弁護士コラム

2018.06.05

有責配偶者について②~例外について~

<ご相談者様からのご質問>

主人の不貞が原因で夫婦関係が破綻している以上,有責配偶者として離婚が原則として認められないということは分かりました。でも,例外的に離婚請求が認められる場合もあると聞いたのですが,どのような場合でしょうか。

 

<弁護士からの回答>

 前回ご説明させていただいたとおり,不貞行為等婚姻関係を破綻させる原因を作出した有責配偶者からの離婚請求は原則認められません。もっとも,後の最高裁の判決により,例外的な要件のもと,有責配偶者からの離婚の請求が認められるようになりました。そこで,今回は,有責配偶者からの離婚請求が認められる要件についてご説明させていただきます。

 有責配偶者からの離婚請求が認められる要件について判断したのは,昭和62年9月2日の判決であり,

 ① 夫婦の別居が長期間であること

 ② 夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと

 ③ 相手方配偶者が離婚により,苛酷な状況に置かれないこと

という,3つの要件を満たした場合には,有責配偶者からの離婚請求が認められると判断しています。

このように,例外的とはいえ,有責配偶者からの離婚請求が認められることになったのは,婚姻関係に対する裁判所の考え方に変化が見られたことが原因であると考えられています。

すなわち,有責配偶者からの離婚請求を一切認めていなかった,昭和27年の最高裁判決が出された時点では,自分で婚姻関係を破綻させておきながら,離婚の請求をすることは許さない(社会的正義に反する)という考え方が強く(これを「有責主義」と呼んでいます。),形だけでも婚姻関係を継続させることが望ましいと考えられていました。もっとも,上記昭和62年の最高裁判決では,結婚(婚姻)の本質を,両性(夫婦)が精神的肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあるとして,夫婦の一方にその意思がなく,共同生活の実体を欠き,回復の見込みがない場合には,戸籍だけの婚姻を存続させることはかえって不自然であるとして,婚姻の実体がなく回復が困難であると判断される場合には,夫婦関係は解消した方が良いという考え方(これを「破綻主義」といいます。)へ考え方を変えたと考えられています。

 有責配偶者の事例とは異なりますが,性格の不一致等で,別居に至り,別居の長期化を理由に離婚請求を求める際にも,裁判所は,従前よりも短期間の別居であっても離婚を認めるようになってきており,裁判所全体として破綻主義を採用しているのではないかと考えられています。

 もっとも,破綻主義を採用しているからといっても,有責配偶者からの離婚請求が認められることはあくまでも例外的な場合であることに変わりはありません(この点では,裁判所も「有責主義」を完全に排除しているわけではないといえます。)。次回は,上記でご説明した,各要件の具体的内容についてご説明させていただきます。

2018.06.04

有責配偶者について①~原則について~

【ご相談者様からのご質問】

  結婚して15年になる夫から,数年前より他の女性と不倫をしており,その人と一緒になりたいので離婚して欲しいと言われました。突然のことでとても驚いています。まだ子どもも小さいですし,私としては離婚せずに家族での生活を続けていきたいと考えています。以前,先生のブログを見て,別居期間がある程度あると,離婚したくないと主張しても離婚が認められるとのことなのですが,私の場合でもそうなってしまうのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

夫婦のいずれかの不貞行為が発覚した際,通常,不貞行為が行った人が,配偶者から離婚を突きつけられるのが一般的ですが,ご相談者様の事例のように,不貞行為をした側から離婚を求めるケースも少なくありません。

そこで,今回から数回にかけて,有責配偶者にまつわる問題についてご説明させていただきます。今回は,有責配偶者からの離婚請求に関する原則についてご説明させていただきます。

 

まず,離婚事由について規定している民法770条1項では,1号から4号については,「配偶者」と規定されていることから,相手方が不貞行為を行ったことや,悪意の遺棄を行った場合の規定であることは間違いありません。もっとも,770条1項5号は,単に「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」と規定してあり,条文上,夫婦のどちらからでも,離婚の請求をすることができるように規定されています。そこで,不貞行為を行った夫婦の一方が,婚姻関係が破綻しているとして,770条1項5号を根拠に離婚の請求をした場合,離婚は認められるのでしょうか。

この点について,昭和27年2月19日の最高裁判決では,不貞行為を行い,妻以外の女性と同棲している夫からの離婚の請求を行った事案において,離婚の請求を認めませんでした。その際の理由としては,不貞行為を行った夫からの離婚の請求が認められてしまうと,妻としては不貞もされて離婚もされてしまうというまさに,踏んだり蹴ったりである(実際の判決の理由中で「踏んだり蹴ったり」という文言が使われました。)ということを述べています。そして,上記最高裁判決以降,不貞行為等婚姻関係を破綻する原因を作った配偶者(「有責配偶者」といいます。)からの離婚請求は認められないとされてきました。

したがって,ご相談者様の事例においても,不貞行為を行っているご主人からの離婚請求は原則として認められないことになります。もっとも,例外的ではありますが,有責配偶者からの離婚請求が認められる場合もありますが,それについては,次回,ご説明させていただきます。

2018.05.26

治療費について④(入院雑費,付添監護費)

<ご相談者様からのご質問>

 先日,交通事故に遭いました。とても激しい事故で,両足を骨折してしまいました。現在に病院に入院しているのですが,どういった費用が賠償してもらえるのでしょうか。

 

<弁護士からの回答>

 交通事故の場合,激しい事故により重篤なケガを負い入院を余儀なくされることがあり。また,入院も長期間にわたる場合も少なくありません。そこで,今回は,入院を余儀なくされた場合に請求することができる費用等についてご説明させていただきます。

 

1 入院費

 事故により相手方保険会社に治療費を請求できるように入院費用についても請求することができます。入院費用についても治療費と同様,任意保険会社において立替払いのサービスを行っているのが通常であるため被害者の場合には,治療費を手出しすることなく,加害者側の保険会社が支払ってくれるのが通常です。

 

2 入院雑費

 入院に伴い,入院生活のために必要な費用の発生を避けることはできません。日用雑貨,衣類,寝具,電話代などの通信費に加え,新聞代,テレビカード等の文化費等,入院生活中に発生する諸費用のことを入院雑費といい,この入院雑費についても損害として加害者に請求することができます。具体的な請求金額としては,発生した雑費すべてを事細かに計算し請求することはとても煩雑です。そこで,現在では,入院をした際に,一定程度費用が発生することは避けられないことであると認められているため,裁判上,入院1日あたり1500円程度の入院雑費を請求することができます。この点,示談になった際,被害者側が弁護士をつけていない場合,保険会社は自社の基準として1100円程度の入院雑費を提示してくることが多いので,弁護士が代理人で入っていた方が入院雑費についても適正な金額が認められることになります。

 

3 入院付添費

 ご相談者様やご親族からは,入院している際に,見舞いに行ったり,付き添っていたことに関する費用については請求することができるのかということをよくご質問いただきます。

 まず,見舞い費用に関しては原則損害として認められてはいません。先程ご説明した入院雑費として家族の見舞いのための交通費が含まれていると考えられているためです。

 もっとも,入院の際に,付添いが必要であると認められる場合には入院付添費として1日あたり6500円程度を請求することができます。

 もっとも,入院時には看護士が看護を行うことが予定されているため,付添い費が認められるためには,医師の指示や受傷の程度などから看護士による看護を越えた付添が認められる必要があります。

 

 このような入院に関する諸費用についても,場合によっては,被害者のみで対応した場合には,加害者側の保険会社に誠実に対応してもらえない可能性がありますので是非弁護士にご相談ください。

2018.05.25

治療費について③(整骨院での施術について)

<ご相談者様からのご相談>

 今日,交通事故に遭いました。首が痛いのでムチウチになっているのではないかと思います。仕事の関係でなかなか病院に行けないので,整骨院に通うと思うのですが,問題ありませんか。

 

<弁護士からの回答>

 交通事故でけがをした場合,整骨院に通われる方は少なくありません。結論からお伝えすると整骨院に通うこと自体には問題ないのですが,その際にはいくつか注意を要する事柄がありますのでご説明させていただきます。

 

1 診断書の作成は医師のみが可能

 まず,交通事故でケガを負った場合には警察に対しケガをおったことの証拠として診断書を提出する必要があります。この診断書をもとに警察において交通事故証明書等を作成することにより,加害者側保険会社も事故により被害者がケガを負ったことを確認することができます。この診断書を作成することができるのは医師のみであり,整骨院にいる柔道整復師には作成することができません。

 したがって,事故にあったにもかかわらず一度も病院に行かず整骨院にのみ通うことはくれぐれもお控えいただいた方がよいでしょう。診断書を作成しないままであると物損事故扱いとなってしまい,治療費の請求が認められなくなってしまう可能性があります。また,診断書を作成したとしても,作成した日が事故日から相当程度経ってからの場合には,事故とケガとの間の因果関係が否定され治療費などの賠償が認められなくなってしまう可能性もありますので,事故に遭ったらできるかぎり早く(2~3日以内)病院へ行き,診断書を作成してもらうようにしてください。

2 その他の注意点

 整骨院での施術は,医師による治療行為とは異なり,あくまでの医療類似行為であるため,すべての場合に整骨院での治療が認められるというわけではありません。

 具体的には,①医師が事前に同意している場合か②当該症状について,整骨院での施術が有効かつ相当であると認められる場合には,整骨院での施術費用についても加害者側保険会社に請求することができます。もっとも,ムチウチの場合には整骨院での施術が有効であると考えられているため,さほど問題になることはありませんが,後々のトラブルを防ぐためにも医師には整骨院に通院したい旨伝え,許可をもらっておいた方が良いでしょう。

 また,事故によりケガが治癒することなく後遺症が残った場合には,それが自賠責の後遺障害に該当しなければ後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することはできません。ムチウチの場合に後遺障害があると認められるためには,病院にてMRIやレントゲン画像を撮影するとともに,定期的に病院へ通院し,病院での治療を行う必要があり,整骨院での施術のみでは後遺障害として認められる可能性が少ない場合が多いです。

 したがって,弁護士としては,可能な限り整形外科などの病院へ通院し,それが困難な場合であっても整骨院のみの通院は避け,定期的に病院へは通うようにsいた方がよいと考えております。

 

2018.05.24

治療費について②(立替払いの打ち切りについて)

<ご相談者様からのご質問>

交通事故に遭い,むち打ちで首が痛く病院で治療を行っていました。先日,ちょうど事故から3か月たった時点で,加害者側の保険会社から「3か月たったので治療費の立替払いを打ち切ります。」と言われました。自分としては,まだ首の痛みが残っているので,通院を継続したいのですが,どうすればいいでしょうか。

 

<弁護士からの回答>

 ご相談者様の事例でもあるように,加害者側の保険会社保険会社からの治療費の立替払いを打ち切られてしまったということが,人身事故に遭われた方からのご相談で多いです。そこで,本日は,加害者側保険会社から治療費の立替払いを打ち切ると言われたときの対応についてご説明させていただきます。

 

1 治療費が認められる範囲

 まず,交通事故のあったとしても,原則として一生病院に通い続けることが認められるわけではありません(事故によりそのような状態になってしまった場合には認められることはありますが,別の機会にご説明させていただきます。)。

 治療を続けていくと,どこかで,症状が完全に治った状態(治癒といいます。)になるか,医師において,これ以上治療しても症状が改善しない状態(症状固定といいます。)のいずれかになります。そして,治癒若しくは症状固定になったあとの治療費については,事故による損害と関係のない費用であるとして法律用語でいうと,事故との間の因果関係(原因と結果の関係をいいます。)がないと判断されることになります。

 したがって,交通事故における治療費が認められるのは,事故日から治癒若しくは症状固定時期までということになります。

 

2 保険会社の打ち切り

 保険会社が治療費の立替払いを打ち切る際,被害者の状態が上記の治癒,若しくは症状固定の状態になっているのであれば,それ以上の治療費を請求できることはできませんが,保険会社は被害者の状態を考慮せず,単に事故から3か月を経過したことを持って立替払いの打ち切りを実施してくることが多いです(ムチウチの場合は3か月,骨折の場合には6か月といったように保険会社において打ち切る基準を決めているところもあります。)。その場合に,まだ治癒や症状固定の状態になっていない場合には,治療の必要性があるため,法律上,打ち切られた後の治療費についても請求することができます。しかし,前回ご説明したとおり,保険会社の治療費の立替えについては,あくまでもサービスであるため今後も立替払いを続けることを強制することはできません。したがって,打ち切るよう告げられた場合の対応としては,①医師よりまだ治療の必要性があることを説明等してもらい,立替払いの期間を延長しれもらうよう働きかけ,それでも断られた場合には②打ち切られた後は自費で治療費を支払い,治癒,若しくは症状固定になった後に,保険会社に対し,支払を求めるという方法が考えられます。

 もっとも,保険会社との話し合いの際,ご本人で対応したとしても保険会社が要望に応じてくれることは少なくありません。そこで,弁護士が代理人として相手方保険会社と交渉することにより,立替払いの期間を延ばすよう説得することができますので,是非弁護士にご相談ください。

2018.05.23

治療費等について①(加害者側保険会社の立替払いについて)

<ご相談者様からのご質問>

 交通事故に遭い,ケガをしてしまいました。通院を予定しているのですが,病院の費用については,まずは自分で支払わなければならないのですか。そうなると,あまり治療費にお金をかけたくないので,あまり病院に行くのは控えようと思っているのですが・・・・

 

<弁護士からの回答>

 交通事故は自動車という高速で移動する乗り物同士や乗り物と人が衝突する事故であるため,非常に重大なケガを負ってしまったり,事故当日はあまり痛みを感じなかったとしても神経等を損傷しており,事故の数日後から痛みが生じたりすることもまれではなく,後々まで残る症状になってしまう可能性があるため,治療に関してはきちんと通院することをお勧めします。もっとも病院で治療する際には治療費が発生しますが,全ての場合に治療費をご自身で負担しなければならないというわけではありません。そこで本日は,交通事故の治療費に関する加害者側保険会社の立替払いについてご説明させていただきます。

 

 まず,交通事故による損害は,不法行為に基づく損害賠償請求として,事故により被った損害を加害者に賠償請求することができます。したがって,原則からいうと,事故により治療費の支払いを余儀なくされたことが損害であるため,被害者であってもいったんは治療費を病院に支払い,支払った治療費を加害者(もしくは加害者側の自賠責保険会社,任意保険会社)へ請求することが必要になります。

 しかし,現在の保険会社の多くが,加害者側になった際,被害者が被った治療費の立替払いするサービスを行っております。各保険会社によって名称は異なりますが,「一括払い」「一括対応」等と呼ばれるサービスで,前回ご説明した,示談代行サービスの中に含まれているサービスです。

 すなわち,被害者の方は,治療費を支払うことなく,加害者側の保険会社が病院に対し治療費などを立て替えて支払うことになります。そして,加害者側が支払った治療費や,被害者に支払った慰謝料等のうち,自賠責の範囲内の金銭については,加害者側保険会社が自賠責保険会社に対し,保険金の請求をします。これにより,被害者は病院に対し直接治療費を支払うことがなくなるため,治療費の負担を気にすることなく,通院することができます。

 ここで注意すべきこととしては,被害者側にも過失が存在する場合には,加害者側に請求できる治療費についても,厳密にいうと,治療費のうち加害者側の過失割合に相当する部分のみですので,治療費のうち被害者側の過失割合に相当する金額については,入通院慰謝料等から差し引かれることになります。

 次回は,加害者側保険会社の立替払いの打ち切りについてご説明させていただきます。

2018.05.22

人身事故における損害について(総論)

<ご相談者様からのご質問>

 昨日,交差点で停止していたところ,後ろから自動車に衝突されてしまいました。相手は,脇見運転をしていたようで,ブレーキをかけずにぶつかってきたので,衝突の衝撃で首や腰を痛め,足首を骨折してしまい,病院で入院をしています。医者の先生からは,事故の衝撃で首の骨や腰の骨が頸椎を圧迫していることや,足首は複雑骨折であるため,後遺症が残るかもしれないと言われました。会社員なのですが,現在入院しており,仕事も休んでいる状況です。また,退院後も後遺症が残ってしまった場合,仕事に影響が出るのではないか,それについてはきちんと賠償してもらえるのか等不安がいっぱいです。

 

<弁護士からの回答>

 これまでは,物損事故についてご説明させていただきましたが,今回からは,自人身事故(人身傷害事故)についてご説明させていただきます。物損事故については,修理費や自動車の時価が損害の中心でしたが,人身事故の場合には,事故により被る損害が物損事故と比較して多岐にわたります。そこで,本日は,人身事故の場合に発生しる損害の種類等について総論的にご説明させていただきます。

 

1 積極損害

 交通事故の損害は大きく分けると積極損害と消極損害に分けることができます。積極損害とは,交通事故(不法行為)に遭ったことにより被害者が支払いや負担を余儀なくされた損害をいいます。

 事故により病院に通院した際の治療費,入院を余儀なくされた場合の入院費等の治療関係費については積極損害として認められることになります(治療関係費については,治療の期間と関連して,加害者側の保険会社がいつまで治療費をふたんしてくれるのかという点が問題になることが多いです。)。また,通院のために要する通院交通費用,入通院に際し,付添看護を要する場合には付添費用,重度の後遺症が残ってしまった場合の介護費用,事故でお亡くなりになってしまった場合の葬儀費用等が,一般的に積極損害として認められます(個々の損害費目についての問題点等については後日ご説明させていただきます。)。

 

2 消極損害

消極損害とは,交通事故に遭わなければ得られたと認められる金銭や利益が,事故に遭ったことより得ることができなくなった損害をいいます。

消極損害は大きく分けると,事故による治療期間中,休業を余儀なくされたことによる「休業損害」と,事故が無ければ得られたであろう利益が事故によりお亡くなりになってしまった場合や,後遺障害が残ってしまった場合に,得ることができなくなったことによる損害である「逸失利益」が認められることになります。

休業損害と逸失利益については,損害を算定とする基礎となる収入をどのように判断するかという点(自営業,専業主婦,求職中の人)が問題になり,後遺障害逸失利益の場合には,残存した後遺症が,どのような後遺障害と認定されるのか(それにより労働能力がどの程度喪失されるのか)という点が問題になります。

 

3 慰謝料  

  最後に,人身事故の場合には,物損事故と異なり,事故による精神的苦痛を被ったとして,慰謝料を請求することができます。具体的には,事故により入通院を余儀なくされたことによる慰謝料,後遺障害が残ってしまったことによる慰謝料,事故によりお亡くなりになってしまったことによる慰謝料が認められることになります。被害者ご自身で相手方保険会社と交渉する際には,この慰謝料の金額が問題になることが多く,弁護士が代理人で入ることにより,損害額が大きく変わることが多いため,慰謝料に関し疑問に思われている被害者の方は是非一度弁護士にご相談いただいたほうがよいでしょう。

2018.05.21

加害者側の保険会社について

<ご相談者様からのご質問>

 先日,交差点で停車中に後ろから追突されました。加害者の方はきちんと謝罪してくださって,今後は,加害者の保険会社が示談も含めて対応するとのことでした。疑問に思ったのですが,なぜ,保険会社が示談の代行のようなことをしているのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 交通事故の被害者の方からご相談いただく際に,「加害者の保険会社の対応が不満」であるとご相談いただくことが少なくありません。今回は,保険会社が示談交渉を代行することができる根拠についてご説明させていただきます。

 

 まず,原則として当事者間で紛争が生じた場合には当事者同士で話し合いを行い,当事者で協議って解決することが困難である場合には,第三者が当事者の代理人として相手方と話し合うことで解決の方法を模索することになります。第三者が代理人として活動する際には,弁護士法により規制がなされており,弁護士法72条において,弁護士以外の者が報酬を得る目的で他人の法律義務を業として行うことを禁じており,報酬を得て他人の法律問題について,代理人として活動することができるのは弁護士に限られています。

 加害者側の保険会社が示談代行をすることについては,保険会社は弁護士ではなく,示談代行サービスという保険をつけて保険を販売しており,報酬を得る目的や,業として行われることになるため,弁護士法に違反しているのではないかと疑念が生じ,過去には問題となっていました。

 もっとも,現在では,加害者側の保険会社が示談代行を実施することは弁護士法に違反していないと考えられています。その理由としては,自賠責保険や,任意保険において,被害者の直接払請求権というものが認められており,建前上,交通事故の被害者は加害者が契約している保険会社に対し,直接損害を請求することができるとされたため,保険会社が対応することは,「他人」の法律事務ではなく,自身の法律事務であとされ,弁護士法72条に抵触しないとされたからです。

 このように,保険会社が示談を代行することができる根拠が,被害者の直接払請求権によるものであることから,加害者の一方的な過失(停止しているところに衝突してきた場合等)がある場合には,相手方に損害賠償請求権が発生しないため,被害者側の任意保険会社は示談代行することができず,ご自身で加害者側の保険会社と交渉する必要があります。もっとも,現在の任意保険には,基本的に弁護士費用特約がついており,大きな事故など例外的な場合を除き,費用を負担することなく,弁護士を依頼することができますので,事故に遭われた際には,是非弁護士にご相談ください。

2018.05.20

物損事故の問題点(休車損害について)

<ご相談者様からのご質問>

 私は運送会社を経営しているのですが,私の会社の従業員が,仕事中に後ろから追突されてしまいました。幸い,従業員にけがはなかったのですが,車が大破してしまい,廃車となってしまいました。先生の話では,廃車(全損)の場合にはその車の時価を請求できるとのことですが,運送トラックが1台廃車になったことで,うちの会社の売上も下がってしまうのですが,これについては請求できないでしょうか。

 

<弁護士からの回答>

 これまでご説明したとおり,物損事故の場合には,原則として,被害車両の所有者が,修理費用若しくは自動車の時価を損害として請求できるにとどまりますが,会社が被害車両を用いて営利活動等を行っている場合には,当該車両が使用できなくなることにより,会社に損害が発生することになります。このような場合には,要件を満たすことにより,休車損という損害を請求することができますので,本日は,休車損についてご説明させていただきます。

 

 休車損とは,交通事故により損傷した自動車を修理若しくは買い替えるために要する相当な期間,当該車両を使用(運行)することができなくなったことにより,本来得ることができた利益を得ることができなかったことによる損害のことをいいます。

1 休車損の要件

 この休車損については,全ての場合に認められる損害ではありません。まず,休車損害が請求できる対象となる車両は,バス,トラック,タクシー等の営業車であることが必要です(いわゆる「緑ナンバー」の車などがこれに当たります。)。このような営業車ではない自動車(例えば個人事業用に使用している普通車)の場合には,通常,代車を手配してもらうことにより,営業を実施することは可能であるため,休車損は発生しません。

 また,営業車両が損害にあった場合の全てに休車損が認められるというわけではなく,①被害者が保有している車両の中に,遊休車や,予備車などの代替車両が存在しないこと②他の保有車両の運航スケジュール等を調整しても,当該事故車両の業務の穴埋めをできなかったことが認められた場合には,休車損を請求することができます。①と②が認められない場合には,事故が原因で利益を得ることができなかったと認められないため(法律上「因果関係」が認められないといいます。),休車損を請求することはできません。

2 休車損の金額

 上記,休車損が認められる要件を満たす場合に,加害者に対し請求することができる休車損の金額についてですが,事故前直前の1日当たりの売上から経費を引いた金額について休車日数分の金額を請求することができます。1日あたりの売上については,事故日直近3か月前の売上合計を90日で割ることで算出するのが一般的です。また,経費については,当該事故車を使用しないことで支払いを免れることになった経費をいい燃料費,道路使用料や,休車にともない運転手も仕事を休んだ場合には,人件費についても経費として計上することになります。休車日数については,修理された場合には,修理工場への入庫から出庫までの期間とされ,全損となり買い替えが必要となった場合には,買い替えに通常要する期間とされます。

 

 このように休車損を請求するためには非常に複雑な手続きになりますので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.05.20

[危険運転致死傷」「過失運転致死傷」の違いは?

【相談事例④】

東名高速道路でのあおり運転による死亡事故から1年が経ちました,当初は自動車運転処罰法違反の「危険運転致死傷」ではなく「過失運転致死傷」だったことから,疑問の声があがっていましたが,違いが良く分かりません。どう違うのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 平成29年6月5日,神奈川県の東名高速道路で,トラックがワゴン車に衝突し,ワゴン車に乗車していたご夫婦がお亡くなりになってしまうという悲惨な事故が起きました。この事故が起きた原因は,加害者の男性が,被害者のワゴン車に対し,いわゆるあおり運転をし,ワゴン車の前に割り込み,停車させたことから,加害者の男性に対し,どのような罪が科されるのかについて,テレビ番組などで議論にもなったことを覚えています。この事件については,昨年10月に横浜地方検察庁にて,加害者(被疑者)を,「危険運転致死傷罪」にて起訴したとの報道もなされましたが,逮捕時の被疑事実は「過失運転致死傷罪」でした。そこで本日は,2つの犯罪の違いや,本件でなぜ「危険運転致傷罪」として起訴したのかについての,私の考えについてご説明させていただきます。

 

1 「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」について

 「危険運転致死傷罪」とは,自動車の運転により人を支障させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法と略されています。)に規定されており,アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為や,今回問題となる,人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為により人を死傷させた人を処罰するものになり,犯罪が成立すると,致死罪であれば1年以上20年以内の有期懲役,致傷罪であれば,1月以上15年以下の懲役が科されることになります。

 「過失運転致死傷罪」は同じく,自動車運転死傷行為処罰法に規定されており,自動車の運転上必要な注意を怠ったことにより,人を死傷させた場合に処罰するものであり,1月以上7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金が科されることになります。

 このように,「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」では,科される刑罰について,大きな差があることから,東名高速での事故の際の逮捕事実が「過失運転致傷罪」であったことから,成立する犯罪について非常に注目される事態となりました。

2 成立する罪名について

 テレビ番組等では,加害者に対し,殺人罪を適用することができないかということも議論されているのも目につきました。確かに,処罰感情からすると殺人罪として処罰したいという気持ちも分からなくもないですが,進路妨害して停止させた加害者に,殺意(人を殺してしまっても差し支えないという認識)まで認めるということは難しいので殺人罪での立件(起訴)は難しいのではないかと思います。

 また,警察の逮捕段階で,「過失運転致死傷罪」という罪名であったことについては,今回のようにどのような犯罪成立するか難しいケースでは警察の逮捕段階と起訴段階では異なる罪名になるということは珍しくはありません。

 今回の事件でのいちばんの争点は,加害者の行為が,危険運転致死傷罪の「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」に該当するかという点と,その行為と被害者の死亡との間の因果関係(原因と結果の関係をいいます。)が認められるという点にあると思います。この争点については,あくまでも,私個人の意見ですが,あおり運転により前に割り込み走行を妨害し,「高速道路で停車させるという重大な交通の危険を生じさせる速度」で運転したことにより,後続の車両が衝突し,死亡するに至ってしまったということは十分に成り立つため,「危険運転致死傷罪」で起訴したことは十分に間違っていないのではないかと考えています。

 もっとも,今回の事件では,「危険運転致死傷罪」が本来的に想定している犯罪対応とは異なる事故対応であることは間違いありません。また,近年あおり運転が横行しており,それにより今回のような重大な事故が起きてしまっている現状をなんとかしなければいけないのではないかと考えており,立法によりあおり運転を行ったこと自体に対し,厳しい制裁を科すなど,あおり運転自体をなくす方策が必要なのではないかと感じています。

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