弁護士コラム

2019.05.09

【不動産】賃貸物件からの退去の流れと確認すべき点

賃借人が賃貸物件から転居するとき、賃貸人との間で居住している賃貸物件の退去手続、敷金の清算等が必要になります。明日退去しますと言って荷物を持ち出すだけで、簡単に全ての手続きが完了するものではありません。

以下では、退去手続が一般的にどの様な手順で進み、退去する前に確認しておくべき点として何があるか等について説明します。

① 解約日の調整

賃借人が、転居が決まって最初に行うことは、賃貸人との間で賃貸借契約の解約日を確定させることでしょう。引っ越す日を決めて、実際に明け渡しが完了し、鍵を返却できる日を固めなくてはなりません。

では、解約日は賃借人が希望した日がそのまま解約日になるのでしょうか?まずは、賃貸借契約書の解約予告に関する条文を確認する必要があります。一般的には、居住用賃貸マンションであれば、賃借人から賃貸人に対し賃貸借契約を解約する旨の連絡がなされた日から1ヵ月後若しくは2ヵ月後を最短の解約日とするものが多いです。

当然、解約日までの賃料は発生するため、転居先の契約日(賃料発生日)をよく確認して、現住居、転居先の二重契約になる期間を可能な限り少なく調整出来ると経済的な負担も少なくなります。

ただ、あまり早く新しい転居先を探そうと思っても、なかなか物件が見つかりませんし、二重契約を避けるためにギリギリで転居先を探そうと思ってもなかなか思うような物件が見つからないものです。
多少は賃料が二重で発生することも覚悟した方が、結果として良い物件探しができるかもしれません。

② 明渡しの準備

賃貸借契約を解約するということは、賃借人は解約日以降、部屋を使用する権原が無くなり、賃貸人へ明け渡すことが必要となります。
明渡しの際に何をどこまで行わなくてはならないかについては、貸借契約書の明渡しに関する部分を確認する必要がありますが、一般的には、解約日までに「①室内にある私物の撤去」「②賃貸人への鍵の返却」「③電気・ガス・水道の解約」を行うことで明渡しは完了したことになります。

仮に、解約日なっても私物の撤去が完了していない場合は、どの様に取り扱われるのでしょうか?
賃貸借契約において、明渡しの条件に私物の撤去が定められている場合、賃貸人へ部屋の鍵を返却していたとしても明渡しが認められない可能性があります。
しかし、解除日が到来することで賃貸借契約は解約されており、賃借人は何の権原もなく部屋を使用している状況となるため、不法占拠と見なされる可能性があります。

不法占拠と判断された場合、明渡しが完了するまで、賃貸借契約に定められた賃料相当損害金を請求されることが一般的です。賃料相当損害金についての取り決めは個々の賃貸借契約書の確認が必要ですが、一般的に賃料の2倍から3倍の金額と定められていることが多いでしょう。

以上の通り、解約日までの明渡しが完了しないときには、大きな経済的負担が発生することもあるので、必ず解約日までに明渡しを完了させることを心がけましょう。

③退去立会い

明渡しの準備が整うと、解約日迄に賃貸人との退去立ち合いを行うことが一般的になります。退去立会いが義務化されているかは、賃貸借契約の内容により異なるため確認が必要となります。

退去立会いの主な目的は、「①私物の撤去等を含め建物の明け渡しが完了していることを賃貸人との間で互いに確認すること」、「②賃貸人に対する鍵の返却」、「③室内の損傷等の状態について互いに確認すること」、の3つとなります。①及び②の必要性については前述している通りのため割愛し、③の趣旨、内容について説明します。

賃貸人は、空室となった部屋へ新しい賃借人を募集しますが、当然、他人が使用した部屋をそのまま借りる人は居ないため、退去する賃借人が入居する前の状態に戻すための様々な工事を行います。
原状回復工事にかかる費用を誰がどこまで負担するのかは、各賃貸借契約により異なり、現時点では原状回復の負担割合について法律では定められておりません(2020年4月施行予定の民法改正において新たに原状回復の定義について盛り込まれることが予定されています)。

そこで、現在は原状回復の費用負担について詳細な取り決めがなされていない場合、国土交通省が発行している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に処理をされることが一般的となっています。
ガイドラインでは大まかに、通常の生活を原因とする通常損耗の工事費用については賃貸人、賃借人の故意、過失により補修等が必要となった部分については賃借人が工事費用を負担することが推奨されています。

そこで、退去立会いでは、賃貸人と賃借人が一緒に室内を確認することで、賃借人の故意・過失に基づく損傷部位を確認し、原状回復の内容について確認を行い、原状回復の負担割合について現場を確認しながら説明を受ける機会となります。
仮に、退去立会いを実施しないとなると、後々の原状回復費用の負担割合で賃貸人との間に認識の違いが生じ、紛争に結び付くことが多くあります。
賃借人自身の利益を守るためにも、退去立会いは積極的に実施しましょう。

なお、地域によっては、「敷引き」といって、敷金を一切返金せず、その代わりに一般的な原状回復はその範囲で完了させるのが一般的な地域もあります。
そのような地域では、原状回復工事の内容がどうであれ、賃借人に敷金の返金がされないため、退去立会いを行わないことが一般的な地域もありますので、ご注意ください。

④敷金清算

退去立会いが完了し一定期間が経過すると、賃貸人より原状回復費用等の見積りを含む敷金の清算書が送付されてきます。

原状回復費用の見積もりについては、退去立会いのときに受けた説明と違いがないかを中心に確認する必要があります。

敷金の清算書は、預け入れている敷金から何に基づきいくら引かれ、最終的な過不足がどうなるかの確認が必要となります。基本的には、敷金から賃借人が負担する原状回復費用、未払賃料等の金銭債務を差し引かれ、敷金に余剰があれば賃借人へ返還され、敷金が不足すれば不足費用を賃貸人に支払うことになります。

また、契約によっては敷金を敷引きとして取り扱っていることがあります。敷引きの場合は、敷引き金から原状回復費用等を差し引き余剰が出ても、賃借人への返還はなされないことになっています。しかし、敷引きは金額が極端に高額であれば契約が無効となる可能性もあるため、状況によっては専門家への相談も考慮すべきかもしれません。

⑤まとめ

今回は賃貸物件の退去について一般的な流れ、注意点を説明しましたが、退去にかかる細かい条件については賃貸借契約の内容により個別に変わるため、事前に賃貸借契約の内容を確認することが大切になります。
また、原状回復の費用負担、敷金の清算内容についてはトラブルになることも多いため、退去清算についての話が纏まらない場合には弁護士など専門家への相談も一つの方法となります。

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