弁護士コラム

2019.04.26

【相談事例43】4月1日生まれは早生まれなのはなぜ?

【相談内容】

私の息子は4月2日が誕生日で6歳になりました。
来年から小学校に通うことになるのですが、息子より1日早く4月1日に生まれたお友達は、今年から小学校に通うので、学年が違ってしまい少しかわいそうです。

気になったのですが、どうして4月1日生まれと4月2日生まれで学年が変わってしまうのでしょうか。
どうして3月31日と4月1日というような、ちょうどよいところで区切っていないのでしょうか。

【弁護士からの回答】

4月に入り、お子さんが小学校に入学される方も多いと思います。
今回は法的なトラブルに関するものでなく、豆知識といった内容にはなりますが、4月1日生まれのお子さんが早生まれになる理由についてご説明させていただきます。

1.小学校へ進学するのはいつから?

学校教育法22条では、保護者は、子どもが「満6才に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから」小学校へ通わせる義務があると規定しています。

そして、学校教育法施行規則では、「小学校の学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終る。」と規定されております。上記各規程だけを見てもどういったことになるのかについては分かりづらいと思いますが、簡潔にいうと、「満6歳になった日の次の日以降で最初に来る4月1日」に小学校に進学することになります。

この内容だけ素直に読むと、4月1日生まれの子は、4月1日に満6歳になるのだから、その次の日(4月2日)以降で最初に来る4月1日は翌年の4月1日になり、4月1日生まれの子は早生まれにならないのではないかとも思われるのですが、実際はそうではありません。

2.人はいつ年を取るのか?

人がいつ年を取るのかについてですが、それに関して規定している法律があります。

年齢計算ニ関スル法律という明治時代に制定された法律に規定されており、年齢については生まれた時間にかかわらず、生まれた日を1日目として起算するとされています。

また、上記法律で準用されている民法143条2項により、出生日(起算日)に応答する前日をもって満了することになります。

簡単な言葉で言うと、年を取るタイミングは、生まれた日ではなく、「生まれた日の前日の午後(夜)12時」となります。

午後12時は、翌日の午前0時と時刻的には同じですが、すくなくとも年を取る瞬間は、厳密には、誕生日の前日ということになります。

話はそれますが、うるう年の2月29日生まれの人はよく4年に1度しか年を取らないなどと冗談で言うことはありますが、法律上は、誕生日の前日(2月28日)の午後12時に年を取っていることになります。

3.日本で一番多い誕生日は4月2日??

上記の年を取るタイミングを進学するタイミングに当てはめると、4月1日生まれの人が年を取るタイミング、すなわち満6歳になるタイミングは、3月31日の午後12時ということになります。

そして、小学校に進学するタイミングは、満6歳になった日(3月31日)の翌日以降で最初に来る4月1日であり、「以降」とはその日も含まれますので、4月1日生まれの子は早生まれとなり、4月2日生まれの子よりも1年早く小学校に進学することになります。

厚生労働省の統計では、1985年から2015年までの間では4月2日が誕生日である人が日本では1番多いとされています。

これは、本当は3月末や4月1日に出産した人であってもお医者さんなどが気を利かせ、4月2日生まれとする出生証明書等を出して、4月2日生まれとして出生届を出すことが多いからではないかと言われています。

進学については年齢という一律の基準により判断すべきという点は原則ではありますが、個人的には、同じ年齢であってもお子さんの成熟や個性は様々であるため、進学に関しても柔軟に対応することができる仕組みを考えてもよいのではないかなと感じております。

 

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2019.04.26

【相談事例42】子どもの不法行為で親が賠償責任を?

【相談内容】

子どもがこの春から小学校に進学します。
新しい環境で頑張ってほしいと思っているのですが、子どもが他のお子さんをケガさせたり、物を壊してしまったりしたときには親が賠償責任を負わなければならないと聞きました。本当でしょうか。何か対策はないでしょうか。

【弁護士からの回答】

未成年の不法行為と親の賠償責任については、以前迷惑動画の投稿に関するコラムの中でも少し書かせていただきましたが、4月からお子さんが小学校に進学するかたもいらっしゃると思いますので、改めてご説明させていただきます。

お子さんの行為であっても、多額の賠償義務が発生する場合は少なくありませんので注意が必要です。

1. お子さんの行為で多額の賠償責任が発生

小学校に進学するとなると、お子さんの活動範囲も増えることに伴い、お子さんの行為がきっかけでさまざまなトラブルに発生する可能性は否定できません。

例えば、お子さんが自転車に乗るようになり、お子さんの不注意で自転車で歩行者に衝突し、歩行者が転倒し死亡してしまった場合には数千万円という多額の賠償義務が発生することなども珍しくありません。

2. 子どもの不法行為の賠償責任

では、お子さんが起こした不法行為については誰が賠償責任を負うのでしょうか。

民法712条では、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。」と規定しており、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(責任能力といいます。)がない場合には、不法行為責任を負わないとしています。

この責任能力の有無については、具体的なお子さんの状況などを考慮して事例ごとに判断されるものなのですが、おおむね11歳~12歳程度のお子さんであると責任能力がないと判断されるのが一般的です。

そして、責任能力がないと判断された場合の賠償義務については、民法714条1項に規定があり、

「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

と規定しており、未成年者を監督する法定の義務を負う者、すなわち通常の家庭であれば、親権者である両親が賠償責任を負うことになります。

714条1項ただし書きには、「監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき」には賠償義務を負わないとされており、従前、このただし書きの規定が適用される場面はほとんどなかったのですが、近年事例に即して、ただし書きが適用された最高裁判所の判例も出てきております。

3. 親としてできる対策は?

とはいえ、原則として責任無能力の未成年のお子さんが起こした不法行為については、親権者のご両親が賠償責任を負うことになります。
上記のとおりお子さんの行為であっても多額の賠償義務を負う可能性は少なくありません。

また、お子さんの自転車での事故については、自動車の任意保険の対象とはなりません。
そこで、親としてできる対策として、個人賠償責任保険に加入することをおすすめします。

個人賠償責任保険は、通常の医療保険や生命保険などにセットで特約として入れることができ、わずかな保険料で高額な賠償を補填することができるため、是非、個人賠償責任保険にも加入をご検討ください。

 

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2019.04.26

【離婚問題】子連れ離婚とお金の問題

子連れ離婚に限らず、離婚にはお金の問題が絡んできます。
離婚成立前の「婚姻費用」や成立後の「慰謝料」、「財産分与」という言葉を何となく耳にしたことがある人も多いかと思います。
今回はこの3つについて詳しく見ていきましょう。

1. 慰謝料

離婚とお金と聞くと、多くの方が「慰謝料」を思い浮かべるのではないでしょうか。
では、そもそも「慰謝料」とはどういうときにもらえるお金なのでしょう?

慰謝料とは、精神的被害に対する損害賠償のことで、その被害の度合いを金銭に換算し、賠償するものです。
離婚をすると慰謝料が必ずもらえると勘違いされていることもありますが、慰謝料が発生するのは、賠償をしてもらうだけの被害があったときだけですので、必ずしもすべての離婚案件で慰謝料が認められるわけではありません。

例えば、離婚原因が「性格や価値観の不一致」などに該当する場合は、ある程度お互い合意の上での離婚になりますので、損害賠償をもらうに値する原因にはならず、慰謝料請求は難しいと考えられます。

慰謝料請求というのは、法律論で言うところだと、不法行為に基づく損害賠償請求ですので、違法性がある場合にしか認められません。そのため、「性格や価値観の不一致」などではなかなか認められないのが一般的です。

では、具体的にどのような場合であれば慰謝料請求を行えるのでしょうか?
離婚の際の慰謝料が認められるものとしては、以下の4つが代表的です。

① 配偶者の不貞行為があった場合
② 悪意の遺棄があった場合
③ DVを受けた場合
④ モラルハラスメントを受けた場合

不貞行為や悪意の遺棄、DVは「認められる離婚理由と離婚方法・離婚後の手続きってどうなっているの?法定離婚事由」で述べている法的離婚事由にも該当しています。

モラルハラスメントは、相手に対して暴言を吐いたり、無視や過度な束縛を行ったりするなど、道徳を外れた行為で相手を精神的に追い詰めることをいい、精神的被害の程度によって慰謝料額が算定されます。

また、離婚が成立した後に元配偶者の不貞が発覚した場合など、離婚後であっても慰謝料請求を行うことは可能です。

ただし、離婚後の慰謝料請求には時効が存在しますので、該当する事由があったとしても慰謝料請求ができないケースもあります。
慰謝料の発生原因から3年が経過すると時効が完成し慰謝料を請求する権利が消滅してしまいますので、注意しておきましょう。

2. 婚姻費用

婚姻費用とは、夫婦の間で支払われる生活費のことで、夫婦双方の収入と未成年の子どもの人数などから算定されます。

「なんで離婚前提で別居してるのに、相手の生活費を払わないといけないの?」と思われる方も多いと思いますが、民法上、夫婦には収入の多い方がもう一方に生活費としてお金を渡すという扶養義務があり、この義務は婚姻関係が継続している限り果たさなければなりません。

民法第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

ですので、まだ離婚が成立する前であれば、たとえ別居中であっても、配偶者の生活費を分担しなければならないのです。

婚姻費用を受け取っていない場合は配偶者に対し請求ができますが、一つ注意をしておきたいのはその支払いの期間についてです。
婚姻費用の支払い義務は、請求をした日以降の分のみとなっているため、それ以前の婚姻費用については法的には支払わなくてもよいとされています。

ですので、過去にもらえるはずだった婚姻費用については、相手が任意で払ってくれなければ受け取ることは難しいといえます。

これは、裁判所での調停や審判でも同じことで、申し立てを行った時点より前の支払いが命じられることはほとんどありません。

慰謝料や次に説明する財産分与のようにさかのぼって請求することができないので、別居を始める前に取り決めて書面に残しておくとよいでしょう。

また、請求をしていたことを履歴として残しておいた方が良いでしょうから、婚姻費用を支払って欲しい旨の内容証明郵便などを早めに発送して記録化しておきましょう。

 

<婚姻費用と養育費>
配偶者と子どもの生活費である婚姻費用の支払い義務が生じるのは離婚前までです。
離婚が成立した段階で、婚姻費用は支払う必要がなくなりますが、新たに支払い義務が発生するものがあります。それが「養育費」です。

養育費は子どもの権利として認められており、離れて暮らす親にはこれを支払う義務があります。(なお、養育費はあくまで「子どものための」生活費ですので、元配偶者の生活費は含まれません。)

たとえ離婚で子どもと離れたとしても、親としての扶養義務は消えることはありません。
子どもの生活のためにも、離婚時は必ず養育費についても取り決めをし、万が一支払いが滞った場合に強制執行がかけられるよう、公正証書にしておくことが望ましいです。

 

3. 財産分与

財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、離婚の際に2人で分け合うことを言います。

民法第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。

財産分与は慰謝料とは異なり、離婚原因を作った側でも請求をすることができます。
また、離婚成立後でも請求は可能ですが、離婚後2年が経過した段階で時効にかかってしまうので、その点は注意が必要です。

では、具体的にどこまでが財産分与の対象となるのでしょうか?

夫婦が所有している財産は、大きく分けて以下の2種類があります。
① 共有財産・・・結婚後に二人で得た財産
② 特有財産・・・結婚前から互いが所有していた財産

このうち財産分与の対象となるのは共有財産で、以下のようなものが例として挙げられます。

(共有財産の例)
・預貯金
・自動車
・不動産
・家財道具
・生命保険・年金
・住宅ローン

「結婚後に2人の共同生活の中で」得たものは、基本的に共有財産に分類されます。
ですので、「貯金の大半は夫の稼ぎである」「住宅の名義も夫」という場合でも、これは妻の協力があっての財産であるため、共有財産として財産分与の対象になります。

ただし、住宅ローンなど夫婦が共同で作ったマイナスの財産についても共有財産として分与の対象になりますので、そこは注意が必要です。

反対に、結婚前からお互いに所有していた預貯金や親から受け継いだ財産など、一方が独自で形成した財産については夫婦が共同して築いたとはいえないので財産分与の対象にはなりません。
また、婚姻中に一方が個人的に抱えた借金に関しても同様です。

財産の分け方については、平等に1対1の割合で分与するのが一般的ですが、夫婦のどちらかのみが著しく財産を築いていた場合は、その貢献度を考慮した割合での分与になるケースもあります。

万が一、夫婦間で協議をしても話がまとまらなかった場合は、家庭裁判所を通して何をどこまで分与するかを決めることになりますが、調停や訴訟となるとご自身のみでの対応が難しくなってくる場面も多くみられます。

当事者間のみでの対応が厳しそうな場合は、早い段階で一度弁護士にご相談に行かれることをお勧めします。

4.まとめ

離婚とお金の問題は切っても切り離せません。
とりあえず離婚をしたいという点だけを優先させ、養育費や財産分与については取り決めをしていなかったことが原因で、後々揉めてしまうケースもあります。
難しい問題だからと先延ばしにせず、しっかり話し合ってから離婚を進めることが大切です。

2019.04.25

【相談事例41】警察官のコスプレは違法?~軽犯罪法違反について③~

【相談内容】

軽犯罪法では、列に割り込む行為なんてものも取り締まっているのですね。
そういえば、昨年、ハロウィンの時にコスプレをして街に行ったのですが、その際、警察官の人がいると思ったらよく見るとコスプレをした人でした。

本物の警察官と間違う人も多く、ふざけて取り締まりのような行為もしていたのですが問題ないのですか?

【弁護士からの回答】

これまで2回にかけて軽犯罪法違反の行為についてご説明させていただきましたが、今回も軽犯罪法違反に関する問題です。

近年ハロウィンでの大騒ぎなどがニュースなどで取り上げられ問題となっていますが、警察官のコスプレを行うことも問題点についてご説明させていただきます。

1. 官名詐称(軽犯罪法1条15号)

軽犯罪法1条15号では、「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者」処罰すると規定しています。

簡単にいうと、警察官等であると偽る行為や、警察官の制服やバッジや警察手帳等を偽造したりする行為は軽犯罪法違反になります。

2. 警察官のコスプレは違法か?

軽犯罪法にて、官名詐称が禁じられている理由は、警察官等の制服等について資格を持っていない人が着用し警察官になりすますことにより、警察官等一定の職業や資格に対しうる国民の信頼を損なうことにつながるため処罰対象となっています。

すなわち、警察官を装っている人が横行することにより、一般の人においてこの人が本当に警察官であるのかと疑い、助けを求められない場合や、国民の信頼が損なわれることにより、警察官の職務の遂行を妨げることになってしまうため、法律で行為を制限しています。

したがって、ご相談者様の事例のように精巧なコスプレにより一般の人から見て単なるコスプレとしての範疇を越えて、本物の警察官であると見間違うような場合であれば、軽犯罪法違反ということで処罰の対象にはなってしまいます。

特に、近年では、ハロウィンにより非常に多くの人が集団で集まり時には暴徒のように暴れてしまうことも少なくないときに、警察官と見間違うようなコスプレをしてしまうと、本物の警察官による騒動を抑える仕事も邪魔してしまう可能性が非常に高いため、くれぐれもそういったコスプレは控えた方が良いでしょう。

 

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2019.04.25

【相談事例40】こんな行為が犯罪に?~軽犯罪法違反について②~

【相談内容】

フェイク動画の投稿をしたとしてもそこまで重い犯罪になるわけではないのですね・・・
いろんな人に迷惑をかけているのですからもう少し厳重に処罰してもらいたい気がします。

それ以外に軽犯罪法だと、どのような罪が規定されているのですか?

【弁護士からの回答】

前回は、軽犯罪法についての総論的な説明と、虚偽申告の罪についてご説明させていただきました。
今回は、その他の軽犯罪法に規定されている犯罪についてご説明させていただきます。

前にもご説明しましたが、「こんな行為も犯罪に?」というような内容も規定されています。

1. 刃物等の携帯(1条2号)

「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」を処罰の対象にしています。
こうした凶器を正当な理由なく隠し持っている者は、その凶器を使用し何か別の犯罪を行う可能性があるため、予防法的な観点から処罰されています。

2. 浮浪の罪(1条4号)

「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」も処罰の対象になります。

要は、働けるにも関わらず、働かずにおり浮浪していると軽犯罪違反になってしまいます。

この犯罪で検挙されることはないのではと思っていたのですが、調べてみると、過去にこの罪で検挙された人自体はいるようです。

3. 行列割込み等の罪(1条13号)

条文は長いため省略しますが、公共の場所において、バスや、電車に乗るための列や切符を購入するための列に乱暴な態様や言動で割り込む行為は軽犯罪法違反になります。
電車でできるだけ座席に座りたいからと、並んでいる列に無理やり割り込む行為は軽犯罪法違反になる可能性があるので注意が必要です。

近年ではスマートフォンの普及により誰でも動画を撮影しネットに投稿することができる時代ですので、今後、割り込んだ人を撮影した人の投稿により検挙されるというケースが出てくるかもしれません。

4. 排せつ等の罪(1条27号)

「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」、すなわち、道に唾を吐く行為や、立ち小便をする行為は軽犯罪法違反になります。

この犯罪も、誰かがスマートフォンで撮影し、投稿する行為により検挙されるケースも増えてくるかもしれません。

5. 追随等の罪(1条28号)

「他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者」も処罰対象になります。

例えば、執拗にナンパ行為や声掛け行為をし続ける行為についてはこの犯罪が成立することになります。
なお、つきまとい行為が恋愛感情に基づくものであり、かつ程度もひどいものである場合には、この犯罪ではなく、ストーカー規制法の規制対象となります。

 

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2019.04.25

【相談事例39】フェイク動画の投稿は犯罪!~軽犯罪法違反について①~

【相談内容】

先日、人を殺害している現場を撮影したかのような迷惑動画を投稿していた人が、軽犯罪法違反により書類送検されたというニュースを目にしました。
迷惑動画を投稿すると、刑事処分を受けるというのは本当だったのですね。

少し気になったのが軽犯罪法違反というのはどういった罪になるのですか?あまり聞きなれない犯罪なので教えてください。

【弁護士からの回答】

先日、ニュースで殺人現場を装ったフェイク動画がアップロードされ、実際に警察が出動するなどしたなど社会的に問題となった事件で、動画をアップロードした人が書類送検されたとニュースを目にしました。

安易な気持ちでの迷惑動画の投稿がなされないために、こうした迷惑動画を投稿するときちんと検挙されるということが周知された点ではとても有意義であると感じています。

今回の迷惑動画の投稿では、軽犯罪法違反という罪で書類送検されていますが、軽犯罪法という犯罪については、あまり耳にされたことがない方も多いと思いますので、今回は軽犯罪法についてご説明させていただきます。

1. 軽犯罪法とは

軽犯罪法とは、日常生活の中で発生しうる比較的軽微な罪を規定した法律であり、1条の1号から34号までに列挙された罪(21号が削除されているため、33個あります)に違反した場合、拘留または科料に処すると規定されている犯罪です。

拘留とは30日未満の日数拘置所に収容される刑罰であり、科料とは1,000円以上1万円未満の金銭の支払いが求められる刑事罰であり、比較的軽微な犯罪について規定された犯罪であることが分かると思います。

この軽犯罪法ですが、制定されたのが昭和23年と非常に古い罪であるため、規定されている罪の中身として「こんな行為も対象になるのか」と驚くような内容も含まれています。

今回は、上記相談事例に該当する犯罪行為のみご説明しますが、次回以降、通常耳にしない珍しい犯罪行為の種類についてご説明させていただきます。

2. 虚偽申告の罪(16号)

軽犯罪法では「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」を処罰する旨規定しています。
今回書類送検された事件では、公務員(警察官)に対して直接犯罪の申告を行ったわけではありません。

しかし、報道等をみると、殺人フェイク動画を投稿した人は、動画を投稿した際広く他の人に拡散するよう求めていたとのことであり、公務員を含めて広く多数の人に虚偽の犯罪を申告したと認定しているのだと思います。

3. フェイク動画を抑止するには・・・

上記のように、虚偽の犯罪事実を投稿した場合には、単なる軽犯罪法違反という非常に軽微な犯罪しか成立しない状況であり、その行為による社会的影響の大きさや迷惑の程度に比してあまりにも罪が軽すぎるのではないかと考えています。

刑法や軽犯罪法は制定されたのが非常に古く、インターネットを介した迷惑動画やフェイク動画等の投稿などの犯罪行為を想定した法律が制定されていないのが現状です。

迷惑動画やフェイク動画の投稿により被る社会的影響や被害は多大なものであることから、厳重な罰則を設けた法律を制定することにより、迷惑動画を防止する必要があると考えています。

 

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2019.04.25

【相談事例38】合意をすればすべて有効?~契約(法律行為)の有効性について~

【相談内容】

平成32年という合意であっても無効になることは少ないようですね。
先日、妻の不貞相手との間で、慰謝料の和解をして、慰謝料として5,000万円支払うと相手も言っていたため、その旨の和解契約書を作成しました。
相手は学生で、到底払えきれないとは思うのですが、一度当事者で合意をした以上、問題ないですよね?

【弁護士からの回答】

前回は、契約(法律行為)の客観的有効性の要件のうち、内容の確定性についてご説明させていただきました。

今回は、内容の確定性以外の客観的有効性の要件についてご説明させていただきます。

1. 内容の「実現可能性」について

前回ご説明したとおり、契約が成立すると、契約の当事者には、契約内容にしたがった権利(債権)と義務(債務)が発生することになり、義務を履行することができない場合には、損害賠償をしなければならないリスクを背負うことになります。

したがって、契約の内容が実現することが不可能な契約の場合には、当事者間で合意をしたとしても、契約は無効となります。

例としては、既に消失してしまっている物の売買や、「3時間以内に月に行って帰ってくる」といったような、社会通念上実現不可能な契約(そもそもこんな契約を行うこと自体考えられませんが、分かりやすい例としてご説明しています。)についても無効となります。

2. 内容の「適法性」について

法律の中には、契約の当事者を保護するために、その規定に反する合意を行ったとしてもその合意が無効になる効力を有する規定があり、これを「強行規定」といいます。

強行規定の例としては、民法146条で「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。」と規定されており、時効の利益(消滅時効や取得時効により生ずる利益(債務の消滅や、物の所有権の取得など)をいいます。)については時効期間が満了する前に契約書等で時効の主張を行わないと定めていても、上記強行規定に反し無効ということになります。

3. 内容の「社会的妥当性」について

当事者がいかに合意していたとしても、公の秩序や善良な風俗(社会における一般的な倫理)に反し、社会的な妥当性を欠く法律行為(契約)については、公序良俗違反として民法90条によりとなるとされています。

例えば、「人を殺したら200万円支払う」といったような犯罪行為に関する契約や、愛人、妾の契約については、家族若しくは性道徳に反する契約として無効になります。

また、不当に高額な利息を付した契約や、莫大な賠償金などを設定するようないわゆる暴利行為に関しても、公序良俗違反として無効になるとされています。

ご相談者様の事例でも、不貞行為の慰謝料の金額がどの程度の金額になるかについては、不貞行為の内容や、不貞を行った人の経済能力などが考慮の対象となります。しかしながら、5000万円というあまりにも高額な金額について、学生が支払うことができ金額ではないことは誰がみても明らかであるため、示談書を作成していたとしても公序良俗に反し無効とされてしまう可能性が非常に高いでしょう。

ご相談者さまの事例については、あまりに極端な事例ですが、上記のような契約の有効性については意識しておかなければ、要件を満たしていない契約書を作成してしまう可能性は少なくないと思いますので、契約書等の合意書面を作成する際には、是非一度弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

 

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2019.04.25

【相談事例37】「平成32年」と書かれた契約書は有効?~内容の確定性について~

【相談内容】

ニュースで、新元号が発表されたのを見て、気になったことがあります。
私は、5年前(平成26年)に、ある人にお金を貸しており、その際借用書も作成しているのですが、返済期間として「平成26年9月~平成32年8月まで」と記載されています。

新しい年号に変わったことにより、「平成32年」というものが存在しなくなってしまったのですが、契約が無効になったりすることはないのでしょうか。

【弁護士からの回答】

平成31年4月1日に、新元号が「令和」になることが発表されました。これにより、「平成」は平成31年4月30日で終わり、翌日の5月1日からは、新元号の令和元年5月1日ということになります。

元号が変わること(「改元」といいます。)に伴い、ご相談者様の事例のように従前の元号で表記していた契約の有効性に影響を及ぼすのか否かについて、契約の有効性の要件の説明と併せてご説明させていただきます。

1. 契約(法律行為)の有効性

契約(法律行為)が有効であるための要件のひとつに、法律行為の客観的有効要件というものがあります。

契約が成立する場合には、その契約の内容にしたがった権利、義務が発生することになり、義務に反した場合には損害賠償などのリスクを負うことになります。
したがって、契約(法律行為)内容に関し、内容が確定しない場合や、実現できない場合にまで、権利を取得させたり、義務を負わせたりするべきではないと考えられています。

したがって、契約が成立するためには、契約内容に関する客観的有効要件を満たしている必要があります。
客観的に有効要件には、

①内容の「確定性」
②内容の「実現可能性」
③内容の「適法性」
④内容の「社会的妥当性」

の4つの要件があります。
そして、改元にともなって、存在しなくなった従前の元号による契約書の有効性の問題は、上記要件のうち①内容の「確定性」の問題であるため、内容の確定性の要件についてご説明させていただきます(他の要件については次回以降ご説明させていただきます。)

2. 内容の「確定性」とは

上記のとおり、契約が成立すると、契約内容に沿った義務を負うことになります。

したがって、契約が有効であるためには、契約の内容、すなわち、どのような権利を有し、どのような義務を負っているのかについて(契約の重要な部分)は確定していることが必要であり、内容を確定することができない契約は無効になります。

3. 「平成32年」とする契約は有効か

それでは、ご相談者様の事例のように「平成32年」という期限が設定されている契約は、確定性の要件を満たしているといえるのでしょうか。

確定性については、当事者の合意した内容を合理的に解釈することにより、内容が特定することができる場合でも満たされると解されています。

そして、平成32年を期限とする場合、当事者の意思として「平成という元号が続いている場合のみ有効とする」というような合意をしているということは通常考えられず、平成32年=西暦2020年を期限とするという合意をしていることは解釈上明らかです。

したがって、「平成32年」という期限を設定していたとしても、当事者において西暦2020年が期限であるという契約の内容は確定しているといえるため、内容の確定性の要件を満たしているといえます。

4. 改元にあたっての注意事項

このように、改元が発生した場合に、旧元号のままの書面を作成したとしても、契約の有効性については問題ないのですが、旧元号のまま契約書等を作成することで、相手方との間でトラブルが発生する可能性は否定できません。

したがって現時点で契約書や請求書等の文章を作成する際に5月1日以降に期限などが到来する場合には、新元号により記載するか、西暦を併記するなどして、内容に誤解を与えないよう工夫が必要です。

次回以降にもご説明させていただきますが、契約の有効要件を満たしているかについては意外にも専門的な知識が必要になってきます。

したがって、契約書の作成に際しては、弁護士にご相談いただいたほうがよいでしょう。

 

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2019.04.24

【不動産】マンションへの日照に関する売主等の説明義務

日当たりの良い部屋を探していたところ、南側の開けた部屋を見つけ、仲介業者からは「南側には新たにマンションが建築されることはない」という説明を受けたためその部屋を購入しました。

ところが、入居して暫く経った頃、購入時の説明に反して購入した部屋の南側にマンションが建築されてしまい、日照が妨げられてしまいました。こんな時、仲介業者に対して責任を追及することはできるのでしょうか?

このようなケースを考える場合には、

①日照に関する売主の説明義務

②仲介業者の説明義務、仲介業者の説明義務と売主の説明義務との関係

という2点を理解する必要があります。

1.売主の説明義務の根拠

(1)消費者契約法と説明義務

売主が宅地建物取引業者の場合は、宅地建物取引業法により売主である宅地建物取引業者に説明義務が課されています。

他方で、売主が宅地建物取引業者でない場合であっても、売主が事業者であり、かつ買主が消費者である場合には、当該契約は消費者契約として消費者契約法が適用され、売主に情報提供努力義務が課されます。

具体的には、消費者契約法3条1項は、事業者に対し、消費者契約の締結について勧誘する際には、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努力するように定められています。

これによって、売買契約が消費者契約に該当する場合は、そうでない場合に比べて、売主の説明義務がより重いものになっていると考えられます。

※その他下記の項目については、前回の記事「マンションからの眺望に関する売主の説明義務」にて解説しているため、そちらをご覧ください。

2.日照に関する売主の説明義務

(1)日照の利益に関する一般論

日照の利益は、主に南側隣接地の利用形態によって確保されるものです。

マンションの売主であるマンション所有者と南側隣接地の所有者が同一人であれば、マンション所有者の方で南側隣接地の利用方法に関与できますが、南側隣接地がマンション所有者とは別人の所有である場合、その土地の利用方法は他人の意思に委ねられるものであり、マンションの売主から、「日当たりが悪くなるから高い建物を建てないでほしい」といった要望を出すような形での関与することはできません。

そのため、このような場合は、日照の利益は売主の裁量によって確保できないため、原則として、マンションの売主には、その売買に際し、南側隣接地にどのような建築物が建てられる可能性があるのかや、その建築物がマンションにどのような影響を与えるかなどを調査し、その結果を買主側に正確に告知説明しなければならないという義務は課せられるものではないと一般的には解されています。

(2)判例

ア 説明義務違反が肯定された事例

① 東京地判H10.9.16

仲介業者の作成したチラシに「日照、環境良好」との記載があったこと、購入の際に仲介業者や売主の従業員らが買主に対して、マンションの隣地に建物の建設が既に予定されていたにも関わらず、マンションの住人の承諾が無ければ建物が建築されることは無く、日照も確保されるという説明をしていたところ、予定通りに隣地に建物が建設され日照が阻害されたという事案です。

裁判所は、仲介業者や売主の従業員による説明が結果的に虚偽であったと言わざるをえず、そのような説明をしたことは、本件マンションについて売買契約を締結しようとした買主に対する関係で、説明義務違反に該当すると評価せざるを得ないとしました。

イ 説明義務違反が否定された事例

①東京地判S49.1.25

南側隣接地が他人所有である場合に関するものです。上記2(1)の原則論の通り、裁判所は、南側隣接地の利用方法については、所有者である他人の意思に委ねられるものであって、マンションの売主が関与することができないものである以上、マンションの南側にどのような建物が建築されるのか、そして、その建築物がマンションにどういった影響を与えるかなどについて調査し、その結果を買い受け人側に誤りなく告知説明しなければならないという信義則上の義務は一般的に課せられているものとは解されないとしました。

3.まとめ

以上の通り、マンションにおける日照は、特に南側隣地の利用形態によって影響を受ける事柄であるため、売主側において南側隣地の利用計画等を逐一調査した上で買主に告知説明する義務まで負うような義務は課せられていません。

一方で、売主側が、特に良好な日照をセールスポイントにしていたり、南側隣地の所有者からその利用形態に関する説明を買主になしたりといったこと(例えば、隣地にこれから高層マンションを建設することが決まったため、日照が遮られることが予想されるといった事情)を要請されていたような場合や、売主側が買主側に対し虚偽の説明や誤解を招くような説明をなした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。

 

2019.04.24

【離婚問題】不貞と離婚~不倫がばれても離婚できる?~

芸能人の不倫のニュースが話題になったり、身近でも不倫が原因で離婚をしたという人の話を聞くことがあると思います。

不倫をされて離婚を決意するというケースはよく聞きますが、不倫した側から、交際相手と再婚したいなどの理由で離婚を申し出ることはできるのでしょうか。いわゆる不倫のことを法律用語で「不貞」といいます。今回は、不貞と離婚にまつわる問題についてご説明します。

1.離婚原因

日本では夫婦で話し合って離婚の合意をし、離婚届を提出する協議離婚が一般的です。しかし、どちらか一方が離婚に反対している場合や、慰謝料などの離婚条件をめぐって合意が成立しない場合には、家庭裁判所での離婚調停を経て、それでも決着がつかなければ離婚判決をもらって離婚するしかありません。

裁判離婚が認められるのは、法律上、次のいずれかに該当する場合に限られます(民法7701項)。

①配偶者に不貞な行為があったとき

②配偶者から悪意で遺棄されたとき

③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき

④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき

⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

このうち①の不貞とは、夫婦間の貞操義務に反すること、不倫のことです。したがって、婚姻中に配偶者以外の異性と性交渉をした場合は「不貞」にあたり、配偶者から離婚裁判を起こされ裁判所が不貞を認定すると、離婚判決が出されます。

なお、特定の異性とメールやSNSで親密なやりとりを行ったり、継続的に食事やデートに行く関係にあったとしても、性交渉に至っていない場合には「不貞」にはあたりません。

ただし場合によっては、この事実を知った配偶者がショックを受け、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する可能性はあります。

2.有責配偶者からの離婚請求

では反対に、不貞をした側から離婚を求めることはできるでしょうか。これは「有責配偶者からの離婚請求」と呼ばれる問題です。有責とは、夫婦関係が破綻するに至った原因を作り出した責任があるということです。

かつての最高裁判所は、有責配偶者からの離婚請求を認めてしまうと、相手配偶者は踏んだり蹴ったりであるという理由で離婚を認めませんでした(最判昭和27219日)。しかしその後最高裁判所は方針を変更して、一定の要件の下では有責配偶者からの離婚請求を認めるようになりました(最大判昭和6292日)。

一定の要件とは、

①別居期間が長期間に及ぶこと

②未成熟の子どもが存在しないこと

③離婚することによって配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態にならないこと

3要件です。

①は、5年程度以上の別居期間が必要とされるのが一般的です。したがって、再婚するために離婚判決を勝ち取るには、相当長い期間、配偶者と別居しておかなければなりません。

②の未成熟の子どもとは、未成年者という意味ではなく、まだ経済的に独立していない子どもを指します。ただし、未成熟の子どもがいても、有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。例えば、高校生の子どもがいても、3歳のときから一貫して妻が育て、夫は生活費の送金を続けてきたことから、未成熟の子どもがいることは離婚請求の妨げにならないとした判例があります(最判平成628日)。

③は、様々な事情が考慮されます。裁判例の中には、約13年間もの長期間別居しているにもかかわらず、有責配偶者からの離婚請求を認めなかったものがあります(東京高判平成91119日)。

この事案は、夫が不貞をして、妻とは約13年間も別居生活を続けていましたが、夫は月額約80万円の給料を得るなどの高額所得者でありながら、妻子(子は高校生と中学生)には少額を送金するのみで、やむを得ず妻が実家から援助を受けていたという事情がありました。

このような状況で離婚を認めてしまうと、ますます妻子の生活が苦しくなってしまうおそれがあることが考慮されています。

これらの3要件に照らしてみると、不貞を行った有責配偶者からの離婚請求が認められるのは、相当にハードルが高いことがわかります。

3.婚姻が破綻した後の不貞

一方、夫婦関係が破綻した後に不貞が行われた場合には、前述の考え方は当てはまらず、不貞を行った者からの離婚請求であっても離婚が認められます。なぜならこの場合は、不貞が原因となって夫婦関係が破綻したのではなく、ほかの理由で既に破綻しているからです。

とはいえ、早く離婚したいからといって自ら積極的に夫婦関係を破綻に至らせると(たとえば生活費を全く家に入れない、暴力をふるって妻を家から追い出すなど)、このこと自体が理由となって、不貞以外の理由で有責配偶者と認定されてしまい、離婚請求が認められないことになってしまいます。

どういう状態になれば夫婦関係の「破綻」といえるのでしょうか。これは一概には言えません。例えば夫婦仲が悪く口論ばかりしている、寝室が別々、性交渉がないという事情があってもこれだけではまだ破綻とは言えません。

夫婦関係が破綻したか否かは、離婚の意思が相当に固く、修復する気持ちが皆無であるといった内心の事情のほかに、ある程度の長期間別居しているといった外形的な事情を総合的に考慮して判断することになります。家庭内別居という夫婦もいますが、同じ屋根の下で生活している以上、それだけでは夫婦関係が破綻したとは言いにくいでしょう。

4.まとめ

裁判実務では、不貞を行った有責配偶者からの離婚請求はなかなか認められないのが実情です。しかし、不貞相手と再婚したい等、どうしても離婚したいと考える方も多いでしょう。その場合、有責配偶者としては、離婚裁判では敗訴してしまうリスクが高いので、裁判を回避しなければなりません。

つまり、できるだけ話合いで離婚するように、協議離婚または調停離婚で決着をつける必要があります。そのためには、高額の慰謝料や財産分与に関する相手方の要求をそのまま受け入れるといった厳しい選択を迫られることになるかもしれません。慎重に行動する必要があるでしょう。

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