弁護士コラム

2018.05.22

人身事故における損害について(総論)

<ご相談者様からのご質問>

 昨日,交差点で停止していたところ,後ろから自動車に衝突されてしまいました。相手は,脇見運転をしていたようで,ブレーキをかけずにぶつかってきたので,衝突の衝撃で首や腰を痛め,足首を骨折してしまい,病院で入院をしています。医者の先生からは,事故の衝撃で首の骨や腰の骨が頸椎を圧迫していることや,足首は複雑骨折であるため,後遺症が残るかもしれないと言われました。会社員なのですが,現在入院しており,仕事も休んでいる状況です。また,退院後も後遺症が残ってしまった場合,仕事に影響が出るのではないか,それについてはきちんと賠償してもらえるのか等不安がいっぱいです。

 

<弁護士からの回答>

 これまでは,物損事故についてご説明させていただきましたが,今回からは,自人身事故(人身傷害事故)についてご説明させていただきます。物損事故については,修理費や自動車の時価が損害の中心でしたが,人身事故の場合には,事故により被る損害が物損事故と比較して多岐にわたります。そこで,本日は,人身事故の場合に発生しる損害の種類等について総論的にご説明させていただきます。

 

1 積極損害

 交通事故の損害は大きく分けると積極損害と消極損害に分けることができます。積極損害とは,交通事故(不法行為)に遭ったことにより被害者が支払いや負担を余儀なくされた損害をいいます。

 事故により病院に通院した際の治療費,入院を余儀なくされた場合の入院費等の治療関係費については積極損害として認められることになります(治療関係費については,治療の期間と関連して,加害者側の保険会社がいつまで治療費をふたんしてくれるのかという点が問題になることが多いです。)。また,通院のために要する通院交通費用,入通院に際し,付添看護を要する場合には付添費用,重度の後遺症が残ってしまった場合の介護費用,事故でお亡くなりになってしまった場合の葬儀費用等が,一般的に積極損害として認められます(個々の損害費目についての問題点等については後日ご説明させていただきます。)。

 

2 消極損害

消極損害とは,交通事故に遭わなければ得られたと認められる金銭や利益が,事故に遭ったことより得ることができなくなった損害をいいます。

消極損害は大きく分けると,事故による治療期間中,休業を余儀なくされたことによる「休業損害」と,事故が無ければ得られたであろう利益が事故によりお亡くなりになってしまった場合や,後遺障害が残ってしまった場合に,得ることができなくなったことによる損害である「逸失利益」が認められることになります。

休業損害と逸失利益については,損害を算定とする基礎となる収入をどのように判断するかという点(自営業,専業主婦,求職中の人)が問題になり,後遺障害逸失利益の場合には,残存した後遺症が,どのような後遺障害と認定されるのか(それにより労働能力がどの程度喪失されるのか)という点が問題になります。

 

3 慰謝料  

  最後に,人身事故の場合には,物損事故と異なり,事故による精神的苦痛を被ったとして,慰謝料を請求することができます。具体的には,事故により入通院を余儀なくされたことによる慰謝料,後遺障害が残ってしまったことによる慰謝料,事故によりお亡くなりになってしまったことによる慰謝料が認められることになります。被害者ご自身で相手方保険会社と交渉する際には,この慰謝料の金額が問題になることが多く,弁護士が代理人で入ることにより,損害額が大きく変わることが多いため,慰謝料に関し疑問に思われている被害者の方は是非一度弁護士にご相談いただいたほうがよいでしょう。

2018.05.21

加害者側の保険会社について

<ご相談者様からのご質問>

 先日,交差点で停車中に後ろから追突されました。加害者の方はきちんと謝罪してくださって,今後は,加害者の保険会社が示談も含めて対応するとのことでした。疑問に思ったのですが,なぜ,保険会社が示談の代行のようなことをしているのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 交通事故の被害者の方からご相談いただく際に,「加害者の保険会社の対応が不満」であるとご相談いただくことが少なくありません。今回は,保険会社が示談交渉を代行することができる根拠についてご説明させていただきます。

 

 まず,原則として当事者間で紛争が生じた場合には当事者同士で話し合いを行い,当事者で協議って解決することが困難である場合には,第三者が当事者の代理人として相手方と話し合うことで解決の方法を模索することになります。第三者が代理人として活動する際には,弁護士法により規制がなされており,弁護士法72条において,弁護士以外の者が報酬を得る目的で他人の法律義務を業として行うことを禁じており,報酬を得て他人の法律問題について,代理人として活動することができるのは弁護士に限られています。

 加害者側の保険会社が示談代行をすることについては,保険会社は弁護士ではなく,示談代行サービスという保険をつけて保険を販売しており,報酬を得る目的や,業として行われることになるため,弁護士法に違反しているのではないかと疑念が生じ,過去には問題となっていました。

 もっとも,現在では,加害者側の保険会社が示談代行を実施することは弁護士法に違反していないと考えられています。その理由としては,自賠責保険や,任意保険において,被害者の直接払請求権というものが認められており,建前上,交通事故の被害者は加害者が契約している保険会社に対し,直接損害を請求することができるとされたため,保険会社が対応することは,「他人」の法律事務ではなく,自身の法律事務であとされ,弁護士法72条に抵触しないとされたからです。

 このように,保険会社が示談を代行することができる根拠が,被害者の直接払請求権によるものであることから,加害者の一方的な過失(停止しているところに衝突してきた場合等)がある場合には,相手方に損害賠償請求権が発生しないため,被害者側の任意保険会社は示談代行することができず,ご自身で加害者側の保険会社と交渉する必要があります。もっとも,現在の任意保険には,基本的に弁護士費用特約がついており,大きな事故など例外的な場合を除き,費用を負担することなく,弁護士を依頼することができますので,事故に遭われた際には,是非弁護士にご相談ください。

2018.05.20

物損事故の問題点(休車損害について)

<ご相談者様からのご質問>

 私は運送会社を経営しているのですが,私の会社の従業員が,仕事中に後ろから追突されてしまいました。幸い,従業員にけがはなかったのですが,車が大破してしまい,廃車となってしまいました。先生の話では,廃車(全損)の場合にはその車の時価を請求できるとのことですが,運送トラックが1台廃車になったことで,うちの会社の売上も下がってしまうのですが,これについては請求できないでしょうか。

 

<弁護士からの回答>

 これまでご説明したとおり,物損事故の場合には,原則として,被害車両の所有者が,修理費用若しくは自動車の時価を損害として請求できるにとどまりますが,会社が被害車両を用いて営利活動等を行っている場合には,当該車両が使用できなくなることにより,会社に損害が発生することになります。このような場合には,要件を満たすことにより,休車損という損害を請求することができますので,本日は,休車損についてご説明させていただきます。

 

 休車損とは,交通事故により損傷した自動車を修理若しくは買い替えるために要する相当な期間,当該車両を使用(運行)することができなくなったことにより,本来得ることができた利益を得ることができなかったことによる損害のことをいいます。

1 休車損の要件

 この休車損については,全ての場合に認められる損害ではありません。まず,休車損害が請求できる対象となる車両は,バス,トラック,タクシー等の営業車であることが必要です(いわゆる「緑ナンバー」の車などがこれに当たります。)。このような営業車ではない自動車(例えば個人事業用に使用している普通車)の場合には,通常,代車を手配してもらうことにより,営業を実施することは可能であるため,休車損は発生しません。

 また,営業車両が損害にあった場合の全てに休車損が認められるというわけではなく,①被害者が保有している車両の中に,遊休車や,予備車などの代替車両が存在しないこと②他の保有車両の運航スケジュール等を調整しても,当該事故車両の業務の穴埋めをできなかったことが認められた場合には,休車損を請求することができます。①と②が認められない場合には,事故が原因で利益を得ることができなかったと認められないため(法律上「因果関係」が認められないといいます。),休車損を請求することはできません。

2 休車損の金額

 上記,休車損が認められる要件を満たす場合に,加害者に対し請求することができる休車損の金額についてですが,事故前直前の1日当たりの売上から経費を引いた金額について休車日数分の金額を請求することができます。1日あたりの売上については,事故日直近3か月前の売上合計を90日で割ることで算出するのが一般的です。また,経費については,当該事故車を使用しないことで支払いを免れることになった経費をいい燃料費,道路使用料や,休車にともない運転手も仕事を休んだ場合には,人件費についても経費として計上することになります。休車日数については,修理された場合には,修理工場への入庫から出庫までの期間とされ,全損となり買い替えが必要となった場合には,買い替えに通常要する期間とされます。

 

 このように休車損を請求するためには非常に複雑な手続きになりますので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.05.20

[危険運転致死傷」「過失運転致死傷」の違いは?

【相談事例④】

東名高速道路でのあおり運転による死亡事故から1年が経ちました,当初は自動車運転処罰法違反の「危険運転致死傷」ではなく「過失運転致死傷」だったことから,疑問の声があがっていましたが,違いが良く分かりません。どう違うのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 平成29年6月5日,神奈川県の東名高速道路で,トラックがワゴン車に衝突し,ワゴン車に乗車していたご夫婦がお亡くなりになってしまうという悲惨な事故が起きました。この事故が起きた原因は,加害者の男性が,被害者のワゴン車に対し,いわゆるあおり運転をし,ワゴン車の前に割り込み,停車させたことから,加害者の男性に対し,どのような罪が科されるのかについて,テレビ番組などで議論にもなったことを覚えています。この事件については,昨年10月に横浜地方検察庁にて,加害者(被疑者)を,「危険運転致死傷罪」にて起訴したとの報道もなされましたが,逮捕時の被疑事実は「過失運転致死傷罪」でした。そこで本日は,2つの犯罪の違いや,本件でなぜ「危険運転致傷罪」として起訴したのかについての,私の考えについてご説明させていただきます。

 

1 「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」について

 「危険運転致死傷罪」とは,自動車の運転により人を支障させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法と略されています。)に規定されており,アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為や,今回問題となる,人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為により人を死傷させた人を処罰するものになり,犯罪が成立すると,致死罪であれば1年以上20年以内の有期懲役,致傷罪であれば,1月以上15年以下の懲役が科されることになります。

 「過失運転致死傷罪」は同じく,自動車運転死傷行為処罰法に規定されており,自動車の運転上必要な注意を怠ったことにより,人を死傷させた場合に処罰するものであり,1月以上7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金が科されることになります。

 このように,「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」では,科される刑罰について,大きな差があることから,東名高速での事故の際の逮捕事実が「過失運転致傷罪」であったことから,成立する犯罪について非常に注目される事態となりました。

2 成立する罪名について

 テレビ番組等では,加害者に対し,殺人罪を適用することができないかということも議論されているのも目につきました。確かに,処罰感情からすると殺人罪として処罰したいという気持ちも分からなくもないですが,進路妨害して停止させた加害者に,殺意(人を殺してしまっても差し支えないという認識)まで認めるということは難しいので殺人罪での立件(起訴)は難しいのではないかと思います。

 また,警察の逮捕段階で,「過失運転致死傷罪」という罪名であったことについては,今回のようにどのような犯罪成立するか難しいケースでは警察の逮捕段階と起訴段階では異なる罪名になるということは珍しくはありません。

 今回の事件でのいちばんの争点は,加害者の行為が,危険運転致死傷罪の「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」に該当するかという点と,その行為と被害者の死亡との間の因果関係(原因と結果の関係をいいます。)が認められるという点にあると思います。この争点については,あくまでも,私個人の意見ですが,あおり運転により前に割り込み走行を妨害し,「高速道路で停車させるという重大な交通の危険を生じさせる速度」で運転したことにより,後続の車両が衝突し,死亡するに至ってしまったということは十分に成り立つため,「危険運転致死傷罪」で起訴したことは十分に間違っていないのではないかと考えています。

 もっとも,今回の事件では,「危険運転致死傷罪」が本来的に想定している犯罪対応とは異なる事故対応であることは間違いありません。また,近年あおり運転が横行しており,それにより今回のような重大な事故が起きてしまっている現状をなんとかしなければいけないのではないかと考えており,立法によりあおり運転を行ったこと自体に対し,厳しい制裁を科すなど,あおり運転自体をなくす方策が必要なのではないかと感じています。

2018.05.19

物損事故の問題点(多数当事者の事故)

<ご相談者様からのご質問>

 トラック会社に運転手として勤務しているのですが,先日大きな事故に遭ってしまいました。県道を会社のトラックで業務で走っていたのですが,隣の車線を走っていた車が急に車線変更してきたためぶつかってしまいました。ぶつかった衝撃で相手の車(運転手が所有者です。)は県道沿いの民家の壁に衝突し,壁に穴が開いてしまいました。また,私が運転していたトラックも信号機にぶつかってしまい,信号機が倒壊してしまいました。

 これだけの大きな事故ですが,奇跡的にけが人は1人もでませんでした。これだけ大きい事故だと相手方との間で修理費だけ話し合うということではすまないと思うのですが・・・・

 

<弁護士からの回答>

 自動車は非常に速い速度で動いていることからひとたび交通事故が起きた場合には,ご相談者様の事例のように,多数の人や物を巻き込んだ大きな事故になってしまう可能性も否定できません。そこで,今回は,多数の人を巻き込んでしまった交通事故における,処理についてご説明させていただきます。

 

1 損害賠償を請求できる人

 まず,交通事故により所有している自動車を損壊させられた人,すなわち自動車の所有者は損害賠償請求権者です。したがって,ご相談者様の事例では,相手方車両の運転手がその車を所有しているとのことなので,相手方には損害賠償請求権が発生します。一方,ご相談者様はトラックを所持しておらず,トラックの所有者はご相談者様の勤務している会社であるため,ご相談者様は損害賠償請求権を持っているわけではなく,会社が持つことになります。また,今回の事例では,会社には車両が使えなくなったことによる損害(休車損といいます。)が請求できる可能性がありますがこれについては次回ご説明させていただきます。

 つぎに,本件では相手方の車両が民家の壁を損壊しているため,民家の所有者も壁の修復費用等を損害賠償として請求することができます。また,ご相談者様が運転するトラックが信号機に衝突し,倒壊してしまっているので県や国土交通省は信号機の損害を請求することができます。信号機だけでなく,ガードレールや標識,電柱などは皆さんが想像しているよりも非常に高額で時には数百万円もの賠償請求がなされる場合もあるので,対物賠償保険については必ず無制限の保険に入っていた方がよいでしょう。

 

2 損害賠償請求義務を負う人

 次に,損害賠償を支払う義務がある人ですが,まず,事故の当事者である運転手は当然賠償義務を負います。それだけでなく,今回のケースでは,ご相談者様は会社の業務として交通事故を起こしてしまっているので会社は使用者責任(民法715条1項本文)を負うことになります。

 

 3 請求できる(請求される)金額について

 今回の事故では,ご相談者様と相手方が運転手の双方に過失がある事故であることから,被害者(損害賠償を請求することができる人)は,被った債権額を過失割合に応じて各加害者に請求しなければならないのでしょうか。結論からお伝えすると,被害者は当事者間の過失割合に関係なく,損害額全額を,賠償義務を負う人に請求することができます。ご相談者様の事例では,民家の壁を壊された人は,ご相談者様,相手方,さらに,ご相談者様の勤務する会社の誰に対しても損害額全額を請求することができます。これは,複数の人が不法行為を行っているいわゆる共同不法行為においては,加害者は全額を支払う責任(不真正連帯債務といいます。)を負わせ,被害者には誰に対しても全額請求できるようにし,被害者救済を図るべきであるとの考え方に基づいています。

 したがって,被害者から請求された加害者(若しくは,会社)は,被害者の被った損害を全額支払う必要があります,もっとも,加害者は,自己の過失割合を越えた範囲の金額については,他の加害者に請求することができます(これを「求償権」といいます。)

 このように,多数当事者が巻き込まれる事故の場合には,誰に対し請求できるのかという複雑な問題がありますので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.05.18

物損事故の問題点④~慰謝料について~

<ご相談者様からのご質問>

  先日,長年乗っていた愛車にぶつけられてしまいました。何年も乗っていて非常に愛着のある車ですが,廃車にするしかなさそうです。とてもショックなのですが,精神的苦痛を被ったとして,慰謝料などは認められないのでしょうか。

 

<弁護士からの回答>

  物損事故に遭われた方がご相談に来られた際に,ご相談者様と同じように慰謝料を支払ってもらえないのかというご相談が少なくありません。結論から申してしまうと,物損事故の場合には,慰謝料が認められることはほとんどありません。

  そこで,本日は,物損事故における慰謝料についてご説明させていただきます。

 

 慰謝料とは,不法行為(交通事故)により,精神的苦痛を被った場合にかかる苦痛を損害として金銭的に補填するためのものです。この点,ご相談者様のように,事故により愛用してきた車両が使えなくなったことにより,物損事故であっても事故による精神的苦痛を被っていることは否定できません。しかし,自動車の物損事故においては,修理費若しくは当該車両の時価(全損の場合)等の財産的な損害が填補されたことにより,精神的苦痛も同時に填補されていると考えられています。

したがって,自動車の物損事故において,財産的な損害を越えた慰謝料が認められることはありません。

 このように,自動車の物損事故の場合には,慰謝料の支払いが認められることはありませんが,例外的に,①事故により飼っているペットが亡くなってしまったり,ケガをして後遺症が残ってしまった場合や,②事故により墓石が損壊してしまった場合などには物損事故であっても慰謝料が認められています。

 ①のペットについては,ペットを飼われている方からは異論が出るかもしれませんが,法律上,ペットは「物」として扱われます。過去の裁判例では,この「物」である側面のみ強調され,ペットの時価のみが損害であるとされ,長年育て飼い主の愛着が増したペットのほうが,時価が低いと判断するものもありました。

しかし,近時の裁判例では,ペットは「飼い主との交流を通じて,家族の一員であるかのように,買主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくない」として,ペットが亡くなった場合や後遺症が残ってしまった場合には,慰謝料を認めています。

 また,②の墓石に関しては,「先祖や故人が眠る場所として,通常その少輔者にとって,強い敬愛追慕の念を抱く対象となる。」として,墓石が壊れたことによる精神的苦痛の賠償を認めています。

 このように,例外的に,その物に特別の愛着を抱くことが一般的に争いがない物については,例外的に物損の慰謝料が認められますが,自動車に関しては愛着を持たれている方がいらっしゃることは事実ではありますがそれが一般的に争いがないとまでは認められない以上(単に移動手段としか捉えていないかたもすくなからずいらっしゃるでしょう。),自動車の物損における慰謝料の請求は認められないでしょう。

 もっとも,前回お伝えした通り,事故に遭った車の内容によっては,評価損が損害として認められる場合もあるので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.05.17

物損の問題点③~評価損について~

<ご相談者様からのご質問>

  先日,買ったばかりの新車にぶつけられてしまいました。加害者の保険会社の人は,きちんと修理代金は払いますとおっしゃっていただいているのですが,せっかくの新車だったのに,これで事故歴や修理歴が記録されてしまい,事故車になってしまうのがとてもショックです。事故車になったことについても何か請求できないのでしょうか。

 

<弁護士からの回答>

  物損事故の場合,基本的に修理費用が当該交通事故の損害と判断されます。しかし,ご相談者様のように,事故歴や修理歴が記録されることにより,自動車の価値全体が下がるという事実は否定できません。そこで,本日は,物損事故における評価損についてご説明させていただきます。

 

  物損事故にあった場合,修理により,外観や性能が回復することが一般的であるため,「欠陥が認められない」「性能や外観の低下がない」などとして,当該車両に事故歴,修理歴が残ることによる損害については認められないとされた裁判例も過去には存在しました。

  もっとも,自動車は非常に精密かつ複雑な構造をしており,かつ,骨格部分等内部がどのようになっているのかについては,修理の際に正確に把握することは困難であるといえます。したがって,修理されたといっても,完全に修理されているとはいえない可能性があり,隠れた損傷があるかもしれないということや,修理後車両を使用していく際に,無事故の自動車よりも不具合が発生しやすくなるのではないかという懸念が残る以上。事故車であるということ自体により,現実門隊として,中古車市場において価格が非常に低く評価されてしまうのは事実です。

  したがって,一定の場合には,修理歴が存在することによって価値が下がったことによる損害(評価損)が裁判例においても認められるケースが多くなってきました。この評価損(格落ち損ともいいます。)ですが,上記のように修理することが前提となっていますので,修理することができない全損事故の場合には,損害として認めることができません。

  また,全損事故でない場合であっても,全てのケースで評価損が認められているわけではありません。当該自動車が初年度登録から何年間経過しているか(3年以上経過している自動車の場合,認められる可能性が低くなる印象があります。)走行距離がどの程度あるか(距離が多いほど認められない方向に働きます。),車両のどの部分に損傷があるか(骨格部分に損傷がある場合には認められやすい方向に働きます。)など様々な事情を総合的に考慮して判断することになります。 

  また,評価損が存在すると認められた場合にどの程度損害額が認められるのかについては,修理額の20%~30%と判断するもの(これが一般的です。)や,中古車販売価格等を調査したり,修理業者等に事故歴があることによる評価の下落分を査定してもらう等様々な方法があり,高級外車の場合等は比較的高額な評価損が認められる場合もあります。

  いずれにせよ,評価損の請求については非常に専門的な分野なので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.05.16

親権者の判断基準⑤

<ご相談者様からのご質問>

 勝手に連れ去ってしまうとダメなんですね。でも,そもそも妻が別居する際に子どもを実家に連れて行っているのはどうなのでしょうか。それも違法な連れ去りに該当するのではないですか。

<弁護士からの回答>

 離婚問題で夫側からのご相談の場合に多く聞かれるご質問として,ご相談者様のように,妻が子どもともに,同居していた住居から別居したことで何か追及することができないかという点があります。今回は,離婚する際に子どもを連れ出して別居を実施することの適法性についてご説明させていただきます。

 離婚を考えている夫婦の一方が子どもを連れ出して別居をする行為(いわゆる「連れ去り別居」といいます。)については,これまでご説明してきたとおり,親権者の判断において現状維持が非常に大事であるとの考えから,現状維持を確保するためにいわば連れ去ったもの勝ちであるとの認識が広まり,連れ去り別居が横行することになりました。

 しかし,親権者の判断はあくまでも子の福祉に適しているか否かの判断であるため,子のことを考えず,ただただ親権が欲しいがために連れ去る行為が容認されてしまうと,子の福祉を害することになってしまいます。
 したがって,現在では,連れ去り別居に関しても,直ちに適法であるとは判断されず,別居するに至った経緯等が慎重に判断されているのが現状です。

 具体的には,従前の監護状況(連れ去った親が主たる監護者か否か監護能力に問題がないか否か。),や,子の年齢,別居に至る経緯(別居せざるを得ない状況が会ったのか否か。)別居の時期(子どもに影響を及ぼす時期であるのか否か。)別居先(遠方か否か),子の監護について夫婦間で話し合ったか否か,別居後の非監護親との面会交流の有無,別居後の未成年者の心身の状況等を総合的に考慮することになります。

 別の機会にもご説明しますが,相手方に無断で連れ去り別居を実施した場合,相手方は基本的に,子どもを確保すべく,子の監護権者の指定及び子の引渡しの審判を家庭裁判所に申し立てることになります(緊急性が高い場合には保全処分の申立てもなされます。)。このように連れ去り別居により相手方との関係が紛争状態に発展することも否定できないため,お子さんを連れての別居に関しては,許容されるような状況に該当するか否かについては,別居を行う前に慎重に判断する必要があるため,是非一度,弁護士にご相談ください。

2018.04.20

アパートの騒音クレームについての対応

【相談事例③】

アパートに住んでいるのですが,同じ隣人から管理会社や警察を通して騒音の苦情がきているが、自分としては身に覚えがなく,なるべく音をたてないように注意をしていたのですが、直接苦情を言われることはないのですが,先日,娘の学校にまでクレームの電話をしてこられるなどとても迷惑しています。娘と2人暮らしなので,とても不安です。どのように対処すべきでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 マンションやアパートで生活する中で隣人の騒音トラブル等で悩まされることは多いと思います。もっとも今回のご相談内容は,少し変わっており,騒音トラブルを起こしていると因縁をつけられてしまったケースです。今回は,一般的な騒音トラブルについてご説明するとともに,本件の具体的な解決方法についてご説明させていただきます。

 

1 騒音トラブルに遭ったら

 まず,隣人より騒音等がなされている場合には,通常ご自身で隣人の方に苦情を言いに行かれる方も少なくないと思いますが,苦情を伝えたことで相手から逆上され,騒音以外のトラブルになる可能性もありますのであまりお勧めはできません。騒音が確認された場合には,まず,可能な限り騒音に関する記録を残しておくことが必要です。具体的には,録音機器などがあれば,騒音が聞こえたと思ったら録音することや,騒音の日時,騒音の内容,騒音の次回等を毎回メモしておくこと等が有効です。

 騒音に関する記録が揃ったら,不動産の賃貸人(若しくは管理会社)に対し,隣人の騒音で困っているので改善して欲しいと求めることになります。その際,騒音の記録を示し,または1人ではなく同じマンションやアパートの他の住民の方と一緒に騒音被害を申し出るのが効果的です。賃貸人は,賃貸借契約に基づき,賃借人に対し,目的物を使用収益させる義務を負っており,他の住人が騒音出している場合には,他の住人が平穏に目的物を使用収益できるよう,対策を講じる義務があると考えられています。したがって,住民から苦情が出た際に,貸主や管理組合にて何ら対応をしない場合には,賃貸人の義務に反しているとして,契約を解除されてしまう可能性も否定できないため,複数人で苦情の申し出を行うことが適切であると考えられています。

 そして,賃貸人や管理組合から騒音を出している住人に対し,騒音を出さないように求めても改善しない場合には,賃貸人側に対し,問題の住人を退去するよう求めることになります(賃借人が他の賃借人を強制的に退去させる権限はありません。)。

 賃借人にも目的物を定められた用法にしたがって使用する義務を負っているところ,騒音に限らず悪臭など他の住人に迷惑を及ぼすことなく使用収益を行う義務を負っていると考えられるため,かかる義務に違反している場合には,賃借人の債務不履行に基づき解除することができることになります。

 もっとも,賃貸借契約の解除に関しては,賃借人の生活の根幹である住居を奪うことになりますので,解除が認められるためには,当該債務不履行が賃貸人と賃借人の信頼関係を破壊する程度の重大なものであるかという点が問題となります。騒音での解除の際には具体的な基準等があるわけではないですが,①騒音の程度(受任限度を超える程度の騒音であるか否か,各自治体が定める近隣騒音に関する環境基準等で定められている40デシベル以上か否か等が1つの基準になりえるのではないでしょうか。),②騒音の期間,③解除に至るまでの経緯(再三に渡り騒音をやめるよう求めたにも関わらず拒否しなかった場合等。)を総合的に考慮して判断することになろうかと思われます。

2 ご相談者様のケースについて

 ご相談者様のケースでは,隣人より,騒音トラブルを起こしていると因縁をつけられるだけでなく,お子さんの学校にクレーム等を入れているだいぶ迷惑極まりないい人であることには間違いありません。この点,学校にクレームを入れる等の行為は,目的物の使用収益とは関係する者ではないため,管理会社より中止するよう求めることはできないでしょう。しかし,お子さんの学校にクレームを入れたりする行為は名誉毀損などの行為に該当しうるため,警察に連絡し止める注意してもらうことや,弁護士を代理人として,相手方に対しそのような迷惑行為をやめるよう働きかけることは可能です。それでも迷惑行為が止まない場合には,同じアパートに住んでおり,相手の行動が激化した際に,取り返しのつかないことになりかねないため,引っ越すことなどを検討した方が良いかもしれません。その際には迷惑行為により,引っ越しを余儀なくされたと認められる場合には,引っ越し費用や慰謝料を不法行為に基づく損害賠償として請求することができます。とはいえ,クレーマーといつまでも関わり合いを持つということも避けたいと思われる方もいらっしゃると思いますので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.04.19

親権者の判断基準④

<ご相談者様からのご質問>

 妻との離婚を考えています。先月に妻が5歳の長男と一緒に実家に帰ってしまいました。
はじめのうちは,母親が育てる方がよいのではないかと考えたのですが,やはり自分が親権を欲しいと考えています。
先生の話では現在の監護状況が継続することが大事であるとのことでしたので,何としても子どもをこちら側に引っ張ってきたいと考えています。問題はないでしょうか。

<弁護士からの回答>

 前回ご説明したとおり,子の親権者の判断においては,現状維持,すなわち,現在生活している環境が特段問題なく,変更後の環境との優劣がない場合には,現状の環境を維持すべきであると考えられています。では,ご相談者様の事例のように現状を確保するために,お子さんをご相談者様側に引き戻すことは適切なのでしょうか。

今回は,違法な奪取行為が親権者の判断に与える影響について協議させていただきます。
  前回ご説明したように,現状維持については,親権者の判断要素となります。しかし,現状維持についてのみを優先してしまうと,現状維持を確保するために,子どもを連れ去ることにより監護実績を確保するだけで,親権者の判断にとって有利な状況を作出することが可能になってしまい,連れ去りが横行してしまい,子の福祉を著しく害することになってしまいます。

 そこで,親権者の判断においては,違法な連れ去りを行った場合には,親権者としての適格性を欠くとして,親権者の判断においては非常に不利な状況に陥ることになってしまいます。

 具体的には,面会交流中に子どもを引き渡さずに拘束したまま返さない場合や,子を連れて別居した妻から,実力行使により子を連れ去る行為や子の監護について夫婦で協議していたにも関わらず,その協議に反し,事実上監護状態を作出する行為などは,違法な連れ去り行為等に該当すると判断されています。特に最初にあるように,実力行為により子どもを奪取する行為は,親権者であったとしても,未成年者略取罪として犯罪行為に該当しうる行為ですので,絶対にやめた方がよいでしょう。

 このような,違法な連れ去り行為等を行ってしまうと,相手方が弁護士に依頼をした場合,直ちに,子どもを引き渡すよう,裁判所を通じて求めてきます(子の引渡しの審判といいます。
審判については別の機会にご説明します。)。そして,違法な連れ去り行為を行った当事者に対しては,親権者の判断において非常に不利になってしまうばかりか,親権者として認められなかった後の面会交流の条件面においても一度違法な連れ去り行為を行っている以上,信用性に欠けるとして非常に制限された面会交流しか認められない場合や,程度によっては面会交流が認められない可能性もでてきます。

 ご相談者様の事例においても一定程度,相手方の監護下における生活が継続している以上,強制的に連れ去ってしまう行為は,違法な連れ去り行為と判断されてしまう可能性が髙いといえます。別の機会にもご説明しますが,親権について固執するのか,親権者という形ではなく面会交流によりお子さんとの交流を実現すべきであるのかについては,十分に考えなくてはいけない事項ですので,是非一度弁護士にご相談ください。

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