弁護士コラム

2018.01.27

否認ってなぁに?

【Aさんの相談】

2年程前から会社の経営が傾き始め,今では負債が多額に上り,多数の債権者から督促を受けている状況です。最近では,弊社の信用悪化が噂になり,多数の債権者から取り立ての電話が激しくなり,一部の大口債権者からは,私の自宅を担保にいれるよう強く求められています。いずれ破産により自宅は手放すことになるので,取り立てを免れるために担保提供しようかと考えています。しかし,先日,破産を経験した知人から,「そのようなことをしてしまうと破産した時に否認され,後々面倒なことになるよ。」と忠告を受けました。破産手続きにおける否認とはどのような制度なのでしょうか。

1 否認とは?

否認とは,経済状況が悪化した状況下で行われた一定の取引について,その行為を取消し,逸失した破産者の財産を取り戻す制度です。破産状況下では,債務者の限られた財産を巡って債権者間の利害が対立するため,一部の強引な債権者が債務者に言い寄って,自分のみに弁済を強要したり,担保を提供させたり,適正価格よりも低い価格で売買をして債権を回収するなどの行為に出ることがあります。
そこで,破産法は,破産手続開始後は,破産者の財産処分権を管財人に移してそのような行為を防止し,破産手続開始前に行なわれた行為については,管財人に否認権という権利を認め,事後的に管財人が取り消すことができるという仕組みをとっています

2 否認請求の相手方は誰?

否認請求の相手方は,破産者との間で否認対象行為を行った相手方(受益者)と,受益者からの転得者です。但し,受益者と転得者は,原則として当該取引時に否認の原因があったこと,すなわち,破産者が破産状態にあり,そのような行為をすれば他の債権者を害することになることについて知っていることが必要です。なお,例外的に,否認対象行為が贈与等の無償行為やこれと同視されるような著しく廉価な有償行為等であれば,当該行為自体が破産者の財産を害する結果を招く危険が高いことが明白であるため,受益者や転得者の主観的要件は不要となります。

たとえば,X(破産者)がY(受益者)に対し,高級車を贈与し,Yが,Z(転得者)に当該高級車を売買していたとします。ここで,各取引時に,YもZもXが破産状態であることを知っていた場合には,Xの破産管財人は,YとZに対し,各行為を否認することができます。仮に,YはXの破産状態を知っていたものの,Zは知らなかった場合は,Yに対してのみ否認することがきでます。この場合,XY間の贈与契約のみが取り消されるため,YZ間の売買契約は有効のままとなります。

3 否認されるとどうなるの?

否認されると,破産者とその相手方との間で行われた行為が取り消されることになるため,契約当事者は,契約前の状況に戻す必要があります。そのため,2で上述した事案では,Yは破産管財人に対し,高級車が手元にない以上,高級車を戻すことはできませんが,価値代替物としてZに売買した際の売買代金を取得していますので,当該売買代金を破産管財人に返還しなければなりません。また,Zに対しては,高級車がZのもとにある状態であれば,高級車を返還しなければならず,既に転売して存在しない場合には,転売代金を返還することになります。

なお,否認対象行為の取引時に,受益者も破産者から何らかの反対給付を受けている場合には,受益者は破産者に対してその返還を求めることができます。例えば,前述の高級車の事案について,XY間の取引が贈与ではなく,廉価売買だった場合で,XY間の廉価売買が否認された場合,Yは管財人に対して取得した高級車又はその価値代替物を返還しなければなりませんが,同時にYは破産者に対し,廉価売買時に支払った売買代金について返還請求をする権利を有します。

4 期間制限

否認権は,破産手続開始の日から2年を経過した場合又は否認対象行為が行われた日から20年経過した場合は,時効により消滅します。否認権の行使がいつまでも認められると,受益者や転得者の利益を害するため,否認権の行使可能時期については制限が設けられています。

5 まとめ

 以上の通り,破産法では否認という制度を設け,破産者の財産逸失行為について厳格な規制をしています。否認は,既に終わった取引を事後的に取り消す結果となるため,取り消される側の債権者にも多大な迷惑をかける形になります。また,破産者自身も免責不許可事由に該当する可能性があります。
 破産手続がまだ正式に開始していないからと言って,債権者に言い寄られて不当な財産処分をしてしまうと,後々免責不許可になったり,債権者に迷惑をかける結果となりかねませんので,債権者から言い寄られた場合には,後々否認されてしまうからという理由を説明して毅然とした態度で断ることが重要です。しかし,これらの対応は,返済が滞っている債務者の立場で行うことは難しいことがほとんどですので,早期に弁護士に相談し,適切な対応をしてもらいましょう。

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