弁護士コラム

2018.06.08

有責配偶者について⑤~有責配偶者からの婚姻費用請求~

【ご相談者からのご質問】

私は結婚しているのですが(子どもはおりません。),夫以外の他の人を好きになってしまい,その人と不貞までしてしまいました。その人はあまり収入がないので,別居後の生活がきちんとできるか心配です。ですが,インターネットで調べたのですが,私が別居した場合,夫から婚姻費用として一定の生活費がもらえると知りました。夫の収入はある程度あるので,何とか生活ができそうです。

【弁護士からの回答】

不貞行為については,夫だけが行うものではなく,妻が不貞行為を行うケースも少なくありません。婚姻費用についての具体的な内容や問題点については,別の機会でご説明させていただきますが,今回は,有責配偶者からの婚姻費用の請求の可否についてご説明させていただきます。

 

民法760条では,「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定しており,かかる規定から,夫婦の一方は,別居していたとしても相手方配偶者の生活費を婚姻費用として支払う義務があります。したがって,収入がある配偶者は,別居した他方の配偶者に対し,離婚が成立するまでの間若しくは,別居が解消するまでの期間については婚姻費用を支払う必要があります。

 では,相談事例のように,妻が不貞行為を行い別居した場合のように,有責配偶者が,他の配偶者に対し,婚姻費用を請求することは認められるのでしょうか。

民法752条では,「夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならない。」と規定されており,夫婦間には同居義務があることを定めています。

そして,裁判例では,自らが不貞行為を行ったことで婚姻関係を破綻させ,夫婦での同居することを困難にさせた有責配偶者であるにも関わらず,婚姻費用を請求することは,信義誠実の原則に反するとして,有責配偶者からの婚姻費用の請求がなされた場合には,請求を否定するか若しくは,通常の場合に認められる婚姻費用の金額から減額されるべきであるとしました。したがって,ご相談者様の事例のように,別居の原因がもっぱら不貞行為にある場合には,婚姻費用の請求は認められないでしょう。他方で,不貞行為をしてしまったものの,それ以前より夫婦関係が相当程度悪化していた場合や,相手にも落ち度がある場合には,減額された婚姻費用が認められる可能性があります。

このように,有責配偶者からの婚姻費用請求は原則として認められませんが,相談事例とことなり,別居した有責配偶者側に未成年の子がいる場合には,有責配偶者自身の生活費分の婚姻費用は認められないものの,子の生活費に相当する部分の婚姻費用は認められることになります。

このように,有責配偶者からの婚姻費用の請求は原則として認められません。そればかりか,不貞行為を行ったことにより,ご自身や,不貞行為の相手方において慰謝料を支払うことにもなるため,くれぐれもお控えいただいた方がよいでしょう。

 

2018.06.07

有責配偶者について④~離婚を実現するためには~

【ご相談者様からのご質問】

私の不倫が原因で妻とは別居して4年になります(子どもはいません。)。これまで妻に対しては,生活費以外に給料のほとんどを渡していましたし,今,住んでいる私名義の不動産についても妻に譲ろうと考えています。さすがに,これ以上妻と一緒にいることは考えていないのですが,やはり,離婚の原因が私にある以上,離婚は認められないのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 これまで,有責配偶者からの離婚請求が認められる要件についてご説明させていただきましたが,ご相談者様の事例のように,別居期間が若干短い等のように,離婚請求が認められる要件を充たさない場合であっても,直ちに離婚自体をあきらめなければならないわけではありません。そこで,今回は,離婚を実現するために考えられる方策についてご説明させていただきます。

 

 これまでご説明してきた,有責配偶者からの離婚の請求が認められないのは,あくまでも,訴訟での場面に過ぎません。したがって,有責配偶者であっても,協議により相手方が離婚することを承諾した場合は,離婚が成立することになります。

 したがって,有責配偶者において離婚を実現するための一番の方策は,協議により離婚を成立させることがもっとも重要であると考えられます。

 もっとも,現在は,インターネットの発展や,弁護士による無料法律相談の機会等が増えたことにより,有責配偶者からの離婚請求は原則として認められないということを,事前知識として有している方も少なくありません。したがって,協議により離婚を成立させるためには,相手方に対し,現時点で離婚に応じた方がよいと思っていただく必要があります。そのためには,相手方へ提示する離婚に関する給付(慰謝料や財産分与)や養育費等について,相場以上の金額や,法律上認められている以上の割合を提示する必要があると考えられます。特に,相手方配偶者が女性の場合には,離婚後の生活の安定が確保されるかについては,非常に不安になっていることが通常であるため,養育費の金額や,住居に関する条件(住宅ローンの支払いをこちらが行い,相手方に無償で住まわせることや,ときには住宅ローン完済後に不動産の名義を相手方に譲ることも検討した方がよいかもしれません。)については,相手方の要望に沿った形での条件に応じる必要があると思われます。

 もっとも,相手方としても,不貞行為等を行った本人からの提案では,感情的な対立もあって素直条件を提示しない場合も多いと思います。したがって,代理人である弁護士を通じ,相手方の希望する条件を出してもらうことから始めるべきであると考えます。

 相手方の配偶者ともしても,代理人を選任したことで,こちら側が離婚することに本気であると考えますし,今後,調停→裁判になった際の経済的,精神的負担等を考えて,離婚を前提とした話し合いを行ってくれる可能性が高まります。

 また,協議による,解決が困難であるとしても必ずしもあきらめる必要はありません。これまで,説明してきた有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件については,すべての要件を充たしていないと必ず離婚が認められないものであると判示した裁判例もあるのですが,すべての事情を総合的に考慮して判断するため,1つの要件を充たさないとしても,離婚の請求が認められるとした裁判例もあります。有責配偶者からの離婚請求が認められないのは,それを認めることが信義に反するという大前提からすれば,各要件にとらわれずに,総合的に判断し,離婚請求が信義に反していないのであれば離婚請求が認められると考えるべきであると考えが一般的になっています。現に,裁判例では,不貞期間や,不貞回数などの有責性の程度や,相手方配偶者にも破綻に至る原因がある場合,離婚を拒否する理由が単に,有責配偶者に対する敵対心しかない場合など,様々な事情を総合的に考慮して,離婚が認められるか否かを総合的に判断しているため,1つの要件を充たさないからといってあきらめる必要はないと考えています。

 もっとも,各夫婦の別居に至るまでの事情は千差万別であるため,離婚を実現されたい場合には,これまでの夫婦生活に関する事情等さまざまな事情をお伺いする必要があるため,是非,一度弁護士にご相談ください。

2018.06.05

有責配偶者について②~例外について~

<ご相談者様からのご質問>

主人の不貞が原因で夫婦関係が破綻している以上,有責配偶者として離婚が原則として認められないということは分かりました。でも,例外的に離婚請求が認められる場合もあると聞いたのですが,どのような場合でしょうか。

 

<弁護士からの回答>

 前回ご説明させていただいたとおり,不貞行為等婚姻関係を破綻させる原因を作出した有責配偶者からの離婚請求は原則認められません。もっとも,後の最高裁の判決により,例外的な要件のもと,有責配偶者からの離婚の請求が認められるようになりました。そこで,今回は,有責配偶者からの離婚請求が認められる要件についてご説明させていただきます。

 有責配偶者からの離婚請求が認められる要件について判断したのは,昭和62年9月2日の判決であり,

 ① 夫婦の別居が長期間であること

 ② 夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと

 ③ 相手方配偶者が離婚により,苛酷な状況に置かれないこと

という,3つの要件を満たした場合には,有責配偶者からの離婚請求が認められると判断しています。

このように,例外的とはいえ,有責配偶者からの離婚請求が認められることになったのは,婚姻関係に対する裁判所の考え方に変化が見られたことが原因であると考えられています。

すなわち,有責配偶者からの離婚請求を一切認めていなかった,昭和27年の最高裁判決が出された時点では,自分で婚姻関係を破綻させておきながら,離婚の請求をすることは許さない(社会的正義に反する)という考え方が強く(これを「有責主義」と呼んでいます。),形だけでも婚姻関係を継続させることが望ましいと考えられていました。もっとも,上記昭和62年の最高裁判決では,結婚(婚姻)の本質を,両性(夫婦)が精神的肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあるとして,夫婦の一方にその意思がなく,共同生活の実体を欠き,回復の見込みがない場合には,戸籍だけの婚姻を存続させることはかえって不自然であるとして,婚姻の実体がなく回復が困難であると判断される場合には,夫婦関係は解消した方が良いという考え方(これを「破綻主義」といいます。)へ考え方を変えたと考えられています。

 有責配偶者の事例とは異なりますが,性格の不一致等で,別居に至り,別居の長期化を理由に離婚請求を求める際にも,裁判所は,従前よりも短期間の別居であっても離婚を認めるようになってきており,裁判所全体として破綻主義を採用しているのではないかと考えられています。

 もっとも,破綻主義を採用しているからといっても,有責配偶者からの離婚請求が認められることはあくまでも例外的な場合であることに変わりはありません(この点では,裁判所も「有責主義」を完全に排除しているわけではないといえます。)。次回は,上記でご説明した,各要件の具体的内容についてご説明させていただきます。

2018.06.04

有責配偶者について①~原則について~

【ご相談者様からのご質問】

  結婚して15年になる夫から,数年前より他の女性と不倫をしており,その人と一緒になりたいので離婚して欲しいと言われました。突然のことでとても驚いています。まだ子どもも小さいですし,私としては離婚せずに家族での生活を続けていきたいと考えています。以前,先生のブログを見て,別居期間がある程度あると,離婚したくないと主張しても離婚が認められるとのことなのですが,私の場合でもそうなってしまうのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

夫婦のいずれかの不貞行為が発覚した際,通常,不貞行為が行った人が,配偶者から離婚を突きつけられるのが一般的ですが,ご相談者様の事例のように,不貞行為をした側から離婚を求めるケースも少なくありません。

そこで,今回から数回にかけて,有責配偶者にまつわる問題についてご説明させていただきます。今回は,有責配偶者からの離婚請求に関する原則についてご説明させていただきます。

 

まず,離婚事由について規定している民法770条1項では,1号から4号については,「配偶者」と規定されていることから,相手方が不貞行為を行ったことや,悪意の遺棄を行った場合の規定であることは間違いありません。もっとも,770条1項5号は,単に「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」と規定してあり,条文上,夫婦のどちらからでも,離婚の請求をすることができるように規定されています。そこで,不貞行為を行った夫婦の一方が,婚姻関係が破綻しているとして,770条1項5号を根拠に離婚の請求をした場合,離婚は認められるのでしょうか。

この点について,昭和27年2月19日の最高裁判決では,不貞行為を行い,妻以外の女性と同棲している夫からの離婚の請求を行った事案において,離婚の請求を認めませんでした。その際の理由としては,不貞行為を行った夫からの離婚の請求が認められてしまうと,妻としては不貞もされて離婚もされてしまうというまさに,踏んだり蹴ったりである(実際の判決の理由中で「踏んだり蹴ったり」という文言が使われました。)ということを述べています。そして,上記最高裁判決以降,不貞行為等婚姻関係を破綻する原因を作った配偶者(「有責配偶者」といいます。)からの離婚請求は認められないとされてきました。

したがって,ご相談者様の事例においても,不貞行為を行っているご主人からの離婚請求は原則として認められないことになります。もっとも,例外的ではありますが,有責配偶者からの離婚請求が認められる場合もありますが,それについては,次回,ご説明させていただきます。

2018.05.16

親権者の判断基準⑤

<ご相談者様からのご質問>

 勝手に連れ去ってしまうとダメなんですね。でも,そもそも妻が別居する際に子どもを実家に連れて行っているのはどうなのでしょうか。それも違法な連れ去りに該当するのではないですか。

<弁護士からの回答>

 離婚問題で夫側からのご相談の場合に多く聞かれるご質問として,ご相談者様のように,妻が子どもともに,同居していた住居から別居したことで何か追及することができないかという点があります。今回は,離婚する際に子どもを連れ出して別居を実施することの適法性についてご説明させていただきます。

 離婚を考えている夫婦の一方が子どもを連れ出して別居をする行為(いわゆる「連れ去り別居」といいます。)については,これまでご説明してきたとおり,親権者の判断において現状維持が非常に大事であるとの考えから,現状維持を確保するためにいわば連れ去ったもの勝ちであるとの認識が広まり,連れ去り別居が横行することになりました。

 しかし,親権者の判断はあくまでも子の福祉に適しているか否かの判断であるため,子のことを考えず,ただただ親権が欲しいがために連れ去る行為が容認されてしまうと,子の福祉を害することになってしまいます。
 したがって,現在では,連れ去り別居に関しても,直ちに適法であるとは判断されず,別居するに至った経緯等が慎重に判断されているのが現状です。

 具体的には,従前の監護状況(連れ去った親が主たる監護者か否か監護能力に問題がないか否か。),や,子の年齢,別居に至る経緯(別居せざるを得ない状況が会ったのか否か。)別居の時期(子どもに影響を及ぼす時期であるのか否か。)別居先(遠方か否か),子の監護について夫婦間で話し合ったか否か,別居後の非監護親との面会交流の有無,別居後の未成年者の心身の状況等を総合的に考慮することになります。

 別の機会にもご説明しますが,相手方に無断で連れ去り別居を実施した場合,相手方は基本的に,子どもを確保すべく,子の監護権者の指定及び子の引渡しの審判を家庭裁判所に申し立てることになります(緊急性が高い場合には保全処分の申立てもなされます。)。このように連れ去り別居により相手方との関係が紛争状態に発展することも否定できないため,お子さんを連れての別居に関しては,許容されるような状況に該当するか否かについては,別居を行う前に慎重に判断する必要があるため,是非一度,弁護士にご相談ください。

2018.04.19

親権者の判断基準④

<ご相談者様からのご質問>

 妻との離婚を考えています。先月に妻が5歳の長男と一緒に実家に帰ってしまいました。
はじめのうちは,母親が育てる方がよいのではないかと考えたのですが,やはり自分が親権を欲しいと考えています。
先生の話では現在の監護状況が継続することが大事であるとのことでしたので,何としても子どもをこちら側に引っ張ってきたいと考えています。問題はないでしょうか。

<弁護士からの回答>

 前回ご説明したとおり,子の親権者の判断においては,現状維持,すなわち,現在生活している環境が特段問題なく,変更後の環境との優劣がない場合には,現状の環境を維持すべきであると考えられています。では,ご相談者様の事例のように現状を確保するために,お子さんをご相談者様側に引き戻すことは適切なのでしょうか。

今回は,違法な奪取行為が親権者の判断に与える影響について協議させていただきます。
  前回ご説明したように,現状維持については,親権者の判断要素となります。しかし,現状維持についてのみを優先してしまうと,現状維持を確保するために,子どもを連れ去ることにより監護実績を確保するだけで,親権者の判断にとって有利な状況を作出することが可能になってしまい,連れ去りが横行してしまい,子の福祉を著しく害することになってしまいます。

 そこで,親権者の判断においては,違法な連れ去りを行った場合には,親権者としての適格性を欠くとして,親権者の判断においては非常に不利な状況に陥ることになってしまいます。

 具体的には,面会交流中に子どもを引き渡さずに拘束したまま返さない場合や,子を連れて別居した妻から,実力行使により子を連れ去る行為や子の監護について夫婦で協議していたにも関わらず,その協議に反し,事実上監護状態を作出する行為などは,違法な連れ去り行為等に該当すると判断されています。特に最初にあるように,実力行為により子どもを奪取する行為は,親権者であったとしても,未成年者略取罪として犯罪行為に該当しうる行為ですので,絶対にやめた方がよいでしょう。

 このような,違法な連れ去り行為等を行ってしまうと,相手方が弁護士に依頼をした場合,直ちに,子どもを引き渡すよう,裁判所を通じて求めてきます(子の引渡しの審判といいます。
審判については別の機会にご説明します。)。そして,違法な連れ去り行為を行った当事者に対しては,親権者の判断において非常に不利になってしまうばかりか,親権者として認められなかった後の面会交流の条件面においても一度違法な連れ去り行為を行っている以上,信用性に欠けるとして非常に制限された面会交流しか認められない場合や,程度によっては面会交流が認められない可能性もでてきます。

 ご相談者様の事例においても一定程度,相手方の監護下における生活が継続している以上,強制的に連れ去ってしまう行為は,違法な連れ去り行為と判断されてしまう可能性が髙いといえます。別の機会にもご説明しますが,親権について固執するのか,親権者という形ではなく面会交流によりお子さんとの交流を実現すべきであるのかについては,十分に考えなくてはいけない事項ですので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.04.18

親権者の判断基準③

 <ご相談者様からのご質問>

 夫との離婚を考えており,これまで協議をしていました。離婚すること自体には争いはなかったのですが,夫との間の長男の親権について話がまとまりませんでした。現在,私の仕事が忙しく3か月前程から夫の実家にて子どもを面倒見てもらっています。先生のお話では,従前の監護状況が親権者にとって非常に大事であるとのことであったので,従前私が主として子どもを監護してきた以上,私が親権者となると思うのですがどうでしょうか。

<弁護士からの回答>

 これまでご説明してきたとおり,親権者の判断は「子の福祉」の観点から判断されます。ご相談者様がおっしゃるように,確かに従前の監護状況については,親権者を判断する重要な要素ですが,それと同様に,現在の監護状況がどの程度継続しているのかという点についても非常に重要な要素となっています。そこで,本日は,現状維持の重要性についてご説明させていただきます。

 親権者の指定において,従前の監護状況から環境が変更される場合には,環境の変更による子に与える影響を考慮する必要があります。この点,幼児や15歳以上の子どもになると環境変更による影響は比較的小さくなると考えられています(子の置かれている個々の状況によって異なるとは思います。)。

これに対し,幼稚園に通っている子や中学生特に小学生では環境の変化,具体的には転校による交友関係の変化等与える影響も多く,さらに新しい環境において馴染めるのか否かという点も予測することが困難であります。
 また,親権者の判断の際には,従前の環境と新しい環境のどちらが優れているのかという点も判断の要素となりますが,通常,いずれの環境も監護能力については問題と判断され,監護体制で優劣がつくことはあまり多くはありません。

 そこで,裁判所においては,現在子がおかれている環境に問題が無い場合,新しい環境が特段優れていると判断できる事情がない場合には基本的には現状を維持すべきであると判断される傾向にあります。
 ご相談者様の場合でも,現時点においてご主人の実家での一定程度継続している以上,ご相談者における監護状況によっても異なりますが,離婚に伴って,お子さんが他県に引越しせざるを得ない場合等環境が大きく変更せざるを得ない場合には現状を維持すべきであるとして,相手方に親権者が指定されるべきであると判断される場合もあります。

 したがって,ご相談者様の場合にも,環境を変化させないような体制を確保することができるかを検討したり,相手方との話し合いにより,交互に未成年者を監護する等対策を行う必要があると思われますので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.04.17

親権者の判断基準②

<ご相談者様からのご質問>

 妻との離婚を考えています。妻との間には5歳の息子がいるのですが,息子からは「パパと一緒にいたい」といつも言ってもらっています。息子が私と一緒にいたいと言ってくれているので,親権者は妻ではなく私がなれると考えて問題ないですか。

<弁護士からの回答>

 親権者の判断要素のところでもご説明しましたが,子の心身の状況についても判断要素となり,その中でも親権者に関する子の意向について判断要素となることがありますが,子の意向が親権者の判断においてどの程度考慮されるのかについてはケースごとに異なります。そこで,本日は,親権者に関する子の意向についてご説明させていただきます。

 これまでもご説明しているように,親権者の判断は子の利益のために行うものであることから,子の意思を尊重すべきことは当然です。家事事件手続法にも,親権者の指定または変更の審判をするとき,子が15歳以上の場合には子の陳述を聞かなければならないと規定されており(169条2項),子の意見を尊重すべきことを規定しています。

 もっとも,子が幼いときには,父と母が対立している状況下で両親ともに愛している子どもが,その時々で回答が異なったり,置かれている環境に左右されてしまうことが非常に多いです。そのような状況下でどちらの親と過ごすべきかという判断について,子の意思を重要な判断要素とすべきではないと考えられています。

 したがって,幼い子ども(小学校低学年や就学前の幼児)の場合には,一方の親と暮らしたいという意向や,一方の親への嫌悪の意思が確認できたとしても,その発言が真意ではない可能性や真意であったとしても変わる可能性があることから,あくまでも。参考程度に考慮される程度にとどまることになります。

 もっとも,家庭裁判所の実務では,子どもの年齢が概ね10歳程度に達している場合には,意思能力に問題はないと考えられています。したがって,意思能力に問題がないとされている10歳程度の子どもの場合には,子の意思の確認がなされ,親権者の判断において考慮されることが一般的です。別の機会にもご説明しますが,子の意思の確認に関しては,家庭裁判所の調査官という子どもに関する専門的な技官において子と面会し意向を確認します。

 ご相談者様のケースでもお子さんの意向のみでは,ご相談者様が親権者と指定されることが確定したわけではありません。その他の事情も詳細に確認しなければ正確に判断することは困難であるため,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.04.16

親権者判断の基準①

<ご相談者からのご質問>

親権者の判断要素についてはわかりました。
では,裁判官は判断要素をもとにどのような基準で親権者を判断するのでしょうか。インターネットなどでは「母性優先の原則」等があり母親が有利であると判断されると聞いたのですが,本当ですか。私の家庭では,いわゆる専業主夫という形をとっており,子どもが生まれた時から,妻ではなく私が子どもを育ててきたのですが・・・・

<弁護士からの回答>

前回は,親権者指定の判断要素についてご説明しましたが,今回から数回に分けて,裁判官がどのような基準で親権者を判断しているのかについてご説明させていただきます。

 1 「母性優先の原則」の有無

「母性優先の原則」とは,子(特に幼児)については,母親の存在が不可欠であるとして,特段の事情がないかぎり母親を親権者に指定するべきという考え方です。しかし,前回もご説明したとおり,親権者の判断は,「子の福祉」の観点からどちらがふさわしいかという観点から判断されるため,母親であることということが直ちに「子の福祉」から親権者として相応しいと判断されることにはなりません。よって,建前上は「母性優先の原則」という原則は採用されていません。

 もっとも,前回もご説明したとおり,親権者の判断要素として子の監護状況(監護実績等)については,非常に重要な判断要素となっており,日本においては夫が外で働き,妻が家で子を育てるという形が一般的になっているため,母親(妻)が子を監護していることが多いため,母親が親権者として指定されることが多いです。
したがって,よく,親権に関してご相談に来られる方からも「母親だと有利になりますか。」というご質問をいただくのですが,その際には,「母親というだけで有利になるということにはなりませんが,お子さんの養育状況等から母親の方が親権者として指定されることが多いです。」と回答するようにしています。

ご相談者様の事例では,ご相談者様が主にお子さんを監護してきたということですので,監護実績の点においては,ご相談者さまが有利と判断される可能性が高いといえるでしょう。

当事務所へご相談に来られる男性の方には,よく,どうせ母親が親権者として選ばれるのだから親権はあきらめていると話される方がいらっしゃいますが,親権者の判断においては,父親,母親という観点のみならず多くの要素をもとに判断していくため,必ずしも親権者になれないということはありませんので,是非親権について悩まれている場合にはいち早く弁護士にご相談ください。

2018.04.04

親権者指定の判断要素

親権者指定の判断要素

<ご相談者さまからのご質問>

  夫との離婚を考えています。ですが,子どもの親権については絶対私が欲しいと考えています。親権者を判断する際にはどのような事情が考慮されるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 夫婦当事者間において,親権者をいずれとするかについて,合意ができている場合には,問題なく親権者は決まるのですが,当事者間で親権者について争いがある場合には,最終的には家庭裁判所において,父と母のいずれが親権者として適切であるかについて判断することになります。
 そこで,今回は,裁判における親権者指定の判断要素についてご説明させていただきます。

 家庭裁判所において,親権者を判断するときの,最も重要な基準は「子の福祉と利益」になります。すなわち,父親と母親のどちらの側で生活をすることが子の利益や福祉に資するのか(子どもの将来のためになるか)という点を基準に判断していくことになります。そこで,裁判所ではおおむね以下の要素を総合的に考慮し,親権者を判断してくことになります。

 1 父母の属性等
   子どもは,父母のいずれかの監護下におかれて養育されることから,父母に関する事情は当然判断要素になってきます。具体的には,年齢,職業,収入,健康状態,生活態度等の父母の属性や資質は判断要素になります。例えば,暴力等頻繁に行ってきた当事者の場合には親権者としての適格性を欠くのではないかと判断されることになります。

2 監護状況等
  未成年者がどのような監護状況において育っていくのかという点については,まさに子の福祉や利益に直結する問題であることから,非常に重要な判断要素になります。
   したがって,これまでの監護実績,経済状況(収入,支出借金の有無等),居住環境,教育環境,監護補助者の有無等については判断要素となります。

 3 監護への意欲
   親権者として子どもへの愛情がどのくらいあるか(従前,子にどれほど関心を注いでいたか),親権者として子をどのように育てていきたいか等の監護への意欲についても親権の判断要素となります。別の機会にご説明させていただきますが,現在子を監護している場合に,相手方配偶者との子どもとの間の面会交流に対してどれだけ協力的かという点についても判断要素となります。

 4 子の心身の状況等
   先程もお伝えした通り,親権者の判断は,子の福祉,子の利益の観点から判断されることになるため,子に関する事情についても当然に判断要素となります。具体的には,子どもの年齢,性別,健康状態,性格等に加え,現在の環境について考慮されることになります。特に現在の環境については,兄妹姉妹との関係性や,学校への通学状況,交友関係だけでなく,非監護親との間の面会交流など現在の環境についてどれほど順応しているか,現在の環境が変化すること(監護する親が変わること)により子にどのような影響が及ぼされるのかという点についても考慮されることになります。
   また,別の機会にもお伝えしますが,親権者に関する子の意向についても,判断要素になることがあります。

   以上のように,親権者を判断する際には,夫婦だけでなく子どもに関する事項も含め,様々な事情を総合的に判断することになり,非常に専門的な内容になっていることから,親権を欲しいと考えられている場合にはできるだけ早く弁護士にご相談いただいた方がよいでしょう。

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