弁護士コラム

2019.05.23

標準報酬月額①~報酬の定義と報酬に含まれるもの~

毎月の給与から控除されている社会保険料は、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料がありますね。その保険料の基になっているものは「標準報酬月額」ですが、基本給だけを当てはめて考えることはNGです。まずは、定義や報酬に含まれる手当について要件を確認してみましょう。

1.報酬の定義

報酬とは、以下のように定義されています。(健康保険法3条5項)

賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。

つまり、名称は関係なく、働いたことの対価と評価できるものは報酬となります。そして、支給されることが決まっておらず臨時で支払われるもの(結婚した時のご祝儀など)は報酬となりません。
これに加え、年に4回以上の賞与を支給→報酬
      年に3回までの賞与を支給→賞与 として扱います。

2.報酬の対象となるもの

報酬は、標準報酬月額を決めるもとになるので、対象になるものとならないものを間違えないようにしましょう。

※1 よく疑問に思うのが、「通期手当を報酬月額に含めるべきか」ということではないでしょうか。定期代や定期券、実費精算など、どんな支払い方であろうと、自宅から職場までの往復の為に発生する交通費は、課税・非課税かかわらず、含めましょう
半年分をまとめて出しているのであれば、その金額をひと月分にして含めるようにしましょう。実費なのに含めるのはおかしいと感じるのは理解できますが、法律で決まっていますので仕方ありません。。。
※2 年4回以上の賞与を支給する場合
原則、毎年7月に算定基礎届を届け出る際に、賞与総額を12で割った額を各月の報酬に含めて算定します。ただし、いろいろなケースがあり、かなり複雑なので、必ず年金事務所や専門家に確認をしましょう。

3.標準報酬月額とは

標準報酬月額は、手取り金額ではなく総支給額から算定(基本給+諸手当(上記の表を基に))した金額を「標準報酬月額表(保険料額表)」に当てはめます。原則として、毎年1回決定され、その決定された標準報酬月額が、1年間使用されるようになります(下記イ)。※毎月社会保険料が変わることはありません。

①標準報酬月額の決定の方法は、下記の方法で決定・改定されます。
ア)入社時などの資格取得時決定
イ)定時決定(毎年1回行われる4・5・6月の給与の平均額から算出)
ウ)賃金の昇給降給が続いた際に行う随時改定
エ)産前産後休暇・育児休業等終了時改定

②標準報酬月額の等級区分
標準報酬月額は、被保険者の報酬月額に基づき、いくつかの等級に区分されています。
現在では、※2019年5月現在
健康保険   第1等級の58,000円~第50等級の1,390,000円
厚生年金保険 第1等級の88,000円~第31等級の620,000円
とされており、健康保険と厚生年金保険では、上限が異なるので注意が必要です。

4.健康保険・厚生年金保険の保険料額表(協会けんぽ)

「標準報酬月額」は、都道府県ごとに違います。
どこの都道府県を見るのかというと、個々人の住んでいる住所先ではなく、会社所在地の住所の都道府県となります。
※ 福岡支店でも、東京の本社に所属していたら東京を参考にします。

引用:全国健康保険協会HPより
例年、3月ごろ保険料の変更があっておりますので、都度、最新のものを確認いただくことをお勧めします。会社にも変更があった際はお知らせが届くようです。
◆福岡県 平成31年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h31/ippan/h31340fukuoka.pdf 
◆東京都 平成31年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h31/ippan/h31313tokyo.pdf 

こちらの表の見方は、別記事に記載がありますのでご確認ください。

給与計算業務②~給与計算の流れ~

5.まとめ

基本給と残業手当と交通費のみでしたら分かりやすいのですが、やはり会社によってさまざまな手当の種類があると思います。その報酬月額から、社会保険料の金額が決まりますので、しっかり要件を確認することが必要ですね。

この社会保険料の基礎に含むかどうかで、社会保険料額が変わって来て、手取り額が変わって来ますので、会社だけでなく従業員の方々も気にするようにしてみてください。

2019.05.22

RPA推進で想定される法律的課題 ~社会科見学体験記~

約1ヶ月前に、普段は立ち入りが出来ない【90%が自動化されたオフィス】に社会科見学に行ってきました。

RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション=機械学習・人工知能によるホワイトカラーの業務効率化)が推進され90%が自動化されたオフィスのショールームに招待して頂き、お話を伺うことができました。実際に90%が自動化されたオフィスというのは、ほぼ何もないような空間で、一部に機械を人間が監視するというモニタールームがあるような場所でした。

管理者の方の意見も聞いてきたので、そこで見聞きしたものを踏まえつつ、今回はそれにより生まれるだろう法律問題について考えたいと思います。

1.まえがき

2020年には小学生のプログラミング授業が必修になるなど、現在、私達が思っている以上に、時代の大きな過渡期にあります。第四次産業革命といわれるなど、人間のあり方が今後大きく変わることが予想されます。機械の精度は日に日に増していますので、本来であれば日に日に人が楽になるはず・・・ではあるのですが、そのような実感がある方はあまりいらっしゃらないと思います。

RPAを推進しているセンターの管理者とお話をする機会があり、その際に色々と今後の予測をきいてみました。「私達は職につくことで失業者概念を生み出していると捉えることもできるが、機械化をすすめるということは失業者概念を最終的に消滅させうるものではないか?」との問いを投げたのですが、「失業者という概念を消滅させることは、現時点の技術ではまだ不可能と考えられる」との回答でした。自動化が浸透して私達が働かなくてもいい社会が実現するのはもう少し先で、現段階ではモニタリングや思考を人間が担うようになると仰っていました。

2.RPAによる配置転換や異動の法律問題

さて、現在でも銀行などをはじめとしてRPAを推進している企業は多数あると思うのですが、RPAがある程度進行してきたところで生ずると考えられるのが配置転換や異動の法律問題です。
身近なところで、大企業の自動電話を例にとりましょう(電話をかけると、自動音声が流れ、Aの手続の方は1をBの手続の方は2をというような音声が流れるものです)。自動電話は行政も採用していて、これにより的確に担当者へつなぐことができます。これで主に削減できるのは交換台や交換手です。必要最小限の交換手さえいればよいことになります。

そこで、会社に自動電話を導入するとして、その後の人の問題をどうするかというところに法律はかかわってきます。担当業務をフレキシブルに定めている場合は、比較的容易に配置転換を行うことができるかもしれませんが、そうでない場合は事前の打診を要することになりそうです。以下に労働基準法を引用して説明します。

労働基準法の定めによると、労働条件は労働契約の際に明示することとされています。

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

厚生労働省令である労働基準法施行規則にはこのような定めがあります。

第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。(中略)第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
(中略)
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

仮に労働条件を交換手業務として労働契約を結んでいるAさんがいたとして、RPAによって電話が自動化された場合に、当然交換手の仕事に人間が関与することはなくなりますから、Aさんは別の部門に回ることとなります。しかし、労働条件は交換手業務としていますので、Aさん側から労働契約を解除されてしまうリスクがあるのです(労働基準法15条2項)。

RPAが進むと、人員を他の部署(例えばモニタリングを行う部署等)に異動させることになります。任意にスタッフが全員人事異動に応じる場合は問題がないのですが、そうでない場合は最悪退職が相次ぐなどの人材流出の危険性もあります。RPAで業務効率化・経営の合理化を目指していたのに、配置転換で揉め事を起こしてしまってはかえって不合理を招きます。

スムーズな配置転換も戦略の一環として組み込まれているかもしれませんが、それが法律に則って問題なく行えるかという問題は残るのです。人の問題を起こさないために外部の法律事務所に委託し、契約書等の評価や配置転換の交渉をすることがRPAを進めていくには必須の事項になります。

3.まとめ

RPAの推進は、利便性が高いものです。全体として自動化された場合は効率的な業務遂行が可能になります。例えば単純な作業であれば、ほぼ客観的指標が出るというものもありますのでその意味では査定の負担が減りますし、社員に公平性を示せることが可能になります。また、採用の場面でも役立つかもしれません。
 
しかしながら、これらによって生ずる法律の問題があり、法律の問題を意識しながらRPAを推し進めなければ、業務の合理化が失敗に終わる可能性もあるので、RPAを推進している事業者の方は、スムーズにRPAを完了させるためにも、法律事務所と連携して、人的側面にも着目して実行を継続すべきでしょう。

2019.05.21

賞与計算の流れ

前々回と前回の記事では、通常の給与計算業務の流れについてお話しました。「賞与を支給するときも、通常の給与計算業務と同じように処理する」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、賞与計算の流れは給与計算の流れと似ていますが、控除する各種保険料・税の計算方法や必要な手続きが異なります。そこで、今回は、賞与計算の流れについてご説明します。

  1. 1.賞与とは

「賞与」とは、「定期または臨時に労働者の勤務成績、経営状態等に応じて支給され、その額があらかじめ確定されていないもの」で、いわゆるボーナスのことです。法律において、賞与を支給することは義務付けられていませんが、大抵の会社では賞与があるため、従業員の立場からするともらえて当たり前の感覚の方が強いかもしれませんね。賞与は、就業規則や給与規程・賞与規程、雇用契約書で定められている支給対象者、支給基準、支給時期、支払方法などに基づいて支給します。

そのため、賞与を計算する前に、必ず、就業規則や給与規程・賞与規程、雇用契約書等を準備しましょう。一般的に、賞与は、支給日または一定の基準日に在籍している従業員に対して支給しますが、会社によっては、「入社日から6か月以上経過した従業員に支給する」といった支給の条件を設定している場合もあります。法律で支給が義務付けられていない以上、支給するか否か、どのような要件で支給するか等、全て会社のルール次第になりますので、しっかりと定めを作りましょう。

 

  1. 2.賞与計算の流れ

    • (1)支給額の確認
    • まず初めに、各従業員に支給する賞与の額を確認しましょう。賞与の額は、会社の業績や従業員の勤務成績、態度などを考慮して決定されるのが一般的です。会社によっては、賞与は給与の1.5ヶ月分などと決まっていて、毎年決まった数字を支給している会社もあります。しかし、賞与はあくまで賞与ですので、やはり会社の業績を見ながら支給するかどうか経営判断をすべきでしょう。

 

(2)保険料・所得税の計算

次に、支給額から控除する各種保険料と所得税の額を計算します。

(a)社会保険料

社会保険料は、以下の式で算出します。毎月の標準報酬月額に基づいた社会保険料額とは異なりますので、注意してください。

健康保険料=1000円未満を切り捨てした賞与支給額)×健康保険料率÷2

厚生年金保険料=1000円未満を切り捨てした賞与支給額)×厚生年金保険料率÷2

※この時使用する健康保険料率・厚生年金保険料率は、通常の給与計算で使用する保険料額表と同じものを参照します。

(b)雇用保険料

 雇用保険料は、以下の式で算出します。

雇用保険料=賞与支給額×雇用保険料率

前回の記事を読んでくださった方はお気づきかもしれませんが、雇用保険料の求め方は、通常の給与計算と変わりません。

 (c)所得税

所得税は、以下の式で算出します。

所得税={賞与支給額-(社会保険料+雇用保険料)}×税率

※この時使用する税率は、通常の給与計算とは違い、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照します。

 表は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。また、扶養控除等申告書を提出している場合は、扶養親族等の人数を確認します。

※税率は、前月の給与をもとに確認します。

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず国税庁のホームページを参照してください。

例えば、甲欄適用者で扶養親族が2人、前月の社会保険料等控除後の給与額が20万円の従業員の場合、使用する税率は2.042%です。 

(3)賞与支払届の作成

賞与を支給する場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を作成する必要があります。賞与支払届の対象となるのは、社会保険の被保険者に年3回以下の回数で支払われる賞与です。 

(4)賞与明細の作成

(1)と(2)で計算した支給額・控除額をもとに、賞与明細を作成します。

(5)賞与支払届の提出

賞与支払日から5日以内に管轄の年金事務所に「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を提出します。これらを提出すると、納入告知書が郵送されてきます。 

  1. 3.まとめ

今回の記事では、賞与計算の流れについてご説明しました。給与計算と似たような流れですが、各種保険料・所得税の算出方法が違ったり、賞与支払届の提出が必要だったりと注意すべきことが多いことをお分かりいただけたかと思います。賞与計算は、通常の給与計算とは異なり、年に数回しか行わない業務です。慣れるまでは、毎回事前に一通りの流れを確認するようにして、焦らず進めていきましょう。

 

2019.05.20

意外と知らない会社法2 ~有限会社・商号・屋号とは~

普段何気なく目にしている会社名や店舗名。

これってどのように決められているか、知っていますか?

1.「有限会社」とは?

 街中で、有限会社と書かれた看板やビルを見かけることがありますよね。実はこの有限会社、今はもう会社法上、設立することができないだけでなく、「有限会社」と看板を掲げている会社も厳密には有限会社ではないのです。

平成18年(2006年)51日に会社法という法律が施行されました。それまでは、商法第2編会社の規定、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法)、有限会社法、この3つの法律が会社法的な位置付けとして利用されていましたが、会社法という新しい法律ができたことで商法第2編は削除され、商法特例法と有限会社法は廃止されてしまったのです。

会社法が制定された理由として、商法は明治32年に制定されたものであるため、文がカタカナ表記、文語体になっておりひらがな表記に改める必要があったこと、何度も改正されたことで枝番が付き過ぎて読みにくかったこと、規制緩和やグローバル化に柔軟に対応できるように内容をバージョンアップさせる必要があったことが挙げられます。

会社法の制定に伴い有限会社法が廃止されたことで、それまで株式会社よりも簡単に、かつ少ない資金で設立可能だった有限会社を設立することが不可能となりました。つまり、2006年から有限会社は設立できなくなったのです。では、今まで存在していた有限会社はどうなってしまったのでしょうか?

結論から言うと、「有限会社」は「株式会社」となりました。つまり、「有限会社」というものが世の中からなくなった結果、今まで有限会社としていた会社は「株式会社」としましょうということになりました。法律上、有限会社ではなく株式会社として扱われていますが、今でも変わらず存在していて、このような有限会社のことを形式的には株式会社であるにもかかわらず、「特例有限会社」と呼びます。また、有限会社がなくなった代わりに、株式会社の内容に多くの類型が設定され、有限会社とあまり変わらない形で株式会社を設立することが可能となりました。

 

2.「商号」とは?

 では、次に会社の類型の話から、会社の名前の話に移りたいと思います。世の中には様々な会社の名前がありますが、これって自分の好きな名前を付けられるのでしょうか?

 まず、会社には「商号」と「屋号」というものが存在します。ここでは、「商号」についてお話します。

「商号」とは会社が運営していくうえで他の会社と区別するための名前のことで、会社の名前として登記されます。原則、自由に決めることができますが、いくつかルールが存在します。

まず、文字について。ひらがなやカタカナ、アルファベットなどはもちろん使うことができますが、ローマ数字や()などは使うことができません。

次に、会社の種類を入れなければならないことです。会社の種類とは「株式会社」や「合同会社」のことで、名前の前後に必ず入れるということが定められています。反対に、会社ではないのに「株式会社」などの会社を表す言葉を使ってはいけません。

3つ目に、「銀行」「出張所」など特定の言葉を使用することも禁止されています。

そして最後に、同一住所で、同一商号は使用できないルールが存在します。異なる住所であれば同一の商号でも登記することが可能ですが、他のお店と似た名前を付けてしまうと、不正競争防止法に触れる可能性もありますので、会社を設立する際はインターネットで設立する予定の会社名を検索してみましょう。思いのほか、同じ名前の会社が世の中にたくさんあることに驚くと思います。これは、不正競争防止法の観点からも必要なことですが、ビジネスを行う上で会社の認知度を高める以上、同じ名前の会社が全国にたくさんあっては、広告などの際に不都合が生じますので、意識しておくべきです。

以上のルールを守れば自由に商号を決めることができるので、「商号」を考える際にはぜひ参考にしてみてください。

 

3.「屋号」とは?

 2で、会社には「商号」と「屋号」が存在するとお話ししましたが、3では「屋号」についてお話していきます。

 「屋号」とはビジネス上の名前で、実際に店舗で使ったり、銀行口座、契約書、領収書に記載されたりする名前のことになります。「商号」とは違い、会社法の規制を受けません。そのため、事業ごとに複数作っても、文字数が多くても自由に名前を付けることができるのです。ただし、すでに使われている屋号が商標登録されているものだと、同一市内で同じ屋号を使用することができず、「○○会社」「○○法人」といった名前も、付けることができませんので注意してください。

 また、屋号は商号と違い必ず付けなければならないものではありません。商号と店舗名を分けている会社もあれば、一緒にしている会社もあります。

 最も分かりやすいのが飲食店でしょう。世の中の飲食店は、一つの株式会社が10種類の店舗を別のブランドとして展開していたりします。その際、飲食店の経営においては、株式会社の名前である商号が表に出ることは少なく、あくまでそのお店の屋号でお客さんは把握しますよね。ですので、意外と同じ会社が経営していると知らないチェーン店などもたくさん存在します。

では、もし屋号を付けたいと考えた場合、どのような名前が印象に残るのでしょうか?

屋号は多くの人の目に触れるものになりますので、誰にでも分かりやすく、事業内容のイメージが付きやすいものだと効果的です。どんな事業を行っているのかがすぐに分かれば、どこかでビジネスチャンスが広がる可能性がありますし、記憶に残りやすいものです。1度屋号を決めてしまったとしても変更することが可能で、変更には届出の必要もなく、もし個人事業として行っているなら、確定申告をする際に新しい屋号を記入するだけで簡単に行うことができます。

 さらに、屋号を作ることで、個人事業主であれば、屋号名義で銀行口座を開設することもできますので、屋号をつくること、考えてみてください。

 

4.まとめ

 今回は、「有限会社」「商号」「屋号」についてお話をしました。

 普段何気なく目にしている会社名や店舗名ですが、名前1つを決めるにもたくさんのルールが存在し、そのルールを守ったうえで考え抜かれた名前なのです。

今回この記事を読んだことをきっかけに、会社や店舗の名前の由来や付けた人の思いなどを考えてみるといいかもしれません。

2019.05.16

マイナンバーに関する従業員教育の進め方

2016年1月から社会保障、税、災害対策の分野で行政機関等へ提出する書類にマイナンバーの記載が必要となり本格始動したマイナンバー制度。企業も、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用するなど対応を求められ、外部への漏えい防止等、安全管理対策の徹底が急務となりました。

企業には、人的安全管理措置として、マイナンバーの事務を行う担当者に対し、適切な教育を実施することが求められることはもちろん、担当者の管理者等や一般従業員にも段階に応じた教育の実施が重要となります。
今回はマイナンバーに関する従業員教育の進め方について検討してみましょう。

1.情報管理教育の必要性

2015年5月、日本年金機構が保有している個人情報の一部が、職員の端末に対する外部からのウイルスメールを介した不正アクセスにより、外部に流出したことが判明しました。その件数は約125万件にものぼるといわれています。
こうしたウイルスメール感染による流出は、知り合いを装ってメールを送信する等、年々手口も巧妙化しており、企業規模や知名度に限らず、どんな企業であっても、いつ攻撃の標的にされるとも知れません。

そのため、マイナンバーに関する従業員教育のみならず、情報管理全般についての教育は、時代の潮流といえます。

ウイルスメール感染等のトラブルで自社のマイナンバーをはじめとする重要な情報が漏えいしないように、技術的な安全管理措置(ウイルス対策ソフトによる定期的なチェック等)を実施するとともに、パソコンやタブレット端末を貸与しているすべての従業員に対し、社内文書の回覧や掲示などで、定期的に注意喚起を行うようにしましょう。タイミングとしては、たとえば新聞報道などで、企業等の情報漏えい事案が報じられたときなどが最適です。

2.定期的な従業員教育の進め方

マイナンバーの取得・管理などの取扱いにあたっては、情報が漏えいすることがないよう、安全に扱うことを伝える教育が必要です。

特に、マイナンバーを取り扱う担当者が人事異動や退職で入れ替わったりすることは十分にあり得ることであり、そのタイミングが急であるほど十分な引継ぎもできず、情報が漏れやすい環境となるリスクも高くなります。

そういった意味では、業務の引継ぎがスムーズになるようにマニュアルや業務フロー図の作成などが重要となる一方で、マイナンバー関連の事務をしない管理者への教育の重要性が言えます。従業員への教育は、取扱担当者向けの教育と管理者向けの教育、分けて考える必要があります。

取扱担当者に対しては、その管理の重要性等を伝えて理解してもらう必要があり、管理者については、今後、従業員以外のマイナンバーを取り扱うこともあり得ることから(例えば外部講師を招いて研修をし、講師料を支払った際の支払調書の作成にあたり、外部講師のマイナンバーを取得する場合など)、管理者として部下の情報管理を徹底させるために、幅広い視野による教育の実施が必要です。

次では、特に重要となる取扱担当者への教育について詳述しましょう。

3.取扱担当者への定期的な教育

企業によっては、マイナンバーの取扱担当者が今後将来にわたって何十年も変わらないと推測されるケースがあります。実際、様々な企業の人事労務担当者で、もう何十年も人事労務手続き業務や給与計算業務を手掛けている例はきわめて多く、特に中小企業では体制を基本的に変えない傾向があります。

長期間の同一業務への従事は、プロ意識を促すメリットがある反面、マンネリ化が生じたり、業務手順がずっと見直されなかったり、不正行為があっても発覚しにくい等のデメリットもあります。

そこで、社内外から業務遂行方法について監査(モニタリング)を実施する以外に、定期的な教育の実施を検討することが有効です。定期的な教育もルーティン化してしまうことがあるので、取扱担当者が管理者等への情報管理教育の講師役を担うようにするとよいでしょう。

通常、管理者に対しての研修は、外部の講師を招くか総務部長がその役割を担いますが、総務部長も多岐の業務を抱え内部研修にまで手が回らないケースが少なくありません。
講師役を担うことをとおして、取扱担当者にマイナンバー管理への高い意識が芽生え、様々な情報漏えい事故の情報収集をするクセがつくことが期待できます。

情報収集を意識すれば、必然的に自社の体制との比較を行い、自社の体制を改善させる取り組みも期待できることから、結果として外部から講師を招いて講義を受けるよりも高次元の体制を構築できる可能性があります。
つまり、講師役となって情報収集して発表するプロセスが教育につながるわけです。

4.まとめ

前述の社内研修の実施の例のように、マイナンバーを取り扱う事務担当者のみならず、その担当者の管理者等にも情報管理の教育を行い、指導内容が継続性をもって運用全体に活かされるようなしくみを考えていきましょう。

そして、マイナンバーに関する従業員教育のみならず、情報管理全般についての教育は、時代の潮流としてとらえ、全従業員に対し定期的に実施し、情報管理の徹底を促していくことが重要です。

2019.05.16

労働基準法とは? ~労働時間の原則~

労働時間に関する法規制について全て把握していますか?
例えば、労働時間を1日〇時間とした場合、休憩時間はどれくらい必要なのか。1日に最大何時間・週に最大何時間まで働かせても良いのか。など多くの疑問があるかと思います。そこで今回は労働時間について詳しくご説明したいと思います。

1.労働時間の原則

皆さんが労働時間の原則と言われて思いつくことは何でしょうか。
例えば人事や総務、管理職の方は1日8時間・週40時間という数字を頭に思い浮かべる方も多いのではないかと思います。労働基準法第32条の下記条文は特に重要です。

1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

つまり、1日8時間・週40時間というのが原則的な労働時間として労働基準法で定められております。しかし、このような原則形態にも例外が定められており、それが労働基準法第40条、労働基準法施行規則第25条の2第1項です。

①商業
②映画・演劇業(映画製作事業を除く)
③保健衛生業
④接客娯楽業

①~④の事業で、かつ、従業員の数が「常時10人未満」の場合は、1週間の法定労働時間が44時間となります。ただし、1日について労働させることができる上限が1日8時間であることは変わりませんので、そこは注意が必要です。

なお、労働時間(実際に拘束されている時間)とは、休憩時間を除いた実際に労働に従事している時間を指しますので、気をつけてください。

さて次は、曜日についてお話したいと思います。先ほど、労働時間の原則は1日8時間・週40時間とお伝えしましたが、「週」とは何曜日から何曜日のことでしょうか? 1週間は〇曜日~〇曜日?と聞くと、働き始めるのが月曜日という人が多いため、おそらく月曜日から日曜日と答える人が多いのではないでしょうか。

しかしながら、労働基準法では異なる定めがされております。就業規則等で定めがない場合は日曜日から土曜日のことを指すことになっていますので、週40時間という法規制も日曜日から土曜日で算定しないといけません。

ここまで、労働時間の原則についてお話ししましたが、「毎日8時間まで、週は40時間まで」と言われても、それがビジネスモデルとしてマッチしない業態もあると思います。特に不動産業などは、やはり入社・入学シーズンもあり、2月~4月などが極端な繁忙期となり、夏などは相当な閑散期となってしまいます。
そのような業種であっても1日8時間・週40時間を厳守しなさいと言われても、繁忙期は1日8時間では足りない、ただ閑散期は1日8時間もいらない、というニーズがあると思います。

そこで、変形労働時間制という定められた労働時間を効率的に割り振って、労働者と使用者共に無駄なコストを減らす制度が存在しています。ここからは変形労働時間制についてお話ししていきます。

2.変形労働時間制

この制度は、労働者と使用者において生活に影響を及ぼさない範囲で、労働時間において柔軟な対応ができるようにし、結果として労働時間を短縮するために整備された制度です。

ただし、変形労働時間制の場合、労務管理をする立場にとっては毎週・毎月の労働時間が異なってくるため、労務管理が極めて煩雑で管理コストが大き過ぎるというデメリットがあったり、制度を整備するにあたっても法律上の要件があったりと、導入するためには労力もコストも必要な制度となっています。
そこで1ヶ月単位の変形労働時間制とフレックスタイム制についてみていきます。

①1ヶ月単位の変形労働時間制

A.労働者の過半数で組織する労働組合がある場合
B.労働組合がない場合

AかBのいずれかによって、採るべき手続きが変わって来ます。前提として、労働者との労使協定を締結し、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する旨の就業規則を定めなくてはなりませんが、Aの場合は労使協定を労働組合と会社で締結します。これに対して、Bの場合は労働者の過半数を代表する従業員個人と会社で労使協定を締結します。

これによって、平均して1週間あたりの労働時間が、1週間の法定労働時間(40時間、特例の場合44時間)を超えなければ、以下の場合でも、法定労働時間内に収まっているとする制度です。

・特定週に、1週間の法定労働時間(40時間、特定の場合44時間)を超えて労働する
・特定日に、1日の法定労働時間(8時間)を超えて労働する

➁フレックスタイム制

簡単に言うと、1日の労働開始・終了を自分の裁量で決められるという制度です。
この制度を導入するには以下の事項に関する定めが必要です。
A.就業規則等に始業・終業を労働者に委ねる定め
B.労使協定に以下の事項を定める届出不要)
 (1) 対象労働者
 (2) 1ヶ月以内の清算期間
 (3) 清算期間の起算日
 (4) 清算期間における総労働時間
 (5) 1日の標準の労働時間
 (6) コアタイム・フレキシブルタイムを導入する場合はその時間帯

3.まとめ

いかがだったでしょうか。労働に関してのニュースとして最近では働き方改革に伴い、在宅ワークを導入する企業や、週休3日制を採用する企業が出てきています。労働に関する法律としては有給休暇5日の取得義務化など大きく変容しています。
難しい言葉が出てくるからすぐに目を背けるのではなく、時事問題や最新の法律に少しずつでも目を向けていくことが、会社を守るために必要なことではないでしょうか。

少しでも気になった方は、本やインターネットを参考にしてみてください。もし従業員との関係が良くない場合は状況が悪化する前に法律事務所を訪ねるなど、早めに手を打ち相談されることをおすすめいたします。

2019.05.15

WEBサービスを始めるなら必要!利用規約やプライバシーポリシーについて

WEBサービスを立ち上げる際、必ず準備しておきたいのが「利用規約」です。
対面での契約と違い、WEB上では購入者と書面で契約書を取り交わすことは不可能に近いと言えます。その契約書と同様の利用規約を作成し、プライバシーポリシーと併せてサイトに掲載、さらに利用者に同意をしてもらうことで、万が一トラブルが起こった際、適切に対処することができます。つまり、契約書の代わりになるのが利用規約やプライバシーポリシーとなります。
ではその利用規約やプライバシーポリシーについて、どのような点に注意して作成すれば良いのでしょうか?

1.サービスに沿った利用規約を作成しましょう

(1)契約書と同様の意味をもつ利用規約

上記の繰り返しになりますが、通常、物品の購入やサービスを受けるには売る側と買う側の間に「売買契約」が生じます。紙の契約書を取り交わしたり、同意書に署名したり、というようなことを行いますが、WEB上では同じように書面のやり取りをするということは現実的ではありません。
そこで、利用規約としてWEBサービスの利用者、商品の購入者に対して、サービスの内容やサイト内で守ってほしい項目や禁止行為、免責事項などを明記し、同意してもらうことで契約書の代わりとするのです。

(2)トラブルが起こった場合に備える

万が一トラブルがあった際などには、サイト管理者が利用規約に基づいてトラブルの対応をすることになります。
よく見受けられるのが、商品注文後の返品・返金・キャンセル等(ここでは返品等とします)ですが、利用規約に記載があり内容に則した返品等であれば対応が必要です。
しかしながら、すべての返品等に応えていては売り上げも立ちませんし、労力ばかりが増えてしまいます。返品等についての対応期限を設けたり、初期不良以外の返品不可といった条件を設定し、サイト管理者側が不利にならない内容にしましょう。
とりあえず返品に対応する、というようなあいまいな内容では利用する側も不安を覚えてしまいます。具体的に記載し、どんなケースでも対応できるようにすることが重要です。

(3)その他、利用規約に必要な具体的な項目は?

上記で例に挙げた返品対応についてはなんとなく思い浮かぶものですが、他の項目を一から考えて利用規約を作成する、と言っても法律の専門家でない限り、なかなか最初の文字すら出てこないものです。
すでに多くのWEBサービスがネット上に存在しているので、まずは参考として、自分が始めたいサービスと同様の形態を取っているサイトを見てみましょう。

多くのサイトでは、メニュー部分やサイトマップ(サイトの目次一覧)のページに利用規約へのリンクが掲載されていることが多いですので、そのリンクからアクセスし確認することができます。
また、検索エンジン(yahooやgoogleなど)の検索窓に「〇〇ショップ(サイトの名前) 利用規約」などのキーワードを入れ検索すると、そのショップの利用規約ページに直接アクセスできることもあります。

見てみるとどのサイトの利用規約も似通っており、「ではこれを丸写しすればいいんだ!」と思ってしまうかもしれませんが、あくまで参考とし、普遍的な部分以外は自身が行うサービスに則した内容にしていきましょう。利用規約にも著作権が認められたケースもありますので十分注意が必要です。

また、「サービス利用前に、こんなに膨大な文章の利用規約なんて誰も読まないだろう」と考え、利用者が不利になるような内容にするのも危険です。これまでも、利用者が作成したデザインの著作権はサイト管理者側へ譲渡されるといった規約内容が問題であるとされ、SNSで拡散炎上、利用規約の変更を迫られた他、企業イメージのダウン、更にはサービスの終了や業績低迷につながった例もあります。

近年起こっているSNSでの問題発覚は、上記のような規約以外でも多大な影響を及ぼしています。たとえ小規模なサイトであっても、全世界に向けてサイトを公開していること、細かい部分まで誰かが見て読んでいることを念頭に置いて運営していきましょう。

2.プライバシーポリシーって必要?

(1)利用者の個人情報を取得し、適切な利用を

プライバシーポリシーとは、そのWEBサイトを運営する管理者が、サイト上で得た個人情報の取り扱い方について方針を示すものです。個人情報保護方針とも言われ、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)により、個人情報の利用目的や第三者への情報提供などについて明記する義務があります。
こちらも多くのWEBサイトでは、利用規約と同様にメニュー部分やサイトマップのページにリンクが掲載されていますので、そのリンクからアクセスし内容を確認することができます。サイトによっては利用規約の中に組み込まれていることもあります。

プライバシーポリシーは、単に個人情報を適切に扱いますよ、という方針を記載するだけでは内容が不十分です。会員登録などで知り得た個人情報を、今後どのように取り扱うのかを具体的に説明せねばなりません。
例えば、
・販売後のフォローや、関連情報を知らせるために利用することがある
・購入者の解析や分析のため、データ解析会社や広告代理店など第三者へ情報を提供することがある
・新商品が発売されたら、案内をする際に使用する
…など、今後個人情報を利用するシチュエーションを考え、作成していくようにしましょう。この個人情報の利用目的を明確化しておかないと、後日個人情報を使いたいと思ったときに、プライバシーポリシーに記載されている利用目的と異なる利用はできないこととなってしまいます。今後のビジネスの発展や展開を考えながら、個人情報の利用目的を検討しましょう。

(2)プライバシーポリシーには必ず同意を!

問い合わせフォームや資料請求のページなど、利用者自身の個人情報を入力する部分にもプライバシーポリシーを掲載しておきます。そしてポリシーに同意しなければフォーム内容を送信できないようにすることがポイントです。
同意がなければ、上記のような販売後のフォローや関連情報の提供などを購入者へ対して行うことができませんし、販売拡大のためのデータ活用もできないため、必ず同意を得るようにしましょう。

3.まとめ

利用規約、プライバシーポリシーどちらにしてもWEBサービスにおいては欠かせないものとなっています。消費者トラブルや情報漏えいを起こした場合、この2つの記載内容が不十分だった際には、責任の所在を問われることになります。
WEBサービスを早く始めるにはその作成を専門家に依頼し、自分は他の準備に専念するのも一つの方法ですが、専門家もそのサービスについて熟知しているとは限りません。任せきりにせず、しっかり事業内容や事前情報を伝えた上でアドバイスを受け、より良い規約を作成していくようにしましょう。

2019.05.15

給与計算業務②~給与計算の流れ~

前回の記事では、給与計算を行うにあたって必要な知識についてお話しました。今回は、それを踏まえて、実際の給与計算業務の流れについてご説明します。

前回の記事はこちら
給与計算業務① ~給与とは~
https://www.nakagawa-lawoffice.jp/blog/business/3370/

1. 給与計算の流れ

(1)支給項目の計算

初めに、支給項目の計算を行います。
まず、基準内賃金(基本給のほか、役職手当、通勤手当など毎月決まった金額で固定的に支払われる手当)と基準外賃金(時間外労働をさせた場合に支払う手当など毎月変動的に支払われる賃金)を合計します。また、前回の記事でも述べた通り、給与は労働の対償として支払われるものなので、欠勤や遅刻、早退のように、従業員の労務の提供がない場合は、給与を支払う必要はありません。ですので、基準内賃金と基準外賃金の合計額から、欠勤や遅刻、早退をした場合の欠勤控除、遅早控除の額を差し引き、総支給額を算出します。

支給額が毎回変動する給与は、支給する度に計算する必要があります。変動がある項目として代表的なのが残業手当です。タイムカード等で記録している残業時間のうち、法定時間内労働、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働について、それぞれ分けて集計する必要があります。

(2)保険料の計算

(a)社会保険料

社会保険料とは、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上65歳未満の従業員のみ)のことです。
各従業員の社会保険料を確認するために、まず、保険料額表を準備します。健康保険料率と介護保険料率は毎年3月、厚生年金保険料率は毎年9月に改正されるので、最新のものを準備するようにしてください。

保険料額表を準備したら、報酬月額を算出します。この報酬月額とは、基本給のほか、通勤手当、家族手当、住宅手当、残業手当など労働の対償として会社が支払う報酬のことを指します。臨時に支払われるものや、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与などは含まないので注意しましょう。

算出した報酬月額を保険料額表にあてはめることで、標準報酬月額が決定します。この標準報酬月額に保険料率を掛けることで、保険料が決定します。
標準報酬月額を決定するのは、従業員の入社時、毎年7月に標準報酬月額の見直しを行う定時決定時、大幅な昇給・降給があった場合の随時改定時です。

<控除する社会保険料の求め方>

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず前述した保険料額表を準備・参照してください。

例えば、報酬月額が22万5千円である場合、標準報酬月額は22万円になるので、標準報酬月額が220,000の行を参照します。社会保険料は、会社と従業員で折半するので、従業員の給与から控除するのは全額ではなく、折半額です。
健康保険料については、40歳未満の従業員であれば、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の折半額(今回の場合、11,264円)、40歳以上の従業員であれば「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の折半額(今回の場合、13,167円)を控除します。
厚生年金保険料については、一般の被保険者の折半額(今回の場合、20,130円)を控除します。

(b)雇用保険料

雇用保険料は、総支給額に雇用保険料率を掛けて計算するため、総支給額が変わる度に計算しなければなりません。雇用保険料率は、会社の事業の種類によって異なるので、厚生労働省のホームページで確認しましょう。

<控除する雇用保険料の求め方>

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず厚生労働省のホームページを参照してください。
雇用保険料も、従業員が負担する分と会社が負担する分に分かれるので、従業員の給与から控除するのは①労働者負担にあたる額のみです。

例えば、一般の事業に該当する会社の従業員で、総支給額が20万円である場合、20万円に①労働者負担率0.3%を掛けた600円を控除します。

(3)所得税・住民税の計算

所得税は、源泉徴収税額表を用いて計算します。この源泉徴収税額表には、月額表と日額表があります。
給与を月、半月、10日、月の整数倍の期間ごとに支払う従業員に対しては月額表を使います。「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。
これに対して、日や週ごとに支払う従業員、日割で支払う従業員、日雇賃金を支払う従業員に対しては日額表を使います。日や週ごと、日割で支払う従業員で、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。日雇賃金を支払う従業員については丙欄を使います。
また、扶養控除等申告書を提出している場合、配偶者、子、親といった扶養親族等の人数を確認しましょう。

<控除する所得税の求め方>

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず国税庁のホームページを参照してください。

例えば、月ごとに給与を支払っており、その月の社会保険料等控除後の給与等の金額が29万円、扶養控除等申告書を提出している従業員で、扶養親族等が2人の場合、4,800円を給与から控除します。

住民税は、毎月5月頃までに会社に送られてくる特別徴収税額決定通知書をもとに控除します。

(4)給与明細の作成

最後に、給与明細を作成します。たとえ給与を振込みで支給していたとしても、必ず給与明細を作成して、役員を含む従業員に渡す必要があります。

給与明細書

2. まとめ

前回の記事と今回の記事にわたって、給与計算に関する基本的な知識・流れについてご説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。給与計算は、支払日までに、思っている以上に多くの手順を踏む必要がある難しい業務です。慣れないうちは特に大変ですが、1つ1つの項目を丁寧に理解して業務を進めていきましょう。

 

2019.05.14

意外と知らない会社法

「会社」や「株式会社」、よく聞く言葉ですよね。
しかし、何のことを指す言葉なのか聞かれると意外と答えられない言葉でもあると思います。世の中には本当に多くの会社があり、総務省統計局による平成26年経済センサスによれば、日本中の企業の数は382万社にのぼります。

これだけ多くの会社が世の中にはあり、様々な種類の会社がありますが、会社経営と縁のない立場としては、会社の種類なんて気にしたことないですよね。世の中の構造を理解することは、人生を賢く生きる術でもありますから、ぜひ知っておいてください。
今回は、そんな会社の種類について説明します!

1.「会社」とは

世の中には、数え切れないほどの「会社」が存在していますよね。株式会社、合同会社などいくつか種類がありますが、そもそも「会社」とは一体何のことでしょうか?

「会社」とは、営利行為を業とすることを目的として設立された社団法人のことを言います。細かく分類して説明すると、以下の通りです。

営利行為:利益を得ることを目的とする行為のこと
(得られた利益を構成員に配当するところまでを含みます。法律用語として厳密な説明をすると、儲けるためにビジネスをしていることではなく、株主に対して配当を行っていることを「営利」と呼びます。)

業とする:反復継続すること(実際に反復継続している場合だけでなく、実際には1回限りだったとしても、反復継続する意思で行われている場合も含まれます。)

社団:一定の目的を持った人々の集まり

法人:人ではないが、法律で人格を認められたもので、権利義務の主体とされるもの(要するに、契約の主体として、契約書に署名押印できる立場を言います。)

つまり「会社」を簡単に説明すると、継続的に利益を得ることを目的とした人々の集まりで、権利義務の主体となることができるものとなります。

では、「会社」は利益を得るという目的があれば何をしても良いのでしょうか?
もちろん、そんなはずはなく、どのような事業を行っていくのかを定めなければなりません。これが「会社」の目的となります。「会社」は定められた目的の範囲内でのみ、法人格が与えられるため、目的外のことについては権利義務の主体となることができません。

通常、会社の登記簿には「会社の目的」が列挙されています。例えば、飲食店を経営する会社であれば、登記簿の目的の欄に「飲食店経営」と書かれており、飲食店経営に必要な事柄については権利義務の主体になれる(契約を行うことができる)のですが、全く関係のない事柄に関しては権利義務の主体にはなれません。

そのため、新しいビジネスを始める場合、現状の会社の目的の欄に関係しそうなものが見当たらない場合には、登記簿の目的欄を追加して、会社の目的として新しいビジネスを書き込みます。

会社の登記簿なんて見たことないかもしれませんが、法務局に行けば誰でも何の会社でも登記簿を取得することができますので、自分が知っている会社や働いている会社の登記簿を取得して、会社の目的や役員構成などを見てみても面白いかもしれません。

2.「株式会社」とは

会社法では、現在設立することのできる会社の種類として、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4つが定められています。この中で、最も多く使われているのが「株式会社」になります。

よく耳にするこの「株式会社」という言葉ですが、どのような会社のことを指すのでしょうか?

「株式会社」は、設立する際に出資者(会社に対してお金を出してくれる人々)が集まります。この出資者のことを株主と呼び、株主は会社の持ち主となり、会社に対して様々な権利を持つことができます。

株主の持つ権利は株式とよばれ、株式を具体化したものを「株券」といいます。(一昔前であれば、どこかの会社の株式を持っている人は株券を保有しているのが通常でした。例えば、キティちゃんなどで知られる株式会社サンリオの株券は、キティちゃんが印刷された株券でした。これも東京証券取引所に行けば見学できますので、見てみてください。しかし、現在では株券は発行しなくても良いことになっていますので、株券をいちいち発行していない会社が大半でしょう。なので、世の中で株券というものを保有している人は多くないと思われます。)

また、株主はあくまでも会社の所有者でしかなく、経営のプロという訳ではありません。そのため、会社を経営する取締役として、株主でない他の人に経営を委ねて経営してもらうことを前提としています。これを「所有と経営の分離」と呼びます。

株主には会社を経営する義務がないと先程お伝えしましたが、経営しなくて良いということは、会社に対して出資のみをすることになります。
ですので、もし株主をやめたいと思った時には、株式を他の人に売り、出資したお金を回収することが可能です。原則として、株主は株式を自由に譲り渡すことができるのです。(ただし、譲渡制限株式という株式を譲渡する際には会社の承諾が必要となるタイプの株式も存在し、上場企業でなければ譲渡制限株式であることが多いですので、確認されてみてください。これも会社の登記簿を確認すれば書いてあります。)

3.「持分会社」とは

2では、株式会社についてお話をしましたが、ここでは株式会社以外の会社について説明をしたいと思います。2で、会社法では4つの種類の会社が定められていることを紹介しました。1つは株式会社、残りの3つは合同会社、合資会社、合名会社となり、この3つを合わせて持分会社と呼びます。

持分会社とは、社員と出資者が同じで、比較的自由度が高い会社になるため、その分社員同士の関係性が大切になってきます。このことから、持分会社は少人数や仲間内で設立するのに適している会社となります。

また、持分会社の社員には、出資額の範囲内で責任を負う「有限責任社員」と出資額に関わらず、会社の負債のすべてにおいて責任を負う「無限責任社員」の2種類が存在し、有限責任社員のみで構成される会社を「合同会社」、無限責任社員のみで構成される会社を「合名会社」、有限責任社員と無限責任社員の両方がいる会社を「合資会社」と言います。

どの会社についても、株式会社と比べて設立手続きが簡単で、社員間の取り決めも簡単にできるようになっています。
最近は、有限責任で簡単に設立でき、設立時のコストも安いことから、合同会社で立ち上げられるベンチャー企業も多くなっています。

4.まとめ

今回は、「会社」、「株式会社」、「持分会社」についてお話をしました。よく聞く言葉でも、いざどんなものかと聞かれると答えることが難しいですよね。

また、これらの言葉や会社法について、知っていて損をすることはないと思いますので、是非この記事を読んで日々の生活に役立ててください。

2019.05.13

【不動産】マンション設備・建築の適法性に関する売主の説明義務

Q.新築マンションを購入して住み始めたのですが、外壁が剥がれ落ちている箇所があり、マンションの建築工事の段階で不備があったのではないかと思っています。こういったとき、売主に対して損害賠償請求をすることは可能なのでしょうか?

A.マンションの設備や建築の問題としては、最初に挙げたような

例①:新築マンションを購入して住み始めたところ、外壁の剥落という、新築マンションとしては考えられないような不備が見つかった場合

の他にも、

例②:不備が見つかったために売主へ補修工事を行うよう請求したものの、その建築上の不備がかなり重大なものだったことが判明して、大規模な補修工事が必要になってしまった
例③:補修工事によって建物の不備は是正されたものの、「大規模修繕を経たマンション」という事実により、マンションを売ろうとしても買い手がつかない、若しくは価値が大きく下がってしまう可能性が想定される
例④:売主に補修工事の対応をしてもらったものの、長期間にわたる工事期間中、騒音や粉塵に悩まされた

といったように、一つの不備があったことから複数の重大な問題が発生することが想定されます。
こういった被害が実際に発生した時、誰に、どのような根拠に基づいて請求をすることができるのかを考えていきます。

1 民法上の瑕疵担保責任

例①の場合、当該マンションの買主としては、まずは売主に対する瑕疵担保責任の追及を試みることが考えられます。瑕疵担保責任とは、購入したものに何らかの瑕疵(不備)があった場合に、その瑕疵の補修や損害賠償などを求める権利のことです。

民法では、瑕疵担保責任について1年間の除斥期間(時効のようなものです)を設けていることから、買主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をする場合、隠れた瑕疵の存在を知った時点から1年以内に行わなければなりません。

また、この「瑕疵担保責任」は、一般債権の消滅時効の規定が適用されると解されています。よって、買主が瑕疵の存在に気付かず、消滅時効期間が経過してしまった場合には、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は困難になってしまいます。

更に、民法上の瑕疵担保責任の規定は任意規定であるため、売買契約の中で瑕疵担保責任の行使期間が短縮されているケースも多くあるため注意が必要です。

以上を踏まえて、購入した年月日、瑕疵を発見した年月日、売買契約書の中に売主が瑕疵担保責任を負わない旨の規定が入っていないかなど、確認されてみてください。これらを確認し、どのような瑕疵があるのかを明確にして、弁護士などの専門家に損害賠償請求ができないか、売主に補修をするよう請求できないかを相談してみましょう。

2 住宅の品質確保の促進等に関する法律による瑕疵担保責任

上記1の通り、民法の規定を前提とした場合、除斥期間が1年とかなり短い上に、個別の売買契約において更に期間が短縮されていることも多く、買主にとって大変不利な状況にあるように思われます。

しかしながら、住宅の瑕疵は、購入時や入居時にある程度確認するため、実際に見つかる瑕疵は、なかなか気付かないような瑕疵が多いものです。(簡単に見つかるような瑕疵なら、購入時や入居時に気付いているでしょう。)実際のところ売買からそれなりの期間を経過した後に判明するケースが多いため、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」という法律によって、民法上の瑕疵担保責任の特例として、住宅新築請負契約や新築住宅の売買契約においては、「構造耐力上主要な部分(基礎、基礎杭、壁、床板、屋根板など)」、「雨水の侵入を防止する部分(屋根、外壁など)」に関する請負人または売主の瑕疵担保責任の除斥期間を10年と定めており、この期間の短縮は出来ないものと定めています。

これらを踏まえて例①のケースを考えると、新築マンションの買主であり、また、問題となっている瑕疵は外壁に関するものであるため、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づき、当該マンションの引渡しから10年経過より前であれば、買主は売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることができると考えられます。

3 資産価値の下落による損害賠償

例②及び例③について検討します。
マンションの瑕疵について売主により補修工事が実施され、マンションの機能上の問題が解消されたとしても、大規模な補修工事が行われたという事実によって、そのマンションの価値が低下するという事態は十分に想定されます。

仮に自分が中古マンションを買う側であれば、瑕疵があって大規模修繕をしたマンションは、他にも瑕疵があるかもしれないと思ってなかなか購入する気にならないですよね。こうした価値の下落部分の損害について、損害賠償を請求することが可能なのかが問題となります。

この点、福岡高判H18・3・9では、新築直後から外壁タイルの剥落を生じていたマンションを、この外壁の問題を知らずに購入した買主が、売主による補修工事後に、交換価値の下落による損害等の賠償を求めた事案について、「外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感、ひいてはこれらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事によっても払拭しがたいといわざるを得ない」ことであり、「売主である分譲業者は、売主の瑕疵担保責任として、瑕疵の存在を知らずに合意した売買代金額と瑕疵を前提とした目的物の客観的評価額の差額に相当する、この経済的価値の低下分について、損害賠償義務を負わなければならない」ことになると判示しました。

なおこの事件では、資産価値下落に掛かる損害賠償を認める前提として、単に当該マンションが新築であったことだけではなく、補修工事の規模・方法、当該マンションが高級感やデザイン性を重視していたことといった様々な事情を総合的に考慮しているため、類似した状況であったとしても、この事件と同様の損害賠償請求が認められるとは限りません。

よって、マンションや実際の損害の程度を、個別案件によって十分に検討する必要があると考えられます。

4 慰謝料請求

瑕疵担保責任に基づいて損害賠償責任が認められる場合には、財産的損害(=建物の瑕疵)に加えて、精神的損害(=建物の瑕疵について補修工事を行った際に騒音等によって被害を受けた場合)についても賠償責任は認められるかが問題となります。

この点、上記3であげた判決においては、居住者は本件瑕疵の補修工事の施工そのものは受けいれなければならなかったものの、上記補修工事によって発生する騒音や粉塵等の生活被害についてまで負担を強いられる理由は無く、これらの生活被害については売主の負担により回復されるべきとの理由から、慰謝料請求を認めました。
よって、例④のようなケースでも慰謝料の請求を検討する余地はあるといえます。

5 まとめ

以上の通り、購入した物件に何らかの瑕疵がある場合、売主に対して様々な請求をすることが可能です。
ただし、やはり事案次第というところが大きく、どのような瑕疵なのかによりますので、しっかりと弁護士などの専門家に相談して検討してみてください。

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