弁護士コラム

2019.02.12

商標権とグローバル化

グローバル社会である昨今、私たちの生活は「海外」のものに囲まれています。
海外進出をしたい、もっと自社製品を有名にしたい、という思いから海外で商標権を獲得する企業もますます増えています。

そこで今回は、日本で取得した商標権は海外で通用するのか、そして最後に海外の商標制度は日本とどのように異なっているのか、ということについてお話していきたいと思います。

1.国外への商標登録

商標権というのは、日本だけでなく他の国々にも存在しています。
今の商標法の前進となる商標条例が1884年に日本で制定されました。それは、欧米先進国の影響を受けたからです。
1883年に工業所有権(現在は産業財産権と呼ばれる)の保護に関するパリ条約が締結されました。その1年後に日本でも徐々に商標制度が確立し、現在に至ったのです。

このように商標権の歴史は100年以上にもわたりますが、商標権というのは世界共通で有効なのでしょうか?

まず、結論からいうと、
日本で取得した商標権はそのままでは海外で通用しません。あくまで日本国内でのみ有効です。商標権を外国でも保護したい、というのであれば別途外国向けに登録出願が必要です。方法としては主に

①各国へ直接出願
②国際登録出願(マドリッドプロトコル)
③欧州連合商標(EUTM)
の3つがあります。それぞれについてメリット、デメリットとともに見ていきましょう。

①各国へ直接出願

各国への直接出願は、各国内の代理人を通して出願するやり方のことです。
【メリット】
・出願する国が少ない場合コストが最低限で済む。
・現地の特許庁に直接出願するので、国内出願と同じように扱われる
・パリ条約加盟国であれば優先権主張が可能なので、第三者に特許を取られない。(日本で出願したものと同じ商標で出願をする場合、日本での出願日が適用される。)
【デメリット】
・出願先がパリ条約加盟国でない場合、優先権が主張できず第三者に同一内容で特許を取られてしまう場合がある。
・複数国に出願する場合、それぞれの国の言語様式で出願する必要がある。

 

②国際登録出願(マドリッドプロトコル)

日本が2001年にマドリッド協定議定書に加盟したことで、国際事務局を通じて加盟各国への出願が可能になりました。
【メリット】
・日本語での出願が可能。
・複数国へ出願するときのコストが安い。(一度に複数国へ出願可能)
・国際事務局で一括管理されているため更新管理負担が軽減される。
【デメリット】
・本国登録に基づくので、商標は日本で登録したものと同じ表記でなければならない。
・指定役務、サービスの基準が日本と異なるので、同一性が認められない場合がある。

 

③欧州連合商標(EUTM)

欧州連合知的財産庁に出願し、登録された商標はEU加盟国すべてで有効となります。
【メリット】
・一度の出願でEU全加盟国に出願可能なのでコストが安い。
・EU加盟国の中の1か国で商標を使用していれば、商標を使用していないという理由で商標登録が取り消されることはない。
【デメリット】
・EU加盟国の中の一部の国を除いての出願は不可能なため、1か国に拒絶理由があれば登録不可。また、1か国から無効を求められたらEU全体で商標は無効となる。

以上の3つが主な外国への商標登録出願方法です。自分がどこの国や地域で商標権を持ちたいのか、どの方法が合っているのかを考えて選ぶのが良いでしょう。

2.海外の商標制度

海外に商標登録をするにはどのような方法があるのかが分かったところで、次は日本の商標制度と海外の商標制度の違いを見ていきたいと思います。
今回はアメリカを例に見ていきましょう。

①登録主義と使用主義、先願主義と先使用主義

日本では、一度商標登録出願を行い登録が完了すれば、その商標は10年間守られます。これは日本の登録主義に基づく考え方です。そして、登録されている商標は例え使われていなくても、他社が利用することは認められません。

一方、アメリカでは使用主義という考え方を採用しています。
商標を使用していれば、登録をしていなくても商標権の効力が発生します。
だったら商標登録の制度はアメリカでは必要ないのでは?と思うかもしれませんが、登録をしているほうが後で商標権の侵害などトラブルが起きた際に法的な手続きが取りやすいので、登録はしておいた方がよいのです。
また、いつから使っているのかを後に証明するのは非常に手間がかかります。

実際に使用主義という考え方は登録手続きの時にも反映されています。
アメリカでは出願の際に、商標が実際に使用されていること、もしくは今後使用する意思があることを示さなければならないのです。登録や更新の際に商標の使用宣誓書を提出しなければなりません。

日本の場合はとにかく早い「登録」が重要(先願主義)ですが、アメリカでは「使用」の意思が大事なのです。
アメリカでは同時に出願があった際は、先に使用していた方が登録に有利で、先使用主義と言われています。

②審査主義と無審査主義

日本では出願後、登録査定が出るまでの間に商標に識別性があるか、また他の商標と類似していないかなどに審査が行われます。これを審査主義といいます。
こちらに関しては、アメリカも同様に審査主義を取り入れています。
一方、無審査主義の代表国はフランスやイタリアなどが挙げられます。無審査主義の国では、出願の際の形式等に誤りがなければ実体審査を行わずそのまま商標登録されます。実質的な要件はその後異議申立てなどによって決定されます。そのため、審査終了までに期間が短いというメリットがありますが、実体審査が行われていないため、実際の商標の利用に慎重にならないといけません。

このように、国ごとでも商標制度は違うため、登録出願を検討する際はよく確認する必要があります。

3.まとめ

昨今のグローバル化にともない、様々な国の商品やサービスが日本に進出していて、日本からもたくさんの企業が海外へと事業を拡大しています。
せっかく日本で育て上げたブランドイメージも、海外では無効となってしまっては勿体ないことです。

海外での商標権取得を考える際は、商標権を持ちたい国や、その国の商標制度について認識をし、どの出願方法が適切なのかを検討しなければなりません。
日本国内での商標登録よりは少々手間やコストはかかりますが、世界で商標を守っていくことでビジネスの幅も世界へと広げることができるでしょう。

やはり、そのビジネスの将来性を考えながら、どこの国や地域で商標権を取得しておくことが重要か綿密な検討が必要ですね。

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