弁護士コラム

2019.08.02

定年後再雇用の企業リスク

今般、多くの企業が定年退職後の再雇用制度を導入しています。再雇用の前後で労働条件が全く同じというわけでは無く、特に再雇用後の賃金が下がるケースも多くなっています。

この様な労働条件の変化について、果たして、企業側は法的なリスクは無いのでしょうか?今回は再雇用制度の導入に伴う企業のリスクと対処方法についてご説明していきます。

1.高年齢者雇用確保措置について

政府は、平成25年に65歳までの安定した雇用を確保するため高年齢者雇用確保措置を実施し、定年を65歳未満に定めている企業に対し、「65歳までの定年の引上げ」、「65歳までの継続雇用制度の導入」、「定年の廃止」のいずれかの措置を実施する必要がある(高年齢者雇用安定法第9条)」と定めています。

高年齢者雇用確保措置の実施後は、継続雇用制度(再雇用制度)の導入を選択する企業が多くなりました。
継続雇用制度は労働者が希望すれば定年後も引き続いて雇用する制度となるため、定年を迎えた65歳未満の労働者が希望すれば継続して働くことが出来る環境が整っています。

2.労働契約法第20条のリスク

それでは、再雇用時の労働条件は従前と同一の条件で雇用する必要があるのでしょうか?それとも、企業が一方的に労働条件を定めることが出来るのでしょうか?

多くの企業では、再雇用時の雇用形態を正社員から嘱託社員やパートタイマーなどの有期雇用労働者へと変更しています。
なお、雇用形態を変更するのであれば、業務内容等も雇用形態に応じて変化する必要がありますが、企業によっては雇用形態を変更し、賃金を下げるが、労働内容、範囲などが以前と全く同じ場合には労働契約法第20条に違反するリスクが存在します。

労働契約法第20条とは、有期雇用労働者と正社員との間で、労働者の義務の内容、業務に伴う責任、職務の内容及び配置の変更範囲に関して、不合理な差をつけることを禁止する法律です。

労働契約法第20条の趣旨は、再雇用の有期雇用労働者と正社員(無期雇用労働者)の待遇や労働範囲を同一に規定するというものではなく、あくまでも不合理な労働条件の相違や待遇の差があり、それらの点について労働者から裁判所へ訴えがなされた場合に労働契約法第20条に違反していると判断され、損害賠償を命じられるリスクが生じます。

3.無期転換ルールの特例制度について

前述した通り、多くの企業は定年後に再雇用を希望する労働者について、雇用形態を無期雇用から有期雇用に変更しながら継続雇用制度を運営しています。
しかしながら、有期雇用契約では、雇用期間が5年を超え、労働者から使用者に対し期間の定めのない無期雇用契約へ切り替えを求めた場合は、無期雇用へ労働条件を変更する必要があります(労働契約法第18条1項)。

例えば、60歳で定年を迎えた労働者を有期契約で65歳まで再雇用した場合、労働者は65歳になったときに(有期契約の開始から5年が経過した時点)無期転換申込権を取得することになります。
無期雇用となると、企業は雇用期間満了を理由に雇用を終了させることができないため、人件費の増額に繋がることが予測されます。

企業側は人件費の増加というリスクがあると積極的に継続雇用制度を運営しない可能性が大きくなるため、企業側のリスクを軽減するために有期雇用特別措置法(正式名は、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法といいます。)が設けられています。

有期雇用特別措置法では、企業が再雇用した有期労働者に対して、無期雇用転換の申込権発生までの期間において特例を設けた特別措置をとることができます。特別措置を行う場合には、労働局の認定が必要となりますが、有期雇用特別措置の申請が認定されると、無期転換ルールの対象から除外されます。
但し、有期雇用特別措置の制度を導入するには、企業が予め就業規則を整備し、有期雇用特別措置に適応した雇用契約書を作成することが重要です。

4.まとめ

今回は高年齢者雇用確保措置の実態と企業側のリスクについて説明を致しました。高年齢者雇用確保措置を実施により、定年を迎えた65歳未満の労働者は希望をすれば継続して働くことが出来る環境が整いました。

一方で、企業には、労働者からの再雇用の希望に対し、拒否をした場合は損害賠償を請求されるリスクや、再雇用をしたとしても有期雇用で5年以上が経過すると無期雇用へ雇用形態を変更する必要に迫られ人件費の増加に繋がるというリスクに直面しています。

なお、後者のリスクに対しては事前に、労働局から有期雇用特別措置法の認定を受けるなどの対策を講じることも可能なため、労働者との間でトラブルに発展する前に、事前にリスクに備えたいという方は、一度専門家へ相談することをお勧めします。

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