いが完了し一定期間が経過すると、賃貸人より原状回復費用等の見積りを含む敷金の清算書が送付されてきます。

原状回復費用の見積もりについては、退去立会いのときに受けた説明と違いがないかを中心に確認する必要があります。

敷金の清算書は、預け入れている敷金から何に基づきいくら引かれ、最終的な過不足がどうなるかの確認が必要となります。基本的には、敷金から賃借人が負担する原状回復費用、未払賃料等の金銭債務を差し引かれ、敷金に余剰があれば賃借人へ返還され、敷金が不足すれば不足費用を賃貸人に支払うことになります。

また、契約によっては敷金を敷引きとして取り扱っていることがあります。敷引きの場合は、敷引き金から原状回復費用等を差し引き余剰が出ても、賃借人への返還はなされないことになっています。しかし、敷引きは金額が極端に高額であれば契約が無効となる可能性もあるため、状況によっては専門家への相談も考慮すべきかもしれません。

⑤まとめ

今回は賃貸物件の退去について一般的な流れ、注意点を説明しましたが、退去にかかる細かい条件については賃貸借契約の内容により個別に変わるため、事前に賃貸借契約の内容を確認することが大切になります。
また、原状回復の費用負担、敷金の清算内容についてはトラブルになることも多いため、退去清算についての話が纏まらない場合には弁護士など専門家への相談も一つの方法となります。

2019.05.06

【不動産】マンション設備に関する売主の説明義務

「駐車場付きマンション」という広告・説明を受けてマンションを購入したのですが、実際には、マンションとは別に第三者である地主と駐車場の賃貸借契約を締結しなければなりませんでした。こんな時、分譲業者には責任を追及することは可能でしょうか?

1. 売主の説明義務に関する一般論

売買契約における売主の本来的な義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することです。しかしながら、マンション購入の意思決定に際し重要な意義を持つ事項に関しては、売主には、信義則上の付随義務として説明義務が認められます。

2. マンション設備に関する売主の説明義務

まずは、マンション販売に関する売主の説明義務が争点となった事例を、具体的な裁判例を通してみて見ましょう。

(1)駐車場の利用権(横浜地判平成9・4・23)

【事案】
Xらは、マンションの分譲業者であるY社が分譲したマンションを、駐車場付きの広告を見たり説明を受けたりして購入したが、実際には、Y社とは全く別の地主(第三者)と駐車場の賃貸借契約を締結する必要があった。
Xらは、Yに対し、債務不履行及び契約締結上の過失に基づき、駐車場利用権の相当額や慰謝料の損害賠償を請求した。

【判旨】
一般にマンション(集合住宅建物)の区分所有権の売買契約においては、買主に駐車場利用権を取得させる債務が契約の給付の内容に含まれない場合であったとしても、乗用車が日常生活における重要な生活手段となっていることに鑑みれば、売主には駐車場の存否とその利用契約締結の可否について買主に正確に説明すべき付随義務があると解するのが相当である。

したがって、特に買主から駐車場の有無が契約を締結するか否かの判断のために必要である旨が表示されている場合においては、付随義務とはいえ、信義則上、売主の説明義務違反を軽んじることはできない。

また、売買契約が締結される前の勧誘行為において、説明義務に違反する行為があった場合においても、いわゆる契約締結上の過失の問題として、売買契約の成否にかかわらず、売主に債務不履行責任が生じる余地があると解される。

これを本件についてみるに、Xらは、Yの販売担当者から本件マンションの販売勧誘を受けた際に駐車場の存否を尋ねているか、又は駐車場が確保されていることがマンション購入の必要条件となるという趣旨を告げていたため、本件各売買契約が締結される前の状態ではあったが、販売担当者には、本件駐車場の所有関係、利用契約の趣旨内容を、Xらに説明すべき信義則上の義務があったということができる。

この説明義務は、本件売買契約が成立した場合には、当然にこの契約の付随義務となるものと解されるが、契約締結前における説明義務違反は、契約の成否にかかわらず、いわゆる契約締結上の過失の一態様として、売主に債務不履行責任を発生させるものと解するのが相当であり、右の債務不履行責任は、実際に行われた説明を信じたことによる買主の損害の賠償を義務付けるものというべきである。

(2)マンション内の防火設備(最判平成17・9・16)

【事案】
宅地建物取引業者であるY2社は、Y1社(Y2はY1の100%子会社)から販売代理業務の委託を受け、Aに対してマンションの専有部分を売却する売買契約を締結した。本件専有部分には中央付近に防火扉が設置されていたが、その電源スイッチが一見してそれとはわかりにくい場所に設置され、電源が切られた状態で専有部分の引渡しがされた。Aは妻Xとともに居住していたが、専有部分内で発生した火災により死亡した。

Y2は、Aらの入居時までに、Aらに重要事項説明書や図面等を交付したが、本件防火扉の電源スイッチの位置や操作方法、火災発生時の作動の仕組み等を説明しなかった。
XはY1に対しては瑕疵担保責任に基づき、Y2に対しては説明義務違反があったとして不法行為に基づき、損害賠償を請求した。
裁判所は、Y1及びY2の説明義務違反を認め、不法行為に基づく損害賠償義務を負うものであると判示した。

【判旨】
本件防火扉は、火事が発生した際の防火設備の一つとして極めて重要な役割を果たし得るものであることが明らかであるところ、被上告人Y1から委託を受けて本件売買契約の終結手続きをした被上告人Y2は、本件防火扉の電源スイッチが、一見してそれとはわかりにくい場所に設置されていたにも関わらず、A又はXに対して何ら説明せず、Aは防火設備の電源スイッチが切られた状態で802号室の引渡しを受け、そのままの状態で居住を開始したため、本件防火扉は、本件火災時に作動しなかったというものである。

また、記録によれば、Y2はY1による各種不動産の販売等に関する代理業務等を行うために、Y1の全額出資の下に設立された会社であり、Y1から委託を受け、その販売する不動産について、宅地建物取引業者として取引仲介業務を行うだけでなく、Y1に代わり、またはY1と共に、購入希望者に対する勧誘、説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務を行っていること、Y2は、802号室についても、売主であるY1から委託を受け、本件売買契約の締結手続きをしたにとどまらず、Aに対する引渡しを含めた一切の販売に関する事務を行ったこと、Aは、このようなY2の実績や専門性を信頼し、Y2から説明等を受けた上で802号室を購入したことがうかがわれる。

上記の事実関係を考慮すると、Y1には、Aに対し、少なくとも、本件売買契約条の付随義務として、上記電源スイッチの位置、操作方法等について説明すべき義務があったと解されるところ、上記の事実関係が認められるものとすれば、宅地建物取引業者であるY2はその業務において密接な関係にあるY1から委託を受け、Y1と一体となって本件売買契約の締結手続きのほか、802号室の販売に関し、Aに対する引渡しを含めた一切の事務を行い、AにおいてもY2を上記販売にかかる事務を行うものとして信頼した上で、本件売買契約を締結して802号室の引渡しを受けたこととなるのであるから、このような事情のもとにおいては、Y2には信義則上、Y1の上記義務と同様の義務があったと解すべきでありその義務違反によりAが損害を被った場合には、Y2はAに対し、不法行為による損害賠償義務を負うものというべきである。

3. 結論

以上、マンションの設備の説明義務が問題になったケースとして、駐車場、及び防火設備にまつわる判例を見てきました。

まず、契約締結交渉の段階で、買主側が売主側(分譲業者)に対し、対象となる設備(駐車場など)の有無を尋ねていたなど、当該設備があるからこそマンションを購入したという趣旨が売主(分譲業者)側に伝えられていた場合には、買主は売主(分譲業者)に対して、説明義務違反として損害賠償請求をすることが出来ます。

また、防火設備のようにマンション設備として重要な役割を果たすべきものについては、その設備が売買契約書上に直接内容として記載されていない場合であっても、売主側には買主に対する説明義務が課されるものであり、売主側がその義務に違反した場合には、買主に対し損害賠償義務を負うことになるのです。

2019.05.06

知っていれば役に立つ!経費のこと5 ―食べ歩きは経費になる?―

業務には直接関係ないけれど「経費」にしたいもの、自己負担でもいいけれど、金額も大きいし、できることなら「経費」にしたいもの、ありますよね。
もちろん、業務と関係ないお金は、その事業のための経費ではありませんので、経費化できる訳はありません。
あくまで、業務との関連性について説明ができないと、経費化はできませんのでそこは悪しからず。

1.業務に関係のない本や雑誌を読んでいます

業務を行っていくなかで様々な情報を集めるために、専門書や経済新聞など、仕事に直接つながるような本や新聞を読むことがありますよね。けれど、専門的な文書ばかり読んでいても、偏った情報が集まりやすいため、たまには仕事とは全く関係のない分野の本や雑誌を読むこともあると思います。

そんなとき仕事の分野とは関係ない、一般的な本や雑誌などを購入するために使った費用は経費になるのでしょうか?

答えは、「なる」です。仕事に関係のない本や雑誌を読んだって、役に立ちそうな情報は得られないでしょ!と思ってしまいそうですが、関係のない内容だからこそ、得られるものがあるのです。

もちろん、専門分野の本を読むことで知識が深まったり、新しいことを知ったりすることもたくさんありますが、それでは視野が狭くなってしまいます。
そこで、いつもとは違った分野の本や雑誌を読むことで、新しいアイデアを思いついたり、今まで疑問に思っていたことが解決したりすることがあるのです。

これら本や雑誌の購入費は、「新聞図書費」として「経費」にできるのですが、条件として「従業員なら誰でも、いつでも読めるようにしておく」ことが必要となります。

もちろん、マンガを買って経費にするとなれば、そのマンガを購入することがどのように業務上必要なのか説明が付かないといけませんので、なかなか難しいと思われます。
ご自身のビジネスとの兼ね合いで、どのような書籍なら業務上の必要性ありと説明できそうか考えてみてください。

2.食べ歩きをしています

飲食店を経営しています。フレンチのお店なのですが、今度新しいメニューを開発するにあたってヒントを得るために、和食やイタリアン、中華など様々なジャンルのお店で食べ歩きをしています。

さて、こんな場合、食べ歩きに使った費用は「経費」になるのでしょうか?
経営しているのはフレンチのお店ですが、1でお話ししたように、自分とは異なった分野に触れることで、新しいアイデアを思いつくこともあります。そのため、この場合は「研究開発費」や「研修費」、「調査費」として「経費」にすることができます。

しかし、ただ食事をしただけと思われないように、お店で食べた料理の分析や、新しいメニューの案をレポートとして残しておくことが必要となります。
細かくレポートを作成することが難しい場合は、実際に行ったお店でパンフレットなどをもらい、そこに味や、何か参考になったことなど、メモを残しておきましょう。

つまり、書籍の箇所でご説明した通り、使ったお金がどのように業務上必要となるのかの説明ができなくてはならないということです。税務調査を受けた際、「なるほど、そういうことであれば確かに必要な経費ですね。」と調査官に思わせられるかがカギとなります。

3.結婚式を挙げます!

結婚式を挙げることになりました。招待しているのは取引先の方々ばかりです。この場合、結婚式にかかる費用は「経費」にすることができるのでしょうか?

招待しているのが取引先ばかりの場合、仕事の延長のようなものなので、「経費」にしたいところですよね。しかし、結婚式は個人的なものになるので、「経費」にすることができないのです。
もし、結婚式をビジネスにしているのならば「経費」にすることが可能なのですが、該当する人はなかなかいないため、ほとんどの場合は自己負担で式を行うことになります。

では、取引先の結婚式に招待されたときのご祝儀はどうでしょうか?
これは、「経費」にすることができます。1年に数回など、頻度が少ない場合であれば、自己負担だとしてもそこまで金額は大きくならないですが、取引先が多かったり、これから増えていったりすると式の頻度も増え、自己負担が厳しくなってきますよね。

そのため、ご祝儀に関しては「接待交際費」として「経費」にすることができます。
ただし、誰の結婚式に参列したのか、どのような立場で招待されたのかなど、後で説明しないといけない場面が訪れたときのため、招待状を残しておくことを忘れないようにしてください。

また、会社から自社の従業員に対してご祝儀を支払った場合は、「福利厚生費」として「経費」にすることができますが、社内で規定を作成し、金額に関しては地域相場を意識したものにしましょう。
従業員に対するお祝いなので、他の会社よりも高い金額を払ってあげたいと考えたとしても、税務署は全額を経費と認めてくれないかもしれません。
その場合は、一部が否認されたとしても仕方ありませんので、その腹積もりでご祝儀を払ってあげるようにしてください。

4.まとめ

今回は、ご祝儀や食べ歩きで使った飲食代など、一見「経費」にできないようなお金のことについてお話をしました。直接業務には関係なくても、新しいアイデアのヒントや問題解決につながるものであれば「経費」にすることが可能なので、これを利用して視野を広げ、仕事に役立てていきましょう!

何かお金を使う際は、業務との関連性を意識しながら、経費化できそうかどうか検討しましょう。そして、迷った際は、税理士に相談するようにしましょう。

2019.05.02

給与計算業務①~給与とは~

毎月行わなければならない従業員の給与計算は、単純そうに思えて、とても煩雑な業務です。自社で給与計算を行っている会社は多いでしょうが、思いのほか給与計算を間違っているケースが多く、従業員の本来もらうべき給与額になっていないケースが散見されます。
そこで、今回と次回にわたって、給与に関する基礎知識と、給与計算業務の基本的な流れについてご説明します。

1. 給与の定義

まず初めに、普段、何気なく使っている「給与」という言葉ですが、そもそも給与とは何のことを指すのでしょうか。
労働基準法11条において、給与とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されています。
つまり、従業員が欠勤や遅刻、早退をした場合は、労務の提供が履行されていないので、その時間について給与を支払う義務はありません。

2. 支払いのルール

給与の支払いについては、労働基準法24条においてルールが定められています。

①通貨払い

給与は現金で支払う必要があり、小切手や自社商品では認められません。ここで、「私の会社は銀行振込をしているけど大丈夫なの?」と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。
本来は、銀行振込はこのルールに反していますが、従業員の同意を得た場合は、従業員の指定する口座に振り込むことが認められています。また、退職金に関しては、従業員の同意があれば、小切手や郵便為替での支払いが認められています。

②直接払い

給与は従業員本人に直接支払う必要があります。配偶者や保護者等に支払うことはできません。
ただし、従業員が病気で受け取ることができないといった事情がある場合に、家族が使者として受け取ることはこのルールに反しないとされています。

③全額払い

給与は全額を支払う必要があります。振込手数料や積立金などを勝手に差し引いたりしてはいけません。
ただし、従業員の代表と労使協定を締結すれば、一定のお金を控除することができます。また、健康保険料や雇用保険料などの社会保険料や、所得税や住民税といった税金については、法律によって控除することが認められています。

④毎月1回以上払い

給与は少なくとも毎月1回支払う必要があります。数か月ごとにまとめて支払うことは認められません。
年俸制の場合でも、一括支給ではなく、分割して支払わなければなりません。

⑤一定期日払い

給与は期日を特定して支払う必要があります。支払日にずれが生じてしまう「毎月最終金曜日」のような決め方は認められません。
※④⑤について、臨時に支払われる賃金、賞与、1か月を超えて支払われる精勤手当・勤続手当は除きます。

給与額は、会社が自由に決めることができますが、最低賃金を上回っている必要があります。最低賃金には、⒜精皆勤手当、⒝通勤手当、⒞家族手当、⒟時間外労働・休日労働等の割増賃金、⒠賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、⒡臨時の賃金は算入されません。

【最低賃金との比較方法】
時間給の場合:時間給最低賃金を比較
日給の場合:時間額(=日給÷1日の平均所定労働時間)と最低賃金を比較
月給の場合:時間額(=月給÷1か月の平均所定労働時間)と最低賃金を比較

都道府県別の最低賃金額については、厚生労働省のホームページから確認できます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

3. 給与の支給項目と控除項目

従業員に支給する給与は、支給項目から控除項目を差し引いて計算します。支給項目、控除項目として一般的なものは以下の通りです。

支給項目

控除項目

4. まとめ

今回は、給与計算業務を行う前に知っておく必要がある基礎知識についてお話しました。給与計算業務に携わっていなかった時にはあまり気にしていなかった内容も多くあったのではないでしょうか。

これから給与計算をされるという方には、ぜひ今回の記事の内容をしっかりと理解していただけたらと思います。
次の記事では、実際の給与計算の流れについてご説明します。

2019.04.30

法の観点からみるネットビジネスに不可欠なWEBサイト作りとは?

ネットビジネスを始めるのであれば、必須なのが「WEBサイト作り」です。
ネットの世界では、日々ビジネスの種類に合わせて様々なタイプのWEBサイトが開設され、運用されています。

しかしながら、いざ始めようと思っても考えなければならない部分は非常に多くあります。
どこにWEBサイト制作を依頼するのか?自作するのか?WEBサイト名やドメイン取得はどうする?など…
今回は、法の観点から見るWEBサイトを作るにあたっての注意点や押さえておきたいポイントをご説明します。

1.自分が思い描いたネットビジネス用のWEBサイトを作るには

(1)外注制作会社を探す

まずWEBサイトを作るにあたって、専門的な分野であるネットワークの知識やプログラム言語などを習得した方でないと、本格的なWEBサイトやショッピングシステムを構築することは難しいものです。
そのような場合、多くはWEBサイト制作会社に外注することになりますが、見積を依頼する時点で、「自分が思い描いているサイトをしっかり作ってくれるか」という部分に重きをおいて外注会社を探しましょう。

外注を検討している制作会社には、どんなサイトにしたいか、各ページはどのような構成にするのか、訪問者はどのような流れで購入するのか、いつまでにサイトをオープンしたいのか、など希望をしっかり伝えましょう。

依頼することになったら、必ず契約書として上記の内容を書面に残すことがポイントです。

(2)なぜ契約書が必要なの?口約束でも契約は有効では?

できあがったWEBサイトの納品後、希望を伝えたのに思っていたサイトと違っていた場合、「そんなことは聞いていない」「言われた通りに制作した」という制作会社とのトラブルは避けたいものです。やはりイメージを伝えているだけなので、なかなか思い通りに出来上がらないのが一般的で、トラブルが後を絶ちません。
書面に残すことで証拠となり、納品後の修正や改善要求等に受注側の責任として応じてもらうことができます。

納期や金額についても明確に契約書に記載すると、WEBサイト制作に起こりやすい納期遅延の対策となります。
実際に遅延となった場合は、法律上、契約書に明記されていなくとも損害賠償請求をすることができますが、契約書の記載内容によっては損害賠償の額が少なくなってしまうこともあります。
制作会社から提示された契約書の内容に不安がある方は、弁護士などにリーガルチェックを依頼するとよいでしょう。

2.WEBサイトの名前、サービス名とドメインの決定は慎重に

(1)商標を侵害していないか検索

実店舗を構える際にも同様のことが言えますが、サービス名(商品名)、ロゴマークなどを決める際は、すでに世に出ているものの商標権を侵害していないかを確認する必要があります。

先に商標登録されたサービス名や商品名、ロゴマークに類似したものは使用できません。
独立行政法人 工業所有権情報・研修館が運営している「J-PlatPat」では、商標登録されているサービス名などの検索ができるので、ここで調べてみるのも方法の一つです。

J-PlatPat特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage

しかしながら、類似サービス名や類似ロゴの検索はできても、商標権侵害にあたるかどうかの明確な基準までは、上記サイトではわかりません。
サイト開設後、スムーズに運用を進めたいのであれば、弁理士などに商標権侵害の調査とサービス名やロゴなどの商標登録を依頼してみるといいかもしれません。
商標登録まで行ってしまえば、今度は他人からのサービス名やロゴの侵害を防ぐことができ、安心してビジネスに取り組むことができるでしょう。

(2)ドメインはオリジナル性のあるものに

さらに、WEBサイト特有なものとして「ドメイン」があります。
これはネット上の住所といわれるものですが、独自ドメインといって、先に取得されていなければ自由に好きな文字列で取得することができます。
例えば、この「那珂川オフィス」サイトでいうと「nakagawa-lawoffice.jp/」の部分です。
このドメインを、「大手企業と同じ名前で最後の部分だけちょっと違う」ものにしてしまったらどうなるでしょうか。

これは、消費者(訪問者)にその関連企業であるかのように勘違いされ、混同をまねく行為として不正競争防止法の違反に当たる可能性があり、損害賠償請求や信用回復措置請求の対象になりかねません。

法律の観点から他人の真似をしないことはもちろん重要ですが、個人的な意見としては、オリジナリティのあるドメイン名を取得することで自身のサイトに愛着が湧き、サイトをより良くしていこう、という気持ちにつながるのではないかと思います。

3.WEBサイトが完成。更新を自分で行う時に気を付けたいポイント

(1)ブログページも開設!でもその画像、大丈夫…?

例えば、WEBサイトを開設し落ち着いてきた頃、商品についてのPRをブログで行うこととなったとします。
ネットを閲覧中に、たまたま同じ商品の写真を掲載していた他のサイトを見つけたので、無断でコピーし、あたかも自分が撮影したかのようにサイトへ掲載しました。

すでにご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、このような場合、著作権侵害にあたり、掲載元から損害賠償請求をされることもあります。

たとえありふれた街の風景の写真や小さなアイコンでも、他人が撮影・制作したものに対して、無断で使用することは許されません。有名人や著名人の写真ももちろん無断使用は違反です。
商品の写真撮影は自身で行うか、カメラマンに依頼しましょう。最近では、自身で撮影した写真を切り抜いたり加工してくれるWEBサービスなどもあります。

(2)過大表示や紛らわしい表現に気をつける

テレビCMや広告チラシなどでも問題となっていますが、実際の商品より良く見せる「有利誤認表示」はWEB上でも起こります。
「通常価格〇〇円のところ、今なら特別に●●円!」という表記をよく見かけますが、実際にはこの通常価格で一度も販売したことはなく、特別価格での販売が常態化していた場合、
景品表示法違反となるおそれがあります。

その他にも、アプリゲームなどでは途中から有料になるのにも関わらず「完全無料で遊べる」と表記したり、「必ず痩せるナンバーワンサプリ」などという医学的にも根拠がない文言を掲載することも景品表示法(または薬事法・薬機法違反)になります。

4.まとめ

今回はネットビジネスを始めるにあたって必要なWEBサイトについてご説明しました。
起こり得る多様なトラブルに先回りし、予防策を講じることで息の長いWEBサイトとなり、ビジネスも加速していくことでしょう。

制作会社との契約や著作権についてはビジネスに関わらず、趣味のサイトや、サークル活動でのコミュニティサイトなどを制作する際にも気をつけたい部分ではないでしょうか。
そのような方々もぜひ参考にしていただければと思います。

2019.04.30

【社会保険】家族を扶養に入れる加入条件と手続き方法

家族を自分の扶養に入れたい、夫・妻の扶養に入るため手続きをしたいけど、条件に当てはまっているのか気になりますよね。
必須条件は『主として被保険者の収入によって生計を維持していること』です。後期高齢者医療制度の創設により、75歳以上の者は被扶養者になれないので注意が必要です。
また、扶養に入る被保険者が社会保険に加入していることは前提条件となりますので、確認も必要です。

今回は、どのような人なら社会保険の扶養に入ることができるのか、どのような手続きが必要なのか等をご説明させていただきます。

1.被扶養者の範囲

『被扶養者』とは、被保険者の扶養に入った人のことです。
主として被保険者の収入によって生計を維持していることが条件で、被保険者と同様に、病気・けが・死亡・出産などについて、保険給付が行われます。
※収入には、給与のほか、事業収入、不動産収入、公的年金、失業給付等も含まれるので注意が必要となります。

被扶養者の範囲

※1 「主として被保険者に生計を維持されている」とは、被保険者の収入により、その人の暮らしが成り立っていることをいい、被保険者と一緒に生活をしていなくてもかまいません。

つまり、離婚したお父さんが子供のための養育費を支払っていて、その養育費で子供が生計を維持しているのであれば、同居していなくても子供はお父さんの扶養に入ることができます。

※2 「同一世帯」とは、同居して家計を共にしている状態をいいますので、同一戸籍内にあるか否か問わず、被保険者が世帯主でなくてもかまいません。

2.共働きの場合は?

①被保険者と同一世帯の場合

ア)対象者の年間年収が130万円未満、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満の場合は該当します。
イ)対象者が60歳以上や一定の障害者の場合
対象者の年間年収が180万円未満、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満の場合は該当します。
ウ)上記アイの条件に該当しない場合であっても、年間収入130万円未満(イの方は180万円未満)、かつ、被保険者の年間収入を上回らない場合には、当該世帯の生計の状況を総合的にみて、被保険者が生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者として認められます。

②被保険者と同一世帯ではない場合

対象者の年間収入が130万円未満(イの方は180万円未満)、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には被扶養者に該当します。

③被扶養者となる配偶者の方

20歳以上60歳未満の人は、国民年金の第3号被保険者となり、年金保険料が免除されます。該当した場合は、合わせて手続きを行う必要があります。

3.手続き方法

被扶養者の加入手続き方法1

手続き方法は上記の図をご参照ください。

4.まとめ

扶養に入れるのは3親等内の親族で主として被保険者の収入によって生計を維持している人です。範囲と要件によっては、届出書の添付資料にも違いがありますので、しっかり確認することが大切です。
手続きが遅れますと、さらに追加の資料が必要になったり、保険証が届くのも遅くなりますので、速やかに適切な手続きを行いましょう。

 

 

2019.04.24

【不動産】マンションへの日照に関する売主等の説明義務

日当たりの良い部屋を探していたところ、南側の開けた部屋を見つけ、仲介業者からは「南側には新たにマンションが建築されることはない」という説明を受けたためその部屋を購入しました。

ところが、入居して暫く経った頃、購入時の説明に反して購入した部屋の南側にマンションが建築されてしまい、日照が妨げられてしまいました。こんな時、仲介業者に対して責任を追及することはできるのでしょうか?

このようなケースを考える場合には、

①日照に関する売主の説明義務

②仲介業者の説明義務、仲介業者の説明義務と売主の説明義務との関係

という2点を理解する必要があります。

1.売主の説明義務の根拠

(1)消費者契約法と説明義務

売主が宅地建物取引業者の場合は、宅地建物取引業法により売主である宅地建物取引業者に説明義務が課されています。

他方で、売主が宅地建物取引業者でない場合であっても、売主が事業者であり、かつ買主が消費者である場合には、当該契約は消費者契約として消費者契約法が適用され、売主に情報提供努力義務が課されます。

具体的には、消費者契約法3条1項は、事業者に対し、消費者契約の締結について勧誘する際には、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努力するように定められています。

これによって、売買契約が消費者契約に該当する場合は、そうでない場合に比べて、売主の説明義務がより重いものになっていると考えられます。

※その他下記の項目については、前回の記事「マンションからの眺望に関する売主の説明義務」にて解説しているため、そちらをご覧ください。

2.日照に関する売主の説明義務

(1)日照の利益に関する一般論

日照の利益は、主に南側隣接地の利用形態によって確保されるものです。

マンションの売主であるマンション所有者と南側隣接地の所有者が同一人であれば、マンション所有者の方で南側隣接地の利用方法に関与できますが、南側隣接地がマンション所有者とは別人の所有である場合、その土地の利用方法は他人の意思に委ねられるものであり、マンションの売主から、「日当たりが悪くなるから高い建物を建てないでほしい」といった要望を出すような形での関与することはできません。

そのため、このような場合は、日照の利益は売主の裁量によって確保できないため、原則として、マンションの売主には、その売買に際し、南側隣接地にどのような建築物が建てられる可能性があるのかや、その建築物がマンションにどのような影響を与えるかなどを調査し、その結果を買主側に正確に告知説明しなければならないという義務は課せられるものではないと一般的には解されています。

(2)判例

ア 説明義務違反が肯定された事例

① 東京地判H10.9.16

仲介業者の作成したチラシに「日照、環境良好」との記載があったこと、購入の際に仲介業者や売主の従業員らが買主に対して、マンションの隣地に建物の建設が既に予定されていたにも関わらず、マンションの住人の承諾が無ければ建物が建築されることは無く、日照も確保されるという説明をしていたところ、予定通りに隣地に建物が建設され日照が阻害されたという事案です。

裁判所は、仲介業者や売主の従業員による説明が結果的に虚偽であったと言わざるをえず、そのような説明をしたことは、本件マンションについて売買契約を締結しようとした買主に対する関係で、説明義務違反に該当すると評価せざるを得ないとしました。

イ 説明義務違反が否定された事例

①東京地判S49.1.25

南側隣接地が他人所有である場合に関するものです。上記2(1)の原則論の通り、裁判所は、南側隣接地の利用方法については、所有者である他人の意思に委ねられるものであって、マンションの売主が関与することができないものである以上、マンションの南側にどのような建物が建築されるのか、そして、その建築物がマンションにどういった影響を与えるかなどについて調査し、その結果を買い受け人側に誤りなく告知説明しなければならないという信義則上の義務は一般的に課せられているものとは解されないとしました。

3.まとめ

以上の通り、マンションにおける日照は、特に南側隣地の利用形態によって影響を受ける事柄であるため、売主側において南側隣地の利用計画等を逐一調査した上で買主に告知説明する義務まで負うような義務は課せられていません。

一方で、売主側が、特に良好な日照をセールスポイントにしていたり、南側隣地の所有者からその利用形態に関する説明を買主になしたりといったこと(例えば、隣地にこれから高層マンションを建設することが決まったため、日照が遮られることが予想されるといった事情)を要請されていたような場合や、売主側が買主側に対し虚偽の説明や誤解を招くような説明をなした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。

 

2019.04.24

知っていれば役に立つ!経費のこと4

自社のキャラクターやオリジナルグッズをつくりたい!でも「経費」にできるのかな・・・なんて思ったこと、ありませんか?

1.自社のキャラクターを製作しました

とある会社では、自社のキャラクターを作っています。このキャラクターの製作にかかった費用は「経費」になるのでしょうか?

世の中には、数えきれないくらいのキャラクターが存在していて、その宣伝効果は計り知れませんし、キャラクターは作ったその時だけでなく、何年間も宣伝効果が続いていきます。

ですから、制作にかかったときの費用だけを「経費」にするのではなく、いったん「資産」にして毎年少しずつ「経費」にしていくのが原則となります。
これは、最初の記事で説明をした「減価償却」のことです。

では、この宣伝効果は、何年くらい続くものなのでしょうか?これは誰にも分らないため、基準となる年数が定められています。
・キャラクターの商標登録をしたとき・・・・・10年
・キャラクターの商標登録をしなかったとき・・5年

10年というのは、商標登録の有効期限、5年というのは、通常の「減価償却」と同じ期間になります。

これは、会社やブランドのロゴを製作したときと同じ考え方になるので、新しくロゴを製作する場合にも是非参考にしてみてください。

2.「着ぐるみ」も「経費」になる?

自社のキャラクターを製作したあとに、着ぐるみを作りました。キャラクターの製作費は「減価償却」で、毎年少しずつ「経費」として計上していくのが原則でしたが、着ぐるみの製作費はどうでしょうか?

実はこれも、キャラクターを製作したときと同じように、いったん「資産」にしておいて「減価償却」で、5年かけて「経費」にしていきます。

着ぐるみを製作すると、それを着て様々なイベントに参加したり、たくさんの人と交流をしたりする機会が多くなります。一緒に写真を撮ったり、ハイタッチをしたりするだけならいいのですが、時にはパンチやキックをされることもあります。
このようなことを考えると、「減価償却期間」である5年間、着ぐるみを使うことができない可能性も出てきますよね。この場合、いったいどのようにして「減価償却」をするのでしょうか?

実は、着ぐるみを使用できる期間が1年未満であれば、制作時に「経費」とすることができるのです。
しかし、相当なダメージを受けない限り、1年以上は使用可能なはずですが、減価償却の法定耐用年数はどうなるのでしょうか。
着ぐるみの耐用年数は、耐用年数省令別表一「器具及び備品」の「看板及び広告器具」のうち、掲げられているいずれの細目にも該当しないため「その他のもの5年」と考えられることが一般的です。

3.オリジナルグッズをつくりました

自社のキャラクター、着ぐるみに続いて今度はオリジナルグッズを製作しました。会社に来て頂いたお客様に配るためです。皆さんも、会社の名前入りのボールペンやメモ帳など、1度はもらったことがあると思います。

では、これらオリジナルグッズの製作費は「経費」にできるのでしょうか?
これは、「広告宣伝費」として「経費」にすることができます。
ただし、宣伝が目的のため、オリジナルグッズには社名が入っていなければなりません。
社名だと使ってくれる人が少ないから、社名以外のものを記載したいという場合は、会社のホームページアドレスでも代用が可能です。

社名やアドレスなど、宣伝要素のある記載が何もなく、「広告宣伝費」にできないと判断された場合には、「接待交際費」となるので気をつけましょう。
では、社名入りの図書カードはどうでしょうか?

実はこれも、「広告宣伝費」として「経費」にすることができます。
条件としては、「限定された人だけでなく、不特定多数の人に配ること」「1枚あたりの単価が1000円以内であること」「現金と同等の役割を果たすものではないこと」があげられます。

宣伝につながる社名やアドレスを記載する、不特定多数の人に配るなど、「広告宣伝費」にするための条件を満たして、会社の知名度向上や、集客に役立てましょう!

4.まとめ

今回は、「広告宣伝費」についてお話をしました。

自社のキャラクターやグッズを製作し、それを様々な場面で上手く利用することで、大きな宣伝効果が期待できるはずです。
「広告宣伝費」にするための条件を満たしながら、是非会社の知名度向上や集客、売上アップにつなげてください。

2019.04.24

経営法務リスクマネジメント ~退職に関するリスクについて~

最近、退職したいけど「退職したい」と言い出せない人のため、退職手続きを代行する「退職代行サービス」が新しいビジネスとして話題になっています。
このサービス自体は弁護士法違反ではないかなど、賛否両論がありますが、ビジネスとして成り立つほど、企業と従業員の間で退職時にトラブルが多いことを示しているのではないでしょうか。
企業としてはトラブルを最小限にとどめ円滑に退職手続きを行いたいと考えていると思います。この回では、企業側が従業員の退職に備えておくべきリスクについてご紹介致します。

1. 退職の形式

退職の形式としては大きく分けると「自己都合退職」と「会社都合退職」の二つがあります。
「自己都合退職」とは、転居や結婚または療養など自身の意思や都合に基づいて行う退職の事を指しています。
「会社都合退職」とは、企業側の経営不振や倒産などを理由として一方的に労働契約を解除する事を指しています。

それでは、自己都合退職か会社都合退職かの形式の違いにより、どのような差異が生じるのでしょうか。

まず、退職後の雇用保険(失業保険)の給付内容が異なってきます。
「自己都合退職」の場合、失業保険は退職日から3ヶ月と1週間待機しなければ給付されないのに対し、「会社都合退職」の場合には退職日から1週間後より給付が開始されます。

他にも、支給日数や最大支給額の違いがあり「会社都合退職」の方が従業員にとって優遇された扱いになっています。
これは、自分の意思で職を失った人よりも、会社の一方的な都合で職を失った人の方が保護の必要性が高いからです。

さて、では会社都合退職の方が従業員にとって都合が良いのであれば、「本来は自己都合退職であっても会社都合退職にしてあげようか」という発想もあり得ますね。

実際に、従業員が退職することは変わらないからといって、従業員からの要望に応じ、特段の理由なく「会社都合退職」として手続をしてしまう会社もあります。

しかし、会社都合退職としてしまうと、しばらくの間、助成金申請ができなくなったり、後々従業員から「企業から解雇された。解雇は不当だ!」と主張されてしまうリスクがあります。

従業員がまさかそんな不徳なことをするはずがない、と考える方が多いですが、実際にはそのことを原因として紛争が起こっていることも事実です。

仮に従業員から会社都合退職にして欲しいと要望があったとしても、会社を守るため、その要望は聞かないようにしましょう。

2. 従業員の失踪

従業員が行方不明になり失踪してしまった場合には、どのような形式で退職手続きを行えばよいのでしょうか。

一般的に解雇する際には、30日以上前に解雇予告を行うこと、もしくは、解雇予告手当を支払うことが義務付けられています。但し、次の場合には解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要とされています。

・天災事変やその他事業を継続することが不可能である場合
・労働者の責に帰すべき理由に該当する場合

従業員が失踪した際、解雇予告を行いたくても行えないですよね。従業員が失踪し、「2週間以上の無断欠勤」があった場合には、労働者の責に帰すべき理由に該当するとされているため、労働基準監督署にて解雇予告除外認定を受けることにより、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要となります。

従業員を解雇する際には、会社から従業員に対する解雇の意思表示が必要となりますが、それが従業員の失踪により事実上不可能な場合には、意思表示の方法として公示送達を行うことも検討しなくてはなりません(裁判所に解雇する旨を掲示して、本人へ意思表示したものとみなす制度です)。

しかしながら、この手続きには相当の時間と労力が掛かってしまいます。
そのため、予め就業規則に無断欠勤が続いた場合について普通解雇・懲戒解雇事由として規定を定めておくと、簡易的に退職手続きを行うことができます。

3. 退職届の有効性

従業員が退職する際、意思表示として退職届を提出します。
就業規則にて、退職届の提出期間を定めている会社も多いですが、さて、従業員から就業規則にて定められている退職届の提出期限より後に提出された退職届は有効なのでしょうか。

民法では

「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(民法627条 第1項)

と定められています。

つまり、有期雇用契約でない従業員の場合、民法上では退職届を2週間前に提出することによって退職が認められることになっています。

就業規則にて退職届の提出期間が定められていたとしても、民法627条第1項は、強行法規(当事者の意思にかかわらず、法として画一的に適用される規定)であることから、企業側が退職時期の延長を行うことは難しいという見解が多くなされています。

「就業規則には2か月前に退職届を提出しなければならないと定めているのに、1か月を切ってから提出してきた従業員に対して、損害賠償などできないか。」というご相談も見受けられます。

しかし、民法で2週間と定められている以上、それは難しい要望となりますので、いざ退職者が出たとしても、短期間で引き継ぎが可能な業務フローの構築が会社としては不可欠となるでしょう。

4. まとめ

従業員が退職する際には様々な事情があり、気持ちよく送り出せる円満な退職だけでなく、事情によっては業務の引継ぎさえ不十分なまま、退職を認めざるを得ない状況に陥ることも考えられます。

退職時のトラブルや退職後の紛争を避けるためにも、就業規則の規定を整備し見直しを行い、専門家(弁護士や社労士)に相談しながら不備の無いように備えることでリスクマネジメントを行いましょう。

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