弁護士コラム

2018.01.26

破産手続で免責不許可事由があっても破産できる?

破産手続で免責不許可事由があっても破産できる?

1 裁量免責制度

個人破産の場合、免責目的で申立てをすることがほとんどだと思いますが、免責不許可事由に該当する場合、申立てを諦めるしかないのでしょうか。
破産法では、様々な免責不許可事由を規定していますが(免責不許可事由の詳細は別記事に記載しているためそちらをご覧ください。)、あわせて裁量免責制度を設けており、免責不許可事由に該当しても裁判所の裁量により免責される余地を残しています。
それでは、どのような場合に裁量免責が認められるのでしょうか。破産法では、裁量免責をする場合の要件として、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」と規定しています。つまり、破産に至った一切の経緯を総合考慮するということですが、具体的にはどのような事情を考慮して決定しているのか、今回は裁判例をご紹介しながらみていきたいと思います。

2 過去の裁判例

<裁量免責が認められた事案>

【事案①】
破産者は、自宅購入費として3500万円全額を借入れた結果、収入の約半分を自宅取得に関する借金返済に充てざるを得ないことになり、破産を申し立てた事案です。
 裁判所は、購入当初から破産者夫婦の収入に照らして返済不能であることが容易に予想できたにもかかわらず、安易に高額な自宅を購入した行為について、免責不許可事由である「浪費」に該当すると判断しましたが、以下の事情を考慮して裁量免責としました。
*考慮された事情
・自宅の取得という目的は、それ自体正当なものであること
・金銭を費消した場合とは異なり、その時点では借入金に相当する資産(不動産)を保有するのであるから、自宅取得を一概に非難することはできないこと
・破産者の債務額が増大したのは、自宅維持のためであって汲むべき事情があること
・自宅の売却代金が一般債権者への返済に全く充てることができなかったのは、バブル経済崩壊という通常人が予想しえない事情により、自宅取得額よりも相当安価でしか任意売却ができなかったことによるものであること
・免責に対して異議申し立てをした債権者がいなかったこと
・生命保険解約金100万円を原資に任意配当を行い一応の誠意を示していること、
・破産者は交通事故の負傷により廃業せざるを得ず、高齢で健康状態もよくないこと、
・破産者は反省して更生の意欲を示していること
など

 

【事案②】
破産者(プロ野球選手)は、契約金1800万円と年俸440万円の収入がありましたが、そのほとんどは父親の債務弁済に充てられており、別途自己の債務として総額1437万円の負債があったため、破産申立てをした事案です。債務総額1437万円のうち、1069万円は4台の自動車を買い替えたことによる出費に基づく債務であったため、裁判所は、自動車の買替えは「浪費」に該当すると認定しましたが、以下の事情を考慮して裁量免責を認めました。
*考慮された事情
・破産者の債務状況が悪化したのは上記浪費の他、父親の債務弁済を強いられたり、退団を余儀なくされたことにも起因しており、一概に破産者ばかりを非難できないこと
・免責に対して異議申し立てをした債権者がいないこと
・破産者が若年で更生の見込みがあること
など

 

【事案③】
 破産者(銀行員)は、株式投資に失敗し、その損失補填のために3000万円以上を借り入れてさらに株式投資をしましたが失敗したため、破産を申し立てた事案です。
 裁判所は、当初の投資失敗の損失補填について、再度の投資ではなく銀行員としての収入に照らして堅実な返済を行うべきであって、投資のための借入れは「浪費」に該当すると認定した上、以下の事情を考慮して裁量免責を認めました。
*考慮された事情
・投資に走った当時、バブル経済の渦中にあり無理からぬ面があること
・投資が行き詰ったのは株の暴落が直接の原因であり、破産者のみを責められないこと、
・破産者は債務の弁済のために自宅を売却し、退職金も弁済に充てる等、誠実に返済の努力をしていること
・破産者は親戚等からの経済的援助を見込めない上、重度の身体障害者である母を扶養せざるを得ない立場にあること
など

 

<裁量免責が認められなかった事例>

【事案④】
ギャンブルや高額な飲食を原因とする借財で破産に至ったケース。
⇒免責不許可事由である「著しい射倖行為及び浪費」と認定した上、債務総額や、借りた後に返済の努力をしていないこと、無職であるにもかかわらず短期間で借り入れを重ねて多額の借財を負っている経緯を考慮し、裁量免責も否定しました。

3 小括

 以上のとおり、上記の裁判例に照らすと、裁量免責の際は以下の事情が判断要素とされているようです。
・債務を負担するに至った経緯
・返済できなくなった経緯
・借財時に返済不能の見通しを立てることができたかどうか
・免責について債権者が異議を述べているか
・総負債額
・返済の努力の有無・誠実性
・破産者の現在の生活状況、健康状況
・破産者の更生意欲・更生可能性
など

4 結語

 以上の通り、免責不許可事由に該当しても、破産に至った経緯につき、破産者のみを非難することが相当でない場合や、破産者の経済的更生の可能性や必要性等を総合考慮して裁量免責が認められています。結局は、破産免責という制度が誠実な債務者に対する経済的更生を保障する制度ですので、当該免責制度の趣旨に合致するのであれば、免責が認められます。
そのため、免責不許可事由に該当する方でも、すぐに諦めずに、破産の実務経験が豊富な弁護士に一度相談の上、手続の見通しを立てることをお勧めします。

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