弁護士コラム

2019.04.24

【不動産】マンションからの眺望に関する売主の説明義務

Q.窓からの眺めが気に入って海辺のリゾートマンションを購入したのに、入居した後になって目の前に別のマンションが建築され、せっかくの景色が見えなくなってしまう…

こんな時、誰に対してどんな請求をすれば良いのでしょうか?

このようなケースを考える場合には、
①眺望に関する売主の説明義務
②仲介業者の説明義務、仲介業者の説明義務と売主の説明義務との関係
という2点を理解する必要があります。

1 売主の説明義務の根拠

(1)不法行為責任

マンションを含む不動産の売買は、目的物が高額なため、契約締結に至る過程での売主の説明内容は非常に重要になります。

仮に売主の交渉段階での説明不足により買主に損害を与えた場合は、あくまで契約成立前の段階(交渉段階)で問題となる責任のため、売買契約上の責任(債務不履行責任)ではなく、民法上の不法行為に該当すると考えられることが多いようです。

(2)債務不履行責任

しかしながら、売買契約締結前(交渉段階)であっても、売主の説明義務違反として契約上の責任(債務不履行責任)を追及することができる場合があります。

そもそも、売買契約における売主の義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することであるため、説明義務自体は本来的な売主の義務には当たりません。

しかしながら、信義則から導かれる売買契約上の売主の付随的義務として「説明義務」があるとされるため、説明義務違反には債務不履行責任を認めることもあります。

また、契約当事者間においては、その相手方に損害を被らせないようにする信義則上の義務があるとされます。

つまり、契約締結の段階において当事者の過失によって相手方に損害を被らせた場合には、その被害を受けた当事者に損害を賠償する責任を認めるのが通説であり、判例もこれを認めています。

(3)宅建業者の説明義務

不動産の売買契約においては、宅地建物取引業者が自ら売主となったり、仲介業者として介在したりといった形態でやり取りされているケースが多く見られます。

宅地建物取引業者は、取引の関係者に対しては、「信義を旨とし誠実にその業務を行わなければならない」とされています。

特に売買契約等が成立するまでに、宅地建物取引士として、重要事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定められています。

2 仲介業者に委託した場合の売主の説明義務

契約当事者が宅地建物取引業者に仲介を委託する場合には、契約当事者の意思としては、原則として、重要事項の説明については自らが委託した宅地建物取引業者が行うものとしてその説明に委ねているということができます。

よって、売主本人は買主に対し説明義務を負いません。

〔例外的に売主も説明義務を負う場合〕
①大阪高判平成16.12.2
売主が買主から直接説明することを求められ、かつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負う。

②東京地判平成9.1.28
売主は売買契約に向けて仲介業者に委託している以上、仲介業者を売主の履行補助者とみて、指導要綱の説明義務違反について売主も責任を負う。

3 説明義務違反の効果

(1)損害賠償

売主に説明義務違反が認められる場合、買主は、売主に対し、買主が被った損害について賠償を請求することができます。

なお、損害賠償の範囲については、信頼利益(契約締結に要した費用)の賠償を命ずる判例が多いようです。

(2)解除

売主の説明義務を信義則から導かれる売買契約上の付随的義務である(上記1の(2)参照)とした場合、説明義務違反は付随的義務の債務不履行となります。

そして、付随的義務の不履行があったとしても、原則として相手方は契約の解除をすることができないとされます。

しかしながら、付随的義務の不履行であったとしても、それが契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるような場合については、契約を解除することが認められます。

4 眺望に関する売主の説明義務

マンションの売主が、居室からの眺望について説明する義務を負うか否かについては、建物の所有者・占有者が眺望の利益について法的保護を受けられるか否かに関わると言えます。

この点について、裁判例は

「眺望利益なるものは、個人が特定の建物に居住することによって得られるところの、建物の所有ないしは占有と密接に結び付いた生活利益であるが、もとよりそれは、右建物の所有者ないしは占有者が建物自体に対して有する排他的、独占的支配と同じ意味において支配し、享受し得る権利ではない。

元来風物は誰でもこれに接し得るものであった、ただ特定の場所からの観望による利益は、たまたまその場所の独占的占有者のみが事実上これを享受し得ることの結果としてそのものの独占的に帰属するに過ぎず、その内容は、周辺における客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約を被らざるを得ないもので、右の利益享受者は、人為によるこのような変化を排除し得る機能を当然に持つ者ということはできない。

もっとも、このことは右のような眺望利益がいかなる意味においてもそれ自体として法的保護の対象となり得ないことを意味するものではなく、このような利益もまた、一個の生活利益として保護されるべき価値を有し得るのであり、殊に、特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値を持ち、このような眺望利益の享受を1つの重要な目的としてその場所に建物が建設された場合に用に、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社旗観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有する者と認められる場合には、法的見地からも保護されるべき利益であるということを妨げない」(東京高決昭和51.11.11)

としています。

そして、買主側の眺望権については、売主側が不動産売買の契約前の段階で眺望をセールスポイントにしていたり、販売後に売主側が自ら眺望を妨げる行為に出たりした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。

例:リゾートマンションの広告で眺望の良さを前面に押していたケース

他方、上記のような場合であっても、売主側で眺望に影響を与え得るような事情の有無について調査を尽くした上で買主側に対して説明をしていたような場合には、売主はその説明義務を果たしていたと認定されやすいと言えます。

例:マンション入居後にその窓から見える範囲へ高層ビルが建設され眺望が害されてしまったが、その高層ビルが建設される事実については売買契約時に売主側から重症説明事項として買主に対し説明がなされていたケース
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