弁護士コラム

2019.04.24

マイナンバーの情報漏えい時のリスク

2016年1月以降、企業は厳格な安全管理体制のもとでマイナンバー等の情報を扱うことが義務付けられました。
しかし、情報漏えいのリスクをゼロにすることは困難です。万が一、マイナンバーに関連する情報が漏えいしてしまった場合、企業にはどのようなリスクが発生するのでしょう?

1.マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合のリスク

万が一、マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合、企業は以下のようなリスクを抱えることになります。

(1)刑事罰の適用(番号法違反)

マイナンバー制度では、番号法によって様々な罰則が設けられており、監督機関となる内閣府の外局である個人情報保護委員会より罰則の適用を受けることがあります。

(2)民事上の損害賠償請求

企業が適切な安全管理措置を講じることなく、情報が漏えいしてしまった場合は、その番号の対象者等から民事上の使用者責任を追及され、それに伴って損害賠償を請求されるリスクが生じます。
尚、企業が、民法上の使用者責任を免れるには、以下について会社側が立証する必要があります。

・被用者の選任や監督について相当な注意を払っていたこと
・相当な注意を払っていたとしても損害が生じたであろうこと

しかしながら、情報漏えい事故でこうしたことを立証するのは非常に困難です。
仮にその証拠を提示するのであれば、システムへのアクセス記録等になりますが、それでも十分だとは言いきれません。

そういった意味でも、企業が適切な安全管理措置を講じることが肝要だと言えます。
とりわけ、個人情報保護委員会による「特定個人情報の適切な取り扱いに関するガイドライン」が求めている、企業が講じなければならない安全管理措置のうちの「技術的安全管理措置」は、きわめて重要な措置であることが分かります。

(3)社会的信用の失墜

大企業や知名度のある企業で情報漏えい事故が起これば、マスメディアが大きく取り上げ、社会的信用が失墜することもあります。特に上場企業は株価下落の要因にもなるため、非上場企業以上に安全管理体制の徹底が求められます。

事実、過去に情報が漏えいした企業のその後を見ても、顧客離れが加速したり、内定辞退が相次いだり等、企業経営に直結する問題が生じています。

2.情報漏えい時の罰則

前掲の、マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合の3大リスクのうち、社会的信用の失墜に関しては想像に難くありません。そこで、刑事罰等の罰則と民事上の損害賠償責任、2回に分けて、もう一歩踏み込んでお話しをしたいと思います。

まず、「(1)刑事罰の適用(番号法違反)」について。
通常、問題事案があればすぐに罰則を適用するわけではありません。
もちろん、重大事案であれば別ですが、基本的には事前に指導や助言、勧告等が行われる等であり、労働基準監督署による指導等と同じようなイメージを描くと分かりやすいと思います。

3.情報漏えい時の民事上の損害賠償責任

次に、「(2)の民事上の損害賠償請求」について。
マイナンバーやそれを含む個人情報が漏えいした場合、企業はその対象者に対しての賠償を考えなければなりません。

これまでの情報漏えいの事故をひも解いてみると、Yahoo!BB顧客情報漏えい事件(2004年)やベネッセ個人情報流出事件(2014年)において、企業側は情報漏えい対象者に対して500円の金券を支払っています。

こうした事例から、マイナンバーの流出の場合も、対象者1人当たり500円支払えば済むという誤った認識も広がりました。

しかし、ベネッセ個人情報流出事件では、その後、1人当たりの損害額55、000円の支払いをめぐって集団訴訟が提起され、他の情報漏えいに関する裁判例でも1人当たり数万円以上の支払いを余儀なくされています。

500円の金券は見舞金の支払いとなるにすぎず、その額が損害賠償額になるわけではありません。

4.まとめ

情報漏えいは、外部からの不正アクセスによって起こるケースを想定しがちですが、実際には、電子メールの誤送信を中心とした誤操作に端を発するケースや、紙媒体の紛失による事故が多いのが現状です。
いわゆるヒューマンエラーによって引き起こされているケースが一般的と言えます。

したがって、いくら堅牢なセキュリティ体制に守られた情報システムを構築したとしても、従業員の誤操作等によって情報が漏えいするリスクは依然として伴うということです。

実際、日本年金機構において100万件超の年金情報が流出した事件は、職員が外部から送付された不審な電子メールを開封したことによるウィルス感染に端を発したことは、報道によってよく知られているところです。

安全管理対策については、技術面に頼り切ることはできず、企業はヒューマンエラー対策に対しても意識して、情報漏えいでトラブルが生じないように、あらかじめ対策を講じておきたいものです。

2019.04.24

【不動産】マンションからの眺望に関する売主の説明義務

Q.窓からの眺めが気に入って海辺のリゾートマンションを購入したのに、入居した後になって目の前に別のマンションが建築され、せっかくの景色が見えなくなってしまう…

こんな時、誰に対してどんな請求をすれば良いのでしょうか?

このようなケースを考える場合には、
①眺望に関する売主の説明義務
②仲介業者の説明義務、仲介業者の説明義務と売主の説明義務との関係
という2点を理解する必要があります。

1 売主の説明義務の根拠

(1)不法行為責任

マンションを含む不動産の売買は、目的物が高額なため、契約締結に至る過程での売主の説明内容は非常に重要になります。

仮に売主の交渉段階での説明不足により買主に損害を与えた場合は、あくまで契約成立前の段階(交渉段階)で問題となる責任のため、売買契約上の責任(債務不履行責任)ではなく、民法上の不法行為に該当すると考えられることが多いようです。

(2)債務不履行責任

しかしながら、売買契約締結前(交渉段階)であっても、売主の説明義務違反として契約上の責任(債務不履行責任)を追及することができる場合があります。

そもそも、売買契約における売主の義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することであるため、説明義務自体は本来的な売主の義務には当たりません。

しかしながら、信義則から導かれる売買契約上の売主の付随的義務として「説明義務」があるとされるため、説明義務違反には債務不履行責任を認めることもあります。

また、契約当事者間においては、その相手方に損害を被らせないようにする信義則上の義務があるとされます。

つまり、契約締結の段階において当事者の過失によって相手方に損害を被らせた場合には、その被害を受けた当事者に損害を賠償する責任を認めるのが通説であり、判例もこれを認めています。

(3)宅建業者の説明義務

不動産の売買契約においては、宅地建物取引業者が自ら売主となったり、仲介業者として介在したりといった形態でやり取りされているケースが多く見られます。

宅地建物取引業者は、取引の関係者に対しては、「信義を旨とし誠実にその業務を行わなければならない」とされています。

特に売買契約等が成立するまでに、宅地建物取引士として、重要事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定められています。

2 仲介業者に委託した場合の売主の説明義務

契約当事者が宅地建物取引業者に仲介を委託する場合には、契約当事者の意思としては、原則として、重要事項の説明については自らが委託した宅地建物取引業者が行うものとしてその説明に委ねているということができます。

よって、売主本人は買主に対し説明義務を負いません。

〔例外的に売主も説明義務を負う場合〕
①大阪高判平成16.12.2
売主が買主から直接説明することを求められ、かつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負う。

②東京地判平成9.1.28
売主は売買契約に向けて仲介業者に委託している以上、仲介業者を売主の履行補助者とみて、指導要綱の説明義務違反について売主も責任を負う。

3 説明義務違反の効果

(1)損害賠償

売主に説明義務違反が認められる場合、買主は、売主に対し、買主が被った損害について賠償を請求することができます。

なお、損害賠償の範囲については、信頼利益(契約締結に要した費用)の賠償を命ずる判例が多いようです。

(2)解除

売主の説明義務を信義則から導かれる売買契約上の付随的義務である(上記1の(2)参照)とした場合、説明義務違反は付随的義務の債務不履行となります。

そして、付随的義務の不履行があったとしても、原則として相手方は契約の解除をすることができないとされます。

しかしながら、付随的義務の不履行であったとしても、それが契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるような場合については、契約を解除することが認められます。

4 眺望に関する売主の説明義務

マンションの売主が、居室からの眺望について説明する義務を負うか否かについては、建物の所有者・占有者が眺望の利益について法的保護を受けられるか否かに関わると言えます。

この点について、裁判例は

「眺望利益なるものは、個人が特定の建物に居住することによって得られるところの、建物の所有ないしは占有と密接に結び付いた生活利益であるが、もとよりそれは、右建物の所有者ないしは占有者が建物自体に対して有する排他的、独占的支配と同じ意味において支配し、享受し得る権利ではない。

元来風物は誰でもこれに接し得るものであった、ただ特定の場所からの観望による利益は、たまたまその場所の独占的占有者のみが事実上これを享受し得ることの結果としてそのものの独占的に帰属するに過ぎず、その内容は、周辺における客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約を被らざるを得ないもので、右の利益享受者は、人為によるこのような変化を排除し得る機能を当然に持つ者ということはできない。

もっとも、このことは右のような眺望利益がいかなる意味においてもそれ自体として法的保護の対象となり得ないことを意味するものではなく、このような利益もまた、一個の生活利益として保護されるべき価値を有し得るのであり、殊に、特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値を持ち、このような眺望利益の享受を1つの重要な目的としてその場所に建物が建設された場合に用に、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社旗観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有する者と認められる場合には、法的見地からも保護されるべき利益であるということを妨げない」(東京高決昭和51.11.11)

としています。

そして、買主側の眺望権については、売主側が不動産売買の契約前の段階で眺望をセールスポイントにしていたり、販売後に売主側が自ら眺望を妨げる行為に出たりした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。

例:リゾートマンションの広告で眺望の良さを前面に押していたケース

他方、上記のような場合であっても、売主側で眺望に影響を与え得るような事情の有無について調査を尽くした上で買主側に対して説明をしていたような場合には、売主はその説明義務を果たしていたと認定されやすいと言えます。

例:マンション入居後にその窓から見える範囲へ高層ビルが建設され眺望が害されてしまったが、その高層ビルが建設される事実については売買契約時に売主側から重症説明事項として買主に対し説明がなされていたケース
2019.04.24

経営法務リスクマネジメント ~採用時のリスク~

近年の有効求人倍率は高水準を記録し、就職活動は就活生にとって有利な「売り手市場」であるとされています。
優秀な人材を獲得するために、インターンの実施やUターン学生を優遇する企業が年々増えています。
また、経団連の発表によると、2021年以降に卒業する学生の採用活動から、これまで定められていた説明会や面接の解禁時期に関するルールを撤廃することが決まり、就活市場は大きく変化しています。

就活市場は変化した一方で、企業は良い人材を獲得するため、今後も内定を早めに出して新入社員を確保する方法は変わらず、むしろ競争が激しくなることが予想されます。
今回、企業が採用から内定を行う際に気を付けるリスクについてご説明します。

1. 内定とは?

多くの企業では、新卒者を採用する場合、在学期間中に内定を出し卒業後に採用するという方法を採っています。

しかしながら、内定時から実際の採用まで時間がかなり空くため、その間に、様々な事情が生じ内定を取り消したいと考えることがあるかと思います。

内定を取り消すとなると、内定者との間でトラブルになる可能性があります。それでは、企業が内定を取り消したい場合にはどのような点に気を付ければ良いのでしょうか。

一般的に、企業と内定者の間には内定通知後に意思確認をした時点で、労働契約が成立しており、内定とは法的に「始期付解約権留保付の労働契約」であると考えられています。
「始期」とは内定通知後に企業と内定者の間で採用・入社の意思を確認し、実際に入社し働き始めるまでの期間を指しています。
「解約権留保」とは、企業と内定者の間に解約権が留保されているという事を示しています。

つまり、内定の取り消しを行うという事は、企業が留保している解約権を行使するという事になり、内定を取り消す際には、「目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合に該当するかどうかが重要になります。

2.解約権の行使について

それでは、具体的にはどのようなことが「客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合に該当するのでしょうか。

一般的には、選考過程において、企業側が知ることができなかったことを理由とした場合に内定の取り消しが認められるとされています。

例えば、短期間では到底復帰することが難しい重い病気に掛かってしまった場合や経歴詐称の内容が重大であること、また、卒業見込みとされていた学校を卒業することができなかった場合、刑事処分を受けた場合などが該当すると考えられます。

協調性が見られない、不真面目であるといった抽象的な理由では内定の取り消しは認められないため、注意しましょう。

3. 採用面接時にしてはいけない質問

前述したように、一度内定を出すと簡単には取り消すことができません。
そこで、企業側は求める人材かどうか見極めるために、面接が重要になってきます。

そこでつい、採用希望者がどのような人柄か知りたいがために、採用担当者が踏み入った質問をした結果、トラブルに発展することもあります。
それでは、面接時に気を付けなければならない質問事項とは、どのようなものがあるのでしょうか。

採用希望者にしてはいけない質問は大きく2つに分類されます。①本人に責任のない事項と②本来本人の自由であるべき事項です。
①の例としては、家族の職業や家庭環境、出身地などが挙げられます。②の例としては、座右の銘や人生観等があります。企業が面接者の緊張をほぐすために質問をしたことが、無自覚に法律に違反してしまうリスクがあります。

また、知らず知らずのうちに法律を違反してしまうことだけでなく、法律に違反した質問をしたことを採用希望者にSNS等で拡散されてしまい、企業のイメージダウンに発展する可能性も考えられます。
採用担当者は面接に入る際には、採用希望者に質問してはいけない事項をリスト化し、採用担当者同士で共有することで対策を諮りましょう。

4.まとめ

内定者が内定を辞退する際には、原則入社する2週間前までと定められている一方で、企業側が内定を取り消す際には解雇にも等しい、法的に強い制約が定められています。

そのため、企業側が経営の圧迫などを理由に、一方的に内定を取り消すことは、内定者から損害賠償を請求されかねない事態に発展することが考えられます。

良い人材を確保したいがために、焦って採用内定を通知することはとても危険です。
今後の事業計画や退職者数を予測しながら慎重に内定を通知するように十分に気を付けましょう。

 

2019.04.22

労働基準法とは?~労働契約の終了「解雇について」~

昨今、社会的に未払い残業代紛争と不当解雇紛争が増加しています。
一昔前の企業であれば、「従業員が、仕事ができない」、「会社と従業員の価値観が合わない」、「従業員がなんとなく会社に馴染めない」などの理由でも解雇が往々にして行われていた時代でした。
しかし、現代においては、そのような安易な解雇は許容されません。そのため、会社としてはどのような場合に解雇してはならないのか、解雇するとしてもどのような手続きが必要なのか、解雇後の手続きなどを把握していなくてはなりません。
労使紛争を未然に防止するために、ルールと注意すべき点についてお伝えしていきます。

前回の記事を読む→「労働基準法とは?~不当な身柄拘束の禁止~

1.解雇とは?

「解雇」とは、使用者の一方的意思表示による労働契約の解除のことです。従業員が一定の状況にある場合は解雇を許容することが極めて過酷な場合もあります。
また、突然の即日解雇では従業員の日常生活に及ぼす影響が大き過ぎます。
そこで、解雇に関する規制として、主に、以下の2種類があります。
・解雇制限
・解雇予告

(1)解雇制限とは

「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。」と労働基準法第19条で記載されています。

このような一定の状況においては、従業員が弱い立場に陥っていますので、解雇によってより窮地に追い込むことを防止する必要性があります。
※打切補償を支払う又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能な場合を除きます。

①この30日という期間内に業務上の負傷をした場合
出勤した日若しくは出勤できる状態までに回復した日から30日の起算

②この30日という期間内に産前産後の女性が休業した場合
産前(6週間・多胎妊娠は14週間)産後(8週間)から30日の起算

ただし、※で記載していますように次の場合は解雇制限期間でも解雇できます。
・打切補償…療養開始後3年経過し、使用者が平均賃金の1,200日分の補償を行う場合(労働基準監督署長認定不要)
・天災事変により事業の継続不可能な場合(労働基準監督署長認定必要)

(2)解雇予告とは

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。また30日前に予告しない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。

ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りではありません。
予告の日数は、平均賃金を支払った場合、支払った日数分について短縮することができます。

① 少なくとも30日前の予告
② 30日分以上の平均賃金
③ ①と②の併用

2.解雇する際のルールと注意すべき事項

即時解雇の場合、解雇予告手当は解雇通知と同時で支払うべきと定められています。
また、解雇予告期間が満了する前に、従業員が業務上のケガをして休業を開始した場合はどのように対応すれば良いでしょうか。

この場合、解雇予告の効力の中止であって、休業が長期になり効力が失われたと認められる場合を除き、治癒後に改めて解雇予告の必要はありません。

解雇期限到来後、解雇を延期した場合は同一条件で労働契約がされたものと解され、その後解雇する場合は改めて解雇予告をする必要があります。

■解雇予告が必要ない場合(所轄労働基準監督署の認定必要)

① 天災事変その他やむを得ない事由(事業継続不可能)
② 労働者の責に帰すべき事由

■解雇予告は日雇い・2ヶ月以内の期間労働者・季節的業務に4ヶ月以内の期間雇用者・試用期間中の者は適用されません。

① 日雇い(例外…1ヶ月を超えて使用された場合)
② 2ヶ月又は季節的業務に4ヶ月(例外…所定の期間を超えて使用された場合)
③ 試用期間(例外…14日を超えたら解雇予告必要)

退職時の証明書

① 使用期間
② 業務の種類
③ 地位・役職
④ 賃金
⑤ 退職の事由(解雇の場合)

この退職時の証明書に記載する事項についてですが、労働者の請求しない事項については記載してはいけないことになっています。必ず上記に記載してあることを入れないといけないということではありませんのでご注意をお願い致します。

3.まとめ

このように、解雇については様々な規制があります。そもそも解雇事由が認められるかどうかで争いになるケースもありますが、解雇制限・解雇予告・退職理由証明書などについて紛争化するケースも見受けられます。

これらの紛争に発展しないよう、会社ではルールを明確に認識しながら手続きを行うことが重要です。

2019.04.22

労働時間と休日・休暇の基礎知識②

前回の記事(労働時間と休日・休暇の基礎知識①)では、働き方の見直しに必要な知識として、労働時間、休日・休暇の違い、そして有給休暇の取得義務についてお話ししました。
今回は、その続きとして、振替休日・代休の違いと、時間外労働・休日労働をさせる場合に行わなければならない手続きについてご説明します。

1. 振替休日・代休の違い

労働時間と休日・休暇の基礎知識① 2(1)休日と休暇の違いにおいて、元から労働義務のない日を休日、労働義務が免除された日を休暇と呼ぶというお話をしました。
この「休日と休暇」のように、同じような意味に見えて、全く違う内容の制度があります。それは、「振替休日と代休」です。どちらも休日に労働するという点では同じです。では、一体何が違うのでしょうか?

まず、振替休日とは、あらかじめ休日と労働日を入れ替える場合に、その代わりとして振り替えられた休日のことを指します。つまり、労働させた日は休日労働とはならないので、1週の労働時間が40時間を超えていなければ、割増賃金を支払う必要はありません。また、4週4日の休日は必ず確保しておく必要があります。したがって、これらのことを踏まえると、割増賃金を発生させないように振替休日を運用するためには、同じ週内で振り替えを行わなくてはなりません。なお、振替日は事前に指定しなくてはなりませんので、前日までに通知します。

これに対し、代休とは、代わりに休む日を事前に決めずに、労働させた後に休日労働の代償として与えられた休日のことを指します。この場合は、労働した日はあくまで休日のままなので、休日に労働をしたという事実は消えていません。ですので、労働を命じた休日が法定休日であれば、時間外・休日労働に関する協定届を提出する必要があり、また、休日労働に対する割増賃金を支払わなければなりません(2.時間外労働・休日労働のために必要な手続きで詳しくご説明します)。

つまり、振替休日と代休の違いは、事前に休日を決めているか否かというところにあります。
振替休日、代休のいずれの制度を利用する場合でも、就業規則等に規定を設けましょう

2. 時間外労働・休日労働のために必要な手続き

労働時間と休日・休暇の基礎知識①において、原則として1日8時間、1週40時間(法定労働時間)を超えて労働させてはならないこと、また、従業員に毎週少なくとも1日、あるいは、4週を通じて4日以上の休日(法定休日)を与えなければならないことをお話ししました。

この法定労働時間を超えて労働をさせた場合は時間外労働となり、法定休日に労働をさせた場合は休日労働となり、以下の手続きを行う必要があります。

(1)就業規則等での定め

就業規則に、時間外労働や休日労働をさせることができる旨の定めを置く必要があります。
もし、就業規則を作成していない場合は、雇用契約書に記載しましょう。

(2)時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)

事前に従業員を代表する者と時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、時間外労働・休日労働に関する協定届を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
なぜ36協定と呼ぶのかというと、労働基準法36条にこの協定に関する規定があるためです。36協定は、事業所単位で締結・届出をする必要があることに注意しましょう。

36協定は、労働基準監督署に届け出ることではじめて有効となるので、協定を締結したけれど届け出ずに時間外労働・休日労働をさせたり、届け出る前に時間外労働・休日労働をさせたりすることは違法です。
36協定の有効期間は原則1年間なので、毎年、次の有効期間が始まる前に提出しなければならないということを頭に入れておきましょう。

(3)割増賃金の支払い

時間外労働の場合は25%以上、休日労働の場合は35%以上割増賃金を支払わなければなりません。
これらの他にも、深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働をさせた場合は、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。

 時間外労働や休日労働をしていて午後10時を過ぎてしまった場合は、時間外労働・休日労働の割増率に深夜労働の割増率を合算して支払わなくてはなりません。

ここで、「休日労働をしていて、法定労働時間を超えた場合はどうなるの?」と疑問に思った方がいらっしゃるかもしれません。
これまでの説明からすると、休日労働に対する割増率(35%以上)に時間外労働に対する割増率(25%以上)を加算することも考えられます。
しかし、この場合は割増率の合算は行いません。なぜなら、法定休日にはそもそも法定労働時間という概念が存在しないからです。

割増賃金は、以下の式で算定します。

ただし、この算定を行う際、
家族手当・扶養手当・子女教育手当(※)、通勤手当(※)、別居手当・単身赴任手当、
住宅手当(※)、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
は賃金から除外します。
※家族数、交通費・距離、家賃に比例して支給するものに限り、一律に支給する場合は月給に含みます。

3. まとめ

労働時間が増えれば増えるほど、心身に不調をきたします。必要な手続きを行っていたとしても、時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめなければなりません。

今、時間外労働・休日労働が当たり前になっているのであれば、業務の進め方や業務量などを見直し、従業員の健康を確保することに努めましょう。

2019.04.22

【退職の仕方】入社した会社を「やめたい」方へ~「退職代行サービス」ではなく法律事務所を使って確実に退職へ(私達がとる態度の豆知識つき)~

「退職代行サービス」というサービスを聞いたことがありますか?

もしかすると、この記事にたどりついた方はご存知かもしれません。退職代行サービスのウェブサイトには甘い言葉が書いてありますが、実は退職代行サービスは弁護士法違反にあたる可能性があるのです。

退職代行サービスの多くは、歴史が浅く、方法も不透明な上、やめようとする会社に対する権限も弱いため、退職時に揉めたりするケースや、退職後に訴訟を起こされる事例には一切対応が出来ません。会社が本腰をあげた場合に対処できないのです。

しかし!この世には退職代行サービスよりも強力な退職の助っ人がいるのをご存知でしょうか?

 ―弁護士とよばれる者です。―

後腐れなく退職したい場合は、退職代行サービスを使った場合よりも、予め法律事務所(特に労働に強い弁護士を擁する法律事務所)に「退職をしたい」という依頼を行った方が円満・安全・確実に退職を行えます。

1.合法的なやめ方のすすめ

リクルートスーツを着て、つらい就職活動をし、無事大学を出て、就職してみたものの、何か違和感をおぼえていらっしゃる方や、とにかく理由は抜きにして会社なんか辞めてしまいたい方は必見です。
思っていたのと違った。なんか嫌だ。拘束時間が長い。残業地獄。とにかくだるい。やめさせてもらえない。ご覧の方にはそういった思いもあるかもしれません。

一度きりの人生ですから、自分に素直に行動してみようと思われる方もいらっしゃると思います。

ウェブ上に公開されている、ある退職代行サービスは、誰にでもできる「とりあえずやめる」ことの代行だけで5万円もかかります。その点をみると、弁護士に依頼して「確実にやめて自由になる」ほうが、やめた後の嫌がらせへの対応や訴訟を提起された場合等を考えると安心です。

このように、確実に辞めて、その後の干渉もさせないほどに徹底するには法律の専門家に依頼するのがいいと思われます。退職代行業者と比較すると、法律事務所には証拠の残し方や交渉のノウハウがあり、会社に対しても丁々発止な対応が出来るため、退職代行を依頼するのであれば、法律事務所への依頼が合法的・円満・確実でよいものと思われます。

グレーなビジネスが出現しているからこそ、この「安心の退職方法」が、全ての会社を辞めたい人の保険のような形で周知されればよいなと思っています。

危険性のあるサービスではなく、安心できる辞め方として、周知にご協力いただければ、一人でも多くの方が救われるものと思います。

また、退職代行サービスは上記の通りとりあえずやめるというだけですが、法律事務所の退職代行依頼であれば、場合によっては会社に併せて「損害賠償請求」ができるケースもあるので、いずれにしても法律事務所を使った退職に軍配があがりそうです。

なお、福岡ではゴールデンウィークの10連休のうち、4月30日・5月2日・5月6日に営業している法律事務所もありますので、退職をご検討の方はこの3日を狙って無料相談がある法律事務所に行ってみるとよいかもしれません。

退職代行サービス会社 法律事務所
欠勤・退職の意思表示の確実な伝達
退職日の交渉 ×
有給消化の交渉 ×
引継ぎに関する交渉 ×
私物の引取り ×
離職票、年金資格喪失証明書等の発行依頼 ×
未払い賃金(残業代)や退職金などの請求 ×
訴訟になった場合の対応 ×
会社への損害賠償請求 ×
違法性 グレーな行為 適法行為

2.ありがちな言葉を考えてみる

あらためて、考えを整理するために、よく説得で使われがちな言葉を、あえて違った角度から考えてみると気付きを得ることがあります。その過程で自ずと自分の価値観が明らかになることもあります。

【物事をうやむやにさせる言葉】
① 「社会人として云々」「人として云々」「常識が・・・」
→この言葉が使われている場面を思い出してみてください。それは、ある一定の価値観がおしつけられている場面ではないですか?常識とはなんでしょう?よく考えてみると個々人の思い込みとも捉えられませんか?
アインシュタインも「常識とは18歳までに身に付けた偏見のコレクションのことをいう」というように、常識は個人が勝手に決めつけた各人で偏りのあるものの見方とも捉えられるのです。

② 「おかれた場所で咲きなさい」等のことわざ
→上にアインシュタインの言葉を引用しましたが、アインシュタインが出てくるだけで少し納得しませんでしたか?人はことわざや偉人の格言に弱いという研究があるので、説得されている場合はことわざや格言の力に惑わされないようにしましょう。
よくよく考えると、案外逆のことわざもあるものです。

③ 「○年は続けろ」という言葉
→辞める勇気のなかった者が言う、新卒者の人生を狂わせてしまう危険な言葉です。3年も経つと第二新卒という範囲からも外れてしまい、選択肢が減ってしまいます。具体的に続けることに何の意味があるのかを考えて、発見できれば続けてみるというのもよいかもしれません。

なお、上で様々なよくいわれる言葉の一つの見方を批判的にご紹介しましたが、実はこのものの見方も一つの見方・偏見でしかなく共感する必要もありません。
本来私達は、自由に考え、自由に職業を選び、自由に暮らすことができるはずなのです。

3.あとがき・【ローボール・テクニック】が人に思ってもない行動をさせている話

私はこれを知り、「ああ、ローボールだなぁ」という状況によく出くわすことがあります。日常で、気づいたときに、本心では嫌だけれどもなぜか受け入れてしまっている状況はないですか?

もっというと、なぜかあまり使わないのに継続して加入している通販サイトの会員プランや、スマホの課金はないですか?

実は、人は一度約束をすると、後に約束の内容が不利益に変更されても撤回するのは難しいといわれています。

世間でもよく使われている技法で、例えば、週1である簡単なタスクをやると評定の点数に加味するとしておき、点数はそのままで週2に頻度を増やすなど、はじめは容易な条件で次第に条件が厳しくなっていっている状況であっても、最終的には大半の人は受け入れてしまいます。これがローボール・テクニックといわれるものです。

初月無料や初年度無料というサービスがよくありますがまさにこれです。

現時点の退職理由で、「労働が割に合わない」ということを考えてらっしゃるような場合はこのことを警戒して、少し様子をみてみるのもよいかもしれません。

このように、一見甘い餌をまかれているような時は、不利益を被る可能性があるので警戒が必要だと考えられます。

4.さいごに

私たちの態度は私達が決めているものと思っていますが、往々にして決められているようにも考えられます。ただ、行動がどのような経緯であれ、自分自身が意思をもって辞職を決意するのであれば、その意思は尊厳をもって扱われるべきであるといえるでしょう。

そして、その尊厳を護ることが出来るのは法律をもってして代理人となることのできる弁護士でもあります。

退職をお考えの方は、無料相談を行っている法律事務所などもありますので、この記事も踏まえ様々な角度から検討のうえ、ご自身の自由な意思で依頼先を選択されることがよいと思われます。

2019.04.22

従業員がSNSトラブル!対応と公式発表、再発防止はどうしたらいい?

「SNSでトラブルが起こってしまったら!企業側の対応は?」では、従業員がSNSでトラブルを起こした場合の調査方法や記事の削除についてご説明しました。
今回は、削除後に行うべき公式発表や従業員の対応、再発防止策についてご説明します。

前回の記事はこちら→「SNSでトラブルが起こってしまったら!企業側の対応は?」

1.すべてのSNSトラブルについて公式発表するべき?

問題となっている多くが、トラブルの原因になった投稿が拡散され炎上したケースです。
しかしながら投稿がすぐに発見、削除されるなど拡散に至らなかった場合は、あえて公式発表をしないという手段も考えられます。
むやみに全てのSNSトラブルに対して公表すれば、かえって企業イメージの低下や、起こるはずのなかった別のトラブルに発展する可能性もあります。
また、外部から寄せられる情報や内部チェックで発見された投稿の中には、誹謗中傷の場合でも根拠や具体性のないものもあり、拡散状況や投稿内容によって臨機応変に対応することが重要です。

2.公式発表のタイミングは状況を見て適切に

公式発表で多く用いられるのは、プレスリリースが知られていますが、企業によっては記者会見を行うところもあります。
事実関係を確認、当該の投稿記事も削除し従業員の処分を行った後に公式発表、という流れが一般的ではありますが、すべてが完了するには時間がかかり、その間に当該記事がさらに拡散されてしまうことも考えられます。

また、「拡散されているのに企業側は何も発表しない。全く対応していないのではないか」という疑いを持たれてしまう可能性もあります。
問題の投稿内容に対して、今現在わかっていること、どこまで対応が進んでいるのか、などを適宜、公式発表していくのが良いでしょう。

3.SNSトラブルを起こした従業員へはどんな対応をすれば良い?

(1)注意、指導と懲戒処分

前回の記事でもご説明しましたが、SNS利用について就業規則の懲戒規定に当たる行為が見られれば、従業員の処分を検討しなければなりません。

問題の投稿内容がすぐに削除され、拡散されなかった場合や、従業員間でのSNSトラブルで話し合いなどにより解決した場合は注意喚起や指導にとどめ、炎上拡散が止まらず、企業の売上低下や実損害が発生するような事態まで発展した場合は、懲戒処分(減給や出勤停止、懲戒解雇など)を検討する必要があります。

また、小規模なトラブルであっても、比較的地位の高い取締役や役員が起こしてしまったものについては注意にとどまらず、懲戒処分を実施するケースも考えられます。

ニュースなどに取り上げられ問題となった、飲食店勤務中に不適切な動画を投稿するなどのSNSトラブルについては、既に知られているとおり当該従業員の解雇や、食品や機器の廃棄など対応にかかった費用として、損害賠償請求が行われています。

(2)従業員同士でのSNSトラブル

「私的アカウント間でのSNSトラブルだから、勤務先には関係ない」という問題が発生したとしても、そのトラブルの内容によっては企業に影響を与えることになります。

例えば、Aさんは偶然facebookで同僚Bさんのアカウントを見つけ、Bさんが拒否したにもかかわらず執拗に友人申請を行うなどの行為で、Bさんが精神的苦痛を感じ仕事に支障をきたす等のケースも、最初は個人間のトラブルですが、最終的には従業員の休職の原因になるなど、企業の運営にかかわってくるケースです。

このような場合、当該従業員への注意や指導で改善を図りますが、上司と部下といった間で上記のやり取りがされた場合、セクハラやパワハラとなる可能性もありますので、様々な状況や要素を踏まえた上で処分を検討しましょう。

4.再度トラブルを起こさないために防止策の徹底を

トラブルが発生した場合は、公式発表とともに、社内にも通達や注意喚起を行いましょう。
従業員全員に内容を説明することで、「いつか自分もトラブルを起こしてしまうかもしれない」という認識を常に持ってもらうことになります。

具体的には、「いつどのSNSサービスで、当該従業員はどのような内容を投稿したのか」、「このトラブルについて、労務側はどのような対応と処分をしたのか」などを記載します。また、注意喚起としてSNSの特徴である、「良い悪いに関わらず、容易にネット上に情報が拡散できてしまう」ことや「拡散された後は削除が困難」であることも説明し、認識してもらいます。

普段あまりSNSを利用しない従業員などへ対しても、どのようなトラブルであったのかが分かるように、この注意喚起内でSNSの特徴などについても触れておきましょう。

しかしながら懲戒処分の具体的な内容の公表については、注意が必要です。
内容によっては名誉毀損とされることもありますので、個人名や具体的な説明を避け、特定できないよう表記するのが良いでしょう。

社内での研修等を再度実施したり、ガイドラインを策定していなかった場合は早急に策定するのも防止策として有効です。
繰り返しにはなりますが、業務で使用している機器(パソコンやスマートフォン)等の同意を得た上でのチェックや、守秘義務の誓約書を作成し署名してもらうなど、SNSトラブルについては適切な策をとっている企業であると常に認識してもらうことも、いつ起こるかわからないトラブルに対して先回りできる防止策です。

5.まとめ

今回はトラブルを起こしてしまった従業員に対しての処分や公式発表について説明してきましたが、今この時間でも、ますますネット世界は目まぐるしく変化しています。

昨日まで普通にできていたことが、今日からはできなくなった、というような事もネットでは多く見受けられます。
「問題が疑われる記事を投稿してしまったが、今は拡散していないし、いつでも消せる」と思っていても、突然明日からサービスが変わり、自分で削除ができなくなってしまうことも起こり得ます。

企業個人ともに、情報収集やコミュニケーションツールとしてのSNSは非常に便利なサービスではありますが、サービスの特徴やこれまでにご説明したトラブルを念頭に置いた上で適切に利用していきましょう。

2019.04.18

経営法務リスクマネジメント ~総論~

経営には会社の規模に伴わず、あらゆるリスクが発生します。日常業務の小さなミスやトラブルに対して改善策を講じず放置したり、認識の相違や業務の漏れが生じる体制を整備せずに見過ごした結果、企業の経営を脅かすリスクに成長してしまう可能性があります。

会社法では、大会社にのみ「法令及び定款に適合するための体制や業務の適性を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(会社法第362条第4項第6号)を義務として定めています。

一方で中小企業に対しては、経営体制の整備については何ら義務を定めていません。
しかしながら、中小企業においても円滑な経営を行うためには、リスク管理体制を整備し、リスクマネジメントの実践を行うことは必要であり、何も整備がなされていないのであれば急務で対策を講じる必要があると考えます。
以下、企業における経営のリスクマネジメントについて考えていきたいと思います。

1. 経営リスクの分類

経営に潜んでいるリスクにはどのような分類方法があるでしょうか。
もっとも一般的なものは、「純粋リスク(損失のみをもたらすリスク)」と「投機的リスク(損失のみならず利益もあるリスク)」に分類する方法です。

「純粋リスク」は、一般的に財産損失・収入減少・賠償責任・人的損失のリスクがあります。「純粋リスク」は、予測を立てることにより統計的にリスクを把握でき、損害保険の利用などにより、投機的リスクに比べリスク管理が行いやすいとされています。

一方で「投機的リスク」は、経済や政治的情勢や法的規制変更などの動態的な事項があげられます。
「投機的リスク」は、グローバル化が進んだことにより、自国だけではなく他国の経済や政治的情勢の影響も及ぶようになり、近年直面するリスクとして増加傾向にあります。
次に、経営法務の視点から考えたリスクの分類として、「社内要因的リスク」と「社外要因的リスク」の分類方法があります。
例えば「社内要因的リスク」では、採用及び退職リスクや労働時間・賃金・休日等のリスクや社内管理体制リスクが考えられます。「社外要因的リスク」では、欠陥製品リスク、債権回収リスク、情報・営業秘密リスク・損害賠償リスクなどが挙げられます。

経営リスクを検討する際、「社内要因的リスク」と「社外要因的リスク」の分類方法の方が、馴染みがあって検討しやすいことや、社外要因的リスクについて検討する際に、第三者の行動が関係してくることから、事前のリスク回避対策だけでなく、リスクを取ったうえで被害を最小限にとどめる対策についても考慮することができ、「純粋リスク」と「投機的リスク」に比べ、より具体的な経営リスク回避を講じることができます。

2. ハインリッヒの法則

ハインリッヒの法則とは、「重大事故が一件発生する背景には29件の軽微な事故があり、その背景には300件の小さなミスや異常が存在する」という法則です。
ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが労働災害を統計学的に調査し、この法則を見つけ出しました。
取り返しのつかない重大な大事件や大事故を事前に防ぐために、軽微な事故やたまたま起こった小さなミスを見過ごしてはいけないことを教示しています。
些細な事故やミスを侮らずしっかりと記録にとどめ、過程の分析を行い、予防対策を講じることはリスクをカバーすることに繋がります。

3. リスクマネジメントの実践

経営法務のリスクマネジメントを行うには、①リスク管理体制を整備②リスクの洗い出しや発生確率の分析、経営にもたらす影響の大きさなどの調査、リスク発生時の対応の検討③リスク発生後の対策の3つに分類し検討することが有益とされています。

中小企業ではリスク管理部門やコンプライアンス統括部門を設置することは現実的に難しい場合が多いでしょう。その場合、自社で対応が難しいのであれば、顧問弁護士などにコンプライアンスを任せることも重要でしょう。

弁護士であれば、経営におけるリスクの洗い出しや分析について客観的に判断ができますし、リスク管理体制の整備に並行して、社内規程の見直しなども必要になるため、コンプライアンスを任せるには適切です。

また、内部通報制度についても整備をすることが大切です。不正や不祥事が公になる前に、社内内部にて事前に対処することにより、社内要因的リスクにとどめ、社外要因的リスクを回避することに繋がります。

この際、内部通報者に対し、不利益な扱いをしない旨を明確化し、従業員に周知を行い、通報先を設けることが必要です。実際に内部通報があった後の対応についてもルール化することで、内部通報を行いやすい体制作りに努めましょう。

ただ、リスクマネジメントの実践においては、体制作りだけでは限界があるため、日頃から経営者のコンプライアンス意識や社訓・行動憲章などの精神面を従業員に根付かせ、従業員全体の意識を高めることが、リスクマネジメントの実践においてベースになっています。

4. まとめ

リスクへの対応としては大きく次の4つがあります。①リスクを取らない②リスクを減らす③リスクを分担する④リスクを受け入れる

リスクへの対応を考える際、発生頻度やリスクが起こった際の重大性から予防策を検討していくことが重要とされています。どこまでリスクを負うことができるのか詰めて考えることがリスク発生を低減させることに繋がります。

リスクが起こった際の初動調査が遅れてしまえば、被害が拡大し、会社の危機管理能力まで問われる自体に発展してしまう可能性があります。

機動的に対応ができるように弁護士等の専門家を体制に組み入れながら、会社組織の事情に則したリスク管理体制を整備し運用することによって、被害を最小限にとどめるように備えましょう。

2019.04.18

恋人の自傷癖・薬物使用等でお悩みの方へ~法律で保護できるひと~

「大切な人が自分を見失っている」

恋人に自傷癖があり、自殺をほのめかされてお困りの方や、恋人の薬物使用でお困りの方は一定数いらっしゃいます。

自傷癖と薬物依存、どちらも、精神衛生上、放置しておくことは望ましいものではありません。だからと言って大切な人を警察につき出すのも気が引ける・・・。どこに相談すればいいかわからない・・・。なんだか自分も気分が沈んできた・・・。

そんな方に、なるべく関係を壊さないで穏便に解決する一手段をご紹介したいと思います。
知っておくだけでも安心な情報で、なおかつあまり公にはされていない情報なので是非要点だけでも知っておくといいですよ。

要点は前半にまとめています。根拠となっている法律の解説は後半にまとめています。
要点だけ知りたい方は前半をお読みになって下さい。

1.話し合いでなんとか出来ないことだってある

例えば、身近な人が自傷癖を持っていたり、薬物依存に陥っていたりしてお困りの際に、なんとか説得して、立ち直らせられないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、精神医学の専門知識がない場合、話し合いや、道具の取り上げを行うことで逆に自傷や薬物依存に拍車をかけてしまう場合もあります。

自分だけが相手のことを一番分かっているとは思わずに、一旦、客観的な専門家の意見をあおぐことも本人のためを思えば適切な判断であると思われます。

そして、往々にして自傷行為や薬物使用をしている本人は病院へは行きたがらないケースが多いものと思われます。本当に立ち直ってほしいと思うのであれば、公共の制度を利用し、治療を受けてもらうのが最適解でしょう。

2.不幸にも病んでしまった大切な人を保護する制度

突然ですが、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律という法律をご存知ですか?
簡単にいえばこの法律は精神的な健康を促進するための法律です。

この法律には、錯乱や過度な自傷・薬物使用など精神的な疾患の疑いがある方のうち、ご本人に病識がない場合に、ドクターに適切な治療を行ってもらう制度があります。

パートナーが自傷行為をやめないのに、病院に行きたがらない場合や、パートナーが薬物を使用して錯乱することがある場合には、この法律によって、保健所に申請し、調査・指定医に診察をしてもらうという手段があるのです。

しかしながら、精神的な錯乱状態にある方・希死念慮の方で治療を拒否している方を保健所へ連れて行くことは現実的には困難ですので、治療をさせようとする方がご本人の症状を記録し、その他の記載事項を書いて申請することとなります。
その後保健所の調査のうえ、指定医の診察を経て治療や措置入院が開始される運びとなります。

このように治療を受けさせるには「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に基づいた都道府県知事に対する申請を経ることが必須条件になりますので、まず法律事務所に依頼して、事情を弁護士などに話した上で、法律事務所を通して申請することもできます。
また、法律事務所を通すことで申請後の本人の処遇の流れを知ることができます。

申請が認められ、指定医2名の診察により、措置入院が妥当であるという判断がされれば、病床において、本人を治療させることができます。
病床の区分には一般病床・療養病床・精神病床・結核病床・感染症病床と5種類ありますが、そのうちの精神病床に入院することになります。

精神病床というと「隔離」をご想像されるかもしれませんが、精神病床にも開放病棟という施錠されていない病棟もあり、一定の自由は保証されています。

なお、希死念慮をお持ちの方などは、「保護室」などと称される、閉鎖・隔離で、自傷に使える道具のない、施錠・閉鎖された病床に入院することになります。
ここへ入院することになると、自傷や薬物は使えず、一定期間は治療を受けてもらうことが出来るので一安心といえるでしょう。

なお、今回は恋人の自傷他害行為についてご紹介しましたが、ご家族が自傷他害のおそれのある状態に陥っている場合には、少しソフトな医療保護入院制度というものもあります。

医療保護入院は申請を行う必要はなく、本人を病院に連れて行き入院させ、治療させるものですので特段の申請を行う必要はありません。
詳しくは「医療保護入院」で検索をかければ制度が出てきます。

3.法律上の根拠

法律上、人の自由を制限することはそう簡単には認められていません。
人の自由を制限する場合は法律の根拠が必要となります。今回のように法律の規定によって精神病床に入院させる場合も一定の手続が要求されています。

申請による措置入院の場合であれば精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第22条1項で都道府県に申請し、第27条1項で指定医の診察、第29条で都道府県知事の措置入院決定となります。

4.まとめ

よく恋人がリストカットやアームカットをしているといったことや、薬物を身近な人が使っていてやめさせたいという話を聞きます。

法律には、自傷行為を止めて保護する制度もありますので、身近にそのような方がいらっしゃったら、法制度を使うことも手段の一つとしてお考えになるのもよいのかもしれません。

2019.04.18

【離婚問題】認められる離婚理由と離婚方法・離婚後の手続きってどうなっているの?

夫婦間で離婚を考えたとき、離婚ってどうやってするの? 離婚ってどんな理由でも認められるの? 離婚届はどうやって提出するの?など分からないことばかりだと思います。
今回は、離婚方法、法的に認められる離婚理由(法的離婚事由)、離婚後の手続きについてお話しします。

1. 離婚をする3つの方法

離婚をする際、夫婦間で双方の合意があればその理由が何であれ、離婚をすることは可能です。逆をいうと双方の合意がなければ離婚は成立しません。双方の合意を得るための離婚方法が3つあります。

1つ目は協議離婚です。離婚をする夫婦の多くはこの「協議(夫婦間での話し合い)」によって双方の合意を得ることで離婚を成立させています。

2つ目は調停離婚です。協議離婚が成立しなかった場合に、家庭裁判所で調停手続きをとって、調停委員が間に入り話し合いを行います。離婚についてだけではなく、子どもの親権や、面会交流や養育費、財産分与や年金分割、慰謝料などについても話し合うことができます。

3つ目は裁判離婚です。ただ、原則として、いきなり離婚の裁判をすることはできません。調停でも離婚が成立しない場合に初めて、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、裁判に進むことになります。裁判離婚の場合、両当事者で協議の上で合意をするのではなく、裁判では双方が主張立証を行ったうえで裁判長が判決を下します。判決に不服がある場合は控訴・上告という流れになります。

2. 法的離婚事由

裁判では法的離婚事由(法律で認められる離婚理由)がないと、離婚は成立しません。
法的離婚事由は民法第770条で定められていて、以下の5つです。

①配偶者に不貞な行為があったとき。

これは俗にいう「不倫」のことで、配偶者以外の異性と性行為を行った場合は、その配偶者がこれを理由に離婚を請求することが可能です。

②配偶者から悪意で遺棄されたとき。

夫婦には3つの義務が存在し、「同居義務」・「協力義務」・「扶養義務」です。夫婦関係が破綻することが分かっていながらこれらの義務を果たさないことは、悪意の遺棄と見なされ、離婚を認められます。

③配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

夫婦のどちらかが家を出ていったりして、行方が分からず、その生死も明らかでない場合は3年が経過すると離婚が認められます。ただし、本当に生死が不明なときであって、単なる行方不明の場合には該当しませんので、注意が必要です。

④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

この場合は調停を行うことができないため、例外的に調停を経ず、裁判で離婚を請求することができます。
夫婦のどちらかが、夫婦関係を破綻させる程度の精神病にかかってしまった場合は離婚事由になり得ます。
医師の判断が必要で、離婚後の配偶者の生活についても心配がないという状況でないと離婚は認められません。

⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

離婚をしたい原因が1~4に該当しない場合でも、DVや性の不一致、親族との不和、過度な宗教活動、金銭問題などが離婚事由になることがあります。必ずしも離婚が認められる訳ではなく、その度合いによって裁判所が判断します。

3.離婚後の手続きや提出書類

離婚成立後、各方面に書類の提出、各種手続きが必要となります。

① 離婚届の提出

離婚届は、市区町村役場でもらうことが出来ます。窓口で直接、もしくは郵送にて提出が可能です。
提出に伴い、戸籍謄本や届出人の印鑑、が必要です。協議離婚の場合は本人確認書類、調停離婚や裁判離婚の場合はさらに調停調書や判決書の謄本などが必要となります。

②協議離婚の場合は公正証書を作成する

調停や裁判によって離婚が成立した場合は、養育費や面会など決定事項が証拠として残りますが、協議離婚の場合は第三者を介さないため、証拠が残りません。後で2人の間で食い違いがあったり、決定事項が守られなかったりする可能性があるので、書面で残しておくのが良いです。

離婚協議書を作成し、できれば公正証書を作成した方が良いでしょう。離婚協議書を公正証書で作成し、執行認諾文言を付与することによって、万が一決定事項が守られない場合、後に差押えなどの強制執行が可能となりますので安心です。

③子どもの姓や戸籍

親は、離婚届を出せば、婚姻前の姓と戸籍に戻りますが、子は婚姻中の姓・戸籍のままです。離婚時に籍を抜けて子を引き取る際は、新たに戸籍を作らなければなりません。その場合、管轄の家庭裁判所へ子の氏の変更許可申立書を、役所に入籍届を提出します。
子の籍を移さず、婚姻中の戸籍のままでも問題はありませんが、子供の戸籍が必要になる機会もあろうかと思います。その場合、親権者の戸籍に入っていた方が何かと都合が良いでしょうから、なるべく移すのが良いでしょう。

4.まとめ

離婚をするときに、その決定方法は3通りあります。協議や調停の段階では、夫婦の合意が得られれば離婚は成立しますが、裁判まで進むと法律で決められた理由がないと離婚は認められません。
証明するには証拠が必要な場合が多いので、事前の準備が不可欠です。
また、離婚が成立した後も、書類の提出や子どもの姓や戸籍の変更などやるべきことがあります。
体力も使い、精神的にも苦労が多くなりますが、子どもと自分たちの未来のためにはやらなければならないでしょう。

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