起業する前に知っておくべきこと1~注意点~
「起業したい!」と思った場合、「今勤めている会社を辞めずに起業しても大丈夫?」「法人を設立すべき?それとも、個人でやっていくべき?」といった様々な疑問が浮かんでくるのではないかと思います。
そこで、今回の記事から数回にわたり、起業する方または起業するかどうか悩んでいる方に、実際に起業をする前に知っておいていただきたいことについてご説明します。
1. 会社勤めの人が起業するときの注意点
今、どこかの会社で働いている人にとっては、一口に「起業する」といっても、(1)会社を辞めて起業する(独立)、(2)会社は辞めずに起業する(副業)という2つの選択肢があります。以下では、選択肢ごとに注意点を見ていくことにします。
(1)会社を辞めて起業する(独立)
今勤めている会社を辞めて起業する場合、いくつか気を付けなければならないことがあります。
住民税や国民健康保険料は前年度の収入に基づいて決まる
⇒会社を辞めてから収入が減ってしまうということは十分に考えられます。しかし、納付する住民税、国民健康保険料は、前年度の収入、つまり会社勤めで収入が多かった頃の金額に基づいて決定されます。収入が減ってしまう可能性を考えて、余裕を持って貯金しておきましょう。
起業したばかりだとクレジットカードが作りにくい
⇒クレジットカードの作成を申し込んだとき、クレジットカード会社は「この人はちゃんと貸したお金を返してくれるかな?」という点を見て判断します。会社勤めの頃は、安定した収入がありますが、起業してすぐだと何の実績もなく信用度は低いため、審査に必ずしも通るとは限りません。
しかし、事業がうまくいかず資金繰りをしなければならないという状況になることもあり得ます。それを見越して、会社を辞める前にクレジットカードを作っておきましょう。
家の購入や引っ越しが難しくなる
⇒クレジットカードの作成申し込みと同様に、家を購入するときや引っ越しをするときにも、不動産会社はその人が信用できるかどうかを見ています。会社勤めの場合は、源泉徴収票を見せれば大丈夫なところが多いですが、起業した場合は源泉徴収票と会社の決算書が必要となることが多いです。
それらに記載されている金額で信用度が変わってくるので、会社勤めであればある程度の信用は得られます。しかし、「起業したもののあまり事業がうまくいっていない…」という場合、どうしても信用度が低くなるため、家の購入や引っ越しは当分難しいかもしれません。クレジットカードの作成と同様、家の購入や引っ越しを考えている場合も、会社を辞める前に済ませておきましょう。
(2)会社は辞めずに起業する(副業)
(1)に対して、今の会社で働きながら起業するということも考えられます。例えば、今働いている会社の休日に活動するといった場合です。この場合も、注意すべき点があります。
副業が禁止されていないか確認
⇒会社によっては、業務への影響や、利益相反等を理由に副業を禁止していることがあります。会社を辞めずに起業したいという場合は、まず、会社において副業が禁止されていないかどうか、就業規則などの規程を見て確認しましょう。
会社に副業がばれてしまう可能性がある
⇒もしかすると、「副業は禁止されていないけれど、なんとなく会社にばれるのは嫌だ」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、確定申告のやり方によっては、会社に副業がばれてしまう可能性があります。
(確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた全ての所得と、その所得にかかる所得税を計算し、精算する手続きのことです。)
基本的に、従業員の住民税は、給与から天引きをして、会社から市町村に納付します。この天引きは、毎年5月頃までに会社に送られてくる特別徴収税額決定通知書をもとに行われます。そのため、会社から支給されている給与と副業で得た収入を合算して確定申告をしてしまうと、それに基づいた住民税額が会社に通知されてしまいます。この通知書を見て、会社が支給した給与よりも総所得額が多いことが発覚して、会社にばれてしまうというわけです。
このような事態を防ぐために、確定申告の際に、副業の収入について「普通徴収(給与から天引きするのではなく、自分で納付する)」を選択すれば、納付書によって別途自分で納付することになるので、会社にばれにくくなります。
ただし、会社との思わぬトラブルを避けるためには、副業を禁止する定めの有無にかかわらず、事前に会社に相談することをおすすめします。
2. 個人事業と法人の違い
1を踏まえて、早速起業しようと考えた方に質問です。個人事業と法人の違いをご存知ですか?「個人事業と法人って何が違うの?どっちにすればいいの?」とお思いの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
個人事業とは、会社を作らず個人で行う事業のことをいいます。俗に言う自営業のことです。これに対し、法人は想像しやすいかと思いますが、会社のように、法律上別の人格が認められたもののことをいいます。
では、個人事業で始めるか、法人を設立して始めるか、どちらが良いのでしょうか。
一概には言えませんが、個人事業と法人にはこのような違いがあります。どちらにも良い点、悪い点があるので、「絶対にこっちにすべき!」と言い切ることは難しいです。両者を比較して、自分にはどちらが合っているか考えてみましょう。
3. まとめ
今回は、会社勤めの人が起業するにあたり気を付けるべきことと、個人事業と法人の違いについてご説明しました。
「何事も早いに越したことはない!」と考え、急いで起業の準備を始めたい方もいらっしゃるかもしれませんが、起業には金銭面など多くのリスクがあります。「ちゃんと考えてから動けばよかった…」と後悔しないように、この記事を参考にしていただければ幸いです。
標準報酬月額②~算定基礎届(定時決定)のポイント~
毎年6月ごろに年金事務所から届く「算定基礎届」。今年もこの時期がやってきました。毎年1回、実際の報酬と標準報酬月額が大きくかけ離れないように、「算定基礎届」を提出しなければなりません。全員提出すればいいというものでもありませんので、しっかり要件を確認してみましょう。
ちなみに、提出期限は、7月1日~7月10日ですので、ご注意ください。
1.定時決定とは
原則として毎年7月1日現在の被保険者全員が対象となり、標準報酬月額の見直しを行います。これを、定時決定といいます。
標準報酬月額は、原則として、当然被保険者全員について毎年1回決定され、その決定された標準報酬月額が、1年間使用されます。
(1)算定方法
定時決定の算定の対象となる、4月・5月・6月のことを「算定基礎月」と言い、算定基礎月に支払われた給与(報酬額)を対象とします。
この金額を、期間の月数で割った額を報酬月額として、標準報酬月額を決定します。
例:末日締め、翌月10日払いの場合
4月…4月10日支給 21万円
5月…5月10日支給 18万円 → 合計60万円÷3か月
6月…6月10日支給 21万円 =平均20万円
支払われた給与・・・?どの手当を含むの?こちらの記事に詳しく解説があります。
標準報酬月額①~基礎知識と報酬に含む手当~ はこちらから
4・5・6月の給与が多いと、その後1年間の社会保険料が高くなります。
7月以降の給与が少なかったとしても、この3ヶ月で算出された社会保険料は基本的に変わらないので、4-6月は極力残業を少なくすることをお勧めします。
しかし、業務の性質上、4-6月に残業や歩合が多く発生することが見込まれる場合については(算定基礎月とその他の月を比べて2等級以上の差がある場合)、「定時決定の特例」として扱われ、年間平均額を算出し、別途、理由を記載した申立書や同意書を提出し、年間平均額にて決定することもできます。
(2)支払基礎日数
「支払基礎日数」とは、給与を起算する基礎となった日数のことをいいます。
間違えやすいのが、4月・5月・6月に出勤した日数ではなく、それぞれに支払った給与の計算基礎となった日数となります。つまり、4月支給分の基礎日数は3月勤務分となります。
4月…31日
5月…30日
6月…31日
(3)算定の対象月
①支払基礎日数(出勤日数)が17日以上ある月を計算の対象とします。
②短時間労働者:同一の事業所に使用される通常の労働者の、1週間の所定労働時間の4分の3未満、又は、1か月間の所定労働日数の4分の3未満であるときは、11日未満
※4分の3以上であれば、短時間労働者でも①と同様に17日。
③月給制:支払基礎日数の暦日数、休日や有休休暇も含み、欠勤は含みません。
所定労働日数が20日で、2日欠勤した → 18日(支払基礎日数)
④日給制・月給制:支払基礎日数の出勤日数に有給休暇を足した日数。
⑤17日を満たしていない月は?(短時間労働者かつ4分の3未満の人は11日)
支払基礎日数が17日未満の場合は、算定の基礎から外して、給与を平均します。
例:4月は20日勤務 5月は18日勤務 6月は15日勤務
→17日未満となる、6月を除き、4月と5月だけで給与を平均します。
(4)「算定基礎届」の提出が不要な人
7月1日現在、被保険者である人で以下に該当する人は定時決定を行いません。
①6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した人
→定時決定ではなく、入社時決定方法で標準報酬月額が決まります。
→7月1日に退職した人は、届出が必要です。
②4~6月に賃金の変動があり、7月~9月に標準報酬月額が随時改定される人、又は、産前産後休業や育児休業等を終了した際に標準報酬月額を改定される人。
→定時決定ではなく、「月額変更届」が優先されます。
4月や5月に昇給降給し2等級以上変更となる人は、9月の定時決定を待たずに、「月額変更届」と同様の改定となります。
→産前産後・育児休業の方は、終了した後に提出する、報酬月額変更届により決まります。
(5)届出までの流れ
<有効期限>
定時決定によって決定された標準報酬月額は、原則として、その年の9月から翌年の8月までの各月の標準報酬月額とする。
2.事務手続き
届出先 | 管轄する年金事務所 |
---|---|
期日 | 7月1日~7月10日 |
必要書類 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届 ※70歳以上の方は、「厚生年金保険 70歳以上被用者算定基礎届」を提出します。 |
添付書類 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届総括表 |
注意1 | 算定基礎届出用紙は、管轄の年金事務所より事前に郵送で届きます。 被保険者1人ひとりについて、氏名・生年月日など印字されています。退職者の記載があったり、入社した人が記載されていないことがありますので、注意が必要です。 |
注意2 | 提出が不要な人やその他記載が必要な方は、備考欄に記載しましょう。 パートや短時間労働者な、備考欄の確認は必須です。 |
3.まとめ
算定基礎届出用紙がまだ届いていない場合は、管轄の年金事務所へ問い合わせてみましょう。「算定基礎届出」は、被保険者の報酬額に応じた保険料を算出する大切な作業ですが、各事業所の報酬の支払い状況や被保険者数などを年金事務所が把握する為というのも兼ねています。
提出が遅れたり金額を間違えると、本人たちが迷惑することもですが、会社も後日精算した金額を支払ったり手間となりますので、期限内の提出、適正な記入を行いましょう。
意外と知らない会社法3~会社の設立~
世の中に数多く存在している「会社」ですが、それらは、どのようにして誕生するのでしょうか?
1. 「定款」の作成
会社を設立するためにはいくつかの手続きが必要になってくるのですが、その流れにはどのようなものがあるのでしょうか?
手続きの最終段階である登記が完了するまでには、大きく分けて4つの過程があり、その1つ目が「定款」の作成です。「定款」とは、会社を運営していく上で必要な基本的規則を定めたもので、「会社の憲法」と呼ばれるものになります。
これを、「発起人」と呼ばれる会社の設立を企画し、会社の経営を担っていく人物が作成し、会社の定款に認証を与える権限を有する「公証人」の認証を受けることになります。
定款の内容として、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の記載が必要で、これらの記載がないと定款の認証を受けることが不可能、つまり定款が無効となってしまいますので気を付けましょう。
・絶対的記載事項:定款に必ず記載しなければならない事項
(項目)会社の目的、商号、本店の所在地、出資額、発起人の氏名・住所、発行可能株式総数
・相対的記載事項:定款に定めなければ効力が生じない事項
(例)現物出資、財産引受、発起人の報酬・特別利益など
・任意的記載事項:定款ではなく、他の方法で定めても良いもの。会社法の規定や公序良俗に違反しない限りは定款で定めることが可能
(項目)定時株主総会の招集時期、役員の数、事業年度(決算期に関する事項)
2. 資金を集める
2つ目は、会社の資本金を集めることです。
「資本」とは一般的に、事業を行うために必要なお金のことですが、会社法で言う資本とは、「設立」又は「株式の発行」に際して株主となる者が、株式会社に対して「払込み」「給付」をした「財産の額」のこと(会社法第445条参照)つまり、会社の財産を確保するために株主から払込み、給付をされたお金のことになります。
会社にある程度の財産がないと、取引先の業者や銀行など、会社からお金を払ってもらう、返してもらう立場の人々に、お金が返ってこないのではないかという不安を与えかねませんし、信用の度合いも低くなってしまします。ですので、初めにある程度の資本金を集めておき、安心して取引を行えるようにしておく必要があるのです。
では、用意する資本金の最低額はいくらなのでしょうか?
平成18年に会社法が施行されるまでは、「最低資本金制度」という制度により、有限会社を設立するには最低でも300万円、株式会社だと1,000万円の資本金を用意しなければなりませんでした。しかし、会社法ができたことにより、「最低資本金制度」は廃止され、現在は設立時の資金が0円でも設立ができるようになったのです。
厳密に言うと、出資額を0円にすることはできません。しかし、例えば20万円出資したとして、登録免許税や定款の認証手数料に20万円使ったとなると手元には1円も残らないことになります。つまり、会社の資金が0円となるのです。
一般的には、会社の設立費用に20万円強かかりますので、それ以上の金額は資本金として会社に最初から入れておくケースが多いです。
3. 会社経営陣の選任と登記
定款の作成、資金集めが終わると今度は会社の経営陣を決定します。
まず経営陣とは、取締役、監査役、会計参与を総称して表す言葉のことで、簡単に言えば会社役員のことです。選任する際に気を付けることとして、取締役や監査役は、誰でもなれるわけではないということです。以下の人はなることができません。
【取締役の欠格事由】(会社法第331条参照)
一 法人
二 成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上これらと同様に取り扱われている者
三 この法律若しくは一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)の規定に違反し、又は金融商品取引法第197条、第197条の2第1号から第10号まで若しくは第13号、第198条第8号、第199条、第200条第1号から第12号まで、第21号若しくは第22号、第203条第3項若しくは第205条第1号から第6号まで、第15号若しくは第16号の罪、民事再生法(平成11年法律第225号)第255条 、第256条、第258条から第260条まで若しくは第262条の罪、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(平成12年法律第129号)第65条 、第66条、第68条若しくは第69条の罪、会社更生法(平成14年法律第154号)第266条 、第267条、第269条から第271条まで若しくは第273条の罪若しくは破産法(平成16年法律第65号)第265条 、第266条、第268条から第272条まで若しくは第274条の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
四 前号に規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
上記の欠格事由に該当しない人を、1でも出てきた発起人が選任し、選任が終わると、発起人は選任決定書を作成します。
そして、最後に登記を行います。必要書類を揃え、本店所在地の管轄法務局に登記申請を行います。不備がなければ、申請から1週間ほどで登記が完了し、会社が誕生します。
4. まとめ
今回は、会社を設立するために必要な流れをおおまかに説明しました。
実際に会社を設立するとなると、印鑑を作成したり、誰から出資を募るかを決定したり、書類を集めたりと、様々な準備が発生しますので、まずは、登記までの流れを把握し、必要な準備を始めていきましょう。
その後、出資金をいくらにして、どのようなビジネスを行っていくか等は、専門家に相談しながら進めて行くことをお勧めします。
会社に関する事務って何をするの? ~総務・人事・経理の定例業務~
皆さんは、「事務」と聞くとどのような仕事を思い浮かべますか?総務や経理、一般事務、営業事務など、偏に事務といっても業務内容は様々です。
今回は、その中でも、総務、人事、経理といった「会社に関する事務」に着目してお話します。これから会社に関する事務に携わる予定の方はもちろん、就職・転職活動をされている方にもぜひ読んでいただけたらと思います。
1. 会社に関する事務
会社に関する事務は、大きく以下の3つに分けられます。まずは、それぞれの分野について、一般的な業務をご説明します。
※会社によって、各分野の業務領域は異なります。
(1)総務
総務は、会社の各部署がスムーズに業務を遂行できるようにサポートを行います。また、官公庁や取引先など社外の人とも関わる機会が多いです。幅広い業務について柔軟に対応することが求められます。
<例> 印鑑や重要書類などの管理 官公庁や取引先などの対応 株主総会の準備・開催 など
(2)人事
人事は、主に従業員に関する手続き全般を行います。従業員の大切な個人情報を保有することになるので、漏洩することのないように、慎重に情報を扱うことが求められます。
<例> 各種保険手続き 給与計算 年末調整 など
(3)経理
経理は、主に会計や税金に関する業務全般を行います。会社の成長に直結するので、迅速かつ正確に業務を進めることが求められます。
<例> 現金・預金管理などの会計処理 法人税など各種申告書の提出・納付 など
ここからは、総務・人事・経理の毎年定例の業務をご紹介します。
2. 総務の年間定例業務
〇株主総会の準備・開催(4月~5月※)
会社の決算が終わったら、株主総会を開催します。決算日から2~3か月以内に行うのが一般的です。開催に伴い、事業報告書や計算書類などを準備する必要があります。また、開催したら、必ず株主総会議事録を作成します。
※ 3月末決算の場合
〇役員改選等の登記申請手続き(5月※)
株主総会において役員の改選等があった場合、変更が生じた日から2週間以内に登記をする必要があります。
※ 3月末決算の場合
3. 人事の年間定例業務
〇健康保険・介護保険の料率改定の確認(3月)
健康保険と介護保険の保険料率は毎年3月に改定されます。必ず最新の保険料額表を準備して、改定内容を確認しましょう。
〇雇用保険の料率改定の確認(4月)
雇用保険の保険料率は毎年4月に改定されます。必ず最新の雇用保険料率表を準備して、改定内容を確認しましょう。
〇労働保険の年度更新手続き(6月)
毎年6月1日から7月10日までの間に、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付と、新年度の概算保険料を納付するための申告・納付を労働基準監督署に行う必要があります(労働保険概算・確定保険料申告書)。
〇特別徴収税額の更新(6月)
毎年5月末頃までに、会社に特別徴収税額通知書が送られてきます。6月からはこの通知書に基づき、従業員の給与から住民税を差し引くことになるので、必ず変更された税額を確認しましょう。
〇社会保険の定時決定(7月)
社会保険料は、原則として年に1回見直しを行います。そのため、7月1日時点で使用している全被保険者の3か月間(4~6月)の給与をもとに「標準報酬月額」を見直し、7月10日までに年金事務所に届出をする必要があります(健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届)。
〇社会保険の標準報酬月額等級の更新(9月)
前述した算定基礎届を提出して決定した新しい社会保険料は、その年の9月から適用されます。必ず変更された社会保険料を確認しましょう。
〇厚生年金保険の料率改定の確認(9月)
厚生年金保険の保険料率は毎年9月に改定されます。必ず最新の保険料額表を準備して、改定内容を確認しましょう。健康保険・介護保険(3月改定)、雇用保険(4月改定)とは改定時期が離れているので、確認を忘れないように注意してください。
〇年末調整(12月)
「毎月の給与計算で差し引かれた所得税額」と「1年間に支払った給与をもとに計算した納付すべき所得税額」における過不足額を精算し、税務署・市町村に書類を提出する必要があります(給与支払報告書、源泉徴収票、法定調書合計表)。
4. 経理の年間定例業務
〇償却資産申告書の提出(1月)
毎年1月1日時点で所有している、事業のために用いることができる構築物・機械・工具・器具・備品等の固定資産(これらを償却資産といいます。)について、1月31日までに市町村に申告をする必要があります。償却資産の例としては、パソコンなどの事務機器、看板、印刷機などがあります。
〇所得税の納付(1月、7月)
毎月給与から差し引く所得税の納付は、原則として翌月10日までに行います。ただし、給与を支払う従業員が常時10名未満で、納期の特例制度が適用されている場合は、1月と7月に6か月分をまとめて納付します。
〇決算準備・決算(3月~4月※)
会社は、決められた事業年度における業績について、貸借対照表や損益計算書などの書類を作成します。それらをもとに、株主総会において株主へ業績の報告と承認を求め、承認された内容に基づいて税金の申告を行う必要があります。この書類作成業務のことを決算といいます。申告については後述します。
※3月末決算の場合
〇法人税申告書、法人事業税・住民税申告書、消費税申告書の提出(5月※)
決算に基づき、納税額を確定するため、法人税申告書、法人事業税・住民税申告書、消費税申告書を作成し、期末から2か月以内に税務署に提出する必要があります。これらの書類の作成は、多くの場合、会計事務所に依頼します。
※3月末決算の場合
〇住民税の納付(6月、12月)
所得税同様、毎月給与から差し引く住民税の納付は、原則として翌月10日までに行います。ただし、給与を支払う従業員が常時10名未満で、納期の特例制度が適用されている場合は、6月と12月に6か月分をまとめて納付します。
5. まとめ
今回は、会社に関する事務について、年間スケジュールに基づいてお話しました。従業員の少ない会社だと、全ての事務を1人で担当するということも十分あり得ます。これから会社に関する事務を担当される予定の方もいらっしゃるかと思いますが、実際に勤務を開始すると、毎日沢山の業務に追われてしまい、1年間の予定をゆっくり確認する時間が取れないと思います。
事前に、いつ頃、何の業務をする必要があるのかということを把握しておくだけでも全く違うと思いますので、ぜひこの記事を参考にしていただければ幸いです。
年5日の有休義務化とは?~事業者に向けて
2019年4月1日から、1年間に10日以上の年次有給休暇(以下「年休」と略します)を取得できる労働者について、使用者は、毎年、そのうち5日の年休について時季を指定して取得させなければならないことになりました。
いわゆる「年5日の有休義務化」というフレーズで耳にする機会も増えてきた昨今、事業者はどのような対応を求められるのでしょうか?
1.使用者の年休指定権新設のねらいは
平成30年改正労働基準法(平成31年4月1日施行)に、使用者の年休指定権の規定が新設されました。新設までの経緯は平成22年6月の閣議決定に遡り、「新成長戦略」において、年休の取得率を2020年までに70%にすることが政府目標とされました。
しかし、年休の取得率は平成12年以降50%を切る水準で推移しています。また、正社員の約16%が年休を1年間に1日も取得していないという調査結果も示されています。
このような状況にあることから、年休の取得をすすめるため、使用者に、従業員に対して年休取得の時季を指定して与えることを義務付けることとしたものです。
2.労基法改正による使用者の年休時季指定権とは
改正労基法では、1日も取得していない従業員などの年休の取得率を向上させるため、1年間に10日以上の年休が付与されている労働者に対し、そのうちの5日間については使用者が時季を定めて与えなければならないとされています。
ただし、労働者の時季指定や計画的付与制度によって年休を与えた場合は、その日数が使用者の時季指定しなければならない5日間から除かれることとなります。
3.労働者の時季指定とは
年休は、労働者が休暇を取得する前に、取得したい日を指定して請求した場合に与えるもので、原則として、休暇の時季選択権は労働者に与えられています。労働者の時季指定とは、労働者が年休をとりたい日を指定することを指します。
したがって、労働者が具体的な時季を指定した場合には、使用者は、時季変更権を行使する場合を除いて、その指定された時季に年休を付与しなければなりません。尚、使用者の時季変更権とは、年休を労働者の請求する時期に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更することができるというものです。
4.年休の計画的付与とは
労基法にもとづき、各従業員がその年に取得できる年休のうち「5日を超える日数分」については、会社が日を指定し、その日に年休を付与することができます。これを「年休の計画的付与」といいます。
例えば、取得できる年休が15日ある従業員については、5日を除いた10日分が計画的付与の対象になります。「5日分」については、従業員の個人的事由による取得のため留保しておかなければなりません。年休の計画的付与を実施するか否かは、会社の自由です。
年休の計画的付与の方式には次の3つが考えられます。
①一斉付与方式
これは、その事業場を特定の日に休業とし、全従業員に対し同一の日に年休を与えるものです。この方式の場合、事業場全体を休業とするので、5日を超える年休がない従業員も休ませなければなりません。このようなものに対しては、会社独自の特別の有給休暇を与えるか、平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払う等の措置をとることが必要です。
なお、休業手当とは、使用者が休業期間中に労働者に支払う手当で、労基法に定められています。同法規定には「使用者の責任に帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金(直近3か月間の賃金の総額の平均)の60%以上の手当を支払わなければならない。」とあり、事業場を特定の日に休業とし、全従業員に同一の日に年休を与える場合は、この使用者の責任に帰すべき事由による休業に当たります。
②グループ別付与方式
これは、課、係などの従業員を2つあるいはそれ以上のグループに分け、交替で年休を与えるものです。例えば、
・Aグループ…7月21~24日
・Bグループ…8月11日~14日
の4日間ずつ計画年休を付与するといった方法です。
③個人別付与方式
これは、会社側が個人別に従業員の年休付与計画を作成し、付与するものです。例えば次のような形です。
・○田○男…7月20日・21日
・○山○子…7月22日・23日
・○川○美…8月1日・2日
5.「年5日の有休義務化」への対応は
事業者は、1年間に10日以上の年休が付与されている労働者に対し、そのうちの5日間については使用者が時季を定めて与えなければなりません。ただし、労働者の時季指定や計画的付与制度によって年休を与えた場合は、その日数が使用者の時季指定しなければならない5日間から除かれることは前述したとおりです。
つまり、労働者による時季指定、年休の計画的付与、使用者による時季指定、いずれかの方法で年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務となります。
具体的には、労働者自身が付与された日から1年以内に5日の年休を取得していない場合に、年休の計画的付与によって年5日の年休を付与すれば、上記義務を果たすこととなります。
ただし、年休の計画的付与を実施するかは自由ではあるものの、実施する場合には、あらかじめ、従業員の過半数代表者と労使協定を結ぶ手続きが必要です。
年休の計画的付与を実施しない場合は任意に5日の有休を取得しない労働者には、使用者が取得時季を指定して年5日の有休を取得させる方法によらなければなりません。
6.まとめ
改正法の使用者の時季指定権を行使するためには、就業規則に規定する必要があります。また、時季指定においては労働者の意見を聴取しなければならないとされています。
事業者には、就業規則の変更と合わせて、労働者に取得時季の意見を聴取し、その意見を尊重し取得時季を指定するといった対応が求められます。
テレビ番組制作において気をつけるべきポイント~未成年者への取材・番組収録編~
テレビ番組においては、番組のコンセプトに基づいた視聴者層に向けて制作されることが多く、それにより番組に出演するタレントや、番組内で使用する街頭インタビューの取材対象者も変わってくることかと思います。この中には未成年者への出演なども検討されることがありますが、未成年者をテレビ番組で取り扱うには、どのような点に注意すべきでしょうか。
今回は、1.未成年者へのインタビュー、2.未成年タレントの利用(出演)について考えてみましょう。
1.未成年者へインタビューする際、親の同意は必要?
テレビ局の取材班や番組制作会社は、情報番組等を制作する際、街頭インタビューを行うことがあるかと思いますが、やはり流行の商品や話題のサービスについては、中高校生や大学生を対象としたインタビューを行えば反響も大きいことでしょう。
では、このような未成年者へのインタビューは、保護者の同意が必要なのでしょうか。
(1)15歳以上であれば、保護者の同意は原則不要
街頭インタビューをテレビ番組で使用する場合、誰に対して行ったとしても使用について承諾を得る必要があると言えます。他方で、未成年者の場合、成人と異なり、何らかの契約行為を行う場合は原則として法定代理人である保護者の同意が必要とされるため(民法第5条)、街頭インタビューを行う場合も保護者の同意を得なければならないとも思えますが、必ずしもそうでもありません。
民法に関する法制審議会の報告書等で示されている見解によると、未成年者であったとしても、15歳以上の者であれば個人情報の取り扱いについての認識や意思能力、判断能力が備わっており、保護者の同意がなくともこのようなインタビューを受けることができるとされています。
例えば、高校卒業とともに就職した18歳の人へインタビューをする場合、成人と同等な個人の意見を発せられる状況において、インタビューすることに親の同意が必要であるか?と想像すれば分かりやすいかもしれません。
(2)15歳未満でも、受忍限度の範囲内で認められる
一方、15歳未満の未成年者へのインタビューについては、その未成年者が同意していたとしても保護者からの同意が得られなければ行うことができません。保護者からの同意なく使用すると肖像権、プライバシー侵害のおそれがあります。
しかしながら、社会通念上、公表しても差し支えない内容であり、個人情報や性的な質問といった不相当な内容ではない「受忍限度の範囲」内であれば、保護者の同意がなくとも上記権利の侵害にはならないこともあります。
想定されるケースとして、幼稚園児や小学生に田植え体験の感想を聞いたり、好きな遊具を尋ねるインタビューなど、一般常識として相当な場合は問題とならないでしょう。
2.未成年タレントは深夜まで働いてもいい?
最近では未成年者のタレント(芸能人)も多くテレビに出演するようになりました。ドラマやバラエティに登場し、子役タレントが大人顔負けの演技や受け答えをし、人気を博す、といったことも珍しくありません。
さぞかし多忙なスケジュールをこなしているのではと思うのですが、未成年者が深夜の生放送番組や収録等に参加しても良いのでしょうか。
(1)未成年タレントに労働基準法が適用される
多くの18歳未満のタレントは、労働基準法に定める「時間制限のある労働者」に該当するとされています。これは、所属する芸能プロダクションによりスケジュールが決定し、仕事を割り振られることが芸能プロダクションの従業員扱い(=労働者)となるからです。
後述しますが、年齢や活動内容ごとに制限される時間が異なりますので、未成年者を収録等に参加させる場合は注意が必要です。
(2)労働基準法が適用されない芸能タレント通達
爆発的な人気を得ているアイドルのようなタレントの場合は、労働基準法第9条の労働者に該当しないこともあります。
これは、歌唱や演技が他人に替えることができず、その番組において芸術性の個性が重要な場合、労働者とはならないという趣旨の通達によるもので、通称、「芸能タレント通達」と呼ばれています(昭和63年7月30日 基収355号)。
この通達が出されたのには、昭和末期に人気絶頂だったアイドルグループが午後8時より生放送の歌番組に出演した際、当時中学生だったメンバーも参加していたことが問題となったという背景があります。
これにより、影響力、人気のある未成年タレントは労働者というよりは一種の事業者として見なされ、深夜の収録等でも参加できるようになったのですが、プロダクションとの契約内容によっては、人気があってもこの通達にあてはまらないタレントも存在するようです。
まずは所属するプロダクションに条件等の確認を取ることが重要です。
(3)実際に何時まで出演することができる?
上記で説明した、芸能タレント通達に該当しない未成年のタレントは労働基準法第61条により労働者とされ、出演時間制限は以下のように分けるとしています。
・義務教育中のタレント→午後8時から午前5時の間は使用禁止
・義務教育終了後で18歳未満のタレント→午後10時から午前5時の間は使用禁止
この「使用」という部分には、生放送出演、収録はもちろんのこと、打ち合わせやリハーサルなども含まれます。カメラに映さず放送しなければ使用してもいいということにはなりません。
これに加え、義務教育中のタレント使用については労働基準監督署の事前許可を得なければ、そもそも制限時間に関わらず使用することができません。必ず許可申請を行いましょう。
一方、テレビではなく演劇に義務教育中のタレントが出演する場合には、制限時間が少し異なります。演劇の場合、夜公演時のカーテンコールへの参加などを配慮し、午後8時ではなく、午後9時までの使用が認められています。テレビと演劇で制限時間が異なりますので、混同しないようにしましょう。
しかしながら、テレビ・演劇に関わらず未成年タレント(特に13歳以下)を制限時間いっぱいまで出演させる行為はたびたび問題視され、さらには制限時間を超えて使用するという違反ケースも発生しています。
成長期における睡眠不足の問題や、就学時間確保のために制限時間を縮小するべきという意見と、子供の才能を生かし、伸ばすためには学習塾と同様、さらに遅い時間まで延長するべきといった両極の意見があり、使用時間については今後も検討の余地があるとされています。
3.まとめ
未成年者の年齢による行為規制は、各法律、法規ごとに「18歳以下」、「20歳以下」、「15歳以下」などと一定ではなく、また取材やタレント使用について許容される範囲、条件も異なります。
今から行おうとしているインタビュー取材やタレントのキャスティングについて、どの法律に当てはまるのか、年齢や時間帯、一般人については肖像権やプライバシー保護について問題ないかをよく確認し、検討することが必要です。
【不動産】物件の瑕疵~目に見えない瑕疵があった場合
Q.私は現在、妻と小学生の子供2人の4人家族ですが、家族全員で住むためにマンションを購入することにしました。ところが契約後に、前の所有者の家族が、室内で自殺をしていたことが分かりました。このような部屋に家族で入居することは躊躇われるため、契約を解除して支払い済みの代金を返還してもらいたいのですが、このような請求は可能なのでしょうか?
A.マンションを購入する際に問題になるのは、前回(マンション設備・建築の適法性に関する売主の説明義務)でご説明したような、「マンション本体の構造に関わるような瑕疵」だけではありません。
最初に挙げたいわゆる
例①:自殺物件
であったり、
例②:暴力団員のマンションへの出入りの疑い
などのように、その物件に居住することを躊躇ってしまう目に見えない事情が潜んでいるケースもあります。
契約前の段階でこれらの事情が分かっていれば、契約締結を回避することもできますが、代金を支払った後にこれらの事情が判明し、「やはりこのマンションの購入は止めたい」と考えた場合に、どのような根拠に基づいて契約解除を請求することが出来るのかを考えていきます。
1 自殺物件のケース
(1)問題の所在
「自殺物件であった」という事実自体は、売買契約の目的であるマンションの物理的な欠陥ではなく、物理的には居住が可能です。そのため、このような場合でも売買の目的物の欠陥(瑕疵)と評価できるのでしょうか。売買の目的物の欠陥(瑕疵)と評価できれば、買主は売主に対し、瑕疵担保責任(民法570条)に基づき、契約を解除することができます。そこで、「自殺物件であった」というような心理的な嫌悪感を、「物件の瑕疵」といえるかどうかが問題となります。
(2)「自殺物件であった」ことは「物件の瑕疵」に該当するのか
民法570条が前提としている「瑕疵」とは、
・客観的に目的物が通常有すべき性質・性能を有していない物理的欠陥
だけではなく、
・目的物の通常の用法に従って利用することが心理的に妨げられる主観的な欠陥
も含むものと理解されています。
瑕疵担保責任の根拠は、売買の目的物に支払われる対価が、目的物の交換価値・利用価値と等価性を保ち、当事者間の衡平を図ることにあります。そのため、目的物が一部損傷しているといった「物理的欠陥」が無かったとしても、一般にその目的物を買うことを控えるような事情が存在していた場合には、交換価値の下落と評価でき、瑕疵担保責任が認められケースがあります。
よって、売買対象の不動産において、自殺や殺人の発生などの嫌悪される事情が存在した場合、買主が当該事情を知れば、その不動産の購入を敬遠するケースが一般的に予想されるため、「瑕疵」に該当すると考えられます。
しかしながら、買主によっては自殺物件であることをあまり気にしない場合もあります。つまり、同じ自殺物件について、一方では契約解除を望む人もいれば、他方でそのまま購入をする人もおり、個々人の主観によって結論が大きく左右されてしまいます。このように、買主の主観によって売買契約の成否が左右されると、円滑な不動産取引が阻害されてしまうため、瑕疵担保責任の有無を判断するにあたっては、一定の制約が必要になります。
そこで、裁判例では、自殺があった等の心理的欠陥が「瑕疵に該当する」とするためには、買主本人のみだけではなく、一般の人にとっても住み心地の良さを欠くと感じることに合理性があると判断される程度であることが要求されています。
(3)裁判例
横浜地判平成元・9・7では、例①と同様に、小学生の子2人を含む家族4人が居住するために購入したマンションに「自殺物件であった」という瑕疵があった場合について以下のように判示し、瑕疵担保責任による契約の解除を認めました。
「単に買主において・・・(自殺があったという)建物の居住を好まないだけでは足らず、それが通常一般人において、買主の立場に置かれた場合、(自殺があったという)事由があれば、住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があると判断される程度に至ったものであることを必要とする」
「原告らは、小学生の子供2名との4人家族で永続的な居住の用に供するために本件建物を購入したものであって、・・・本件建物に・・・(購入の)6年前に縊首自殺があり、しかも、その後も(自殺をした者の)家族が居住しているものであり、本件建物を、他の・・・(こういった事情の)無い建物と同様に買い受けるということは通常考えられないことであり、右居住目的から見て、通常人において右自殺の事情を知ったうえで買受けたのであればともかく、子供も含めた家族で永続的な居住の用に供することは甚だ妥当性を欠くことは明らか」である。
2 暴力団員の出入りがあるケース
(1)問題の所在
もしも自分が居住する予定で購入を検討している物件に、実は暴力団員の出入りがあったと判明した場合、何かしらのトラブルに巻き込まれないか心配になり、購入の取り止めを希望される方もいると思います。
そこで、「暴力団員の出入りがあること」も、「自殺物件であること」と同じく目に見えない欠陥(いわゆる「心理的欠陥」)として、瑕疵担保責任(民法570条)に基づき売買契約を解除できるか否かが問題になります。
(2)裁判例
それでは、実際の判例を見て見ましょう。
【事案】
原告が居住目的でマンションを購入したところ、同じマンション内に暴力団幹部が所有者となっている部屋があり、組合員の出入りが判明したため、売主に対し責任追及を行った。
【判旨】
「居住環境として通常人にとって平穏な生活を乱すべき環境が、売買契約において・・・一時的ではない属性として備わっている場合には・・・瑕疵にあたる」。また、暴力団幹部が、マンションの管理室に私物を置いて物置として使用する等、マンションの共用部分を私物化する等の迷惑行為を継続していたこと、マンションの敷地内及び前面道路において、大人数で長期間にわたり飲食し騒ぐ等でマンションの区分所有者らに迷惑をかけている状態は、通常人にとって明らかに住み心地の良さを欠く状態に至っており、また、係る状態は一時的な状態とは言えないとして瑕疵があると判断しました。
そして、瑕疵担保責任に基づき、瑕疵を前提とした本件不動産の価値と実際の売買代金との差額について損害賠償をすべきとしましたが、居住の目的に用いられない程度の瑕疵であるとは言えないとして、契約の解除は否定しています。
3 まとめ
今回は「自殺物件であること」「暴力団員の出入りがあること」を例にご説明しましたが、他にも、「墓地の隣であったこと」「産廃処理場の隣であったこと」等、様々な心理的瑕疵が想定されます。
いずれにせよ、前回のような物理的欠陥ではないために、買主側が主張する欠陥が実際に「瑕疵」として認められるか否かは個別案件によって左右されやすいものなので、何を根拠にどういった主張をすれば認められるのか等、弁護士などの専門家に一度相談してみると良いでしょう。
労働基準法とは? ~賃金の支払いについて~
昨今、採用市場は売り手市場化が進み、企業は必要な人材を確保することが極めて難しくなってきています。また、ブラック企業に対比して、「ホワイト企業」という言葉が広まり、年間休日が多い・離職率が低い・残業が少ない・福利厚生が充実しているなどの様々な労働条件だけでなく、仕事内容、職場の雰囲気などが重要な時代になってきました。
そして、これらを適切に伝えることで、採用力を向上させることが大切です。その中でも今回は生活していく上で大切な給料についてお話していきます。
1.賃金におけるルール(原則)と注意すべき事項
賃金におけるルールというものが労働基準法第24条で定められています。
②直接払いの原則(本人名義の口座等)
③全額払いの原則
④毎月1回以上払いの原則(月に1回は振込を行うこと)
⑤一定期日払いの原則(毎月支払日がばらばらではいけない)
上記が、賃金の支払いの5原則と言われるものです。
では、これらを一つずつ説明していきます。
➀通貨払いの原則
賃金は必ず通貨(国内で通用する貨幣)でないといけません。したがって、外国通貨や小切手は通貨と認められませんし、ましてや現物での支払いもできません。しかし、一般的な会社であれば、現金で手渡しではなく銀行振込で給与を支給するのが通常でしょう。そのため、銀行振込で支払いをする場合には、従業員の同意を得た上で行わなくてはなりませんので、銀行振込に関する労使協定を締結しておきましょう。
②直接払いの原則
従業員に対する賃金は、従業員本人に支払わなくてはならないという原則になります。本人に直接支払えないような場面に出くわす可能性がありますので、緊急時にどのように支払うのかも決めておいた方が良いでしょう。
例外…使者(本人の意思を伝達する者。例えば労働者が療養中で、家族が賃金を受取る場合など)
③全額払いの原則
賃金はその全額を支払わなくてはなりません。賃金の一部を無断で差し引いたり、会社の立替金を勝手に相殺したりすることはできません。ただし、社会保険料や源泉所得税、住民税など、法律で認められているものを差し引くことはできます。
なお、会社が一方的に相殺することは禁止されていますが、従業員本人の承諾の下、従業員が会社に対して負っている債務と相殺することは構いません。その場合には、きっちり相殺に関する同意書を作成するようにしましょう。
④毎月1回以上払いの原則
賃金は少なくとも毎月1回は支払わなくてはいけません。一方で臨時給・賞与などには、この原則は適用されませんので混同しないようにしてください。注意事項として、月給制だけではなく、年俸制を採用していても毎月1回は支払わなければいけませんので、気を付けましょう。
補足ですが新入社員(4月1日入社)の場合、給料が入るのが1か月以上先という企業が多々あります。例えば新入社員が月末締め翌月10日払いの会社に入社したとして4月勤務分が5月10日に支給されるような場合です。この場合は原則に該当しないというのが通説になっています。理由としては入社月に支払義務の生じる賃金債権自体が発生していないためです。
通常の会社であれば、月に一度は給料日があるでしょうから、それほど気にしなくて良いでしょう。
⑤一定期日払いの原則
賃金は毎月一定の期日を定めて、支払わなければいけません。なぜなら、賃金の支払日が毎月変動すると労働者の生活自体が不安定になるためです。支払日(期日)については特定できれば差し支えありませんが、「毎月第〇・〇曜日」とするという定め方では、月により支払日が異なり、期日が特定できないため認められません。したがって、「毎月15日」「月末」といった定め方が必要です。
2.賃金の支払いの5原則ポイント
上記で説明した賃金の支払いの5原則は、違反した場合に罰則が設けられており、労基法上遵守することが義務付けています。
では、会社が従業員に対して支払うものは全て「賃金」として、上記5原則が適用されるのでしょうか。「賃金」と評価されるためには、➀労働の対償かどうか、➁使用者が支払うものかどうかを検討しなくてはなりません。
次に、「賃金」に該当するとしても、上記5原則が適用されずに例外的に控除が認められているものがあります。つまり、労働基準法第24条1項は、法令に別段の定めまたは労使協定のある場合に賃金の控除を認めています。これは、公益上の必要があるもの及び社宅料や購買代金等の明白なものについてのみ例外を認める趣旨であると説明されています。
3.まとめ
賃金の支払いの5原則はいかがでしたでしょうか?今回は賃金の支払いに関してまとめました。基本的には賃金の支払いの5原則を遵守し、労働者に対して支給することが大切です。もし、原則通りに支給できないのであれば、事前に労働者との間で個別に労使協定を結んでおき、事前に対策しておくことが必要でしょう。
知っているようで、意外と知らないことがあったのではないでしょうか?
この法律は労働者を保護し生活を安定させるために生まれた法律です。
理解しづらい部分もあるかと思いますので、そういった場合は管轄の労働基準監督署や労働局に尋ねてみるのも一つの方法です。そこで一歩を踏み出すことがより良い会社を創る上で大切なことだと思います。従業員や会社の成長のために、会社の規則を見直すきっかけの一助となれば幸いです。
テレビ番組制作において気をつけるべきポイント~取材・撮影編~
世の中には、テレビ番組に関わる仕事をされている方も多くいるかと思います。テレビ番組は、その制作会社や放送局のガイドライン、規程に則って制作されることがほとんどかと思いますが、中には「なぜこのルールを順守しなければならないのか?」と疑問に思ったり、「こんなケースはどうしたらいいのか?」という部分も出てくるのではないでしょうか。
様々なテレビ番組制作において気をつけるべき点を数回にわたってご説明します。
今回は、取材・撮影時においてのポイントです。
1.多くの通行人が行き交う中でのリポート・撮影
(1)映りこむ通行人の肖像権は?
大規模な電車の遅延などが発生した場合、その様子を朝の情報番組などでリポートをすることがあるかと思いますが、リポーターの背部に駅構内を行き交う通行人や、遅延情報を駅員に問い合わせている人など不特定多数の人が映り込みます。
もっとも、その混乱している様子を撮影し、大変な状況であることを視聴者へ知らせるという点で必要な場面ではありますが、このケースにおいて、リポーターの背部を歩く通行人に対しては許可なく撮影し放送しても良いのでしょうか。
(2)特定できなければ侵害にならない
ここで「肖像権の侵害」という言葉が思い浮かびますが、この場合、画面を通り過ぎる通行人を特定しようと思っても容易にはいきません。誰であるかすぐに特定できない場合、肖像権の侵害にはあたらないと考えられます。
また、たとえ本人を特定できたとしても、「約3分間のリポートのうち、数秒間映る」程度であれば、テレビが普及し誰でも映り込む可能性がある今日の社会においては生活上受忍限度の範囲内となり、肖像権の侵害とはならないでしょう。
しかしながら、朝の生放送番組で中継時に撮影した映像を、夕方の情報番組等で再度利用し放送する、といったケースもあるかと思います。その際、映像の中に映った通行人より「再度使用しないでほしい」というような要望が寄せられた場合、明確に拒否の意思を伝えられているので、映像の使用についてはよく検討せねばなりません。
加工等をし、本人の特定ができないようにして放送するか、映像自体を使用しないようにするか、その映像の重要性も考えて臨機応変に対応するようにしましょう。
(3)取材班であることを明確に
最近では高性能でありながらサイズの小さな撮影用カメラも登場し、機材の持ち出しも容易になった反面、撮影をしていることが分かりにくくなっているかもしれません。前述の通り偶然であったとしてもテレビに映ることを嫌う人も一定数は存在します。
通行人に対して、テレビ局や制作会社の名前を記した機材を用いたり、腕章をつけるなどして、報道機関が取材・撮影をしていることを分かりやすくしておくことも重要です。
そのような取材班を避けずに通行しているということは、撮影について承諾していると捉えることができます。
一方、取材班が撮影しているとわかると騒ぎ立てたり、故意に映り込もうとする人もいます。大きな騒ぎになり通行に支障が出るなどの可能性もありますので、状況に応じて撮影のやり方を適宜変えていくことも必要です。
2.事件が発生!取材・撮影を現場のすぐ近くで行う場合
(1) 事故現場などで張られた規制線の中へ入っても良い?
事件や事故が発生した際、周辺に「規制線」が張られるかと思います。多くの規制線は黄色いテープで、「立入禁止」などの文字が記されています。より近くで撮影するために、この規制線を越えて取材や撮影をすることはできるのでしょうか。
(2)規制線は複数の法的根拠に基づいて張られているもの
事件現場等で見られる「立入禁止」の線は、刑事訴訟法などの法的根拠により張られていて、事件の内容によっては複数の法令を適用し規制線を張っている場合もあります。
まず大前提として、警察官は実況見分、検証のために事故の現場を現状のまま保存すること、何も知らない人が立ち入らないように、証拠を動かすことのないように、立入禁止のテープやロープを張らなければならないなどと犯罪捜査規範で定めています。
しかしながら、これはあくまで規範であり法的な強制力はありません。後述する警察官職務執行法や刑事訴訟法を合わせて規制線を張ることで、規制線を超えた侵入者を退去、処罰することとなります。
(3)警察官職務執行法・刑事訴訟法に基づいた規制線
警察官職務執行法(警職法) 第四条では、「避難等の措置」として交通事故、危険物の爆発、その他人の生命や身体に危険がある場合など、危害を避けるために必要な限度内で避難、引き留める措置ができるとしています。
この法令に基づいて張られた規制線では、むやみに立ち入ると軽犯罪法違反となる可能性があります。
また、刑事訴訟法(刑訴法)第百十二条では、差押状、捜索令状を用いて現場検証等を行う際、許可を得ない出入りを禁止することを定めています。こちらも規制線を張り現場検証を行っている場合、立ち入ると警職法同様に軽犯罪法違法となり得ます。
(4)道路上での規制線
交通事故などでは道路上に規制線を張ることがあるかと思いますが、これは道路交通法に基づき張られる規制線になるでしょう。道路上の危険を防ぐために歩行者・車両の通行を禁止また制限することができると定めています。
車両の侵入については処罰の対象になる可能性がありますが、歩行者に対しては罰則がなく、立ち入っても道路交通法違反とはならないとされています。しかしながら、規制線は複数の法令により張られている場合が多いですので、警官が制止したにも関わらず立ち入るなどした場合、警職法等により軽犯罪法違反となることもあります。
(5)どの法令に基づいた規制線か?
以上の法令などから、規制線を張っている場合でも状況によっては立ち入ることができるかもしれませんが、その規制線がどの法令に基づいて張られているのかをすぐに判断することは不可能に近いです。
捜査の取材で立ち入りが必要である旨を警察官に申し入れた場合、ある程度許容して立ち入りを許可することもあり得ますが、その際も警察官の指示に従うといった制限の中で取材をすることとなるでしょう。
いずれにしても、捜査の妨害とならないよう、注意を払いながら取材する必要があります。
3.まとめ
日本でのテレビの本放送が開始されてから60年余りになりますが、放送技術の向上や機材の高性能化、さらには交通網が発達したことにより、取材先へ向かい映像を撮影、その場で放送することが容易な世の中になってきました。
高性能カメラで撮影された映像では、個人を特定しやすくなり撮影に対しての苦情等も多く寄せられるかもしれません。しかしながらその高性能カメラにより、規制線を超えずとも、遠くからはっきりとした事件現場の映像を撮影することができるようになったのも事実です。取材時において適用される法律や法令を理解し、適切な取材・撮影を行っていきましょう。
経営法務リスク~無期転換ルールのリスクとは~
金融危機や労働者派遣法の見直しが実施された1998年頃から正社員としての雇用が減り、有期雇用契約が増加し始めました。有期雇用契約を活用することは、会社の経営状況に合わせて人件費を調整しやすい点や、正社員と比べて人件費を抑えることができる点から、有期雇用契約は長期間に渡り、更新されてきました。しかしながら、有期雇用契約の社員にとっては雇用が安定しないことから経済的な自立やキャリア形成を図ることが難しいという問題がありました。
それらの問題に対応するために、国は政策の一環として、「無期転換ルール」を法律として定め、企業に積極的に取り入れるように推進しています。今回は「無期転換ルール」を取り入れる企業に生じるメリット、デメリットについて説明したいと思います。
1.有期契約雇用と無期契約雇用の違いとは?
平成25年4月1日に施行された労働契約法の改正において、「有期雇用されている期間が5年を超える場合は、労働者は無期雇用に切り替えを求めることができる(労働契約法第18条1項)」という「無期転換ルール」が定められました。
対象者は、有期契約社員、アルバイト、パートタイマー等の有期雇用者となり、企業は対象者から期間の定めのない労働契約の締結の申込みがあった場合、対象者からの申し入れを拒否することが出来ません。
有期雇用と無期雇用の違いは、「契約期間に定めがある雇用」か「契約期間に定めが無い雇用」かという点になります。そこで、理解しておかなければならない事は、「無期雇用に転換になる=正社員」ではないという点です。雇用形態が無期雇用に変更されたとしても、契約期間の定め以外の労働時間、賃金、その他の労働条件は、特段の合意がなされていない限り、有期雇用時と同一のものになります。
つまり、「無期転換ルール」とは、あくまでも雇用期間の変更に過ぎず、自動的に労働条件が正社員と同一になるわけではありませんので、ご注意ください。
2.無期契約雇用のリスク
前述した通り、無期雇用への変更により、特段の合意がなされていない限り自動的に労働時間、賃金、その他の労働条件が正社員と同一の条件に変更されるわけではありません。しかしながら、その様な事態を防ぐために企業側も就業規則の整備など一定の事前準備が必要となります。
就業規則において、有期雇用から無期雇用に転換した社員と、無期雇用の正社員(通常の正社員)との賃金等の労働条件が区別されていなければ、無期雇用に転換した社員が正社員と同じ労働条件になるリスクが生じます。
もし、有期雇用から無期雇用に雇用形態を変更した全員が正社員と同一の労働条件となれば、人件費等が大幅に増大することになり、経営を圧迫する要因の一つとなります。
一般的な会社の就業規則においては、「正社員」「契約社員」「パート」などの区別しかなく、労働条件は有期雇用の契約社員と同等だが、雇用期間は無期という形態があまり想定されておらず、就業規則には規定されていないことが多いものです。一度、しっかりと確認した方が良いでしょう。
また、業務内容の範囲についても、各雇用形態別に区別して定めることが重要です。区別して定める理由としては、例えば、無期雇用に転換した社員と正社員との間に業務内容や責任の範囲に違いが無いにも関わらず、待遇面において差が発生することによって、社員の間に不満が生じ、トラブルの原因になる可能性が考えられます。
雇用形態別に業務範囲を区別して定めることにより、未然にトラブルを防ぐことが可能になります。この様な事態を防ぐためにも、事前に就業規則を見直し、整備することをお勧めします。
もう一つの企業側のリスクとして、解雇にかかる問題が挙げられます。有期雇用の場合では契約期間が明確に定められているため、経営状況に合わせて契約更新の可否を判断し雇用人数を調整することが可能でした。
しかしながら、無期雇用の社員の場合、契約を解除するには「解雇権濫用法理」(解雇権濫用の法理とは、「就業規則の規定に反する行為をした等の解雇事由に該当したとしても、解雇は社員やその家族へ与える影響が非常に大きいため、合理的かつ論理的な理由が存在しなければ解雇できない」という理論。)により、厳格な解雇規制が適用されます。その結果、経営状況に合わせた雇用人数、人件費の調整が難しくなってしまいます。
3.無期雇用転換のメリットとは?
それでは、企業にとって有期契約の従業員を無期雇用へ転換するメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
1つ目は、新人を採用するのと比較し、既に会社の実務を理解し、経験のある社員を手放さずに済む点です。契約期間の定めが無くなることで、中長期的な社員の育成が可能となり、新規社員の採用コストや育成コストを削減することができます。
2つ目は、有期雇用から正社員や無期雇用に転換を行った場合、一定の受給要件を満たせば政府からキャリアアップ助成金を受給することができる点です。社員の雇用を見直す際には、助成金の受給も併せて検討すると良いでしょう。
検討する際には、社員の雇用形態の現状をきちんと把握することが大切です。予め、雇用形態の現状を把握することにより、助成金の受給申請の計画が立てやすくなります。
助成金申請は、細かいルールが定められており、これを満たしていないと形式的に受給申請ができなくなりますので、専門家に相談しましょう。
4.まとめ ~企業側が備えること~
無期転換ルールの発生に伴う企業のメリット、デメリットについてご理解いただけましたでしょうか?
平成30年より制度の運用が本格的に開始され、約1年が経過しました。まだ社内において、無期転換ルールに対応できる労務環境が整っていないのであれば、急務で整備に取り掛かる必要があります。
まず企業が行うべきことは、雇用形態に合わせた就業規則を確認、整備し、待遇面や業務内容の範囲について明確に定めることが大切です。
弁護士や社労士などの専門家にも相談しながら、「無期転換ルール」に対応した労務環境作りを行いましょう。