弁護士コラム

2017.07.19

【離婚問題】夫の暴力に耐えられない…。弁護士が教えるDVと離婚

全国の警察が2015年に把握したドメスティック・バイオレンス(domestic violence;以下,DVといいます)被害は,6万3,141件と,過去最多を更新しました。事件として摘発されたのは,8,006件で,そのなかには殺人・殺人未遂が99件,傷害致死が2件もありました。また,ストーカー被害についても,約2万2000件にものぼりました。
 社会的にDVが犯罪であることの認識が高まったことにより,相談件数が増えたこともあるのでしょうが,これだけの人数が配偶者等からの暴力に困っている現実があります。今回は,DV被害にあった場合の離婚と対応の方法についてお話ししたいと思います。

1 DVとは?

DVについて,明確な定義はありませんが,我が国では「配偶者や恋人など親密な関係にある,又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いようです。なお,ここでいう暴力には,身体的なものだけではなく,経済的なものや精神的なものも含まれます。
DVにおいて注意すべきは,何よりも自分の身の安全を確保することになります。DVの被害者が離婚を切り出すと,DV加害者は逆上して暴力をふるうというケースが多く,まずは別居の準備を最優先に行い,相手に気づかれないように細心の注意を払って準備を進める必要があります。なお,暴行の事実を証拠として残すため,暴行を受けた際には,怪我の状況を写真で保存しておくことや日記に記録しておくことなども有効です。

2 DVと離婚

(1)協議離婚

離婚の方法については,まずは協議離婚(当事者間での話し合いを言います。一般的な離婚のイメージがこれだと思います。)を検討することになりますが,他の離婚原因(例えば不貞行為等)と異なり,DV事案は,そもそも暴力を受けるおそれ等から話し合いができない場合がほとんどでしょう。ですので,離婚の話し合いを行うにしても,まずは別居して身の安全を確保し,親族や弁護士等の第三者を介入させて,話し合いを進めていく必要があるでしょう。

また,DV事案は,夫婦生活の中で既に上下関係が構築されており,ご本人では相手方と対等に話ができないケースがほとんどですので,離婚の話を持ちかけても全く話にならず,かえって暴言ばかり浴びせられ,精神的に追い込まれてしまうケースも多々あります。また,別居後も相手方が繰り返しメールや電話で脅迫してくることもあり,それが負担でせっかく別居したのにまた元に戻ることを選択してしまうケースもあります。

以上のとおり,DV被害者本人による離婚協議は精神的負担とリスクが大きく,相手と接触し続けている限り,なかなか関係を断ち切れない場合が多いため,早急に弁護士を立て,弁護士を窓口にして手続きを進める必要があります。また,別居のタイミングや,DVの証拠の収集方法,住民票の移動の問題等,様々な点が問題になりますので,DVで離婚をお考えの方は,早い段階から弁護士に相談した上,適切な助言の下,慎重に手続きを進めていくことをお勧めします。

(2)調停・裁判離婚

協議で解決できなかったときには,調停の手続きを経たうえで,判決による離婚を求めることになります。この場合,DVは「婚姻を継続し難い重大な事由」(770条1項5号)に該当して,判決によって離婚できる余地があります。なお,離婚できるかどうかは,DVの被害の程度や証拠の有無によりますので,正確な見通しを立てるためには専門家にご相談された方が良いでしょう。

また,DVの存在が証拠上認められ,DVが原因で離婚が認められた場合には,財産分与とは別に,慰謝料の請求も認められます。この場合の慰謝料は,被害の程度により数十万円のものもあれば数百万円に上るものもあります。もっとも,DV事案は客観的な証拠が残っていないことが多く,真実はDVがあるにもかかわらず,証拠がないため裁判所にDVを認めてもらえず,慰謝料も否定されるというケースが多々あります。

たとえば,たまに相談を受ける中で,「2年前に夫が酔って暴れてあざが残るほど殴られました!これってDVとして離婚原因になりますよね?」と聞かれたりしますが,よくよく話を聞いてみると,その時は病院に行っておらず,怪我の写真も一切残っておらず,現在は怪我も消えてしまっているという状態でした。これでは,残念ながら証拠がなく,相手方が「暴力など振るっていない」と主張してきたら証明できず,離婚原因として認定されません。このように,DVは,適切な証拠保全が必要になりますので,DVを理由とする離婚や慰謝料請求で勝訴するためには,証拠収集の方法から弁護士に相談して準備されることをお勧めします。

また,DVの場合,相手方に新しい住まいを知られないように配慮することがそれ以外の事件と比較しても重要となってきます。DVの加害者は,仮に離婚が成立したとしても,元妻に執着し,ストーカー化することがあるからです。最悪の事態を防ぐため,DV防止法というものが準備されていますので,以下では,この制度の概要を説明したいと思います。

3 DV被害者の保護

(1) 法的な手段

DVと言っても,その程度は事案により様々ですが,中には被害が深刻で,生命や身体への危害の恐れがひっ迫しているケースも有ります。その場合には,DV防止法に基づく保護命令の発令申立も検討する必要があります。この保護命令とは,配偶者からの身体への暴力を防ぐため,裁判所が,暴力を振るったあるいは生命又は身体に対する脅迫をした配偶者(相手方)に対し,被害者である配偶者に近寄らないよう命じる決定です。

この命令に違反した場合,相手方は刑事制裁の対象となります。
保護命令には,①本人への接近禁止命令,②子への接近禁止命令,③親族等への接近禁止命令,④退去命令,⑤電話等禁止命令,の5つがあります。相手方の行動によってどこまで申立てをするかを検討することになりますが,いずれも法的要件があるため,専門家に依頼された方が良いでしょう。

なお,保護命令の申立には原則として事前に警察等での相談が必要となります。警察等に相談した記録と申立書を裁判所に提出することで申立を行います。

(2) 相談先

DV被害に遭われた方の相談先としては,以下のようなものがあります。
・警察
・配偶者暴力相談支援センター
・一時保護施設(シェルター)
・法律事務所
・福祉事務所

なお,各機関によって対処できる内容が異なりますので,どこにいけばいいか,どのような手順で進めていいかが分からない場合は,まずは法律事務所でそのあたりを含めてアドバイスをもらった上で,手続きを進めていかれるのが良いでしょう。また,被害の程度によって,どこまで手続きを取る必要があるのかも変わってきますので(別居で足りるのか,シェルター利用が必要なのか,保護命令の申立てまで必要なのか等),DVに遭った際には,まずは1人で思い悩まず,いち早く相談機関に赴いて相談をするようにしましょう。

なお,最寄りの相談機関については,以下のURLに記載されている番号に電話をすることで教えてもらうことができます。
URLはこちら→(http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/

4 まとめ

DVにあわれた場合は,法律事務所を含む各相談機関にすぐに相談したうえで,身の安全を確保することが第一です。ただ,DVを理由に離婚するにはDVの証拠も必要になりますので,身の安全を図りながらも,可能な限り証拠を収集できるとよいでしょう。

DVの場合,相手方と被害者の方とで任意の話し合いということは困難でしょうから,弁護士に依頼することが重要になってきます。もっとも,被害者の方は非常につらい思いをしており,その心に配慮するには知識だけではなく,経験を踏まえた細やかな配慮が必要となると思います。(女性弁護士を選ばれるのも一つの選択肢でしょう。)そのため,相談にあたっては,同種事案について経験豊富な弁護士を選ばれることをお勧め致します。

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