商標登録ってどうやるの?
普段私たちが目にするブランドのマークや、商品名(=ネーミング)などは「商標権を獲得」=商標登録することによって、そのブランドの価値や、商品の持つイメージの独自性が保たれています。
商標権の獲得は早い者勝ちなので、売り出したい商標が決まったら、すぐに商標を出願するのがおすすめです。
今回は、商標登録に関係が深い士業である「弁理士」、商標登録の手順、そして最後に私たちも日常の中でやってしまっているかもしれない商標権の侵害について説明していきたいと思います。
1.商標登録と弁理士
知的財産権のうち、産業財産権に分類される商標権は、特許庁で管理されています。
ですから、私たちがよく知るブランドのロゴや、商品のデザインなど、様々な商標はみな特許庁に商標登録の申請をし、申請承認されることで守られているのです。
「特許」や「権利取得」と聞くととても専門的な響きがして、複雑な行程を踏まないといけないのでは?と思う方もいるかもしれません。
しかし、実は出願の手続き自体は、所定の様式の書類を記入し、印紙を貼りつけて提出するだけなので、個人で申請することも可能です。
知識や下準備不足で商標登録の申請をした場合、既に同一・類似商標が登録されていたり、不備があると申請が拒絶されたりすることもあり得ます。
こういった事態を自分の力で防ごうとすると、時間や労力がかかってしまいます。また、新たに申請をするとなるとさらに費用もかかります。
そこで登場するのが「弁理士」です。
弁理士とは産業財産権にかかわる全ての事務手続きを代理で行う事ができる国家資格所有者のことです。商標登録代行は弁理士の独占業務です。専門知識のもと、一連の業務をすべて代理で行ってくれるので、自力でやるより時間や労力が省けます。
また申請が拒絶されるリスクもぐっと下がるでしょう。依頼するとなると、費用こそかかりますが、1回の申請で審査に通り、申請費用が無駄にならないと考えると高くはないでしょう。
2.商標登録のステップ
先ほど、登録申請には下準備が必要だと述べましたが、商標登録の申請から承認までには具体的にどのようなステップがあるのかを見ていきたいと思います。
大まかな流れは、①先行商標調査 ②出願 ③審査 ④登録となります。
① 先行商標調査
先行商標調査は商標登録をする上で一番大切なステップです。
先ほど述べた通り、先行商標調査では、自分が登録申請しようとしている商標と同一・類似のものが存在しないかを調べます。
もし既に登録してあることが分かれば、見込みのない出願をしないで済みます。確認がとれたら、商標の区分、指定商品、指定役務(役務=サービス)を検討します。
【第16類】(主に文房具が属する分類)、
【指定商品・指定役務】ボールペン
と設定することが考えられます(一例)。
商標登録の出願は、「商標登録を受けようとする商標(=マーク・ネーミング)」と共に、指定商品・指定役務その商品を使用する区分を指定しなければならないのです。
② 出願
登録したい商標が他と被っていないと判明し、区分の指定も完了したら、いよいよ出願です。
出願は、書類での出願とインターネットでの出願の2種類があります。
今回は主流である書類での出願の流れについて説明します。
(1) 商標登録願の作成を行います。様式が決まっているのでそれに沿って作成します。
(2) 「特許印紙」を購入し指定の箇所に貼り付けます。
(3) 特許庁に提出します(窓口へ直接持参もしくは郵送でも可能です。)
(4) 電子化手数料の納付(出願後払込用紙が送付されて来ます。)
以上が出願の行程です。
③ 審査
出願後、審査には半年から1年程の時間を要します。特許庁には日々膨大な量の商標登録出願があり、それらを順番に審査していかなければならないからです。
時間を要するので、思い立ったらすぐに出願に取り掛かるのがおすすめです。
特許庁による審査後、問題がなければ登録査定がなされます。一方、何か問題があり登録できない場合は、その旨「拒絶理由通知」で知らされます。ここで「意見書・補正書」を提出し拒絶理由が解消されれば登録査定、解消されなければ拒絶査定となってしまいます。
④ 登録
登録査定が出たのち、所定の登録料を特許庁に納めると、登録が完了し晴れて、商標権が発生します。登録料の納付から約1か月で登録証が送られてきます。これにて一連の手続きは終了です。
また、期間は10年間なので、10年ごとに更新をすることで半永久的にその効力が持続します。
3.身近な商標権侵害
最後に、私たちが日常でやってしまうかもしれない、身近に潜む商標権侵害についてお話ししたいと思います。
たとえば、ブランドのロゴ(商標権取得済)が入っている洋服をリメイクして販売することは商標権侵害になりかねません。ブランドのロゴを使うという事は、そのブランドの効果を狙っていると考えられるからです。
また、ブランドが出している生地(商標権取得済)を使って洋服を手作りしたとします。その洋服をフリーマーケットで販売するというのはどうなのでしょうか?
こちらに関しては、各ブランドで方針が分かれます。
「〇〇(ブランド名)の生地を使用しています」と表記するのであれば商業利用するのは構わない、としているところもあります。一方で、「当ブランドの生地を商業利用することは固くお断りします」としているブランドもあります。
一様ではないので、「商売」をする際は他人の権利を侵害していないかを十分に調べた上で行わなければならないでしょう。
4.さいごに
以上のように、商標権とは容易に申請可能で、近年の企業では本当に多く活用されています。つまり、毎年どんどん多くの商標登録がされている以上、世の中での商標権侵害の可能性が高まっている状況にあります。
今後、商標を活用しながらビジネスを行おうとする場合、商標権侵害のトラブルに気付かぬ内に巻き込まれてしまう可能性がありますので、弁護士へ相談しながら進めることが最善でしょう。
また、個人の生活においても、商標権の侵害は起こり得ます。個人での商売だからと安心していると思わぬ事態になりかねないので、十分に注意しなければなりません。
【離婚問題】共有名義は離婚を境に、共「憂」名義になる
夫婦共同での住宅購入後に離婚した場合、それまで払い続けていた住宅ローンはどうなるのでしょうか。
また、どちらかが再婚した後に死亡してしまった場合や、連帯保証人のしくみについても詳しくご説明します。
1.共有名義人双方の承諾がなければ、不動産を売却できない??
夫婦がそれぞれ資金を出し合い、住宅ローンを借り入れて住宅を購入した場合、その土地と建物は二人の「共有名義」になります。
この場合の大きなメリットは2つ。
1. 夫婦の収入を合算することで多くのお金を借りられる(やはり、収入が多いほど多くの借入ができるものです。)
2. 購入価格の一定割合を税額控除される「住宅ローン控除」「住宅売却の3,000万円の特別控除」の優遇を二重に受けられる
しかし、共有名義にしたばっかりに、これが離婚後、大きな問題を引き起こすこともあります・・・。
「大きな問題って!?」
例えば、夫婦のどちらか一方が仕事を辞め、収入がなくなれば、辞めた方は所得がなくなりますので、所得税が発生しなくなります。そうなると、所得税が発生しない以上、住宅ローン控除を受ける余地がなくなりますので、節税のために連帯債務にした恩恵が受けられません。
妻が出産や育児で仕事を辞めるケースが考えられますが、これは予測の範囲内、つまり「通常のデメリット」です。この「通常のデメリット」をはるかに超える問題・・・。
それが、離婚で不動産を売却する場合です。
なかなか知られていないのですが、実は、共有名義の不動産は「夫」と「妻」の両方の承諾がないと売却することができないのです!
【両方の承諾が得られないケース】
① 夫は不動産を売却して得たお金を財産分与として分け合いたい、妻は慣れた家に住み続けたい、と主張しもめている
② どちらかの失踪などで、連絡が取れず、承諾を得ることができない
③ 夫が浮気をし、離婚することになったが、妻が自宅に居座っている
ケース③については、売却益を分与する方が得策ですが、夫への恨みがつのっている妻は頑として、売却に同意しないという場合です。売却までの時間が長引けば、その分、不動産の価値も下がり、この状況が長引いている間にも住宅ローンは返済しなければなりません。
夫と妻の両方から承諾を得ることは簡単なようですが、そううまくいかないのが現状です。
2.もし、どちらかが再婚した後、亡くなってしまったら・・・
もし、共有状態のままで離婚し、その後に再婚や相続、借金や納税の問題が生じると、予期せぬ問題が浮上することがあります。
離婚後、どちらかが再婚し、死亡してしまえば、「共有持分」が複数の人に相続される可能性があります。また、住宅ローン完済後であっても、元配偶者が共有持分を担保にして、借金をしたり、税金の滞納をしたりすれば、突然差し押さえられる危険性もあります。
このように問題が起こってしまうと、メリットのある共有名義が、デメリットしかない共「憂」名義になってしまうのです。
3.離婚して初めて知る…「自分は連帯保証人だった!!」
「名義変更すれば、連帯保証人が外れるんじゃないの??」
名義変更で連帯保証人が外れることは・・・「ありません!」
また、連帯債務者だった人が名義変更をしたからといって、連帯債務者から外れることは・・・「ありません!」
なぜなら、連帯保証人は「主債務者」を保証する立場にあり、連帯債務者は債務者としての立場にあるため、主債務者の返済が滞ったり、もう一方の連帯債務者の返済が滞った場合に金融機関から返済請求を受けるようになるからです。
例えば、夫が主債務者として住宅ローンを組み、妻が連帯保証人になっているケースでは、夫の返済が滞れば、連帯保証人である妻に返済の義務生じます。また、夫婦の収入を合算して住宅ローンを組む場合、夫婦共に連帯債務者になっているケースがほとんどです。
もし、あなたが、元夫と離婚をし、再婚した夫と新しい家庭を築き、幸せに暮らしていたとしても、元夫が何らかの理由でローンが返せなくなった場合、突然あなたの元に請求書が届くことがあるのです。
そして、あなたは初めて気づくのです。「自分は連帯保証人であった」「自分も連帯債務者であった」と。
離婚したからと言って、連帯保証や連帯債務がなくなることはありません。
「離婚する時に、家の名義を夫に財産分与して、自分の名義を外れたら、住宅ローンの連帯保証も自動的に外れるのではないの???」
そう思われる方も多いかもしれませんが、実際はそうではなく、連帯保証人や連帯債務者であることは、変わらないのです!!
「離婚したのに、連帯保証が外れないなんて納得できない!」
残念ながら、これは、法律で定められた日本の連帯保証制度なので、どうすることもできません。連帯保証が解除されるのはローンが完済されたときです。
返済中に連帯保証を外すには、住宅ローンを借りている金融機関の同意を得る、同等以上の連帯保証人を立てる、ローンを完済、もしくは完済に近い金額を一括返済する等方法はあるにはありますが、債権者である金融機関の同意が必要で、その同意を得るのはとてもハードルが高いというのが現実です。
金融機関からすれば、離婚したことは関係のない事情であり、離婚を理由に連帯保証人や連帯債務者から外してあげるメリットがないからです。
一方で、ローンを支払っていくどちらかが、住宅ローン残高分全額の借り換えができれば連帯保証債務はなくなります。つまり、違うローンに乗り換える、ということです。しかし、これも物件の担保価値が低ければ、借り換えはかなり厳しいのが現実です。
「だったら、売却する方が、全額返済となって、スッキリするのでは??」
ここで問題となるのが、ローン残高が物件価値を上回っている(つまり、オーバーローン状態の)場合です。この場合、売却代金でローンの完済ができないため、住宅ローンを担保するために付けられていた抵当権を抹消することができません。
そうなると、新しい買主は抵当権付の不動産など購入するはずもありませんから、現実的には売却することができないのです。
金融機関の保証債務免責も無理!
借り換えも無理!!
オーバーローン分を一括で支払えないから売却も無理!!!・・・となると、そのままの状態でローンを払い続けていくしかないのです・・・。
こうなると数年後には破綻しかねないというリスクができてしまいます。
そんな重要な「連帯保証人」なのに、なぜ当事者は連帯保証人になっていることに対する自覚がないのでしょうか。
実際は「自覚がない」のではなく、「忘れてしまっている」ことの方が多いのです。それは、仕方ないことなのかもしれません。結婚した時は、まさか自分が将来離婚するなんて想像しませんし、マイホームを買う時は、希望や高揚感からリスクを考えずに、金融機関や不動産業者に言われるがまま、印をついてしまうのです。
一度、ご自宅の名義や住宅ローン契約者、連帯保証人など、整理して確認してみることをお勧めします。
【離婚問題】離婚が破産につながる!?原因は住宅ローン!!
離婚の話が持ち上がったら、養育費や慰謝料のことなどが優先的になり、不動産や住宅ローンについてはどうしても後回しにされやすいものです。しかしながら放って置くとトラブルに巻き込まれることも!
今回は、離婚時に気をつけたい不動産や住宅ローンについてお話しします。
1.はじめに
日本において「離婚」といえば、離婚について話し合って役所へ離婚届けを提出して成立する「協議離婚」、家庭裁判所における離婚調停で離婚が成立する「調停離婚」、家庭裁判所の裁判官の判断によって離婚が成立する「裁判離婚」の3種類があります。
その中でも、日本における離婚の大半は「協議離婚」であり、離婚全体の9割を占めます。
「協議」離婚と言うからには、話し合って離婚が成立するのですが、離婚するか否かだけでなく、その他離婚に付随する様々な事柄を話し合うことになります。その「協議」される内容としては「子の親権・養育費」「慰謝料」「財産分与」などがあります。
簡単にだけ説明しておきましょう。
まず、「親権」は、両親のいずれが離婚後に子供の親権を持つのかを協議します。そして、親権を持たなかった方の親は、現実に子供を育てないため、代わりに子供を育てる方の親に対して養育費を支払うことになります。
次に、「慰謝料」とは、有責行為(浮気・DV・生死不明など)で離婚の原因を作った側が配偶者に支払う賠償金です。
また、「財産分与」については、離婚の原因にかかわらず、夫婦で築いた共有財産を公平に分与することになります。
《対象となるものの例》
不動産や家具、預貯金、車、有価証券、保険解約返戻金、退職金etc.
離婚後、特にトラブルになりやすいのが不動産に関する問題です!一般的に、離婚される家庭は、高齢者の離婚でない限り、住宅ローンの残債が残っていることが普通でしょう。このとき、住宅ローンは残債額が何千万単位と多額であるため、その処理において紛争の火種となり得ます。
「売却すれば、問題は解決するのでは?」と考えられる方も多いかもしれませんが、
新築で購入した場合、少しでも住めば中古物件です。一気に価値が下がって、もはや売却しても住宅ローンの残債額の方が多いという状況があり得ます。住宅ローンが物件価格(時価)をオーバーしている場合(※オーバーローン・債務超過と言います)、売却しようと思うと、通常、売却代金で足りない分は一括で返済しなければならないので、離婚が破産につながる原因のほとんどが住宅ローン!というのはこれが原因です。
2.離婚の話が持ち上がったら、確認してほしいこと
皆さんは、不動産に関する権利関係、契約内容を正確に認識されていますか?
離婚の話が持ち上がったら、不動産に関する問題を冷静に把握、整理することが大切になります。そこで、まず確認してほしいことを記載します。どれだけ正確に認識できているか、ぜひチェックしてみてください!
□不動産の取得時期はいつだった?
□不動産の購入代金はいくらだった?
□不動産を購入の際、頭金は支払った?
□頭金は誰が支払った?
□頭金は支払わず、フルローンを組んでいる?
□土地・建物の名義はどうなっている?(共有名義?単独名義?)
□担保権(抵当権や差押え)の有無はどうか?
□住宅ローンの残高はいくら?
□住宅ローンで連帯保証人の有無はどうか?(登記簿謄本に載らない)
□住宅ローンで連帯債務者の有無はどうか?(登記簿謄本に載る)
□住宅ローンの完済時期はいつ?
□不動産の査定はいくら?
……。
いかがでしたでしょうか?結構たくさんチェックすべきことがありますね。
マイホームを手に入れられる喜びでいっぱいで、権利関係などを十分に把握していない方が少なくなく、離婚後、不動産トラブルに巻き込まれてしまう方が多くいらっしゃいます。
そこで、不動産の名義や住宅ローンの契約内容、保証人など現状がどのような権利関係になっているのかしっかり確認してほしいのです。
不動産の権利関係や内容は法務局で不動産の登記簿謄本を取得して調べることができます。売却の予定があるのなら、不動産業者に土地・建物の査定をしてもらい、あらかじめ資産価値を把握しておくとよいでしょう。
3.養育費等とは話が違う!破産のリスクが一気に高まるローン残債問題!!
離婚の話が持ち上がったとき、どちらかに離婚原因があったら慰謝料について、子供がいるときは親権・養育費についてが争点になります。不動産の話はどうしても後回しになりがちです・・・。
預貯金や車、家財などの財産分与は分与した時点で終わります。慰謝料や養育費については、話し合いで双方の納得が得られれば、分割での支払いは可能です。
しかし、住宅ローンは契約している相手が金融機関です。金融機関にとって、夫婦の離婚は関係のない話ですよね。金融機関は、自分が住むための自宅購入資金であり、自宅を守るためには頑張って返済をしてくれるであろうとの前提から、極めて低金利で住宅ローンを組ませてくれるのです。これが滞ったり、約款違反があれば、一括で返済を求められます。
元夫:債務者。家を出てローンを返済し続けている。
元妻:連帯保証人。子どもと自宅に住み続けている。 場合・・・
→元夫が何らかの理由で返済しなくなると、金融機関は期限の利益を喪失したとして、元夫に対して一括支払いを求めます。しかし、元夫が返済できないとなると、自宅に住んでいる元妻に対して連帯保証人として一括で支払うよう請求してきます。
住宅ローンを組んでいる以上、自宅に抵当権を設定しているでしょうから、支払えない場合は、金融機関が抵当権を実行して自宅を競売にかけ、もしそれでも残債が返済しきれない場合には、自己破産に一気に突き進んでしまう危険性があります。
こうなってしまう前に、住宅ローンを借り入れている金融機関に連絡して、契約内容を確認することです。借入状況、照会時点までの返済履歴などがわかりますし、借り換えなどをして契約内容が変わっている場合もあるので契約書類一式を必ず確認しましょう。
4.まとめ
離婚の話が持ち上がったら、後回しになりがちな不動産に関する問題を冷静に把握、整理するために、権利関係、不動産の内容を登記簿謄本で確認!!
売却する予定があれば、資産価値をあらかじめ把握!!
住宅ローンを借り入れている金融機関で借入状況や契約内容を確認!!
今、誰が、どのくらい債務を負っているのかをしっかり認識すること、これが、離婚後、不動産に関するトラブルに巻き込まれないためにとても大切なことなのです。
弁護士の仕事とは②~裁判外業務について~
前回は,弁護士の仕事の総論的な部分をご説明させていただきました。
今回は,弁護士の仕事のうち,裁判外業務の内容について,ご説明させていただきます。
1 代理人としての交渉業務
裁判外の業務において一定の割合を占めるのが,この代理人としての交渉業務になります。お金を貸したのに返してもらえない,家賃を払ってもらえないので,アパートから退去して欲しい,夫と離婚したい,交通事故に遭ってしまったので相手方保険会社との間に入って欲しいなど,様々な法律問題について依頼者の代理人として依頼者の利益を実現するために相手方と交渉を行うのが弁護士としての役割です。また,上記のような民事上のトラブルだけではなく,刑事上のトラブル,例えば,ケンカをして相手を殴ってしまい,ケガをさせてしまった場合には,被害者との間で示談を成立するための活動を行うことも弁護士の仕事です。
この交渉業務は,弁護士の業務において非常に重要な業務であると考えています。すなわち,交渉によりトラブルが解決することにより,依頼者が抱える問題を早期に解決することができ,紛争にまきこまれることを防ぐことができるため,交渉によりスムーズにトラブルを解決することが弁護士としての責務ではないかと感じています。
2 顧問弁護士としての顧問業務
上記の交渉業務に関しては,基本的には法的トラブルが発生した段階でお手伝いさせていただくことが多いです。しかし,弁護士の業務として企業や時には個人の顧問弁護士として常日頃,相談等関係を構築しておくことで,弁護士として紛争が起こらないようにアドバイスをすることができます。たとえば,法的にトラブルが発生しないようにきちんとした契約書を作成することや,就業規則の作成を行ったり,何か行動を起こす前に,法的に問題がないかの確認を弁護士に依頼したり(リーガルチェックといいます。)するなど,顧問弁護士を利用することにより,紛争が発生することを防ぐためにお手伝いさせていただくことができます。
機会があれば,ご説明させていただきますが,何かトラブルがおきてから弁護士に依頼するよりも,何かトラブルが起きないように弁護士に相談をする方がとても重要であるため,顧問業務については重要な仕事であると考えています。
当事務所には,支払った顧問料を無駄にすることなく,積み立てることができる,「フレックス顧問契約」という形態をとっておりますので,顧問弁護士をご検討されている方につきましては,是非,一度ご相談ください。
弁護士の仕事とは①
第三者委員会のメンバーになったり,刑事事件の弁護人になったりと弁護士さんのお仕事の場面は色々あるのですね。弁護士がどんなお仕事をしているのかってあまり知る機会がないため,弁護士の仕事について教えてもらいたいです。
【弁護士からの回答】
一般の方が日常生活を過ごす中で,トラブルに巻き込まれない限り,弁護士と関わり合うことが通常ないと思われます。したがって,弁護士の仕事がどのような内容であるかについては,あまり知る機会がないと思われます。そこで,今回から数回にかけて,弁護士の仕事の内容についてご説明させていただきます。
1 弁護士とは
まず,弁護士についてご説明させていただきます。弁護士とは,司法試験という国家試験に合格し,国家資格を有する法律の専門家をいいます。弁護士になることで,他人の法律事件に関して報酬を得て代理行為などを行うことができます。逆をいえば,原則として他人の法律問題について,報酬を得て間に入ることができるのは弁護士だけということになります。
2 弁護士の仕事について
弁護士の仕事について,大きく2つに分けると,①裁判業務と②裁判外業務の2つがあります。①の裁判業務については刑事裁判と民事裁判に分けられます。刑事事件の場合には,起訴された被告人の代理人(弁護人といいます)として,検察官が起訴した事実について,被告人が犯人ではない場合や,犯罪が成立しない場合には,無罪を主張し,逆に犯人であることや有罪であることが間違いない場合であっても,被害者と示談を行ったり,被告人を監督する親族等の証人として申請する等する弁護活動(情状弁護といいます。)を行います。
他方,民事裁判では,契約関係のみならず日常生活での当事者間のあらゆる紛争について一方当事者の代理人として,主張を行うとともに,証拠とともに立証活動を行います。
②の裁判外業務については,簡単に言えば,弁護士が行う業務のうち,裁判業務以外の全て業務であり,交渉,書面作成,法律相談,法的なアドバイス等様々な活動があります。
テレビドラマなどで俳優などが演じている弁護士はほとんどが,裁判での活動を行っているため,一般の方からすると,弁護士の活動はほとんど裁判所で仕事をしているといったイメージを持たれている方も少ないのではないかと思いますが,基本的に,弁護士の活動は,裁判外の業務の方が多いというのが一般的であると思います。
今回は,弁護士の仕事の総論的な部分をお話しさせていただきましたが,次回からは具体的な内容についてご説明させていただきたいと考えております。
保釈とは②
逮捕された段階では,保釈は認められないのですね。そういえば,保釈金ってニュースなどでみると,300万円とか500万円など非常に高い金額になっている気がしますが,保釈金の金額はどのようにして決まるのですか。また,一度保釈金を払ってしまうと,払ったお金を戻ってこないのですか。
【弁護士からの回答】
前回は,保釈の定義や要件についてご説明させていただきました。今回は,保釈金について,その内容や保釈金の金額の決まり方についてご説明させていただきます。
1 保釈金とは
保釈金とは,裁判所が保釈の決定を出す際に,被告人支払いを求める金銭のことであり,正確には,保釈保証金といいます。
身体拘束から解放された被告人が逃亡することなく裁判所に出頭してもらうために一時的に裁判所に預けられる金銭になります。したがって,保釈金については,一度支払ったら戻ってこないものではなく,きちんと裁判所に出頭すれば,事件終了後に返金されることになります(これを還付といいます。)。しかし,被告人が正当な理由なく裁判所に出頭しない場合や,逃亡したり,証拠を隠滅しようとした場合には,保釈が取り消されることになり,その際に,保釈金も没収されることになります。このように,保釈金は,身体拘束から解放された被告人に対し,金銭をいわば人質として裁判所に預けさせることにより,きちんと裁判所へ出頭すること確保するためのものになります。
2 保釈金はどうやって決まるの?
それでは,この保釈金の金額はどのように決まるのでしょうか。
刑事訴訟法93条2項では,「犯罪の性質及び情状,証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して,被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。」と記載されています。「被告人の出頭を保証するに足りる」金額,裁判官が「このぐらいの金額を預かっておけば,逃げずに裁判所に出頭してくれるだろう」と考える金額を支払わなければならないといっても過言ではないと思います。
したがって,芸能人ではない一般人の方の保釈金であっても,200万円~300万円の支払いが要求されるのが通常です。これに対し,芸能人や高収入の方で,200万円程度では,出頭しなければならないという金額ではない場合には,数千万円,場合によっては億を越える金額が決定されることもあります。
3 最後に弁護士より
保釈については,被告人が長期間身体を拘束されることによる,不利益を回避するために有意義な制度ではあるとは思います。しかし,無実の罪の方の場合を除き,起訴されて身体拘束されている人は,それだけ重大な犯罪を犯してしまったため,拘束されているという事実を忘れてはいけないと考えています。自分で犯してしまった罪と向き合い,もう二度と罪を犯さないようにするために,保釈をしないという方もいらっしゃいます。もっとも,保釈の必要性が認められる方も当然おられます。保釈を認めてもらうためには弁護士の協力が必要不可欠であるため,是非一度,弁護士にご相談ください。
保釈とは①
芸能人や有名人が逮捕されてしばらくすると,裁判が始まる前に保釈されたというニュースを目にすることがあります。保釈とはどういった制度なのでしょうか。
どうして逮捕されてすぐに保釈をしないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
犯罪を行い,逮捕されるといった事態が起きない限り,一般の方が保釈について知りうる機会は,上記のような芸能人などのニュースの場面でしかないのではないかと思います。そこで,今回から数回にかけて保釈についてご説明させていただきます。今回は,保釈の定義や要件をご説明させていただきます。
1 保釈とは
保釈とは,刑事訴訟法により認められている制度で,被告人が一定の金銭の納付等を条件にして,勾留を停止し,身体拘束の状態から解放するものです。
通常,犯罪を行い,逮捕され,起訴(刑事裁判にかけられることです。)されると(刑事手続きの正確な流れについては,別の機会にご説明させていただきます。),裁判が行われている期間については,留置場や拘置所いなければならず,身体が高速された状態になっています(この状態を勾留(起訴後勾留)といいます。)。起訴されてから裁判が始まるまでの期間については,事件の性質によっても異なりますが,最低でも3週間程度要するとされており(重大な事件の場合には数か月要する場合もあります。),その期間身体拘束が継続することによる不利益を回避するために,一定の要件を満たし,かつ金銭の納付をした者に対し,身体拘束から解放することを認めています。
2 保釈はいつからできるのか
上記のように,保釈は,被告人,すなわち起訴された人のための制度であるため,まだ,逮捕されて起訴されていない人(被疑者といいます。)には保釈は認められていません。よく,逮捕された人やそのご親族から「すぐに保釈してください」と頼まれることがあるのですが,その際には,「残念ですが,起訴されるまでは保釈がそもそも認められていないのですよ」と説明することを繰り返しています。
3 保釈の要件は?
保釈には,権利保釈,裁量保釈,義務的保釈という3つの種類があり,権利保釈は,刑事訴訟法に定めた事由(重大犯罪の場合,常習犯罪の場合,罪証隠滅の恐れがある場合)に1つも該当しない場合に必ず認められるものです。裁量保釈は,権利保釈が認められない場合であっても,裁判所が適当と認めるとき(失職の恐れがある場合,家庭の事情,逃亡や証拠隠滅の恐れの有無,捜査の進捗,示談の有無などを総合的に判断します。)に認められるものです。義務的保釈とは,あまりなされるものではありませんが,勾留による身体拘束が不当に長期間に渡っている場合に認められるものです。
今回は,保釈の要件についてご説明させていただきました。次回は,保釈金などについてご説明させていただきます。
どうして第三者委員会に弁護士が?
ニュース等で,企業やスポーツ団体に不祥事などが起きたときに,第三者委員会というものが設置されるのを目にするのですが,第三者委員会のメンバーに弁護士の方が入っているのを見かけます。スポーツの専門家ではない弁護士がなぜメンバーに入っているのか気になりました。
【弁護士からの回答】
ニュースでも連日,不祥事などの問題が多く報じられており,問題となっている事実等が存在したか否かについて,判断をする第三者委員会というものが設置されているのを目にされている方も多いのではないかと思います。そこで,今回は,第三者委員会における弁護士の役割についてご説明させていただきます。
1 第三者委員会とは
第三者委員会という名称は,法律などで決まっているわけではなく,何らかの問題が発生したときに,当事者以外の外部の有識者によって,構成され,問題となっている事柄の存否,原因等を調査するための委員会のことをいいます。
以前は,会社や団体内で問題が生じた際には,会社の担当者などが内々で調査をするというのが一般的でしたが,マスメディアやインターネットの発達により,こうした内部での調査に対しては,調査の客観性に対して疑念を持たれるようになったため,当事者ではない第三者に調査を依頼することにより,調査の信頼性等を確保することを目的としています。
2 弁護士の必要性について
上記のように,第三者委員会では,事実の有無の調査,事実が存在した場合における適法・不適法(違法)の調査などが行われます。そして,弁護士の仕事の1つとして(弁護士の仕事の内容については,機会があればまとめてお話しさせていただければと考えています。),裁判での活動があり,裁判での弁護士の活動は,証拠に基づき事実を認定するよう裁判所に求め,または,その事実が法律の要件に該当するかしないかについて主張を行うことが求められます。
このように,日々の業務において,弁護士は,事実の有無の判断や,事実の調査,当該事実の適法・不適法の判断等を専門的に行っているため,そのような弁護士が第三者委員会に参入することで,調査委の正確性や信頼性が確保されることになるため,多くの第三者委員会において,弁護士が委員として入ることになっています。
もっとも,弁護士自身,団体の内部のルールやスポーツのルール等の独自の専門的分野については,知識がないのが一般的であるため,第三者委員会には,そうした当該分野の専門家や有識者もメンバーとして入ることもあります。
3 最後に弁護士より
このように,第三者委員会に弁護士が入ることにより,調査の公平性,正確性を確保することができます。もっとも,弁護士としての立場としては,企業などにおいてトラブルが発生する前に発生するリスクを発見し,リスクをなくしていくことが企業や団体にとって,とてもメリットが高いと感じています。
したがって,企業の経営者の方には,企業の規模の大小にかかわらず,顧問弁護士をつけていただくことをおすすめしています。当事務所の顧問契約は,払い込んだ顧問料が繰り越すことができるフレックス顧問契約というものを採用しているため,是非一度ご検討ください。
特別受益について~要件①~
【ご相談者様からのご質問】
先日,父が亡くなりました。相続人は私と兄の2名です。兄は結婚しており,私は独身なのですが,父は,生前,兄の子供を非常にかわいがっており,兄の子供に対しては,私立の中学,高校,大学の費用のみならず,大学での1人暮らしするための家賃,生活費,お小遣い等全て父が支払ってきました。兄自身がなにかもらっていたわけではないのですが,父の援助は特別受益にはあたらないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
今回から,複数回にかけて,特別受益についてご説明させていただきます。
今回は,どのような人が特別受益者に該当するかについてご説明させていただきます。
1 条文上の要件
民法903条1項では,「共同相続人」と記載されていることから,共同相続人が特別受益者の対象になることは間違いありません。したがって,血縁者は当然ですが,養子縁組をした場合の養子,養親についても,特別受益者に該当することになります(この点,養子縁組の場合,養子縁組後の贈与などが特別受益に該当することは当然ですが,裁判例上,養子縁組前に取得した財産についても特別受益になると判断した裁判例がありますが,縁組前については,確定的な判断がなされているものではありません。)
2 相続人の配偶者や子に対する贈与について
では,被相続人が,相続人に対してではなく,相続人の配偶者に贈与した場合や,ご相談者様の事例のように,被相続人が相続人の子(孫)に贈与していた場合には,共同相続人の特別受益と評価することができるのでしょうか。
この点については,最高裁判所の判例があるわけではないため,確定的な結論があるわけではなりません。しかし,特別受益の制度の趣旨は,共同相続人間の公平を図る点にあることから,裁判例上,実質的に被相続人から相続人に対する贈与されたものと評価することができる場合には,配偶者や子に対する贈与であっても被相続人に対する特別受益であると判断されています。
具体的には,贈与の経緯,贈与額,贈与の性質,贈与により得られる相続人の利益等を考慮して判断することになります。裁判例においても,ご相談者様の事例のように,孫の学費及び生活費については,本来であれば,扶養義務を負っている相続人(父)が負担すべき費用であり,当該贈与により相続人は学費や生活費を負担する必要がないという利益を得ていることから,特別受益に該当すると判断されています。
このように,相続人以外に対する贈与等についても特別受益に該当する可能性があるため,是非一度弁護士にご相談ください。
特別受益と寄与分について~総論~
【ご相談者様からのご質問】
先日,父がなくなりました。相続人は私と弟の2名です。父の相続財産は,預貯金が500万円のこっています。私としては,この500万円を弟と2分の1ずつ分ければいいと思っていますが,私は10年前に結婚するときに,父にお祝いとして200万円をもらっています。弟は,自分は結婚しておらず,父からなにももらっていないので,不平等ではないかと主張しています。相続財産は父が死亡した時点での財産を分けるので,私の考えで間違いないと思っています。
それに,私は,認知症で,動くことができない父を,5年以上も1人で面倒を見てきていたにも関わらず,弟は一切父の面倒を見てきませんでした。父の病気の入院費や手術費も全部私が支払っています。私への贈与を問題にするなら,私の介護や費用の支出についてはどうなるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
これまで,複数回にわたり,相続財産についてご説明させていただきました。通常,遺産分割は,この相続財産を法定相続分にしたがって,分割するのですが,例外として,相続財産には該当しない内容を,相続人間の公平の観点から,相続財産とみなすという制度が民法上,特別受益と寄与分という制度により認められています。遺産分割の場面では,この,特別受益と寄与分について非常に親族間で揉めることが多く,論点も多岐にわたるため,今回から複数回にかけて,特別受益と寄与分についてご説明させていただきます。今回は,特別受益と寄与分に関する総論的なお話をさせていただきます。
1 特別受益について
特別受益とは,民法903条に規定されており,被相続人から遺贈を受け,または婚姻,縁組のために贈与を受けることや,生計の資本のために贈与を受けることをいいます。
被相続人から生前に贈与を受けている者(特別受益者といいます。)が他の相続人と同様に,相続財産から受け取ることができるとなると,他の相続人との公平を害するという考えからから,相続人間の公平を図るために設けられた規定です。
2 寄与分について
寄与分とは,民法904条の2に規定されており,共同相続人の中に,事業に関する労務の提供,財産上の給付,療養看護等により,被相続人の財産の維持,増加に寄与した場合をいいます。
この寄与分についても,被相続人のために何もしていない相続人と寄与分のある相続人との間の公平を図るために設けられた規定です。
3 みなし相続財産について
相続財産は,原則として,被相続人が死亡時に有していた財産を基準としますが,特別受益や寄与分が認められる場合には,特別受益の額を相続財産に加算し,寄与分の額を相続財産から控除します(相続財産に特別受益の額を加算し,寄与分の額を減額したものを「みなし相続財産」といいます。)。
そして,みなし相続財産を,法定相続分に従い,分配した後に,特別受益者の場合には,分配後の金額から特別受益の金額を控除します(特別受益の金額の方が高い場合には,特別受益者の相続分は認められません。)。また,寄与分を有する人は,分配後の金額に寄与分の金額を加算します。
ご相談者様の事例でみると(今回は,寄与分として100万円が認められるという前提でお話しします。),相続財産(500万円)に特別受益として,ご相談者様が結婚祝いにもらった200万円を加算し,寄与分100万円を控除した金額である,600万円がみなし相続財産となります。そして,600万円を2分の1ずつ分配することになります。したがって,ご相談者様の弟は,300万円の相続分を有することになります。これに対し,ご相談者様は,分配後の300万円から,と特別受益額を控除し,寄与分を加算した200万円の相続分を有することになります。
特別受益と寄与分については,今後具体的なご説明をさせていただきますが,このように,特別受益と寄与分の内容によっては,相続する金額が大きく異なってきますので,是非一度,弁護士にご相談ください。