性生活は,夫婦関係の重要な要素の一つといえます。そのため,男性女性を問わずセックスレスでお悩みの方は多くいらっしゃり,もはや社会問題といえる状態にあります。セックスレスによって,夫婦関係の悪化や浮気・不倫につながることも多いですが,性生活は法律の世界でも結婚の重要な要素と考えられています。今回は,そんな性生活と離婚についてお話ししたいと思います。
1 セックスレスってなあに?
まず,そもそもセックスレスという言葉を聞いたこと自体はあると思いますが,その内容まではあまりご存じではない方もいらっしゃると思います。
日本性科学会によれば,「セックスレス」とは「特別な事情がないにもかかわらず,カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上ないこと」を指します。これは,個人によって長いとみるか短いとみるか分かれるところでしょうが,ある程度期間を設定するとなると,この程度の期間が目安になるのでしょう。
2 セックスレスを理由として離婚できるの?
離婚をする場合においては,協議離婚(当事者間における話し合い),調停離婚(調停委員関与の下での当事者間での話し合い),判決離婚(裁判官が判決によって離婚の可否を決める手続)などの方法を用います。(なお,審判離婚という方法もあるのですが,実際に使われることはあまりないので省略します)。
協議や調停等,当事者間の話し合いによる離婚手続の場合は,どのような理由でも離婚することができるため,セックスレスを理由としても離婚することができます。
しかし,残念ながら,当事者同士の話し合いがまとまらない場合もあります。その場合,当事者の一方がどうしても離婚したいという場合は,訴訟を提起して離婚を求める形になります。このように判決によって離婚をする場合においては,公権力を使って無理やり離婚させることになるのですから,法律で定める離婚原因,すなわち,「離婚を命じられてもやむを得ない」といった事情がある場合に限り,離婚ができる制度となっています。
それでは,法律において,どのような離婚原因が定められているか見てみましょう。
民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
法はこれらの場合に,裁判によって離婚ができるとしていますが,セックスレスは①~④にあたらないことは明白だと思います。そのため,セックスレスが「婚姻を継続し難い重大な事由」であると認められることが必要になります。
3 実際にセックスレスを原因として裁判所で離婚できるの?
それでは,セックスレスを原因に裁判所に離婚を申し立てる人の割合はどのくらいなのでしょうか。「実際に悩んでいたとしても,セックスレスで裁判所に離婚を申し立てる人なんてあまりいないんじゃないの?」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし,そんなことはないんです。家庭裁判所に婚姻関係の事件を申し立てる際に記載する「動機」欄に「性的不調和」という項目がありますが,約10%がこの項目を選択しており,決して少なくない割合の人がセックスレスなどの「性的不調和」を理由のひとつとして,離婚を申し立てているのです。
もっとも,これだけでは実際に離婚ができるかは分かりませんね。なので,実際にセックスレスを理由として離婚が認められたケースを紹介したいと思います。
【福岡高判平5.3.18】
・夫がポルノ雑誌やビデオに興味を持ち,自慰行為に耽り,妻が性交を求めてもこれに応じず,妻との性交が入籍後5か月で2,3回程度と極端に少なく,それ以降約1年4か月間は全く性交に応じなかった事案において,裁判所は,正常な夫婦の性生活からすると異常というほかはなく,指摘されても改めていないこと,夫は妻への愛情を喪失し,婚姻生活を継続する意思が全くないこと等の事情から「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断しました。
【名古屋地裁昭和47.2.29】
・夫が同性愛に陥り,長年妻との間で性交を行っていなかったという事案において,裁判所は,性生活は婚姻生活における重大な要因の一つであって,数年間にわたり夫との間の正常な性生活から遠ざけられていることや,妻が夫の同性愛関係を知ったことによって受けた衝撃の大きさを考えると,夫婦相互の努力によって正常な婚姻関係を取り戻すことは不可能と認められるとして,「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断しました。
先程お話ししたように,日本性科学会の定義によれば,合意の上での性交が1ヶ月程度無ければセックスレスにあたるとされています。しかし,裁判所において,セックスレスが離婚の原因として考慮されるためには1ヶ月では短く,だいたい「1年」程度の期間が必要とされています。
そして,セックスレスもただそれだけで直ちに離婚原因となるわけではなく,一方的な性交拒否が愛情の喪失・不存在を示すような場合や性交不能を婚姻前に知っていたにもかかわらず告げなかったような場合に,離婚原因があると判断される傾向があるようです。
なお,セックスレスではないですがこれに類する問題として,昼夜を問わず性交渉が強要されるなど,通常と比べて著しく強い性欲がある異常性欲の場合も,離婚原因となりえます。
4 まとめ
セックスレスが原因で離婚が認められるケースというものも多数存在しています。性の問題はなかなか口にしにくいですが,埋めがたい溝ができる前に,相手の意向を尊重しながら夫婦間でしっかり話し合うことが大切です。どうしても解決できそうにない場合には,弁護士に相談することもいいかもしれません。相談にあたっては,プライバシーの核心にあたるような問題ですので,異性には話しにくいことがあるかもしれません。また,同種事案について経験の浅い弁護士ですと対応に困る場面が生じる可能性があります。
そのため,同種事案について経験が豊富であり,同性の弁護士がいる弁護士事務所にご相談されることをお勧めいたします。