懲戒解雇の妥当性
【相談事例⑬】
従業員が無断欠勤を頻繁に繰り返している従業員がいます。その従業員のせいで他の従業員に迷惑がかかっており,会社全体の士気も下がってしまっている状況です,その従業員を懲戒解雇にしたいが,解雇できるのでしょうか?
【弁護士からの回答】
今回は,従業員の無断欠勤と懲戒解雇についてのご相談です。無断欠勤は即解雇等としている会社もあると聞きますが,懲戒解雇についてのトラブルは,労働審判等会社にとって非常に不利益になる等のトラブルのもとになることが非常に多いので,注意が必要です。
1 懲戒解雇の要件について
懲戒解雇とは,従業員が懲戒事由に該当する行為を行ったことを理由として,雇用契約を解消(解雇)することをいいます。懲戒解雇は,労働者に対する制裁的な処分であり,かつ,解雇という労働者の生活に大きな影響を与える処分であるため,懲戒解雇が認められるための要件は非常に厳格にさだめられています。
まず,懲戒解雇は,労働者にペナルティを与える懲戒処分であるため,どのような行為を行ったら懲戒解雇処分を受けるということが就業規則に規定されている必要があります。従業員が10名以下の企業では,就業規則の作成義務がないため,就業規則自体を作成していない企業も少なからずいらっしゃいますが,就業規則を作成していない企業の場合には,従業員がどれだけ悪質な行為を行ったとしても,懲戒解雇にすることはできず,普通解雇により解雇を行うことになります。その場合には,解雇予告手当等を支払わなくてはならないため,どれだけ規模の小さい会社であったとしても就業規則は作成しておいた方がよいでしょう。
次に,懲戒解雇が有効に認められるための要件としては。懲戒解雇に合理的理由及び社会的妥当性が認められることが必要になります(労働契約法16条)。具体的には,たとえ,就業規則に懲戒解雇事由が規定されていたとしても,その事由により解雇されることがあまりにも不当な場合には,解雇が認められないことになります。極端な例ですが,就業規則に「就業時間を1分でも遅刻した場合には懲戒解雇とする」と規定されおり,実際に1分遅刻した場合に解雇が認められるわけがないことは分かると思います。したがって,就業規則には,懲戒解雇処分を科しても不当ではないと認められるような事由を記載しておく必要があります。
2 無断欠勤について
無断欠勤に関する懲戒解雇事由としては,「14日連続で正当な理由がなく無断欠勤をし,出勤の催促に応じない場合」に懲戒解雇とするという規定を就業規則においているのが一般的です。14日間連続とされている理由については,労働基準監督署の認定を受けて解雇予告手当を支払わなくてよい場合(労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合,労働基準法20条)として,2週間以上正当な理由なく無断欠勤していることが要件とされているため,一般的な就業規則では,14日間とされています。
では,無断欠勤が14日間連続ではなく,10日間欠勤して,しばらく出勤してまた10日間欠勤しているような場合はどうでしょうか。
この場合,14日間連続で無断欠勤していない以上,上記の規定に基づいて懲戒解雇をすることはできません。もっとも,通常の就業規則では,無断欠勤をしたときに,けん責処分(単に注意をするのみの処分です。)とし,けん責処分を複数回行ったとき,もしくは,無断欠勤が7日以上に及んだときは,減給,出勤停止若しくは降格処分とし,さらに,減給等の処分を受けたにもかかわらず,改悛(改善)の見込みがないときに懲戒解雇処分とする規定が存在します。したがって,14日連続で無断欠勤をしていない場合であっても無断欠勤をした都度,けん責処分や減給,降格処分などを科していくことで,懲戒解雇を行うことも可能になります。
3 最後に
使用者である経営者の方においては,あまり意識をされていないことが多いと思いますが,懲戒解雇処分というものは,先ほども述べたとおり,非常に重い処分であるため,軽々と行ってしまうと,労働審判等の紛争に巻き込まれるなど,本来の経済活動に充てることができた時間を余計な手間にとられてしまうリスクもあるため,懲戒解雇をすると考えた際には非常に慎重になる必要があります。当オフィスも那珂川町だけでなく,春日市,大野城などの中小企業様の顧問弁護士として,従業員の解雇に関する問題も多く取り扱っておりますので,是非一度お問合せください。
更新拒絶等の「正当な事由」とは
【相談事例⑫】
(前回の続き※事案の内容は前回の記事をご覧ください。)
賃貸人に出て行けと言われたとしても,それに必ずしも応じなければいけないわけではないのですね。ただ,賃貸人が立退料を支払えば出て行かなくてはならないと聞いたことがありますが本当でしょうか。
【弁護士からの回答】
前回の記事で,建物賃貸借契約の更新拒絶や,解約の通知は,借地借家法28条に「正当な事由」が無い場合には認められないとご説明させていただきましたが,今回は正当な事由の有無の判断要素についてご説明させていただきます。
1 はじめに
更新拒絶等の要件である「正当な事由」の考慮要素については,同じく借地借家法28条に規定されており,28条に規定されている要素を総合的に考慮して,「正当な事由」が認められるか否かを判断することになります。
2 建物の使用を必要とする事情
賃貸人と賃借人のそれぞれにおいて,当該建物の使用を必要とする事情があるか否かを判断し,どちらの必要性が高いと言えるのかを判断することになります。「正当な事由」の判断要素の中において,この「必要性」という要件は最も重要な考慮要素となります。すなわち,賃貸人における建物使用の必要性が賃借人における建物使用の必要性よりも大きい場合には,「正当事由」が認められる方向に働きます,逆に,賃借人における建物使用の必要性の方が大きい場合には,「正当事由」が否定される方向に働きます。また,当事者双方の建物使用の必要性に差がない場合には,後述する他の要素を補充的に考慮して判断していくことになります。
3 建物の賃貸借に関する従前の経過
契約期間,更新状況,前回の更新時に賃貸人と賃借人との間でどのような話し合いを行っていたか,敷金の支払いの有無,家賃滞納の有無等が考慮されることになります。具体的には,何度も更新を重ねており,前回の更新時には退去の話など一切なされていなかった場合には,正当事由が否定される方向に働きます。
4 建物の利用状況
建物が,賃貸借契約で定められた用法に従い使用されているかなどが考慮要素になると言われていますが,ほとんど考慮要素としての意味はないと言われています(用法違反の場合には,債務不履行により賃貸借契約が解除されてしまうため,更新拒絶等が問題になることがあまりありません。)
5 財産上の給付の申し出(立退料)
賃貸人が賃借人に対し,金銭(立退料)や代替する賃貸物件を提供する等の財産上の給付を申し出た際には,その申出は正当事由の考慮要素となります。ここで注意が必要なのは,財産上の給付の申し出があれば必ず「正当な事由」に該当するというものではありません。すなわち,正当な事由に該当するか否かは上記のように,建物の使用を必要とする事情をメインに判断するため,賃貸人がいくら立退料を提供したとしても,賃借人が当該建物を使用する必要が非常に高い場合には,正当事由がないと認められる場合があるということです。逆に,賃貸人で建物を使用する必要性が非常に高い場合や,建物の老朽化により早急に取壊しが必要な場合等には,立退料を支払わないとしても,正当な事由が認められると判断されることもあります。
6 最後に
このように,建物賃貸借契約における更新拒絶に関しては,賃貸人側であろうと賃借人側であろうと非常に複雑な問題があることから,賃借人の方賃貸人の方いずれであっても,契約の更新の際には是非一度弁護士にご相談ください。
賃貸人に退去を求められたら
【相談事例⑪】
これまでテナントを借りて10年以上中華料理屋を行っておりました(賃貸借契約の更新を繰り返してきました。),先日オーナーより,建物取り壊しを理由に,7か月後に来る契約期間満了後は,契約の更新はしないので,店舗の移転を求められました。契約期間後には,出ていくしかないのでしょうか?
【弁護士からの回答】
賃貸借に関する立退きの問題は,ご相談者様のように賃借人からのご相談のみならず,賃貸人の方からもご相談をいただくことがございます。通常,契約期間が満了した場合には,契約は終了するのが通常ですが,賃貸借契約の特性上,契約の終了に関しては,賃借人の保護が図られています。
1 借地借家法の適用
賃貸借契約に関しては,民法に規定されており,存続期間に関しては,民法604条にて,上限を20年と設定しており,かつ更新をすることができるとだけ規定されております。この民法を前提とすると,合意により賃貸借の契約期間が満了した際には,当事者で更新に関する合意が整わなければ,契約は終了し,賃借人は建物を明け渡さなくてはいけなくなります。もっとも,賃貸借契約は,賃借人の住居として生活の本拠である場合や,ご相談者様のようにその場所で事業を営んでおり,生活をささえるための場所となっていることが多いため,賃借人を保護すべき契約であると考えられており,民法の特別法(民法の規定より優先して適用されます。)として借地借家法という法律があり,この借地借家法により,賃借人が保護されています。
2 建物賃貸借契約の更新について
まず,建物賃貸借契約の更新については,借地借家法で,契約期間の定めがある場合において,当事者が,期間満了の1年前から6か月前までに更新しないという通知をしなかった場合には,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされると規定しています(26条)。したがって,賃貸人が,契約満了の1年前から6か月前までに更新しないと通知した場合には,同一条件で更新したものとみなされることになります。もっとも,更新後の賃貸借契約は,期間の定めのない契約と扱われるため(26条),賃貸人は,解約の申し入れができるようになり,解約の申し入れが認められると,申し入れの日から6か月が経過することで,賃貸借契約が終了することになります(27条)。
3 更新拒絶,解約申し入れの要件
では,ご相談者様の事例のように,適切な期間内に,賃貸人から更新拒絶の通知がなされた場合や,期間の定めのない契約になった後に,解約の申し入れをし,6か月が経過した場合には,自動的に,賃借人は退去しなくてはならないのでしょうか。
この問題についても借地借家法に規定があり,更新拒絶や,解約の申し入れについては,「正当な事由」がある場合でなければ,認められないと規定されています(28条)。したがって,ご相談者様の事例でも,この正当な理由が認められない場合には,賃貸借契約の更新拒絶は認められる,契約は更新されることになります。
では,借地借家法28条の「正当な事由」の有無についてはどのような事情が顧慮されるのかについてですが,今回は文量が多くなってしまったので,次回にご説明させていただきます。
破産に関するよくあるご質問⑤
【ご相談者様からのご質問】
借金がかさみどうしようか悩んでいましたが,これまでの先生のお話を聞いて破産をしようかと考えています。ですが,私は仕事上,月に1~2回は飲みに行かなくてはいけません。破産をしようとしているのに飲み会なんて許されませんよね。
【弁護士からの回答】
ご相談者様からのよくあるご質問に対する回答はひとまず今回で一区切りです。ご相談者様のように,破産する際の日常の振舞い方についてのご質問の多いので回答していきたいと思います。
Q13.破産の申し立てを行っている間は,飲み屋などにいってはいけませんよね?
A.結論からお伝えすると,お酒を飲みにいったりすること自体が制限されるわけではありません。お仕事の関係で避けられない飲み会もあるでしょう。しかし,破産をして債務を免責するのは,あくまでも破産者の経済的な再建を図るためであるため,裁判所において,免責を認めるか認めないかの判断において,債務が無い状態で,きちんとまっとうに生活することができるのかという点も見られています。具体的には,申立てを行うまでの間,毎月,家計表を作成してもらい,債務の返済がない状態で,自身の収入に見合った支出で生活をすることができることを裁判所に示す必要があります。したがって,収入に見合った範囲内であり,適切な金額(月に2~3万円程度ではないでしょうか。)であればお酒を飲みにいったとしても何ら問題はありません。もっとも,キャバクラや風俗などでお金を使ってしまうことは浪費行為に該当するため,少なくとも破産手続きが終了するまでは控えておいた方がよいでしょう。
Q14.破産した後にギャンブルをすると逮捕されてしまうのですか。
A.逮捕されることはありませんが,控えておいた方が良いでしょう。
まず,破産の申し立てを行っているときときや,破産手続中には,ギャンブルだけなく,浪費や風俗などにお金を使うことはくれぐれもお控えください。その程度がひどい場合にはせっかく破産を申し立てたにも関わらず,免責が認められなくなってしまう可能性があります。一方で,破産手続きが終了した後に,ギャンブルを行ったり,浪費等をしたとしても一度認められた免責決定が取り消されたり,何らかのペナルティーが科せられることはありません。
しかし,ギャンブルにしろ浪費にしろ,破産をする前と同じ生活をしていれば,ほとんどの場合が,収入では生活することができなくなってしまうでしょう。そして一度破産している以上,ブラックリストに載っているため消費者金融からは借り入れができず,ヤミ金など違法な高利貸しなどから借り入れを行ってしまい,違法な取り立てなどで取り返しのつかないことになってしまう可能性も否定できません。法律上も破産をしてから7年が経過しないと原則として再び破産をすることはできません。もう二度と借金で困らない様に,破産が認められた場合には自分の収入に見合った生活を心がけ,新しい人生を有意義なものにされた方がよいと思います。
破産に関するよくあるご質問④
【ご相談者様からのご質問】
これまでの先生の回答を見ていると,「破産は悪いこと」というイメージは間違っていたとわかりました。でも,借金を基本的に返さなくて済むのに,今までと同じような生活を送れるということはないですよね。
【弁護士からの回答】
今回は,破産をしたことで,申し立てた人に対し,どのような不利益があるか否かについてご説明させていただきます。
Q8.一定期間,選挙権が剥奪されてしまうということを聞いたのですが・・・
A .そのようなことはありません。公職選挙法などにも破産をしたことで選挙権を失う等という記載は一切ありません。また,立候補する権利(被選挙権といいます。)についても何ら制限はなされないため,破産手続中であっても,立候補すること自体は理論上可能です。とはいえ,選挙には多額の費用が必要になり,そういった選挙費用に支出するお金があるのであれば,債権者に分配すべきと判断されるのが通常ですので,現実的には,破産手続中に立候補することは困難でしょう。
Q9.運転免許が取り消しになったりするのでしょうか。
A.そのようなことも一切ありません。そもそも,破産することと,運転免許の資格の適格性に何ら関連性はないと思います。こういった都市伝説的な噂がでていることからも,破産に対する間違った悪いイメージが浸透してしまっているのだなと感じます。
Q10.相続権がなくなることはありませんか?
A.民法には相続人たる資格を失う事由として,相続欠格事由及び相続人の廃除に関する規定がありますが(民法891条,892条),同規定の中に,破産をしたことで,相続人たる地位(推定相続人といいます。)を失うことはありません。なお,破産手続の開始決定前に被相続人が亡くなり,相続が開始した場合には,相続により受領した財産については,換価して債権者へ分配されることになります。逆に,破産手続き開始決定後に相続が発生した場合には,相続により得た財産は破産者が自由に処分することができます(これについては,別の機会にご説明させていただきます。)。
Q11.破産をすると,郵便物が自分の手元に届かなくなると聞いたのですが本当ですか。
A.管財事件というものになると,破産の手続きが続いている期間は,郵便物が管財人の弁護士の事務所に送付されることになります。別の機会にご説明させていただきますが,破産の手続きには,換価する財産がなく,免責(債務を免除することです。)させても何ら問題が無いと判断される「同時廃止事件」と,換価する財産がある場合や,免責させてもよいか調査する必要がある場合の「管財事件」の2種類があります。そして,管財事件になった場合には,管財人の弁護士において,破産者の財産を調査する必要があるため,破産手続きの期間中に限り,破産者宛の郵便物が管財人の弁護士の事務所宛に転送されることになります。もっとも,破産の手続きが終了すれば,管財人の転送は終わり,普通に郵便を受け取ることができます。
Q12.破産をすると引っ越しができないと聞いたのですが。
A.引っ越しができないわけでありませんが,裁判所の許可が必要になります。上記でご説明した管財事件になると,何度か裁判所に破産者自身が行く必要があり,かつ,管財人の法律事務所へ足を運ぶ必要があります。したがって,破産手続中に関しては,裁判所において破産者の所在を把握しておく必要があるため,引越しにより住所が変わる場合には事前に裁判所の許可を得てから引っ越しなどをする必要があります。
破産に関するよくあるご質問③
【ご相談者様からのご質問】
家族にはきちんと相談してから破産した方がよいということですね。考えてみます。ちなみに,私は,年金で生活しているのですが,その年金は大丈夫でしょうか。
【弁護士からの回答】
前回は,破産をした際に親族等にどのような影響が及ぶのかについてご説明させていただきました。今回は,主に年金に関するご質問に回答してきたいと思います。
Q6.破産をすると厚生年金や国民年金がもらえなくなると聞いたことがあるのですが・・・
A.そのようなことは一切ありません。
まず,公的年金(厚生年金,国民年金)を受給することができる権利は,法律上差押えをすることが禁じられている権利になります(国民年金法24条,厚生年金法41条)。また,法律上,年金の受給資格の喪失事由として,破産や個人再生を行ったことという規定は一切ありません。したがって,破産をしたとしても,年金については,それまできちんと年金を収めていれば。受給することが可能です。もっとも,公的年金の入金された預貯金口座が債権者に知られている場合には,債権者から差押えをされてしまう可能性があることや,その預貯金口座の残高がある程度(20万円程度)ある場合には,債権者に換価される可能性がありますので注意が必要です(この点については別の機会にご説明させていただきます。)。
Q7.公的年金は何ら問題なく受給できるのですね。では,企業年金や個人年金についてはどうなのでしょうか。
A.まず,企業が,確定給付企業年金・確定拠出年金・厚生年金基金等の制度を採用している場合には,いずれも差押禁止財産となっているため,公的に年金と同様の扱いになります。これに対し,企業において,企業年金制度を採用しておらず,退職金の制度を採用している場合には,退職金の金額によっては,一定の金額を債権者の換価のために支払わなければならなくなる可能性もあります(退職金については,別の機会にご説明させていただきます。)
また,企業年金ではなく,個人年金(保険会社などに個人的に支払っているものです。)については,解約した際に戻ってくる金額(解約返戻金といいます。)が一定の金額以上の場合には,個人年金を解約する必要が生じてくる場合もあります。
いずれにせよ,破産の申し立てをする際には,ご依頼者様の契約されている保険に関する事項についてはきちんと確認する必要があるので,ご不安なことがあれば,弁護士にご相談ください。
破産手続に関するよくあるご質問②
【ご相談者様からのご質問】
破産をしたとしても周りの人には分からないものなのですね。ですが,まだ破産に関して不安なことはたくさんあるので色々教えてください。
【弁護士からの回答】
今回も破産に関するご質問に答えていきます。破産に関しては,基本的に破産というイメージが先行してしまいて抵抗があるのではないかと思います。破産に抵抗があるかたでも,きちんと説明して,破産に対するイメージを払拭してもらい,破産によう経済的な再建のお手伝いをさせていただく場合もございます。破産しようか悩まれている方がいらっしゃればご気軽にご相談ください。
Q4.私が破産することが両親にバレたくないのですが,バレずに破産をすることができますか?
A. 不可能ではありませんが,非常に難しいです。まず,破産をしようと考えている方のご両親が連帯保証人になっている場合には,家族には確実にばれてしまいます。また,破産の申立ての際には同居している親族や配偶者の不動産の有無にかんする資料(無資産証明書など)を提出する必要があるので,そういった資料を提出する際に,うまく理由をごまかして資料をもらえれば問題ないですが,なかなかうまくはいかないと思います。
このように,親族や配偶者にバレずに破産をしたいというご相談は非常に多いのですが,進めていくどこかでばれてしまう可能性は非常に高いです(申し訳ありませんが絶対にバレずにできますとお約束することはできません。)。私としては,きちんとご両親や配偶者の方にも破産をして経済的な再建を行うと説明すれば理解してくださると思うので(実際に,弁護士の口からご両親や配偶者にご説明し,ご納得いただいたケースも多数存在します。)。きちんと事情を説明してから破産をした方がいいと思います。
Q5.私が破産をしてしまったことで,両親や,兄弟が借り入れをする際に不利になったりすることはありませんか?
A.問題になることはありません。破産をした場合,ご本人は信用情報に破産したことが記録されることになりますが(いわゆる「ブラックリスト」にのることをいいます。),それはあくまで破産をした個人のみであり,ご親族が借入を行う場合にはご親族自身がブラックリストにのっていなければ借り入れを行うことは何ら問題なく可能です。もっとも,破産をした人がご親族の保証人になろうとする場合には保証人になれない可能性がありますが,一度破産をしてしまっている以上,他人の債務を肩代りする可能性のある保証人にはならないほうが良いのではないかと思います。
破産に関するよくあるご質問①
【ご相談者様からのご質問】
先生のブログを拝見すると,要件を満たしているのであれば破産の手続きを選択した方がよいとのことでした。ただ,破産となると近所の人に破産したことがバレてしまわないかとか,破産後の生活でいろいろと制限があるのではないかと不安になってしまいます。
【弁護士からの回答】
借金問題に関するご相談において,ご相談者様のお話をひととおりお聞きして,「破産した方がよいでしょう」とアドバイスした際に,「破産はちょっと・・・」と抵抗を示される方が少なからずいらっしゃいます。
破産に抵抗を示される理由として,破産に対するイメージの悪さや間違った情報により,破産することができないとして返済が困難であるにもかかわらず任意整理など選択してしまうと,後々返すことができなくなってしまい,経済的再建が図れなくなってしまいます。そこで,今回から複数回にかけて,破産に関してよくなされるご質問について1つずつ回答していくことで,破産に対するイメージを変えていければと考えています。
Q1.破産をすることになったら,債権者が家に押しかけてこないか心配です。
A.以前にもお伝えした通り,弁護士が受任通知を送付すると,貸金業者は直接の取り立てや連絡が禁止されます。したがって,破産する旨通知したとしても通常の消費者金融の場合には自宅に押しかけてくることはありません。もっとも,個人的にお金を借りていた知人の人の場合には,返済を求め自宅に来る可能性は否定できませんので,個人の借り入れの方がいらっしゃる場合には,事前に弁護士にご相談ください(相手が感情的にならないよう,事前に電話などで説明することなどもできます。)
Q2.戸籍や住所に破産者としての記載が載ってしまうのですか?
A.そのようなことはありません。破産をしたとしても戸籍や住民票に破産したことがあるとの記載がなされることは一切ありません。もっとも,会社を倒産する場合には,会社の登記に破産したことにより閉鎖された旨の記録が残ることになります。
Q3.日経新聞などに破産したことが載ってしまうと聞いたのですが・・・
A.これも事実に反します。破産した事実が通常の新聞に載ることはありません。もっとも,裁判所に対し,破産の申し立てを行い,破産手続開始決定が出た後と,免責決定(債務の返済を免除する決定です。)が出た後の2回だけ,官報という,国の広報誌には名前が載ることになります。
もっとも,官報を通読されているというかたはほとんどいらっしゃらないと思いますし,官報に掲載されるのは,破産や民事再生などを行った非常に多くの方と一律に記載されるものであるため,官報に名前が記載されることによる弊害は事実上ほとんどないと言ってよいでしょう。
婚約破棄後の結納金の返還について
【相談事例⑩】
息子のことで相談がありません。息子と付き合っていた女性との結婚が決まり,両家がそろって結納を行いました。その際,私たちより相手の家に対して,結納金として100万円お支払いしました。もっとも,結納が終わっても相手の家から,結納の半返しのお話しは一切ありませんでした。マナーがなっていないなと思っていたのですが,息子たちが幸せになればと思い我慢していましたが,先日,息子が,他の女性と関係を持っていたことが相手方にばれ,婚約が破談となりました。
息子が原因で婚約破棄になるのはしょうがないのですが,結納金は,結婚が成立していない以上,返してもらうべきであると考えています。
【弁護士からの回答】
前回にひきつづき,今回も婚約に関する問題です。婚約解消に関するご相談を受けるときに,よく問題になるのが,新郎側から新婦側に渡される結納金の問題があります。そこで,今回は結納金の法的性質などについてご説明させていただきます。
1 結納金とは
結納金とは,日本の慣習に基づいて,婚約の成立の際に,男性側(新郎側)から女性側へ送られる金銭のことをいいます。また,結納の際には,結納金の他に,結納の品も女性側に贈られるのが一般的です。また,女性側からも,結納返しといって結納の品やお金について,1割に相当する品やお金を返したり(1割返し),半分に相当するものなどを返す(半返し)ことを行う慣習もあるそうです。結納金についてはそもそもいくらわたすのか,それに対して,いくら返すのかということが法律上決まっておらず,あくまでも慣習や両家での話し合いによって決まります。ご相談者様のように,結納を渡したのに相手方の家からお返しがないということをおっしゃられる方がいらっしゃいますが,法律上の問題ということではなく,マナーや考え方などの道義的な問題にすぎないため,半返しなどを強制することはできません。
この,結納金については,民法などの法律に規定されているものではありませんが,その法的性質は,最高裁判所の判例において,婚姻が成立した場合に,当事者ないし当事者両家の間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与であるとしており,簡単にいうと,婚姻が成立することを条件とした贈与契約であると考えられています。
したがって,婚姻が成立しなかった場合には,条件を成就していないので,結納金を受け取った側は,その結納金を返還しなければならないのが原則です。
もっとも,婚姻の不成立(婚約破棄)に至った原因が,結納を支払った側のみにあると認められる場合には,婚約破棄の原因を作っておきながら結納の返還を求めるのは信義則に反するとして,結納金の返還は認められません。
他方,婚約破棄の原因が,女性の側にも一部認められる場合には,過去の裁判例では,結納を支払った者の帰責性が,受け取った者の帰責性よりも小さい場合には返還を認めるとしているものもありますが,いずれにも原因があると認められ,優劣がつかないといった場合には,結納金の返還については認められる(もしくは一部認められる)のではないかと考えています。
なお,婚姻が成立した場合には,条件が成就しているため,その後,婚姻関係が解消(離婚)したとしても,原則として結納金の返還は認められませんが,結婚(内縁後)わずか2か月で関係を解消した事例では,結納金の返還を認めた判例もあります。
いずれにせよ,本件については,ご相談者様の息子さんの帰責事由により婚約が破棄されていることは明らかであるため,結納金の返還は認められないでしょう。それだけでなく,不貞行為により,婚約を破棄しているため,相手方より慰謝料の請求がなされる可能性があります。
婚約破棄後の慰謝料請求について
【相談事例⑨】
2年ほど付き合っていた彼女に昨年末プロポーズをしました。今年の2月に同棲を始め,お互いの両親へ挨拶も済ませました。両家の顔合わせはや結納はまだしていませんが,婚約指輪の購入はすでに購入し,来年に結婚式をするために式場に仮予約を行っていました。もっとも,同棲し活を始めてから価値観の違いや将来の子育ての考え方などが合わないと思い,結婚することはできないと感じました。そこで,私から別れようと伝えましたが,相手は納得してもらえず,相手から弁護士をつけると言われました。今後、慰謝料など請求される可能性はあるのでしょうか?
【弁護士からの回答】
今回のご相談における争点は,「当事者間で婚約関係が成立していたか否か」です。すなわち,ご相談者様が別れを切り出した段階で,当事者間で婚約成立していると判断される場合には,婚約破棄に対する慰謝料等を支払う必要があると考えられます(婚約破棄の正当性の問題は残りますが,その点については,別の機会にご説明させていただきます。)。そこで,今回は婚約についてご説明させていただきます。
1 婚約とは
婚約とは,辞書的な意味でいうと文字通り「結婚の約束をすること」をいい,例えば,当事者間で「結婚しよう」とプロポーズにより約束したことでも,辞書的な意味での婚約には該当します。
もっとも,辞書的な意味の婚約と,法的な意味での婚約とは内容が異なります。すなわち,法律上(裁判上)問題となる婚約とは契約であるため,契約が成立していると認められることが必要になります。具体的には,男女相互が真剣に若しくは,誠心誠意をもって,将来婚姻(結婚)することを約束した場合に限り,婚約(婚姻予約)として法的に保護すべきであると考えらています。この「法的保護すべき」という意味は,相手方が正当な理由なく,契約上の義務を違反した場合には損害賠償を請求することができると意味です。男女間で「将来結婚しようね」と約束しあっていたとしても,若い男女であれば,そのような口約束を行うことは頻繁にあると考えられるため,そのようなカップルすべてに別れたときに損害賠償を支払うべきとするのは適切でないと考えられているため「真剣」さや,「誠心誠意」さが別途必要であると考えられています。
2 婚姻の成否における判断要素について
では,法的な観点からどのような事情を考慮して,「真剣に若しくは誠心誠意をもって婚姻することを約束した」のか否かを判断するのでしょうか。
古い裁判例ではありますが,過去の裁判例での判断要素をみると,当事者の合意があることに加え,その合意が親族,友人,職場等の第三者に対しても明らかされているか否か,同居の有無,婚姻指輪(単なる指輪よりもイニシャルなどが刻印されている指輪であるかということも重要になります。)の購入の有無,結納を行ったか否か,式場を予約しているか否か,継続的な性交渉の有無,合意時の当事者の年齢,これまでの交際期間及び内容などを総合的に考慮して判断をしています。よく,「結納を行っていないので婚約は成立しない」などと考えられている方もいらっしゃいますが,婚約の成立には必ずしも結納を行わなければいけないわけではありません(最近では結納ではなく,両家の顔合わせなどの方が多いと思われます。)あくまでも結納を行ったことは婚約が成立したことを基礎づける要素にしかすぎません(重要な要素であることは間違いありません)。
3 今回のケース
ご相談者様のケースでは,結納はまだ行っていないもの,交際期間も2年以上であり,すでに両親への挨拶(おそらく,「結婚させてください」という挨拶なのでしょう。)や同居などを行っており,かつ,婚約指輪の購入,結婚式場の予約など結婚に向けた具体的な関係が形成されていると思われるので,難しいところではありますが,婚約が成立していると判断される可能性の方が高いのではないかと考えております。
このような,婚約破棄のトラブルでは,当事者のみならず,両家の親族も巻き込んだトラブルに発展しかねないため,是非一度,弁護士にご相談ください。