弁護士コラム

2018.06.30

破産に関するよくあるご質問⑤

【ご相談者様からのご質問】

 借金がかさみどうしようか悩んでいましたが,これまでの先生のお話を聞いて破産をしようかと考えています。ですが,私は仕事上,月に1~2回は飲みに行かなくてはいけません。破産をしようとしているのに飲み会なんて許されませんよね。

 

【弁護士からの回答】

ご相談者様からのよくあるご質問に対する回答はひとまず今回で一区切りです。ご相談者様のように,破産する際の日常の振舞い方についてのご質問の多いので回答していきたいと思います。

 

Q13.破産の申し立てを行っている間は,飲み屋などにいってはいけませんよね?

A.結論からお伝えすると,お酒を飲みにいったりすること自体が制限されるわけではありません。お仕事の関係で避けられない飲み会もあるでしょう。しかし,破産をして債務を免責するのは,あくまでも破産者の経済的な再建を図るためであるため,裁判所において,免責を認めるか認めないかの判断において,債務が無い状態で,きちんとまっとうに生活することができるのかという点も見られています。具体的には,申立てを行うまでの間,毎月,家計表を作成してもらい,債務の返済がない状態で,自身の収入に見合った支出で生活をすることができることを裁判所に示す必要があります。したがって,収入に見合った範囲内であり,適切な金額(月に2~3万円程度ではないでしょうか。)であればお酒を飲みにいったとしても何ら問題はありません。もっとも,キャバクラや風俗などでお金を使ってしまうことは浪費行為に該当するため,少なくとも破産手続きが終了するまでは控えておいた方がよいでしょう。

 

Q14.破産した後にギャンブルをすると逮捕されてしまうのですか。

A.逮捕されることはありませんが,控えておいた方が良いでしょう。

まず,破産の申し立てを行っているときときや,破産手続中には,ギャンブルだけなく,浪費や風俗などにお金を使うことはくれぐれもお控えください。その程度がひどい場合にはせっかく破産を申し立てたにも関わらず,免責が認められなくなってしまう可能性があります。一方で,破産手続きが終了した後に,ギャンブルを行ったり,浪費等をしたとしても一度認められた免責決定が取り消されたり,何らかのペナルティーが科せられることはありません。

 しかし,ギャンブルにしろ浪費にしろ,破産をする前と同じ生活をしていれば,ほとんどの場合が,収入では生活することができなくなってしまうでしょう。そして一度破産している以上,ブラックリストに載っているため消費者金融からは借り入れができず,ヤミ金など違法な高利貸しなどから借り入れを行ってしまい,違法な取り立てなどで取り返しのつかないことになってしまう可能性も否定できません。法律上も破産をしてから7年が経過しないと原則として再び破産をすることはできません。もう二度と借金で困らない様に,破産が認められた場合には自分の収入に見合った生活を心がけ,新しい人生を有意義なものにされた方がよいと思います。

2018.06.29

破産に関するよくあるご質問④

【ご相談者様からのご質問】

 これまでの先生の回答を見ていると,「破産は悪いこと」というイメージは間違っていたとわかりました。でも,借金を基本的に返さなくて済むのに,今までと同じような生活を送れるということはないですよね。

【弁護士からの回答】

 今回は,破産をしたことで,申し立てた人に対し,どのような不利益があるか否かについてご説明させていただきます。

 Q8.一定期間,選挙権が剥奪されてしまうということを聞いたのですが・・・

 A .そのようなことはありません。公職選挙法などにも破産をしたことで選挙権を失う等という記載は一切ありません。また,立候補する権利(被選挙権といいます。)についても何ら制限はなされないため,破産手続中であっても,立候補すること自体は理論上可能です。とはいえ,選挙には多額の費用が必要になり,そういった選挙費用に支出するお金があるのであれば,債権者に分配すべきと判断されるのが通常ですので,現実的には,破産手続中に立候補することは困難でしょう。

 

Q9.運転免許が取り消しになったりするのでしょうか。

A.そのようなことも一切ありません。そもそも,破産することと,運転免許の資格の適格性に何ら関連性はないと思います。こういった都市伝説的な噂がでていることからも,破産に対する間違った悪いイメージが浸透してしまっているのだなと感じます。

 

Q10.相続権がなくなることはありませんか?

A.民法には相続人たる資格を失う事由として,相続欠格事由及び相続人の廃除に関する規定がありますが(民法891条,892条),同規定の中に,破産をしたことで,相続人たる地位(推定相続人といいます。)を失うことはありません。なお,破産手続の開始決定前に被相続人が亡くなり,相続が開始した場合には,相続により受領した財産については,換価して債権者へ分配されることになります。逆に,破産手続き開始決定後に相続が発生した場合には,相続により得た財産は破産者が自由に処分することができます(これについては,別の機会にご説明させていただきます。)。

 

Q11.破産をすると,郵便物が自分の手元に届かなくなると聞いたのですが本当ですか。

A.管財事件というものになると,破産の手続きが続いている期間は,郵便物が管財人の弁護士の事務所に送付されることになります。別の機会にご説明させていただきますが,破産の手続きには,換価する財産がなく,免責(債務を免除することです。)させても何ら問題が無いと判断される「同時廃止事件」と,換価する財産がある場合や,免責させてもよいか調査する必要がある場合の「管財事件」の2種類があります。そして,管財事件になった場合には,管財人の弁護士において,破産者の財産を調査する必要があるため,破産手続きの期間中に限り,破産者宛の郵便物が管財人の弁護士の事務所宛に転送されることになります。もっとも,破産の手続きが終了すれば,管財人の転送は終わり,普通に郵便を受け取ることができます。

 

Q12.破産をすると引っ越しができないと聞いたのですが。

A.引っ越しができないわけでありませんが,裁判所の許可が必要になります。上記でご説明した管財事件になると,何度か裁判所に破産者自身が行く必要があり,かつ,管財人の法律事務所へ足を運ぶ必要があります。したがって,破産手続中に関しては,裁判所において破産者の所在を把握しておく必要があるため,引越しにより住所が変わる場合には事前に裁判所の許可を得てから引っ越しなどをする必要があります。

2018.06.28

破産に関するよくあるご質問③

【ご相談者様からのご質問】

 家族にはきちんと相談してから破産した方がよいということですね。考えてみます。ちなみに,私は,年金で生活しているのですが,その年金は大丈夫でしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 前回は,破産をした際に親族等にどのような影響が及ぶのかについてご説明させていただきました。今回は,主に年金に関するご質問に回答してきたいと思います。

 

Q6.破産をすると厚生年金や国民年金がもらえなくなると聞いたことがあるのですが・・・

A.そのようなことは一切ありません。

 まず,公的年金(厚生年金,国民年金)を受給することができる権利は,法律上差押えをすることが禁じられている権利になります(国民年金法24条,厚生年金法41条)。また,法律上,年金の受給資格の喪失事由として,破産や個人再生を行ったことという規定は一切ありません。したがって,破産をしたとしても,年金については,それまできちんと年金を収めていれば。受給することが可能です。もっとも,公的年金の入金された預貯金口座が債権者に知られている場合には,債権者から差押えをされてしまう可能性があることや,その預貯金口座の残高がある程度(20万円程度)ある場合には,債権者に換価される可能性がありますので注意が必要です(この点については別の機会にご説明させていただきます。)。

 

Q7.公的年金は何ら問題なく受給できるのですね。では,企業年金や個人年金についてはどうなのでしょうか。

A.まず,企業が,確定給付企業年金・確定拠出年金・厚生年金基金等の制度を採用している場合には,いずれも差押禁止財産となっているため,公的に年金と同様の扱いになります。これに対し,企業において,企業年金制度を採用しておらず,退職金の制度を採用している場合には,退職金の金額によっては,一定の金額を債権者の換価のために支払わなければならなくなる可能性もあります(退職金については,別の機会にご説明させていただきます。)

 また,企業年金ではなく,個人年金(保険会社などに個人的に支払っているものです。)については,解約した際に戻ってくる金額(解約返戻金といいます。)が一定の金額以上の場合には,個人年金を解約する必要が生じてくる場合もあります。

 いずれにせよ,破産の申し立てをする際には,ご依頼者様の契約されている保険に関する事項についてはきちんと確認する必要があるので,ご不安なことがあれば,弁護士にご相談ください。

2018.06.27

破産手続に関するよくあるご質問②

【ご相談者様からのご質問】

 破産をしたとしても周りの人には分からないものなのですね。ですが,まだ破産に関して不安なことはたくさんあるので色々教えてください。

 

【弁護士からの回答】

今回も破産に関するご質問に答えていきます。破産に関しては,基本的に破産というイメージが先行してしまいて抵抗があるのではないかと思います。破産に抵抗があるかたでも,きちんと説明して,破産に対するイメージを払拭してもらい,破産によう経済的な再建のお手伝いをさせていただく場合もございます。破産しようか悩まれている方がいらっしゃればご気軽にご相談ください。

 

Q4.私が破産することが両親にバレたくないのですが,バレずに破産をすることができますか?

A. 不可能ではありませんが,非常に難しいです。まず,破産をしようと考えている方のご両親が連帯保証人になっている場合には,家族には確実にばれてしまいます。また,破産の申立ての際には同居している親族や配偶者の不動産の有無にかんする資料(無資産証明書など)を提出する必要があるので,そういった資料を提出する際に,うまく理由をごまかして資料をもらえれば問題ないですが,なかなかうまくはいかないと思います。

 このように,親族や配偶者にバレずに破産をしたいというご相談は非常に多いのですが,進めていくどこかでばれてしまう可能性は非常に高いです(申し訳ありませんが絶対にバレずにできますとお約束することはできません。)。私としては,きちんとご両親や配偶者の方にも破産をして経済的な再建を行うと説明すれば理解してくださると思うので(実際に,弁護士の口からご両親や配偶者にご説明し,ご納得いただいたケースも多数存在します。)。きちんと事情を説明してから破産をした方がいいと思います。

 

Q5.私が破産をしてしまったことで,両親や,兄弟が借り入れをする際に不利になったりすることはありませんか?

A.問題になることはありません。破産をした場合,ご本人は信用情報に破産したことが記録されることになりますが(いわゆる「ブラックリスト」にのることをいいます。),それはあくまで破産をした個人のみであり,ご親族が借入を行う場合にはご親族自身がブラックリストにのっていなければ借り入れを行うことは何ら問題なく可能です。もっとも,破産をした人がご親族の保証人になろうとする場合には保証人になれない可能性がありますが,一度破産をしてしまっている以上,他人の債務を肩代りする可能性のある保証人にはならないほうが良いのではないかと思います。

2018.06.26

破産に関するよくあるご質問①

【ご相談者様からのご質問】

  先生のブログを拝見すると,要件を満たしているのであれば破産の手続きを選択した方がよいとのことでした。ただ,破産となると近所の人に破産したことがバレてしまわないかとか,破産後の生活でいろいろと制限があるのではないかと不安になってしまいます。

 

【弁護士からの回答】

借金問題に関するご相談において,ご相談者様のお話をひととおりお聞きして,「破産した方がよいでしょう」とアドバイスした際に,「破産はちょっと・・・」と抵抗を示される方が少なからずいらっしゃいます。

破産に抵抗を示される理由として,破産に対するイメージの悪さや間違った情報により,破産することができないとして返済が困難であるにもかかわらず任意整理など選択してしまうと,後々返すことができなくなってしまい,経済的再建が図れなくなってしまいます。そこで,今回から複数回にかけて,破産に関してよくなされるご質問について1つずつ回答していくことで,破産に対するイメージを変えていければと考えています。

 

Q1.破産をすることになったら,債権者が家に押しかけてこないか心配です。

A.以前にもお伝えした通り,弁護士が受任通知を送付すると,貸金業者は直接の取り立てや連絡が禁止されます。したがって,破産する旨通知したとしても通常の消費者金融の場合には自宅に押しかけてくることはありません。もっとも,個人的にお金を借りていた知人の人の場合には,返済を求め自宅に来る可能性は否定できませんので,個人の借り入れの方がいらっしゃる場合には,事前に弁護士にご相談ください(相手が感情的にならないよう,事前に電話などで説明することなどもできます。)

 

Q2.戸籍や住所に破産者としての記載が載ってしまうのですか?

A.そのようなことはありません。破産をしたとしても戸籍や住民票に破産したことがあるとの記載がなされることは一切ありません。もっとも,会社を倒産する場合には,会社の登記に破産したことにより閉鎖された旨の記録が残ることになります。

 

Q3.日経新聞などに破産したことが載ってしまうと聞いたのですが・・・

A.これも事実に反します。破産した事実が通常の新聞に載ることはありません。もっとも,裁判所に対し,破産の申し立てを行い,破産手続開始決定が出た後と,免責決定(債務の返済を免除する決定です。)が出た後の2回だけ,官報という,国の広報誌には名前が載ることになります。

  もっとも,官報を通読されているというかたはほとんどいらっしゃらないと思いますし,官報に掲載されるのは,破産や民事再生などを行った非常に多くの方と一律に記載されるものであるため,官報に名前が記載されることによる弊害は事実上ほとんどないと言ってよいでしょう。

2018.06.25

婚約破棄後の結納金の返還について

【相談事例⑩】

 息子のことで相談がありません。息子と付き合っていた女性との結婚が決まり,両家がそろって結納を行いました。その際,私たちより相手の家に対して,結納金として100万円お支払いしました。もっとも,結納が終わっても相手の家から,結納の半返しのお話しは一切ありませんでした。マナーがなっていないなと思っていたのですが,息子たちが幸せになればと思い我慢していましたが,先日,息子が,他の女性と関係を持っていたことが相手方にばれ,婚約が破談となりました。

 息子が原因で婚約破棄になるのはしょうがないのですが,結納金は,結婚が成立していない以上,返してもらうべきであると考えています。

 

【弁護士からの回答】

 前回にひきつづき,今回も婚約に関する問題です。婚約解消に関するご相談を受けるときに,よく問題になるのが,新郎側から新婦側に渡される結納金の問題があります。そこで,今回は結納金の法的性質などについてご説明させていただきます。

 

1 結納金とは

 結納金とは,日本の慣習に基づいて,婚約の成立の際に,男性側(新郎側)から女性側へ送られる金銭のことをいいます。また,結納の際には,結納金の他に,結納の品も女性側に贈られるのが一般的です。また,女性側からも,結納返しといって結納の品やお金について,1割に相当する品やお金を返したり(1割返し),半分に相当するものなどを返す(半返し)ことを行う慣習もあるそうです。結納金についてはそもそもいくらわたすのか,それに対して,いくら返すのかということが法律上決まっておらず,あくまでも慣習や両家での話し合いによって決まります。ご相談者様のように,結納を渡したのに相手方の家からお返しがないということをおっしゃられる方がいらっしゃいますが,法律上の問題ということではなく,マナーや考え方などの道義的な問題にすぎないため,半返しなどを強制することはできません。

 この,結納金については,民法などの法律に規定されているものではありませんが,その法的性質は,最高裁判所の判例において,婚姻が成立した場合に,当事者ないし当事者両家の間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与であるとしており,簡単にいうと,婚姻が成立することを条件とした贈与契約であると考えられています。

 したがって,婚姻が成立しなかった場合には,条件を成就していないので,結納金を受け取った側は,その結納金を返還しなければならないのが原則です。

 もっとも,婚姻の不成立(婚約破棄)に至った原因が,結納を支払った側のみにあると認められる場合には,婚約破棄の原因を作っておきながら結納の返還を求めるのは信義則に反するとして,結納金の返還は認められません。

 他方,婚約破棄の原因が,女性の側にも一部認められる場合には,過去の裁判例では,結納を支払った者の帰責性が,受け取った者の帰責性よりも小さい場合には返還を認めるとしているものもありますが,いずれにも原因があると認められ,優劣がつかないといった場合には,結納金の返還については認められる(もしくは一部認められる)のではないかと考えています。

 なお,婚姻が成立した場合には,条件が成就しているため,その後,婚姻関係が解消(離婚)したとしても,原則として結納金の返還は認められませんが,結婚(内縁後)わずか2か月で関係を解消した事例では,結納金の返還を認めた判例もあります。

 いずれにせよ,本件については,ご相談者様の息子さんの帰責事由により婚約が破棄されていることは明らかであるため,結納金の返還は認められないでしょう。それだけでなく,不貞行為により,婚約を破棄しているため,相手方より慰謝料の請求がなされる可能性があります。

2018.06.24

婚約破棄後の慰謝料請求について

【相談事例⑨】

2年ほど付き合っていた彼女に昨年末プロポーズをしました。今年の2月に同棲を始め,お互いの両親へ挨拶も済ませました。両家の顔合わせはや結納はまだしていませんが,婚約指輪の購入はすでに購入し,来年に結婚式をするために式場に仮予約を行っていました。もっとも,同棲し活を始めてから価値観の違いや将来の子育ての考え方などが合わないと思い,結婚することはできないと感じました。そこで,私から別れようと伝えましたが,相手は納得してもらえず,相手から弁護士をつけると言われました。今後、慰謝料など請求される可能性はあるのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 今回のご相談における争点は,「当事者間で婚約関係が成立していたか否か」です。すなわち,ご相談者様が別れを切り出した段階で,当事者間で婚約成立していると判断される場合には,婚約破棄に対する慰謝料等を支払う必要があると考えられます(婚約破棄の正当性の問題は残りますが,その点については,別の機会にご説明させていただきます。)。そこで,今回は婚約についてご説明させていただきます。

 

1 婚約とは

 婚約とは,辞書的な意味でいうと文字通り「結婚の約束をすること」をいい,例えば,当事者間で「結婚しよう」とプロポーズにより約束したことでも,辞書的な意味での婚約には該当します。

 もっとも,辞書的な意味の婚約と,法的な意味での婚約とは内容が異なります。すなわち,法律上(裁判上)問題となる婚約とは契約であるため,契約が成立していると認められることが必要になります。具体的には,男女相互が真剣に若しくは,誠心誠意をもって,将来婚姻(結婚)することを約束した場合に限り,婚約(婚姻予約)として法的に保護すべきであると考えらています。この「法的保護すべき」という意味は,相手方が正当な理由なく,契約上の義務を違反した場合には損害賠償を請求することができると意味です。男女間で「将来結婚しようね」と約束しあっていたとしても,若い男女であれば,そのような口約束を行うことは頻繁にあると考えられるため,そのようなカップルすべてに別れたときに損害賠償を支払うべきとするのは適切でないと考えられているため「真剣」さや,「誠心誠意」さが別途必要であると考えられています。

 

2 婚姻の成否における判断要素について

 では,法的な観点からどのような事情を考慮して,「真剣に若しくは誠心誠意をもって婚姻することを約束した」のか否かを判断するのでしょうか。

 古い裁判例ではありますが,過去の裁判例での判断要素をみると,当事者の合意があることに加え,その合意が親族,友人,職場等の第三者に対しても明らかされているか否か,同居の有無,婚姻指輪(単なる指輪よりもイニシャルなどが刻印されている指輪であるかということも重要になります。)の購入の有無,結納を行ったか否か,式場を予約しているか否か,継続的な性交渉の有無,合意時の当事者の年齢,これまでの交際期間及び内容などを総合的に考慮して判断をしています。よく,「結納を行っていないので婚約は成立しない」などと考えられている方もいらっしゃいますが,婚約の成立には必ずしも結納を行わなければいけないわけではありません(最近では結納ではなく,両家の顔合わせなどの方が多いと思われます。)あくまでも結納を行ったことは婚約が成立したことを基礎づける要素にしかすぎません(重要な要素であることは間違いありません)。

 

3 今回のケース

 ご相談者様のケースでは,結納はまだ行っていないもの,交際期間も2年以上であり,すでに両親への挨拶(おそらく,「結婚させてください」という挨拶なのでしょう。)や同居などを行っており,かつ,婚約指輪の購入,結婚式場の予約など結婚に向けた具体的な関係が形成されていると思われるので,難しいところではありますが,婚約が成立していると判断される可能性の方が高いのではないかと考えております。

 このような,婚約破棄のトラブルでは,当事者のみならず,両家の親族も巻き込んだトラブルに発展しかねないため,是非一度,弁護士にご相談ください。

2018.06.23

借用書がない場合の返済義務について

【相談事例⑧】

個人事業をしているのですが,8年前,事業がうまくいかなかくなったため,叔母から500万円借りていました。「母からは返せるときに返してくれればいいよ」と言われており,いつまでに返すというような取り決めもありませんでした。その後,叔母が亡くなり相続人から800万円を返すように言われています。亡くなった叔母との間には借用書も取り交わしていないので,法的には返さなくてはいけないのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 借りているお金の返済等についてご相談に来られる方の多くが,「契約書が無いので払わなくていいのですか?」と質問されるのですが,結論からお伝えすると,契約書がなくても,法律上は借りたお金を返さなくてはいけません。したがって,今回のケースでは,ご相談者様は,ご相談者様の叔母の相続人に対し,叔母から借りていた800万円を支払う必要があります。今回は契約書の要否や,金銭消費貸借契約についてご説明させていただきます。

 

1 契約の成立について

 民法で規定されている契約は売買契約,賃貸借契約や今回問題となっている消費貸借契約等13種類あります(これを,「典型契約」といいます)。この典型契約のうち,契約書の作成が義務付けられている契約は1つも存在しません。これに対し,保証契約(保証人になるための契約)については,他人の債務を背負う契約になるので法律上,書面を作成しなければ,契約の成立は無効になります。

 また,典型契約のうち,契約成立するために,口頭の合意のみであれば足りる契約を諾成契約といい,契約の成立に,口頭の合意に加え,目的物の引渡し等の物の移動などが必要になる契約を要物契約といいます。今回問題となっている金銭消費貸借契約は,お金を返還する約束(口頭の合意)に加え,貸主から借主に対する金銭の移動(貸渡し)が必要になるため,要物契約に該当します。

 このように,契約の成立自体については,諾成契約と要物契約という違いはあるものの,契約書を作成しなくとも契約は成立し,契約内容にしたがって義務を負うことになります。

 したがって,ご相談者様の事例においてもご相談者様と叔母との間で,800万円を借り入れ(貸渡し)及び返還の約束も行っているので,金銭消費貸借が成立し,ご相談者様は,叔母の相続人に対し800万円を返済する義務があります。なお,ご相談者様の事例では,返済時期について「返せるとき」というあいまいな形で合意をされていますが,このように返済時期を明確に定めない消費貸借契約も有効であり,民法591条1項により相当の期間を定めて返還の催告をし,相当期間が経過した時点で返還義務が生ずることになります。

 

2 契約書作成の必要性

  今回のご相談者のように,契約書が無いので返さなくてよいというような間違った考えの方が少なからずいらっしゃることは事実です。真実はお金を貸したのに,借りた覚えはないと嘘をつかれてしまうと,裁判によってお金を返すよう求めなければなりません。その際,お金を返して欲しいと主張する側において,契約の存在を証明する必要があるのですが,契約書がないと,お金を貸したことに関する証拠が存在せず,最終的に,裁判で負けてしまう可能性が非常にあります。もっとも,契約書がなかったとしても,相手の口座に入金した記録や,借りるまでのメールのやり取り等,契約の存在を契約書以外の事実から証明すること自体は可能ですが,一番トラブルを防ぐためには,契約書を作成しておくのが一番でしょう。

 したがって,大きな金額などを取引する場合には,きちんとした契約書を作成する必要があるため,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.06.22

離婚後の借金について

【相談事例⑦】

半年前に別れた夫が借金をしていたことが分かり,一緒に生活していたときの借金だから返済に協力するよう元夫の家族から連絡がありました。結婚していたときの給料や生活費の支払いについては全て夫が支払っていたのですが,どうやら夫の給料だけではやっていけなかったようで,私には内緒で借り入れを続けていたようです。当時は消費者金融からお金を借りていることを全く知らなかったし,このお金は返さなくてはいけないのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 日本での契約に関する責任については,個人責任,すなわち,契約を締結した当事者のみがその契約に基づく責任を負うという原則を採用しているため,夫婦であるとしても他の配偶者の契約上の責任を負うことはありません。もっとも,夫婦については,例外的に一方の契約上の責任が,他の配偶者にも認められると場合があります。そこで,今回は,日常家事に関する連帯債務についてご説明させていただきます。

 

1 日常家事に関する連帯債務について

 連帯債務とは,債権者に対して複数の債権者が連帯して債務を負担することをいい,例えば,不動産を購入するときに,夫のみの収入では銀行などのローンが下りないときに,夫婦で銀行から借り入れを行うときには,2人で住宅ローンを借り入れているので,連帯債務になります。通常,連帯債務を負うためには,上記の個人責任の原則から,自ら契約の当事者になる必要があり,自らの知らないところで勝手に連帯債務者になることはありません。

 もっとも,民法761条では,「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方はこれによって生じた債務について,連帯してその責任を負う。」と規定しており,他の配偶者が自らの知らないところで,日常家事に関する法律行為を行った場合であっても,その法律行為に関する債務については,連帯債務として責任を負うことになります。

 

2 日常家事とは

 では,民法761条の「日常の家事」とはどのようなものが含まれるのでしょうか。民法761条は日常家事に関する法律行為について連帯債務とすることで,取引の相手方を保護するための規定であることから,日常家事に該当するか否かは,客観的にみて日常家事,すなわち,夫婦の共同生活に必要な事項に該当するか否かを判断することになります。具体的には,子の養育,教育に関する費用,食料,衣類などの購入費用,光熱費などについては,日常家事に該当するとされています。

 

3 生活費のための借り入れについて

 では,ご相談者様の事例のように,元ご主人が結婚していたときに,生活費のために借り入れた債務については,日常家事に関する債務に該当するのでしょうか。たしかに,日常家事のために借りている以上,連帯債務となるとも思えます。

 しかし,先ほどもご説明したとおり,日常家事に該当するか否かは,客観的に,すなわち行為の外形から判断するため,「衣服や食料を買う」という行為とは異なり,「お金を借りる行為」が日常家事に該当するものではありません。生活費という日常生活に使う目的があるということは,あくまでも,借りる人の主観にすぎません。また,お金を貸す債権者としては,お金を借りる人が日常生活(生活費)に使うということを重視してお金を貸すわけではありません。その人の収入状況等をみて,返済することができるか否かを判断しており,現実的に,借りたお金を生活費に使おうが,他の借金の返済に使おうが,ギャンブルに使おうが,借りた人の自由であるため,日常家事として夫婦の連帯債務としてまで,債権者を保護すべき必要性はないといえます。

 したがって,日常家事のために借り入れた場合の借金ついては,日常家事に基づく債務には該当しないため,ご相談者様の事例においても,元ご主人の債務を返済する必要はありません。

2018.06.21

手抜き工事の際の損害賠償請求について

【相談事例⑥】

5年前の新築で家を購入しました(売主は,施工主とは別です。)。雨漏りや水道から水が漏れたりするのは欠陥ではないのでしょうか?他にも1年もせず壁にヒビが入っていたり,リビングの扉が閉まりにくくなったり,廊下も歩くとミシミシと音を立てるようになりました。

 建てた大手メーカー(施工主)の対応が悪く,何かと修理代を請求されます。明らかに手抜き工事をされているのではないかと思い,苦痛を感じています。

このようなケースは損害賠償を起こすことは難しいのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 せっかく購入した新築で,こういったトラブルが生じてしまうと,生活していく上で,とても大変な思いをされるだけでなく,気持ちとしてもいい思いはしないでしょう。今回は,不動産の欠陥に関するトラブルについてご説明させていただきます。

 

1 請求できる法的根拠

  まず,不動産を購入(売買契約)した場合に,目的不動産に瑕疵(欠陥)が認められた場合には,売主に対し,瑕疵担保責任として損害賠償や,修繕費用の請求が認められます。また,欠陥について,施工主の過失が認められた場合には,不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。

 

2 瑕疵担保責任について

売買契約における瑕疵担保責任については,瑕疵が「隠れた瑕疵」であることから必要になります(民法570条),隠れた瑕疵とは,買主が通常の注意力をもって発見することができない欠陥をいいます。具体的には,雨漏り,シロアリなどの虫食い,土壌汚染,基礎工事の傾き,土壌汚染などについては,隠れた瑕疵に該当することに争いはありません。この隠れた瑕疵が認められた場合には,買主は,瑕疵について,たとえ売主に全く過失がなかったとしても,損害賠償等を請求することができます(無過失責任)。もっとも,この瑕疵担保責任については,期間制限があり,引渡しの日から10年間(売主が宅建業者の場合には,引渡しの日から2年間)で時効になってしまいます。また,上記期間内にあっても,瑕疵を発見してから1年以内に行使をしなければ,損害賠償は認められません。

このように,宅建業者から購入する場合には,購入後,2年を経過した時点で発覚した瑕疵については,損害賠償等が認められないことになってしまいますが。新築の不動産の基礎構造の部分に関する瑕疵については,「住宅の寝室確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づき,宅建業者であっても,引渡し時より10年間は瑕疵担保責任を負うとされています。したがって,ご相談者様の場合でも,新築を購入している以上,売主は,10年間は瑕疵担保責任を負うため,修理費用については,本来であれば売主が負担すべき費用であると思われます。もっとも,瑕疵を発見してからすでに1年以上経過している部分については,請求することができないため,瑕疵を発見次第,早急に弁護士にご相談ください。

 

3 不法行為責任について

今回のご相談者様の事例では,施工業者である大手メーカーにおいて,手抜き講義がなされた可能性が否定できません。もっとも,売買契約自体は,メーカーとは別の売主との間で行っており,買主であるご相談者様とメーカーとの間には,直接の契約関係は存在しません。もっとも,平成19年7月16日最高裁判決では,建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事管理者(「設計・施工者等」)は建物の建築にあたり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての安全性が欠けることがないように配慮すべき義務を負うとして,設計・施工者等がその義務に違反して建築された建物に,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」があり,それにより,居住者等の生命,身体,財産が侵害された場合には,不法行為責任を負うと判断しました。また,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」については,平成23年7月21日最高裁判例において,居住者等の生命,身体,又は財産を危険にさらすような瑕疵であるとし,かつ,現実的に危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵を放置すればいずれは生命,身体,財産に対する危険が現実化することになる場合もこれに該当すると判断しました。

したがって,ご相談者の事例の場合にも,雨漏りや建物の歪み等について,その瑕疵の程度の問題はありますが,場合によっては,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当すると認められる場合には,売り主だけでなく,施工主の大手メーカーに対しても不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。なお,不法行為に基づく損害賠償請求については,「損害及び加害者を知った時」から3年間若しくは,不法行為の時から20年経過したときには請求することができませんが,瑕疵担保責任よりも,請求できる期間が有利になります。

いずれにせよ,不動産の瑕疵の問題については非常に専門的な事項が多々損害するため,是非一度弁護士にご相談ください。

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