弁護士コラム

2019.04.22

労働時間と休日・休暇の基礎知識②

前回の記事(労働時間と休日・休暇の基礎知識①)では、働き方の見直しに必要な知識として、労働時間、休日・休暇の違い、そして有給休暇の取得義務についてお話ししました。
今回は、その続きとして、振替休日・代休の違いと、時間外労働・休日労働をさせる場合に行わなければならない手続きについてご説明します。

1. 振替休日・代休の違い

労働時間と休日・休暇の基礎知識① 2(1)休日と休暇の違いにおいて、元から労働義務のない日を休日、労働義務が免除された日を休暇と呼ぶというお話をしました。
この「休日と休暇」のように、同じような意味に見えて、全く違う内容の制度があります。それは、「振替休日と代休」です。どちらも休日に労働するという点では同じです。では、一体何が違うのでしょうか?

まず、振替休日とは、あらかじめ休日と労働日を入れ替える場合に、その代わりとして振り替えられた休日のことを指します。つまり、労働させた日は休日労働とはならないので、1週の労働時間が40時間を超えていなければ、割増賃金を支払う必要はありません。また、4週4日の休日は必ず確保しておく必要があります。したがって、これらのことを踏まえると、割増賃金を発生させないように振替休日を運用するためには、同じ週内で振り替えを行わなくてはなりません。なお、振替日は事前に指定しなくてはなりませんので、前日までに通知します。

これに対し、代休とは、代わりに休む日を事前に決めずに、労働させた後に休日労働の代償として与えられた休日のことを指します。この場合は、労働した日はあくまで休日のままなので、休日に労働をしたという事実は消えていません。ですので、労働を命じた休日が法定休日であれば、時間外・休日労働に関する協定届を提出する必要があり、また、休日労働に対する割増賃金を支払わなければなりません(2.時間外労働・休日労働のために必要な手続きで詳しくご説明します)。

つまり、振替休日と代休の違いは、事前に休日を決めているか否かというところにあります。
振替休日、代休のいずれの制度を利用する場合でも、就業規則等に規定を設けましょう

2. 時間外労働・休日労働のために必要な手続き

労働時間と休日・休暇の基礎知識①において、原則として1日8時間、1週40時間(法定労働時間)を超えて労働させてはならないこと、また、従業員に毎週少なくとも1日、あるいは、4週を通じて4日以上の休日(法定休日)を与えなければならないことをお話ししました。

この法定労働時間を超えて労働をさせた場合は時間外労働となり、法定休日に労働をさせた場合は休日労働となり、以下の手続きを行う必要があります。

(1)就業規則等での定め

就業規則に、時間外労働や休日労働をさせることができる旨の定めを置く必要があります。
もし、就業規則を作成していない場合は、雇用契約書に記載しましょう。

(2)時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)

事前に従業員を代表する者と時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、時間外労働・休日労働に関する協定届を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
なぜ36協定と呼ぶのかというと、労働基準法36条にこの協定に関する規定があるためです。36協定は、事業所単位で締結・届出をする必要があることに注意しましょう。

36協定は、労働基準監督署に届け出ることではじめて有効となるので、協定を締結したけれど届け出ずに時間外労働・休日労働をさせたり、届け出る前に時間外労働・休日労働をさせたりすることは違法です。
36協定の有効期間は原則1年間なので、毎年、次の有効期間が始まる前に提出しなければならないということを頭に入れておきましょう。

(3)割増賃金の支払い

時間外労働の場合は25%以上、休日労働の場合は35%以上割増賃金を支払わなければなりません。
これらの他にも、深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働をさせた場合は、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。

 時間外労働や休日労働をしていて午後10時を過ぎてしまった場合は、時間外労働・休日労働の割増率に深夜労働の割増率を合算して支払わなくてはなりません。

ここで、「休日労働をしていて、法定労働時間を超えた場合はどうなるの?」と疑問に思った方がいらっしゃるかもしれません。
これまでの説明からすると、休日労働に対する割増率(35%以上)に時間外労働に対する割増率(25%以上)を加算することも考えられます。
しかし、この場合は割増率の合算は行いません。なぜなら、法定休日にはそもそも法定労働時間という概念が存在しないからです。

割増賃金は、以下の式で算定します。

ただし、この算定を行う際、
家族手当・扶養手当・子女教育手当(※)、通勤手当(※)、別居手当・単身赴任手当、
住宅手当(※)、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
は賃金から除外します。
※家族数、交通費・距離、家賃に比例して支給するものに限り、一律に支給する場合は月給に含みます。

3. まとめ

労働時間が増えれば増えるほど、心身に不調をきたします。必要な手続きを行っていたとしても、時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめなければなりません。

今、時間外労働・休日労働が当たり前になっているのであれば、業務の進め方や業務量などを見直し、従業員の健康を確保することに努めましょう。

2019.04.22

【退職の仕方】入社した会社を「やめたい」方へ~「退職代行サービス」ではなく法律事務所を使って確実に退職へ(私達がとる態度の豆知識つき)~

「退職代行サービス」というサービスを聞いたことがありますか?

もしかすると、この記事にたどりついた方はご存知かもしれません。退職代行サービスのウェブサイトには甘い言葉が書いてありますが、実は退職代行サービスは弁護士法違反にあたる可能性があるのです。

退職代行サービスの多くは、歴史が浅く、方法も不透明な上、やめようとする会社に対する権限も弱いため、退職時に揉めたりするケースや、退職後に訴訟を起こされる事例には一切対応が出来ません。会社が本腰をあげた場合に対処できないのです。

しかし!この世には退職代行サービスよりも強力な退職の助っ人がいるのをご存知でしょうか?

 ―弁護士とよばれる者です。―

後腐れなく退職したい場合は、退職代行サービスを使った場合よりも、予め法律事務所(特に労働に強い弁護士を擁する法律事務所)に「退職をしたい」という依頼を行った方が円満・安全・確実に退職を行えます。

1.合法的なやめ方のすすめ

リクルートスーツを着て、つらい就職活動をし、無事大学を出て、就職してみたものの、何か違和感をおぼえていらっしゃる方や、とにかく理由は抜きにして会社なんか辞めてしまいたい方は必見です。
思っていたのと違った。なんか嫌だ。拘束時間が長い。残業地獄。とにかくだるい。やめさせてもらえない。ご覧の方にはそういった思いもあるかもしれません。

一度きりの人生ですから、自分に素直に行動してみようと思われる方もいらっしゃると思います。

ウェブ上に公開されている、ある退職代行サービスは、誰にでもできる「とりあえずやめる」ことの代行だけで5万円もかかります。その点をみると、弁護士に依頼して「確実にやめて自由になる」ほうが、やめた後の嫌がらせへの対応や訴訟を提起された場合等を考えると安心です。

このように、確実に辞めて、その後の干渉もさせないほどに徹底するには法律の専門家に依頼するのがいいと思われます。退職代行業者と比較すると、法律事務所には証拠の残し方や交渉のノウハウがあり、会社に対しても丁々発止な対応が出来るため、退職代行を依頼するのであれば、法律事務所への依頼が合法的・円満・確実でよいものと思われます。

グレーなビジネスが出現しているからこそ、この「安心の退職方法」が、全ての会社を辞めたい人の保険のような形で周知されればよいなと思っています。

危険性のあるサービスではなく、安心できる辞め方として、周知にご協力いただければ、一人でも多くの方が救われるものと思います。

また、退職代行サービスは上記の通りとりあえずやめるというだけですが、法律事務所の退職代行依頼であれば、場合によっては会社に併せて「損害賠償請求」ができるケースもあるので、いずれにしても法律事務所を使った退職に軍配があがりそうです。

なお、福岡ではゴールデンウィークの10連休のうち、4月30日・5月2日・5月6日に営業している法律事務所もありますので、退職をご検討の方はこの3日を狙って無料相談がある法律事務所に行ってみるとよいかもしれません。

退職代行サービス会社 法律事務所
欠勤・退職の意思表示の確実な伝達
退職日の交渉 ×
有給消化の交渉 ×
引継ぎに関する交渉 ×
私物の引取り ×
離職票、年金資格喪失証明書等の発行依頼 ×
未払い賃金(残業代)や退職金などの請求 ×
訴訟になった場合の対応 ×
会社への損害賠償請求 ×
違法性 グレーな行為 適法行為

2.ありがちな言葉を考えてみる

あらためて、考えを整理するために、よく説得で使われがちな言葉を、あえて違った角度から考えてみると気付きを得ることがあります。その過程で自ずと自分の価値観が明らかになることもあります。

【物事をうやむやにさせる言葉】
① 「社会人として云々」「人として云々」「常識が・・・」
→この言葉が使われている場面を思い出してみてください。それは、ある一定の価値観がおしつけられている場面ではないですか?常識とはなんでしょう?よく考えてみると個々人の思い込みとも捉えられませんか?
アインシュタインも「常識とは18歳までに身に付けた偏見のコレクションのことをいう」というように、常識は個人が勝手に決めつけた各人で偏りのあるものの見方とも捉えられるのです。

② 「おかれた場所で咲きなさい」等のことわざ
→上にアインシュタインの言葉を引用しましたが、アインシュタインが出てくるだけで少し納得しませんでしたか?人はことわざや偉人の格言に弱いという研究があるので、説得されている場合はことわざや格言の力に惑わされないようにしましょう。
よくよく考えると、案外逆のことわざもあるものです。

③ 「○年は続けろ」という言葉
→辞める勇気のなかった者が言う、新卒者の人生を狂わせてしまう危険な言葉です。3年も経つと第二新卒という範囲からも外れてしまい、選択肢が減ってしまいます。具体的に続けることに何の意味があるのかを考えて、発見できれば続けてみるというのもよいかもしれません。

なお、上で様々なよくいわれる言葉の一つの見方を批判的にご紹介しましたが、実はこのものの見方も一つの見方・偏見でしかなく共感する必要もありません。
本来私達は、自由に考え、自由に職業を選び、自由に暮らすことができるはずなのです。

3.あとがき・【ローボール・テクニック】が人に思ってもない行動をさせている話

私はこれを知り、「ああ、ローボールだなぁ」という状況によく出くわすことがあります。日常で、気づいたときに、本心では嫌だけれどもなぜか受け入れてしまっている状況はないですか?

もっというと、なぜかあまり使わないのに継続して加入している通販サイトの会員プランや、スマホの課金はないですか?

実は、人は一度約束をすると、後に約束の内容が不利益に変更されても撤回するのは難しいといわれています。

世間でもよく使われている技法で、例えば、週1である簡単なタスクをやると評定の点数に加味するとしておき、点数はそのままで週2に頻度を増やすなど、はじめは容易な条件で次第に条件が厳しくなっていっている状況であっても、最終的には大半の人は受け入れてしまいます。これがローボール・テクニックといわれるものです。

初月無料や初年度無料というサービスがよくありますがまさにこれです。

現時点の退職理由で、「労働が割に合わない」ということを考えてらっしゃるような場合はこのことを警戒して、少し様子をみてみるのもよいかもしれません。

このように、一見甘い餌をまかれているような時は、不利益を被る可能性があるので警戒が必要だと考えられます。

4.さいごに

私たちの態度は私達が決めているものと思っていますが、往々にして決められているようにも考えられます。ただ、行動がどのような経緯であれ、自分自身が意思をもって辞職を決意するのであれば、その意思は尊厳をもって扱われるべきであるといえるでしょう。

そして、その尊厳を護ることが出来るのは法律をもってして代理人となることのできる弁護士でもあります。

退職をお考えの方は、無料相談を行っている法律事務所などもありますので、この記事も踏まえ様々な角度から検討のうえ、ご自身の自由な意思で依頼先を選択されることがよいと思われます。

2019.04.22

従業員がSNSトラブル!対応と公式発表、再発防止はどうしたらいい?

「SNSでトラブルが起こってしまったら!企業側の対応は?」では、従業員がSNSでトラブルを起こした場合の調査方法や記事の削除についてご説明しました。
今回は、削除後に行うべき公式発表や従業員の対応、再発防止策についてご説明します。

前回の記事はこちら→「SNSでトラブルが起こってしまったら!企業側の対応は?」

1.すべてのSNSトラブルについて公式発表するべき?

問題となっている多くが、トラブルの原因になった投稿が拡散され炎上したケースです。
しかしながら投稿がすぐに発見、削除されるなど拡散に至らなかった場合は、あえて公式発表をしないという手段も考えられます。
むやみに全てのSNSトラブルに対して公表すれば、かえって企業イメージの低下や、起こるはずのなかった別のトラブルに発展する可能性もあります。
また、外部から寄せられる情報や内部チェックで発見された投稿の中には、誹謗中傷の場合でも根拠や具体性のないものもあり、拡散状況や投稿内容によって臨機応変に対応することが重要です。

2.公式発表のタイミングは状況を見て適切に

公式発表で多く用いられるのは、プレスリリースが知られていますが、企業によっては記者会見を行うところもあります。
事実関係を確認、当該の投稿記事も削除し従業員の処分を行った後に公式発表、という流れが一般的ではありますが、すべてが完了するには時間がかかり、その間に当該記事がさらに拡散されてしまうことも考えられます。

また、「拡散されているのに企業側は何も発表しない。全く対応していないのではないか」という疑いを持たれてしまう可能性もあります。
問題の投稿内容に対して、今現在わかっていること、どこまで対応が進んでいるのか、などを適宜、公式発表していくのが良いでしょう。

3.SNSトラブルを起こした従業員へはどんな対応をすれば良い?

(1)注意、指導と懲戒処分

前回の記事でもご説明しましたが、SNS利用について就業規則の懲戒規定に当たる行為が見られれば、従業員の処分を検討しなければなりません。

問題の投稿内容がすぐに削除され、拡散されなかった場合や、従業員間でのSNSトラブルで話し合いなどにより解決した場合は注意喚起や指導にとどめ、炎上拡散が止まらず、企業の売上低下や実損害が発生するような事態まで発展した場合は、懲戒処分(減給や出勤停止、懲戒解雇など)を検討する必要があります。

また、小規模なトラブルであっても、比較的地位の高い取締役や役員が起こしてしまったものについては注意にとどまらず、懲戒処分を実施するケースも考えられます。

ニュースなどに取り上げられ問題となった、飲食店勤務中に不適切な動画を投稿するなどのSNSトラブルについては、既に知られているとおり当該従業員の解雇や、食品や機器の廃棄など対応にかかった費用として、損害賠償請求が行われています。

(2)従業員同士でのSNSトラブル

「私的アカウント間でのSNSトラブルだから、勤務先には関係ない」という問題が発生したとしても、そのトラブルの内容によっては企業に影響を与えることになります。

例えば、Aさんは偶然facebookで同僚Bさんのアカウントを見つけ、Bさんが拒否したにもかかわらず執拗に友人申請を行うなどの行為で、Bさんが精神的苦痛を感じ仕事に支障をきたす等のケースも、最初は個人間のトラブルですが、最終的には従業員の休職の原因になるなど、企業の運営にかかわってくるケースです。

このような場合、当該従業員への注意や指導で改善を図りますが、上司と部下といった間で上記のやり取りがされた場合、セクハラやパワハラとなる可能性もありますので、様々な状況や要素を踏まえた上で処分を検討しましょう。

4.再度トラブルを起こさないために防止策の徹底を

トラブルが発生した場合は、公式発表とともに、社内にも通達や注意喚起を行いましょう。
従業員全員に内容を説明することで、「いつか自分もトラブルを起こしてしまうかもしれない」という認識を常に持ってもらうことになります。

具体的には、「いつどのSNSサービスで、当該従業員はどのような内容を投稿したのか」、「このトラブルについて、労務側はどのような対応と処分をしたのか」などを記載します。また、注意喚起としてSNSの特徴である、「良い悪いに関わらず、容易にネット上に情報が拡散できてしまう」ことや「拡散された後は削除が困難」であることも説明し、認識してもらいます。

普段あまりSNSを利用しない従業員などへ対しても、どのようなトラブルであったのかが分かるように、この注意喚起内でSNSの特徴などについても触れておきましょう。

しかしながら懲戒処分の具体的な内容の公表については、注意が必要です。
内容によっては名誉毀損とされることもありますので、個人名や具体的な説明を避け、特定できないよう表記するのが良いでしょう。

社内での研修等を再度実施したり、ガイドラインを策定していなかった場合は早急に策定するのも防止策として有効です。
繰り返しにはなりますが、業務で使用している機器(パソコンやスマートフォン)等の同意を得た上でのチェックや、守秘義務の誓約書を作成し署名してもらうなど、SNSトラブルについては適切な策をとっている企業であると常に認識してもらうことも、いつ起こるかわからないトラブルに対して先回りできる防止策です。

5.まとめ

今回はトラブルを起こしてしまった従業員に対しての処分や公式発表について説明してきましたが、今この時間でも、ますますネット世界は目まぐるしく変化しています。

昨日まで普通にできていたことが、今日からはできなくなった、というような事もネットでは多く見受けられます。
「問題が疑われる記事を投稿してしまったが、今は拡散していないし、いつでも消せる」と思っていても、突然明日からサービスが変わり、自分で削除ができなくなってしまうことも起こり得ます。

企業個人ともに、情報収集やコミュニケーションツールとしてのSNSは非常に便利なサービスではありますが、サービスの特徴やこれまでにご説明したトラブルを念頭に置いた上で適切に利用していきましょう。

2019.04.18

経営法務リスクマネジメント ~総論~

経営には会社の規模に伴わず、あらゆるリスクが発生します。日常業務の小さなミスやトラブルに対して改善策を講じず放置したり、認識の相違や業務の漏れが生じる体制を整備せずに見過ごした結果、企業の経営を脅かすリスクに成長してしまう可能性があります。

会社法では、大会社にのみ「法令及び定款に適合するための体制や業務の適性を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(会社法第362条第4項第6号)を義務として定めています。

一方で中小企業に対しては、経営体制の整備については何ら義務を定めていません。
しかしながら、中小企業においても円滑な経営を行うためには、リスク管理体制を整備し、リスクマネジメントの実践を行うことは必要であり、何も整備がなされていないのであれば急務で対策を講じる必要があると考えます。
以下、企業における経営のリスクマネジメントについて考えていきたいと思います。

1. 経営リスクの分類

経営に潜んでいるリスクにはどのような分類方法があるでしょうか。
もっとも一般的なものは、「純粋リスク(損失のみをもたらすリスク)」と「投機的リスク(損失のみならず利益もあるリスク)」に分類する方法です。

「純粋リスク」は、一般的に財産損失・収入減少・賠償責任・人的損失のリスクがあります。「純粋リスク」は、予測を立てることにより統計的にリスクを把握でき、損害保険の利用などにより、投機的リスクに比べリスク管理が行いやすいとされています。

一方で「投機的リスク」は、経済や政治的情勢や法的規制変更などの動態的な事項があげられます。
「投機的リスク」は、グローバル化が進んだことにより、自国だけではなく他国の経済や政治的情勢の影響も及ぶようになり、近年直面するリスクとして増加傾向にあります。
次に、経営法務の視点から考えたリスクの分類として、「社内要因的リスク」と「社外要因的リスク」の分類方法があります。
例えば「社内要因的リスク」では、採用及び退職リスクや労働時間・賃金・休日等のリスクや社内管理体制リスクが考えられます。「社外要因的リスク」では、欠陥製品リスク、債権回収リスク、情報・営業秘密リスク・損害賠償リスクなどが挙げられます。

経営リスクを検討する際、「社内要因的リスク」と「社外要因的リスク」の分類方法の方が、馴染みがあって検討しやすいことや、社外要因的リスクについて検討する際に、第三者の行動が関係してくることから、事前のリスク回避対策だけでなく、リスクを取ったうえで被害を最小限にとどめる対策についても考慮することができ、「純粋リスク」と「投機的リスク」に比べ、より具体的な経営リスク回避を講じることができます。

2. ハインリッヒの法則

ハインリッヒの法則とは、「重大事故が一件発生する背景には29件の軽微な事故があり、その背景には300件の小さなミスや異常が存在する」という法則です。
ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが労働災害を統計学的に調査し、この法則を見つけ出しました。
取り返しのつかない重大な大事件や大事故を事前に防ぐために、軽微な事故やたまたま起こった小さなミスを見過ごしてはいけないことを教示しています。
些細な事故やミスを侮らずしっかりと記録にとどめ、過程の分析を行い、予防対策を講じることはリスクをカバーすることに繋がります。

3. リスクマネジメントの実践

経営法務のリスクマネジメントを行うには、①リスク管理体制を整備②リスクの洗い出しや発生確率の分析、経営にもたらす影響の大きさなどの調査、リスク発生時の対応の検討③リスク発生後の対策の3つに分類し検討することが有益とされています。

中小企業ではリスク管理部門やコンプライアンス統括部門を設置することは現実的に難しい場合が多いでしょう。その場合、自社で対応が難しいのであれば、顧問弁護士などにコンプライアンスを任せることも重要でしょう。

弁護士であれば、経営におけるリスクの洗い出しや分析について客観的に判断ができますし、リスク管理体制の整備に並行して、社内規程の見直しなども必要になるため、コンプライアンスを任せるには適切です。

また、内部通報制度についても整備をすることが大切です。不正や不祥事が公になる前に、社内内部にて事前に対処することにより、社内要因的リスクにとどめ、社外要因的リスクを回避することに繋がります。

この際、内部通報者に対し、不利益な扱いをしない旨を明確化し、従業員に周知を行い、通報先を設けることが必要です。実際に内部通報があった後の対応についてもルール化することで、内部通報を行いやすい体制作りに努めましょう。

ただ、リスクマネジメントの実践においては、体制作りだけでは限界があるため、日頃から経営者のコンプライアンス意識や社訓・行動憲章などの精神面を従業員に根付かせ、従業員全体の意識を高めることが、リスクマネジメントの実践においてベースになっています。

4. まとめ

リスクへの対応としては大きく次の4つがあります。①リスクを取らない②リスクを減らす③リスクを分担する④リスクを受け入れる

リスクへの対応を考える際、発生頻度やリスクが起こった際の重大性から予防策を検討していくことが重要とされています。どこまでリスクを負うことができるのか詰めて考えることがリスク発生を低減させることに繋がります。

リスクが起こった際の初動調査が遅れてしまえば、被害が拡大し、会社の危機管理能力まで問われる自体に発展してしまう可能性があります。

機動的に対応ができるように弁護士等の専門家を体制に組み入れながら、会社組織の事情に則したリスク管理体制を整備し運用することによって、被害を最小限にとどめるように備えましょう。

2019.04.18

恋人の自傷癖・薬物使用等でお悩みの方へ~法律で保護できるひと~

「大切な人が自分を見失っている」

恋人に自傷癖があり、自殺をほのめかされてお困りの方や、恋人の薬物使用でお困りの方は一定数いらっしゃいます。

自傷癖と薬物依存、どちらも、精神衛生上、放置しておくことは望ましいものではありません。だからと言って大切な人を警察につき出すのも気が引ける・・・。どこに相談すればいいかわからない・・・。なんだか自分も気分が沈んできた・・・。

そんな方に、なるべく関係を壊さないで穏便に解決する一手段をご紹介したいと思います。
知っておくだけでも安心な情報で、なおかつあまり公にはされていない情報なので是非要点だけでも知っておくといいですよ。

要点は前半にまとめています。根拠となっている法律の解説は後半にまとめています。
要点だけ知りたい方は前半をお読みになって下さい。

1.話し合いでなんとか出来ないことだってある

例えば、身近な人が自傷癖を持っていたり、薬物依存に陥っていたりしてお困りの際に、なんとか説得して、立ち直らせられないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、精神医学の専門知識がない場合、話し合いや、道具の取り上げを行うことで逆に自傷や薬物依存に拍車をかけてしまう場合もあります。

自分だけが相手のことを一番分かっているとは思わずに、一旦、客観的な専門家の意見をあおぐことも本人のためを思えば適切な判断であると思われます。

そして、往々にして自傷行為や薬物使用をしている本人は病院へは行きたがらないケースが多いものと思われます。本当に立ち直ってほしいと思うのであれば、公共の制度を利用し、治療を受けてもらうのが最適解でしょう。

2.不幸にも病んでしまった大切な人を保護する制度

突然ですが、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律という法律をご存知ですか?
簡単にいえばこの法律は精神的な健康を促進するための法律です。

この法律には、錯乱や過度な自傷・薬物使用など精神的な疾患の疑いがある方のうち、ご本人に病識がない場合に、ドクターに適切な治療を行ってもらう制度があります。

パートナーが自傷行為をやめないのに、病院に行きたがらない場合や、パートナーが薬物を使用して錯乱することがある場合には、この法律によって、保健所に申請し、調査・指定医に診察をしてもらうという手段があるのです。

しかしながら、精神的な錯乱状態にある方・希死念慮の方で治療を拒否している方を保健所へ連れて行くことは現実的には困難ですので、治療をさせようとする方がご本人の症状を記録し、その他の記載事項を書いて申請することとなります。
その後保健所の調査のうえ、指定医の診察を経て治療や措置入院が開始される運びとなります。

このように治療を受けさせるには「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に基づいた都道府県知事に対する申請を経ることが必須条件になりますので、まず法律事務所に依頼して、事情を弁護士などに話した上で、法律事務所を通して申請することもできます。
また、法律事務所を通すことで申請後の本人の処遇の流れを知ることができます。

申請が認められ、指定医2名の診察により、措置入院が妥当であるという判断がされれば、病床において、本人を治療させることができます。
病床の区分には一般病床・療養病床・精神病床・結核病床・感染症病床と5種類ありますが、そのうちの精神病床に入院することになります。

精神病床というと「隔離」をご想像されるかもしれませんが、精神病床にも開放病棟という施錠されていない病棟もあり、一定の自由は保証されています。

なお、希死念慮をお持ちの方などは、「保護室」などと称される、閉鎖・隔離で、自傷に使える道具のない、施錠・閉鎖された病床に入院することになります。
ここへ入院することになると、自傷や薬物は使えず、一定期間は治療を受けてもらうことが出来るので一安心といえるでしょう。

なお、今回は恋人の自傷他害行為についてご紹介しましたが、ご家族が自傷他害のおそれのある状態に陥っている場合には、少しソフトな医療保護入院制度というものもあります。

医療保護入院は申請を行う必要はなく、本人を病院に連れて行き入院させ、治療させるものですので特段の申請を行う必要はありません。
詳しくは「医療保護入院」で検索をかければ制度が出てきます。

3.法律上の根拠

法律上、人の自由を制限することはそう簡単には認められていません。
人の自由を制限する場合は法律の根拠が必要となります。今回のように法律の規定によって精神病床に入院させる場合も一定の手続が要求されています。

申請による措置入院の場合であれば精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第22条1項で都道府県に申請し、第27条1項で指定医の診察、第29条で都道府県知事の措置入院決定となります。

4.まとめ

よく恋人がリストカットやアームカットをしているといったことや、薬物を身近な人が使っていてやめさせたいという話を聞きます。

法律には、自傷行為を止めて保護する制度もありますので、身近にそのような方がいらっしゃったら、法制度を使うことも手段の一つとしてお考えになるのもよいのかもしれません。

2019.04.18

【離婚問題】認められる離婚理由と離婚方法・離婚後の手続きってどうなっているの?

夫婦間で離婚を考えたとき、離婚ってどうやってするの? 離婚ってどんな理由でも認められるの? 離婚届はどうやって提出するの?など分からないことばかりだと思います。
今回は、離婚方法、法的に認められる離婚理由(法的離婚事由)、離婚後の手続きについてお話しします。

1. 離婚をする3つの方法

離婚をする際、夫婦間で双方の合意があればその理由が何であれ、離婚をすることは可能です。逆をいうと双方の合意がなければ離婚は成立しません。双方の合意を得るための離婚方法が3つあります。

1つ目は協議離婚です。離婚をする夫婦の多くはこの「協議(夫婦間での話し合い)」によって双方の合意を得ることで離婚を成立させています。

2つ目は調停離婚です。協議離婚が成立しなかった場合に、家庭裁判所で調停手続きをとって、調停委員が間に入り話し合いを行います。離婚についてだけではなく、子どもの親権や、面会交流や養育費、財産分与や年金分割、慰謝料などについても話し合うことができます。

3つ目は裁判離婚です。ただ、原則として、いきなり離婚の裁判をすることはできません。調停でも離婚が成立しない場合に初めて、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、裁判に進むことになります。裁判離婚の場合、両当事者で協議の上で合意をするのではなく、裁判では双方が主張立証を行ったうえで裁判長が判決を下します。判決に不服がある場合は控訴・上告という流れになります。

2. 法的離婚事由

裁判では法的離婚事由(法律で認められる離婚理由)がないと、離婚は成立しません。
法的離婚事由は民法第770条で定められていて、以下の5つです。

①配偶者に不貞な行為があったとき。

これは俗にいう「不倫」のことで、配偶者以外の異性と性行為を行った場合は、その配偶者がこれを理由に離婚を請求することが可能です。

②配偶者から悪意で遺棄されたとき。

夫婦には3つの義務が存在し、「同居義務」・「協力義務」・「扶養義務」です。夫婦関係が破綻することが分かっていながらこれらの義務を果たさないことは、悪意の遺棄と見なされ、離婚を認められます。

③配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

夫婦のどちらかが家を出ていったりして、行方が分からず、その生死も明らかでない場合は3年が経過すると離婚が認められます。ただし、本当に生死が不明なときであって、単なる行方不明の場合には該当しませんので、注意が必要です。

④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

この場合は調停を行うことができないため、例外的に調停を経ず、裁判で離婚を請求することができます。
夫婦のどちらかが、夫婦関係を破綻させる程度の精神病にかかってしまった場合は離婚事由になり得ます。
医師の判断が必要で、離婚後の配偶者の生活についても心配がないという状況でないと離婚は認められません。

⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

離婚をしたい原因が1~4に該当しない場合でも、DVや性の不一致、親族との不和、過度な宗教活動、金銭問題などが離婚事由になることがあります。必ずしも離婚が認められる訳ではなく、その度合いによって裁判所が判断します。

3.離婚後の手続きや提出書類

離婚成立後、各方面に書類の提出、各種手続きが必要となります。

① 離婚届の提出

離婚届は、市区町村役場でもらうことが出来ます。窓口で直接、もしくは郵送にて提出が可能です。
提出に伴い、戸籍謄本や届出人の印鑑、が必要です。協議離婚の場合は本人確認書類、調停離婚や裁判離婚の場合はさらに調停調書や判決書の謄本などが必要となります。

②協議離婚の場合は公正証書を作成する

調停や裁判によって離婚が成立した場合は、養育費や面会など決定事項が証拠として残りますが、協議離婚の場合は第三者を介さないため、証拠が残りません。後で2人の間で食い違いがあったり、決定事項が守られなかったりする可能性があるので、書面で残しておくのが良いです。

離婚協議書を作成し、できれば公正証書を作成した方が良いでしょう。離婚協議書を公正証書で作成し、執行認諾文言を付与することによって、万が一決定事項が守られない場合、後に差押えなどの強制執行が可能となりますので安心です。

③子どもの姓や戸籍

親は、離婚届を出せば、婚姻前の姓と戸籍に戻りますが、子は婚姻中の姓・戸籍のままです。離婚時に籍を抜けて子を引き取る際は、新たに戸籍を作らなければなりません。その場合、管轄の家庭裁判所へ子の氏の変更許可申立書を、役所に入籍届を提出します。
子の籍を移さず、婚姻中の戸籍のままでも問題はありませんが、子供の戸籍が必要になる機会もあろうかと思います。その場合、親権者の戸籍に入っていた方が何かと都合が良いでしょうから、なるべく移すのが良いでしょう。

4.まとめ

離婚をするときに、その決定方法は3通りあります。協議や調停の段階では、夫婦の合意が得られれば離婚は成立しますが、裁判まで進むと法律で決められた理由がないと離婚は認められません。
証明するには証拠が必要な場合が多いので、事前の準備が不可欠です。
また、離婚が成立した後も、書類の提出や子どもの姓や戸籍の変更などやるべきことがあります。
体力も使い、精神的にも苦労が多くなりますが、子どもと自分たちの未来のためにはやらなければならないでしょう。

2019.04.18

知っていれば役に立つ!経費のこと3

1日中仕事をしていると、集中力も切れてきて、ちょっと休憩してお菓子を食べたい、残業をしてお腹が空いたからご飯を食べたい、なんて思うことがありますよね。
そんなとき、このお菓子や食事を買うのに使ったお金は、「経費」になるのでしょうか?

1.お菓子は「経費」になる? 

 会社には、お客様から頂いたり、スタッフが持ってきてくれたりしたお菓子が置いてあることがありますよね。けれど、出勤前やお昼休みにコンビニに行って、自分でお菓子を買ってくる人もたくさんいると思います。仕事の合間に食べるために買ったこのお菓子代、「経費」になるのでしょうか?

 これは、「経費」にはなりません。例えば、会社の中に休憩所があって、そこにお菓子や飲み物などが置いてある場合。この場合、置いてある飲み物やお菓子が、誰でも食べられるのなら、「福利厚生費」として「経費」にすることができます。しかし、先程のように、コンビニなどに行って、自分の食べたいお菓子を買った場合には、「福利厚生費」にすることはできず、「給与」として扱われ、源泉徴収の対象となります。

 「そこで働く人全員が公平に利用できること」が「福利厚生費」にする条件になるため、これを満たすことができていない場合には、「給与」か「自己負担」で買うようにしましょう。

2.「まかない」が出るお店で働いています

 飲食店で働いている方は、たくさんいらっしゃると思います。その中で、お店によってはまかないが出るところがありますよね。このまかない、従業員からお金を貰わずに、無料で提供している場合、作るためにかかった費用は「経費」になるのでしょうか?

 自分のお店にある材料で作っているのだから、と考えて、無料で提供してしまいがちですが、実はこれ無料で提供してしまうと、従業員の「給与」となり、源泉徴収の対象となってしまいます。前回の記事で書いたように、まかない(食事代)を「福利厚生費」として「経費」にするためには、「食事代の半分以上を従業員が負担している」「会社が負担した金額が月額3500円以下である」という条件を満たす必要があるため、自分のお店で作っているまかないだとしても、無料で提供すると「経費」にすることができないのです。

 つまり、まかないを無料で提供してしまうと、「給与」として扱われてしまい、「経費」にすることができないため、上記2つの条件を満たし、「福利厚生費」として「経費」にしましょう。

3.残業をしてお腹が空きました

 会社の繁忙期。これは、どこの会社にもあるものではないかと思います。普段は定時で帰ることができていても、繁忙期はどうしても残業になってしまう・・・そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 そんな皆さんにうれしい情報です。実は、残業をした人に対して会社が食事を支給する、この時にかかった食事代は「福利厚生費」として「経費」にすることができるのです。今まで出てきた食事代は、2つの条件を満たさなければ「経費」にすることができなかったのですが、今回でてきた食事代は、なんと、全額会社負担でも「給与」として扱われないのです。食事は、仕事をしていてもしていなくてもとるものだから、という理由で「経費」にすることができなかったのですが、残業というのは、業務を進めていくうえでやむを得ない事情のため、個人の負担がなく、全額会社負担だとしても「経費」にすることができるのです。

 ただし、食事を提供するのではなく、「食事手当」として現金で支給すると、従業員の「給与」として源泉徴収の対象となるため、「給与」として扱われないようにするには、食事そのものを支給してもらうようにしましょう。

4.まとめ 

 今回は、食べ物に関する「経費」についてお話をしました。同じ「食事」でも、「福利厚生費」として「経費」にするためには、条件を満たさないとならないもの、条件を満たさなくても「経費」になるものがあったと思います。
 「福利厚生費」として「経費」にできるものを上手く活用しながら、業務の効率化を図りましょう!
 

2019.04.18

【離婚問題】子連れ離婚の子どもに関する3つの権利

離婚は夫婦間の問題だというところにスポットが当たりがちですが、夫婦間に子どもがいる場合は、夫婦だけの問題ではなくなります。親子の問題なのです。離婚の成立後には、夫婦で子どもに関する取り決めを行うことになります。その中でも、子どもに関する事柄で重要なのは親権、面会交流、養育費の3つでしょう。

今回は子どもに関する事柄についてお話ししたいと思います。

  1. 1. 親権   

  2. 親権は、

    父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない

    と民法第819条で定められています。 親権とは、親が子どもを監護・教育し、財産を管理する権利義務であり、離婚の際には、その権利義務を夫婦のどちらが持つのかを決めなければなりません。
    親権者をいずれにするかは、離婚届を提出するときに取り決めて離婚届に記載をしなければ、離婚届は受理されませんので夫婦間でしっかりと話合わなければなりません。
    では、親権を持たない親(非親権者)の立場はどうなるのでしょうか。

  3. まず、非親権者は、通常、子どもの監護をしていないため、親権者に対して毎月養育費を払わなければなりません。親権はなくても、扶養義務があるからです。
    ただ例外的に、親権と監護権を分離して持つことも可能です。
    離婚する際、夫婦双方が親権を欲するケースが多いですが、仕事や子育て経験の問題もあり、父親が現実的に育児をすることが難しいケースも多いです。そのようなとき、父親は親権を持ち、実際の子育ては監護権者として母親が行うという分け方をする場合もあります。

  4. 【親権と監護権を分離するメリット】
    ●実際に子どもを育てない方の親も、子どもとの繋がりを感じることができ、精神的な支えになります。
    ●親権者をいずれにするかで離婚協議が成立しない場合に、両者の気持ちの落としどころとなり、離婚を成立させることができるケースもあります。
    【親権と監護権を分離するデメリット】
    ●親権者の同意が必要な手続きを行う際、実際に一緒に住んでいる監護権者に親権がないため、書類提出などの事務手続きが面倒な場合があります。
    ●母親が監護権者となり、父親が親権者となった場合は、子どもは父親の戸籍に入るため、苗字は親権者である父親と同一となります。つまり、実際に同居している母親と苗字が別々になってしまいます。(家庭裁判所で子の氏の変更は可能です。)
    以上の通り、メリットもありますが、デメリットもあります。親権と監護権を分離することは可能ですが、子どもへの負担等を考えると、分けずに親権者を決めておくのが一番良いといえるでしょう。

    2. 面会交流    

  5. 次に、非親権者と子どもとの関わり方についてお話ししましょう。親権が得られなかったからといって、子どもと顔を合わせられなくなる訳ではありません。非親権者が子どもと接するための面会交流という権利が存在します。
    民法第766条において

  6. 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
  7. と規定されています。親の子どもに会いたいという気持ちも大切ですが、民法上は子どもの利益を最優先として面会交流を実施することになります。
    まずは、面会交流を実施するに当たって、その頻度や時間などを取り決めなくてはなりません。そして、取り決めがあるにも関わらず、その約束を守らずに面会交流を拒否してしまうと、間接強制として裁判所から罰金を命じられる場合もあります。

    3. 養育費   

  8. 離婚後、子どもと離れて暮らす親は、子どもが大人になるまでの間、養育費を払わなければなりません。この「大人になるまで」というのは、20歳までと決まっている訳ではなく、ケースバイケースです。あくまで親の子に対する扶養の問題ですから、必ずしも成人するまでと限定する必要はなく、大学や大学院まで進学するのであれば、そこまで親が子を扶養する必要があります。つまり、当初養育費の取り決めを行うに当たって、いつまで養育費を発生させるか、離婚協議や調停の際にその旨をしっかり取り決めておかなければなりません。

  9. 現実的には、取り決められた養育費が問題なく支払い続けられているケースの方が少ないのが現状です。つまり、途中で支払いが滞ることが多いのが養育費なのです。
    そうならないためにも離婚届を出す段階で取り決めた事項を公正証書に残しておくことが不可欠なのです。強制執行認諾文言付き公正証書を残すことで、不払いが生じた際に給与などの差押えを行うことが可能です。公正証書を残していない場合は、家庭裁判所に養育費請求の調停を申し立てます。
    親権は決まっていないと離婚届は受理されませんが、養育費に関しては決まっていなくても離婚届は受理されます。そのため先延ばしにしてしまう方もいるのですが、決めていなかったために後から請求するのが難しい場合もあるのでしっかりと決めておきましょう。

    4. まとめ

  10. 離婚は、子どもがいれば夫婦だけの問題ではなくなります。子どもの将来、幸せを十分に考えて様々な取り決めをしなければなりません。
    親権を持つべきなのはどちらなのか、親権を持たない方の養育費の支払いや面会交流について具体的に決めておくと、後のトラブルも大きくならずに済みます。
    そのためにも、話し合いをするには冷静に1つ1つ取り決めていくことが大事でしょう。

2019.04.17

マイナンバーの外部サービスとプライバシーマーク制度

マイナンバーの運用が定着した昨今ですが、運用状況の記録や、保管書類の法定保存期間の管理、情報漏えい防止等の安全管理など、事業者が対応に費やす時間と労力は少なくありません。
そこで今回はクラウドシステムや外部サービスをご紹介したいと思います。
また後段では、安全管理対策の徹底化にあたり、プライバシーマーク制度という既存の個人情報の保護措置を利用する方法も合わせて紹介したいと思います。

1.マイナンバーの管理に便利なシステムとは?

マイナンバー管理に、クラウドサービスでマイナンバーの収集や管理、廃棄をサポートしてくれるクラウドシステムが活用されています。
クラウドとは、「クラウドコンピューティング」の略で、データを自分のパソコン等ではなく、インターネット上に保存する使い方やサービスのことです。以下主な特徴をご紹介します。

従業員の情報を登録することで、システムからその従業員にメールでマイナンバーの収集依頼が行えます。
従業員がスマートフォンやパソコンから指定されたアドレスにアクセスすると「利用目的」が通知され、マイナンバー、「通知カード」や本人確認書類をシステム上に保存することができます。書面でのやり取りがないため、事業者のパソコンにはデータが残りません。

マイナンバーは、システムを提供するクラウド事業者が管理するデータセンターに“暗号化”されて保存されます。
システムには、権限の管理機能や利用履歴の管理機能も設けられていますので、情報漏えいや紛失、不正利用のリスクも軽減できるのがメリットです。
システムで廃棄時期を管理しているので、法定保存期間を気にする必要もありません。

また、給与システムや社会保険システムと連携することができるものであれば、ほかのシステムにマイナンバーを保存することなく、必要な書類を作成することが可能です。
クラウドシステムを導入すると、マイナンバーや特定個人情報を管理する場所を限定でき、人為的なミスも極力抑えることが可能です。

2.マイナンバーの取得に便利なアイテムやサービスとは?

クラウドシステム以外にも、マイナンバーの取得や収集、管理、廃棄に便利なアイテムやサービスがあります。

小規模事業者向けに、マイナンバーの「取得・保管セット」が販売されています。
こうしたセットには、①個人番号報告書、②利用目的の通知書、②収集用の封筒、④本人確認書類ごとに保管できる封筒、⑤専用バインダーが含まれます。
取得から廃棄までの一連の作業を安全に行えるように工夫されているので、紙ベースでのマイナンバーの取得、保管、廃棄までの対策が容易になります。

また、事業者に代わって代行業者がマイナンバーの収集を行う「マイナンバー収集代行サービス」もあります。
一般的には、①代行業者が事業者の従業員に対してマイナンバー収集の案内状を発送する、②従業員がマイナンバー申告書にマイナンバーなどを記入し、本人確認書類の写しとともに代行業者に返送する、③代行業者が書類を元に従業員の本人確認をする、④代行業者が事業者に従業員のマイナンバーを連絡する、といった流れになります。

マイナンバーを収集する際には、代行業者が十分な安全管理措置を講じたうえで、必要書面の作成から回収までを行ってくれます。

マイナンバー管理を自社で行うには、様々な労力やリスクが伴います。これらを全て外部サービスで対応することも経営判断としては重要でしょう。

3.プライバシーマーク制度とマイナンバー制度の関係は?

プライバシーマーク制度とは、日本工業規格であるJISQ15001(個人情報保護マネジメントシステム―要求事項)に適合し、個人情報について適切な保護措置を行っている事業者を認定し、その事業者にプライバシーマーク(Pマークという)の使用を認める制度です。

Pマークを付与された事業者であれば、すでに個人情報を適切に保護する仕組みを整備・実践し、その改善も行っているため、個人情報であるマイナンバーや特定個人情報の取り扱いについても、追加で必要となる措置に対応することにより、比較的容易にマイナンバー制度に対応する素地が整っていると言えます。

まず個人情報としてマイナンバーや特定個人情報がその対象に加得る必要があります。どのようなマイナンバーや特定個人情報を取り扱うことになるかを特定して、リスクの認識やその対策を講じましょう。

次に、個人情報を取り扱う際に参照すべき法令や指針に、番号法(行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)とガイドライン(特定個人情報の適正な取り扱いに関するガイドライン)を加えましょう。

また、マイナンバーや特定個人情報を取り扱う担当者を決めて、その役割や権限を明確にしましょう。
マイナンバーを利用できる範囲や特定個人情報を作成できる範囲は限定する必要があり、本人の同意があっても子の範囲を超えて利用や作成はできませんので、担当者は留意が必要です。

なお、番号法で規定されたケース以外はマイナンバーや特定個人情報の提供ができず、提供を受ける場合には本人確認が必要です。
番号法で規定されたケース以外でのマイナンバーや特定個人情報の保管も行えません。所管法令によって義務付けられている保存期間を経過したときは、できるだけ速やかに削除または廃棄する必要があります。

委託契約を結ぶ場合には、ガイドラインに具体的に示されている規定を盛り込む必要があります。マイナンバーや特定個人情報については、今までよりも厳しい取扱いが要求されていますが、上記の点に留意して既存の仕組みを改善していけば問題ないでしょう。

4.まとめ

クラウドサービスを利用する場合、マイナンバーや「特定個人情報」をクラウドで管理することになるので、業者を選定する際には、安心できるセキュリティが提供されていることが重要なポイントになります。収集代行サービス等においても同様です。

月額千円以下から数千円で利用できますので、多少の経費でリスクを軽減でき、時間と労力を他に費やすことができるならば、導入を検討する価値はあると言えます。

2019.04.17

労働時間と休日・休暇の基礎知識①

日本では過重労働が社会的に問題となっており、是正が求められています。
これに伴い、働き方の見直しに取り組んでいる会社も増えてきているのではないかと思います。そこで、今回は、働き方を見直すにあたり知っておく必要がある、労働時間や休日・休暇に関する基礎的な事項をご説明します。
また、労働基準法改正に伴う年次有給休暇の取得義務についてもお話しします。

1. 労働時間と労働時間管理

会社には、労働基準法により、労働時間を適切に把握し、管理する責務があります。では、この労働時間とは一体何を指すのでしょうか。

労働時間とは、休憩時間を除いた実労働時間のことです。定められた始業時刻より早い時間から、あるいは終業時刻を超えて労働した場合は、その時間も労働時間となります。

労働時間に関しては、原則として1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならないことが労働基準法32条に定められています。
この時間を「法定労働時間」といいます。法定労働時間には休憩時間は含みません。

法定労働時間に対して、就業規則等で会社が定めた始業時刻から終業時刻までの時間から、休憩時間を差し引いた時間を「所定労働時間」といいます。

また、会社は、労働基準法34条に基づき、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与える必要があります。

休憩時間は労働者が労働から離れた状態が保証されていなければなりません。よって、もし従業員が、電話に出なければならない、来客の対応をしなければならないといった状態になった場合は、会社は別途休憩時間を与えなければなりません。

冒頭で述べた会社の責務ですが、単に1日に何時間働いているということを把握するだけでは足りません。

タイムカードを利用するなどの方法によって始業・終業時刻を確認・記録し、それらをもとに何時間働いているのかを把握するようにしましょう。

2. 休日と休暇の違い・有給休暇の取得義務

(1)休日と休暇の違い

上記の1.労働時間と労働時間管理 で、会社は原則として従業員に法定労働時間を超えて働かせてはならないことや、労働時間によって一定の休憩時間を与えなければならないことをご説明しました。

この他にも、会社には従業員に休日を与える義務があります。この休日とは、よく耳にする休暇とは何が違うのでしょうか。

休日とは、元から労働義務のない日のことを指します。
会社は、労働基準法35条に基づき、従業員に毎週少なくとも1日、あるいは、4週を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
この休日を「法定休日」といいます。法定休日は会社で自由に決めることができるので、就業規則等で「何曜日を法定休日にする」と特定する必要はありませんが、決まっている場合は就業規則等に記載しておくほうが望ましいです。

業務の関係で休日労働の可能性がある場合、法定休日に労働させると割増賃金(割増賃金については、次の記事でご説明します。)が発生するので、法定休日を特定しないほうが良いかもしれません。
また、会社は就業規則等で休日を任意に定めることができ、これを「法定外休日(所定休日)」といいます。

多くの会社では、法定休日のほかに、法定外休日(所定休日)を定めています。これは、1日の所定労働時間が8時間の場合に、休日が週に1日しかないとすると、前述した1週40時間の法定労働時間を超えてしまうためです。

これに対し、休暇とは、従業員の労働義務が免除された日のことを指します。「育児休暇」や「介護休暇」など法律に定められている休暇を「法定休暇」と呼びます。

法定休暇は付与する義務が法律で定められているので、労働者から請求をされた場合は必ず付与しなければなりません。
そして、「夏季休暇」や「リフレッシュ休暇」など会社が就業規則等で任意に定めることができる休暇を「法定外休暇」と呼びます。

つまり、「休日」と「休暇」の違いは、もともと労働義務がない日であるか、もともと労働義務はあったがその義務を免除された日であるかという点にあります。

(2)年次有給休暇の取得義務

ここで、(1)休日と休暇の違いで出てきた「年次有給休暇」についてより詳しくご紹介します。

年次有給休暇とは、一定期間勤続した従業員に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために付与される、取得しても賃金が減額されない休暇のことです。

従業員が、①入社日から6か月継続して勤務し、②その期間の全労働日の8割以上出勤しているという2点を満たしていれば、10日間の年次有給休暇を付与しなければなりません。

勤続期間 6か月 1年6か月 2年6か月 3年6か月 4年6か月 5年6か月 6年6か月以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

ただし、パートタイマーなど所定労働時間が少ない(所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下である)従業員については、所定労働時間に応じて比例付与されます。

週所定労働日数 1年間の所定労働日数 勤続期間
6か月 1年6か月 2年6か月 3年6か月 4年6か月 5年6か月 6年6か月以上
4日 169日~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

年次有給休暇は、従業員が請求する時季に与える必要があります。
年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に変更でき、これを時季変更権といいます。

ただし、単に忙しいから、という理由だけでは足りず、その日にその従業員が勤務しなければ会社が損害を被るといったほどの理由でなければ認められません。

つまり、原則として年次有給休暇をいつ取得するかは従業員が決めます。しかし、同僚に気を遣ってしまったり、上司に言いだし辛かったりして年次有給休暇の取得をためらっているという話をよく耳にしませんか?そういった背景から、年次有給休暇の取得率は低調です。

上記のような現状を踏まえ、2019年4月から、全ての会社は、年次有給休暇が10日以上付与される従業員(管理監督者を含む)に、年5日の年次有給休暇を取得させる義務があります。

つまり、パートタイマーやアルバイトでも、付与日数が10日以上であれば、その対象となるということです。

会社は、従業員ごとに、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。

この時季の指定ですが、面談や取得計画表など任意の方法によって従業員の意見を聴取し、できる限り従業員の希望に沿うように努める必要があります。

もし、既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している従業員がいる場合には、時季の指定をする必要はありません。

これに伴い、会社は、従業員ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する義務があります。また、休暇に関することは、就業規則に必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」です。

計画的に年次有給休暇を付与するなどの仕組みによらず、年次有給休暇の時期指定を行う場合は、その対象となる従業員の範囲や指定方法等について、就業規則に記載する義務があります。

最後に、もし、「年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合」や、「会社による時季指定を行う場合において、就業規則に記載がない場合」には、30万円以下の罰金が科されますので注意してください。

3. まとめ

残業時間や休日出勤が増えると、精神的にも肉体的にも悪影響があります。
日々の仕事を効率化し、仕事以外では心身をリフレッシュさせるために、社内での労働時間や休日・休暇の管理について再度確認しましょう。

見直しているうちに、今のままで大丈夫かな?など不安や疑問に思うことがあれば、すぐに社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

 

1 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 52
WEB予約 KOMODA LAW OFFICE総合サイト
事務所からのお知らせ YouTube Facebook
弁護士法人サイト 弁護士×司法書士×税理士 ワンストップ遺産相続 弁護士法人菰田総合法律事務所 福岡弁護士による離婚相談所