弁護士コラム

2019.04.24

経営法務リスクマネジメント ~退職に関するリスクについて~

最近、退職したいけど「退職したい」と言い出せない人のため、退職手続きを代行する「退職代行サービス」が新しいビジネスとして話題になっています。
このサービス自体は弁護士法違反ではないかなど、賛否両論がありますが、ビジネスとして成り立つほど、企業と従業員の間で退職時にトラブルが多いことを示しているのではないでしょうか。
企業としてはトラブルを最小限にとどめ円滑に退職手続きを行いたいと考えていると思います。この回では、企業側が従業員の退職に備えておくべきリスクについてご紹介致します。

1. 退職の形式

退職の形式としては大きく分けると「自己都合退職」と「会社都合退職」の二つがあります。
「自己都合退職」とは、転居や結婚または療養など自身の意思や都合に基づいて行う退職の事を指しています。
「会社都合退職」とは、企業側の経営不振や倒産などを理由として一方的に労働契約を解除する事を指しています。

それでは、自己都合退職か会社都合退職かの形式の違いにより、どのような差異が生じるのでしょうか。

まず、退職後の雇用保険(失業保険)の給付内容が異なってきます。
「自己都合退職」の場合、失業保険は退職日から3ヶ月と1週間待機しなければ給付されないのに対し、「会社都合退職」の場合には退職日から1週間後より給付が開始されます。

他にも、支給日数や最大支給額の違いがあり「会社都合退職」の方が従業員にとって優遇された扱いになっています。
これは、自分の意思で職を失った人よりも、会社の一方的な都合で職を失った人の方が保護の必要性が高いからです。

さて、では会社都合退職の方が従業員にとって都合が良いのであれば、「本来は自己都合退職であっても会社都合退職にしてあげようか」という発想もあり得ますね。

実際に、従業員が退職することは変わらないからといって、従業員からの要望に応じ、特段の理由なく「会社都合退職」として手続をしてしまう会社もあります。

しかし、会社都合退職としてしまうと、しばらくの間、助成金申請ができなくなったり、後々従業員から「企業から解雇された。解雇は不当だ!」と主張されてしまうリスクがあります。

従業員がまさかそんな不徳なことをするはずがない、と考える方が多いですが、実際にはそのことを原因として紛争が起こっていることも事実です。

仮に従業員から会社都合退職にして欲しいと要望があったとしても、会社を守るため、その要望は聞かないようにしましょう。

2. 従業員の失踪

従業員が行方不明になり失踪してしまった場合には、どのような形式で退職手続きを行えばよいのでしょうか。

一般的に解雇する際には、30日以上前に解雇予告を行うこと、もしくは、解雇予告手当を支払うことが義務付けられています。但し、次の場合には解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要とされています。

・天災事変やその他事業を継続することが不可能である場合
・労働者の責に帰すべき理由に該当する場合

従業員が失踪した際、解雇予告を行いたくても行えないですよね。従業員が失踪し、「2週間以上の無断欠勤」があった場合には、労働者の責に帰すべき理由に該当するとされているため、労働基準監督署にて解雇予告除外認定を受けることにより、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要となります。

従業員を解雇する際には、会社から従業員に対する解雇の意思表示が必要となりますが、それが従業員の失踪により事実上不可能な場合には、意思表示の方法として公示送達を行うことも検討しなくてはなりません(裁判所に解雇する旨を掲示して、本人へ意思表示したものとみなす制度です)。

しかしながら、この手続きには相当の時間と労力が掛かってしまいます。
そのため、予め就業規則に無断欠勤が続いた場合について普通解雇・懲戒解雇事由として規定を定めておくと、簡易的に退職手続きを行うことができます。

3. 退職届の有効性

従業員が退職する際、意思表示として退職届を提出します。
就業規則にて、退職届の提出期間を定めている会社も多いですが、さて、従業員から就業規則にて定められている退職届の提出期限より後に提出された退職届は有効なのでしょうか。

民法では

「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(民法627条 第1項)

と定められています。

つまり、有期雇用契約でない従業員の場合、民法上では退職届を2週間前に提出することによって退職が認められることになっています。

就業規則にて退職届の提出期間が定められていたとしても、民法627条第1項は、強行法規(当事者の意思にかかわらず、法として画一的に適用される規定)であることから、企業側が退職時期の延長を行うことは難しいという見解が多くなされています。

「就業規則には2か月前に退職届を提出しなければならないと定めているのに、1か月を切ってから提出してきた従業員に対して、損害賠償などできないか。」というご相談も見受けられます。

しかし、民法で2週間と定められている以上、それは難しい要望となりますので、いざ退職者が出たとしても、短期間で引き継ぎが可能な業務フローの構築が会社としては不可欠となるでしょう。

4. まとめ

従業員が退職する際には様々な事情があり、気持ちよく送り出せる円満な退職だけでなく、事情によっては業務の引継ぎさえ不十分なまま、退職を認めざるを得ない状況に陥ることも考えられます。

退職時のトラブルや退職後の紛争を避けるためにも、就業規則の規定を整備し見直しを行い、専門家(弁護士や社労士)に相談しながら不備の無いように備えることでリスクマネジメントを行いましょう。

2019.04.24

【行動科学×消費者法】法学部でもやらない「消費者契約法第1条」の読み方と啓発

私を含め、このリスクを知らないが故に損をさせられていらっしゃる消費者が多いものと考えられるため、消費者契約法第1条の読み方を記事にすることといたしました。
事業者と並んで危険性が極めて高い存在を発見しましたので、ご紹介いたします。この記事で抑えて欲しいポイントはただ一つなので下部にそのポイントを記載します。

この考えの周知がされれば、消費者問題のほとんどのものが無くなるものと思われます。年金でやっと生活できているご老人に対する詐欺や、お金を失ってしまったがゆえに命を落としてしまうような悲劇を防ぐことができるのです。
わたしたちの力で、この仕組みを周知し、今お金を奪われて危機にさらされている生命を守るために「共有」のご協力をお願いします。

1.はじめに

突然ですが、ご自身のスマホをご覧になって4月のメールを見返して目を引くメールがある方、特に4月12日に目をひくメールが届いている方はこの記事を読み、行動しなければ損をするかもしれません。

私は、4月10日にローボール・テクニック(一度契約を結んだら不利益な変更にも私たちは従ってしまう)の例として、ある有名なサイトを例に出して記事を作成しました。
実際に掲載される前の案の状態でしたが、2日後にはそのサイトは1,000円の値上げに踏み切り、大胆な判断がなされていました。疑いをもっていたサイトがローボール・テクニックを使っていたことが証明されたのです。

とはいえ、マーケティングに行動科学などのテクニックを使うのは事業者からすれば正当な範囲内の事なので事業者には何の問題もありません。
では、消費者はどのように立ち向かえばよいのでしょうか。
以下でご説明したいと思います。

2.消費者契約法第1条を捉える

改めて、消費者として事業者と結ぶ契約の恐ろしさを申し添えたいと思っています。
ここでは、消費者契約法第1条の読み方として、消費者庁から発表されている資料を用いて解説したいと思います。

多くの法律は型のようなものが決まっていて、その立法趣旨は前のほうにあります。
特に第一条に目的規定がおかれることが多く、その法律のピュアな上澄みの部分が目的に規定されます。

消費者契約法をみてみると目的が前に出ているつくりになっています。

第一条 この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合等について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

消費者契約法はざっくり言うと「消費者」と「事業者」の間の「情報の質及び量・交渉力の格差」に鑑みて、「消費者の利益の擁護」を図っている法律なのです。

抽象的に書かれていますが、事業者の持つ情報(あえて知識や知恵・手法も含まれると読みます)と消費者が持つ情報は格差があまりにも大きいので、消費者の利益を擁護しましょうということを規定しているのです。

なお、消費者庁の定義では、情報の質:入手される情報の詳しさ、入手される情報の正確性、 入手される情報の整理の度合い情報の量:入手される情報量と定義されています。

消費者契約法第1条は、大半の法学部で開講される、消費者法や市民生活と法のような授業あるいは民法の授業で取り扱われないか、取り扱われはするが、パワーがあまりないがゆえにさほど重要視されないものです。

もちろん、消費者法の各条項をもって、悪徳業者を疑うのは大切ですが、手始めにもっと危険性の高い存在を疑わなければなりません。
そして、この条文をただ消費者保護の法律という視点から見たときに、それは99.9%、見えない存在なのでさらに厄介です。
このただ一文から、必死に本質をみようとしたときに、その危険性の高い存在は、うっすらと見えてきます。

それは誰のことでしょう?

それは1条の「事業者」よりも、「消費者」、つまり私達のほうだったのです。

この記事では、次の一文だけでいいので押さえて下さい。

ご自身の『判断力・解約力』を疑うという意識です。

自分は相応の対価を得ているからと思って支払い続けているお金はありませんか?
映画見放題・音楽聞き放題サービスも付いてくるなら!という考えで、毎月お金を納めていませんか?

以前も書きましたが、一度結んだ契約を、(たとえ解約する権利があっても)私たちは事実上なかなか解約できません。これは、私達自身の問題なのです。

そこで、私たちが率先して不要な契約については解約をしてゆくのが理想的な形です。
今自分が結んでいる契約の動きを観察することで解約すべきか否か検討することができます。

以前私は、毎月通信量が多く余っているのでそもそものベースプランを変えようと思い、かつて携帯電話にべったりとはりついた不要なサービスをすべて解約し、通信量も一番小さいプランへ変更しました。すると結構スッキリし、支出も減りました。

このように、契約は不都合が生じない程度に身の程にあわせてゆくことと、不要なものは解約してしまうことが重要なものと思われます。

3.おわりに

契約の評価や、契約の解約は第三者である法律事務所でも行えます。
すべての契約を把握できていない方は、一度法律事務所の無料相談を利用して、ご自身の出費に毎月どれだけのロスがあるかを把握するだけでも生活の質が違ってくるかもしれません。

2019.04.24

労働時間の管理から考える時間外労働について

メディアで日本の働き方問題が取り上げられるようになり、多くの人が自身の労働環境について考えるようになってきています。
その中で、一番裁判にまで発展する事例として挙げられるのが、時間外労働に対するトラブルです。
ここでは、時間外労働の取り扱い方について説明したいと思います。

1.はじめに

法律によって、1日の労働時間は8時間、週については40時間以内と定められており、これを超えて労働をする場合は、割増賃金を支払わなければならないとされています。

この時間外労働をめぐって、労使間で未払い残業代の有無の論争に発展し、裁判になるケースが多々あります。

裁判の中では、時間外労働を行ったかの事実関係のほか、勤怠管理をしていなかった場合の時間外労働の認定や、労働者による自発的な時間外労働の取扱い方などが問題となることがあります。

2.過去の裁判・審判例からみる時間外労働

過去の裁判例をみていくと、時間外労働と認められた事例と認められなかった事例があります。

ある会社に長年勤めていた社員が十分な割増賃金が支払われていないとし、割増賃金や遅延損害金を請求しました。

使用者側は、会社の給与規程には「会社の命令によって残業を行った者に割増賃金を支払う」旨が明記されており、また、この社員には多数の補助者をつけていたため、時間外労働の必要性はなかったとして、未払いはないと主張しました。

本件は地方裁判所だけでなく高等裁判所まで争われ、いずれも労働者側の主張が認められ、1,000万を超える割増賃金等の支払いが命じられました。

理由としては、①担当する顧客数が他従業員と比較して著しく多かったこと、②職務日誌の記載内容からタイムカードの出退勤時間の裏付けがとれたこと、③会社代表者からの深夜勤務に対するねぎらいの言葉があったこと等が挙げられ、会社側も他従業員よりも著しい時間外労働者がなされていると認識があった(認識できた)ものとしました。

一方、認められなかった事案としては、会社側が時間外労働・休日労働に対する協定(通称36協定)が当時未締結であったため、時間外労働等を禁止した状態であったが、職員が割増賃金の支給がなくなることを懸念し、時間外労働禁止命令以降も残業を行い、その割増賃金を求めたものがありました。

裁判所は、使用者側は明確な理由のもと「時間外労働禁止」という業務命令を行っていたのにも関わらず、それに反し労働者の勝手な判断によって行われた時間外労働は労働時間ではないと示しました。

また会社側は、36協定締結までは時間外労働禁止の業務命令を繰り返し発し徹底していたため、使用者の指揮命令による時間外労働ではないと判断し、割増賃金の請求を全面的に否認しました。

3.労働時間の管理

前述の通り、労働者は原則法定労働時間内で働くことが決められており、時間外労働をする場合は36協定の協定範囲内でなければなりません。

そのため、使用者側としては、各労働者の労働日ごとの始業・終業を把握し、労働時間を管理することが求められています。

時間外労働の割増賃金の請求や労災時の注意義務違反等が裁判での争点になった際は、この労働時間管理を使用者側が適切に行っていたかも重要視されます。

では、使用者側が労働時間管理をきちんとしていなかった場合、割増賃金の請求はどう扱われるのでしょうか?

結論から述べると、労働者側から提出された資料等をもとに労働時間が推測されますので、労働者側に有利な判決が出ることがほとんどです。

やはり使用者側には労働時間を管理するという義務があるため、その義務を果たしていないために起こったこのような事案は、使用者側に責があるものと判断されることが多いです。

始業終業時刻の管理がなされていない場合の労働時間を判断する資料としては、以下のようなものが認められることがあります。

①業務日誌
②ソフト上の保存時刻
③システムのログやデータの作成・更新・保存時刻

使用者の管理外(例えば自宅などでのデータ作成)の時間も労働時間とカウントされる恐れがありますので、必ず労働時間は管理をしましょう。

そこで、具体的な労働時間の管理方法としては、2パターンが挙げられます。

①出退勤時間を使用者が毎日確認し、それを記録する
②勤怠管理システムやタイムカードを用いて確認、記録する

過去の判例においても、時間外労働の認定は、使用者が設置した機器によって打刻されたタイムカードの記載を重視するのが相当だとされており、労働者や使用者の恣意的な要素が加味されにくい客観的な記録を重要視しています。

なお、これらを基本要素として、時には使用者の残業命令書や労働者からの残業申請書などを求めることもあります。

しかしながら、直行直帰や出張が多いなど、タイムカードでの打刻が難しい場合もあります。このような時は労働者側からの自己申告に委ねざるを得ないため、使用者側は次のような対応をする必要があります。

①対象者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、きちんと自己申告をするよう説明すること
②労働者が申告する労働時間と実際の労働時間に相違がないか、実態調査を行うこと

これに加え、遠隔地で業務が終了した場合は、その都度連絡をもらって業務終了を確認する、外出先でも打刻が可能なシステムの導入を検討するなどをしたほうがいいでしょう。

物理的にどうしても無理な場合は、「みなし労働時間制」というものもありますので、直行直帰や出張等であっても労働時間の管理はしなければならないということは理解しておく必要があります。

4.まとめ

労働時間管理は義務といっても、労働者の業務内容や勤務形態によって、難しい場合ももちろんあります。

ただ、やはり労働時間管理をしていないと、割増賃金の支払を求められた際に、労働者の主張が認められてしまう恐れがあります。

そのたびに多くのコストがかかってしまいますので、そういったことを未然に防ぐためにも、労働時間及び時間外労働の管理は可能な限り行っていきましょう。

2019.04.24

【交通事故】自動車保険は必ず加入しないといけない?必要性について

交通事故を起こしてしまったと仮定しましょう。
相手の方には怪我を負わせてしまい、さらに一生後遺障害が残るという結果になってしまいました。
このとき、あなたは相手の方やそのご家族に対してどうやって保障をしていけばいいと思いますか?
また、死亡させてしまった場合、今やその賠償金額が億を超えることも珍しくありません。
あなたはその金額を用意することができますか?
このような損害賠償に備えるための「保険制度」について、今回はご説明します。

1.保険加入の必要性

①万が一に備える

交通事故を起こしてしまった場合、車の所有車や運転者には、被害者に対して損害賠償の責任が生じます。この損害賠償に備えるのが保険です。
万一の場合に備えて必ず保険には加入しておきましょう。

②自動車保険の種類

自動車保険には、法律によって必ず加入しなければならないもの(強制保険)と、所有者や運転者が任意で加入するもの(任意保険)の2種類があります。

・強制保険(自動車損害賠償責任保険=自賠責保険)
自動車(農業作業用小型特殊自動車を除く)や原動機付自転車は、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)、または自動車損害賠償責任共済(責任共済)に加入していなければ、運転してはいけません。要するに、ナンバーのついた車は、所有者の意思に関係なく加入する義務があります。

・任意保険(損害保険会社などの自動車保険)
強制保険で保障してもらえるのは、人身事故に限られ、しかも自損事故は含まれません。また、賠償額にも限度があり、強制保険だけでは十分に賠償できるとは限りません。高額な損害賠償や物損事故、自損事故などに備えて任意保険に加入しておきましょう。

2.保険金の請求について

①強制保険の保険金請求方法

自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的に国が事業として行っている保険です。
交通事故による強制保険の保険金の請求方法には、次の2つの手段があります。

・加害者請求
加害者は、被害者に損害を賠償した範囲内で、保険会社に対し保険金の支払いを請求することができます。ただし、この請求は領収書や必要書類を添えた上で、被害者に支払いをしてから3年以内に行わないと時効になります。

・被害者請求
示談が円満に解決しないような場合、被害者は加害者に損害賠償を請求する代わりに、加害者が加入している自賠責保険に対し損害賠償額の支払いを直接請求することができます。
また、さしあたりの費用として必要があれば、損害賠償額の一部を仮渡金として請求することもできます。

②任意保険の保険金請求の流れ

強制保険と同様に、任意保険の場合にも「加害者(被保険者)の請求」「被害者の請求」2つがあります。

・加害者の請求
通常、加害者は加入している損害保険会社に保険金の請求手続きを行っていれば、損害保険会社が被害者との示談交渉を代行し、示談成立後に保険金を被害者に支払ってくれます。この場合には、損害保険会社が自賠責保険の請求手続も一括して行いますので、加害者は別途に自賠責保険の請求手続きを行う必要はありません。

・被害者の請求
任意保険会社への請求は、保険契約者からの請求が原則です。
任意保険会社は、あくまで保険会社にすぎないため、被害者に対して損害賠償の支払義務を負っているわけでありません。

損害賠償の支払義務を負うのは、あくまでも加害者であり、被害者は一度加害者に請求してからでなければ、任意保険会社からの支払いを受けられません。

しかし、示談が成立しても加害者が賠償金を支払わない場合、被害者は加害者の加入している損害保険会社に被害者請求をすることになります。

ここで問題となるのが、被害者の直接請求権は保険約款上(※1)の権利であり、必ず任意保険会社対し直接請求できるとは限らないという点です。一度加害者に請求してからでなければ、任意保険会社からの支払いを受けられないというのは、被害者の方にとって大きな負担となることでしょう。

そこで、対人賠償・対物賠償等の任意保険においては、被害者は任意保険会社に対して、直接請求することが認められています。
被害者から任意保険会社に対して直接請求権が認められる場合とは、保険契約約款上で被害者が直接請求権の行使が認められている場合ということになります。

これは逆にいうと、被害の直接請求権が保険約款で規定されていない場合には、被害者から任意保険会社に対する直接請求を行ったとしても請求が通らない可能性が十分に考えられます。
だからこそ、専門家に相談しながら、手続きしたほうがよりスムーズに話が進むと考えられます。

※1 約款とは契約条項のことをいいます。企業と個人が契約する際の、決まりのようなもので、保険に関していえば、どのような条件で保険金が支払われる、支払われないなどが書かれています。

3.まとめ

事故の当事者間で話合いがつかない場合など、どうしたら良いのか分からない点が沢山出てくることだと思います。

交通事故の示談は、事故で生じた損害賠償額を話し合いで決めていくため、加害者も被害者も損害賠償額の目安を知っておかなくてはいけません。

損害賠償額の主な目安としては、保険会社基準(自賠責保険・各保険会社の支払い基準)と日弁連基準(財団法人 日本連交通事故相談センターの「交通事故損害額算定基準」)があります。

保険会社基準の場合、裁判を前提としていないため、本来受け取ることが出来る損害賠償額より低くなる可能性もあります。
もしお悩み事や不安な点等がございましたら、是非弁護士にご相談下さい。

※本記事に搭載されている内容は、あくまで一般的な流れであり、発生事故によって異なることもございます。ご了承ください。

2019.04.24

ネットでのビジネスを始める前に知っておきたい法的リスクとポイント

最近ではインターネットが普及し、家にいながらでも様々な商品が購入でき、翌日には自宅や指定した場所に配達してくれるネットショッピングや、旅行の予定を立てた場合、宿の予約や航空券の手配などをネットで行うことができたりと、大変便利な世の中になってきました。
このようなネットビジネスは個人でも立ち上げることができ、中には多くの利益を生んでいるサービスも見受けられます。
そんなネットビジネスを始めようとする際に重要になるのが、法務です。法に則した認可を得ていなかったために業務停止命令を受けるなどのケースもあり、リスクとなる部分もあります。
今回は、ネットビジネスに必要な認可や、サービスによって異なる法的リスクについて説明します。

1.ビジネスのモデルによって法的リスクは異なる

実店舗において店や商売を始める際には、法律で定められた認可を得なければならないケースがあります。例えば、食品の販売であれば食品衛生法であったり、酒の販売であれば酒税法、旅券発行や宿泊の仲介は旅行業法などです。

これはネット上のビジネスにおいても同様で、ネットビジネス特有でもある仮想通貨を扱うサービスであれば資金決済法、景品表示法であったり、クラウドファンディングであれば出資法などが関係してくることになります。

立ち上げたいビジネスがどのようなものかを考えた際に、どのような認可が必要か、もしその認可を得ずに始めてしまうとどのような法的リスクがあるのか、ということも併せてピックアップし、洗い出すことが重要です。

2.誰と契約し、誰から利益を得るのかを明確に

法的リスクを洗い出す、といってもどうやって行えばよいのでしょうか。
まず、「誰が」「誰に」向けたサービスで、「どんなものを行う」のかを考えましょう。
例えば、ハンドメイド作家の商品を販売するサイトを開設した場合では、以下のようなケースが考えられます。

①事業者である自分と購入希望者で直接売買契約を結び、商品代金も事業者へ支払うケース。商品はハンドメイド作家から購入者へ送られる。

②事業者はハンドメイド作家や商品の紹介をサイトで行う。その商品の購入希望者はハンドメイド作家と売買契約を結び、商品代金は購入希望者がハンドメイド作家へ支払うという仲介型サイトのケース。

①では、商品に不備やクレームがあった場合、購入者と売買契約を結んでいるのは事業者ですから、事業者である自分が責任を負うことになります。

一方、②のケースでは、ハンドメイド作家と購入者が決済まで含んだ契約を結ぶという形になるため、クレーム等は事業者へは届きにくくなります。

法的リスクは①に比べて低いですが、仲介型のサービスには一定程度の規制がありサービス内容や業種によっては不可であることや、既製品をあたかもハンドメイドのように見せかけ、高額で販売していた場合などの違反に対して、事業者である自分はどのように対処すればよいかなど、不安はどちらのケースであっても起こり得るものです。

そのような不安のもととなる、予想される問題をすべて洗い出し、先手を打つことでスムーズにネットビジネスを始められるのです。

3.ネットサービスで異なる法的リスク

2.では商品販売サイトを例に出して説明しましたが、ネットが普及し技術が発展するにしたがって多様なサービスが現れてきました。

やはりサービスごとに法的リスクも異なるので注意する点も様々です。
もし多岐にわたってネット上でサービスを展開していく予定であるなら、サービスごとの特徴を知り、それぞれのリスクも把握しておきましょう。

①ECサイト

現在、実店舗で商品を販売していることを、そのままネットの世界で行うようなサービスです。実店舗では直接商品を見たり触ったりできますが、サイト上では写真や説明文を見て判断し、購入します。

その際に写真と実物のイメージが異なっていると、購入者とのトラブルにつながりかねません。
しかしながら、実物をそっくりそのまま写真にすることは物理的に無理であり、対処法としては会員登録をするタイミングなどで、責任の範囲や返金や返品についての記載をサイト内で示す必要があります。

②ショッピングモールサイト

ECサイトと同じかと思われるかもしれませんが、多くのショッピングモールサイトは「商品を売りたい」販売者と「購入したい」希望者をつなげるサービスで、どちらかと言えば仲介をし、販売者から出店料を得るというような形になるでしょう。
その場合は、販売者と購入希望者間のトラブルについて対処法を考えねばなりません。

③課金制アプリ、WEBサイト

スタートフォンアプリや、会員制(課金制)のWEBサービスを立ち上げる際も、様々なトラブルを想定しなければなりません。

スマートフォンアプリに多く見られるものは、一部のサービスが無料で使用でき、それ以上の機能を追加する場合は有料プランに移行する、というようなものです。

アプリ発売当初に世間へ周知する内容の中に、「すべて無料でできる」などとまぎらしい文言を入れてしまうなどすると、後でトラブルになり得ます。

集客を狙い、事実とは異なる表現をすることは景品表示法違反にもなり、早々に業務停止になることもあるのです。

④その他

他にも2016年頃に問題となったキュレーションサイト、まとめサイト等の著作権問題や、金融商品に関係するサービス等の資金移動業者登録についての問題などもあります。

WEBサービスとして一括りにせず、特徴から考えられるトラブルを洗い出しましょう。

4.まとめ

今回は自分でWEBサービスを立ち上げる際の法的リスクについて考えてみました。
多くはお金が発生した時点でのトラブルです。
商品を準備し、購入者に販売、フォローするまでの流れを考え、予測されるトラブルや法律に関係する部分をよく把握しておきましょう。

2019.04.24

マイナンバーの情報漏えい時のリスク

2016年1月以降、企業は厳格な安全管理体制のもとでマイナンバー等の情報を扱うことが義務付けられました。
しかし、情報漏えいのリスクをゼロにすることは困難です。万が一、マイナンバーに関連する情報が漏えいしてしまった場合、企業にはどのようなリスクが発生するのでしょう?

1.マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合のリスク

万が一、マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合、企業は以下のようなリスクを抱えることになります。

(1)刑事罰の適用(番号法違反)

マイナンバー制度では、番号法によって様々な罰則が設けられており、監督機関となる内閣府の外局である個人情報保護委員会より罰則の適用を受けることがあります。

(2)民事上の損害賠償請求

企業が適切な安全管理措置を講じることなく、情報が漏えいしてしまった場合は、その番号の対象者等から民事上の使用者責任を追及され、それに伴って損害賠償を請求されるリスクが生じます。
尚、企業が、民法上の使用者責任を免れるには、以下について会社側が立証する必要があります。

・被用者の選任や監督について相当な注意を払っていたこと
・相当な注意を払っていたとしても損害が生じたであろうこと

しかしながら、情報漏えい事故でこうしたことを立証するのは非常に困難です。
仮にその証拠を提示するのであれば、システムへのアクセス記録等になりますが、それでも十分だとは言いきれません。

そういった意味でも、企業が適切な安全管理措置を講じることが肝要だと言えます。
とりわけ、個人情報保護委員会による「特定個人情報の適切な取り扱いに関するガイドライン」が求めている、企業が講じなければならない安全管理措置のうちの「技術的安全管理措置」は、きわめて重要な措置であることが分かります。

(3)社会的信用の失墜

大企業や知名度のある企業で情報漏えい事故が起これば、マスメディアが大きく取り上げ、社会的信用が失墜することもあります。特に上場企業は株価下落の要因にもなるため、非上場企業以上に安全管理体制の徹底が求められます。

事実、過去に情報が漏えいした企業のその後を見ても、顧客離れが加速したり、内定辞退が相次いだり等、企業経営に直結する問題が生じています。

2.情報漏えい時の罰則

前掲の、マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合の3大リスクのうち、社会的信用の失墜に関しては想像に難くありません。そこで、刑事罰等の罰則と民事上の損害賠償責任、2回に分けて、もう一歩踏み込んでお話しをしたいと思います。

まず、「(1)刑事罰の適用(番号法違反)」について。
通常、問題事案があればすぐに罰則を適用するわけではありません。
もちろん、重大事案であれば別ですが、基本的には事前に指導や助言、勧告等が行われる等であり、労働基準監督署による指導等と同じようなイメージを描くと分かりやすいと思います。

3.情報漏えい時の民事上の損害賠償責任

次に、「(2)の民事上の損害賠償請求」について。
マイナンバーやそれを含む個人情報が漏えいした場合、企業はその対象者に対しての賠償を考えなければなりません。

これまでの情報漏えいの事故をひも解いてみると、Yahoo!BB顧客情報漏えい事件(2004年)やベネッセ個人情報流出事件(2014年)において、企業側は情報漏えい対象者に対して500円の金券を支払っています。

こうした事例から、マイナンバーの流出の場合も、対象者1人当たり500円支払えば済むという誤った認識も広がりました。

しかし、ベネッセ個人情報流出事件では、その後、1人当たりの損害額55、000円の支払いをめぐって集団訴訟が提起され、他の情報漏えいに関する裁判例でも1人当たり数万円以上の支払いを余儀なくされています。

500円の金券は見舞金の支払いとなるにすぎず、その額が損害賠償額になるわけではありません。

4.まとめ

情報漏えいは、外部からの不正アクセスによって起こるケースを想定しがちですが、実際には、電子メールの誤送信を中心とした誤操作に端を発するケースや、紙媒体の紛失による事故が多いのが現状です。
いわゆるヒューマンエラーによって引き起こされているケースが一般的と言えます。

したがって、いくら堅牢なセキュリティ体制に守られた情報システムを構築したとしても、従業員の誤操作等によって情報が漏えいするリスクは依然として伴うということです。

実際、日本年金機構において100万件超の年金情報が流出した事件は、職員が外部から送付された不審な電子メールを開封したことによるウィルス感染に端を発したことは、報道によってよく知られているところです。

安全管理対策については、技術面に頼り切ることはできず、企業はヒューマンエラー対策に対しても意識して、情報漏えいでトラブルが生じないように、あらかじめ対策を講じておきたいものです。

2019.04.24

【不動産】マンションからの眺望に関する売主の説明義務

Q.窓からの眺めが気に入って海辺のリゾートマンションを購入したのに、入居した後になって目の前に別のマンションが建築され、せっかくの景色が見えなくなってしまう…

こんな時、誰に対してどんな請求をすれば良いのでしょうか?

このようなケースを考える場合には、
①眺望に関する売主の説明義務
②仲介業者の説明義務、仲介業者の説明義務と売主の説明義務との関係
という2点を理解する必要があります。

1 売主の説明義務の根拠

(1)不法行為責任

マンションを含む不動産の売買は、目的物が高額なため、契約締結に至る過程での売主の説明内容は非常に重要になります。

仮に売主の交渉段階での説明不足により買主に損害を与えた場合は、あくまで契約成立前の段階(交渉段階)で問題となる責任のため、売買契約上の責任(債務不履行責任)ではなく、民法上の不法行為に該当すると考えられることが多いようです。

(2)債務不履行責任

しかしながら、売買契約締結前(交渉段階)であっても、売主の説明義務違反として契約上の責任(債務不履行責任)を追及することができる場合があります。

そもそも、売買契約における売主の義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することであるため、説明義務自体は本来的な売主の義務には当たりません。

しかしながら、信義則から導かれる売買契約上の売主の付随的義務として「説明義務」があるとされるため、説明義務違反には債務不履行責任を認めることもあります。

また、契約当事者間においては、その相手方に損害を被らせないようにする信義則上の義務があるとされます。

つまり、契約締結の段階において当事者の過失によって相手方に損害を被らせた場合には、その被害を受けた当事者に損害を賠償する責任を認めるのが通説であり、判例もこれを認めています。

(3)宅建業者の説明義務

不動産の売買契約においては、宅地建物取引業者が自ら売主となったり、仲介業者として介在したりといった形態でやり取りされているケースが多く見られます。

宅地建物取引業者は、取引の関係者に対しては、「信義を旨とし誠実にその業務を行わなければならない」とされています。

特に売買契約等が成立するまでに、宅地建物取引士として、重要事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定められています。

2 仲介業者に委託した場合の売主の説明義務

契約当事者が宅地建物取引業者に仲介を委託する場合には、契約当事者の意思としては、原則として、重要事項の説明については自らが委託した宅地建物取引業者が行うものとしてその説明に委ねているということができます。

よって、売主本人は買主に対し説明義務を負いません。

〔例外的に売主も説明義務を負う場合〕
①大阪高判平成16.12.2
売主が買主から直接説明することを求められ、かつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負う。

②東京地判平成9.1.28
売主は売買契約に向けて仲介業者に委託している以上、仲介業者を売主の履行補助者とみて、指導要綱の説明義務違反について売主も責任を負う。

3 説明義務違反の効果

(1)損害賠償

売主に説明義務違反が認められる場合、買主は、売主に対し、買主が被った損害について賠償を請求することができます。

なお、損害賠償の範囲については、信頼利益(契約締結に要した費用)の賠償を命ずる判例が多いようです。

(2)解除

売主の説明義務を信義則から導かれる売買契約上の付随的義務である(上記1の(2)参照)とした場合、説明義務違反は付随的義務の債務不履行となります。

そして、付随的義務の不履行があったとしても、原則として相手方は契約の解除をすることができないとされます。

しかしながら、付随的義務の不履行であったとしても、それが契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるような場合については、契約を解除することが認められます。

4 眺望に関する売主の説明義務

マンションの売主が、居室からの眺望について説明する義務を負うか否かについては、建物の所有者・占有者が眺望の利益について法的保護を受けられるか否かに関わると言えます。

この点について、裁判例は

「眺望利益なるものは、個人が特定の建物に居住することによって得られるところの、建物の所有ないしは占有と密接に結び付いた生活利益であるが、もとよりそれは、右建物の所有者ないしは占有者が建物自体に対して有する排他的、独占的支配と同じ意味において支配し、享受し得る権利ではない。

元来風物は誰でもこれに接し得るものであった、ただ特定の場所からの観望による利益は、たまたまその場所の独占的占有者のみが事実上これを享受し得ることの結果としてそのものの独占的に帰属するに過ぎず、その内容は、周辺における客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約を被らざるを得ないもので、右の利益享受者は、人為によるこのような変化を排除し得る機能を当然に持つ者ということはできない。

もっとも、このことは右のような眺望利益がいかなる意味においてもそれ自体として法的保護の対象となり得ないことを意味するものではなく、このような利益もまた、一個の生活利益として保護されるべき価値を有し得るのであり、殊に、特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値を持ち、このような眺望利益の享受を1つの重要な目的としてその場所に建物が建設された場合に用に、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社旗観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有する者と認められる場合には、法的見地からも保護されるべき利益であるということを妨げない」(東京高決昭和51.11.11)

としています。

そして、買主側の眺望権については、売主側が不動産売買の契約前の段階で眺望をセールスポイントにしていたり、販売後に売主側が自ら眺望を妨げる行為に出たりした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。

例:リゾートマンションの広告で眺望の良さを前面に押していたケース

他方、上記のような場合であっても、売主側で眺望に影響を与え得るような事情の有無について調査を尽くした上で買主側に対して説明をしていたような場合には、売主はその説明義務を果たしていたと認定されやすいと言えます。

例:マンション入居後にその窓から見える範囲へ高層ビルが建設され眺望が害されてしまったが、その高層ビルが建設される事実については売買契約時に売主側から重症説明事項として買主に対し説明がなされていたケース
2019.04.24

経営法務リスクマネジメント ~採用時のリスク~

近年の有効求人倍率は高水準を記録し、就職活動は就活生にとって有利な「売り手市場」であるとされています。
優秀な人材を獲得するために、インターンの実施やUターン学生を優遇する企業が年々増えています。
また、経団連の発表によると、2021年以降に卒業する学生の採用活動から、これまで定められていた説明会や面接の解禁時期に関するルールを撤廃することが決まり、就活市場は大きく変化しています。

就活市場は変化した一方で、企業は良い人材を獲得するため、今後も内定を早めに出して新入社員を確保する方法は変わらず、むしろ競争が激しくなることが予想されます。
今回、企業が採用から内定を行う際に気を付けるリスクについてご説明します。

1. 内定とは?

多くの企業では、新卒者を採用する場合、在学期間中に内定を出し卒業後に採用するという方法を採っています。

しかしながら、内定時から実際の採用まで時間がかなり空くため、その間に、様々な事情が生じ内定を取り消したいと考えることがあるかと思います。

内定を取り消すとなると、内定者との間でトラブルになる可能性があります。それでは、企業が内定を取り消したい場合にはどのような点に気を付ければ良いのでしょうか。

一般的に、企業と内定者の間には内定通知後に意思確認をした時点で、労働契約が成立しており、内定とは法的に「始期付解約権留保付の労働契約」であると考えられています。
「始期」とは内定通知後に企業と内定者の間で採用・入社の意思を確認し、実際に入社し働き始めるまでの期間を指しています。
「解約権留保」とは、企業と内定者の間に解約権が留保されているという事を示しています。

つまり、内定の取り消しを行うという事は、企業が留保している解約権を行使するという事になり、内定を取り消す際には、「目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合に該当するかどうかが重要になります。

2.解約権の行使について

それでは、具体的にはどのようなことが「客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合に該当するのでしょうか。

一般的には、選考過程において、企業側が知ることができなかったことを理由とした場合に内定の取り消しが認められるとされています。

例えば、短期間では到底復帰することが難しい重い病気に掛かってしまった場合や経歴詐称の内容が重大であること、また、卒業見込みとされていた学校を卒業することができなかった場合、刑事処分を受けた場合などが該当すると考えられます。

協調性が見られない、不真面目であるといった抽象的な理由では内定の取り消しは認められないため、注意しましょう。

3. 採用面接時にしてはいけない質問

前述したように、一度内定を出すと簡単には取り消すことができません。
そこで、企業側は求める人材かどうか見極めるために、面接が重要になってきます。

そこでつい、採用希望者がどのような人柄か知りたいがために、採用担当者が踏み入った質問をした結果、トラブルに発展することもあります。
それでは、面接時に気を付けなければならない質問事項とは、どのようなものがあるのでしょうか。

採用希望者にしてはいけない質問は大きく2つに分類されます。①本人に責任のない事項と②本来本人の自由であるべき事項です。
①の例としては、家族の職業や家庭環境、出身地などが挙げられます。②の例としては、座右の銘や人生観等があります。企業が面接者の緊張をほぐすために質問をしたことが、無自覚に法律に違反してしまうリスクがあります。

また、知らず知らずのうちに法律を違反してしまうことだけでなく、法律に違反した質問をしたことを採用希望者にSNS等で拡散されてしまい、企業のイメージダウンに発展する可能性も考えられます。
採用担当者は面接に入る際には、採用希望者に質問してはいけない事項をリスト化し、採用担当者同士で共有することで対策を諮りましょう。

4.まとめ

内定者が内定を辞退する際には、原則入社する2週間前までと定められている一方で、企業側が内定を取り消す際には解雇にも等しい、法的に強い制約が定められています。

そのため、企業側が経営の圧迫などを理由に、一方的に内定を取り消すことは、内定者から損害賠償を請求されかねない事態に発展することが考えられます。

良い人材を確保したいがために、焦って採用内定を通知することはとても危険です。
今後の事業計画や退職者数を予測しながら慎重に内定を通知するように十分に気を付けましょう。

 

2019.04.22

労働基準法とは?~労働契約の終了「解雇について」~

昨今、社会的に未払い残業代紛争と不当解雇紛争が増加しています。
一昔前の企業であれば、「従業員が、仕事ができない」、「会社と従業員の価値観が合わない」、「従業員がなんとなく会社に馴染めない」などの理由でも解雇が往々にして行われていた時代でした。
しかし、現代においては、そのような安易な解雇は許容されません。そのため、会社としてはどのような場合に解雇してはならないのか、解雇するとしてもどのような手続きが必要なのか、解雇後の手続きなどを把握していなくてはなりません。
労使紛争を未然に防止するために、ルールと注意すべき点についてお伝えしていきます。

前回の記事を読む→「労働基準法とは?~不当な身柄拘束の禁止~

1.解雇とは?

「解雇」とは、使用者の一方的意思表示による労働契約の解除のことです。従業員が一定の状況にある場合は解雇を許容することが極めて過酷な場合もあります。
また、突然の即日解雇では従業員の日常生活に及ぼす影響が大き過ぎます。
そこで、解雇に関する規制として、主に、以下の2種類があります。
・解雇制限
・解雇予告

(1)解雇制限とは

「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。」と労働基準法第19条で記載されています。

このような一定の状況においては、従業員が弱い立場に陥っていますので、解雇によってより窮地に追い込むことを防止する必要性があります。
※打切補償を支払う又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能な場合を除きます。

①この30日という期間内に業務上の負傷をした場合
出勤した日若しくは出勤できる状態までに回復した日から30日の起算

②この30日という期間内に産前産後の女性が休業した場合
産前(6週間・多胎妊娠は14週間)産後(8週間)から30日の起算

ただし、※で記載していますように次の場合は解雇制限期間でも解雇できます。
・打切補償…療養開始後3年経過し、使用者が平均賃金の1,200日分の補償を行う場合(労働基準監督署長認定不要)
・天災事変により事業の継続不可能な場合(労働基準監督署長認定必要)

(2)解雇予告とは

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。また30日前に予告しない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。

ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りではありません。
予告の日数は、平均賃金を支払った場合、支払った日数分について短縮することができます。

① 少なくとも30日前の予告
② 30日分以上の平均賃金
③ ①と②の併用

2.解雇する際のルールと注意すべき事項

即時解雇の場合、解雇予告手当は解雇通知と同時で支払うべきと定められています。
また、解雇予告期間が満了する前に、従業員が業務上のケガをして休業を開始した場合はどのように対応すれば良いでしょうか。

この場合、解雇予告の効力の中止であって、休業が長期になり効力が失われたと認められる場合を除き、治癒後に改めて解雇予告の必要はありません。

解雇期限到来後、解雇を延期した場合は同一条件で労働契約がされたものと解され、その後解雇する場合は改めて解雇予告をする必要があります。

■解雇予告が必要ない場合(所轄労働基準監督署の認定必要)

① 天災事変その他やむを得ない事由(事業継続不可能)
② 労働者の責に帰すべき事由

■解雇予告は日雇い・2ヶ月以内の期間労働者・季節的業務に4ヶ月以内の期間雇用者・試用期間中の者は適用されません。

① 日雇い(例外…1ヶ月を超えて使用された場合)
② 2ヶ月又は季節的業務に4ヶ月(例外…所定の期間を超えて使用された場合)
③ 試用期間(例外…14日を超えたら解雇予告必要)

退職時の証明書

① 使用期間
② 業務の種類
③ 地位・役職
④ 賃金
⑤ 退職の事由(解雇の場合)

この退職時の証明書に記載する事項についてですが、労働者の請求しない事項については記載してはいけないことになっています。必ず上記に記載してあることを入れないといけないということではありませんのでご注意をお願い致します。

3.まとめ

このように、解雇については様々な規制があります。そもそも解雇事由が認められるかどうかで争いになるケースもありますが、解雇制限・解雇予告・退職理由証明書などについて紛争化するケースも見受けられます。

これらの紛争に発展しないよう、会社ではルールを明確に認識しながら手続きを行うことが重要です。

2019.04.22

労働時間と休日・休暇の基礎知識②

前回の記事(労働時間と休日・休暇の基礎知識①)では、働き方の見直しに必要な知識として、労働時間、休日・休暇の違い、そして有給休暇の取得義務についてお話ししました。
今回は、その続きとして、振替休日・代休の違いと、時間外労働・休日労働をさせる場合に行わなければならない手続きについてご説明します。

1. 振替休日・代休の違い

労働時間と休日・休暇の基礎知識① 2(1)休日と休暇の違いにおいて、元から労働義務のない日を休日、労働義務が免除された日を休暇と呼ぶというお話をしました。
この「休日と休暇」のように、同じような意味に見えて、全く違う内容の制度があります。それは、「振替休日と代休」です。どちらも休日に労働するという点では同じです。では、一体何が違うのでしょうか?

まず、振替休日とは、あらかじめ休日と労働日を入れ替える場合に、その代わりとして振り替えられた休日のことを指します。つまり、労働させた日は休日労働とはならないので、1週の労働時間が40時間を超えていなければ、割増賃金を支払う必要はありません。また、4週4日の休日は必ず確保しておく必要があります。したがって、これらのことを踏まえると、割増賃金を発生させないように振替休日を運用するためには、同じ週内で振り替えを行わなくてはなりません。なお、振替日は事前に指定しなくてはなりませんので、前日までに通知します。

これに対し、代休とは、代わりに休む日を事前に決めずに、労働させた後に休日労働の代償として与えられた休日のことを指します。この場合は、労働した日はあくまで休日のままなので、休日に労働をしたという事実は消えていません。ですので、労働を命じた休日が法定休日であれば、時間外・休日労働に関する協定届を提出する必要があり、また、休日労働に対する割増賃金を支払わなければなりません(2.時間外労働・休日労働のために必要な手続きで詳しくご説明します)。

つまり、振替休日と代休の違いは、事前に休日を決めているか否かというところにあります。
振替休日、代休のいずれの制度を利用する場合でも、就業規則等に規定を設けましょう

2. 時間外労働・休日労働のために必要な手続き

労働時間と休日・休暇の基礎知識①において、原則として1日8時間、1週40時間(法定労働時間)を超えて労働させてはならないこと、また、従業員に毎週少なくとも1日、あるいは、4週を通じて4日以上の休日(法定休日)を与えなければならないことをお話ししました。

この法定労働時間を超えて労働をさせた場合は時間外労働となり、法定休日に労働をさせた場合は休日労働となり、以下の手続きを行う必要があります。

(1)就業規則等での定め

就業規則に、時間外労働や休日労働をさせることができる旨の定めを置く必要があります。
もし、就業規則を作成していない場合は、雇用契約書に記載しましょう。

(2)時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)

事前に従業員を代表する者と時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、時間外労働・休日労働に関する協定届を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
なぜ36協定と呼ぶのかというと、労働基準法36条にこの協定に関する規定があるためです。36協定は、事業所単位で締結・届出をする必要があることに注意しましょう。

36協定は、労働基準監督署に届け出ることではじめて有効となるので、協定を締結したけれど届け出ずに時間外労働・休日労働をさせたり、届け出る前に時間外労働・休日労働をさせたりすることは違法です。
36協定の有効期間は原則1年間なので、毎年、次の有効期間が始まる前に提出しなければならないということを頭に入れておきましょう。

(3)割増賃金の支払い

時間外労働の場合は25%以上、休日労働の場合は35%以上割増賃金を支払わなければなりません。
これらの他にも、深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働をさせた場合は、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。

 時間外労働や休日労働をしていて午後10時を過ぎてしまった場合は、時間外労働・休日労働の割増率に深夜労働の割増率を合算して支払わなくてはなりません。

ここで、「休日労働をしていて、法定労働時間を超えた場合はどうなるの?」と疑問に思った方がいらっしゃるかもしれません。
これまでの説明からすると、休日労働に対する割増率(35%以上)に時間外労働に対する割増率(25%以上)を加算することも考えられます。
しかし、この場合は割増率の合算は行いません。なぜなら、法定休日にはそもそも法定労働時間という概念が存在しないからです。

割増賃金は、以下の式で算定します。

ただし、この算定を行う際、
家族手当・扶養手当・子女教育手当(※)、通勤手当(※)、別居手当・単身赴任手当、
住宅手当(※)、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
は賃金から除外します。
※家族数、交通費・距離、家賃に比例して支給するものに限り、一律に支給する場合は月給に含みます。

3. まとめ

労働時間が増えれば増えるほど、心身に不調をきたします。必要な手続きを行っていたとしても、時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめなければなりません。

今、時間外労働・休日労働が当たり前になっているのであれば、業務の進め方や業務量などを見直し、従業員の健康を確保することに努めましょう。

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