弁護士コラム

2019.09.15

労働者と通勤災害

労働者の方は全員、公共交通機関、徒歩、自転車、バイク、又は車に乗って仕事場まで通勤しているかと思います。通勤災害とは、労働者が通勤中に被った負傷、疾病、障害又は死亡のことを言います。
では、どのような場合を通勤途中と指すのか、通勤の定義や通勤災害となるパターンについて見ていきましょう。

1.通勤の定義(労働者災害補償保険法第七条)

労働者災害補償保険法第7条において、「通勤」とは、労働者が就業に関し、次に掲げる移動を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとすると定められています。

そして、「次に掲げる移動」として、以下の3つが定められています。
① 住居と就業の場所との間の往復
② 厚生労働省令で定める(※)就業の場所から他の就業の場所への移動
③ 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

※厚生労働省令で定める就業の場所とは、労災保険適用事業場に係る就業の場所、特別加入者(個人タクシー業者等を除く。)に係る就業の場所等のことです。

次からは、この「通勤」の要件を詳しく説明していくことにします。

2.通勤の要件

(1)「就業に関し」とは

通勤とされるには、移動行為が業務に就くため、又は業務を終了したことにより行われるものであることが必要です。
したがって、被災当日に就業することとなっていたこと、又は現実に就業していたことが必要となります。

(2)「住居」とは

「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。
したがって、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、そこから通勤している場合には、そこが住居となります。

さらに、通常は家族のいる所から出勤するが、別にアパートを借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、家族の住居に加え、アパートの双方が住居と認められます。

(3)「就業の場所」とは

「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所を指します。一般的には、会社や工場等の本来の業務を行う場所をいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の勤務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。

(4)「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」とは

転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが、その往復距離(片道60km以上等)を考慮して困難となったため住居を移転して労働者であって、一定のやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している配偶者と別居することになった者の住居間の移動のことをいいます。

(5)「合理的な経路」とは

「合理的な経路」とは、住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。最短経路のことではありませんので注意してください。
合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。
また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が月極の駐車場などを経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。
しかし、特段の合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。
また、合理的な方法には、鉄道・バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車・自転車等を本来の用法に従って使用する場合、 徒歩の場合などが当てはまります。

(6)「移動の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは

逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤とは関係ない行為を行うことを言います。ただし、逸脱や中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合は、当該又は中断の間を除き通勤途中としてみなされます。 (タバコやジュースの購入、公園での小休息、お手洗いなどがその例です)

通勤途中として認められた点が下記の通りとなります。

<日常生活上必要な行為(厚生労働省令で定められた行為)の例>
日用品を購入する
帰途に惣菜等を購入する
独身者が食事のため食堂に立ち寄る
クリーニング店に立ち寄る
選挙で投票する
医療機関などへ通院する
要介護状態にある家族を介護する(ただし、介護を継続的に又は反復している場合に限る)

3.通勤災害の際の対応方法

万が一、通勤災害が発生した場合は、会社は速やかに下記の手続きを行いましょう。

・公共交通機関の場合
社員が診療を受けた病院に、通勤災害用の書類(「療養給付たる療養の給付請求書」)を提出します。
裏面に、通勤経路や時間等を細かく記載する欄があるので、自宅から最寄り駅までの交通手段や所要時間、乗り換え方法など、会社に到達するまでのすべてを記載します。

・マイカー通勤時の事故の場合
マイカー通勤をしている社員が通勤時に事故にあった場合、前提として、労災保険で処理するか自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責)で処理するかを判断し、選択する必要があります。
どちらを選ぶかは会社の担当者が自由に決定できます。あとは担当者が社員に代わって保険会社に連絡を取り、保険会社から求められる書類を作成することになります。

なお、マイカー通勤による交通事故で第三者と接触事故を起こした場合、従業員の治療費などは、相手(加害者)の自賠責を使って損害賠償をしてもらうことが一般的です。

4.まとめ

通勤災害が発生した場合、それが本当に通勤災害となるのか、会社の担当者の確認作業が大事です。特に今日では、通勤災害の範囲は拡大傾向にあります。

実際に事故が生じた場合、担当者が「基準を知らなかった」、「判断を間違えた」という事態にならないよう、最新の情報に気を配っておきましょう。

2019.08.10

意外と知らない会社法5~会社の分割など~

前回の記事では、 M&A、事業譲渡、合併についてお話をしました。
今回は、前回の続きとして、「会社分割」、それに加えて「会社の終わり」「倒産」についてお話していきたいと思います。

1.「会社分割」とは

「会社分割」とは、会社のすべての事業、もしくは一部の事業を他の会社に譲渡することを言います。
前回の記事で、事業譲渡についてお話しましたが、事業を他社に譲渡するという点では、事業譲渡と会社分割は共通しています。ですが、事業譲渡は買い手側の企業が譲渡される事業を選ぶことができるのに対し、会社分割は、譲渡する事業に関する全ての権利義務を他社に引き継がなければなりません。
もちろん、従業員についても引き継がれます。

また、会社分割には「吸収分割」「新設分割」の2種類が存在します。
「吸収分割」とは、ある事業に関する権利義務の一部または全部をすでに存在している会社に承継する組織再編の方法、「新設分割」とは、ある事業に関する権利義務の一部または全部を新たに設立する会社に承継する組織再編の方法をいいます。
どちらの方法を取るにしても、分割会社は事業を譲渡する対価として、買い手側の企業の株式が付与されます。
吸収分割ではこの場合、株式は分割会社もしくは分割会社の株主に付与され、分割会社に付与されることを「物的分割」、株主に付与されることを「人的分割」と呼びます。

2.「会社の終わり」とは

みなさんは、「会社の終わり」と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?
恐らく、ほとんどの人が「倒産」を思い浮かべたのではないでしょうか。
ですが、「会社の終わり」が必ずしも「倒産」というわけではありません。
会社の終わりとは、「解散」「清算」をすることを言います。

会社法では、会社法第471条によって以下のように定められています。

  • 1. 定款で定めた存続期間の満了
  • 2. 定款で定めた解散事由の発生
  • 3. 株主総会の決議
  • 4. 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
  • 5. 破産手続開始の決定
  • 6. 第824条第1項又は第833条第1項の規定による解散を命ずる裁判

さらに、長期間活動を行っていない会社、会社法で言うところの第472条第1項では「株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したもの」を「休眠会社」と呼び、長期間登記がなければ、みなし解散となります。

会社が解散すると、「清算手続」に移ります。
清算では、会社の設立から現時点までに発生した債権や債務を整理し、株主に対して残余財産を分配します。その後、法人格が消滅することになります。
加えて、会社を清算したこと、清算が完了したことについては登記が必要になるので、忘れずに行ってください。

3.「倒産」とは

3で、「会社の終わり」と聞いて、どんなことを思い浮かべるか、お尋ねしたと思います。
4では、その質問の答えとして多くの方が1番最初に思い浮かべたであろう「倒産」についてお話していきたいと思います。

まず、会社の「倒産」とは、会社や個人が債務超過などによって経済的に破綻し、業務を続けて行くことができなくなる状態のことを言います。

明確な規定は存在しませんが、もし会社が「倒産」することになったとき、経営者は会社を再生する、もしくは破産するか、選択しなければなりません。

再生することを選んだ場合、「民事再生手続」もしくは「会社更生手続」のどちらかを行います。
「民事再生手続」は、業務は今まで通り継続しながら、「再生計画案」を立て、裁判所に提出します。
これが債権者の多数決で承認されると、再生手続が開始されます。
民事再生は、破綻、破綻寸前の企業がとる手続になりますので、手遅れになる前に行うことができる最善の方法と言えますし、会社を倒産させてしまった本人がもう一度経営を担うことになりますので、「私的整理」と近い再建方法と考えられているのです。

では、もう一方の「会社更生手続」とはどんなものでしょうか?

これは、「会社更生法」に基づいた手続で、民事再生と異なる点として株式会社のみが対象であること、大企業が行うことを想定していることが挙げられます。
さらに、経営権が管財人に移ること、担保権の実行が禁止されるという点においても民事再生とは異なります。

また、裁判所から任命された管財人は大きな権力を有し、会社を再建させます。
ですが、民事再生に比べるとかなりの時間と費用がかかってきますので、大企業の利用率が高くなっています。民事再生手続きや、破産が上手くいかなかった場合、会社更生手続きに移ることも可能となっています。

次に、破産することを選んだ場合、この場合は倒産した会社、もしくは倒産した会社の債権者が裁判所に申立てを行うことで手続が開始されます。
破産の手続が開始されると、破産する会社の業務は停止します。つまり、解散したことになるのです。

先ほど、手続きが開始されると業務が停止するとお話しましたが、ある一部の事業では収益をあげていると言った場合、この場合は、裁判所の許可を得ることで事業を継続していくことができます。
さらに、一部の事業のみを事業譲渡することも可能ですので、その場合は速やかに事業譲渡の手続きを開始しましょう。

4. まとめ

今回は、「会社分割」「会社の終わり」「倒産」についてお話してきました。
これらの言葉を聞くと、どうしてもマイナスなイメージを持ってしまいがちですが、そんなことはないということを、今回の記事で知って頂ければと思います。

2019.08.05

起業する前に知っておくべきこと5~登記~

前回の記事で、株式会社の設立手順の1つとして、「登記申請書を作成し、法務局に提出すること」を挙げました。
今までに登記申請手続きをされたことがない場合、登記とはどのようなものなのかよく分からない、という方も多いのではないかと思います。

そこで、今回の記事では、株式会社設立に必要な登記についての基礎知識をご紹介いたします。
前回の記事はこちらから「起業する前に知っておくべきこと4~会社の設立~」

1.株式会社設立に必要な登記とは

登記とは、ある事項について登記簿に記載し、その内容を公示するための制度のことです。登記には、商業・法人登記、不動産登記など様々な種類がありますが、株式会社を設立する際に必要なのは、商業・法人登記の株式会社設立登記です。

2.登記事項証明書(登記簿謄本)

①登記事項証明書とは

会社を設立すると、「登記事項証明書」が必要な場面が出てきます。この登記事項証明書とは一体何のことを指すのでしょうか?
登記事項証明書とは、登記事務をコンピューターにより行っている登記所で発行される、登記記録に記録されて事項の全部又は一部を記載した証明書のことです。

②登記事項証明書の種類

登記事項証明書には、全部事項証明書、一部事項証明書などの種類があります。基本的に、「登記事項証明書が要る」と言われたときは、これまでの登記の記録が全て記載されている全部事項証明書のことを指します。全部事項証明書には、3つの種類があります。

(1)現在事項証明書:現在効力がある登記事項の証明書

(2)履歴事項証明書:現在事項証明書の内容に加えて、履歴事項証明書交付請求日の3年前の日の属する年の1月1日(基準日)から請求日までの間に抹消をする記号を記録された登記事項、及び基準日から請求日までの間に登記された事項で現に効力を有しない事項の証明書

(3)閉鎖事項証明書:会社の解散などを理由に閉鎖した登記事項の証明書
通常、登記事項証明書が必要な場合は、履歴事項証明書を取得しておけば安心です。

③登記事項証明書の内容

登記事項証明書には、以下のような項目についての記載がなされます。

会社法人等番号 法務局が商業・法人登記の識別のため、登記記録1件毎に記録している12桁の番号のこと。
似た言葉として法人番号があるが、法人番号は行政の効率化のため、マイナンバー法に基づき国税庁が指定する13桁の番号のことであり、会社法人等番号とは異なる。
商号 会社の名称のこと。
本店 本店の所在地が記載される。
本店とは、登記上の会社の本拠地のこと。あくまで登記上の所在地なので、いわゆる本社の所在地と一致している必要はない。
公告をする方法 決算後や会社の合併をしたときなどの情報を公に知らせる方法を記載する。(例えば、官報等)
会社成立の年月日 最初に登記をした日付が記載される。
目的 会社が行う事業内容のこと。複数の事業内容を記載することができ、現在行っている事業に限らず、今後行う予定の事業も記載して良い。
<注意点>
・広く一般的に使われている言葉を使用し、また、明確性が必要である。
・許認可が必要な事業を行う際、目的の文言が特定の要件を満たしていなければならない場合がある
⇒その事業の管轄の役所のホームページを確認し、特に記載がなければ電話等で確認する。
・株式会社は利益を得ることを目的としているため、営利性のある事業でなければならない。
・法や公序良俗に反しない事業でなければならない。
発行可能株式総数 会社が発行することができる株式数の上限のこと。
資本金の額 現在の会社の資本金の額が記載される。
株式の譲渡制限に関する規定 株式に譲渡制限をつけた場合、その旨が記載される。株式会社の場合、所有する株式に応じた議決権が付与されるが、株式の自由な譲渡を認めると、会社にとって好ましくない人に株式が渡り、不都合が生じる可能性があるため、一般的に譲渡制限はつけることが多い。
役員に関する事項 取締役および監査役(監査役を設置する場合)の氏名、登記原因(就任、退任など)、その年月日が記載される。また、代表取締役については、住所も記載される。
登記記録に関する事項 会社の設立や合併など登記記録の編成に関することが記載される。

④登記事項証明書の取得方法

登記事項証明書を取得するためには、大きく分けて(1)オンラインによる交付請求、(2)窓口での交付請求、(3)郵送での交付請求の3つの方法があります。

(1)オンラインによる交付請求
自宅や会社のパソコンを利用して、インターネットでオンライン請求ができます。
請求した証明書は、自宅や会社に郵送してもらうこともできますし、最寄りの登記所・法務局証明サービスセンターで受け取ることも可能です。手数料は、インターネットバンキングやPay-easyを用いて納付します。

オンラインによる交付請求は、窓口での交付請求に比べて、手数料が安かったり、受付時間が長かったりというメリットがあります。

オンラインによる交付請求 窓口での交付請求
手数料 ・郵送受取:500円
・登記所等受取※:480円
600円
受付時間 平日午前8:30~午後9:00 平日午前8:30~午後5:15

※登記所または法務局証明サービスセンターでの受取り

(2)窓口での交付請求
登記所または法務局証明サービスセンターの窓口に行って請求・取得ができます。

(3)郵送での交付請求
登記所に申請書、収入印紙、切手を貼付した返信用封筒を送付することで請求・取得ができます。

⑤登記内容に変更が生じた場合

役員の就任・退任など登記事項に変更があった場合には、変更登記手続きを行う必要があります。
変更登記手続きをすると、登記事項証明書には、変更前の事項と変更後の事項がいずれも記載されます。また、変更前の内容には下線が引かれます。

3.まとめ

今回の記事でご説明した内容は、株式会社設立をお考えの方にはぜひ知っておいていただきたいと思います。

また、もし、登記事項証明書を取得する必要はなく、登記の内容を確認されたいだけであれば、ホームページ上で商業・法人登記情報(335円)を閲覧できる「登記情報提供サービス」の利用をおすすめいたします。

※この記事に記載されている情報は、令和2年3月1日時点のものです。

2019.08.04

起業する前に知っておくべきこと4~会社の設立~

前回前々回の記事では、個人事業主が法人成りするメリット・デメリットについてお話しました。今回は、それらの記事を踏まえて、法人成り(会社の設立)をお考えの方が知っておくべき知識をご紹介します。

1.会社の種類

会社には、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4つの形態があります。それでは、実際に会社を設立する場合、この中のどれを選べば良いのでしょうか?

合資会社と合名会社に関しては、以下に記載しているとおり、無限責任社員が存在し、事業に失敗したときに経営者が直接リスクを負わなければならないため、現在、これらの形態で会社を設立する人は少なくなっています。

<合資会社>
・全ての出資者が無限責任社員となり、会社の債権者に対して無限に責任を負う
・無限責任社員は、倒産などで会社が債務を負ったが履行できない場合、自らの全財産を弁済に充てなければならない=自分の財産をもって会社の債務に対する責任を負わなければならない

<合名会社>
・前述した無限責任社員と、出資額を限度として会社の債権者に対して責任を負う直接有限責任社員とで構成される

これに対し、株式会社合同会社有限責任社員で構成されます。つまり、事業で失敗してしまった場合でも、社員は出資額の範囲内でしか責任を負う必要がないということです。

以上のことから、会社を設立するときは株式会社または合同会社を選択することをおすすめします。

2.株式会社と合同会社の違い

「1.会社の種類」から、会社設立時には株式会社か合同会社が良いということがお分かりいただけたかと思います。それでは、株式会社と合同会社ではどちらを選択すれば良いのでしょうか?

<株式会社と合同会社の違い>

株式会社 合同会社
議決権 出資割合に応じて、株主総会の議決権の割合が変わる 出資割合に関わらず、原則として1人1票の議決権を持つ(=複数の出資者が存在し、意見に相違があった場合、収集がつかなくなる可能性がある)
配当 出資割合に応じて配当金を支払う 定款の定めにより、出資割合とは異なる割合で自由に配当金の支払いができる
認知度 日本の多くの法人が株式会社なので、認知度が圧倒的に高い 日本の多くの法人が株式会社なので、認知度が圧倒的に高い
設立費用 ・登録免許税:資本金の7/1000
(15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円)
・定款認証手数料:5万円
・印紙代:4万円
(電子定款の場合は不要)
・登録免許税:資本金の7/1000
(6万円に満たないときは、申請件数1件につき6万円)
・定款認証手数料:5万円
・印紙代:4万円
(電子定款の場合は不要)
決算公告 決算公告をして、会社の決算書を公表する義務がある 決算公告は不要

「どちらで設立したほうが良いのか分からない…」という方には、株式会社をお勧めします。なぜなら、海外では合同会社はLLCとして認知度が高いですが、日本においては多くの法人が株式会社であり、合同会社の認知度は低いです。
社会的信用度を考慮すると、株式会社にしておいたほうが、取引や採用の場面などで安心できるかと思います。

3.株式会社設立の流れ

それでは、株式会社はどのように設立したら良いのでしょうか?

① 商号の調査
まず、同じ所在地に同じ会社名(商号)がないかを確認します。この調査が必要な理由は、同じ所在地に同じ会社名を登記することができないためです。

② 出資者(以下、「発起人」といいます。)、取締役の印鑑証明書取得
会社を設立するにあたり、印鑑証明書が必要な場面が2回(定款認証をするとき、登記申請をするとき)あります。印鑑証明書は、住民登録をしている自治体で取得することができるので、各自治体のホームページなどで持参する必要があるものを調べた上で窓口に行きましょう。

③ 定款の作成
定款は会社の運営に関するルールであり、会社を設立するときは必ず作成しなければなりません

<絶対的記載事項>
(1)目的 (2)商号 (3)本店所在地 (4)設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
(5)発起人の氏名又は名称及び住所 (6)発行可能株式総数
以上の事項が定められていなければ、定款の認証を受けることはできません。

<相対的記載事項>
(1)取締役会等の設置
(2)取締役等の任期の伸長
(3)株式譲渡制限に関する定め
これらはあくまで例であり、相対的記載事項は上に述べたもの以外にも多く存在します。相対的記載事項が定められていなくても、定款自体は無効になりませんが、定款に定めの無い事項の効力は認められません。

<任意的記載事項>
(1)定時株主総会の招集時期
(2)株主総会の議長
(3)営業年度
これらもあくまで例であり、任意的記載事項は上に述べたもの以外にも多く存在します。任意的記載事項は、定めていなくても定款・事項の効力は否定されませんが、定款に記載することでルールが明確になるので、会社にとって重要な事項は定めておいた方が良いでしょう。

④ 定款認証
定款を作成したら、発起人の署名または記名押印をした上で、公証役場で定款認証を受けます。この認証を受けなければ、定款の効力は認められません。公証役場には、定款3通(公証役場保存用・会社保存用・登記用)、印鑑証明書(発起人全員分)を持参します。また、手数料として5万円、収入印紙代4万円が必要です。

⑤ 資本金の振込み
登記申請では、払込申請書(資本金の振込みがあったことを証明する書類)を添付しなければなりません。そこで、発起人は、出資金を通帳に振り込む必要があります。この時点ではまだ会社は設立できておらず、会社の口座は存在しないので、発起人個人の口座に振り込みます。振込みが完了したら、通帳をコピーして、払込証明書とします。

⑥ 登記申請書の作成・申請
株式会社登記申請書を作成し、本店となる場所を管轄している法務局に申請します。

<全ての株式会社が登記する事項>
(1)商号 (2)本店所在地 (3)設立日※ (4)公告の方法 (5)事業の目的
(6)資本金の額 (7)発行可能株式総数 (8)発行済株式総数 (9)取締役の氏名
(10)代表取締役の氏名、住所 
※設立日は登記を申請した日になります。
  
<定款等の定めがある場合に登記すべき事項>
(1)譲渡制限株式に関する定め (2)取締役会の設置会社である旨 
(3)監査役の設置会社である場合には「その旨」と「監査役氏名」 等
 一度登記してしまうと、内容を変更するためには手数料がかかってしまうので、よく考えて登記をする必要があります。

①から⑥までの手順を経ることで、株式会社を設立することができます。

4.まとめ

「会社を設立したいけれど、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社のどれを選択すれば良いか悩んでいる」という方には、ぜひ今回の記事を参考にしていただけたらと思います。

「3.株式会社設立の流れ」でお話した通り、会社を設立する手続きはとても煩雑です。手続きに漏れがあって会社を設立するまでに時間がかかってしまったり、誤った内容の登記をして変更手数料を支払ってしまったりすることを考えると、依頼費用は必要ですが、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。

2019.08.03

【不動産】専用部分で漏水事故が発生した時

8階建のマンションの3階に住んでいるのに、天井から水漏れが発生しています。最上階ではないので、雨漏りではなく上の階からの漏水だと思うのですが、どのように対応すればよいのでしょうか?

【事例】
マンションの305号室に居住するXは、天井からの水漏れにより、浸水の被害を受けました。管理組合へ相談し、水漏れの原因を調査した結果、Xの居室の真上にある405号室の専有部分からの水漏れであることが判明しました。
405号室にはSという人が居住をしています。

一軒家で天井から雨漏りが発生すれば、その理由はたいていが「雨漏り」なので、天井や屋根の補修さえしてしまえば問題は解決します。
ところが、マンションの最上階ではない部屋で漏水が発生した場合には、雨漏り以外の要因が想定されるため、問題を解決するための方法も、その原因によって全く変わってきます。

ケースによってどのような対応を取るべきか検討していきましょう。

1 Xは、漏水で被害を受けた今回の件について、誰に、どのような請求をすることができるのか

誰に対してどのような請求をすればよいかは、漏水の原因によって異なります。
例えば、Sが不注意で浴室に貯めていた水を溢れさせてしまった場合のように、単純にSの不注意であった場合であれば、Sに対して不法行為に基づく損害賠償を請求することが出来ます。

一方で、例えば405号室の排水設備が老朽化していたために漏水が発生し、Xの居室への浸水に繋がった場合であれば、Xは、不法行為に基づく損害賠償請求の他に、漏水が発生した当該居室の占有者本人には過失が無かったとしても、土地工作物責任に基づく損害賠償請求(民法717条1項)をすることが想定されます。

土地工作物責任では、危険物の占有者及び所有者に対しては重い責任を負わせるという危険責任の法理に基づいて、占有者に対しては中間責任、所有者に対しては無過失責任を定めています。

2 漏水事故が発生した当時、短時間で集中豪雨があったときには、原因をどのように考えるべきか。

漏水の原因が気象条件によるものであった場合には、建物の構造上大雨に弱かったのか、配水管が詰まっていたせいで水が溢れ出し、居室への漏水に繋がったのかといった細かい条件により対応が変わってきます。

いわゆる「大雨」の程度であれば、普通の建物であれば防げる程度であると想定されるため、大雨の時に漏水が発生した場合には、建物に何らかの瑕疵(防水設備が不十分であった、配水管が塵芥で詰まっており清掃・点検が不十分であった)の存在が想定されます。

一方で、近年各地で発生しているような豪雨の場合には、上述したような瑕疵の有無にかかわらず、漏水が発生することが考えられます。
こういった場合には、実際に発生した漏水による被害の程度が、上述のような瑕疵が存在したためにより大きいものになってしまったか否かを焦点に争うことが想定されます。
 

3 漏水の原因が、マンション建築当時からの構造上の問題であった場合は、誰が責任を取るのか。

漏水事故について、Sが土地工作物責任に基づき、Xに対し損害賠償を行った後に、実は今回発生した漏水事故は、マンションが建築された当時から存在していた瑕疵に起因するものであることが判明した場合には、どのような対応が考えられるのでしょうか。

まず、発生した漏水事故について、占有者ないし所有者(S)が土地工作物責任を果たした場合であって、損害の原因について他にその責任を負う者がいる場合には、Sは、この「責任を負う者(マンションの分譲業者や施工業者等)」に対し、SがXに対して賠償した内容について求償することが出来ます。

また、漏水の原因となった瑕疵が、いわゆる「隠れた瑕疵」であった場合には、Xは当該マンションの分譲業者(売主)に対して、瑕疵担保責任を請求することも考えられます。

瑕疵担保責任については、民法上は除斥期間を、当該瑕疵を発見した時から1年と定めており、宅建業法においては物件の引渡しから2年以内に制限されています。
一方、当該瑕疵が住宅の構造上主要な部分などの隠れた瑕疵であった場合には、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)によって、除斥期間は物件の引渡しから10年間とされています。

4 土地工作物責任の要件

以上のように、XはSに対して土地工作物責任に基づく損害賠償請求を行うことが出来る場合がありますが、ここからは、具体的に土地工作物責任の要件を検討していくことにします。

まず1つ目の要件として、「土地の工作物」からの被害が必要となります。この「土地の工作物」とは、土地に接着して、人工的作業を加えることによって成立した物をいい、マンションの建物がこれに該当することは明らかです。

例えば、マンションの漏水の原因が、漏水が発生した浴槽の防水が不完全であったことであった場合、この「浴槽の防水設備」は、マンションの一部であるため、「土地の工作物」に該当します。
そして、漏水の原因が排水設備の劣化にあった場合、この「排水設備」は「建物の附属物」に該当するため、建物と一体のものとして「土地の工作物」に含まれると解されます。

2つ目の要件として、「設置・保存の瑕疵」の存在が必要です。土地工作物の「瑕疵」とは、建物が通常備えるべき安全性を欠くことであり、工作物の設置当初から存在する瑕疵を「設置の瑕疵」、工作物が維持管理されている間に生じた瑕疵を「保存の瑕疵」といいます。

3つ目の要件は、「損害」の発生です。この「損害」は、実際に発生した者であることを必要とします。

そして、最後の要件が「因果関係」の存在です。前提として「事実的因果関係」が認められる必要があります。次に、特に気象条件等の不可抗力が影響した上での損害の発生の場合には、「相当因果関係」が問題となり、検討が難しくなります。

2019.08.02

定年後再雇用の企業リスク

今般、多くの企業が定年退職後の再雇用制度を導入しています。再雇用の前後で労働条件が全く同じというわけでは無く、特に再雇用後の賃金が下がるケースも多くなっています。

この様な労働条件の変化について、果たして、企業側は法的なリスクは無いのでしょうか?今回は再雇用制度の導入に伴う企業のリスクと対処方法についてご説明していきます。

1.高年齢者雇用確保措置について

政府は、平成25年に65歳までの安定した雇用を確保するため高年齢者雇用確保措置を実施し、定年を65歳未満に定めている企業に対し、「65歳までの定年の引上げ」、「65歳までの継続雇用制度の導入」、「定年の廃止」のいずれかの措置を実施する必要がある(高年齢者雇用安定法第9条)」と定めています。

高年齢者雇用確保措置の実施後は、継続雇用制度(再雇用制度)の導入を選択する企業が多くなりました。
継続雇用制度は労働者が希望すれば定年後も引き続いて雇用する制度となるため、定年を迎えた65歳未満の労働者が希望すれば継続して働くことが出来る環境が整っています。

2.労働契約法第20条のリスク

それでは、再雇用時の労働条件は従前と同一の条件で雇用する必要があるのでしょうか?それとも、企業が一方的に労働条件を定めることが出来るのでしょうか?

多くの企業では、再雇用時の雇用形態を正社員から嘱託社員やパートタイマーなどの有期雇用労働者へと変更しています。
なお、雇用形態を変更するのであれば、業務内容等も雇用形態に応じて変化する必要がありますが、企業によっては雇用形態を変更し、賃金を下げるが、労働内容、範囲などが以前と全く同じ場合には労働契約法第20条に違反するリスクが存在します。

労働契約法第20条とは、有期雇用労働者と正社員との間で、労働者の義務の内容、業務に伴う責任、職務の内容及び配置の変更範囲に関して、不合理な差をつけることを禁止する法律です。

労働契約法第20条の趣旨は、再雇用の有期雇用労働者と正社員(無期雇用労働者)の待遇や労働範囲を同一に規定するというものではなく、あくまでも不合理な労働条件の相違や待遇の差があり、それらの点について労働者から裁判所へ訴えがなされた場合に労働契約法第20条に違反していると判断され、損害賠償を命じられるリスクが生じます。

3.無期転換ルールの特例制度について

前述した通り、多くの企業は定年後に再雇用を希望する労働者について、雇用形態を無期雇用から有期雇用に変更しながら継続雇用制度を運営しています。
しかしながら、有期雇用契約では、雇用期間が5年を超え、労働者から使用者に対し期間の定めのない無期雇用契約へ切り替えを求めた場合は、無期雇用へ労働条件を変更する必要があります(労働契約法第18条1項)。

例えば、60歳で定年を迎えた労働者を有期契約で65歳まで再雇用した場合、労働者は65歳になったときに(有期契約の開始から5年が経過した時点)無期転換申込権を取得することになります。
無期雇用となると、企業は雇用期間満了を理由に雇用を終了させることができないため、人件費の増額に繋がることが予測されます。

企業側は人件費の増加というリスクがあると積極的に継続雇用制度を運営しない可能性が大きくなるため、企業側のリスクを軽減するために有期雇用特別措置法(正式名は、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法といいます。)が設けられています。

有期雇用特別措置法では、企業が再雇用した有期労働者に対して、無期雇用転換の申込権発生までの期間において特例を設けた特別措置をとることができます。特別措置を行う場合には、労働局の認定が必要となりますが、有期雇用特別措置の申請が認定されると、無期転換ルールの対象から除外されます。
但し、有期雇用特別措置の制度を導入するには、企業が予め就業規則を整備し、有期雇用特別措置に適応した雇用契約書を作成することが重要です。

4.まとめ

今回は高年齢者雇用確保措置の実態と企業側のリスクについて説明を致しました。高年齢者雇用確保措置を実施により、定年を迎えた65歳未満の労働者は希望をすれば継続して働くことが出来る環境が整いました。

一方で、企業には、労働者からの再雇用の希望に対し、拒否をした場合は損害賠償を請求されるリスクや、再雇用をしたとしても有期雇用で5年以上が経過すると無期雇用へ雇用形態を変更する必要に迫られ人件費の増加に繋がるというリスクに直面しています。

なお、後者のリスクに対しては事前に、労働局から有期雇用特別措置法の認定を受けるなどの対策を講じることも可能なため、労働者との間でトラブルに発展する前に、事前にリスクに備えたいという方は、一度専門家へ相談することをお勧めします。

2019.07.26

各種ハラスメントについて

皆さんは、「ハラスメント」という言葉をご存知ですか?よく問題になっているセクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどの単語は、耳にしたことがある方も多いかと思います。

今回の記事では、「ハラスメントにはどのようなものがあるのか?」「ハラスメント被害に遭った場合はどうしたら良いのか?」「ハラスメントが発生した場合に行為者・会社が問われる責任は何か?」についてご説明します。

1.ハラスメントの種類

ハラスメントとは、嫌がらせいじめのことです。近年、ハラスメントによるトラブルは増加しており、「〇〇ハラ」という言葉を見かける機会が増えてきました。では、ハラスメントには一体どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、代表的なハラスメントを取り上げてご説明します。

パワーハラスメント

パワーハラスメントパワハラ)とは、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりすることを指します。

<具体例>
・挨拶を無視されたり、会話をしてくれなかったりする
・蹴られたり、物を投げつけられたりする
・他の社員もいる中、大声でミスを責められる
・一人では終わらせることができない膨大な量の仕事を強要する

セクシャルハラスメント

セクシャルハラスメントセクハラ)とは、相手方の意に反する性的言動のことを指します。セクハラと聞くと、「男性の性的な言動によって、女性が被害に遭う」というケースを想像される方が多いかもしれません。しかし、「女性の性的な言動によって、男性が被害に遭った」という場合も、もちろんセクハラに該当します。また、同性に対する性的な言動もセクハラに含まれます。

<具体例>
・性的な関係を持つことを要求され、断ったところ解雇される
・上司に度々腰や胸を触られ、苦痛に感じて仕事への意欲が低下している

マタニティハラスメント

マタニティハラスメントマタハラ)とは、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントのことを指します。

<具体例>
・妊娠したことを報告したことにより、「妊娠をしたのであれば辞めてもらう」、「もう昇進はできない」と言われる
・育児休業制度の利用を申出・取得したことにより、「休みを取るのであれば辞めてもらう」と言われる

スメルハラスメント

スメルハラスメントスメハラ)とは、体臭や煙草・香水などの匂いに関するハラスメントのことを指します。

<具体例>
・煙草の匂いがする従業員がいる
・生乾きの衣類を着ていることにより、衣類から匂いが発せられる従業員がいる

2.ハラスメント被害に遭ったら

では、実際にハラスメント被害に遭った場合はどうしたら良いのでしょうか?「ハラスメント被害に遭っていると感じるけれど、何をしたらいいのか分からない…」という方もたくさんいらっしゃるかと思います。

もし、ハラスメント被害に遭った場合は、以下の行動を起こしましょう。

(1)いつ、どこで、どのような被害に遭ったのか、近くに誰がいたかなどの具体的状況を詳細に残しておく

メモや録音などの方法によって記録を残しておくことで、後から事実確認をするときの証拠になります。
また、口頭で「ハラスメントをやめてほしい」という要求をして、それでも続くようであれば文書でもやめてほしい旨を申し入れることで、「ハラスメントが行われていたこと」、「やめてほしいと伝えたこと」を証拠に残すという手もあります。

(2)会社の窓口に相談する

人事部や、社内に相談窓口が設けられていれば相談窓口で相談しましょう。

(3)外部の相談窓口に相談する

社内に相談窓口が設けられておらず、社内に相談できる人がいない場合は、全国の労働局・労働基準監督署や、弁護士・社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。

3.ハラスメントが発生した場合の行為者・会社の責任

(1)行為者の責任

ハラスメント被害に遭った場合、被害者は行為者(ハラスメントを行った本人)に対して、不法行為責任に基づく損害賠償請求をすることができます。
また、ハラスメントの種類によっては、傷害罪や暴行罪、強制わいせつ罪などに該当し、行為者は刑事責任を追及される可能性があります。

(2)会社の責任

もし、会社がハラスメントを放置し、改善しなかった場合、会社は不法行為責任使用者責任債務不履行責任を負う可能性があり、その場合、被害者は損害賠償請求をすることができます。
また、被害者がハラスメントによりショックを受け、うつ病等の精神障害を発症した場合、労災申請をすれば、労働災害と認定される場合があります。この労働災害認定の頻度・程度によっては、会社について労働基準監督署の調査が行われたり、翌年以降の保険料が増額されたりします。

4.まとめ

本来であれば、会社が、職場でのハラスメントを防止するために対策を講じる必要があります。しかし、ハラスメント防止対策が十分になされていない会社も多く存在しています。
ハラスメントは、個人の尊厳や人格を不当に傷つける許されない行為です。会社がハラスメントを放置することは、従業員が十分な能力を発揮して働くことを妨げる上、職場秩序の乱れに繋がります。「ハラスメント被害に遭っていて辛いけれど、会社に相談しても対応してくれないから我慢するしかない…」と思っていらっしゃる方も、一人で悩まずに、まずは弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをご検討ください。

2019.07.25

意外と知らない会社法4「M&Aについて」

M&Aや、事業譲渡、合併など、詳しくは知らないけれど、言葉だけなら聞いたことがある、という方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、M&Aとその種類についてお話していきます。

1.M&Aとは

M&Aとは、いったい何のことでしょうか?
Mは、Mergers、Aは、Acquisitionsの略、つまりM&Aとは合併と買収の総称であり、2つの会社が1つの会社になったり、会社が他の会社の株式取得等により当該会社の経営権を取得することを意味します。
 
M&Aを行うねらいとしては、「業種の異なる会社を手に入れて、事業領域を拡大すること」「後継者問題の解決」「業界の再編」などがあります。
 
さらに、M&Aの代表的な手法として、「事業譲渡」「合併」「会社分割」「TOB」「MBO」「株式移転」「株式交換」などが挙げられますが、1ではまず、M&Aの進め方についてお話していきます。
 
M&Aを行うと、今まで全く関係のなかった会社が自社のものになったり、関連会社、子会社になったりします。
その時、もしM&Aの対象企業に不祥事などの問題があったら、自分たちの会社は、多大な損失を被ったり、社会の信頼を失ったりすることになりかねません。

そうならないためにも、M&Aを行おうとしている側の企業は、買収の対象となる企業の精査を行います。これを「デューデリジェンス(DD)」といいます。
 
このデューデリジェンスも様々な種類が存在し、財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス等があります。

例えば、財務デューデリジェンスでは、対象先会社の財務状況を調査します。また、法務デューデリジェンスでは、紛争可能性の有無、知的財産権の登録の有無などについて調査します。

これらを行った結果、何かしらの問題がみつかった場合には、M&Aの中止、もしくは問題を解決するといった判断が必要となります。

2.事業譲渡とは

1で、M&Aには様々な種類があるとお話しましたが、2ではM&Aのうち、「事業譲渡」についてお話します。

事業譲渡とは、言葉の通り、自社の一部、またはすべての事業を他社に譲渡することを言い、ここで言う「事業」とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産を指し、取引先、ノウハウなど利益を生むもの全てを指します。

事業譲渡を行うことが決定すると、基本合意契約を締結し、買い手が売り手の事業調査「デューデリジェンス」を行います。問題がなければ、最終的な事業譲渡契約を締結します。

仮に、事業譲渡の対象が譲渡会社の事業の全部、または一部だった場合、譲渡会社は株主総会の特別決議が必要となります。

ここまで完了すると、譲受会社は名義変更手続や、許認可の手続を行い、事業譲渡の効力発生日を迎えて初めて手続が完了となります。事業譲渡に要する期間としては、早くて3ヶ月、時間を要する場合だと半年~1年かかる場合もあります。

大まかな流れだけを聞くと、簡単にできるもののように感じますが、実際はもっと多くの段階を踏まなければなりませんし、株主総会で事業譲渡に反対する株主がでてきて、スムーズに進まない可能性もあります。ですが、事業譲渡を行うことで様々なメリットを得ることもできますので、事業譲渡を考えている企業は是非前向きに検討してみてください。

3.合併とは

2に続き、3ではM&Aの代表的手法のひとつである「合併」についてお話します。

まず、合併には「吸収合併」と「新設合併」が存在します。
「吸収合併」とは、ある会社が別の会社のすべてを吸収することを言い、この場合、吸収する側の会社のことを「存続会社」、吸収される側の会社のことを「消滅会社」と呼びます。吸収合併をした場合、消滅会社は解散し、存続会社は消滅会社のすべてを受け継ぐことになります。

次に「新設合併」とは、合併する各会社は解散し、新しく会社を作り、新設会社に各会社の全ての資産を移すことを言います。この場合、新たに会社をスタートすることとなり、手間がかかります。そのため、合併をするほとんどの場合は、吸収合併の形がとられます。

2つの合併の共通点としては、様々な商品やサービスを取り扱うことができるようになる、事業領域を広げることができる、などが挙げられます。

では、新設合併では手間がかかる、という理由以外に吸収合併を選ぶ理由は何でしょうか?
吸収合併の場合、存続会社は消滅会社のすべての権利義務を受け継ぎますので、免許の再申請などの必要がなく、課税対象も合併後に増加した分のみとなるため、新設会社と比べてコストを抑えることが可能となります。

さらに、親会社が子会社を吸収合併した場合だと、子会社は今まで以上に新しい商品やサービスの開発に資金を投資し、それが世の中に出て広まることで、親会社にとっても、信頼度の向上、売上のアップなど沢山のメリットが発生することになります。

4.まとめ

今回は、M&Aとその種類についてお話しました。
ただ単にM&Aと言っても、実は多くの種類が存在しますし、一見簡単そうに聞こえるものでも、M&Aが完了するまでには、デューデリジェンスを行ったり、各種申請、届出を行ったりと、時間、手間がかかるものばかりです。

ですが、M&Aを行うことで事業領域の拡大や、売上のアップなどメリットも多く発生しますので、まずはM&A、その種類を知って、チャレンジしてみてください。

2019.07.23

営業職に潜む企業リスク

営業職は、外回りなどにより外勤の時間が多いことから、正確な業務時間の把握が難しいため適切な残業代の算出が難しくなります。
そのため、残業代の代わりとして営業手当を支給している企業も多く存在します。今回はこの様な対応について生じる企業側のリスクについて説明します。

1.営業手当とは

営業職は仕事の成果に応じて報酬が支払われる成果主義であるという考え方から、適切な残業代を計算していない企業が多く存在します。
しかしながら、労働基準法では法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間外労働時間に対して残業代を支払わなければならないと定められています。

つまり、営業手当を残業代の代わりに支払っているからといって、残業代を支払わなくて良いということにはなりません。
仮に営業手当を固定残業代として支給している場合、何時間分の残業代に相当するのか従業員へ明確に示す必要があります。
そして、固定残業代に相当する時間数を超える時間外労働が発生した場合、企業側は残業代を支払う義務が発生します。

2.事業外のみなし労働時間制

多くの企業は、労働時間の把握が難しい営業職に対し、労働時間の計算が容易になることから「事業場外のみなし労働時間制」を取り入れています。

【事業場外のみなし労働時間制】
実際の労働時間にかかわらず、会社以外の場所で仕事をする場合に始業時刻から終業時刻までの所定労働時間を労働したものとみなし、業務を行う上で通常の所定労働時間を超えた労働が必要となる場合においては、業務を行うために必要とされる時間を労働したものとみなして取り扱う制度のこと。

この制度を利用すると、従業員が事業場外において実際には所定労働時間より多く働いていたとしても、所定労働時間が労働時間数とみなされるため残業代の支払いが不要になります。

しかしながら、ここで企業が注意しなければならないのは、「事業場外のみなし労働時間制」を取り入れているからといって、残業代を一切支払わなくて良くなるということではない点です。

労使協定で定めた労働時間や、従業員との間で定めたみなし労働時間を超えた労働時間が発生している場合には、実労働時間に対する残業代を支給する必要があります。また、深夜勤務手当、休日勤務手当などについても通常通り支給しなければならないため、気を付けましょう。

「事業場外のみなし労働時間制」が認められる前提として、事業場外で業務を行い、会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難なときという要件を満たしている必要があります。

例えば、電話で上司からの指示を受けながら業務を行っている、上司に対して業務報告を行っている場合では、企業の指揮監督が及んでいる状態であると言えるため「事業場外のみなし労働時間制」の適用が認められず、未払残業代が発生するリスクがあります。

事業場外のみなし労働時間制を採用している企業は、実際の労働状況が制度を利用できる要件を満たしているか確認をすることが大切です。

3.労働時間性について

労働時間を算定する前提として、具体的にどこまでの範囲を労働時間と認定するのでしょうか?業務中の待機時間、又は従業員が自宅へ仕事を持ち帰り作業を行っていた場合でも労働時間に含まれるのでしょうか。  

労働時間に該当するか判断するうえでも、前述したように使用者の指揮監督が及んでいたか、黙示の業務命令が行われていたかという点が重要になります。

よって、業務中の待機時間については、従業員が常に稼働可能な状態で待機していると状態であるため、従業員は指揮命令下にあった判断され労働時間に該当する可能性があります。
労働時間であると判断された場合、例え待機時間であったとしても企業は従業員に対して賃金を支払う必要があります。

それでは、企業側が特段の指示をしていないにも関わらず、従業員が自宅へ仕事を持ち帰り作業を行っていた場合は自宅での業務を行った時間に対し賃金を支払う必要があるのでしょうか?

この問題については具体的な状況によって判断が分かれる部分ではありますが、企業側が明確な指示を行っていない場合でも、従業員がその業務に対応しなければ何らかの不利益が課される可能性があるときには、従業員は労働から解放されていないと見なされ、指揮命令下にあったと判断される可能性もあります。

以上の通り、実際に業務を行っていたかという点や、明確な業務命令の有無だけで判断されるわけでは無いということについて注意することが大切です。

4.まとめ

営業手当を残業代の代わりとして支給していることや、営業は成果主義だから残業を支払わないという事は何の法的根拠にもなりません。
また、事業場外のみなし労働時間制について、残業代を支払わなくて良い制度という間違った認識を元に制度を取り入れていた場合、後に従業員から未払残業代を請求される可能性があります。

自社の労働時間の管理体制について見直しを行い、社労士や弁護士などの専門家に相談しながらリスクを洗い出すことは、安定的に継続した企業運営に繋がります。一度自社の労働管理体制を検討されてみてはいかがでしょうか。

2019.07.17

労働基準法とは? ~年少者の雇用について~

労働者の雇用にあたり、年少者(満18歳未満の者)の雇用について考えたことはありますでしょうか。

近年の人口減少に伴い、外国人労働者の受け入れを積極的に行うところもあるほど、様々な企業が人手不足に頭を悩ましているかと思います。今後、更に人手不足になる可能性が高いことから、今回は年少者を雇用する際の注意点などについて見てきます。

1.年少者の労働契約

まず、年少者と労働契約を結ぶときに注意しないといけない点は年齢です。労働基準法では、原則として、使用者は、児童(15歳に達した日以降の最初の331日までの者)と労働契約を結んではいけないとされています。例外として、非工業的業種又は農林水産業の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害ではなく、労働が軽易なものであれば、行政官庁(管轄の労働基準監督署)の許可を得て、満13歳以上の児童を修学時間外に使用することが出来ます。また、映画製作や演劇の事業では満13歳未満の者でも同様に使用することができます。

年少者の使用に関する許可が下りた場合は、年齢を証明する戸籍証明書※を事業場に備え付けることが必要です。更に、児童を使用する場合には、以上に加えて修業に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書も事業場に備え付けなければいけません。

また注意点として、労働基準法上では親権者は未成年者(満20歳未満の者)に代わって労働契約を締結してはならず、未成年者の賃金を代わりに受け取ることはできません。そのため、まだ子どもが小さい場合は労働契約締結の場に同席し、事前に年少者本人の口座を作っておくことが望ましいでしょう。

※戸籍証明書は、戸籍をコンピュータ化した自治体が発行する証明書で、従前の紙戸籍で発行していた戸籍謄本・戸籍抄本と同じものです。戸籍謄本は戸籍全部事項証明書に、戸籍抄本は戸籍個人事項証明書に名称が変わりました。年齢が証明できれば大丈夫ですので、どちらの証明書でも問題ありません。

2.年少者の労働条件

次に、年少者の労働条件の中身について見ていきたいと思いますが、年少者の労働条件には以下のような様々な制限があります。具体的に見ていくことにしましょう。

(1)労働時間及び休日

年少者の労働時間及び休日については、以下のような制限があります。

  • ①変形労働時間制・フレックスタイム制、36協定による時間外労働・休日労働は適用できません。ですので、今日10時間労働、明日6時間労働ということが出来ませんし、当然ながら残業もできません。
  • ②児童は修学時間を通算して、1週間について40時間、1日について7時間を超えて労働させてはなりません。
  • ③使用者は、満15歳年度末後を修了した年少者については、次に定めるところにより労働させることが出来ます。

 ア 1週間の労働時間が40時間を超えない範囲内において、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合は、他の日の労働時間を10時間まで延長することが出来ます。ただし、割増賃金が発生するので注意が必要です。
 イ 1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内において、月単位の変形労働時間制又は1年単位の変形労働時間制の規定により労働させることが出来ます。

(2)深夜業(労働基準法61)

労働基準法上、年少者は非常災害の場合を除き、原則として深夜業(午後10時から午前5時までの労働)を行わせてはならないことになっていますが、以下のように例外が設けられています。

①交替制によって使用する満16歳以上の男性については、深夜業が認められています。
②厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、①の時刻を、地域または期間を限って、午後11時及び午前6時とすることができます。
③交替制によって労働させる事業においては、行政官庁の許可を受けて、①に関わらず午後10時30分まで労働させ、又は②に関わらず午前5時30分から労働させることが出来ることとなっています。
④労働基準法第61条は、災害時には適用されません。また、農林水産業、保健衛生業、電話交換の業務に従事する場合も適用されません。

更に、労働基準監督署の許可を得て使用する児童については、午後8時から午前5時の時間帯に働かせることはできません。

(3)危険有害業務(労働基準法62)

労働基準上では、年少者は肉体的、精神的に未成熟であることから、重量物を取り扱う業務や危険な業務、衛生上または福祉上有害な業務(これを「危険有害業務」と言います。)に就業させることが禁止されています。年少者が就業を制限されている業務には以下のようなものがあります。

  • ・運転中の機械等の掃除、検査、修理等の業務
  • ・ボイラー、クレーン、2トン以上の大型トラック等の運転または取扱いの業務
  • ・深さが5メートル以上の地穴または土砂崩壊のおそれのある場所における業務
  • ・高さが5メートル以上で墜落のおそれのある場所における業務
  • ・有害物または危険物を取り扱う業務
  • ・著しく高温もしくは低音な場所または異常気圧の場所における業務
  • ・バー、キャバレー、クラブ等における業務
(4)坑内労働(労働基準法63)

労働基準法上、年少者を坑内(炭坑やトンネル)で労働させてはいけません。年少者は成年と比較して、体格的にも精神的にも未熟であり、安全や福祉の観点から危険な業務をさせないようにするためです。なお、事務作業(現場での労働時間の管理)であっても、年少者を坑内で働かせることは禁止されています。

(5)帰郷旅費(労働基準法64)

年少者の労働条件とは異なりますが、満18歳に満たない者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は必要な旅費を負担しなければなりません。ただし、満18歳に満たない者がその責に帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者がその事由について行政官庁の認定を受けたときは、この限りではありません。従って、使用者の都合で解雇する場合や行政官庁の認定を受けることが出来なかった場合は帰郷旅費が発生しますので、ご注意ください。

3.まとめ

年少者の労働について、意識していないと知らないうちに、労働基準法上禁止されている時間外労働、深夜業、危険有害業務、坑内労働をさせていたということになりかねません。そのため、今後の法改正にも注意しながら、年少者を雇用する際は十分に注意しましょう。

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