弁護士コラム

2021.09.30

罪を犯しても刑務所に入らなくて済む?~実刑判決と刑務所の収監~

最近、仕事の忙しさもあって、このブログをさぼってしまっており、ふと思い出したように記事を書いています。
弁護士の後藤です。

2019年4月に東京の池袋で発生した、乗用車の暴走事故。
親子2人が死亡し、9人が負傷してしまったというとても凄惨な事故であり、被害者のご遺族の方のインタビューや会見、被告が公判で過失を争い、無罪を主張していたことなども相まって、世間でも非常に耳目を集める事件となっていました。

先日2021年9月2日にこの事件の第1審の判決が東京地方裁判所で出され、被告人にはブレーキとアクセルを踏み間違えた過失があると認定し、被告に対し、禁錮5年の実刑判決を言い渡しました。

判決後、被告人が第1審の判決を不服として、高等裁判所へ控訴するか否かが注目されていましたが、先日、被告人において、控訴をしない意向であることがニュースなどで報道されるようになりました。

被告人において、禁錮5年の判決に対し控訴をしない場合には、かかる判決が確定することになります。

そして、テレビニュースや新聞では、被告人が90歳と高齢であることから、判決が確定場合に、刑務所に入らない可能性があるのではないかということが盛んに論じられてきました。

私もこの事件があるまでは、刑務所に入らなくてもいいケースがあることは知っていましたが、具体的にどのような場合に刑務所に入らなくていいケースがあるのかについてはよく知らなかったため、今回の事件を機に少し調べてみることにしました。

まず、犯罪を犯したとしても、事件が検察官に送致されない場合や、検察官に送致されたとしても、示談などが成立して不起訴処分になった場合には、そもそも刑事裁判すら開かれないので、刑務所に入る(「収監」といいます。)ことはありません。

罪を犯しても刑務所に入らなくて済む?~実刑判決と刑務所の収監~次に、罪を犯し、検察官に起訴されたとしても、犯罪の内容が軽微である場合、前科等が無い場合や、監督する人がいて再犯の恐れがない場合等ケースは様々ですが、こういった諸般の事情を考慮し、判決において、懲役●年等の刑は言い渡されますが(いわゆる「有罪判決」といいます。)、判決確定後一定の期間(3年、5年などが一般的です)、犯罪を犯さなかった場合には刑務所に入らなくて済むという執行猶予判決が出される場合があります。

この執行猶予判決が出た場合にも、刑務所に入らずに済みます(どのような場合に執行猶予判決が認められるのか、どのような場合に執行猶予が取り消されるのかについては別の記載にご説明しようと思います。)。

そして、今回の事件のように、判決に執行猶予がつかなかった場合(「実刑判決」といいます。)には、判決が確定次第、原則として刑務所に収監されるのですが、実刑判決を受けたとしても、刑務所に入らなくて済む場合、すなわち刑の執行を止める制度については、刑事訴訟法に記載されており、具体的には2つの場合が規定されています。

まず、刑事訴訟法480条では、「懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、刑の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は刑の言渡を受けた者の現在地を管轄する地方検察庁の検察官の指揮によって、その状態が回復するまで執行を停止する。」と規定されており、病気や認知症等が原因で、心神喪失状態になっている場合には、その状態が回復するまでは、刑の執行が停止されることになります。

次に、刑事訴訟法482条では「懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者について左の事由があるときは、刑の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は刑の言渡を受けた者の現在地を管轄する地方検察庁の検察官の指揮によって執行を停止することができる。」と規定し、検察官の裁量で刑の執行が停止されるケースを規定しています(480条の末尾が「停止する」となっており、必ず停止することを記載しているので「必要的執行停止」、482条の末尾が「停止することができる。」と検察官の裁量に委ねられている記載になっているため、「裁量的執行停止」と呼ばれています。)。

そして、裁量的執行停止が認められるケースとして、

①刑の執行によって、著しく健康を害するとき、又は生命を保つことのできない虞(おそれ)があるとき。
②年齢70年以上であるとき。
③受胎後150日以上であるとき。
④出産後60日を経過しないとき。
⑤刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずる虞(おそれ)があるとき。
⑥祖父母又は父母が年齢70年以上又は重病若しくは不具で、他にこれを保護する親族がないとき。
⑦子又は孫が幼年で、他にこれを保護する親族がないとき。
⑧その他重大な事由があるとき。

と、記載されています。

今回では、被告人の年齢が90歳であり、①の「年齢70年以上であるとき」に該当するため、収監されないのではないかと報道されています。

罪を犯しても刑務所に入らなくて済む?~実刑判決と刑務所の収監~しかし、結論からお伝えすると、70歳を超えているからといって必ず収監されないということはなく、むしろ70歳以上の高齢者であったとしても、実刑判決が出された場合、ほぼほぼ収監されることになります。

逆に70歳を越えた人が原則収監されないとした場合には、いくら罪を犯したとしても刑務所に収監されないと知った高齢者の方の犯罪が増えてしまったとしてもおかしくありません。
したがって、今回の被告人も90歳と非常に高齢ではあるものの、おそらくは判決確定後、刑務所に収監されることになる可能性が高いでしょう。

逆に、③や④の場合には、特に出産の直前直後には、刑務所で出産することは赤ちゃんにとって適切ではないため、刑の執行が停止され、病院へ行き、病院に入院して出産することは少なくありません。

ニュースやインターネットの記事では、高齢者は原則刑務所に収監されないかのような記載も見受けられますが、おそらく高齢者の犯罪は、価格の低い商品の万引き(窃盗)など、軽微な犯罪が比較的多く、そもそも不起訴処分となるケースや、起訴されたとしても執行猶予になるケースが比較的多いため、それを有罪であっても刑務所に収監されないと誤って認識している可能性があるのではないかと思っています。

このように、実刑判決が出されてしまうと、原則として刑務所へ入らなくてはならないため、起訴されないことや、執行猶予判決を得ることが非常に重要になり、それには早期に弁護士に依頼して、適切かつ迅速な対応が求められますので、ご自身や近しい方が罪を犯してしまった場合には、早めに弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

最後にはなりますが、この度の事故で、お怪我やお亡くなりになってしまった方や、その後親族の皆様には心よりお悔やみ申し上げます。

 

2021.09.15

皇室の一時金辞退できるのか?一時金の法的根拠は??

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結婚式のイメージ2017年9月に、現在の天皇陛下(当時の皇太子)の弟である秋篠宮殿下の長女である眞子内親王と小室圭さんの婚約が発表され、同時期にお2人での婚約の会見が行われました。

私もそうですが、世間一般の皆様もその会見を見たとき、そのままご結婚されるのだろうと思われたと思います。

ところが、その後、小室さんのお母様と元婚約者との間の金銭トラブルが報じられたことを契機に、連日ニュースやワイドショーでもこの問題が報じられるようになり、お2人の結婚及び結婚に関する行事の延期が発表されました。

その後、小室さんが2018年夏に、アメリカの弁護士資格取得を目指し、ニューヨーク州にあるフォーダム大学に入学したり、秋篠宮殿下が婚約の条件として、「多くの人が納得し喜んでくれる状況」が必要であると述べ、小室さん側に金銭トラブル等について「それ相応の対応」を求められ、2020年には小室さんから合計28枚にも及ぶ文章が公開されたり、眞子内親王も「結婚は私たちにとって生きていくために必要な選択」と結婚に向けた強いお気持ちを公表され、結果として秋篠宮殿下も結婚をお認めになるなど、様々出来事がおきました。

そして、先日、お2人が年内に結婚される予定であることや眞子内親王において、結婚により皇室を離れる際に支給される一時金の受け取りを辞退する意向であることがニュース等で報じられるようになりました。

調べるイメージ私としては、結婚はお2人が結婚を希望しているのであれば、他の人があまりとやかく言うべきではなく、お2人がご結婚されるのであれば、とてもおめでたいこであると思いますが、ニュースやテレビ番組では、眞子内親王が一時金の受け取りを辞退する意向であることが盛んに報じられるなか、そもそも受け取りを辞退することが法的にも可能であるのか、前例がないとのニュースを見かけたため、私もできる限り調べてみることにしました。

まず、皇室の身分等に関して規律している「皇室典範」という法律の第12条一では、「皇族女子は天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。」と規定しており、結婚に伴い、皇室を離れることになっています。

そして、一時金の支給について記載している法律を調べると、「皇室経済法」という法律があり、その法律の6条1項では、「皇族費は、皇族であった者としての品位保持の資に充てるために、皇族が皇室典範の定めるところによりその身分を離れる際に一時金額により支出するものとする。」と規定されており、「皇族であった者としての品位」を保持するために支給されるものであること分かりました。

しかし、「皇室経済法」には、この一時金の放棄や支給しない場合については規定されておらず(そもそも、一時金を辞退するという事態を想定していなかったのでしょう。)、結局、一時金を辞退することが可能か否かについては、この「皇室経済法」の解釈次第ということになります。

上記6条1項では、「支出するものとする。」と規定されており、受け取る側の意思に関わらず支出されるように規定されているため、この条文を素直に読むと、一時金の受け取りを辞退することは認められない様にも思えます。

また、一時金については、品位を保持するために支出されるものであるため、支出されなくても品位を保持することが十分に可能であるという場合には、支出されないという解釈も可能かもしれませんが、これも今まで必ず支給されてきたことからすると、今回の場合にこの解釈をすることで支給しないということは難しいのではないかと思います。

したがって、一時金の受け取りを許可するためには、この「皇室経済法」の解釈を大きく変更(個人的には、法律改正と同じ程度の大きな変更だと思います。)がなければ認められないのではないかと思います。

いずれにせよ、どのような判断がなされるかについて、今後も注視していきたいと思います。

 

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記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。

 

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2021.03.05

政教分離って何だ??

令和3年2月24日、最高裁判所の大法廷において、政教分離という問題に対して判断がくだされました。

内容としては、那覇市が管理する公園の敷地について、儒教の祖といわれる孔子を祭るための廟(びょうと読み、祖先の霊を祭る建物のことをいいます。)を設置していた一般社団法人に対し、市が当該土地を無償で提供(使用料を免除)したことが、憲法が禁じた宗教的活動に該当すると判断しました。

一般の方からすると、政教分離という言葉もあまりなじみがなく、どういった問題であるのかについてもわかりずらいと思いますので、すこし説明させていただきます。
 
憲法20条は、第1項で、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」、第2項で、「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。」第3項で「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と規定しています。

また、憲法89条では、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益もしくは維持のため、……これを支出し、又はその利用に供してはならない」と規定しています。

この憲法20条1項(後段)、同条3項、89条の規定が、国(地方公共団体)と、国家の結びつきを禁ずるための「政教分離の原則」を定めていると言われています。

国家と宗教が結びつくことにより、異教徒や無宗教の人に対する迫害が生じてきた歴史等に鑑み、個人の信教の自由を守るために、定められた原則であると言われています。

今回は、那覇市という地方公共団体が、「孔子廟」という儒教の祖を祭る建物を設置する際の利用料を免除したことが、政教分離違反に該当しないのかという点が問題になりました。

政教分離原則に反するか否かについては大きく分けると①行為の目的が「宗教的意義」を持つか否か、②その行為に結果(効果)が、宗教に対する援助、助長、促進、圧迫、干渉等に該当するかという①と②を基準に判断されるのが一般的です(「目的効果基準」などと言ったりします)。

今回の最高裁においても、孔子廟の宗教性を肯定した上で、免除される使用料が高額(年間約570万円)であることなどを理由に、使用料を免除したことは、一般人から見て市が特定の宗教に対し特別の便益を提供し、援助していると評価されてもやむを得ないと判断したようです。

これまで、最高裁において、国や地方公共団体の行為が政教分離原則に反すると判断した例は、2件しかなく、今回の最高裁の判決で3件目となったこともなり、全国ニュースでも取り上げられるようになりました。

このように、一般の方ではあまり馴染みのない、政教分離原則ですが、司法試験を受験する方は必ず学習する分野であり、特に私の場合、司法試験本番で政教分離原則の問題が出て、まさか政教分離の問題がでるとは予想していなかったため、とても焦った記憶があり、今回のニュースで懐かしい記憶がよみがえったため、記事にさせていただきました。

 

2021.02.16

十分な車間距離を!

私は、事務所に出勤するときや、裁判所へ行く際には車で移動することが多いのですが、運転している際に、前の車がほとんど車間距離を空けずに走っていることが多いように感じます。

もともと学生のころから免許は持っていましたが、弁護士として仕事をするようになってから車の運転をするようになったため、運転歴もそこまで長くなく、運転がうまいというわけではないことに加え、「ひょっとしたら前の車が急ブレーキを踏むかもしれない」と最悪ことを想定してしまう性分のため(「かもしれない」運転といって、運転するときの心構えとしては適切らしいです。)、比較的車間距離を空けて走行しています。

また、そこまでスピードを出して走っているわけではないため、後の車が隣の車線に移って追い越していくということなどしょっちゅうあるのですが、「急いでいるんだな」と感じる程度で、ストレス等感じることはありません。
最近では、はやりの煽り運転や道路上でトラブルを起こす人のニュースを見かけることが多いですが、運転する際には心に余裕を持って運転してもらいたいと思っています。

少し脱線してしまいましたが、本日は、車間距離と停止距離についてお話させていただきます。

停止距離とは、運転者が危険を感じた時点から、ブレーキを踏み、実際に車が停止するまでの距離をいいます。

そして、この停止距離は、空走距離と制動距離の合計をいいます。

空走距離とは、運転者が危険を感じてからブレーキを踏み、実際にブレーキが効き始めるまでの間に車が走る距離の事をいいます。

「危ない!」と感じ、アクセルペダルからブレーキペダルへ踏みかえ、ブレーキを踏んでブレーキが効き始めるまでの間は、その時速のまま自動車が進むことになります。

反射神経や、運転者の体調によってもことなりますが、その時間は、早くても0.6秒、平均で1.5秒かかるといわれています。

1.5秒とだけ聞くととても短いと感じるかもしれませんが、時速40キロの場合、1.5秒の間に約16.7メートル進み、時速60キロの場合には約25.1メートルも車が進むことになります。

次に、制動距離とは、ブレーキが作動してから車が停止するまでの距離をいいます。先ほどの空走距離は、車の時速に比例して増えるのですが、制動距離は速さの2乗に比例して増えていきます。

例えば時速50キロの制動距離は約18メートルですが、倍の時速100キロの場合には、2乗に比例して増えるため、18m×2×2=72メートルにまで増えてしまいます。

上記の空走距離、制動距離の合計が停止距離になり、時速60キロの場合の停止距離は、約44mとなります。

この停止距離の算定は、路面の状態、天候、車のタイヤの状態、重量等様々な条件で変わっては来ますが、停止距離からおおよその時速を算定することやブレーキ痕を根拠に制動距離を導き出し、そこからおおよその時速を算定するなど、交通事故の場面で多く活用することになります。

車間距離を空けずに時速60キロで走行しており、前の車が急ブレーキを踏んだ場合、到底間に合わずにぶつかってしまうでしょう。

そういった事故を減らすためにも、十分な車間距離を空けて安全に運転してもらいたいです。

2021.02.15

説明のむずかしさ

皆様が乗られているお車の任意保険の内容を確認すると「弁護士費用特約」というものが契約内容で入っている方が多いと思います。

これは、もらい事故など、交通事故の被害者となられた際、交渉で必要な弁護士費用を任意保険会社が負担するという特約になります。

この弁護士費用特約の普及もあってか、当事務所でも交通事故の相談は頻繁にいただいています。
弁護士に相談する状況というと、基本的に相手方(加害者側)の任意保険会社との協議が整わないため、ご相談にくるというケースが多いです。

その中で多く問題となるのが、お怪我をしている際の治療費の打ち切りに関する問題や過失割合(事故の態様)に関する問題ですが、それと同じくらい問題になるのが物損事故における「経済的全損」という問題です。

この「経済的全損」という言葉、聞きなれない方の方が多いと思いますが、相談者の方も「相手の保険会社から『経済的全損なので修理費用全額ははらえない』と言われた。こっちは被害者なのにおかしいではないか」とご相談いただくことがあります。

結論として、経済的全損のケースでは、修理費用全額は支払われないという相手方保険会社の対応は間違っていないのですが、納得いかずにご相談に来られる方が一定程度いらっしゃるということは、担当者においてきちんと経済的全損について説明がされていないのではないかなと思っています。

「経済的全損」とは簡単にいうと、修理費用よりも、当該車両の時価が低い状況をいいます。例えば、車をぶつけられ、修理費用に70万円が必要となるが、ぶつけられた車は年式も古く、走行距離も多かったため、事故当時の車の価額は50万円である場合、加害者(の保険会社)から支払われる金額は、70万円ではなく、車の価額である50万円のみとなります。

被害者の方からは、よく、「こちらは事故で車に乗れないため、相手の費用で修理してもらうのが損害賠償ではないのか」と質問されます。

しかし、交通事故での損害の請求は、法律上損害賠償請求といい、損害賠償請求は、文字通り、被った損害を賠償することを請求するものであるため、請求できるのは被った損害の限度となります。
ここで、先ほどの例で、被害者に70万円(修理費)が支払われた場合、車の価額は50万円であるため、事故のまえよりも20万円財産が増えてしまっていることになります。

ここまで説明すれば、多くの方はご理解いただけるのですが、 この経済的全損の問題は、自動車という、修理しなければ運転できないことや、比較的高額であるため、ご理解に時間がかかるのではないかなと個人的に考えており、ご相談者様には、物を代えてご説明しています。

たとえば、書店で中古の本を100円で購入した直後に、他の人がその本を誤って破ってしまったとして、その本を元に戻すためには1万円かかるとした場合破ってしまった人に対しては、いくら請求できますか」と問いかけると、多くの方は、「100円」とご回答いただけると思います。

このような「経済的全損」という問題にかかわらず、法律の世界の用語や理屈には、通常の方ではなじみがない複雑な問題がとても多いです。

そういった複雑な問題を処理するのが代理人となる弁護士の仕事なのですが、ご依頼者の方に対し、理屈や、理由について説明し、納得してから進んでいては、同じ結論になるとしても、「弁護士に依頼して良かった」と思っていただけるか否かに大きな違いがでるのではないかと感じています。
何事ともわかりやすく説明するよう心がけているのですが、全部が全部できているかというとそうでないことも多いため、常日頃、わかりやすい説明することの難しさを痛感しています。

2021.02.08

発言の「撤回」・・・すれば問題なし??

 

 最近、政治家や著名人が不適切な発言を公の場などで行った時に、記者や、国会議員などが「発言を撤回されないのですか?」「直ちに発言を撤回してください」と問い詰めるシーンや、問題発言を行った人本人が、「謝罪し、直ちに発言を撤回させていただきます。」などと発言しているシーンをよく見かけます。

 こういったシーンを見て思うのが、発言を撤回したからといって、問題発言を行ったという事実がなくなるわけではないのに、なぜ、撤回をしたり、執拗に撤回することを求めたりするのか、とても不思議に感じています。

 撤回することで、問題を早期に収束させたいう思惑や、撤回させたことで、発言の不当性を世間にアピールしたいというような思惑があるのだろうと思いますが、あまりにも撤回ということがピックアップされ過ぎなのではないかなとも思っています。

 「撤回」という言葉は、辞書等では「発言・提案など先行する場面での行為等を後に取り下げることをいう。」等とされていますが、法律上の用語としての「撤回」とは、「意思表示を行った者が、ある行為を将来に向かって無効とさせること。」を意味します。
 似たような概念で「取消」というものがありますが、これは、「過去に遡って」無効とさせる点で「撤回」とは異なります。

 民法上「撤回」が用いられているものとしては、「承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。」(民法521条1項)、「承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。」(524条)といったものがあります。

 また、同じ民法の中で、遺言の撤回という制度もあります。
民法1022条では、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定されており、一度遺言を書いたあと、再び遺言を書く際に、前の遺言について撤回すると記載することで、一度書いた遺言を撤回することができます。

 また、もう一度遺言を作成しなくても、遺言の内容と矛盾した行為を遺言を作成した人が行った場合、その行われた行為の範囲で、遺言を撤回したものとみなされます。

 例をあげるとすると、自宅を息子に相続させると記載した遺言を作成した後に自宅を売却した場合には、自宅を息子に相続させるという部分のみ遺言を撤回したことになります。

 この遺言の撤回については、さらに、遺言の撤回の撤回(元の遺言が復活するということになります。)ということも概念上は考えられるのですが、とても複雑になってしまうので、この辺にしておきます。

 話がとても脱線してしまった感は否めないですが、上記のとおり、法律上の撤回は、法的な効力を将来にわたってなかったことにすることはできますが、問題発言は、撤回したとしても発言したという事実をなかったことにはできないので、公の場での発言される方は慎重に発言してもらいたいなと感じています。

2021.02.03

離婚の原因は様々

当事務所は、現時点で(2021年2月3日)那珂川市に唯一ある法律事務所であるため、日々、様々なご相談をいただくのですが、当然、離婚の相談についても非常に多くのご相談をいただいています。

離婚についての相談である以上、なぜ離婚したいと思ったのか、なぜ離婚したいと言われているのか(別居されてしまったのか)という離婚原因については必ずご質問することになります。

その質問に対する回答としては、不貞行為をされた、DVを受け続けていた等という、離婚したいと考えるのは当然と思えるようなご回答もある一方、ご相談者様からの話のみを聞くと、そのような理由で別居されてしまうのかというような事情もあります。

ご依頼者様のプライバシーや弁護士の守秘義務の関係で、具体的な内容をそのままお伝えすることはできず、あくまで架空の内容にはなりますが、例を挙げるとすると、「いつも妻は、自分がお風呂に入る時にバスタオルを準備してくれており、その日は準備してくれていなくて、少し注意したら翌日、別居された」というようなお話があることは決して少なくありません。

そのような事例で代理人としてお手伝いさせていただくと、その多くが、別居直前のできごとは、別居を決意する引き金にはなったが、それだけでなく、日々の不満等が色々出てくるというケースが多いです。

おそらく、日々の不満などが積もり積もって、いわばコップからあふれる直前の状態であるときに、それ自体は大きな出来事ではないことが起こり、それがきっかけで溢れてしまい、別居に至ったのだと思います。

こういった状況でいつも思うのが、「いつの時点で取り返しがつかない状況であったのか、いつの時点で話し合いなどを行えば、離婚という結論を回避することができたのか」ということです。
個人の感情の部分ですので、なかなか分からないなと日々感じています。

 

弁護士として、お手伝いする以上、圧倒的に離婚という結果で終わる案件の方が多いです。
今年で弁護士8年目ですが、一方が離婚したいという状況で代理人としてお手伝いした案件で、離婚にいたらず円満で解決したという事例は1件しかありません。

離婚という結末が良いというケースも少なくないですが(離婚したことで逆に当事者の関係性がよくなったというケースもあります。それは別の機会に)、弁護士として、離婚という結論を回避するために何かできることはないかなと考えたのですが、弁護士が間に入る=離婚を前提とした話し合いになるというイメージがほとんどだと思うので、なかなか難しいのかなと思っています。

もっとも、夫婦の関係が悪く、どうしたらいいかというご相談についても可能な限りお答えさせていただきます。
その際にはきっと、離婚を切り出された際の対応や離婚に関する問題(養育費、財産分与等)についてのご質問もあろうかと思います。
ご夫婦の関係に悩まれている方は是非ご相談ください。

2021.02.02

豆をまいてトラブル??

今日(2021年2月2日)は節分になります。

小さい頃は、父が鬼役をしてくれて鬼(父)や家の外と中に、豆をまいて、その後、年の数だけ豆を食べてたはずなのに、豆を食べる手が止まらなかったなと懐かしく思います。

おめでたい行事の節分ですが、消費者庁では、毎年小さいお子さんが豆まきで使用する豆をのどに詰まらせる事故が毎年起きているとして、注意喚起を促しています。

福を呼び込むための行事で、お子さんに万が一のことがあってしまっては悲惨としか言いようがないため、小さいお子さんがいらっしゃるご家庭ではくれぐれも気を付けていただきたいです(消費者庁によると、6歳ころになると、小さい豆などでもスムーズに噛んだり飲んだりできるため、節分の豆など5歳以下のお子さんには食べさせないようにと記載されています。)。

話は少し変わりますが、節分では鬼に豆をまく(実際には「鬼役の人」にまく)のが風習です。
通常の豆まきは、家族間で比較的和やかにおこなわれるため特段問題にはなりませんが、最近は動画配信サイトなどで、再生回数を稼ぐために迷惑行為を行い、それを撮影している方も少なくないため、「道行く人に豆を投げてみた」などという動画を投稿するために、見知らぬ第三者に対して豆をまくというような行為がなされてもおかしくはないなと考えていました。

豆という小さいものであっても、第三者の身体に向けて投げる行為は、有形力の行使として暴行罪(刑法第208条)に該当しうる行為です。
単にふざけて豆を投げるというであっても、度が過ぎる場合には、警察に検挙されることも十分に考えられると思います。

また、お店などで豆をまいてお店に迷惑を掛けた場合には、威力業務妨害罪(刑法233条、244条)が成立する可能性もあります。
さらには当たりどころが悪く、ケガをさせてしまった場合には、ケガをさせる気はなかったとしても傷害罪(刑法204条)となってしまいます。
極端な例かもしれませんが、目に当たってしまい、失明ということになってしまたら、刑事罰だけでなく、多大な損害賠償を支払わなければならないという結果になる可能性もゼロではありません。
 
数年前であれば、こうした事例もあくまで、話のネタとして書いているだけで、実際には到底起こり得ないだろうなと考えていたと思うのですが、ここ数年、迷惑動画などのアップロードで様々な問題が発生している状況などを見ると、起こったとしても何ら不思議ではなく、情けない世の中になってしまっているなと感じながらこの記事を書いています。

2021.02.01

弁護士に相談すべきとき

日々、様々な方からいろいろな法律相談をしていただく中でとても強く感じることが、ご相談者様のほとんどが、「何かトラブルが発生した後」に来られているという点です。

・契約書にサインしてしまったが、やっぱり契約をやめにしたいどうにかならないか。
・従業員を解雇したら相手が弁護士を付けて訴えてきた。

など、トラブルが起こってから弁護士に相談されるケースが非常に多いです。

こういった相談になる原因の多くが、法律事務所へのイメージ、具体的には敷居が高い。あまり相談に行っているところを見られたくない。
費用がかかりそう・・・というイメージから何かあってどうしようもない状態になったため、相談に来られているという現状があるのではないかなと思います。

もちろん、そういった状況で弁護士が入ることで、どうしようもない状況を改善することができる場合もありますが、弁護士でもどうしようもできないという状況になってしまっているケースの方が多いような気がします。

上記の例では、契約書については、内容を確認した上でサインしている場合には、ほとんどの場合弁護士でもどうすることはできません。
また、解雇についても、解雇が認められるような状況でないのにも関わらず解雇してしまった場合には、不当解雇という結論自体を変えることは難しい場合が多いです。

私個人としては(私以外の大多数の弁護士もそう思っていると思うのですが)、法律事務所には、「何かをする前」に相談に来て欲しいと強く思っています。

上記の例でも、契約書にサインしても良いのかということだけでなく、サインすることでどういったメリット、デメリットがあるのかといったリスクの説明をすることが可能になります。

このように、何か行動をする前に弁護士に相談することは「トラブルをどうにかする」ための相談ではなく「トラブルが起きないようにする相談であるため、まさに弁護士に相談することで解決することができるものだと考えています。

 
さらに、事前に相談することで、相談料、文書作成料などの費用がかかりますが、トラブルが起きてから代理人として依頼するよりも低額で費用を抑えられることも可能です。

講演などでお話しさせていただく際によく話すのですが、病院や歯医者に行く際に、予防接種や歯科点検をしておけば、病気や虫歯になってから病院に行くよりも、手間もコストもかからないのと同じように、何か起きる前に弁護士に相談してくださいとお伝えしています。

今日の内容を少しでも多くの人に見ていただき、何かする前に「一度弁護士に相談してみるか」と思っていただき法律相談にお越しいただける方が増えてくれたらいいなと思っています。

2021.01.22

司法試験の合格発表

弁護士試験

2021年1月20日は、令和2年司法試験の合格発表があったようです。

通常、司法試験は、毎年5月のゴールデンウイーク前後で4日実施され、合格発表は9月に行われるのですが、昨年のコロナウイルスの影響で、試験の実施が8月12日から実施され、本日合格発表となったとのことでした。

4日間という長丁場というだけでも大変で、私も8年前に試験を受けたときには緊張し、どのような答案を書いたかもよく覚えていない状況でした。

今回合格された方は、8月のとても暑い最中にコロナウイルスの感染の不安という非常事態と言ってよい状況の中、合格を勝ち取った方なので、自分が同じ状況だったら合格できただろうかと思うと、ただただ尊敬の念に堪えません。

司法試験の合格発表は、通常、法務省のホームページに受験番号が記載されるほか、東京の霞が関にある法務省前の掲示板や、全国の試験会場にて番号が掲示されるのですが、今年の合格発表は、これまたコロナの影響で、ホームページ上のみでの発表となり、掲示板に貼り出されるということはないようです。

私が合格した際は、東京に住んでいたため、法務省に行くか悩みましたが、落ちていたらどうしようという気持ちがあったため、自宅でホームページで番号を確認しました。
合格していることが分かり、家族にそれを伝えたら、せっかくだから法務省に行こうということになり、家族で法務省の掲示板の前まで行きました。
その際大学の合格発表などでは、受験生が自分の受験番号を指さして写真を撮るシーンなどがあると思いますが、なぜか、私ではなく父が受験番号を指さし、母がそれを写真にとるというシュールな状況だったのを記憶しています。

今年合格された方は、法務省にいって番号を確認するというような思い出ができないことは残念ではありますが、合格されたことはとてもよろこばしいことであるため、心からおめでとうございます、とお伝えしたいです。

また、今回の試験で残念ながら合格できなかった方も、令和3年の司法試験は、現状では今年の5月に実施されるため、すぐに気持ちを切り替えるのは難しいと思いますが、次の試験では合格できるよう頑張ってもらいたいなと思います。

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