【離婚問題】夫が借金を抱えて蒸発しちゃった…。行方も分からないし離婚できないか?
「夫が消費者金融に手を出してしまって多額の借金を残したまま,蒸発してしまいました。もう5年経つのですが,離婚できないでしょうか?」法律事務所にはこのようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃいます。こういった場合に離婚できれば,母子家庭として社会給付上のメリットを増やすことも可能ですし,精神的にも離婚して心機一転,新たなスタートをきることも可能でしょう。そこで,今回は,こういった場合に離婚ができるかについてお話ししたいと思います。
1 どうやって離婚すればいいの?
離婚をしようとする場合においては,4つの方法があります。
まずは,協議離婚という方法を行うことになります。これは,当事者間での話し合いをいい,一般的な離婚のイメージがこれにあたります。そして,協議離婚がどうしてもできない場合には,調停離婚(裁判所を入れて当事者間で話し合いをします。)を行うことになります。これらの制度は話し合いによるものであるので,「離婚しよう」という合意ができるのであれば,どんな理由でも離婚することができます。たとえば,お互いの性格が気に食わないといった理由でも,宗教観が合わないといった理由でも離婚ができるのです。
しかし,今回のように行方不明になっている場合には,そもそも話し合いができませんから協議離婚や調停離婚はできません。
そうすると,判決離婚(裁判所に離婚できるかを決めてもらうものを言います)という手続によるしかありません(審判離婚という方法もありますが,実際に使われることはほぼないので省略します。)。
もっとも,通常であれば,裁判所に対して離婚を訴える場合は,離婚調停という裁判所での話し合いが通常は行われるのですが,当事者の一方が蒸発している場合には,そもそも配偶者が行方不明なのですから裁判所を介在させたとしても話し合いを行うことはできません。そこで,調停という手続を経ずに裁判所に訴訟を提起することになります。(通常は,「調停前置」といって,ひとまず調停を試み,それでもどうしても話し合いで離婚できないときに初めて訴訟を提起する決まりになっています。しかし,話し合いをするための相手方が見付からないのであれば,話し合いのしようがありませんので,調停は飛ばして訴訟提起することが認められます。)
そして,判決離婚においては,一方的に離婚することになるため,「離婚を命じられても仕方がない」といった事情がある場合に限って判決で離婚ができるようにしています。それでは,実際に法律がどのような離婚原因を規定しているか見て行きたいと思います。
民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
2 夫が借金を残して蒸発したことは離婚原因にあたるの?
では,今回のように夫が借金を残して蒸発してしまった場合は,上で見た離婚原因のどれにあたるのでしょうか。
配偶者が行方不明である場合に考えられるのは,①配偶者から悪意で遺棄されたとき,②配偶者の生死が3年以上明らかでないとき,③婚姻を継続し難い重大な事由があるとき,の3つの構成が考えられます。実際にどれを理由として主張するかについては,事案によって変わってきますが,失踪の年数などを考慮して決定することになると思います。
また,裁判所に対して訴えを提起する場合には,訴訟の相手となる人に対して訴状という書面に離婚原因を記載して送達することになります。しかし,当事者が蒸発している場合では,配偶者が行方不明であることから,裁判所の掲示板に相手方の氏名を掲示するという公示送達という手段によることになります。しかし,裁判所は,公示送達を簡単には認めません。裁判所は,相手方の知らない間に判決がでる公示送達という手続を極力避けようとしますので,公示送達を認めてもらうためには,相当念入りな調査が必要になります。この調査は当事者で行うことが極めて困難でしょうから,弁護士事務所を経由して調査会社などに依頼するのが適切でしょう。
3 まとめ
今回のように,配偶者が失踪してしまった場合には,経済的な支柱がなくなってしまっているのですから,実態に合わせた社会的な保護を受けたい,早く気持ちを切り替えたい,と考えるものだと思います。
ただ,蒸発を理由として離婚する場合には,①調停で裁判所に慣れる前にいきなり訴訟が始まってしまうこと,②公示送達が認められるには,様々なハードルがあり専門家でないと判断が難しい場面が多いこと,③蒸発からの年数によって失踪宣告を用いることもできるなど法的知識が必要になることから,弁護士に依頼することが望ましいといえます。
【離婚問題】セックスレスって離婚できるの?
性生活は,夫婦関係の重要な要素の一つといえます。そのため,男性女性を問わずセックスレスでお悩みの方は多くいらっしゃり,もはや社会問題といえる状態にあります。セックスレスによって,夫婦関係の悪化や浮気・不倫につながることも多いですが,性生活は法律の世界でも結婚の重要な要素と考えられています。今回は,そんな性生活と離婚についてお話ししたいと思います。
1 セックスレスってなあに?
まず,そもそもセックスレスという言葉を聞いたこと自体はあると思いますが,その内容まではあまりご存じではない方もいらっしゃると思います。
日本性科学会によれば,「セックスレス」とは「特別な事情がないにもかかわらず,カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上ないこと」を指します。これは,個人によって長いとみるか短いとみるか分かれるところでしょうが,ある程度期間を設定するとなると,この程度の期間が目安になるのでしょう。
2 セックスレスを理由として離婚できるの?
離婚をする場合においては,協議離婚(当事者間における話し合い),調停離婚(調停委員関与の下での当事者間での話し合い),判決離婚(裁判官が判決によって離婚の可否を決める手続)などの方法を用います。(なお,審判離婚という方法もあるのですが,実際に使われることはあまりないので省略します)。
協議や調停等,当事者間の話し合いによる離婚手続の場合は,どのような理由でも離婚することができるため,セックスレスを理由としても離婚することができます。
しかし,残念ながら,当事者同士の話し合いがまとまらない場合もあります。その場合,当事者の一方がどうしても離婚したいという場合は,訴訟を提起して離婚を求める形になります。このように判決によって離婚をする場合においては,公権力を使って無理やり離婚させることになるのですから,法律で定める離婚原因,すなわち,「離婚を命じられてもやむを得ない」といった事情がある場合に限り,離婚ができる制度となっています。
それでは,法律において,どのような離婚原因が定められているか見てみましょう。
民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
法はこれらの場合に,裁判によって離婚ができるとしていますが,セックスレスは①~④にあたらないことは明白だと思います。そのため,セックスレスが「婚姻を継続し難い重大な事由」であると認められることが必要になります。
3 実際にセックスレスを原因として裁判所で離婚できるの?
それでは,セックスレスを原因に裁判所に離婚を申し立てる人の割合はどのくらいなのでしょうか。「実際に悩んでいたとしても,セックスレスで裁判所に離婚を申し立てる人なんてあまりいないんじゃないの?」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし,そんなことはないんです。家庭裁判所に婚姻関係の事件を申し立てる際に記載する「動機」欄に「性的不調和」という項目がありますが,約10%がこの項目を選択しており,決して少なくない割合の人がセックスレスなどの「性的不調和」を理由のひとつとして,離婚を申し立てているのです。
もっとも,これだけでは実際に離婚ができるかは分かりませんね。なので,実際にセックスレスを理由として離婚が認められたケースを紹介したいと思います。
【福岡高判平5.3.18】
・夫がポルノ雑誌やビデオに興味を持ち,自慰行為に耽り,妻が性交を求めてもこれに応じず,妻との性交が入籍後5か月で2,3回程度と極端に少なく,それ以降約1年4か月間は全く性交に応じなかった事案において,裁判所は,正常な夫婦の性生活からすると異常というほかはなく,指摘されても改めていないこと,夫は妻への愛情を喪失し,婚姻生活を継続する意思が全くないこと等の事情から「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断しました。
【名古屋地裁昭和47.2.29】
・夫が同性愛に陥り,長年妻との間で性交を行っていなかったという事案において,裁判所は,性生活は婚姻生活における重大な要因の一つであって,数年間にわたり夫との間の正常な性生活から遠ざけられていることや,妻が夫の同性愛関係を知ったことによって受けた衝撃の大きさを考えると,夫婦相互の努力によって正常な婚姻関係を取り戻すことは不可能と認められるとして,「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断しました。
先程お話ししたように,日本性科学会の定義によれば,合意の上での性交が1ヶ月程度無ければセックスレスにあたるとされています。しかし,裁判所において,セックスレスが離婚の原因として考慮されるためには1ヶ月では短く,だいたい「1年」程度の期間が必要とされています。
そして,セックスレスもただそれだけで直ちに離婚原因となるわけではなく,一方的な性交拒否が愛情の喪失・不存在を示すような場合や性交不能を婚姻前に知っていたにもかかわらず告げなかったような場合に,離婚原因があると判断される傾向があるようです。
なお,セックスレスではないですがこれに類する問題として,昼夜を問わず性交渉が強要されるなど,通常と比べて著しく強い性欲がある異常性欲の場合も,離婚原因となりえます。
4 まとめ
セックスレスが原因で離婚が認められるケースというものも多数存在しています。性の問題はなかなか口にしにくいですが,埋めがたい溝ができる前に,相手の意向を尊重しながら夫婦間でしっかり話し合うことが大切です。どうしても解決できそうにない場合には,弁護士に相談することもいいかもしれません。相談にあたっては,プライバシーの核心にあたるような問題ですので,異性には話しにくいことがあるかもしれません。また,同種事案について経験の浅い弁護士ですと対応に困る場面が生じる可能性があります。
そのため,同種事案について経験が豊富であり,同性の弁護士がいる弁護士事務所にご相談されることをお勧めいたします。
【離婚問題】夫が風俗に通っていた場合に離婚できないか?
「夫のスーツから風俗店の名刺が出てきた!風俗店に行ったのではないか?」こんなことがあれば心配になるのも当然です。本当に夫が風俗に行っているとしたら女性としては「汚い…」「離婚したい」と感じ場合もあるでしょう。今回は,夫が風俗通いをしているときに離婚できないかについてお話ししたいと思います。
1 どんなときに離婚できるの?
離婚をしようとする場合には,協議離婚(夫婦での話し合いを行う。一般的な離婚のイメージです。),調停離婚(裁判所が間に入って話し合いを行います。),裁判離婚(裁判所が離婚を認めるか判断します。)などの方法をとることになります(審判離婚という方法もありますが,実際に使われることはあまりないので省略します。)。
協議や調停といった方法で「離婚しよう」という合意ができるのであれば,どんな理由でも離婚することができます。そのため,夫さえ納得すれば風俗に通ったことを理由として離婚ができます。
しかし,協議や調停で離婚の合意ができない場合,それでも離婚したいときは,裁判によって離婚できないかを検討することになります。このように裁判で離婚しようとする場合は,離婚したい人と離婚したくない人を国家が強制的に離婚させる訳ですから,その夫婦に「離婚を命じられても仕方ない」という事情がある場合に限って,裁判で離婚を命じることができるようになっています。
では,実際に法律がどのような離婚原因を定めているか見てみましょう。
民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
今回では,①「不貞行為」にあたりそうですね。それでは,風俗店に通っていることが「不貞行為」にあたるかについて詳しく検討してみましょう(本来は,もっと依頼者から事情を伺った上で,様々な事情を考慮して検討するものです。そして,①「不貞行為」に該当しなかったとしても,⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性もあると思います。)。
2 不貞行為にあたるか?
「不貞行為」という言葉は,法律家でもない限り,日常生活で聞くことはあまりないと思います。「不貞行為」を簡単にいうと日常用語で言うところの「浮気」と同じような意味と思っていただいて構いません。そのため,今回のように「浮気じゃないのか?」ということが問題となっている場合には,「不貞行為」といえるかを最初に検討することになります。
日本では,一夫一婦制の下,夫婦は相互に貞操義務(夫婦以外の他人と性的関係を持って行葉いけないという義務ですね。)を負っており,「不貞行為」を行うことは,貞操義務に違反することになり,相互の信頼関係を破壊することになってしまうので離婚原因とされています。そのため,「不貞行為」とは,貞操義務に違反すること,すなわち配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいいます。
では,結局のところ,「不貞行為」とは何を指しているのでしょうか?
この点について,裁判所は「不貞行為」を明確に定義しておりません。そのため,性交渉を行うと不貞行為なのか,性的類似行為でも不貞行為なのか判然とはしません。しかし,過去の裁判例において「不貞行為」と明確に認められ,離婚が成立した事案は性交渉が行われた事案に限定されております。したがって,「不貞行為」という言葉の定義がどうかという問題ではなく,裁判所は実際に性交渉を行わないと,なかなか離婚まで認めない傾向にあることは確かです。(離婚を認めるかどうかと,慰謝料を認めるかどうかは別次元の問題なので,性的類似行為だったとしても慰謝料が認められることには争いがないでしょう。)
そうなると,風俗に通っていたことで慰謝料が発生することは当然として,「不貞行為」に該当するとして離婚まで認められるかは,少し厳しいと言わざるを得ません。その風俗店で,女性と性交渉を行ったことが立証されれば別問題ですが。
これに対して,夫は,仮に風俗店で性交をしていることを認めたとしても,かなり虫のいい話ですが,①「本気じゃないから不貞行為ではない」,②「1回だけしか性交渉をしていない」といったように反論してくることがあります。
3 夫の反論は認められるのでしょうか?
では,これらの反論は認められるでしょうか?
(1) ①本気じゃないと不貞行為ではないのか?
かなり虫のいい話だと思いますが,①「本気じゃないから不貞行為ではない」との反論がされることが訴訟ではたまにあります。
これについては当然ですが,夫の言うように本気じゃないとしてもその意思に基づいて性交渉をしている以上,不貞行為になると判断されることが多いです。本気かどうかが問題なのではなく,実際に性交渉をしたかどうかが問題になっているからです。
(2) ②1度だけでも不貞行為にあたり離婚しなければならないの?
また,②「1回だけしか性交渉をしていない」といっても,もちろん認められないことの方が多いと思います。
前でも述べたように,「不貞行為」とは,配偶者以外の者と性的関係を持つことをいうとされていますので,回数に関係なく,すなわち1度だけの性交渉でも「不貞行為」といえるからです。
もっとも,裁判所が必ずしも離婚を認めるかというとそうではありません。民法770条2項は,裁判所は,770条1号(不貞行為)に該当する事実があったとしても,「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。」としており,不貞行為がある場合でも離婚請求を棄却する余地を残しています。したがって,今回の夫の反論のように,本気ではなく,一度だけしか性交渉をしていないということが事実である場合,それに加えて,その後の夫の行動(夫婦関係の修復に努めているか)や妻の対応等を総合考慮し,夫婦相互の信頼関係が致命的に破壊されたとまではいうことができないと判断された場合には,離婚請求が棄却される可能性があります。そのため,夫が風俗店で性交渉をしたことが判明したとしても,裁判での離婚が認められないと判断されることも可能性としてはあり得るところでしょう。
4 まとめ
以上のとおり,夫が風俗店に通ったという理由で離婚を請求するには,風俗に通ったことを「不貞行為」として主張したり,「婚姻を継続し難い重大な事由」として主張する形になりますが,いずれにしても,夫が「性交渉はなかった」等と反論して認めない場合には,性交渉があったことをうかがわせる証拠を収集して立証しなければなりません。しかし,不貞行為は,密室での行動であることが多く,証拠を掴むことは難しいため,場合によっては探偵を頼まなければ証拠を掴めない場合もあります。ただ,探偵費用はかなり高額ですので,探偵を依頼できない人の方が多いでしょう。その場合は,メールやLINEの履歴,携帯の画像を証拠として保存したり,密会の場所,時間帯,頻度等から性的関係をうかがわせる事情がどれだけあるか等を積み重ねて主張立証していくことになります。
結局のところ,風俗であることはあまり関係がありません。いくら風俗が適法なお店であるからといって,一般女性と性的関係を持つことと,お金を払って風俗で性的関係を持つことは,同じく性的関係を持っている以上,区別する理由はありません。
以上の通り,どのような事実をどの程度主張すれば「不貞行為」や「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかについては,法的判断になりますので,この分野を多数取り扱っている専門弁護士にご相談されるのがよいでしょう。お悩みの際には,経験豊かな弁護士にご相談するようにしてください。
【離婚問題】夫に彼氏がいた!?同性同士でも浮気になるの?
「夫が浮気をしていた、しかもその相手が男性だった。」こんな相談者が稀にいらっしゃいます。夫が浮気をしていただけでもショックなのに、今まで人生のパートナーと見ていた相手が同性愛者だったということで、極めて大きなショックを受けて、どうすれば良いのか分からないといった方に出会います。それだけのショックを受けて当たり前でしょう。
では、夫が浮気をした相手が男性だとしても,離婚することはできるのでしょうか。今回は,同性同士の浮気でも「不貞行為」になってしまい、離婚しないといけないのかという問題についてお話ししたいと思います。
1 どんなときに離婚できるの?
離婚をしようとする場合においては,4つの方法があります。
まずは,協議離婚という方法があります。これは,一般的な離婚のイメージと同じであって当事者間での話し合いを言います。
協議離婚がどうしてもできない場合,調停離婚を行うことになります。これは,裁判所を入れて当事者間で話し合いをするという方法です。これらの2つの制度は話し合いによるものであるので,「離婚しよう」という合意が可能であれば,どんな理由でも離婚することが可能になります。
しかし、どうしても話し合いがまとまらない場合には、判決離婚(裁判所に離婚できるかを決めてもらうものを言います)という手続によるしかありません(審判離婚という方法もありますが,実際に使われることはほぼないので省略します。)。
判決離婚は,裁判所の力を使って離婚することになるため,「離婚を命じられてもやむを得ない」といった事情がある場合に限って可能であると言えます。それでは,実際に法律がどのようなときが「離婚を命じられてもやむを得ない」と考えているかを見てみましょう。
民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
今回では,①「不貞行為」にあたる可能性がありそうですね。それでは,まず同性との浮気が「不貞行為」にあたるかについて詳しく検討してみましょう(これだけの事実では難しいかもしれませんが,⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性もあります。)。
2 不貞行為ってなあに?
「不貞行為」という言葉は,普通聞くことはほぼないと思います。「不貞行為」を簡単にいうと日常用語における「浮気」と同じような意味と思っていただいて構いません。そのため,今回のように「浮気じゃないのか?」ということが問題となっている場合においては,「不貞行為」といえるかを最初に検討することになります。
日本では,一夫一妻制のもと夫婦は相互に貞操義務(浮気をしてはいけないという義務のことです)を負っており,「不貞行為」を行うことは,貞操義務に違反することになり、相互の信頼関係を破壊することになってしまうので離婚原因とされています。そのため,「不貞行為」とは,貞操義務に違反すること、つまり配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうとされています。
もっとも,性的関係とは何を意味しているのでしょうか?
この点について,裁判所は「性的関係」を性交に限定して解釈しています。そうだとすると,裁判所は,不貞行為とは異性間で起こるものであることを前提としていると考えられます。
よって,同性同士で性的な接触を行ったとしても「不貞行為」には該当しません。したがって,同性同士での浮気をしたことが「不貞行為」にあたるとして離婚することはできません。
3 じゃあ婚姻していても同性同士ならいくらでも浮気をもっていいの?
では,夫と離婚することはできないのでしょうか?
同性であるために「不貞行為」に該当しないとしても,妻以外の人と浮気をすることは、夫婦の本質的な要素である性的生活を破壊するに足りる行為であるといえるはずです。そのため,夫が同性の相手と性的関係をもったことが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断されれば、離婚をすることができます。
この点について,夫が婚姻前から同性愛を続けており,妻との間で性交渉を全く持とうとしなかったという事案について,性生活は婚姻生活における重大な要因の一つであって,妻がすでに,すでに数年間にわたり夫との間の正常な性生活から遠ざけられていることや,夫が同性愛者だと知って妻が受けた衝撃の大きさを考えると,妻・夫相互の努力によって正常な婚姻関係を取り戻すことはまず不可能と認められるということから,「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在すると判断して,妻からの離婚請求を認めた裁判例があります(名古屋地判昭和47年2月29日)。
この裁判例の判断に従えば,単に夫が同性の相手と性的関係をもったというだけでは「不貞行為」だけではなく,「婚姻を継続し難い重大な事由」にも該当しないと判断される可能性も十分にあると思われます。「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するか否かは,同性との浮気だけでなく,そのために妻との性行為がなされていないことなども考慮して判断されることになるでしょう。
4 まとめ
以上のような裁判例があることからすれば,同性愛行為を夫がした場合であっても,簡単には離婚できないといわざるをえないでしょう。しかし,異性とはいえ性的関係を持たれることは,精神的に大きなダメージを負うものであることは疑う余地がありません。離婚をしたいと考えることは当然ともいえるでしょう。
こういった場合でも同種事例について経験豊富な弁護士であれば的確な対応をできますので,お困りの方は同種事例について経験豊富な弁護士に一度,相談してみてください。
【離婚問題】夫の暴力に耐えられない…。弁護士が教えるDVと離婚
全国の警察が2015年に把握したドメスティック・バイオレンス(domestic violence;以下,DVといいます)被害は,6万3,141件と,過去最多を更新しました。事件として摘発されたのは,8,006件で,そのなかには殺人・殺人未遂が99件,傷害致死が2件もありました。また,ストーカー被害についても,約2万2000件にものぼりました。
社会的にDVが犯罪であることの認識が高まったことにより,相談件数が増えたこともあるのでしょうが,これだけの人数が配偶者等からの暴力に困っている現実があります。今回は,DV被害にあった場合の離婚と対応の方法についてお話ししたいと思います。
1 DVとは?
DVについて,明確な定義はありませんが,我が国では「配偶者や恋人など親密な関係にある,又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いようです。なお,ここでいう暴力には,身体的なものだけではなく,経済的なものや精神的なものも含まれます。
DVにおいて注意すべきは,何よりも自分の身の安全を確保することになります。DVの被害者が離婚を切り出すと,DV加害者は逆上して暴力をふるうというケースが多く,まずは別居の準備を最優先に行い,相手に気づかれないように細心の注意を払って準備を進める必要があります。なお,暴行の事実を証拠として残すため,暴行を受けた際には,怪我の状況を写真で保存しておくことや日記に記録しておくことなども有効です。
2 DVと離婚
(1)協議離婚
離婚の方法については,まずは協議離婚(当事者間での話し合いを言います。一般的な離婚のイメージがこれだと思います。)を検討することになりますが,他の離婚原因(例えば不貞行為等)と異なり,DV事案は,そもそも暴力を受けるおそれ等から話し合いができない場合がほとんどでしょう。ですので,離婚の話し合いを行うにしても,まずは別居して身の安全を確保し,親族や弁護士等の第三者を介入させて,話し合いを進めていく必要があるでしょう。
また,DV事案は,夫婦生活の中で既に上下関係が構築されており,ご本人では相手方と対等に話ができないケースがほとんどですので,離婚の話を持ちかけても全く話にならず,かえって暴言ばかり浴びせられ,精神的に追い込まれてしまうケースも多々あります。また,別居後も相手方が繰り返しメールや電話で脅迫してくることもあり,それが負担でせっかく別居したのにまた元に戻ることを選択してしまうケースもあります。
以上のとおり,DV被害者本人による離婚協議は精神的負担とリスクが大きく,相手と接触し続けている限り,なかなか関係を断ち切れない場合が多いため,早急に弁護士を立て,弁護士を窓口にして手続きを進める必要があります。また,別居のタイミングや,DVの証拠の収集方法,住民票の移動の問題等,様々な点が問題になりますので,DVで離婚をお考えの方は,早い段階から弁護士に相談した上,適切な助言の下,慎重に手続きを進めていくことをお勧めします。
(2)調停・裁判離婚
協議で解決できなかったときには,調停の手続きを経たうえで,判決による離婚を求めることになります。この場合,DVは「婚姻を継続し難い重大な事由」(770条1項5号)に該当して,判決によって離婚できる余地があります。なお,離婚できるかどうかは,DVの被害の程度や証拠の有無によりますので,正確な見通しを立てるためには専門家にご相談された方が良いでしょう。
また,DVの存在が証拠上認められ,DVが原因で離婚が認められた場合には,財産分与とは別に,慰謝料の請求も認められます。この場合の慰謝料は,被害の程度により数十万円のものもあれば数百万円に上るものもあります。もっとも,DV事案は客観的な証拠が残っていないことが多く,真実はDVがあるにもかかわらず,証拠がないため裁判所にDVを認めてもらえず,慰謝料も否定されるというケースが多々あります。
たとえば,たまに相談を受ける中で,「2年前に夫が酔って暴れてあざが残るほど殴られました!これってDVとして離婚原因になりますよね?」と聞かれたりしますが,よくよく話を聞いてみると,その時は病院に行っておらず,怪我の写真も一切残っておらず,現在は怪我も消えてしまっているという状態でした。これでは,残念ながら証拠がなく,相手方が「暴力など振るっていない」と主張してきたら証明できず,離婚原因として認定されません。このように,DVは,適切な証拠保全が必要になりますので,DVを理由とする離婚や慰謝料請求で勝訴するためには,証拠収集の方法から弁護士に相談して準備されることをお勧めします。
また,DVの場合,相手方に新しい住まいを知られないように配慮することがそれ以外の事件と比較しても重要となってきます。DVの加害者は,仮に離婚が成立したとしても,元妻に執着し,ストーカー化することがあるからです。最悪の事態を防ぐため,DV防止法というものが準備されていますので,以下では,この制度の概要を説明したいと思います。
3 DV被害者の保護
(1) 法的な手段
DVと言っても,その程度は事案により様々ですが,中には被害が深刻で,生命や身体への危害の恐れがひっ迫しているケースも有ります。その場合には,DV防止法に基づく保護命令の発令申立も検討する必要があります。この保護命令とは,配偶者からの身体への暴力を防ぐため,裁判所が,暴力を振るったあるいは生命又は身体に対する脅迫をした配偶者(相手方)に対し,被害者である配偶者に近寄らないよう命じる決定です。
この命令に違反した場合,相手方は刑事制裁の対象となります。
保護命令には,①本人への接近禁止命令,②子への接近禁止命令,③親族等への接近禁止命令,④退去命令,⑤電話等禁止命令,の5つがあります。相手方の行動によってどこまで申立てをするかを検討することになりますが,いずれも法的要件があるため,専門家に依頼された方が良いでしょう。
なお,保護命令の申立には原則として事前に警察等での相談が必要となります。警察等に相談した記録と申立書を裁判所に提出することで申立を行います。
(2) 相談先
DV被害に遭われた方の相談先としては,以下のようなものがあります。
・警察
・配偶者暴力相談支援センター
・一時保護施設(シェルター)
・法律事務所
・福祉事務所
なお,各機関によって対処できる内容が異なりますので,どこにいけばいいか,どのような手順で進めていいかが分からない場合は,まずは法律事務所でそのあたりを含めてアドバイスをもらった上で,手続きを進めていかれるのが良いでしょう。また,被害の程度によって,どこまで手続きを取る必要があるのかも変わってきますので(別居で足りるのか,シェルター利用が必要なのか,保護命令の申立てまで必要なのか等),DVに遭った際には,まずは1人で思い悩まず,いち早く相談機関に赴いて相談をするようにしましょう。
なお,最寄りの相談機関については,以下のURLに記載されている番号に電話をすることで教えてもらうことができます。
URLはこちら→(http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/)
4 まとめ
DVにあわれた場合は,法律事務所を含む各相談機関にすぐに相談したうえで,身の安全を確保することが第一です。ただ,DVを理由に離婚するにはDVの証拠も必要になりますので,身の安全を図りながらも,可能な限り証拠を収集できるとよいでしょう。
DVの場合,相手方と被害者の方とで任意の話し合いということは困難でしょうから,弁護士に依頼することが重要になってきます。もっとも,被害者の方は非常につらい思いをしており,その心に配慮するには知識だけではなく,経験を踏まえた細やかな配慮が必要となると思います。(女性弁護士を選ばれるのも一つの選択肢でしょう。)そのため,相談にあたっては,同種事案について経験豊富な弁護士を選ばれることをお勧め致します。
【離婚問題】浮気してしまったんですけど財産をもらうことは出来ないでしょうか?
「浮気相手が好きだから貴方と別れたい…。けど,財産もほしい。」こんなことを言われたら「浮気されたのに,なんで財産まで渡さないといけないんだ!」と思う方が多いと思います。このように思う夫の気持ちもわかります。では,浮気したことで離婚が認められるか,慰謝料が認められるか,という問題と,浮気してもなお財産分与が認められるかという問題は関係あるのでしょうか。そこで,今回は,浮気をした側からの財産分与が認められるかについてお話しさせて頂きたいと思います。
1 浮気をした側からの離婚請求って認められるの?
まず,前提として浮気をした側からの離婚請求は認められるのでしょうか?
浮気をした側からの離婚請求を自由に認めてしまっては,浮気された側としてはあまりに踏んだり蹴ったりではないでしょうか。
そこで,最高裁は,浮気をした側からの離婚請求について原則として認めず,①別居期間が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと,②夫婦の間に未成熟子が存在しないこと,③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情が無いことの3要件が認められる場合に限って,離婚を認めるとの判断を過去に示しました。もっとも,現在はこの3要件を緩和する傾向にあり,3要件のすべてを満たしていなくても離婚が認められることもあります。
このように浮気をされた側が離婚に同意しない場合においては,厳格な要件が存在していますが,浮気をされた側が離婚に同意した場合,3要件を満たしていなくとも離婚をすることも可能です。以下では,浮気をされた側が離婚に同意したことを前提として話を進めたいと思います。
2 浮気をした相手とも財産を分けないといけないの?
離婚自体については先程も申しましたように厳格な要件が存在していますが,財産分与については浮気をした側であっても請求することが可能な部分があります。
これは一見すると,違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし,財産分与は,①夫婦財産の清算的性格(清算的財産分与),②離婚後の扶養としての性格(扶養的財産分与),③精神的苦痛に対する慰謝料としての性格(慰謝料的財産分与)を持っています。そのため,浮気をした側からの財産分与請求であっても,これらの性格に照らして考えますと,①清算的財産分与については認められますが,②扶養的財産分与は認められない場合が多いと思われます。また,③慰謝料的財産分与は,浮気などの行為によって傷ついた心を癒すためのものですので,浮気をした側には当然認められません。これだけですと納得できないでしょうから,①清算的財産分与と②扶養的財産分与について少し詳しく見てみましょう。
(1) 清算的財産分与は何で認められるの?
清算的財産分与は,既に財産的持分として成立している部分の分与ですので,その請求が権利濫用として排斥すべき特段の事情のない限り,請求者の有責性の存否や程度は影響しません。つまり,清算的財産分与というのは二人で築いてきた財産を分けるものですから浮気をしたからといって築いてきた財産に変化はありませんので,財産を分けることが出来るのです。浮気をしたことで離婚の原因を作ったという点や浮気をしたことで慰謝料を支払わなくてはならないという点とは一線を画し,単に今まで協力して築いて来た財産を分けるだけの手続ですから,浮気とは関係がないものです。
(2) 扶養的財産分与は何で認められにくいの?
浮気した側からの扶養的財産分与請求は,公平等の観点から,否定若しくは減額すべきであると考えられています。つまり,浮気をした側が浮気をされた側に対して「今後の生活の面倒を見て!」と言えるとするとあまりに浮気された側に酷であり,公平に反していると考えられるので,請求を認めない方向に考えられているのです。実際,裁判所においても婚姻関係破綻の原因が専ら妻にあるときは,妻に対して扶助請求権を有しないと判断したものもあります。
3 財産分与と慰謝料請求は相殺できるの?
別途慰謝料を支払っているのであれば問題にならないのですが,慰謝料を支払っていないのでしたら夫婦の共有財産を清算した額から慰謝料額を差し引いた額を財産分与額として考えることになるでしょう。
審判例の中にも,財産分与には夫婦財産の清算,離婚後の扶養のほか,慰謝料としての性格をも有することから,財産分与において,夫婦の共有財産を清算した結果算定された額から慰謝料額を差し引いた額を財産分与額として定めたものもございます。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?浮気をした側は罪悪感から様々な請求を諦めてしまうことがよく見られます。たしかに浮気をして配偶者を傷つけたのですから慰謝料を支払い,誠意ある謝罪をすることは必要だと思います。
しかし,財産分与となると話は別です。財産分与は先程も申しましたように婚姻生活中に築いた財産を分けるという性質をも有するものですから,全部の財産をあげなければならないわけではありません。
もちろんいくらぐらい慰謝料を支払わなければならないのか,本当に財産分与をしてもらっていいのかなど不安なこともあるかと思います。ぜひ一度離婚事件に経験豊富な弁護士に相談してみることをお勧め致します。
【離婚問題】浮気をした側からの離婚請求は認められないの?
「別に好きな人が出来たから離婚したい」と思っても,あなたが浮気をしていたとすると,簡単に離婚できません。このように浮気をした側から離婚をしたいという話も決して少なくはありません。今回は浮気をしたとしても自分から離婚をするための方法があるのかということについてお話しさせて頂きたいと思います。
1 有責配偶者ってなあに?
まずは少し難しい話をさせてください。
先程から浮気をした側と言っておりますが,このような配偶者のことを法律的には,「有責配偶者」と言います。有責配偶者とは,自ら婚姻関係を破綻させる離婚原因を作った配偶者のことを言います。つまり,不貞行為(いわゆる浮気ですね)をした側,DVをした側のように離婚をする原因を作った人がこれにあたります。
2 有責配偶者からの離婚請求は認められるの?
たとえば,夫が妻に隠れて浮気をしたところ,浮気相手に夢中になってしまい浮気相手と結婚したいから妻と離婚したいという場合を想定してみましょう。この場合,有責配偶者である夫が妻に「浮気相手に本気になったから離婚してくれ」と言ったとしても認められるでしょうか?
こんなときに離婚を認めてしまっては,あまりに妻が踏んだり蹴ったりではないでしょうか。さすがに法もこのような我儘を許していません。
裁判所も同様で,有責配偶者からの離婚を原則として認めていません。
3 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合とは?
では,有責配偶者からの離婚請求はいかなる場合でも認められないのでしょうか。先程も述べたように,裁判所は「原則」は有責配偶者からの離婚請求を認めてはいないのですが,「例外」も認めています。
すなわち,最高裁は,「離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから,離婚請求は,正義・公平の観念,社会的倫理観に反するものであってはならないことは当然で…信義誠実の原則に照らしても容認され得るもの」でなければならないとしています。そのうえで,①別居期間が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと(別居期間),②未成熟の子がいないこと(未成熟子の不存在),③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと(特段の事情の不存在)の三つの要件を満たす場合には有責配偶者からの離婚請求も認められると判断しました。
それでは,それぞれの考慮要素について少し詳しく見て行きたいと思います。
(1) ①別居期間
まず,①別居期間について見てみましょう。
長期の別居は,破綻の程度が著しいことを示しています。一般に別居期間については,5~7年程度が認容の目安にされています。ただし,結局のところ,結婚してからの期間や同居の期間,同居中の関係性や家庭内別居の有無など,多種多様な事情を考慮するので,必ずしも一律な目安が提示できるわけではありません。
(2) ②未成熟子の不存在
次に,②未成熟子がいないことについてお話ししましょう。
未成熟子とは,未成年と同じ意味ではなく,経済的に独立して自己の生活費を獲得すべき者としていまだ社会的に期待されていない年齢にある者を言います。そのため,未成年でなく成人だとしても,子供が身体障害者であって働くことが困難な場合等は,未成熟子がいるとされます。
なお,高校2年生の子供がいるのですが,3歳の時から一貫して妻が育て,夫が生活費の送金を続けていた事案において,未成熟子がいるとしても,有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例もあり,未成熟子の有無は個別具体的な判断をされると考えられます。
(3) ③特段の事情の不存在
最後に,③離婚を認容することが著しく社会正義に反するという特段の事情についてお話しします。裁判所は,③特段の事情として,主に次のような事情を考慮しています。
・有責配偶者が,相応の生活費を負担してきたか
・評価できる内容の離婚給付の申出がなされているか
・離婚を拒否している側の生活,収入状況
・離婚の拒否が,報復・増悪などにすぎないものか,被告側が関係修復のために真摯かつ具体的な努力をしているか
その他の事情とも併せて考慮していますが,裁判所は,経済的な問題は財産分与や慰謝料で解決しようとしている傾向があります。
さて,今までお話しした①~③の内容を踏まえて裁判所が実際にどのような判断をしているかご説明したいと思います。
〈事案の紹介〉
同居期間8年間,別居期間22年間で両者の間に子供がいません。夫は別居約14年後に浮気相手と同棲を開始しており,浮気相手との間に子供がいます。夫は開業医をしており,妻は事業に失敗し現在は甲状腺腫瘍の治療中でした。なお,夫は妻の事業失敗による借金5000万円を肩代わりしたうえ,現在月20万円の生活費を送金しています。そして,財産分与によって妻に4000万円を与え,さらに終生月20万円の送金を申し出ています。
〈裁判所の判断〉
まず,裁判所は,①別居期間及び②未成熟子の不存在について述べています。すなわち,①夫婦の「別居期間は,…約22年に及び,同居期間(約8年)や双方の年齢(控訴人(夫)が60歳,被控訴人(妻)が58歳)と対比すれば,相当の長期間であ」り,②「両者の間には子がない」として,①②の要件を満たしていると判断しました。
そして,裁判所はこれに引き続いて③特段の事情があるかを検討しています。
「被控訴人(妻)は現在も甲状腺腫瘤の治療を受けており,控訴人(夫)を頼りにし控訴人との婚姻の継続を望んでいるが,…(今までの訴訟経過を通じて)控訴人(夫)の離婚意思の固いことを認識していること」,「被控訴人(妻)は資産として(複数の不動産の)持分2分の1を所有し,控訴人(夫)から…生命保険の保険金受取人を被控訴人(妻)とした保険証券の交付を受けていること」,「控訴人(夫)は,被控訴人(妻)に対し…生活費を送金してきており,今後も引続き…送金する意向であること」,「控訴人(夫)は被控訴人(妻)に対する離婚給付として(病院についての妻の持分)2分の1の譲渡代金,離婚慰謝料及び過去の未払生活費の合計金として4000万円を支払い,かつ離婚後の生活費として…終生月20万円を支払う旨提示し…ていること」などをあげ,「被控訴人(妻)が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が存するとは認められない」として,夫からの離婚請求を認めました。
かなり細かかったかと思いますが,裁判所はこのようにさまざまな事情を考慮して,有責配偶者からの離婚請求が認められるかを判断しているのです。
(4) 婚姻の破綻
もっとも,これらの事情が仮に認められそうだとしても,そもそもの前提として妻との間で「婚姻の破綻」が認められなければなりません。仮に婚姻が「破綻」していなければ,離婚は認められないことになります。
たとえば,別居期間が20年にわたっていたとしても,月に何度か家に帰り,妻の世話を受けていた事案において,裁判所は,婚姻関係の「破綻」を認めませんでした。他方で,26年の別居期間中23年は妻宅へ月1~2回帰宅して世話を受けていたが,妻との共同生活の意思を完全に喪失していたとして,婚姻関係の「破綻」を認定したものもあります。このように事案によりますがそもそも婚姻関係が「破綻」が認められないということも十分あり得ますので十分に注意して下さい。
4 まとめ
以上で見てきましたように,有責配偶者からの離婚請求は非常に認められにくいものであるのが現状です。
しかし,前でも述べたように必ずしも離婚できないわけではありませんし,仮に現時点で前述の要件を満たしていなくても年数さえ経てば要件を満たしてしまうことになります。そのため,離婚に応じる代わりに財産分与や慰謝料として調整するなど交渉の余地があると言えます。
有責配偶者であったとしても離婚をされたい場合,有責配偶者から離婚請求をされた場合のいずれであっても一度弁護士に相談をしてみてはいかがでしょうか?
【離婚問題】別居中の夫が「お金がない」と言って婚姻費用を支払ってくれない!
離婚の話し合いや裁判をする際,別居中の夫が婚姻費用を支払ってくれない,という状況が考えられます。このような場合,婚姻費用分担請求を行って,婚姻費用をきちんと支払ってもらうことを検討しましょう。そこで,今回は,婚姻費用分担請求を考えている方のため,婚姻費用の請求方法についてお話ししたいと思います。
1 婚姻費用ってなあに?
まずは,婚姻費用という言葉にはあまり聞き覚えはないと思いますので,婚姻費用とは何か,ということからお話ししたいと思います。
夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,「婚姻から生ずる費用」を分担しなければなりません。この「婚姻から生ずる費用」が婚姻費用と呼ばれています。この婚姻費用には,夫婦間の未成熟子の生活費を含み,具体的には衣食住費,医療費,教育費,相当の娯楽費などが含まれます。例えば,妻がショッピングモールで食材を買うことや洋服を買うことも婚姻費用に含まれます。
そして,婚姻費用の分担は,金銭による分担に限られる訳ではなく,家事・育児を担当するといった労働による分担も含まれます。そのため,専業主婦の場合,妻は家事・育児を担当し,夫は家計担当者である妻に金銭を渡すことが婚姻費用の分担になると考えられます。
もっとも,家事労働は「これだけの時間しなければならない」と定量化出来ませんので,家事労働の過不足を法律問題に出来ず,生活費の問題は夫の渡す金銭の額についてだけ生じることになります。
2 お金がなくても婚姻費用は支払わないといけないの?
では,専業主婦の妻は,夫の生活が苦しくても婚姻費用をもらうことが出来るのでしょうか?
まず,この話の前提として夫婦はどのようにお金を分担しないといけないかについてお話ししたいと思います。
夫婦間では,お互いを扶養することが,身分関係の本質であるとともに不可欠の要素ですので,自分の生活を切り詰めてでも自分と同程度の生活をさせる義務があると考えられています。これを生活保持義務と言います。もっとも,最低限度の生活をさらに切り詰めることまで要求されている訳ではありません。
そうだとすると,たとえ自分の生活が苦しいとしてもそれが最低限度の生活でなければ,自分の生活を切り詰めて別居中の妻にも同程度の生活が出来るだけの費用を送金しなければなりません。なお,離婚についての話し合いや裁判を行っている間も,婚姻関係が続いている限り,この婚姻費用の支払いはしなければなりません。つまり,夫婦の関係が如何に悪化しても,夫婦である間は,婚姻費用を支払う義務があるのです。
3 婚姻費用はどうやって請求すればいいの?
では,婚姻費用を支払ってもらえるとしても,夫にどうやって請求すればいいのでしょうか?
(1) まずは話し合い!
まずは,夫に婚姻費用を支払わなければならないことを告げて,話し合いをしてみましょう。とはいっても,夫が「お金がない」と言って拒んでいる現状からすれば,二人で話し合ってみても平行線で実効性に欠けるかもしれません。
(2) 話し合いがまとまらないと思ったら裁判所の力を借りよう
そこで,話し合いがまとまらないときには,婚姻費用の分担を求めて,調停(調停委員を介した当事者間の話し合いを言います。)又は審判(裁判所に判断を仰ぐ方法を言います。)を申し立てることが出来ます。
一般的には,夫が話し合いに応じ,任意に支払ってくれる余地があれば,まずは夫の住所地の家庭裁判所か,当事者双方が合意で定める家庭裁判所に対して,調停を申し立てることになります。
しかし,残念ながら調停がまとまらなかった場合,調停は当然に審判手続に移行し,裁判官が判断することになります。また,相手方が話し合いに応じない場合,調停に欠席する恐れがある場合など調停をする必要がないと思えば,いきなり審判を申し立てることもできます。
もっとも,当面の生活費を欠き,このような手続きをしている余裕がない場合もあると思います。この場合,妻は調停を申し立てた場合であれば,生活費の支払いを求める調停前の仮の措置を,審判を申し立てた場合であれば,生活費の仮払い等を命ずる審判前の保全処分を申し立てることになります。なお,生活費の支払いを命じる調停前の仮の措置には10万円以下の過料の制裁がありますが,必ずしも実効性があるものではありません。これに対して,審判前の保全処分は,執行力があり強力ですので,当面の生活費を欠いているような状況であれば,婚姻費用分担の審判を申し立てるとともに審判前の保全処分を申し立てることをお勧め致します。
4 まとめ
以上のように,婚姻費用の分担は,夫婦間の話し合いによってなされることが望ましいですが,どうしても夫が婚姻費用を負担してくれない場合,家庭裁判所に対して,調停や審判を申し立てることも可能です。
もっとも,夫婦間での話し合いだけでなく調停の場合でも,離婚までの別居期間が長ければ,婚姻費用の金額も高額になるため,慎重に判断する方が多いのですが,逆に離婚までの別居期間が短い場合,どうしても金額が低くなってしまい,慎重に判断しなくなってしまうことが多いように感じます。また,別居期間が短い場合であれば弁護士に依頼しても弁護士費用の方が高くなってしまい,「損」してしまうと感じてしまう方もいらっしゃると思います。
しかし,婚姻費用の金額は,子供の養育費との関係でも参考にされます。そのため,婚姻費用の段階で弁護士を入れておらずあまりに低い金額で合意をしてしまうと,後に養育費を決める際に低額化してしまい,結果的に大きな「損」をしてしまう恐れもあります。
そこで,自分が悩んでいる問題に潜在的な問題が含まれていないか一度弁護士に相談してみることをお勧め致します。
【離婚問題】別居中の夫が子供を連れ去った!子供を取り戻すためには?
離婚に際して子供の親権をどちらが持つかで熾烈な争いになることは珍しくありません。なかには,別居中の妻の下にいる子供を夫が幼稚園から連れ去ってしまうという例もあります。このように,子供をもう一人の親権者に連れ去らわれたときにどのような対応をすべきなのでしょうか?まずは話し合いという方法が思いつくことかと思いますが,このような状況になっている以上,話し合いでの解決は難しいでしょう。そこで,今回は,子供の引渡請求をするための方法をご紹介したいと思います。
1 どんな方法があるの?
話し合いで解決が出来そうにないときは,法律上の手続きを利用して子供の引渡しを求めることになります。
別居中の夫婦間において子供の引渡しを求める方法としては,①家事事件手続法による子の監護に関する処分としての子の引渡しを請求する方法,②人身保護法による方法,③未成年者略取又は誘拐罪による刑事告訴などがあります。
以下では,これらの方法について詳しくご紹介したいと思います。
2 ①家事事件手続法による子の引渡し請求
(1) 子の引渡しを求める家事審判、家事調停
子の引渡し請求は,家庭裁判所に対して家事審判の申立てをすることができます。この場合の管轄は,子の住所地を管轄する家庭裁判所とされています。なお,審判だけでなく調停(裁判所を入れた話し合い)を申し立てることも可能ですが,この方法を選択すると1ヶ月に一回のペースで話し合いを進めることになってしまい,迅速性に欠けることから,あまり選択することは多くないと言えます。
引渡しを認めるか否かにあたって家庭裁判所は,夫婦で養育をしていた当時の子供への妻と夫の関与の程度や内容,妻が子供を実家に連れ帰った理由や経緯,妻の実家での子供の養育状況,夫への子の引渡し及び夫と子との面接についての妻の意向・子供の意向(子の年齢が上がるにつれて子の意向が重視されることになります。),夫が引渡しを受けた場合に予定されている子の養育の方法,内容,離婚の可能性や離婚した場合の親権者としての適格性などといったものを総合考慮して,子供の引渡しを認めることが子供のためになるかどうかという観点から裁判官が決定することになります。そのため,家事審判の申立書では,この視点に沿う主張・立証を的確に行う必要があるので,専門家の協力が必要になってきます。
(2) 保全処分
子に差し迫った危険があるなど,現状を放置していたのでは調停や審判による解決を図ることが困難になるというような事情がある場合,併せて,仮に子の引渡しを命ずる審判前の保全処分の申立てをすることもできます。
(3) 子供の引渡しが認められたのに相手が従わなかったらどうするの?
家庭裁判所による審判や保全処分が出ても,相手方がその決定に従わない場合,一定の要件の下で直接強制(子供を奪った親の下に行って,子供を連れてくる方法を言います。)をすることが可能です。どのような場合に要件が備わっていると考えられるかは,子供の年齢が重視されており,小学校低学年程度の年齢であれば直接強制も可能であると判断される傾向にあるようです。
なお,親が子供を抱きかかえて離さないような場合は,間接強制と言って金銭を支払わせるという心理的圧迫を加えて履行させる方法によることになります。しかし,この方法には,金銭の支払いを厭わない人や逆に資力の乏しい人には効果がないという難点があります。
3 ②人身保護法による方法(人身保護手続)
人身保護手続は,拘束されている人の自由を回復するための手続きです。そのため,現在の監護者による子の拘束に顕著な違法がある場合,人身保護請求手続を利用する余地があるとされています。
人身保護請求手続は,手続が非常に迅速であること,相手方の出頭を確保するための身柄の拘束などの手段が用意されていることといったメリットがあります。殊に子供の引渡しについて,拘束者が判決に従わない場合,2年以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられると規定されており,実現性が高い手続となっています。
しかし,夫婦の一方が他方に対し,共同親権に服する幼児の引渡しを人身保護手続によって請求する場合,「他方の配偶者の監護につき拘束の違法性が顕著であると言うためには,その監護が,一方の配偶者の監護に比べて,子の幸福に反することが明白であることを要する」とされており,離婚前の夫婦においての利用はかなり難しいと思われます。実際,最高裁が顕著な違法があるとして子の引渡しを認めた事案は,いずれも調停期日において成立した合意に反して実力で子を拘束したというものであり,共同親権者間の子の引渡しを巡る事件で人身保護請求手続による救済が可能なのは,調停や当事者間の合意等により監護者が定められたにもかかわらず,その調停や合意等に反して,子を連れ去ったり,子を引き渡さないというような極めて限られた事案のみということになると考えられるでしょう。
4 ③未成年者略取又は誘拐罪による刑事告訴
先程述べたような民事上の手続きだけではなく,実質的に引渡しを受ける方法として,刑事手続により解決する方法もあります。実際,親権者であったとしても,無理やり連れ去ってしまうと,未成年略取罪という犯罪が成立する可能性がありますので注意して下さい。
5 まとめ
以上のように,話し合いで解決できなかった場合,基本的には,家庭裁判所を活用した方法をとることになります。裁判所は監護権者(子供の世話をする人)を判断するにあたって「監護環境の継続性」を重視しています。そのため,子供を連れ去らわれたときは,一日でも早く対応をすることが何よりも大事になります。また,すぐに対応しようとしても法律の専門家ではない場合や専門家であっても十分なノウハウのない弁護士であれば迅速に対応することができません。
よって,お困りの場合は一日でも早く経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。
【離婚問題】弁護士が教える養育費の決め方のコツ
離婚するにあたって,どうしても考えなければならないお金のこと…。子供の親であれば,子供に不自由はさせたくないですよね。今回は,子供を育てるための費用である「養育費」について知っておくと便利な知識をご紹介したいと思います。なお,一般に監護権者になるのは妻の場合が多いので,養育費を支払う側を元夫,養育費を支払われる側を元妻としてお話しさせて頂きます。
1 養育費はいつまでもらえる?
まずは,養育費の額を決めるにあたって重要な要素となる養育費の支払終期についてお話ししたいと思います。
(1) 基本的には20歳まで
養育費とは,経済的に独立して自己の生活費を獲得することが期待されていない年齢にある者,すなわち未成熟子に対して支払われるものですから,一般的には子供が成人する20歳までとされています。
もっとも,両親の経済力や学歴等に照らして,子供が大学に進学することが予定されている場合,20歳までではなく,「子供が大学を卒業する年の3月まで」と定めることもあります。このような場合,子供の年齢が20歳を過ぎても大学を卒業するまでは養育費を支払ってもらえることになります。最近は,一般的に大学に進学する子がほとんどですので,裁判所も基本的に大学に進学することを前提に考える傾向にあります。ですので,大学卒業までというのが基本形になりつつあると考えて良いかもしれません。
(2) 20歳まで支払わなくて良いこともあるし,減額されることもある
また,養育費を「子供が成人になるときまで」と定めていたとしても,場合によってはそれより前に支払わなくていい場合や減額が可能なこともあります。
このような定めをしている以上,本来であれば,養育費の支払は子供が成人になるまで続きます。
しかし,子供が中学校・高等学校を卒業してすぐに就職をした場合のように子供が自分で独立して生活費を獲得できるようなときにはその時点で養育費を支払わなくても良くなると考えられます。
また,支払う側の個人的事情,社会的事情の変更,例えば会社をクビになったとか,怪我をして長期入院したとかで収入が大きく減った場合や再婚して育てなければならない子供の数が増えたような場合,物価が著しく下がった場合などでは,養育費が減額されることもあり得ます。
ただし,これらも一度決めた内容を変更するのであれば,変更するための手続を経る必要がありますので,注意が必要です。
2 一括払いと分割払いどっちがお勧め?
では,以下の「2 一括払いと分割払いどっちがお勧め?」から「5 振込先口座は子供名義か元妻名義か」では,実際に養育費をどうやって支払うか,どうやってもらうかという「支払方法」についての話をしたいと思います。
「養育費を一括で支払ってほしい」との要望をたびたび耳にします。このような要望をする理由は,途中から支払ってくれなくなるのではないか,という不安によるものです。
養育費は,未成熟子の日々の生活のための費用ですから,月払いが原則です。したがって,一括払いしてもらうには養育費を支払う側との間で合意をすることが必要になります。
しかし,一括払いとなれば金額が極めて高額になること,元妻が本当に子どもの養育費として使用してくれるのかという不信感,養育費を一括払いすることで子供との縁が切れてしまうのではないかという不安感等から,養育費を支払う側が養育費の一括払いに合意することは稀です。現実的に,将来の養育費全額を一括で支払えるだけの貯金を持っている父親は本当に稀でしょう。
もっとも,仮に養育費を一括でもらえるとしても,贈与税の支払義務が発生する可能性が高く,本当に一括払いの方がいいのかは慎重に判断すべきでしょう。
なお,一括払いを選択した場合,子供のために確実に使われることを担保する方法として,養育信託という方法がございますので,ご検討の際は信託銀行に問い合わせてみることをお勧め致します。
3 養育費を払い忘れることのリスク
例えば,元夫が会社員で今月の養育費の支払が遅れたとしましょう。このような場合,普通の債権であれば,滞っている分しか差し押さえることは出来ませんが,養育費の場合は,将来の養育費をすべて差し押さえることが可能とされています。つまり,元妻は,地方裁判所に対し,将来にわたる給料債権の差押えを申し立て,これが認められると,元妻は実質的に給料天引きで養育費を受け取るのと同じ効果が期待できます。そうなると,元夫は養育費の終期まで給料の一部を差し押さえられ続けることになります。
そのため,元夫としては,養育費については絶対に支払いを忘れないように注意する必要があります。
4 養育費を手渡しすることってできる?
養育費を支払う際に「子供に手渡しをすることは出来ませんか?」とおっしゃる方もいらっしゃいます。たしかに,子供に直接気持ちを伝えることが出来るというメリットはありますが,あまりお勧めは致しません。養育費を支払ったことを立証することが困難だからです。
養育費の支払方法として一般的に用いられるのは「預貯金口座への振り込み」です。このような支払い方法を定めるにあたっては,振込先の口座だけでなく,振込日も明確に定めておく必要があります。
なお,銀行の自動送金を利用する方法もございます。これは,元夫の口座から振込日に自動で指定の口座に振り込むという方法です。この方法を採用するには,銀行に自動送金を申し込む必要がありますが,一度手続きをしておけば,今後毎回金融機関へ出向く必要がなくなるだけでなく,「3 養育費を払い忘れることのリスク」でお話ししたようなリスクのある払い忘れの可能性もなくなりますので検討してみてはいかがでしょうか。
5 振込先口座は子供名義か元妻名義か
元夫が子供を育てるための費用の分担として養育費を支払っている以上,元妻に支払うのが原則です。しかし,元妻に対する感情や子供に将来思いを伝えたいなどの理由から子供名義の預金口座に振り込みたいと思う人も多いと思います。このように子供名義の口座に振り込むとする方法も合意さえすれば可能です。つまり,養育費の振込先口座は子供名義でも元妻名義のいずれでも構いません。
なお,養育費だけでなく,解決金や財産分与の支払いがある場合,これらを同一口座に振り込むことにしていると,一部しか支払えなかった場合に何のお金を振り込んで,何のお金が滞納になっているかが分からなくなってしまいます。ですので,解決金・財産分与なども問題になる場合には別々の口座に振り込むようにすることをお勧め致します。
6 確実に養育費を獲得するための方法
最後に元夫が養育費を支払ってくれない場合を見越した対策についてお話ししておきたいと思います。
養育費について合意書を作成していれば,支払いが滞っても大丈夫と思っている方がよくいらっしゃいます。確かに,このような書面が作成されていれば裁判になった時に便利ではあるのですが,これがあるからと言って直ちに給料などを差押えて強制的に養育費を支払ってもらえる訳ではありません。このような書面だけですと,調停や裁判という手続きを経なければなりません。
そこで,給与差押等の強制執行を視野に入れるのであれば,公証役場で「強制執行をしても構いませんよ」との文言(強制執行認諾文言)を付した公正証書を作成することです。公正証書を作成しておけば,わざわざ裁判をすることなく,強制執行で相手方から養育費を回収することが可能になります。
7 まとめ
いかがだったでしょうか?今回は,養育費について知っておくと便利な知識についてお話しさせて頂きました。養育費は長期的に支払っていくものになるため,どうしても先の話として安易に期限や金額などを決めてしまう傾向にあります。また,月ごとに見てしまうと金額がどうしても安価になってしまうため,弁護士を入れるのは少し躊躇われるかもしれません。しかし,養育費の支払終期が1年でも,毎月の養育費が1万円でも変われば,総額としては数十万円単位で変わってくることも少なくありません。そのため,離婚事件に経験豊富な弁護士を入れて話し合いを行うことをお勧め致します。