弁護士コラム

2025.06.06

無料求人広告でトラブルが起こったら?「掲載無料」と言われて高額請求されたときの対処法を判例をもとに解説

「無料だから安心して掲載したのに、突然高額な広告費用を請求された」──そんな相談が近年急増しています。

本コラムでは、無料求人広告を巡り広告費用の請求が棄却された代表的な裁判例を解説したうえで、請求書が届く前後で取れる具体的な防御策をまとめました。

請求に疑問を感じたら支払う前に必ず証拠を集め、弁護士へご相談ください。

1. 無料求人広告トラブルの全体像と初動対応

無料求人広告とは、「掲載料ゼロ、採用決定時のみ成果報酬」というモデルが主流です。多くは電話・飛び込み営業で契約が始まり、ウェブ上の管理画面で求人票を公開する仕組みになっていますが、広告料金を巡ってトラブルになるケースも多くなっています。

トラブルの典型的な例としては、①完全無料のはずが採用後に高額の成功報酬を請求される②トライアル終了後に自動で有料プランへ切替わる③成果が出ないまま最低契約期間を理由に費用が発生するというようなケースです。

また、解約・掲載停止の際も、オプトアウトの期限が短い、FAX解約しか認めない、解約書類の受領日を巡って主張が対立するなど、解約手続条項の不備によるトラブルも多くなっています。

このような無料求人広告に関するトラブルが発生したら、必ず請求された費用を支払う前に弁護士に相談をされてください。

関連記事:無料求人広告の「無料」は要注意?被害事例と対策を那珂川の弁護士が解説

2. ケーススタディ:無料求人広告トラブルの代表的な裁判例

2-1. “無料3週間→自動で1年契約”は説明不足で無効

・東京地裁令和元年9月9日判決(平成31年〈ワ〉4528号)

3週間の無料掲載期間が過ぎると、解約手続きをしない限り自動で1年分の広告料(約60万円)が発生する仕組みだったケースです。営業担当は無料期間だけを強調し、有料期間への切替と高額請求の仕組みを口頭で一切説明していませんでした。裁判所は「利用者に本質的な負担を知らせないまま契約させるのは社会常識に反する」として契約全体を公序良俗違反で無効と判断。広告会社の請求を全面的に退けました。

2-2. 求人内容が確定せず“停止条件不成就”で支払義務なし

・東京地裁令和元年11月13日判決(令和元年〈ワ〉7890号)

こちらは「無料掲載→有料移行」モデルですが、広告主が掲載する求人内容を最終確定しないまま請求書だけが送られてきたケースです。裁判所は「求人原稿が確定して初めて契約の効力が発生する」という停止条件を読み取り、条件が成就していない以上、支払い義務は発生しないと判断。広告会社の請求を全面否定しました。

2-3. 有料契約へ自動移行する契約であることを一切理解しておらず、詐欺認定

・那覇簡易裁判所令和3年10月21日判決(令和3年〈ハ〉204号) 

電話営業で「完全無料・期間無制限」と案内され求人広告に申し込んだところ、その後に広告掲載料を請求されたケースです。店舗側は「無料と聞いていた」と支払いを拒否。 裁判所は①営業トークの録音で「ずっと無料」という部分のみを強調していたことが確認できた、②無料期間掲載終了後は自動的に有料掲載に移行するという説明がなく有料契約に自動移行するという契約になっていることを全く認識していなかったという事実より、広告会社側の詐欺を認定し、契約の取り消しを認めました。

特徴的なのは、簡易裁判所が「零細事業者であっても消費者に近い立場であり、情報の非対称性が大きい」と指摘し、契約書よりも営業現場での説明内容を優先した点です。

3. 無料求人広告を利用する際のリスク低減策とは?

3-1. 広告業者からの説明内容は録音・書面両方で記録を取る

那覇簡令和3年10月21日判決では、営業担当が電話で「完全無料」と強調した録音が決め手となり、広告会社側の詐欺が認められ、契約取消の判断がされました。

このように、営業担当者からの説明内容を明確に記録しておくことで証拠として使用できますので、録音・書面等できちんと残しておきましょう。

3-2. 「無料期間後に自動で有料化」を防ぐための事前確認

求人広告の契約前には必ず以下の点を確認しておきましょう。

・無料終了日と課金開始日が書面に明記されているか確認する

・「自動切替を了承します」というような記載がないか

・不明点はその場でメールで問い合わせ、回答も保存する(電話ではなく、文章として残しておいた方が良い)

4. 本コラムのまとめ:認識と違う請求をされたら支払う前に速やかに弁護士に相談を

「無料のはずが高額請求」「説明を受けていない自動更新料金」など、契約内容と食い違う請求書が届いたら、まずは入金を止めてください。一度支払ってしまうと返金交渉は難航しがちです。

弁護士名で内容証明を出すなどの法的対応を行うことで、請求側が減額・取り下げに応じる確率も大幅に上がります。

既に請求を受けてしまった場合は、できるだけ早めに弁護士へご相談ください。

2025.06.01

ネタバレは違法?

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ネタバレは違法?

 

みなさんは、マンガやアニメは見られますか?
私は、37歳ですが、恥ずかしながらまだマンガを結構見ています。子供のころ、大人になって家庭を持つようになったらマンガも卒業しているんだろうなと漠然と思っていました。ですが、今では、いったいいつになったらマンガやアニメを卒業できるんだろうかと思っています。

   

マンガやアニメだけではなく、映画などでも問題となる「ネタバレ」という言葉があります。文字通り、話の内容や、結末などのネタをバラされることをいいます。
私が子どものころは、インターネットがここまで普及していなかったので、ネタバレといっても、いち早く少年ジャンプを読んだ友達が、内容を言ってしまうというようなかわいいものでした。
ですが、現代では、インターネットが普及してきているので、単にネタバレと言っても様々なものがあるようで、法律上問題となる行為もあるため、今回ご紹介させていただきます。

 

まず、マンガやアニメなどの1話すべてをそのまま動画サイトやネットにアップロードするものですが、これについては、著作権を侵害する違法行為で、そういった行為を行っている人やサイトを運営している人が著作権法違反で逮捕されているニュースなどは皆さんも、目にされたことがあるのではないでしょうか。

次に、マンガやアニメの1話全てではなく、その一部(マンガのある部分の1ページやシーン)をSNSやブログに掲載する行為があります。まず、マンガの1コマや、1シーンであっても、そのマンガ内における創作的な表現行為として著作権の対象となりえます。
したがって、そういったものをSNSやブログに無許可でアップロードする行為は著作権法に反する違法な行為となるのが原則です。

なお、こういったサイトを運営する人達の言い分としては、著作権法により規定されている「引用」行為に該当するため、著作権法に反しないというものがあります。たしかに、著作権法32条の「引用」に該当する場合には、他人の著作物であっても許可なく利用することができます。しかし、引用と認められるためには、様々な要件があるのですが、マンガの1ページを掲載する必要性があるかという点で疑わしいため、正当な目的とは認められないケースが多いのではないかと思います。

映画の映像を無断で短く編集し、字幕やナレーションをつけて、映画の内容を短時間でまとめたいわゆる「ファスト動画」を動画サイトにアップロードしたことで、逮捕された人のニュースを見られた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

また、最近では、文字バレというネタバレの手法があります。これは、上記のように、マンガの1ページやコマを掲載するのではなく、マンガやアニメ、映画全体の詳細な内容について文書のみ掲示するというものです。画像や動画じゃなく、文字だけであれば問題ないだろうという考えのもと文字バレサイトを運営しているのだと思います。
ですが、文字だけであっても、マンガや映画のストーリーや物語の展開についても、その作品が持つ創作的な表現部分として、著作権の対象になります。
最近では、こういった文字バレのサイトを運営していた人も著作権法違反で逮捕されています。

 

他方で、上記のようなネタバレサイトと異なり、単に、抽象的なあらすじを説明するだけのものや、キャラクターの一部の決め台詞をつぶやいたりするだけは、著作権侵害とはなりません。
ですが、マンガですと週刊誌派と単行本派で分かれているように、単行本がでるまで待っていたいという人もいるため、一部であっても物語の核心部分の内容のセリフ等の場合には、マナー上の問題があるかなと思うので、なるべくネタバレはしない方が得策かなと思います。

 

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2025.05.27

リベンジ退職とは?

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リベンジ退職とは?

 

先日、4月5月は退職代行サービスへの問い合わせが増えているとのニュースを目にしました。5月で連休が入り、一切仕事をしなくなると、いわゆる5月病という形で仕事へのモチベーションが下がってしまったり、このままここで働いていいのだろうかなどと悩んで、退職を決意するという人が多いのではないかと報じられていました。

ニュースでも議論されていましたが、昭和や平成の頃は、退職するという状況がきわめてまれであり、終身雇用制度の前提として、多少の不条理があっても我慢して働き続けるというのが当たり前だったのが、最近では転職することが当たり前というような風潮になってきているため、退職される方が多いのではないかとのことでした。

そんな中、最近、「リベンジ退職」という言葉が流行っているとこれまたニュースで報じられていました。「リベンジ退職」とは要約すると、会社に悪感情を持った従業員が、会社に迷惑をかける形で退職することを指すそうです。そのニュースの中ではリベンジ退職について、様々なケースが紹介されていたので、各ケースで法律上どのような問題があるのか解説していきたいと思います。

ケース1 優秀になって退職

 
そのケースでは、会社の対応などに不満を持ち、やめることを決意した従業員の人が、そこから約2年、必死に仕事を頑張り、とても優秀になり、会社での重要なポスト等を任される段階になって退職するというものでした。会社はとても重要なポストについている従業員が退職されては困るため、退職を慰留したのですが、結局その人は退職し、きちんと引継ぎはなされたものの、その人が担っていたポストをこなせる人材がおらず、会社が混乱したということでした。

このケースでは、法律上問題となる場面は何ら存在しません。このポストについたから退職できないなという決まりは一切無く、退職については、民法に基づく期限内に退職の意思を伝えれば何ら問題なく退職することができます(個人的にはやめるのを決意してから何年も働けるのであれば、そのまま働き続けた方がいいのではないかとも思いました。)

ケース2 繁忙期に退職

 
そのケースでは、退職を決意した人が、その会社で、一番の繁忙期のさなかに退職を申し出て退職をしたというもので、人員不足などにより会社が混乱したというものでした。

このケースも上記と同様繁忙期に退職してはいけないという決まりは一切ありません。民法672条では、期間の定めのない社員(一般でいうところの正社員)は退職する2週間前に申し出ることが必要であり、繁忙期であっても退職を申し出てから2週間経過すると退職が認められます。

よく、会社から人手不足になってしまうので、やめられては困るなどということが言われますが、厳しい言い方になってしまいますが、人員不足はあくまでも会社側の責任であるので、人員不足を理由として退職を止めることはできないのです。

ケース3 SNSに投稿

 
そのケースでは、会社を退職した従業員が、匿名でSNSで「会社がパワハラをしている」「下請けいじめをしている」などと、事実に反する投稿を行うというものが紹介されていました。

このケースは退職云々ではなく、単純に名誉毀損行為であり、犯罪かつ損害賠償の対象になるケースです。近年では匿名で投稿していても、発信者情報開示請求などにより投稿者を割り出すことが可能になっているため、会社に対して何か悪感情を持たれている場合であってもこのような行為はくれぐれもお控えいただいた方がいいでしょう。  
※もっとも、本当にパワハラを受けていたり、給料が支払われていない等会社が違法行為を行っている場合には、弁護士に相談いただいたり、労働基準監督署などに相談することは何ら問題ありません。

 

今回は、リベンジ退職についてケースごとにお話しさせていただきました。立つ鳥跡を濁さずという言葉があるように、やめる際には、少しでもお世話になった会社に迷惑をかけないようにという考えが一般的かと思ったのですが、最近の人の感覚は少し違うようで、少し残念だなという気もしています。

 

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2025.04.07

無料求人広告の「無料」は要注意?被害事例と対策を那珂川の弁護士が解説

「無料で求人広告を掲載できます!」

そんな甘い誘い文句に惹かれて契約したものの、後から高額な請求を受けたり、契約トラブルに発展したりするケースが増加しています。こうした「無料求人広告」をめぐるトラブルは、契約内容や法律に関する知識が十分でないまま進めてしまった結果、思わぬ損害を被る経営者の方が少なくありません。

本記事では、無料求人広告に潜む典型的なリスクや具体的な事例、そして被害を防ぐための対策や、すでに被害にあってしまった場合の解決策を、弁護士の視点から詳しく解説します。

1. 無料求人広告をめぐるトラブルが増える背景

1-1. 「無料」の誘惑と広告業者の収益構造

採用活動を行う企業にとって、広告費の負担を抑えられる「無料求人広告」は魅力的です。一方で、広告業者やプラットフォーム運営会社も事業として収益を上げる必要があるため、「無料」と銘打ちながら実際は別の形で費用を請求する仕組みを用意しているケースがあります。たとえば「無料期間の終了後、自動更新で課金」などが典型例です。経営者の方がこうした収益構造を十分理解せずに契約してしまうと、後々思わぬ請求に発展する恐れが高まります。 コロナ禍や景気の動向によって、求人市場も激しく変化していますし、人材確保に苦戦する企業が増えていることで、このようなトラブルに対する相談の件数も年々増えています。

1-2. 行政や弁護士会も注意喚起を強化している理由

こうしたトラブルは、企業側だけでなく求職者も巻き込む可能性があり、社会的影響が大きいことから、厚生労働省や弁護士会などの公的機関も注意喚起を行っています。求人内容の虚偽表示や過度な要求を受けた場合は、早めに専門家へ相談するよう呼びかけが強まっているのです。

【関連情報】求人広告についての法的根拠と関連法令のポイント

職業安定法・労働基準法と求人広告のルール

無料求人広告を含めて、求人広告は本来、企業と広告業者間の契約だけではなく、労働者を募集する行為として職業安定法や労働基準法の範囲にも関わってきます。求人広告の内容が虚偽表示や過度に誤解を与えるものであれば、行政からの指導や是正勧告を受けることもあり、企業イメージを大きく損なうリスクがあります。

景品表示法や不正競争防止法が絡む可能性

求人広告が消費者向けに公開され、そこで料金や待遇の面を誇大にアピールする場合、景品表示法による規制がかかる場合があります。過大な表示や虚偽の宣伝が認定されると、行政処分や公表などのペナルティを受け、信用を大きく失いかねません。また、他社を誹謗するような比較広告は不正競争防止法が適用される可能性もあるため、特に注意が必要です。

2. 具体的なトラブル事例と騙しの手口

2-1. 掲載後に高額請求されるパターン

業者側からは「とりあえず無料で掲載できます」と促されたものの、契約書の隅に「一定期間を超えた場合は有料プランに移行する」旨が小さく書かれていたり、あるいは口頭と書面で説明が食い違っていたりするパターンです。企業側は気付かずに利用を続けていたところ、後から「無料期間はとっくに過ぎている」として有料プランの料金を請求されるのが典型です。

2-2. 「無料期間終了後」に自動更新扱いで多額の支払いを求められる例

広告代理店や求人サイトによっては、無料期間終了後に自動更新される仕組みが設定されており、事前に解約手続きを取らなかった企業に対して「今月から有料枠に移行しています」として請求書を送り付ける手口もあります。 前述した掲載後の高額請求のパターンと似ていますが、こちらは、最初から「一定期間は無料だが、解約手続きをしない場合は自動更新で有料になる」という仕組みが明示的かつシステムとして設けられているケースです。自動更新になる旨の通知があまりにも曖昧なため、トラブルになるケースが増えています。

2-3. 広告内容の誤記載を理由に責任を転嫁されるケース

広告業者側が勝手に求人内容を改変し、その結果、求職者や企業に混乱が生じることもあります。たとえば「週休2日制」とすべきところを「完全週休2日制」と記載し、契約と異なる就業条件を提示してしまったために、企業が求職者からクレームを受けるトラブルです。業者が責任を逃れようとする例もあり、法的対応が必要になる場合があります。

3. 無料求人広告の“悪質な手口”と見分け方

3-1. 極端な好条件を提示されている

「採用が決まっても費用は一切かかりません」「何名採用しても無料です」といった、あまりにも魅力的に聞こえる勧誘には注意が必要です。こうした場合、契約を結んで詳しい利用規約を確認してみると、実際には有料サービスへの自動移行や、成功報酬以外の手数料が別途発生するといった条項が潜んでいることが少なくありません。無料期間中のサポート範囲も限定されていて、後から追加料金を請求される可能性もあるため、契約前にしっかりと文面をチェックしましょう。

3-2. 手数料体系が不透明

「掲載費は無料でも、システム利用料や応募者情報管理費を別途頂きます」といった説明をする業者の中には、詳細な費用内訳や支払い条件を曖昧にしたまま契約を急かすところがあります。複雑な手数料内訳や料金体系を並べ立てられ、よくわからないと思っていても「時間がない」「今契約しないと枠がなくなる」と迫られたりすると、とりあえず急いで契約してしまおうという心理になりやすいでしょう。費用項目が明確に一覧化されていない場合は、後から請求内容を争うことが難しくなるため、必ず見積書や契約書の詳細を確認するようにしましょう。

5-3. ハローワークや行政機関のロゴを無断使用する悪質例

企業側が安心感を抱く要因の一つとして、「公的機関との提携」や「行政機関のロゴが使われている」ケースが挙げられます。しかし、実際には何の協力関係もなく、ロゴやイメージを無断で使用している悪質業者も存在します。公式サイトのように装っているだけで、個人情報の取り扱いや契約内容が杜撰である場合が多く、万一トラブルが起きても連絡先や実態が不明瞭で対処不能になる可能性があります。少しでも疑問があれば、管轄の行政機関に問い合わせ、真正な取引先なのかどうかを確かめるのが安全です。

5-4. 問い合わせ先や契約形態が不明瞭

「会社概要」ページや利用規約に、住所・電話番号・代表者名などがほとんど記載されていない会社の場合、何か問題があっても相手に連絡を取る手段が限定され、やり取りができなくなる恐れがあります。さらに、契約形態があいまいで「広告主としての権利義務」がどこに帰属するのか不明瞭なまま掲載を進めてしまうと、後から責任の所在が不明になるリスクが高まります。メールフォームだけを窓口にしている業者も注意が必要です。契約前に必ず正式な連絡先と担当者を確認しましょう。

6. 被害を未然に防ぐための対策と注意点

6-1. 広告掲載前に確認すべき事項とヒアリングポイント

・無料期間の具体的な範囲(何カ月、何回、何名の採用まで?)

・有料プランへの切り替え条件・時期

・中途解約や契約更新の手続き方法・違約金の有無

・担当者や問合せ先

上記の点は契約前に最低限確認をしたうえで、相手の回答内容を記録に残しておきましょう。文章で残しておくことで、後から「言った言わない」の水掛け論を回避できます。 また、契約書を作成・レビューする際、必ず「費用は本当に無料か」「有料プランへの自動移行になっていないか」など、トラブルになりそうな部分が契約書内に記載されていないかを確認してください。

6-2. ネット上での評判のリサーチで信頼性をチェック

インターネット上で企業名やサービス名を検索し、トラブル事例や苦情が出ていないかを確認するのも効果的です。実際にトラブルにあった企業が情報を発信しているケースもあるため、気になる場合は契約の前に一度検索をかけてみるとよいでしょう。

6-3.少しでも疑問を持ったら弁護士へ早めに相談を

「営業担当者の説明と契約書の内容がどうも違う」「このまま掲載してよいのだろうか」と迷う場合は、契約をする前に弁護士に相談されてください。見積もり段階や契約締結の前の段階で法的観点からのリスクチェックを行うことで、トラブルを防ぐことができます。

7. すでにトラブルにあってしまった場合の対処法

7-1. 高額な請求が来た場合でも支払いはしない

無料求人広告だと思っていたのに高額な請求が届いた場合でも、いきなり費用を支払わないようにしてください。まずは契約書の内容やメールなどでの契約時のやり取りを確認し、請求の根拠が契約書に明示されているのか、口頭説明や案内資料との食い違いはないかを確認してください。企業側が「無料」と信じていた根拠があれば、民法上の錯誤や詐欺を主張できる可能性もありますが、先んじて支払いを行ってしまうと後から法的に争う余地が狭まるため、事実関係を固めるまでは支払わないのが原則です。

7-2. 速やかに弁護士に相談する

既に多額の請求書が届いている場合は、できるだけ早めに弁護士へ相談をし、適切な法的手段を取ることをお勧めします。 契約の内容や状況に応じて、取り得る手段が変わってきますので、専門的な視点からアドバイスを得られるのは大きなメリットです。

7-3. 関連サイト(行政・弁護士会)が示す注意点

厚生労働省のハローワークや各地の弁護士会、日弁連などが無料求人広告のトラブルについて注意喚起を行っています。実際に被害が発生した企業が相談窓口に駆け込むケースも増えており、公式サイトには典型的なトラブル例や解決策のアドバイスが掲載されています。契約前にこれらの情報を参照することで、必要な情報収集を行うことができます。

日弁連サイト 

ハローワークサイト

8.弁護士に相談したら何をしてくれる?弁護士が行う法律構成と初動対応

無料求人広告を巡ったトラブルが発生した場合、弁護士がまず行うことは、企業が「契約は無効、もしくは取り消し得る」と主張できる法的根拠を整理することです。具体的には、(1) 民法上の錯誤・詐欺、(2) 消費者契約法(※小規模事業者で準用される場合を含む)、(3) 不当利得や信義則違反などが考えられます。

たとえば営業担当者が「永年無料」と明言していたのに、契約書には有料プランへの自動移行がこっそり書かれていた場合、錯誤や詐欺を理由に契約の無効・取り消しを主張する余地があります。また、景品表示法や職業安定法など、広告表示や労務関連の規制が絡む場合には、事業者側の不正行為を指摘できる場合もあるでしょう。 弁護士が代理人となって広告業者への対応を行う際は、 “内容証明郵便”を使った書面通知から始めるのが一般的です。

内容証明郵便は、配達した日付と配達した文書の内容を郵便局が証明してくれるため、裁判手続きに移行した際の証拠としても有効になります。書面での通知を行う際は、契約書の条項と実際の口頭説明が著しく異なる点や、企業が無料と思い込まされた経緯を具体的に示しつつ、請求の法的根拠を問う形で文書を送ります。

ここで「契約自体が無効・取り消し得る」「すでに支払い請求に応じる義務がない」「必要ならば裁判手続きも辞さない」という姿勢を明確に示すことで、業者の不当な請求を引き下げられる可能性が高まります。業者にとっては、弁護士名義の内容証明が来るだけでトーンダウンするケースもあり、ここで解決できる場合も少なくありません。

仮に、業者が請求を撤回しない場合は、(1) 契約無効・取り消しを裁判で主張する、(2) 不当利得返還を求める、(3) 業者の不当表示や誤認を理由に損害賠償請求を検討するなど、複数の選択肢が考えられます。いずれの方法でも、弁護士が法的構成を整理し、契約書やメールでのやり取りなどを精査し主張立証を行うこととなります。

9. 弁護士に相談するメリット

9-1. 契約前のリーガルチェックで法的アドバイスを受けられる

「無料」と謳う求人広告でも、実際には細かい条件や期間が付されていることが多々あります。弁護士が事前に契約書や利用規約を精査しておけば、後から思わぬ請求を受けるリスクを大幅に低減できます。問題のある条項が見つかった場合は、業者と契約を進める前に修正交渉や代替案を提示することも可能です。

9-2. 弁護士に対応をしてもらうことでの負担軽減

すでにトラブルが発生してしまった場合は、弁護士に代理人として広告業者との交渉を依頼することで、企業側は本来の業務に集中しながら問題解決に向けた手続きを進められます。 法的な観点での精査や立証が必須になるため、弁護士のアドバイスを受けながらの実施が推奨されます。

10. まとめ:無料求人広告トラブルは早期対策が肝心

「無料求人広告」の落とし穴は、企業が十分に内容を確認しないまま契約してしまうところにあります。魅力的な言葉ほど警戒し、契約書や利用規約をしっかりと読み解くことが、トラブル防止の第一歩です。少しでも怪しいと感じる広告提案を受けた場合は、早めに弁護士に相談しましょう。 「いきなり高額な広告費の請求を受けた」「契約書の内容をどうチェックすべきかわからない」とお困りの方は、当事務所の無料相談をご利用ください。

 

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2023.07.21

熱中症における労務管理

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7月に入り、暑さがますます強くなってきましたね。
息子が幼稚園に通っているのですが、いつも幼稚園が終わると、近くに公園でお友達と遊びたがります。
天気予報で最高気温のニュースを見るたび、妻は、「この気温の中、外で遊ぶのかしら・・・」と戦々恐々としています。
ちなみにこの記事を書いている今日は、お友達がみんな習い事等で公園に行かなかったため、無事、自宅へ直帰できたそうです。

このような暑い日に気をつけなければならないのが、熱中症です。
たかが熱中症と侮っていると、重症になってしまい、特に高齢の方の場合には熱中症が原因でお亡くなりになってしまうこともあるので非常に注意が必要です(ご高齢の方の場合、暑いと感じなくなり、エアコンを使わないで日中も過ごす方がおり、室内で熱中症になられる方も少なくないようです。)。

熱中症については仕事をしているときにも問題となります。

熱中症における企業側の労務管理

法律上、労働安全衛生法や労働安全衛生規則、労働基準法施行規則等において、多量の高熱物体を取り扱う業務の場合や、暑い場所や多湿の場所での屋内作業の際には、法定労働時間外に2時間を越えての就業を禁じていたり、18歳未満の年少者の就業を禁じており、日常的に暑い環境に置かれている業務について、熱中症などの疾病にならないよう対策がされています。

上記のような業務以外にも、会社の営業や、現場作業の方、外での警備、引越業務等熱中症になる可能性が高い業務は色々あると思います。
こういった業務を行う従業員が業務中に熱中症になってしまった場合、その熱中症に「業務起因性」が認められた場合、労災事故となります。

それだけではなく、企業において、従業員の熱中症対策を一切行っていなかった場合には、いざ、従業員が業務中に熱中症になった場合、労災になるだけでなく、安全配慮義務違反として損害賠償の対象になるリスクがあるので注意が必要です。

そのような事態を避けるためにも、気象情報の確認、熱中症警戒アラートの確認、単独作業を避け、こまめな水分、塩分の補給を促すなどの管理が必要になってくるでしょう。
企業が対策すべき熱中症の予防については、厚生労働省から通達やマニュアルがあるため、気になる方はご確認ください。
年々気温が高くなり、熱中症のリスクも増えてきていると思いますので、働かれる方も、会社もみんなで注意しておいたほうがいいと思います。

 

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2019.11.22

【不動産】管理組合と管理会社の法律関係

Q. 私の住んでいるマンションで、管理費の長期滞納者に対する督促の文書を管理会社から送ってもらいました。しかしながら、管理費の支払いは無く、管理会社はそれ以上の対応をしてくれません。回収の対応まで管理会社でやってくれるのではないのでしょうか?

1 管理会社と管理組合の関係について

区分所有法3条

区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。

マンションの管理の適正化の推進に関する法律4条

1 管理組合は、マンション管理適正化指針の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するよう努めなければならない。

2 マンションの区分所有者等は、マンションの管理に関し、管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならない。

上記の2つの条文を見ると、管理組合がマンション管理業務を担当することが想定されている、と考えられます。そして、管理会社がマンションの業務を行うことを要請するような文言はありません。あくまでも、管理組合が管理会社にマンション管理を委託することによって、管理会社によるマンション管理が可能となる、ということです。

つまり、管理組合と管理会社の関係は、管理委託契約を通じた委任・準委任関係となります。

2 トラブルはなぜ発生するのか

管理組合と管理会社の間で管理委託契約を締結した際、管理組合はその契約内容が「全部委託型」だと思っていたとしても、管理会社はあくまでも委託契約によって委託した業務に対してのみ責任を負うこととなります。

マンション標準管理委託契約書を見ると、管理会社が委託業務としてできることは助言等に留まる事項が少なくありません。管理組合が管理会社に対して、マンションの管理のすべてをやってもらえるものと期待する一方で、管理会社に対する委託内容はその期待のすべてに答える内容ではないために、双方の認識にずれが生じると、紛争に発生する可能性があるのです。

3 マンション設備に不備があった場合

事例①

私のマンションには排水設備に不備があり、排水状況が悪い状態です。管理会社に対して建物の点検業務を委託したのですが、全く補修が進んでいません。

建物に今回のような欠陥があった場合には、管理会社が、管理組合に代わって補修工事の依頼をしたり、施工業者と交渉したりといった対応をしてくれると思っていたのですが、どうして補修が進まないのでしょうか。

管理組合は、管理会社が主体となって完全な補修工事を行ってもらえるものと期待していたところ、実際の管理会社への委託業務の内容は、補修すべきことを指摘し、工事の発注等について管理組合へ助言する義務を負うにとどまっている、という、管理組合の期待と管理会社の委託業務内容が行き違っていないケースです。

判例では、マンション分譲時点からの欠陥の補修については、本来、販売会社・施工業者に対して主張すべきであり、管理会社については、直ちに販売会社等と同様の補修責任があるとはいえないと判示し、建物の補修に関する管理業者の義務としては、管理委託契約書上、

①補修工事、設備の保守点検等の外注に関する義務
②販売会社、施工会社等との業務折衝等
の項目があるとしても、その文言からは、販売会社あるいは施工業者に対し、
・管理組合の補修工事の要望を伝えることで行動を促す
・工事が実際に施工されているかどうかを確認する
・施工された工事内容に問題があった場合には追加で補修を求めるか、それとも他社に外注するか、等について、管理組合の意向に従い、決定された方針での事務を補助する
といった対応に留まるとして、管理委託契約上、管理会社には債務不履行は無いとしています。

4 管理費を滞納している区分所有者に対する請求

事例②

管理会社から、管理費を長期間滞納している区分所有者に対し、管理組合名義での内容証明郵便で管理費の支払いを求める通知を発送してもらいました。しかしその後、管理会社はそれ以上の対応は出来ないと言われています。管理会社が取り立て業務までやってくれると思っていたのに、通知の発送しかして貰えず、納得がいきません。

マンション標準管理委託契約書10条では、

乙(管理会社)は、・・・出納業務を行う場合において、甲(管理組合)の組合員 に対し別表第一1(2)②(下記参照)の督促を行っても、なお当該組合員が支払わないときは、 その責めを免れるものとし、その後の収納の請求は甲(管理組合)が行うものとする。
2 前項の場合において、甲(管理組合)が乙(管理会社)の協力を必要とするときは、甲(管理組合)及び乙(管理会社)は、その協力方法について協議するものとする。

別表第一1(2)② 管理費等滞納者に対する督促
一 毎月、甲の組合員の管理費等の滞納状況を、甲に報告する。
二 甲の組合員が管理費等を滞納したときは、支払期限後○月の間、電話若しくは自宅訪問又は督促状の方法により、その支払の督促を行う。
三 二の方法により督促しても甲の組合員がなお滞納管理費等を支払わないときは、乙はその業務を終了する。

と記載されています。

つまり、管理会社が管理委託契約に従って滞納者への督促をしたものの、結局未払のままであった場合、管理会社の業務としてはその時点で終了となり、その後の対応(督促を続けるか、それとも未払管理費回収のために法的手段をとるか)を検討するのは管理組合となります。

また、そもそもマンションの管理費は、管理組合の債権であるため、管理会社が債権回収をすることは出来ないため、管理会社に債権回収の結果まで責任を追及することが出来ないのは当然のことなのです。もし回収をする場合には、弁護士等に依頼する必要があります。

5 まとめ

「管理会社」という呼び名からも、マンションの管理について全て対応してもらえる、と誤って認識してしまうこともあるかもしれません。しかしながら、管理会社も契約に従って業務を行っているので、管理会社の対応に疑問を持った時には、まず先に管理委託契約書を確認して、どこまでの業務に対応してもらえるのかを確認することが、行き違いを起こさないためにも大切となるのです。

2019.11.01

年俸制で企業が気を付けるリスク

国内の企業では年俸制を採用している企業は少ないですが、外資系の企業やベンチャー企業などでは、従業員に労働時間を意識せずに業務に取り組んで欲しいといった思いから、年俸制を採用している企業、若しくは導入を検討している企業が多く存在しています。

今回は企業にとって年俸制を採用することによる、月給制との相違点、リスクについてご説明します。

1.年俸制について

年俸制とは、支払われる給与が1年単位で固定されている給与体系の事を指します。金額については従業員との合意に基づき決定されますが、年俸金額の決定方法が不合理でなければ、特別に法的な制限は設けられていません。

一部の経営者の方は、年俸制を採用すれば従業員との間で合意した金額を年に1回支払うことで給与の支払いが済むという認識をお持ちの方もいらっしゃいますが、その考えは誤りです。
年俸制を採用しても、一般的には月給制と同じように年俸を12等分に分割して各月に1度は支払う必要があります。

万が一、従業員が傷病により働けないといった場合にも毎月年俸を12分割した金額を支払わなくてはなりません。
また、年俸制を採用したとしても、労働時間の管理、残業代の支払い、といった点は月給制と同様に対応する必要があるため、それらの手間を省くことを目的に年俸制を採用するといったことは出来ません。

よって、月給制と年俸制の違いは、給与の金額が月単位で変動するのか、もしくは年単位で変更するのかという部分のみになります。

それでは、年俸制を採用することによる企業のメリットとはどこにあるのでしょうか?メリットの1つとして人件費が年単位で固定されるため、長期的な経営計画が立てやすくなるという点があります。
月給制では営業手当等によって賃金が大きく変動することがあるため、当初の経営計画より人件費が大きく変わる可能性があります。

しかし、年俸制では基本的に残業代以外の賃金が変動する可能性は少ないため、経営計画通りの人件費で事業を進めることが可能となります。
もっとも、従業員にとっては、仕事の成果が賃金に反映されるのは最長で1年後となるため、モチベーションの維持することが難しいという問題点も存在します。

2. 年俸制における残業代

前述した通り、企業は年俸制を採用したとしても、法定労働時間を超えた労働時間について残業代を支払う義務を負っています。

企業としては毎月の残業代を算出する手間を省くために、年俸に固定残業代を含めて支払うケースがあります。なお、年俸に固定残業代を含めるという扱いをする場合には、雇用契約書において基本給と固定残業代を明確に区分して明示する必要があります。
これに加えて、固定残業代が何時間分の残業に対して支払われているのかを明確にしておく必要があります。

これらが雇用契約書に明示がされていない場合、従業員との間で残業代のトラブルに発展すると、裁判所等から、固定残業代は無効として年俸の全額が基本給であると判断されてしまい、年俸とは別に残業代を支払わなければならないリスクが生じます。

そのため、年俸制を取り入れる場合には、企業と従業員に認識のずれが生まれないように正確な雇用契約書を作成し、年俸制に適応した就業規則を整備してリスクを排除する必要があります。

3.年俸制で減額をする際のリスク

企業は年俸制の採用によって長期的な経営計画が立てやすくなる一方で、従業員との間で年単位の契約を結んでいるため、業績不振に陥ったとしても企業側の一方的な理由で減額を行う場合には、従業員にとっては明らかな不利益変更であって、従業員の個別同意がない限り、許されません。

したがって、年棒を減額する場合は、必ず従業員の合意を得るように注意が必要です。
また、従業員の同意を得るときに注意すべき点は、企業が従業員に同意を強要していないこと、つまり従業員の意思に基づいて合意がなされているという点が重要になります。年俸額の合意決定権は従業員が有していると考えておくことが相当です。
賃金規定等で年俸の増減の規定が定められている場合には、その規定を超える減額は認められません。

仮に、賃金規定等が整備されておらず企業側の判断によって翌年の年俸が決まる場合では、一般的に年俸額の減額に限度はありませんが、社会通念上認められない不合理な減額については権力の濫用と判断されるリスクもありますので注意が必要です。

4.まとめ

今回は年俸制について説明をしましたがメリット、リスク等を含めご理解いただけましたでしょうか?リスクを軽減するには、正確な雇用契約書の作成、就業規則の整備、従業員との合意、が大切なポイントとなります。
 
年俸制の採用を検討している企業は専門家に相談したうえで、現状のまま年俸制をスタートさせて問題がないか精査を行い、必要であれば就業規則等を整えたうえで、年俸制への移行を進めましょう。

2019.09.30

安全衛生管理体制の重要性

労働安全衛生法(以下「安衛法」といいます。)とは何かご存知でしょうか。安衛法は、1972年に職場における、労働者の安全と健康を確保するために制定されました。
安衛法では、主に「労働災害の防止」「健康の保持増進」「快適な職場環境の形成」等を促進するための規定が定められています。

そこで、使用者は労働者が安全に作業できる環境を作るため、及び労働災害を防止するために安全衛生管理体制というものを確立し、統括安全衛生管理者、安全管理者及び衛生管理者を選任しなければいけないこととなっています。

1.統括安全衛生責任者とは

統括安全衛生責任者とは、現場の混乱や思わぬ労災を防ぐために、特定元方事業者(建設業・造船業)の事業所で働く労働者の安全を統括する人のことです。
なぜ統括する必要があるのかというと、労働者が1つの会社(雇い主)から派遣されている場合は、指導・指揮も統一しやすいのですが、複数の会社(雇い主)から派遣されている労働者が混在している職場では、指導・指揮系統が乱れがちになるためです。

建設現場等では、関連して行われる事業が複数の元請人に分割して発注されたり、複数の下請人に分割して発注される等、複数の事業場の作業員が混在して働いています。
このように、複数の事業場の作業員が安心・安全に作業を行うことができるように努めることが、統括安全衛生責任者の職務と言えます。

<統括安全衛生責任者になるには?>
特定安全衛生責任者の業務を行うにあたり、必要な免許等はありません。資格要件としては、「建設現場においてその事業の実施を統括管理する者」であり、統括安全衛生責任者は、実質的に現場を統括する立場にあること(現場をよく把握していること)が大切なのです。つまり、現場の責任者として仕事を管理している人が適任と言えるでしょう。

2.安全管理者とは

職場の安全全般を管理する人のことです。林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業・製造業などの業種で、常時50人以上の従業員を雇用している事業場(会社単位ではなく、支店や営業所などの場所ごと)は選任が義務付けられています。
しかし、従業員が50人未満の事業場は安全管理をしなくてもよいというわけではありません。常時10人以上50人未満の従業員を雇用している場合は、別途、安全衛生推進者(中規模な事業場において、その事業場の安全・衛生に関する事項を統括管理する者)を選任する必要があります。

なお、安全責任者の選任人数は決まっていません。ですので、安全管理者を多く選任しすぎてしまうと、今度は安全管理者同士の情報共有が難しくなるため、選任人数も踏まえて考えることが望ましいと言えます。

3.安全管理者になるには?

安全管理者になるためには、①労働安全コンサルタントの資格を取得するか、②一定期間の実務経験を積んだ後に厚生労働大臣が定める研修を修了する必要があります。
研修は、厚生労働省に登録した民間の業者が請け負っており、全国で受講が可能です。研修の長さは2日間で、必要経費は1万円~1万5千円となっています。

②のうち、必要となる実務経験の期間は、理科系の大学・高等専門学校の過程を卒業した方で2年、同じく高校で理科系の過程を選択し、卒業した方で4年、理科系以外の課程の中学・高校・大学を卒業した方は4年~7年です。

4.衛生管理者とは

衛生管理者とは、従業員が安全に衛生に仕事ができるように職場環境を調えたり従業員の健康を管理したりする人のことです。常時50人以上を雇用している職場では対して、衛生責任者の選任が義務付けられています。
そのため、安全管理者の選任が義務付けられていない職場であっても、衛生管理者の選任は絶対に必要です。

なお、雇用する従業員の勤務形態は問われません。正社員1人にパートやアルバイトが49人の職場でも、衛生管理者の選任が必要です。
また、事業所に常時ほとんど人がいない場合でも、書類上50人以上の従業員が所属している場合は選任が必要になります。

①衛生管理者の種類と専任の条件

衛生管理者には、第一種衛生管理者と第二種衛生管理者があります。第一種免許は全業種で衛生管理を行うことが可能ですが、第二種免許では、有害業務と関連の少ない小売業や情報通信業などの職場においてのみ、衛生管理を行うことができます。

②衛生管理者になるには?

(1)大学(工学か理学に関する課程)を卒業し、厚生労働省の定める研修と修了試験を受ける。
(2)一定期間労働衛生に関する実務経験を積み、資格試験に合格する。
(3)歯科医師・医師・薬剤師等の資格を取得し、必要書類を労働基準監督署に提出する。
(4)労働コンサルタントの資格を取得する。

などの方法があります。実際に労働衛生の職務についている方はそのまま実務経験を積んで試験に合格するのが一番の早道です。安全管理者のように研修を受ければなれるものではないので、難易度は衛生管理者の方が高くなっています。

5.衛生管理者と安全管理者の違い

衛生管理者は、職場で働く従業員の健康や衛生管理を行い、安全管理者は職場の安全管理を行います。2つの職務についている方がそれぞれの職務を全うすることにより、従業員は安全な職場で衛生的に働くことができるのです。

安全管理と衛生管理は共通する部分も多いため、お互いに協力して職務を行うことも多いでしょう。また、職場によってはより安全で衛生的に仕事を行うために、衛生管理者・安全管理者が構成メンバーとなる安全衛生委員会の設置が、法律で義務付けられています。

6.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は安全衛生管理体制についてお話しました。
統括安全衛生管理者、安全管理者及び衛生管理者がそれぞれの職務を全うするだけでは、安全衛生管理体制の構築には不十分です。従業員の観点から見た危険箇所(不衛生な箇所)があれば逐一報告してもらえるよう、従業員との信頼関係を作ることも大切です。

2019.09.25

業務災害の定義と起因性

会社及び労働者の双方にとって、業務災害を発生させない方が良い環境だと言えます。
では、完全に業務災害を発生させない方法はあるのでしょうか?
答えは「NO」です。職種にもよりますが、一般的には何らかのモノを建造したり製造したりする建設業や製造業の現場や、多くの建材や機械が導入されている場所では業務災害が発生しやすいとされており、事務だけの会社でも発生する可能性ももちろんあります。

では、何をもって業務災害と言うのか、どういう方法をとれば業務災害を発生させにくい会社にすることができるのかについて、定義や事例を挙げて説明していきます。

1.業務災害とは

「業務災害」とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。
業務上とは、業務が原因となったということであり、業務と傷病等の間に一定の因果関係があることをいいます(いわゆる「業務起因性」。)。

また、業務災害に対する保険給付は労災保険が適用される事業(原則、国の直営事業、非現業の官公署、船員法の適用を受ける船員を除いて、1人でも労働者を使用している事業が適用事業となります。)に、労働者として雇われて働いていることが原因となって発生した災害に対して行われるものですから、労働者が労働関係のもとにあった場合に起きた災害でなければなりません。(いわゆる「業務遂行性」。)

以上のことから、業務上と認められるためには、「業務起因性」が認められなければならず、その前提条件として「業務遂行性」が認められなければなりません。
「業務遂行性」の判断にあたっては、①事業主の支配・管理下で業務に従事している場合、②事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合、③事業主の支配下にはあるが、管理下を離れて業務に従事している場合に分けて検討することができます。

2.事例の検討

ここからは、具体的な事例を用いて、業務災害に当たるかどうかを検討していくことにします。

(1)作業中

作業中に発生した災害は、業務災害として認定されることが大半を占めます。しかし、業務外の原因である場合や、担当している業務以外で発生した災害は業務災害として認められない場合も多々あります。
したがって業務遂行性は、労働者が労働契約に基づいて事業主の管理・支配下にある状態にないといけないのです。

(2)出張中

出張とは事業者の命令等で、通常働く勤務地から離れて別の所で働き、戻ってくるまでの一連の流れのことを指します。
つまり、出張中は事業主の支配下にあるということであり、私的行為以外の行動については業務遂行性が認められるとされています。

(3)通勤途上

通勤途上とは、いわゆる通勤中のことです。この時は、自宅と就業場所の往復をするものの事業主の支配下にあるとは言えず、業務遂行性があるとは言えません。
ただし、次のような場合は、業務災害となります。

①事業主が提供する労働者専用バス・車
②事業主の命令を受けて出勤した際の事故・災害等

(4)療養中

療養中の災害とは、例えば、業務中にケガをして入院又は通院した場合に、治療を受けたその帰り道の途中で転んでまた同じ箇所をケガして悪化させた場合などです。

この療養中の業務災害の判断は困難な事例が多いのが現状です。 業務上の傷病の療養中、業務外の災害によって傷病が加重または増悪する場合がありますが、通院や日常的な行為などの業務外の行為が介在しているので、当該傷病の増悪に業務起因性が認められるか否かにより、「業務上」の傷病と言えるか判断されることになります。

(5)天変地異

天変地異とは暴風雨、水害、土砂崩れ、落雷、雪害等のことで、業務と無関係の自然現象です。
そのため、天災地変による災害が業務遂行中に発生したとしても、業務起因性が認められないのが原則です。
したがって、天災地変による災害は労災とは認定されません。ただし、業務の性質・内容、作業条件・作業環境、事業場施設の状況などから、天災地変に際して災害を被りやすいという場合は、天災地変による災害も業務に伴う危険としての性質を持ってきます。

天災地変による災害が、天災地変による災害を被りやすい業務上の事情があり、天変地異と当該事情とあいまって発生したと認められる場合は、業務に伴う危険が現実化したとして業務起因性が認められます。

(6) 第三者による行為災害

第三者行為災害とは、たとえば通勤中や営業中の交通事故などにおいて、一般的に事故の相手方である加害者が存在する災害のことです。
「第三者行為災害」となる災害には次のものがあります。

<第三者行為災害の例>
①交通事故
②通勤途上でペットに噛まれたなどの理由で負傷した場合
③業務に起因して他人から暴行を受けた場合

ここでは、③を例に説明します。
たとえば、鉄道の駅員などが酔っ払いの乗客に注意したことで暴行を受けてしまった場合、駅員が職務上の義務として注意をした結果、乗客による暴行を誘発したと考えられます。

その場合は業務上で起こった第三者行為災害となります。一方、同じく業務中に起こった暴行でも、労働者同士のケンカが原因の場合は第三者行為災害とはなりません。
それは労働者の故意により発生したものであり、業務に起因した災害とはみなされないからです。

以上のように、第三者行為災害は業務に起因して意図せず起こった災害を指し、労災保険の当事者以外の加害者が「第三者」となります。

3.まとめ

様々な事例を基に、どういったことが原因で業務災害となるのか見ていきました。
結論としては業務災害の原因は、身近なところに潜んでいます。事業主としては、業務災害防止のために労働安全衛生関係法令の順守、自主的な安全衛生活動、リスクアセスメント(作業に伴う危険性又は有害性を見つけ出し除去、低減する手法)に基づく取組などが大切です。

危険性というものは一定ではなく、環境面の変化や人の異動などに左右されますので、取組を行っているからといって安心するのではなく、半年に1回は実施中の取組みを見直すようにした方が良いかもしれません。

2019.09.19

健康診断の義務と健康の保持増進のために

従業員が仕事をする上で事業者が注意しなければいけないことは多岐にわたります。
その注意しなければならないことの1つとして従業員の健康管理があります。
特に重労働が多い職場では精神的にも肉体的にも大きな負担がかかってしまうことから、健康管理ができていないと労災に発展したり、トラブルに発展したりと最悪の事態にもなりかねません。
そのため、労働安全衛生法第66条では事業者による健康診断が義務化されており、精神面においても、面接指導や一定の従業員数以上の事業場ではストレスチェックが義務付けられています。

1.一般健康診断について

(1)雇入れ時の健康診断

事業者が、常時使用する労働者を雇入れる場合は、医師による健康診断を実施しなければなりません。

「常時使用する労働者」とは、①雇用期間の定めのない者、②契約期間が1年以上である者、⑶契約更新により1年以上引き続き使用されている者、④契約更新により1年以上使用されることが予定されている者であり、かつ、その者の1週間の所定労働時間が、当該事業場において同種の業務に従事する通常労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上である者をいいます。

したがって、アルバイトやパート等の短時間労働者についても、上記の基準に該当すれば,健康診断の対象者となります。

(2)定期健康診断

事業者は、1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を受けさせなければなりません。
ただし、雇入時の健康診断、2以降で説明する特殊健康診断を受けた者については、当該健康診断の実施日から1年間に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略することができます。

2.特殊健康診断について

特殊健康診断とは、有害な業務(高圧室・潜水・放射線・鉛・四アルキル鉛・有機溶剤・石綿・除染)に関連する業務を行う者に対して設けられている健康診断のことです。

有害な業務に従事させている場合は、6カ月以内ごとに1回(但し、四アルキル鉛業務については3ヶ月以内に1回)、定期的に特別項目についての健康診断を行わなければいけません。
特別な項目とは一般健康診断の際に実施する項目のほかに、四肢の運動機能調査、皮膚検査、被ばく検査などで、それぞれの有害な業務で発生しうる状態異常(機能障害や皮膚が変色している等の症状が出ていないか)の確認をするために必要な項目です。
健康診断を忘れないように注意しましょう。

3.臨時健康診断について

臨時健康診断とは、都道府県労働局長が労働衛生指導医の意見に基づいて、その実施を指示することができる健康診断のことです。
感染が疑われるような病気(結核やノロウイルス)などは医師や本人から連絡が事業主にあるかと思いますので、速やかに労働局に報告しましょう。
その後で、労働局から健康診断の項目や受診対象者についての連絡が文書にて通知されます。通知された場合は速やかに健康診断を実施又は受診しましょう。

4.面接指導について

事業者は、労働者の労働時間の状況や健康面(精神的・身体的)に何らかの状態異常を感じた場合は、面接指導の対象となる労働者の申出により、医師による面接指導を実施しなければなりません。具体的には下記の通りです。

【面接指導】
①1週間に40時間を超えて労働させたときに、その40時間を超えた部分を通算して1月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者が対象です。
②ただし、研究開発業務従事者及び高度プロフェッショナル制度対象労働者については、1月あたり100時間を超える場合は、労働者の申出なしに、医師による面接指導を実施する必要があります。
②面接指導の対象でない者でも面接指導を受けさせることは可能です。ただし、対象でない人に関して面接指導を受けさせるかどうかは事業者の任意(努力義務)となっています。

【面接指導を実施する場合の注意事項】
(1)労働時間の算定は毎月1回以上実施し、労働時間の状況の記録の3年間の保存義務。
(2)上記①に該当する労働者に対する、時間外労働時間に関する情報の通知義務。
(3)面接指導の記録は5年間の保存義務。
(4)面接指導の結果に基づき医師の意見を聴くこと。
(5)医師の意見を基に対策すべき場合は、就業場所の変更・作業転換・労働時間の短縮・残業の短縮などの措置をとらなければならない。

なお、個人情報の観点からいうと、労働者が医師の面接指導を受けた場合、事業者は労働者の同意を得ないで医師から結果を聞いてはいけませんし、医師は労働者の同意を得ないで提供してはいけません。

5.ストレスチェックの実施について

上記4.のとおり、事業者は一定の労働者に対して、面接指導を実施しなければなりません。
しかし、事業者は企業規模が大きくなると、労働者全員の状態を確認することは困難になるため、そういった場合にストレスチェックを実施します。
このストレスチェックは、自己評価だけではなく、自分以外の労働者を見た時の項目もあり、職場全体のストレス状況の把握に役立ちます。
この結果に応じて、先ほどと同様に面接指導や職場環境の改善などの措置を講じることになります。なお、ストレスチェックについては常時50人以上の労働者を使用する事業場の場合に、1年以内ごとに1回、定期的に管轄の労働基準監督署に提出することになっていますのでお気を付けください。50人未満の場合は努力義務となります。

6.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は健康診断や面談、ストレスチェックについてお話しました。事業者が労働者のストレスに配慮し、ストレスが生まれにくい環境をつくることが一番いい方法ですが、それは難しい方法です。
従って、ストレスチェックを行うことが職場の状況を早く知り、改善するのに最適なのです。

また、健康でいるためには心身の不調の早期発見が大切となっており、健康診断には2つの目的があります。
1つ目は、一次予防で健診結果から生活習慣の改善を行い、病気を予防することや、自分自身の生活習慣の問題点を自覚し、改善に取り組むきっかけとすることです。
2つ目が二次予防で病気を早期発見し治療につなげ、からだや時間・費用などの負担の軽減をはかることです。そのためにも、しっかり労働者の健康管理を行いましょう。

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